(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】過負荷防止装置
(51)【国際特許分類】
B66C 23/90 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
B66C23/90 A
B66C23/90 N
(21)【出願番号】P 2021553700
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2020040711
(87)【国際公開番号】W WO2021085566
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-01-31
(31)【優先権主張番号】P 2019196631
(32)【優先日】2019-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000148759
【氏名又は名称】株式会社タダノ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石井 正裕
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特公昭60-039640(JP,B2)
【文献】特開2019-156579(JP,A)
【文献】特開2008-105817(JP,A)
【文献】特開2017-206384(JP,A)
【文献】特開2007-314257(JP,A)
【文献】特開平08-119582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 23/00 - 23/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブームを有し、吊荷を搬送するクレーンに組み込まれる過負荷防止装置であって、
前記クレーンが前方に転倒しない荷重の上限として設定される第一閾値を記憶する記憶部と、
前記ブームに作用する前方モーメントを発生させる前方荷重が、前記第一閾値よりも大きい場合に、前記ブームの動作を停止する制御及び警報を発する制御の少なくとも一方の制御を含む過負荷防止制御を実施する制御部と、を備え、
前記前方荷重は、前記吊荷の荷重のうち、前記ブームに作用する転倒モーメントの前方成分である前記前方モーメントに対応する荷重であ
り、
前記制御部は、前記クレーンのアウトリガに作用する接地反力と、前記クレーンが側方に転倒しない接地反力の閾値として設定される側方閾値とに基づいて、前記過負荷防止制御を実施する、
過負荷防止装置。
【請求項2】
前記記憶部は、前記第一閾値を前記ブームが取り得る長さ及び起伏角と対応付けて記憶し、
前記制御部は、前記記憶部から前記ブームの長さ及び起伏角に対応する前記第一閾値を取得し、前記前方荷重が、取得した前記第一閾値よりも大きい場合に、前記過負荷防止制御を実施する、請求項1に記載の過負荷防止装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第一閾値を前記ブームが取り得る長さ、起伏角、及び旋回角と対応付けて記憶し、
前記制御部は、前記記憶部から前記ブームの長さ、起伏角、及び旋回角に対応する前記第一閾値を取得し、前記吊荷の荷重が、取得した前記第一閾値よりも大きい場合に、前記過負荷防止制御を実施する、請求項1に記載の過負荷防止装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブームに作用する転倒モーメントに対する前記前方モーメントの比率を算出し、前記吊荷の荷重に前記比率を乗じることにより前記前方荷重を算出し、前記前方荷重が、前記第一閾値を超えた場合に、前記過負荷防止制御を実施する、請求項1又は2に記載の過負荷防止装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記ブームが取り得る姿勢条件と対応付けて強度定格荷重を予め記憶し、
前記制御部は、前記記憶部から取得した前記ブームの姿勢に対応する前記強度定格荷重と、前記荷重とに基づいて、前記過負荷防止制御を実施する、請求項
1に記載の過負荷防止装置。
【請求項6】
ブームを有し、吊荷を搬送するクレーンに組み込まれる過負荷防止装置であって、
前記ブームに作用する転倒モーメントのうちの前方モーメントを発生させる前方荷重に基づいて、前記クレーンが前方に関する過負荷状態であるか否かを判定する第一判定部と、
前記クレーンが側方に関する過負荷状態であるか否かを判定する第二判定部と、
前記クレーンが強度に関する過負荷状態であるか否かを判定する第三判定部と、
前記第一判定部、前記第二判定部、及び前記第三判定部のうちの少なくとも一つの判定部の判定結果が、過負荷状態であった場合に、前記ブームの動作を停止する制御及び警報を発する制御の少なくとも一方の制御を含む過負荷防止制御を実施する制御部と、を備え、
前記前方荷重は、前記吊荷の荷重のうち、前記ブームに作用する転倒モーメントの前方成分である前記前方モーメントに対応する荷重であ
り、
前記第二判定部は、前記クレーンのアウトリガに作用する接地反力に基づいて、前記クレーンが側方に関する過負荷状態であるか否かを判定し、
前記第三判定部は、前記転倒モーメントに基づいて、前記クレーンが強度に関する過負荷状態であるか否かを判定する、
過負荷防止装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クレーンの過負荷防止装置に関する。さらに詳しくは、本発明は、クレーンの過負荷による転倒を防止するための過負荷防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クレーンの過負荷防止装置として、アウトリガジャッキの接地反力に基づき、転倒を検知するものがある。移動式クレーンの転倒モーメントが大きくなると、それに従い反転倒側に設けられたアウトリガジャッキの接地反力が小さくなる。これを利用して、過負荷防止装置は、アウトリガジャッキの接地反力が閾値以下となったときに過負荷と判断する。
【0003】
積載形トラッククレーンの場合、アウトリガジャッキは、ブームの旋回中心のほぼ真横に設けられる。このような構成では、前方への転倒モーメントが大きくなってもアウトリガジャッキの接地反力は変化しない。そのため、アウトリガジャッキの接地反力に基づいて前方への転倒を検知することはできない。
【0004】
これに対して、特許文献1には、実荷重が許容前方吊上荷重に達したことに基づいて、前方への転倒を検知する技術が開示されている。許容前方吊上荷重は、トラックの荷台に荷物を積載しない空荷状態で伸縮ブームをトラック正面に旋回させたブーム正面作業においてトラックの後輪が浮き上がる限界の前方転倒モーメントから求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の許容前方吊上荷重は、ブームを真正面に向けた最も転倒しやすい状態における前方転倒モーメントから求められる。そのため、ブームを斜め前に向けた状態では、実荷重が許容前方吊上荷重をある程度超えたとしても、積載形トラッククレーンが前方に転倒することはない。言い換えれば、ブームを斜め前に向けた状態では、転倒に対する余裕があるにもかかわらず、クレーン装置の動作が制限される。これは、クレーン装置の前方の作業範囲が必要以上に制限されることを意味する。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、前方の作業範囲を拡大できるクレーンの過負荷防止装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る過負荷防止装置の一態様は、
ブームを有し、吊荷を搬送するクレーンに組み込まれる過負荷防止装置であって、
クレーンが前方に転倒しない荷重の上限として設定される第一閾値を記憶する記憶部と、
ブームに作用する前方モーメントを発生させる前方荷重が、第一閾値よりも大きい場合に、ブームの動作を停止する制御及び警報を発する制御の少なくとも一方の制御を含む過負荷防止制御を実施する制御部と、を備える。
上述のような過負荷防止装置を実施する場合に、具体的には、前方荷重は、吊荷の荷重のうち、ブームに作用する転倒モーメントの前方成分である前方モーメントに対応する荷重であってよい。
又、上述のような過負荷防止装置を実施する場合に、具体的には、制御部は、クレーンのアウトリガに作用する接地反力と、クレーンが側方に転倒しない接地反力の閾値として設定される側方閾値とに基づいて、過負荷防止制御を実施してもよい。
【0009】
本発明に係る過負荷防止装置の一態様は、
ブームを有し、吊荷を搬送するクレーンに組み込まれる過負荷防止装置であって、
ブームに作用する前方モーメントを発生させる前方荷重に基づいて、クレーンが前方に関する過負荷状態であるか否かを判定する第一判定部と、
クレーンが側方に関する過負荷状態であるか否かを判定する第二判定部と、
クレーンが強度に関する過負荷状態であるか否かを判定する第三判定部と、
第一判定部、第二判定部、及び第三判定部のうちの少なくとも一つの判定部の判定結果が、過負荷状態であった場合に、ブームの動作を停止する制御及び警報を発する制御の少なくとも一方の制御を含む過負荷防止制御を実施する制御部と、を備える。
上述のような過負荷防止装置を実施する場合に、具体的には、前方荷重は、吊荷の荷重のうち、ブームに作用する転倒モーメントの前方成分である前方モーメントに対応する荷重であってよい。
又、上述のような過負荷防止装置を実施する場合に、具体的には、第二判定部は、クレーンのアウトリガに作用する接地反力に基づいて、クレーンが側方に関する過負荷状態であるか否かを判定してもよい。
又、上述のような過負荷防止装置を実施する場合に、具体的には、第三判定部は、転倒モーメントに基づいて、クレーンが強度に関する過負荷状態であるか否かを判定してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブームに作用する転倒モーメントの前方転倒成分を基準として過負荷を判断するので、ブームを斜め前に向けたときの作業範囲を拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、積載形トラッククレーンの側面図である。
【
図2】
図2は、積載形トラッククレーンの平面図である。
【
図5】
図5は、第1実施形態に係る過負荷防止装置のブロック図である。
【
図6】
図6は、第1実施形態における前方安定監視部の制御のフローチャートである。
【
図7】
図7は、第2実施形態における前方安定監視部の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。〔第1実施形態〕
本発明の第1実施形態に係る過負荷防止装置AAは、移動式クレーンの過負荷による転倒を防止するために用いられる。移動式クレーンとして、オールテレーンクレーン、ラフテレーンクレーン、トラッククレーン、および積載形トラッククレーンなどが挙げられる。本実施形態の過負荷防止装置AAは、これらのなかでも積載形トラッククレーンに好適に用いられる。
【0013】
(積載形トラッククレーン)
まず、積載形トラッククレーンCRを説明する。
図1に示すように、積載形トラッククレーンCRは汎用トラック10を有する。汎用トラック10の前方部分には運転室11が設けられており、後方部分には荷台12が設けられている。汎用トラック10の車両フレーム13のうち、運転室11と荷台12との間の部分には、小型クレーン20が搭載されている。
【0014】
小型クレーン20は車両フレーム13上に固定されたベース21を有する。ベース21にはポスト22が旋回可能に設けられている。ポスト22の上端部にはブーム23が起伏可能に設けられている。ポスト22にはウインチが内蔵されている。このウインチから延ばされたワイヤロープはブーム23の先端部まで導かれている。ワイヤロープはブーム23の先端部とフック24とに設けられた滑車に掛け回されている。これにより、フック24はブーム23の先端部から吊り下げられている。フック24には吊荷が吊り下げられる。
【0015】
ポスト22、ブーム23、フック24などから構成され、吊荷の搬送に用いられる装置を「クレーン装置」と称する。ブーム23は伸縮、起伏可能であるとともに、旋回中心Oを中心として旋回可能である。本明細書では、ブーム23の長さをLと表記する。ブーム23の起伏角(水平面に対する角度)をφと表記する。また、
図2に示すように、ブーム23の旋回角をθと表記する。旋回角θは積載形トラッククレーンCRの真正面を0°とする。
【0016】
小型クレーン20は、クレーン装置のほか、アウトリガジャッキ25を有する。アウトリガジャッキ25は小型クレーン20の左右両側に配置されている。左右のアウトリガジャッキ25とブーム23の旋回中心Oとは車幅方向に並んで配置されている。すなわち、左右のアウトリガジャッキ25とブーム23の旋回中心Oとは、汎用トラック10の前後方向に同位置に配置されているか、短い距離を隔てて配置されている。なお、荷台12の後方左右に、アウトリガジャッキ25とは別のアウトリガジャッキを設けてもよい。
【0017】
小型クレーン20は
図3に示す油圧回路30により油圧駆動される。油圧回路30は油圧バルブユニット31を有する。油圧バルブユニット31の入口ポートは主油路34を介してタンク32に接続している。主油路34には油圧ポンプ33が設けられている。油圧ポンプ33はPTO(パワーテイクオフ)装置を介して汎用トラック10のエンジン14に接続されており、エンジン14により駆動される。油圧ポンプ33によりタンク32内の作動油が油圧バルブユニット31に供給される。油圧バルブユニット31の出口ポートは戻油路35を介してタンク32に接続している。
【0018】
油圧バルブユニット31には複数の油圧アクチュエータ36a~36fが接続されている。油圧アクチュエータ36a~36fは、ブーム伸縮用油圧シリンダ36a、ウインチ用油圧モータ36b、ブーム起伏用油圧シリンダ36c、旋回用油圧モータ36d、およびアウトリガ用油圧シリンダ36e、36fである。ブーム伸縮用油圧シリンダ36aの動作によりブーム23が伸縮する。ウインチ用油圧モータ36bの動作によりフック24が巻上及び巻下作動する。ブーム起伏用油圧シリンダ36cの動作によりブーム23が起伏する。旋回用油圧モータ36dの動作によりポスト22が旋回する。アウトリガ用油圧シリンダ36e、36fの動作によりアウトリガジャッキ25が伸縮する。
【0019】
油圧バルブユニット31には、伸縮用切換制御弁37a、ウインチ用切換制御弁37b、起伏用切換制御弁37c、旋回用切換制御弁37d、およびアウトリガ用切換制御弁37e、37fが設けられている。伸縮用切換制御弁37aにブーム伸縮用油圧シリンダ36aが接続している。ウインチ用切換制御弁37bにウインチ用油圧モータ36bが接続している。起伏用切換制御弁37cにブーム起伏用油圧シリンダ36cが接続している。旋回用切換制御弁37dに旋回用油圧モータ36dが接続している。アウトリガ用切換制御弁37e、37fにアウトリガ用油圧シリンダ36e、36fが、それぞれ接続している。各切換制御弁37a~37fは、油圧ポンプ33から供給された作動油の方向および流量を制御して、油圧アクチュエータ36a~36fの動作を制御する。
【0020】
各切換制御弁37a~37fのスプールにはリンク機構などを介して操作レバーが連結されている。操作レバーを手動操作することにより、切換制御弁37a~37fのスプール位置を切り換えることができる。すなわち、操作レバーにより切換制御弁37a~37fを直接操作できる。
【0021】
図1に示すように、小型クレーン20は操作レバー群26を有する。操作レバー群26を構成する操作レバーが切換制御弁37a~37fのいずれかに連結されている。操作者は操作レバー群26を用いて小型クレーン20を操作できる。
【0022】
図3に示すように、切換制御弁37a~37fのスプールには、それぞれパイロットシリンダ38a~38fが取り付けられている。パイロットシリンダ38a~38fの動作によっても、切換制御弁37a~37fのスプール位置を切り換えることができる。
【0023】
各パイロットシリンダ38a~38fは、複動形シリンダであり、右側油室への作動油の給排を行なう電磁弁と、左側油室への作動油の給排を行なう電磁弁とが付設されている。これらの電磁弁は制御装置40に接続されている。
【0024】
制御装置40はCPU、メモリなどで構成されたコンピュータである。制御装置40からの制御信号に基づいて電磁弁が動作することで、パイロットシリンダ38a~38fが駆動し、切換制御弁37a~37fのスプール位置が切り換わる。このようにして、制御装置40は小型クレーン20の動作を制御する。
【0025】
制御装置40は遠隔操作端末41と双方向に無線通信または有線通信可能である。遠隔操作端末41は、いわゆるラジコン送信機をはじめとする無線操作端末でもよいし、有線操作端末でもよい。遠隔操作端末41は各種のスイッチ、アクセルトリガなどからなる入力部が搭載されている。
【0026】
操作者が遠隔操作端末41の入力部を操作すると、遠隔操作端末41は制御装置40に操作信号を送信する。制御装置40はその操作信号に基づいて油圧回路30を制御して小型クレーン20を動作させる。このようにして、操作者は遠隔操作端末41を用いて小型クレーン20を遠隔操作できる。
【0027】
小型クレーン20はブーム23の姿勢を測定する姿勢測定器を有する。本実施形態の場合、ブーム23の姿勢はブーム23の長さL、起伏角φおよび旋回角θによって表される。姿勢測定器はこれらの各パラメータL、φ、θを測定する複数の測定器からなる。すなわち、姿勢測定器は長さ測定器42、起伏角測定器43および旋回角測定器44からなる。
【0028】
長さ測定器42はブーム23の長さLを測定する。長さ測定器42の構成は特に限定されないが、ブーム23の先端部にコードの端部が固定されたコードリールの回転角をポテンショメータで読み取る構成が挙げられる。
【0029】
起伏角測定器43はブーム23の起伏角φを測定する。起伏角測定器43の構成は特に限定されないが、ポテンショメータに振り子を取り付けた振子式の角度測定器をブーム23に設ける構成が挙げられる。
【0030】
旋回角測定器44はブーム23の旋回角θを測定する。旋回角測定器44の構成は特に限定されないが、ベース21またはポスト22に設けた複数の近接スイッチによりブーム23の旋回角θを離散的に検知する構成のほか、ポスト22を旋回させる油圧モータの回転角をポテンショメータで読み取る構成が挙げられる。
【0031】
また、小型クレーン20はフック24に吊り下げられた吊荷の荷重Wを測定する荷重測定器45を有する。荷重測定器45の構成は特に限定されないが、ブーム23を起伏させるブーム起伏用油圧シリンダ36c内の油圧を圧力センサで測定して荷重を求める構成のほか、フック24を吊り下げるワイヤロープの張力から荷重Wを検出する張力検出器を用いた構成が挙げられる。
【0032】
(過負荷防止装置)
つぎに、本実施形態の過負荷防止装置AAを説明する。制御装置40は、小型クレーン20の動作を制御する機能のほか、過負荷防止装置AAとしての機能も有する。なお、過負荷防止装置AAを制御装置40とは別のコンピュータで構成してもよい。
【0033】
図5に示すように、過負荷防止装置AAには、姿勢測定器(長さ測定器42、起伏角測定器43、旋回角測定器44)および荷重測定器45の測定値が入力されている。すなわち、過負荷防止装置AAには、ブーム23の長さL
d、起伏角φ
dおよび旋回角θ
dの各測定値と、吊荷の荷重W
dの測定値とが入力されている。
【0034】
過負荷防止装置AAは、これらの測定値Ld、φd、θd、Wdに基づき、小型クレーン20の過負荷状態を検知する。ここで、「過負荷状態」とは、転倒モーメントが安定モーメントを超えて積載形トラッククレーンCRが転倒する状態、および吊荷の荷重Wによる負荷が小型クレーン20の構成部材の耐荷重を超えた状態、あるいはそれらの状態に近づいた状態を意味する。
【0035】
過負荷防止装置AAは、前方安定監視部51、側方安定監視部52および強度限界監視部53を有する。前方安定監視部51は、制御部及び第一判定部の一例に該当し、積載形トラッククレーンCRが前方へ転倒するか否か、すなわち前方への安定を監視する。側方安定監視部52は、第二判定部の一例に該当し積載形トラッククレーンCRが側方へ転倒するか否か、すなわち側方への安定を監視する。強度限界監視部53は、第三判定部の一例に該当し、吊荷の荷重による負荷が構成部材の耐荷重を超えるか否かを監視する。以下、それぞれの制御を順に説明する。
【0036】
(前方安定監視)
まず、前方安定監視の原理を説明する。ブーム23の長さをL、起伏角をφとした場合、作業半径Rは式(1)で求められる。
【数1】
【0037】
フック24に吊り下げられた吊荷の荷重をWとすると、吊荷の荷重Wによってブーム23に作用する転倒モーメントの大きさMは式(2)で求められる。なお、転倒モーメントMにブーム23の自重により生じるモーメントを加えてもよい。
【数2】
【0038】
ここで、
図2に示すように、ブーム23が斜め前に旋回しているとする。この場合、ブーム23に作用する転倒モーメントのうち、前方転倒成分の大きさM
fは式(3)で求められる。以下、M
fを「前方モーメント」と称する。
【数3】
【0039】
積載形トラッククレーンCRの前方への安定が確保される前方モーメントMfの最大値を前方定格モーメントMf-limとする。前方定格モーメントMf-limは予め定められた値である。前方定格モーメントMf-limは、例えば、荷台12に荷物を積載しない空荷状態でブーム23が汎用トラック10の真正面を向いた、最も前方転倒しやすい状態において、汎用トラック10の後輪が浮き上がる限界の転倒モーメントの大きさに設定される。上記限界転倒モーメントの大きさに安全率(1未満の値)をかけた値を前方定格モーメントMf-limとしてもよい。また、積載形トラッククレーンCRの側方への安定モーメントを基準として、側方安定モーメントの大きさの所定割合(例えば25%)を前方定格モーメントMf-limとして設定してもよい。
【0040】
前方モーメントMfと前方定格モーメントMf-limとを比較すれば、積載形トラッククレーンCRが前方へ転倒するか否かを判断できる。具体的には、前方モーメントMfが前方定格モーメントMf-lim以下の場合は、前方転倒しないと判断する。また、前方モーメントMfが前方定格モーメントMf-limを超える場合は、前方転倒する(過負荷)と判断する。
【0041】
図4に示すように、吊荷の荷重Wが閾値に達したことに基づいて一律に過負荷と判断する場合、前方の作業範囲R1は半円形の領域となる。これに対して、上記のように、ブーム23に作用する転倒モーメントの前方転倒成分M
fを基準として過負荷を判断する場合、前方の作業範囲R2は作業範囲R1を含んだ横長の領域となる。このように、上記の方法によれば、ブーム23を斜め前に向けたときの作業範囲を拡大できる。
【0042】
以上の原理を踏まえ、本実施形態の前方安定監視部51はつぎの制御を行なう。前方安定監視部51には、予め、前方定格荷重Wf-lim(L、φ)が記憶されている。よって、前方安定監視部51は、記憶部としての機能も有する。前方定格荷重Wf-limは、第一閾値の一例に該当し、ブーム23に前方定格モーメントMf-limが作用するときの吊荷の荷重Wとなるよう、ブーム23の長さLおよび起伏角φごとに定められた値である。前方定格荷重Wf-limは表形式で記憶してもよいし、ブーム23の長さLおよび起伏角φを変数とした関数として記憶してもよい。第一閾値は、クレーンが前方に転倒しない荷重の上限として予め設定される。
【0043】
図6に示すように、まず、前方安定監視部51は、長さ測定器42、起伏角測定器43、旋回角測定器44および荷重測定器45から測定値L
d、φ
d、θ
d、W
dを取得する(ステップS11)。
【0044】
つぎに、前方安定監視部51は、ブーム23が積載形トラッククレーンCRの前方領域に配置されていることを確認する(ステップS12)。ブーム23が前方領域に配置されているとは、ブーム23の先端部(フック24)が前方への転倒基線よりも前方に配置されていることを意味する。前方への転倒基線は、例えば、左右のアウトリガジャッキ25の接地位置を結ぶ線である。左右のアウトリガジャッキ25が旋回中心Oの真横に配置されている場合には、ブーム23の旋回角θdが-90°~+90°の範囲内のときに、ブーム23が前方領域に配置されていると判断すればよい。換言すれば、ブーム23が前方領域に配置されている状態は、吊荷の荷重Wに基づいて、ブーム23に作用する前方モーメントの大きさが0より大きい状態を意味する。
【0045】
ブーム23が前方領域に配置されていない場合は処理を終了する。一方、ブーム23が前方領域に配置されている場合は、処理を継続する。
【0046】
つぎに、前方安定監視部51は前方荷重Wfを求める(ステップS13)。前方荷重Wfはつぎの手順で求められる。まず、前方安定監視部51は、旋回角の測定値θdから前方比率を求める。ここで、前方比率とは、ブーム23に作用する転倒モーメントの大きさMに対する前方モーメントMfの比率である。すなわち、前方比率は旋回角θdの余弦値(cosθd)である(式(3)参照)。
【0047】
転倒モーメントは、成分として、前方モーメントMfと側方モーメントとを有する。ブーム23の長さ及び起伏角を固定した場合、ブーム23の旋回角が0°の場合に、転倒モーメントのうちの前方モーメントMfが最大となり、ブーム23の旋回角が90°又は-90°の場合に、転倒モーメントのうちの前方モーメントMfが最小となる。前方モーメントとは、ブーム23に作用するモーメントであって、積載形トラッククレーンCRの左右方向に平行な軸周りのモーメントを意味する。又、側方モーメントとは、ブーム23に作用するモーメントであって、積載形トラッククレーンCRの前後方向に平行な軸周りのモーメントを意味する。
【0048】
つぎに、前方安定監視部51は、式(4)に従い、荷重の測定値Wdに前方比率(cosθd)を乗じて前方荷重Wfを求める。前方荷重Wfはブーム23を真正面に配置したと仮定した場合に、前方モーメントMfと同等の転倒モーメントMが生じるのに要する吊荷の荷重Wである。換言すれば、前方荷重Wfは、荷重の測定値Wdのうちブーム23に作用する前方モーメントを発生させる荷重に相当する。
【0049】
【0050】
つぎに、前方安定監視部51は、ブーム23の長さおよび起伏角の測定値Ld、φdに対応する第一閾値である前方定格荷重Wf-lim(Ld、φd)を取得する(ステップS14)。そして、前方安定監視部51は、前方荷重Wfと前方定格荷重Wf-lim(Ld、φd)とを比較する(ステップS15)。そして、前方安定監視部51は、前方荷重Wfが前方定格荷重Wf-lim(Ld、φd)を超えたときに、過負荷と判断する(ステップS16)。又、前方安定監視部51は、過負荷と判断した場合、ブーム23の動作を停止する制御及び警報を発する制御の少なくとも一方の制御を含む過負荷防止制御を実施する。尚、過負荷防止制御は、ブーム23の動作を停止する制御及び警報を発する制御以外の制御を含んでもよい。
【0051】
(側方安定監視)
つぎに、側方安定監視を説明する。
側方安定監視部52は、積載形トラッククレーンCRが側方へ転倒する条件となったとき、あるいはそのような条件に近づいたときに過負荷と判断する。側方安定監視部52の具体的な制御は特に限定されないが、例えば、以下の制御を行なう。
【0052】
積載形トラッククレーンCRの側方への転倒モーメント(つまり、ブーム23に作用する転倒モーメントのうちの側方モーメント)が大きくなると、それに従い反転倒側に設けられたアウトリガジャッキ25の接地反力Fが小さくなる。これを利用して側方への安定を監視する。
【0053】
積載形トラッククレーンCRは左右のアウトリガジャッキ25の接地反力Fを測定する接地反力測定器46を有する。接地反力測定器46の構成は特に限定されないが、アウトリガジャッキ25の油室内の油圧を測定する油圧センサを用いる構成が挙げられる。アウトリガジャッキ25の保持側油室と反保持側油室の差圧と、ジャッキシリンダの受圧面積とから接地反力Fを算出できる。
【0054】
図5に示すように、接地反力測定器46の測定値、すなわち、アウトリガジャッキ25の接地反力F
dは過負荷防止装置AAに入力されている。側方安定監視部52は、左右のアウトリガジャッキ25のいずれかの接地反力F
dが反力閾値F
limを下回ったときに、過負荷と判断する。反力閾値F
limは、側方閾値の一例に該当し、側方安定監視部52に予め設定された値である。反力閾値F
limは一の固定値でもよいし、ブーム23の姿勢L、φ、θ、吊荷の荷重W、アウトリガジャッキ25の張出幅などに基づいて可変としてもよい。
【0055】
側方安定監視部52は、少なくともブーム23が側方領域に配置されている場合に、側方安定監視を行なう。ブーム23が側方領域に配置されているとは、ブーム23の先端部(フック24)が側方への転倒基線よりも側方に配置されていることを意味する。ブーム23の前方領域と側方領域とは、積載形トラッククレーンCRの斜め前方において、一部重なる。また、アウトリガジャッキ25の接地反力Fに基づいて側方安定監視を行なう場合、側方安定監視部52はブーム23の旋回角θによらず、常に側方安定監視を行なえばよい。したがって、ブーム23が前方領域に配置されている場合は、前方安定監視とともに側方安定監視も行なわれる。前方安定監視部51が過負荷と判断していない場合でも、側方安定監視部52が過負荷と判断する場合がある。
【0056】
(強度限界監視)
つぎに、強度限界監視を説明する。強度限界監視部53は、吊荷の荷重Wによる負荷が構成部材の耐荷重を超える条件となったときに過負荷と判断する。又、強度限界監視部53は、ブーム23に作用する転倒モーメントに基づいて、クレーンが強度に関する過負荷状態であるか否かを判定してもよい。強度限界監視部53の具体的な制御は特に限定されないが、例えば、以下の制御を行なう。
【0057】
強度限界監視部53には、予め、強度定格荷重Ws-lim(L、φ)が記憶されている。強度定格荷重Ws-limは、ブーム23などの構成部材の耐荷重として、ブーム23の長さLおよび起伏角φごとに定められた値である。ブーム23の長さLおよび起伏角φは、ブーム23の姿勢条件の一例に該当する。強度定格荷重Ws-limは表形式で記憶してもよいし、ブーム23の長さLおよび起伏角φを変数とした関数として記憶してもよい。なお、強度定格荷重Ws-limをブーム23の長さL、起伏角φおよび旋回角θごとに定められた値としてもよい。
【0058】
まず、強度限界監視部53は、長さ測定器42、起伏角測定器43および荷重測定器45から測定値Ld、φd、Wdを取得する。つぎに、強度限界監視部53は、ブーム23の長さおよび起伏角の測定値Ld、φdに対応する強度定格荷重Ws-lim(Ld、φd)を取得する。そして、強度限界監視部53は、荷重Wdと強度定格荷重Ws-lim(Ld、φd)とを比較する。そして、荷重Wdが強度定格荷重Ws-lim(Ld、φd)を超えたときに、過負荷と判断する。
【0059】
なお、強度限界監視部53はブーム23の旋回角θによらず、常に強度限界監視を行なう。
【0060】
(最終判定)
図5に示すように、過負荷防止装置AAは最終判定部54を有する。前方安定監視部51、側方安定監視部52および強度限界監視部53の判断結果は、最終判定部54に入力されている。最終判定部54は、前方安定監視部51、側方安定監視部52および強度限界監視部53の判断結果の論理和を求めて、最終的に過負荷の判定を行なう。すなわち、最終判定部54は、前方安定監視部51、側方安定監視部52および強度限界監視部53のいずれか一または複数が過負荷と判断している場合、過負荷と判定する。逆に、最終判定部54は、前方安定監視部51、側方安定監視部52および強度限界監視部53のいずれもが過負荷と判断していない場合、過負荷でないと判定する。
【0061】
最終判定部54の判定結果は制御装置40に出力される。判定結果が過負荷の場合、制御装置40はブーム23の動作を自動的に停止してもよいし、警報を発してもよい。自動停止は転倒モーメントが増加する方向のブーム23の動作を停止することにより行なわれる。すなわち、ブーム23の伸長および倒伏を停止し、ブーム23の収縮および起立を許容する。また、フック24の巻き上げを停止し、フック24の巻き下げを許容してもよい。なお、自動停止と警報のいずれか一方を行なってもよいし、両方を行なってもよい。
【0062】
〔第2実施形態〕
つぎに、本発明の第2実施形態に係る過負荷防止装置AAを説明する。
本実施形態の過負荷防止装置AAの構成は、
図5に示す構成と同様である。また、側方安定監視部52、強度限界監視部53および最終判定部54の制御は第1実施形態と同様である。したがって、前方安定監視部51の制御についてのみ説明する。
【0063】
前方安定監視部51には、予め、前方定格荷重Wf-lim(L、φ、θ)が記憶されている。前方定格荷重Wf-limは、第一閾値の一例に該当し、ブーム23に作用する前方モーメント(転倒モーメントの前方転倒成分)が前方定格モーメントMf-limとなるときの吊荷の荷重Wとなるよう、ブーム23の長さL、起伏角φおよび旋回角θごとに定められた値である。前方定格荷重Wf-limは表形式で記憶してもよいし、ブーム23の長さL、起伏角φおよび旋回角θを変数とした関数として記憶してもよい。
【0064】
図7に示すように、まず、前方安定監視部51は、長さ測定器42、起伏角測定器43、旋回角測定器44および荷重測定器45から測定値L
d、φ
d、θ
d、W
dを取得する(ステップS21)。
【0065】
つぎに、前方安定監視部51は、ブーム23が積載形トラッククレーンCRの前方領域に配置されていることを確認する(ステップS22)。ブーム23が前方領域に配置されていない場合は処理を終了する。一方、ブーム23が前方領域に配置されている場合は、処理を継続する。
【0066】
つぎに、前方安定監視部51は、ブーム23の長さ、起伏角および旋回角の測定値Ld、φd、θdに対応する前方定格荷重Wf-lim(Ld、φd、θd)を取得する(ステップS23)。そして、前方安定監視部51は、荷重の測定値Wdと前方定格荷重Wf-lim(Ld、φd、θd)とを比較する(ステップS24)。そして、荷重Wdが前方定格荷重Wf-lim(Ld、φd、θd)を超えたときに、過負荷と判断する(ステップS25)。
【0067】
このような処理により前方安定監視を行なったとしても、ブーム23を斜め前に向けたときの作業範囲を拡大できる。
【0068】
2019年10月29日出願の特願2019-196631の日本出願に含まれる明細書、図面、および要約書の開示内容は、すべて本願に援用される。
【0069】
(付記)
本発明の参考例として以下の過負荷防止装置を実施することもできる。
【0070】
(参考例1)
参考例1に係る過負荷防止装置は、ブームを有する移動式クレーンの過負荷防止装置であって、吊荷の荷重の測定値と、ブームの長さ、起伏角および旋回角の測定値とを入力されてよい。
又、過負荷防止装置は、ブームに前方定格モーメントが作用するときの吊荷の荷重となるよう、ブームの長さおよび起伏角ごとに定められた前方定格荷重を記憶してよい。
又、過負荷防止装置は、旋回角の測定値から、ブームに作用する転倒モーメントの大きさに対する転倒モーメントの前方転倒成分の大きさの比率である前方比率を求め、荷重の測定値に前方比率を乗じて前方荷重を求め、前方荷重が、ブームの長さおよび起伏角の測定値に対応する前方定格荷重を超えたときに、過負荷と判断してよい。
【0071】
(参考例2)
参考例2に係る過負荷防止装置は、ブームを有する移動式クレーンの過負荷防止装置であって、吊荷の荷重の測定値と、ブームの長さ、起伏角および旋回角の測定値とを入力されてよい。
又、過負荷防止装置は、ブームに前方定格モーメントが作用するときの吊荷の荷重となるよう、ブームの長さ、起伏角および旋回角ごとに定められた前方定格荷重を記憶してよい。
又、過負荷防止装置は、荷重の測定値が、ブームの長さ、起伏角および旋回角の測定値に対応する前方定格荷重を超えたときに、過負荷と判断してよい。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、積載形トラッククレーンに限らず、種々の移動式クレーンに適用できる。
【符号の説明】
【0073】
CR 積載形トラッククレーン
10 汎用トラック
11 運転室
12 荷台
13 車両フレーム
14 エンジン
20 小型クレーン
21 ベース
22 ポスト
23 ブーム
25 アウトリガジャッキ
26 操作レバー群
30 油圧回路
31 油圧バルブユニット
32 タンク
33 油圧ポンプ
34 主油路
35 戻油路
36a ブーム伸縮用油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
36b ウインチ用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
36c ブーム起伏用油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
36d 旋回用油圧モータ(油圧アクチュエータ)
36e、36f アウトリガ用油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)
37a 伸縮用切換制御弁
37b ウインチ用切換制御弁
37c 起伏用切換制御弁
37d 旋回用切換制御弁
37e、37f アウトリガ用切換制御弁
38a、38b、38c、38d、38e、38f パイロットシリンダ
40 制御装置
41 遠隔操作端末
42 長さ測定器
43 起伏角測定器
44 旋回角測定器
45 荷重測定器
46 接地反力測定器
AA 過負荷防止装置
51 前方安定監視部
52 側方安定監視部
53 強度限界監視部
54 最終判定部