(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】鋼板の冷却水温度制御方法及び冷却水温度制御装置
(51)【国際特許分類】
C21D 11/00 20060101AFI20221004BHJP
B21B 37/74 20060101ALI20221004BHJP
B21B 45/02 20060101ALI20221004BHJP
B21C 51/00 20060101ALI20221004BHJP
C21D 1/00 20060101ALI20221004BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20221004BHJP
C21D 9/573 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C21D11/00 104
B21B37/74 A
B21B45/02 320S
B21C51/00 E
C21D1/00 121
C21D9/56 101C
C21D9/573 101Z
(21)【出願番号】P 2021064438
(22)【出願日】2021-04-05
【審査請求日】2022-04-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】平井 正樹
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】田野口 一郎
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-136636(JP,A)
【文献】特開平09-042843(JP,A)
【文献】特開平08-193276(JP,A)
【文献】実開昭62-021076(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 11/00
C21D 1/00
C21D 9/52 - 9/66
B21B 37/74
B21B 45/02
B21C 51/00
F26B 21/00 -21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水を用いて焼鈍後の鋼板を冷却する冷却設備と、前記冷却設備によって冷却された鋼板上の水膜を除去する水切りロールと、前記水切りロールの出側に配置された、鋼板を乾燥させる乾燥設備と、前記乾燥設備の出側に配置された、鋼板を塗装する塗装設備と、を備えるラインにおける冷却水の温度を制御する鋼板の冷却水温度制御方法であって、
前記水切りロールの出側において鋼板上に残る水膜の厚みを算出する第1ステップと、
ライン速度を考慮して前記水切りロールの出側から
前記乾燥設備までの間の前記水膜の厚み
及び鋼板の温度の変化を算出する第2ステップと、
ライン速度を考慮して前記
乾燥設備における前記水膜の蒸発量及び前記鋼板の温度の変化を算出する第3ステップと、
前記第1~前記第3ステップの算出結果を用いて、鋼板上の水膜の厚みがゼロになる位置が前記乾燥設備の出側位置に一致する前記水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の下限値に設定する第4ステップと、
前記第1~前記第3ステップの算出結果を用いて、前記塗装設備の入側の鋼板温度が所定温度と一致する水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の上限値に設定する第5ステップと、
前記第4及び前記第5ステップにおいて設定された下限値及び上限値の範囲内に前記冷却水の温度を制御する第6ステップと、
を含むことを特徴とする鋼板の冷却水温度制御方法。
【請求項2】
冷却水を用いて焼鈍後の鋼板を冷却する冷却設備と、前記冷却設備によって冷却された鋼板上の水膜を除去する水切りロールと、前記水切りロールの出側に配置された、鋼板を乾燥させる乾燥設備と、前記乾燥設備の出側に配置された、鋼板を塗装する塗装設備と、を備えるラインにおける冷却水の温度を制御する鋼板の冷却水温度制御装置であって、
前記水切りロールの出側において鋼板上に残る水膜の厚みを算出する第1手段と、
ライン速度を考慮して前記水切りロールの出側から
前記乾燥設備までの間の前記水膜の厚み
及び鋼板の温度の変化を算出する第2手段と、
ライン速度を考慮して前記
乾燥設備における前記水膜の蒸発量及び前記鋼板の温度の変化を算出する第3手段と、
前記第1~前記第3手段の算出結果を用いて、鋼板上の水膜の厚みがゼロになる位置が前記乾燥設備の出側位置に一致する前記水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の下限値に設定する第4手段と、
前記第1~前記第3手段の算出結果を用いて、前記塗装設備の入側の鋼板温度が所定温度と一致する前記水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の上限値に設定する第5手段と、
前記第4及び前記第5手段において設定された下限値及び上限値の範囲内に前記冷却水の温度を制御する第6手段と、
を備えることを特徴とする鋼板の冷却水温度制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の冷却水温度制御方法及び冷却水温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄板鋼板の焼鈍プロセスラインでは、塗装設備を用いて焼鈍後の鋼板表面に塗装を行っている。一般に、塗装に用いる塗装液の特質や塗装品質の観点から、塗装設備の入側で鋼板の温度を所定温度(例えば30℃)以下にする必要がある。そこで、水冷設備を利用して、鋼板を所定温度以下の冷却水に浸漬する、又は、鋼板上に所定温度以下の冷却水をスプレーすることにより、焼鈍後の鋼板の温度を所定温度以下に制御している(特許文献1参照)。また、水冷設備で使用した冷却水が鋼板上に水膜として残っていると塗装品質に問題が発生することから、水冷設備の出側に乾燥設備を設け、乾燥設備から除湿空気を吹き付けることによって水膜を除去している(特許文献2参照)。
【0003】
ここで、
図4を参照して、焼鈍後の鋼板を塗装設備の入側で冷却・乾燥する方法について具体的に説明する。
図4は、焼鈍後の鋼板を塗装設備の入側で冷却・乾燥する方法を説明するための模式図である。
図4に示すように、この方法では、焼鈍後の鋼板Sを水冷タンク1内の冷却水Wに浸漬させることによって冷却水温度まで冷却した後、鋼板S上の水膜を水冷タンク1出側の水切りロール2で除去(水切り)する。しかしながら、水切りロール2だけでは鋼板S上の水膜を完全に除去することはできない。一般に、水切りロール2による水膜の除去後には厚み3μm以下の水膜が鋼板S上に残る。この水膜が残った状態で鋼板Sを塗装すると塗装品質上の問題が発生する。このため、水切り後に乾燥設備4を利用して鋼板Sに除湿空気を吹き付け、鋼板S上に残った水膜を完全に除去した後、塗装設備5により鋼板Sを塗装する。
【0004】
なお、鋼板Sの冷却過程では、焼鈍後の温度100℃以下の鋼板Sから奪った熱量によって冷却水Wの温度が上昇する。このため、水冷タンク1内の冷却水Wを循環ポンプ6でチラー7に送り、チラー7を利用して冷却水Wを所定温度まで冷却した後に水冷タンク1に戻すことにより、連続的に鋼板Sを冷却することを可能にしている。また、鋼板Sの乾燥過程では、除湿空気が高温であると鋼板温度が所定温度を超えてしまうため、塗装品質上の問題が発生する。このため、一般に、除湿空気としては蒸気で熱交換した温風(80~95℃程度)が使用されるが、上記理由により、除湿機8からの低温の除湿空気を用いて鋼板Sの乾燥を行っている。
【0005】
次に、
図5を参照して、鋼板温度と水膜厚みとの関係について説明する。
図5は、鋼板温度と水膜厚みとの関係を説明するための模式図である。
図5において、縦軸は鋼板温度及び水膜厚みを示し、横軸は水切りロール2からの距離を示す。
図5に示すように、まず、水切りロール2の位置では、鋼板温度は冷却水温度と一致している。次に、乾燥設備4の入側までのパスでは、鋼板温度は、大気中の水蒸気濃度と水膜の水蒸気濃度との差から発生する水膜の蒸発(気化)による抜熱(気化熱)によって若干低下する。次に、乾燥設備4では、鋼板温度は、除湿空気9から貰う熱量と水膜が気化したときに奪われる熱量との足し引き(乾燥時入熱)により変化する。そして、塗装設備5までのパスでは、大気と鋼板Sとの間の温度差によって発生する熱伝達による鋼板Sの温度変化を加味し、塗装設備5入側の鋼板温度を塗装品質上必要な所定温度以下にする。
【0006】
一方、上述したように、水切りロール2の出側の水膜の厚み(水膜厚み)は3μm以下である。水膜厚みは、水切りロール2の出側から乾燥設備4までのパスで水膜が蒸発(気化)することにより若干小さくなる。また、乾燥設備4では、水膜厚みは、除湿空気9の水蒸気濃度と水膜の水蒸気濃度との差から発生する蒸発によってさらに小さくなる。そのときの水膜の蒸発量m(kg/m2・s)は、以下の数式(1)に示す物質移動の式で表すことができる。ここで、h0は物質伝達率(m/s)、ρは水の密度(kg/m3)、ω0は水膜の水蒸気濃度、ω∞は除湿空気9の水蒸気濃度を示す。そして最終的に、乾燥設備4内で水膜が全て蒸発し、鋼板Sは完全乾燥状態となる。
【0007】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-277834号公報
【文献】特開2015-189998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
冬場等の気温が低い時期は、水冷タンク1内で冷却された鋼板Sの温度が所定温度よりさらに低く(例えば20℃以下)なる場合がある。これは、(a)焼鈍炉から水冷タンク1までのパスで鋼板Sが空気との熱伝達により大きく冷却され、水冷タンク1内で冷却水Wが鋼板Sから奪う熱量が小さくなる、(b)水冷タンク1からの放熱量が大きいため冷却水温度が下がる、(c)水冷タンク1に補給される補給水10(
図4参照)の温度が低いために水冷タンク1へ補給水10を補給すると冷却水Wの温度が下がる等の原因のためである。また、ライン長期停止後の立ち上げ時には、冷却水Wの温度は工場内の気温まで下がるので、夏季を除くと冷却水温度が所定温度よりさらに低くなることが多い。
【0010】
そして、このような場合、冷却後の鋼板温度は所定温度よりさらに低くなり、乾燥設備4で鋼板S上に残る水膜を完全乾燥できなくなる。これは、
図6に示すように、上記数式(1)中の水膜の水蒸気濃度ω
0が温度低下と共に小さくなり、水膜の蒸発量mが小さくなるためである。なお、このような問題を解決するために、ライン速度を下げて乾燥時間を長くすることにより水膜を完全乾燥することが考えられるが、この方法を用いた場合、生産能率が悪化する。また、乾燥設備4の長さを延ばして乾燥時間を長くすることも考えられる。ところが、この方法を用いた場合には、除湿空気量を増やすために除湿機等の高価な機器を追加する費用が掛かる。さらには、乾燥設備4の長さを延ばすための設置スペースに対して制約があると成立せず、有効的、且つ、現実的な手段ではない。
【0011】
以上のことから、従来の鋼板の冷却・乾燥方法には、鋼板温度が所定温度よりさらに低く冷却されてしまう場合への適用に問題があった。
【0012】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、寒い時期やラインを長期間停止した後に再び立ち上げる場合においても焼鈍後の鋼板を所定温度以下に冷却すると共に完全乾燥させることが可能な鋼板の冷却水温度制御方法及び冷却水温度制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る鋼板の冷却水温度制御方法は、冷却水を用いて焼鈍後の鋼板を冷却する冷却設備と、前記冷却設備によって冷却された鋼板上の水膜を除去する水切りロールと、前記水切りロールの出側に配置された、鋼板を乾燥させる乾燥設備と、前記乾燥設備の出側に配置された、鋼板を塗装する塗装設備と、を備えるラインにおける冷却水の温度を制御する鋼板の冷却水温度制御方法であって、前記水切りロールの出側において鋼板上に残る水膜の厚みを算出する第1ステップと、ライン速度を考慮して前記水切りロールの出側から前記乾燥設備の出側までの間の前記水膜の厚みの変化を算出する第2ステップと、ライン速度を考慮して前記水切りロールの出側から前記塗装設備の入側までの間の前記鋼板の温度の変化を算出する第3ステップと、前記第1~前記第3ステップの算出結果を用いて、鋼板上の水膜の厚みがゼロになる位置が前記乾燥設備の出側位置に一致する前記水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の下限値に設定する第4ステップと、前記第1~前記第3ステップの算出結果を用いて、前記塗装設備の入側の鋼板温度が所定温度と一致する水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の上限値に設定する第5ステップと、前記第4及び前記第5ステップにおいて設定された下限値及び上限値の範囲内に前記冷却水の温度を制御する第6ステップと、を含むことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る鋼板の冷却水温度制御装置は、冷却水を用いて焼鈍後の鋼板を冷却する冷却設備と、前記冷却設備によって冷却された鋼板上の水膜を除去する水切りロールと、前記水切りロールの出側に配置された、鋼板を乾燥させる乾燥設備と、前記乾燥設備の出側に配置された、鋼板を塗装する塗装設備と、を備えるラインにおける冷却水の温度を制御する鋼板の冷却水温度制御装置であって、前記水切りロールの出側において鋼板上に残る水膜の厚みを算出する第1手段と、ライン速度を考慮して前記水切りロールの出側から前記乾燥設備の出側までの間の前記水膜の厚みの変化を算出する第2手段と、ライン速度を考慮して前記水切りロールの出側から前記塗装設備の入側までの間の前記鋼板の温度の変化を算出する第3手段と、前記第1~前記第3手段の算出結果を用いて、鋼板上の水膜の厚みがゼロになる位置が前記乾燥設備の出側位置に一致する前記水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の下限値に設定する第4手段と、前記第1~前記第3手段の算出結果を用いて、前記塗装設備の入側の鋼板温度が所定温度と一致する前記水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の上限値に設定する第5手段と、前記第4及び前記第5手段において設定された下限値及び上限値の範囲内に前記冷却水の温度を制御する第6手段と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る鋼板の冷却水温度制御方法及び冷却水温度制御装置によれば、寒い時期やラインを長期間停止した後に再び立ち上げる場合においても焼鈍後の鋼板を所定温度以下に冷却すると共に完全乾燥させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御装置の構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2に示す鋼板の冷却水温度制御装置を用いた実験結果を示す図である。
【
図4】
図4は、焼鈍後の鋼板を塗装設備の入側で冷却・乾燥する方法を説明するための模式図である。
【
図5】
図5は、鋼板温度と水膜厚みとの関係を説明するための模式図である。
【
図6】
図6は、水膜の水蒸気濃度と温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御方法及び冷却水温度制御装置について説明する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御処理の流れを示すフローチャートである。
図1に示すように、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御処理では、まず、水切りロール2の出側で鋼板S上に残る水膜の厚みを算出する(ステップS1)。具体的には、水切りロール2による水切り後に鋼板S上に残る水膜の厚みh(μm)は、ライン速度の0.6乗に比例し、以下に示す数式(2)により求めることができる。ここで、μは水の粘度(kgf・s/m)、pは水切りロール線圧(kgf/m)、vはライン速度(m/s)、Eは水切りロール表面ゴムと鋼板の等価ヤング率(kgf/m
2)、Rは水切りロール半径(m)を示す。
【0019】
【0020】
次に、水切りロール2の出側から乾燥設備4までのパスにおける、水膜の大気中へ蒸発量と、水膜が蒸発する際の気化熱及び大気との間の熱伝達によって変化する鋼板温度を算出する(ステップS2)。具体的には、水膜の大気中への蒸発量はライン速度に反比例し、単位時間当たりの水膜の蒸発量m(kg/(m2・s))は以下に示す数式(3)により算出できる。ここで、h0は物質伝達率(m/s)、ρは水の密度(kg/m3)、ω0は水膜の水蒸気濃度、ω∞は大気の水蒸気濃度を示す。
【0021】
【0022】
一方、水膜が蒸発する際の気化熱及び大気との間の熱伝達により変化する鋼板温度はライン速度に反比例し、単位時間当たりに鋼板が得る熱量Q(kcal/(m2・s))は以下に示す数式(4)により算出できる。ここで、αは熱伝達率(kcal/(m2・s・℃))、T0は鋼板温度(℃)、T∞は大気温度(℃)、mは水膜の蒸発量(kg/(m2・s))、Lは蒸発潜熱(kcal/m2)、dは鋼板の板厚(m)を示す。なお、鋼板温度は、水切りロール2の出側から乾燥設備4までのパスにおける微小時間をΔtとしたとき、上記の水膜の蒸発量m及び熱量Qに基づき、以下の通り繰り返し計算することにより算出できる。すなわち、時間t=tn-1の時の鋼板温度をT0n-1、蒸発潜熱(kcal/m2)をLn-1、熱伝達率(kcal/(m2・s・℃))をαn-1、大気温度(℃)をT∞n-1、鋼板の密度(kg/m3)をρs、鋼板の板厚(m)をd、鋼板の比熱(kcal/(kg・℃))をcとすると、時間t=tnの時の鋼板温度T0nは以下に示す数式(5)のように表される。従って、この数式(5)を用いて鋼板温度T0nを繰り返し計算することにより、上記パスのそれぞれの位置での鋼板温度を求めることができる。
【0023】
【0024】
【0025】
次に、乾燥設備4が鋼板Sに吹き付ける除湿空気9による水膜の蒸発量と、水膜が蒸発する際の気化熱及び除湿空気9との間の熱伝達により変化する鋼板温度を算出する(ステップS3)。具体的には、水膜の除湿空気9への蒸発量は、上述した数式(3)により算出できる。一方、水膜が蒸発する際の気化熱及び除湿空気との間の熱伝達により変化する鋼板温度はライン速度に反比例し、単位時間当たりに鋼板が得る熱量Q(kcal/m2・s)は上述した数式(4)により算出できる。但し、この場合、数式(4)中のT∞には除湿空気の温度(℃)を用いる。また、鋼板温度は、上記と同様にして求めることができる。
【0026】
次に、ステップS1~ステップS3の処理結果を用いて、水膜の厚みがゼロになる完全乾燥の位置が乾燥設備4の出側位置に一致するように水切りロール2の出側の鋼板温度を算出する。ここで、乾燥設備の出側位置での水膜の厚みは、水切り後に鋼板S上に残る水膜の厚みhと水膜の蒸発量mに基づき、以下の通り繰り返し計算することにより算出できる。すなわち、時間t=tn-1の時の水膜の厚みをhn-1、水膜の蒸発量をmn-1とすると、時間t=tnの時の水膜の厚みhnは、以下に示す数式(6)のように表される。従って、この数式(6)を用いて水膜の厚みhnを繰り返し計算することにより、上記パスのそれぞれの位置での水膜の厚みを求めることができる。一方、水膜の除湿空気9への蒸発量は、上述した数式(3)により算出できる。よって、この水膜の厚みがゼロとなるように水切りロール出側の鋼板温度を定めればよい。そして、水切りロール2の出側では鋼板温度と冷却水温度が一致するので、算出された鋼板温度を鋼板Sを完全乾燥させるために必要な冷却水温度の下限値Tminに設定する(ステップS4)。下限値Tminより冷却水温度が高ければ、水切りロール2の出側で鋼板S上に残っている水膜を乾燥設備4内で完全乾燥させることができる。
【0027】
【0028】
次に、乾燥設備4の出側から塗装設備5の入側までのパスにおいて、大気との間の熱伝達により変化する鋼板温度を算出する。具体的には、大気との間の熱伝達により変化する鋼板温度は、ライン速度に反比例し、単位時間当たりに鋼板が得る熱量Q(kcal/m2・s)は以下に示す数式(7)により算出できる。ここで、αは熱伝達率(kcal/m2・s・℃)、T0は鋼板温度(℃)、T∞は大気温度(℃)を示す。そして、微小時間における鋼板温度の上昇量をΔTとすると、ΔT=Q/(鋼板の質量×鋼板の比熱)となるから、鋼板温度Tnは以下の通り繰り返し計算することにより算出できる。すなわち、時間t=tn-1の時の鋼板温度をTn-1とすると、時間t=tnの時の鋼板温度Tnは以下に示す数式(8)のように表される。従って、この数式(8)を用いて鋼板温度Tnを繰り返し計算することにより、上記パスのそれぞれの位置での鋼板温度を求めることができる。
【0029】
【0030】
【0031】
上記数式(7)から、塗装設備5の入側の鋼板温度が所定温度(例えば30℃)と一致するように乾燥設備4の出側における鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度と一致するように水切りロール2出側における鋼板温度を算出する。上述したように、水切りロール2の出側では鋼板温度と冷却水温度が一致するので、算出された鋼板温度を鋼板Sを完全乾燥させるために必要な冷却水温度の上限値Tmaxに設定する(ステップS5)。これにより、焼鈍後の鋼板Sを所定温度以下に冷却すると共に完全乾燥させることができる冷却水の温度範囲(下限値Tmin~上限値Tmax)を求めることができる。
【0032】
以上より、焼鈍後の鋼板Sを冷却する際には、水冷タンク1内の冷却水Wの温度を測定し、上述した処理により算出された冷却水Wの温度範囲に制御することにより、焼鈍後の鋼板を所定温度以下に冷却すると共に完全乾燥させることができる(ステップS6)。なお、このとき温度調整代が小さい方がエネルギー効率がよいので、例えば冷却水Wの温度の測定値が下限値Tminより低い場合、冷却水Wの温度を下限値Tminに制御する。
【0033】
次に、
図2を参照して、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御装置について説明する。
図2は、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御装置の構成を示す模式図である。
図2に示すように、本発明の一実施形態である鋼板の冷却水温度制御装置は、
図4に示す従来までの冷却・乾燥システムにおける冷却水Wの循環系統に熱交換器21を設けた構成となっている。そして、冷却水の温度が設定した温度範囲より高い場合、チラー7を利用して冷却水Wを冷却し、冷却水の温度が設定した温度範囲より低い場合には、熱交換器21を利用して冷却水Wを加熱する。
図2に示す例では、冷却水Wは、循環ポンプ6によってチラー7と蒸気Gを使用して冷却水Wを加熱する熱交換器21とに順番に送られ、水冷タンク1へ再び供給される。これにより、水冷タンク1内の冷却水Wの温度を上述した処理により算出された冷却水Wの温度範囲に制御し、焼鈍後の鋼板を所定温度以下に冷却すると共に完全乾燥させることができる。
【実施例】
【0034】
図3に
図2に示す鋼板の冷却水温度制御装置を用いた実験結果を示す。
図3において、横軸はライン速度(mpm)を示す。また、縦軸は、水切りロール2の出側の鋼板温度を示し、冷却水温度に一致する。また、図中の〇は乾燥設備4の出側で水膜を完全に除去できた(乾燥した)結果、×は水膜が残った(濡れた)結果を示す。
図3に示すように、例えばライン速度200mpmで水膜を乾燥させるためには、冷却水温度を23℃以上にすればよいことが分かる。一方、塗装設備5の入側の鋼板温度を30℃以下にするためには、乾燥設備4から塗装設備5までの鋼板温度の上昇分は2℃であることから、冷却水温度を28℃以下にすればよいことからわかる。以上のことから、冷却水の温度範囲を23~28℃の範囲内にすることにより、水膜を完全乾燥させ、且つ、塗装設備入側の鋼板温度を30℃以下できることが確認された。
【0035】
以上、本発明者らによってなされた発明を適用した実施形態について説明したが、本実施形態による本発明の開示の一部をなす記述及び図面により本発明は限定されることはない。すなわち、本実施形態に基づいて当業者等によりなされる他の実施の形態、実施例、及び運用技術等は全て本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0036】
1 水冷タンク
2 水切りロール
4 乾燥設備
5 塗装設備
6 循環ポンプ
7 チラー
8 除湿機
9 除湿空気
10 補給水
21 熱交換器
G 蒸気
S 鋼板
W 冷却水
【要約】
【課題】寒い時期やラインを長期間停止した後に再び立ち上げる場合においても焼鈍後の鋼板を所定温度以下に冷却すると共に完全乾燥させることが可能な鋼板の冷却水温度制御方法及び冷却水温度制御装置を提供すること。
【解決手段】本発明に係る鋼板の冷却水温度制御方法であって、水切りロールの出側において鋼板上に残る水膜の厚みを算出し、ライン速度を考慮して水切りロールの出側から乾燥設備の出側までの間の水膜の厚みの変化を算出し、ライン速度を考慮して水切りロールの出側から塗装設備の入側までの間の鋼板の温度の変化を算出し、鋼板上の水膜の厚みがゼロになる位置が乾燥設備の出側位置に一致する水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の下限値に設定し、塗装設備の入側の鋼板温度が所定温度と一致する水切りロールの出側の鋼板温度を算出し、算出された鋼板温度を冷却水温度の上限値に設定し、設定された下限値及び上限値の範囲内に冷却水の温度を制御する。
【選択図】
図1