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  • 特許-色収差補正用光学樹脂材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】色収差補正用光学樹脂材料
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/04 20060101AFI20221004BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20221004BHJP
   C08F 2/44 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G02B1/04
C08F20/34
C08F2/44 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019563008
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 JP2018046253
(87)【国際公開番号】W WO2019131258
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-11-02
(31)【優先権主張番号】P 2017253318
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100110663
【弁理士】
【氏名又は名称】杉山 共永
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】並木 康佑
(72)【発明者】
【氏名】野島 順
(72)【発明者】
【氏名】村田(鈴木) 章子
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宣之
(72)【発明者】
【氏名】堀越 裕
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第05684636(US,A)
【文献】特開2011-195549(JP,A)
【文献】国際公開第2009/038134(WO,A1)
【文献】特開2011-068708(JP,A)
【文献】特開2004-345123(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0130129(US,A1)
【文献】特開昭60-038411(JP,A)
【文献】特開2005-225990(JP,A)
【文献】国際公開第2007/055390(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/04
C08F 20/00-20/70
C08F 220/00-220/70
C08F 2/44
C08L 33/00-33/26
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は一般式(3)で表される化合物(A成分)を5質量%以上と、メタクリル化合物及びアクリル化合物からなる群より選択される重合性組成物(B成分)を50質量%以上、95質量%以下の割合で含む色収差補正用光学樹脂材料であって、前記A成分が重合基としてアクリル基もしくはメタクリル基を1以上有する、前記色収差補正用光学樹脂材料
【化1】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に下記一般式(2)で表される構造を示す。)
【化2】
(式中、
破線は結合部を示す。
n1は0から3の整数を示す。
n2は0または1の整数を示す。
n3は0から4の整数を示す。
は水素、アクリル基、メタクリル基、シアノアクリル基、環状エーテル基、アリル基、プロパギル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、塩素、又は炭素数1~8の分岐してもよいアルキル基を示す。
Xは炭素数が2~7のアルキレングリコール鎖又はラクトン変性ケトン鎖を示す。)
【化3】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に上記一般式(2)で表される構造を示す。)
【請求項2】
前記A成分が、2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール又は3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニルメタクリレートのいずれかである請求項1に記載の色収差補正用光学樹脂材料。
【請求項3】
前記A成分の割合が10~30質量%の範囲にある請求項1または2に記載の色収差補正用光学樹脂材料。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載の色収差補正用光学樹脂材料を硬化した光学素子。
【請求項5】
少なくとも片面が他の光学素子と接している、請求項に記載の光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈折率の異常分散特性が高く、色収差補正機能の高い光学樹脂材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、屈折光学系では屈折率の波長分散性が低い(アッベ数(νd)の高い)主レンズに対して屈折率の波長分散性が高い(アッベ数の低い)逆パワーのレンズを組み合わせて屈折率波長依存性の1次成分(傾き成分)を打ち消し、色収差を補正している。しかし、レンズを構成する材料の屈折率波長依存性は一般に非線形であるため、前記の単純な補正では高次成分、特に短波長領域の波長依存性が残存してしまう。
そのため、色収差のより厳密な補正が必要な用途では、多種のレンズ材料を利用するなどして補正を行っている。この際、短波長領域の屈折率が通常材料と異なり、青色域の部分分散比の高い異常分散性の光学材料を使用することで効率的な色収差補正が行える。
【0003】
上記の色収差補正用の光学材料は、成形性、軽量性、量産性等の観点から樹脂材料であることが好ましい。異常分散特性の高い樹脂材料としては、カルバゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、含ヘテロ化合物、フェニルスルホン系化合物、フルオレン系化合物、無機微粒子分散樹脂(特許文献1~5)が報告されているが、いずれも低着色性、耐光性、成形性等に課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-158361号公報
【文献】特開2011-195549号公報
【文献】特開2011-136961号公報
【文献】特開2010-037470号公報
【文献】特開2014-43565号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、屈折率の異常分散特性が高く、色収差補正機能の高い光学樹脂材料を提供することである。
なお、アッベ数(νd)、2次分散特性(θg,F)は以下の式で表される。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
θg,F=(ng-nF)/(nF-nC)
(nd、nF、nC、ngはそれぞれ波長587.6nm、486.1nm、656.3nm、435.8nmでの屈折率を表す。)
また、2次分散の異常分散性は、2種の正常ガラスNSL7およびPBM2((νd,θg,F)=(60.49,0.5436)、(36.26,0.5828)を結ぶ直線(以下、ガラス標準線と呼称する)からどれだけ離れているかで数値的に評価することができる。本明細書では、光学材料のθg,Fの値から同一アッベ数でのガラス標準線のθg,Fの値を差し引いた値をΔθg,Fと定義し、異常分散性の大小の評価に用いた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記問題を解決すべく検討を行った結果、特定構造の化合物が高い屈折率の異常分散特性をもち、低着色かつ高耐光性であることを見出した。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0007】
[1] 下記一般式(1)又は一般式(3)で表される化合物(A成分)を5質量%以上含む色収差補正用光学樹脂材料。
【化1】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に下記一般式(2)で表される構造を示す。)
【化2】
(式中、
破線は結合部を示す。
n1は0から3の整数を示す。
n2は0または1の整数を示す。
n3は0から4の整数を示す。
は水素、アクリル基、メタクリル基、シアノアクリル基、環状エーテル基、アリル基、プロパギル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、塩素、又は炭素数1~8の分岐してもよいアルキル基を示す。
Xは炭素数が2~7のアルキレングリコール鎖又はラクトン変性ケトン鎖を示す。)
【化3】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に上記一般式(2)で表される構造を示す。)
【0008】
[2] 前記A成分が重合基としてアクリル基もしくはメタクリル基を1以上有する、[1]に記載の色収差補正用光学樹脂材料。
【0009】
[3] 前記A成分が、2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール又は3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニルメタクリレートのいずれかである[1]に記載の色収差補正用光学樹脂材料。
【0010】
[4] 前記A成分の割合が10~30質量%の範囲にある[1]~[3]のいずれかに記載の色収差補正用光学樹脂材料。
【0011】
[5] 更に重合性組成物(B成分)を50質量%以上、95質量%以下の割合で含む[1]~[4]のいずれかに色収差補正用光学樹脂材料。
【0012】
[6] [1]~[5]のいずれかに記載の色収差補正用光学樹脂材料を硬化した光学素子。
【0013】
[7] 少なくとも片面が他の光学素子と接している、[5]に記載の光学素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明の屈折率の異常分散特性が高い光学樹脂材料を用いることにより、広い波長範囲で色収差が小さく、低着色性や耐候性に優れた光学素子を生産性良く提供することが可能となる。その結果、レンズ等の光学系の色収差を効率よく補正することができ、光学系の小型化や低コスト化が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例及び比較例で製造した光学素子のθg,Fとアッベ数との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の光学樹脂材料は、下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物又は一般式(3)で表わされるフェニルトリアジン系化合物(以下、A成分)を含有する。以下、これらについて詳細に説明する。
【0017】
[A成分:ベンゾトリアゾール系化合物(式(1))又はフェニルトリアジン系化合物(式(3))]
<ベンゾトリアゾール系化合物>
【化4】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に下記一般式(2)で表される構造を示す。)
【化5】
(式中、
破線は結合部を示す。
n1は0から3の整数を示し、好ましくは0または1を示す。
n2は0または1の整数を示し、好ましくは1を示す。
n3は0から4の整数を示し、好ましくは0から3の整数を示す。
は水素、アクリル基、メタクリル基、シアノアクリル基、環状エーテル基、アリル基、プロパギル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基、塩素、又は炭素数1~8の分岐してもよいアルキル基を示し、好ましくは水素、アクリル基、メタクリル基、またはアルキル基を示す。
Xは炭素数が2~7のアルキレングリコール鎖又はラクトン変性ケトン鎖を示し、好ましくはエチレングリコール鎖もしくはプロピレングリコール鎖を示す。)
【0018】
<フェニルトリアジン系化合物>
【化6】
(式中、R~Rはそれぞれ独立に上記一般式(2)で表される構造を示す。)
【0019】
ベンゾトリアゾール系化合物又はフェニルトリアジン系化合物は屈折率の異常分散特性を高める効果があり、これらは単独でも組み合わせても使用することができる。
ベンゾトリアゾール系化合物の具体例としては、2-(2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(5-クロロ-2-ベンゾトリアゾリル)-6-tert-ブチル-p-クレゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2-ヒドロキシ-5-tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2H-ベンゾトリアゾリル-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール、C7-C9-アルキル-3-[3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]プロピオンエーテル、2-[2-ヒドロキシ-3,5-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(4,6-ジフェニル-1,3,5-トリアジン-2-イル)-5-[(ヘキシル)オキシ]-フェノール)、2-(2H-ベンゾトリアゾリル-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール及び3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニルメタクリレートが挙げられ、ブリードアウト性の低減、光学樹脂の強度や耐熱性の向上の観点から、重合性官能基(例えば、アクリル基、メタクリル基、シアノアクリル基、エポキシ基、アリル基、プロパギル基、ヒドロキシ基、イソシアネート基からなる1以上の重合性官能基)をもつ化合物が好ましく、特にアクリル基もしくはメタクリル基を1以上有する化合物が好ましい。具体的には2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール及び3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェニルメタクリレートが好ましい。
【0020】
フェニルトリアジン系化合物の具体例としては、2-[4-([2-ヒドロキシ-3(-2’-エチル)ヘキシル)オキシ]-2-ヒドロキシフェニル]-4,6-ビス(2,4-ジメチルフェニル)-1,3,5-トリアジン及び2,4-ビス(2-ヒドロキシ-4-ブチロキシフェニル)-6-(2,4-ビス-ブチロキシフェニル)-1,3,5-トリアジンが挙げられる。
【0021】
A成分の光学樹脂材料中の割合は5質量%以上含まれることが好ましく、10質量%以上がより好ましく、屈折率の異常分散性Δθg,Fを上げることができる。特にΔθg,Fが0.05以上となるようにA成分の使用量を調整すると、色収差補正の効果が高まるため好ましい。A成分が重合性官能基を持たず、かつ分子量1000未満の低分子量化合物である場合は、光学樹脂からのブリードアウトおよび樹脂強度の低下の懸念があるため、30質量%以下とすることが好ましい。
【0022】
また、A成分が重合性官能基をもつ化合物である場合、A成分はそのまま樹脂に添加しても、事前の化学反応でオリゴマー化もしくはポリマー化して用いても構わない。オリゴマーもしくはポリマーは一般的な手法で製造することができ、例えばメタクリル基を持つ化合物の場合、ラジカル重合により単独重合体もしくはスチレン・ブタジエン等の2重結合性化合物との共重合が得られる。
【0023】
[B成分:重合性組成物]
本発明で使用できるA成分以外の重合性組成物は、A成分と混合可能な樹脂であれば特に制限は無い。具体例として、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジメタクリレート等のメタクリル化合物、フェノキシエチルアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート等のアクリル化合物、エチレングリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、3’,4’-エポキシシクロヘキシルメチル3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレートのエポキシ化物等が挙げられる。また、A成分が重合性官能基を有する場合、A成分の官能基と共重合する樹脂を混合成分として用いると、得られる光学樹脂を成形した際の材料の均一性が高まるため好ましい。より具体的には、A成分が重合性官能基として(メタ)アクリル基を有する場合、B成分はこれらと共重合する(メタ)アクリル基、アリール基もしくはチオール基を有することが好ましい。
B成分の光学樹脂材料中の割合は、好ましくは50質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは70質量%以上95質量%以下であり、特に好ましくは80質量%以上95質量%以下である。
【0024】
[その他の成分]
本発明の光学樹脂材料には、必要に応じて重合禁止剤、酸化防止剤、光安定剤(HALS)、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、離型剤、顔料、染料及び可塑剤を添加することが可能である。
【0025】
[光学樹脂材料]
本発明の光学樹脂材料は、各成分を通常の手段で均一に混合することにより得られる。混合後の樹脂材料は必要に応じて、ろ過や脱泡などを行っても構わない。
【0026】
[光学素子]
本発明の光学素子は、上記の光学樹脂材料を用いて成形される。成形方法はとくに限定されず、公知の手法に従って作成可能である。例えば、特許文献4にはガラスレンズ表面、もしくはガラスレンズ間に異常分散特性の高い樹脂を成形して光学素子を作製する手法が記載されている。成形手法は注型光重合、注型熱重合等の手法をA成分およびその他の樹脂成分の性状に応じて適宜選択可能である。本発明の光学素子はレンズ、ミラー、プリズム、フィルタを含むが、レンズとして用いることが好ましく、少なくとも片面が他の光学素子と接している構成が好ましく、特に、両面が他の光学素子(特にレンズ)と接していることが好ましい。
【実施例
【0027】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の効果を奏する限りにおいて実施形態を適宜変更することができる。
以下に、実施例中において、使用した化合物の入手元を示す。
[A成分]
Tinuvin P/PS/326/329/571(ベンゾトリアゾール誘導体):BASFジャパン株式会社
Tinuvin 479(フェニルトリアジン誘導体):BASFジャパン株式会社
2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(製品名RUVA―93):大塚化学株式会社
2-[2-ヒドロキシ-4-4オクチルキシフェニル]-2H-ベンゾトリアゾール-5-イロキシ]エチルメタクリレート(製品名 SEESORB R18)ホモポリマー(Mn4200、Mw11200):シプロ化成株式会社
SEESORB S31ホモポリマー(ベンゾトリアゾール系アクリル化合物の単独重合体、Mn4700、Mw9000):シプロ化成株式会社
[B成分]
1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(製品名1.6HX):共栄社化学株式会社
エチレングリコールジメタクリレート(製品名EG):共栄社化学株式会社
EO変性ジグリセリンテトラアクリレート(製品名DGE-4A):共栄社化学株式会社
フルオレンアクリレート(製品名F-5710):大阪ガスケミカル株式会社
[重合開始剤]
t-ブチルパーオキシベンゾエート(製品名パーブチルZ):日油株式会社
2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(製品名IrgaCureTPO):BASFジャパン株式会社
【0028】
分析・評価は以下の方法で行った。
[屈折率(nd)およびアッベ数(νd)]
光学樹脂材料の屈折率(nd)およびアッベ数(νd)は、硬化前の光学樹脂材料を2枚のスライドガラス(松浪硝子工業株式会社製S9213)で挟み、厚さ1mmとして硬化させた後に直角に切断研磨し、精密屈折計KPR-2000(島津デバイス製造株式会社製)を用いて測定した。測定温度は25℃とした。
[異常分散性]
光学材料のθg,Fの値から同一アッベ数でのガラス標準線のθg,Fの値を差し引いた値をΔθg,Fと定義し、異常分散特性の大小の評価に用いた。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
θg,F=(ng-nF)/(nF-nC)
(nd、nF、nC、ngはそれぞれ波長587.6nm、486.1nm、656.3nm、435.8nmでの屈折率を表す。)
ガラス標準線:2種の正常ガラスNSL7およびPBM2((νd,θg,F)=(60.49,0.5436)、(36.26,0.5828)を結ぶ直線
Δθg,F>0.05を合格とした。
[着色性]
光学樹脂材料の着色性は厚さ1mmの板状に成形した際の色味で評価し、無色もしくは微黄色の低着色性のものを「良好」、黄色味の強いものを「着色」とした。
【0029】
[合成例1]
2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェニルメタクリレート(A-1)の合成
窒素下、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-クレゾール(Tinuvin P)22.7g(0.1mol)を1,2-ジクロロエタン(脱水)300mLに溶解させ、トリエチルアミン10.6g(0.105mol)を加えて均一溶液とした。氷浴により冷却しながら攪拌を継続し、メタクリル酸クロリド15.7g(0.15mol)を1時間かけて滴下した。そのまま室温で20時間攪拌を継続した後、100mLのイオン交換水で3回分液して有機層を洗浄し、硫酸ナトリウムにより乾燥させた後に揮発成分を留去して白色固体を得た。シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェニルメタクリレート23.0g(0.078mol、78%)を得た。
【0030】
[合成例2]
2-([{3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネトキシ}カルボニル]アミノ)エチルメタクリレート(A-2)の合成
窒素下、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(2-ヒドロキシエチル)フェノール6.24g(MIBK21%含有、0.0193mol)を酢酸エチル80mLに溶解させ、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)0.0007g(0.000003mol)、ラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)0.0196g(0.0000310mol)を加え、約40℃まで加熱して均一溶液とした。室温で攪拌を継続し、2-イソシアナトエチルメタクリレート(カレンズMOI、昭和電工株式会社製)2.90g(0.0187mol)を滴下した。室温で2.5時間、35℃で1時間撹拌し、室温で15時間静置した。40℃で6時間、50℃で2時間攪拌した後、室温まで冷却すると薄茶色固体が析出した。吸引ろ過にてろ別、酢酸エチルにて固体を洗浄した後、揮発成分を留去し、薄茶色固体として2-([{3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-ヒドロキシフェネトキシ}カルボニル]アミノ)エチルメタクリレート1.45gを得た。
【0031】
[実施例1]
2-(2-ヒドロキシ-5-t-ブチルフェニル)-2H-ベンゾトリアゾール(Tinuvin PS)(A-3)5質量%、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(1.6HX)95質量%、t-ブチルパーオキシベンゾエート(パーブチルZ)0.1質量%を均一となるまで混合して光学樹脂材料とした。
厚さ1mmのフッ素ゴム製Oリングを2枚のガラス板で挟んで固定し、Oリング内に前記光学樹脂材料を注入した。これを100℃で48時間加熱して硬化させ、低着色性が良好な透明な樹脂板を得た。得られた樹脂板の屈折率を測定し、屈折率の異常分散特性を評価した。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例2~21]
A成分およびB成分を表1の化合物および質量%で用いるほかは実施例1と同様の方法で操作を行い、低着色性が良好な透明な樹脂板を得た。得られた樹脂板の屈折率を測定し、屈折率の異常分散特性を評価した。なお、A成分の室温での溶解性が不十分な場合は適宜加熱を行い、均一溶液を作製した。結果を表1に示す。
【0033】
[実施例22]
2-[2-ヒドロキシ-5-[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール(RUVA―93)5質量%、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(1.6HX)95質量%、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IrgaCureTPO)0.5質量%を均一となるまで混合して光学樹脂材料とした。
前記光学樹脂材料を厚さ0.25mmのPETフィルムとともに2枚のガラス板で挟み、これをメタルハライドランプ(16mW/cm、アイグラフィックス社製)で10分間光照射して硬化させ、低着色性が良好な透明な樹脂板を得た。得られた樹脂板の屈折率を測定し、屈折率の異常分散特性を評価した。結果を表1に示す。
【0034】
[実施例23](光学素子の作製)
実施例22で調製した光学樹脂材料をガラスレンズの凹面(直径70mm、曲率半径400mm)に滴下し、厚さ0.1mmのPETフィルムを端部に挟みながらもう一枚のガラスレンズの凸面(直径70mm、曲率半径480mm)を気泡が入らないように押し当て、メタルハライドランプ(16mW/cm、アイグラフィックス社製)で10分間光照射して硬化させ、低着色性が良好な複合光学素子を得た。得られた複合光学素子の外観は良好で、樹脂の曇りや剥がれは見られなかった。なお、ガラスレンズは予めシランカップリング剤処理(KBM-5103、信越化学工業製)を施したものを使用した。
【0035】
[実施例24~25]
A成分およびB成分を表1の化合物および質量%で用いるほかは実施例1と同様の方法で操作を行い、低着色性が良好な透明な樹脂板を得た。得られた樹脂板の屈折率を測定し、屈折率の異常分散特性を評価した。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例1~5]
A成分を用いない、もしくはA成分を3質量%とするほかは実施例1と同様の方法で操作を行い、低着色性が良好な透明な樹脂板を得た。得られた樹脂板の屈折率を測定し、屈折率の異常分散特性を評価した。Δθg,Fはいずれも0.05未満であった。結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
図1