(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】異常予兆検知機能付ケーブルおよび電線異常予兆検知装置
(51)【国際特許分類】
H01B 7/32 20060101AFI20221004BHJP
G01R 31/58 20200101ALI20221004BHJP
【FI】
H01B7/32 Z
G01R31/58
(21)【出願番号】P 2020193786
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2022-07-04
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小森 洋和
(72)【発明者】
【氏名】東小薗 誠
(72)【発明者】
【氏名】薗田 不二夫
(72)【発明者】
【氏名】村田 高弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 健太
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-054143(JP,U)
【文献】特開平06-338227(JP,A)
【文献】特開平11-154425(JP,A)
【文献】特開2007-299608(JP,A)
【文献】特開2013-182716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/32
G01R 31/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する電線被覆と、を有する1本または複数の対象電線と、
検知線導体と、前記検知線導体の外周を被覆する検知線被覆と、を有する1本または複数の検知線と、
前記対象電線および前記検知線を含む電線群の外周を被覆するシースと、を有し、
さらに、前記シースと前記電線群の間に、導電性部材を含んだ層状の部材として、外側検知層を有し、
前記検知線導体は、前記電線導体よりも、耐屈曲性が低く、
前記シースは、前記電線群の外周に直接密着するか、前記電線群の外周に密着して前記電線群を被覆する内周層の表面に密着した、押出成形体として形成されて
おり、
前記外側検知層を構成する前記導電性部材は、前記検知線導体の径よりも小さい厚みを有する金属の層として構成される、異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項2】
前記外側検知層は、導電テープより構成され、前記電線群を囲んで配置されている、請求項
1に記載の異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項3】
電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する電線被覆と、を有する1本または複数の対象電線と、
検知線導体と、前記検知線導体の外周を被覆する検知線被覆と、を有する1本または複数の検知線と、
前記対象電線および前記検知線を含む電線群の外周を被覆するシースと、を有し、
さらに、前記シースと前記電線群の間に、導電性部材を含んだ層状の部材として、外側検知層を有し、
前記検知線導体は、前記電線導体よりも、耐屈曲性が低く、
前記シースは、前記電線群の外周に直接密着するか、前記電線群の外周に密着して前記電線群を被覆する内周層の表面に密着した、押出成形体として形成されており、
前記外側検知層は、導電テープ
より構成され、前記電線群を中心として、ターン間に間隙を設けて螺旋状に巻き付けられ
た状態で、前記電線群を囲んで配置されている、異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項4】
電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する電線被覆と、を有する1本または複数の対象電線と、
検知線導体と、前記検知線導体の外周を被覆する検知線被覆と、を有する1本または複数の検知線と、
前記対象電線および前記検知線を含む電線群の外周を被覆するシースと、を有し、
さらに、前記シースと前記電線群の間に、導電性部材を含んだ層状の部材として、外側検知層を有し、
前記検知線導体は、前記電線導体よりも、耐屈曲性が低く、
前記シースは、前記電線群の外周に直接密着するか、前記電線群の外周に密着して前記電線群を被覆する内周層の表面に密着した、押出成形体として形成されており、
前記外側検知層は、積層テープより構成され、
前記積層テープは、テープ状の絶縁体または半導体として構成された基材の両面に、導電性の被覆層を形成したものであり、前記電線群を囲んで配置されている
、異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項5】
前記異常予兆検知機能付ケーブルは、前記検知線を複数有し、
前記複数の検知線を構成する前記検知線導体は、相互に異なる耐屈曲性を有している、請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項6】
前記複数の検知線は、第一の検知線導体を有する第一の検知線と、第二の検知線導体を有する第二の検知線と、を含み、
前記第一の検知線導体は、第一の金属材料の素線より構成され、
前記第二の検知線導体は、前記第一の金属材料よりも高い耐屈曲性を有する第二の金属材料の素線より構成されている、請求項
5に記載の異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項7】
前記複数の検知線はさらに、第三の検知線導体を有する第三の検知線を含み、
前記第三の検知線導体は、前記第一の金属材料の素線と、前記第二の金属材料の素線と、をともに含み、前記第一の検知線導体よりも高く、前記第二の検知線導体よりも低い耐屈曲性を有する、請求項
6に記載の異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項8】
前記異常予兆検知機能付ケーブルは、複数の前記対象電線を含み、
前記複数の対象電線は、前記検知線を取り囲んで配置されている、請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の異常予兆検知機能付ケーブル。
【請求項9】
計測部と、通知部と、を有し、
前記計測部は、
請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の異常予兆検知機能付ケーブルに対して、前記検知線導体の特性インピーダンスを計測し、
前記通知部は、前記計測部によって計測された前記検知線導体の特性インピーダンスに、基準値以上の変化が生じた際に、前記対象電線に断線が生じる予兆が存在することを外部に通知する、電線異常予兆検知装置。
【請求項10】
前記計測部は、前記検知線導体の特性インピーダンス
とともに、前記外側検知層を構成する前記導電性部材の特性インピーダンスを測定し、
前記通知部
は、前記計測部によって計測された前記導電性部材の特性インピーダンスに、基準値以上の変化が生じた際に、前記対象電線に損傷が生じる予兆が存在することを外部に通知する、
請求項9に記載の電線異常予兆検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、異常予兆検知機能付ケーブルおよび電線異常予兆検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の電気・電子機器や輸送用機器、建造物、公共設備等において、電線が搭載、また敷設されるが、電線の長期の使用に伴い、電線に断線等の損傷が発生する場合がある。例えば、電線に屈曲や振動が繰り返し加えられると、金属疲労により、電線を構成する導体に断線が発生する場合がある。断線等の損傷は、実際に発生する前に、金属疲労が進行している段階等、予兆の段階で検知することが好ましい。電線の損傷の発生を、予兆の段階で検知することができれば、その電線を交換する等の対策を実施することで、電線が配置された機器の機能停止等、電線の損傷に起因する不具合を、未然に防止することができる。
【0003】
電線の損傷の予兆を検出することを意図したケーブルとして、例えば、特許文献1に、複数の素線を撚り合わせた導体を有する検知線と、複数の素線を撚り合わせた導体を有する被検知線と、を備え、検知線の導体の撚りピッチが、被検知線の導体の撚りピッチよりも長くなった断線検知機能付ケーブルが開示されている。検知線の導体の撚りピッチを被検知線の導体の撚りピッチよりも長くすることで、検知線の屈曲寿命を被検知線の屈曲寿命よりも短くして、断線の予測を図っている。
【0004】
また、特許文献2に、複数の電線とそれら複数の電線を覆う電気シールド層と電気シールド層を覆うシースからなる電気ケーブルと、電気シールド層に設けられ導体線とその外周の絶縁層からなる断線検知線と、導体線に電気的に接続された電圧源と、導体線に電気的に接続された第1の検出器と、電気シールド層に電気的に接続された第2の検出器とを備えた断線検知装置が開示されている。断線検知線の屈曲寿命は電線の屈曲寿命よりも短く設定される。断線検知線の導体線に電圧源により電圧を印加し、第1の検出器の検出信号と第2の検出器の検出信号から電気シールド層の断線を予測することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-182716号公報
【文献】特開2007-305478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1や特許文献2に記載されるように、断線の予兆を検知する対象である対象電線とともに、その対象電線よりも屈曲によって破断しやすい検知線を設けておき、検知線の破断を監視することで、対象電線の断線の予兆を検知することは可能である。しかし、単に検知線を設けることのみで、対象電線の断線を高感度に検知できるようになるとは限らない。特許文献1では、検知線と複数の被検知線とが、一括してシースに被覆されており、特許文献2では、複数の電線が、断線検知線を設けた電気シールド層に被覆されている。ここで、特許文献1および特許文献2の構成では、複数の対象電線と、その外周を被覆する被覆部材、つまりシースや電気シールド層との間に、空隙が存在しており、複数の対象電線が、被覆部材に囲まれた空間の中で、移動可能となっている。対象電線が屈曲や振動を繰り返して受ける間に、そのような対象電線の移動が起こると、対象電線と検知線との位置関係が、ケーブルの軸線方向に沿った位置によって、不均一に変化する可能性がある。つまり、対象電線と検知線が、軸線方向に沿った位置によって、異なる相対位置をとるようになる可能性がある。
【0007】
すると、屈曲や振動によって、対象電線が受ける負荷と検知線が受ける負荷との関係性が、軸線方向に沿った位置によって、異なるものとなる。その結果、屈曲や振動によって、対象電線に同じ大きさの負荷が印加されたとしても、軸線方向に沿って、負荷が印加される位置によって、検知線の破断が起こり、対象電線の断線の予兆を検知できる場合と、検知線の破断に至らず、対象電線の予兆を検知できない場合とが生じうる。このように、対象電線の断線の予兆の検知における感度に、位置によるばらつきが生じる可能性がある。
【0008】
電線に対して、断線等の損傷の予兆を検知するに際し、軸線方向に沿って、どのような位置に損傷の予兆が発生しても、同様の感度で検知できることが好ましい。自動車等の機器においては、電線のどの位置に損傷が発生するかを予測することは困難であるが、どの位置に損傷が発生したとしても、機器の機能停止等の不具合につながる可能性があり、電線の損傷の予兆を発生位置にかかわらず検知して、電線の交換等の対策を講じることが重要である。特に、自動車のブレーキシステム等、電線の損傷による影響が大きい箇所においては、電線の損傷の予兆を高感度に検知することが望まれる。
【0009】
以上に鑑み、電線に断線が生じる予兆を、電線の軸線方向に沿った位置によらず、同様の感度で検知することができる異常予兆検知機能付ケーブル、および電線異常予兆検知装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示にかかる異常予兆検知機能付ケーブルは、電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する電線被覆と、を有する1本または複数の対象電線と、検知線導体と、前記検知線導体の外周を被覆する検知線被覆と、を有する1本または複数の検知線と、前記対象電線および前記検知線を含む電線群の外周を被覆するシースと、を有し、前記検知線導体は、前記電線導体よりも、耐屈曲性が低く、前記シースは、前記電線群の外周に直接密着するか、前記電線群の外周に密着して前記電線群を被覆する内周層の表面に密着した、押出成形体として形成されている。
【0011】
本開示にかかる電線異常予兆検知装置は、計測部と、通知部と、を有し、前記計測部は、前記異常予兆検知機能付ケーブルに対して、前記検知線導体の特性インピーダンスを計測し、前記通知部は、前記計測部によって計測された前記検知線導体の特性インピーダンスに、基準値以上の変化が生じた際に、前記対象電線に断線が生じる予兆が存在することを外部に通知する。
【発明の効果】
【0012】
本開示にかかる異常予兆検知機能付ケーブルおよび電線異常予兆検知装置によると、電線に断線が生じる予兆を、電線の軸線方向に沿った位置によらず、同様の感度で検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の第一の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルの構成を示す断面図である。図中に四角形で囲んだ中には、検知線を拡大して表示している。
【
図2】
図2は、本開示の一実施形態にかかる電線異常予兆検知装置の構成を、検知線導体に破断が生じた状態について示す模式図である。
【
図3】
図3A,3Bは、本開示の第二の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルの構成を示す図である。
図3Aは斜視図、
図3Bは断面図である。
図3Aでは、シースを除いた状態を示している。
【
図4】
図4A,4Bは、本開示の第三の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルの構成を示す図である。
図4Aは、斜視図、
図4Bは断面図である。
図4Aでは、シースを除いた状態を示している。
図4Cは、その異常予兆検知機能付ケーブルを構成する積層テープの積層構造を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[本開示の実施形態の説明]
最初に、本開示の実施態様を説明する。
本開示の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルは、電線導体と、前記電線導体の外周を被覆する電線被覆と、を有する1本または複数の対象電線と、検知線導体と、前記検知線導体の外周を被覆する検知線被覆と、を有する1本または複数の検知線と、前記対象電線および前記検知線を含む電線群の外周を被覆するシースと、を有し、前記検知線導体は、前記電線導体よりも、耐屈曲性が低く、前記シースは、前記電線群の外周に直接密着するか、前記電線群の外周に密着して前記電線群を被覆する内周層の表面に密着した、押出成形体として形成されている。
【0015】
上記異常予兆検知機能付ケーブルは、電線導体よりも耐屈曲性が低い検知線導体を有する検知線を含んでいる。よって、異常予兆検知機能付ケーブルに、屈曲や振動により負荷が繰り返し加えられると、対象電線よりも検知線の方が短期間で破断することになる。検知線に破断が生じた際に、特性インピーダンスの測定等、電気的測定によって、検知線の破断を検出することで、対象電線に断線が発生する前に、対象電線に断線の予兆が生じていることを、検知することができる。対象電線と検知線を含む電線群の外周を被覆するシースが、電線群の外周に直接密着するか、電線群の外周に密着して電線群を被覆する内周層に密着した押出成形体として設けられていることにより、シースの内側の領域において、各対象電線と検知線の位置関係に、ずれが生じにくい。よって、ケーブルの軸線方向の各位置において、対象電線と検知線が、同じ相対位置関係を維持することができ、屈曲等によって対象電線に加えられる負荷と検知線に加えられる負荷との関係性も、軸線方向の各位置で同じに保つことができる。その結果、ケーブルの軸線方向に沿った位置によらず、対象電線に断線が発生する予兆を、検知線の破断により、高感度に検知することが可能となる。
【0016】
ここで、前記異常予兆検知機能付ケーブルは、前記検知線を複数有し、前記複数の検知線を構成する前記検知線導体は、相互に異なる耐屈曲性を有しているとよい。複数の検知線のうち、耐屈曲性の低い検知線導体を有するものは、小さい負荷が印加されただけでも破断するため、破断を起こした際に、対象電線における断線の予兆を、余裕のある段階で検知することができる。一方、耐屈曲性の高い検知線導体を有する検知線は、大きな負荷が印加されてからでないと破断を起こさないため、破断を起こした際に、対象電線における断線の可能性が高まったことを、検知することができる。よって、いずれの検知線導体が破断したかを区別して検出することで、対象電線における断線の予兆を、断線の切迫度に応じて、段階的に検知することができる。
【0017】
この場合に、前記複数の検知線は、第一の検知線導体を有する第一の検知線と、第二の検知線導体を有する第二の検知線と、を含み、前記第一の検知線導体は、第一の金属材料の素線より構成され、前記第二の検知線導体は、前記第一の金属材料よりも高い耐屈曲性を有する第二の金属材料の素線より構成されているとよい。すると、第二の検知線導体が第一の検知線導体よりも高い耐屈曲性を有するものとなり、金属材料による耐屈曲性の違いを利用して、耐屈曲性が相互に異なる2本の検知線導体を設けることができる。それらの検知線導体によって、対象電線における断線の予兆を、段階的に検知することが可能となる。金属材料として、銅合金等の合金を用いる場合に、添加元素の種類や量、製造方法によって、耐屈曲性を幅広く制御することができ、検知したい断線予兆の切迫度に応じて、多様な検知線を設けることが可能となる。
【0018】
前記複数の検知線はさらに、第三の検知線導体を有する第三の検知線を含み、前記第三の検知線導体は、前記第一の金属材料の素線と、前記第二の金属材料の素線と、をともに含み、前記第一の検知線導体よりも高く、前記第二の検知線導体よりも低い耐屈曲性を有するとよい。すると、2種の金属材料よりなる素線のみを用いる簡素な構成で、3段階、あるいはさらに多くの段階数で、対象電線における断線の予兆を、段階的に検知することができる。
【0019】
前記異常予兆検知機能付ケーブルは、複数の前記対象電線を含み、前記複数の対象電線は、前記検知線を取り囲んで配置されているとよい。すると、複数の対象電線のいずれにおいて断線の予兆が発生した場合にも、共通の検知線によって、その予兆を、高感度に検知することが可能となる。
【0020】
前記異常予兆検知機能付ケーブルはさらに、シースと電線群の間に、導電性部材を含んだ層状の部材として、外側検知層を有するとよい。この場合には、異常予兆検知機能付ケーブルが突発的な衝撃や外傷を受けた際に、外側検知層に含まれる導電性部材に損傷が発生しうる。その導電性部材の損傷を、特性インピーダンスの測定等、電気的測定によって検出すれば、衝撃の印加や外傷の形成に起因して、対象電線に断線や外傷等の損傷が発生する予兆が存在することを、検知することができる。電線群に含まれる検知線は、屈曲や振動に起因した金属疲労による対象電線の断線の予兆を検知するのに適したものである一方、電線群の外側に配置された外側検知層は、突発的な衝撃の印加による対象電線の断線や、外部の物体との接触や摩擦による外傷の予兆を検知するのに適したものであり、検知線と外側検知層の両方を備えたケーブルとすることで、原因の異なる複数種の損傷について、それらの損傷が対象電線に発生する予兆を、高感度に検知することが可能となる。
【0021】
この場合に、前記外側検知層を構成する前記導電性部材は、前記検知線導体の径よりも小さい厚みを有する金属の層として構成されるとよい。すると、外側検知層が、衝撃の印加や外部の物体との接触等により、容易に破断等の損傷を起こすため、対象電線における損傷の予兆を、敏感に検知することが可能となる。
【0022】
前記外側検知層は、導電テープより構成され、前記電線群を囲んで配置されているとよい。さらには、前記導電テープは、前記電線群を中心として、ターン間に間隙を設けて螺旋状に巻き付けられているとよい。あるいは、前記外側検知層は、積層テープより構成され、前記積層テープは、テープ状の絶縁体または半導体として構成された基材の両面に、導電性の被覆層を形成したものであり、前記電線群を囲んで配置されているとよい。外側検知層がいずれの形態をとる場合にも、簡素な構成の外側検知層によって、衝撃の印加や外傷に起因する対象電線の損傷の予兆を、敏感に検知することができる。
【0023】
本開示の実施形態にかかる電線異常予兆検知装置は、計測部と、通知部と、を有し、前記計測部は、前記異常予兆検知機能付ケーブルに対して、前記検知線導体の特性インピーダンスを計測し、前記通知部は、前記計測部によって計測された前記検知線導体の特性インピーダンスに、基準値以上の変化が生じた際に、前記対象電線に断線が生じる予兆が存在することを外部に通知する。
【0024】
上記電線異常予兆検知装置においては、検知線導体の特性インピーダンスの変化により、検知線導体の破断を検出することで、対象電線に断線の予兆が発生していることを検知し、外部に通知することができる。検知対象とする異常予兆検知機能付ケーブルが、押出成形体として形成されたシースの密着性によって、シースの内側の領域において、各対象電線と検知線の相対位置に、ずれが生じにくいものであるため、ケーブルの軸線方向に沿った位置によらず、対象電線に断線が発生する予兆を、高感度に検知し使用者等に通知することができる。
【0025】
ここで、前記計測部は、シースと電線群の間に、導電性部材を含んだ外側検知層を有する前記異常予兆検知機能付ケーブルに対して、前記検知線導体の特性インピーダンスとともに、前記外側検知層を構成する前記導電性部材の特性インピーダンスを測定し、前記通知部は、前記計測部によって計測された前記導電性部材の特性インピーダンスに、基準値以上の変化が生じた際に、前記対象電線に損傷が生じる予兆が存在することを外部に通知するものであるとよい。すると、屈曲や振動に起因した金属疲労による対象電線の断線の予兆に加えて、突発的な衝撃の印加による対象電線の断線の予兆や、外部の物体との接触や摩擦による外傷の予兆まで、高感度に検知し、使用者等に通知することができる。
【0026】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を用いて、本開示の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルおよび電線異常予兆検知装置について詳細に説明する。本開示の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルは、当該ケーブルに含まれる対象電線において損傷が発生する予兆を、検知可能なケーブルである。また、本開示の実施形態にかかる電線異常予兆検知装置は、本開示の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブルを対象として、対象電線に損傷が発生する予兆を検知することができる検知装置である。
【0027】
<第一の実施形態>
(1)異常予兆検知機能付ケーブルの構成
まず、本開示の第一の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル(以下、単にケーブルと称する場合がある)について、説明する。
図1に、本開示の第一の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1の構成を、軸線方向に垂直に切断した断面図にて表示する。異常予兆検知機能付ケーブル1は、対象電線2(2A~2D)と、検知線3(3A~3C)と、テープ層4と、シース5と、を含んでいる。
図1では、四角形で囲んで、検知線3の部位を拡大して表示している。
【0028】
対象電線2は、給電、電圧印加、通信等、機器等において求められる機能を果たす電線であり、ケーブル1において、損傷の予兆を検出すべき対象となる電線である。対象電線2の本数は特に指定されず、1本または複数とすることができるが、好ましくは複数である。各対象電線2は、導体線として構成された電線導体21(21A~21D)と、絶縁材料より構成されて電線導体21の外周を被覆する電線被覆22とを有している。図示した形態では、ケーブル1は、4本の対象電線2A~2Dを備えている。それら4本のうち、2本は給電線2A,2Bである。他の2本は、給電線2A,2Bよりも導体断面積が小さい信号線2C,2Dであり、相互に撚り合わせられて、ツイストペアを構成している。図ではツイストペアの外縁を破線で表示している。例えば、各給電線2A,2Bの導体断面積を1.8~2.5mm2とし、各信号線2C,2Dの導体断面積を0.25mm2とする形態を例示することができる。
【0029】
検知線3は、後に作用を説明するように、自らが破断を起こすことで、対象電線2に断線の予兆が発生していることを検知する電線である。検知線3は、導体線として構成された検知線導体31(31A~31C)と、絶縁材料より構成されて検知線導体31の外周を被覆する検知線被覆32とを有している。検知線3の本数は特に限定されず、1本または複数とすることができる。好ましくは複数の検知線3がケーブル1に含まれるとよく、図示した形態では、3本の検知線3が含まれている。各検知線導体31は、耐屈曲性が、対象電線2の電線導体21よりも低くなっている。本明細書において、導体の耐屈曲性とは、屈曲を受けた際の破断しやすさを示し、所定の角度での屈曲を繰り返した際に破断が起こるまでの屈曲回数等として評価することができる。その屈曲回数が多いほど、耐屈曲性が高いことを示す。ケーブル1が複数の対象電線2を含む場合には、それら複数の対象電線2の電線導体21のそれぞれよりも、検知線導体31の耐屈曲性が低くなっている。給電線2A,2Bと信号線2C,2Dがケーブル1に含まれる場合に、給電線2A,2Bに比べて導体断面積の小さい信号線2C,2Dの方が耐屈曲性が低いことが一般的であり、検知線導体31は、その信号線2C,2Dよりもさらに耐屈曲性が低くなっている。また、ケーブル1が複数の検知線3を含む場合に、それら全ての検知線3の検知線導体31の耐屈曲性が、それぞれ、各対象電線2の電線導体21の耐屈曲性よりも低くなっている。
【0030】
検知線3を複数設ける場合に、それらの検知線3は、相互に検知線導体31の耐屈曲性が異なるものであることが好ましい。図示した形態では、耐屈曲性が相互に異なる検知線導体31A~31Cを含んだ、第一の検知線3A、第二の検知線3B、第三の検知線3Cが設けられている。第一の検知線3Aに含まれる第一の検知線導体31Aは、耐屈曲性が最も低くなっている。第二の検知線3Bに含まれる第二の検知線導体31Bは、耐屈曲性が最も高くなっている。第三の検知線3Cに含まれる第三の検知線導体31Cは、第一の検知線導体3Aよりも高く、第二の検知線導体3Bよりも低い、中間の耐屈曲性を有している。
【0031】
対象電線2と検知線3の間において、また複数の検知線3の相互間において、導体21,31の耐屈曲性に差を設ける手段としては、以下の形態を例示することができる。例えば、撚線導体を構成する素線が同一のものである場合に、素線の本数が多いほど、耐屈曲性が高くなる。また、導体を構成する素線の本数および材質が同じ場合に、導体を構成する素線が太い方が、耐屈曲性が高くなる。また、導体を構成する金属材料が、材料物性として高い耐屈曲性を示す場合、例えば大きなヤング率や高い剛性率、高い曲げ強度を有する場合には、導体の耐屈曲性が高くなる。さらに、特許文献1に記載されるように、導体における素線の撚りピッチが短いほど、導体の耐屈曲性が高くなる。
【0032】
図示した形態では、各検知線3を構成する素線が、各対象電線2を構成する素線よりも細くなっている。また、3本の検知線3の検知線導体31は、同じ径の素線を同じ本数含むものであるが、それら検知線導体31は、材料物性としての耐屈曲性が相互に異なる金属材料より構成された素線を含んでいる。具体的には、最も耐屈曲性が低い第一の検知線導体31Aは、全体が、比較的曲げ強度の低い第一の金属材料よりなる素線33より構成されている。最も耐屈曲性の高い第二の検知線導体31Bは、全体が、第二の金属材料よりなる複数の素線34より構成されている。第二の金属材料は、材料物性として、第一の金属材料よりも高い耐屈曲性を有するもの、つまり、第一の金属材料よりも高い曲げ強度を有し、同じ径の素線とした場合に第一の金属材料よりも高い耐屈曲性を示すものである。中間の耐屈曲性を有する第三の検知線導体31Cは、第一の金属材料よりなる素線33と、第二の金属材料よりなる素線34を共に含んでいる。素線33,34を構成する金属材料として合金を用いる場合には、添加元素の種類や量、製造方法によって、多様な耐屈曲性を実現することができる。第一の金属材料として銅(軟銅)を用い、第二の金属材料として第二の銅合金を用いる形態、第一の金属材料として比較的曲げ強度の低い第一の銅合金を用い、第二の金属材料として、第一の銅合金よりも曲げ強度の高い第二の銅合金を用いる形態を、好適に例示することができる。
【0033】
ケーブル1において、全ての対象電線2と検知線3は、1つにまとめられ、電線群Gを構成している。電線群Gにおいて、各対象電線2および検知線3の相互配置は、特に限定されるものではないが、検知線3を中央に配置し、その検知線3の外周を囲んで、複数の対象電線2を配置する形態が好ましい。この際、検知線3が複数設けられる場合には、それら複数の検知線3を中央にまとめて配置するとよい。検知線3と対象電線2は、電線束としてまとめるだけでもよいが、検知線3を中心に配置し、その検知線3の外周に対象電線2を螺旋状に巻き付ける形態が好ましい。
【0034】
電線群Gの外周には、内周層としてのテープ層4が設けられている。テープ層4は、電線群Gを構成する各対象電線2および検知線3が相互に離れないようにまとめる役割を果たす。テープ層4の形態および材料は、特に限定されないが、紙や樹脂等の絶縁性材料より構成されたテープ体が、電線群Gの外周に螺旋状に巻き付けられた形態を、好適に例示することができる。テープ層4は、電線群Gに密着している。つまり、電線群Gを構成する各電線2A~2D,3A~3Cのうち、電線群Gの最外周に面する電線(ここでは対象電線2A,2B,2D)の外周面に接触している。
【0035】
シース5は、ポリマー材料を主成分とする絶縁体の押出成形体として構成されており、テープ層4の外周を囲んで、ケーブル1全体の最外周を構成している。シース5は、テープ層4の外周に密着している。つまり、テープ層4の外周の全域において、シース5とテープ層4の間に、不可避的なものを除いて空隙が形成されずに、シース5がテープ層4に接触している。シース5は、1層より構成されても、複数の層より構成されてもよいが、図示した形態では外層51と内層52の2層より構成されており、外層51の方が、内層52よりも、耐摩耗性等の機械的特性に優れた材料より構成されている。
【0036】
(2)断線検知の方法
上記で説明したケーブル1が、機器等に配置され、使用中に、繰り返して屈曲や振動を受けると、対象電線2を構成する電線導体21に金属疲労が蓄積し、断線に至る可能性がある。対象電線2に断線が生じると、対象電線2が、給電、通信等の機能を果たせなくなり、ケーブル1が配置された機器が、正常な機能を発揮し続けられなくなる。さらには、対象電線2の断線に起因して、その機器に故障等の不具合が発生する可能性もある。
【0037】
しかし、本実施形態にかかるケーブル1は、機器等において所定の機能を果たす対象電線2に加えて、対象電線2の電線導体21よりも耐屈曲性の低い検知線導体31を備えた、検知線3を含んでいる。ケーブル1が繰り返して屈曲や振動を受けることがあると、耐屈曲性の低い検知線導体31が、電線導体21よりも先に破断することになる。検知線導体31に破断が生じたことは、対象電線2にも屈曲や振動による負荷が加えられて、電線導体21に金属疲労が蓄積されており、そのまま負荷の印加が続けば、対象電線2の電線導体21も破断する可能性があることを意味する。検知線導体31の破断は、特性インピーダンスの測定等、電気的測定によって検出することができる。
【0038】
このように、耐屈曲性の低い検知線電線31の破断を検出することで、対象電線2の電線導体21に断線の予兆があることを、実際に対象電線2に断線が生じていない段階で、未然に検知することができる。対象電線2の断線の予兆を検知した段階で、対象電線2を新しいものに交換する等の措置を講じれば、対象電線2の断線によって引き起こされる不具合を、予防することができる。なお、本明細書において、対象電線2の電線導体21の断線、および検知線3の検知線導体31の破断を、単に、対象電線2の断線、および検知線3の破断と称する場合がある。
【0039】
本実施形態にかかるケーブル1においては、対象電線2と検知線3を含む電線群Gの外周に、テープ層4が密着して設けられており、さらにそのテープ層4の外周に、シース5が設けられている。シース5は押出成形体として形成されており、テープ層4に密着している。このように、シース5が押出成形体として形成されていることにより、対象電線2と検知線3が所定の相対配置をとってまとめられた電線群Gの構造が、シース5によって強固に保持され、対象電線2と検知線3の位置関係が、相互にずれにくくなる。よって、対象電線2と検知線3を、ケーブル1の軸線方向に沿った位置によらず、同じ位置関係に保ちやすくなる。さらに、ケーブル1が屈曲や振動等の外力を受けた際にも、ケーブル1の軸線方向に沿った各位置で、その同じ位置関係をずらさずに維持しやすい。
【0040】
対象電線2と検知線3の位置関係が、軸線方向に沿った位置によって、また経時的に変化するとすれば、屈曲や振動等によって対象電線2に同じ大きさの外力が印加された場合でも、対象電線2が受ける負荷と、検知線3が受ける負荷との関係性が、軸線方向に沿った位置に依存して、また経時的に変化してしまう可能性がある。すると、検知線3の検知線導体31が破断した段階で、対象電線2の電線導体21に蓄積された金属疲労の程度が、軸線方向の位置に依存して、また経時変化により、異なることになり、検知線導体31の破断をもって示される対象電線2の断線までの切迫度(どの程度の負荷がさらに加われば実際に断線するか)が、位置や時期によってばらついてしまう。しかし、本実施形態にかかるケーブル1においては、上記のように、対象電線2と検知線3の間の位置関係が、ケーブル1の軸線方向の位置によらず、また時間の経過によらずに、一定に保たれることにより、屈曲や振動等の外力が印加された際に、対象電線2が受ける負荷と、検知線3が受ける負荷との関係性が、一定に維持されやすい。よって、検知線3の検知線導体31に破断が起こった際に、その破断を検出することで、ケーブル1の軸線方向に沿った位置によらず、また時期によらず、対象電線2の電線導体21に同程度の金属疲労が蓄積され、対象電線2に同程度の切迫度の断線予兆が発生していることの、指標とすることができる。つまり、対象電線2の断線の予兆を、位置や時期に依存しない感度で、正確に検知することができる。
【0041】
なお、上記で説明した形態では、電線群Gがテープ層4でまとめられたうえで、その外周にシース5が設けられており、テープ層4が、シース5による対象電線2と検知線3の位置関係の保持の安定性を高める等の役割を果たすが、ケーブル1において、テープ層4を省略してもよい。テープ層4を省略する場合には、電線群Gの外周に直接密着する押出成形体として、シース5を形成すればよい。つまり、電線群Gの外周の全域において、シース5と電線群Gを構成する電線の表面との間に、不可避的なものを除いて空隙が形成されずに、シース5が電線群Gを構成する電線の表面に接触した状態とすればよい。また、後に説明する第二の実施形態および第三の実施形態における外側検知層7,8のように、シース5と電線群Gの間に、テープ層4以外の層が設けてもよい。その場合には、それらテープ層4以外の層を含め、電線群Gの外周に設けられる層全ての集合体を内周層として、その内周層を電線群Gの外周に密着させて設けるとともに、その内周層の表面に密着した押出成形体として、シース5を設ければよい。
【0042】
電線群Gにおいて、対象電線2と検知線3を、具体的にどのような相対配置とするかは、特に限定されるものではないが、複数の対象電線2を設ける場合に、上で説明したように、検知線3を取り囲んで、それら複数の対象電線2を配置することが好ましい。このように、複数の対象電線2に囲まれた、ケーブル1の中心またはそれに近い位置に検知線3を配置することで、ケーブル1に屈曲が加えられた際に、検知線3に大きな力が印加されやすくなる。その結果、検知線3の破断によって、対象電線2の断線の予兆を、敏感に検知することが可能となる。検知線3を複数設ける場合には、それら複数の検知線3を相互に離して配置するのではなく、まとめて、対象電線2に囲まれた位置に配置するのがよい。
【0043】
検知線3は、ケーブル1に少なくとも1本設けておけば、対象電線2の断線を検知することができるが、本実施形態のように、複数の検知線3を設け、それらの検知線3の検知線導体31を、相互に異なる耐屈曲性を有するものとしておくことで、対象電線2の断線の予兆を、段階的に検知することができる。耐屈曲性の低い検知線導体31ほど、小さい負荷しか印加されていない段階、つまり対象電線2の電線導体21に金属疲労があまり蓄積されていない早い段階で破断するので、検知線導体31の破断により、対象電線2の断線の予兆を、あまり断線が切迫していない余裕のある段階で検知することができる。例えば、上記で説明した実施形態の場合、最も耐屈曲性の低い第一の検知線導体31Aのみが破断した段階では、まだ実際の対象電線2の断線までは余裕があるが、対象電線2にいずれ断線が起こる可能性があるという程度の、切迫度の低い断線の予兆が検知される。第一の検知線導体31Aに加え、第三の検知線導体31Cが破断した段階では、対象電線2に断線が起こる切迫度が上がっていることが検知される。さらに、第一の検知線導体31Aおよび第三の検知線導体31Cに加え、第二の検知線導体31Bまで破断した段階では、対象電線2に断線が起こる切迫度がさらに上がっており、断線が近い時期に迫っていることが検知される。このように、対象電線2の断線の切迫度を段階的に検知できることで、切迫度に応じた対策を、段階ごとにとることが可能となる。あるいは、上記ケーブル1の給電線2A,2Bと信号線2C,2Dのように、耐屈曲性の異なる複数の対象電線2を含む場合に、信号線2C,2D等、耐屈曲性の低い対象電線2の断線の予兆を、複数の検知線導体31の中で耐屈曲性の低い検知線導体31の破断をもって検知するとともに、給電線2A,2B等、耐屈曲性の高い対象電線2の断線の予兆を、それら複数の検知線導体31の中で耐屈曲性の高い検知線導体31の破断をもって検知するように構成することもできる。
【0044】
ケーブル1に、耐屈曲性の異なる検知線導体31を何種類含ませるかは、対象電線2の断線までの切迫度として検知したい段階の数に対応させて、適宜定めればよい。検知線導体31の耐屈曲性を変化させる手段は、上記に列挙したように、撚線導体として検知線導体31を構成する素線の本数や径、構成材料を変化させる等、種々の方法が考えられるが、3段階の耐屈曲性を有する検知線導体31を設ける場合に、上記で説明した形態のように、曲げ強度の低い第一の金属材料よりなる素線33と、第一の金属材料よりも曲げ強度の高い第二の金属材料よりなる素線34を用いて、検知線導体31を構成する形態を、好ましいものとして挙げることができる。第一の金属材料の素線33のみで構成される第一の検知線導体31A、および第二の金属材料の素線34のみで構成される第二の検知線導体31Bの他に、第一の金属材料の素線33と第二の金属材料の素線34をともに含む第三の検知線導体31Cを構成すれば、3段階の耐屈曲性を有する3種の検知線導体31を、2種の金属材料の素線33,34のみを用いた簡素な構成で準備することができる。また、2種の金属材料の素線33,34の本数の比によって、耐屈曲性の大きさを調整することもできる。4段階以上の耐屈曲性を設定する場合でも、それら2種の金属材料の素線33,34のそれぞれの本数を変更することで、多様な耐屈曲性を有する検知線導体31を得ることができる。
【0045】
本実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1は、対象電線2の断線の予兆を、検知線3の破断によって未然に検知できるものであり、対象電線2に断線が起こる可能性のある多様な用途に用いることができる。自動車等、運動によって電線に屈曲や振動が頻繁に加えられる機器に用いるのに、特に適している。中でも、自動車のブレーキシステム等、対象電線2が断線した場合に生じうる影響が大きく、対象電線2の断線を未然に検知することの意義が大きい用途に、好適に用いることができる。
【0046】
(3)電線異常検知装置
以上に説明したように、本実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1においては、検知線3を構成する検知線導体31の破断を検出することで、対象電線2の電線導体21に断線が生じる予兆を検知することができる。検知線導体31の破断を検出するための具体的な計測方法や、検知線導体31の破断を検出し、対象電線2の断線の予兆として認識および通知するための具体的な検知装置の構成は、特に限定されるものではない。しかし、次に説明する本開示の一実施形態にかかる電線異常検知装置(以下、単に検知装置と称する場合がある)を、好適に適用することができる。
【0047】
図2に、本開示の一実施形態にかかる電線異常検知装置9の構成を模式的に示す。検知装置9は、上記で説明した本開示の第一の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1を対象として、電線異常の予兆として、対象電線2の電線導体21の断線の予兆を検知するものである。
図2においては、簡略化のため、ケーブル1の構成部材としては、対象電線2の電線導体21と、検知線3の検知線導体31を、それぞれ1本のみ示しており、その検知線導体31に破断Bが生じた状態を示している。
【0048】
検知装置9は、計測部91と、通知部92を有している。計測部91は、異常予兆検知機能付ケーブル1において、検知線3の検知線導体31の特性インピーダンスを計測することにより、検知線導体31に破断Bが発生しているか否かを検査するものである。特性インピーダンスの測定は、交流成分を含む検査信号を検知線導体31に入力し、反射法または透過法によって応答信号を検出することによって行う。検知線導体31の中途部に破断Bが存在すると、その破断Bの箇所で検査信号の反射が起こるので、応答信号に不連続な変化が発生する。そこで、計測部91によって計測される特性インピーダンスに、基準値以上の変化が生じた場合に、検知線導体31に破断Bが発生しており、対象電線2の電線導体21に断線の予兆が生じていると判定することができる。基準値は、検知線導体31に破断Bが発生していない場合の実測結果等に基づいて、検知線導体31の破断によるものとみなすべき変化量の閾値として、あらかじめ定めておけばよい。上記で説明した実施形態のように、ケーブル1が耐屈曲性の異なる検知線導体31を複数含んでいる場合には、検知線導体31ごとに特性インピーダンスの測定を行うことで、いずれの検知線導体31に破断Bが生じているのかを特定し、対象電線2の断線の予兆を段階的に検知することができる。なお、特性インピーダンスの変化は、破断にまでは至らない検知線導体31の損傷によっても発生する。本明細書においては、破断による特性インピーダンスの変化を代表として扱っているが、破断以外の検知線導体31の損傷についても、同様に、特性インピーダンスの変化を介して、対象電線2の断線の予兆の検知に利用することができる。
【0049】
検知線導体31の破断Bの検出は、特性インピーダンスの測定に限らず、抵抗値の測定等、他の電気的測定によっても行うことができるが、特性インピーダンス測定を用いることにより、高感度に検知線導体31の破断Bを検知することができる。特に、特性インピーダンス測定を反射法によって行う場合には、計測機器をケーブル1の両端に接続しなくても、
図2のように、一端にのみ計測部91を接続することができれば、特性インピーダンスの測定を実施することができる。よって、ケーブル1が、車両の内部等において、容易にアクセスできない箇所に配置されている場合や、複雑な経路をとっている場合にも検知線導体31の一端にさえ計測部91を接続することができれば、電線を取り外したり、障害物を除去したりすることなく、対象電線2における断線予兆の検知を行うことができる。さらに、検知線導体31の特性インピーダンスの計測を、時間領域反射法(TDR法)によって行えば、検知線導体31における破断Bの有無のみならず、破断Bが生じている位置まで特定することも可能である。特性インピーダンスの測定は、着目している検知線導体31と、アース電位との間、あるいは他の検知線導体31または電線導体21の1つとの間で行えばよい。
【0050】
通知部92は、計測部91から信号を伝達される。計測部91によって検知線導体31の特性インピーダンスに基準値以上の変化が生じ、検知線導体31に断線が生じていると判定された際に、通知部92が、対象電線2の断線の予兆、つまり対象電線2の電線導体21に断線が生じる予兆が存在することを、外部に通知する。外部への通知の具体的な方法は、特に限定されないが、例えば、自動車等、ケーブル1が配置された機器に、ディスプレイパネル93を設け、視覚的に通知する方法や、警報音によって通知する方法を例示することができる。あるいは、その機器の機能の一部または全てを制限するインターロック装置として、通知部92を設けてもよい。ケーブル1が耐屈曲性の異なる検知線導体31を複数含んでいる場合には、それらのうちいずれの検知線導体31に破断Bが発生したかに応じて、通知部92が異なる通知を発することで、対象電線2の断線の予兆を、切迫度によって段階的に通知することができる。
【0051】
自動車等、ケーブル1が配置された機器において、上記で説明した検知装置9を、常時ケーブル1に接続して、計測部91による特性インピーダンスの測定を継続的に行い、対象電線2に断線の予兆が生じているか否かを、常時監視し続けることが好ましい。すると、対象電線2に断線の予兆が生じれば、早期にその断線の予兆を発見し、通知部92を介して、機器の使用者等に通知することができる。通知を受けた使用者は、ケーブル1の交換等の対策を早期に講じることができ、その機器を不具合のない状態で長く使用することが可能となる。対象電線2に断線が生じる可能性や頻度が低い場合等には、検知装置9による対象電線2の断線予兆の監視を常時行う代わりに、ケーブル1が配置された機器の定期点検の際等、所定の時期にのみ、検知装置9をケーブル1に接続して、対象電線2に断線の予兆が発生しているか否かを検査するようにしてもよい。
【0052】
<第二の実施形態>
上記で説明した第一の実施形態においては、検知線3の検知線導体31の破断を指標として、対象電線2の電線導体21が、金属疲労の蓄積によって断線を起こす予兆を検知するものであった。しかし、電線においては、金属疲労による導体の断線以外にも、損傷が生じる可能性がある。例えば、導体の金属疲労による断線が、屈曲や振動の繰り返しにより、長期にわたって進行するものであるのに対し、外力等により、突発的に電線に大きな衝撃が加わった際にも、導体に断線が生じる可能性がある。また、外部の物体との接触や摩擦等により、電線に外傷が生じ、絶縁被覆や、さらには導体の破断に至る可能性がある。第一の実施形態で説明した検知線31の破断を利用する検知法は、金属疲労による電線導体21の断線の予兆は、敏感に検知できるものである一方、突発的な衝撃による電線導体21の断線の予兆や、外部の物体との接触や摩擦による対象電線2への外傷の形成の予兆は、必ずしも敏感に検知できるものではない。そこで、次に説明する第二の実施形態および第三の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1’,1”おいては、それら衝撃や外傷に起因する対象電線2の損傷の予兆も、金属疲労による断線の予兆と合わせて検知できるように、検知線3に加えて、外側検知層を設けている。
【0053】
外側検知層は、後に詳しく説明するように、第二の実施形態においては、
図3A,3Bに示す導電テープ7として構成され、第三の実施形態においては、
図4A~4Cに示す積層テープ8として構成されている。これら外側検知層は、導電性部材を含んだ層状の部材として構成され、シース5と電線群Gの間に配置される。図示した形態では、外側検知層7,8は、テープ層4の外周に配置されているが、テープ層4の内側、つまり電線群Gに接する箇所に配置してもよい。いずれの場合にも、外側検知層とテープ層4の集合体が、内周層とみなされ、その集合体の表面に密着した押出成形体として、シース5が形成される。なお、外側検知層をシース5の外周に設けても、対象電線2の損傷の予兆を検知する目的を達することはできるが、正確な損傷の検知を継続するために、外側検知層を外部の環境から保護する観点から、外側検知層はシース5の内側に設けられる。
【0054】
ケーブル1’,1”の中心に対して、検知線3よりも外側検知層の方が外側に配置されているため、ケーブル1’,1”が、外力により突発的に大きな衝撃を受けた際や、外部の物体との間に接触や摩擦を受けた際に、検知線3よりも外側検知層の方が、大きな負荷を受けやすく、破断を起こしやすい。よって外側検知層の破断を検出することで、対象電線2に衝撃や外傷に起因する損傷の予兆が発生していることを、敏感に検知することができる。外側検知層は、後に説明する導電テープ7や積層テープ8に限られず、導電性部材を有するものであれば、具体的な形態を限定されるものではないが、外側検知層に含まれる導電性部材が、検知線3の検知線導体31の外径よりも小さい厚みを有する金属層として構成されていることが好ましい(
図3B,4Cでは分かりやすいように、金属層7,82を厚めに表示している)。そうすれば、検知線3の破断には至らない突発的な衝撃の印加や、外部の物体との接触や摩擦を受けた際にも、外側検知層の導電性部材が破断を起こしやすく、検知線3だけでは検知できない対象電線2の損傷の予兆を、外側検知層によって敏感に検知することが可能となる。
【0055】
以下、本開示の第二の実施形態および第三の実施形態として、検知線3に加えて外側検知層7,8を備えた異常予兆検知機能付ケーブル1’、1”、およびそれらの異常予兆検知機能付ケーブル1’,1”を対象とした電線異常予兆検知装置の例を、具体的に説明する。それら第二の実施形態および第三の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1’,1”は、外側検知層7,8を有する点以外の構成は、上記で詳しく説明した第一の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1と同じであり、第一の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1および電線異常予兆検知装置9と共通する構成については、説明を省略する。
【0056】
図3A,3Bに、本開示の第二の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1’の構成を示す。
図3Aはシース5を省略した斜視図、
図3Bは軸線方向に垂直に切断した断面をシース5を含めて示す断面図である。ケーブル1’は、テープ層4の外周に、導電テープで構成された外側検知層7を有している。
【0057】
導電テープ7は、導電性を有するテープ体として構成されている。導電テープ7は、絶縁性のテープ層4でまとめられた電線群Gの外周に、電線群Gの軸線方向に沿って、電線群Gを中心とした螺旋状に巻き付けられている。導電テープ7は、螺旋形状において、隣接するターン間に、導電テープ7に占められない間隙Sを残した状態で、粗く巻き付けられている。ターン間の間隙Sにおいては、電線群Gに巻き付けられた絶縁性のテープ層4が、導電テープ7に被覆されずに露出している。
【0058】
導電テープ7は、導電性材料を含んで構成されるものであれば、どのような材料より構成されてもよいが、導電性材料として、金属の層を含んで構成されることが好ましい。この場合に、導電テープ7は、全域が金属材料よりなる金属箔の形態で形成されても、基材の表面に、金属材料の層が形成されたものであってもよい。基材を用いる場合に、基材の面のうち、少なくとも、電線群Gに巻き付けられた状態で外側に向く面に、金属材料の層が形成されていれば、基材自体は、有機ポリマー材料等、絶縁性の材料より構成されてもよい。上記のように、導電テープ7を構成する導電性材料の層の厚さは、各検知線導体31の径よりも小さいことが好ましい。
【0059】
ケーブル1’が、突発的な外力の印加等によって急激に大きな衝撃を受けることや、外部の物体との接触や摩擦によって、シース5を破断させるような外傷を受けることがあれば、導電テープ7に破断が発生する場合がある。導電テープ7は、対象電線2よりも外側に存在するため、それらの衝撃や外傷によって、対象電線2が即座に損傷を受けることがなかったとしても、導電テープ7には破断が発生する可能性がある。この場合に、対象電線2にも、衝撃による電線導体21の断線や、外傷による電線被覆22や電線導体21の破損につながりうる負荷が及ぶ場合がある。そこで、導電テープ7の破断を検出することで、対象電線2への負荷の印加により、対象電線2に損傷に至る予兆が発生していることを、検知することができる。
【0060】
本実施形態にかかるケーブル1’においては、検知線3の破断によって、主に金属疲労に起因する対象電線2の断線の予兆を検知することができるとともに、外側検知層として設けられた導電テープ7の破断によって、衝撃や外傷に起因する対象電線2の損傷の予兆を検知することができる。このように、ケーブル1’に検知線3と外側検知層7をともに設けることにより、検知線3のみを設ける第一の実施形態にかかるケーブル1’と比較して、対象電線2に対して、多様な損傷の予兆を検知することが可能となっている。
【0061】
導電テープ7の破断も、検知線導体31の破断と同様、特性インピーダンス測定、特に反射法での測定により、検出することが好ましい。導電テープ7に破断が生じると、検査信号の反射により、特性インピーダンスに不連続な変化が生じる。導電テープ7の特性インピーダンスの測定は、導電テープ7と、アース電位と間、あるいは検知線導体31または電線導体21の1つとの間で行えばよい。導電テープ7についても、検知線導体31と同様に、特性インピーダンスの計測を、TDR法によって行えば、破断の有無のみならず、破断が生じている位置まで特定することも可能である。なお、導電テープ7において、特性インピーダンスの変化は、破断にまでは至らない導電テープ7の損傷によっても発生する。本明細書においては、導電テープ7の破断による特性インピーダンスの変化を代表として扱っているが、破断以外の導電テープ7の損傷についても、同様に、特性インピーダンスの変化を介して、対象電線2の損傷の予兆の検知に利用することができる。
【0062】
外側検知層としての導電テープ7は、電線群Gを囲んで配置されていれば、具体的な配置形態は限定されるものではないが、上記のように、ターン間に間隙Sを設けた螺旋状に巻き付けられていることにより、ターン間に間隙Sを有さない螺旋状等、電線群Gの外周の全域を導電テープ7で囲む場合よりも、破断による特性インピーダンスの変化を、敏感に検出することができる。導電テープ7が外傷等によって破断した際に、ケーブル1’の軸線方向に沿った各位置の断面において、導電テープ7が被覆する領域の面積の変化率(破断を起こす前の状態を基準とした変化の割合)が大きくなり、その結果、特性インピーダンスの変化率も大きくなるからである。間隙Sの大きさとしては、例えば、導電テープ7に被覆されずに間隙Sとして露出される領域の面積割合を、50%以上とすればよい。また、ケーブル1’の軸線方向に沿った位置によらず、外傷等による導電テープ7の破断を敏感に検知できるように、軸線方向に沿って想定される外傷の長さが、導電テープ7の螺旋形状のピッチに対して十分長くなるように、螺旋ピッチを設定しておくことが好ましい。
【0063】
このように、ケーブル1’が、検知線3に加えて、外側検知層としての導電テープ7の層を有する形態において、対象電線2の損傷の予兆を検知するために、電線異常予兆検知装置9においては、計測部91によって、検知線導体31の特性インピーダンスに加え、外側検知層を構成する導電テープ7の特性インピーダンスを計測できるように構成すればよい。そして、導電テープ7の特性インピーダンスに基準値以上の変化が生じた際に、導電テープ7に破断が発生しており、対象電線2に損傷の予兆が生じていると判定する。基準値は、導電テープ7に破断が発生していない場合の実測結果等に基づいて、導電テープ7の破断によるものとみなすべき変化量の閾値として、あらかじめ定めておけばよい。計測部91を構成する計測機器としては、検知線導体31の特性インピーダンスを計測する機器と、外側検知層7の特性インピーダンスを計測する機器を、共通のものとして設けても、それぞれ独立して設けてもよい。
【0064】
通知部92は、計測部91による計測で、検知線導体31の特性インピーダンスに基準値以上の変化が生じた際に、対象電線2に損傷の予兆が存在することを通知するのに加え、外側検知層を構成する導電テープ7の特性インピーダンスに基準値以上の変化が生じた際にも、対象電線2に損傷が生じる予兆が存在することを、外部に通知する。上記で説明したように、検知線導体31の特性インピーダンスの変化が、金属疲労による対象電線2の電線導体21の断線の予兆を敏感に検出しうるものであるのに対し、外側検知層7の特性インピーダンスの変化は、突発的な衝撃の印加や外傷の形成によって、対象電線2の電線導体21や電線被覆22に損傷が生じる予兆を敏感に検出しうるものであり、検知線導体31の特性インピーダンスの変化が基準値以上となった場合と、外側検知層7の特性インピーダンスの変化が基準値以上となった場合で、通知部92が異なる通知を発し、両形態を区別できるようにしておくことが好ましい。そうすれば、検知線導体31に予兆が生じている損傷の種類やその原因を、使用者等が識別することができる。
【0065】
<第三の実施形態>
次に、本開示の第三の実施形態として、第二の実施形態の導電テープ7の代わりに、積層テープ8を用いて外側検知層が形成された形態について説明する。第二の実施形態と共通する構成については、説明を省略する。
【0066】
図4A,4Bに、本開示の第三の実施形態にかかる異常予兆検知機能付ケーブル1”の構成を示す。
図4Aはシース5を省略した斜視図、
図4Bは軸線方向に垂直に切断した断面をシース5を含めて示す断面図である。第三の実施形態にかかるケーブル1”は、テープ層4でまとめられた電線群Gの外周に、積層テープ8で構成された外側検知層を有している。積層テープ8は、電線群Gを囲んで配置されていれば、具体的な配置形態を特に限定されないが、図示した形態では、電線群Gを中心として、螺旋状に巻き付けられている。積層テープ8の螺旋形状においては、螺旋のターン間に、空隙を設けても、設けなくても、いずれでもよい。
【0067】
積層テープ8は、
図4Cに断面図(テープ長手方向に直交する断面)を示すように、テープ状の絶縁体または半導体よりなる基材81の両面にそれぞれ、導電性の被覆層82,82を形成したものとして構成されている。積層テープ8においては、両面に設けられた被覆層82,82が、外側検知層の導電性部材として機能する。積層テープ8において、基材81の構成材料は、絶縁体または半導体であれば、特に限定されるものではないが、可撓性や厚みの確保等の観点から、絶縁性の不織布テープより形成する形態が特に好ましい。被覆層82,82を構成する材料も、導電性材料であれば、特に限定されるものではないが、銅または銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金等の金属を好適に用いることができる。一方の被覆層82の面には、適宜、接着テープ83を設けることができる。接着テープ83を利用して、積層テープ8を、ケーブル1”の外周に巻きつけた状態に固定することができる。
【0068】
第三の実施形態にかかるケーブル1”において、突発的に大きな衝撃が印加されることや、外部の物体との接触や摩擦によって外傷が発生することがあると、積層テープ8に損傷が発生する場合がある。このような積層テープ8の損傷を検出することで、衝撃の印加や外傷に起因して、対象電線2に損傷が発生する予兆があることを、検知することができる。積層テープ8に損傷が生じていることは、2層の導電性被覆層82,82の間の特性インピーダンスを計測することで、検知することができる。積層テープ8に損傷が形成されていない状態では、2層の被覆層82,82は、基材81によって相互に絶縁された状態で、それぞれ積層テープ8の長手方向に沿った導電性の連続体として存在しており、基材81および被覆層82,82の材質や厚さ等によって定まるコンダクタンスを有している。ここで、積層テープ8の破断によって、2層の被覆層82,82の少なくとも一方が破断することや、あるいは、積層テープ8への導電性物質の貫通や積層テープ8の圧迫によって、2層の被覆層82,82が相互に短絡することがあれば、2層の被覆層82,82の間のコンダクタンスが変化する。そのコンダクタンス成分の変化は、2層の被覆層82,82の間の特性インピーダンスの変化として、観測される。
【0069】
第三の実施形態にかかるケーブル1”を対象とした電線異常予兆検知装置9としては、計測部91によって、検知線導体31の特性インピーダンスを監視するとともに、外側検知層を構成する積層テープ8の2層の被覆層82,82の間の特性インピーダンスを監視すればよい。そして、通知部92によって、検知線導体31の特性インピーダンスに基準値以上の変化が生じた際に加え、積層テープ8の2層の被覆層82,82の間の特性インピーダンスに基準値以上の変化が生じた際にも、対象電線2に損傷の予兆が生じていることを、適宜両者を区別して、外部に通知すればよい。
【0070】
さらに、積層テープ8の基材81を半導体として構成し、2層の被覆層82,82の間に、基材81を介して短絡しない程度の低電圧を印加した状態で、2層の被覆層82,82の間の特性インピーダンスを監視する形態としておけば、損傷の予兆検知の感度をさらに高めることができる。積層テープ8が圧迫等の外力を受けた際に、2層の被覆層82,82の物理的な相互接触による短絡には至らない程度の外力であっても、絶縁破壊によって2層の被覆層82,82の間で短絡が生じ、特性インピーダンスの変化として検出される可能性があるからである。
【0071】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0072】
1,1’,1” (異常予兆検知機能付)ケーブル
2 対象電線
2A,2B 給電線
2C,2D 信号線
21(21A~21D) 電線導体
22 電線被覆
3 検知線
3A 第一の検知線
3B 第二の検知線
3C 第三の検知線
31 検知線導体
31A 第一の検知線導体
31B 第二の検知線導体
31C 第三の検知線導体
32 検知線被覆
33 第一の金属材料の素線
34 第二の金属材料の素線
4 テープ層
5 シース
51 外層
52 内層
7 導電テープ(外側検知層)
8 積層テープ(外側検知層)
81 基材
82 被覆層
83 接着テープ
9 (電線異常予兆)検知装置
91 計測部
92 通知部
93 ディスプレイパネル
B 検知線導体の破断
G 電線群
S 間隙