(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 7/00 20060101AFI20221004BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20221004BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20221004BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221004BHJP
B60C 9/04 20060101ALI20221004BHJP
B60C 13/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
B60C1/00 B
B60C9/04 D
B60C13/00 E
(21)【出願番号】P 2022506258
(86)(22)【出願日】2021-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2021041110
【審査請求日】2022-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2020194221
(32)【優先日】2020-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】野口 侑利
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/183008(WO,A1)
【文献】特開2016-060789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプレン成分を含有する第一の共役ジエン系共重合体20質量%~60質量%と、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを含有する第二の共役ジエン系共重合体40質量%~80質量%とを含む共役ジエン系共重合体100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が
79m
2
/g未満であるカーボンブラックを30質量部以上配合したタイヤ用ゴム組成物であって、
前記シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンは、結晶化成分の含有率が90%以上、融点が130℃以下、ガラス転移温度Tgが-20℃以上であり、
前記第二の共役ジエン系共重合体中の結晶化成分の含有率が30質量%以下であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部と、前記一対のビード部間に装架されたカーカス層とを備えたタイヤであって、前記サイドウォール部における前記カーカス層の外側に配置されたサイドゴム層に請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項3】
前記サイドゴム層の60℃におけるtanδをTsとし、前記カーカス層においてカーカスコードを被覆するコートゴムの60℃におけるtanδをTcとしたとき、これらの比Tc/TsがTc/Ts>1.0の関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記比Tc/TsがTc/Ts>1.5の関係を満たすことを特徴とする請求項3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記サイドゴム層の23℃における300%モジュラスをMsとし、前記カーカス層においてカーカスコードを被覆するコートゴムの23℃における300%モジュラスをMcとしたとき、これらの比Mc/MsがMc/Ms>1.5の関係を満たすことを特徴とする請求項2~4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記比Mc/MsがMc/Ms>1.75の関係を満たすことを特徴とする請求項5に記載のタイヤ。
【請求項7】
請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法であって、前記第一の共役ジエン系共重合体の全量と前記第二の共役ジエン系共重合体の一部と前記カーボンブラックとを混練する第一の混練工程と、前記第一の混練工程で得られた混練物に前記第二の共役ジエン系共重合体の残量のみを投入・混練する第二の混練工程とを含むことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物の製造方法であって、前記第一の共役ジエン系共重合体と前記カーボンブラックとを混練する第一の混練工程と、前記第一の混練工程で得られた混練物に前記第二の共役ジエン系共重合体を投入・混練する第二の混練工程とを含むことを特徴とするタイヤ用ゴム組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主としてタイヤのサイドウォール部に使用することを意図したタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
トラック・バス用タイヤは、乗用車用タイヤに比べ、タイヤに負荷される荷重が大きいため、サイドウォール部において繰り返し曲げによる疲労が大きい傾向がある。また、突き刺しなどの外傷を受ける頻度も多い傾向がある。そのため、サイドウォール部において硬度や伸びをバランスよく確保して、外傷や繰り返し曲げによる疲労に対する耐久性を確保することが求められている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
一方で、近年、環境保全意識の高まりから、トラック・バス用タイヤにおいても、タイヤの転がり抵抗を小さくして車両の燃費性能を向上させることが求められている。転がり抵抗の低減(低発熱化)を図る方法として、例えば、加硫剤の配合量を増加することや、カーボンブラックの配合量を低減することが知られているが、前者では伸び特性を良好に維持することが難しく、後者では十分な硬度を確保することが難しく、これら性能を両立することは困難であった。そのため、サイドウォール部において硬度や伸びをバランスよく確保して優れた耐久性を発揮しながら、低発熱化を図るための対策が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、サイドウォール部における硬度および伸びをバランスよく確保しながら低発熱化を図り、これら性能を高度に両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、イソプレン成分を含有する第一の共役ジエン系共重合体20質量%~60質量%と、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを含有する第二の共役ジエン系共重合体40質量%~80質量%とを含む共役ジエン系共重合体100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が79m
2
/g未満であるカーボンブラックを30質量部以上配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンは、結晶化成分の含有率が90%以上、融点が130℃以下、ガラス転移温度Tgが-20℃以上であり、前記第二の共役ジエン系共重合体中の結晶化成分の含有率が30質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のように、特定の共役ジエン系共重合体(第一および第二の共役ジエン系共重合体)と特定のカーボンブラックをそれぞれ適量配合することで、硬度および伸びをバランスよく確保しながら低発熱化を図り、これら性能を高度に両立することができる。特に、結晶化成分の含有率が90%以上、融点が130℃以下、ガラス転移温度Tgが-20℃以上という特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを使用し、且つ、第二の共役ジエン系共重合体中のシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの含有率を適度な範囲に設定しているので、硬度および伸びを良好に維持しながら、低発熱化を達成することができる。また、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの含有量が適度な範囲に保たれているので分散が良好になり、硬度を悪化させることなくタイヤの耐久性(耐摩耗性)を確保することができる。
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ外径方向内側に配置された一対のビード部と、一対のビード部間に装架されたカーカス層とを備えたタイヤの、サイドウォール部におけるカーカス層の外側に配置されたサイドゴム層に好適に用いることができる。即ち、タイヤのサイドウォール部は繰り返し曲げによる疲労が大きく、且つ、突き刺しなどの外傷を受ける頻度も多い傾向があるので、サイドウォール部(サイドゴム層)に、硬度および伸びに優れる本発明のゴム組成物を用いることで、タイヤの耐久性を向上することができる。また、本発明のゴム組成物は上述のように低発熱性にも優れるので、タイヤの低発熱化(低燃費化)も達成することができる。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤにおいて、サイドゴム層の60℃におけるtanδをTsとし、カーカス層においてカーカスコードを被覆するコートゴムの60℃におけるtanδをTcとしたとき、これらの比Tc/TsがTc/Ts>1.0の関係を満たすことが好ましい。特に、比Tc/TsがTc/Ts>1.5の関係を満たすことが好ましい。これにより、サイドゴム層の発熱性を、カーカス層(コートゴム)の発熱性よりも十分に小さくすることができるので、タイヤの転がり抵抗を低減して低燃費化を達成するには有利になる。尚、「60℃におけるtanδ」は、JIS K6394に準拠して、製粘弾性スペクトロメータを用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で測定するものとする。
【0010】
更に、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤにおいて、サイドゴム層の23℃における300%モジュラスをMsとし、カーカス層においてカーカスコードを被覆するコートゴムの23℃における300%モジュラスをMcとしたとき、これらの比Mc/MsがMc/Ms>1.5の関係を満たすことが好ましい。特に、比Mc/MsがMc/Ms>1.75の関係を満たすことが好ましい。これにより、サイドゴム層のモジュラスを、カーカス層(コートゴム)のモジュラスよりも十分に小さくすることができるので、タイヤの走行時のトルククラックの発生を低減し、タイヤ耐久性向上を達成するには有利になる。尚、「23℃における300%モジュラス」は、JIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を用い、JIS K6251に準拠し、温度23℃、引張り速度500mm/分の条件で測定するものとする。
【0011】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであってもよい。空気入りタイヤの場合は、その内部に空気、窒素等の不活性ガスまたはその他の気体を充填することができる。
【0012】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を製造するための製造方法は、例えば、第一の共役ジエン系共重合体の全量と第二の共役ジエン系共重合体の一部とカーボンブラックとを混練する第一の混練工程と、第一の混練工程で得られた混練物に第二の共役ジエン系共重合体の残量のみを投入・混練する第二の混練工程とを含むことが好ましい。或いは、第一の共役ジエン系共重合体とカーボンブラックとを混練する第一の混練工程と、第一の混練工程で得られた混練物に第二の共役ジエン系共重合体を投入・混練する第二の混練工程とを含むことが好ましい。このような順序で第一および第二の共役ジエン系共重合体とカーボンブラックを混練することで、カーボンブラックを第一の共役ジエン系共重合体に優先的に取り込ませる制御をし、低発熱化を達成しながら第二共役ジエン系共重合体の耐疲労性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いる空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1に示すように、後述の本発明のタイヤ用ゴム組成物を適用できる空気入りタイヤは、トレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。
図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。尚、
図1は子午線断面図であるため描写されないが、トレッド部1、サイドウォール部2、ビード部3は、それぞれタイヤ周方向に延在して環状を成しており、これにより空気入りタイヤのトロイダル状の基本構造が構成される。以下、
図1を用いた説明は基本的に図示の子午線断面形状に基づくが、各タイヤ構成部材はいずれもタイヤ周方向に延在して環状を成すものである。
【0016】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コード(カーカスコード)をコートゴムで被覆することで構成され、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。
【0017】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図示の例では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、タイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コード(ベルトコード)を含む。この補強コードは層間で補強コードどうしが互いに交差するように配列されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~60°の範囲に設定されている。尚、図示の例では、ベルト層7のみが設けられているが、更に、ベルト層7の外周側にベルト補強層(不図示)を設けることもできる。
【0018】
トレッド部1におけるカーカス層4の外周側にはトレッドゴム層11が配され、サイドウォール部2におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはサイドゴム層12が配され、ビード部3におけるカーカス層4の外周側(タイヤ幅方向外側)にはリムクッションゴム層13が配されている。トレッドゴム層11は、図示の例のように、トレッド部1の表面に露出するキャップトレッド11Aと、このキャップトレッド11Aの径方向内側に埋設されるアンダートレッド11Bとからなる2層構造を有していてもよい。
【0019】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記のような構造のタイヤにおけるサイドゴム層12に好適に使用されるものである。即ち、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、後述のように、硬度および伸びに優れ、且つ低発熱性に優れるので、繰り返し曲げによる疲労が大きく、且つ、突き刺しなどの外傷を受ける頻度も多い傾向があるサイドウォール部2(サイドゴム層12)に用いることでタイヤの耐久性の向上と低発熱化(低燃費化)を達成することができる。
【0020】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、主成分は共役ジエン系共重合体である。特に、本発明では、イソプレン成分を有する第一の共役ジエン系共重合体と、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを有する第二の共役ジエン系共重合体とを必ず含む。
【0021】
第一の共役ジエン系共重合体は、上述のようにイソプレン成分を含有していれば特に限定されない。イソプレン成分を有する第一の共役ジエン系共重合体としては、天然ゴム、イソプレンゴム等を例示することができる。共役ジエン系共重合体全体に占める第一の共役ジエン系共重合体の割合は20質量%~60質量%、好ましくは30質量%~55質量%である。このように第一の共役ジエン系共重合体の配合量を適度な範囲にすることで、突き刺しに起因する亀裂の発生を抑制する効果を向上することができる。共役ジエン系共重合体全体に占める第一の共役ジエン系共重合体の割合が20質量%未満であると破断強度が低下する。共役ジエン系共重合体全体に占める第一の共役ジエン系共重合体の割合が60質量%を超えると耐屈曲疲労性が低下する。
【0022】
第二の共役ジエン系共重合体は、上述のようにシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを含有する。シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンは、結晶性が高い共役ジエン系共重合体であり、第二の共役ジエン系共重合体においては、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの結晶化成分が相溶している。尚、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの結晶化成分とは、主として、1,2‐結合、即ちビニル結合成分である。このとき、第二の共役ジエン系共重合体中に含まれる結晶化成分の含有率は30質量%以下、好ましくは5質量%~20質量%である。このように、結晶化成分の含有率を適度に含む第二の共役ジエン系共重合体を配合することで、ゴム組成物の硬度と伸びを大きくすることができる。その結果、タイヤのサイドウォール部2(サイドゴム層12)として好適な性能(外傷や繰り返し曲げによる疲労に対する耐久性)を確保することができる。第二の共役ジエン系共重合体中の結晶化成分の含有率が30質量%を超えると、ゴム組成物が硬くなり過ぎて、サイドウォール部2(サイドゴム層12)として好適な繰り返し曲げによる疲労に対する耐久性を確保できなくなる虞がある。
【0023】
本発明では、第二の共役ジエン系共重合体として上述の結晶化成分の含有率を満たす単一の材料を用いるのではなく、複数の材料で上述の結晶化成分の含有率を達成する。特に、本発明では、結晶化成分の含有率が90%以上、融点が130℃以下、ガラス転移温度Tgが-20℃以上という特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを用いる。このような特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンとしては、市販のものを使用することができ、例えばJSR社製AT300(結晶化成分の含有率:93%、融点:105℃、ガラス転移温度Tg:-10℃)、JSR社製AT400(結晶化成分の含有率:94%、融点:126℃、ガラス転移温度Tg:-2℃)を例示することができる。このような特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンは、硬度および伸びを良好に確保し、且つ、ゴム組成物の低発熱性を改善することができる。結晶化成分の含有率が90%未満であると硬度は上昇するが、破断特性が悪化する。融点が130℃を超えると混合時に共役重合体同士の相溶性が低下する。ガラス転移温度Tgが-20℃未満であると硬度維持に必要な結晶化成分の含有率が低下する。尚、本発明で使用されるシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンにおいて、結晶化成分の含有率は好ましくは91%~96%であるとよく、融点は92℃~95℃であるとよく、ガラス転移温度Tgは-18℃~+5℃であるとよい。尚、本発明において、結晶化成分の含有率はフーリエ変換赤外分光法で得られたスペクトルの強度によって算出した値である。ガラス転移温度Tgおよび融点は示差走査熱量測定により測定した値である。
【0024】
尚、第二の共役ジエン系共重合体の全量が上述の特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンであると、上述の結晶化成分の含有率30質量%以下という条件を満たさない。即ち、本発明では、第二の共役ジエン系共重合体は、上述の特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエン以外に、他のポリブタジエン(例えば、ポリブタジエンゴム)を含む。他のポリブタジエン中にもシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンが含まれる場合は、結晶化成分の含有率は、上述のシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンに含まれる結晶と、他のポリブタジエンに含まれる結晶化成分の総量を、第二の共役ジエン系共重合体の配合量(上述のシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの配合量と、他のポリブタジエンの配合量の合計)で除することで算出される。
【0025】
共役ジエン系共重合体全体に占める第二の共役ジエン系共重合体の割合は40質量%~80質量%、好ましくは45質量%~70質量%である。このように第二の共役ジエン系共重合体の配合量を適度な範囲にすることで、ゴム組成物の硬度と伸びを大きくするには有利になる。共役ジエン系共重合体全体に占める第二の共役ジエン系共重合体の割合が40質量%未満であると繰り返し曲げによる疲労に対する耐久性が低下する。共役ジエン系共重合体全体に占める第二の共役ジエン系共重合体の割合が80質量%を超えると破断強度が低下する。
【0026】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の第一の共役ジエン系共重合体および第二の共役ジエン系共重合体以外に、他の共役ジエン系共重合体を含有することができる。他の共役ジエン系共重合体としては、上述の第一の共役ジエン系共重合体(天然ゴムやイソプレンゴム)および第二の共役ジエン系共重合体(ブタジエンゴムや上述のシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエン)を除き、タイヤ用ゴム組成物に一般的に使用可能なゴムを用いることができる。例えば、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴムやクロロプレンゴム等を例示することができる。これら他の共役ジエン系共重合体は、本発明のゴム組成物の目的を損なわない限り、単独または任意のブレンドとして使用することができる。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の共役ジエン系共重合体に対して、カーボンブラックが必ず配合される。このようにカーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の強度を高めることができる。特に、本発明で使用するカーボンブラックは、CTAB吸着比表面積が100m2/g以下、好ましくは30m2/g~90m2/gである。このように特定の粒径のカーボンブラックを配合することで、発熱性を低く維持しながら、ゴム硬度を効果的に高めることができる。カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が100m2/gを超えると発熱性が悪化する。尚、本発明において、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積は、JIS6217‐3に準拠して測定するものとする。
【0028】
カーボンブラックの配合量は、上述の共役ジエン系共重合体100質量部に対して、30質量部以上、好ましくは40質量部~60質量部である。このように十分な量のカーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の強度を効果的に高めることができる。カーボンブラックの配合量が30質量部未満であると硬度が低下し、タイヤの耐久性を十分に確保することが難しくなる。
【0029】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、加硫または架橋剤、加硫促進剤、カーボンブラック以外の他の無機充填剤(例えばシリカ、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等)、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を、本発明の目的を阻害しない範囲内で配合することができる。またこれら添加剤は一般的な方法で混練してゴム組成物とし、加硫または架橋するのに使用することができる。これら添加剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。タイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0030】
前述のように、本発明のタイヤ用ゴム組成物は一般的な方法で混練することができるが、より効果的に低発熱化を図るために、本発明では以下の製造方法を採用することが好ましい。一般的にタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、大まかに、ジエン系ゴム(共役ジエン系共重合体)、カーボンブラック、および加硫系配合剤を除く各種配合剤を混練する工程と、この工程で得られた混練物を冷却してから加硫系配合剤を混合する工程の少なくとも2つの工程からなる。このうち前者の工程(加硫系配合剤を混合する前の工程)において、本発明のタイヤ用ゴム組成物に必ず配合される第一の共役ジエン系共重合体、第二の共役ジエン系共重合体、およびカーボンブラックが混錬される。この前者の工程において、(a)第一の共役ジエン系共重合体の全量と第二の共役ジエン系共重合体の一部とカーボンブラックとを混練する第一の混練工程と、第一の混練工程で得られた混練物に第二の共役ジエン系共重合体の残量のみを投入・混練する第二の混練工程とを含むようにするか、或いは、(b)第一の共役ジエン系共重合体とカーボンブラックとを混練する第一の混練工程と、第一の混練工程で得られた混練物に第二の共役ジエン系共重合体を投入・混練する第二の混練工程とを含むようにすることが好ましい。いずれの場合も第二の共役ジエン系共重合体の少なくとも一部が第二の混練工程で投入・混練される。このような順序で第一および第二の共役ジエン系共重合体とカーボンブラックを混練することで、いずれの場合も第二の共役ジエン系共重合体の少なくとも一部は後から投入・混練されるので、カーボンブラックを第一の共役ジエン系共重合体に優先的に取り込ませる制御をすることができ、低発熱化を達成しながら第二共役ジエン系共重合体の耐疲労性を向上することができる。
【0031】
前述の方法のうち、前記(a)のように第二の共役ジエン系共重合体が2回に分けて投入される場合、第一の混練工程で投入される第二の共役ジエン系共重合体は、本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合される第二の共役ジエン系共重合体の全量の0質量%超20質量%以下、第二の混練工程で投入される第二の共役ジエン系共重合体は、本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合される第二の共役ジエン系共重合体の全量の20質量%以上100質量%未満であるとよい。このように、第一および第二の混練工程で投入される第二の共役ジエン系共重合体の量を設定することで、低発熱化を達成しながら耐疲労性を向上するには有利になる。尚、前述の(b)の場合は、第二の共役ジエン系重合体の全量が第二の工程で投入されるので、上述の表現に合わせると、第一の混練工程で投入される第二の共役ジエン系共重合体は、本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合される第二の共役ジエン系共重合体の全量の0質量%、第二の混練工程で投入される第二の共役ジエン系共重合体は、本発明のタイヤ用ゴム組成物に配合される第二の共役ジエン系共重合体の全量の100質量%となる。
【0032】
前述のように、本発明における第二の共役ジエン系共重合体は、単一の材料ではなく、複数の材料(上述の特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンや他のポリブタジエン等)を含み得る。第二の共役ジエン系共重合体が複数の材料を含み、且つ、前記(a)のように第二の共役ジエン系共重合体が2回に分けて投入される場合は、上述の特性を有するシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを第二の混合工程で一部または全量、好ましくは全量を投入すると良い。このように第二の共役ジエン系共重合体に含まれるシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを投入する段階を設定することで、低発熱化を達成しながら耐疲労性を向上するには有利になる。
【0033】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のように、タイヤのサイドウォール部2(サイドゴム層12)に好適に用いることができる。本発明のタイヤ用ゴム組成物をサイドウォール部2(サイドゴム層12)に用いたタイヤは、本発明のタイヤ用ゴム組成物の優れた物性(硬度、伸び、および低発熱性)によって、繰り返し曲げによる疲労や突き刺しなどの外傷に対する耐久性を向上し、且つ、低発熱化(低燃費化)を達成することができる。
【0034】
本発明のタイヤ用ゴム組成物を、タイヤにおけるサイドウォール部2(サイドゴム層12)に使用する場合、カーカス層4を構成するカーカスコードを被覆するコートゴム(以下、カーカスコートゴムという)に対して、発熱性を十分に小さくすることが好ましい。具体的には、サイドゴム層12の60℃におけるtanδをTsとし、カーカスコートゴムの60℃におけるtanδをTcとしたとき、これらの比Tc/Tsが好ましくはTc/Ts>1.0の関係を満たし、より好ましくはTc/Ts>1.5の関係を満たすとよい。これにより、サイドゴム層12の発熱性を、カーカスコートゴムの発熱性よりも十分に小さくすることができるので、タイヤの転がり抵抗を低減して低燃費化を達成するには有利になる。比Tc/Ts1.0以下であると、サイドゴム層12とカーカスコートゴムの発熱性が実質的に同等になるため、タイヤの転がり抵抗を低減する効果が十分に得られなくなる。
【0035】
また、本発明のタイヤ用ゴム組成物を、タイヤにおけるサイドウォール部2(サイドゴム層12)に使用する場合、カーカス層4を構成するカーカスコードを被覆するコートゴム(以下、カーカスコートゴムという)に対して、モジュラスを適度に低くすることが好ましい。具体的には、サイドゴム層12の23℃における300%モジュラスをMsとし、カーカスコートゴムの23℃における300%モジュラスをMcとしたとき、これらの比Mc/MsがMc/Ms>1.5を満たし、より好ましくはMc/Ms>1.75、更に好ましくはMc/Ms>2.0の関係を満たすとよい。これにより、サイドゴム層のモジュラスを、カーカス層(コートゴム)のモジュラスよりも十分に小さくすることができるので、タイヤの発車時のトルククラックの発生を低減し、タイヤ耐久性向上を達成するには有利になる。比Mc/Ms1.5以下であると、サイドゴム層12とカーカスコートゴムのモジュラスが同等に近づくため、タイヤのトルクを緩和できずにクラックの発生抑制効果が十分に得られなくなる。
【0036】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
表1に示す配合からなる16種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~9)を調製するにあたり、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、16種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0038】
得られたタイヤ用ゴム組成物を用いて、所定形状の金型を用いて145℃、35分間加硫し、各タイヤ用ゴム組成物からなる加硫ゴム試験片を作成した。
【0039】
表1に記載される「Tc/Ts」は、サイドゴム層の60℃におけるtanδ(Ts)とカーカスコートゴムの60℃におけるtanδ(Tc)との比である。カーカスコートゴムは、表2に示す配合からなり、上述の本発明のタイヤ用ゴム組成物と同様の方法で調製し、且つ、加硫ゴム試験片を作成した。TsおよびTcは、各ゴム組成物の加硫ゴム試験片を用いて、JIS K6394に準拠して、製粘弾性スペクトロメータを用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件で測定した。
【0040】
表1に記載される「Mc/Ms」は、サイドゴム層の23℃における300%モジュラス(Ms)とカーカスコートゴムの23℃における300%モジュラス(Mc)との比である。カーカスコートゴムは、表2に示す配合からなり、上述の本発明のタイヤ用ゴム組成物と同様の方法で調製し、且つ、加硫ゴム試験片を作成した。MsおよびMcは、各ゴム組成物の加硫ゴム試験片を用いて、JIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を用い、JIS K6251に準拠し、温度23℃、引張り速度500mm/分の条件で測定した。
【0041】
得られたタイヤ用ゴム組成物(加硫ゴム試験片)について、下記に示す方法により、硬度、伸び、低発熱性、タイヤ耐久性の評価を行った。
【0042】
硬度
各加硫ゴム試験片の硬度を、JIS K6253に準拠して、温度20℃の条件で、デュロメータのタイプAにより測定した。評価結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど高硬度であることを意味する。尚、この指数値が「95」以上であれば、空気入りタイヤのサイドゴムとして十分な硬度が得られたことを意味し、「100」以上であると標準例1以上の硬度が確保できておりサイドゴムとしてより好適であることを意味する。
【0043】
伸び
各加硫ゴム試験片からJIS K6251に準拠してJIS3号ダンベル型試験片(厚さ2mm)を切り出し、この試験片の引張り破断伸びを、JIS K6251に準拠し、温度23℃、引張り速度500mm/分の条件で測定した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、引張り破断伸びが大きく、伸び特性が良好であることを意味する。
【0044】
低発熱性
各加硫ゴム試験片について、JIS K6394に準拠して、製粘弾性スペクトロメータを用いて、伸張変形歪率10%±2%、振動数20Hz、温度60℃の条件でtanδを測定し、低発熱性の指標とした。評価結果は、測定値の逆数を用いて、標準例1の値を100とする指数で示した。この指数値が大きいほど、転がり抵抗が小さく、低発熱性に優れることを意味する。
【0045】
タイヤ耐久性
表1に示す配合からなる16種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例1、比較例1~6、実施例1~9)をそれぞれサイドゴムに使用し、
図1に示す基本構造を有し、タイヤサイズが275/80R22.5 151/148Jである空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造した。このとき、カーカス層を構成するカーカスコートゴムは、表1の「カーカスコートゴムの種類」の欄に示すもの(表2に示す配合からなるカーカスコートゴムAまたはB)を使用した。また、カーカス層およびサイドゴム以外の各部の条件は、すべての試験タイヤで共通とした。これら試験タイヤについて、下記2通りの耐久性試験を行い、その総合評価を「タイヤ耐久性」として表1に示した。
・耐久性試験1:各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、空気圧をフロント900kPa、リヤ900kPaに調整し、排気量12770ccの試験車両(トラクタヘッド)に装着し、舗装路面上を走行させ、時速15km/hの加速時に進入角度25°~35°で縁石(高さ100mm)に乗り上げた際のサイドウォール部の傷(サイドカット)の深さ(各試験タイヤにつき3回ずつ試験を行った平均値)を測定した。耐久性試験1は、標準例1の逆数を100とする指数で評価した。
・耐久性試験2:上記試験車両で10万kmの市場走行を行った後、更に、ドラム試験機(ドラム径1707mm)を用いて速度50km/hの条件でタイヤに故障が生じるまで走行試験を行い、故障が生じるまでの走行距離を計測した。耐久性試験2は、標準例1の測定値を100とする指数で評価した。
・総合評価:上述の耐久性試験1および2において、指数値が標準例1に対して10%以上向上している場合を「良」、指数値が標準例1に対して10%以上低下している場合「不可」、標準例1に対する指数値の向上/低下が10%未満である場合を「可」とする3段階で評価を行った。
【0046】
【0047】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・BR:ブタジエンゴム、宇部興産社製 BR150(結晶化成分の含有率:1%未満、ガラス転移温度Tg:-105℃)
・VCR:シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを含むブタジエンゴム、宇部興産社製 UBEPOL VCR412(結晶化成分の含有率:12%、ガラス転移温度Tg:-104℃)
・AT300:JSR社製 AT300(結晶化成分の含有率:93%、融点:105℃、ガラス転移温度Tg:-10℃)
・CB1:東海カーボン社製 シースト3(CTAB吸着比表面積:79m2/g)
・CB2:東海カーボン社製 シーストSO(CTAB吸着比表面積:42m2/g)
・オイル:出光興産社製 NH‐70S
・ワックス:日本精蝋社製 OZOACE‐0015A
・老化防止剤:大内新興化学工業社製 ノクラック6C
・酸化亜鉛:正道化同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日新理化社製 工業用ステアリン酸50S
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:三新化学工業社製 サンセラーNS‐G
【0048】
【0049】
表2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、TSR20
・CB1:東海カーボン社製 シースト3(CTAB吸着比表面積:79m2/g)
・有機酸コバルト塩:DIC株式会社製 ネオデカン酸ホウ酸コバルト(尚、表の数値はCo量である。)
・ワックス:日本精蝋社製 OZOACE‐0015A
・老化防止剤:大内新興化学工業社製 ノクラック6C
・酸化亜鉛:正道化同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:日新理化社製 工業用ステアリン酸50S
・硫黄:鶴見化学工業社製 金華印油入微粉硫黄
・加硫促進剤:三新化学工業社製 サンセラーNS‐G
【0050】
表1から明らかなように、実施例1~9のタイヤ用ゴム組成物は、標準例1と同等以上の硬度および伸びを確保しながら、低発熱性を改善し、これら性能を高度に両立した。また、これらタイヤ用ゴム組成物をサイドウォール部に使用した空気入りタイヤは、良好なタイヤ耐久性を発揮した。
【0051】
一方、比較例1は、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの結晶化成分の含有率が低く、転移温度Tgが低いため、十分な伸びが得られず、標準例1に対してタイヤ耐久性を改善できなかった。比較例2は、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを含まないため、十分な伸びが得られず、標準例1に対してタイヤ耐久性が悪化した。比較例3は、第二の共役ジエン系共重合体中のシンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンの含有率(結晶化成分の含有率)が大きいため、硬度と伸びのバランスが悪化し、標準例1に対してタイヤ耐久性を改善することができなかった。比較例4は、第一の共役ジエン系共重合体(天然ゴム)の配合量が多く、且つ、第二の共役ジエン系共重合体(ブタジエンゴムおよびAT300)の配合量が少ないため、本件効果が得られずタイヤ耐久性が低下した。比較例5は、カーボンブラックのCTAB吸着比表面積が大きいため、発熱性が低下し、タイヤ耐久性を低下させる。比較例6は、カーボンブラックの配合量が少ないため、硬度低下し、タイヤ耐久性が低下した。
【0052】
更に、表3からに示す配合からなる6種類のタイヤ用ゴム組成物(標準例2、実施例11~15)を調製するにあたり、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、マスターバッチを放出し室温冷却した。このとき、第一の共役ジエン系共重合体(表中のNR)、第二の共役ジエン系共重合体(表中のBR、VCR、AT300)、カーボンブラック(表中のCB1,CB2)を投入・混練する段階は表3に示した通りにした。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合して、6種類のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0053】
表3には、第一の混練工程で投入・混練される材料と、第二の混練工程で投入・混練される材料とをそれぞれ示す欄を設けた。第一の混練工程で材料の一部を投入し、第二の混練工程で残余の分を投入した場合、材料名の後に括弧を付して「一部」または「残余」と表示した。特に表示がない場合は、各材料の全量を各欄の段階で投入・混錬したことを意味する。表3には更に、第二の共役ジエン系共重合体(表の例の場合、BR,VCR,AT300)について、第一の混練工程で材料の一部を投入し、第二の混練工程で残余の分を投入した場合の、後投入量の値を示した。後投入量は、第二の共役ジエン系共重合体の総量に対する第二の混練工程で投入される第二の共役ジエン系共重合体の割合〔単位:質量%〕である。
【0054】
得られたタイヤ用ゴム組成物をそれぞれサイドゴムに使用し、
図1に示す基本構造を有し、タイヤサイズが275/80R22.5 151/148Jである空気入りタイヤ(試験タイヤ)を製造し、下記に示す方法により、低転がり抵抗性、耐カット性、タイヤ耐久性の評価を行った。
【0055】
低転がり抵抗性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、ISO28580に準拠して、速度80km/h、温度20℃の条件でドラム試験機にて走行試験を実施し、転がり抵抗を測定した。評価結果は、測定値の逆数を用い、標準例2を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど転がり抵抗が低く、低転がり抵抗性に優れることを意味する。
【0056】
耐カット性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、空気圧をフロント900kPa、リヤ900kPaに調整し、排気量12770ccの試験車両(トラクタヘッド)に装着し、舗装路面上を走行させ、時速15km/hの加速時に進入角度25°~35°で縁石(高さ100mm)に乗り上げた際のサイドウォール部の傷(サイドカット)の深さ(各試験タイヤにつき3回ずつ試験を行った平均値)を測定した。測定結果は、測定値の逆数を用い、標準例2を100とする指数にて示した。
【0057】
タイヤ耐久性
各試験タイヤをリムサイズ22.5×7.50のホイールに組み付けて、空気圧をフロント900kPa、リヤ900kPaに調整し、排気量12770ccの試験車両(トラクタヘッド)に装着し、10万kmの市場走行を行った後、更に、ドラム試験機(ドラム径1707mm)を用いて速度50km/hの条件でタイヤに故障が生じるまで走行試験を行い、故障が生じるまでの走行距離を計測した。その結果を、標準例2の測定値を100とする指数で評価した。そして、前述の耐カット性の評価と、上述の故障が生じるまでの走行距離に基づく評価を総合して、タイヤ耐久性として評価した。評価結果は、以下の3段階で示した。
良:耐カット性および走行距離に基づく評価において、指数値が標準例2に対して10%以上向上している。
可:耐カット性および走行距離に基づく評価において、標準例2に対する指数値の向上/低下が10%未満である。
不可:耐カット性および走行距離に基づく評価において、指数値が標準例2に対して10%以上低下している。
【0058】
【0059】
表3において使用した原材料の種類は表1と共通である。
【0060】
表3から明らかなように、実施例11~15のタイヤ用ゴム組成物は、標準例2と同等以上の耐カット性およびタイヤ耐久性を確保しながら、低転がり抵抗性を改善した。特に、製造時に第二の共役ジエン系共重合体の少なくとも一部を後から投入・混錬した実施例12~16のタイヤ用ゴム組成物はこれら性能を高度に両立することができた。
【符号の説明】
【0061】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
11 トレッドゴム層
11A キャップトレッド
11B アンダートレッド
12 サイドゴム層
13 リムクッションゴム層
CL タイヤ赤道
【要約】
サイドウォール部における硬度および伸びをバランスよく確保しながら低発熱化を図り、これら性能を高度に両立することを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供する。イソプレン成分を含有する第一の共役ジエン系共重合体20質量%~60質量%と、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンを含有する第二の共役ジエン系共重合体40質量%~80質量%とを含む共役ジエン系共重合体100質量部に対して、CTAB吸着比表面積が100m2/g以下であるカーボンブラックを30質量部以上配合し、シンジオタクチック‐1,2‐ポリブタジエンとして、結晶化成分の含有率が90%以上、融点が130℃以下、ガラス転移温度Tgが-20℃以上であるものを用い、第二の共役ジエン系共重合体中の結晶化成分を30質量%以下にする。