(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】走路推定方法及び走路推定装置
(51)【国際特許分類】
B60W 30/165 20200101AFI20221004BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60W30/165
B60W40/02
(21)【出願番号】P 2020016299
(22)【出願日】2020-02-03
(62)【分割の表示】P 2018506706の分割
【原出願日】2016-03-24
【審査請求日】2020-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】植田 宏寿
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-058920(JP,A)
【文献】特開平07-296291(JP,A)
【文献】特開2006-003166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周囲車両の位置を取得する位置取得回路を用いて、前記周囲車両の位置の履歴による前記周囲車両の走行軌跡に基づいて自車両の走行軌跡を設定する
コンピュータを備える走路推定装置における走路推定方法において、
前記コンピュータは、
少なくとも地図上の前記自車両の走行ルートを取得し、
前記周囲車両の走行軌跡における前記周囲車両の旋回方向および前記周囲車両の走行軌跡の前記自車両に対する横位置に基づいて、前記周囲車両の走行軌跡を、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回中心を一定としながら、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回半径を拡大または縮小して前記自車両の走行軌跡を設定すること
を特徴とする走路推定方法。
【請求項2】
周囲車両の位置を取得する位置取得回路を用いて、前記周囲車両の位置の履歴による前記周囲車両の走行軌跡に基づいて自車両の走行軌跡を設定する
コンピュータを備える走路推定装置における走路推定方法において、
前記コンピュータは、
前記周囲車両の走行軌跡における前記周囲車両の旋回方向および前記周囲車両の走行軌跡の前記自車両に対する横位置に基づいて、前記周囲車両の走行軌跡を、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回中心を一定としながら、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回半径を拡大または縮小して前記自車両の走行軌跡を設定するものであって、
少なくとも道路の分岐情報を含む地図情報を取得し、
前記自車両が分岐点を通過すると判断される場合には、前記自車両の走行軌跡を設定しないこと
を特徴とする走路推定方法。
【請求項3】
前記コンピュータは、前記周囲車両の走行軌跡の旋回半径が大きいほど、拡大率または縮小率を小さくすること
を特徴とする請求項1又は2に記載の走路推定方法。
【請求項4】
前記コンピュータは、前記周囲車両の横位置が前記自車両から離れているほど拡大または縮小する大きさを大きくすること
を特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の走路推定方法。
【請求項5】
前記コンピュータは、前記自車両に対する周囲車両の距離が最も近い前記周囲車両の走行軌跡に基づいて前記自車両の走行軌跡を設定すること
を特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の走路推定方法。
【請求項6】
前記コンピュータは、前記自車両の走行車線の隣接車線にいる前記周囲車両の走行軌跡に基づいて前記自車両の走行軌跡を設定すること
を特徴とする請求項1~5のいずれか一項に記載の走路推定方法。
【請求項7】
周囲車両の位置を取得する位置取得回路と、
前記周囲車両の位置の履歴による前記周囲車両の走行軌跡に基づいて自車両の走行軌跡を設定する走路推定回路と、
少なくとも地図上の前記自車両の走行ルートを取得するルート取得回路と、を備え、
前記走路推定回路は、前記周囲車両の走行軌跡における前記周囲車両の旋回方向および前記周囲車両の走行軌跡の前記自車両に対する横位置に基づいて、前記周囲車両の走行軌跡を、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回中心を一定としながら、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回半径を拡大または縮小して前記自車両の走行軌跡を設定すること
を特徴とする走路推定装置。
【請求項8】
周囲車両の位置を取得する位置取得回路と、
前記周囲車両の位置の履歴による前記周囲車両の走行軌跡に基づいて自車両の走行軌跡を設定する走路推定回路と、
少なくとも道路の分岐情報を含む地図情報を取得する地図取得回路と、を備え、
前記走路推定回路は、
前記周囲車両の走行軌跡における前記周囲車両の旋回方向および前記周囲車両の走行軌跡の前記自車両に対する横位置に基づいて、前記周囲車両の走行軌跡を、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回中心を一定としながら、前記周囲車両の走行軌跡に基づいて算出された旋回半径を拡大または縮小して前記自車両の走行軌跡を設定し、
前記自車両が分岐点を通過すると判断される場合には、前記自車両の走行軌跡を設定しないこと
を特徴とする走路推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走路推定方法及び走路推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、先行車の走行軌跡を取得または算出し、先行車の走行軌跡から自車線のカーブ形状を推定し、ステアリングを制御する技術が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では、自車線以外の車線を走行する周囲車両の走行軌跡から、自車線のカーブ形状を推定することは難しい。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的は、周囲車両の走行軌跡から自車両の走路を推定できる走路推定方法及び走路推定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、周囲車両の旋回方向および横位置に基づいて周囲車両の走行軌跡を拡大または縮小して自車両の走路を推定する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、周囲車両の走行軌跡を拡大または縮小して自車両の走路を推定するので、自車線以外の車線を走行する周囲車両の走行軌跡を用いて自車両の走路を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係わる走路推定装置1aの全体構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、
図1に示した走路推定装置1aを用いた走路推定方法の一例を説明するフローチャートである。
【
図3】
図3は、周囲車両(82i、82j)及びその走行軌跡(83i、83j)を自車両81の上方から見た俯瞰図である。
【
図4】
図4は、地図上の複数の軌跡点(P
1、P
2、P
3、P
4、P
5、・・・)とその近似曲線からなる走行軌跡83
Mを示し、基準走行軌跡83
Mを補正して自車両の走路を推定する具体的な方法の一例を説明するための俯瞰図である。
【
図5】
図5(a)は、周囲車両82によって自車両81が先行車89の位置を検出できない状況を示す俯瞰図であり、
図5(b)は、自車線のカーブ形状90を適切に推定することができない様子を示す俯瞰図である。
【
図6】
図6は、第2実施形態に係わる走路推定装置1bの全体構成を示すブロック図である。
【
図7】
図7は、
図6に示した走路推定装置1bを用いた走路推定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、自車両81が所定時間以内に分岐点87を通過すると判断される場合を示す俯瞰図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態に係わる走路推定装置1cの全体構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、
図9に示した走路推定装置1cを用いた走路推定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、自車両81が所定時間以内に交差点88を通過すると判断される場合を示す俯瞰図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
次に、図面を参照して、実施形態を詳細に説明する。
【0010】
図1を参照して、第1実施形態に係わる走路推定装置1aの全体構成を説明する。走路推定装置1aは、周囲車両の位置から自車両の走路を推定する。「周囲車両」とは、自車両の周囲を走行する他車両であって、自車両が走行する車線(自車線)に隣接する車線(隣接車線)、隣接車線に更に隣接する車線など、を走行する他車両を示す。
【0011】
走路推定装置1aは、周囲車両の位置を検出する位置検出センサ9と、位置検出センサ9により検出された周囲車両の位置から自車両の走路を推定するための一連の情報演算処理を実行するマイクロコンピュータ8とを備える。位置検出センサ9及びマイクロコンピュータ8はいずれも自車両に搭載され、周囲車両の位置を送受信するためのケーブルで互いに接続されている。
【0012】
位置検出センサ9の具体例として、レーダー、レーザーレーダー、レーザレンジファインダ(LRF)、カメラが挙げられるが、これに限られることなく、他の既知の方法を用いても構わない。なお、カメラを用いて奥行き情報を得る手段として、ステレオカメラのみならず、単眼カメラを用いることも可能である。
【0013】
マイクロコンピュータ8は、CPU(中央処理装置)、メモリ、及び入出力部を備える汎用のマイクロコンピュータを用いて実現可能である。マイクロコンピュータ8は、周囲車両の位置から自車両の走路を推定するための一連の情報演算処理を実行するためのコンピュータプログラム(走路推定プログラム)を、マイクロコンピュータ8にインストールして実行する。これにより、マイクロコンピュータ8は、一連の情報演算処理を実行する情報演算回路(10、20、30、40)として機能する。なお、ここでは、ソフトウェアによって走路推定装置1aを実現する例を示すが、もちろん、以下に示す情報演算回路(10、20、30、40)を、汎用のマイクロコンピュータではなく、ASIC等の専用のハードウェアとしてそれぞれ構成することも可能である。また、マイクロコンピュータ8により実現される各情報演算回路(10、20、30、40)を個別のハードウェアにより構成してもよい。更に、マイクロコンピュータ8は、車両にかかわる他の制御に用いる電子制御ユニット(ECU)と兼用してもよい。
【0014】
マイクロコンピュータ8は、位置取得回路10、走行軌跡算出回路20、横偏差量算出回路30、走路推定回路40として機能する。
【0015】
位置取得回路10は、周囲車両の位置を取得する。位置検出センサ9が検出した周囲車両の位置を位置検出センサ9から取得すればよい。もちろん、無線通信網を介して外部から周囲車両の位置を示す情報を取得しても構わない。
【0016】
走行軌跡算出回路20は、位置取得回路10が取得した周囲車両の位置の履歴から、周囲車両の走行軌跡を算出する。つまり、走行軌跡算出回路20は、連続する複数の時刻において検出した周囲車両の位置をつなぎ合わせることにより、周囲車両の走行軌跡を算出する。例えば、走行軌跡算出回路20は、
図4に示すように、所定時間毎に検出される周囲車両の自車両に対する位置(P
1、P
2、P
3、P
4、P
5、・・・)を、この所定時間における自車両の移動方向及び移動距離を考慮して地図上に繰り返しプロットし、地図上にプロットされた複数の位置(軌跡点:P
1~P
5、・・・)を曲線近似すればよい。この近似曲線83
Mは周囲車両の走行軌跡を成す。
【0017】
横偏差量算出回路30は、走行軌跡算出回路20が算出した走行軌跡の自車両に対する位置であって、自車両の車幅方向の位置(以後「横位置」という。)を算出する。例えば、自車両を原点とし、車両前後方向をx軸とし、車幅方向をy軸とする2次元座標系において、横位置は、走行軌跡とy軸との交点、つまりy切片のy座標で示すことができる。横位置については、
図3を参照して後述する。
【0018】
或いは、横偏差量算出回路30は、走行軌跡が属する車線を、走行軌跡の横位置として判定してもよい。例えば、自車両に搭載されたカメラ等を用いて路面に付されたレーンマーカを検出し、レーンマーカの自車両に対する位置を算出する。そして、レーンマーカの位置と走行軌跡の位置とから、周囲車両が走行する車線、つまり、走行軌跡が属する車線(隣接車線、隣接車線に更に隣接する車線など)を判定する。車線の幅は、道路区間で違いがあるため、実測値に変えて、例えば、隣接車線と判定された走行軌跡の横位置を例えば3mとし、隣接車線に更に隣接する車線と判定された走行軌跡の横位置を例えば6mとすればよい。
【0019】
走路推定回路40は、周囲車両の旋回方向および横偏差量算出回路30が算出した横位置に基づいて、周囲車両の走行軌跡を拡大または縮小して自車両の走路を推定する。なお、走路推定回路40は、周囲車両の旋回方向を、走行軌跡算出回路20が算出した周囲車両の走行軌跡から特定する。例えば、走行軌跡が右カーブ形状であれば、旋回方向は右方向と判断し、走行軌跡が左カーブ形状であれば、旋回方向は左方向と判断すればよい。
【0020】
走路推定回路40は、基準走行軌跡選択部40aと、基準走行軌跡補正部40bと、走路決定部40cとを備える。
【0021】
基準走行軌跡選択部40aは、複数の周囲車両の走行軌跡の中から、走路を推定する上で基準とする走行軌跡(以後、「基準走行軌跡」という。)を選択する。位置取得回路10が複数の周囲車両の位置を取得した場合、走行軌跡及び横位置の各々も複数算出される。この場合、基準走行軌跡選択部40aは、走行軌跡の横位置に基づいて、走路の推定に適した走行軌跡を選択する。基準走行軌跡の選択については、
図3を参照して後述する。
【0022】
基準走行軌跡補正部40bは、周囲車両の旋回方向および基準走行軌跡の横位置に基づいて、基準走行軌跡選択部40aが選択した基準走行軌跡を補正する。基準走行軌跡の補正については、
図4を参照して後述する。
【0023】
走路決定部40cは、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡を、自車両の走路として設定する。
【0024】
図3を参照して、走行軌跡(83i、83j)の横位置(Di、Dj)および基準走行軌跡の選択方法を具体的に説明する。
図3に示す例で、位置取得回路10は複数の周囲車両(82i、82j)の位置を取得し、走行軌跡算出回路20は各周囲車両(82i、82j)の走行軌跡(83i、83j)を算出する。そして、横偏差量算出回路30は走行軌跡(83i、83j)の自車両81に対する横位置(Di、Dj)の各々を算出する。なお、
図3に示すように、走行軌跡(83i、83j)が左カーブ形状であるので、走路推定回路40は、周囲車両の旋回方向は左方向であると判断する。
【0025】
基準走行軌跡選択部40aは、走行軌跡の横位置(Di、Dj)に基づいて、複数の走行軌跡(83i、83j)の中から、基準走行軌跡を選択する。具体的には、基準走行軌跡選択部40aは、所定の基準距離よりも自車両81に近い周囲車両の走行軌跡(83i、83j)を基準走行軌跡として選択する。例えば、複数の周囲車両が存在する場合には、複数の走行軌跡のうち、自車線および隣接車線の周囲車両から選択するように、横位置(Di、Dj)の絶対値が第1の基準距離(3m)よりも小さい走行軌跡(83i、83j)を選択する。複数の走行軌跡(83i、83j)の横位置(Di、Dj)の絶対値が第1の基準距離(3m)未満である場合、これらの走行軌跡(83i、83j)のうち、周囲車両(82i、82j)と自車両81との距離が第2の基準距離未満である周囲車両の走行軌跡を選択する。ここで「周囲車両(82i、82j)と自車両81との距離」とは、車幅方向の距離のみならず進行方向の距離をも含む概念である。例えば、横位置(Di、Dj)の絶対値が第1の基準距離(3m)よりも小さい走行軌跡(83i、83j)の中で、自車両81に最も近い周囲車両82jの走行軌跡83jを、基準走行軌跡として選択する。
【0026】
または、基準走行軌跡選択部40aは、横位置(Di、Dj)の絶対値が最も小さい走行軌跡83jを、基準走行軌跡として選択しても構わない。この場合、基準走行軌跡選択部40aは、「周囲車両(82i、82j)と自車両81との距離」を考慮しない。更に、基準走行軌跡選択部40aは、「周囲車両(82i、82j)と自車両81との距離」が最も小さい走行軌跡を、基準走行軌跡として選択しても構わない。この場合、基準走行軌跡選択部40aは、「横位置(Di、Dj)の絶対値」を考慮しない。
【0027】
なお、走行軌跡の横位置として、走行軌跡が属する車線(隣接車線、隣接車線に更に隣接する車線など)を用いる場合、例えば、基準走行軌跡選択部40aは、隣接車線に属する走行軌跡を選択し、隣接車線に更に隣接する車線に属する走行軌跡は選択しない。
【0028】
図4を参照して、基準走行軌跡83
Mを補正して自車両81の走路を推定する具体的な方法の一例を説明する。基準走行軌跡補正部40bは、周囲車両の旋回方向および基準走行軌跡83
Mの横位置D
Mに基づいて、基準走行軌跡選択部40aが選択した基準走行軌跡83
Mを拡大または縮小する。
【0029】
先ず、基準走行軌跡補正部40bは、各軌跡点(P1~P5、・・・)での旋回半径Rと旋回中心84を算出する。例えば、算出対象となる軌跡点P3と前後2点(P2、P4)とを用いて、最小二乗法等により旋回半径R及び旋回中心84の座標を算出する。各軌跡点(P1~P5、・・・)についても、同様にして旋回半径R及び旋回中心84を算出する。
【0030】
次に、基準走行軌跡補正部40bは、各軌跡点(P1~P5、・・・)を、旋回中心84を中心とする旋回半径Rから旋回半径(R+DM)に拡大するか、或いは旋回半径(R-DM)に縮小する。基準走行軌跡補正部40bは、拡大と縮小の判断を、基準走行軌跡83Mの旋回方向および横位置DMに基づいて行う。
【0031】
例えば、
図3の走行軌跡83iのように、旋回方向が左方向であり、走行軌跡83iの自車両81に対する横位置Diが左側である場合、自車両81は、周囲車両82iの走行軌跡83iの旋回方向の外側に位置する。この場合、
図4と同様にして、走行軌跡83iの各軌跡点(P
1~P
5、・・・)を旋回半径(R+Di)に拡大する。
【0032】
一方、
図3の走行軌跡83jのように、旋回方向が左方向であり、走行軌跡83jの自車両81に対する横位置Djが右側である場合、自車両81は、周囲車両82jの走行軌跡83jの旋回方向の内側に位置する。この場合、
図4とは逆に、走行軌跡83jの各軌跡点(P
1~P
5、・・・)を旋回半径(R-Dj)に縮小する。
【0033】
このように、基準走行軌跡補正部40bは、旋回中心84を変えずに、旋回中心84から軌跡点(P1~P5、・・・)までの距離(旋回半径)を変化させる。自車両81が走行軌跡の旋回方向の外側に位置すれば、旋回半径を拡大し、自車両81が内側に位置すれば、旋回半径を縮小する。そして、基準走行軌跡補正部40bは、拡大又は縮小された軌跡点(P3’)に対して、再度、曲線近似することにより、基準走行軌跡83Mを補正することができる。
【0034】
基準走行軌跡補正部40bは、走行軌跡83Mの旋回半径Rが大きいほど、拡大または縮小する大きさを小さくする。つまり、横位置Dが一定である場合、旋回半径Rが大きいほど、拡大率(=(R+DM)/R)及び縮小率(=(R-DM)/R)は小さくなる。
【0035】
基準走行軌跡補正部40bは、周囲車両82の横位置DMが自車両81から離れているほど拡大または縮小する大きさを大きくする。つまり、旋回半径Rが一定である場合、横位置DMの絶対値が大きいほど、拡大率及び縮小率は大きくなる。
【0036】
第1実施形態において、走路決定部40cは、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、そのまま、自車両の走路として決定する。
【0037】
図2のフローチャートを参照して、
図1に示した走路推定装置1aを用いた走路推定方法の一例を説明する。ここでは、
図1に示した走路推定装置1aのうちマイクロコンピュータ8の動作手順を説明する。
図2に示す処理は所定周期で繰り返し実行される。
【0038】
先ずステップS110において、位置取得回路10は、周囲車両の位置を取得する。
【0039】
ステップS120に進み、走行軌跡算出回路20は、
図4に示すように、位置取得回路10が取得した周囲車両の位置の履歴(軌跡点:P
1~P
5、・・・)から、周囲車両の走行軌跡(近似曲線83
M)を算出する。
【0040】
ステップS130に進み、横偏差量算出回路30は、
図3に示すように、走行軌跡算出回路20が算出した走行軌跡(83i、83j)の自車両81に対する横位置(Di、Dj)を算出する。
【0041】
ステップS140に進み、基準走行軌跡選択部40aは、
図3に示すように、走行軌跡の横位置(Di、Dj)に基づいて、複数の走行軌跡(83i、83j)の中から、基準走行軌跡を選択する。例えば、横位置(Di、Dj)の絶対値が第1の基準距離(3m)よりも小さい走行軌跡(83i、83j)であって、且つ、自車両81に最も近い周囲車両82jの走行軌跡83jを基準走行軌跡83
Mとして選択する。但し、基準走行軌跡の選択方法はこれに限らず、前述した他の方法を用いてもよい。なお、基準走行軌跡の選択は、ステップS110において複数の周囲車両の位置を取得した場合にのみ実施してもよい。1の周囲車両の位置のみを取得した場合には、基準走行軌跡選択部40aは、その周囲車両の走行軌跡を基準走行軌跡として選択すればよい。また、横位置の絶対値が第1の基準距離よりも小さい走行軌跡が無い場合、処理を中断してステップS110から再開してもよいし、横位置の絶対値が最も小さい走行軌跡を基準走行軌跡として選択してもよい。
【0042】
ステップS150に進み、基準走行軌跡補正部40bは、
図4に示すように、各軌跡点(P
1~P
5、・・・)での旋回半径Rと旋回中心84を算出する。
【0043】
ステップS160に進み、基準走行軌跡補正部40bは、
図4に示すように、各軌跡点(P
1~P
5、・・・)を、旋回中心84を中心とする旋回半径Rから旋回半径(R+D
M)に拡大するか、或いは旋回半径(R-D
M)に縮小する。拡大と縮小の判断を、基準走行軌跡83
Mの旋回方向および横位置に基づいて行う。そして、基準走行軌跡補正部40bは、拡大又は縮小された各軌跡点(P
3’)に対して、再度、曲線近似することにより、基準走行軌跡83
Mを補正する。
【0044】
ステップS170に進み、走路決定部40cは、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、そのまま、自車両の走路として決定する。
【0045】
ステップS180に進み、自車両81のイグニション・スイッチがターン・オフされたか否かを判断し、ターン・オフされるまで、上記したステップS110~ステップ170を、所定周期で繰り返し、実施する。ターン・オフされた場合(S180でYES)、上記した処理サイクルは終了する。
【0046】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下の作用効果が得られる。
【0047】
マイクロコンピュータ8は、周囲車両(82i、82j)の走行軌跡(83i、83j)を拡大または縮小して自車両81の走路を推定する。これにより、自車線以外の車線を走行する周囲車両(82i、82j)の走行軌跡(83i、83j)を用いて自車両81の走路を推定することができる。例えば、
図5(a)に示すように、周囲車両82等によって自車両81が先行車89の位置を検出できない状況を考える。周囲車両82の走行軌跡(隣接車線)のカーブ形状は先行車89の走行軌跡(自車線)のカーブ形状と異なる。よって、先行車89の走行軌跡から自車両81の走路を推定する従来の方法を適用した場合、
図5(b)に示すように、自車線のカーブ形状90を適切に推定することができない。第1実施形態によれば、
図5(a)に示す状況においても、隣接車線等を走行する周囲車両82の走行軌跡83を用いて、自車両81のカーブ形状を精度良く推定することができる。
【0048】
基準走行軌跡補正部40bは、
図4に示すように、走行軌跡83
Mの旋回半径Rが大きいほど、拡大または縮小する大きさを小さくする。これにより、カーブ形状に合わせて適切に走路を推定することができる。
【0049】
基準走行軌跡補正部40bは、
図4に示すように、周囲車両82の横位置D
Mが自車両81から離れているほど拡大または縮小する大きさを大きくする。これにより、自車両81が走行する車線と周囲車両82が走行する車線とが異なる場合(隣の車線か、隣の隣の車線か)でも適切に走路を推定することができる。
【0050】
マイクロコンピュータ8は、自車両81に対する周囲車両の距離が最も近い周囲車両の走行軌跡(83i、83j)に基づいて走路を推定する。周囲車両(82i、82j)の位置が自車両81に近いほど当該位置の検出精度は高くなる。そこで、自車両81に対する周囲車両の距離が最も近い周囲車両(82i、82j)の走行軌跡(83i、83j)に基づいて走路を推定するにより、精度の高い走行軌跡(83i、83j)から、適切に走路を推定することができる。
【0051】
また、自車両81の走行車線の隣接車線にいる周囲車両の走行軌跡83jに基づいて走路を推定する。これにより、精度の高い走行軌跡83jから、適切に走路を推定することができる。
【0052】
(第2実施形態)
図6を参照して、第2実施形態に係わる走路推定装置1bの全体構成を説明する。走路推定装置1bは、少なくとも道路の分岐情報を含む地図情報を取得し、自車両81が分岐点を通過すると判断される場合には、自車両の走路を推定しない。走路決定部40cは、自車両81が分岐点を通過しないと判断される場合には、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、自車両の走路として決定する。
【0053】
図6に示すように、走路推定装置1bは、地図データベース7を更に備える。地図データベース7及びマイクロコンピュータ8はいずれも自車両81に搭載され、少なくとも道路の分岐情報を含む地図情報を送受信するためのケーブルで互いに接続されている。
【0054】
マイクロコンピュータ8は、情報演算回路(10、20、30、40)のみならず、地図取得回路50として更に機能する。地図取得回路50は、地図データベース7から、少なくとも道路の分岐情報を含む地図情報を取得する。
【0055】
その他の構成は、
図1の走路推定装置1aと同じであり、説明を省略する。
【0056】
図7のフローチャートを参照して、
図6に示した走路推定装置1bを用いた走路推定方法の一例を説明する。ここでは、
図6に示した走路推定装置1bのうちマイクロコンピュータ8の動作手順を説明する。
図7に示す処理は所定周期で繰り返し実行される。
【0057】
図7のフローチャートは、
図2と比べて、ステップS165を更に備え、ステップS170の内容に違いがある。
図7のステップS110~S160及びS180処理内容は、
図2と同じであり、説明を省略する。
【0058】
ステップS160の後に、ステップS165に進み、地図取得回路50は、地図データベース7から、少なくとも道路の分岐情報を含む地図情報を取得する。具体的に、地図取得回路50は、自車両81が走行する道路の分岐情報を含む地図情報を地図データベース7から読み出す。
【0059】
ステップS170に進み、走路決定部40cは、補正後の基準走行軌跡91、地図情報、および横位置D
Mの絶対値から、自車両の走路を推定する。走路決定部40cは、地図情報に基づいて、自車両81が所定時間以内に分岐点を通過するか否かを判断する。詳細には、
図8に示すように、自車両81が走行する道路上の、自車両81よりも前方へ所定距離以内に、当該道路が2以上の道路(85、86)に分岐するポイント(分岐点87)が有るか否かを判断する。走路決定部40cは、基準走行軌跡83
Mの横位置D
Mの絶対値が第3の基準距離(1.5m)以上であり、且つ、自車両81が所定時間以内に分岐点87を通過すると判断される場合には、自車両81の走路を推定しない。換言すれば、走路決定部40cは、走行軌跡が算出可能な周囲車両が自車線以外の車線を走行しており(横位置D
Mが第3の基準距離(1.5m)以上離れており)、且つ、自車両81が分岐点87を通過すると判断される場合には、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、自車両81の走路として設定しない。一方、走路決定部40cは、基準走行軌跡83
Mの横位置D
Mの絶対値が第3の基準距離(1.5m)未満であるか、又は、自車両81が所定時間以内に分岐点87を通過しないと判断される場合には、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、自車両81の走路として設定する。換言すれば、走路決定部40cは、走行軌跡が算出可能な周囲車両が自車線を走行しており(横位置DMが第3の基準距離(1.5m)未満)、又は、自車両81が分岐点を通過しないと判断される場合には、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、自車両81の走路として設定する。
【0060】
以上説明したように、第2実施形態によれば、自車両81が分岐点87を通過する場合には走路を推定しない。よって、
図8に示すように、分岐点87で周囲車両82が自車両81の走路(道路85)と異なる方向(道路86)へ離脱するような場合に、誤った走路を推定することを防止できる。つまり、分岐点87を境に、周囲車両の走行軌跡83と、自車両の走路とが、異なる道路(85,86)に属することとなる場合には、走路決定部40cが補正後の基準走行軌跡91を、自車両81の走路として設定することを防止する。これにより、誤った走路を推定することを回避できる。
【0061】
なお、走路決定部40cは、ステップS170において、分岐点87の有無のみに基づいて、走路決定を判断してもよい。例えば、走行軌跡が算出可能な周囲車両の車線位置に関わらず、走路決定部40cは、自車両81が所定時間以内に分岐点87を通過すると判断される場合には、基準走行軌跡83Mの横位置DMに係わらず、自車両81の走路を推定しない、としてもよい。
【0062】
(第3実施形態)
図9を参照して、第3実施形態に係わる走路推定装置1cの全体構成を説明する。走路推定装置1cは、少なくとも地図上の自車両81の走行ルート情報を取得し、自車両81の走行ルートと類似した周囲車両82の走行軌跡83に基づいて走路を推定する。走路決定部40cは、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91が、自車両81の走行ルートに類似していると判断される場合に限り、補正後の基準走行軌跡91を、自車両の走路として決定する。
【0063】
図9に示すように、走路推定装置1cは、ナビゲーション装置6を更に備える。ナビゲーション装置6、地図データベース7及びマイクロコンピュータ8はいずれも自車両81に搭載されている。ナビゲーション装置6及びマイクロコンピュータ8は自車両81の走行ルート情報を送受信するためのケーブルで互いに接続されている。
【0064】
マイクロコンピュータ8は、情報演算回路(10、20、30、40、50)のみならず、ルート取得回路60として更に機能する。ルート取得回路60は、ナビゲーション装置6から、自車両81の走行ルート情報を取得する。更に、地図取得回路50は、道路の分岐情報、交差点情報、及び道路の形状情報(旋回半径情報を含む)を含む地図情報を取得する。
【0065】
その他の構成は、
図6の走路推定装置1bと同じであり、説明を省略する。
【0066】
図10のフローチャートを参照して、
図9に示した走路推定装置1cを用いた走路推定方法の一例を説明する。ここでは、
図9に示した走路推定装置1cのうちマイクロコンピュータ8の動作手順を説明する。
図10に示す処理は所定周期で繰り返し実行される。
【0067】
図10のフローチャートは、
図7と比べて、ステップS100を更に備え、ステップS170の内容に違いがある。
図10のステップS110~S160及びS180処理内容は、
図7と同じであり、説明を省略する。
【0068】
ステップS100において、ルート取得回路60は、ナビゲーション装置6から、自車両81の走行ルート情報を取得する。その後、ステップS110に進む。
【0069】
ステップS170において、走路決定部40cは、基準走行軌跡83Mの横位置DMの絶対値が第3の基準距離以上であり、且つ、自車両81が分岐点87を通過すると判断される場合には、補正した基準走行軌跡91を自車両81の走路として設定しない。この点は、第2実施形態と同じである。
【0070】
第3実施形態では、更に、ステップS170において、走路決定部40cは、分岐点87が交差点88である否かを判断する。そして、走路決定部40cは、分岐点87が交差点88である場合、ステップS160で補正した基準走行軌跡91が、ステップS100で取得した自車両81の走行ルートに類似しているか否かを判断する。
【0071】
そして、走路決定部40cは、分岐点87が交差点88であり、且つ、補正後の基準走行軌跡91が自車両81の走行ルートに類似していると判断した場合には、ステップS160で補正した基準走行軌跡91を、自車両81の走路として設定する。
【0072】
なお、分岐点87が交差点88であり、且つ、補正後の基準走行軌跡91が自車両81の走行ルートに類似していると判断した場合であっても、走路決定部40cは、次の条件が成立する場合には、補正した基準走行軌跡91を自車両81の走路として設定しないようにしても良い。即ち、走路決定部40cは、基準走行軌跡83Mの横位置DMの絶対値が、第3の基準距離(1.5m)以上である状態が、所定時間(例えば、5秒)以上、継続した場合には、補正した基準走行軌跡91を自車両81の走路として設定しないようにしても良い。
【0073】
以上説明したように、第3実施形態によれば、自車両81の走行ルートと類似した周囲車両の走行軌跡を用いるので、自車両81の走行ルートと平行して走行している周囲車両の走行軌跡によって適切に走路を推定することができる。
【0074】
なお、第3実施形態を第2実施形態に基づく実施例として説明したが、第1実施形態に基づいて実施してもよい。つまり、ステップS170において、走路決定部40cは、ステップS160で補正した基準走行軌跡91が、ステップS100で取得した自車両81の走行ルートに類似しているか否かを判断する。類似していない場合、走路決定部40cは、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、自車両の走路として設定しない。一方、類似している場合、走路決定部40cは、基準走行軌跡補正部40bが補正した基準走行軌跡91を、自車両の走路として設定する。
【0075】
ステップS170において、走路決定部40cは、横位置DMの絶対値が第3の基準距離以上であるか否か、自車両81が分岐点87を通過するか否か、及び分岐点87が交差点88であるか否かを、判断しない。ステップS165(地図読み出し)も不要である。
【0076】
なお、走路推定装置(1a、1b、1c)は、位置検出センサ9を備えていなくてもよい。この場合、例えば、走路推定装置(1a~1c)は、無線通信機を備え、位置取得回路10は、無線通信網を介して外部から周囲車両の位置を示す情報を取得することができる。同様に、走路推定装置(1a~1c)は、地図データベース7、又はナビゲーション装置6を備えていなくてもよい。この場合、例えば、地図取得回路50及びルート取得回路60は、コンピュータネットワークを介して外部から、地図情報及び走行ルート情報を取得することができる。
【0077】
更に、走路推定装置(1a~1c)は、自車両81に搭載されていなくてもよい。例えば、クラウドコンピューティング・モデルにおけるバックエンド(クラウドそのもの)であってもよい。フロントエンドである自車両81は、インターネットなどのネットワークを介して、バックエンドである走路推定装置(1a~1c)に接続されている。走路推定装置(1a~1c)は、周囲車両82の位置を示す情報を周囲車両82自身或いは自車両81(位置検出センサ9の検出結果)から取得して自車両81の走路を推定し、推定した走路を、ネットワークを介して自車両81へ提供してもよい。
【0078】
上述の各実施形態で示した各機能は、1又は複数の処理回路により実装され得る。処理回路は、電気回路を含む処理装置等のプログラムされた処理装置を含む。処理装置は、また、実施形態に記載された機能を実行するようにアレンジされた特定用途向け集積回路(ASIC)や従来型の回路部品のような装置を含む。
【0079】
以上、実施例に沿って本発明の内容を説明したが、本発明はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変形及び改良が可能であることは、当業者には自明である。
【符号の説明】
【0080】
1a、1b、1c 走路推定装置
10 位置取得回路
40 走路推定回路
81 自車両
82、82i、82j 周囲車両
83、83i、83j、83M 走行軌跡
87 分岐点
Di、Dj、DM 横位置
P1~P5 周囲車両の位置
R 旋回半径