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特許7151950フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21B 1/22 20060101AFI20221004BHJP
   B21B 3/02 20060101ALI20221004BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20221004BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20221004BHJP
   C25F 1/06 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B21B1/22 L
B21B1/22 H
B21B3/02
C21D9/46 R
C22C38/00 302Z
C25F1/06 A
C25F1/06 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022547799
(86)(22)【出願日】2022-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2022022363
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2021143469
(32)【優先日】2021-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100179589
【弁理士】
【氏名又は名称】酒匂 健吾
(72)【発明者】
【氏名】西田 修司
(72)【発明者】
【氏名】田 彩子
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
(72)【発明者】
【氏名】砂盛 泰理
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196019(JP,A)
【文献】特開2003-201547(JP,A)
【文献】特開2012-201950(JP,A)
【文献】特開平08-239733(JP,A)
【文献】特開2000-233205(JP,A)
【文献】特開2004-002974(JP,A)
【文献】特開2019-112673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 1/00-11/00
C21D 9/46
C22C 38/00
C25F 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系ステンレス鋼板であって、
該フェライト系ステンレス鋼板の表面が台地部と谷部とからなり、
該台地部の面積率が30~70%であり、
該台地部のSdrが0.100以下で、かつ、該谷部のSdqが0.20以上であり、
Salが50μm以下で、かつ、Strが0.30以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
ここで、Sdr、Sdq、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される輪郭曲面の展開界面面積率、輪郭曲面の二乗平均平方根勾配、自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。
【請求項2】
が50以上で、かつ、C(2.0)が10%以上であり、
最大自己相関長さが50μm以下である、請求項1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
ここで、Lは、JIS Z 8781-4:2013に規定される明度指数である。C(2.0)は、JIS K 7374:2007に規定される像鮮明度である。最大自己相関長さは、同軸落射照明法によるステンレス鋼板表面の顕微鏡像を画像処理して得られる自己相関画像において、画像中心部を含み、かつ、画素の輝度値が基準値以上となる領域の絶対最大長を2で除した値である。
【請求項3】
前記Salが20μm以下で、かつ、前記Strが0.45以上である、請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
前記最大自己相関長さが35μm以下である、請求項3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法であって、
冷間圧延用素材を準備する、準備工程と、
ついで、該冷間圧延用素材を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
ついで、該冷延鋼板を焼鈍して冷延焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、をそなえ、
前記冷間圧延工程では、
最終パスで使用するダルロールが、Ra:1.00μm以上、Sal:50.0μm以下で、かつ、Str:0.30以上であり、
また、該最終パスの圧下率が0.80%以上であり、
前記酸洗工程では、処理条件を、
処理液:塩酸濃度が0.10~5.00質量%で、かつ、硝酸濃度が10.0~20.0質量%である硝塩酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:1.0~60.0秒
電流密度:5.0~20.0A/dm
とした正電解処理を行い、
前記スキンパス圧延工程では、
使用するダルロールが、Ra:0.30μm以下であり、
伸び率が0.10~3.00%である、
フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。また、Raは、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さである。
【請求項6】
請求項1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法であって、
冷間圧延用素材を準備する、準備工程と、
ついで、該冷間圧延用素材を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
ついで、該冷延鋼板を焼鈍して冷延焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、をそなえ、
前記冷間圧延工程では、
最終パスで使用するダルロールが、Ra:1.00μm以上、Sal:50.0μm以下で、かつ、Str:0.30以上であり、
また、該最終パスの圧下率が0.80%以上であり、
前記酸洗工程では、処理条件を、
処理液:フッ酸濃度:1.0~8.0質量%で、かつ、硝酸濃度:2.0~12.0質量%である混酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:25~600秒
とした浸漬処理を行い、
前記スキンパス圧延工程では、
使用するダルロールが、Ra:0.30μm以下であり、
伸び率が0.10~3.00%である、
フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。また、Raは、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さである。
【請求項7】
請求項1~4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法であって、
素材鋼板を準備する、準備工程と、
ついで、該素材鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、をそなえ、
前記素材鋼板は、Ra:0.20μm以下、かつ、RSm:50.0μm以下であり、
前記酸洗工程では、処理条件を、
処理液:フッ酸濃度が1.0~8.0質量%で、かつ、硝酸濃度:2.0~12.0質量%である混酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:25~600秒
とした浸漬処理を行い、
前記スキンパス圧延工程では、
使用するダルロールが、Ra:0.09μm以下であり、
伸び率が0.10~1.50%である、
フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、RaおよびRSmはそれぞれ、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さ、および、粗さ曲線要素の平均長さである。
【請求項8】
前記素材鋼板が、Ra:0.15μm以下、かつ、RSm:25.0μm以下である、請求項7に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェライト系ステンレス鋼板は、シンクや冷蔵庫の外板、建築物の内装をはじめとした、人目に触れやすい箇所に幅広く使用されている。そのため、この様な用途のフェライト系ステンレス鋼板には、優れた意匠性が求められる。
【0003】
意匠性に重点を置いて提案されたフェライト系ステンレス鋼板として、例えば、特許文献1には、
「長手一方向の研磨目をフェライト系ステンレス鋼板の表面に有し、孔食電位が0.6V以上であり、60度光沢度が75以下であり、組成が、C:0.020質量%以下、Si:0.40質量%以下、Mn:0.40質量%以下、Cr:25.00~32.00質量%、Mo:1.00~4.00質量%、P:0.030質量%以下、S:0.020質量%以下、Ni:0.50質量%以下、N:0.020質量%以下を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなり、耐孔食指数(PI=Cr質量%+3Mo質量%)が30以上である、耐食性に優れたステンレス鋼板。」
が開示されている。
【0004】
特許文献2には、
「少なくとも片面の表面光沢度がJIS Z8741で規定される60度鏡面光沢度で20以下、明度がJIS Z8731で規定されるL値で70以上であることを特徴とする高い白色度及び防眩性を備えた意匠性ステンレス鋼板。」
が開示されている。
【0005】
特許文献3には、
「質量%で、C:0.020~0.120%、Si:0.10~1.00%、Mn:0.10~1.00%、Ni:0.01~0.60%、Cr:14.00~19.00%、N:0.010~0.050%、Al:0~0.050%、Ti:0~0.050%、Mo:0~0.50%、Cu:0~0.50%、Co:0~0.10%、V:0~0.20%であり、このうちAl:0.005~0.030%、Ti:0.005~0.030%の群から選ばれる1種以上を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物であり、下記(1)式により定まるγmax値が30~55である化学組成のフェライト系ステンレス鋼板であって、鋼板表面の20度鏡面光沢度が900以上であり、圧延方向の破断伸びが28.0%以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
γmax=420C-11.5Si+7Mn+23Ni-11.5Cr-12Mo+9Cu-49Ti-52Al+470N+189 (1)
ここで、(1)式の元素記号の箇所には質量%で表される当該元素の含有量が代入され、無添加の元素については0(ゼロ)が代入される。」
が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-179519号公報
【文献】特開2001-335997号公報
【文献】特開2020-111792号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
意匠性の評価指標としては、一般的に、光沢度や白色度(表面の色調が比較的白く見える度合い)が多く用いられている。実際、上記した特許文献1~3でも、これらの評価指標が用いられている。
【0008】
しかし、近年、白色度が高いことに加えて、表面に反射して写り込んだ人物や物がくっきりと鮮映に見える度合い(以後、この特性を写像性とも称する)が高い鋼板について、落ち着いた見た目であり、高級感があるとして、その評価が高まっている。
【0009】
この点、特許文献1および2に記載のフェライト系ステンレス鋼板は、白色度が高いものの、写像性は低い。また、特許文献3に記載のフェライト系ステンレス鋼板は、光沢度が高く、かつ、写像性が高いものの、白色度は低い。
【0010】
このように、特許文献1~3に開示されるフェライト系ステンレス鋼板は、高い白色度と高い写像性を兼ね備えたものとは言えない。
【0011】
本発明は、上記現状に鑑み開発されたものであって、高い白色度と高い写像性とを兼備するフェライト系ステンレス鋼板を提供することを目的とする。また、本発明は、上記のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
さて、本発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ね、以下の知見を得た。
(a)従来指標である光沢度は、鋼板表面に対して特定の方向から入射した光のうち、特定の角度範囲内に反射した光の総量を反映している。一方、写像性は、鋼板表面に対して特定の方向から入射した光のうち、正反射を起こす光(以下、正反射光とも称する)の反射角度の分散が小さい、換言すれば、正反射光の進行方向の集中度合いが大きいほど、高くなる。すなわち、光沢度が高くとも高い写像性が得られない場合やその逆の場合などがあり、光沢度は、写像性の評価パラメータとしては適当ではない。
【0013】
(b)本発明者らは、上記の光沢度に代わる写像性(換言すれば、正反射光の進行方向の集中度合い)の評価パラメータについて検討したところ、JIS K 7374:2007に規定される像鮮明度:C(2.0)を用いることが適当である、という考えに至った。
【0014】
(c)また、本発明者らは、特許文献1および2に記載のステンレス鋼板のように、白色度が高い鋼板において、写像性が低下する理由を検討した。その結果、以下の知見を得た。すなわち、白色度が高い鋼板の表面(以下、板面とも称する)では、一般的に、多くの光が乱反射される。そのため、高い白色度を実現する観点からは、通常、入射光をランダムな方向へと反射させる(以下、ランダム化とも称する)ことが志向される。これにより、白色度が高い板面では、正反射光もランダム化され、正反射光の進行方向の集中度合いが低下する。その結果、写像性が低下する。
【0015】
(d)そこで、本発明者らは、上記の知見を基に、高い白色度と高い写像性を兼ね備えたフェライト系ステンレス鋼板を得るべく、さらに鋭意検討を重ねた。その結果、発明者らは、フェライト系ステンレス鋼板の表面性状を適切に制御する、
・すなわち、鋼板の表面を、「高さが比較的高い領域(以下、台地部とも称する)」と「高さが比較的低い領域(以下、谷部とも称する)」により構成したうえで、それらの分率を適正に調整し、台地部を平坦(平滑)化する一方、谷部を粗面化する、
・具体的には、台地部の面積率を30~70%とし、残部を谷部とする(谷部の面積率を30~70%とする)とともに、台地部のSdrを0.100以下とし、かつ、谷部のSdqを0.20以上とする、
ことが肝要である、という知見を得た。
ここで、SdrおよびSdqはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される輪郭曲面の展開界面面積率、および、輪郭曲面の二乗平均平方根勾配である。
【0016】
(e)上記のように板面の表面性状を制御することにより、台地部では正反射光の反射角度の分散が小さくなり、写像性が高まる。一方、谷部では入射光がランダムな方向へ反射され、白色度が高まる。その結果、高い白色度と高い写像性とを同時に実現することが可能となる。なお、台地部は、鋼板表面の形状データからモード法により算出される閾値以上の高さとなる領域であり、谷部は、台地部以外の領域、すなわち、当該閾値未満の高さとなる領域である。詳細については、後述するとおりである。
【0017】
(f)また、本発明者らが、種々のフェライト系ステンレス鋼板を製造し、その表面について、光沢度、白色度および写像性による意匠性の定量評価を行ったところ、これらの指標が同等であったとしても、外観から受ける印象が異なる場合が多いことに気づいた。そして、本発明者らが、その理由について種々検討を重ねたところ、外観から受ける印象の異なりは、鋼板表面の砂目模様およびスジ模様の目立ち度合いから受ける印象の差に起因することを突き止めた。例えば、表面粗度の異なるロールを用いてダル目を付与した鋼板では、光沢度、白色度および写像性は同等の値を示す。しかし、表面粗度が小さいほど表面の砂目模様が目立たず、表面がきめ細かく見える印象、換言すれば、より落ち着きがあり、高級感のある印象を受ける。反対に、表面粗度が大きいほど、表面の砂目模様が目立ち、表面がざらざらに見える印象を受ける。
以下、砂目模様およびスジ模様を「ザラツキ」とも称し、ザラツキの目立たない様を「きめ細かい」、ザラツキの目立つ様を「ざらつく」とも称する。また、ザラツキの目立たない度合いを「耐ザラツキ性」と称し、ザラツキが目立たない様を「耐ザラツキ性に優れる」とも称する。
【0018】
(g)ここで、光沢度、白色度および写像性といった指標が同等であったとしても、耐ザラツキ性が異なる場合がある。換言すれば、これらの指標により、耐ザラツキ性が評価できないのは、ザラツキの程度は、微小領域内における光反射特性(例えば、正反射光量や乱反射光量)の場所ごとの揺らぎ(異なり)に左右されるためである。すなわち、光沢度や白色度は、特定の測定領域における鋼板表面の特定の光反射特性の平均値である。そのため、各微小領域の光反射特性がどのような揺らぎを有していたとしても(言い換えれば、各微小領域で光反射特性がどのようにバラついていたとしても)、その揺らぎは、光沢度や白色度の特性値に影響を与えない。
【0019】
(h)そこで、本発明者らは、耐ザラツキ性を定量的に評価することができるパラメータについて、検討を重ねた。その結果、以下の知見を得た。
板面のザラツキ度合いは、上述した微小領域内における光反射特性の場所ごとの揺らぎ、特に、板面内の揺らぎの周期(板面の面内方向において、どの程度の長さ毎に正反射光量が多い部分と正反射光量が少ない部分とが繰り返されるかを示す値。または、板面内において、どの程度の長さ毎に乱反射光量が多い部分と乱反射光量が少ない部分とが繰り返されるかを示す値。)に影響を受けている。特に、板面に、種々の方向に異なる周期の複数種の「光反射特性の場所毎揺らぎ」が存在する場合には、その中でも、特に目立つ「光反射特性の場所毎揺らぎ」の周期、特には、複数種の「光反射特性の場所毎揺らぎ」のうち、周期が最長となる「光反射特性の場所毎揺らぎ」の周期(以下、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期ともいう)が、板面の耐ザラツキ性に大きく影響する。例えば、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期が長いほど板面のザラツキが目立ち、逆に短いほど、板面のザラツキは目立たず、板面は均一に(言い換えれば、きめ細かに)見える。
【0020】
(i)上記の知見を基に、本発明者らは、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期を数値化することによって、板面の耐ザラツキ性を定量的に評価することが可能となるのではないかと考え、その手法についてさらに検討を重ねた。その結果、板面の写真画像を数値解析して得られる「最大自己相関長さ」により、板面の耐ザラツキ性を定量的に評価することが可能となり、特に、最大自己相関長さが50μm以下となる場合に、優れた耐ザラツキ性(ひいては、より落ち着きがあり、高級感のある印象を受ける外観)が得られるとの知見を得た。なお、本発明者以外の社内評価者による外観目視評価においても、最大自己相関長さが50μm以下の場合には、板面について、より落ち着きがあり、高級感のある印象を受けるという評価(5段階の評価で上から2番目以上の評価)が、社内評価者の全員から得られた。
【0021】
(j)ここで、「最大自己相関長さ」とは、同軸落射照明法による鋼板表面の顕微鏡像を画像処理して得られる自己相関画像において、画像中心部を含み、かつ、画素の輝度値が基準値以上となる領域の絶対最大長を2で除した値である。具体的には、以下のようにして算出する。
まず、鋼板表面を同軸落射照明法により結像し、鋼板表面の顕微鏡像(以下、板面画像ともいう)を得る。ここで、同軸落射照明法とは、観察対象試料に照射する照明の光軸と対物レンズの光軸を一致させ、対物レンズ方向から観察対象試料へ照明をあて、観察対象試料からの反射光を対物レンズによって集光し結像させる顕微鏡法である。なお、板面画像の画素分解能の値は、5μm/pix以下(1画素の1辺が、撮影対象物の実長さ5μm以下に相当する)とし、視野サイズは4mm角以上とする。
ついで、得られた板面画像の画像処理を行う。なお、板面画像が、カラー画像(x:横位置、y:縦位置、R:輝度値(赤)、G:輝度値(緑)およびB:輝度値(青)で表現される5次元情報)として取得されることを前提として、以下の記載を行っているが、モノクロ画像(x:横位置、y:縦位置,L:輝度値、で表現される3次元情報)で取得される場合には、後述のグレースケール化の手順を省略すればよい。また、輝度値は、画像を構成する各画素(x,y)の明るさを意味する。まず、板面画像にグレースケール化(カラー画像の各(x,y)位置において、R、GおよびBの値を平均し、得られた値をLとして設定して、画像をモノクロ画像へと変換する処理)を施す。ついで、ローカットフィルターを用いて画像のシェーディング(撮影装置の光学系に起因して発生する、画像内における場所毎の輝度値差。同軸落射照明法にて結像した顕微鏡像においては、概ね、画像中心部の輝度値が高くなり、画像外周部は輝度値が低くなる。)を除去する。ついで、板面画像を構成する全画素の輝度値の平均値を、各画素から減じて、板面画像を構成する全画素の輝度値の平均値を0とする。この際、一部の画素の輝度値は、マイナス値となる。変換後の画像は、高速フーリエ変換処理(FFTPACKにおいて実装された変換アルゴリズムによる)を行った後、パワースペクトル画像へと変換する。パワースペクトル画像への変換は、各画素の値(高速フーリエ変換後には複素数)に、その値の複素共役数を乗じ、ついで、得られた値を1/2乗することで実施する。ついで、得られたパワースペクトル画像に、逆高速フーリエ変換処理(FFTPACKにおいて実装された変換アルゴリズムによる)を行い、得られた画像の各画素の虚数部を削除して実数部のみを残す。ついで、画像中で最も値の高い画素の値で、各画素の値を除して規格化し、自己相関画像とする。なお、得られた自己相関画像は、画像中心部の輝度値が最も高い画像となる。ついで、得られた自己相関画像において、輝度値が0.02以上の画素のみを抽出する。抽出された画素のうち、さらに、画像中心部を含む領域のみを四連結法(上・下・左・右のいずれか1つ以上が隣接する画素同士を同一領域とみなす方法)によって抽出し、解析対象の領域とする。ついで、解析対象の領域の絶対最大長(解析対象の領域を2つに切断する線分のうち、最も長い線分)を測定し、これを2で除した値を、「最大自己相関長さ」とする。
そして、50mm角以上のサイズを有する1枚のステンレス鋼板に対して、上記の測定を、無作為に抽出した10視野で行い、各視野で算出した「最大自己相関長さ」の算術平均値を、当該ステンレス鋼板の最大自己相関長さとする。
【0022】
(j)そして、発明者らは、さらに種々のステンレス鋼板を製造し、その表面について、最大自己相関長さによる耐ザラツキ性の定量評価を行ったところ、前述した台地部および谷部の構成に加え、板面の表面性状について、
・Salを50μm以下とし、かつ、Strを0.3以上とする、
ことにより、高い白色度と高い写像性とを確保しながら、優れた耐ザラツキ性(より落ち着きがあり、高級感のある印象を受ける外観)も得られる、ことを知見した。
ここで、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。
【0023】
(l)また、本発明者らは、上記のステンレス鋼板を製造する方法について検討を重ね、
「ダル圧延硝塩酸電解法」、
「ダル圧延混酸浸漬法」および
「混酸酸洗単独法」
という3つの好適な方法を見出した。
【0024】
(m)ここで、「ダル圧延硝塩酸電解法」および「ダル圧延混酸浸漬法」では、図1に示すように、冷間圧延により、板面に谷部と台地部となる凹凸(以下、後述する微細凹凸と区別し、単に凹凸または谷部-台地部凹凸ともいう)を形成する。ついで、酸洗により、板面に微細凹凸を形成して谷部を粗面化する。ついで、スキンパス圧延により、冷間圧延により形成した凹凸の凸部を均して台地部を形成し、同時に、台地部の微細凹凸を平坦化して、上記の表面性状を有するステンレス鋼板を得る。
【0025】
(n)「混酸酸洗単独法」では、図2に示すように、予め板面を平滑化した素材鋼板に硝弗酸水溶液(以下、混酸とも称する)への浸漬処理による酸洗を施すことにより、板面に凹凸を形成し、同時に、板面に微細凹凸を形成して谷部を粗面化する。ついで、スキンパス圧延により、酸洗により形成した凹凸の凸部を均して台地部を形成し、同時に、台地部の微細凹凸を平坦化して、上記の表面性状を有するステンレス鋼板を得る。
【0026】
(o)ここで、「混酸酸洗単独法」は、「ダル圧延硝塩酸電解法」および「ダル圧延混酸浸漬法」に比べて、生産性に優れるだけでなく、優れた耐ザラツキ性を得るうえでも有利である。すなわち、混酸への浸漬処理による酸洗を施すと、その溶解量は鋼板中の各結晶粒の結晶方位に応じて異なるものとなり、その結果、鋼板表面に鋼板の結晶組織を反映した、周期が結晶粒径サイズオーダーである凹凸が形成される。この凹凸は、前述した「ダル圧延硝塩酸電解法」および「ダル圧延混酸浸漬法」の冷間圧延により付与される凹凸に比べて、その周期が短くなる。そして、この凹凸の周期が、耐ザラツキ性に影響する光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期と相関する。そのため、「混酸酸洗単独法」により製造したステンレス鋼板では、「ダル圧延硝塩酸電解法」および「ダル圧延混酸浸漬法」により製造したステンレス鋼板に比べて、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期が小さくなり、一段と優れた耐ザラツキ性が得られる。なお、「ダル圧延混酸浸漬法」でも、混酸への浸漬処理による酸洗を行っているが、当該酸洗により付与される凹凸よりも、冷間圧延により付与される凹凸の方が長周期である。そのため、「ダル圧延混酸浸漬法」により製造される鋼板では、混酸への浸漬処理による酸洗により付与される凹凸ではなく、冷間圧延により付与される凹凸が耐ザラツキ性の支配因子となる。そのため、「混酸酸洗単独法」により製造される鋼板では、「ダル圧延混酸浸漬法」により製造される鋼板に比べて、より優れた耐ザラツキ性が得られる。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
【0027】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.フェライト系ステンレス鋼板であって、
該フェライト系ステンレス鋼板の表面が台地部と谷部とからなり、
該台地部の面積率が30~70%であり、
該台地部のSdrが0.100以下で、かつ、該谷部のSdqが0.20以上であり、
Salが50μm以下で、かつ、Strが0.30以上である、フェライト系ステンレス鋼板。
ここで、Sdr、Sdq、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される輪郭曲面の展開界面面積率、輪郭曲面の二乗平均平方根勾配、自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。
【0028】
2.Lが50以上で、かつ、C(2.0)が10%以上であり、
最大自己相関長さが50μm以下である、前記1に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
ここで、Lは、JIS Z 8781-4:2013に規定される明度指数である。C(2.0)は、JIS K 7374:2007に規定される像鮮明度である。最大自己相関長さは、同軸落射照明法によるステンレス鋼板表面の顕微鏡像を画像処理して得られる自己相関画像において、画像中心部を含み、かつ、画素の輝度値が基準値以上となる領域の絶対最大長を2で除した値である。
【0029】
3.前記Salが20μm以下で、かつ、前記Strが0.45以上である、前記1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【0030】
4.前記最大自己相関長さが35μm以下である、前記3に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【0031】
5.前記1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法であって、
冷間圧延用素材を準備する、準備工程と、
ついで、該冷間圧延用素材を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
ついで、該冷延鋼板を焼鈍して冷延焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、をそなえ、
前記冷間圧延工程では、
最終パスで使用するダルロールが、Ra:1.00μm以上、Sal:50.0μm以下で、かつ、Str:0.30以上であり、
また、該最終パスの圧下率が0.80%以上であり、
前記酸洗工程では、処理条件を、
処理液:塩酸濃度が0.10~5.00質量%で、かつ、硝酸濃度が10.0~20.0質量%である硝塩酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:1.0~60.0秒
電流密度:5.0~20.0A/dm
とした正電解処理を行い、
前記スキンパス圧延工程では、
使用するダルロールが、Ra:0.30μm以下であり、
伸び率が0.10~3.00%である、
フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。また、Raは、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さである。
【0032】
6.前記1または2に記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法であって、
冷間圧延用素材を準備する、準備工程と、
ついで、該冷間圧延用素材を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
ついで、該冷延鋼板を焼鈍して冷延焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、をそなえ、
前記冷間圧延工程では、
最終パスで使用するダルロールが、Ra:1.00μm以上、Sal:50.0μm以下で、かつ、Str:0.30以上であり、
また、該最終パスの圧下率が0.80%以上であり、
前記酸洗工程では、処理条件を、
処理液:フッ酸濃度:1.0~8.0質量%で、かつ、硝酸濃度:2.0~12.0質量%である混酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:25~600秒
とした浸漬処理を行い、
前記スキンパス圧延工程では、
使用するダルロールが、Ra:0.30μm以下であり、
伸び率が0.10~3.00%である、
フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。また、Raは、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さである。
【0033】
7.前記1~4のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板を製造するための方法であって、
素材鋼板を準備する、準備工程と、
ついで、該素材鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、をそなえ、
前記素材鋼板は、Ra:0.20μm以下、かつ、RSm:50.0μm以下であり、
前記酸洗工程では、処理条件を、
処理液:フッ酸濃度が1.0~8.0質量%で、かつ、硝酸濃度:2.0~12.0質量%である混酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:25~600秒
とした浸漬処理を行い、
前記スキンパス圧延工程では、
使用するダルロールが、Ra:0.09μm以下であり、
伸び率が0.10~1.50%である、
フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
ここで、RaおよびRSmはそれぞれ、JIS B 0601:2013に規定される算術平均粗さ、および、粗さ曲線要素の平均長さである。
【0034】
8.前記素材鋼板が、Ra:0.15μm以下、かつ、RSm:25.0μm以下である、前記7に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0035】
本発明によれば、高い白色度と高い写像性とを兼備し、さらには優れた耐ザラツキ性(より落ち着きがあり、高級感のある印象を受ける外観)を有する、フェライト系ステンレス鋼板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】「ダル圧延硝塩酸電解法」および「ダル圧延混酸浸漬法」により製造されるステンレス鋼板の表面状態を示す模式図である。
図2】「混酸酸洗単独法」により製造されるステンレス鋼板の表面状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。
[1]フェライト系ステンレス鋼板
本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼板は、
該フェライト系ステンレス鋼板の表面が台地部と谷部とからなり、
該台地部の面積率が30~70%であり、
該台地部のSdrが0.100以下で、かつ、該谷部のSdqが0.20以上であり、
Salが50μm以下で、かつ、Strが0.30以上である。
ここで、Sdr、Sdq、SalおよびStrはそれぞれ、JIS B 0681-2:2018に規定される輪郭曲面の展開界面面積率、輪郭曲面の二乗平均平方根勾配、自己相関長さ、および、テクスチャのアスペクト比である。
【0038】
また、フェライト系とは、フェライト相を主体とした組織、具体的には、組織全体に対する面積率で80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上のフェライト相と、(フェライト相以外の)残部組織とからなる組織を有することを意味する。残部組織としては、例えば、マルテンサイト相および残留オーステナイト相が挙げられる。フェライト単相(フェライト相が組織全体に対する面積率で100%)であってもよい。
【0039】
フェライト相の面積率は、以下のようにして測定する。すなわち、供試材となるステンレス鋼板から断面観察用の試験片を作製する。ついで、試験片に王水によるエッチング処理を施してから、10視野について倍率200倍で光学顕微鏡による観察を行い、組織形状とエッチング強度からマルテンサイト相とフェライト相および残留オーステナイト相とを区別する。その後、画像処理により、視野ごとにフェライト相の面積率を求め、10視野での算術平均値を算出する。
【0040】
そして、本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼板では、
・板面を台地部と谷部により構成したうえで、それらの分率を適正に調整し、台地部を平坦化する一方、谷部を粗面化し、
・Salを50μm以下とし、かつ、Strを0.30以上とする、
ことが重要である。
【0041】
台地部の面積率:30~70%
本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼板では、台地部を平坦化する(表面起伏を小さくする)ことにより、台地部での正反射光の反射角度の分散を小さくして、鋼板の写像性を高めている。ここで、台地部の面積率が30%未満になると、鋼板における台地部での反射光の全体量が少なくなって、谷部での反射光の全体量が多くなる。この場合、谷部における乱反射光の影響を受けて、正反射光の反射角度の分散が大きくなり、鋼板の写像性が低下する。一方、台地部の面積率が70%を超えると、谷部の面積率が小さくなって、高い白色度が得られなくなる。そのため、台地部の面積率は30~70%とする。台地部の面積率は、好ましくは40%以上である。台地部の面積率は、好ましくは60%以下である。
【0042】
なお、本発明の一実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼板の表面は、台地部と谷部とにより構成されるので、台地部以外の残部は谷部となる。すなわち、谷部の面積率は30~70%となる。谷部の面積率は、好ましくは40%以上である。谷部の面積率は、好ましくは60%以下である。
【0043】
台地部のSdr:0.100以下
Sdrは、表面起伏の程度を示す指標である。すなわち、台地部のSdrが小さいことは、台地部の表面起伏が小さいことを意味する。換言すれば、台地部において、特定の方向から入射した光の正反射が起こる方向が集中しやすくなることを意味する。ここで、台地部のSdrを0.100以下とすることにより、高い写像性を得ることができる。そのため、台地部のSdrは0.100以下とする。台地部のSdrは、好ましくは0.050以下である。なお、台地部のSdrの下限は特に限定されるものではないが、台地部のSdrは0.010以上とすることが好ましい。
【0044】
谷部のSdq:0.20以上
Sdqは、表面の各微小領域の傾きの大きさを表す指標である。すなわち、谷部のSdqが大きいことは、谷部の各微小領域が、それぞれの箇所で、それぞれ大きな傾きを持つことを意味する。換言すれば、谷部への特定方向からの入射光が、バラバラな方向へ反射されやすい(ランダム化しやすい)ことを意味する。ここで、谷部のSdqを0.20以上とすることにより、高い白色度を得ることができる。そのため、谷部のSdqは0.20以上とする。谷部のSdqは、好ましくは0.40以上である。なお、谷部のSdqの上限は特に限定されるものではないが、谷部のSdqは0.80以下とすることが好ましい。
【0045】
Sal:50μm以下、かつ、Str:0.30以上
板面のザラツキを抑えるためには、板面内において「光反射特性の場所毎揺らぎ」の周期、特に、大きな高低差を有する表面凹凸の周期を短くすることが有効である。例えば、1mmおきに凹部と凸部が繰り返される表面よりも、0.1mmおきに凹部と凸部が繰り返される表面の方が、表面のザラツキは目立たない。上述したように、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期が、表面のザラツキを主に決定づけるものとなる。Salは、板面内において表面凹凸の周期が最も短い方向における、表面凹凸の周期を反映する指標である。また、Strは、板面内において表面凹凸の周期が最も短い方向と、それが最も長い方向との、表面凹凸の周期の比(表面凹凸の周期が最も短い方向での表面凹凸の周期÷表面凹凸の周期が最も長い方向での表面凹凸の周期(つまり、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期))を反映する指標である。すなわち、Salを小さくし、かつ、Strを大きくすることにより、実質的に反射特性の場所毎揺らぎの最長周期を低減して、優れた耐ザラツキ性が得られるようになる。
【0046】
ここで、Salが50μm超、または、Strが0.30未満になると、板面のザラツキが目立ち、十分な耐ザラツキ性が得られない。そのため、Salを50μm以下とし、かつ、Strを0.30以上とすることが必要である。Salは、好ましくは40μm以下、より好ましくは20μm以下である。Salの下限は特に限定されるものではないが、Salは5μm以上とすることが好ましい。また、Strは、より好ましくは0.45以上である。Strの上限は特に限定されるものではないが、Strは0.80以下とすることが好ましい。特には、Salを20μm以下とし、かつ、Strを0.45以上とすることが好適である。
【0047】
ここで、台地部の面積率および谷部の面積率、台地部のSdr、谷部のSdq、SalおよびStrはそれぞれ、以下のようにして測定する。
まず、供試材となるステンレス鋼板の表面を、共焦点式レーザー顕微鏡にて、50倍の対物レンズを用いて複数視野撮影する。ついで、各撮影データを繋ぎ合わせて、500μm角以上の領域の三次元形状データ(以降、単に「形状データ」あるいは「データ」と称する)を得る。なお、1視野のデータは、幅290μm、長さ218μmの範囲を画素数2048×1536の条件で形状測定して得る。なお、一般的には、解析の効率化の観点から、各撮影データを繋ぎ合わせる時にデータの圧縮を行う。しかし、データの圧縮を行うと各表面性状パラメータを正確に評価できないため、データの圧縮は行わない。ついで、得られた形状データからノイズを除去する(共焦点式レーザー顕微鏡法にて測定される形状データに不可避的に混入するスパイクや欠測点の除去を意味する。欠測点の除去を行う場合には、当該欠測点の高さデータを、周囲の画素から補間する。)。ついで、データ中央の500μm角領域を平面で近似して差分を取る傾斜補正を行う。ついで、当該領域に含まれる全画素の形状データの平均値を差し引いて基準面設定を行う。なお、ノイズとして除去した画素の高さを、周囲の画素の高さをもとに補完してもよい。
【0048】
ついで、傾斜補正済みデータ中央の500μm角領域を対象に、その領域中の各画素に対応する高さデータに基づき、当該領域を台地部と谷部とに分離する。まず、当該領域における高さデータの度数分布に基づき、モード法により、高さの閾値を算出する。そして、高さが当該閾値以上となる領域を台地部、それ以外の領域(高さが当該閾値未満となる領域)を谷部と確定して、台地部および谷部の面積率を算出する。
【0049】
なお、ここでいうモード法とは、高さデータの度数分布の山と山の間を検出し、検出された度数分布の山と山との境界部の高さの値を閾値として決定する、高さの閾値の算出方法である。
【0050】
具体的には、以下に示す手順で閾値を決定する。まず、対象とする500μm角領域内の高さを256段階の度数にて区分し、ついで、度数分布F()を求める。ここで、高さhにおける頻度をF(h)とする。ついで、hより低い高さで頻度F()が最大となる高さをh_low、hより高い高さで頻度F()が最大となる高さをh_highとし、hを対象とする500μm角領域内の高さの最小値から最大値まで変更しながら、hごとに(F(h_low)-F(h))×(F(h_high)-F(h))の値を求める。そして、(F(h_low)-F(h))×(F(h_high)-F(h))の値が最大となるときの高さhを、閾値とする。
【0051】
台地部のSdrは、以下のようにして測定する。
上述のようにして画定した台地部の領域の三次元形状データのみを抽出し、上記と同じ要領で、形状データの傾斜補正および基準面設定を行う。ついで、2.5μmのSフィルター(ローパスフィルター)を適用し、Lフィルター(ハイパスフィルター)および追加の形状補正を行うことなく、JIS B 0681-2:2018に準拠して台地部の範囲のSdrを算出する。
【0052】
谷部のSdqは、以下のようにして測定する。
上述のようにして画定した谷部の領域の三次元形状データのみを抽出し、上記と同じ要領で、形状データの傾斜補正および基準面設定を行う。ついで、2.5μmのSフィルター(ローパスフィルター)を適用し、Lフィルター(ハイパスフィルター)および追加の形状補正を行うことなく、JIS B 0681-2:2018に準拠して谷部の範囲のSdqを算出する。
【0053】
SalおよびStrはそれぞれ、以下のようにして測定する。
台地部と谷部を分離する際に作成した傾斜補正済みデータおよび基準面設定を用いて、2.5μmのSフィルター(ローパスフィルター)を適用し、Lフィルター(ハイパスフィルター)および追加の形状補正を行うことなく、データ中央の500μm角の領域を対象として、JIS B 0681-2:2018に準拠してSalおよびStrを算出する。
【0054】
なお、高い白色度とは、JIS Z 8781-4:2013に規定される明度指数L(以下、単にLともいう)が50以上であることを意味する。Lは、好ましくは55以上であり、より好ましくは60以上である。なお、Lの上限は特に限定されないが、Lは70以下が好ましい。
【0055】
ここで、Lは、具体的には、以下のようにして測定する。すなわち、ステンレス鋼板の圧延方向(L方向)が測定方向となるように、JIS Z 8722:2009に準拠した色測定を行う。なお、視野10度の条件とし、光源にはD65、表色系にはCIELAB(L系)を用いる。そして、条件c(de:8°)(SCE条件)により測定して得られた測定値を、Lとする。
【0056】
高い写像性とは、JIS K 7374:2007に規定される像鮮明度C(2.0)(以下、単にC(2.0)ともいう)が10%以上であることを意味する。C(2.0)は、好ましくは50%以上である。特に、Lが60以上であり、かつ、C(2.0)が50%以上であることが好ましい。なお、C(2.0)の上限は特に限定されないが、C(2.0)は95%以下が好ましい。
【0057】
ここで、C(2.0)は、具体的には、以下のようにして測定する。すなわち、JIS K 7374:2007に準拠して、反射法により、像鮮明度(%)を測定する。なお、測定方向はステンレス鋼板の圧延方向(L方向)とする。つまり、圧延方向(L方向)と光学くし目が直交する条件とする。測定角度は60度、光学くしの幅は2.0mmとする。そして、得られた像鮮明度(%)を、C(2.0)とする。
【0058】
優れた耐ザラツキ性とは、最大自己相関長さが50μm以下であることを意味する。最大自己相関長さは好ましくは35μm以下である。なお、最大自己相関長さの下限は特に限定されないが、最大自己相関長さは5μm以上が好ましい。また、最大自己相関長さの定義および測定方法は、前述のとおりである。
【0059】
なお、上記の表面性状および特性は、フェライト系ステンレス鋼板の表面の少なくとも一方の面において有していればよいが、フェライト系ステンレス鋼板の表面の両面に有していることが好ましい。
【0060】
本発明の一実施形態に係るステンレス鋼板の厚み(以下、板厚ともいう)は、特に限定されるものではないが、製造性の観点から、0.1mm以上とすることが好適である。また、板厚は4.0mm以下とすることが好適である。板厚は、より好ましくは0.5mm以上、さらに好ましくは1.0mm以上である。また、板厚は、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。
【0061】
本発明の一実施形態に係るステンレス鋼板の成分組成は特に限定されるものではないが、例えば、以下の第1の成分組成または第2の成分組成が好適である。
【0062】
・第1の成分組成
第1の成分組成は、質量%で、
C:0.001~0.150%、Si:0.01~2.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Ni:0.01~2.50%、Cr:10.5~32.0%、Al:0.001~6.5%およびN:0.001~0.100%であり、
任意に、以下の(A群)~(C群)から選ばれる1群または2群以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物である、成分組成である。
(A群)Cu:2.00%以下、Co:2.00%以下、Mo:3.00%以下およびW:2.00%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
(B群)Ti:0.50%以下、Nb:1.00%以下、V:0.50%以下およびZr:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
(C群)B:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Ca:0.0030%以下、Y:0.20%以下、REM(希土類金属):0.20%以下、Sn:0.50%以下およびSb:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
【0063】
以下、第1の成分組成について、説明する。なお、第1の成分組成は、後述する「ダル圧延硝塩酸電解法」および「ダル圧延混酸浸漬法」による製造方法に適用して特に好適である。
【0064】
C:0.001~0.150%
Cは、鋼中に固溶して鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。ここで、C含有量が0.001%未満では、この効果が十分には得られない。しかし、C含有量が0.150%を超えると、鋼板の表面に炭化物に起因した欠陥が生成しやすくなって鋼板の製造性がかえって低下する場合がある。そのため、C含有量は0.001~0.150%の範囲とすることが好ましい。C含有量は、より好ましくは0.010%以上であり、さらに好ましくは0.030%以上である。また、C含有量は、より好ましくは0.100%以下であり、さらに好ましくは0.050%以下である。
【0065】
Si:0.01~2.00%
Siは、鋼溶製時に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。また、Siには、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。これらの効果を得るため、Si含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Si含有量が2.00%を超えると、鋼板の表面に介在物に起因した欠陥が生成しやすくなって鋼板の製造性がかえって低下する場合がある。そのため、Si含有量は0.01~2.00%の範囲とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.20%以上である。また、Si含有量は、より好ましくは1.00%以下であり、さらに好ましくは0.70%以下である。
【0066】
Mn:0.01~1.00%
Mnは、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。この効果を得るため、Mn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Mn含有量が1.00%を超えると、鋼中にMnSが生成しやすくなり、これが腐食の起点となって鋼板の耐食性が低下する場合がある。そのため、Mn含有量は0.01~1.00%の範囲とすることが好ましい。
【0067】
P:0.050%以下
Pは、鋼を脆化させ、鋼板の表面に割れが生成しやすくなって鋼板の製造性を低下させる元素である。そのため、Pは、可能な限り低減することが望ましい。よって、P含有量は0.050%以下とすることが好ましい。P含有量は、より好ましくは0.040%以下である。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Pは製造コストの増加を招く。よって、P含有量は、0.010%以上とすることが好ましい。
【0068】
S:0.040%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物として鋼中に存在して、介在物に起因した表面欠陥を生成しやすくし、鋼板の製造性を低下させる元素である。そのため、Sは、可能な限り低減することが望ましく、特にS含有量が0.040%を超えると、その影響が大きくなる。そのため、S含有量は0.040%以下とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは0.020%以下であり、さらに好ましくは0.015%以下である。下限については特に限定されるものではないが、過度の脱Sは製造コストの増加を招く。よって、S含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。
【0069】
Ni:0.01~2.50%
Niは、鋼板の靱性向上に寄与し、製造過程における鋼板の破断を抑制して、鋼板の製造性を向上させる元素である。この効果を得るため、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Ni含有量が2.50%を超えると、製造過程における脱スケール工程が困難となり、鋼板の製造性が低下する場合がある。そのため、Ni含有量は0.01~2.50%の範囲とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、Ni含有量は、より好ましくは1.00%未満であり、さらに好ましくは0.30%未満である。
【0070】
Cr:10.5~32.0%
Crは、鋼板の耐食性の向上に寄与する元素である。この効果を得るため、Cr含有量は10.5%以上が好ましい。しかし、Cr含有量が32.0%を超えると、熱間圧延時に表面に肌荒れが生じやすくなって鋼板の製造性が低下する場合がある。そのため、Cr含有量は10.5~32.0%の範囲とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは12.0%以上であり、さらに好ましくは16.0%以上である。また、Cr含有量は、より好ましくは22.0%以下であり、さらに好ましくは18.0%以下である。
【0071】
Al:0.001~6.5%
Alは、Siと同様に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。この効果を得るため、Al含有量を0.001%以上とすることが好ましい。しかし、Al含有量が6.5%を超えると、鋼が脆化して割れやすくなって鋼板の製造性が低下する場合がある。そのため、Al含有量は0.001~6.5%の範囲とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.600%以下であり、さらに好ましくは0.060%以下である。
【0072】
N:0.001~0.100%
Nは、Cと同様に、鋼中に固溶して鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。ここで、N含有量が0.001%未満では、この効果が十分には得られない。しかし、N含有量が0.100%を超えると、鋼板の表面に欠陥が発生しやすくなる。そして、その欠陥自体が鋼板の板面のザラツキ度合いを決定することとなって、鋼板の板面のザラツキが目立つこととなる場合がある。そのため、N含有量は0.001~0.100%の範囲とすることが好ましい。N含有量は、より好ましくは0.005%以上であり、さらに好ましくは0.010%以上である。また、N含有量は、より好ましくは0.080%以下であり、さらに好ましくは0.050%以下である。
【0073】
以上、第1の成分組成の基本成分について説明したが、第1の成分組成では、さらに上述した(A群)~(C群)の元素を任意に含有させることができる。
【0074】
Cu:2.00%以下
Cuは、鋼板の強度を高める効果がある。この効果は、Cu含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Cu含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Cu含有量が2.00%を超えると、鋼中にε-Cu相が多く含まれるようになり、これが腐食の起点となって、鋼板の耐食性が低下する。そのため、Cuを含有させる場合、Cu含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0075】
Co:2.00%以下
Coは、鋼板の強度を高める効果がある。この効果は、Co含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Co含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Co含有量が2.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Coを含有させる場合、Co含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0076】
Mo:3.00%以下
Moは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、Mo含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Mo含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上、さらにより好ましくは0.15%以上である。しかし、Mo含有量が3.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Moを含有させる場合、Mo含有量は3.00%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.80%以下、さらに好ましくは0.60%以下、さらにより好ましくは0.45%以下である。
【0077】
W:2.00%以下
Wは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、W含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。W含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、W含有量が2.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Wを含有させる場合、W含有量は2.00%以下とすることが好ましい。W含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0078】
Ti:0.50%以下
Tiは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、Ti含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Ti含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、Ti含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Ti含有量は、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0079】
Nb:1.00%以下
Nbは、Tiと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、Nb含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Nb含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、Nb含有量が1.00%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Nbを含有させる場合、Nb含有量は1.00%以下とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.50%以下、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0080】
V:0.50%以下
Vは、TiやNbと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、V含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。V含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、V含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Vを含有させる場合、V含有量は0.50%以下とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0081】
Zr:0.50%以下
Zrは、TiやNbと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、Zr含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Zr含有量は、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。しかし、Zr含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Zrを含有させる場合、Zr含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Zr含有量は、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0082】
B:0.0050%以下
Bは、熱間圧延時の鋼板の端部割れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、B含有量が好ましくは0.0002%以上で得られる。B含有量は、より好ましくは0.0003%以上、さらに好ましくは0.0005%以上である。しかし、B含有量が0.0050%を超えると、熱間加工性が低下し、鋼板の製造性の低下を招く。そのため、Bを含有させる場合、B含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0030%以下、さらに好ましくは0.0020%以下である。
【0083】
Mg:0.0050%以下
Mgは、溶鋼中でAlとともにMg酸化物を形成し、脱酸剤として作用する。この効果は、Mg含有量が好ましくは0.0005%以上で得られる。Mg含有量は、より好ましくは0.0010%以上である。一方、Mg含有量が0.0050%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Mgを含有する場合、Mg含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは0.0030%以下である。
【0084】
Ca:0.0030%以下
Caは、溶鋼中で酸化物を形成し、脱酸剤として作用する。この効果は、Ca含有量が好ましくは0.0003%以上で得られる。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0007%以上である。しかし、Ca含有量が0.0030%を超えると、鋼中にCaSが多く生成し、これが腐食の起点となって、鋼板の耐食性が低下する。そのため、Caを含有させる場合、Ca含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0025%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。
【0085】
Y:0.20%以下
Yは、熱間圧延時の鋼板の端部割れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、Y含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Y含有量は、より好ましくは0.02%以上である。しかし、Y含有量が0.20%を超えると、熱間加工性が低下し、鋼板の製造性の低下を招く。そのため、Yを含有させる場合、Y含有量は0.20%以下とすることが好ましい。Y含有量は、より好ましくは0.05%以下である。
【0086】
REM:0.20%以下
REM(Rare Earth Metals:希土類金属)は、熱間圧延時の鋼板の端部割れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、REM含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。REM含有量は、より好ましくは0.02%以上である。しかし、REM含有量が0.20%を超えると、熱間加工性が低下し、鋼板の製造性の低下を招く。そのため、REMを含有させる場合、REM含有量は0.20%以下とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.05%以下である。なお、REMとは、周期表の第3族に属する元素(ただしYを除く)を意味する。
【0087】
Sn:0.50%以下
Snは、熱間圧延時の鋼板の肌荒れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、Sn含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Sn含有量は、より好ましくは0.03%以上である。しかし、Sn含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Snを含有させる場合、Sn含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Sn含有量は、より好ましくは0.20%以下である。
【0088】
Sb:0.50%以下
Sbは、熱間圧延時の鋼板の肌荒れを防止し、鋼板の生産性を向上させる元素である。この効果は、Sb含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Sb含有量は、より好ましくは0.03%以上である。しかし、Sb含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Sbを含有させる場合、Sb含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Sb含有量は、より好ましくは0.20%以下である。
【0089】
上記以外の成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0090】
・第2の成分組成
第2の成分組成は、質量%で、
C:0.001~0.150%、Si:0.01~1.00%、Mn:0.01~1.00%、P:0.050%以下、S:0.040%以下、Ni:0.01~0.80%、Cr:10.5~20.0%、Al:0.001~0.500%およびN:0.001~0.100%であり、
任意に、以下の(A´群)~(C´群)から選ばれる1群または2群以上を含有し、
残部がFeおよび不可避的不純物である、成分組成である。
(A´群)Cu:0.50%以下、Co:0.50%以下、Mo:0.50%以下およびW:2.00%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
(B´群)Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下、V:0.10%以下およびZr:0.05%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
(C´群)B:0.0050%以下、Mg:0.0050%以下、Ca:0.0030%以下、Y:0.20%以下、REM(希土類金属):0.20%以下、Sn:0.50%以下およびSb:0.50%以下のうちから選ばれた1種または2種以上
【0091】
以下、第2の成分組成について、説明する。なお、第2の成分組成は、後述する「混酸酸洗単独法」による製造方法に適用して特に好適である。また、基本成分のうち、Si、Mn、Ni、CrおよびAl以外の元素については、第1の成分組成と同じであるため、ここでは記載を省略する。
【0092】
Si:0.01~1.00%
Siは、鋼溶製時に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。また、Siには、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。これらの効果を得るため、Si含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Si含有量が1.00%を超えると、混酸酸洗による鋼板の表面への微細凹凸形成が起こり難くなり、白色度が低下する。そのため、Si含有量は0.01~1.00%の範囲とすることが好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.20%以上である。また、Si含有量は、より好ましくは0.60%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。
【0093】
Mn:0.01~1.00%
Mnは、鋼板の強度を高め、製造中の擦り傷を抑制して、鋼板の製造性を高める効果がある。この効果を得るため、Mn含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Mn含有量が1.00%を超えると、鋼中にMnSが生成しやすくなり、これが腐食の起点となって鋼板の耐食性が低下する場合がある。そのため、Mn含有量は0.01~1.00%の範囲とすることが好ましい。Mn含有量は、より好ましくは0.20%以上であり、さらに好ましくは0.30%以上である。また、Mn含有量は、より好ましくは0.85%以下であり、さらに好ましくは0.70%以下である。
【0094】
Ni:0.01~0.80%
Niは、鋼板の靱性向上に寄与し、製造過程における鋼板の破断を抑制して、鋼板の製造性を向上させる元素である。この効果を得るため、Ni含有量を0.01%以上とすることが好ましい。しかし、Ni含有量が0.80%を超えると、混酸酸洗による鋼板の表面への微細凹凸形成が起こり難くなり、白色度が低下する。そのため、Ni含有量は0.01~0.80%の範囲とすることが好ましい。Ni含有量は、より好ましくは0.05%以上である。また、Ni含有量は、より好ましくは0.60%以下であり、さらに好ましくは0.30%以下である。
【0095】
Cr:10.5~20.0%
Crは、鋼板の耐食性の向上に寄与する元素である。Cr含有量が10.5%未満では、十分な耐食性が得られない。しかし、Cr含有量が20.0%を超えると、混酸酸洗による鋼板の表面への微細凹凸形成が起こり難くなり、白色度が低下する。そのため、Cr含有量は10.5~20.0%の範囲とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは11.0%以上であり、さらに好ましくは13.0%以上であり、よりさらに好ましくは16.0%以上である。また、Cr含有量は、より好ましくは18.0%以下であり、さらに好ましくは16.5%以下である。
【0096】
Al:0.001~0.500%
Alは、Siと同様に脱酸剤として作用し、鋼板の表面欠陥を招く鋼中の介在物を低減して、鋼板の製造性を高める元素である。この効果を得るため、Al含有量を0.001%以上とすることが好ましい。しかし、Al含有量が0.500%を超えると、AlNやAlの生成が増加して鋼板の表面に微小な欠陥が生成しやすくなる。これらの欠陥は、特にきめ細かな板面においてはザラツキの要因として目立ち、板面のザラツキ度合いの増大を招く。そのため、Al含有量は0.001~0.500%の範囲とすることが好ましい。Al含有量は、より好ましくは0.100%以下であり、さらに好ましくは0.010%以下である。
【0097】
以上、第2の成分組成の基本成分について説明したが、第2の成分組成では、さらに上述した(A´群)~(C´群)の元素を任意に含有させることができる。また、任意添加成分のうち、Cu、Co、Mo、Ti、Nb、VおよびZr以外の元素については、第1の成分組成と同じであるため、ここでは記載を省略する。
【0098】
Cu:0.50%以下
Cuは、鋼板の強度を高める効果がある。この効果は、Cu含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Cu含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Cu含有量が0.50%を超えると、鋼中にε-Cu相が多く含まれるようになり、これが腐食の起点となって、鋼板の耐食性が低下する。そのため、Cuを含有させる場合、Cu含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Cu含有量は、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。
【0099】
Co:0.50%以下
Coは、鋼板の強度を高める効果がある。この効果は、Co含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Co含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Co含有量が0.50%を超えると、鋼板が脆化する。そのため、Coを含有させる場合、Co含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Co含有量は、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。
【0100】
Mo:0.50%以下
Moは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、Mo含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。Mo含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。しかし、Mo含有量が0.50%を超えると、混酸酸洗による鋼板の表面への微細凹凸形成が起こり難くなり、白色度が低下する。そのため、Moを含有させる場合、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.30%以下、さらに好ましくは0.15%以下である。
【0101】
Ti:0.05%以下
Tiは、鋼板の耐食性を向上させる元素である。この効果は、Ti含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。しかし、Ti含有量が0.05%を超えると、鋼板の表面に微小な欠陥が生成しやすくなる。これらの欠陥は、特にきめ細かな板面においてはザラツキの要因として目立ち、板面のザラツキ度合いの増大を招く。そのため、Tiを含有させる場合、Ti含有量は0.05%以下とする。
【0102】
Nb:0.05%以下
Nbは、Tiと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、Nb含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。しかし、Nb含有量が0.05%を超えると、鋼板の表面に微小な欠陥が生成しやすくなる。これらの欠陥は、特にきめ細かな板面においてはザラツキの要因として目立ち、板面のザラツキ度合いの増大を招く。そのため、Nbを含有させる場合、Nb含有量は0.05%以下とする。
【0103】
V:0.10%以下
Vは、TiやNbと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、V含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。しかし、V含有量が0.10%を超えると、鋼板の表面に微小な欠陥が生成しやすくなる。これらの欠陥は、特にきめ細かな板面においてはザラツキの要因として目立ち、板面のザラツキ度合いの増大を招く。そのため、Vを含有させる場合、V含有量は0.10%以下とする。
【0104】
Zr:0.05%以下
Zrは、TiやNbと同様に、鋼板の耐食性を向上させる効果がある。この効果は、Zr含有量が好ましくは0.01%以上で得られる。しかし、Zr含有量が0.05%を超えると、鋼板の表面に微小な欠陥が生成しやすくなる。これらの欠陥は、特にきめ細かな板面においてはザラツキの要因として目立ち、板面のザラツキ度合いの増大を招く。そのため、Zrを含有させる場合、Zr含有量は0.05%以下とする。
【0105】
上記以外の成分の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
【0106】
[3]フェライト系ステンレス鋼板の製造方法
つぎに、本発明の実施形態に従うフェライト系ステンレス鋼板の製造方法について、説明する。以下、「ダル圧延硝塩酸電解法」を第1の実施形態、「ダル圧延混酸浸漬法」を第2の実施形態、「混酸酸洗単独法」を第3の実施形態とも称する。
【0107】
上記第1および第2の実施形態に従う製造方法は、いずれも
冷間圧延用素材を準備する、準備工程と、
ついで、該冷間圧延用素材を冷間圧延して冷延鋼板とする、冷間圧延工程と、
ついで、該冷延鋼板を焼鈍して冷延焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該冷延焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、
をそなえる。
【0108】
また、上記第3の実施形態に従う製造方法は、
素材鋼板を準備する、準備工程と、
ついで、該素材鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板とする、焼鈍工程と、
ついで、該焼鈍鋼板を酸洗する、酸洗工程と、
ついで、該焼鈍鋼板をスキンパス圧延する、スキンパス圧延工程と、
をそなえる。
【0109】
そして、冷間圧延工程、酸洗工程および/またはスキンパス圧延工程において、所定の表面性状を得るべく、周期が異なる以下の3種類の表面凹凸を板面に付与する。なお、以下の3種類の表面凹凸のうち、A型表面凹凸およびB型表面凹凸は主に上述した谷部-台地部凹凸に該当し、C型表面凹凸は上述した微細凹凸に該当する。
A型表面凹凸:当該表面凹凸は、主に100~1000μmの凹凸周期を有する表面凹凸である。当該表面凹凸は、例えば、ダルロールを用いた冷間圧延によって、板面に付与される。
B型表面凹凸:当該表面凹凸は、主に10~100μmの凹凸周期を有する表面凹凸である。当該表面凹凸は、例えば、混酸への浸漬処理による酸洗によって、板面に付与される。
C型表面凹凸:当該表面凹凸は、主に10μm以下の凹凸周期を有する表面凹凸である。当該表面凹凸は、混酸への浸漬処理または硝塩酸水溶液での正電解処理による酸洗によって、板面に付与される。
【0110】
より具体的には、第1の実施形態であるダル圧延硝塩酸法では、主に、冷間圧延により「A型表面凹凸」を、硝塩酸水溶液での正電解処理による酸洗により「C型表面凹凸」を、板面に付与する。上述したように、耐ザラツキ性は、光反射特性の場所毎揺らぎの最長周期、換言すれば、表面凹凸の最長周期に大きく影響を受ける。すなわち、周期が最も長い表面凹凸が、板面の耐ザラツキ性の支配因子となる(表面凹凸の最長周期が長いほど板面のザラツキが目立ち、逆に短いほど、板面のザラツキは目立たず、板面は均一に(言い換えれば、きめ細かに)見える。)。そのため、第1の実施形態であるダル圧延硝塩酸法により製造された鋼板では、「A型表面凹凸」が板面の耐ザラツキ性の支配因子となる。
【0111】
第2の実施形態であるダル圧延混酸浸漬法では、主に、冷間圧延により「A型表面凹凸」を、混酸への浸漬処理による酸洗により「B型表面凹凸」および「C型表面凹凸」を、板面に付与する。ただし、ダル圧延混酸浸漬法で板面に付与される「B型表面凹凸」は、「A型表面凹凸」よりも短周期であるため、概ね「A型表面凹凸」の中に隠れて目立たない。そのため、ダル圧延混酸浸漬法で板面に付与される「B型表面凹凸」は、板面の耐ザラツキ性の支配因子とはならず、「A型表面凹凸」が板面の耐ザラツキ性の支配因子となる。この点で、ダル圧延混酸浸漬法で板面に付与される「B型表面凹凸」の耐ザラツキ性に対する影響は、後述する第3の実施形態である混酸酸洗単独法で板面に付与される「B型表面凹凸」の耐ザラツキ性に対する影響と異なる。
【0112】
第3の実施形態である混酸酸洗単独法では、主に、混酸への浸漬処理による酸洗により「B型表面凹凸」と「C型表面凹凸」とを、板面に付与する。「B型表面凹凸」は、「A型表面凹凸」と比べて短周期である。そのため、第1の実施形態によるダル圧延硝塩酸法および第2の実施形態によるダル圧延混酸浸漬法と比べて、より優れた耐ザラツキ性を有するステンレス鋼板を製造することが可能となる。
【0113】
まず、第1の実施形態である「ダル圧延硝塩酸電解法」について説明する。なお、第1の実施形態の「ダル圧延硝塩酸電解法」と、第2の実施形態の「ダル圧延混酸浸漬法」とは、酸洗工程以外、実質的に同じ工程を有する。そのため、以下、これら2つの実施形態を総称して、「ダル圧延法」とも称する。
【0114】
・第1の実施形態 「ダル圧延硝塩酸電解法」
(準備工程)
まず、冷間圧延用素材を準備する。冷間圧延用素材としては、例えば、熱延鋼板や熱延焼鈍鋼板が挙げられる。冷間圧延用素材の準備方法は特に限定されるものではない。一態様としては、例えば、転炉、電気炉、真空溶解炉等の溶解炉で溶鋼を溶製し、所定の成分組成、好適には上記した第1の成分組成の範囲を満足するように調整した溶鋼を得る。ついで、溶鋼を、連続鋳造法または造塊-分塊法等により、鋼素材(鋼スラブ)とする。ついで、鋼素材に、熱間圧延を施して熱延鋼板とする。ついで、上記の熱延鋼板に、熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とする。得られた熱延焼鈍鋼板に、必要に応じて、酸洗、ショットブラスト、表面研削等を行って脱スケール処理を施し、冷間圧延用素材とする。また、上記の熱延焼鈍鋼板に、必要に応じて、スキンパス圧延を施してもよい。
【0115】
なお、上記の熱間圧延、熱延板焼鈍の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、熱間圧延については、鋼素材を、1050~1250℃に加熱し、該温度範囲で30分~24時間保持したのち、または、鋼素材が鋳造直後で前記温度域にあれば加熱することなくそのままで、圧延を施す。なお、熱間圧延率は特に限定されず、要求される最終製品の厚みなどに応じ、適宜調整すればよい。また、熱延板焼鈍の条件としては、例えば、熱延鋼板を750~850℃の温度範囲に加熱し、該温度範囲で1時間~24時間保持する条件が挙げられる。また、熱延板焼鈍の別の条件の例としては、熱延鋼板を900℃~1100℃の温度範囲に加熱し、該温度範囲で1秒間~10分間保持する条件が挙げられる。
【0116】
(冷間圧延工程)
上記のようにして準備した冷間圧延用素材を冷間圧延し、冷延鋼板とする。そして、 最終パスで使用するダルロールとして、所定の表面凹凸を有するダルロール、具体的には、Ra:1.00μm以上、Sal:50.0μm以下で、かつ、Str:0.30以上であるダルロールを使用し、当該最終パスの圧下率を0.80%以上とすることが重要である。これにより、鋼板表面に谷部と台地部となる凹凸を形成して所定の谷部の面積率を確保することを可能ならしめる。
【0117】
最終パスで使用するダルロールのRa:1.00μm以上
最終パスで使用するダルロール(以下、最終パスロールともいう)のRaが1.00μm未満であると、ロール表面の凹凸高さが小さいために、冷延鋼板に転写されるダル目凹凸の高さが小さくなる。この場合、以降の工程を適切な条件で実施したとしても、後述するスキンパス圧延によってダル目凹凸が消失しやすくなり、スキンパス圧延後に得られる鋼板表面の谷部の面積率が不十分となる。その結果、所望の白色度が得られない。従って、最終パスロールのRaは1.00μm以上とする。最終パスロールのRaは、好ましくは2.00μm以上である。最終パスロールのRaの上限は特に限定されるものではないが、最終パスロールのRaは3.00μm以下が好ましい。なお、Raは、JIS B 0601:2013に準拠して測定する。また、Raは、ロール表面の円周方向に対して垂直方向に測定する。
【0118】
最終パスロールのSal:50.0μm以下
最終パスロールのSalが50.0μmを超えると、ロール表面の凹凸周期が長いために、冷延鋼板に転写されるダル目凹凸の周期が長くなる。この場合、以降の工程を適切な条件で実施したとしても、最終製品となる鋼板表面では周期の長いダル目凹凸が維持され、ザラツキが目立つ。そのため、所望の耐ザラツキ性が得られない。従って、最終パスロールのSalは50.0μm以下とする。最終パスロールのSalは、好ましくは35.0μm以下である。最終パスロールのSalの下限は特に限定されるものではないが、最終パスロールのSalは25.0μm以上が好ましい。
【0119】
最終パスロールのStr:0.30以上
最終パスロールのStrが0.30未満であると、Salを50.0μm以下にしたとしても、面内方向によっては、ロール表面の凹凸周期が長くなる。そのため、冷延鋼板に転写されるダル目凹凸の周期も面内方向によっては長くなる。この場合、以降の工程を適切な条件で実施したとしても、最終製品となる鋼板表面では周期の長いダル目凹凸が維持され、ザラツキが目立つ。そのため、所望の耐ザラツキ性が得られない。従って、最終パスロールのStrは0.30以上とする。最終パスロールのStrは、好ましくは0.70以上である。最終パスロールのStrの上限は特に限定されるものではないが、最終パスロールのStrは0.90以下が好ましい。
【0120】
なお、最終パスロールのSalおよびStrは、ロール表面から採取したレプリカを用いて、前述の方法により、算出する。ただし、レプリカの表面形状に、ロール形状に起因した曲面成分や、レプリカ採取時に生成したうねり成分が存在する場合には、これらが各表面性状パラメータへ与える影響を除外するために、各表面性状パラメータを算出する前に、形状データに対してF演算またはLフィルターを適用し、ロールに起因する曲面成分やレプリカに起因するうねり成分を除去する。
【0121】
最終パスの圧下率:0.80%以上
最終パスの圧下率が0.80%未満であると、冷延鋼板にダル目凹凸が十分に転写されず、冷延鋼板の表面に形成されるダル目凹凸の高さが小さくなる。この場合、以降の工程を適切な条件で実施したとしても、後述するスキンパス圧延によってダル目凹凸が消失しやすくなり、スキンパス圧延後に得られる鋼板表面の谷部の面積率が不十分となる。その結果、所望の白色度が得られない。従って、最終パスの圧下率は0.80%以上とする。最終パスの圧下率は、好ましくは0.90%以上である。最終パスの圧下率の上限は特に限定されるものではないが、最終パスの圧下率は1.50%以下が好ましい。
【0122】
上記以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、冷間圧延の総圧下率や、最終パス以外の圧延パスにおける圧下率は、最終製品となるステンレス鋼板の目標板厚に応じて、適宜、設定すればよい。また、圧延パス数についても特に限定されず、例えば4~6パスとすることが好適である。
【0123】
なお、最終パスロールは、例えば、ロール表面にショットブラスト処理や液体ホーニング処理を行うことにより準備することができる。これら処理では、処理時間が不十分であると、処理前のロール表面性状が、処理後もロール表面に一部残留し、Strが小さくなる。また、ロールに対して投射する砥粒が大きいと、Salが大きくなる。また、ロールに対する砥粒の投射速度が低いと、Raが小さくなる。そのため、ロールに対して投射する砥粒の粒度や、その投射速度を調整すること、また、十分に時間をかけてこれら処理を行うことで、ロールに所望の表面性状を形成することができる。
【0124】
(冷延板焼鈍工程)
次に、冷延鋼板を焼鈍して冷延焼鈍鋼板とする。冷延板焼鈍条件は特に限定されるものではない。一態様としては、例えば、バッチ式焼鈍炉または連続式焼鈍炉を用いて、大気などの酸化雰囲気あるいは窒素やアンモニア分解ガスなどの無酸化雰囲気にて、800℃以上1050℃以下の温度範囲に5秒以上10時間以下保持する条件が挙げられる。また、生産性の観点からは、連続式焼鈍炉を用いて、無酸化雰囲気にて、保持時間を3分間以下とすることが好ましい。
【0125】
(酸洗工程)
次に、冷延焼鈍鋼板を酸洗する。この酸洗工程では、処理条件を、
処理液:塩酸濃度が0.10~5.00質量%で、かつ、硝酸濃度が10.0~20.0質量%である硝塩酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:1.0~60.0秒
電流密度:5.0~20.0A/dm
とした正電解処理を行う。当該処理により、鋼板の表面に微細凹凸を形成して谷部を粗面化する。
【0126】
処理液の塩酸濃度:0.10~5.00質量%
処理液の塩酸濃度が0.10質量%未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理液の塩酸濃度が5.00質量%を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理液の塩酸濃度は0.10~5.00質量%とする。処理液の塩酸濃度は、好ましくは0.40質量%以上である。また、処理液の塩酸濃度は、好ましくは1.00質量%以下である。
【0127】
処理液の硝酸濃度:10.0~20.0質量%
処理液の硝酸濃度が10.0質量%未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理液の硝酸濃度が20.0質量%を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理液の硝酸濃度は10.0~20.0質量%とする。
【0128】
なお、処理液となる水溶液(硝塩酸水溶液)には、上記の塩酸濃度および硝酸濃度が確保されていれば、FeイオンやCrイオンをはじめとした、酸洗用処理液として一般的な不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0129】
処理温度(処理液の温度):30~65℃
処理温度が30℃未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理温度が65℃を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理温度は30~65℃とする。
【0130】
処理時間(処理液中での電解時間):1.0~60.0秒
処理時間が1.0秒未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理時間が60.0秒を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理時間は1.0~60.0秒とする。
【0131】
電流密度:5.0~20.0A/dm
正電解処理における電流密度が5.0A/dm未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、正電解処理における電流密度が20.0A/dmを超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、正電解処理における電流密度は5.0~20.0A/dmとする。
【0132】
なお、正電解処理は、複数回に分けて行ってもよい。複数回に分ける場合、いずれの処理でも、処理液の塩酸濃度および硝酸濃度、処理温度、ならびに、電流密度は上記の範囲内とする。また、各処理の処理時間の合計は、上記の範囲(1.0~60.0秒)とする。
【0133】
また、一般的な製造ライン設備構成では、正電解処理を行う前後に、鋼板に逆電解処理が施される。ここで、逆電解処理を行ってもよく、逆電解処理の電解電流密度などについては制限がない。なお、上記の処理時間には、逆電解処理による処理時間は含まない。
【0134】
上記の正電解処理による酸洗の前後に、別途、別の酸洗処理を行ってもよい。例えば、冷延板焼鈍を酸化雰囲気中で行った場合には、上記の正電解処理による酸洗前に、スケール除去を目的に、硫酸ナトリウム水溶液を用いた電解処理を行ってもよい。また、上記の正電解処理による酸洗後に、不動態化処理を目的に、硝酸水溶液中への浸漬処理、および、硝酸水溶液を用いた電解処理を行ってもよい。
【0135】
(スキンパス圧延工程)
ついで、酸洗した冷延焼鈍鋼板をスキンパス圧延する。ここでは、使用するダルロール(以下、スキンパスロールともいう)として、Ra:0.30μm以下であるダルロールを使用し、伸び率を0.10~3.00%とすることが重要である。これにより、冷間圧延により形成した凹凸の凸部を均して台地部を形成し、同時に、台地部の微細凹凸を平坦化して、写像性を高める。
【0136】
スキンパスロールのRa:0.30μm以下
スキンパスロールのRaが0.30μmを超えると、酸洗工程で粗面化した台地部を十分に平坦化させることができず、所望の写像性が得られない。従って、スキンパスロールのRaは0.30μm以下とする。スキンパスロールのRaに下限は特に限定されるものではないが、Raが過剰に小さいと圧延荷重が高くなる。また、鋼板表面に圧延欠陥が生じやすくなって、生産性が低下する。そのため、スキンパスロールのRaは0.10μm以上が好ましい。なお、Raは、JIS B 0601:2013に準拠して測定する。また、Raは、ロール表面の円周方向に対して垂直方向に測定する。
【0137】
伸び率:0.10~3.00%
スキンパス圧延の伸び率が0.10%未満であると、鋼板表面の台地部の面積率が不十分となる。その結果、所望の写像性が得られない。一方、スキンパス圧延の伸び率が3.00%を超えると、鋼板表面の谷部の面積率が不十分となる。その結果、所望の白色度が得られない。そのため、伸び率は0.10~3.00%とする。伸び率は、好ましくは1.50%以下である。
【0138】
スキンパス圧延は1パスで行ってもよく、複数パスで行ってもよい。スキンパス圧延を複数パスで行った場合には、複数パスにより総計した伸び率を上記の範囲(0.10~3.00%)とする。また、スキンパス圧延の伸び率(スキンパス伸び率)(%)は、次式により算出する。
伸び率(%)=(スキンパス圧延後のステンレス鋼板の長さ)/(スキンパス圧延前のステンレス鋼板長さ)×100-100
【0139】
また、スキンパスロールのロール径および圧延時の鋼板速度は特に限定されないが、例えば、ロール径400~500mmのスキンパスロールを用いて、鋼板速度を50~200mpmとする。また、スキンパス圧延時には、鋼板に張力をかけてもよい。張力は特に限定されないが、例えば、3kgf/mm以上6kgf/mm以下とすることが好ましい。
【0140】
上記以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
【0141】
・第2の実施形態 「ダル圧延混酸浸漬法」
次に、第2の実施形態である「ダル圧延混酸浸漬法」について説明する。上述したように、第1の実施形態の「ダル圧延硝塩酸電解法」と、第2の実施形態の「ダル圧延混酸浸漬法」とは、酸洗工程以外、実質的に同じ工程を有する。そのため、以下、ここでは酸洗工程のみを説明し、それ以外の工程については説明を省略する。
【0142】
(酸洗工程)
第2の実施形態による酸洗工程では、処理条件を、
処理液:フッ酸濃度:1.0~8.0質量%で、かつ、硝酸濃度:2.0~12.0質量%である混酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:25~600秒
とした浸漬処理を行う。当該処理により、鋼板の表面に微細凹凸を形成して谷部を粗面化する。
【0143】
処理液のフッ酸濃度:1.0~8.0質量%
処理液のフッ酸濃度が1.0質量%未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理液のフッ酸濃度が8.0質量%を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理液のフッ酸濃度は1.0~8.0質量%とする。処理液のフッ酸濃度は、好ましくは3.0質量%以上である。また、処理液のフッ酸濃度は、好ましくは4.0質量%以下である。
【0144】
処理液の硝酸濃度:2.0~12.0質量%
処理液の硝酸濃度が2.0質量%未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。また、処理液の硝酸濃度が12.0質量%を超える場合も、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。従って、処理液の硝酸濃度は2.0~12.0質量%とする。処理液の硝酸濃度は、好ましくは4.0質量%以上である。また、処理液の硝酸濃度は、好ましくは7.0質量%以下である。
【0145】
なお、処理液となる水溶液(混酸水溶液)には、上記のフッ酸濃度および硝酸濃度が確保されていれば、FeイオンやCrイオンをはじめとした、酸洗用処理液として一般的な不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0146】
処理温度(処理液の温度):30~65℃
処理温度が30℃未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理温度が65℃を超えると、有害なガスが発生して地球環境に悪影響を与える。また、生産性が低下する。従って、処理温度は30~65℃とする。処理温度は、好ましくは45℃以上である。処理温度は、好ましくは60℃以下である。
【0147】
処理時間(処理液中での浸漬時間):25~600秒
処理時間が25秒未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理時間が600秒を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理時間は25~600秒とする。処理時間は、好ましくは40秒以上である。処理時間は、好ましくは100秒以下である。
【0148】
なお、上記の浸漬処理による酸洗の前後に、別途、別の酸洗処理を行ってもよい。例えば、冷延板焼鈍を酸化雰囲気中で行った場合には、上記の浸漬処理による酸洗前に、スケール除去を目的に、硫酸ナトリウム水溶液を用いた電解処理を行ってもよい。また、上記の浸漬処理による酸洗後に、不動態化処理を目的に、硝酸水溶液中への浸漬処理、および、硝酸水溶液を用いた電解処理を行ってもよい。
【0149】
・第3の実施形態 「混酸酸洗単独法」
次に、第3の実施形態 「混酸酸洗単独法」について説明する。
【0150】
(準備工程)
まず、Ra:0.20μm以下、かつ、RSm:50.0μm以下である素材鋼板を準備する。
【0151】
素材鋼板のRa:0.20μm以下
素材鋼板のRaが0.20μmを超えると、後述する酸洗およびスキンパス圧延を行っても、最終製品として得られる鋼板の表面に素材鋼板段階の表面テクスチャが過度に残存する。すなわち、板面のザラツキが目立ち、所望の耐ザラツキ性が得られない。従って、素材鋼板のRaは0.20μm以下とする。素材鋼板のRaは、好ましくは0.15μm以下である。素材鋼板のRaの下限は特に限定されるものではないが、素材鋼板のRaは好ましくは0.08μm以上である。
【0152】
素材鋼板のRSm:50.0μm以下
素材鋼板のRSmが50.0μmを超えると、最終製品として得られる鋼板の表面に残存する素材鋼板段階の筋模様が、板面のザラツキを助長し、所望の耐ザラツキ性が得られない。従って、素材鋼板のRSmは50.0μm以下とする。素材鋼板のRSmは、好ましくは25.0μm以下である。素材鋼板のRSmの下限は特に限定されるものではないが、素材鋼板のRSmは好ましくは5.0μm以上である。特に、素材鋼板は、Ra:0.15μm以下、かつ、RSm:25.0μm以下であることが好ましい。
【0153】
なお、RaおよびRSmは、JIS B 0601:2013に準拠して測定する。また、RaおよびRSmは、鋼板の圧延方向に対して垂直方向に測定する。
【0154】
上記の素材鋼板の準備方法は特に限定されるものではない。一態様としては、例えば、所定の成分組成、好適には上記した第2の成分組成を有する熱延鋼板や熱延焼鈍鋼板といった冷間圧延用素材に、冷間圧延を施し、その際、最終パスにおいてRa:0.20μm以下、かつ、RSm:50.0μm以下である圧延ロール(研磨ロール)を使用して圧延することにより、上記の素材鋼板を準備することができる。上記以外の冷間圧延の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。例えば、冷間圧延の総圧下率や、最終パス以外の圧延パスにおける圧下率は、最終製品となるステンレス鋼板の目標板厚に応じて、適宜、設定すればよい。なお、冷間圧延の総圧下率は、特に限定されるものではないが、鋼板の形状平坦化の観点から、40%以上とすることが好ましい。また、圧延パス数についても特に限定されず、例えば、7~11パスとすることが好適である。また、最終パスの圧下率についても特に限定されず、例えば12~18%とすることが好適である。また、熱延鋼板や熱延焼鈍鋼板といった冷間圧延用素材の準備方法としては、例えば、上述した第1の実施形態で述べた態様が挙げられる。
【0155】
なお、圧延ロールの表面調整では、一般的に、圧延ロールに生成したキズを除去することを目的とした粗研磨と、ついで、粗研磨後の仕上研磨とが行われる。Raは、仕上研磨により、所望の範囲に調整することができる。一方、RSmは、主に、仕上研磨で除去しきれないほどの強い研磨目が、粗研磨において圧延ロール表面に所々で局所的に形成された場合に大きな値となる。このような強い研磨目を仕上研磨で除去する、または、無視できる程度に小さくするには、仕上研磨に多くの時間がかかることとなる。よって、RSmを所望の範囲とするためには、粗研磨において、砥石の圧延ロールへの押付圧力を高くし過ぎないなど、強い研磨目を圧延ロール表面に生成させない注意が必要である。
【0156】
また、上記以外の方法としては、例えば、常法に従う冷間圧延を行い、得られた冷延鋼板の表面に600番以上の番手による研磨を十分に施すことによって、素材鋼板の表面性状を上記の範囲とする方法が挙げられる。
【0157】
(焼鈍工程)
次に、素材鋼板を焼鈍して焼鈍鋼板とする。焼鈍条件は特に限定されるものではない。一態様としては、例えば、バッチ式焼鈍炉または連続式焼鈍炉を用いて、大気などの酸化雰囲気あるいは窒素やアンモニア分解ガスなどの無酸化雰囲気にて、800℃以上1050℃以下の温度範囲に5秒以上10時間以下保持する条件が挙げられる。また、生産性の観点からは、連続式焼鈍炉を用いて、無酸化雰囲気にて、保持時間を3分間以下とすることが好ましい。
【0158】
(酸洗工程)
次に、焼鈍鋼板を酸洗する。この酸洗工程では、処理条件を、
処理液:フッ酸濃度が1.0~8.0質量%で、かつ、硝酸濃度:2.0~12.0質量%である混酸水溶液
処理温度:30~65℃
処理時間:25~600秒
とした浸漬処理を行う。当該処理により、鋼板表面に谷部となる凹凸を形成し、同時に、鋼板の表面に微細凹凸を形成して谷部を粗面化する。
【0159】
処理液のフッ酸濃度:1.0~8.0質量%
処理液のフッ酸濃度が1.0質量%未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理液のフッ酸濃度が8.0質量%を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理液のフッ酸濃度は1.0~8.0質量%とする。
【0160】
処理液の硝酸濃度:2.0~12.0質量%
処理液の硝酸濃度が2.0質量%未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。また、処理液の硝酸濃度が12.0質量%を超える場合も、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。従って、処理液の硝酸濃度は2.0~12.0質量%とする。処理液の硝酸濃度は、好ましくは4.0質量%以上である。また、処理液の硝酸濃度は、好ましくは7.0質量%以下である。
【0161】
なお、処理液となる水溶液(混酸水溶液)には、上記のフッ酸濃度および硝酸濃度が確保されていれば、FeイオンやCrイオンをはじめとした、酸洗用処理液として一般的な不可避的不純物が含まれていてもよい。
【0162】
処理温度(処理液の温度):30~65℃
処理温度が30℃未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理温度が65℃を超えると、有害なガスが発生して地球環境に悪影響を与える。また、生産性が低下する。従って、処理温度は30~65℃とする。
【0163】
処理時間(処理液中での浸漬時間):25~600秒
処理時間が25秒未満であると、鋼板表面での微細凹凸の形成が不十分となり、谷部が十分に粗面化されず、所望の白色度が得られない。一方、処理時間が600秒を超えると、鋼板表面での微細凹凸の形成が過剰となり、その後のスキンパス圧延を適切に実施したとしても、台地部に微細凹凸が残存する。そのため、所望の写像性が得られない。従って、処理時間は25~600秒とする。
【0164】
なお、上記の浸漬処理による酸洗の前後に、別途、別の酸洗処理を行ってもよい。例えば、冷延板焼鈍を酸化雰囲気中で行った場合には、上記の浸漬処理による酸洗前に、スケール除去を目的に、硫酸ナトリウム水溶液を用いた電解処理を行うことが好ましい。また、上記の浸漬処理による酸洗後に、不動態化処理を目的に、硝酸水溶液中への浸漬処理、および、硝酸水溶液を用いた電解処理を行ってもよい。別の酸洗処理では、酸洗減量を5g/m以下とすることが好ましい。
【0165】
(スキンパス圧延工程)
ついで、酸洗した焼鈍鋼板をスキンパス圧延する。ここでは、スキンパスロールとして、Ra:0.09μm以下であるダルロールを使用し、伸び率を0.10~1.50%とすることが重要である。これにより、酸洗により鋼板表面に形成した凹凸の凸部を均して台地部を形成し、同時に、台地部の微細凹凸を平坦化して、写像性を高める。
【0166】
スキンパスロールのRa:0.09μm以下
スキンパスロールのRaが0.09μmを超えると、酸洗工程で粗面化した台地部を十分に平坦化させることができず、所望の写像性が得られない。従って、スキンパスロールのRaは0.09μm以下とする。なお、Raは、JIS B 0601:2013に準拠して測定する。また、Raは、ロール表面の円周方向に対して垂直方向に測定する。なお、本第3の実施形態においては、上述のダル圧延法による第1および第2の実施形態と比較して、スキンパスロールのRaの上限値が小さい。この理由は、本第3の実施形態の混酸酸洗にて板面に付与される表面凹凸(B型表面凹凸)は、ダル圧延法においてダル圧延により板面に付与される表面凹凸(A型表面凹凸)と比べて、凹部の深さが小さいので、本第3の実施形態においてRaが高いスキンパスロールを用いると、前記凹部が消失しやすく、最終製品において所望の白色度が得られない、ためである。なお、スキンパスロールのRaに下限は特に限定されるものではないが、スキンパスロールのRaは0.01μm以上が好ましい。
【0167】
伸び率:0.10~1.50%
スキンパス圧延の伸び率が0.10%未満であると、鋼板表面の台地部の面積率が不十分となる。その結果、所望の写像性が得られない。一方、スキンパス圧延の伸び率が1.50%を超えると、鋼板表面の谷部の面積率が不十分となる。その結果、所望の白色度が得られない。そのため、伸び率は0.10~1.50%とする。
【0168】
スキンパス圧延は1パスで行ってもよく、複数パスで行ってもよい。スキンパス圧延を複数パスで行った場合には、複数パスにより総計した伸び率を上記の範囲(0.10~1.50%)とする。また、スキンパス圧延の伸び率(スキンパス伸び率)(%)は、次式により算出する。
伸び率(%)=(スキンパス圧延後のステンレス鋼板の長さ)/(スキンパス圧延前のステンレス鋼板長さ)×100-100
【0169】
また、スキンパスロールのロール径および圧延時の鋼板速度は特に限定されないが、例えば、ロール径800~900mmのスキンパスロールを用いて、鋼板速度を40~50mpmとする。また、スキンパス圧延時には、鋼板に張力をかけてもよい。張力は特に限定されないが、例えば、20kgf/mm以上30kgf/mm以下とすることが好ましい。
【0170】
上記以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
【実施例
【0171】
(実施例1)
表1に示す成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する鋼を、100kg鋼塊に溶製した後、該鋼塊を1150℃で1時間加熱し、ついで、熱間圧延を行って、板厚:3.5mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、鋼種1Kおよび1Pは900℃で、鋼種1Qおよび1Uは1040℃で、鋼種1Sおよび1Tは950℃でそれぞれ20秒間保持する熱延板焼鈍を施し、その他の鋼種については800℃で10時間保持する熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とした。ついで、この熱延焼鈍鋼板の表裏面を研削してスケールを除去し、冷間圧延用素材を準備した。
【0172】
ついで、準備した冷間圧延用素材に、表2に示す条件の冷間圧延を施して、板厚1.0mmの冷延鋼板を得た。なお、冷間圧延における圧延パス数はいずれも、9~11パスとした。
【0173】
ついで、冷延鋼板に冷延板焼鈍を施して、冷延焼鈍鋼板を得た。ここで、鋼種1K、1P、1Q、1S、1T、1Uについては、3.5体積%水素-96.5体積%窒素雰囲気中で、980℃で1分間保持する条件とした。その他の鋼種については、3.5体積%水素-96.5体積%窒素雰囲気中で、850℃で1分間保持する条件とした。
【0174】
ついで、冷延焼鈍鋼板に、表2に示す条件で第1の実施形態に従う酸洗を施した。ついで、冷延焼鈍鋼板に、表2に示す条件でスキンパス圧延を施し、フェライト系ステンレス鋼板を得た。
【0175】
得られたフェライト系ステンレス鋼板を、300mm長さ×200mm幅に切り出し、上述の要領で鋼組織の同定および各種表面性状(台地部の面積率、谷部の面積率、台地部のSdr、谷部のSdq、SalおよびStr)の測定を行った。結果を表2に併記する。なお、各種表面性状および後述する(イ)~(ハ)の評価については、フェライト系ステンレス鋼板の表面の両面で行ったが、両面でほぼ同じ結果が得られたため、ここでは一方の結果を代表して記載している(実施例2および3についても同様である。)。また、最終的に得られたフェライト系ステンレス鋼板の成分組成は、表1に記載した各鋼種の成分組成と実質的に同じであり、いずれも第1の成分組成の範囲を満足するものであった。さらに、それらの組織が面積率で95%超のフェライト相を含むものであることを確認した。
【0176】
各種表面性状の測定では、(株)キーエンス製の共焦点式レーザー顕微鏡VK250/260を使用した。また、(株)キーエンス製のマルチファイル解析アプリケーションVK-H1XMおよび解析アプリケーションVK-H1XA、ならびに、三谷商事(株)の画像解析ソフトWinROOF2015を用いた。
【0177】
なお、上記の各種表面性状の測定では、開口数0.55である50倍の対物レンズを用いた。測定上下限および明るさは自動設定とし、RPD(Real Peak Detection)方式にて高さピッチ0.18μmの測定条件とした。なお、RPD方式とは、特定の高さピッチで測定し、各高さで得られたレーザー光の反射強度データから、真の焦点高さを演算で検出する方式である。また、解析におけるノイズ除去には、閾値を5000としたDCL補正、高さカットレベルを100としたスパイク除去補正を用いた。また、台地部と谷部との分離は、高さデータにもとづきモード法を用いて、閾値(分離境界)を決定した。
【0178】
また、得られたフェライト系ステンレス鋼板について、上述の要領により、以下の基準で、(イ)白色度、(ロ)写像性、および、(ハ)耐ザラツキ性を評価した。評価結果を表2に併記する。
(イ)白色度
◎(合格、特に優れる):Lが60以上
〇(合格):Lが50以上60未満
×(不合格):Lが50未満
(ロ)写像性
◎(合格、特に優れる):C(2.0)が50%以上
〇(合格):C(2.0)が10%以上50%未満
×(不合格):C(2.0)が10%未満
(ハ)耐ザラツキ性
◎(合格、特に優れる):最大自己相関長さが35μm以下
○(合格):最大自己相関長さが35μm超50μm以下
×(不合格):最大自己相関長さが50μm超
【0179】
なお、(イ)白色度の評価には、コニカミノルタ(株)製のCM-600dを用いた。(ハ)耐ザラツキ性の評価において、板面画像の撮影には、オリンパス(株)製の光学顕微鏡DSX-510を用いた。また、得られた板面画像の画像処理には、三谷商事(株)の画像解析ソフトWinROOF2015、および、Python(オープンソース)を用いた。なお、画像の撮影においては、5倍の対物レンズであるMPLFLN5XBDPを用い、ズーム倍率は1倍(総合倍率69倍)、コントラスト補正はON、露光はオート、ライト明るさは10000、の条件で、同軸落射照明法を用い4.1mm角領域の明視野像を画素数1194×1194にて撮影した。画像へのローカットフィルター適用においては、WinROOF2015のバックグラウンド除去機能を用い、物体サイズの設定を1000μmとした。また、自己相関画像を生成するための高速フーリエ変換処理および高速逆フーリエ変換処理には、Pythonにおける数値計算ライブラリの1つであるNumpyにおける変換アルゴリズム(FFTPACKにて実装されたアルゴリズム)を用いた。また、自己相関画像を二値化するための基準値は0.02とした。また、解析対象の領域の絶対最大長の測定には、WinROOF2015の形状特徴計測を用いた。
【0180】
【表1】
【0181】
【表2】
【0182】
表2に示したように、発明例ではいずれも、上記(イ)、(ロ)および(ハ)の要求特性を満足していた。
【0183】
一方、比較例ではいずれも、上記(イ)、(ロ)および(ハ)の要求特性のうちの少なくとも1つを満足していなかった。
【0184】
試験No.1-44の比較例は、冷間圧延の最終パスロールのRaが適正範囲に満たなかったために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-45の比較例は、冷間圧延の最終パスロールのSalが適正範囲を超えていたために、鋼板表面のSalが高くなり、所望の耐ザラツキ性が得られず、ザラツキが目立った。
試験No.1-46の比較例は、冷間圧延の最終パスロールのStrが適正範囲に満たなかったために、鋼板表面のStrが低くなり、所望の耐ザラツキ性が得られず、ザラツキが目立った。
試験No.1-47の比較例は、冷間圧延の最終パスでの圧下率が適正範囲に満たなかったために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-48の比較例は、処理温度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-49の比較例は、処理温度が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-50の比較例は、処理液の塩酸濃度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-51の比較例は、処理液の塩酸濃度が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-52の比較例は、処理液の硝酸濃度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-53の比較例は、処理液の硝酸濃度が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-54の比較例は、電流密度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-55の比較例は、電流密度が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-56の比較例は、処理時間が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.1-57の比較例は、処理時間が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-58の比較例は、スキンパスロールのRaが適正範囲を超えたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-59の比較例は、スキンパス圧延の伸び率が適正範囲に満たなかったために、台地部の面積率が低く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.1-60の比較例は、スキンパス圧延の伸び率が適正範囲を超えたために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
【0185】
(実施例2)
実施例1と同様にして得た冷延焼鈍鋼板(冷間圧延条件は表3に示すとおりである)に、表3に示す条件で第2の実施形態に従う酸洗を施した。ついで、冷延焼鈍鋼板に、表3に示す条件でスキンパス圧延を施し、フェライト系ステンレス鋼板を得た。
【0186】
得られたフェライト系ステンレス鋼板を、300mm長さ×200mm幅に切り出し、実施例1と同じ要領で、鋼組織の同定および各種表面性状(台地部の面積率、谷部の面積率、台地部のSdr、谷部のSdq、SalおよびStr)の測定を行った。結果を表3に併記する。また、最終的に得られたフェライト系ステンレス鋼板の成分組成は、表1に記載した各鋼種の成分組成と実質的に同じであり、いずれも第1の成分組成の範囲を満足するものであった。さらに、それらの組織が面積率で95%超のフェライト相を含むものであることを確認した。
【0187】
また、得られたフェライト系ステンレス鋼板について、実施例1と同じ要領により、実施例1と同じ基準で、(イ)白色度、(ロ)写像性、および、(ハ)耐ザラツキ性を評価した。結果を表3に併記する。
【0188】
【表3】
【0189】
表3に示したように、発明例ではいずれも、上記(イ)、(ロ)および(ハ)の要求特性を満足していた。また、第2の実施形態に従うダル圧延混酸浸漬法を用いて製造した(実施例2)の発明例はいずれも、第1の実施形態に従うダル圧延硝塩酸電解法を用いて製造した(実施例1)の発明例に比べて、白色度の評価が同等以上であり、好ましい製造条件を用いて製造した例(試験No.2-1~2-26)では、特に白色度の評価が高かった。
【0190】
一方、比較例ではいずれも、上記(イ)、(ロ)および(ハ)の要求特性のうちの少なくとも1つを満足していなかった。
【0191】
試験No.2-42の比較例は、冷間圧延の最終パスロールのRaが適正範囲に満たなかったために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-43の比較例は、冷間圧延の最終パスロールのSalが適正範囲を超えていたために、鋼板表面のSalが高くなり、所望の耐ザラツキ性が得られず、ザラツキが目立った。
試験No.2-44の比較例は、冷間圧延の最終パスロールのStrが適正範囲に満たなかったために、鋼板表面のStrが低くなり、所望の耐ザラツキ性が得られず、ザラツキが目立った。
試験No.2-45の比較例は、冷間圧延の最終パスでの圧下率が適正範囲に満たなかったために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-46の比較例は、処理温度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-47の比較例は、処理液のフッ酸濃度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-48の比較例は、処理液のフッ酸濃度が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.2-49の比較例は、処理液の硝酸濃度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-50の比較例は、処理液の硝酸濃度が適正範囲を超えていたために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-51の比較例は、処理時間が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.2-52の比較例は、処理時間が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.2-53の比較例は、スキンパスロールのRaが適正範囲を超えたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.2-54の比較例は、スキンパス圧延の伸び率が適正範囲に満たなかったために、台地部の面積率が低く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.2-55の比較例は、スキンパス圧延の伸び率が適正範囲を超えたために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
【0192】
(実施例3)
表4に示す成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する鋼を、100kg鋼塊に溶製した後、該鋼塊を1150℃で1時間加熱し、ついで、熱間圧延を行って、板厚:3.5mmの熱延鋼板とした。この熱延鋼板に、800℃で10時間保持する熱延板焼鈍を施して熱延焼鈍鋼板とした。ついで、この熱延焼鈍鋼板の表裏面を研削してスケールを除去した。ついで、この熱延焼鈍鋼板に、クラスターミルによる冷間圧延を施して、表5に示すRaおよびRSmを有する板厚1.0mmの素材鋼板(冷延鋼板)を準備した。なお、冷間圧延の最終パスでは、研磨方法が異なる方法で研磨して製造した複数種の圧延ロールを用いて、素材鋼板のRaおよびRSmを種々調整した。また、冷間圧延の最終パスにおける圧下率は15~17%とした。
【0193】
ついで、素材鋼板に焼鈍を施して、焼鈍鋼板(冷延焼鈍鋼板)を得た。焼鈍は、水素25体積%-窒素75体積%の混合雰囲気中で850℃に1分間保持する条件とした。
【0194】
ついで、焼鈍鋼板に、表5に示す条件で第3の実施形態に従う酸洗を施した。ついで、焼鈍鋼板に、表5に示す条件でスキンパス圧延を施し、フェライト系ステンレス鋼板を得た。
【0195】
得られたフェライト系ステンレス鋼板を、300mm長さ×200mm幅に切り出し、実施例1と同じ要領で、鋼組織の同定および各種表面性状(台地部の面積率、谷部の面積率、台地部のSdr、谷部のSdq、SalおよびStr)の測定を行った。結果を表5に併記する。また、最終的に得られたフェライト系ステンレス鋼板の成分組成は、表4に記載した各鋼種の成分組成と実質的に同じであり、鋼種2Tを用いた試験No.3-45を除き、いずれも第2の成分組成の範囲を満足するものであった。さらに、それらの組織が面積率で95%超のフェライト相を含むものであることを確認した。
【0196】
また、得られたフェライト系ステンレス鋼板について、実施例1と同じ要領により、実施例1と同じ基準で、(イ)白色度、(ロ)写像性、および、(ハ)耐ザラツキ性を評価した。結果を表5に併記する。
【0197】
【表4】
【0198】
【表5】
【0199】
表5に示したように、発明例ではいずれも、上記(イ)、(ロ)および(ハ)の要求特性を満足していた。また、第3の実施形態に従う混酸酸洗単独法を用いて製造した(実施例3)の発明例はいずれも、第1の実施形態および第2の実施形態に従うダル圧延法を用いて製造した(実施例1および2)の発明例に比べて、各要求特性の評価が同等以上であり、好ましい製造条件を用いて製造した例(試験No.3-1~3-19)では、特に各要求特性の評価が高かった。
【0200】
一方、比較例ではいずれも、上記(イ)、(ロ)、および(ハ)の要求特性のうちの少なくとも1つを満足していなかった。
【0201】
すなわち、試験No.3-33の比較例は、素材鋼板のRaが適正範囲を超えたために、鋼板表面のStrが高くなり、所望の耐ザラツキ性が得られず、ザラツキが目立った。
試験No.3-34の比較例は、素材鋼板のRSmが適正範囲を超えたために、鋼板表面のSalが高くなり、所望の耐ザラツキ性が得られず、ザラツキが目立った。
試験No.3-35比較例は、処理温度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.3-36の比較例は、処理液のフッ酸濃度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.3-37の比較例は、処理液のフッ酸濃度が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.3-38の比較例は、処理液の硝酸濃度が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.3-39の比較例は、処理液の硝酸濃度が適正範囲を超えていたために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.3-40の比較例は、処理時間が適正範囲に満たなかったために、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.3-41の比較例は、処理時間が適正範囲を超えていたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.3-42の比較例は、スキンパスロールのRaが適正範囲を超えたために、台地部のSdrが高く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.3-43の比較例は、スキンパス圧延の伸び率が適正範囲に満たなかったために、台地部の面積率が低く、所望の写像性が得られなかった。
試験No.3-44の比較例は、スキンパス圧延の伸び率が適正範囲を超えたために、谷部の面積率が低く、所望の白色度が得られなかった。
試験No.3-45の比較例は、谷部のSdqが低く、所望の白色度が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0202】
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、業務用冷蔵庫のパネルをはじめ、エレベータの内板やシンクの天板、家電製品部材、インテリアなどの落ち着いた色調が要求される耐食部材への適用に、特に好適である。
【要約】
高い白色度と高い写像性とを兼備するフェライト系ステンレス鋼板を、提供する。フェライト系ステンレス鋼板において、その表面を台地部と谷部とから構成し、該台地部の面積率を30~70%、該台地部のSdrを0.100以下、該谷部のSdqを0.20以上、Salを50μm以下、かつ、Strを0.30以上とする。
図1
図2