(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】金属材料の腐食量マッピング方法、金属材料の選定方法および金属材料の腐食量マッピング装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
G01N17/00
(21)【出願番号】P 2021513482
(86)(22)【出願日】2020-10-06
(86)【国際出願番号】 JP2020037822
(87)【国際公開番号】W WO2021100341
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2021-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2019207598
(32)【優先日】2019-11-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】面田 真孝
(72)【発明者】
【氏名】中辻 一浩
(72)【発明者】
【氏名】水野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大塚 真司
【審査官】外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/135361(WO,A1)
【文献】特開2007-107882(JP,A)
【文献】特開2008-224405(JP,A)
【文献】特開2012-013673(JP,A)
【文献】米国特許第10317358(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の使用期間と、前記使用期間内の前記金属材料の使用環境を示し、かつ前記金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標と、前記マップの地勢データと、前記使用期間における前記金属材料の腐食量と、を含む腐食量データを用いて金属材料の腐食量を予測し、腐食量予測マップを作成する金属材料の腐食量マッピング方法であって、
前記複数の環境パラメータと、前記マップの地勢データと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、前記環境パラメータがプロットされた環境マップを、前記環境パラメータごとに複数作成する環境マップ作成ステップと、
前記腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、を含む予測要求点を入力する予測要求点入力ステップと、
前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する類似度算出ステップと、
前記類似度を考慮して、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータを、潜在変数に次元圧縮する次元圧縮ステップと、
前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記メッシュの予測要求点における前記金属材料の腐食量を予測する腐食量予測ステップと、
前記メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、腐食量予測マップを作成する腐食量予測マップ作成ステップと、
を含
み、
前記環境マップ作成ステップは、
前記複数の環境パラメータを前記マップ上の位置座標に入力する第一ステップと、
前記マップの地勢データに基づいて、前記環境マップを海抜0mの環境マップへと補正する第二ステップと、
前記海抜0mの環境マップにおいて、各環境パラメータの特性に応じて、前記複数の環境パラメータ間の環境パラメータを補完する第三ステップと、
前記マップの地勢データに基づいて、環境パラメータを補完した海抜0mの環境マップを、元の海抜の環境マップへと補正する第四ステップと、
を含むことを特徴とする金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項2】
前記複数の環境パラメータは、飛来塩分量を含み、
前記第三ステップは、海岸線に近いメッシュの飛来塩分量を補完する際に、予め設定した上限値を超えないように飛来塩分量を補完することを特徴とする請求項
1に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項3】
前記腐食量予測ステップは、
前記金属材料の所定期間の腐食量を示す第一のパラメータを予測する初期腐食量予測ステップと、
前記金属材料の腐食速度の減衰を示す第二のパラメータを予測する減衰予測ステップと、
前記金属材料の使用期間と、前記第一のパラメータと、前記第二のパラメータと、に基づいて前記金属材料の前記所定期間よりも長い期間の腐食量を予測する長期腐食量予測ステップと、
を含むことを特徴とする請求項1
または請求項
2に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項4】
前記初期腐食量予測ステップは、前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記予測要求点の環境パラメータ下における、前記金属材料の所定期間の腐食量を予測することを特徴とする請求項
3に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項5】
前記減衰予測ステップは、前記腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記類似度とに基づいて、前記第二のパラメータを予測することを特徴とする請求項
3に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項6】
前記複数の環境パラメータは、温度と、相対湿度、絶対湿度、濡れ時間および降雨量のうちの少なくとも一つと、飛来塩分量、SO
X濃度およびNO
X濃度のうちの少なくとも一つと、を含むことを特徴とする請求項1から請求項
5のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項7】
前記金属材料は、鉄鋼材料であることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項8】
前記腐食量予測マップは、前記腐食量予測マップ作成ステップで予測された腐食量の値に応じて、前記メッシュごとに色付けされたマップであることを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
【請求項9】
請求項1から請求項
8のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法を用いて、使用環境に応じた金属材料を選定することを特徴とする金属材料の選定方法。
【請求項10】
金属材料の使用期間と、前記使用期間内の前記金属材料の使用環境を示し、かつ前記金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標と、前記マップの地勢データと、前記使用期間における前記金属材料の腐食量と、を含む腐食量データが保存されるデータベースと、
前記複数の環境パラメータと、前記マップの地勢データと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、前記環境パラメータがプロットされた環境マップを、前記環境パラメータごとに複数作成する環境マップ作成部と、
腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、を含む予測要求点が入力される入力部と、
前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する類似度算出部と、
前記類似度を考慮して、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータを、潜在変数に次元圧縮する次元圧縮部と、
前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記メッシュの予測要求点における前記金属材料の腐食量を予測する腐食量予測部と、
前記メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、前記腐食量予測マップを作成する腐食量予測マップ作成部と、
を備え
、
前記環境マップ作成部は、
前記複数の環境パラメータを前記マップ上の位置座標に入力し、
前記マップの地勢データに基づいて、前記環境マップを海抜0mの環境マップへと補正し、
前記海抜0mの環境マップにおいて、各環境パラメータの特性に応じて、前記複数の環境パラメータ間の環境パラメータを補完し、
前記マップの地勢データに基づいて、環境パラメータを補完した海抜0mの環境マップを、元の海抜の環境マップへと補正することを特徴とする金属材料の腐食量マッピング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料の腐食量マッピング方法、金属材料の選定方法および金属材料の腐食量マッピング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1に示すように、従来から大気腐食環境における金属材料の腐食量は、経験式として以下の式(1)で表されることが知られている。
【0003】
【0004】
ここで、上記式(1)において、Yは金属材料の腐食量、Xは金属材料の使用期間、Aは金属材料の初期一年間の腐食量を示すパラメータ、Bは腐食により形成されるさび層の効果による腐食速度の減衰を示すパラメータ、である。これらのパラメータA、Bの値は、金属材料の種類や大気腐食環境により変化する。そのため、現在は、長期腐食量を予測する際に、対象となる大気腐食環境において金属材料を複数期間暴露し、腐食量の経時変化を上記式(1)で外挿する手法が多く用いられている。
【0005】
ところで、金属材料の腐食量は、金属が持つ耐食性能と大気腐食環境因子、例えば温度、相対湿度、濡れ時間、降雨量、飛来塩分量およびSO2濃度等が複雑に作用することにより決まる。そこで、以下に示すように、上記の環境因子を用いて定式化することにより、金属材料の腐食量を予測する技術が提案されている。
【0006】
例えば非特許文献2では、炭素鋼、亜鉛、銅およびアルミニウムについて、腐食量の対数を、温度、相対湿度および飛来塩の対数で重回帰した項と、温度、相対湿度およびSO2量の対数で重回帰した項との和により算出している。
【0007】
また、特許文献1では、年間濡れ時間、年平均風速、飛来塩分量、硫黄酸化物量、腐食反応の活性化エネルギーおよび温度をパラメータとして、腐食指標Zを下記式(2)のように表し、この腐食指標Zの二次関数を長期腐食量の算出に用いている。
【0008】
【0009】
ここで、上記式(2)において、TOWは年間濡れ時間(h)、Wは年平均風速(m/s)、Cは飛来塩分量(mdd)、Sは硫黄酸化物量(mdd)、Eαは腐食反応の活性化エネルギー(J/mol)、Rは気体定数(J/(K/mol))、Tは年平均気温(K)、α,κ,δ,εは定数、である。また、前記した「mdd」は、単位日数および単位面積あたりに捕集されたNaClの量であり、「mg NaCl・dm-2・day-1」の略である。
【0010】
また、特許文献2では、飛来塩分量Cを予測する技術が提案されている。また、特許文献3では、経験式として知られる上記式(1)のパラメータAを、温度、相対湿度、飛来塩分量および濡れ確率をパラメータとして下記式(3)により算出し、パラメータBを実験室的試験によりパラメータAの関数として算出する腐食予測技術が提案されている。
【0011】
【0012】
ここで、上記式(3)において、Tは温度(℃)、Hは相対湿度(%)、Saは飛来塩分量(mg/dm2/day(=mdd))、Pw(T,H)は濡れ確率、α,β,γは鋼種に応じて設定される係数、である。
【0013】
また、特許文献4では、屋外の大気腐食環境において、経験式として知られる上記式(1)のパラメータAを、温度、濡れ時間および飛来塩分量をパラメータとして下記式(4)により算出し、パラメータBを0.3~0.6の範囲に設定する腐食予測技術が提案されている。
【0014】
【0015】
ここで、上記式(4)において、Tは温度(℃)、TOWは濡れ時間(h)、Saは飛来塩分量(mg/dm2/day(=mdd))、α,β,γは係数、である。
【0016】
また、特許文献5では、大気環境における鋼材の板厚減少量を予測する際に、経験式として知られる上記式(1)のパラメータAを下記式(5)により、パラメータBを下記式(6)により算出する技術が提案されている。
【0017】
【0018】
ここで、上記式(5)および上記式(6)において、CR0は、環境因子をパラメータとする鋼材製造直後の初期腐食速度を表す関数であり、CR1は、環境因子をパラメータとする鋼材製造から1年後の腐食速度を表す関数である。また、ここでの環境因子とは、年平均温度(℃)、年平均湿度(%)、年平均風速(m/sec)、飛来塩分量(mg/dm2/day(=mdd))、硫黄酸化物量(mg/dm2/day(=mdd))、のことを示している。
【0019】
また、特許文献6では、金属材料の腐食速度を予測する際に、腐食速度を目的変数としその腐食速度に影響を与える環境因子と地形因子を説明変数とする重回帰分析を行っている。そして、この重回帰分析を行うにあたり、少なくとも説明変数の一つとして相対湿度0%~100%に応じて重み付けした仮想濡れ時間を含めている。また、この仮想濡れ時間を、変化する相対湿度に応じて異なる重み係数を変化する相対湿度に対応した時間に乗算して得られた乗算値を総和して求め、測定した金属材料の腐食速度に基づき重回帰分析法により腐食速度推定式を作成する手法が提案されている。
【0020】
また、特許文献7では、腐食量の予測結果をマッピング(マップ化)する技術として、ステップワイズ法を用いて最適化した重回帰分析によって金属材料の腐食速度を予測し、当該金属材料の腐食速度を、クラスタリングによってマッピングする技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【文献】特許第3909057号公報
【文献】特許第4143018号公報
【文献】特許第4706254号公報
【文献】特許第5895522号公報
【文献】特許第5066160号公報
【文献】特許第5066955号公報
【文献】特許第5684552号公報
【非特許文献】
【0022】
【文献】「耐候性鋼材の橋梁への適用に関する共同研究報告書(XVIII)」、建設省土木研究所、(社)鋼材倶楽部、(社)日本橋梁建設協会、平成5年3月
【文献】ISO 9223:1992 “Corrosion of metals and alloys - Corrosivity of atmospheres - Classification、 determination and estimation”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
ここで、特許文献1~5では、腐食量および腐食速度と各環境パラメータとの関係を評価することにより、説明変数として採用する環境パラメータを選定して定式化している。しかしながら、腐食量、腐食速度および各環境パラメータは、複雑に相関関係を持っている。例えば、腐食量と温度との関係は非線形であり、飛来塩分量とSO2濃度とは疑似相関を持っている。このような関係性の中で、特許文献1~5のように定式化した場合、高い精度の予測は望めない。
【0024】
また、特許文献6は、濡れ時間に着目して重み付けをすることを特徴としている。このように重み付けをすることにより精度は上がるものの、多数ある環境パラメータの中で濡れ時間にのみ重みを付けても有効な精度向上は望めない。また、特許文献6の手法では、現在データを保有している期間でのみ腐食予測が可能であり、長期腐食予測をすることはできない。
【0025】
また、特許文献7は、クラスタリングによってデータを分類し、クラスごとに多数ある環境パラメータから複数の環境パラメータを選定し、重回帰を繰り返し行って最良の式とすることにより予測精度向上を図っている。しかしながら、腐食量および腐食速度の関係は、重回帰で得られる各環境パラメータとの1次式で簡単に表現することができない。従って、特許文献7の手法では大きな精度向上は望めない。
【0026】
また、特許文献7で開示された方法では、予測地点の環境パラメータ、例えば日本国内の場合は1km四方のメッシュごとの環境パラメータを、公に提供されているデータ(例えば農研機構が提供する「農業気象データ」等)等から取得している。しかしながら、このようなデータでは、飛来塩分量やSO2量等の全ての環境パラメータは網羅されていない。また、特許文献7で開示された方法では、不足する環境パラメータの補完方法についても明示されていない。そのため、特許文献7で開示された方法を用いて、既知の環境パラメータのみでクラスタリングおよび腐食量の予測を行ったとしても、精度の低い腐食量予測マップしか作成できないものと考えられる。
【0027】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、大気腐食環境において、金属材料の腐食量を精度良くマッピングすることができる金属材料の腐食量マッピング方法、金属材料の選定方法および金属材料の腐食量マッピング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、金属材料の使用期間と、前記使用期間内の前記金属材料の使用環境を示し、かつ前記金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標と、前記マップの地勢データと、前記使用期間における前記金属材料の腐食量と、を含む腐食量データを用いて金属材料の腐食量を予測し、腐食量予測マップを作成する金属材料の腐食量マッピング方法であって、前記複数の環境パラメータと、前記マップの地勢データと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、前記環境パラメータごとの環境マップを作成する環境マップ作成ステップと、前記腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、を含む予測要求点を入力する予測要求点入力ステップと、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する類似度算出ステップと、前記類似度を考慮して、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータを、潜在変数に次元圧縮する次元圧縮ステップと、前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記メッシュの予測要求点における前記金属材料の腐食量を予測する腐食量予測ステップと、前記メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、腐食量予測マップを作成する腐食量予測マップ作成ステップと、を含むことを特徴とする。
【0029】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記環境マップ作成ステップが、前記複数の環境パラメータを前記マップ上の位置座標に入力する第一ステップと、前記マップの地勢データに基づいて、前記環境マップを海抜0mの環境マップへと補正する第二ステップと、前記海抜0mの環境マップにおいて、前記複数の環境パラメータ間の環境パラメータを補完する第三ステップと、前記マップの地勢データに基づいて、環境パラメータを補完した海抜0mの環境マップを、元の海抜の環境マップへと補正する第四ステップと、を含むことを特徴とする。
【0030】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記複数の環境パラメータが、飛来塩分量を含み、前記第三ステップは、海岸線に近いメッシュの飛来塩分量を補完する際に、予め設定した上限値を超えないように飛来塩分量を補完することを特徴とする。
【0031】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記腐食量予測ステップが、前記金属材料の所定期間の腐食量を示す第一のパラメータを予測する初期腐食量予測ステップと、前記金属材料の腐食速度の減衰を示す第二のパラメータを予測する減衰予測ステップと、前記金属材料の使用期間と、前記第一のパラメータと、前記第二のパラメータと、に基づいて前記金属材料の前記所定期間よりも長い期間の腐食量を予測する長期腐食量予測ステップと、を含むことを特徴とする。
【0032】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記初期腐食量予測ステップが、前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記予測要求点の環境パラメータ下における、前記金属材料の所定期間の腐食量を予測することを特徴とする。
【0033】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記減衰予測ステップが、前記腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記類似度とに基づいて、前記第二のパラメータを予測することを特徴とする。
【0034】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記複数の環境パラメータが、温度と、相対湿度、絶対湿度、濡れ時間および降雨量のうちの少なくとも一つと、飛来塩分量、SOX濃度およびNOX濃度のうちの少なくとも一つと、を含むことを特徴とする。
【0035】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記金属材料が、鉄鋼材料であることを特徴とする。
【0036】
また、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法は、上記発明において、前記腐食量予測マップが、前記腐食量予測マップ作成ステップで予測された腐食量の値に応じて、前記メッシュごとに色付けされたマップであることを特徴とする。
【0037】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る金属材料の選定方法は、前記した金属材料の腐食量マッピング方法を用いて、使用環境に応じた金属材料を選定することを特徴とする。
【0038】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング装置は、金属材料の使用期間と、前記使用期間内の前記金属材料の使用環境を示し、かつ前記金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標と、前記マップの地勢データと、前記使用期間における前記金属材料の腐食量と、を含む腐食量データが保存されるデータベースと、前記複数の環境パラメータと、前記マップの地勢データと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、前記環境パラメータごとの環境マップを作成する環境マップ作成部と、腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、を含む予測要求点が入力される入力部と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する類似度算出部と、前記類似度を考慮して、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータを、潜在変数に次元圧縮する次元圧縮部と、前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記メッシュの予測要求点における前記金属材料の腐食量を予測する腐食量予測部と、前記メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、腐食量予測マップを作成する腐食量予測マップ作成部と、を備えることを特徴とする。
【0039】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであり、以下を要旨とするものである。
[1]
金属材料の使用期間と、前記使用期間内の前記金属材料の使用環境を示し、かつ前記金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標と、前記マップの地勢データと、前記使用期間における前記金属材料の腐食量と、を含む腐食量データを用いて金属材料の腐食量を予測し、腐食量予測マップを作成する金属材料の腐食量マッピング方法であって、
前記複数の環境パラメータと、前記マップの地勢データと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、前記環境パラメータごとの環境マップを作成する環境マップ作成ステップと、
前記腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、を含む予測要求点を入力する予測要求点入力ステップと、
前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する類似度算出ステップと、
前記類似度を考慮して、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータを、潜在変数に次元圧縮する次元圧縮ステップと、
前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記メッシュの予測要求点における前記金属材料の腐食量を予測する腐食量予測ステップと、
前記メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、腐食量予測マップを作成する腐食量予測マップ作成ステップと、
を含むことを特徴とする金属材料の腐食量マッピング方法。
[2]
前記環境マップ作成ステップは、
前記複数の環境パラメータを前記マップ上の位置座標に入力する第一ステップと、
前記マップの地勢データに基づいて、前記環境マップを海抜0mの環境マップへと補正する第二ステップと、
前記海抜0mの環境マップにおいて、前記複数の環境パラメータ間の環境パラメータを補完する第三ステップと、
前記マップの地勢データに基づいて、環境パラメータを補完した海抜0mの環境マップを、元の海抜の環境マップへと補正する第四ステップと、
を含むことを特徴とする[1]に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[3]
前記複数の環境パラメータは、飛来塩分量を含み、
前記第三ステップは、海岸線に近いメッシュの飛来塩分量を補完する際に、予め設定した上限値を超えないように飛来塩分量を補完することを特徴とする[2]に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[4]
前記腐食量予測ステップは、
前記金属材料の所定期間の腐食量を示す第一のパラメータを予測する初期腐食量予測ステップと、
前記金属材料の腐食速度の減衰を示す第二のパラメータを予測する減衰予測ステップと、
前記金属材料の使用期間と、前記第一のパラメータと、前記第二のパラメータと、に基づいて前記金属材料の前記所定期間よりも長い期間の腐食量を予測する長期腐食量予測ステップと、
を含むことを特徴とする[1]から[3]のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[5]
前記初期腐食量予測ステップは、前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記予測要求点の環境パラメータ下における、前記金属材料の所定期間の腐食量を予測することを特徴とする[4]に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[6]
前記減衰予測ステップは、前記腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記類似度とに基づいて、前記第二のパラメータを予測することを特徴とする[4]に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[7]
前記複数の環境パラメータは、温度と、相対湿度、絶対湿度、濡れ時間および降雨量のうちの少なくとも一つと、飛来塩分量、SOX濃度およびNOX濃度のうちの少なくとも一つと、を含むことを特徴とする[1]から[6]のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[8]
前記金属材料は、鉄鋼材料であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[9]
前記腐食量予測マップは、前記腐食量予測マップ作成ステップで予測された腐食量の値に応じて、前記メッシュごとに色付けされたマップであることを特徴とする[1]から[8]のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法。
[10]
[1]から[9]のいずれか一項に記載の金属材料の腐食量マッピング方法を用いて、使用環境に応じた金属材料を選定することを特徴とする金属材料の選定方法。
[11]
金属材料の使用期間と、前記使用期間内の前記金属材料の使用環境を示し、かつ前記金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標と、前記マップの地勢データと、前記使用期間における前記金属材料の腐食量と、を含む腐食量データが保存されるデータベースと、
前記複数の環境パラメータと、前記マップの地勢データと、前記マップ上における前記環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、前記環境パラメータごとの環境マップを作成する環境マップ作成部と、
腐食量予測マップを作成する前記金属材料の使用期間と、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、を含む予測要求点が入力される入力部と、
前記腐食量データにおける複数の環境パラメータと、前記予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する類似度算出部と、
前記類似度を考慮して、前記腐食量データにおける複数の環境パラメータを、潜在変数に次元圧縮する次元圧縮部と、
前記潜在変数および前記類似度を用いて構築した予測式に基づいて、前記メッシュの予測要求点における前記金属材料の腐食量を予測する腐食量予測部と、
前記メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、前記腐食量予測マップを作成する腐食量予測マップ作成部と、
を備えることを特徴とする金属材料の腐食量マッピング装置。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、大気腐食環境において、金属材料の腐食量を精度良くマッピングすることができ、使用環境に応じた耐食性を有する最適な金属材料を選定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【
図1】
図1は、大気腐食環境において、温度(年平均)と腐食量(年間)との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、大気腐食環境において、SO
2濃度(年平均)と飛来塩分量(年平均)との擬似相関関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態に係る金属材料の腐食量マッピング装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態に係る金属材料の腐食量マッピング方法の流れを示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、従来技術に係る金属材料の腐食量マッピング方法によって得た、金属材料の一年後の腐食量予測値を示す腐食量予測マップである。
【
図6】
図6は、本発明の実施形態に係る金属材料の腐食量マッピング方法によって得た、金属材料の五十年後の腐食量予測値を示す腐食量予測マップである。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態に係る金属材料の腐食量マッピング方法、金属材料の選定方法および金属材料の腐食量マッピング装置について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0043】
(環境パラメータの補完)
大気中における金属材料と腐食量と各種の環境パラメータとの間には複雑な相関関係があり、前述の非特許文献2の国際規格ISO9223の中でも、年平均の温度、相対湿度、飛来塩分量,SOX濃度に基づいて年間の腐食量が定式化されている。しかしながら、これらの環境パラメータを、例えばマップ上で1km、2km程度の狭いメッシュ間隔で入手することは困難であるため、入手可能な環境パラメータの位置座標に基づいて、各環境パラメータの位置座標間の環境パラメータを補完する必要がある。
【0044】
その際、例えば温度は、経度、緯度のみならず標高によっても変化する。また、飛来塩分の飛来の仕方も、山や丘等の障害物の影響によって変化する。そのため、このような地勢の影響を考慮して環境パラメータを補完する必要がある。
【0045】
但し、地勢データの反映および環境パラメータの位置座標間の補完を一度の演算で行うことは困難である。そのため、本実施形態では、まず既知の複数の環境パラメータがプロットされた複数の環境マップを、海抜0m換算の複数の環境マップへと補正する。続いて、環境パラメータの位置座標間の補完した海抜0mの環境マップをそれぞれ作成する。続いて、実際の地勢データに合わせて補完後の環境パラメータを補正することにより、元の海抜の環境マップをそれぞれ作成する。なお、前記した「環境マップ」とは、環境パラメータがプロットされたマップを示している。以下、環境パラメータごとの具体的な補完方法について説明する。
【0046】
(温度の補完)
温度の補完では、まず入手可能な温度データを、マップ上にプロットする。続いて、「標高が100m下がると気温が0.6℃上がる」という法則(気温減率)に基づいて、地勢データを用いて、各プロット点の温度の値を、海抜0mに換算した値へと補正する。続いて、任意のメッシュ間隔でデータ間の温度を補完する。なお、メッシュ間隔は、マップ上で既知の環境パラメータの数や、計算時のマシンスペック等に応じて決定すればよい。
【0047】
データの補完方法は、線形補完や多項式補完等の様々な手法があるが、環境を予測した際のフルクロスバリデーションにより、本実施形態のユーザが求める精度に達していれば、どのような補完方法を用いてもよい。これは、温度以外の環境パラメータの補完においても同様である。そして、「標高が100m上がると気温が0.6℃下がる」という法則に基づいて、地勢データを用いて、海抜0mの環境マップの各プロット点の温度の値を、元の海抜に換算した値へと補正することにより、元の海抜の温度の環境マップ(温度マップ)を作成する。
【0048】
(絶対湿度の補完)
絶対湿度は、環境パラメータのうちの温度および相対湿度から算出することができる。ここで、大気腐食環境は、「温度が変化しても絶対湿度はほぼ一定」という特徴を有している。そのため、上記の特徴を利用して、標高等の地勢データを反映させることなく、温度および相対湿度から各メッシュ点の絶対湿度を算出し、マップ上の絶対湿度のデータ間を補完することにより、絶対湿度の環境マップ(絶対湿度マップ)を作成する。
【0049】
(相対湿度の補完)
相対湿度の補完では、上記の「温度が変化しても絶対湿度はほぼ一定」という大気腐食環境の特徴を利用して、温度および絶対湿度の環境マップの各メッシュ点で相対湿度を算出することにより、相対湿度の環境マップ(相対湿度マップ)を作成する。
【0050】
(濡れ時間の補完)
濡れ時間に関して、国際規格では「相対湿度が80%以上の時間」と定められている。そのため、上記の手法を用いた時間ごと、日ごとの相対湿度の経時変化マップから、各メッシュ点における相対湿度80%以上の時間を積算して年の濡れ時間を算出することにより、濡れ時間の環境マップ(濡れ時間マップ)を作成する。
【0051】
(降雨量の補完)
降雨量は、地勢の影響を受けないため、標高等の地勢データを反映させることなく、マップ上における降雨量のデータ間を補完することにより、降雨量の環境マップ(降雨量マップ)を作成する。
【0052】
(飛来塩分量、SOX濃度およびNOX濃度の補完)
飛来塩分量、SOX濃度およびNOX濃度の補完では、経度、緯度、標高のユークリッド距離に基づいてデータ間を補完することにより、飛来塩分量、SOX濃度およびNOX濃度の環境マップ(飛来塩分量マップ、SOX濃度マップおよびNOX濃度マップ)を作成する。
【0053】
ここで、飛来塩分量は、具体的にはモデル式「y=ax-b」により算出する。このモデル式において、x:離岸距離(km)、y:飛来塩分量(mdd)、a,b:係数である。また、離岸距離xは、海岸線の形状データの各点からの距離の最小値である。なお、飛来塩分量は、上記のモデル式以外にも、Coleモデルやメソ気象モデル等の既存の腐食予測式を用いて算出してもよい。
【0054】
また、飛来塩分量の補完に際しては、メッシュ点が海岸線と近い場合に飛来塩分量が異常に高くなることを避けるために、飛来塩分量の上限を設けることが好ましい。飛来塩分量の上限としては、例えば「1.0mdd=62.3mmd」等の値を設定することができる。
【0055】
(腐食量の予測)
金属材料の腐食量の予測では、上記のように作成した環境マップのメッシュごとに腐食量を予測する。本発明者らは、各大気腐食環境における金属材料の初期一年間の腐食量を示すパラメータA(第一のパラメータ)と、さび層による腐食速度の減衰を示すパラメータB(第二のパラメータ)とをそれぞれ分けて予測し、かつ予測に際し、各環境パラメータに重み付けをしたデータから予測することにより、腐食量の予測精度が向上することを見出した。
【0056】
金属材料の腐食速度は、一般的に経時的に減衰していく。これは、金属材料表面に生成する腐食生成物(例えばさび層)による保護効果によるものである。また、この保護効果は、周囲の環境や金属材料の種類により大きく異なる。このように、金属材料の腐食速度は、様々な環境や金属材料が持つ耐食性等の、非常に多くの要素が絡み合う。そのため、任意の環境および期間における金属材料の腐食量を、各環境パラメータと腐食量との関係の原理原則から精度良く予測することは非常に困難であり、例えばデータベースに蓄積された腐食量および各環境パラメータのデータ群から統計的に予測することが現実的であり、精度向上にも繋がる。
【0057】
一方、一般的に、蓄積された腐食量と各環境パラメータのデータ群の中に、長期間のデータは多くない。例えば腐食量を予測する任意の期間が数十年という長期間となる場合、期間を変数として予測に取り込んで直接腐食量を予測すると、任意の長期間の腐食量を、期間の離れたデータから予測することになるため、精度が低下してしまう。そこで、本発明では、金属材料の初期一年間の腐食量を示すパラメータAと、さび層による腐食速度の減衰を示すパラメータBとをそれぞれ分けて予測することにより、精度の向上を図った。
【0058】
ここで、任意の期間における金属材料の腐食量に関わる主な環境パラメータとしては、例えば温度、相対湿度、絶対湿度、濡れ時間、降雨量、飛来塩分量、SO
X濃度およびNO
X濃度等が挙げられる。これらの環境パラメータの中には、例えば
図1に示した温度と腐食量との関係のように、非線形の関係を持つものが存在する。また、例えば
図2に示した飛来塩分量とSO
2濃度との関係のように、環境パラメータ同士が多重共線性を示すものも存在する。金属材料の腐食に影響を及ぼす環境パラメータが複数存在することに加えて、この二点が、任意の環境および期間における金属材料の腐食量を精度良く予測することを困難にしている要因となっている。
【0059】
腐食量に対して環境パラメータが非線形の関係を持つものに関しては、予測をしたい任意の環境および期間との類似性により各サンプルに重み付けを行い、かつ局所的に重回帰分析を行うことで予測精度を改善することができる。なお、前記した「サンプル」とは、データベースに保存された腐食量および各環境パラメータのデータ群(後記する腐食量データ)のことを意味している。
【0060】
また、環境パラメータ同士が多重共線性を持つことに関しては、各環境パラメータに対して独立性を有するパラメータに次元圧縮し、新たなパラメータを作り出すことにより解決することができる。そして、これらを同時に実現する手法の一つとして、以下の参考文献1に示す「局所重み付き部分最小二乗法(LW-PLS:Locally weighted partial least squares)」がある。
【0061】
参考文献1:金尚弘、岡島亮太、加納学、長谷部伸治、「高精度な局所PLSモデル構築のためのサンプル選択」、第54回自動制御連合会講演会、54(2011)、p.1594
【0062】
本発明では、各大気腐食環境における金属材料の初期一年間の腐食量を示すパラメータAと、さび層による腐食速度の減衰を示すパラメータBとを、予測要求点との類似性(類似度)をサンプルごとに求め、その類似度を利用して重み付けを行い、局所回帰することにより予測する手法を用いる。また、各環境パラメータを次元圧縮することにより新たなパラメータを作り出し(潜在変数の導出)、局所回帰の説明変数とする。またその際、類似度を利用した重み付けを用いた潜在変数と目的変数の内積が最大となるように潜在変数を決定し、局所的な重回帰を行う。以下、本発明の具体的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0063】
(腐食量マッピング装置)
本発明の実施形態に係る金属材料の腐食量マッピング装置の構成について、
図3を参照しながら説明する。腐食量マッピング装置1は、入力部10と、データベース20と、演算部30と、表示部40と、を備えている。
【0064】
入力部10は、例えばキーボード、マウスポインタ、テンキー等の入力装置によって実現される。後記するように、演算部30には、この入力部10を介して、後記する予測要求点が入力される。
【0065】
データベース20には、金属材料の腐食量の実績値である腐食量データが保存されている。腐食量データには、金属材料(例えば鉄鋼材料)の使用期間と、当該使用期間における金属材料の腐食量と、当該使用期間内の金属材料の使用環境を示し、かつ金属材料が使用される地域を示すマップ上で既知の複数の環境パラメータと、マップ上における環境パラメータの位置座標と、マップの地勢データと、が含まれる。
【0066】
前記した「複数の環境パラメータ」には、温度(気温)と、相対湿度、絶対湿度、濡れ時間および降雨量のうちの少なくとも一つと、飛来塩分量、SOX濃度およびNOX濃度のうちの少なくとも一つと、が含まれる。また、これらの環境パラメータは、例えば年平均のデータである。また、データベース20には、鋼種ごとの腐食量データが保存されている。
【0067】
演算部30は、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等からなるプロセッサと、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等からなるメモリ(主記憶部)と、により実現される。
【0068】
演算部30は、例えば図示しない記憶部に格納されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部等を制御することにより、所定の目的に合致した機能を実現する。演算部30は、プログラムの実行を通じて、マップ作成部31、類似度算出部32、次元圧縮部33および腐食量予測部34として機能する。なお、マップ作成部31、類似度算出部32、次元圧縮部33および腐食量予測部34の詳細については後記する。
【0069】
表示部40は、例えばLCDディスプレイ、CRTディスプレイ等の表示装置によって実現され、演算部30から入力される表示信号をもとに、金属材料の腐食量の予測結果として腐食量予測マップを表示する。なお、前記した「腐食量予測マップ」とは、腐食量の予測値が例えば色によって表示されたマップを示している(
図5および
図6参照)。
【0070】
(腐食量マッピング方法)
本発明の実施形態に係る金属材料の腐食量マッピング方法について、
図4を参照しながら説明する。腐食量マッピング方法では、環境マップ作成ステップと、予測要求点入力ステップと、第一の類似度算出ステップと、第一の次元圧縮ステップと、初期腐食量予測ステップ(第一のパラメータ予測ステップ)と、第二の類似度算出ステップと、第二の次元圧縮ステップと、減衰予測ステップ(第二のパラメータ予測ステップ)と、長期腐食量予測ステップと、腐食量予測マップ作成ステップと、を行う。なお、本実施形態に係る腐食量マッピング方法は、金属材料の中でも特に耐候性鋼等の鋼材に適用することにより、腐食量をより精度良く予測してマッピングすることが可能である。
【0071】
環境マップ作成ステップでは、マップ作成部31によって、入手可能なマップ上における環境パラメータから、任意のメッシュ間隔でデータ間を補完して、環境パラメータごとの環境マップを作成する(ステップS1)。
【0072】
環境マップ作成ステップでは、マップ上で既知の複数の環境パラメータと、マップの地勢データと、マップ上における環境パラメータの位置座標とから、任意のメッシュの間隔で、環境パラメータごとの環境マップを作成する。環境マップ作成ステップでは、より具体的には以下の四つのステップを行う。
【0073】
まず、既知の複数の環境データを、前記したマップ上の位置座標に入力する(第一ステップ)。続いて、マップの地勢データに基づいて、環境マップを海抜0mの環境マップへと補正する(第二ステップ)。続いて、海抜0mの環境マップにおいて、既知の環境パラメータ間の環境パラメータを補完する(第三ステップ)。続いて、マップの地勢データに基づいて、環境パラメータを補完した海抜0mの環境マップを、元の海抜の環境マップへと補正する(第四ステップ)。
【0074】
ここで、前記した第三ステップでは、前記したように、海岸線に近いメッシュ点の飛来塩分量を補完する際に、予め設定した上限値(例えば1.0mdd)を超えないように飛来塩分量を補完することが好ましい。飛来塩分量に上限値を設けることにより、海岸線に近いメッシュ点の飛来塩分量が異常に高くなることを避けることができる。
【0075】
予測要求点入力ステップでは、入力部10を介して、メッシュ点の環境パラメータである予測要求点が演算部30に入力される(ステップS2)。この予測要求点は、腐食量を予測したい金属材料の使用期間(腐食量予測マップを作成する金属材料の使用期間)と、この使用期間内の金属材料の使用環境を示す、年平均の複数の環境パラメータ(腐食量データにおける複数の環境パラメータ)と、を含んでいる。
【0076】
続いて、第一の類似度算出ステップでは、類似度算出部32によって、データベース20に保存されている、使用期間が一年である金属材料の腐食量データにおける複数の環境パラメータと、予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する(ステップS3)。本ステップにおいて、類似度算出部32は、例えば後記する式(8)によって上記類似度を算出する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0077】
続いて、第一の次元圧縮ステップでは、次元圧縮部33によって、第一の類似度算出ステップで算出された類似度を考慮して、腐食量データにおける複数の環境パラメータ(説明変数)を、潜在変数に次元圧縮する(ステップS4)。本ステップにおいて、次元圧縮部33は、例えば後記する式(7)によって上記潜在変数を算出する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0078】
続いて、初期腐食量予測ステップでは、腐食量予測部34によって、第一の次元圧縮ステップで算出された潜在変数、および第一の類似度算出ステップで算出された類似度を用いて構築した予測式に基づいて、予測要求点の環境パラメータ下における、金属材料の初期一年間の腐食量を予測する(ステップS5)。この金属材料の初期一年間の腐食量は、上記式(1)のパラメータA(第一のパラメータ)のことを意味している。本ステップにおいて、腐食量予測部34は、例えば後記する式(10)に示す予測式を構築し、この予測式に基づいて金属材料の初期一年間の腐食量を予測する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0079】
続いて、第二の類似度算出ステップでは、類似度算出部32によって、腐食量を予測したい金属材料の使用期間を考慮して、金属材料の腐食量データにおける複数の環境パラメータと、予測要求点における複数の環境パラメータとの類似度を算出する(ステップS6)。本ステップにおいて、類似度算出部32は、例えば後記する式(13)によって上記類似度を算出する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0080】
続いて、第二の次元圧縮ステップでは、次元圧縮部33によって、第二の類似度算出ステップで算出された類似度および腐食量を予測したい金属材料の使用期間を考慮して、腐食量データにおける複数の環境パラメータ(説明変数)を、潜在変数に次元圧縮する(ステップS7)。本ステップにおいて、次元圧縮部33は、例えば後記する式(12)によって上記潜在変数を算出する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0081】
続いて、減衰予測ステップでは、腐食量予測部34によって、第二の次元圧縮ステップで算出された潜在変数、および第二の類似度算出ステップで算出された類似度を用いて構築した予測式に基づいて、金属材料の腐食速度の減衰を示すパラメータを予測する(ステップS8)。この金属材料の腐食速度の減衰を示すパラメータは、上記式(1)のパラメータB(第二のパラメータ)のことを意味している。本ステップにおいて、腐食量予測部34は、例えば後記する式(16)に示す予測式を構築し、この予測式に基づいて金属材料の腐食速度の減衰を示すパラメータを予測する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0082】
続いて、長期腐食量予測ステップでは、腐食量予測部34によって、金属材料の使用期間と、初期腐食量予測ステップで算出されたパラメータAと、減衰予測ステップで算出されたパラメータBと、に基づいて金属材料の一年よりも長い期間の腐食量(長期腐食量)を予測する(ステップS9)。本ステップにおいて、腐食量予測部34は、上記式(1)に基づいて上記長期腐食量を予測する。なお、本ステップの具体例については後記する実施例で説明する。
【0083】
続いて、腐食量予測マップ作成ステップでは、マップ作成部31によって、メッシュの予測要求点における腐食量の予測結果を、マップ上に色付けすることにより、腐食量予測マップを作成する(ステップS10)。この腐食量予測マップは、腐食量予測マップ作成ステップで予測された腐食量の値に応じて、前記メッシュごとに色付けされたマップである(例えば後記する
図5および
図6参照)。
【0084】
以上のように、本実施形態に係る腐食量マッピング装置1を用いた金属材料の腐食量マッピング方法によれば、大気腐食環境において、金属材料の長期腐食予測を精度高く行うことができる。また、金属材料の腐食量を精度良くマッピングすることができ、使用環境に応じた耐食性を有する最適な金属材料を選定することが可能となる。
【0085】
また、従来技術、例えば特許文献1~5のように説明変数として採用する環境パラメータを選定して定式化してしまうと、ある地域では予測精度が高いが、ある地域では予測精度が低い、というように腐食量を予測しようとする地域によって予測精度に差が生じてしまう。一方、本実施形態に係る金属材料の腐食予測方法によれば、データベース20内に、腐食量を予測しようとする地域のものと類似する腐食量データがあれば予測可能であるため、どのような地域であっても金属材料の腐食量を精度高く予測することができる。
【実施例】
【0086】
(実施例1)
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明する。本実施例では、ベトナムにおいて、軒下環境における鋼材の年間腐食量(初期一年間の腐食量)を予測し、腐食量予測マップを作成した。ここで、本実施例の内容は、前記した腐食量マッピング方法のうち、環境マップ作成ステップ、予測要求点入力ステップ、第一の類似度算出ステップ、第一の次元圧縮ステップ、初期腐食量予測ステップおよび腐食量予測マップ作成ステップに相当する。
【0087】
本実施例では、データベースに保存されている、世界各地の55地域における鋼材の年間腐食量と年平均の各環境パラメータのデータ群(腐食量データ)を用いて、年間腐食量の予測を行った。本実施例では、環境パラメータとして、温度(℃)、相対湿度(%)、飛来塩分量(mmd(Cl-換算))、SO2濃度(mmd(SO2換算))、の四つを使用した。ここで、前記した「mmd」は、単位日数および単位面積あたりに捕集されたCl-またはSO2の量であり、「mg・m-2・day-1」の略である。
【0088】
環境パラメータごとの環境マップは、前記した方法により作成した。今回の実施例ではデータ間の補完方法として線形補完を利用して計算を行った(
図4の「環境マップ作成ステップ」)。得られた環境マップのメッシュ点での腐食予測において、前記したように、説明変数同士が相関を持つ場合、多重共線性によって予測精度が悪化することが知られている。前記したLW-PLSでは、説明変数として使用する各環境パラメータが相関を持っているため、次元圧縮によって相関を排除し、新たなパラメータ(潜在変数)を作成する。ここで、LW-PLSは、前記した参考文献1に示された手順に従って計算している。四つの環境パラメータを潜在変数(パラメータt)に圧縮するための式は、下記式(7)のように示すことができる。
【0089】
【0090】
ここで、上記式(7)において、Tは温度(℃)、RHは相対湿度(%)、Clは飛来塩分量(mg/m2/day(=mmd)(Cl-換算))、SO2はSO2濃度(mg/m2/day(=mmd)(SO2換算))、w1~w4は係数、である。なお、上記式(7)では、一例として四つの環境パラメータのみを用いているが、実際には、腐食量の予測をしようとする地域において腐食に関係することが予想される環境パラメータについては全て含めることが好ましい。
【0091】
本実施例では、まず腐食量を予測したい鋼材の使用期間と、この使用期間内の鋼材の使用環境を示す年平均の複数の環境パラメータと、を含む予測要求点を、腐食量マッピング装置の演算部に入力した(
図4の「予測点入力ステップ」)。
【0092】
続いて、腐食量を求めたい予測要求点の環境パラメータと、腐食量の予測のために参照する腐食量データの環境パラメータiの類似度ω
iを、下記式(8)に示すようなユークリッド距離を用いて算出した(
図4の「第一の類似度算出ステップ」)。なお、各環境パラメータによってデータの広がりが異なるため、数値は正規化を実施した。
【0093】
【0094】
ここで、ωiは局所化パラメータ、右下の添え字がqの環境パラメータは腐食量を予測したい予測要求点の環境パラメータ、右下の添え字がiの環境パラメータはデータベースから参照した腐食量データの環境パラメータ、σは下記式(9)の標準偏差である。また、φは調整パラメータであり、例えばφ=1を基準として適宜に調整して値は決定される。
【0095】
【0096】
続いて、上記式(8)で算出した類似度ω
iと、腐食量データの環境パラメータおよび腐食量から、参考文献1(2.1章)に示された手順に従って、類似度ω
iを重みとして係った潜在変数と目的変数(腐食量)の内積が最大となるように、上記式(7)の係数w
1~w
4を決定した。そして、決定した係数w
1~w
4を用いて、上記式(7)によって各環境パラメータの潜在変数を算出した(
図4の「第一の次元圧縮ステップ」)。
【0097】
続いて、下記式(10)に示す腐食量の予測式を局所回帰によって構築し、下記式(10)に基づいて、予測要求点の環境パラメータ下における鋼材の年間腐食量(初期一年間の腐食量)を予測した(
図4の「初期腐食量予測ステップ」)。
【0098】
【0099】
ここで、Yは腐食量の予測値、αは係数(回帰係数)である。なお、上記式(10)では記載を省略したが、上記式(10)に定数項を含ませたり、あるいは複数の潜在変数を用いることも可能である。
【0100】
このように、本実施例では、腐食量を予測したい予測要求点が入力されるたびに、予測要求点と各腐食量データとの類似度の算出、潜在変数の係数の算出、予測式の構築を行う。得られたメッシュ点ごとの年間腐食量の予測値を、例えば
図5に示すような腐食量予測マップとしてマップ化し(
図4の「腐食量予測マップ作成ステップ」)、表示部40によって表示する。
【0101】
(実施例2)
本実施例では、ベトナムにおいて、軒下環境における鋼材の長期(五十年)腐食量を予測し、腐食量予測マップを作成した。ここで、本実施例の内容は、前記した腐食量マッピング方法の全ステップに相当する。
【0102】
本実施例では、軒下環境を対象として、データベースに保存されている、世界55地域の1年間、55地域の3年間、39地域の5年間、38地域の7年間、38地域の9年間の腐食量と年平均の各環境パラメータのデータ群(腐食量データ)を用いて、実施例1と同様の手法で、鋼材について、初期一年間の腐食量を示すパラメータA(上記式(1)参照)を算出した(
図4の環境マップ作成ステップ、予測要求点入力ステップ、第一の類似度算出ステップ、第一の次元圧縮ステップおよび初期腐食量予測ステップ)。
【0103】
続いて、7年間の長期腐食試験結果に重み付けをし、さび層による腐食速度の減衰を示すパラメータBを算出し、上記式(1)により鋼材の五十年後の腐食量を予測した。五十年後の腐食量の予測では、まず上記式(1)を下記式(11)に示すように変形し、パラメータBおよび使用期間Xを用いて左辺の初期一年間の腐食量の対数から五十年後の腐食量の対数の差を算出した。
【0104】
【0105】
上記式(11)の左辺の予測にはLW-PLSを用いる。具体的には、四つの環境パラメータと使用期間Xの対数の積を取ることにより、時間因子を考慮した新たな環境パラメータを作成し、これらの新たな環境パラメータを、下記式(12)に示すように潜在変数(パラメータu)に圧縮する。
【0106】
【0107】
ここで、上記式(12)において、Tは温度(℃)、RHは相対湿度(%)、Clは飛来塩分量(mg/m2/day(=mmd)(Cl-換算))、SO2はSO2濃度(mg/m2/day(=mmd)(SO2換算))、v1~v4は係数、である。
【0108】
続いて、腐食量を求めたい予測要求点の環境パラメータと、腐食量の予測のために参照する腐食量データの環境パラメータiの類似度ω
iを、下記式(13)に示すようなユークリッド距離を用いて算出した(
図4の「第二の類似度算出ステップ」)。なお、各環境パラメータによってデータの広がりが異なるため、数値は正規化を実施した。
【0109】
【0110】
ここで、ωiは局所化パラメータ、右下の添え字がqの環境パラメータは腐食量を予測したい予測要求点の環境パラメータ、右下の添え字がiの環境パラメータはデータベースから参照した腐食量データの環境パラメータ、σは下記式(14)の標準偏差である。また、φは調整パラメータであり、例えばφ=1を基準として適宜に調整して値は決定される。
【0111】
【0112】
続いて、上記式(13)で算出した類似度ω
iと、腐食量データの環境パラメータおよび腐食量から、参考文献1(2.1章)に示された手順に従って、類似度ω
iを重みとして係った潜在変数と目的変数(腐食量)の内積が最大となるように、上記式(12)の係数v
1~v
4を決定した。そして、決定した係数v
1~v
4を用いて、上記式(7)によって各環境パラメータの潜在変数を算出した(
図4の「第二の次元圧縮ステップ」)。
【0113】
続いて、下記式(15)に示す腐食量の予測式を局所回帰によって構築し、予測したい環境パラメータにおける腐食量の対数の差を算出した。
【0114】
【0115】
ここで、上記式(15)において、βは係数(回帰係数)である。なお、上記式(15)では記載を省略したが、上記式(15)に定数項を含ませたり、あるいは複数の潜在変数を用いることも可能である。
【0116】
このように、本発明例では、腐食量を予測したい予測要求点が入力されるたびに、予測要求点と各腐食量データとの類似度の算出、潜在変数の係数の算出、予測式の構築を行う。
【0117】
続いて、上記式(12)および上記式(15)に基づいて、上記式(11)のパラメータBを、下記式(16)によって算出した(
図4の「減衰予測ステップ」)。
【0118】
【0119】
続いて、算出したパラメータAおよびパラメータBを用いて、上記式(1)により9年後の腐食量Yを算出した(
図4の長期腐食量予測ステップ)。得られたメッシュ点ごとの長期腐食量の予測値を、例えば
図6に示すような腐食量予測マップとしてマップ化し(
図4の「腐食量予測マップ作成ステップ」)、表示部40によって表示する。
【0120】
以上、本発明に係る金属材料の腐食量マッピング方法、金属材料の選定方法および金属材料の腐食量マッピング装置について、発明を実施するための形態および実施例により具体的に説明したが、本発明の趣旨はこれらの記載に限定されるものではなく、請求の範囲の記載に基づいて広く解釈されなければならない。また、これらの記載に基づいて種々変更、改変等したものも本発明の趣旨に含まれることはいうまでもない。
【0121】
ここで、前記した実施形態では、金属材料の初期一年間の腐食量(パラメータA)と、金属材料の腐食速度の減衰を示すパラメータ(パラメータB)とをそれぞれ分けて予測し、初期一年間の腐食量を基準として長期腐食量を予測していたが、長期腐食量を予測する際の基準は初期一年間の腐食量には限定されない。
【0122】
すなわち、初期腐食量予測ステップにおいて、予め定める任意の所定期間(初期期間)における金属材料の腐食量を予測し、長期腐食量予測ステップにおいて、前記した所定期間の腐食量を基準として長期腐食量を予測してもよい。
【0123】
例えば初期腐食量として1.5年の腐食量がA’として与えられた場合、そこからX年後の腐食量の予測式は、上記式(1)を拡張して、下記式(17)のように記述可能と考えられる。
【0124】
【0125】
これを一般化すれば、ある初期期間X0年の腐食量をA’、X0年を基準とした減衰パラメータをB’として、下記式(18)を得ることができる。この式(18)を用いることにより、X0年間を基準とした腐食量として、X>X0の期間の腐食量を算出することができる。
【0126】
【0127】
金属材料の任意の初期期間の腐食量A’と、減衰パラメータB’とをそれぞれ分けて予測し、上記式(18)に示すように、初期期間以降の経過年数X’を減衰パラメータB’で累乗することにより、初期期間以降の長期腐食量を予測することができる。但し、上記式(1)の初期腐食量Aは、1年間の腐食量を前提としている。そのため、上記式(18)のX0の期間は、1年間から大きくずれた場合は想定しておらず、半年間から2年間程度であることが現実的な実用範囲と考えられる。
【符号の説明】
【0128】
1 腐食量マッピング装置
10 入力部
20 データベース
30 演算部
31 マップ作成部
32 類似度算出部
33 次元圧縮部
34 腐食量予測部
40 表示部