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  • 特許-封止用樹脂組成物および半導体装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】封止用樹脂組成物および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/29 20060101AFI20221004BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20221004BHJP
   C08G 59/62 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01L23/30 R
C08G59/62
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022530810
(86)(22)【出願日】2022-01-26
(86)【国際出願番号】 JP2022002834
【審査請求日】2022-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2021015658
(32)【優先日】2021-02-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 瞭
【審査官】平林 雅行
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-127367(JP,A)
【文献】特開2017-101140(JP,A)
【文献】特開2020-193293(JP,A)
【文献】特開2020-152825(JP,A)
【文献】特開2018-203883(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00-59/72
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
H01L 21/56
H01L 23/28-23/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
GaAsチップを封止するために用いられる封止用樹脂組成物であって、
下記条件1で測定されたダイシェア強度が1.5N/mm以上である、封止用樹脂組成物。
(条件1)
前記封止用樹脂組成物を、表面粗さRaが15nmのGaAsテストピース表面に円面積10mmとなるように塗布し、175℃、4時間熱処理して、GaAsテストピースと高さ3mmの硬化物とからなる試験片を得て、前記GaAsテストピース表面からのテスターの距離0.125mm、当該テスターの速度0.3mm/secにて、当該試験片において前記GaAsテストピースと前記硬化物との260℃におけるダイシェア強度を測定する。
【請求項2】
下記条件2で測定された加湿後の260℃ダイシェア強度が1.3N/mm以上である、請求項1に記載の封止用樹脂組成物。
(条件2)
前記条件1で得られた試験片を、温度85℃、湿度85%で24時間吸湿させ、吸湿後の当該試験片において前記GaAsテストピースと前記硬化物との260℃におけるダイシェア強度を測定する。
【請求項3】
さらにエポキシ樹脂およびフェノール硬化剤を含み、
前記フェノール硬化剤の水酸基当量cに対する、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量dの比d/cが1.3以上である、請求項1または2に記載の封止用樹脂組成物。
【請求項4】
2級アミン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、およびエポキシシラン系カップリング剤から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~3のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項5】
さらに無機充填剤を含む、請求項1~4のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項6】
さらに硬化促進剤を含む、請求項1~5のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項7】
顆粒またはタブレットである、請求項1~6のいずれかに記載の封止用樹脂組成物。
【請求項8】
GaAsチップと、
前記GaAsチップを封止する請求項1~7のいずれかに記載の封止用樹脂組成物の硬化物と、
を備える半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封止用樹脂組成物および半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体パッケージ等を封止するための材料として、熱硬化性の樹脂組成物(封止用樹脂組成物)が知られている。例えば、特許文献1には、GaAsチップを樹脂で封止した樹脂封止型の半導体装置が提案されている。
【0003】
特許文献2には、特定のエポキシ樹脂、硬化剤、および無機充填剤等を含有する封止用樹脂組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭60-167432号公報
【文献】特開2010-084091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載の封止用樹脂組成物においては、耐リフロー性に改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定の条件で測定されたダイシェア強度が特定の範囲となる封止用樹脂組成物を用いることにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下に示すことができる。
【0007】
本発明によれば、
GaAsチップを封止するために用いられる封止用樹脂組成物であって、
下記条件1で測定されたダイシェア強度が1.5N/mm以上である、封止用樹脂組成物が提供される。
(条件1)
前記封止用樹脂組成物を、表面粗さRaが15nmのGaAsテストピース表面に円面積10mmとなるように塗布し、175℃、4時間熱処理して、GaAsテストピースと高さ3mmの硬化物とからなる試験片を得て、前記GaAsテストピース表面からのテスターの距離0.125mm、当該テスターの速度0.3mm/secにて、当該試験片において前記GaAsテストピースと前記硬化物との260℃におけるダイシェア強度を測定する。
【0008】
本発明によれば、
GaAsチップと、
前記GaAsチップを封止する前記封止用樹脂組成物の硬化物と、
を備える半導体装置が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐リフロー性に優れた封止用樹脂組成物および当該封止用樹脂組成物の硬化物を含む半導体装置が提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】半導体装置の一例を示す断面図である。
図2図1とは異なる半導体装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
【0012】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、GaAsチップを封止するために用いられる。当該封止用樹脂組成物は、下記条件1で測定されたダイシェア強度が1.5N/mm以上、好ましくは1.7N/mm以上、より好ましくは2.0N/mm以上である。上限値は特に限定されないが3.0N/mm以下程度である。
(条件1)
前記封止用樹脂組成物を、表面粗さRaが15nmのGaAsテストピース表面に円面積10mmとなるように塗布し、175℃、4時間熱処理して、GaAsテストピースと高さ3mmの硬化物とからなる試験片を得て、前記GaAsテストピース表面からのテスターの距離0.125mm、当該テスターの速度0.3mm/secにて、当該試験片において前記GaAsテストピースと前記硬化物との260℃におけるダイシェア強度を測定する。
【0013】
本実施形態の封止用樹脂組成物の前記ダイシェア強度が上記範囲にあることにより、耐リフロー性に優れる。耐リフロー性は封止用樹脂組成物で封止されたGaAsチップを含む半導体装置を加熱加湿条件下で所定時間放置した後にリフロー処理を行って封止樹脂と当該チップとの接着性を評価するものであり、ダイシェア強度と耐リフロー性は何れも封止樹脂とGaAsチップとの接着強度の観点からは共通している。しかしながら、耐リフロー性が、リフロー工程における封止樹脂とGaAsチップとの間の熱応力に対する接着性を確認するのに対して、ダイシェア強度は封止樹脂とGaAsチップとの間のせん断応力に対する接着性を確認する点で異なるものである。本発明者は、ダイシェア強度と耐リフロー性とが異なる応力に対する接着性に起因するものの、ダイシェア強度が耐リフロー性の指標となることを見出して本発明を完成させた。
【0014】
本実施形態の封止用樹脂組成物において、含有成分の種類や添加量等を適切に選択することにより、条件1で測定されたダイシェア強度を調整することができる。
【0015】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、本発明の効果の観点から、下記条件2で測定された加湿後の260℃ダイシェア強度が1.3N/mm以上、好ましくは1.4N/mm以上、より好ましくは1.5N/mm以上である。上限値は特に限定されないが2.5N/mm以下程度である。
【0016】
(条件2)
前記条件1で得られた試験片を、温度85℃、湿度85%で24時間吸湿させ、吸湿後の当該試験片において前記GaAsテストピースと前記硬化物との260℃におけるダイシェア強度を測定する。
【0017】
耐リフロー性試験は加熱加湿条件下で行われることから、条件1のダイシェア強度とともに、さらに条件2のダイシェア強度が所定の範囲であることにより、より耐リフロー性に優れた封止用樹脂組成物を提供することができる。
【0018】
本実施形態の封止用樹脂組成物において、含有成分の種類や添加量等を適切に選択することにより、条件2で測定された加湿後のダイシェア強度を調整することができる。
なお、本実施形態の封止用樹脂組成物は、GaAsチップを封止するために用いられるが、GaAsチップとともに、Siチップやその他部材を封止することができ、SIP(System in Package)に適用することができる。
以下、本実施形態の封止用樹脂組成物に含まれる成分について以下に説明する。
【0019】
[エポキシ樹脂]
本実施形態の封止用樹脂組成物はエポキシ樹脂を含むことができる。
エポキシ樹脂としては、本発明の効果を奏する範囲で封止用樹脂組成物に一般に使用されるものを用いることができる。エポキシ樹脂としては、1分子内にエポキシ基を2個以上有する(つまり、多官能の)モノマー、オリゴマー、ポリマー全般を用いることができる。
【0020】
エポキシ樹脂としては、たとえばビフェニル型エポキシ樹脂;ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;スチルベン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アルキル変性トリフェノールメタン型エポキシ樹脂等の多官能エポキシ樹脂;フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂;ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレンの2量体をグリシジルエーテル化して得られるエポキシ樹脂等のナフトール型エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、モノアリルジグリシジルイソシアヌレート等のトリアジン核含有エポキシ樹脂;ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂等の有橋環状炭化水素化合物変性フェノール型エポキシ樹脂などを挙げることができる。
【0021】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂(例えばo-クレゾールノボラックエポキシ樹脂)、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、およびトリフェノールメタン型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1つを含むことが好ましく、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0022】
エポキシ樹脂の数分子量は特に限定されず、流動性、硬化性などの観点から適宜選択すればよい。一例として数分子量は100~700程度である。
【0023】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、好ましくは100~400g/eq、より好ましくは150~350g/eqである。なお、封止用樹脂組成物が複数のエポキシ樹脂を含む場合、複数のエポキシ樹脂全体としてのエポキシ当量が、上記数値となることが好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂は、本発明の効果の観点から、封止用樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは1~20質量%、より好ましくは2~15質量%の量で含むことができる。
【0025】
[フェノール硬化剤]
本実施形態の封止用樹脂組成物はフェノール硬化剤を含むことができる。
フェノール硬化剤としては、本発明の効果を奏する範囲で封止用樹脂組成物に一般に使用されるものを用いることができる。
【0026】
フェノール硬化剤は、例えば、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール、α-ナフトール、β-ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のフェノール類とホルムアルデヒドやケトン類とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂、上記したフェノール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルから合成されるビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂などのフェノールアラルキル樹脂、トリスフェニルメタン骨格を有するフェノール樹脂などが挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
本実施形態の封止用樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂および前記フェノール硬化剤を含み、前記フェノール硬化剤の水酸基当量cに対する、前記エポキシ樹脂のエポキシ当量dの比d/cが1.3以上、好ましくは1.4以上とすることができる。
当該範囲となるように前記エポキシ樹脂および前記フェノール硬化剤を用いることにより、耐リフロー性がさらに向上し、充填性もより優れる。
【0028】
フェノール硬化剤は、本発明の効果の観点から、封止用樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは1~15質量%、より好ましくは2~10質量%の量で含むことができる。
【0029】
[カップリング剤]
本実施形態の封止用樹脂組成物はカップリング剤を含むことができる。
カップリング剤としては、本発明の効果を奏する範囲で封止用樹脂組成物に一般に使用されるものを用いることができる。
【0030】
カップリング剤としては、アミノプロピルメトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、ウレイドプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)アミノプロビルトリメトキシシラン等の2級アミン系カップリング剤;
メルカプトプロピルトリメトキシシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のメルカプトシラン系カップリング剤;
グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、グリシジルブチルトリメトキシシラン、(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン系カップリング剤;
メチルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン等のシラン系カップリング剤;
ヘキサメチルジシラザン、ヘキサフェニルジシラザン、トリシラザン、シクロトリシラザン、1,1,3,3,5,5-ヘキサメテルシクロトリシラザン等のオルガノシラザン化合物;
ブチルチタネートダイマー、チタンオクチレングリコレート、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシチタンビスラクテート、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリ-n-ブトキシチタンモノステアレート、テトラ-n-ブチルチタネート、テトラ(2-エチルヘキシル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N-アミドエチル・アミノエチル)チタネート等のチタネート系カップリング剤;等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用してもよい。
【0031】
本実施形態においては、カップリング剤として、2級アミン系カップリング剤、メルカプトシラン系カップリング剤、およびエポキシシラン系カップリング剤から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0032】
カップリング剤は、本発明の効果の観点から、封止用樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは0.01~2.0質量%、より好ましくは0.05~1.0質量%とすることができる。
【0033】
[無機充填剤]
本実施形態の封止用樹脂組成物は無機充填剤を含むことができる。
無機充填剤としては、本発明の効果を奏する範囲で封止用樹脂組成物に一般に使用されるものを用いることができる。
【0034】
無機充填材としては限定されず、具体的には、無機酸化物、無機窒化物、無機炭化物及び無機水酸化物などが挙げられる。
無機酸化物としては、具体的には、シリカ、アルミナ、酸化チタン、タルク、クレー、マイカ、ガラス繊維(石英ガラス)などが挙げられる。なお、シリカとしては、具体的には、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶性シリカ、2次凝集シリカ、微粉シリカなどを用いることができる。
また、無機窒化物としては、具体的には、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などが挙げられる。
また、無機炭化物としては、具体的には、炭化ケイ素、炭化ジルコニウム、炭化チタン、炭化ホウ素、炭化タンタルなどが挙げられる。
また、無機水酸化物としては、具体的には、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどが挙げられる。
【0035】
無機充填材としては上記具体例のうち、例えば、無機酸化物または無機水酸化物を用いることが好ましく、シリカ、アルミナ及び水酸化アルミニウムからなる群より選択される1種以上を用いることがより好ましく、シリカを用いることがさらに好ましく、特に溶融球状シリカが好ましい。
無機充填材の粒子形状は、略真球状であることが好ましい。
【0036】
無機充填材のメジアン径は、特に限定されない。典型的には0.1~200μm、好ましくは0.1~100μm、より好ましくは0.1~50μmである。メジアン径が適当であることにより、成形時の流動性の一層の向上等を図ることができ、充填性をさらに改善することができる。
【0037】
無機充填材のメジアン径は、例えば、市販のレーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製のSALD-7500nano)など用いて、体積基準での無機充填材の粒度分布を測定し、その粒度分布の中央値を採用することができる。この測定は、通常、水(通常は蒸留水)を分散媒とした湿式で行うことができる。
【0038】
無機充填材の量は、本発明の効果の観点から、封止用樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは75~95質量%、より好ましくは80~92質量%とすることができる。
【0039】
[硬化促進剤]
本実施形態の封止用樹脂組成物は硬化促進剤を含むことができる。
硬化促進剤としては、本発明の効果を奏する範囲で封止用樹脂組成物に一般に使用されるものを用いることができる。
【0040】
硬化促進剤としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン、ベンジルジメチルアミン、2-メチルイミダゾール等のアミジンまたは3級アミン、アミジンまたはアミンの4級塩、などの窒素原子含有化合物を挙げることができる。
【0041】
これらの中でも、硬化性の向上の点からは、ホスホニウム塩などのリン原子含有化合物が好ましい。また、成形性と硬化性のバランスを向上させる観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有するものを含むことがより好ましい。
【0042】
硬化促進剤を用いる場合、その量は、他の成分とのバランス等を考慮し、封止用樹脂組成物100質量%に対して、好ましくは0.01~2.0質量%、より好ましくは0.05~1.0質量%とすることができる。
【0043】
(その他成分)
本実施形態の封止用樹脂組成物は、上述の成分以外の他の成分を含んでもよい。その他の成分として具体的には、離型剤、イオン捕捉剤、難燃剤、低応力剤、酸化防止剤、着色剤等を挙げることができる。封止用樹脂組成物がその他の成分を含む場合は、一種のみを含んでもよいし、二種以上を含んでもよい。
【0044】
離型剤としては、カルナバワックス等の天然ワックス、酸化ポリエチレンワックス、モンタン酸エステルワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、パラフィン、等を挙げることができる。
【0045】
イオン捕捉剤(イオンキャッチャー、イオントラップ剤などとも呼ばれる)としては、例えば、ハイドロタルサイトを用いることができる。また、ビスマス酸化物やイットリウム酸化物などもイオン捕捉剤として知られている。
イオン捕捉剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
難燃剤としては、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、ホスファゼンなどを挙げることができる。
低応力剤としては、シリコーンオイル、シリコーンゴム、カルボキシル基末端ブタジエンアクリロニトリルゴム等を挙げることができる。
【0047】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系化合物、チオエーテル系化合物などを挙げることができる。着色剤としてはカーボンブラック等を挙げることができる。
【0048】
(封止用樹脂組成物の性状)
本実施形態の封止用樹脂組成物の性状は、例えば粒子状またはシート状である。
粒子状の封止用樹脂組成物として具体的には、タブレット状または粉粒体のものが挙げられる。
封止用樹脂組成物がタブレット状である場合は、例えばトランスファー成形法を用いて封止用樹脂組成物を成形することができる。
【0049】
封止用樹脂組成物が粉粒体である場合には、例えば、圧縮成形法を用いて封止用樹脂組成物を成形することができる。ここで、封止用樹脂組成物が粉粒体であるとは、粉末状または顆粒状のいずれかである場合を指す。
【0050】
(封止用樹脂組成物の製造方法)
本実施形態の封止用樹脂組成物の製造方法は特に限定されない。
【0051】
例えば、上述の各成分を、公知の手段で混合し、さらにロール、ニーダーまたは押出機等の混練機で溶融混練し、冷却し、その後に粉砕する方法により得ることができる。
必要に応じて、粉砕後にタブレット状に打錠成形してもよい。
必要に応じて、粉砕後に例えば真空ラミネート成形または圧縮成形によりシート状にしてもよい。
必要に応じて、得られた封止用樹脂組成物の分散度や流動性等を調整してもよい。
【0052】
<半導体装置>
本実施形態の封止用樹脂組成物を用いて基板上の半導体素子(パワー半導体素子等)を封止するなどして、本実施形態の封止用樹脂組成物の硬化物を備える半導体装置(パワーデバイス等)を製造することができる。
【0053】
図1は、半導体装置100の一例を示す断面図である。
半導体装置100は、基板30上に搭載されたGaAsチップ20と、GaAsチップ20を封止する封止材50とを備えている。封止材50は、本実施形態の封止用樹脂組成物を硬化して得られる硬化物により構成されている。
【0054】
図1においては、基板30が回路基板である場合が例示されている。この場合、図1に示されるように、基板30のうちのGaAsチップ20を搭載する一面とは反対側の他面には、例えば複数の半田ボール60が形成される。GaAsチップ20は、基板30上に搭載され、かつワイヤ40を介して基板30と電気的に接続される。
一方、GaAsチップ20は、基板30に対してフリップチップ実装されていてもよい。ここで、ワイヤ40は、例えば銅で構成される。
【0055】
封止材50は、例えばGaAsチップ20のうちの基板30と対向する一面とは反対側の他面を覆うようにGaAsチップ20を封止する。図1においては、GaAsチップ20の上記他面と側面を覆うように封止材50が形成されている。封止材50は、例えば封止用樹脂組成物をトランスファー成形法または圧縮成形法等の公知の方法を用いて封止成形することにより形成することができる。
【0056】
図2は、図1とは異なる半導体装置100の例を示すものである。
図2の半導体装置100は、基板30としてリードフレームを使用している。この場合、GaAsチップ20は、例えば基板30のうちのダイパッド32上に搭載され、かつワイヤ40を介してアウターリード34へ電気的に接続される。GaAsチップ20は、図1の例と同様に、好ましくはSiC、GaN、Ga、ダイヤモンド等により構成されたパワー半導体素子である。また、封止材50は、図1の例と同様に、本実施形態の封止用樹脂組成物を用いて形成される。
図1および2においては、本実施形態の封止用樹脂組成物によりGaAsチップが封止される例によって示したが、GaAsチップとともに、Siチップやその他部材を封止することができ、SIP(System in Package)に適用することができる。
【0057】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【実施例
【0058】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<比較例1、実施例1~5(封止用樹脂組成物の製造)>
表1に記載された各成分を記載された量比で混合し、混合物を得た。混合は、常温でヘンシェルミキサーを用いて行った。
その後、その混合物を、加熱二軸混練機(東洋精機社製、ラボプラストミル)で混練した。混練条件は、温調を80~100℃とし、混練物の温度が100~110℃となるように混練強度と混練時間を調節した。混練時間は1~5分程度であった。得られた混練物を常温まで冷却し、その後、粉砕し、封止用樹脂組成物を得た。なお、比較例1および実施例1~5の封止用樹脂組成物において、フェノール硬化剤の水酸基当量cに対する、エポキシ樹脂のエポキシ当量dの比d/cは、比較例1が1.2、実施例1~5が全て1.5であった。表1に記載の各成分は以下の通り。
【0060】
(無機充填材)
・無機充填材1:シリカ(日鉄ケミカル&マテリアル社製、製品名:TS-6021、平均径10.0μm)
・無機充填材2:シリカ(日鉄ケミカル&マテリアル社製、製品名:TS-6026、平均径9.0μm)
・無機充填材3:シリカ(アドマテックス社製、製品名:SC-2500-SQ、平均径0.5μm)
・無機充填材4:シリカ(アドマテックス社製、製品名:SC-5500-SQ、平均径1.5μm)
【0061】
(着色剤)
・カーボンブラック1:ERS-2001(東海カーボン社製)
【0062】
(シランカップリング剤)
・シランカップリング剤1:N-フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、CF-4083)
・シランカップリング剤2:γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM803P)
・シランカップリング剤3:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物(住友ベークライト社製、製品名:KE-GS)
・シランカップリング剤4:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(チッソ社製、GPS-M)
【0063】
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:ビフェニル骨格含有フェノールアラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製、NC-3000)
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル株式会社、YX-4000K)
【0064】
(硬化剤)
・硬化剤1:ビフェニルアラルキル型フェノール樹脂(明和化成社製、MEH-7851SS)
【0065】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:テトラフェニルホスホニウムテトラ(1-ナフトエ酸)ボレート
・硬化促進剤2:2,3-ジヒドロキシナフタレン
・硬化促進剤3:テトラフェニルホスホニウム4,4'-スルフォニルジフェノラート
・硬化促進剤4:テトラフェニルホスホニウム2,3-ジヒドロキシナフタレート
・硬化促進剤5:テトラフェニルホスホニウムビス(ナフタレン-2,3-ジオキシ)フェニルシリケート
【0066】
(離型剤)
・離型剤1:カルナバワックス
【0067】
(イオン捕捉剤)
・イオン捕捉剤1:マグネシウム・アルミニウム・ハイドロオキサイド・カーボネート・ハイドレート(協和化学工業社製、DHT-4H)
・イオン捕捉剤2:ハイドロキシタルサイト(東亞合成化学社製)
【0068】
(シリコーン化合物)
・シリコーン化合物1:エポキシ・ポリエーテル変性シリコーンオイル(東レダウコーニング社製、FZ-3730)
【0069】
<性能評価>
(GaAs密着(条件1))
実施例、比較例で得られた封止用樹脂組成物を、表面粗さRaが15nmのGaAsテストピース表面に円面積10mmとなるように塗布し、175℃、4時間熱処理して、GaAsテストピースと高さ3mmの硬化物とからなる試験片を得た。自動ダイシェア測定装置(ノードソン・アドバンスド・テクノロジー社製、DAGE4000型)を用いて、前記GaAsテストピース表面からのテスターの距離0.125mm、当該テスターの速度0.3mm/secにて、260℃温度下にてGaAsテストピースと硬化物とのせん断強度(ダイシェア強度)を測定した。
【0070】
(GaAs密着(条件2))
前記条件1で得られた試験片を、温度85℃、湿度85%で24時間吸湿させ、吸湿後の当該試験片において、条件1と同様にGaAsテストピースと硬化物とのせん断強度(ダイシェア強度)を測定した。
【0071】
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機社製、KTS-15)を用いて、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件にて、封止用樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。
スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。
【0072】
(NGFP)
各例で得られた封止用樹脂組成物の矩形流路圧(矩形圧)を次のように測定した。
まず、封止用樹脂組成物(粉砕物)を、プランジャー(プランジャーサイズφ18mm)内で、175℃で3秒間加熱して予備加熱して軟化させた。
低圧トランスファー成形機(NEC社製、40tマニュアルプレス)を用いて、金型温度175℃、注入速度24.7mm/secの条件にて、幅13mm、厚さ0.5mm、長さ175mmの矩形状の流路に、上記で得られた、軟化した封止用樹脂組成物を注入した。このとき、流路の上流先端から25mmの位置に埋設した圧力センサーにて圧力の経時変化を測定し、封止用樹脂組成物の流動時における最低圧力(kgf/cm2)を測定し、これを矩形圧とした。矩形圧は、溶融粘度のパラメータであり、数値が小さい方が、溶融粘度が低いことを示す。
【0073】
(ゲルタイム)
175℃に設定されたホットプレート上に、各実施例または比較例の封止用樹脂組成物を置いた。試料が溶融した後、ヘラで練りながら、硬化するまで(ヘラで練ることができなくなるまで)の時間を測定した。
ゲルタイムが短いほど、硬化速度が速いことを示す。
【0074】
(ガラス転移温度、線膨張係数)
各実施例および比較例について、得られた封止用樹脂組成物の硬化物のガラス転移温度(Tg)、線膨張係数(CTE1、CTE2)を、以下のように測定した。まず、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒で封止用樹脂組成物を注入成形し、10mm×4mm×4mmの試験片を得た。次いで、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃~320℃、昇温速度5℃/分の条件下で測定を行った。この測定結果から、ガラス転移温度(Tg)、ガラス転移温度以下における線膨張係数(CTE1)、ガラス転移温度超過における線膨張係数(CTE2)を算出した。
【0075】
(曲げ弾性率)
各実施例または比較例の封止用樹脂組成物を打錠成形してタブレットを得た。得られたタブレットを、トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で封止用樹脂組成物を注入成形し、幅10mm×厚さ4mm×長さ80mmの硬化物を得た。その後、得られた試験片を175℃、4時間で後硬化し、評価用の試験片を得た。得られた試験片の、室温および260℃における曲げ弾性率を、JIS K 6911に準じて測定した。
【0076】
(成形収縮率)
各実施例および比較例について、得られた封止用樹脂組成物の成形収縮率を測定した。測定は、低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製「KTS-15」)を用いて金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で作製した試験片に対して、JIS K 6911に準じて行った。
(MSL評価用の半導体装置の作製)
各種性能評価のために、次のようにして半導体装置を作製した。後述の評価のため、各実施例/比較例において、12個ずつの半導体パッケージを作製した。
(1)GaAsチップ(長さ4mm×幅4mm、厚み0.35mm)を、表面がAgによりめっきされたリードフレームのダイパッド部上に搭載した。
(2)(1)で得られた構造体を、低圧トランスファー成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力10.0MPa、硬化時間2分の条件で、各実施例または比較例の封止用樹脂組成物を用いて封止成形し、半導体パッケージを作製した。
(3)その後、得られた半導体パッケージを175℃、4時間の条件で後硬化し、半導体装置を得た。
【0077】
(MSL(耐リフロー性)評価))
まず、得られた半導体装置12個を、85℃相対湿度60%の環境下に168時間放置した。その後、IRリフロー処理(260℃)を行った。
処理後の半導体装置内部を、超音波探傷装置で観察した。そして、全ての半導体装置において、封止樹脂と、GaAsチップと、の界面において剥離が生じなかった場合を○、半導体装置の1個でも界面に剥離が生じた場合を×とした。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に記載のように、条件1で測定されたGaAS密着(ダイシェア強度)が1.5N/mm以上である実施例の封止用樹脂組成物は、比較例と比べ、耐リフロー性に優れ、さらにゲルタイムが長く流動性にも優れていた。
【0080】
この出願は、2021年2月3日に出願された日本出願特願2021-015658号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0081】
100 半導体装置
20 GaAsチップ
30 基板
32 ダイパッド
34 アウターリード
40 ワイヤ
50 封止材
60 半田ボール
【要約】
本発明の封止用樹脂組成物は、GaAsチップを封止するために用いられ、
下記条件1で測定されたダイシェア強度が1.5N/mm以上である。
(条件1)
前記封止用樹脂組成物を、表面粗さRaが15nmのGaAsテストピース表面に円面積10mmとなるように塗布し、175℃、4時間熱処理して、GaAsテストピースと高さ3mmの硬化物とからなる試験片を得て、前記GaAsテストピース表面からのテスターの距離0.125mm、当該テスターの速度0.3mm/secにて、当該試験片において前記GaAsテストピースと前記硬化物との260℃におけるダイシェア強度を測定する。
図1
図2