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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-13
(54)【発明の名称】操舵制御方法及び操舵制御装置
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20221004BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20221004BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20221004BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20221004BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021519217
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019397
(87)【国際公開番号】W WO2020230307
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 拓
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-51492(JP,A)
【文献】特開2017-202772(JP,A)
【文献】特開2018-47885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 6/00
B62D 5/04
B62D 101/00
B62D 113/00
B62D 119/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵機構を備える車両の操舵制御方法であって、
前記ステアリングホイールの実操舵角を検出し、
前記操向輪の目標転舵角に基づいて前記ステアリングホイールの目標操舵角を算出し、
前記ステアリングホイールに操舵反力を付与し、
運転者による前記ステアリングホイールの操舵操作を検出し、
前記操舵反力を、前記実操舵角と前記目標操舵角との間の角度偏差に応じた第1操舵反力と、前記角度偏差の過渡成分を含んだ第2操舵反力とを加算して生成し、
前記運転者による操舵操作が検出されている時に、前記運転者による操舵操作が検出されていない時に比べて前記第2操舵反力のみを低減する、
ことを特徴とする操舵制御方法。
【請求項3】
前記運転者による操舵操作が検出されていない状態から前記運転者による操舵操作が検出されている状態に変化した場合に、前記運転者による操舵操作が検出された時点からの経過時間に応じて前記第2操舵反力を漸減する、ことを特徴とする請求項1に記載の操舵制御方法。
【請求項4】
前記目標操舵角により前記実操舵角をオフセットし、オフセットされた前記実操舵角の値に応じて前記第1操舵反力を算出し、
自動操舵制御中に前記運転者による操舵操作が検出されている時に、前記第2操舵反力を低減するとともに前記オフセット量を前記運転者による操舵操作が検出されていない時の値に保持する、
ことを特徴とする請求項1又は3に記載の操舵制御方法。
【請求項5】
前記オフセットされた実操舵角と前記車両の車速とに基づくタイヤ横力に応じた操舵反力を前記第1操舵反力として算出し、
前記角度偏差の比例微分制御により前記第2操舵反力を算出する、
ことを特徴とする請求項4に記載の操舵制御方法。
【請求項6】
ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵機構を備える車両の操舵制御装置であって、
前記ステアリングホイールに操舵反力を付与する反力アクチュエータと、
前記反力アクチュエータを駆動する駆動回路と、
前記ステアリングホイールの実操舵角を検出し、前記操向輪の目標転舵角に基づいて目標操舵角を算出し、前記実操舵角と前記目標操舵角とに応じた操舵反力を前記反力アクチュエータに発生させる制御信号を前記駆動回路へ出力するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記操舵反力を、前記実操舵角と前記目標操舵角との間の角度偏差に応じた第1操舵反力と、前記角度偏差の過渡成分を含んだ第2操舵反力とを加算して生成し、
前記運転者による操舵操作が検出されている時に、前記運転者による操舵操作が検出されていない時に比べて前記第2操舵反力のみを低減する、
ことを特徴とする操舵制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御方法及び操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵機構を備える車両において、車線維持用の操向輪の目標転舵角を算出し、目標転舵角に対応するステアリングホイールの操舵角がステアリングホイールの中立位置となるように操舵反力を付与する操舵制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2007/137287号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、走行支援制御の目標転舵角に対応する操舵角が中立位置となるように操舵反力を付与すると、走行支援制御と運転者による操舵操作との両立が難しくなることがある。
本発明は、操向輪の転舵角を目標転舵角に追従させる操舵反力を付与する走行支援制御中における運転者の操舵操作を容易にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵機構を備える車両の操舵制御方法が与えられる。操舵制御方法では、ステアリングホイールの実操舵角を検出し、操向輪の目標転舵角に基づいてステアリングホイールの目標操舵角を算出し、実操舵角と目標操舵角との間の角度偏差に応じてステアリングホイールに操舵反力を付与し、運転者による前記ステアリングホイールの操舵操作を検出し、運転者による操舵操作が検出されている時に、運転者による操舵操作が検出されていない時に比べて、角度偏差に応じた操舵反力を低減する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の一態様によれば、操向輪の転舵角を目標転舵角に追従させる操舵反力を付与する走行支援制御中において、操向輪の転舵角の目標転舵角への追従性を確保しながら運転者の操舵操作を容易にでき、走行支援制御と運転者による操舵操作とを両立させることができる。
本発明の目的及び利点は、特許請求の範囲に示した要素及びその組合せを用いて具現化され達成される。前述の一般的な記述及び以下の詳細な記述の両方は、単なる例示及び説明であり、特許請求の範囲のように本発明を限定するものでないと解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態の車両制御装置の一例の概略構成図である。
図2】車両制御装置を搭載した車両の操舵系の一例の概略構成図である。
図3A】自動操舵制御が行われない場合の第1操舵反力トルクTr1の説明図である。
図3B】自動操舵制御中の第1操舵反力トルクTr1の説明図である。
図3C】第2操舵反力トルクTr2の説明図である。
図3D】指令操舵トルクTrの説明図である。
図4】運転者による操舵操作を検出しているときの第1操舵反力トルクTr1及び第2操舵反力トルクTr2の説明図である。
図5図2の反力制御部の構成例を示すブロック図である。
図6A】自動操舵制御をオン及びオフしたときの第1制御ゲインG1の変化の説明図である。
図6B】自動操舵制御の信頼性が低い場合の第1制御ゲインG1の第1例の説明図である。
図6C】自動操舵制御の信頼性が低い場合の第1制御ゲインG1の第2例の説明図である。
図6D】運転者による操舵操作を検出したときの第1制御ゲインG1の変化の説明図である。
図7】第1操舵反力トルク算出部の構成例を示すブロック図である。
図8A】自動操舵制御をオン及びオフしたとき及び運転者による操舵操作を検出したときの第1制御ゲインG1の変化の説明図である。
図8B図8Aの第1制御ゲインG1に応じた第2制御ゲインG2の変化の説明図である。
図9A】自動操舵制御の信頼性が低い場合の第1制御ゲインG1の第3例の説明図である。
図9B図9Aの第1制御ゲインG1に応じた第2制御ゲインG2の変化の説明図である。
図10A】自動操舵制御をオフした後に自動操舵制御をオンし、自動操舵制御の信頼性が低いと判定された場合の第1制御ゲインG1の変化の説明図である。
図10B図10Aの第1制御ゲインG1に応じた第2制御ゲインG2の変化の説明図である。
図11】第2操舵反力トルク算出部の構成例を示すブロック図である。
図12】実施形態の操舵制御方法の一例のフローチャートである。
図13】第2制御ゲインG2算出ルーチンの一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1を参照する。車両制御装置1を搭載する車両(以下、「自車両」と表記する)は、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵機構を備える。車両制御装置1は、操向輪の転舵角と、ステアリングホイールに与える操舵反力を制御する。
【0009】
また、車両制御装置1は、自車両の走行を支援する走行支援制御を行う。走行支援制御は、自車両の周囲の走行環境に基づいて、運転者が関与せずに自車両を自動で運転する自動運転制御と、運転者による自車両の運転を支援する運転支援制御とを含む。
例えば、運転支援制御には、車線維持制御や、先行車の走行軌跡に沿って走行する先行車追従制御、障害物回避のための操舵を補助する操舵補助制御などの操舵支援制御が含まれる。
【0010】
車両制御装置1は、外部センサ2と、内部センサ3と、測位装置4と、地図データベース5と、通信装置6と、ナビゲーションシステム7と、走行コントローラ8と、アクセル開度アクチュエータ9と、ブレーキ制御アクチュエータ10と、コントローラ11と、反力アクチュエータ12と、第1駆動回路13と、転舵アクチュエータ14と、第2駆動回路15を備える。添付する図面において地図データベースを「地図DB」と表記する。
【0011】
外部センサ2は、自車両の周囲環境、例えば自車両の周囲の物体を検出するセンサである。外部センサ2は、例えばカメラ16と測距装置17を含んでよい。
カメラ16と測距装置17は、自車両の周囲に存在する物体(例えば、他車両、歩行者、車線境界線や車線区分線などの白線、道路上又は道路周辺に設けられた信号機、停止線、標識、建物、電柱、縁石、横断歩道等の地物)、自車両に対する物体の相対位置、自車両と物体との間の相対距離等の自車両の周囲環境を検出する。
【0012】
カメラ16は、例えばステレオカメラであってよい。カメラ16は、単眼カメラであってもよく、単眼カメラにより複数の視点で同一の物体を撮影して、物体までの距離を計算してもよい。また、単眼カメラによる撮像画像から検出された物体の接地位置に基づいて、物体までの距離を計算してもよい。
測距装置17は、例えば、レーザレンジファインダ(LRF:Laser Range-Finder)、レーダユニット、レーザスキャナユニットであってよい。
カメラ16と測距装置17は、検出した周囲環境の情報である周囲環境情報をナビゲーションシステム7、走行コントローラ8及びコントローラ11へ出力する。
【0013】
内部センサ3は、自車両の走行状態を検出するセンサである。内部センサ3は、例えば車速センサ18や操舵角センサ19を備えてよい。
車速センサ18は、自車両の車速Vを検出する。操舵角センサ19は、コラムシャフト回転角、すなわち、ステアリングホイールの実操舵角θs(ハンドル角度)を検出する。
内部センサ3は、例えば自車両に発生する加速度を検出する加速度センサや、自車両の角速度を検出するジャイロセンサを備えてもよい。
内部センサ3は、検出した走行状態の情報である走行状態情報をナビゲーションシステム7、走行コントローラ8及びコントローラ11へ出力する。
【0014】
測位装置4は、複数の航法衛星から電波を受信して自車両の現在位置を取得し、取得した自車両の現在位置を、ナビゲーションシステム7、及び走行コントローラ8へ出力する。測位装置4は、例えばGPS(地球測位システム:Global Positioning System)受信機や、GPS受信機以外の他の全地球型測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)受信機を有していてもよい。
【0015】
地図データベース5は、道路地図データを記憶している。
道路地図データは、車線境界線や車線区分線などの白線の形状(車線形状)や座標情報、道路や白線の高度、道路上又は道路周辺に設けられた信号機、停止線、標識、建物、電柱、縁石、横断歩道等の地物の座標情報を含む。
道路地図データは、さらに道路種別、道路の勾配、車線数、制限速度(法定速度)、道幅、合流地点の有無等に関する情報を含んでもよい。道路種別には、例えば一般道路と高速道路が含んでよい。
地図データベース5は、ナビゲーションシステム7、及び走行コントローラ8から参照される。
【0016】
通信装置6は、自車両の外部の通信装置との間で無線通信を行う。通信装置6による通信方式は、例えば公衆携帯電話網による無線通信や、車車間通信、路車間通信、又は衛星通信であってよい。
ナビゲーションシステム7、走行コントローラ8及びコントローラ11は、地図データベース5に代えて又は加えて外部の情報処理装置から、通信装置6によって道路地図データを取得してもよい。
【0017】
ナビゲーションシステム7は、自車両の運転者によって地図上に設定された目的地までの経路案内を自車両の乗員に対して行う。ナビゲーションシステム7は、外部センサ2、内部センサ3、測位装置4から入力された各種情報を用いて自車両の現在位置を推定し、目的地までの経路を生成し、乗員に経路案内を行う。ナビゲーションシステム7は、その経路情報を走行コントローラ8へ出力する。
【0018】
走行コントローラ8は、自車両の走行支援制御を行う。上述の通り、走行支援制御には、運転者が関与せずに自車両を自動で運転する自動運転制御と、運転者による自車両の運転を支援する運転支援制御とが含まれる。
例えば自動運転制御では、走行コントローラ8は、ナビゲーションシステム7から出力された経路情報と、外部センサ2で検出された自車両周囲の物体や車線境界線などの周囲環境と、地図データベース5の道路地図データと、内部センサ3が検出した自車両の走行状態に基づいて、走行している車線上における自車両が走行すべき目標走行軌道を設定する。
また、例えば運転支援制御では、走行コントローラ8は、測位装置4による測位結果と、外部センサ2が検出した周囲環境と、地図データベース5の道路地図データと、内部センサ3が検出した自車両の走行状態に基づいて、走行している車線上における自車両が走行すべき目標走行軌道を設定する。
【0019】
走行コントローラ8は、自車両が目標走行軌道に沿って走行するように、アクセル開度アクチュエータ9及びブレーキ制御アクチュエータ10を駆動して、自車両の駆動力及び制動力を制御する。
アクセル開度アクチュエータ9は、車両のアクセル開度を制御する。ブレーキ制御アクチュエータ10は、車両のブレーキ装置の制動動作を制御する。
【0020】
また走行コントローラ8は、自動操舵制御を含む走行支援制御において、目標走行軌道に沿って自車両を走行させるための操向輪の転舵角(タイヤ角度)の目標値である目標転舵角を算出する。走行コントローラ8は、目標転舵角に対応するステアリングホイールの目標操舵角θtを算出する。走行コントローラ8は、目標操舵角θtをコントローラ11に出力する。
【0021】
コントローラ11は、操向輪の転舵制御とステアリングホイールの反力制御を行う電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。本明細書において「反力制御」とは、アクチュエータによりステアリングホイールに与える操舵トルクの制御をいう。また、この反力制御によってステアリングホイールに与える操舵トルクを、操舵反力トルクと表記することがある。
コントローラ11は、プロセッサ20と記憶装置21等の周辺部品とを含む。プロセッサ20は、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
コントローラ11は、走行コントローラ8と一体の電子制御ユニットであってもよく、別個の電子制御ユニットであってもよい。
【0022】
記憶装置21は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置を備えてよい。記憶装置21は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
なお、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路でコントローラ11を実現してもよい。例えば、コントローラ11はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0023】
コントローラ11は、ステアリングホイールの実操舵角θsと、車速Vと、走行コントローラ8が決定した目標操舵角θtに応じて、ステアリングホイールへ付与する操舵反力トルク(ステアリングホイールへ付与する回転トルクであり、以下では操舵トルクとも言う)の指令値である指令操舵トルクTrを算出する。なお、コントローラ11は車速が同一であれば、目標操舵角θtと実操舵角θsとの偏差が大きいほど大きな指令操舵トルクTrを算出する。また、指令操舵トルクTrはステアリングホイールに対して、実操舵角θsが目標操舵角θtに一致する方向へ付与する操舵トルクである。
コントローラ11は、指令操舵トルクTrを反力アクチュエータ12に発生させる制御信号を第1駆動回路13へ出力し、反力アクチュエータ12を駆動することにより、算出した操舵反力トルクをステアリングホイールへ付与する。
【0024】
コントローラ11は、操舵角センサ19で検出されたステアリングホイールの実操舵角θsに応じて、操向輪の転舵角の指令値である指令転舵角を算出する。
コントローラ11は、算出した指令転舵角を第2駆動回路15に出力し、操向輪の実際の転舵角が指令転舵角となるように転舵アクチュエータ14を駆動する。
【0025】
図2を参照して、自車両の操舵系を説明する。自車両は、操舵部31と、転舵部32と、バックアップクラッチ33を備える。バックアップクラッチ33が開放状態になると、運転者の操舵入力を受け付ける操舵部31と、操向輪である左右前輪34FL、34FRを転舵する転舵部32と、が機械的に分離される。
【0026】
操舵部31は、ステアリングホイール31aと、コラムシャフト31bと、電流センサ31cと、反力アクチュエータ12と、第1駆動回路13と、操舵角センサ19とを備える。
転舵部32は、ピニオンシャフト32aと、ステアリングギア32bと、ラックギア32cと、ステアリングラック32dと、転舵アクチュエータ14と、第2駆動回路15と、転舵角センサ35を備える。
【0027】
また、コントローラ11は、ステアリングホイール31aの実操舵角θsに応じて、指令転舵角を決定する転舵制御部36と、実操舵角θsと、車速Vと、走行コントローラ8が決定した目標操舵角θtに応じて、指令操舵トルクTrを決定する反力制御部37を備える。
転舵制御部36及び反力制御部37の機能は、例えばコントローラ11の記憶装置21に格納されたコンピュータプログラムを、プロセッサ20が実行することによって実現されてよい。
反力アクチュエータ12と、第1駆動回路13と、コントローラ11は、操舵制御装置を形成する。
【0028】
操舵部31のステアリングホイール31aは、反力アクチュエータ12によって付与される操舵反力トルクによって回転すると共に、運転者によって付与される操舵トルクの入力を受けて回転する。
コラムシャフト31bは、ステアリングホイール31aと一体に回転する。
反力アクチュエータ12は、例えば電動モータであってよい。反力アクチュエータ12は、コラムシャフト31bと同軸上に配置された出力軸を有する。
反力アクチュエータ12は、第1駆動回路13から出力される指令電流に応じて、ステアリングホイール31aに付与する回転トルクをコラムシャフト31bに出力する。回転トルクを付与することによって、ステアリングホイール31aに操舵反力トルクを発生させる。
【0029】
第1駆動回路13は、電流センサ31cが検出した反力アクチュエータ12の駆動電流から推定される実際の操舵反力トルクと、反力制御部37から出力される制御信号が示す指令操舵トルクTrとを一致させるトルクフィードバックにより、反力アクチュエータ12へ出力する指令電流を制御する。
操舵角センサ19は、コラムシャフト31bの回転角、すなわち、ステアリングホイール31aの実操舵角θsを検出する。
【0030】
一方で、転舵部32のステアリングギア32bは、ピニオンシャフト32aの回転に応じて、左右前輪34FL、34FRを転舵する。ステアリングギア32bとして、例えば、ラック・アンド・ピニオン式のステアリングギア等を採用してよい。
転舵アクチュエータ14は、例えばブラシレスモータ等の電動モータであってよい。転舵アクチュエータ14の出力軸は、減速機を介してラックギア32cと接続される。
転舵アクチュエータ14は、第2駆動回路15から出力される指令電流に応じて、左右前輪34FL、34FRを転舵するための転舵トルクをステアリングラック32dに出力する。
【0031】
転舵角センサ35は、転舵アクチュエータ14の出力軸の回転角を検出し、検出した回転角に基づいて左右前輪34FL、34FRの転舵角を検出する。
第2駆動回路15は、転舵角センサ35により検出される実際の転舵角と転舵制御部36からの制御信号が示す指令転舵角とを一致させる角度フィードバックにより、転舵アクチュエータ14への指令電流を制御する。
【0032】
バックアップクラッチ33は、コラムシャフト31bとピニオンシャフト32aとの間に設けられる。そして、バックアップクラッチ33は、解放状態になると操舵部31と転舵部32とを機械的に切り離し、締結状態になると操舵部31と転舵部32とを機械的に接続する。
【0033】
次に、反力制御部37により決定される指令操舵トルクTr(すなわち操舵反力トルク)について説明する。
反力制御部37は、第1操舵反力トルクTr1と第2操舵反力トルクTr2とを算出し、第1操舵反力トルクTr1と第2操舵反力トルクTr2とを合計して指令操舵トルクTr=Tr1+Tr2を算出する。
【0034】
第1操舵反力トルクTr1について説明する。ステアバイワイヤ式の転舵機構では、ステアリングホイール31aと操向輪との間が機械的に分離されている。このため、操向輪に働くタイヤ横力がステアリングホイール31aに伝わらず、ステアリングホイール31aを中立位置(直進時の操舵角であり、操舵角0°の位置)に戻そうとする復元トルク(例えばセルフアライニングトルク)が発生しない。
【0035】
そこで、反力制御部37は、ステアリングホイール31aが中立位置に戻ろうとする復元トルクとして第1操舵反力トルクTr1を算出する。
例えば反力制御部37は、図3Aに示す特性を持つ第1操舵反力トルクTr1を算出する。反力制御部37は、例えば実操舵角θsと車速Vとに基づく操舵反力を第1操舵反力トルクTr1として算出してよい。
これにより、運転者はタイヤ横力に応じた操舵反力を感じることができるので、ステアバイワイヤ式の転舵機構の操舵感覚が向上する。
【0036】
一方で、自動操舵制御中では、反力制御部37は実操舵角θsを目標操舵角θtでオフセットして第1操舵反力トルクTr1を算出する。すると、第1操舵反力トルクTr1の特性は図3Bに示すようになり、実操舵角θsと目標操舵角θtとの角度偏差(θt-θs)に応じた操舵反力トルクが算出される。
この結果、第1操舵反力トルクTr1は、目標操舵角θtがステアリングホイール31aの中立位置となるように働く。具体的には例えば、中立位置から右方向への操舵角を正の操舵角として、実操舵角θsが15°であり目標操舵角θtが30°であった場合、実操舵角θsの15°から目標操舵角θtの30°を減算して実操舵角θsをオフセットすると、オフセット後の実操舵角θsは-15°(左方向への操舵角15°)となり、ステアリングホイールには操舵角が-15°の位置から中立位置(操舵角0°の位置)に戻ろうとする操舵反力トルクが付与されて、実操舵角θsと目標操舵角θtとの偏差に応じた操舵反力トルクが付与されることになる。従って、本実施形態においては実操舵角θsを目標操舵角θtでオフセット(減算)した値に応じた操舵反力トルクを付与することによって、実操舵角θsと目標操舵角θtとの偏差(θt‐θs)に応じた操舵反力トルクを付与して、実操舵角θsが目標操舵角θtに追従するように制御している。
【0037】
このように第1操舵反力トルクTr1は、ステアバイワイヤ式の転舵機構に対する運転者の操舵操作に対して、ステアリングホイール31aを中立位置に戻す方向に働くように発生させる復元トルクであり、自動操舵制御中だけでなく自動操舵を行わない場合(例えば手動運転中)も発生させる。
したがって、第1操舵反力トルクTr1の大きさは、運転者による操舵操作を阻害しない程度の大きさ(運転者が容易に操舵操作可能な程度の大きさ)に設定する。
【0038】
一方、自動操舵制御において第1操舵反力トルクTr1のみで実操舵角θsを目標操舵角θtに追従させようとすると、実操舵角θsの追従応答性が不足し、結果として実操舵角θsに応じて転舵される転舵輪(左右前輪34FL、34FR)の転舵角の応答性が不十分となることがある。
そこで反力制御部37は、自動操舵制御中には、実操舵角θsの追従応答性を向上させる第2操舵反力トルクTr2を第1操舵反力トルクTr1に加算して、指令操舵トルクTr=Tr1+Tr2を算出する。
【0039】
図3Cを参照する。反力制御部37は、実操舵角θsと目標操舵角θtとの間の角度偏差(θt-θs)に応じた反力トルクを第2操舵反力トルクTr2として算出する。
図3Dを参照する。指令操舵トルクTrは、実線の第1操舵反力トルクTr1と破線の第2操舵反力トルクTr2の合計となる。
実操舵角θsの追従応答性を向上させるために、反力制御部37は、角度偏差(θt-θs)の過渡成分を含んだ第2操舵反力トルクTr2を算出してもよい。過渡成分は、例えば、角度偏差(θt-θs)の速度成分(一回微分値)である。
【0040】
しかしながら、上記のような第2操舵反力トルクTr2がステアリングホイール31aに付与されていると、運転者にとって過大な操舵反力となり、運転者による操舵操作を阻害する。すなわち、自動操舵制御において実操舵角θsの目標操舵角θtへの十分な追従応答性を得る為に操舵反力トルクを大きくすると運転者による操舵操作が阻害され、一方で運転者による操舵操作を容易にするために操舵反力トルクを小さくすると、実操舵角θsの目標操舵角θtへの十分な追従応答性を得ることが困難となる。
そこで、反力制御部37は自動操舵制御中において、運転者によるステアリングホイール31aの操舵操作が検出されている時には、操舵操作が検出されていない時に比べて、指令操舵トルクTr(すなわち角度偏差に応じた操舵反力)を低減する。これにより自動操舵制御中において、実操舵角θsの目標操舵角θtへの十分な追従応答性を得ると共に運転者による操舵操作が容易になる。
【0041】
反力制御部37は、運転者による操舵操作が検出されている時に第1操舵反力トルクTr1及び第2操舵反力トルクTr2の両方又はいずれか一方を低減してもよい。
しかし、第1操舵反力トルクTr1を低減すると、手動運転時の操舵反力とは異なる操舵反力になるため、運転者に違和感を与えるおそれがある。
また、目標操舵角θtによるオフセット量を低減する(すなわち実操舵角θsと目標操舵角θtとの偏差を小さくする)ことにより目標操舵角θtの方へ実操舵角θsを向かわせる操舵反力トルクを低減することが考えられるが、自車両の目標走行軌道に沿った走行が困難となる。
【0042】
このため本実施形態の反力制御部37は、図4に示すように、運転者による操舵操作が検出されている時には操舵操作が検出されていない時に比べて第2操舵反力トルクTr2のみを低減する。
さらに、操舵操作が検出されている時でも、操舵操作が検出されていない時の第1操舵反力トルクTr1を保持する。
【0043】
以下、反力制御部37について詳述する。図5を参照する。反力制御部37は、第1操舵反力トルク算出部40と、第2操舵反力トルク算出部50と、加算器60を備える。
第1操舵反力トルク算出部40は、実操舵角θsと、目標操舵角θtと、車速Vと、走行コントローラ8が生成した第1制御ゲインG1とに基づいて、第1操舵反力トルクTr1を算出する。
【0044】
第2操舵反力トルク算出部50は、実操舵角θsと、目標操舵角θtと、第1制御ゲインG1とに基づいて、第2操舵反力トルクTr2を算出する。
加算器60は、第1操舵反力トルクTr1と第2操舵反力トルクTr2を加算して指令操舵トルクTrを算出し、第1駆動回路13へ出力する。
【0045】
第1制御ゲインG1は、第1操舵反力トルクTr1を算出する際の目標操舵角θtによるオフセット量と、第2操舵反力トルクTr2の大きさとを制御するゲインである。
走行コントローラ8は、自動操舵制御がオン又はオフのいずれかであるか、運転者による操舵操作が検出されているか否か、自動操舵制御の信頼性に応じて、第1制御ゲインG1の大きさを決定する。
【0046】
第1制御ゲインG1は、最小値「0」から最大値「1」までの範囲の値を有する。自動操舵制御がオフである場合には第1制御ゲインG1が「0」とされ、第1操舵反力トルクTr1を算出する際の実操舵角θsのオフセット量と第2操舵反力トルクTr2が「0」となり、走行コントローラ8による自動操舵制御が働かなくなる。従って、自動操舵制御がオフである場合には実操舵角θsはオフセットされず、車両が直進する際の操舵角(すなわち操舵角0°)と実操舵角θsとの偏差及び車速Vに応じて第1操舵反力トルク算出部40で算出された第1操舵反力トルクTr1がステアリングホイール31aに付与される。
【0047】
図6Aを参照する。時刻t11において運転者が自動操舵制御をオンにすると、走行コントローラ8は、時刻t11から時刻t12に亘って第1制御ゲインG1を「0」から「1」まで漸増する。
一方で、時刻t13において運転者又は走行コントローラ8が自動操舵制御をオフにすると、走行コントローラ8は、時刻t13から時刻t14に亘って第1制御ゲインG1を「1」から「0」まで漸減する。
【0048】
図6Bを参照する。走行コントローラ8は自動操舵制御がオンである場合に、自動操舵制御の信頼性を算出し、自動操舵制御の信頼性に応じて第1制御ゲインG1の大きさを決定する。
走行コントローラ8は、例えば外部センサ2によって検出される自車両の周囲環境、内部センサ3によって検出される自車両の走行状態、外部センサ2及び内部センサ3の健全性、走行シーン、天候、時刻等に基づいて、自動操舵制御の信頼性を算出する。
【0049】
例えば時刻t21において運転者が自動操舵制御をオンにしても、自動操舵制御の信頼性が所定の許容値よりも低い場合、時刻t22において走行コントローラ8は、最大値「1」よりも小さく自動操舵制御の信頼性の高さに応じた第1制御ゲインG1を出力する。
図6Cを参照する。例えば時刻t31において運転者が自動操舵制御をオンにしても、自動操舵制御の信頼性が所定の許容値よりも低い場合、走行コントローラ8は、自動操舵制御を中止し、時刻t32において第1制御ゲインG1を減少させ、時刻t33において最小値「0」に戻してもよい。
【0050】
図6Dを参照する。走行コントローラ8は自動操舵制御がオンである場合に、運転者によるステアリングホイール31aの操舵操作を検出し(すなわち、運転者がステアリングホイール31aを操舵しているか否かを検出し)、操舵操作が検出されている場合には第1制御ゲインG1を最大値「1」よりも小さな値「α」に低減する。
走行コントローラ8は、例えば、反力アクチュエータ12の出力トルクに基づいて運転者による操舵トルクを算出し、運転者による操舵操作を検出する。すなわち、反力アクチュエータ12の出力トルクに対するステアリングホイールの操舵角の変化に基づいて運転者による操舵操作を検出することが可能である。なお、運転者による操舵操作の検出はこれに限らず、例えば運転者によってステアリングホイールに入力される操舵トルクを直接検出するトルクセンサを設けて、トルクセンサの検出値によって運転者による操舵操作を検出することも可能であり、運転者による操舵操作の検出は適宜公知の手法が適用可能である。
【0051】
いま、運転者による操舵操作が検出されていない状態から運転者による操舵操作が検出されている状態に変化した場合に、時刻t41において走行コントローラ8は、運転者による操舵操作が検出した場合を想定する。
走行コントローラ8は、時刻t41から時刻t42に亘って第1制御ゲインG1を「1」から「α」まで漸減する。
【0052】
図7を参照する。第1操舵反力トルク算出部40は、ゲイン設定部41と、乗算器42と、レートリミッタ43と、減算器44と、ステアバイワイヤ(SBW)反力算出部45を有する
ゲイン設定部41は、第1制御ゲインG1に基づいて第2制御ゲインG2を設定する。第2制御ゲインG2は、目標操舵角θtによる実操舵角θsのオフセット量を制御するゲインであり、乗算器42によって目標操舵角θtに乗算される。
【0053】
第2制御ゲインG2と目標操舵角θtとの積(G2×θt)は、レートリミッタ43によって変化速度が制限された後に減算器44に入力される。
減算器44は、第2制御ゲインG2を乗算した目標操舵角θt(G2×θt)によって実操舵角θsをオフセットする。
ステアバイワイヤ反力算出部45は、オフセットされた実操舵角θsと車速Vとに基づく操舵反力を、第1操舵反力トルクTr1として算出する。
【0054】
第2制御ゲインG2は、最小値「0」から最大値「1」までの範囲の値を有する。第2制御ゲインG2が「0」である時には、第1操舵反力トルクTr1を算出する際の実操舵角θsのオフセット量が「0」となる。第2制御ゲインG2が「1」である時にはオフセット量が目標操舵角θtと等しくなる。
第1制御ゲインG1及び第2制御ゲインG2の両方が「0」である状態から第1制御ゲインG1が増加すると、ゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2を第1制御ゲインG1と同じ値に設定し、第1制御ゲインG1とともに第2制御ゲインG2を増加させる。
【0055】
図8A及び図8Bを参照する。例えば時刻t51にて運転者が自動操舵制御をオンにし、第1制御ゲインG1及び第2制御ゲインG2の両方が「0」である状態から第1制御ゲインG1が増加すると、ゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2を第1制御ゲインG1と同じ値に設定し、第1制御ゲインG1とともに第2制御ゲインG2を増加させる。
【0056】
その後、第1制御ゲインG1及び第2制御ゲインG2が「1」になると、ゲイン設定部41は、自動操舵フラグFLGの値を「0」から「1」へ変更する。
自動操舵フラグFLGの値「1」は、第1制御ゲインG1が「1」に至った後に未だに第1制御ゲインG1が「0」に至ってないことを示す。
反対に自動操舵フラグFLGの値「0」は、第1制御ゲインG1が「0」に至った後に未だに第1制御ゲインG1が「1」に至ってないことを示す。
図8A及び図8Bの例では、時刻t52において第1制御ゲインG1及び第2制御ゲインG2が「1」になり、自動操舵フラグFLGの値が「0」から「1」へ変わる。
【0057】
自動操舵フラグFLGの値が「1」である間、すなわち第1制御ゲインG1が「1」に至った後に未だに第1制御ゲインG1が「0」に至ってない期間では、ゲイン設定部41は、第1制御ゲインG1が「1」よりも小さくなっても、第2制御ゲインG2を「1」に保持する。
図8A及び図8Bの例では、時刻t53において走行コントローラ8が、運転者による操舵操作を検出して第1制御ゲインG1を「1」より小さな「α」に低減する。
【0058】
ゲイン設定部41は、第1制御ゲインG1が「1」よりも小さくなっても、第2制御ゲインG2を「1」に保持する。
このため自動操舵中に運転者による操舵操作が検出されている時に、実操舵角θsのオフセット量は、運転者による操舵操作が検出されていない時の値(目標操舵角θt)に保持される。
【0059】
第1制御ゲインG1が「0」へ至ると、ゲイン設定部41は、自動操舵フラグFLGの値を「1」から「0」へ変更する。自動操舵フラグFLGの値が「0」である期間では、ゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2が第1制御ゲインG1よりも大きければ第2制御ゲインG2を漸減し、第2制御ゲインG2を第1制御ゲインG1へ一致させる。
図8A及び図8Bの例では、時刻t54において運転者又は走行コントローラ8が自動操舵制御をオフにすると、第1制御ゲインG1が減少して時刻t55において「0」に至る。
すると、自動操舵フラグFLGの値が「1」から「0」へ変わって第2制御ゲインG2が減少を開始し、時刻t56において「0」に至って第1制御ゲインG1と等しくなる。これにより実操舵角θsのオフセット量は、自動操舵制御がオンからオフへ遷移する場合に「0」まで低減される。
【0060】
上記の通り、自動操舵制御の信頼性が所定の許容値よりも低い場合は、第1制御ゲインG1の値は「1」よりも小さくなり、自動操舵制御がオンになっても「0」から「1」まで到達しない。この場合に自動操舵フラグFLGの値は「0」になる。したがって、自動操舵フラグFLGの値が「0」である場合には、自動操舵制御の信頼性が許容値よりも低く、目標操舵角θtが不正確である可能性がある。
【0061】
したがって、この場合には第2制御ゲインG2を、自動操舵制御の信頼性に応じた第1制御ゲインG1と等しくする。これにより、第1操舵反力トルクTr1を算出する際の実操舵角θsのオフセット量が過度に大きくなることを防止する。
例えば、図9A及び図9Bに示すように時刻t61にて運転者が自動操舵制御をオンにしても自動操舵制御の信頼性が低いために第1制御ゲインG1が「1」に至らないと、第2制御ゲインG2は、走行コントローラ8が設定した第1制御ゲインG1に応じて設定される。
【0062】
図10A及び図10Bは、自動操舵フラグFLGの値が「1」から「0」へ変わった後の第2制御ゲインG2の変化の一例を示す。
運転者又は走行コントローラ8が自動操舵制御をオフにして、時刻t71において第1制御ゲインG1が「0」に至ると、自動操舵フラグFLGの値が「1」から「0」へ変わり第2制御ゲインG2が減少を開始する。時刻t71から時刻t72までの期間では、第2制御ゲインG2が第1制御ゲインG1よりも大きいため、第2制御ゲインG2が減少を続ける。
その後に自動操舵制御がオンになり第1制御ゲインG1が増加を開始し、時刻t72において第2制御ゲインG2が第1制御ゲインG1と等しくなると、その後は、第1制御ゲインG1が「1」に至るまで、第2制御ゲインG2と第1制御ゲインG1が等しくなる。
【0063】
図11を参照する。第2操舵反力トルク算出部50は、レートリミッタ51と、減算器52と、偏差角リミッタ53と、サーボ制御部54と、乗算器55を備える。
目標操舵角θtは、レートリミッタ51によって変化速度が制限された後に減算器52に入力される。減算器52は、目標操舵角θtと実操舵角θsとの角度偏差(θt-θs)を算出する。偏差角リミッタ53は、角度偏差(θt-θs)の上下限値を制限する。
【0064】
サーボ制御部54は、角度偏差(θt-θs)に基づくサーボ制御により、実操舵角θsを目標操舵角θtに追従させる回転トルクTr2*を算出する。
サーボ制御部54は、角度偏差(θt-θs)の過渡成分を含んだ回転トルクTr2*を算出してもよい。これにより実操舵角θsの追従応答性を向上できる。例えば、サーボ制御部54は、PDサーボ制御(比例微分サーボ制御)により回転トルクTr2*を算出してもよい。すなわち、回転トルクTr2*は、角度偏差(θt-θs)の比例成分と微分成分を含んでもよい。
【0065】
乗算器55は、回転トルクTr2*に第1制御ゲインG1を乗じた積(G1×Tr2*)を第2操舵反力トルクTr2として算出する。
このため、自動操舵制御がオンからオフへ遷移する場合に第1制御ゲインG1が「0」まで低下すると、第2操舵反力トルクTr2は第1制御ゲインG1に応じて「0」まで低減される。
また、運転者による操舵操作が検出されている時に第1制御ゲインG1が「α」まで低下すると、第2操舵反力トルクTr2は第1制御ゲインG1に応じて操舵操作が検出されていない時よりも低減される。
【0066】
(動作)
次に、図12を参照して実施形態の操舵制御方法の一例を説明する。
ステップS1において操舵角センサ19は、ステアリングホイール31aの実操舵角θsを検出する。
ステップS2において走行コントローラ8は、目標走行軌道に沿って自車両を走行させるための目標操舵角θtを算出する。
【0067】
ステップS3において走行コントローラ8は、運転者による操舵操作を検出する。
ステップS4において走行コントローラ8は、第1制御ゲインG1を算出する。
上述の通り、運転者による操舵操作が検出されている時の第1制御ゲインG1は、操舵操作が検出されていない時の値「1」よりも小さな値「α」に設定される。また、自動操舵制御がオンからオフへ遷移する場合には第1制御ゲインG1は「1」から「0」へ減少する。
【0068】
ステップS5において第1操舵反力トルク算出部40のゲイン設定部41は、第1制御ゲインG1に基づいて第2制御ゲインG2を算出する。第2制御ゲインG2算出ルーチンは図13を参照して後述する。
上述の通り、運転者による操舵操作が検出されている時の第2制御ゲインG2は、操舵操作が検出されていない時の値「1」に保持される。また、自動操舵制御がオンからオフへ遷移する場合には第2制御ゲインG2は「1」から「0」へ減少する。
【0069】
ステップS6において乗算器42及び減算器44は、第2制御ゲインG2と目標操舵角θtの積(G2×θt)で、実操舵角θsをオフセットする。
ステップS7においてステアバイワイヤ反力算出部45は、オフセットされた実操舵角θsと車速Vとに基づいて第1操舵反力トルクTr1を算出する。
【0070】
ステップS8においてサーボ制御部54は、角度偏差(θt-θs)を減少させる回転トルクTr2*をサーボ制御により算出する。乗算器55は、回転トルクTr2*に第1制御ゲインG1を乗じた積(G1×Tr2*)を第2操舵反力トルクTr2として算出する。
【0071】
ステップS9において第1駆動回路13は、指令操舵トルクTr=Tr1+Tr2で反力アクチュエータ12を駆動する。
ステップS10においてコントローラ11は、自車両のイグニッションスイッチ(IGN)がオフになったか否かを判定する。イグニッションスイッチがオフになっていない場合(ステップS10:N)に処理はステップS1に戻る。イグニッションスイッチがオフになった場合(ステップS10:Y)に処理は終了する。
【0072】
次に、図13を参照してゲイン設定部41による第2制御ゲインG2算出ルーチンを説明する。
ステップS20においてゲイン設定部41は、第1制御ゲインG1が「0」であるか否かを判定する。第1制御ゲインG1が「0」である場合(ステップS20:Y)に処理はステップS21へ進む。第1制御ゲインG1が「0」でない場合(ステップS20:N)に処理はステップS25へ進む。
【0073】
ステップS21においてゲイン設定部41は、現在の自動操舵フラグFLGの値が「1」であるか否かを判定する。自動操舵フラグFLGの値が「1」である場合(ステップS21:Y)には、第1制御ゲインG1が「0」でない状態から「0」に変化したことを意味する。この場合に処理はステップS24へ進む。自動操舵フラグFLGの値が「1」でない場合(ステップS21:N)に処理はステップS22へ進む。
【0074】
ステップS22においてゲイン設定部41は、前回の第2制御ゲインG2が「0」であるか否かを判断する。第2制御ゲインG2が「0」である場合(ステップS22:Y)には第2制御ゲインG2を変更することなく第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。第2制御ゲインG2が「0」でない場合(ステップS22:N)に処理はステップS23へ進む。
ステップS23においてゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2を低減させる。その後に第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。
ステップS24においてゲイン設定部41は、自動操舵フラグFLGの値を「0」に設定する。その後に処理はステップS23に進み、第2制御ゲインG2を前回値「1」から低減した値に設定する。その後に第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。
【0075】
第1制御ゲインG1が「0」でない場合(ステップS20:N)、ステップS25においてゲイン設定部41は第1制御ゲインG1が「1」であるか否かを判断する。第1制御ゲインG1が「1」である場合(ステップS25:Y)に処理はステップS26へ進む。第1制御ゲインG1が「1」でない場合(ステップS25:N)に処理はステップS29へ進む。
【0076】
ステップS26においてゲイン設定部41は、現在の自動操舵フラグFLGの値が「0」であるか否かを判定する。自動操舵フラグFLGの値が「0」である場合(ステップS26:Y)には、第1制御ゲインG1が「1」でない状態から「1」に変化したことを意味する。この場合に処理はステップS27へ進む。ステップS27においてゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2の値を「1」に設定する。
【0077】
ステップS28においてゲイン設定部41は、自動操舵フラグFLGの値を「1」に設定する。その後に第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。
一方で、ステップS26において自動操舵フラグFLGの値が「0」でない場合(ステップS26:N)には、第2制御ゲインG2を前回値「1」から変更することなく第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。
【0078】
ステップS29においてゲイン設定部41は、現在の自動操舵フラグFLGの値が「1」であるか否かを判定する。自動操舵フラグFLGの値が「1」である場合(ステップS29:Y)には、第1制御ゲインG1が「1」になってから未だ「0」に至っていないことを意味する。この場合に処理はステップS30へ進む。自動操舵フラグFLGの値が「1」でない場合(ステップS29:N)に処理はステップS31へ進む。
【0079】
ステップS30においてゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2を「1」に保持する。その後に第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。
ステップS31においてゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2が第1制御ゲインG1よりも大きいか否かを判定する。第2制御ゲインG2が第1制御ゲインG1よりも大きい場合(ステップS31:Y)に処理はステップS23へ進む。第2制御ゲインG2が第1制御ゲインG1よりも大きくない場合(ステップS31:N)に処理はステップS32へ進む。
ステップS32においてゲイン設定部41は、第2制御ゲインG2を第1制御ゲインG1と同じ値「1」に設定する。その後に第2制御ゲインG2算出ルーチンを終了する。
【0080】
(実施形態の効果)
(1)自車両は、ステアリングホイール31aと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の転舵機構を備える。操舵角センサ19は、ステアリングホイールの実操舵角θsを検出する。走行コントローラ8は、操向輪の目標転舵角に基づいて前記ステアリングホイールの目標操舵角を算出する。反力制御部47、第1駆動回路13及び反力アクチュエータ12は、実操舵角θsと目標操舵角θtとの間の角度偏差(θt-θs)に応じてステアリングホイールに操舵反力を付与する。走行コントローラ8は、運転者によるステアリングホイール31aの操舵操作を検出する。反力制御部47は、運転者による操舵操作が検出されている時に、運転者による操舵操作が検出されていない時に比べて、角度偏差に応じた操舵反力を低減する。
【0081】
これにより、運転者による操舵操作が検出されていない場合には比較的大きな操舵反力をステアリングホイール31aに付与して、自動操舵制御における目標操舵角θtに対する実操舵角θsの追従応答性を向上するとともに、運転者による操舵操作が検出されている場合には操舵操作を阻害しないように操舵反力を低減し、運転者の操舵操作を容易にできる。
【0082】
(2)反力制御部47、第1駆動回路13及び反力アクチュエータ12は、角度偏差(θt-θs)に応じた第1操舵反力Tr1と、角度偏差(θt-θs)の過渡成分を含んだ第2操舵反力Tr2とを加算して、ステアリングホイール31aに付与する操舵反力を生成する。反力制御部47は、運転者による操舵操作が検出されている時に、運転者による操舵操作が検出されていない時に比べて第2操舵反力Tr2のみを低減する。
これにより、角度偏差(θt-θs)の過渡成分を含んだ第2操舵反力Tr2を加えることにより、自動操舵制御における実操舵角θsの追従応答性を向上するとともに、運転者による操舵操作が検出されている場合には第2操舵反力Tr2を低減することにより運転者の操舵操作を容易にできる。
【0083】
(3)反力制御部47は、運転者による操舵操作が検出されていない状態から運転者による操舵操作が検出されている状態に変化した場合に、運転者による操舵操作が検出された時点からの経過時間に応じて第2操舵反力Tr2を漸減する。
これにより、第2操舵反力Tr2の急変による操舵フィーリングの低下を回避できる。
【0084】
(4)第1操舵反力トルク算出部40は、目標操舵角θtにより実操舵角θsをオフセットし、オフセットされた実操舵角θsに応じて第1操舵反力Tr1を算出することにより、実操舵角θsと目標操舵角θtとの間の角度偏差(θt-θs)に応じた第1操舵反力Tr1を算出する。第1操舵反力トルク算出部40と第2操舵反力トルク算出部50は、自動操舵制御がオンからオフへ遷移する場合に、実操舵角θsのオフセット量と第2操舵反力Tr2とを低減する。第1操舵反力トルク算出部40と第2操舵反力トルク算出部50は、自動操舵中に運転者による操舵操作が検出されている時に、第2操舵反力Tr2を低減するとともにオフセット量を運転者による操舵操作が検出されていない時の値に保持する。
これにより運転者による操舵操作が検出されている時に、ステアリングホイール31aの中立位置(操舵反力トルクが0となる位置)を目標操舵角θtにする操舵反力を維持しつつ運転者の操舵操作を容易にできる。
【0085】
(5)第1操舵反力トルク算出部40は、オフセットされた実操舵角θsと車両の車速Vとに基づくタイヤ横力に応じた操舵反力を第1操舵反力Tr1として算出する。第2操舵反力トルク算出部50は、角度偏差(θt-θs)の比例微分制御により第2操舵反力を算出する。
これにより、運転者はタイヤ横力に応じた操舵反力を感じることができるので、ステアバイワイヤ式の転舵機構の操舵感覚が向上するとともに、自動操舵制御において目標操舵角θtに対する実操舵角θsの追従応答性を向上できる。
【0086】
ここに記載されている全ての例及び条件的な用語は、読者が、本発明と技術の進展のために発明者により与えられる概念とを理解する際の助けとなるように、教育的な目的を意図したものであり、具体的に記載されている上記の例及び条件、並びに本発明の優位性及び劣等性を示すことに関する本明細書における例の構成に限定されることなく解釈されるべきものである。本発明の実施例は詳細に説明されているが、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換及び修正をこれに加えることが可能であると解すべきである。
【符号の説明】
【0087】
1…車両制御装置,2…外部センサ,3…内部センサ,4…測位装置,5…地図データベース,6…通信装置,7…ナビゲーションシステム,8…走行コントローラ,9…アクセル開度アクチュエータ,10…ブレーキ制御アクチュエータ,11…コントローラ,12…反力アクチュエータ,13…第1駆動回路,14…転舵アクチュエータ,15…第2駆動回路,16…カメラ,17…測距装置,18…車速センサ,19…操舵角センサ,20…プロセッサ,21…記憶装置,31…操舵部,31a…ステアリングホイール,31b…コラムシャフト,31c…電流センサ,32…転舵部,32a…ピニオンシャフト,32b…ステアリングギア,32c…ラックギア,32d…ステアリングラック,33…バックアップクラッチ,34FL…左前輪,34FR…右前輪,35…転舵角センサ,36…転舵制御部,37…反力制御部,40…第1操舵反力トルク算出部,41…ゲイン設定部,42…乗算器,43…レートリミッタ,44…減算器,45…ステアバイワイヤ反力算出部,47…反力制御部,50…第2操舵反力トルク算出部,51…レートリミッタ,52…減算器,53…偏差角リミッタ,54…サーボ制御部,55…乗算器,60…加算器
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13