(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 17/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
H01F17/00 D
(21)【出願番号】P 2020040860
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2021-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【氏名又は名称】吉田 環
(72)【発明者】
【氏名】平木 亮
(72)【発明者】
【氏名】川端 良兵
(72)【発明者】
【氏名】今田 勝久
【審査官】古河 雅輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-044038(JP,A)
【文献】実開平05-057817(JP,U)
【文献】特開2009-044030(JP,A)
【文献】特開2009-094149(JP,A)
【文献】特開2019-009211(JP,A)
【文献】特開2019-047015(JP,A)
【文献】特開2010-245134(JP,A)
【文献】特開2017-224765(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106328357(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 5/00- 5/06
H01F 17/00-21/12
H01F 27/00
H01F 27/02
H01F 27/06
H01F 27/08
H01F 27/23
H01F 27/26-27/30
H01F 27/32
H01F 27/36
H01F 27/42
H01F 38/42-41/04
H01F 41/08
H01F 41/10
H05K 1/09
H05K 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁層が積層された積層体と、
前記積層体内に設けられたコイルと、
前記積層体の表面に設けられ、前記コイルに電気的に接続された外部電極と
を備えた積層コイル部品であって、
前記コイルは、2つの連結導体を介して並列に接続された少なくとも2つのコイル導体を含むコイル導体群を少なくとも2つ含み、
前記少なくとも2つのコイル導体群は、接続導体を介して直列に接続され、
前記接続導体は、各コイル導体群の2つの連結導体の間のコイル導体同士を接続することを特徴とする、積層コイル部品。
【請求項2】
前記接続導体の断面積は、当該接続導体が接続する一のコイル導体の断面積の2.0倍以上である、請求項1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記コイル導体と前記絶縁層の間に、空隙部が形成されている、請求項1または2に記載の積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の大電流化の傾向により、コイル部品は、直流抵抗が低いことが要求されるようになってきている。直流抵抗を低くするためには、一般的にコイルを構成する導体の断面積を大きくすることが行われている。しかしながら、積層コイル部品においては、コイル導体を太くすると、クラック等の構造欠陥を誘発し得る。
【0003】
上記の問題に対し、特許文献1は、「絶縁体層と導体パターンが積層され、前記絶縁体層間で前記導体パターンを接続して積層体内にコイルが形成された積層型電子部品であって、前記コイルは、絶縁体層を挟んで重ねて配置された2つの導体パターンからなる導体パターン対を有し、前記2つの導体パターンを並列に接続するように前記2つの導体パターンの両端部同士を接続する第1の接続部と、前記導体パターン対を複数組直列に接続する第2の接続部とを有し、前記第1の接続部と前記第2の接続部とは、互いにコイルパターンの線路長方向に位置をずらして配置されていること、を特徴とする積層型電子部品。」を開示している(特許文献1の請求項1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された積層型電子部品は、
図8に示すように、第1の接続部101と第2の接続部102の導体パターン103の周辺(図中、破線の領域)において電流が集中し、温度が上昇し、不具合を引き起こす恐れがある。
【0006】
本発明の課題は、導体パターンの接続部周辺での電流の集中を低減し、信頼性の高い積層コイル部品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、以下の態様を含む。
[1] 絶縁層が積層された積層体と、
前記積層体内に設けられたコイルと、
前記積層体の表面に設けられ、前記コイルに電気的に接続された外部電極と
を備えた積層コイル部品であって、
前記コイルは、2つの連結導体を介して並列に接続された少なくとも2つのコイル導体を含むコイル導体群を少なくとも2つ含み、
前記少なくとも2つのコイル導体群は、接続導体を介して直列に接続され、
前記接続導体は、各コイル導体群の2つの連結導体の間のコイル導体同士を接続することを特徴とする、積層コイル部品。
[2] 前記接続導体の断面積は、当該接続導体が接続する一のコイル導体の断面積の2.0倍以上である、上記[1]に記載の積層コイル部品。
[3] 前記コイル導体と前記絶縁層の間に、空隙部が形成されている、上記[1]または[2]に記載の積層コイル部品。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、導体パターンの接続部周辺での電流の集中を低減し、信頼性の高いコイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の積層コイル部品1を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す積層コイル部品1の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、
図1に示す積層コイル部品1のx-x断面図であり、電流の流れを説明する図である。
【
図4】
図4(a)~4(h)は、別の態様の積層コイル部品の層構造を示す平面図である。
【
図5】
図5は、
図4(a)~4(d)を重ね合わせた図である。
【
図7】
図7は、
図6に示す断面図の17c、dから17e,fへの電流の流れを説明する図である。
【
図8】
図8は、従来の積層コイル部品における接続状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一の実施形態の積層コイル部品1について、図面を参照しながら詳細に説明する。但し、本実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0011】
本実施形態の積層コイル部品1の斜視図を
図1に、当該積層コイル部品1の素体の分解斜視図を
図2に示す。また、積層コイル部品1のx-x断面図とそこに流れる電流を
図3に模式的に示す。但し、下記実施形態の積層コイル部品および各構成要素の形状および配置等は、図示する例に限定されない。
【0012】
図1、
図2および
図3に示されるように、本実施形態の積層コイル部品1は、略直方体形状を有する積層コイル部品である。積層コイル部品1において、
図1のL軸に垂直な面を「端面」と称し、W軸に垂直な面を「側面」と称し、T軸に垂直な面を「上下面」と称する。積層コイル部品1は、概略的には、素体2と、該素体2の両端面に設けられた外部電極4,5とを含む。素体2は、絶縁層が積層された積層体と当該積層体内に設けられたコイルを含む。
図2に示されるように、積層体は、積層された絶縁層6a~6j(以下、まとめて「絶縁層6」ともいう)から構成される。コイルは、連結導体8a~8f(以下、まとめて「連結導体8」ともいう)および接続導体11a~11c(以下、まとめて「接続導体11」ともいう)により接続されたコイル導体7a~7h(以下、まとめて「コイル導体7」ともいう)から構成される。コイル導体は、積層方向に隣接するコイル導体が組みになって、2つの連結導体に接続されることによりコイル導体群を構成する。即ち、コイル導体7aおよび7bは、連結導体8aおよび外部電極5により電気的に並列に接続され、第1コイル導体群を構成する。コイル導体7cおよび7dは、連結導体8bおよび8cにより電気的に並列に接続され、第2コイル導体群を構成する。コイル導体7eおよび7fは、連結導体8dおよび8eにより電気的に並列に接続され、第3コイル導体群を構成する。コイル導体7gおよび7hは、連結導体8fおよび外部電極4により電気的に並列に接続され、第4コイル導体群を構成する。第1コイル導体群および第2コイル導体群は、接続導体11aにより、電気的に直列に接続されている。接続導体11aは、第1コイル導体群の連結導体8aおよび外部電極5の間、かつ、第2コイル導体群の連結導体8bおよび8cの間において、コイル導体7bとコイル導体7cを接続する。第2コイル導体群および第3コイル導体群は、接続導体11bにより、電気的に直列に接続されている。接続導体11bは、第2コイル導体群の連結導体8bおよび8cの間、かつ、第3コイル導体群の連結導体8dおよび8eの間において、コイル導体7dとコイル導体7eを接続する。第3コイル導体群および第4コイル導体群は、接続導体11cにより、電気的に直列に接続されている。接続導体11cは、第3コイル導体群の連結導体8dおよび8eの間、かつ、第4コイル導体群の連結導体8fおよび外部電極4の間において、コイル導体7fとコイル導体7gを接続する。
図3に示されるように、コイル導体が上記のように接続されることにより、コイル導体群において電流が並列に流れ、コイル全体の直流抵抗を低減しつつ、発熱を抑制することができる。
【0013】
本実施形態の積層コイル部品1において、素体2は、絶縁層6の積層体および当該積層体中に埋設されたコイルから構成される。
【0014】
本開示の積層コイル部品において、積層体は、複数の絶縁層が積層されてなる。尚、本開示の積層コイル部品において、絶縁層の積層数は特に限定されない。
【0015】
上記絶縁層6は、好ましくは磁性体、さらに好ましくは焼結フェライトから構成される。上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、およびZnを含む。焼結フェライトは、さらにCuを含んでいてもよい。
【0016】
一の態様において、上記焼結フェライトは、主成分として、少なくともFe、Ni、ZnおよびCuを含む。
【0017】
上記焼結フェライトにおいて、Fe含有量は、Fe2O3に換算して、好ましくは40.0モル%以上49.5モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは45.0モル%以上49.5モル%以下であり得る。
【0018】
上記焼結フェライトにおいて、Zn含有量は、ZnOに換算して、好ましくは5.0モル%以上35.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは10.0モル%以上30.0モル%以下であり得る。
【0019】
上記焼結フェライトにおいて、Cu含有量は、CuOに換算して、好ましくは4.0モル%以上12.0モル%以下(主成分合計基準、以下も同様)であり、より好ましくは7.0モル%以上10.0モル%以下である。
【0020】
上記焼結フェライトにおいて、Ni含有量は、特に限定されず、上記した他の主成分であるFe、ZnおよびCuの残部とし得る。
【0021】
一の態様において、上記焼結フェライトは、Feは、Fe2O3に換算して40.0モル%以上49.5モル%以下、Znは、ZnOに換算して5.0モル%以上35.0モル%以下、Cuは、CuOに換算して6.0モル%以上12.0モル%以下、Niは、NiOに換算して、8.0モル%以上40.0モル%以下である。
【0022】
本開示において、上記焼結フェライトは、さらに添加成分を含んでいてもよい。焼結フェライトにおける添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe2O3換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn3O4、Co3O4、SnO2、Bi2O3、およびSiO2に換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記焼結フェライトは、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0023】
上記焼結フェライトは、添加成分として、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等を含んでいてもよい。焼結フェライトにおける添加成分としては、例えばMn、Co、Sn、Bi、Si等が挙げられるが、これに限定されるものではない。Mn、Co、Sn、BiおよびSiの含有量(添加量)は、主成分(Fe(Fe2O3換算)、Zn(ZnO換算)、Cu(CuO換算)およびNi(NiO換算))の合計100重量部に対して、それぞれ、Mn3O4、Co3O4、SnO2、Bi2O3、およびSiO2に換算して、0.1重量部以上1重量部以下であることが好ましい。また、上記焼結フェライトは、さらに製造上不可避な不純物を含んでいてもよい。
【0024】
本開示の積層コイル部品におけるコイルは、2つの連結導体を介して並列に接続された少なくとも2つのコイル導体を含むコイル導体群を少なくとも2つ含む。該少なくとも2つのコイル導体群が、接続導体を介して直列に接続されることにより、上記コイルが形成される。
【0025】
図2に示されるように、本実施形態の積層コイル部品1は、4つのコイル導体群を含む。コイル導体7aおよび7bは、連結導体8aおよび外部電極5により電気的に並列に接続され、第1コイル導体群を構成する。ここに、外部電極5は、コイル導体7aおよび7bの端に電気的に接続され、外部電極としての機能に加え、コイル導体7aおよびコイル導体7bを連結する連結導体としても機能する。コイル導体7cおよび7dは、連結導体8bおよび8cにより電気的に並列に接続され、第2コイル導体群を構成する。コイル導体7eおよび7fは、連結導体8dおよび8eにより電気的に並列に接続され、第3コイル導体群を構成する。コイル導体7gおよび7hは、連結導体8fおよび外部電極4により電気的に並列に接続され、第4コイル導体群を構成する。ここに、外部電極4は、コイル導体7gおよび7hの端に電気的に接続され、外部電極としての機能に加え、コイル導体7gおよびコイル導体7hを連結する連結導体としても機能する。
【0026】
本開示の積層コイル部品において、上記コイル導体群に含まれる上記コイル導体は、互いに積層方向に隣接して配置される。上記コイル導体群において、上記コイル導体の数は、2つ以上5つ以下、好ましくは2つである。
【0027】
本開示の積層コイル部品において、各コイル導体群に含まれるコイル導体は、積層方向から平面視した場合に、好ましくは同じ形状で、同じ位置に設けられる。
【0028】
本実施形態の積層コイル部品1においては、第1~4コイル導体群に、それぞれ、コイル導体7aおよび7b、コイル導体7cおよび7d、コイル導体7eおよび7f、およびコイル導体7gおよび7hが含まれ、積層方向から平面視した場合に、各コイル導体群に含まれるコイル導体は、同じ形状で同じ位置に設けられる。
【0029】
上記コイル導体の厚みは、好ましくは30μm以上80μm以下、より好ましくは40μm以上70μm以下であり得る。上記コイル導体の厚みを30μm以上とすることにより、直流抵抗を小さくすることができる。上記コイル導体の厚みを80μm以下とすることにより、コイル部品の低背化および小型化が容易になる。
【0030】
本開示の積層コイル部品において、上記連結導体は、積層方向に隣接するコイル導体を並列に接続する。従って、上記連結導体は、積層方向に隣接した2つのコイル導体間に2つ設けられる。
【0031】
上記連結導体は、積層方向に隣接するコイル導体を並列に接続できるものであれば特に限定されない。かかる連結導体は、通常、積層体の内部に設けられるが、外部電極を連結導体として用いてもよい。積層体の内部に設ける場合には、上記連結導体は、好ましくは、絶縁層を貫通するビア内に設けられるビア導体である。
【0032】
上記連結導体の断面積は、好ましくは連結導体が連結するコイル導体の断面積以上、より好ましくは1.5倍以上であり得る。連結導体の断面積をコイル導体の断面積よりも大きくすることにより、連結導体に発熱が集中することを回避することができる。ここに、上記連結導体の「断面積」は、積層方向に垂直な断面であって、最も小さい断面の断面積とする。
【0033】
本実施形態の積層コイル部品1において、連結導体8a~8fは、絶縁層に設けられたビア9a~9f(以下、まとめて「ビア9」ともいう)中に設けられたビア導体である。また、外部電極4および5も連結導体として機能する。より詳細には、連結導体8aは、ビア9a中に設けられ、外部電極4とともに、コイル導体7aと7bを並列に接続する。連結導体8bおよび8cは、それぞれ、ビア9bおよび9c中に設けられ、コイル導体7cと7dを並列に接続する。連結導体8dおよび8eは、それぞれ、ビア9dおよび9e中に設けられ、コイル導体7eと7fを並列に接続する。連結導体8fは、ビア9f中に設けられ、外部電極5とともに、コイル導体7gと7hを並列に接続する。
【0034】
本開示の積層コイル部品において、上記接続導体は、積層方向に隣接するコイル導体群を直列に接続する。かかる接続導体は、直列に接続する各コイル導体群における2つの連結導体間において、両者を接続する。即ち、接続導体は、一のコイル導体群の2つの連結導体間におけるコイル導体と、他のコイル導体群の2つの連結導体間におけるコイル導体とを接続する。換言すれば、接続導体は、各コイル導体群の並列構造が保持される箇所に接続される。上記接続導体は、好ましくは、上記絶縁層を貫通するビア内に設けられるビア導体である。
【0035】
本実施形態の積層コイル部品1においては、接続導体11aは、第1コイル導体群の連結導体8aおよび外部電極5の間、かつ、第2コイル導体群の連結導体8bおよび8cの間において、コイル導体7bとコイル導体7cを接続することにより、第1コイル導体群および第2コイル導体群を電気的に直列に接続する。接続導体11bは、第2コイル導体群の連結導体8bおよび8cの間、かつ、第3コイル導体群の連結導体8dおよび8eの間において、コイル導体7dとコイル導体7eを接続することにより、第2コイル導体群および第3コイル導体群を電気的に直列に接続する。接続導体11cは、第3コイル導体群の連結導体8dおよび8eの間、かつ、第4コイル導体群の連結導体8fおよび外部電極4の間において、コイル導体7fとコイル導体7gを接続することにより、第3コイル導体群および第4コイル導体群を電気的に直列に接続する。このように接続導体によりコイル導体群を接続することにより、コイル導体群における電流を並列に流すことができる。本実施形態の積層コイル部品1において、接続導体11a~11cは、絶縁層に設けられたビア12a~12c(以下、まとめて「ビア12」ともいう)中に設けられたビア導体である。
【0036】
上記接続導体は、複数のコイル導体群が接続されてコイル形状を形成するように、好ましくは一方の連結導体に寄せて設けられる。例えば、上記接続導体は、コイル導体を2つの連結導体間(連結導体が接続されている部分も含む)において10等分した場合に、好ましくは端から3つまでの領域、より好ましくは2つまでの領域、さらに好ましくは最も端の領域に接続される。また、一のコイル導体群に2つの接続導体が接続する場合、一方の接続導体は、コイル導体の一方の端側に、他方の接続導体は、コイル導体の他方の端側に接続される。接続導体をより端の領域に設けることにより、コイルの特性をより有効に得ることができる。
【0037】
上記接続導体の断面積は、好ましくは接続導体が接続するコイル導体の断面積の2倍以上、より好ましくは3倍以上であり得る。接続導体の断面積をコイル導体の断面積の2倍以上にすることにより、接続導体に発熱が集中することを回避することができる。ここに、上記接続導体の「断面積」は、積層方向に垂直な断面であって、最も小さい断面の断面積とする。
【0038】
本開示の積層コイル部品において、上記接続導体は、各コイル導体群の2つの連結導体の間のコイル導体同士を接続する。即ち、積層方向に互いに隣接する2つのコイル導体群およびこれらを接続する接続導体を積層方向から平面視した場合、連結導体および接続導体のコイルの巻回方向に沿った位置関係は、上方に位置するコイル導体群においては、一方の連結導体、接続導体および他方の連結導体の順に位置し、下方に位置するコイル導体群においては、一方の連結導体、接続導体および他方の連結導体の順に位置する。さらに、上方に位置するコイル導体群における上記他方の連結導体と下方に位置するコイル導体群における上記一方の連結導体の間に接続導体が位置する。例えば、本実施形態においては、
図2に示されるように、コイル導体7eおよび7fを含む第3コイル導体群とコイル導体7cおよび7dを含む第2コイル導体に関して、積層方向から平面視した場合、上方の第3コイル導体群の一方の連結導体8e、接続導体11b、他方の連結導体8dの順に位置し、下方の第2コイル導体群の一方の連結導体8c、接続導体11b、他方の連結導体8bの順に位置する。さらに、第3コイル導体群の上記他方の連結導体8dと第2コイル導体群の上記一方の連結導体8cの間に接続導体11bが位置する。
【0039】
本開示の積層コイル部品において、上記連結導体または接続導体であるビア導体は、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接する絶縁層にあるビア導体とは異なる位置に設けられる。換言すれば、上記ビア導体である連結導体と、積層方向に隣接する絶縁層にある連結導体または接続導体とは、積層方向から平面視した場合にその位置がずれている。即ち、上記ビア導体が存在する領域は、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接する絶縁層にあるビア導体が存在する領域に完全に含まれないか、あるいはその領域を完全に含まない。積層方向に互いに隣接する絶縁層にあるビア導体の、積層方向から平面視した場合の位置をずらすことにより、焼成時のビア導体の収縮率と絶縁層の収縮率の差による応力の発生、クラックの発生等を抑制することができる。
【0040】
本実施形態の積層コイル部品1においては、上記連結導体または接続導体であるビア導体は、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接する絶縁層にあるビア導体とは、重複する部分を有しない。このように、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接する絶縁層にあるビア導体同士が重複部分を有しないようにビア導体を配置することにより、応力の発生、クラックの発生等をより抑制することができる。
【0041】
別の態様において、上記連結導体または接続導体であるビア導体は、積層方向から平面視した場合に、積層方向に隣接する絶縁層にあるビア導体と一部が重複するように設けられる。
【0042】
上記別の態様のビア配置を、
図4(a)~4(h)、
図5および
図6により説明する。
図4(a)~4(h)は、それぞれ、絶縁層16a~16hと、その上に設けられたコイル導体17a~17h、連結導体18a~18f、および接続導体21a~21cを示す。これらの層は、
図4(a)が最下層であり
図4(h)が最上層であり、順に積層されている。
図5は、上記
図4(a)~4(d)を積層した場合の、コイル導体17a~17d、連結導体18a,18b、および接続導体21aの配置を示す図である。また、
図6は、
図5における積層体のy-y線での断面図である。
図7は、かかる構成における電流の流れを示す図である。本態様では、コイル導体17aおよび17bが、連結導体18aと外部電極(図示していない)により並列に接続されて第1コイル導体群を構成する。コイル導体17cおよび17dが、連結導体18bおよび18cにより並列に接続されて第2コイル導体群を構成する。コイル導体17eおよび17fが、連結導体18dおよび18eにより並列に接続されて第3コイル導体群を構成する。コイル導体17gおよび17hが、連結導体18fと外部電極(図示していない)により並列に接続されて第4コイル導体群を構成する。第1コイル導体群と第2コイル導体群は、接続導体21aにより直列に接続されている。第2コイル導体群と第3コイル導体群は、接続導体21bにより直列に接続されている。第3コイル導体群と第4コイル導体群は、接続導体21cにより直列に接続されている。
図5および
図6に示されるように、本形態においては、連結導体18a、接続導体21aおよび連結導体18bは、この順番で一部が重複するように設けられている。このような配置にすることにより、電流の集中がなくなって、温度の上昇が抑制でき、コイルの信頼性が向上する。
【0043】
上記ビア導体(連結導体および接続導体)は、コイル導体の巻回方向に沿ったビア導体の長さの、好ましくは2%以上90%以下、好ましくは10%以上70%以下、好ましくは20%以上60%以下が重なり合う。
【0044】
上記コイル導体、連結導体および接続導体は、導電性材料を含む導電層である。好ましくは、コイル導体、連結導体および接続導体は、実質的に導電性材料からなる。かかる導電性材料としては、特に限定されないが、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられる。上記導電性材料は、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。導電性材料は、1種のみであっても、2種以上であってもよい。
【0045】
本開示の積層コイル部品において、外部電極は、積層体の表面に設けられ、上記コイルに電気的に接続された。
【0046】
上記外部電極は、単層であっても、多層であってもよい。一の態様において、上記外部電極は、多層、好ましくは2層以上4層以下、例えば3層であり得る。
【0047】
本実施形態の積層コイル部品1において、外部電極4,5は、素体2の両端面を覆うように設けられる。上記外部電極は、導電性材料、好ましくはAu、Ag、Pd、Ni、SnおよびCuから選択される1種またはそれ以上の金属材料から構成される。
【0048】
一の態様において、外部電極は多層であり、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、またはSnを含む層を含み得る。好ましい態様において、上記外部電極は、AgまたはPdを含む層、Niを含む層、およびSnを含む層からなる。好ましくは、上記の各層は、コイル導体側から、AgまたはPd、好ましくはAgを含む層、Niを含む層、Snを含む層の順で設けられる。好ましくは、上記AgまたはPdを含む層はAgペーストまたはPdペーストを焼き付けた層であり、上記Niを含む層およびSnを含む層は、めっき層であり得る。
【0049】
本開示の積層コイル部品は、好ましくは、長さが0.4mm以上3.2mm以下であり、幅が0.2mm以上2.5mm以下であり、高さが0.2mm以上2.0mm以下であり、より好ましくは長さが0.6mm以上2.0mm以下であり、幅が0.3mm以上1.3mm以下であり、高さが0.3mm以上1.0mm以下である。
【0050】
好ましい態様において、本開示の積層コイル部品は、上記コイル導体と上記絶縁層の間に、空隙部が形成されている。例えば、本実施形態の積層コイル部品1において、コイル導体7a~7hと絶縁層6b~6iの境界に、空隙部を設けてもよい。コイル導体と絶縁層の間に空隙部を設けることにより、コイル導体と積層体間の応力の発生を抑制することができる。
【0051】
上記した本実施形態の積層コイル部品1は、例えば、以下のようにして製造される。本実施形態では、絶縁層6がフェライト材料から形成され、コイル導体7と絶縁層6の間に空隙部が存在する態様について説明する。
【0052】
(1)フェライトペーストの調製
まず、フェライト材料を準備する。フェライト材料は、主成分としてFe、Zn、およびNiを含み、所望によりさらにCuを含む。通常、上記フェライト材料の主成分は、実質的にFe、Zn、NiおよびCuの酸化物(理想的には、Fe2O3、ZnO、NiOおよびCuO)から成る。
【0053】
フェライト材料として、Fe2O3、ZnO、CuO、NiO、および必要に応じて添加成分を所定の組成になるように秤量し、混合および粉砕する。粉砕したフェライト材料を乾燥し、700~800℃で仮焼し、仮焼粉末を得る。この仮焼粉末に、所定量の溶剤(ケトン系溶剤など)、樹脂(ポリビニルアセタールなど)、および可塑剤(アルキド系可塑剤など)を加え、プラネタリーミキサー等で混錬した後、さらに3本ロールミル等で分散することでフェライトペーストを作製することができる。また、上記で作製した仮焼粉末にポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤を、PSZボールと共にポットミルに投入し、混合粉砕する。得られた混合物を、ドクターブレード法等で、所定の厚み、大きさ、形状のシートに成形加工して、フェライトシートを作製する。
【0054】
なお、焼結フェライトにおけるFe含有量(Fe2O3換算)、Mn含有量(Mn2O3換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)は、焼成前のフェライト材料におけるFe含有量(Fe2O3換算)、Mn含有量(Mn2O3換算)、Cu含有量(CuO換算)、Zn含有量(ZnO換算)およびNi含有量(NiO換算)と実質的に相違ないと考えて差し支えない。
【0055】
(2)コイル導体用導電性ペーストの調製
まず、導電性材料を準備する。導電性材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、Ni等が挙げられ、好ましくはAgまたはCu、より好ましくはAgである。所定量の導電性材料の粉末を秤量し、所定量の溶剤(オイゲノールなど)、樹脂(エチルセルロースなど)、および分散剤と、プラネタリーミキサー等で混錬した後、3本ロールミル等で分散することで、コイル導体用導電性ペーストを作製することができる。
【0056】
(3)樹脂ペーストの調製
空隙部を作製するための樹脂ペーストを調製する。かかる樹脂ペーストは、溶剤(イソホロンなど)に、焼成時に消失する樹脂(アクリル樹脂など)を含有させることにより作製することができる。
【0057】
(4)積層コイル部品の作製
(4-1)素体の作製
まず、外装用のフェライト層(
図2の絶縁層6aに対応)とするため、所定枚数のフェライトシートを準備する。
【0058】
次に、別のフェライトシートを準備し(
図2の絶縁層6bに対応)、空隙部を形成する箇所に、上記樹脂ペーストを印刷し、樹脂ペースト層を形成する。
【0059】
次に、コイル導体を形成する箇所に、上記導電性ペーストを印刷し、導電性ペースト層(
図2のコイル導体7aに対応)を形成する。
【0060】
次に、導電性ペースト層が形成されていない領域に、上記フェライトペーストを、導電性ペースト層と同じ高さとなるように印刷する。
【0061】
次に、別のフェライトシートを準備し(
図2の絶縁層6cに対応)、上記フェライトシートにビア(ビア9aに対応)を形成し、導電性ペーストをビアに充填する(充填された導電性ペーストは
図2の連結導体8aに対応)。
【0062】
次に、空隙部を形成する箇所に、上記樹脂ペーストを印刷し、樹脂ペースト層を形成する。
【0063】
次に、コイル導体を形成する箇所に、上記導電性ペーストを印刷し、導電性ペースト層(
図2のコイル導体7bに対応)を形成する。
【0064】
次に、導電性ペースト層が形成されていない領域に、上記フェライトペーストを、導電性ペースト層と同じ高さとなるように印刷する。
【0065】
次に、別のフェライトシートを準備し(
図2の絶縁層6dに対応)、上記フェライトシートにビア(ビア12aに対応)を形成し、導電性ペーストをビアに充填する(充填された導電性ペーストは
図2の接続導体11aに対応)。
【0066】
次に、空隙部を形成する箇所に、上記樹脂ペーストを印刷し、樹脂ペースト層を形成する。
【0067】
次に、コイル導体を形成する箇所に、上記導電性ペーストを印刷し、導電性ペースト層(
図2のコイル導体7cに対応)を形成する。
【0068】
上記の行程を繰り返し、最後にフェライトシートを所定枚数準備(
図2の絶縁層6jに対応)して、
図2に示すように絶縁層6a~6jを積み重ねる。シートを積み重ねた積層体を、加温、加圧下で圧着し、素子の集合体である積層体ブロックを得る。
【0069】
次に、積層体ブロックをダイサー等で切断し、素子に個片化する。
【0070】
得られた素子をバレル処理することにより、素子の角を削り、丸みを形成する。バレル処理は、未焼成の積層体に対して行ってもよく、焼成後の積層体に対して行ってもよい。また、バレル処理は、乾式または湿式のどちらであってもよい。バレル処理は、素子同士を共擦する方法であってもよく、メディアと一緒にバレル処理する方法であってもよい。
【0071】
バレル処理後、例えば880℃以上920℃以下の温度で素子を焼成し、積層コイル部品1の素体2を得る。この焼成の際に、樹脂ペースト層は消失し、樹脂ペースト層が存在した部分に空隙部が生じる。かかる空隙部が存在することにより、焼成におけるフェライトペースト層および導電性ペースト層の収縮に起因する応力の発生を低減することができる。
【0072】
(4-2)外部電極の形成
次に、素体2の端面にAgおよびガラスを含む外部電極形成用Agペーストを塗布し、焼き付けすることで下地電極を形成する。次に、電解めっきで下地電極の上に、Ni被膜、Sn被膜を順次形成することにより、外部電極を形成し、
図1に示すような積層コイル部品1が得られる。
【0073】
以上、本発明の1つの実施形態について説明したが、本実施形態は種々の改変が可能である。
【0074】
例えば、上記では、各絶縁層に対応するフェライトシートを準備し、このシートに印刷をしてコイルパターンを形成し、これらを圧着して素子を得ているが、すべての層を順次印刷することにより形成して、素子を得てもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本開示の積層コイル部品は、インダクタなどとして幅広く様々な用途に使用され得る。
【符号の説明】
【0076】
1…積層コイル部品
2…素体
4,5…外部電極
6a~6j…絶縁層
7a~7h…コイル導体
8a~8f…連結導体
9a~9f…ビア
11a~11c…接続導体
12a~12c…ビア
16a~16h…絶縁層
17a~17h…コイル導体
18a~18f…連結導体
21a~21c…接続導体