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特許7151930中継装置、通信ネットワークシステム及び通信制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】中継装置、通信ネットワークシステム及び通信制御方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 12/46 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
H04L12/46 100C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022504670
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039302
(87)【国際公開番号】W WO2022085055
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2022-01-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】とこしえ特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】名取 清
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝
【審査官】宮島 郁美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/117184(WO,A1)
【文献】特開2019-29994(JP,A)
【文献】特開2015-89092(JP,A)
【文献】特開2015-139093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L12/00-13/18,41/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の通信ネットワークと、前記第1の通信ネットワークとは異なる通信プロトコルが利用される第2の通信ネットワークとに接続された中継装置であって、
前記第1の通信ネットワークから前記第2の通信ネットワークへ送信される制御情報が格納された第1のペイロードと、前記制御情報を識別するための第1のデータIDと、前記制御情報及び前記第1のデータIDに基づいて算出され、前記第1のペイロードに格納された誤り検出符号とを備える第1のデータを、前記第1の通信ネットワークから受信し、
前記第1のデータが格納された第2のペイロードと、前記第2のペイロードに前記第1のデータが格納されていることを示す第2のデータIDとを備える第2のデータを生成し、
生成された前記第2のデータを前記第2の通信ネットワークへ送信する中継装置。
【請求項2】
前記第1のデータは、前記第2の通信ネットワークにおける送信先、前記第1のデータに格納されている前記制御情報の種類、又は前記第1の通信ネットワークからの送信周期に基づいてグループ分けされ、グループ分けされた複数の前記第1のデータ毎に前記第2のペイロードに格納される請求項1に記載の中継装置。
【請求項3】
前記第1のデータは、前記第1のペイロードに格納された前記制御情報のサイズに関する情報を含む請求項1又は2に記載の中継装置。
【請求項4】
前記第2の通信ネットワークは、前記第1の通信ネットワークよりも単位時間当たりのデータ通信量が大きい請求項1~3のいずれか1項に記載の中継装置。
【請求項5】
前記第1の通信ネットワークにより利用される第1の通信プロトコルは、CAN(Controller Area Network)プロトコル又はCAN FD(CAN with Flexible Data rate)プロトコルであり、
前記第の通信ネットワークにより利用される第2の通信プロトコルは、
前記第1の通信プロトコルが前記CANプロトコルである場合には、前記CAN FDプロトコル又はEthernet(登録商標)プロトコルであり、
前記第1の通信プロトコルが前記CAN FDプロトコルである場合には、前記Ethernetプロトコルである請求項4に記載の中継装置。
【請求項6】
第1の通信ネットワークに接続された第1の電子制御装置と、
前記第1の通信ネットワークとは異なる通信プロトコルが利用される第2の通信ネットワークに接続された第2の電子制御装置と、
前記第1の通信ネットワークと、前記第2の通信ネットワークとに接続された中継装置とを備え、
前記第1の電子制御装置は、
前記第2の通信ネットワークへ送信される制御情報が格納された第1のペイロードと、前記制御情報を識別するための第1のデータIDと、前記制御情報及び前記第1のデータIDに基づいて算出され、前記第1のペイロードに格納された誤り検出符号とを備える第1のデータを生成し、
生成された前記第1のデータを前記第1の通信ネットワークへ送信し、
前記中継装置は、
前記第1の通信ネットワークから前記第1のデータを受信し、
前記第1のデータが格納された第2のペイロードと、前記第2のペイロードに前記第1のデータが格納されていることを示す第2のデータIDとを備える第2のデータを生成し、
生成された前記第2のデータを前記第2の通信ネットワークへ送信し、
前記第2の電子制御装置は、
前記第2の通信ネットワークから前記第2のデータを受信し、
前記第2のデータから前記第1のデータを取得し、
取得された前記第1のデータの前記誤り検出符号に基づいて、前記第1のデータの誤り検出を行なう通信ネットワークシステム。
【請求項7】
第1の通信ネットワークと、前記第1の通信ネットワークとは異なる通信プロトコルが利用される第2の通信ネットワークとに接続された中継装置によって実行される通信制御方法であって、
前記第1の通信ネットワークから前記第2の通信ネットワークへ送信される制御情報が格納された第1のペイロードと、前記制御情報を識別するための第1のデータIDと、前記制御情報及び前記第1のデータIDに基づいて算出され、前記第1のペイロードに格納された誤り検出符号とを備える第1のデータを、前記第1の通信ネットワークから受信し、
前記第1のデータが格納された第2のペイロードと、前記第2のペイロードに前記第1のデータが格納されていることを示す第2のデータIDとを備える第2のデータを生成し、
生成された前記第2のデータを前記第2の通信ネットワークへ送信する通信制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる通信プロトコルを利用する複数の通信ネットワーク間でデータ通信を行う中継装置、通信ネットワークシステム及び通信制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、CAN(Controller Area Network)やEthernet(登録商標)等の異なる通信プロトコルを利用する複数の通信ネットワーク間でデータフレームの通信を行う車載ネットワークシステムが開示されている。特許文献1の車載ネットワークシステムは、CANを利用する第1ネットワークに接続されたC-ECUと、Ethernetを利用する第2ネットワークに接続されたE-ECUとを備えている。ECU(Electronic Control Unit)は、各種の車載機器を制御する電子制御装置である。第1ネットワークと第2ネットワークとの間には、ゲートウェイ装置が接続されている。ゲートウェイ装置は、C-ECUにより生成されたCANのデータフレームをE-ECUへ送信する際に、Ethernetのデータフレームに複数のCANのデータフレームを格納して送信している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/203902号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CANの通信プロトコルでは、データフレームに発生した符号誤り(エラー)を検出して訂正するために、データフレームに誤り検出符号を付加している。しかしながら、特許文献1の車載ネットワークシステムは、Ethernetのデータフレームに格納されたCANのデータフレームについて、どのように誤り検出を行なうかは開示されていない。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、異なる通信プロトコルを利用する複数の通信ネットワーク間でデータ通信を行う際に、データの誤り検出を適切に行なうことができる中継装置、通信ネットワークシステム及び通信制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、異なる通信プロトコルが利用される第1の通信ネットワークと、第2の通信ネットワークとに接続された中継装置において、第1のペイロードと、第1のデータIDと、第1のペイロードに格納された制御情報と第1のデータIDとに基づいて算出された適切な誤り検出符号とを備える第1のデータを第1の通信ネットワークから受信し、第1のデータが格納された第2のペイロードと、第2のペイロードに第1のデータが格納されていることを示す第2のデータIDとを備える第2のデータを生成し、生成された第2のデータを第2の通信ネットワークへ送信する、ことによって上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第2のデータに格納される第1のデータのそれぞれが、第1のデータIDと制御情報とに基づいて算出された適切な誤り検出符号を備えているので、第1のデータ毎に誤り検出を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本発明に係る中継装置、通信ネットワークシステム及び通信制御方法を適用した、車載通信ネットワークシステムの構成図である。
図2図2は、CANのデータフレームの構成を示す説明図である。
図3図3は、CAN FDのデータフレームの構成を示す説明図である。
図4図4は、CANバスに接続された通信ネットワークからCANバスに接続された通信ネットワークへCANフレームを送信する手順を示すシーケンスチャートである。
図5図5は、CANバスに接続された通信ネットワークからCANバスに接続された通信ネットワークへCANフレームを送信する手順を示す説明図である。
図6図6は、Ethernetのデータフレームの構成を示す説明図である。
図7図7は、CANフレームが格納されたFDフレームを複数の通信ネットワークへ送信する手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
本実施形態では、本発明に係る中継装置、通信ネットワークシステム及び通信制御方法を、自動車(車両ともいう)に搭載された車載ネットワークシステムに適用した例を用いて説明する。本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWは、CAN、CAN FD及びEthernet等の異なる通信プロトコルを利用する複数の通信ネットワークが混在されたネットワークシステムである。CAN FDは、CANに対し上位互換性を有する通信プロトコルであり、CANよりも単位時間当たりのデータ通信量(通信速度)が大きくなっている。Ethernetは、LAN(Local Area Network)等に利用される通信ネットワークであり、CAN FDよりも単位時間当たりのデータ通信量は大きい。
【0010】
図1は、本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWの構成を示すブロック図である。車載通信ネットワークシステムCNWは、第1の通信ネットワーク1と、第2の通信ネットワーク2と、第3の通信ネットワーク3と、第4の通信ネットワーク4と、第5の通信ネットワーク5と、第6の通信ネットワーク6と、第1の通信ネットワーク1~第6の通信ネットワーク6に接続されたCGW(Central Gateway)7とを備える。第1の通信ネットワーク1~第6の通信ネットワーク6は、車両の基本構成毎に区分けされた複数の制御グループを構成している。この制御グループは、ドメインとも呼ばれる。ドメインには、車両内での情報提示について制御するマルチメディアドメインの他、エンジン等を制御するパワートレインドメイン、ステアリング機構等を制御するシャーシドメイン、パワーウィンドウ等を制御するボディドメイン、自律走行制御を行うADAS(Advanced Driver-Assistance System)ドメイン等がある。第1の通信ネットワーク1~第6の通信ネットワーク6は、本発明の第1の通信ネットワーク及び第2の通信ネットワークの一例に相当する。なお、車載通信ネットワークシステムCNWを構成する通信ネットワークの数は、個に限定されない。
【0011】
第1の通信ネットワーク1は、ECU11、ECU12及びECU13を備える。ECU11~13は、CANの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるCANバス14を介してCGW7に接続されている。ECU11~13は、車両に搭載された車載機器を制御する電子制御装置である。ECU11~13は、詳しくは図示しないが、コントローラと、通信回路とを備えている。コントローラは、CPUと、CPUにより実行される制御プログラムが格納されたROMと、制御プログラムのワークエリアとして利用されるRAM等を備えている。コントローラは、CPUにより制御プログラムを実行することにより、ECUとして機能する。通信回路は、コントローラにより制御され、コントローラとCANバス14との間の通信を行う。
【0012】
ECU11~13には、図示しないセンサ又はアクチュエータ等の車載機器が接続されている。ECU11~13は、接続されているセンサから、センサによる検知結果を示すセンサ情報を取得し、取得されたセンサ情報を含む制御情報が格納されたCANのデータフレーム(以下、CANフレームともいう)を生成する。ECU11~13により生成されたCANフレームは、CANバス14を介してCGW7へ送信される。また、各ECU11~13は、CANバス14を介してCGW7からCANフレームを受信し、受信したCANフレームに格納されている制御情報に基づいてアクチュエータ等の車載機器を制御する。ECU11~13は、本発明の第1の電子制御装置及び第2の電子制御装置の一例に相当する。
【0013】
第2の通信ネットワーク2は、ECU21、ECU22及びECU23を備える。ECU21~23は、CANの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるCANバス24を介してCGW7に接続されている。なお、第2の通信ネットワーク2のECU21~23及びCANバス24は、第1の通信ネットワーク1のECU11~13及びCANバス14と同様の構成を有するため、詳しい説明は省略する。
【0014】
第3の通信ネットワーク3は、DM(Domain Master)31と、ECU32、ECU33及びECU34とを備える。DM31は、CAN FDの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるFDバス35を介してCGW7に接続されている。また、ECU32~34は、CAN FDの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるFDバス36を介してDM31に接続されている。
【0015】
ECU32~34は、第1の通信ネットワーク1のECU11~13と同様に、車両に搭載された車載機器を制御する電子制御装置であり、コントローラ及び通信回路を備えている。ECU32~34は、接続されているセンサから、センサによる検知結果を示すセンサ情報を取得し、取得されたセンサ情報を含む制御情報が格納されたCAN FDのデータフレーム(以下、FDフレームともいう)を生成する。ECU32~34により生成されたFDフレームは、FDバス36を介してDM31へ送信される。また、各ECU32~34は、FDバス36を介してDM31からFDフレームを受信し、受信したFDフレームに格納されている制御情報に基づいてアクチュエータ等の車載機器を制御する。ECU32~34は、本発明の第1の電子制御装置及び第2の電子制御装置の一例に相当する。
【0016】
DM31は、CGW7とECU32~34との間での通信を中継する中継装置であり、ECUと同様にコントローラ及び通信回路を備えている。DM31は、FDバス36を介して、ECU32~34とFDフレームの通信を行なう。また、DM31は、FDバス35を介して、CGW7とFDフレームの通信を行なう。DM31は、本発明の中継装置の一例に相当する。
【0017】
第4の通信ネットワーク4は、DM41と、ECU42、ECU43及びECU44とを備える。DM41は、CAN FDの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるFDバス45を介してCGW7に接続されている。また、ECU42~44は、CAN FDの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるFDバス46を介してDM41に接続されている。なお、第4の通信ネットワーク4のDM41、ECU42~44及びFDバス45、46は、第3の通信ネットワーク3のDM31、ECU32~34及びFDバス35、36と同様の構成を有するため、詳しい説明は省略する。
【0018】
第5の通信ネットワーク5は、DM51と、ECU52、ECU53及びECU54とを備える。DM51は、CAN FDの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるFDバス55を介してCGW7に接続されている。また、ECU52~54は、CANの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるCANバス56を介してDM51に接続されている。
【0019】
ECU52~54は、第1の通信ネットワーク1のECU11~13と同様に、車両に搭載された車載機器を制御する電子制御装置であり、コントローラ及び通信回路を備えている。ECU52~54は、接続されているセンサから、センサによる検知結果を示すセンサ情報を取得し、取得されたセンサ情報を含む制御情報が格納されたCANフレームを生成する。ECU52~54により生成されたCANフレームは、CANバス56を介してDM51へ送信される。また、各ECU52~54は、CANバス56を介してDM51からCANフレームを受信し、受信したCANフレームに格納されている制御情報に基づいてアクチュエータ等の車載機器を制御する。ECU52~54は、本発明の第1の電子制御装置及び第2の電子制御装置の一例に相当する。
【0020】
DM51は、CGW7とECU52~54との間での通信を中継する中継装置であり、第3の通信ネットワーク3のDM31と同様にコントローラ及び通信回路を備えている。DM51は、CANバス56を介して、ECU52~54とCANフレームの通信を行なう。また、DM51は、FDバス55を介して、CGW7とFDフレームの通信を行なう。DM51は、ECU52~54により生成されたCANフレームを第1の通信ネットワーク1又は第2の通信ネットワーク2へ送信する際には、FDフレームに少なくとも1つのCANフレームを格納してCGW7へ送信する。DM51は、本発明の中継装置の一例に相当する。
【0021】
第6の通信ネットワーク6は、DM61と、ECU62、ECU63及びECU64とを備える。DM61は、CAN FDの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるFDバス65を介してCGW7に接続されている。また、ECU62~64は、CANの通信プロトコルに従ってデータ通信が行われるCANバス66を介してDM61に接続されている。なお、第6の通信ネットワーク6のDM61、ECU62~64、FDバス65及びCANバス66は、第5の通信ネットワーク5のDM51、ECU52~54、FDバス55及びCANバス56と同様の構成を有するため、詳しい説明は省略する。
【0022】
CGW7は、第1~第6の通信ネットワーク1~6の間でデータフレームの中継を行う中継装置であり、DM31等と同様に、コントローラ及び通信回路を備えている。CGW7は、第1の通信ネットワーク1のCANバス14を介して、ECU11~13とCANフレームの通信を行なう。また、CGW7は、第2の通信ネットワーク2のCANバス24を介して、ECU21~23とCANフレームの通信を行なう。CGW7は、第3の通信ネットワーク3のFDバス35を介して、DM31とFDフレームの通信を行う。また、CGW7は、第4の通信ネットワーク4のFDバス45を介して、DM41とFDフレームの通信を行う。さらに、CGW7は、第5の通信ネットワーク5のFDバス55を介して、DM51とFDフレームの通信を行う。CGW7は、第6の通信ネットワーク6のFDバス65を介して、DM61とFDフレームの通信を行う。CGW7は、DM51又は61からCANフレームが格納されたFDフレームを受信した場合には、FDフレームからCANフレームを取得し、取得したCANフレームを第1の通信ネットワーク1のECU11~13、又は第2の通信ネットワーク2のECU21~23へ送信する。
【0023】
次に、CANフレームの構成について説明する。CANフレームは、図2に示すように、SOF(Start Of Frame)フィールドと、ID(Identifier)フィールドと、RTR(Remote Transmission Request)フィールドと、DLC(Data Length Code)フィールドと、データフィールドと、CRCフィールドと、ACKフィールドと、EOF(End of Frame)フィールド等によって構成される。図2の各フィールドに記載されている数値は、フィールドの各々を構成するビット数を示す。
【0024】
SOFフィールドは、CANフレームの先頭を示す。IDフィールドは、データフィールド内の格納データの種類を示す識別子であるCAN IDが格納されている。CAN IDは、メッセージIDとも称される。なお、CANでは、複数のECUが同時にCANフレームの送信を開始した場合、このCAN IDが小さい値を持つCANフレームの通信を優先する通信調停が行われる。DLCフィールドには、後続するデータフィールド内のデータのサイズを示す情報が格納される。CRCフィールドは、CANフレームの通信エラーの検出に利用される巡回冗長検査コードが格納される。
【0025】
データフィールドに格納されるデータの仕様については、CANの通信プロトコルでは規定されていない。本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWでは、データフィールド内に、ECUに接続されているセンサから取得したセンサ情報を含む制御情報CDと、誤り検出符号ECとが格納される。誤り検出符号ECは、制御情報CDの誤りを検出して訂正するための符号であり、本実施形態では、CANフレーム全体の誤り検出に用いられるCRCフィールドとは別に設けられている。誤り検出符号ECは、CANフレームを生成する各ECUによって、CAN IDと、制御情報CDとに基づいて算出される。なお、本実施形態のCANフレームは、本発明の第1のデータに相当し、CAN ID及びデータフィールドは、本発明の第1のデータID及び第1のペイロードに相当する。
【0026】
次に、FDフレームの構成について説明する。FDフレームは、図3に示すように、SOFフィールドと、IDフィールドと、EDL(Extended Data Length)フィールドと、BRS(Bit Rate Switch)フィールドと、ESI(Error State Indicator)フィールドと、DLCフィールドと、データフィールドと、CRCフィールドと、ACKフィールドと、EOFフィールド等によって構成される。図の各フィールドに記載されている数値は、フィールドの各々を構成するビット数を示す。FDフレームは、CANフレームにEDLビット、BRSビット及びESIビットが追加され、さらにデータフィールドが64バイトに拡張されている。また、IDフィールドには、データフィールド内の格納データの種類を示す識別子であるCAN FD IDが格納されている。
【0027】
FDフレームは、例えば、FDバスに接続されたECU間で通信される場合、データフィールド内に、CANフレームと同様に制御情報及び誤り検出符号が格納される。具体的には、例えば、第3の通信ネットワーク3のFDバス36に接続されたECU32~34によりFDフレームが生成され、第4の通信ネットワーク4のFDバス46に接続されたECU42~44に送信される場合には、FDフレームのデータフィールド内に、CANフレームと同様に制御情報及び誤り検出符号が格納される。この場合、CAN FD IDには、制御情報の種類を示すID、例えば、「001」が付与される。
【0028】
また、FDフレームは、例えば、CANバスに接続されたECUからFDバスを介してECUに送信される場合、データフィールド内に、少なくとも1つのCANフレームが格納される。具体的には、例えば、第1の通信ネットワーク1のCANバス14に接続されたECU11~13によりCANフレームが生成され、第5の通信ネットワーク5のECU52~54に送信される場合には、CGW7により、FDフレームのデータフィールド内に少なくとも1つのCANフレームが格納され、DM51に送信される。この場合、CAN FD IDには、データフレーム内にCANフレームが格納されていることを示すID、例えば、「002」が付与される。
【0029】
なお、CANフレームをFDバスに接続されたECUへ送信する際に、FDフレームのデータフィールドにCANフレームを格納して送信するのは、CANフレームに対し、CAN IDが付与し直されるのを防ぐためである。すなわち、従来の車載通信ネットワークシステムでは、CANフレームをFDフレームに変換してから送信し、送信先の通信ネットワークのDM等でFDフレームを再びCANフレームに変換していた。そして、FDフレームをCANフレームに変換する際に、最初とは異なるCAN IDが付与されることがあった。このように、CAN IDが付与し直されると、自動車用機能安全規格(ISO 26262)において、ハザードを評価する指標として利用されているASIL(Automotive Safety Integrity Level)の評価レベルが高くなり、中継処理への信頼性要求値が高くなってしまうという問題があった。本実施形態では、FDフレームにCANフレームを格納して送信するので、CAN IDが付与し直されることがないので、ASILの評価レベルの上昇を防ぐことが可能である。
【0030】
次に、図4シーケンスチャート及び図5の説明図を参照して、第1の通信ネットワーク1のECU11~13により生成されたCANフレームが、第5の通信ネットワーク5のECU52~54へ送信される手順について説明する。図4のステップS1にて示すように、第1の通信ネットワーク1のECU11~13は、センサからセンサ情報を取得し、例えば、CANフレームC1~CNを生成する。具体的には、ECU11~13は、取得したセンサ情報に基づいて、センサ情報を含む制御情報CDを生成し、センサ情報の種類等に基づいてCAN IDを設定する。図中、「100」、「200」は、CAN IDを示す。また、ECU11~13は、生成した制御情報CDと、設定したCAN IDとに基づいて、誤り検出符号ECを算出する。ECU11~13は、生成したCANフレームC1~CNのデータフィールドに、制御情報CDと、誤り検出符号ECとを格納し、CANバス14を介してCGW7へ生成したCANフレームC1~CNを送信する。
【0031】
CGW7は、CANバス14を介して第1の通信ネットワーク1からCANフレームC1~CNを受信し、ステップS2において、受信したCANフレームC1~CNがデータフィールドに格納されたFDフレームF1を生成する。具体的には、CGW7は、FDフレームF1に、データフィールドに少なくとも1つのCANフレームが格納されていることを示すCAN FD IDとして、「002」を付与する。また、CGW7は、CANフレームC1~CNの送信先のECUや、格納されている制御情報CDの種類、CANフレームC1~CNの送信周期等に基づいて、複数のCANフレームC1~CNをグループ分けし、グループ分けされた複数のCANフレーム毎にFDフレームF1を生成する。また、CGW7は、生成されたFDフレームF1を、第5の通信ネットワーク5のFDバス55を介してDM51へ送信する。
【0032】
制御情報CDの種類とは、制御情報CDが利用される制御内容が、共通又は関連することを言う。例えば、車両の加減速の制御に応じてCANフレームC1~CNをグループ分けする場合、エンジン等のパワートレインやブレーキ等の制御が共通又は関連する制御内容となり、これらの制御に利用される制御情報CD毎にCANフレームC1~CNがグループ分けされる。また、CANフレームC1~CNの送信周期とは、例えば、センサから取得されたセンサ情報が所定の時間間隔で送信される場合の送信周期を言い、送信周期が同じ又は近い制御情報CD毎にCANフレームC1~CNがグループ分けされる。このように、送信先のECUや、制御情報CDの種類、送信周期等に応じてCANフレームC1~CNをグループ分けして送信することにより、車載通信ネットワークシステムCNWの送信負荷を抑制することができる。また、関連する制御情報CDを一緒に送信することができるので、送信先のECUでの制御が適切、かつ効率よく行えるようになる。
【0033】
また、CGW7は、CANフレームC1~CNのそれぞれから、「CAN ID」と、「DLC」と、「制御情報」と、「誤り検出符号」のみを取得して、FDフレームF1のデータフィールドに格納する。「DLC」は、データフィールドに格納された複数のCANフレームC1~CNの区切りを判定するために利用される。このように、CANフレームC1~CNを構成する多数のデータのうち、送信先のECUで必要となるデータのみをFDフレームF1に格納して送信するので、車載通信ネットワークシステムCNWの送信負荷を抑制することができる。
【0034】
第5の通信ネットワーク5のDM51は、FDバス55を介してFDフレームF1を受信すると、CAN FD IDに基づいて、データフィールドに少なくとも1つのCANフレームが格納されていることを特定する。DM51は、ステップS3において、受信したFDフレームF1から、CANフレームC1~CNを取得する。上述したように、FDフレームF1のデータフィールドから複数のCANフレームC1~CNを取得する際には、「DLC」を利用してCANフレーム間の区切りを判定することができるので、複数のCANフレームC1~CNを適切に取得することができる。DM51は、取得した複数のCANフレームC1~CNを第5の通信ネットワーク5のCANバス56に送信する。
【0035】
第5の通信ネットワーク5のECU52~54は、CANフレームC1~CNのCAN IDに基づいて、車載機器の制御に必要なCANフレームC1~CNを受信する。また、ECU52~54は、ステップS4において、受信したCANフレームC1~CNの誤りを誤り検出符号ECに基づいて検出し、訂正する。さらに、ECU52~54は、ステップS5において、受信したCANフレームC1~CNの制御信号CDに基づいて、車載機器を制御する。
【0036】
以上で説明したように、本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWによれば、第1の通信ネットワーク1と、第1の通信ネットワーク1とは異なる通信プロトコルが利用される第5の通信ネットワーク5とに接続されたCGW7であって、第1の通信ネットワーク1から第5の通信ネットワークへCANフレームを送信する際に、制御情報CDが格納されたデータフィールドと、制御情報CDを識別するためのCAN IDと、制御情報CD及びCAN IDに基づいて算出され、データフィールドに格納された誤り検出符号ECとを備えるCANフレームを、第1の通信ネットワーク1から受信し、CANフレームが格納されたデータフィールドと、このデータフィールドにCANフレームが格納されていることを示すCAN FD IDとを備えるFDフレームを生成し、生成されたFDフレームを第5の通信ネットワーク5へ送信している。これにより、FDフレームに格納されているCANフレームのそれぞれが、CAN IDと制御情報CDとに基づいて算出された誤り検出符号ECを備えているので、CANフレーム毎に誤り検出を行なうことができ、適切な車両の制御を行うことができる。また、CANフレームのCAN IDが付与し直されることはないので、ASILの評価レベルの上昇を防ぐことが可能である。
【0037】
また、本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWによれば、CANフレームは、第5の通信ネットワーク5における送信先ECU、CANフレームに格納されている制御情報CDの種類、又は第1の通信ネットワーク1からのCANフレームの送信周期に基づいてグループ分けされ、グループ分けされた複数のCANフレーム毎にFDフレームに格納される。これにより、車載通信ネットワークシステムCNWの送信負荷を抑制することができる。また、関連する制御信号CDを一緒に送信することができるので、送信先のECUでの制御が適切、かつ効率よく行えるようになる。
【0038】
また、本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWによれば、CANフレームは、制御情報CDのサイズに関する情報を含んでいるので、FDフレームからCANフレームを取得する際に、各CANフレームを精度よく分離して取得することができる。
【0039】
また、本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWによれば、CAN FDを利用する第5の通信ネットワーク5は、CANを利用する第1の通信ネットワーク1よりも単位時間当たりのデータ通信量が大きいため、FDフレームに複数のCANフレームを格納しても、通信負荷が大きくなったり、通信速度が低下するようなことはない。
【0040】
また、本実施形態に係る車載通信ネットワークシステムCNWによれば、第1の通信ネットワーク1に接続されたECU11~13と、第1の通信ネットワーク1とは異なる通信プロトコルが利用される第5の通信ネットワーク5に接続されたECU52~5と、第1の通信ネットワーク1と、第5の通信ネットワーク5とに接続されたCGW7とを備えている。また、第1の通信ネットワーク1のECU11~13は、第5の通信ネットワーク5へ送信される制御情報CDが格納されたデータフィールドと、制御情報CDを識別するためのCAN IDと、制御情報CD及びCAN IDに基づいて算出され、データフィールドに格納された誤り検出符号ECとを備える第1のデータを生成し、生成されたCANフレームを第1の通信ネットワーク1へ送信する。CGW7は、第1の通信ネットワーク1からCANフレームを受信し、CANフレームが格納されたデータフィールドと、データフィールドにCANフレームが格納されていることを示すCAN FD IDとを備えるFDフレームを生成し、生成されたFDフレームを第5の通信ネットワーク5送信する。第5の通信ネットワーク5のECU52~54は、第5の通信ネットワーク5からFDフレームを受信し、FDフレームからCANフレームを取得し、取得されたCANフレームの誤り検出符号ECに基づいて、CANフレームの誤り検出を行なう。これにより、FDフレームに格納されているCANフレームのそれぞれが、CAN IDと制御情報CDとに基づいて算出された誤り検出符号ECを備えているので、CANフレーム毎に誤り検出を行なうことができ、適切な車両の制御を行うことができる。また、CANフレームのCAN IDが付与し直されることはないので、ASILの評価レベルの上昇を防ぐことが可能である。
【0041】
なお、第1の通信ネットワーク1から第5の通信ネットワーク5又は第6の通信ネットワーク6へCANフレームを送信する場合に、CGW7によりCANフレームが格納されたFDフレームを生成するようにしたが、CGW7と同様に中継装置としての機能を利用するDMを利用してもよい。例えば、第5の通信ネットワーク5から第6の通信ネットワーク6へCANフレームを送信する場合には、DM51によってCANフレームが格納されたFDフレームを生成してもよい。
【0042】
上記の実施形態では、CANフレームが格納されたFDフレームを1つの通信ネットワークから他の1つの通信ネットワークへ送信する例について説明したが、1つの通信ネットワークから他の複数の通信ネットワークへ送信することも可能である。以下では、例えば、第3の通信ネットワーク3のECU32から、第5の通信ネットワーク5のECU52と、第6の通信ネットワーク6のECU62へ、制御情報をCANフレームによって送信する場合について説明する。
【0043】
図7に示すように、第3の通信ネットワーク3のECU32は、接続されているセンサから取得したセンサ情報に基づいて、ECU52に送信される制御情報CD1と、ECU62に送信される制御情報CD2とを生成する。また、ECU32は、制御情報CD1がデータフィールドに格納されたCANフレームC1と、制御情報CD2がデータフィールドに格納されたCANフレームC2とを生成する。なお、CANフレームC1には、制御情報CD1の種類を示すCAN ID「10」が付与されている。また、CANフレームC1のデータフィールドには、制御情報CD1とCAN ID「101」とに基づいて算出された誤り検出符号EC1が格納されている。CANフレームC2には、制御情報CD2の種類を示すCAN ID「102」が付与されている。また、CANフレームC2のデータフィールドには、制御情報CD2とCAN ID「102」とに基づいて算出された誤り検出符号EC2が格納されている。ECU32は、生成したCANフレームC1及びC2を、FDバス36を介してDM31に送信する。
【0044】
DM31は、CANバス36を介してCANフレームC1及びC2を受信する。DM31は、CANフレームC1から「CAN ID101」と、「DLC」と、「制御情報CD1」と、「誤り検出符号EC1」のみを取得し、CANフレームC2から「CAN ID102」と、「DLC」と、「制御情報CD2」と、「誤り検出符号EC2」のみを取得し、これらがデータフィールドに格納されたFDフレームF1を生成する。DM31は、生成したFDフレームF1を、FDバス35を介してCGW7へ送信する。
【0045】
CGW7は、CANバス35を介してFDフレームF1を受信する。CGW7は、受信したFDフレームF1を、第5の通信ネットワーク5のFDバス55を介してDM51に送信し、第6の通信ネットワーク6のFDバス65を介してDM61に送信する。DM51は、受信したFDフレームF1からCANフレームC1を取得し、CANバス56を介してECU52へ送信する。また、DM61は、受信したFDフレームF1からCANフレームC2を取得し、CANバス66を介してECU62へ送信する。このように、本実施形態の車載通信ネットワークシステムCNWは、CANフレームが格納されたFDフレームを1つの通信ネットワークから他の複数の通信ネットワークへ送信することができる。も可能である。
【0046】
また、第1実施形態では、第1の通信ネットワークがCANであり、第2の通信ネットワークがCAN FDである場合について説明したが、第1の通信ネットワークをCAN又はCAN FDとし、第2の通信ネットワークを、CANやCAN FDよりも単位時間当たりのデータ通信量が大きなEthernet(登録商標)としてもよい。この場合、図6に示すEthernetのデータフレーム(以下、Ethernetフレームともいう)E1のペイロード内に、少なくとも1つのCANフレーム、又は少なくとも1つのFDフレーム、あるいは少なくとも1つのCANフレームが格納された少なくとも1つのFDフレームが格納して送信される。このように、CAN、CAN FDとともに、Ethernetが混在しているような通信ネットワークシステムにおいても、CANフレーム又はFDフレームのIDが付与し直されることはないので、ASILの評価レベルの上昇を防ぐことが可能である。
【符号の説明】
【0047】
CNW…車載通信ネットワークシステム
1…第1の通信ネットワーク
11~13…ECU(Electronic Control Unit)
2…第2の通信ネットワーク
21~23…ECU
3…第3の通信ネットワーク
31…DM(Domain Master)
32~34…ECU
35、36…FDバス
4…第4の通信ネットワーク
41…DM
42~44…ECU
45、46…FDバス
5…第5の通信ネットワーク
51…DM
52~54…ECU
55…FDバス
56…CANバス
6…第6の通信ネットワーク
61…DM
62~64…ECU
65…FDバス
66…CANバス
7…CGW(Central Gateway)
C1~CN…CANフレーム
F1…FDフレーム
E1…Ethernetフレーム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7