IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-積層体 図1
  • 特許-積層体 図2
  • 特許-積層体 図3
  • 特許-積層体 図4
  • 特許-積層体 図5
  • 特許-積層体 図6
  • 特許-積層体 図7
  • 特許-積層体 図8
  • 特許-積層体 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 7/025 20190101AFI20221004BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20221004BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221004BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B32B7/025
H01B1/22 B
H01B1/24 B
B32B27/00 M
B32B27/18 J
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021040024
(22)【出願日】2021-03-12
(62)【分割の表示】P 2018504420の分割
【原出願日】2017-03-02
(65)【公開番号】P2021100816
(43)【公開日】2021-07-08
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】P 2016044426
(32)【優先日】2016-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】特許業務法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】権 義哲
(72)【発明者】
【氏名】石丸 園子
(72)【発明者】
【氏名】入江 達彦
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘倫
(72)【発明者】
【氏名】森本 翔太
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2017/154726(JP,A1)
【文献】国際公開第2016/017644(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/080470(WO,A1)
【文献】特開昭62-058513(JP,A)
【文献】特開2004-006239(JP,A)
【文献】特開2005-048317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
H01H25/00-25/06
89/00
H01B1/22
1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
離型シート、
第一の伸縮性導体層、
第二の伸縮性導体層、及び
ホットメルト接着層を少なくともこの順番で有し、
前記第一の伸縮性導体層は、導電フィラーとして炭素系粒子を含み、
前記第二の伸縮性導体層は、導電フィラーとして金属系粒子を含むことを特徴とする積層体。
【請求項2】
離型シート、
第一の伸縮性導体層、
第二の伸縮性導体層、
ホットメルト接着層、及び
セパレートシートを少なくともこの順番で有し、
前記第一の伸縮性導体層は、導電フィラーとして炭素系粒子を含み、
前記第二の伸縮性導体層は、導電フィラーとして金属系粒子を含むことを特徴とする積層体。
【請求項3】
前記ホットメルト接着層が、45℃~250℃の範囲の加熱により布帛に接着可能なホットメルト接着層である請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
前記離型シートの可視光線透過率が30%以上である請求項1~3のいずれかに記載の積層体。
【請求項5】
前記第一の伸縮性導体層と、前記第二の伸縮性導体層とからなる伸縮性導体層の非伸張時の皮膜抵抗が500mΩ以下であり、50%伸張時の伸長方向の皮膜抵抗が1kΩ以下である請求項1~4のいずれかに記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伸縮性の基材に積層可能なシート状の伸縮性導体シート、およびそれらを使用した衣服型電子機器等に用いられる電気配線の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
昨今、入出力、演算、通信機能を有する電子機器を身体に極近接、ないしは密着した状態で使用することを意図したウェアラブル電子機器が開発されている。ウェアラブル電子機器には腕時計、メガネ、イヤホンのようなアクセサリ型の外形を有する機器、衣服に電子機能を組み込んだテキスタイル集積型の衣服型電子機器が知られている。
【0003】
電子機器には、電力供給用や信号伝送用の電気配線が必要である。特にテキスタイル集積型ウェアラブル電子機器には、伸縮する衣服に合わせて電気配線にも伸縮性が求められる。通常、金属線や金属箔からなる電気配線には、本質的に実用的な伸縮性は無いため、金属線や金属箔を波形、あるいは繰り返し馬蹄形に配置して、擬似的に伸縮機能を持たせる手法が用いられている。金属線の場合には、金属線を刺繍糸と見なして、衣服に縫い付けることにより配線形成が可能である。しかしながら、かかる手法が大量生産に向いていないことは自明である。
【0004】
金属箔のエッチングにより配線を形成する手法は、プリント配線板の製法として一般的である。金属箔を伸縮性のある樹脂シートに貼り合わせ、プリント配線板と同様の手法で波形配線を形成して、擬似的に伸縮性配線とする手法が知られている。かかる手法は波形配線部の捻れ変形により擬似的に伸縮特性を持たせるものであるが、捻れ変形により金属箔が厚さ方向にも変異するため、衣服の一部として用いると、非常に違和感のある着用感となり好ましいものではなかった。また洗濯時のような過度な変形を受けた場合には金属箔に永久塑性変形が生じ、配線の耐久性にも問題があった。
【0005】
特許文献1には電極や配線を設けようとする領域以外の領域の布地をマスキングした上で、導電性高分子を含む塗料を塗布する方法が例示されている。特許文献1記載の方法で形成された衣服は、導体層が布地の伸長に追従できないため、使用時に断線が発生する懸念がある。さらに、かかる方法で作製された導電性布帛においては、導電性高分子含有塗料が布地内部に染み込んでしまうため、布地上に連続して形成される導電層の厚さを十分に確保し難く電気配線としての十分な低抵抗を実現することが難しい。
【0006】
伸縮性の導体配線を実現する手法として、特殊な導電ペーストを用いる方法が提案されている。銀粒子、カーボン粒子、カーボンナノチューブ等の導電性粒子と伸縮性を持つウレタン樹脂などのエラストマー、天然ゴム、合成ゴム、溶剤などを混練してペースト状とし、衣服に直接、ないし伸縮性のフィルム基材などと組み合わせて配線を印刷描画するものである。導電粒子と伸縮性バインダー樹脂とからなる導電性組成物は、巨視的には伸縮可能な導体を実現することができる。かかるペーストから得られる導電性組成物は、微視的に見れば、外力を受けた際に樹脂バインダー部変形し、導電性粒子の電気的連鎖が途切れない範囲で導電性が維持されるものである。巨視的に観察される比抵抗は、金属線や金属箔に比較すると高い値であるが、組成物自体が伸縮性を持つために波形配線などの形状を採る必要が無く、配線幅と厚さには自由度が高いため実用的には金属線に比較して低抵抗な配線を実現可能である。
【0007】
特許文献2では、銀粒子とシリコ-ンゴムを組合せ、シリコーンゴム基板上の導電性膜をさらにシリコーンゴムで被覆することにより、伸長時の導電率低下を抑制する技術が開示されている。特許文献3には銀粒子とポリウレタンエマルジョンの組合せが開示されて
おり、高導電率でかつ高伸長率の導電膜が得られるとされている。さらにカーボンナノチューブや銀粒子など、高アスペクト比の導電性粒子を組み合わせて特性改善を試みた例も多々提案されている。
【0008】
このような導電インクないし導電ペーストを印刷して得られる回路配線は、所謂メンブレン回路として知られている。メンブレン回路は、情報端末のキーボードや、家電製品の操作パネルなどのスイッチと配線に用いられる。主たる導体は印刷にて形成される金属ペースト、多くは銀ペーストからなる硬化物層である。かかる銀を主体とする印刷導体は、配線部においては絶縁カバーコート層で被覆されており、接点となる電極部の表面は導電性のあるカーボンインクから得られる導電性組成物にてカバーされる。かかる措置は、導電層を封止することにより酸化や硫化、あるいは環境物質による汚染から保護することを目的としている。同じ考え方は印刷により形成される導体層のみならず、一般的な銅箔をエッチングして配線形成するプリント配線板でも同様であり、配線部はソルダーレジストと呼ばれる絶縁コート樹脂で、接点や接続部になる電極部は貴金属メッキないしはハンダでカバーされるのが通例である。一般化すれば、すなわち電気配線において、導電層金属は直接大気に触れないように、しかるべき表面層を設けて取り扱われる事が常道であると理解できる。
【0009】
この原則は、衣服型の電子機器に用いられる伸縮性導体層においても同様に適用されるべきである。特にこのような応用分野において、衣服の内側、すなわち人体と直接触れる側に形成された電気配線部の表面層は、大気のみならず、汗などの体液を含む湿気に暴露される。さらに風雨や、場合によっては海水に暴露される可能性も有り、なおさらに、日常的に洗濯および乾燥、すなわち直射日光への暴露など、一般のプリント配線板よりはるかに過酷な環境下で使用されることを認識しなければならない。しかも、衣服型の電子機器における配線は使用時において、常に伸縮動作が加えられているため、表面層は機械的変形に対する耐性と同時に、下層の保護機能を保たなければならない。しかしながら従来これらの特許文献に開示された技術には、このような観点より導電皮膜を保護するため技術については開示されていない。
【0010】
特許文献4では、印刷法を用いて電気配線を衣服に直接的に形成する技術が開示されている。しかしながら前記の導体層の保護にかかわる観点からの記述は無い。現実の電気配線は少なくとも配線層と絶縁層が必要になり、両者の位置合わせが重要である。特許文献4では、あらかじめ電子布または電子衣料の布面上の一部に糸および各糸の間隙を含む平面上を樹脂で充填固化された一様な平滑面を作ることにより印刷性を改善しているが、充填固化が過ぎると衣服の柔軟性が失われ、充填固化が不足すると位置合わせが困難になるという二律背反を招くことが懸念される。
【0011】
特許文献5には伸縮性を有する基材と、該基材の表面に積層および並列の少なくとも一方の形態で配置される複数の導電層とを備え、該導電層は、エラストマーおよび導電材を含み未伸長時の体積抵抗率が5×10-2Ω・cm以下の高導電性材料からなる第一導電層 と、未伸長時の体積抵抗率が該高導電性材料の未伸長時の体積抵抗率よりも大きく、エラストマーおよび導電材を含み未伸長時に対する50%伸長時の体積抵抗 率の変化が10倍以下の高伸長性導電材料からなる第二導電層と、を有することを特徴とする柔軟導電部材が開示されている。特許文献5には銀を導電フィラーとする柔軟性導体組成物と炭素系材料を導電フィラーとする柔軟性導体組成物を重ねて使用する例が示されており、両者を組み合わせることにより高導電性と高伸張が両立することが示されている。しかしながら層構成においては第一導電層と第二導電層のいずれかが、たがいに表面層となる例が示されており、一方の層が他方の層の保護層として機能する旨の技術思想を読み取ることは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2014-151018号公報
【文献】特開2007-173226号公報
【文献】特開2012-54192号公報
【文献】特許第3723565号公報
【文献】WO2014080470A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、本発明の目的は、ハンドリングと位置合わせが容易な積層体を提供することにある。本発明の他の目的は、布帛など伸縮性の基材に対して、精度良く配線形成が可能であり、かつ、人体からの汚染に対して十分な保護機能のある表面層を有し、洗濯、乾燥などの衣服としての通常の使用に耐性を有する伸縮性導体シート、およびそれを用いた衣服型の電子機器の電気配線形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明は以下の構成である。
[1]少なくとも第一の伸縮性導体層と第二の伸縮性導体層を有しする複層からなる伸縮性導体シートにおいて、該伸縮性導体シートの破断伸び率が50%以上であり、該第一の伸縮性導体層は、炭素系粒子を導電フィラーとする伸縮性導体組成物からなり、第二の伸縮性導体層は金属系粒子を導電フィラーとする伸縮性導体組成物からなり、非伸張時の皮膜抵抗が500mΩ以下であり、50%伸張時の伸長方向の皮膜抵抗が1kΩ以下である事を特徴とする伸縮性導体シート。
【0015】
[2]前記第一の伸縮性導体層の厚さが12μm以上であることを特徴とする[1]記載の伸縮性導体シート。
[3]伸縮性導体シートの破断伸度が65%以上である事を特徴とする[1]または[2]に記載の伸縮性導体シート。
[4]前記第一の伸縮性導体層が炭素系粒子を30%以上含有することを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の伸縮性導体シート。
[5]前記第一の伸縮性導体層を構成する伸縮性導体層が、BET比表面積が1000平方m/g以上の炭素系粒子を4質量%以上含有する事を特徴とする[1]から[4]のいずれかに記載の伸縮性導体シート。
【0016】
[6]前記[1]から[5]のいずれかに記載の伸縮性導体シートの第二の導体層側に、45℃~250℃の範囲の加熱により布帛に接着可能なホットメルト接着層を有する接着性のある伸縮性導体シート。
[7]少なくとも片面が離型性を有する厚さが15~190μmの離型性高分子フィルムの離型性面側に第一の伸縮性導体層、次いで第二の伸縮性導体層、次いでホットメルト接着剤層の順で層構成を有する[6]に記載の接着性のある伸縮性導体シート。
[8]前記離型性高分子フィルムが可視光線を30%以上透過することを特徴とする[7]に記載の接着性のある伸縮性導体シート。
【0017】
[9]少なくとも、
(1)前記[7]または[8]に記載の接着性のある伸縮性導体シートの、ホットメルト層側から離型性高分子フィルムの表面に達する深さまでスリットを入れることにより、接着性のある伸縮性導体シートを必要部と不要部に分割する工程。
(2)前記不要部を剥離除去する工程、
(3)前記、不要部を除去した後の、必要部に布帛を重ね、加熱する工程、
(4)離型性高分子フィルムを剥離する工程、
を含む事を特徴とする、布帛上への伸縮性導体からなる電気配線の形成方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明では導電性が高い主導体となる第二の伸縮性導体層を、好ましくはホットメルト接着剤により布帛に貼り付け、人体に接触する電極表面側に保護機能を有する第一の導体層を配置して使用する。第一の伸縮性導体層には、第二の伸縮性導体層を保護する機能が求められる。本発明では第一の伸縮性導体層の導電フィラーに炭素系粒子を用いる。一般に導電フィラーを配合した導電層は複合材料であるがゆえに、微視的には均質性に欠け、ミクロボイドやフィラー表面を伝わる内部パスなどを生じやすい。そのため複層構造の表面層に用いた場合に、内層に対して汚染物質を遮蔽する機能を持たせることは難しい。しかしながら、本発明の第一の導体層は、まず所定の物性と厚さを有することにより、着用時や洗濯時の伸縮負荷から第二伸縮性導体層を保護し、さらに、炭素系材料の有する吸着性能により、第二伸縮性導体層の金属系フィラーの電気特性に影響を与える、生体由来の塩分、硫化水素、アンモニアなどを遮蔽する効果を発揮する。このような吸着による遮蔽効果は、好ましく用いられる特定の炭素系粒子を用いることにより、さらに高くなる。その結果、着用と洗濯を繰り返した場合、あるいは着用後に所定時間洗濯せずに放置した場合においてもシート全体として導電性を損なうこと無く、繰り返し使用が可能である。
【0019】
さらに本発明では、かかる層構成を有する接着性のある伸縮性導体層を、好ましくは光線透過性のある離型基材上に構成し、離型基材を残して伸縮性胴体部分にスリットを入れることにより、伸縮し得導体シートを必要部と不要部に分割し、あらかじめ不要部を剥離除去したのち布帛に必要部を転写することにより、複雑な形状の配線であっても、離型基材が仮支持体となるため容易にハンドリングできる。また、かかる離型基材が光線透過性を有しているために、布帛の所定部分への位置合わせが容易である。本発明では離型基材側から、基材を透かして見ることのできる第一の伸縮性導体層は、炭素系フィラーを高濃度に含有するため黒色であり、仮に基材の透明性が比較的低い場合であっても十分に視認性が確保されるため、正確な位置合わせが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、第一の伸縮性導体層と第二の伸縮性導体層からなる本発明の伸縮性導体シートの断面を示す模式図である。
図2図2は、第一の伸縮性導体層、第二の伸縮性導体層、ホットメルト層からなる本発明の接着性を有する伸縮性導体シートの断面を示す模式図である。
図3図3は、離型フィルム、第一の伸縮性導体層、第二の伸縮性導体層、ホットメルト層からなる本発明の接着性を有する伸縮性導体シートの断面を示す模式図である。
図4図4は、本発明の接着性を有する伸縮性導体シートによる転写法を用いた、布帛に電気配線を形成する方法を示した概略模式図である。
図5図5は、布地にあらかじめ下地層が設けられていた場合を示す断面の模式図である。
図6図6は、下地層が接着層を介して布地に接着されている場合の断面の模式図である。
図7図7は、下地層なしで伸縮性導体シートを布地に接着し、さらにカバーコート層を設けた場合の断面を示す模式図である。
図8図8は、伸縮性導体シートを下地層のある布地に接着し、さらにカバーコート層を設けた場合の断面を示す模式図である。
図9図9は、下地層を接着層を介して布地に接着し、さらに伸縮性導体シートを接着し、さらにカバーコート層を設けた場合の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の第一の伸縮性導体層を構成する組成物に用いられる導電フィラーは炭素系粒子である。本発明における炭素系粒子としては、グラファイト粉末、活性炭粉末、鱗片状黒鉛粉末、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、フラーレン、単層カーボンナノチューブ、複層カーボンナノチューブ、カーボンナノコーンなどを用いることができる。本発明においては、好ましく用いられる炭素系粒子はグラファイト粉末、鱗片状黒鉛粉末、活性炭粉末、ケッチェンブラックである。本発明では、さらに、少なくともBET比表面積が1000m/g以上の炭素系粒子を用いることが好ましい。
【0022】
本発明の第一の伸縮性導体層を構成する組成物は、前記炭素系粒子と柔軟性樹脂バインダーから構成される。炭素系粒子は、炭素系粒子とバインダーの合計質量に対し18~60質量%配合することが出来る。本発明における炭素系粒子は、炭素系粒子とバインダーの合計質量に対し30質量%以上含有することが好ましく、さらに33質量%以上含有することが好ましく、さらに36質量%以上含有することが好ましく、さらに39質量%以上含有することが好ましい。炭素系粒子の含有量が所定の範囲に満たないと、必要な導電性のみならず、被カバー層に対する保護機能が低下する。一方で含有量がこの範囲を超えると膜の破断伸度が低下する。
本発明の第一の伸縮性導体層を構成する組成物は、BET比表面積が1000m/g以上の炭素系粒子を4質量%以上含有することが好ましく、さらに6質量%以上含有することが好ましく、なおさらに8質量%以上含有することが好ましい。BET比表面積が1000m2の炭素系粒子を配合することにより、被カバー層の保護機能が格段に改善される。
【0023】
本発明において、第二の伸縮性導体層を構成する伸縮性導体組成物に用いられる導電フィラーは金属系粒子である。金属系粒子としては、銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、アルミニウム、亜鉛、鉛、錫などの金属粒子、黄銅、青銅、白銅、半田などの合金粒子、銀被覆銅のようなハイブリッド粒子、さらには金属メッキした高分子粒子、金属メッキしたガラス粒子、金属被覆したセラミック粒子なども用いることができる。また補助的に炭素系粒子を併用しても良い。
【0024】
本発明ではフレーク状銀粒子ないし不定形凝集銀粉を主体に用いることが好ましい。なお、ここに主体に用いるとは導電性粒子の90質量%以上用いることである。不定形凝集粉とは球状もしくは不定形状の1次粒子が3次元的に凝集したものである。不定形凝集粉およびフレーク状粉は球状粉などよりも比表面積が大きいことから低充填量でも導電性ネートワークを形成できるので好ましい。不定形凝集粉は単分散の形態ではないので、粒子同士が物理的に接触していることから導電性ネートワークを形成しやすいので、さらに好ましい。
【0025】
フレーク状粉の粒子径は特に限定されないが、動的光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)が0.5~20μmであるものが好ましい。より好ましくは3~12μmである。平均粒子径が15μmを超えると微細配線の形成が困難になり、スクリーン印刷などの場合は目詰まりが生じる。平均粒子径が0.5μm未満の場合、低充填では粒子間で接触できなくなり、導電性が悪化する場合がある。
【0026】
不定形凝集粉の粒子径は特に限定されないが、光散乱法により測定した平均粒子径(50%D)が1~20μmであるものが好ましい。より好ましくは3~12μmである。平均粒子径が20μmを超えると分散性が低下してペースト化が困難になる。平均粒子径が1μm未満の場合、凝集粉としての効果が失われ、低充填では良導電性を維持できなくなる場合がある。
【0027】
本発明の第二の伸縮性導体層を構成する組成物は、前記金属系粒子と柔軟性樹脂バイン
ダーから構成される。金属系粒子は、金属系粒子とバインダーの合計質量に対し40~92質量%配合することが出来る。本発明における金属系粒子は、金属系粒子とバインダーの合計質量に対し50~90質量%含有することが好ましく、さらに58~88質量%含有することが好ましく、さらに66~86質量%含有することが好ましく、さらに70~85質量%含有することが好ましい。金属系粒子の含有量が所定の範囲に満たないと、必要な導電性が低下する。一方で含有量がこの範囲を超えると膜の破断伸度が低下する。
【0028】
本発明では、第二の伸縮性導体層を構成する組成物に非導電性の粒子を配合しても良い。本発明における非導電性粒子とは、有機ないし無機の絶縁性物質からなる粒子である。本発明の無機粒子は印刷特性の改善、伸縮特性の改善、塗膜表面性の改善を目的に添加され、シリカ、酸化チタン、タルク、アルミナ、等の無機粒子、樹脂材料からなるマイクロゲル等を利用できる。
【0029】
本発明では好ましくは非導電性粒子とし硫酸バリウム粒子を用いることができる。本発明の硫酸バリウム粒子としては、天然の重晶石と呼ばれるバライト鉱物の粉砕品である簸性硫酸バリウムと、化学反応で製造されるいわゆる沈降性硫酸バリウムを使用することができる。本発明では粒子径の制御が行いやすい沈降性硫酸バリウムを用いることが好ましい。好ましく用いられる硫酸バリウム粒子の動的光散乱法によって求められる平均粒子径は、0.01~18μm、さらに好ましくは0.05~8μm、なおさらに好ましくは0.2~3μmである。また本発明の硫酸バリウム粒子は、、Al、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物によって表面処理されていることが好ましい。かかる表面処理により硫酸バリウム粒子の表面にAl、Siの一方または両方の水酸化物及び/又は酸化物が付着する。これらの付着量は蛍光X線分析による元素比率にてバリウム元素100に対して0.5~50であることが好ましく、2~30であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明における第一の伸縮性導体層および第二伸縮性導体層を構成する組成物の柔軟性樹脂バインダーとは、弾性率が、1~1000MPaの樹脂を云う。かかる柔軟性樹脂としては熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムなどが挙げられるが、膜の伸縮性を発現させるためには、ゴムないしウレタンが好ましい。ゴムとしては、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムや水素化ニトリルゴムなどのニトリル基含有ゴム、イソプレンゴム、硫化ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。この中でも、ニトリル基含有ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、ニトリル基含有ゴムが特に好ましい。本発明で好ましい弾性率の範囲は3~600MPaであり、さらに好ましく10~500MPa、なお好ましくは30~300MPaの範囲である。
【0031】
ニトリル基を含有するゴムは、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されないが、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムが好ましい。ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、結合アクリロニトリル量が多いと金属との親和性が増加するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。従って、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量は18~50質量%が好ましく、40~50質量%が特に好ましい。
【0032】
また、本発明の導電ペーストにはエポキシ樹脂を配合できる。本発明で好ましいエポキシ樹脂はビスフェノールA型エポキシ樹脂ないしはフェノールノボラック型エポキシ樹脂である。エポキシ樹脂を配合する場合、エポキシ樹脂の硬化剤を配合できる。硬化剤としては公知のアミン化合物、ポリアミン化合物などを用いればよい。硬化剤はエポキシ樹脂に対して5~50質量%配合することが好ましく、10~30質量%がさらに好ましい。またエポキシ樹脂と硬化剤の配合量は、柔軟性樹脂を含めた全樹脂成分に対して3~40
質量%、好ましくは5~30質量%、さらに好ましくは8~24質量%である。
【0033】
なお、本発明において第一の伸縮性導体、第二の伸縮性導体を構成する各々の組成物の柔軟樹脂バインダーは同じでも良いし、異なっても良い。本発明においては両者に共通成分がある事が、両層の接着性の観点から好ましい。
本発明では第一の伸縮性導体、第二の伸縮性導体のおのおの独立の破断伸度が65%以上である事が好ましく80%以上である事がさらに好ましく、110%以上である事がなおさらに好ましい。
【0034】
本発明の伸縮性導体シートの製造方法として、第一の伸縮性導体、第二の伸縮性導体を構成する各々の組成物を、柔軟性樹脂成分が十分に軟化する温度にて溶融混連してコンパウンド化し、溶融押出機にて順次積層成膜ないし同時積層成膜する方法を例示できる。本方法は高い生産性を要求される場合に使用することが好ましい。
本発明の伸縮性導体シートの製造方法として、第一の伸縮性導体、第二の伸縮性導体を構成する各々の組成物に含有される材料に、さらに柔軟性樹脂成分を溶解分散することの出来る溶剤とを配合し、スラリー状、ないしペーストに加工した後、支持体に順次塗布乾燥、ないし同時塗布乾燥することでシート化する製造方法を例示できる。
【0035】
本発明の伸縮性導体シートは、第一の伸縮性導体、第二の伸縮性導体を構成する各々の組成物にさらに溶剤を加えてペーストないしスラリー状とし、それらを逐次二層ないし同時に二層を基材上にコーティング、ないし印刷し、乾燥することによって得ることができる。本発明における溶剤は、水または有機溶剤である。溶剤の含有量は、ペーストに求められる粘性によって適宜調査されるべきであるため、特に限定はされないが、概ね導電性フィラーと柔軟性樹脂バインダー、必要に応じて添加される他の固体成分の合計質量を100した場合に30~80質量比が好ましい。
【0036】
本発明に使用される有機溶剤は、沸点が100℃以上、300℃未満であることが好ましく、より好ましくは沸点が130℃以上、280℃未満である。有機溶剤の沸点が低すぎると、ペースト製造工程やペースト使用に際に溶剤が揮発し、導電性ペーストを構成する成分比が変化しやすい懸念がある。一方で、有機溶剤の沸点が高すぎると、乾燥硬化塗膜中の残溶剤量が多くなり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。
【0037】
本発明における有機溶剤としては、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、イソホロン、γ-ブチロラクトン、ベンジルアルコール、エクソン化学製のソルベッソ100,150,200、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ターピオネール、ブチルグリコールアセテート、ジアミルベンゼン、トリアミルベンゼン、n-ドデカノール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノアセテート、トリエチレングリコールジアセテート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコール、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレートなどが挙げられる。また、石油系炭化水素類としては、新日本石油社製のAFソルベント4号(沸点:240~265℃)、5号(沸点:275~306℃)、6号(沸点:296~317℃)、7号(沸点:259~282℃)、および0号ソルベントH(沸点:245~265℃)なども挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれてもよい。このような有機溶剤は、導電性銀ペーストがコーティングないし印刷などに適した粘度となるように適宜含有される。
【0038】
本発明の伸縮性導体層を形成するためのペーストは、材料である導電性粒子、硫酸バリウム粒子、伸縮性樹脂、溶剤をディゾルバー、三本ロールミル、自公転型混合機、アトライター、ボールミル、サンドミルなどの分散機により混合分散することにより得ることができる。
本発明において、柔軟性樹脂バインダーの溶融粘度が比較的低い場合には、溶剤を用いずに、導電性フィラーと柔軟性樹脂バインダーを溶融混連して組成物とし、溶融押出で二層構成の伸縮性導体シートを得ることも可能である。
【0039】
本発明の複層からなる伸縮性導体シートの、非伸張時の皮膜抵抗は500mΩ以下であり、さらに360mΩ以下であることが好ましく、240mΩ以下がさらに好ましく、120mΩ以下がさらに好ましい。ここに皮膜抵抗とはシート抵抗とも呼ばれ、正方形シートの一辺から向かい側の一辺に向かう面方向の抵抗値である。実際的には長方形の長さ方向の抵抗値を求め、縦横比から正方形に換算することができる。本発明の皮膜抵抗は二種の伸縮性導体シートが積層された状態で測定される実用特性である。
【0040】
本発明の伸縮性導体シートは50%伸張時の伸長方向の皮膜抵抗が1kΩ以下である。これは、50%伸張、すなわち長さを1.5倍に伸ばした状態でのシート抵抗であり、長さ方向に対し、幅方向と厚さ方向は縮んだ状態での、正方形皮膜の抵抗である事に注意を要する。測定は長方形シートを伸張させて長さ方向の抵抗値を求め、長さと伸張時のシートの幅とから、正方形に換算して求めることができる。
【0041】
本発明の伸縮性導体シートの厚さは、特に限定されず、所定の皮膜抵抗が得られる十分な厚さがあれば良い。好ましい厚さは、第一の伸縮性導体層、第二の伸縮し得導体層の合計で15~1500μmであり、さらに好ましくは20~900μmであり、さらに好ましくは26~500μmであり、さらに好ましくは32~300μmであり、さらに好ましくは38~200μmであり、さらに好ましくは42~120μmである。
【0042】
本発明では第一の伸縮性導体層の厚さが12μm以上であることが好ましい。第一の伸縮性導体の厚さは、該皮膜による第二の伸縮性導体の保護効果に影響する。第一の伸縮性導体の厚さが足りない場合には、第二の伸縮性導体の劣化が進みやすくなる。
第一の伸縮性導体層の厚さは第一、第二あわせた伸縮性導体シートの厚さが24~48μmの場合には伸縮性導体シートの総厚さの半分以上であることが好ましい。また総厚さが48μm以上の場合には、伸縮性導体シートの総厚さの1/3以上であることが好ましい。
【0043】
本発明の伸縮性導体シートの破断伸度は65%以上であり、好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは110%以上であり、なおさらに好ましくは140%以上である。破断伸度がこの範囲に満たない場合には伸張時にクラックを生じやすく、結果として第二の導体層の参加、硫化などによる劣化を招きやすくなる。
【0044】
本発明におけるホットメルト接着層は、45℃~250℃の範囲の加熱により布帛に接着可能な熱可塑性樹脂、あるいは反応性ホットメルト接着剤と呼ばれる未硬化ないし半硬化状態の熱硬化性樹脂からなる接着剤である。より具体的にはポリエステル系、ポリウレタン系、エチレン酢酸ビニル系、ポリアミド系、ポリオレフィン系、ポリパラフィン系、エポキシ系、アクリル系などのホットメルト型接着性樹脂を用いることができる。本発明におけるホットメルト接着層は好ましくは60℃~230℃の範囲、さらに好ましくは80℃~210℃の範囲、さらに好ましくは90℃~180℃の範囲の加熱で布帛に接着することが好ましい。接着温度は布帛の耐熱性によって適宜選択され、一般の化繊の場合には150℃以下の比較的低温領域が、木綿や耐熱性繊維による布帛については150℃以上
、さらには180℃以上の加熱にて接着させることが可能となる。
ホットメルト接着層の厚さは好ましくは5~200μm、さらに好ましくは12~150μm、さらに好ましくは20~120μmである。
【0045】
本発明で用いられる離型フィルムとしては、PET,PEN等のポリエステル系フィルムの少なくとも片面に離型処理を行ったフィルムを用いることが出来る。離型処理にはフッ素樹脂コーティング、シリコーン樹脂コーティング、あるいはフッ素プラズマ処理などを例示することができる。また未処理のポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム、シリコーン樹脂シート、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルムなど、接着性に乏しい素材からなるフィルムないしシートを用いることも出来る。もちろんこれら難接着フィルムにさらに表面処理をしても良い。
本発明の離型フィルムの厚さは15~190μmが好ましく、24~130μmがさらに好ましく、40~105μmがさらに好ましい。離型フィルムの厚さが所定の範囲に無い場合、積層されている伸縮性導体シート部分のみにスリットを入れる場合に、スリットが不十分であったり、あるいは離型フィルムまで裁断してしまう可能性がある。
【0046】
本発明の離型フィルムは透明性を有することが好ましい。本発明の離型フィルムは可視光線の平均透過率が30%以上である事が好ましく50%以上がさらに好ましく、70%以上がなおさらに好ましい。離型フィルムの透明性が不十分な場合、予備スリットして不要部分を除去した伸縮性導体シートを布帛に転写する際の位置合わせが困難となる。
【0047】
本発明の離型フィルムは、ある程度の耐熱性を有する事が好ましい。耐熱性はガラス転移温度ないし軟化温度で判断することがあ出来る。本発明ではガラス転移温度ないし軟化温度のいずれか高い側が50℃以上である事が好ましく、65℃以上である事がさらに好ましく、85℃以上であることがさらに好ましく、125℃以上である事がさらに好ましく175℃以上である事がなお好ましい。離型フィルムの耐熱性は、ホットメルト接着層を用いて伸縮性導体シートを布帛に接着する際の温度にて適宜選択されて使用される。本発明において、第一の伸縮性導体層と離型フィルムの接着強度は0.03N/cm~4.0N/cm、好ましくは0.1N/cm~2.0N/cmである。接着強度がこの範囲を下回ると、シートの取り扱い性が困難となる場合がある。
【0048】
本発明の離型フィルムとホットメルト接着層を有する伸縮性導体シートは、離型フィルムの離型層側に第一の伸縮性導体層を形成し、さらに第二の伸縮性導体層を形成し、ホットメルト接着層を形成することにより得ることが出来る。第一の伸縮性導体層、第二の伸縮性導体層は順次積層しても良いし同時押し出し、ないしウェット・オン・ウェット・コーティングの手法で同時に形成しても良い。ホットメルト接着層も同様に伸縮性導体層と同時に押し出し、ないしコーティングで形成しても良い。簡便には別途ホットメルト接着層を、伸縮性導体層の上にプレスラミネートないしロールラミネートしてかかる構成とすることも可能である。
【0049】
本発明の離型フィルムとホットメルト接着層を有する伸縮性導体シートを用いれば、以下の方法で電気配線を布帛に転写することができ、電気配線付きの衣服を簡便に得ることができる。
図4を用いて本発明の好ましい電気配線形成方法を説明する。図4の1が本発明のホットメルト接着層と離型フィルムを有する伸縮性導体シートである。図4の2において、ホットメルト接着層側からスリットを入れ、ホットメルト接着層と第一、第二の伸縮性導体層に切り込みを入れる。スリットは離型フィルムに達しても良いが、離型フィルムを切断しないように注意が必要である。
【0050】
図4の3において、スリットを入れた中央部を離型フィルム上に残し、外側の部分を不
要部として剥離除去している。図4の4において布帛を重ね、布帛側ないし離型フィルム側から、あるいは両側から加熱、好ましくは加圧と加熱を同時に行い、ホットメルト接着層と布帛を接着させる。この際に、離型フィルムは透明性を有するため、離型フィルムを通して布帛の位置を確認できるため、位置決めを正確に行うことが出来る。伸縮性導体側のパターン形成は離型フィルム上でスリットにより行われるため、布帛側が既に衣服に加工されており、電気配線が縫い目を跨ぐ場合においても、なんら問題なく電気配線を形成可能である。図4の5において離型フィルムを剥離し、電気配線付きの布帛を得る。
【0051】
図4では、布帛側に特に下地層が無い場合について説明した。布帛に補強が必要な場合や、布帛とホットメルト接着剤の接着性に難がある場合、さらに布帛側に高い絶縁性能が要求される場合には、図5に示すように、あらかじめ布帛側に下地層を設けておくことができる。本発明の下地層は、コーティング液、浸漬液、あるいは印刷インク、印刷ペースト等の液状形態、ないしスラリー状態を介して基材上に適用されることが好ましい。下地層としてあらかじめ別途形成されたフィルムを用いる場合には、図6のように下地層となるフィルムをホットメルト接着層などで布帛にあらかじめ接着しておき、その後に電気配線を設けることもできる。下地層と布帛との接着は、特にホットメルト接着層には拘らない。
【0052】
以上のようにして形成された衣服上の電気配線には、さらに絶縁保護のために、図7図8図9に示すようにカバーコート層が設けられる。 カバーコート層は本発明の絶縁カバー層は、配線部の表面側の絶縁を担う層である。ここに絶縁とは電気絶縁に加え、機械的、化学的、生物学的な絶縁を含み、基材を透過してくる水分や化学物質、生体物質から導電層を絶縁する機能が必要である。
本発明の絶縁カバー層は好ましくは、柔軟な高分子材料である。柔軟な高分子材料としては所謂ゴム、エラストマーと呼ばれる材料を使用できる。本発明のかかるゴム、エラストマーとしては、導電層を形成するための樹脂材料を使用することができる。
本発明の絶縁カバー層は繰り返し10%以上の伸縮が可能なストレッチャビリティを有する事が好ましい。また本発明の絶縁カバー層は50%以上の破断伸度を有する事が好ましい。さらに本発明の絶縁カバー層は引っ張り弾性率が10~500MPaであることが好ましい。
【0053】
本発明の絶縁カバー層は、コーティング液、浸漬液、あるいは印刷インク、印刷ペースト等の液状形態、ないしスラリー状態を介して基材上に適用されることが好ましい。絶縁カバー層用材料を液状形態ないしスラリー状態にするには溶剤へ溶解分散すれば良い。印刷適性等の調整のために、公知のレベリング剤、チキソ性付与剤などを配合することは本発明の範囲内である。溶剤としては導電ペーストに用いることができる溶剤等の中から適宜選択される。
【0054】
本発明において、特殊なケースとして、絶縁カバー層を形成する材料の前駆体が液体である場合には、前駆体を用いて層形成し、しかるべき反応を経て、カバー層を形成することも可能である。紫外線硬化型樹脂などを用いる場合が、このケースに該当する。
本発明の絶縁カバー層用の材料が、液体状態ないしスラリー状態を介することが困難な場合、例えば溶融押出、プレス成形で、フィルムまたはシート状に加工し、しかるべき形状に外形加工した後に基材に接着剤などで貼り付けることも可能である。
【0055】
本発明において基材として用いることができるのは衣服型電子機器の衣服部分の一部、もしくは、全体を構成する布帛である。布帛としては織物、編み物、不織布を例示することができ、さらにこれらに樹脂コート、樹脂含浸したコート布なども基材として用いることができる。また、ネオプレン(登録商標)に代表される合成ゴムシート等も基材として用いることができる。本発明で用いられる布帛は繰り返し10%以上の伸縮が可能なスト
レッチャビリティを有する事が好ましい。また本発明の基材は50%以上の破断伸度を有する事が好ましい。本発明の基材は布元反でもよく、また、リボン、テープ状でも良く、組紐、網組でもよく、元反からカットされた枚葉の布でも良い。
【0056】
布帛が織物の場合、例えば平織、綾織、朱子織、等を例示できる。布帛が編み物の場合、例えば平編み、およびその変形、鹿の子編、アムンゼン編、レース編、アイレット編、添え糸網、パイル編、リブ網、リップル編、亀甲編、ブリスター編、ミラノ・リブ編、ダブルピケ編、シングル・ピケ編み、斜文編、ヘリボーン編、ポンチローマ編、バスケット編、トリコット編、ハーフ・トリコット編、サテントリコット編、ダブルトリコット編、クインズコード編、ストライプ・サッカー編、ラッセル編、チュールメッシュ編、およびこれらの変形・組み合わせを例示できる。布帛はエラストマー繊維などからなる不織布であっても良い。
【実施例
【0057】
以下、実施例を示し、本発明をより詳細かつ具体的に説明する。なお実施例中の評価結果などは以下の方法にて測定した。
【0058】
<ニトリル量>
得られた樹脂材料をNMR分析して得られた組成比から、モノマーの質量比による質量%に換算した。
<ムーニー粘度>
島津製作所製 SMV-300RT「ムーニービスコメータ」を用いて測定した。
【0059】
<平均粒子径>
堀場製作所製の光散乱式粒径分布測定装置LB-500を用いて測定した。
<弾性率、破断伸度>
樹脂材料、ペースト材料については、各材料を離型シート上に乾燥厚さ100±10μmとなるようにコーティングし、所定の条件で乾燥硬化させた後、離型シートごとISO 527-2-1Aにて規定されるダンベル型に打ち抜き、試験片とした。シート材料についてはシートを同様にダンベル型に打ち抜き試験片とした。離型シートが付属している場合には、測定時に離型シートから各材料のシートを剥離して評価した。さらに布帛に接着されている場合には布帛ごと引っ張り試験を実施した。なお、布帛に接着されている場合において、布帛が伸縮性導体シートより十分に大きな破断伸度を有していると見なされる場合には、引っ張り試験器のクリップ間の抵抗値をテスターにてモニターしながら試験を行い、導通がなくなった時点で判断したと判断した。引っ張り試験は、ISO 527-1に規定された方法で行った。
【0060】
<皮膜抵抗>
布帛に接着された伸縮性導体シートを10mm×80mmとなるように切り取り試験片とした。伸張させる部分が有効長さ50mmとなるようにクリップで挟み、クリップ間の初期抵抗値を測定し、W=10mm、L=50mmとして、次式にて初期皮膜抵抗を求めた。
初期皮膜抵抗=初期抵抗値×(W/L
次いで皮膜を50%伸張させ(1.5倍長)、伸張時の抵抗値と、試験片中央部のシート幅W50をノギスで測定し、L50=75mmとして次式にて伸張時皮膜抵抗を求めた。
伸張時皮膜抵抗=伸張時の抵抗値×(W50/L50
【0061】
なお、ここに布帛としてはグンセン株式会社製2-wayトリコット生地 KNZ2740(ナイロンヤーン:ウレタンヤーン=63%:37%(混率)、目付け194g/m2)を用いた。布帛への接着には、エヌティーダブリュー株式会社 ポリウレタンホットメルトフィルム エセランSHM104-PUR(融点100℃、厚さ70μm)を用いた。なお、被測定物が既に布帛に貼り付けされている場合には、そのまま用いれば良い。
<抵抗値の測定>
配線の抵抗値をアジレントテクノロージ社製ミリオームメーターを用いて測定した。
【0062】
<洗濯耐久性>
皮膜抵抗測定と同じ方法にて作成した試験片を用い、JIS L0844準拠の方法イテ、機会洗濯を、洗濯ネットあり、5回加速法(5回連続洗濯後、1回陰干し)にて30回行い、試験片の長さ方向の初期の抵抗値に対する30回洗濯後の抵抗値の上昇率(%)を求めた。なお初期抵抗値の1000倍以上の値に達した場合には「断線」と判断した。洗剤は、アタックの粉末タイプを用いた。
【0063】
<汗耐久性>
皮膜抵抗測定と同じ方法にて作成した試験片を用い、まず50%伸張を繰り返し100回行った後に、JIS L 0848:2004に規定される人口汗液に試験片を1時間浸漬し、引き上げた試験片を30℃80%RHの環境に48時間放置し、初期の抵抗値に対する試験後の抵抗値の上昇率を求めた。
【0064】
[製造例1]
<合成ゴム材料の重合>
攪拌機、水冷ジャケットを備えたステンレス鋼製の反応容器に
ブタジエン 61質量部
アクリロニトリル 39質量部
脱イオン水 270質量部
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム 0.5質量部
ナフタレンスルホン酸ナトリウム縮合物 2.5質量部
t-ドデシルメルカプタン 0.3質量部
トリエタノールアミン 0.2質量部
炭酸ナトリウム 0.1質量部
を仕込み、窒素を流しながら浴温度を15℃に保ち、静かに攪拌した。次いで 過硫酸カリウム0.3質量部を脱イオン水19.7質量部に溶解した水溶液を30分間かけて滴下し、さらに20時間反応を継続した後、ハイドロキノン0.5質量部を脱イオン水19.5質量部に溶解した水溶液を加えて重合停止操作を行った。
次いで、未反応モノマーを留去させるために、まず反応容器内を減圧し、さらにスチームを導入して未反応モノマーを回収し、NBRからなる合成ゴムラテックス(L1)を得た。
得られたラテックスに食塩と希硫酸を加えて凝集・濾過し、樹脂に対する体積比20倍量の脱イオン水を5回に分けて樹脂を脱イオン水に再分散、濾過を繰り返すことで洗浄し、空気中にて乾燥して合成ゴム樹脂R01を得た。合成ゴム樹脂R01のニトリル量は39質量%、ムーニー粘度は51、弾性率は42MPaであった。
【0065】
[製造例2]
製造例1のアクリロニトリルとブタジエンに換えて、スチレン40質量部、ブタジエン60質量部を用いた以外は同様に操作し、合成ゴム樹脂R02を得た。合成ゴム樹脂R02のニトリル量は0質量%、ムーニー粘度は67、弾性率は51MPaであった。
【0066】
[導電ペースト製造例]
表1に示す材料を用い、表2に示す配合比により導電ペーストを製造した。まず溶剤の半分量に樹脂成分を溶解し、得られた樹脂溶液に導電粒子、非導電粒子、溶剤の残量を加
えて、均一に混合した後に三本ロールミルにて分散することにより導電ペーストとした。導電ペーストの配合組成とそれぞれの導電ペーストから得られる被膜の単独特性を結果を表2に示す。
【0067】
表1
【0068】
表2
【0069】
[伸縮性導体シートの製造]
厚さ75μmの離型PETフィルムに、第一の伸縮性導体用ペーストを、アプリケーターを用いて、乾燥膜厚が表3に示す厚さになるように塗布後、乾燥硬化し、次いで第二の伸縮性導体ペーストを同様に塗布後、乾燥硬化して、複層からなる伸縮性導体シートを得た。
得られた伸縮性導体の第二の伸縮性導体ペースト面に、エヌティーダブリュー株式会社 ポリウレタンホットメルトフィルム エセランSHM104-PUR(セパレートシート付き)を重ね、ゴムロール温度を120℃に調整したロールラミネート機にて接着し、接着性のある伸縮性導体シートを得た。
【0070】
[型抜きと布帛への接着]
得られた接着性のある伸縮性導体シートのを型抜機にセットし、ホットメルトフィルムのセパレートシート面側からトムソン刃にて、幅10mm、長さ80mmの長方形を型抜きした。トムソン刃の深さはホットメルトシートと第二の伸縮性導体層、第一の伸縮性導体
層までとし、離型PETフィルムは打ち抜かずに残している。
次いで、前記型抜き後のシートから、幅10mm、長さ80mmの長方形以外の部分を剥離除去し、長方形部分に残っていたセパレートシートを剥がし、幅30mm、長さ100mmのグンセン株式会社製2-wayトリコット生地 KNZ2740を、伸縮性導体シートが中央に配置されるように重ね、プレス機にて、105℃、0.03MPaの圧力にて25秒間加圧して接着し、その後、離型PETフィルムを剥離して、トリコット生地に接着された伸縮性導体シートを得た。
【0071】
得られた トリコット生地に接着された伸縮性導体シートを用いて、初期の被膜抵抗、50%伸張時の被膜抵抗、破断伸度、洗濯耐久性、汗耐久性を評価した。結果を表3、表4に示す。
【0072】
表3
【0073】
表4
【0074】
実施例の伸縮性導体シートについては、いずれも良好な洗濯耐久性、汗耐久性を示して
いる。比較例において、いずれも汗耐久性試験後の抵抗値の上昇が著しいことが解る。これらの試料を切断して断面観察を行ったところ、汗耐久性試験後に抵抗値が上昇した試験片については第二の導体層が黄変ないし茶褐色に変色している部分が見られた。一方で抵抗値の上昇が認められない試料における第二の導体層の断面は、試験前の状態と同様、銀白色であった。これより抵抗値の上昇は、主に導電性を担う第二の導体層が酸化ないしは硫化された結果であると解釈した。
【産業上の利用分野】
【0075】
以上、示してきたように、本発明の伸縮性導体シートは、洗濯耐久性、汗耐久性の優れた電極ないし電気配線を布帛上に形成可能であり、衣服型電子機器を製造する際の電気配線材料として極めて有用である。
【0076】
本発明は、本実施例にて例示した用途例に限定されず、人体の持つ情報、すなわち筋電位、心電位などの生体電位、体温、脈拍、血圧などの生体情報を衣服に設けたセンサなど検知するためのウェアラブル装置や、あるいは、電気的な温熱装置を組み込んだ衣服、衣服圧を測定するためのセンサを組み込んだウェアラブル装置、衣服圧を利用して身体サイズを計測するウェア、足裏の圧力を測定するための靴下型装置などに広く応用できる。本発明は、フレキシブルな太陽電池モジュールをテキスタイルに集積した衣服、テント、バッグなどの配線部、関節部を有する低周波治療器、温熱療養機などの配線部、屈曲度のセンシング部などに応用可能である。かかるウェアラブル装置は、人体を対象にするのみならず、ペットや家畜などの動物、あるいは伸縮部、屈曲部などを有する機械装置にも応用可能であり、ロボット義手、ロボット義足など機械装置と人体と接続して用いるシステムの電気配線としても利用できる。また体内に埋設してしようするインプラントデバイスの配線材料としても有用である。
【符号の説明】
【0077】
1.第1の伸縮性導体層
2.第2の伸縮性導体層
3.ホットメルト層
4.離型フィルム
5.布帛
6.下地層
7.カバーコート層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9