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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】内燃機関
(51)【国際特許分類】
   F01L 1/356 20060101AFI20221004BHJP
   F02B 23/00 20060101ALI20221004BHJP
   F02B 23/10 20060101ALI20221004BHJP
   F02D 15/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F01L1/356 Z
F02B23/00 P
F02B23/10 310B
F02D15/02 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021519011
(86)(22)【出願日】2019-05-13
(86)【国際出願番号】 IB2019000534
(87)【国際公開番号】W WO2020229860
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】葛西 理晴
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】アクス チヤーダシ
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-285857(JP,A)
【文献】特許第3638632(JP,B2)
【文献】特開2007-327345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 1/356
F02B 23/00
F02B 23/10
F02D 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内に燃料を噴射して希薄燃焼を行うとともに、筒内にタンブルを生成することで希薄燃焼を安定化させる火花点火内燃機関であって、
上記タンブルの強化のために、
複リンク式ピストンクランク機構によって吸気行程におけるピストン速度のピークが吸気上死点と吸気下死点との間の1/2のクランク角位置よりも遅れ側に位置するように構成されており、
吸気弁のリフト特性が、上昇区間と下降区間とで非対称をなし、積算リフト量の重心が吸気弁作動角の中心よりも遅れ側に位置するように構成されている、内燃機関。
【請求項5】
上記複リンク式ピストンクランク機構が可変圧縮比機構として構成されており、
制御可能な全ての圧縮比制御位置の下で、吸気行程におけるピストン速度のピークが吸気上死点と吸気下死点との間の1/2のクランク角位置よりも遅れ側に位置する、
請求項1~4のいずれかに記載の内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、筒内に燃料を噴射して希薄燃焼を行う火花点火内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用ガソリン機関に代表される火花点火内燃機関の燃料消費率の向上の一つの手段として、希薄な混合気で燃焼を行う希薄燃焼が知られている。燃料消費率の向上に有効な希薄燃焼は、新気と燃料量との比である空燃比を理論空燃比よりも大きく設定するほか、多量の排気還流によっても実現できる。しかし、十分な希薄化を行うには、燃焼安定性の制限があり、例えばタンブルなどによるガス流動強化が必要となる。
【0003】
特許文献1には、直動式動弁機構におけるカムのプロファイルを変更することで、最大リフトとなる時期を進角側もしくは遅角側へ偏らせるようにした動弁装置が開示されている。
【0004】
特許文献2は、ピストンとクランクピンとが複数のリンクで接続された複リンク式ピストンクランク機構に関するものであり、このような複リンク式ピストンクランク機構では、リンクジオメトリの設定に応じて行程中のピストン速度の特性を適宜に設定できることを開示している。
【0005】
本発明は、これらの技術を効果的に利用して、筒内におけるタンブルなどのガス流動を強化し、希薄燃焼の燃焼安定化を図ることを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3638632号公報
【文献】特開2004-190590号公報
【発明の概要】
【0007】
この発明に係る火花点火式内燃機関は、
複リンク式ピストンクランク機構によって吸気行程におけるピストン速度のピークが吸気上死点と吸気下死点との間の1/2のクランク角位置よりも遅れ側に位置するように構成されており、
吸気弁のリフト特性が、上昇区間と下降区間とで非対称をなし、積算リフト量の重心が吸気弁作動角の中心よりも遅れ側に位置するように構成されている。
【0008】
このような構成では、まず、複リンク式ピストンクランク機構のリンクジオメトリの設定により、下降方向へのピストン速度のピークが吸気行程の後半に生じ、吸気弁開口部を通して新気を吸引する作用が吸気行程の後半で強く得られる。そして、このようなピストン速度のピークのタイミングに対応するように、吸気弁の積算リフト量の重心が吸気弁作動角の中心よりも遅れ側に位置する。これにより、吸気弁開口部を通して高速で流入する吸気の流れにより筒内に生成されるタンブルやスワールなどのガス流動が強化され、かつこのタンブルやスワールが生成されるタイミングが吸気行程の中で比較的遅くなる。そのため、圧縮行程においてタンブルなどのガス流動がより効果的に残存することとなり、ガス流動強化による希薄燃焼の燃焼安定化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】この発明に係る内燃機関の構成を概略的に示す構成説明図。
図2】吸気弁のリフト特性およびピストン速度の特性を、実施例と比較例とで対比して示した特性図。
図3】比較例における吸気弁のリフト特性およびピストン速度の特性を示した特性図。
図4】タンブルの生成原理を示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0011】
図1は、この発明が適用された自動車用内燃機関1の構成を概略的に示している。この内燃機関1は、複リンク式ピストンクランク機構2を備えた4ストロークサイクルの筒内直噴型火花点火内燃機関であって、基本的に理論空燃比よりもリーンな希薄燃焼を行うものである。各シリンダ3の天井壁面に、一対の吸気弁4および一対の排気弁5が配置されているとともに、これらの吸気弁4および排気弁5に囲まれた中央部に点火プラグ6が配置されている。つまり、燃焼室13は一般的なペントルーフ型をなしており、吸気ポート15と排気ポート17とが互いに対向するように延びている。
【0012】
上記吸気弁4は、図示しない動弁機構を介して開閉され、後述するように、上昇区間と下降区間とで非対称をなすリフト特性を有している。排気弁5は、同じく図示しない動弁機構を介して開閉される。排気弁5のリフト特性は、例えば、ピストン下死点前に開き、ピストン上死点後に閉じる一般的な特性に設定されている。
【0013】
吸気弁4および排気弁5の動弁機構としては、バルブステムエンドに設けられた円筒状のタペットをカムが直接に押圧する直動型動弁機構、カムのリフトをロッカアームを介してバルブステムに伝えるロッカアーム式動弁機構、油圧により弁4,5を開閉する油圧式動弁機構、ソレノイドを利用して弁4,5を開閉する電磁式動弁機構、などの公知の動弁機構を適宜に用いることができる。一実施例においては、吸気弁4のリフト特性が作動角に比較してリフト量の大きな高リフト型の特性であることから、レバー比によるリフト量拡大作用が得られるロッカアーム式動弁機構とりわけカムとの摩擦抵抗を小さくしたローラロッカアーム式の動弁機構が吸気弁4の駆動に用いられている。なお、吸気弁4および排気弁5のいずれも、開時期や閉時期を変更可能な可変バルブタイミング機構と組み合わせることもできる。
【0014】
各シリンダ3には、筒内へ直接に燃料を噴射するように、燃料噴射弁16が設けられている。例えば、一対の吸気ポート15の下側に燃料噴射弁16が位置し、斜め下方へ向かって燃料を噴射する構成となっている。なお、希薄燃焼を行う際には、一般に圧縮行程の後半に燃料噴射弁16から燃料噴射が行われ、成層化した混合気に点火がなされる。
【0015】
また図示例は、筒内燃料噴射用の燃料噴射弁16に加えて各気筒の吸気ポート15にそれぞれ副燃料噴射弁12を備えている。この副燃料噴射弁12は、吸気ポート15内で吸気弁4へ向けて燃料噴射が可能なように構成されている。例えば、目標空燃比を理論空燃比とした均質燃焼時に、燃料の一部ないし全部が副燃料噴射弁12によって噴射供給される。あるいは、総燃料量が大となる高負荷時に、一部の燃料が副燃料噴射弁12から供給される。なお、本発明においては、副燃料噴射弁12を備えた構成は必須ではなく、筒内燃料噴射用の燃料噴射弁16のみを備えた構成であってもよい。
【0016】
吸気通路14の吸気コレクタ18よりも上流側には、エンジンコントローラ(図示せず)からの制御信号によって開度が制御される電子制御型スロットルバルブ19が介装されており、さらにその上流側に、吸入空気量を検出するエアフロメータ20およびエアクリーナ21が配設されている。
【0017】
複数の排気ポート17が合流した排気通路25には、適宜な触媒からなる触媒装置26が配設されている。触媒装置26は、例えば、NOx吸蔵触媒および三元触媒を含んで構成されている。触媒装置26の上流側には、空燃比を検出する空燃比センサ28が配置されている。
【0018】
複リンク式ピストンクランク機構2は、特許文献2等に記載の公知の構成を利用したものであって、クランクシャフト41のクランクピン41aに回転自在に支持されたロアリンク42と、このロアリンク42の一端部のアッパピン43とピストン44のピストンピン44aとを互いに連結するアッパリンク45と、ロアリンク42の他端部のコントロールピン46に一端が連結されたコントロールリンク47と、このコントロールリンク47の他端を揺動可能に支持するコントロールシャフト48と、を主体として構成されている。上記クランクシャフト41および上記コントロールシャフト48は、シリンダブロック49下部のクランクケース49a内で回転自在に支持されている。上記コントロールシャフト48は、該コントロールシャフト48の回動に伴って位置が変化する偏心軸部48aを有し、上記コントロールリンク47の端部は、詳しくは、この偏心軸部48aに回転可能に嵌合している。すなわち、図示例の複リンク式ピストンクランク機構2は、内燃機関1の機械的圧縮比を変更可能な可変圧縮比機構として構成されており、コントロールシャフト48の回動に伴ってピストン44の上死点位置が上下に変位し、従って、機械的な圧縮比が変化する。
【0019】
また、上記可変圧縮比機構の圧縮比を可変制御する駆動機構として、この実施例では、クランクシャフト41と平行な回転中心軸を有する電動アクチュエータ51がクランクケース49aの外壁面に配置されており、この電動アクチュエータ51の出力回転軸に固定された第1アーム52と、コントロールシャフト48に固定された第2アーム53と、両者を連結した中間リンク54と、を介して、電動アクチュエータ51とコントロールシャフト48とが連動している。電動アクチュエータ51は、軸方向に直列に配置された電動モータおよび変速機構を含んでいる。この電動アクチュエータ51は、機関運転条件に応じた目標圧縮比を実現するように、図示しないエンジンコントローラからの制御信号によって制御される。目標圧縮比は、基本的には、低負荷側では高圧縮比であり、負荷が高いほどノッキング抑制等のために低圧縮比となる。なお、一実施例では、目標圧縮比は段階的に設定されている。
【0020】
ここで、複リンク式ピストンクランク機構2は、特に、吸気行程におけるピストン速度のピークが吸気行程後半つまり吸気上死点と吸気下死点との間の1/2のクランク角位置よりも遅れ側に位置するように、リンクジオメトリが設定されている。換言すれば、吸気上死点と吸気下死点との間がクランク角180°であるとみなすと、上死点後90°CAよりも遅れ側にピストン速度のピークが存在する。仮に吸気上死点と吸気下死点との間がクランク角176°であれば、1/2である上死点後88°CAよりも遅れ側にピストン速度のピークが存在する。なお、クランクシャフト41は、図1において反時計回り方向に回転する。
【0021】
図示するような複リンク式ピストンクランク機構2においては、「上死点」ならびに「下死点」という用語は、クランクピン41aの位置ではなく、ピストン44の運動方向が反転するピストン上死点ならびにピストン下死点を意味している。また、一般的な単リンク式ピストンクランク機構では上死点と下死点との間隔が上昇行程と下降行程とでクランク角で正しく180°ずつとなるのに対し、複リンク式ピストンクランク機構2においては、完全な180°ずつとはならず、僅かに(例えば数°程度)ずれたものとなる。但し、本発明においては、このように上死点と下死点との間のクランク角で示した間隔が完全な180°でないことは特に重要なことではなく、上昇行程と下降行程が等しく180°CAであるとみなしても、作用効果等の上で差異は生じない。
【0022】
また、複リンク式ピストンクランク機構2を可変圧縮比機構として構成した上記の実施例では、内燃機関1の機械的圧縮比がある範囲(例えば10~15)で変更可能であり、これに伴いリンクジオメトリが変化するが、好ましい一つの実施例では、制御可能な全ての圧縮比制御位置の下で、ピストン速度のピークが吸気行程後半に位置する。
【0023】
希薄燃焼可能な内燃機関と可変圧縮比機構とを組み合わせる場合、一般に、比較的負荷が低いときに高圧縮比としつつ希薄燃焼を行い、高負荷域では、低圧縮比としつつ理論空燃比での燃焼を行うことが多い。従って、本発明においては、少なくとも制御可能な範囲内での最高圧縮比のときにピストン速度のピークが吸気行程後半に位置するようなリンクジオメトリであればよい。
【0024】
図2は、吸気弁4のリフト特性およびピストン速度の特性を、実施例と比較例とで対比して示した特性図である。左端の「TDC」は吸気上死点、「BDC」は吸気下死点、右端の「TDC」は圧縮上死点である。本発明においては、吸気上死点と吸気下死点との間が「吸気行程」である。前述したように、上死点と下死点との間の間隔(つまり吸気行程)は厳密には180°CAではない。
【0025】
線aは、実施例のピストン速度の変化を示している。図示するように、複リンク式ピストンクランク機構2を用いることで、下降行程におけるピストン速度のピークは、吸気行程後半つまり吸気上死点と吸気下死点との間の1/2のクランク角位置よりも遅れ側に位置する。図示例では、吸気上死点後120°CA付近にピークを有する。
【0026】
線bは、実施例の吸気弁4のリフト特性を示す。図示するように、実施例の吸気弁4のリフト特性は、上昇区間と下降区間とで非対称であり、最大リフトとなる点が作動角(開時期と閉時期との間のクランク角度)の中心よりも遅れ側に片寄っている。そして、このような非対称のリフト特性に伴い、積算リフト量の重心Gが吸気弁作動角の中心よりも遅れ側に位置している。図示例では、吸気上死点と吸気下死点とで規定される吸気行程の後半に重心Gが位置する。
【0027】
さらに、図示例では、閉時期が吸気下死点付近に設定されている。例えば下死点に対し±5°CA程度の範囲内にある。また開時期は、吸気上死点付近(例えば±5°CA以内)に設定されている。作動角は適宜に設定できるが、図示例では、180°CA程度の作動角を有する。
【0028】
なお、前述したように上死点と下死点との間の間隔は厳密には180°CAではないので、これを考慮して吸気弁4のリフト特性(開閉時期)が設定されている。
【0029】
線cは、比較例として単リンク式ピストンクランク機構の場合のピストン速度を示している。単リンク式ピストンクランク機構では、下降行程におけるピストン速度のピークは、吸気行程の前半に位置する。
【0030】
線dは、比較例の吸気弁のリフト特性を示しており、上昇区間と下降区間とで対称の一般的なリフト特性を示している。この比較例では、最大リフトとなる点は作動角の中心にあり、かつ積算リフト量の重心も作動角の中心に位置する。また、図示例では、吸気弁の開時期および閉時期は実施例のものと等しく示してある。
【0031】
なお、図3は、このような比較例における吸気弁のリフト特性(線d)とピストン速度の特性(線c)を示した特性図である。ここでは、上死点と下死点との間は、180°CAとなる。
【0032】
図4は、筒内におけるタンブルの生成原理の説明図である。図示するように、ピストン44が下降し、かつ吸気弁4が開くことで、吸気ポート15から吸気弁4の開口部を通して筒内へ高速で吸気流が流入する。この高速吸気流によって、筒内に縦方向の旋回流つまりタンブルが生成される。このタンブルの強さは、ピストン44の下降速度と吸気弁4の開口面積つまりリフト量に相関する。ピストン速度が大であるときに吸気弁4が大きくリフトしていると吸気弁4の開口部を通して多量の吸気流が高速で流入することとなるので、タンブルが強く得られる。吸気行程で生じたタンブルは、圧縮行程まで残存し、圧縮行程後半に筒内に噴射される燃料による希薄燃焼を促進して、希薄燃焼の安定化に寄与する。
【0033】
線c,dに示す比較例の特性では、下降方向へのピストン速度のピークが吸気行程の前半にあり、かつ最大リフトとなる点や積算リフト量の重心が作動角の中心にあるので、タンブルが最も強く生じるタイミングは、吸気行程の中で比較的早期となる。吸気行程の後半においては、ピストン速度が低くなり、かつ吸気弁のリフト量も小さくなるので、吸気弁の開口部を通して流入する吸気流の流速ならびに流量が急激に低下する。従って、筒内に生成されるタンブルは弱く、とりわけ、タンブルが強く生成されるタイミングが早いことから、圧縮行程後半まで十分な強度のタンブルを残存させることが困難である。
【0034】
これに対し、線a,bに示す実施例の特性によれば、吸気弁4の最大リフトとなる点および積算リフト量の重心Gが作動角の中で遅れ側に片寄っており、かつ、これに対応するようにして、下降方向へのピストン速度のピークが吸気行程の中で遅れ側に位置するので、タンブルが最も強く生じるタイミングが吸気行程の後半となる。また吸気下死点に近付いた時期においても、吸気弁4のリフト量(線b)は比較例のリフト量(線d)よりも大きく、かつピストン速度(線a)も比較例のピストン速度(線c)よりも高いので、タンブルが比較的強く生成され続ける。従って、筒内に生成されるタンブルが強くなり、とりわけ、タンブルが強く生成されるタイミングが遅くなることから、圧縮行程後半まで十分な強度のタンブルを残存させることができる。
【0035】
効果的にタンブルを生成するためには、ピストン速度のピークと吸気弁4の積算リフト量の重心Gの位置とがあまり離れていないことが望ましい。好ましい実施例では、ピストン速度のピークと吸気弁4の積算リフト量の重心Gとがクランク角で10°の範囲内に位置する。つまり、ピストン速度のピークに対して±10°CAの範囲内に積算リフト量の重心Gが位置することが望ましい。
【0036】
また、図示例の吸気弁4のリフト特性では、閉時期が吸気下死点付近に設定されているので、筒内に一旦流入した吸気が吸気ポート15側へ押し出される、いわゆる吸気の吹き返しが少なくなる。この吸気の吹き返しは、特に圧縮比が高いときに顕著となり、吸気の温度上昇を招いて高圧縮比時に生じやすいノッキングの要因となる。従って、吸気弁4の閉時期を下死点付近として吸気の吹き返しを抑制することで、ノッキングが抑制される。
【0037】
なお、吸気弁4の閉時期を吸気下死点よりも早期に設定し、いわゆる早閉じミラーサイクルとすることも可能である。
【0038】
このように吸気弁4の閉時期を吸気下死点付近あるいは吸気下死点よりもさらに進み側に設定すると、一般に、最大リフトとなる点や積算リフト量の重心の位置がそれだけ進み側となり、吸気行程後半におけるリフト量が小さくなる。従って、タンブルの強さとりわけ吸気行程後半におけるタンブルの強さが低下しやすい傾向となる。
【0039】
つまり、比較例の構成で吸気弁閉時期を下死点付近とした場合には、吸気行程後半におけるリフト量の低下が早期に生じるので、十分なタンブルを生成することが困難である。そのため、十分なタンブルを確保しつつ吸気弁閉時期を早めることはできない。
【0040】
本発明の実施例では、作動角の中心よりも遅れ側に積算リフト量の重心Gを片寄らせ、かつピストン速度のピークを同様に吸気行程後半に遅らせることで、吸気弁4の閉時期を早めることによる吸気の吹き返しの抑制と、タンブル強度の確保と、を両立させることができる。
【0041】
従って、高圧縮比としつつタンブル強化による希薄燃焼を実現して燃料消費率向上を達成できると同時に、ノッキング抑制が図れる。
【0042】
以上、複リンク式ピストンクランク機構2を利用して可変圧縮比内燃機関とした実施例を説明したが、本発明において可変圧縮比機構は必須ではなく、機械的圧縮比が変化しない複リンク式ピストンクランク機構であってもよい。
図1
図2
図3
図4