(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20221004BHJP
C22C 38/48 20060101ALI20221004BHJP
C22C 38/54 20060101ALI20221004BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C22C38/00 302Z
C22C38/48
C22C38/54
C21D9/46 R
(21)【出願番号】P 2021525876
(86)(22)【出願日】2021-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2021006477
(87)【国際公開番号】W WO2021177063
(87)【国際公開日】2021-09-10
【審査請求日】2021-05-12
(31)【優先権主張番号】P 2020035204
(32)【優先日】2020-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179589
【氏名又は名称】酒匂 健吾
(72)【発明者】
【氏名】フェブリ ムハンマド
(72)【発明者】
【氏名】中村 徹之
(72)【発明者】
【氏名】矢野 孝宜
(72)【発明者】
【氏名】吉野 正崇
(72)【発明者】
【氏名】杉原 玲子
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030855(JP,A)
【文献】国際公開第2013/114833(WO,A1)
【文献】特開2011-162863(JP,A)
【文献】特開2005-264298(JP,A)
【文献】特開2010-236012(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.025%以下、
Si:0.05~1.00%、
Mn:0.05~1.00%、
P:0.050%以下、
S:0.010%以下、
Cr:14.0~32.0%、
Al:0.55~2.00%、
Ni:0.01~1.00%、
Nb:0.15~1.00%、
Mo:1.05~3.00%、
Mg:0.0005~0.0100%および
N:0.025%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
0.0004≦[Mg]/[Al]≦0.0050の関係を満足する、固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼。
ここで、[Al]おおび[Mg]はそれぞれ、前記成分組成におけるAl含有量(質量%)およびMg含有量(質量%)である。
【請求項2】
前記成分組成が、さらに、質量%で
、
Co:0.01~1.00%および
W:0.01~3.00%
のうちから選ばれる1種または2
種を含有する、請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼。
【請求項3】
前記成分組成が、さらに、質量%で
、
V:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.50%、
B:0.0002~0.0050%、
Ca:0.0002~0.0050%および
REM:0.01~0.20%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、請求項1または2に記載の固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気伝導性に優れ、かつ、高温の水蒸気が含まれる環境下での耐酸化性および耐Cr被毒性にも優れる、固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、有害ガスの排出量が少なく、発電効率が高い。そのため、燃料電池は、大規模発電やコージェネレーションシステム、自動車用電源など、幅広い発電システムへの適用が期待されている。
【0003】
なかでも、固体酸化物型燃料電池(以下、固体電解質型燃料電池と称する場合もある)は、次世代のエネルギー源として注目されている。
固体酸化物型燃料電池は、500~900℃の高温で作動する。そして、固体酸化物型燃料電池は、
・電極反応に触媒を用いる必要がないこと、
・石炭改質ガス等の多様な燃料ガスが使用できること、
・高温排熱を利用するガスタービンあるいは蒸気タービン発電等との組み合わせが可能である、
などの優れた特徴を有している。
【0004】
ここで、固体酸化物型燃料電池は、
図1にその一例を示すように、電解質1、電極である陽極(空気極)2と陰極(燃料極)3、および、インターコネクタ4(以下、セパレータと称する場合もある)から構成される。
通常、電解質1にはイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などのイオン伝導性固体電解質を用いる。電解質1の一方の面には、(La,Sr)MnO
3等の陽極(空気極)2が取り付けられる。電解質1の他方の面には、Ni/YSZ(Niとイットリア安定化ジルコニアのサーメット)等の陰極(燃料極)3が取り付けられる。そして、電解質1を隔壁とし、一方の側に水素ガス等の燃料ガス5を、他方の側に空気等の酸化性ガス6を供給することによって、発電する。
また、インターコネクタ4は、電解質1、陽極(空気極)2および陰極(燃料極)3の3層を支持してガス流路7を形成する役目を担うものである。加えて、インターコネクタ4は、電流を流す役目も担うものである。
【0005】
上記の固体酸化物型燃料電池の部材、特に、インターコネクタには、耐酸化性や電気伝導性、さらには、他部材との熱膨張整合性等が求められる。
このような固体酸化物型燃料電池の部材に用いる材料として、種々の金属材料が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、
「固体電解質層を挟むように燃料極と空気極を配置してなる平板状単電池を電気的に直列に接続しかつ該単電池の各電極にそれぞれ燃料ガスまたは酸化剤ガスを分配する固体電解質燃料電池のセパレータにおいて、Fe60~82重量%およびCr18~40重量%と、前記単電池の空気極との間の接触抵抗を低減する添加元素からなる合金で造られたことを特徴とする固体電解質燃料電池のセパレータ。」
が開示されている。
【0007】
特許文献2には、
「Cr5~30wt%、Co3~45wt%、La1wt%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする固体電解質型燃料電池用金属材料。」
が開示されている。
【0008】
特許文献3には、
「重量%にてC0.2%以下、Si0.2~3.0%、Mn0.2~1.0%、Cr15~30%、およびY0.5%以下、希土類元素0.2%以下、Zr1%以下の1種または2種以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする固体電解質型燃料電池セパレータ用鋼。」
が開示されている。
【0009】
特許文献4には、
「重量%にてC0.2%以下、Si3.0%以下、Mn1.0%以下、Cr15~30%、Hf0.5%以下を含み残部実質的にFeからなることを特徴とする固体電解質型燃料電池セパレータ用鋼。」
が開示されている。
【0010】
特許文献5には、
「質量%において、C:0.03%以下,Mn:2.0%以下,Ni:0.6%以下,N:0.03%以下,Cr:10.0~32.0%を含むとともに、Si:2.0%以下またはAl:6.0%以下の少なくとも一種以上を合計量で1.5%以上含み、残部が実質的にFeからなることを特徴とする固体酸化物型燃料電池部材用フェライト系ステンレス鋼。」
が開示されている。
【0011】
特許文献6には、
「C:0.20mass%以下、Si:1.0mass%以下、Mn:1.1~2.0mass%、Cr:10~40mass%、Al:1.0mass%以下、Mo:0.03~5.0mass%、Nb:0.1~3.0mass%を含有し、かつSiおよびAlは下記の条件;Si+Al≦1.2mass%を満たして含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とする燃料電池用Fe-Cr系合金。」
が開示されている。
【0012】
特許文献7には、
「質量%にて、C:0.030%以下、Si:1.00%以下、Mn:1.00%以下、P:0.045%以下、S:0.0030%以下、Cr:20.0~25.0%、Mo:0.3~2.0%、N:0.040%以下、Al:0.50%以下、V:0.20%以下を有し、Nb:0.001~0.500%及び/又はTi:0.001~0.50%を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなることを特徴とするフェライト系ステンレス鋼。」
が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平7-166301号公報
【文献】特開平7-145454号公報
【文献】特開平9-157801号公報
【文献】特開平10-280103号公報
【文献】特開2003-187828号公報
【文献】特開2005-206884号公報
【文献】国際公開2018/008658号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1および2に開示される金属材料ではいずれも、耐酸化性、特に、高温環境下で長時間経過したときの耐酸化性が十分とは言えない。
また、特許文献5に開示される金属材料では、Siおよび/またはAlを多量に含有させることが必要である。しかし、SiおよびAlが多量に含有されると、金属材料の表面に絶縁性の酸化物が形成される。そのため、特許文献5に開示される金属材料を、固体酸化物型燃料電池のインターコネクタに使用すると、電気抵抗が増大し、電池の性能が低下する。
【0015】
また、固体酸化物型燃料電池のインターコネクタに求められる上記の諸特性を得るには、成分組成にCrを含有させたうえで、その表面にCr2O3などのCr系酸化物を主体とする酸化皮膜を生成させることが有効である。
しかしながら、成分組成にCrを多量に含有させると、高温において、Cr系酸化物が揮発し、電極に付着することで電極の性能劣化(以下、「Cr被毒」ともいう)を起こし易いという問題がある。
【0016】
この点、特許文献3、4および7ではいずれも、Cr被毒の抑制については考慮が払われていない。そのため、特許文献3、4および7に開示の金属材料を固体酸化物型燃料電池のインターコネクタに使用する場合、Cr被毒による電極の性能劣化が懸念される。
【0017】
また、特許文献6に開示の金属材料では、特に、成分組成におけるMn量を増加させることによって、表層酸化物中にMn2O3を形成して耐Cr被毒性を向上させている。
ここで、固体酸化物型燃料電池のインターコネクタの使用環境には、高温の水蒸気が含まれる場合がある。そのため、このような高温の水蒸気が含まれる環境下においても、耐酸化性および耐Cr被毒性を高めることが求められている。
しかし、特許文献6では、耐酸化性および耐Cr被毒性の評価が大気環境で行われており、高温の水蒸気が含まれる環境下での耐酸化性および耐Cr被毒性については、考慮が払われていない。
【0018】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、電気伝導性に優れ、かつ、耐酸化性および耐Cr被毒性、特に、高温の水蒸気が含まれる環境下での耐酸化性および耐Cr被毒性にも優れる、固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた。
その結果、フェライト系ステンレス鋼において、成分組成を適正に制御する、特に、
(1)Nbを0.15~1.00質量%含有させるとともに、
(2)Mgを0.0005~0.0100質量%含有させ、
(3)そのうえで、Al含有量を0.55~2.00質量%の範囲に制御し、
(4)さらに、0.0004≦[Mg]/[Al]≦0.0050の関係を満足させる、
ことによって、上記の目的が達成されることを知見した。
ここで、[Al]おおび[Mg]はそれぞれ、成分組成におけるAl含有量(質量%)およびMg含有量(質量%)である。
【0020】
その理由について、発明者らは次のように考えている。
すなわち、AlおよびCrはいずれも、フェライト系ステンレス鋼の表面に酸化物を形成する元素である。しかし、Al2O3などのAl系酸化物は絶縁性である。そのため、フェライト系ステンレス鋼に多量のAlを含有させると、フェライト系ステンレス鋼の表面に形成される酸化皮膜(以下、表面酸化皮膜ともいう)がAl系酸化物主体の皮膜になる。その結果、電気抵抗が増大して、電気伝導性が低下する。
しかし、表面酸化皮膜がCr系酸化物主体の皮膜になると、Cr被毒が生じる。
この点、Nb:0.15~1.00質量%およびMg:0.0005~0.0100質量%を含有させると、鋼中のAlが優先的に酸化される。また、NbおよびMgを所定量含有させつつ、Al含有量を0.55~2.00質量%の範囲に制御することによって、Al系酸化物を主体とした表面酸化皮膜を薄くしながら、当該表面酸化皮膜に部分的にCr系酸化物を含有させることが可能となる。
この表面酸化皮膜は、Al系酸化物を主体とするので、高温の水蒸気が含まれるような厳しい環境下においても、優れた耐酸化性が得られる。また、上記の表面酸化皮膜では、Al系酸化物のなかに部分的にCr系酸化物が含まれるという状態になる。そのため、Cr系酸化物の揮発が、その近傍のAl系酸化物によって、阻害される。その結果、高温の水蒸気が含まれるような厳しい環境下においても、優れた耐Cr被毒性が得られる。さらに、表面酸化皮膜中に部分的に生じたCr系酸化物が、通電経路となって、電気伝導性も確保される。
このような理由により、上記(1)~(3)のように成分組成を適切に制御し、かつ上記(4)の関係を満足させたフェライト系ステンレス鋼では、優れた電気伝導性と、優れた耐酸化性および耐Cr被毒性とを両立できる、と発明者らは考えている。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
【0021】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.025%以下、
Si:0.05~1.00%、
Mn:0.05~1.00%、
P:0.050%以下、
S:0.010%以下、
Cr:14.0~32.0%、
Al:0.55~2.00%、
Ni:0.01~1.00%、
Nb:0.15~1.00%、
Mo:1.05~3.00%、
Mg:0.0005~0.0100%および
N:0.025%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、
0.0004≦[Mg]/[Al]≦0.0050の関係を満足する、固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼。
ここで、[Al]おおび[Mg]はそれぞれ、前記成分組成におけるAl含有量(質量%)およびMg含有量(質量%)である。
【0022】
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Cu:0.01~0.50%、
Co:0.01~1.00%および
W:0.01~3.00%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1に記載の固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼。
【0023】
3.前記成分組成が、さらに、質量%で、
Ti:0.01~0.50%、
V:0.01~0.50%、
Zr:0.01~0.50%、
B:0.0002~0.0050%、
Ca:0.0002~0.0050%および
REM:0.01~0.20%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有する、前記1または2に記載の固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、電気伝導性に優れ、かつ、耐酸化性および耐Cr被毒性、特に、高温の水蒸気が含まれる環境下での耐酸化性および耐Cr被毒性にも優れる、固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼を、得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】固体酸化物型燃料電池の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。
まず、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼の成分組成について、説明する。なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
【0027】
C:0.025%以下
Cは、高温での強度を高める効果を有する。このような効果を得るためには、C含有量を0.001%以上とすること好ましい。C含有量は、より好ましくは0.003%以上である。しかし、C含有量が0.025%を超えると、靭性および成形性が低下する。よって、C含有量は0.025%以下とする。C含有量は、好ましくは0.015%以下、より好ましくは0.010%以下である。
【0028】
Si:0.05~1.00%
Siは、耐酸化性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Si含有量は0.05%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.10%以上である。しかし、Si含有量が1.00%を超えると、表面酸化皮膜と母材との界面付近に電気伝導度の低いSiO2が生成して、電気伝導性が低下する。そのため、Si含有量は1.00%以下とする。Si含有量は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0029】
Mn:0.05~1.00%
Mnは、酸化スケールの耐剥離性を高める効果を有する。このような効果を得るため、Mn含有量は0.05%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.10%以上である。しかし、Mn含有量が1.00%を超えると、酸化スケールが異常に成長して、耐酸化性を低下させる場合がある。また、常温において鋼が硬質化して、加工性が低下する。よって、Mn含有量は1.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0030】
P:0.050%以下
Pは、鋼の靭性を低下させる有害な元素である。そのため、Pは、可能な限り低減することが望ましい。よって、P含有量は0.050%以下とする。P含有量は、好ましくは0.040%以下、より好ましくは0.030%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Pはコストの増加を招くので、P含有量は0.010%以上が好ましい。
【0031】
S:0.010%以下
Sは、成形性に悪影響を及ぼすとともに、ステンレス鋼の基本特性である耐食性を低下させる有害な元素でもある。そのため、Sは、可能な限り低減することが望ましい。よって、S含有量は0.010%以下とする。S含有量は、好ましくは0.005%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Sはコストの増加を招くので、S含有量は0.0001%以上が好ましい。
【0032】
Cr:14.0~32.0%
Crは、Al酸化物が主体となる表面酸化皮膜中に部分的にCr2O3皮膜を生成して、電気伝導性を確保する効果を有する。このような効果を得るため、Cr含有量は14.0%以上とする。Cr含有量は、好ましくは16.0%以上、より好ましくは18.5%以上である。しかし、Crが過度に含有される、特に、Cr含有量が32.0%を超えると、Cr系酸化物の揮発が促進される。また、加工性の劣化も招く。そのため、Cr含有量は32.0%以下とする。Cr含有量は、好ましくは24.0%以下、より好ましくは22.0%以下、さらに好ましくは20.5%以下である。
【0033】
Al:0.55~2.00%
Alは、NbおよびMgを同時に含有させることによって、Crよりも優先的に酸化物を形成し、耐酸化性を向上させる効果を有する。また、Alが優先的に酸化物を形成することにより、Cr系酸化物の揮発による電極のCr被毒を抑制することができる。このような効果を得るため、Al含有量は0.55%以上とする。Al含有量は、好ましくは0.85%以上、より好ましくは1.00%以上である。一方、Al含有量が、2.00%を超えると、鋼が硬質化して加工性が低下する。また、表面酸化皮膜中にCr系酸化物を部分的に存在させることができなくなる。さらに、Al系酸化物を主体とする表面酸化皮膜の厚みが増加する。その結果、電気抵抗が増大する。よって、Al含有量は2.00%以下とする。Al含有量は、好ましくは1.60%以下、より好ましくは1.25%以下である。
【0034】
Ni:0.01~1.00%
Niは、鋼の靭性および耐酸化性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Ni含有量は0.01%以上とする。Ni含有量は、好ましくは0.05%超である。一方、Niは、γ相形成元素である。そのため、Ni含有量が1.00%を超えると、高温でγ相が生成して、耐酸化性が低下する。また、耐酸化性が低下することにより、電気抵抗も増大する。そのため、Ni含有量は1.00%以下とする。Ni含有量は、好ましくは0.50%未満、より好ましくは0.20%未満である。
【0035】
Nb:0.15~1.00%
Nbは、高温での強度を高める効果を有する。また、Nbは、Alの酸化を促進して、耐酸化性を向上させるとともに、Cr酸化物の揮発を抑制する効果を有する。このため、Nbは重要な元素である。このような効果を得るため、Nb含有量は0.15%以上とする。Nb含有量は、好ましくは0.25%以上、より好ましくは0.30%以上である。しかし、Nb含有量が1.00%を超えると、鋼が硬質化して、加工性が低下する。よって、Nb含有量は1.00%以下とする。Nb含有量は、好ましくは0.60%以下、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.40%以下である。
【0036】
Mo:1.05~3.00%
Moは、高温での強度を高め、耐酸化性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Mo含有量は1.05%以上とする。Mo含有量は、好ましくは1.50%以上、より好ましくは1.80%以上、さらに好ましくは2.00%以上である。一方、Moが過剰に含有される、特に、Mo含有量が3.00%を超えると、鋼が硬質化して、加工性が低下する。よって、Mo含有量は3.00%以下とする。Mo含有量は、好ましくは2.80%以下、より好ましくは2.40%以下、さらに好ましくは2.30%以下である。
【0037】
Mg:0.0005~0.0100%
Mgは、鋼中のAlを優先的に酸化させて、表面酸化皮膜をAl系酸化物主体の皮膜とするために、不可欠な元素である。また、Mgは、該表面酸化皮膜にCr系酸化物を部分的に含ませるために、不可欠な元素である。換言すれば、Mgは、優れた電気伝導性と、優れた耐酸化性および耐Cr被毒性とを両立するという効果を得るために、不可欠な元素である。このような効果を得るため、Mg含有量は、0.0005%以上とする。Mg含有量は、好ましくは0.0010%以上、より好ましくは0.0015%以上である。一方、Mgが過剰に含有される、特に、Mg含有量が0.0100%を超えると、Al系酸化物を主体とする表面酸化皮膜の厚みが増加して、電気抵抗が増大する。よって、Mg含有量は、0.0100%以下とする。Mg含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0025%以下である。
【0038】
N:0.025%以下
Nは、鋼の靭性および成形性を低下させる元素であり、可能な限り低減することが好ましい。特に、N含有量が0.025%を超えると、靭性および成形性の大幅な低下を招く場合がある。よって、N含有量は0.025%以下とする。N含有量は、好ましくは0.010%未満である。なお、N含有量の下限は特に限定されない。ただし、過度の脱Nはコストの増加を招くので、N含有量は0.001%以上が好ましい。
【0039】
以上、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼の基本成分組成について説明したが、さらに、0.0004≦[Mg]/[Al]≦0.0050の関係を満足させることが重要である。
ここで、[Al]おおび[Mg]はそれぞれ、成分組成におけるAl含有量(質量%)およびMg含有量(質量%)である。
【0040】
0.0004≦[Mg]/[Al]≦0.0050
成分組成におけるAl含有量に対するMg含有量の比である[Mg]/[Al]が小さくなる、特に、0.0004未満になると、表面酸化皮膜に含まれるCr系酸化物が多くなる。その結果、Cr被毒が生じる。一方、[Mg]/[Al]が0.0050を超えると、Al系酸化物を主体とする表面酸化皮膜の厚みが増加する。その結果、電気抵抗が増大する。そのため、0.0004≦[Mg]/[Al]≦0.0050を満足させる。[Mg]/[Al]は好ましくは0.0010以上である。また、[Mg]/[Al]は好ましくは0.0030以下である。
【0041】
また、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼の成分組成には、さらに、以下の(a)および(b)の一方または両方を含有させることができる。
(a)Cu:0.01~0.50%、Co:0.01~1.00%およびW:0.01~3.00%のうちから選ばれる1種または2種以上
(b)Ti:0.01~0.50%、V:0.01~0.50%、Zr:0.01~0.50%、B:0.0002~0.0050%、Ca:0.0002~0.0050%および REM:0.01~0.20%のうちから選ばれる1種または2種以上
【0042】
Cu:0.01~0.50%
Cuは、鋼の耐食性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Cu含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。一方、Cu含有量が0.50%を超えると、酸化スケールが剥離しやすくなり、耐酸化性の低下を招く。よって、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.50%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.10%以下である。
【0043】
Co:0.01~1.00%
Coは、鋼の靭性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Co含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上である。一方、Co含有量が1.00%を超えると、鋼の靱性および加工性の低下を招く。よって、Coを含有させる場合、Co含有量は1.00%以下とする。Co含有量は、好ましくは0.30%未満、より好ましくは0.10%以下である。
【0044】
W:0.01~3.00%
Wは、Moと同様、固溶強化により高温での強度を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、W含有量は0.01%以上とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは0.30%以上、さらに好ましくは1.00%以上である。一方、W含有量が3.00%を超えると、鋼が硬質化して、加工性が低下する。また、製造時の焼鈍工程において強固なスケールが生成するため、酸洗時の脱スケールが困難になる。よって、Wを含有させる場合、W含有量は3.00%以下とする。W含有量は、好ましくは2.00%以下、より好ましくは1.50%以下である。
【0045】
Ti:0.01~0.50%
Tiは、鋼の加工性および耐酸化性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Ti含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上である。しかし、Ti含有量が0.50%を超えると、粗大なTi(C、N)の析出を招き、靭性を低下させるのみならず、表面性状を低下させる。よって、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.50%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.35%以下、より好ましくは0.20%以下である。
【0046】
V:0.01~0.50%
Vは、鋼の加工性および耐酸化性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、V含有量は0.01%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.03%以上、さらに好ましくは0.05%以上である。しかし、V含有量が0.50%を超えると、粗大なV(C、N)の析出を招き、靭性を低下させるのみならず、表面性状を低下させる。よって、Vを含有させる場合、V含有量は0.50%以下とする。V含有量は、好ましくは0.30%以下、より好ましくは0.15%以下である。
【0047】
Zr:0.01~0.50%
Zrは、耐酸化性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、Zr含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは0.05%以上である。しかし、Zr含有量が0.50%を超えると、Zr金属間化合物が析出して、鋼を脆化させる。よって、Zrを含有させる場合、Zr含有量は0.50%以下とする。Zr含有量は、好ましくは0.25%以下、より好ましくは0.10%以下である。
【0048】
B:0.0002~0.0050%
Bは、鋼の加工性、特に二次加工性を向上させる効果を有する。このような効果を得るため、B含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。一方、B含有量が0.0050%を超えると、BNが生成して、加工性が低下する。よって、Bを含有させる場合、B含有量は0.0050%以下とする。B含有量は、好ましくは0.0020%以下、より好ましくは0.0010%以下である。
【0049】
Ca:0.0002~0.0050%
Caは、連続鋳造の際に発生しやすい介在物析出によるノズルの閉塞を防止する効果を有する。このような効果を得るため、Ca含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。一方、Ca含有量が0.0050%を超えると、表面欠陥が発生しやすくなる。よって、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0050%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.0030%以下、より好ましくは0.0020%以下である。
【0050】
REM:0.01~0.20%
REMは、Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Pm,SmおよびHfの総称である。REMは、酸化皮膜の密着性を向上させ、耐酸化性を改善する効果を有する。このような効果を得るため、REM含有量は0.01%以上とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.05%以上である。一方、REM含有量が0.20%を超えると、表面欠陥が発生しやすくなる。よって、REMを含有させる場合、REM含有量は0.20%以下とする。REM含有量は、好ましくは0.10%以下である。
【0051】
上記以外の成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0052】
また、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼の組織は、フェライト単相組織(体積率:100%)となる。
ここで、組織の同定(フェライト相の体積率の算出)は、以下のように行う。
すなわち、固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼から断面観察用の試験片を作製し、ピクリン酸飽和塩酸溶液によるエッチング処理を施す。ついで、断面観察用の試験片を、10視野について倍率100倍で光学顕微鏡により観察し、組織形状とエッチング強度からフェライト相を同定する。ついで、画像処理によりフェライト相の体積率を求め、その平均値を算出する。なお、フェライト相の体積率は、金属間化合物、析出物および介在物を除いて、算出する。
【0053】
なお、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼の形状は、例えば、板状(鋼板)や部品形状としたものが挙げられる。
また、板状(鋼板)や部品形状としたフェライト系ステンレス鋼板の厚み(以下、単に鋼板の厚みともいう)は特に限定されるものではない。ただし、耐酸化性、耐Cr被毒性および加工性の観点から、鋼板の厚みは0.01~10.0mmとすることが好適である。鋼板の厚みは、好ましくは0.03mm以上である。また、鋼板の厚みは、好ましくは8.0mm以下、より好ましくは2.0mm以下である。
【0054】
次に、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼の好適な製造方法について説明する。
すなわち、転炉または電気炉等の溶解炉で溶鋼を溶製する。ついで、該溶鋼に、取鍋精錬または真空精錬による二次精錬を施して、上記の成分組成に調整する。ついで、該溶鋼を、連続鋳造法または造塊-分塊圧延法などにより、鋼片(スラブ)とする。なお、生産性や品質の面からは、連続鋳造法が好ましい。ついで、鋼片(スラブ)に、熱間圧延を施し、熱延鋼板とする。なお、熱延鋼板に、さらに熱延板焼鈍および/または酸洗を施してもよい。以下、単に、熱延鋼板という場合には、熱延ままの鋼板(熱延ままの鋼板に酸洗などを施して得た鋼板も含む)に加え、いわゆる熱延焼鈍板(熱延ままの鋼板に熱延板焼鈍を施して得た鋼板、および、該熱延板焼鈍を施して得た鋼板にさらに酸洗などを施して得た鋼板を含む)も含むものとする。なお、用途などによっては、冷間圧延などを行わずに、熱延鋼板をそのまま製品(以下、熱延製品ともいう)として用いることも可能である。例えば、固体酸化物型燃料電池の筐体を製造する場合には、熱延鋼板をそのまま用いることができる。
ついで、熱延鋼板に、冷間圧延を施し、冷延鋼板とする。ついで、冷延鋼板に、仕上げ焼鈍(冷延板焼鈍)および酸洗等の各工程を施して、冷延焼鈍板などの製品(以下、冷延製品ともいう)とする。なお、冷延焼鈍板には、冷延ままの鋼板に仕上げ焼鈍(冷延板焼鈍)を施して得た鋼板、および、該仕上げ焼鈍(冷延板焼鈍)を施して得た鋼板にさらに酸洗などを施して得た鋼板が含まれる。冷延板焼鈍の雰囲気は特に制限されるものではなく、水素などの還元雰囲気中で行うBA(光輝)焼鈍を行い、酸洗を省略してもよい。 なお、酸洗の前に、ショットブラストやメカニカルデスケーリング等を行って、スケールの除去を行ってもよい。
上記のようにして、本発明の一実施形態に係る固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼を製造することができる。
【0055】
ここで、上記した各工程の条件は常法に従えばよい。
例えば、熱間圧延前に鋼片(スラブ)を加熱する場合、その温度は1050~1250℃とすることが好適である。
熱延板焼鈍は、連続焼鈍により900~1150℃の温度域で行うことが好ましい。
冷間圧延は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延としてもよい。生産性や要求品質上の観点からは、中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延とすることが好ましい。また、冷間圧延の総圧下率は50%以上が好ましく、より好ましくは60%以上である。
仕上げ焼鈍(冷延板焼鈍)は、連続焼鈍により900~1150℃の温度域で行うことが好ましい。より好ましい温度域は950~1100℃である。
さらに、用途によっては、仕上げ焼鈍後、スキンパス圧延等を施して、鋼板の形状、表面粗度および材質の調整を行ってもよい。
【0056】
上記のようにして得た熱延製品および冷延製品は、その後、用途に応じて、切断や曲げ加工、張出し加工および絞り加工等の加工を施して、固体電解質型燃料電池関連部材、例えばインターコネクタ、セルフレーム、セルシール材、エンドプレートや改質器等に成形される。
また、これらの部材を成形するにあたり、例えば、MIG(Metal Inert Gas)、MAG(Metal Active Gas)、TIG(Tungsten Inert Gas)などのアーク溶接、スポット溶接やシーム溶接などの抵抗溶接、電縫溶接などの高周波抵抗溶接、および、高周波誘導溶接などを適用することができる。
【実施例】
【0057】
表1に示した成分組成を有する鋼(残部はFeおよび不可避的不純物)を真空溶解炉で溶製し、鋳造して30kgの鋼塊とした。この鋼塊を1250℃に加熱後、熱間圧延により、厚さ:30mmのシートバーとした。このシートバーを1150℃に加熱後、このシートバーに熱間圧延を施し、熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、800~1100℃の温度で熱延板焼鈍を施したのち、研削し、厚さ:4.0mmの熱延焼鈍板を得た。ついで、該熱延焼鈍板に、冷間圧延を施し、冷延鋼板とした。ついで、この冷延鋼板に750~1100℃の温度で仕上げ焼鈍を行い、厚さ:1.0mmの冷延焼鈍板を得た。ついで、該冷延焼鈍板の表裏面を#800のエメリー紙で研磨し、研磨した冷延焼鈍板を用いて、以下の要領で、耐酸化性、耐Cr被毒性および電気伝導性の評価を行った。評価結果を表2に示す。
なお、上述した方法により、各冷延焼鈍板の組織の同定を行ったところ、いずれについても、フェライト単相組織(フェライト相の体積率:100%)であった。
【0058】
<耐酸化性の評価>
上記の冷延焼鈍板から、1.0mm×20mm×20mmのサンプルを切り出した。このサンプルを、アセトンにより脱脂した後、高温の水蒸気が含まれる環境、具体的には、雰囲気:15vol.%H2O+空気、温度:850℃の加熱炉中で、100時間保持する酸化試験を行った。そして、試験前後でのサンプルの酸化増量を測定し、以下の基準で耐酸化性を評価した。
◎(合格、特に優れる):酸化増量が0.05mg/cm2以下
○(合格、優れる):酸化増量が0.05mg/cm2超0.10mg/cm2以下
×(不合格):酸化増量が0.10mg/cm2超
【0059】
<耐Cr被毒性>
上記の冷延焼鈍板から、上記の耐酸化性の評価で使用したサンプルと同じ形状のサンプルを準備した。準備したサンプルを、石英製の管状炉内の石英製の試料ホルダーに装荷した。なお、試料ホルダーは、管状炉の中央部に配置し、また、試料ホルダーの下流側に、サンプルから蒸発するCrを捕集するための石英製ウールを配置した。ついで、管状炉内に、15vol.%H2O+空気を流しながら、管状炉内の温度を850℃として、100時間保持した。保持後、試料ホルダーおよび石英製ウールに付着したCrの全量を酸液で溶解し、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)により、酸液中のCr濃度を測定した。ついで、Cr濃度と酸液量から、酸液に含まれるCr量を算出した。ついで、酸液に含まれるCr量を、サンプルの表面積で除することにより、サンプルからのCr蒸発量を算出した。そして、以下の基準により、耐Cr被毒性を評価した。
〇(合格):Cr蒸発量が1.0mg/cm2以下
×(不合格):Cr蒸発量が1.0mg/cm2超
【0060】
<電気伝導性の評価>
上記の耐酸化性の評価後、上記の耐酸化性の評価で使用したサンプルの表裏面に、5mm×5mmのPtペーストを塗布し、当該サンプルを、825℃、30minの条件で保持して乾燥させた。なお、保持前の加熱の際の昇温速度、および、保持後の冷却の際の降温速度は、いずれも4℃/minとした。ついで、サンプル表裏面においてPtペーストを塗布した部分にそれぞれ、電流印加用のPt線と電圧測定用のPt線を点溶接により接合したPtメッシュ(10mm×10mm)を配置した。そして、このサンプルを、0.1kgf/cm2の荷重をかけた状態で、850℃に加熱した加熱炉内に30分間保持した。なお、保持前の加熱の際の昇温速度は4℃/minとした。この850℃での保持の際に、電流密度が0.5A/cm2となるようにサンプルに電流を流し、その際の電圧を測定して、電気抵抗値(面積抵抗率)を求めた。そして、各サンプルについてn=3で測定して電気抵抗値を求め、それらの平均値により、以下の基準で電気伝導性を評価した。
◎(合格、特に優れる):電気抵抗値の平均値が0.1Ω・cm2以下
○(合格、優れる):電気抵抗値の平均値が0.1Ω・cm2超0.2Ω・cm2以下
×(不合格):電気抵抗値の平均値が0.2Ω・cm2超
【0061】
【0062】
【0063】
表2に示すように、発明例ではいずれも、電気伝導性に優れ、かつ、高温の水蒸気が含まれる環境下での耐酸化性および耐Cr被毒性にも優れていた。
一方、比較例である鋼No.B1では、Mn含有量が適正範囲を超えるために、十分な耐酸化性および耐Cr被毒性が得られなかった。
鋼No.B2では、Cr含有量が適正範囲に満たなかったために、十分な耐酸化性および電気伝導性が得られなかった。
鋼No.B4およびB12については、Al含有量が適正範囲を超えたために、十分な電気伝導性が得られなかった。
鋼No.B5については、Mo含有量が適正範囲に満たなかったために、十分な耐酸化性および耐Cr被毒性が得られなかった。
鋼No.B6およびB13については、Nb含有量が適正範囲に満たなかったために、十分な耐酸化性および耐Cr被毒性が得られなかった。
鋼No.B7については、Mg含有量が適正範囲に満たず、また、[Mg]/[Al]も適正範囲に満たなかったために、十分な耐Cr被毒性が得られなかった。
鋼No.B8については、[Mg]/[Al]が適正範囲を満たなかったために、十分な耐Cr被毒性が得られなかった。
鋼No.B9については、[Mg]/[Al]が超えたために、十分な電気伝導性が得られなかった。
鋼No.B10については、Al含有量が適正範囲に満たなかったために、十分な耐酸化性および耐Cr被毒性が得られなかった。
鋼No.B11については、Mg含有量が適正範囲に満たなかったために、十分な耐Cr被毒性が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明の固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼は、固体酸化物型燃料電池、特に、そのインターコネクタ、セルフレーム、セルシール材、エンドプレートやその周辺部材である熱交換器や改質器等に用いることができる。また、本発明の固体酸化物型燃料電池用フェライト系ステンレス鋼は、その他の燃料電池や自動車用材料、ならびに、Cr系酸化物の揮発による材料の劣化が問題となるボイラーおよびガスタービン等の材料にも、好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0065】
1:電解質
2:電極(陽極、空気極)
3:電極(陰極、燃料極)
4:インターコネクタ(セパレータ)
5:燃料ガス(水素ガス)
6:酸化性ガス(空気)
7:ガス流路(溝)