(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】位置判定システム
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/24 20060101AFI20221004BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20221004BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20221004BHJP
B60R 25/24 20130101ALI20221004BHJP
G01S 5/02 20100101ALI20221004BHJP
E05B 49/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q1/32 Z
H01Q13/08
B60R25/24
G01S5/02 Z
E05B49/00 K
(21)【出願番号】P 2019085381
(22)【出願日】2019-04-26
【審査請求日】2022-02-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】三治 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡部 信康
(72)【発明者】
【氏名】池田 正和
(72)【発明者】
【氏名】角谷 祐次
【審査官】鈴木 肇
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141771(JP,A)
【文献】国際公開第2019/077819(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0188309(US,A1)
【文献】特開2015-218501(JP,A)
【文献】特開2016-015688(JP,A)
【文献】特開2017-005663(JP,A)
【文献】特開2012-172334(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 1/00-25/04
B60R 25/00-99/00
G01S 5/00- 5/14
E05B 1/00-85/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のユーザによって携帯される携帯端末と1GHz以上の電波を用いて互いに無線通信することで前記車両に対する前記携帯端末の位置を判定する車両用の位置判定システムであって、
前記車両の側面部又は背面部としての外面部に設置されてあって、前記携帯端末から送信される無線信号を受信するためのアンテナ(121)を備える車室外通信機(12β、12L、12M、12N)と、
前記車室外通信機での前記携帯端末からの無線信号の受信状況に基づいて、車室外において前記車両から所定の作動距離以内となる領域である室外作動エリアに前記携帯端末が存在するか否かを判定する位置判定部(F4)と、を備え、
前記アンテナは、所定の方向に主偏波を放射するとともに、前記主偏波の放射方向とは直交する方向に交差偏波を放射可能に構成されており、
前記車室外通信機は、当該車室外通信機が取り付けられている前記外面部に沿う方向に主偏波を放射し、かつ、当該外面部に垂直な方向に交差偏波を放射する姿勢で設置されている位置判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置判定システムであって、
前記アンテナは、
平板状の導体部材である地板(51)と、
前記地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線と電気的に接続する給電点が設けられている対向導体板(53)と、
前記対向導体板の中央領域に設けられてあって、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(54)と、を備え、
前記地板は、前記対向導体板に対して非対称に配置されており、
前記対向導体板と前記地板とが形成する静電容量と、前記短絡部が備えるインダクタンスとを用いて、前記無線通信に供される周波数である通信周波数において並列共振するように構成されているアンテナであって、
前記車室外通信機は、前記地板が前記外面部に対向する姿勢で前記外面部に搭載されている位置判定システム。
【請求項3】
請求項1に記載の位置判定システムであって、
前記アンテナは、
平板状の導体部材である地板(51)と、
前記地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線と電気的に接続する給電点が設けられている対向導体板(53)と、
前記対向導体板の中央領域に設けられてあって、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(54)と、を備え、
前記短絡部は、前記対向導体板の中心から所定量ずれた位置に形成されており、
前記対向導体板と前記地板とが形成する静電容量と、前記短絡部が備えるインダクタンスとを用いて、前記無線通信に供される周波数である通信周波数において並列共振するように構成されているアンテナであって、
前記車室外通信機は、前記地板が前記外面部に対向する姿勢で前記外面部に搭載されている位置判定システム。
【請求項4】
請求項1に記載の位置判定システムであって、
前記アンテナは、
平板状の導体部材である地板(51)と、
前記地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線と電気的に接続する給電点が設けられている対向導体板(53)と、
前記対向導体板の中央領域に設けられてあって、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(54)と、を備え、
前記地板は、前記対向導体板に対して非対称に配置されており、
前記短絡部は、前記対向導体板の中心から所定量ずれた位置に形成されており、
前記対向導体板と前記地板とが形成する静電容量と、前記短絡部が備えるインダクタンスとを用いて、前記無線通信に供される周波数である通信周波数において並列共振するように構成されているアンテナであって、
前記車室外通信機は、前記地板が前記外面部に対向する姿勢で前記外面部に搭載されている位置判定システム。
【請求項5】
請求項1に記載の位置判定システムであって、
前記アンテナは、
平板状の導体部材である地板(51)と、
前記地板と所定の間隔をおいて設置された平板状の導体部材であって、給電線と電気的に接続する給電点が設けられている対向導体板(53)と、
前記対向導体板の中央領域に設けられてあって、前記対向導体板と前記地板とを電気的に接続する短絡部(54)と、を備え、
前記対向導体板は、互いに直交する2つの直線のそれぞれに対して線対称な形状に形成されており、
前記対向導体板が備える2つの対称軸のうちの何れか一方である第1対称軸に平行な方向における前記対向導体板の電気的な長さは、前記電波の波長の半分となっており、
前記給電点は、前記対向導体板の中心を通って前記第1対称軸に平行な直線上にはいちされており、
前記対向導体板と前記地板とが形成する静電容量と、前記短絡部が備えるインダクタンスとを用いて、前記無線通信に供される周波数である通信周波数において並列共振するように構成されているアンテナであって、
前記車室外通信機は、前記地板が前記外面部に対向する姿勢で前記外面部に搭載されている位置判定システム。
【請求項6】
請求項1に記載の位置判定システムであって、
前記アンテナは、
平板状の導体部材である地板(51)と、
L字型に形成された放射素子(56)と、を備え、
前記放射素子は、前記地板に対して垂直な部分である直立部(561)と、前記地板に対して平行な部分である平行部(562)と、を備え、
前記直立部のほうが前記平行部よりも電波の放射量が大きくなるように形成されている逆Lアンテナであって、
前記車室外通信機は、前記地板が前記外面部に対向する姿勢で前記外面部に搭載されている位置判定システム。
【請求項7】
請求項1から6の何れか1項に記載の位置判定システムであって、
前記車室外通信機は、前記車両のサイドウインドウの窓枠部に配置されていることを特徴とする位置判定システム。
【請求項8】
請求項1から6の何れか1項に記載の位置判定システムであって、
前記車室外通信機は、前記車両のBピラーの外側面、又は、前部座席用のドアにおいて前記Bピラーと重なる部分に取り付けられていることを特徴とする位置判定システム。
【請求項9】
請求項1から8の何れか1項に記載の位置判定システムであって、
前記車室外通信機は、前記アンテナにて受信した無線信号の受信強度を検出する強度検出部(124)を備え、
前記車両の車室内に設置されており、前記携帯端末から送信される無線信号を受信するとともに、受信した無線信号の受信強度を検出する車室内通信機(12α)を備え、
前記位置判定部は、
前記車室外通信機で検出された前記受信強度である室外機強度が所定の作動閾値以上であることに基づいて前記携帯端末は前記室外作動エリアに存在すると判定するとともに、
前記車室内通信機で検出された前記受信強度である室内機強度が所定の車室内相当値以上であることに基づいて前記携帯端末は車室内に存在すると判定するように構成されている位置判定システム。
【請求項10】
請求項1から8の何れか1項に記載の位置判定システムであって、
前記車室外通信機は、前記アンテナにて受信した無線信号の受信強度を検出する強度検出部(124)を備え、
前記車両の車室内に設置されており、前記携帯端末から送信される無線信号を受信するとともに、受信した無線信号の受信強度を検出する車室内通信機(12α)を備え、
前記位置判定部は、
前記車室外通信機で検出された前記受信強度である室外機強度が所定の作動閾値以上であることに基づいて、前記携帯端末は前記室外作動エリアに存在すると判定するとともに、
前記室外機強度が前記作動閾値未満であって、且つ、前記車室内通信機で検出された前記受信強度が前記室外機強度よりも大きいことに基づいて前記携帯端末は車室内に存在すると判定するように構成されている位置判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載されて使用されるシステムであって、ユーザによって携帯される携帯端末から1GHz以上の周波数帯の電波を用いて送信される無線信号の受信状況に基づいて、車両に対する携帯端末の相対位置を推定する位置判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のユーザによって携帯される携帯端末と無線通信を実施することにより、車両に対する携帯端末の位置を推定する位置判定システムが種々提案されている。例えば特許文献1には、車両から携帯端末に向けてLF(Low Frequency)帯の電波を用いて応答要求信号を送信し、当該応答要求信号に対する応答信号を受信できたことに基づいて、携帯端末が車室外の車両近傍(以降、室外作動エリア)に存在するか否かを判定する構成が開示されている。なお、室外作動エリアは、携帯端末が携帯端末との無線通信による自動的なドアの開錠の実行を許容するエリアに相当する。車両から携帯機への信号送信にLF帯の電波が用いられる理由は、無線信号の到達範囲を車両近傍に限定しやすいためである。車両においてLF帯の電波を送信するためのアンテナは、無線信号が当該室外作動エリアにのみ到達するように、送信電力等が調整されている。
【0003】
このような位置判定システムは、携帯端末の位置に応じて所定の車両制御を実施する車両用電子キーシステムに利用される。車両用電子キーシステムには、携帯端末の位置に応じて車両のドアの施錠状態や、駆動源の運転状態を自動制御するパッシブ・エントリ・パッシブ・スタートシステム(以降、PEPSシステム)が含まれる。
【0004】
車両用電子キーシステムでは、盗難防止等の観点から、車両からユーザが一定距離(例えば2m)以上離れている場合には携帯端末との無線通信による自動的なドアの開錠は実行しないことがシステム要件として求められることがある。以降では便宜上、携帯端末との無線通信による自動的なドアの開錠を禁止する領域を禁止エリアとも記載する。前述の室外作動エリアは、禁止エリアの観点から車両から少なくとも2m以内の領域に設定される。一般的に、室外作動エリアは、車両から1m以内や0.7m以内に設定されることが多い。
【0005】
また、特許文献2には、車両のユーザによって携帯される携帯端末とBluetooth(登録商標)規格に準拠した無線通信を実施することで、車両に対する携帯端末の位置を推定する車載装置が開示されている。具体的には、次の通りである。特許文献1に開示の車載装置は、例えば運転席の足元付近などの車室内の床面に設置されている通信装置(以降、車載通信機)から、携帯端末に対して応答信号の返送を要求するリクエスト信号を定期送信させる。携帯端末は、車載通信機からのリクエスト信号を受信した場合、当該リクエスト信号のRSSI(Received Signal Strength Indication)を含む応答信号を返送する。車載装置は、携帯端末から返送されてくる応答信号に含まれているRSSIをメモリに保存していく。そして、車載装置は、メモリに保存されている直近5回分のRSSIの平均値が所定の閾値を超過している場合に、携帯端末は車室内に存在すると判定する。一方、直近5回分のRSSIの平均値が閾値以下である場合には車室外に存在すると判定する。
【0006】
なお、以降では便宜上、Bluetoothなどの、通信範囲が例えば数十メートル程度となる所定の無線通信規格に準拠した通信を近距離通信と称する。近距離通信には、例えば2.4GHzなど、1GHz以上の電波(以降、高周波電波)が使用される。このような高周波電波は、LF帯の電波に比べて直進性が強く、車両のボディなどの金属体で反射されやすい性質を持つ。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5438048号公報
【文献】特許第6313114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年はスマートフォンやウェアラブル端末などの携帯型の情報処理端末を、車両の鍵として機能させたいといった需要が高まっている。それに伴い、LF帯の電波の代わりに、Bluetooth等の近距離通信で使用される高周波電波の受信強度を用いて車両に対する携帯端末の位置を判定可能な構成が求められている。一般的にスマートフォンは、LF帯の電波を送受信する機能は備えていない一方、Bluetooth等の近距離通信機能は標準装備として備えている事が多いためである。
【0009】
しかし、Bluetooth等の近距離通信で使用される高周波電波はLF帯の電波に比べて直進性が強く、車両のボディなどの金属体で反射されやすい性質を持つ。また、高周波電波は、LF帯の電波に比べて伝搬距離による信号強度の減衰度合いが小さい。そのため、車両と携帯端末とが近距離通信を実施する構成では、車両と携帯端末との通信エリアを車両近傍に限定しづらいといった課題がある。
【0010】
なお、車室内と車室外との間には、車両のボディといった電波の伝搬を阻害する要素が存在するため、携帯端末が車室内に存在するのか車室外に存在するのかに応じて、携帯端末から送信された信号の車載通信機での受信強度には有意な差が生じうる。故に、携帯端末が車室内に存在するのか否かについては、特許文献2に開示されている方法によって、或る程度の確度で判別することはできる。
【0011】
しかしながら、特許文献2では、携帯端末が車室外の室外作動エリアに存在するのか禁止エリアに存在するのかを判別する方法については何ら検討されていない。加えて、車室外の室外作動エリアと禁止エリアとの間には車両のボディのような構造体は存在しない。そのため、特許文献2に開示の構成では、受信強度に基づいて携帯端末が車室外のうちの、室外作動エリアに存在するのか禁止エリアに存在するのかを判別することは現実的には難しい。
【0012】
本開示は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、携帯端末の位置を誤判定する恐れを低減可能な位置判定システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
その目的を達成するための位置判定システムは、車両のユーザによって携帯される携帯端末と1GHz以上の電波を用いて互いに無線通信することで車両に対する携帯端末の位置を判定する車両用の位置判定システムであって、車両の側面部又は背面部としての外面部に設置されてあって、携帯端末から送信される無線信号を受信するためのアンテナ(121)を備える車室外通信機(12β、12L、12M、12N)と、車室外通信機での携帯端末からの無線信号の受信状況に基づいて、車室外において車両から所定の作動距離以内となる領域である室外作動エリアに携帯端末が存在するか否かを判定する位置判定部(F4)と、を備え、アンテナは、所定の方向に主偏波を放射するとともに、主偏波の放射方向とは直交する方向に交差偏波を放射可能に構成されており、車室外通信機は、当該車室外通信機が取り付けられている外面部に沿う方向に主偏波を放射し、かつ、当該外面部に垂直な方向に交差偏波を放射する姿勢で設置されている。
【0014】
上記構成によれば、車室外には、車室外通信機の取付位置を基準として、車両前後方向を長手方向、車幅方向を短軸方向とする、楕円体状の通信エリアが形成される。故に、携帯端末が、車室外において相対的に車両の近傍となる室外作動エリア内に存在する場合と、相対的に車両から離れた領域に存在する場合とで、車室外通信機にて観測される受信強度に有意な差を生じさせることができる。これにより、携帯端末からの信号の受信状況に基づいて携帯端末が車室外における位置をより高精度に判定可能となる。すなわち、上記の構成によれば、携帯端末の位置を誤判定する恐れを低減することができる。
【0015】
なお、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】車両用電子キーシステムの概略的な構成を説明するための図である。
【
図3】車載システム1の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図4】車載通信機12の搭載位置の一例を示す概念図である。
【
図5】車載通信機12の概略的な構成を示すブロック図である。
【
図6】車室外通信機12βの構成の一例を示す図である。
【
図8】
図7のVIII-VIII線での断面図である。
【
図9】対向導体板53と地板51との位置関係を説明するための図である。
【
図10】0次共振モードでの電流、電圧、及び電界分布を示す図である。
【
図11】0次共振モードでの放射特性を示す図である。
【
図12】0次共振モードでの放射特性を示す図である。
【
図13】地板励振モードの動作原理を説明するための図である。
【
図14】地板励振モードの動作原理を説明するための図である。
【
図15】地板励振モードでの放射特性を示す図である。
【
図16】室外左側通信機12Lの取付位置及び取付姿勢の一例を示す図である。
【
図17】車室外通信機12β(主として側方通信機)の指向性を示す図である。
【
図18】スマートECU11の機能を説明するための図である。
【
図19】接続関連処理を説明するためのフローチャートである。
【
図20】位置判定処理を説明するためのフローチャートである。
【
図21】車両用電子キーシステムの要件について説明するための図である。
【
図22】室外左側通信機12Lが提供する電界強度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【
図23】車室外通信機12βのアンテナがダイポールアンテナである場合の、アンテナ取付姿勢と電界強度分布との関係を示す図である。
【
図24】変形例1におけるアンテナ121の構成を示す図である。
【
図25】
図24に示すアンテナ構造における短絡部54の位置を説明するための図である。
【
図26】対向導体板53の中心に短絡部54が形成されている場合の対向導体板53上での電流分布を示す図である。
【
図27】対向導体板53の中心からずれた位置に短絡部54が形成されている場合の対向導体板53上での電流分布及びその作用を示す図である。
【
図28】変形例2におけるアンテナ121の構成を示す図である。
【
図29】変形例3におけるアンテナ121の構成を示す図である。
【
図30】変形例4におけるアンテナ121の構成を示す図である。
【
図31】変形例5におけるアンテナ121の構成を示す図である。
【
図32】変形例7における車室外通信機12βの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示に係る位置判定システムの実施形態の一例について、図を用いて説明する。
図1は、本開示に係る位置判定システムが適用された車両用電子キーシステムの概略的な構成の一例を示す図である。
図1に示すように車両用電子キーシステムは、車両Hvに搭載された車載システム1と、当該車両Hvのユーザによって携帯される通信端末である携帯端末2と、を備えている。
【0018】
<全体の概要>
車載システム1は、例えばパッシブ・エントリ・パッシブ・スタートシステム(以降、PEPSシステム)など、車両用電子キーシステムを構成する車両側の装置/システムである。車載システム1は、携帯端末2と所定の周波数帯の電波を用いた無線通信を実施することで、携帯端末2の位置に応じた所定の車両制御を実施する。例えば車載システム1は、携帯端末2が車両Hvに対して予め設定されている室外作動エリアRx内に存在することを確認できていることを条件として、ドアを施錠したり開錠したりする。
【0019】
室外作動エリアRxは、車室外において車載システム1による車両制御の実行を許可するエリアに相当する。ここでは一例として室外作動エリアRxは、車載システム1によるドアの施錠及び開錠といった車両制御の実行を許可するエリアに設定されている。また、本実施形態では一例として、車室外のうち、運転席用ドア、助手席用ドア、及びトランクドアのそれぞれに設けられている外側ドアハンドルから所定の作動距離(例えば0.7メートル)以内となる領域が室外作動エリアRxに設定されている。室外作動エリアRxの大きさを規定する作動距離は1mであってもよいし、1.5mであってもよい。作動距離は、別途後述する禁止エリアの大きさを規定する禁止距離(2m)よりも小さく設定されていれば良い。なお、外側ドアハンドルとは、ドアの外側面に設けられた、ドアを開閉するための把持部材を指す。外側ドアハンドルは、例えばフラッシュハンドルやポップアップハンドルなど、ドアパネル内に格納されるタイプのドアハンドルであっても良い。
【0020】
本実施形態の車載システム1及び携帯端末2はそれぞれ、通信距離を10メートル程度に設定可能な所定の近距離無線通信規格に準拠した通信(以降、近距離通信とする)を実施可能に構成されている。ここでの近距離無線通信規格としては、例えばBluetooth Low Energy(Bluetoothは登録商標)や、Wi-Fi(登録商標)、ZigBee(登録商標)等を採用することができる。近距離無線通信規格は、例えば、数メートル~数10メートル程度の通信距離を提供可能なものであればよい。本実施形態の車載システム1と携帯端末2とは一例としてBluetooth Low Energy規格に準拠して無線通信を実施するように構成されている。
【0021】
携帯端末2は、車載システム1と対応付けられてあって、車両Hvの電子キーとして機能する装置である。携帯端末2は、上述の近距離通信機能を備えた、ユーザが携帯可能な装置であればよい。例えばスマートフォンを携帯端末2として用いることができる。もちろん、携帯端末2は、タブレット端末、ウェアラブルデバイス、携帯用音楽プレーヤ、携帯用ゲーム機等であってもよい。携帯端末2が近距離通信として送信する信号には、送信元情報が含まれている。送信元情報は、例えば携帯端末2に割り当てられた固有の識別情報(以降、端末IDとする)である。端末IDは他の通信端末と携帯端末2とを識別するための情報として機能する。
【0022】
また、携帯端末2は、送信元情報を含む通信パケットを所定の送信間隔で無線送信することで、近距離通信機能を備えた周囲の通信端末に対して、自分自身の存在を通知する(すなわちアドバタイズする)。以降では便宜上、アドバタイズを目的として定期的に送信される通信パケットのことをアドバタイズパケットと称する。
【0023】
車載システム1は、上述した近距離通信機能によって携帯端末2から送信されてくる信号(例えばアドバタイズパケット)を受信することで、携帯端末2が車載システム1と近距離通信可能な範囲内に存在することを検出する。以降では、車載システム1が近距離通信機能によって携帯端末2と相互にデータ通信が可能な範囲のことを通信エリアとも記載する。
【0024】
なお、本実施形態では一例として携帯端末2から逐次送信されるアドバタイズパケットを受信することで、車載システム1は通信エリア内に携帯端末2が存在することを検出するように構成されているものとするが、これに限らない。他の態様として、車載システム1がアドバタイズパケットを逐次送信し、携帯端末2との通信接続(いわゆるコネクション)が確立したことに基づいて、通信エリア内に携帯端末2が存在することを検出するように構成されていてもよい。
【0025】
<車両Hvの構成について>
まずは、車両Hvの構成について
図2を用いて説明する。車両Hvは例えば乗車定員人数が5人の乗用車である。ここでは一例として車両Hvは、前部座席と後部座席とを備えるとともに、左側に運転席(換言すればハンドル)が設けられている。なお、車両Hvは右側に運転席が設けられている車両であってもよい。また、後部座席を備えない車両をであってもよい。車両Hvは、トラックなどの貨物自動車などであってもよい。また、車両Hvはタクシーや、キャンピングカーであってもよい。その他、車両Hvは、車両貸出サービスに供される車両(いわゆるレンタカー)であってもよいし、カーシェアリングサービスに供される車両(いわゆるシェアカー)であってもよい。シェアカーには、個人所有の車両をこの車両の管理者が使用していない時間帯に他者に貸し出すサービスに用いられる車両も含まれる。車両Hvが上記サービスに供される車両(以下、サービス車両)である場合には、それらのサービスの利用契約を行っている人物がユーザとなりうる。つまり、車両Hvを使用する権利を有する人物がユーザとなりうる。
【0026】
車両Hvのボディは、主として金属部材を用いて実現されている。ここでのボディには、例えばBピラーなどのようにボディ本体部を提供するフレームのほかに、ボディパネルも含まれる。ボディパネルには、サイドボディパネルや、ルーフパネル、リアエンドパネル、ボンネットパネル、ドアパネルなどが含まれる。ただし、ここでは一例として、ドアパネルのうち、Bピラー42Bと重なる部分、又は、窓枠部として機能する部分は、樹脂で形成されているものとする。
【0027】
金属板は電波を反射する性質を有するため、車両Hvのボディは電波を反射する。すなわち、車両Hvのボディは、電波の直進的な伝搬を遮断するように構成されている。ここでの電波とは、車載システム1と携帯端末2との無線通信に使用される周波数帯の電波(以降、システム使用電波)のことを指す。ここでのシステム使用電波とは2.4GHz帯の電波を指す。ここでの遮断とは、理想的には反射であるが、これに限らない。電波を所定のレベル(以降、目標減衰レベル)以上減衰できる構成が、電波の伝搬を遮断する構成に相当する。目標減衰レベルは、車室内外で電波の信号強度に有意な差が生じる値とすればよく、例えば10dBとする。なお、目標減衰レベルは5dB以上の任意の値(例えば10dBや20dB)に設定することができる。
【0028】
また、車両Hvは、ルーフパネルによって提供される屋根部41を有し、このルーフパネルを支持するための複数のピラー42を備える。車両Hvは、ピラー42として、Aピラー42A、Bピラー42B、及びCピラー42Cを備える。Aピラー42Aは前部座席の前方に設けられたピラー42に相当する。Bピラー42Bは、前部座席と後部座席の間に設けられたピラー42に相当する。Cピラー42Cは後部座席斜め後ろに設けられているピラー42に相当する。
【0029】
各ピラー42の一部又は全部は、高張力鋼鈑等の金属部材を用いて実現されている。もちろん、他の態様としてピラー42は、カーボンファイバー製であっても良いし、樹脂製であってもよい。さらに、種々の材料を組み合わせて実現されていても良い。
【0030】
上記説明の通り車両Hvは全体として、全てのドアが閉じられている場合には、システム使用電波は窓部43を介してのみ車室外から車室内に進入したり、車室内から車室外に漏洩したりするように構成されている。つまり窓部43がシステム使用電波の通り道として作用するように構成されている。ここでの窓部43とは、フロントウインドウや、車両Hvの側面部分に設けられている窓(いわゆるサイドウインドウ)、リアウインドウなどである。
【0031】
なお、他の態様として、車両Hvのドア等に設けられている窓ガラスもまた、システム使用電波の直進的な伝搬を遮断するように構成されていてもよい。ここでの窓ガラスとは、車両Hvに設けられている窓部43に配置される透明な部材であって、その素材は厳密にはガラスでなくともよい。例えばアクリル樹脂等を用いて実現されていても良い。すなわち、ここでの窓ガラスとは、風防として機能する透明な部材である。
【0032】
<車載システム1の構成について>
次に、車載システム1の構成及び作動について述べる。車載システム1は、
図3に示すように、スマートECU11、複数の車載通信機12、ドアボタン13、スタートボタン14、エンジンECU15、及びボディECU16を備える。なお、部材名称中のECUは、Electronic Control Unitの略であり、電子制御装置を意味する。
【0033】
スマートECU11は、携帯端末2と無線通信を実施することでドアの施開錠やエンジンの始動等の車両制御を実行する電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)である。当該スマートECU11は、コンピュータを用いて実現されている。すなわち、スマートECU11は、CPU111、フラッシュメモリ112、RAM113、I/O114、及びこれらの構成を接続するバスラインなどを備えている。CPU111は、種々の演算処理を実行する演算処理装置である。フラッシュメモリ112は、書き換え可能な不揮発性の記憶媒体である。RAM113は揮発性の記憶媒体である。I/O114は、スマートECU11が、例えば車載通信機12など、車両Hvに搭載されている他の装置と通信するためのインターフェースとして機能する回路モジュールである。I/O114は、アナログ回路素子やICなどを用いて実現されればよい。
【0034】
フラッシュメモリ112には、ユーザが所有する携帯端末2に割り当てられている端末IDが登録されている。また、フラッシュメモリ112には、コンピュータをスマートECU11として機能させるためのプログラム(以降、位置判定プログラム)等が格納されている。なお、上述の位置判定プログラムは、非遷移的実体的記録媒体(non- transitory tangible storage medium)に格納されていればよい。CPU111が位置判定プログラムを実行することは、位置判定プログラムに対応する方法が実行されることに相当する。
【0035】
その他、フラッシュメモリ112には、スマートECU11が携帯端末2からの信号の受信強度に基づいて携帯端末2の位置を判定するための閾値(以降、判定用閾値)として、車室内相当値Pinと作動閾値Prxの2つのパラメータが保存されている。車室内相当値Pinは、携帯端末2は車室内に存在すると判定するための閾値である。作動閾値Prxは、携帯端末2は車室外の室外作動エリアRxに存在すると判定するための閾値である。車室内相当値Pinが車室内判定値に相当する。車室内相当値Pinや作動閾値Prxの技術的な意義や設定方法、スマートECU11の詳細については別途後述する。
【0036】
車載通信機12は、車両Hvに搭載されている、近距離通信を実施するための通信モジュールである。各車載通信機12は、2400MHzから2500MHz(中心周波数は2.45GHz)の電波を送受信可能に構成されている。各車載通信機12は専用の通信線又は車両内ネットワークを介してスマートECU11と相互通信可能に接続されている。各車載通信機12には、固有の通信機番号が設定されている。通信機番号は、携帯端末2にとっての端末IDに相当する情報である。通信機番号は、複数の車載通信機12を識別するための情報として機能する。
【0037】
本実施形態の車載システム1は、車載通信機12として、
図4に示すように、少なくとも1つの車室内通信機12αと、複数の車室外通信機12βとを備える。車室内通信機12αは、車室内に設置されている車載通信機12であり、車室外通信機12βは、車両Hvの外面部に配されている車載通信機12である。ここでの外面部とは、車両Hvにおいて車室外空間に接するボディ部分であって、車両Hvの側面部、背面部、及び前面部が含まれる。本実施形態の車載システム1は車室外通信機12βとして、室外左側通信機12L、室外右側通信機12M、及び室外後方通信機12Nを備える。
【0038】
各車載通信機12は、携帯端末2から送信された信号の受信強度をスマートECU11に提供する役割を担う。なお、車室内通信機12αは、スマートECU11が携帯端末2とデータを送受信する役割を担うデータ通信機としての役割を兼ねる。
図4は車両Hvの概念的な上面図であって、種々の車載通信機12の設置位置を説明するために屋根部41を透過させて示している。
【0039】
図5は、車載通信機12の電気的な構成を概略的に示したものである。
図5に示すように車載通信機12は、アンテナ121、送受信回路122、及び通信マイコン123を備える。
【0040】
アンテナ121は、携帯端末2との無線通信に用いられる周波数帯(以降、システム使用周波数帯)の電波を送受信するためのアンテナである。ここでのシステム使用周波数帯は、2400MHzから2500MHzまでの2.4GHz帯である。システム使用周波数帯は、アンテナ121にとっての動作帯域に対応する。なお、システム使用周波数帯は、Bluetooth規格で使用される2400MHz~2480MHzを含んでいればよい。システム使用周波数帯の上限周波数や下限周波数は、携帯端末2との通信規格に応じて適宜変更可能である。アンテナ121は送受信回路122と電気的に接続されている。アンテナ121の具体的な構成については別途後述する。送受信回路122は、アンテナ121で受信した信号を復調し、通信マイコン123に提供する。また、送受信回路122は、通信マイコン123を介してスマートECU11から入力された信号を変調して、アンテナ121に出力し、電波として放射させる。送受信回路122は通信マイコン123と相互通信可能に接続されている。
【0041】
また、送受信回路122は、アンテナ121で受信した信号の強度を逐次検出する受信強度検出部124を備える。受信強度検出部124は多様な回路構成によって実現可能である。受信強度検出部124が検出した受信強度は、受信データに含まれる端末IDと対応付けられて通信マイコン123に逐次提供される。なお、受信強度は、例えば電力の単位[dBm]で表現されればよい。便宜上、受信強度と端末IDとを対応づけたデータを受信強度データと称する。受信強度検出部124が強度検出部に相当する。
【0042】
通信マイコン123は、送受信回路122の動作を制御するマイクロコンピュータである。通信マイコン123は、別の観点によれば、スマートECU11とのデータの受け渡しを制御するマイクロコンピュータに相当する。通信マイコン123は、送受信回路122から入力された受信データを受信強度と対応付けてスマートECU11に提供する。また、通信マイコン123は、携帯端末2の端末IDを認証するとともに、スマートECU11からの要求に基づき、携帯端末2と暗号通信を実施する機能を備える。暗号化の方式としては、Bluetoothで規定されている方式など、多様な方式を援用することができる。IDの認証方式についても、Bluetoothで規定されている方式など、多様な方式を援用することができる。
【0043】
ドアボタン13は、ユーザが車両Hvのドアを開錠及び施錠するためのボタンである。ドアボタン13は、車両Hvの外側ドアハンドル又はその近傍に設けられている。ドアボタン13は、ユーザによって押下されると、その旨を示す電気信号を、スマートECU11に出力する。ドアボタン13は、スマートECU11がユーザの開錠指示及び施錠指示を受け付けるための構成に相当する。なお、ユーザの開錠指示及び施錠指示の少なくとも何れか一方を受け付けるための構成としては、タッチセンサを採用することもできる。
【0044】
スタートボタン14は、ユーザが駆動源(例えばエンジン)を始動させるためのプッシュスイッチである。スタートボタン14は、ユーザによってプッシュ操作がされると、その旨を示す電気信号をスマートECU11に出力する。なお、ここでは一例として車両Hvは、エンジンを動力源として備える車両とするがこれに限らない。車両Hvは、電気自動車やハイブリッド車であってもよい。車両Hvがモータを駆動源として備える車両である場合には、スタートボタン14は駆動用のモータを始動させるためのスイッチである。
【0045】
エンジンECU15は、車両Hvに搭載されたエンジンの動作を制御するECUである。例えばエンジンECU15は、スマートECU11からエンジンの始動を指示する始動指示信号を取得すると、エンジンを始動させる。
【0046】
ボディECU16は、スマートECU11からの要求に基づいて車載アクチュエータ17を制御するECUである。ボディECU16は、種々の車載アクチュエータ17や、種々の車載センサ18と通信可能に接続されている。ここでの車載アクチュエータ17とは、例えば、各ドアのロック機構を構成するドアロックモータや、座席位置を調整するためのアクチュエータ(以降、シートアクチュエータ)などである。また、ここでの車載センサ18とは、ドア毎に配置されているカーテシスイッチなどである。カーテシスイッチは、ドアの開閉を検出するセンサである。ボディECU16は、例えばスマートECU11からの要求に基づいて、車両Hvの各ドアに設けられたドアロックモータに所定の制御信号を出力することで各ドアを施錠したり開錠したりする。
【0047】
<車室内通信機12αの役割及び構成について>
車室内通信機12αは、車室内が強電界エリアとなるように車室内の所定位置に配置されている。強電界エリアとは、車載通信機12から送信した信号が所定の閾値(以降、強電界閾値)以上の強度を保って伝搬するエリアである。強電界閾値は、近距離通信の信号としては十分に強いレベルに設定されている。例えば強電界閾値は-35dBm(-0.316μW)である。無線信号の伝搬経路には可逆性があるため、強電界エリアは別の観点によれば、車載通信機12での携帯端末2から送信された信号の受信強度が所定の閾値以上となるエリアでもある。
【0048】
車室内通信機12αは、車室内の任意の位置に設置可能である。ただし、データ通信機としての役割を兼ねる車室内通信機12αは、車室内及び車室外のドア付近が見通せる位置に配置されていることが好ましい。車室内及び車室外のドア付近が見通せる位置とは、例えば車室内の天井部分である。ここでは一例として、車室内通信機12αは、ウインドシールドの上端中央部(つまりルームミラー付近)に配置されている。車室内通信機12αの設置位置としては、インストゥルメントパネル49の車幅方向中央部や、オーバーヘッドコンソールや、天井部の中央部なども採用可能である。なお、携帯端末2が車室内通信機12αの見通し外に存在する場合であっても、構造物での反射等によって携帯端末2と車室内通信機12αとは無線通信を実施しうる。故に、車室内通信機12αは、センターコンソール48や、運転席の足元、床部など、車室外が見通し外となる位置に設置されていても良い。
【0049】
なお、或る車載通信機12にとっての見通し内とは、当該車載通信機12から送信された信号が直接到達可能な領域である。無線信号の伝搬経路には可逆性があるため、或る車載通信機12にとっての見通し内とは、換言すれば、携帯端末2から送信された信号を当該車載通信機12が直接的に受信可能な領域に相当する。また、或る車載通信機12にとっての見通し外とは、当該車載通信機12から送信された信号が直接到達しない領域である。無線信号の伝搬経路には可逆性があるため、或る車載通信機12にとっての見通し外とは、換言すれば、携帯端末2から送信された信号を当該車載通信機12が直接的には受信できない領域に相当する。なお、携帯端末2から送信された信号は種々の構造物で反射されることによって見通し外にも到達しうる。
【0050】
データ通信機としての車室内通信機12αが備える不揮発性メモリには、端末情報が保存されている。端末情報とは、例えば、認証鍵や、端末IDなどである。端末情報は、ユーザが鍵交換プロトコルの実行操作(いわゆるペアリング)を実施することで登録されれば良い。なお、車両Hvがサービス車両である場合には、端末情報は、サービス車両の運行を管理する外部サーバから配信されても良い。車両Hvが複数のユーザによって使用される場合には、各ユーザが保有する携帯端末2の端末情報が保存される。
【0051】
データ通信機としての車室内通信機12αは、携帯端末2からのアドバタイズパケットを受信すると、保存済みの端末情報を用いて自動的に携帯端末2との通信接続を確立する。そして、スマートECU11が携帯端末2とデータの送受信を実施する。なお、車室内通信機12αは、携帯端末2との通信接続を確立すると、通信接続している携帯端末2の端末IDをスマートECU11に提供する。
【0052】
なお、Bluetooth規格によれば、暗号化されたデータ通信は、周波数ホッピング方式で実施される。周波数ホッピング方式は、通信に使うチャンネルを時間で次々に切り替えていく通信方式である。具体的にはBluetooth規格では、周波数ホッピング・スペクトル拡散方式(FHSS:Frequency Hopping Spread Spectrum)によってデータ通信が行われる。Bluetooth Low Energy(以降、Bluetooth LE)では、0番から39番までの40のチャンネルが用意されており、そのうちの0番から36番までの37チャンネルがデータ通信に使用可能である。なお、37番から39番までの3チャンネルは、アドバタイズパケットの送信に供されるチャンネルである。
【0053】
車室内通信機12αは、携帯端末2との通信接続が確立している場合、37個のチャンネルを逐次変更しながら携帯端末2とデータの送受信を実施する。その際、車室内通信機12αは、スマートECU11に対して、携帯端末2との通信に使用するチャンネルを示す情報(以降、チャンネル情報)を逐次提供する。チャンネル情報は、具体的なチャンネル番号であっても良いし、使用チャンネルの遷移規則を示すパラメータ(いわゆるhopIncrement)であってもよい。HopIncrementは、通信接続時にランダムに決定される5から16までの数字である。チャンネル情報は、現在のチャンネル番号と、HopIncrementを含むことが好ましい。
【0054】
なお、車室内通信機12αは複数存在しても良い。車室内通信機12αの数は、2個、3個、4個以上であってもよい。例えば車室内通信機12αとして、運転席の足元付近に配されている車載通信機12と、トランクエリアの床部に配されている車載通信機12の2つの車室内通信機12αを備えていてもよい。また、車室内通信機12αは、左右のBピラー42Bの室内側面にそれぞれ1つずつ配されていても良い。その他、車室内通信機12αは、後部座席用のドアの室内側面や、後部座席の床面に配置されていても良い。データ通信機としての役割を兼ねない車室内通信機12αは、車室外が見通し外となる位置に設けられていることが好ましい。車室内通信機12αは、車室内の大半(より好ましくは全領域)が強電界エリアとなるように、1又は複数個、所定の位置に配置されていれば良い。
【0055】
なお、車室内通信機12αを構成するアンテナ121としては、パッチアンテナ、ダイポールアンテナ、モノポールアンテナ、逆Fアンテナ、逆Lアンテナ、0次共振アンテナなど多様なアンテナ構造を採用可能である。また、車室内通信機12αのアンテナ121は、後述する地板延伸型0次共振アンテナや、短絡部オフセット型0次共振アンテナ、半波長型0次共振アンテナであってもよい。車室内通信機12αの設置位置、取付姿勢、及び設置個数は、アンテナ121の指向性と、車室内形状を鑑みて適宜設計されればよい。
【0056】
<車室外通信機12βの構造について>
次に車室外通信機12βの構造について説明する。車室外通信機12βとしての室外左側通信機12L、室外右側通信機12M、及び室外後方通信機12Nは何れも同様のアンテナ構造を有する。また、以降ではシステム使用電波の波長(以降、対象波長とも記載)を「λ」で表す。例えば「λ/2」及び「0.5λ」は対象波長の半分の長さを指し、「λ/4」及び「0.25λ」は対象波長の4分の1の長さを指す。なお、真空中及び空気中における2.45GHzの電波の波長(つまりλ)は122mmである。
【0057】
車室外通信機12βは
図6に示すように、回路基板5と、ケース6とを備える。回路基板5は、地板51、支持板52、対向導体板53、短絡部54、及び回路部55を備える。地板51、対向導体板53、及び短絡部54が組み合わさって成る構成が、車室外通信機12βにとってのアンテナ121(以降、車室外アンテナ121βとも記載)に相当する。なお、
図7は、回路基板5の外観斜視図である。
図8は、
図7に示すVIII-VIII線での断面図である。
図7及び
図8ではケース6の図示を省略している。便宜上以降では、地板51に対して対向導体板53が設けられている側を、車室外通信機12βにとっての上側として各部の説明を行う。つまり、地板51から対向導体板53に向かう方向が車室外通信機12βにとっての上方向に相当する。また、対向導体板53から地板51に向かう方向が車室外通信機12βにとっての下方向に相当する。
【0058】
地板51は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。地板51は、支持板52の下側面に沿って設けられている。ここでの板状には金属箔のような薄膜状も含まれる。つまり、地板51はプリント配線板等の樹脂製の板の表面に電気メッキ等によってパターン形成されたものでもよい。この地板51は、同軸ケーブルの外部導体又は支持板52が備えるグランド層と電気的に接続されて、車室外通信機12βにおけるグランド電位(換言すれば接地電位)を提供する。
【0059】
地板51は、長方形状に形成されている。地板51の短辺の長さは、例えば、電気的に0.4λに相当する値に設定されている。また、地板51の長辺の長さは、電気的に1.2λに設定されている。ここでの電気的な長さとは、フリンジング電界や、誘電体による波長短縮効果などを考慮した、実効的な長さである。なお、支持板52が比誘電率4.3の誘電体を用いて形成されている場合、地板51表面での波長は、支持板52としての誘電体の波長短縮効果によって60mm程度となる。故に、電気的に1.2λに相当する長さとは、72mmとなる。
【0060】
図6等に示すX軸は地板51の長手方向を、Y軸は地板51の短手方向を、Z軸は上下方向をそれぞれ表している。これらX軸、Y軸、及びZ軸によって構成される3次元座標系(以降、アンテナ座標系)は、車室外通信機12βの構成を説明するための概念である。なお、他の態様として地板51が正方形状である場合には、任意の1辺に沿う方向をX軸とすることができる。また、地板51が円形である場合には地板51に平行な任意の方向をX軸とすることができる。Y軸は、地板51に平行であってかつX軸に直交する方向とすればよい。なお、地板51が長方形や長楕円など、長手方向と短手方向とが存在する形状である場合には、その長手方向をX軸方向とすることができる。なお、Z軸は、アンテナ121にとっての上方向が正方向となるように設定されている。
【0061】
地板51は、互いに直交する2つの直線のそれぞれを対称の軸として線対称な形状(以降、2方向線対称形状)であることが好ましい。2方向線対称形状とは、或る直線を対称の軸として線対称であって、かつ、その直線と直交する他の直線についても線対称な図形を指す。2方向線対称形状には、例えば、楕円形や、長方形、円形、正方形、正六角形、正八角形、ひし形などが該当する。地板51は、直径が1波長の円よりも大きく形成されていることが好ましい。或る部材の平面形状とは、当該部材を上方から見た形状を指す。
【0062】
支持板52は、矩形状の平板部材である。支持板52は、地板51と対向導体板53とを所定の間隔をおいて互いに対向配置する役割を担う。支持板52は平面視において地板51とほぼ同じ大きさに形成されている。支持板52は所定の比誘電率を有する誘電体を用いて実現されている。支持板52は、例えばガラスエポキシ樹脂などを基材とするプリント基板を援用することができる。ここでは一例として支持板52は比誘電率4.3のガラスエポキシ樹脂(換言すれば、FR4:Flame Retardant Type 4)を用いて実現されている。
【0063】
本実施形態では一例として支持板52の厚みは、例えば1.5mmに形成されている。支持板52の厚さは、地板51と対向導体板53との間隔に相当する。支持板52の厚さを調整することで、対向導体板53と地板51との間隔を調整することができる。支持板52の厚さの具体的な値はシミュレーションや試験によって適宜決定されれば良い。支持板52の厚さは、2.0mmや、3.0mmなどであってもよい。なお、支持板52での波長は、誘電体の波長短縮効果によって60mm程度となる。故に、厚さ1.5mmという値は、電気的に対象波長の40分の1(つまりλ/40)に相当する。なお、本実施形態において地板51と対向導体板53の間は、支持板52としての樹脂が充填された構成を採用するが、これに限らない。地板51と対向導体板53の間は、中空や真空となっていてもよい。さらに、以上で例示した構造が組み合わさっていてもよい。
【0064】
対向導体板53は、銅などの導体を素材とする板状の導体部材である。ここでの板状には、前述の通り、銅箔などの薄膜状も含まれる。対向導体板53は、支持板52を介し、地板51と対向するように配置されている。対向導体板53もまた地板51と同様にプリント配線板等の、樹脂製の板の表面にパターン形成されたものでもよい。また、ここでの平行とは完全な平行に限らない。数度から十度程度傾いていても良い。つまり概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。
【0065】
対向導体板53と地板51とは、互いに対向配置されることで、対向導体板53の面積や、対向導体板53と地板51との間隔に応じた静電容量を形成する。対向導体板53は、短絡部54が備えるインダクタンスと、所定の対象周波数において並列共振する静電容量を形成する大きさに形成されている。対象周波数は、送受信の対象とする周波数を指す。車載通信機12の動作帯域の中心周波数(ここでは2.45GHz)が対象周波数及び通信周波数に相当する。
【0066】
対向導体板53の面積は、所望の静電容量を提供するように(ひいては対象周波数で動作するように)適宜設計されればよい。例えば対向導体板53は、一辺が電気的に12mmmの正方形状に形成されている。対向導体板53の表面での波長は支持板52の波長短縮効果によって60mm程度となるため、12mmという値は、電気的に0.2λに相当する。もちろん、対向導体板53の一辺の長さは適宜変更可能であり、14mmや、15mm、20mm、25mmなどであっても良い。
【0067】
なお、ここでは一例として対向導体板53の形状は正方形とするが、その他の構成として、対向導体板53の平面形状は、円形や、正八角形、正六角形などであってもよい。また、対向導体板53は、長方形状や長楕円形などであってもよい。対向導体板53は2方向線対称形状であることが好ましい。また、対向導体板53は、円形や正方形、長方形、平行四辺形など、点対称な図形であることがより好ましい。
【0068】
なお、対向導体板53には、スリットが設けられたり、角部を丸められたりしていても良い。対向導体板53の縁部は、部分的に又は全体的にミアンダ形状に形成されていても良い。2方向線対称な形状には、その縁部に微小な(数mm程度の)凹凸が設けられている形状も含まれる。対向導体板53の縁部に設けられた、動作に影響を与えない程度の凹凸は無視して取り扱うことができる。当該対向導体板53の平面形状に対する技術思想は、前述の地板51についても同様である。
【0069】
対向導体板53は、マイクロストリップ線路551を用いて回路部55と接続されている。対向導体板53とマイクロストリップ線路551との接続箇所が、アンテナ121にとっての給電点531に相当する。マイクロストリップ線路551は給電線に相当する。なお、対向導体板53への給電方式としては、直結給電方式のほか、電磁結合方式など多様な方式を採用可能である。電磁結合方式は、給電用のマイクロストリップ線路等と対向導体板53との電磁結合を利用した給電方式を指す。給電点531は、回路部55から見てアンテナ121の入出力インピーダンスが整合する位置に設けられればよい。換言すれば給電点531は、リターンロスが所定の許容レベルとなる位置に設けられればよい。給電点531は、例えば対向導体板53の縁部や中央領域など、任意の位置に配置することができる。
【0070】
対向導体板53は、
図9に示すように、或る1組の対辺がX軸と平行となり、かつ、他の組の対辺がY軸に平行となる姿勢で地板51と対向配置されている。ただし、その中心が地板51の中心からX軸方向に所定量ずれるように配置されている。具体的には、対向導体板53は、その中心が、地板51の中心からX軸方向へ電気的に対象波長の20分の1(つまり0.05λ)ずれた位置となるように配置されている。当該構成は、別の観点によれば地板51を対向導体板53に対して非対称に配置した構成に相当する。
【0071】
なお、地板51の中心(以降、地板中心)と、対向導体板53の中心のX軸方向における距離(以降、地板オフセット量ΔSa)は、0.05λに限定されない。地板オフセット量ΔSaは0.08λや、0.04λ、0.25λなどであってもよい。地板オフセット量ΔSaは、0.125λ(=λ/8)に設定されていてもよい。地板オフセット量ΔSaは、上面視において対向導体板53が地板51の外側にはみ出さない範囲において適宜変更可能である。対向導体板53は、少なくとも全領域(換言すれば全面)が地板51と対向するように配置されている。地板オフセット量ΔSaは、地板51の中心と対向導体板53の中心のずれ量に相当する。
【0072】
なお、
図9では地板51と対向導体板53の位置関係を明示するために、支持板52は透過させている(つまり図示を省略している)。
図9に示す一点鎖線Lx1は、地板51の中心を通ってX軸に平行な直線を表しており、一点鎖線Ly1は、地板51の中心を通ってY軸に平行な直線を表している。二点鎖線Ly2は、対向導体板53の中心を通ってY軸に平行な直線を表す。別の観点によれば直線Lx1は、地板51や対向導体板53にとっての対称軸に相当する。直線Ly1は地板51にとっての対称軸に相当する。直線Ly2は対向導体板53にとっての対称軸に相当する。
【0073】
対向導体板53は、地板51と同心となる位置からX軸方向へ所定量ずらして配置されているため、一点鎖線Lx1は、対向導体板53の中心も通る。つまり、一点鎖線Lx1は、X軸に平行な直線であって地板51と対向導体板53の中心を通る直線に相当する。直線Lx1と直線Ly1との交点が地板中心に相当し、直線Lx1と直線Ly2の交点が対向導体板53の中心(以降、導体板中心)に相当する。導体板中心は、対向導体板53の重心に相当する。本実施形態では対向導体板53が正方形状であるため、導体板中心とは、対向導体板53の2つの対角線の交点に相当する。なお、地板51と対向導体板53とが同心となる配置態様とは、上面視において対向導体板53の中心と地板51の中心とが重なる配置態様に相当する。
【0074】
短絡部54は、地板51と対向導体板53とを電気的に接続する導電性の部材である。短絡部54は、一端が地板51と電気的に接続され、他端が対向導体板53と電気的に接続された線状の部材であればよい。短絡部54は、例えば支持板52としてのプリント基板に設けられたビアを用いて実現されている。短絡部54は、導電性のピンを用いて実現されていてもよい。短絡部54の長さや径を調整することによって、短絡部54が備えるインダクタンスを調整することができる。
【0075】
短絡部54は、例えば導体板中心に位置するように設けられている。なお、短絡部54の形成位置は、厳密に導体板中心と一致している必要はない。短絡部54は導体板中心から数mm程度ずれていてもよい。短絡部54は、対向導体板53の中央領域に形成されていれば良い。対向導体板53の中央領域とは、導体板中心から縁部までを1:5に内分する点を結ぶ線よりも内側の領域を指す。中央領域は、別の観点によれば、対向導体板53を6分の1程度に相似縮小した同心図形が重なる領域に相当する。
【0076】
回路部55は、送受信回路122や通信マイコン123、電源回路などを含む回路モジュールである。回路部55は、ICや、アナログ回路素子、コネクタなど、多様な部品の電気的集合体である。回路部55は、支持板52において対向導体板53が配置されている側の面(以降、基板上面52a)に形成されている。例えば回路部55は、基板上面52aにおいて非対称部511の上方に位置する領域を用いて形成されている。マイクロストリップ線路551は、対向導体板53に給電するための線状導体である。マイクロストリップ線路551の一端は対向導体板53に接続されており、他端は、回路部55と接続されている。なお、マイクロストリップ線路551は、支持板52の内部に形成されていても良い。
【0077】
ケース6は、回路基板5を収容する構成である。ケース6は例えば上下方向に分離可能に構成されているアッパーケースとロアケースとが組み合わさることで構成されている。ケース6は、例えばポリカーボネート(PC:polycarbonate)樹脂を用いて構成されている。なお、ケース6の材料としては、PC樹脂にアクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(いわゆるABS)を混ぜた合成樹脂や、ポリプロピレン(PP:polypropylene)など、多様な樹脂を採用できる。
【0078】
ケース6は、ケース底部61、ケース側壁部62、及びケース天井部63を備える。ケース底部61は、ケース6の底を提供する構成である。ケース底部61は、平板状に形成されている。ケース6内において回路基板5は、ケース底部61に形成されているリブ(以降、下側リブ)611を介して、地板51がケース底部61と対向するように配置されている。下側リブ611は、ケース6内における回路基板5の位置を規制する役割を担う。下側リブ611は、たとえばケース底部61の所定位置から上側に向かって一体的に形成された凸状の構成である。下側リブ611は、地板51の縁部と当接するように設けられている。下側リブ611は、地板51とケース底部61との離隔がλ/25以下(つまり5mm以下)となるように形成されている。なお、下側リブ611は、側壁部62の内面から筐体内側に向かって突出するように形成されていてもよい。下側リブ611は、回路基板5を下側から支持するように構成されていればよく、側壁部62と一体的に形成されていてもよい。
【0079】
ケース側壁部62は、ケース6の側面を提供する構成であって、ケース底部61の縁部から上方に向かって立設されている。ケース側壁部62の高さは、ケース天井部63の内面と対向導体板53との離隔がλ/25以下となるように設計されている。ケース天井部63は、ケース6の上面部を提供する構成である。本実施形態のケース天井部63は平板状に形成されている。なお、ケース天井部63の形状としては、その他、ドーム型など多様な形状を採用することができる。ケース天井部63は、内面が基板上面52a(ひいては対向導体板53)と対向するように構成されている。ケース天井部63の内側面には上側リブ631が形成されている。
【0080】
上側リブ631は、ケース天井部63の内面の所定位置から下方に向かって形成された凸状の構成である。上側リブ631は、対向導体板53の縁部と当接するように設けられている。上側リブ631はケース6と一体的に形成されている。上側リブ631は、ケース6内における支持板52の位置を規制する。上側リブ631において対向導体板53の縁部と連接する垂直面(つまり外側面)には、銅箔等の金属パターンが付与されていても良い。なお、上側リブ631は任意の要素であって設けられていなくとも良い。
【0081】
ケース6の内部には、より好ましい態様として、シール材7を充填されている。シール材7は封止材に相当する。シール材7としては、ウレタン樹脂(より具体的にはポリウレタンプレポリマー)や、エポキシ樹脂、シリコン樹脂など、多様な材料を採用することができる。ケース6内にシール材7を充填した構成によれば、防水性や防塵性、耐振動性も向上させる事ができる。加えて、ケース6内にシール材7を充填した構成によれば、対向導体板53の上方に位置するシール材7が、対向導体板53の端部から対向導体板53の上側への地板垂直偏波の回り込みを抑制し、地板平行方向への放射利得を向上させる効果を奏する。ここでの地板平行方向とは、対向導体板53の中心からその縁部に向かう方向を指す。地板平行方向は、別の観点によれば、対向導体板53の中心を通る地板51への垂線に直交する方向を指す。地板平行方向は、車室外通信機12βにとっての横方向(換言すれば側方)に相当する。なお、シール材7は任意の要素であって、必須の要素ではない。
図6においては、図の視認性を確保するために、シール材7のハッチングは省略している。
【0082】
上側リブ631やシール材7は、後述する0次共振モードによって放射される垂直電界が、対向導体板53の縁部から上側に回り込むことを抑制する役割を担う構成(以降、電波遮断体)に相当する。本実施形態にて開示の構成は、対向導体板53の上側に、導体又は誘電体を用いて構成されている電波遮断体を配置した構成に相当する。なお、上側リブ631を含むケース6や、シール材7は、比誘電率が高く、かつ、誘電正接が小さいものが好ましい。例えば比誘電率が2.0以上であって、かつ、誘電正接が0.03以下であるものが好ましい。誘電正接が高いと放射エネルギーが熱損失として失われる量が増大する。そのため、ケース6やシール材7は、誘電正接がより小さい材料を用いて実現されていることが好ましい。また、ケース6やシール材7は、誘電率が高いほど電界の回り込みを抑制するように作用する。換言すれば、ケース6やシール材7の誘電率が高いほど、地板平行方向の利得を高める効果は強まる。故に、ケース6やシール材7の材料としては、誘電率が高い誘電体を用いて実現されていることが好ましい。
【0083】
<車室外通信機12βの作動について>
ここでは車室外通信機12βの動作を説明する。車室外通信機12βは、対向導体板53はその中央領域に設けられた短絡部54で地板51に短絡されており、かつ、対向導体板53の面積は、短絡部54が備えるインダクタンスと対象周波数において並列共振する静電容量を形成する面積となっている。
【0084】
このため、対象周波数及びその近傍においては、インダクタンスと静電容量との間のエネルギー交換によって並列共振(いわゆるLC並列共振)が生じ、地板51と対向導体板53との間には、地板51および対向導体板53に対して垂直な電界が発生する。この垂直電界は、短絡部54から対向導体板53の縁部に向かって伝搬していき、対向導体板53の縁部において地板垂直偏波になって空間を伝搬していく。なお、ここでの地板垂直偏波とは、電界の振動方向が地板51や対向導体板53に対して垂直な電波を指す。車室外通信機12βが水平面に平行な姿勢で使用されている場合、地板垂直偏波は地面に垂直な偏波(つまり通常の垂直偏波)を指す。
【0085】
垂直電界の伝搬方向は、
図10に示すように短絡部54を中心として対称である。そのため、
図11に示すように、地板平行方向に対する放射特性は無指向性(換言すれば全方向性)となる。つまり、車室外通信機12βのメインビームは、対向導体板53の中央領域から縁部に向かう全方向(つまり地板平行方向)に形成される。故に、地板51が水平となるように配置されている場合、車室外通信機12βは水平方向にメインビームを備えるアンテナとして機能する。地板平行方向は、主偏波の放射方向に相当する。なお、ここでの地板平行面とは、地板51及び対向導体板53に平行な平面を指す。
【0086】
なお、短絡部54は導体板中心に配置されているため、対向導体板53に流れる電流は、短絡部54を中心として対称となる。そのため、対向導体板53において導体板中心から或る方向に流れる電流が発するアンテナ高さ方向の電波は、逆向きに流れる電流が発する電波によって相殺される。つまり、対向導体板53に励起される電流は、電波の放射に寄与しない。故に、
図12に示すように地板51に垂直な方向(以降、地板垂直方向)には電波を放射しない。地板垂直方向は、図面においてはZ軸正方向に相当する。以降では便宜上、地板51と対向導体板53との間に形成される静電容量と、短絡部54が備えるインダクタンスのLC並列共振によって動作するモードのことを0次共振モードと称する。0次共振モードとしての車室外アンテナ121βは電圧系アンテナに相当する。また、上記構成を備えるアンテナは、対向導体板53と地板51とが形成する静電容量と、短絡部54が備えるインダクタンスとを用いて、無線通信に供される周波数である通信周波数において並列共振するように構成されたアンテナに相当する。なお、0次共振モードの共振周波数は整合素子を用いて調整されてもよい。
【0087】
また、車室外アンテナ121βは、対向導体板53から見て地板51が非対称に形成されていることに起因して、地板51からも電波を放射する。具体的には次の通りである。本実施形態の車室外通信機12βにおいて対向導体板53は、地板51と同心となる位置からX軸方向へ電気的に対象波長の20分の1(つまりλ/20)ずれた位置となるように配置されている。地板オフセット量ΔSaをλ/20に設定した態様によれば、X軸方向の端部からλ/10以内となる領域が対向導体板53にとっての非対称部511となる。ここでの非対称部511とは、地板51において対向導体板53から見て非対称となる領域を指す。
図13及び
図14において非対称部511には、その領域を明示するためにドットパターンのハッチングを施している。便宜上、地板51において対向導体板53からみて対称性を有する最大領域を対称性維持部512とも記載する。対称性維持部512は、地板51の縁部の一部を含むように設定される。対称性維持部512の中央領域から端部までのX軸方向の長さはL/2-ΔSaとなる。対称性維持部512の中心と、対向導体板53の中心は上面視において一致する。
【0088】
図13は地板51に流れる電流を概念的に示した図である。シミュレーションの結果、LC並列共振によって地板51に流れる電流は、主として、地板51の縁部に沿って流れることが確認されている。
図13において矢印の大きさは電流の振幅を表している。
図13では支持板52は透過させている(つまり図示を省略している)。
【0089】
対向導体板53から短絡部54を通って地板51に流れ込む電流は、短絡部54から地板51のX軸方向の両端に向かって流れる。地板51にとっての電流の出入り口となる短絡部54は、対称性維持部512にとっての中心に位置する。そのため、対称性維持部512においては、短絡部54からX軸方向両端に向かって流れる電流は、向きが逆で大きさは等しい。故に、対称性維持部512の中央から或る方向(例えばX軸正方向)に流れる電流により生じる電磁波は、
図14に示すように逆方向(例えばX軸負方向)に流れる電流が形成する電磁波によって相殺される(つまり打ち消される)。したがって、実質的には対称性維持部512からは電波は放射されない。
【0090】
ただし、非対称部511に流れる電流が発する電波については打ち消されずに残る。換言すれば、非対称部511の縁部は放射素子(実態的には線状アンテナ)として作用する。地板51から放射される電波は、電界が地板51と平行な方向に振動する直線偏波(以降、地板平行偏波)となる。具体的には、地板51から放射される電波は、電界の振動方向がX軸に平行な直線偏波(以降、X軸平行偏波)となる。また、当該地板平行偏波はX軸に直交する方向に放射される。つまり、地板平行偏波は、車室外通信機12βにとっての上方向(以降、地板垂直方向)にも放射される。
【0091】
以降では便宜上、地板51の非対称部511の縁部に流れる線状電流を利用する動作モードのことを地板励振モードと称する。地板励振モードは、非対称部511と対称性維持部512が連なる方向(ここではX軸方向)に電界が振動する直線偏波を、当該縁部に垂直な方向に放射する動作モードに相当する。地板励振モードとしての車室外通信機12βは、誘起電流によって電波を放射する、電流系アンテナに相当する。車室外通信機12βが水平面に平行な姿勢で使用されている場合、地板平行偏波は、電界振動方向が地面に平行な直線偏波(つまり水平偏波)に相当する。
図15は、地板オフセット量ΔSaの電気長が0.05λに設定されている車室外通信機12βの地板励振モードでの放射特性をシミュレーションした結果を示す図である。
【0092】
以上で述べたように、本実施形態の車室外通信機12βは、上記の構造を有することにより、地板平行方向にビームを形成する0次共振モードと、地板垂直方向にビームを形成する地板励振モードとの両方で同時に動作しうる。なお、地板垂直方向の利得と地板平行方向の利得の比は、非対称部511のX軸方向の長さ(以降、非対称部幅W)に応じて変動する。非対称部幅Wは、所望の利得比が得られるように適宜調整されればよい。ただし、地板垂直方向の利得と地板平行方向の利得の比は、非対称部幅Wだけでなく、車室外通信機12βの背面に存在する車両金属(例えばBピラー42B)と地板51との離隔の影響も受ける。非対称部幅Wは、車室外通信機12βの背面に位置する車体金属部と地板51との離隔を鑑みて、所望の利得比が得られるようにシミュレーション等に基づき設計されている。前述の通り、ここでは非対称部幅Wは0.1λに設定されているが、他の態様として、0.25λに設定されていてもよい。なお、非対称部幅Wは地板オフセット量ΔSaの2倍値に相当する。故に、非対称部幅Wが0.25λとなる構成とは、地板オフセット量ΔSaを0.125λに設定した構成に相当する。
【0093】
なお、車室外通信機12βが電波を送信(放射)する際の作動と、電波を受信する際の作動は、互いに可逆性を有する。つまり上記車室外通信機12βによれば、地板平行方向から到来する地板垂直偏波を受信できるとともに、地板垂直方向から到来する地板平行偏波を受信できる。
【0094】
以上で説明した通り、車室外通信機12βは、0次共振モードで動作することにより、地板平行方向の全方向に地板垂直偏波を送受信できる。また、それと同時に車室外通信機12βは地板励振モードで動作することにより、地板垂直方向に地板平行偏波を送受信できる。車室外通信機12βは、互いに直交する方向にそれぞれ異なる偏波面を有する電波を送受信できる。以降では、上述した構造を有するアンテナのことを地板延伸型0次共振アンテナとも称する。
【0095】
<車室外通信機12βの取付位置、取付姿勢、及び作用について>
室外左側通信機12Lは、車両Hvの左側に設けられている前部座席用のドア(以降、前部左側ドア)の周辺を強電界エリアとするための車載通信機12である。ここでは運転席が車両Hvの左側に配置されているため、前部左側ドアは運転席用のドアに相当する。
【0096】
室外左側通信機12Lは、
図16に示すように、車両左側に設けられているBピラー42Bの車室外側の面に、地板51がBピラー42Bの表面と対向し、かつ、X軸方向がBピラー42Bの長手方向に沿う姿勢で取り付けられている。換言すれば、室外左側通信機12Lは、地板51が外面部(例えばBピラー42Bの室外側表面)と対向する姿勢で取り付けられている。なお、室外左側通信機12Lは、ドアパネル内部においてBピラー42Bと重なる部分に、上記の姿勢にて取り付けられていても良い。地板51が外面部と対向する姿勢で取り付けられている態様には、地板51が車両側面部に概ね平行である状態(いわゆる略平行な状態)を含みうる。また、上記取り付け姿勢には、地板51が車両外面部に沿うように取り付けられている構成も含まれる。
【0097】
以上の取り付け姿勢によれば、車室外通信機12βにとっての地板垂直方向は、車両の側面部に垂直な方向に向く。また、地板平行方向は車両側面部に沿う(換言すれば平行な)方向となる。つまり、室外左側通信機12Lは、0次共振モードが提供する指向性の中心が側面部(具体的にはドアパネル)に平行となり、且つ、地板励振モードが提供する指向性の中心が側面部に垂直となる姿勢で取り付けられている。また、0次共振モードによって放射される直線偏波の電界振動方向(いわゆる偏波面)は、車両側面部に対して垂直となる。なお、ここでの垂直とは厳密な垂直に限らず、30°程度傾いていても良い。すなわち、ここでの垂直には略垂直も含まれる。平行や対向といった表現についても同様に30°程度傾いている状態も含まれる。
【0098】
室外右側通信機12Mは、車両Hvの右側に設けられている前部座席用のドア(以降、前部右側ドア)の周辺を強電界エリアとするための車載通信機12である。ここでは運転席が車両Hvの右側に配置されているため、前部右側ドアは助手席用のドアに相当する。
【0099】
室外右側通信機12Mは、車両Hvの右側の側面部において、室外左側通信機12Lと反対側となる位置に配置されている。室外右側通信機12Mは、室外左側通信機12Lと対をなす車載通信機12に相当する。室外右側通信機12Mは、車両右側に設けられているBピラー42Bの外側面に、地板51がBピラー42Bの表面と対向し、かつ、X軸方向がBピラー42Bの長手方向に沿う姿勢で取り付けられている。
【0100】
以上の取付位置及び取付姿勢によれば、
図17に示すように、車両側面部に平行な方向と、車両側面部に垂直な方向の両方に指向性を形成する事ができる。その結果、車両Hvの側方(Bピラー付近)において、車幅方向を短手方向とする扁平な略楕円体状の通信エリアが形成される。なお、車両側面部に垂直な方向は、車幅方向に平行であって、かつ、車両側面部から遠ざかる方向(以降、室外方向)に相当する。なお、車幅方向を短手方向とする扁平な略楕円体状の通信エリアは、上面視においては、車両の前後方向を長軸とする楕円形状の通信エリアに相当する。つまり、上記構成によれば、車両前後方向を長手方向とする楕円形状の通信エリアを形成できる。また、車幅方向を短手方向とする扁平な略楕円体状の通信エリアは、正面視においては、車両の高さ方向を長軸とする楕円形状の通信エリアに相当する。つまり上記構成によれば、下方や上方に指向性が向いた扁平な楕円形状の通信エリアを形成できる。さらに、車幅方向の利得は、非対称部幅Wに由来する。そのため、非対称部幅Wを調整することにより、車室外通信機12βの実質的な通信範囲を車両側面部から2m以内に限定することも可能となる。また、当該形成態様によれば、金属製のBピラー42Bがアンテナ121にとっての接地板/反射板として作用するため、地板垂直方向(車幅方向)の利得及びアンテナ上向きの利得を向上させることができる。
【0101】
室外後方通信機12Nは、トランクドア付近に強電界エリアを形成するための車載通信機12である。室外後方通信機12Nは、車両後端部の車幅方向中央部に配置されている。室外後方通信機12Nの設置位置としては、例えばトランク用のドアハンドルや、ナンバープレート付近、リアバンパの内部/下端部、リアウインドウの上端部などを採用することができる。例えば室外後方通信機12Nは、トランク用の外側ドアハンドル内に、X軸が車幅方向に沿い、かつ、Z軸が車両後方に向いた姿勢で収容されている。
【0102】
当該取り付け姿勢によれば、車両背面部に沿う方向と、車両背面部に垂直な方向の両方に指向性を形成する事ができる。その結果、室外後方通信機12Nを中心とし、かつ、車幅方向を長手方向とする略長楕円体状の通信エリアが形成される。なお、車両背面部に沿う方向には車幅方向や高さ方向が含まれる。車両背面部に垂直な方向とは、車両後方に相当する。車両後方への利得は、非対称部幅Wに由来するため、非対称部幅Wを調整することにより、室外後方通信機12Nの車両後方への実質的な通信範囲を車両後端部から2m以内に限定することも可能となる。
【0103】
以降では、車室外通信機12βのうち、室外左側通信機12L及び室外右側通信機12Mといった、左側面部又は右側面部に配されている車載通信機12のことを、側方通信機とも記載する。なお、車載システム1が備える車室外通信機12βの数は、適宜変更可能である。車室外通信機12βは、2個や、4個などであっても良いし、5個以上であってもよい。
【0104】
車室内通信機12α及び車室外通信機12βは何れも主として携帯端末2からの信号の受信強度をスマートECU11に報告するための構成である。故に、以降では種々の車室内通信機12α及び車室外通信機12βのことを、強度観測機とも記載する。各強度観測機は、携帯端末2から送信された信号の受信強度をスマートECU11に提供する。
【0105】
<スマートECU11の機能について>
スマートECU11は、上述した位置判定プログラムを実行することで、
図18に示す種々の機能ブロックに対応する機能を提供する。すなわち、スマートECU11は機能ブロックとして、車両情報取得部F1、通信処理部F2、認証処理部F3、位置判定部F4、及び車両制御部F5を備えている。
【0106】
車両情報取得部F1は、車両Hvに搭載されたセンサやECU(例えばボディECU16)、スイッチなどから、車両Hvの状態を示す種々の情報(以降、車両情報)を取得する。車両情報としては、例えば、ドアの開閉状態や、各ドアの施錠/開錠状態、ドアボタン13の押下の有無、スタートボタン14の押下の有無等が該当する。また、車両情報取得部F1は、上述した種々の情報に基づいて、車両Hvの現在の状態を特定する。例えば車両情報取得部F1は、エンジンがオフであり、全てのドアが施錠されている場合に、車両Hvは駐車されていると判定する。もちろん、車両Hvが駐車されていると判定する条件は適宜設計されればよく、多様な判定条件等を適用することができる。
【0107】
なお、各ドアの施錠/開錠状態を示す情報を取得することは、各ドアの施錠/開錠状態を判定すること、及び、ユーザによるドアの施錠操作/開錠操作を検出することに相当する。また、ドアボタン13やスタートボタン14からの電気信号を取得することは、これらのボタンに対するユーザ操作を検出することに相当する。車両情報取得部F1が取得する車両情報には、車両Hvに対するユーザ操作も含まれる。加えて、車両情報に含まれる情報の種類は、上述したものに限らない。図示しないシフトポジションセンサが検出するシフトポジションや、ブレーキペダルが踏み込まれているか否かを検出するブレーキセンサの検出結果、パーキングブレーキの作動状態なども車両情報に含まれる。
【0108】
通信処理部F2は、データ通信機としての車載通信機12(ここでは車室内通信機12α)と協働して携帯端末2とのデータの送受信を実施する構成である。例えば通信処理部F2は、携帯端末2宛のデータを生成し、車室内通信機12αに出力する。これにより、所望のデータに対応する信号を電波として送信させる。また、通信処理部F2は、車室内通信機12αが受信した携帯端末2からのデータを受信する。本実施形態ではより好ましい態様としてスマートECU11と携帯端末2との無線通信は、暗号化して実施されるように構成されている。なお、本実施形態ではセキュリティ向上のためにスマートECU11及び携帯端末2は、認証等のためのデータ通信を暗号化して実施するように構成されているものとするが、これに限らない。他の態様として、スマートECU11及び携帯端末2は、暗号化せずにデータ通信を実施するように構成されていても良い。
【0109】
通信処理部F2は、携帯端末2と車室内通信機12αとの通信接続が確立していることに基づいて、ユーザが車両Hv周辺に存在することを認識する。また、通信処理部F2は、車室内通信機12αから、通信接続している携帯端末2の端末IDを取得する。このような構成によれば、車両Hvが複数のユーザによって共有される車両であっても、スマートECU11は、車室内通信機12αが通信接続している携帯端末2の端末IDに基づいて車両Hv周辺に存在するユーザを特定することができる。
【0110】
また、通信処理部F2としてのスマートECU11は、車室内通信機12αからチャンネル情報を取得する。これにより、スマートECU11は、車室内通信機12αが携帯端末2との通信に使用されるチャンネルを特定する。そして、通信処理部F2は、車室内通信機12αから取得したチャンネル情報及び端末IDを、各強度観測機に参照情報として配信する。参照情報に示されるチャンネル情報によって、各強度観測機は、Bluetooth規格が備える多数のチャンネルのうち、何れのチャンネルを受信すれば、携帯端末2からの信号を受信できるのかを認識可能となる。また、強度観測機は、参照情報に示される端末IDによって、複数のデバイスからの信号を受信している場合であっても、何れのデバイスからの信号の受信強度をスマートECU11に報告すべきかを特定可能となる。
【0111】
認証処理部F3は、車室内通信機12αと連携して、通信相手がユーザの携帯端末2であることを確認(換言すれば認証)する処理を実施する。認証のための通信は、車室内通信機12αを介して暗号化されて実施される。つまり、認証処理は暗号通信によって実施される。認証処理自体は、チャレンジ-レスポンス方式など多様な方式を用いて実施されればよい。ここではその詳細な説明は省略する。認証処理に必要なデータ(例えば暗号鍵)などは携帯端末2とスマートECU11のそれぞれに保存されているものとする。認証処理部F3が認証処理を実施するタイミングは、例えば車室内通信機12αと携帯端末2との通信接続が確立したタイミングとすればよい。認証処理部F3は、車室内通信機12αと携帯端末2とが通信接続している間、所定の周期で認証処理を実施するように構成されていても良い。また、ユーザによってスタートボタン14が押下された場合など、車両Hvに対する所定のユーザ操作をトリガとして認証処理のための暗号通信を実施するように構成されていても良い。
【0112】
ところで、Bluetooth規格において車室内通信機12αと携帯端末2との通信接続が確立したということは車室内通信機12αの通信相手が予め登録されている携帯端末2であることを意味する。故に、スマートECU11は、車室内通信機12αと携帯端末2との通信接続が確立したことに基づいて、携帯端末2の認証が成功したと判定するように構成されていても良い。
【0113】
位置判定部F4は、各車載通信機12と携帯端末2との通信状況に基づいて携帯端末2の位置を推定する処理を実行する構成である。本実施形態の位置判定部F4は一例として、複数の車載通信機12のそれぞれから提供される、携帯端末2からの信号の受信状況及び受信強度に基づいて、車室内、室外作動エリアRx内、及び、エリア外の何れのエリアに携帯端末2が存在するかを判定する。ここでのエリア外とは、車室外のうち、室外作動エリアRxの外側となる領域を指す。また、エリア外のうち、特に外側ドアハンドルから所定の禁止距離以上となる領域を禁止エリアと称する。禁止距離は後述する盗難防止の観点から2mに設定されている。なお、携帯端末2は基本的にはユーザに携帯されるものであるため、携帯端末2の位置を判定することはユーザの位置を判定することに相当する。禁止距離は1.6mや3mなどであってもよい。禁止エリアの大きさを規定する禁止距離は、車両が使用される地域等に応じて適宜変更されれば良い。
【0114】
このような位置判定部F4は、携帯端末2の位置を判定するための準備処理として、強度観測機としての複数の車載通信機12から、携帯端末2からの信号の受信強度を逐次取得するとともに、取得した受信強度を取得元毎に区別してRAM113に保存していく。そして、位置判定部F4は、RAM113に保存されている強度観測機毎の受信強度と、フラッシュメモリ112に登録されている種々の判定用閾値に基づいて携帯端末2が車室内に存在するのか否かを判定する。位置判定部F4が強度観測機毎の受信強度に基づいて携帯端末2の位置を判定する方法の詳細については別途後述する。なお、位置判定部F4の判定結果は、車両制御部F5によって参照される。
【0115】
車両制御部F5は、認証処理部F3による携帯端末2の認証が成功している場合に、携帯端末2(換言すればユーザ)の位置及び車両Hvの状態に応じた車両制御を、ボディECU16等と協働して実行する構成である。車両Hvの状態は車両情報取得部F1によって判定される。携帯端末2の位置は位置判定部F4によって判定される。
【0116】
例えば車両制御部F5は、車両Hvが駐車されている状況下で、携帯端末2が車室外に存在し、ユーザによってドアボタン13が押下された場合には、ボディECU16と連携してドアのロック機構を開錠する。また、例えば位置判定部F4によって携帯端末2は車室内に存在すると判定されており、かつ、スタートボタン14がユーザによって押下されたことを検出した場合には、エンジンECU15と連携してエンジンを始動させる。このように車両制御部F5は、基本的には車両Hvへのユーザ操作をトリガとしてユーザの位置及び車両Hvの状態に応じた車両制御を実行するように構成されている。ただし、車両制御部F5が実施可能な車両制御の中には、車両Hvへのユーザ操作を必要とせずに、ユーザの位置に応じて自動的に実行するものがあってもよい。
【0117】
<接続関連処理>
次に
図19に示すフローチャートを用いて車載システム1が実施する接続関連処理について説明する。接続関連処理は、車載システム1が携帯端末2との通信接続の確立に係る処理である。
図19に示す接続関連処理は、例えばデータ通信機としての車室内通信機12αが携帯端末2からのアドバタイズパケットを受信した場合に開始されれば良い。
【0118】
まずステップS101では車室内通信機12αが携帯端末2との通信接続(換言すればコネクション)を確立してステップS102に移る。なお、車室内通信機12αは携帯端末2との通信接続が確立すると、車室内通信機12αと通信接続している携帯端末2の端末IDをスマートECU11に提供する。また、スマートECU11は、車室内通信機12αは携帯端末2との通信接続が確立した時点において、強度観測機が休止モードとなっている場合には、強度観測機に対して所定の制御信号を出力し、待受状態に移行させる。休止モードは、例えば信号の受信機能を停止している状態である。休止モードは電源がオフになっている状態も含まれる。
【0119】
ステップS102では車室内通信機12αがスマートECU11からの指示に基づいて定期的に暗号通信を実施する。この際にやり取りされるデータの内容は、携帯端末2に対して応答信号の返送を要求するものであれば何でもよい。チャレンジコードなど、携帯端末2を認証するためのデータであってもよい。定期的に携帯端末2と無線通信を実施することで、スマートECU11は、車室内又は車両周辺に携帯端末2が存在することを確認することができる。
【0120】
ステップS103では車室内通信機12α及びスマートECU11が協働して、参照情報の共有を開始する。具体的には、車室内通信機12αが、通信接続している携帯端末2の端末ID、及び、チャンネル情報をスマートECU11に逐次提供する。また、スマートECU11は車室内通信機12αから提供されたチャンネル情報及び端末IDを参照情報として各強度観測機に逐次配信する。
【0121】
ステップS104では各強度観測機が、スマートECU11から提供される参照情報を用いて、携帯端末2からの信号の受信強度を観測し始める。すなわち、強度観測機は、Bluetooth規格が備える多数のチャンネルのうち、チャンネル情報に示されている番号のチャンネルを受信対象に設定する。また、強度観測機は、受信対象とするチャンネルを、スマートECU11から提供されるチャンネル情報に応じて順次変更する。
【0122】
このような構成によれば、携帯端末2と車室内通信機12αとが周波数ホッピング方式の無線通信を実施する場合であっても、携帯端末2からの信号の受信強度を取得して、スマートECU11に逐次報告される。つまり、車載システム1と携帯端末2との通信の秘匿性(換言すればセキュリティ)を確保している状態で、車載システム1が備える種々の車載通信機12が携帯端末2からの信号の受信強度を検出可能となる。
【0123】
ステップS105では強度観測機が、参照情報に示される端末IDを含む信号を受信したか否かを判定する。参照情報に示される端末IDを含む信号を受信した場合には、ステップS106に移る。ステップS106では当該受信信号の受信強度をスマートECU11に報告する。つまり、ステップS105~S106では種々の強度観測機が、チャンネル情報に示されるチャンネルで受信した信号のうち、参照情報に示される端末IDを含む信号の受信強度をスマートECU11に報告する。なお、ステップS105において一定時間、携帯端末2からの信号を受信しなかった場合にはステップS108が実行されればよい。
【0124】
ステップS107ではスマートECU11が、各強度観測機から提供される受信強度を、提供元としての強度観測機毎に区別してRAM113に保存する処理を実行し、ステップS108に移る。ステップS108ではスマートECU11及び車室内通信機12αが協働して、携帯端末2との通信接続が終了したか否かを判定する。携帯端末2との通信接続が終了した場合とは、例えば車室内通信機12αが携帯端末2からの信号を受信できなくなった場合である。携帯端末2との通信接続が終了した場合にはステップS108が肯定判定されてステップS109を実行する。一方、携帯端末2との通信接続がまだ維持されている場合には、ステップS105に戻る。
【0125】
ステップS109ではスマートECU11が、強度観測機に対して所定の制御信号を出力し、携帯端末2からの信号の受信強度を観測する処理を終了させる。例えばスマートECU11は、例えば強度観測機を休止モードに移行させる。ステップS109での処理が完了すると本フローを終了する。
【0126】
<位置判定処理>
次に、
図20に示すフローチャートを用いてスマートECU11が実施する位置判定処理について説明する。位置判定処理は、携帯端末2の位置を判定するための処理である。この位置判定処理は、車室内通信機12αと携帯端末2との通信接続が確立されている状態において、例えば所定の位置判定周期で実施される。位置判定周期は、例えば200ミリ秒である。もちろん、位置判定周期は100ミリ秒や300ミリ秒であってもよい。
【0127】
まずステップS201では認証処理部F3が、車室内通信機12αと協働して、携帯端末2を認証する処理を実行してステップS202に移る。なお、ステップS201は省略可能である。また、携帯端末2の認証を実施するタイミングで適宜変更可能である。ステップS202では位置判定部F4が、RAM113に保存されている強度観測機毎の受信強度に基づいて、各強度観測機についての個別強度代表値を算出する。1つの強度観測機についての個別強度代表値とは、当該強度観測機での直近所定時間以内における受信強度を代表的に示す値である。ここでは一例として、個別強度代表値は、直近N個分の受信強度の平均値とする。このような個別強度代表値は、受信強度の移動平均値に相当する。
【0128】
本実施形態ではNは2以上の自然数であればよく、本実施形態では5とする。この場合、位置判定部F4は直近5つの時点で取得(換言すればサンプリング)された携帯端末2の受信強度を用いて移動平均値を算出することとなる。もちろん、Nは10や20などであってもよい。なお、他の態様としてNは1であってもよい。N=1とする構成は、最新の受信強度をそのまま個別強度代表値として採用する構成に相当する。
【0129】
具体的には、ステップS202において位置判定部F4は、車室内通信機12αでの個別強度代表値として、車室内通信機12αから提供された直近5つの受信強度を母集団とする平均値を算出する。なお、仮に車室内通信機12αを複数備える場合には、各車室内通信機12αについて、その車室内通信機12αから提供された直近5つの受信強度を母集団とする平均をそれぞれ算出する。
【0130】
また、位置判定部F4は、室外左側通信機12Lでの個別強度代表値として、室外左側通信機12Lから提供された直近5つの受信強度を母集団とする平均値を算出する。室外右側通信機12M及び室外後方通信機12Nなど、他の車室外通信機12βについても同様に、その車室外通信機12βから提供された直近5つの受信強度の平均値を算出する。
【0131】
なお、RAM113に保存されている受信強度の数がN個未満である強度観測機の個別強度代表値については、データ欠落分の受信強度として、車載通信機12が検出可能な受信強度の下限値に相当する値を代用して算出されれば良い。車載通信機12が検出可能な受信強度の下限値は、車載通信機12の構成によって決定されればよく、例えば-60dBmなどである。
【0132】
このような態様によれば、例えば、携帯端末2に位置に起因して車載システム1が備える複数の強度観測機の一部しか携帯端末2からの信号を受信できていない場合であっても、後続の処理を実施することができる。例えば、携帯端末2が車両Hvの車室外右側に存在することによって室外右側通信機12Mが携帯端末2からの信号を受信できていない場合であっても、それぞれの強度観測機についての個別強度代表値を算出することができる。
【0133】
なお、本実施形態では直近N個の受信強度の平均値を個別強度代表値として用いるが、これに限らない。個別強度代表値は、直近N個の受信強度の中央値や最大値であってもよい。また、個別強度代表値は、直近N個の受信強度から、最大値と最小値を除去した受信強度の平均値であってもよい。個別強度代表値は、瞬間的な受信強度の変動成分が除去された値であることが好ましい。ステップS202での処理が完了するとステップS203に移る。
【0134】
ステップS203では位置判定部F4が、1つ又は複数の車室内通信機12αについての個別強度代表値に基づいて、室内機強度代表値Paを決定する。ここでは一例として車室内通信機12αが1つだけであるため、当該1つの車室内通信機12αについての個別強度代表値をそのまま室内機強度代表値Paとして採用する。なお、他の態様として、車室内通信機12αを複数備える場合には、各車室内通信機12αでの個別強度代表値の最大値、平均値、又は中央値を室内機強度代表値Paとして採用すればよい。
【0135】
ステップS204では位置判定部F4が、各車室外通信機12βについての個別強度代表値に基づいて、室外機強度代表値Pbを決定する。本実施形態の位置判定部F4は、各車室外通信機12βについての個別強度代表値の最大値を室外機強度代表値Pbとして採用する。ステップS204での処理が完了するとステップS205に移る。なお、室外機強度代表値Pbは、各車室外通信機12βでの個別強度代表値の平均値、又は中央値であってもよい。
【0136】
ステップS205では位置判定部F4が、室外機強度代表値Pbが作動閾値Prx以上であるか否かを判定する。作動閾値Prxは、前述の通り、携帯端末2が室外作動エリアRxに存在すると判定するための閾値である。作動閾値Prxは、室外作動エリアRx内に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値Pbの最小値を基準として設計されればよい。室外作動エリアRx内に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値Pbの最小値は、室外作動エリアRx内の各地点に携帯端末2を配置したときの室外機強度代表値Pbを測定する試験の結果に基づいて決定されればよい。
【0137】
なお、作動閾値Prxは、車室内に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値Pbの最大値以上に設定されていることが好ましい。そのような技術思想によって作動閾値Prxを設定した構成によれば、室外機強度代表値Pbが作動閾値Prx以上であるということは、携帯端末2が車室内ではなく車室外(特に室外作動エリアRx)に存在することを意味する。その他、作動閾値Prxは、外側ドアハンドルから2m離れた地点に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値Pbの最大値に所定の裕度を加えた値に設定されていてもよい。
【0138】
ステップS205の判定処理において、室外機強度代表値Pbが作動閾値Prx以上である場合にはステップS205を肯定判定してステップS206に移る。一方、室外機強度代表値Pbが作動閾値Prx未満である場合にはステップS206を否定判定してステップS207を実行する。ステップS206では位置判定部F4が、携帯端末2は室外作動エリアRx内に存在すると判定して本フローを終了する。
【0139】
ステップS207では位置判定部F4が、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上であるか否かを判定する。車室内相当値Pinは、前述の通り、携帯端末2が車室内に存在すると判定するための閾値である。車室内相当値Pinは適宜試験等によって設計されている。車室内相当値Pinは、例えば空車状態の車室内に携帯端末2のみが存在する場合に観測されうる室内機強度代表値の最小値を基準として設計されている。なお、ここでの空車状態とは、ユーザによって持ち込まれた荷物や、乗員が存在しない状態を指す。つまり、車室内に予め備え付けられている構成以外の物が存在しない状態を指す。車室内相当値Pinは、運転席に平均的な体格を有する人物が着座している状態に観測されうる室内機強度代表値の最小値を基準として設計されていてもよい。このような技術思想によって車室内相当値Pinを設定した構成によれば、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上であるということは、携帯端末2が車室内に存在することを意味する。
【0140】
ステップS207の判定処理において、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上である場合にはステップS207を肯定判定してステップS208に移る。一方、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin未満である場合にはステップS207を否定判定してステップS209を実行する。ステップS208では位置判定部F4が、携帯端末2は車室内に存在すると判定して本フローを終了する。ステップS209では位置判定部F4が、携帯端末2はエリア外に存在すると判定して本フローを終了する。
【0141】
ステップS206、S208、S209での判定結果は、携帯端末2の位置情報としてRAM113に保存され、車両制御部F5などによって参照される。
【0142】
<車両用電子キーシステムの要件について>
ここでは実施形態の効果を説明するための前置きとして、車両用電子キーシステムとして要求される要件について説明する。車両用電子キーシステムでは、盗難防止の観点から、
図21に示すように車両の外面部(例えば外側ドアハンドル)から2m以上離れている場合には無線通信による自動的なドアの開錠を禁止することが求められることがある。当該要件は、英国保険協会(Association of British Insurers)が設立した団体であるThe Motor Insurance Repair Research Centreの規定に基づくものである。故に、車載システム1は、携帯端末2が車両Hvから2m以内に存在するのか否かを精度良く判別可能に構成されていることが好ましい。前述の禁止エリアは、当該要件に応じて設定されている。
【0143】
また、上記の車両の外面部から2m以内という範囲は1つの指標である。車両メーカーが設定する室外作動エリアRxは、セキュリティ向上の観点から、より狭い範囲に限定されていることが多い。例えば室外作動エリアRxは、車両Hvから0.7m以内とする事が多い。つまり、車両用電子キーシステムとしては、少なくとも携帯端末2が車両Hvから2m以内に存在するのか否かを精度良く判別可能であることを前提として、さらに、携帯端末2が室外作動エリアRx内に存在するのか否かも精度良く判別することが求められている。
【0144】
上記要件を鑑みると、車両用電子キーシステムにおいては、車室外通信機12βは、携帯端末2が室外作動エリアRx内に存在する場合と禁止エリアに存在する場合とで、携帯端末2からの信号の受信強度に有意な差が生じるように構成されていることが好ましい。なお、室外作動エリアや禁止エリアの概略的な基準面は、車両側面部である。位置判定精度を評価する上での室外作動エリアや禁止エリアの基準面(換言すれば側面部と見なす平面)は、例えば外側ドアハンドルを通って、車幅方向に直交する平面とすればよい。室外作動エリアRxと禁止エリアの間の領域は緩衝領域(換言すればグレーゾーン)に相当する。
【0145】
<実施形態の効果について>
上記の要件に対し、本実施形態の構成(特に車室外通信機12βの構造及び取付姿勢)によれば、室外方向にはメインビームは向かない。室外方向にはサブビームが向けられる。上記の構成によれば、室外左側通信機12L及び室外右側通信機12Mといった側方通信機は、車両前後方向を長手方向とする楕円体状の放射特性を提供する。なお、ここでのメインビームとは、車室外通信機12βのアンテナ121が0次共振モードにて放射する電波(換言すれば主偏波)を指す。サブビームとは地板励振モードにて放射する電波(換言すれば副偏波、交差偏波)を指す。
【0146】
このような放射特性によれば、
図22に示すように、Bピラー42Bから0.7m以内となる3次元空間を満遍なく強電界エリアとすることができるとともに、禁止エリアが強電界エリアとなることを抑制できる。つまり、携帯端末2が室外作動エリアRxに存在するのか否か禁止エリアに存在するのかに応じて受信強度に有意差を生じさせることができる。また、前部座席用のドア付近から後部座席用のドア付近にかけて、車両前後方向に沿うように強電界エリアを形成することもできる(図示略)。
【0147】
なお、
図22は、左側面部における室外左側通信機12Lから無線送信された信号の電界強度分布をシミュレーションした結果である。送信信号の電界強度と受信強度とは厳密には異なる物理量であるが、送受の可逆性からこれらは比例関係にあり、代替特性として採用することができる。
図22に示す電界強度は、2402MHzと、2442MHzと、2480MHzの3チャネルの電界強度の最大値を示す。送信出力は30dBmとしている。
【0148】
図22において破線で示す等高線は、室外作動エリアRx内での電界強度の最小値と等しい地点を表している。前述の作動閾値Prxは、当該等高線の電界強度に設定されている。そのような設定によれば、携帯端末2が禁止エリアに存在するにも関わらず、室外作動エリアRx内に携帯端末2が存在すると誤判定する恐れを低減できる。なお、路面から0.1m以内となる路面付近領域や、路面からの高さが2m以上となる領域には、携帯端末2が存在する可能性は低いため、室外作動エリアRxからは除外することができる。
【0149】
なお、比較例(換言すれば参考例)として、地板延伸型0次共振アンテナの代わりにダイポールアンテナを、Bピラーに以下の3パターンの姿勢で取り付けた場合の電界強度分布のシミュレーション結果を
図23に示す。
図23の(A)は、ダイポールアンテナ121XをBピラーに垂直な姿勢(=概ね車幅方向に沿う姿勢)で取り付けた場合の電界強度分布を示している。
図23の(B)は、ダイポールアンテナ121Xを車両前後方向に沿う姿勢で取り付けた場合の電界強度分布を示している。
図23の(C)は、ダイポールアンテナ121XをBピラーの長手方向に沿う姿勢(=概ね車両高さ方向に沿う姿勢)で取り付けた場合の電界強度分布を示している。
【0150】
ダイポールアンテナは、放射素子の軸に対して回転対称なドーナツ状の放射指向性(別の観点によれば8の字特性)を有する。そのため、
図23の(C)に示すように、ダイポールアンテナを車両高さ方向に沿う姿勢で取り付けた場合には、室外作動エリアRxの下半分での電界強度が低レベルとなる。その結果、室外作動エリアRx内の電界強度の最小値と禁止エリアでの電界強度と間に有意な差が生じない。また、
図23の(B)に示すように、ダイポールアンテナを車両前後方向に沿う姿勢で取り付けた場合も、室外作動エリアRxの下半分での電界強度が低レベルとなる。その結果、室外作動エリアRx内の電界強度の最小値と禁止エリアでの電界強度と間に有意な差が生じず、適正な作動閾値Prxを設定することができない。
【0151】
室外作動エリアRxの下半分とは、ユーザの胴体~脚部が位置する領域に対応する。故に、ユーザがズボンのポケットや手提げ鞄に携帯端末2を収容しているシーンにおいては、仮に室外作動エリアRx内に携帯端末2が存在する場合であっても携帯端末2からの信号強度は相対的に低レベルとなる。その結果、携帯端末2は室外作動エリアRxには存在しないと誤判定しうる。
【0152】
なお、ダイポールアンテナを車両前後方向に沿う姿勢で取り付けた場合にも室外作動エリアRxの下方での電界強度が劣化する理由としては、次の理由が考えられる。ダイポールアンテナを車両前後方向に沿う姿勢で取り付けた場合には、放射電波の電界振動方向が車両側面部に平行となる。電界振動方向が側面部に平行である場合には、電波が側面部を提供する金属板(例えばインナー/アウタードアパネル)での反射によって、当該電波は室外方向に打ち上がってしまう。その結果、室外作動エリアRxの下半分での電界強度が低レベルとなる。
【0153】
これに対し、本実施形態の車室外通信機12βが0次共振モードにて放射する電波(換言すれば主偏波)は、側面部に対して電界振動方向が垂直な直線偏波となっている。そのため、当該直線偏波は、側面部を提供する金属パネルでの反射によって金属から打ちあがらない。むしろ、車室外通信機12βが放射する主偏波は、金属パネルに沿うように伝搬する。故に、室外作動エリアの下方や上方にも強電界エリアを形成することができる。
【0154】
また、
図23の(A)に示すようにダイポールアンテナをBピラーに垂直な姿勢で取り付けた場合には、他の姿勢で取り付けた場合に比べて、室外作動エリアRxの概ね全体が強電界エリアとなる。ただし、ダイポールアンテナは、放射素子の軸方向(ここでは室外方向)には電波を放射することができない。故に、
図23の(A)に示す通り、アンテナ取り付け位置から室外方向に0.5mほど離れた領域から急激に電界強度が劣化する。その結果、室外作動エリアRx内に弱電界エリアが発生しうる。そもそも、ダイポールアンテナをBピラーに垂直な姿勢で取り付けた場合には、ポール型の放射素子が側面部から車室外側に突出することなり、現実的には搭載することができない。なお、ここでの弱電界エリアとは、電界強度において、禁止エリアと有意な差が生じない領域を指す。具体的には、電界強度が、禁止エリアで観測される電界強度の最大と同等以下となる領域を指す。
【0155】
これに対し、本実施形態の車室外通信機12βでは、メインビームは車両側面部に平行な方向に放射される一方、地板励振モードが提供するサブビームは、側面部に垂直な方向(つまり室外方向)放射される。このような構成によれば、メインビームでカバーできない領域も、地板励振モードが提供するサブビームによって補完され、結果として、室外作動エリア全体が強電界エリアとなる。また、本実施形態の車室外通信機12βが備えるアンテナ121は、厚さ数ミリ程度の板状に構成されている。故に、アンテナ121が側面部から突出する恐れを低減できる。
【0156】
以上で説明した通り、本実施形態の構成によれば、比較構成に比べて、室外作動エリアRxを満遍なく強電界エリアとすることができる。また、全体として地板51に沿う方向を長手方向とする長楕円形状の放射特性を有するため、地板51が側面部に平行となる姿勢で取り付けた構成によれば、車両前後方向を長手方向とする通信エリア/強電界エリアを形成できる。その結果、携帯端末2が室外作動エリアRx内に存在する場合と禁止エリアに存在する場合とで、車室外通信機12βでの携帯端末2からの信号の受信強度に有意な差が生じる。故に、スマートECU11は車室外通信機12βでの携帯端末2からの信号の受信強度を用いて携帯端末2の位置を精度良く判定することができる。
【0157】
さらに、本実施形態の構成によれば、ダイポールアンテナやモノポールアンテナなどのポール型アンテナに比べてアンテナ121の高さ(換言すれば厚さ)を抑制できる。具体的にはモノポールアンテナではλ/4程度の高さが必要であるのに対し、本実施形態のアンテナ121はλ/100~λ/40程度の高さ(換言すれば厚み)で実現可能である。これに伴い、車室外通信機12βを薄型化可能であるため、車両の側面部に搭載しやすいといった利点を有する。
【0158】
以上、本開示の車両用通信装置の実施形態の一例を説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、以降で述べる種々の変形例も本開示の技術的範囲に含まれる。さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。例えば下記の種々の変形例は、技術的な矛盾が生じない範囲において適宜組み合わせて実施することができる。また、前述の実施形態で述べた部材と同一の機能を有する部材については、同一の符号を付し、その説明を省略する。構成の一部のみに言及している場合、他の部分については先に説明した実施形態の構成を適用することができる。
【0159】
[変形例1(アンテナ構造の変形例)]
上述した実施形態では、車室外通信機12βのアンテナ121(つまり車室外アンテナ121β)の構造として、対向導体板53が地板51の中心からずれた位置に配置されている構成を開示したが、アンテナ121の構成はこれに限定されない。車室外通信機12βのアンテナ121は、
図24及び
図25に示すように、対向導体板53は地板51と同心となる位置に配置されており、かつ、短絡部54が対向導体板53の中心から所定量ずれた位置に配置された構成を有していても良い。
図24に示すLx2、Ly2は対向導体板53の対称軸を示している。
図25に示すLx1、Ly1は地板51の対称軸を示している。
図24等においては回路基板5のうち、車室外アンテナ121βの構造に係る部分のみを図示している。
図24等においては回路部55等の図示は省略している。
【0160】
以降では便宜上、対向導体板53が地板51と同心となる位置に配置されており、かつ、短絡部54が対向導体板53の中心から所定量ずれた位置に配置されたアンテナを、短絡部オフセット型0次共振アンテナと称する。なお、対向導体板53が地板51と同心となる位置に配置された構成とは、対向導体板53からみて地板51が対称性を有する構成に相当する。
【0161】
短絡部オフセット型0次共振アンテナが備える地板51及び対向導体板53はそれぞれ2方向線対称に形成されている。短絡部オフセット型0次共振アンテナにおいて、短絡部54は、対向導体板53の中心から対称軸に沿う方向にずらして配置されていればよい。当該構成によれば、以下の説明の通り、対向導体板53上での電流分布の対称性が崩れ、対向導体板53からY軸方向に平行な直線偏波が放射されるようになる。
【0162】
まず、短絡部54が対向導体板53の中心に配置されている構成においては、対向導体板53に流れる電流は、
図26に示すように短絡部54を中心として対称となる。そのため、対向導体板53において短絡部54と対向導体板53との接続点(以降、短絡箇所)から見て或る方向に流れる電流が発する電波は、逆向きに流れる電流が発する電波によって相殺される。
【0163】
対して、短絡部54が対向導体板53の中心から例えばY軸方向に所定量ずれた位置に配置されている構成においては、
図27の(A)に示すように対向導体板53に流れる電流分布の対称性が崩れる。そのため、同図(B)に示すようにY軸方向の電流成分が放射する電波が打ち消されずに残る。つまり、短絡部54が対向導体板53の中心からY軸方向に所定量ずれた位置に配置されている構成においては、電界振動方向がY軸に平行な直線偏波(以降、Y軸平行偏波)が、対向導体板53から上方に向けて放射される。なお、X軸方向の電流成分は対称性が維持されるため、X軸方向に電界が振動する直線偏波は打ち消し合う。
図24及び
図25に示すように、短絡部54をY軸方向にオフセットした0次共振アンテナにおいては、対向導体板53からX軸平行偏波が放射されることはない/放射量は無視できるレベルとなる。なお、対向導体板53の中心に対して短絡部54をずらす方向(以降、短絡部オフセット)は、X軸方向であってもよい。その場合には、X軸平行偏波が対向導体板53から上方に向けて放射される。
【0164】
対向導体板53の中心に対して短絡部54をずらす量(以降、短絡部オフセット量ΔSb)は、シミュレーションに基づき適宜設計されれば良い。短絡部54は、対向導体板53の中央領域内に形成されていればよい。短絡部オフセット量ΔSbは、地板平行方向への全指向性(換言すれば無指向性)を維持するため0.04λ以下に設定されていることが好ましい。また、短絡部オフセット量ΔSbは例えば0.004λ(=0.5mm)や、0.008λ(=1.0mm)、0.012λ(=1.5mm)など、0.02λ(=2.5mm)以下の値に設定されている好ましい。短絡部オフセット量ΔSbを変更することにより、地板垂直方向へのY軸平行偏波の放射利得を調整することができる。また、短絡部オフセット量ΔSbを変更しても動作周波数は変化しない。なお、給電点531の位置を一定とする場合には、短絡部オフセット量ΔSbに応じて電圧定在波比(VSWR:Voltage Standing Wave Ratio)は変動しうる。ただし、給電点531は任意の位置とすることができるため、短絡部オフセット量ΔSbに応じた位置に給電点531を設けることにより、対象周波数におけるVSWRは実用レベル(例えば3以下)に抑制することができる。つまり、短絡部54の位置に応じて給電点531の位置を調整することにより、リターンロスを所望の許容レベルに抑制できる。
【0165】
上記の構成によれば、対向導体板53と地板51との間に形成される静電容量と短絡部54が提供するインダクタンスとの並列共振によって、地板平行方向へ主偏波としての地板垂直偏波を放射する一方、地板垂直方向へ副偏波としての地板平行偏波を放射する。つまり、車室外アンテナ121βが、上記短絡部オフセット型0次共振アンテナとして構成されている場合も、前述の実施形態と同様の取付姿勢で側面部に取り付けられることにより、前述の実施形態と同様の効果を奏する。地板垂直方向への地板平行偏波の放射は、短絡部54を対向導体板53の中心から対称軸に沿う方向にずらして配置した構成と、地板51に非対称部511を付加した構成の少なくとも何れか一方を用いて実現されればよい。
【0166】
[変形例2(アンテナ構造の変形例)]
車室外アンテナ121βは、実施形態にて開示の地板延伸型0次共振アンテナと、変形例1にて開示の短絡部オフセット型0次共振アンテナとを組み合わせた(換言すれば複合型の)0次共振アンテナとして構成されていても良い。当該構成は
図28に示すように、実施形態にて開示の地板51を対向導体板53に対して非対称に配置した構成において、さらに、短絡部54を対向導体板53の中心からY軸方向に所定量ずらして配置した構成に相当する。
【0167】
なお、対向導体板53の中心に対して短絡部54をずらす方向(以降、短絡部オフセット)は、導体板オフセット方向と直交する方向となっていればよい。当該構成によれば、地板垂直方向に放射される直線偏波として、電界振動方向が互いに直交する二種類の直線偏波を放射可能となる。
【0168】
上記の構成によれば、地板平行方向への地板垂直偏波、地板垂直方向へのX軸平行偏波、及び、地板垂直方向へのY軸平行偏波それぞれ同時に放射可能となる。なお、地板垂直方向へのX軸平行偏波の放射は、地板51の非対称部511によって提供される。地板垂直方向へのY軸平行偏波の放射は、短絡部54のY軸方向へのオフセット配置によって提供される。
【0169】
[変形例3(アンテナ構造の変形例)]
車室外アンテナ121βは、特開2016-15688号公報に開示されている構成であってもよい。つまり、
図29に示すように、対向導体板53のX軸方向の長さをλ/2に設定するとともに、給電点531をX軸に平行な対称軸上に設けることで、パッチアンテナとしても動作する構成(以降、半波長型0次共振アンテナ)であってもよい。給電点531は0次共振モードの給電点としても機能しうる。なお、対向導体板53には、パッチアンテナ用の給電点531とは別に0次共振モード用の給電点が設けられていても良い。つまり、対向導体板には、2つの給電点が形成されていてもよい。本変形例の対向導体板53には、縮退分離素子として1組の対角に切り取り部が形成されていても良い。当該構成によれば円偏波を放射可能となり、携帯端末2の姿勢の影響を緩和することができる。上記の例ではX軸が第1対称軸に相当する。なお、対向導体板53において電気長さをλ/2に設定する方向は、Y軸方向であっても良い。つまり第1対称軸はY軸であってもよい。
【0170】
[変形例4(アンテナ構造の変形例)]
車室外アンテナ121βは、
図30に示すように、λ/4モノポールを直角に折り曲げてなる逆Lアンテナであってもよい。車室外アンテナ121βが逆Lアンテナとして構成されている場合も、放射素子56において地板51に垂直な部分(以降、直立部)561に流れる電流によって地板平行方向に地板垂直偏波が放射される。また、地板51と平行な部分(以降、平行部)562に流れる電流によって地板垂直方向に地板平行偏波が放射される。
【0171】
車室外アンテナ121βが逆Lアンテナの場合、地板垂直方向と地板平行方向の利得比は、L字型のエレメントの縦横比(つまり直立部561と平行部562の比)に由来する。直立部561を長くしたほうが地板平行方向にメインビームを形成されやすくなる。故に、直立部561は平行部562よりも長く形成されていることが好ましい。直立部561は平行部562よりも長い逆Lアンテナは、直立部561のほうが平行部562よりも電波の放射量が大きくなるように形成された逆Lアンテナの一例に相当する。ただし、直立部561は平行部562よりも給電点に近いため、直立部561のほうが平行部562よりも強い電流が流れる。また、平行部562は地板51に平行のため、地板51に誘起される逆電流によって、平行部562から放射量は低減される。よって、直立部561が平行部562と同等かそれよりも短く形成されていてもよい。ただし、地板平行方向にメインビームを形成するためには、直立部561の長さは、所定値(例えばλ/16)よりも大きく設定する必要がある。当然、直立部561を長くすれば、車室外アンテナ121βの高さは高くなる。逆説的に、車両への搭載性の観点から、高さを低く設計すると地板平行方向(ひいては車両側面部に沿う方向)の利得が低下する。
【0172】
つまり、車室外アンテナ121βを逆Lアンテナで実現する場合には、車両側面部への搭載性を維持しつつ、地板平行方向に所望の利得を得ることは現実的には困難性がある。そのような課題に対して、実施形態及び変形例1~3にて開示の0次共振アンテナをベースとするアンテナ構造によれば、薄型しつつ、地板平行方向にメインビームを形成することができる。
【0173】
[変形例5(アンテナ構造の変形例)]
車室外アンテナ121βは、
図31に示すようにポール型の放射素子56の上端に容量冠(キャパシティハット)57を設けたトップロード型アンテナを用いて実現されていてもよい。ただし、トップロード型アンテナにおいても、放射素子56と容量冠57との接続点を、容量冠57の中心571からずらすことにより、容量冠57に流れる電流の対称性が崩れ、地板垂直方向に地板平行偏波を放射可能となる。その他、車室外アンテナ121βは逆Fアンテナなどであってもよい。
【0174】
[変形例6(車室外通信機の構成について)]
車室外通信機12βは、
図32に示すように、樹脂製のケース6の内側底面部に、地板51よりも大きい金属板である親地板58が配置されていてもよい。なお、親地板58は、
図32の(B)に示すように、車室外通信機12βのケース6の外側底面部に配置されていてもよい。ケース6と親地板58とは一体的に形成されていても良い。また、ケース6の底部は金属にて実現されていても良い。その場合には、金属製のケース底部61が親地板58に相当する。その他、親地板58としては、車体金属部を援用することもできる。シール材7が想定使用温度内にて固体を維持するものであれば、ケース天井部63及びケース底部61の何れか一方は省略可能である。つまり、ケース6は、上面又は底面が開口部として形成された扁平な箱型に形成されていても良い。なお、ケース6の開口面は、Bピラー42Bや、インナードアパネルなど、取付先の部材と当接されればよい。
【0175】
以上では車載通信機12は、アンテナ121と送受信回路122等の電子部品とを一体的に備えるもの(いわゆる回路一体型アンテナ)としたがこれに限らない。送受信回路122や通信マイコン123は、アンテナ121とは別の筐体に収容されていてもよい。車室内通信機12αと車室外通信機12βとは同一構成であってもよいし、異なる構成が採用されていても良い。また、車室外通信機12βのなかでも、室外後方通信機12Nに関しては、室外左側通信機12L等の側方通信機とは異なる構成が採用されていても良い。
【0176】
また、ケース天井部63は省略されていても良い。また、ケース6においてケース底部61は省略されていても良い。ケース6においてケース天井部63又はケース底部61の何れか一方が省略される場合、シール材7は車室外通信機12βが使用される環境の温度として想定される範囲(以降、使用温度範囲)において固形を維持する樹脂を用いて実現されていることが好ましい。使用温度範囲は例えば-30℃~100℃とすることができる。
【0177】
[変形例7(車室外通信機の取付位置について)]
側方通信機としての車室外通信機12βの取付位置及び取付姿勢は上記の例に限定されない。車室外通信機12βは、Aピラー42Aや、Cピラー42C、ドアパネルの上端部、外側ドアハンドル44の内部/付近など、車両外面部の任意の位置に取り付けることができる。例えば、車室外通信機12βは、外側ドアハンドル44の内部に、X軸方向がハンドルの長手方向に沿い、かつ、Y軸が車両高さ方向に沿う姿勢で収容されていても良い。その他、側方通信機としての車室外通信機12βは、ドアモジュール45において、サイドウインドウの窓枠として作用する部分(以降、窓枠部)に、地板51が車両側面に沿う姿勢で取り付けられていてもよい。ただし、車室外通信機12βは、車両が備える平坦な金属製ボディ部分(以降、車体金属部)と地板51とが対向する姿勢で取り付けられることが好ましい。車体金属部の外側面に車室外通信機12βを取り付けた態様によれば、車体金属部が地板51にとっての親地板58として作用し、車室外通信機12βの動作が安定する。例えば室外左側通信機12Lをインナードアパネルとアウタードアパネルとが組み合わさって成るドアモジュール45内に搭載する場合には、アウタードアパネルは樹脂製であって、インナードアパネルは金属製であることが好ましい。金属製のインナードアパネルは、車室外通信機12βにとっての親地板58として機能しうるためである。なお、インナードアパネルが樹脂製である場合には、室外左側通信機12Lはドアモジュール45内において、Bピラー42Bなどの金属フレームと重なる部分に搭載されていれば良い。室外右側通信機12Mについても同様である。室外後方通信機12Nについても、取付位置は適宜変更可能である。室外後方通信機12Nもまた平坦な車体金属部と近接/当接されていることが好ましい。
【0178】
[変形例8(位置の判定アルゴリズムの変形例)]
上述した実施形態では位置判定部F4は、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上である場合に、携帯端末2は車室内に存在すると判定する態様を開示したが、携帯端末2が車室内に存在するか否かの判定アルゴリズムはこれに限らない。携帯端末2が車室内に存在するか否かを判定するアルゴリズムとしては多様なアルゴリズムを採用可能である。例えば位置判定部F4は、室内機強度代表値Paが室外機強度代表値Pb以上であることに基づいて携帯端末2は車室内に存在すると判定するように構成されていても良い。
【0179】
また、位置判定部F4は、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上であって、かつ、室外機強度代表値Pbが所定の車室外相当値Pout未満であることに基づいて、携帯端末2は車室内に存在すると判定するように構成されていてもよい。ここで導入される車室外相当値Poutは、携帯端末2は車室外に存在すると判定するための閾値であって、作動閾値Prxとは異なるパラメータである。車室外相当値Poutは、車室内に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値の最大値に所定の裕度(例えば3dBm)を与えた値に設定されればよい。車室内に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値の最大値は、シミュレーション/試験の結果に基づいて特定されればよい。車室外相当値Poutは車室内に携帯端末2が存在する場合に観測されうる室外機強度代表値の最大値以上に設定されているため、室外機強度代表値Pbが車室外相当値Pout以上であるということは、携帯端末2が車室外に存在することを意味する。
【0180】
以上の判定アルゴリズムでは、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上であって且つ室外機強度代表値Pbが車室外相当値Pout未満である場合に携帯端末2は車室内に存在すると判定する。また、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上であっても室外機強度代表値Pbが車室外相当値Pout以上である場合や、室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin未満である場合には、携帯端末2は車室外に存在すると判定する。なお、車室外相当値Poutは、車室内通信機12αが車室外に形成する漏れ領域内に携帯端末2が存在する場合に観測される室外機強度代表値の最小値に設定されていても良い。漏れ領域は、車室外において室内機強度代表値Paが車室内相当値Pin以上となる領域である。漏れ領域となりうる領域は、主として窓部43付近である。ここでの窓部43付近とは窓枠から数cm~数10cm以内となる範囲を指す。
【0181】
さらに、位置判定部F4は、室内機強度代表値Paと、ハイレベル閾値と、ローレベル閾値と、を用いて、携帯端末2が車室内に存在するか否かを判定するように構成されていても良い。ハイレベル閾値は、携帯端末2は車室内に存在すると判定するための閾値である。ハイレベル閾値は、ローレベル閾値よりも相対的に高い値に設定されている。例えばハイレベル閾値は、試験等によって特定される、携帯端末2が車室内(特に運転席周辺)に存在する場合の室内機強度代表値Paを基準として設計されればよい。ハイレベル閾値は、上述した試験結果に基づいて、携帯端末2が禁止エリアに存在する場合に観測される室内機強度代表値Paよりも十分に大きい値に設定されていればよい。ローレベル閾値は、携帯端末2は車室外に存在すると判定するための閾値である。ローレベル閾値は、ハイレベル閾値よりも10dBm以上低い値に設定されていることが好ましい。上記構成において、位置判定部F4は、室内機強度代表値Paがいったんハイレベル閾値以上となった場合には、室内機強度代表値Paがローレベル閾値未満となるまで、携帯端末2は車室内に存在すると判定する。また、室内機強度代表値Paがいったんローレベル閾値未満となった場合には、室内機強度代表値Paがハイレベル閾値以上となるまで、携帯端末2は車室外に存在すると判定するように構成されていても良い。携帯端末2が室外作動エリアRxに存在するか否かについても、携帯端末2が車室内に存在するのか否かの判定と同様に、多様な判定アルゴリズムを適用可能である。
【0182】
[変形例9(携帯端末2と車載通信機12との距離の指標について)]
上述した実施形態では、各車載通信機12から携帯端末2までの距離の指標として、携帯端末2からの信号の受信強度を用いて、携帯端末2の所在を判定する態様を開示したが、これに限らない。各車載通信機12から携帯端末2までの距離の指標としては、車載通信機12から携帯端末2までの無線信号の片道/往復分の伝搬時間を用いることもできる。つまり、位置判定部F4は、車載通信機12から携帯端末2までの無線信号の片道/往復分の伝搬時間を用いて携帯端末2の位置を判定するように構成されていても良い。無線信号の伝搬時間は、携帯端末2からの信号を受信することによって計測可能である。つまり、車載通信機12から携帯端末2までの無線信号の片道/往復分の伝搬時間を用いて携帯端末2の位置を判定する構成もまた、携帯端末2からの信号の受信状況に基づいて携帯端末2の位置を判定する構成に相当する。
【0183】
[変形例10(携帯端末2との通信方式について)]
上述した実施形態では、携帯端末2と車載通信機12とがBluetooth規格で双方向に無線通信を実施する態様を開示したが、携帯端末2と車載通信機12との通信方式はこれに限定されない。携帯端末2と車載システム1は超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)通信で使用されるインパルス信号を用いて無線通信を実施するように構成されていても良い。換言すれば車載通信機12は、UWB通信を行う通信モジュールであってもよい。UWB通信で用いられるインパルス信号とは、パルス幅が極短時間(例えば2ns)であって、かつ、500MHz以上の帯域幅(つまり超広帯域幅)を有する信号である。UWB通信に利用できる周波数帯(以降、UWB帯)としては、3.1GHz~16GHzや、3.4GHz~4.8GHz、7.25GHz~16GHz、22GHz~29GHz等がある。 携帯端末2と車載システム1とが無線通信を実施するための規格や、無線通信に使用される電波(以降、システム使用電波)の周波数は適宜選定されればよい。
【0184】
[変形例11(車両ボディの材料について)]
上述した実施形態では、金属製のボディを備える車両Hvに本開示に係る位置判定システムを適用した態様を開示したが、位置判定システムの適用先として好適な車両は、金属製のボディを備える車両に限らない。例えば車両Hvのボディを構成する種々のボディパネルは、電波の伝搬を5dB以上減衰させるほど十分な量のカーボンが充填されているカーボン系樹脂を用いて形成されていてもよい。このようなボディを備える車両もまた、位置判定システムの適用対象として好適である。もちろん、車両Hvのボディは、カーボンを含まない汎用樹脂を用いて形成されていてもよい。車室外通信機12βは、背面側に電波を遮断する構成が存在し、かつ、その側方及び上方には電波を遮断しない位置に取り付けられていることが好ましい。
【0185】
<付言>
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウェア論理回路により、実現されてもよい。さらに、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウェア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0186】
なお、ここでの制御部とは、例えばスマートECU11である。スマートECU11が提供する手段および/または機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェアおよびそれを実行するコンピュータ、ソフトウェアのみ、ハードウェアのみ、あるいはそれらの組合せによって提供することができる。スマートECU11が備える機能の一部又は全部はハードウェアとして実現されても良い。或る機能をハードウェアとして実現する態様には、1つ又は複数のICなどを用いて実現する態様が含まれる。上述した実施形態ではスマートECU11はCPUを用いて実現されているものとしたが、スマートECU11の構成はこれに限定されない。スマートECU11は、CPU111の代わりに、MPU(Micro Processor Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)、データフロープロセッサ(DFP:Data Flow Processor)を用いて実現されていてもよい。また、スマートECU11は、CPU111や、MPU、GPU、DFPなど、複数種類のプロセッサを組み合せて実現されていてもよい。さらに、スマートECU11が提供すべき機能の一部は、FPGA(Field-Programmable Gate Array)や、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などを用いて実現されていても良い。
【符号の説明】
【0187】
1 車載システム、2 携帯端末、11 スマートECU、12 車載通信機、12α 車室内通信機、12β 車室外通信機、12L 室外左側通信機、12M 室外右側通信機、12N 室外後方通信機、121 アンテナ、121β 車室外アンテナ、42B Bピラー、43 窓部、44 外側ドアハンドル、5 回路基板、51 地板、511 非対称部、512 対称性維持部、52 支持板、53 対向導体板、531 給電点、54 短絡部、55 回路部、551 マイクロストリップ線路、56 放射素子、561 直立部、562 平行部、57 容量冠、58 親地板、6 ケース、61 ケース底部、62 側壁部、63 ケース天井部、611 下側リブ、631 上側リブ、7 シール材、F1 車両情報取得部、F2 通信処理部、F3 認証処理部、F4 位置判定部、F5 車両制御部