(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】立方晶窒化ホウ素焼結体、及び立方晶窒化ホウ素焼結体を備える工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5835 20060101AFI20221004BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C04B35/5835
B23B27/14
(21)【出願番号】P 2022543547
(86)(22)【出願日】2021-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2021039446
(87)【国際公開番号】W WO2022092071
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2022-07-15
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/040456
(32)【優先日】2020-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮本 敬太
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
(72)【発明者】
【氏名】植田 暁彦
(72)【発明者】
【氏名】松川 倫子
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0069225(US,A1)
【文献】特開昭55-126581(JP,A)
【文献】特開昭62-228449(JP,A)
【文献】特開2012-157939(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5835
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化ホウ素粒子と、結合相とを含む立方晶窒化ホウ素焼結体であって、
前記結合相は、窒化アルミニウムと二ホウ化アルミニウムとを含み、
前記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、前記立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対して、70体積%以上97体積%以下であり、
前記立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、5×10
-3Ωcm以下であり、
前記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、前記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する金属アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、1.0%未満であり、
前記立方晶窒化ホウ素粒子は、粒径が2μm以下である微粒子と、粒径が5μm以上である粗粒子とを含み、
前記粗粒子は、粒径が12μmを超える超粗粒子を含んでいてもよく、
前記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
前記微粒子の含有割合αが10体積%以上であり、
前記粗粒子の含有割合βが30体積%以上であり、
前記超粗粒子の含有割合γが25体積%以下であり、
前記微粒子の含有割合αと前記粗粒子の含有割合βとの合計が50体積%以上100体積%以下である、立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項2】
前記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
前記微粒子の含有割合αが10体積%以上20体積%以下であり、
前記粗粒子の含有割合βが30体積%以上90体積%以下であり、
前記超粗粒子の含有割合γが0体積%超25体積%以下である、請求項1に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項3】
前記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、前記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する前記二ホウ化アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、3.9%以上である、請求項1又は請求項2に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項4】
前記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面において観察されるボイドの面積比率は、0.05%以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の立方晶窒化ホウ素焼結体を備える工具。
【請求項6】
前記立方晶窒化ホウ素焼結体上に設けられている被膜を更に備え、
前記被膜は、R200μm、開き角120°のダイヤモンド圧子でのスクラッチテストを行った場合、剥離荷重が20N以上である、請求項5に記載の工具。
【請求項7】
前記被膜は、Ti
xM
1-xC
yN
1-yで表される化合物からなる被覆層を含み、
前記Ti
xM
1-xC
yN
1-y中、
Mは、チタンを除く、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、ケイ素及びホウ素からなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、
xは0.2以上1以下であり、
yは0以上0.6以下である、請求項6に記載の工具。
【請求項8】
前記被膜の厚みは、0.5μm以上6.0μm未満である、請求項6又は請求項7に記載の工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、立方晶窒化ホウ素焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体を備える工具及び立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法に関する。本出願は、2020年10月28日に出願した、特許協力条約(PCT)に基づく国際出願であるPCT/JP2020/040456に基づく優先権を主張する。当該国際出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
立方晶窒化ホウ素(以下、「cBN」と記載する場合がある。)は、ダイヤモンドに次ぐ高い硬度を有するとともに、熱伝導率が高い、鉄系材料との親和性が低いなどの特徴を有することが知られている。立方晶窒化ホウ素の焼結体(以下、「立方晶窒化ホウ素焼結体」、「cBN焼結体」と記載する場合がある。)は切削工具等の工具に利用されている。
【0003】
工具に用いられるcBN焼結体には、大別すると、高cBN含有率焼結体と低cBN含有率焼結体との2種の組成がある。高cBN含有率焼結体は、cBN粒子の含有率が高く、Co又はAlを主成分とする結合相でcBN粒子同士が結合された焼結体組織を有する。これに対して、低cBN含有率焼結体は、cBN粒子の含有率が低く、TiN及びTiC等のセラミックス材料を介して、cBN粒子同士が結合された焼結体組織を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【0005】
本開示に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、
立方晶窒化ホウ素粒子と、結合相とを含む立方晶窒化ホウ素焼結体であって、
上記結合相は、窒化アルミニウムと二ホウ化アルミニウムとを含み、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対して、70体積%以上97体積%以下であり、
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、5×10-3Ωcm以下であり、
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する金属アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、1.0%未満であり、
上記立方晶窒化ホウ素粒子は、粒径が2μm以下である微粒子と、粒径が5μm以上である粗粒子とを含み、
上記粗粒子は、粒径が12μmを超える超粗粒子を含んでいてもよく、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
上記微粒子の含有割合αが10体積%以上であり、
上記粗粒子の含有割合βが30体積%以上であり、
上記超粗粒子の含有割合γが25体積%以下であり、
上記微粒子の含有割合αと上記粗粒子の含有割合βとの合計が50体積%以上100体積%以下である。
【0006】
本開示に係る工具は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体を備える。
【0007】
本開示に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、
立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを準備する工程と、
上記立方晶窒化ホウ素粉末を上記アルミニウム材料と接触させ前駆体を得る工程と、
上記前駆体を4GPa以上7GPa以下の焼結圧力及び1000℃以上1500℃以下の焼結温度において焼結する工程と、
を備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の焼結体組織の一例を示す模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態における切削工具の一態様を例示する斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態における切削工具の模式断面図である。
【
図4】
図4は、立方晶窒化ホウ素焼結体の断面を撮影したSEM画像である。
【
図5】
図5は、立方晶窒化ホウ素焼結体の断面を撮影したSEM画像及び当該断面における金属Alの有無を分析したスペクトル図である。
【
図6】
図6は、立方晶窒化ホウ素焼結体を製造する際の焼結温度と、当該立方晶窒化ホウ素焼結体における体積抵抗率との相関関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、立方晶窒化ホウ素焼結体を製造する際の焼結温度と、X線回折測定における立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する二ホウ化アルミニウムに由来するピーク強度の比率との相関関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、立方晶窒化ホウ素焼結体の断面を撮影した反射電子像である。
【
図9】
図9は、立方晶窒化ホウ素焼結体の断面を撮影した二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
高cBN含有率焼結体として、例えば、特開昭55-126581号公報(特許文献1)には、立方晶チッ化ホウ素粒子及び第2相のかたまりを硬質の凝結体に結合したものを有する研摩成形体であって、該成形体の立方晶チッ化ホウ素の含有率が少なくとも80重量%である研摩成形体において、近接する立方晶チッ化ホウ素粒子が互いに結合されて互生物質を形成しており、前記第2相が基本的にチッ化アルミニウム及び/又は2ホウ化アルミニウムからなることを特徴とする研摩成形体が開示されている。
【0010】
しかし、特許文献1の研摩成形体は体積抵抗率が高く、導電性に改善の余地があった。
【0011】
本開示は、上記事情に鑑みてなされたものであり、靱性に優れ且つ導電性に優れる立方晶窒化ホウ素焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体を備える工具及び立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
[本開示の効果]
本開示によれば、靱性に優れ且つ導電性に優れる立方晶窒化ホウ素焼結体、立方晶窒化ホウ素焼結体を備える工具及び立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法を提供することが可能になる。
【0013】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、
立方晶窒化ホウ素粒子と、結合相とを含む立方晶窒化ホウ素焼結体であって、
上記結合相は、窒化アルミニウムと二ホウ化アルミニウムとを含み、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対して、70体積%以上97体積%以下であり、
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、5×10-3Ωcm以下であり、
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する金属アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、1.0%未満であり、
上記立方晶窒化ホウ素粒子は、粒径が2μm以下である微粒子と、粒径が5μm以上である粗粒子とを含み、
上記粗粒子は、粒径が12μmを超える超粗粒子を含んでいてもよく、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
上記微粒子の含有割合αが10体積%以上であり、
上記粗粒子の含有割合βが30体積%以上であり、
上記超粗粒子の含有割合γが25体積%以下であり、
上記微粒子の含有割合αと上記粗粒子の含有割合βとの合計が50体積%以上100体積%以下である。
【0014】
上記立方晶窒化ホウ素焼結体における結合相は、導電性を有する二ホウ化アルミニウムを含み、上記結合相全体として導電性を有する。そのため、このような結合相を有する上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、上記結合相を介して電気を通すことが可能になる。また、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、上記含有割合α、β及びγが上述の範囲をとることによってボイドの発生を抑制することが可能になり、靱性が向上する。そのため、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、切削工具の基材として用いた場合、優れた導電性を有することに加えて、優れた切削性能(特に、耐欠損性)を発揮することが可能になる。すなわち、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、上述のような構成を備えることによって、靱性に優れ且つ優れた導電性を有することが可能になる。
【0015】
[2]上記立方晶窒化ホウ素焼結体において、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
上記微粒子の含有割合αが10体積%以上20体積%以下であり、
上記粗粒子の含有割合βが30体積%以上90体積%以下であり、
上記超粗粒子の含有割合γが0体積%超25体積%以下であることが好ましい。このように規定することで、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、切削工具の基材として用いた場合、優れた導電性を有することに加えて、更に優れた切削性能を発揮することが可能になる。
【0016】
[3]上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する上記二ホウ化アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、3.9%以上であることが好ましい。このように規定することで、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、更に優れた導電性を有することが可能になる。
【0017】
[4]上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面において観察されるボイドの面積比率は、0.05%以下であることが好ましい。このように規定することで、上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、優れた導電性に加えて、優れた強度を有することが可能になる。
【0018】
[5]本開示に係る工具は、上記[1]から[4]のいずれかの立方晶窒化ホウ素焼結体を備える。このように規定することで、上記工具は、優れた導電性を有することが可能になる。
【0019】
[6]上記工具は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体上に設けられている被膜を更に備え、
上記被膜は、R200μm、開き角120°のダイヤモンド圧子でのスクラッチテストを行った場合、剥離荷重が20N以上であることが好ましい。このように規定することで、上記工具は、優れた導電性に加えて、耐摩耗性、耐欠損性等の所定の特性を有することが可能になる。
【0020】
[7]上記被膜は、TixM1-xCyN1-yで表される化合物からなる被覆層を含み、
上記TixM1-xCyN1-y中、
Mは、チタンを除く、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、ケイ素及びホウ素からなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、
xは0.2以上1以下であり、
yは0以上0.6以下であることが好ましい。このように規定することで、上記工具は、優れた導電性に加えて、耐摩耗性、耐欠損性等の所定の特性を有することが可能になる。
【0021】
[8]上記被膜の厚みは、0.5μm以上6.0μm未満であることが好ましい。このように規定することで、上記工具は、優れた導電性に加えて、耐摩耗性、耐欠損性等の所定の特性を有することが可能になる。
【0022】
[9]本開示に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、
立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを準備する工程と、
上記立方晶窒化ホウ素粉末を上記アルミニウム材料と接触させ前駆体を得る工程と、
上記前駆体を4GPa以上7GPa以下の焼結圧力及び1000℃以上1500℃以下の焼結温度において焼結する工程と、
を備える。このように規定することで、優れた導電性を有する立方晶窒化ホウ素焼結体を製造することが可能になる。
【0023】
[10]上記アルミニウム材料は、アルミニウム板であることが好ましい。このように規定することで、更に優れた導電性を有する立方晶窒化ホウ素焼結体を製造することが可能になる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す。)について説明する。ただし、本実施形態はこれに限定されるものではない。本明細書において「A~Z」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上Z以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Zにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とZの単位とは同じである。さらに、本明細書において、例えば「AlN」等のように、構成元素の組成比が限定されていない化学式によって化合物が表される場合には、その化学式は従来公知のあらゆる組成比(元素比)を含むものとする。このとき上記化学式は、化学量論組成のみならず、非化学量論組成も含むものとする。例えば「AlN」の化学式には、化学量論組成「Al1N1」のみならず、例えば「Al1N0.8」のような非化学量論組成も含まれる。このことは、「AlN」以外の化合物の記載についても同様である。
【0025】
≪立方晶窒化ホウ素焼結体≫
本開示に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、
立方晶窒化ホウ素粒子と、結合相とを含む立方晶窒化ホウ素焼結体であって、
上記結合相は、窒化アルミニウムと二ホウ化アルミニウムとを含み、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対して、70体積%以上97体積%以下であり、
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、5×10-3Ωcm以下であり、
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する金属アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、1.0%未満であり、
上記立方晶窒化ホウ素粒子は、粒径が2μm以下である微粒子と、粒径が5μm以上である粗粒子とを含み、
上記粗粒子は、粒径が12μmを超える超粗粒子を含んでいてもよく、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
上記微粒子の含有割合αが10体積%以上であり、
上記粗粒子の含有割合βが30体積%以上であり、
上記超粗粒子の含有割合γが25体積%以下であり、
上記微粒子の含有割合αと上記粗粒子の含有割合βとの合計が50体積%以上100体積%以下である。
【0026】
<立方晶窒化ホウ素粒子>
本実施形態において「立方晶窒化ホウ素粒子」とは、立方晶型の窒化ホウ素の結晶粒を意味する。
【0027】
(立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合)
上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対して、70体積%以上97体積%以下であり、82体積%以上94体積%以下であることが好ましく、82体積%以上90体積%以下であることがより好ましい。上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、立方晶窒化ホウ素焼結体の断面サンプルを走査電子顕微鏡(SEM)で撮影し、その撮影画像を画像解析することによって求められる。具体的には、まず立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は断面を鏡面加工する。次に、上記立方晶窒化ホウ素焼結体における加工面をSEMで3000~10000倍の倍率で観察し、SEM画像を得る。得られたSEM画像において所定の視野中の立方晶窒化ホウ素の結晶粒を特定する。画像処理により特定された当該結晶粒の面積の和を算出し、これを視野の面積で除することにより、上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合を算出する。また、同一の立方晶窒化ホウ素焼結体において、複数の視野(例えば、5視野以上)で上記画像解析を行い、その平均値を立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合とすることが好ましい。上記画像処理には、画像解析式粒度分布ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」)を好適に用いることができる。
【0028】
上述の方法で求められる比率は、視野中の立方晶窒化ホウ素粒子の面積比率であるが、本実施形態では当該比率を体積比率と見なして扱うものとする。すなわち、上述の方法で求められた立方晶窒化ホウ素粒子の面積比率が80%であった場合、立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合は、立方晶窒化ホウ素焼結体に対して、80体積%と見なす。後述する立方晶窒化ホウ素粒子の全体における、微粒子の含有割合α(体積%)及び粗粒子の含有割合β(体積%)、並びに、後述する結合相の含有割合(体積%)も同様の方法によって求めることとする。
【0029】
(立方晶窒化ホウ素粒子の粒度分布)
本実施形態の一側面において、上記立方晶窒化ホウ素粒子は、粒径が2μm以下(より好ましくは、0.5μm以上2μm以下)である微粒子と、粒径が5μm以上(より好ましくは、5μm以上12μm以下)である粗粒子と、を含み、
上記粗粒子は、粒径が12μmを超える(より好ましくは、12μm超20μm以下である)超粗粒子を含んでいてもよく、
上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
上記微粒子の含有割合αが10体積%以上であり、
上記粗粒子の含有割合βが30体積%以上であり、
上記超粗粒子の含有割合γが25体積%以下であり、
上記微粒子の含有割合αと上記粗粒子の含有割合βとの合計が50体積%以上100体積%以下である。
【0030】
上記立方晶窒化ホウ素粒子の粒径は、上述したような上記立方晶窒化ホウ素焼結体の断面をSEMを用いて観察することで測定可能である。具体的には、当該断面の撮影画像から、個々の結晶粒の粒径(Heywood径:等面積円相当径)を算出する。測定する結晶粒の数は、少なくとも200個以上とし、更に400個以上とすることが好ましい。当該断面を観察するときは、上記結晶粒の数が観察できるようSEMの倍率を適宜調整すればよい(例えば3000倍など)。画像解析を行う視野の数は、2視野以上であることが好ましく、4視野以上であることがより好ましく、6視野以上であることが更に好ましい。1つの視野は、例えば縦26μm×幅34μmであってもよい。上述したような結晶粒の粒径を算出する一連の操作は、画像解析ソフトウェアを用いて行ってもよい。画像解析ソフトウェアとしては、画像解析式粒度分布ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」)を好適に用いることができる。画像解析ソフトは画像情報に基づき適切な二値化の閾値を自動的に設定する(測定者が恣意的に閾値を設定することはない)。また、画像の明るさ等を変動させた場合でも測定結果に大きな変動がないことを発明者らは確認している。
【0031】
上記微粒子の含有割合αは、10体積%以上20体積%以下であることが好ましく、10体積%以上15体積%以下であることがより好ましい。上記微粒子の含有割合αは、上述した立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対する立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合の求め方と同じ方法で求めることができる。すなわち、上記断面サンプルのSEM画像において求められる上記微粒子の面積を上記立方晶窒化ホウ素粒子の面積で除して得られた値を100倍することで当該含有割合α(体積%)を求めることができる。
【0032】
上記粗粒子の含有割合βは、30体積%以上95体積%以下であることが好ましく、30体積%以上90体積%以下であることがより好ましく、35体積%以上77体積%以下であることが更に好ましく、40体積%以上65体積%以下であることが更により好ましい。上記粗粒子の含有割合βは、上述した立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対する立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合の求め方と同じ方法で求めることができる。すなわち、上記断面サンプルのSEM画像において求められる上記粗粒子の面積を上記立方晶窒化ホウ素粒子の面積で除して得られた値を100倍することで当該含有割合β(体積%)を求めることができる。
【0033】
上記微粒子の含有割合αと上記粗粒子の含有割合βとの合計は、上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、50体積%以上100体積%以下であることが好ましく、61体積%以上95体積%以下であることが好ましく、70体積%以上90体積%以下であることがより好ましい。
【0034】
本実施形態の一側面において、上記立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、
粒径が12μmを超える超粗粒子の含有割合γは、0体積%以上25体積%以下であることが好ましく、0体積%以上、15体積%以下であることがより好ましい。本実施形態において、上記粗粒子の中で、粒径が12μmを超える粗粒子を特に「超粗粒子」と呼ぶ。上記超粗粒子の含有割合γは、上述した立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対する立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合の求め方と同じ方法で求めることができる。すなわち、上記断面サンプルのSEM画像において求められる上記超粗粒子の面積を上記立方晶窒化ホウ素粒子の面積で除して得られた値を100倍することで当該含有割合γ(体積%)を求めることができる。上記超粗粒子の含有割合γが上記範囲に抑えられることによって、上記立方晶窒化ホウ素焼結体中に生成されるボイドを抑制することが可能になり、ひいては優れた導電性を備えることが可能になる。また、上記超粗粒子の含有割合γが上記範囲に抑えられることによって、抗折強度の低下を抑制することが可能になり、ひいては切削工具の基材として用いた場合における切削性能の低下を抑制することが可能になる。
【0035】
本実施形態の一側面において、上記粗粒子の含有割合βに対する、上記超粗粒子の含有割合γの比率γ/βは、0以上5/6以下であることが好ましく、0以上1/3以下であることがより好ましい。
【0036】
本実施形態の一側面において、本実施形態の一側面において、上記立方晶窒化ホウ素粒子は、粒径が2μmを超え5μm未満である中粒子を更に含んでいてもよい。上記中粒子の含有割合δは、本開示の効果が奏される範囲において特に制限はないが、例えば、0体積%以上60体積%以下であってもよい。上記中粒子の含有割合δは、上述した立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対する立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合の求め方と同じ方法で求めることができる。すなわち、上記断面サンプルのSEM画像において求められる上記中粒子の面積を上記立方晶窒化ホウ素粒子の面積で除して得られた値を100倍することで当該含有割合δ(体積%)を求めることができる。本実施形態の他の側面において、上記微粒子の含有割合α、上記粗粒子の含有割合β、及び上記中粒子の含有割合δの合計は、100体積%であってもよい。なお、上述したように超粗粒子は粗粒子の下位概念であることから、上記粗粒子の含有割合βに上記超粗粒子の含有割合γが内包されていることは言うまでもない。
【0037】
本実施形態の一側面において、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面において観察されるボイドの面積比率は、0.05%以下であることが好ましい。上記ボイドの面積比率の下限は、特に制限されないが例えば、0%以上であってもよい。上記ボイドの面積比率は、次のようにして求めることができる。まず、立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の位置を切断し、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の断面サンプルを作製する。当該断面サンプルの作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面サンプルの断面をSEMにて3000倍で観察して、二次電子像、及び反射電子像を得る。反射電子像においては、ボイド(空隙)が存在する領域が黒色領域となり、二次電子では凹んでいる領域にみえる。そのため、両画像からボイド部分を判別することができる。次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(たとえば、三谷商事株式会社製の「WinROOF」等)を用いて二値化処理を行い、二値化処理後の画像からボイドの面積率を算出する。すなわち、上記断面サンプルのSEM画像において求められる上記ボイドの面積を測定視野の面積で除することで当該面積比率を求めることができる。このとき、画像解析ソフトは画像情報に基づき適切な二値化の閾値を自動的に設定する(測定者が恣意的に閾値を設定することはない)。また、画像の明るさ等を変動させた場合でも測定結果に大きな変動がないことを発明者らは確認している。
【0038】
<結合相>
本実施形態において「結合相」とは、上記立方晶窒化ホウ素の結晶粒同士を結合させる相を意味する(
図1参照)。上記結合相は、窒化アルミニウム(AlN)と二ホウ化アルミニウム(AlB
2)とを含む。上記結合相の含有割合は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対して、3体積%以上30体積%以下であることが好ましく、3体積%以上20体積%以下であることがより好ましく、6体積%以上18体積%以下であることが更に好ましく、8体積%以上10体積%以下であることが更により好ましい。
【0039】
上記結合相の含有割合は、上述した立方晶窒化ホウ素焼結体の全体に対する立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合の求め方と同じ方法で求めることができる。すなわち、上記断面サンプルのSEM画像において求められる上記結合相の面積を測定視野の面積で除することで当該含有割合を求めることができる。
【0040】
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定(XRD測定)を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する上記二ホウ化アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、3.9以上であることが好ましく、5.3%以上であることがより好ましく、6.0%以上8.0%以下であることが更に好ましい。
【0041】
上述の各成分に由来するピーク強度は、以下のようにして求めることが可能である。まず、立方晶窒化ホウ素粒子及び結合相それぞれの組成を求める。このときX線回折法により当該組成を求めてもよい。次に、上述の立方晶窒化ホウ素焼結体の切断面を含む試料をX線回折法で分析し、X線回折パターンのデータを取得する。その後、求められた立方晶窒化ホウ素粒子及び結合相それぞれの組成と、X線回折パターンのデータに基づいて、各成分に由来するピーク強度(ピークの高さ;cps)を求める。ここで、上記X線回折法による分析の条件は、以下の条件を用いるものとする。
X線回折法による分析の条件
特性X線 : Cu-Kα(波長1.54Å)
管電圧 : 40kV
管電流 : 15mA
フィルター: 多層ミラー
光学系 : 集中法
X線回折法: θ-2θ法
【0042】
上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定(XRD測定)を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する上記窒化アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、6.0%以上12.0%以下であることが好ましく、7.0%以上10.5%以下であることがより好ましい。
【0043】
本実施形態において、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の任意の表面又は任意の断面においてX線回折測定を行った場合、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する金属アルミニウムに由来するピーク強度の比率は、1.0%未満である。このようにすることで、強度に優れる立方晶窒化ホウ素焼結体となる。当該比率の下限値は、例えば0%以上であってもよい。
【0044】
上記結合相は、本開示が奏する効果を損なわない限りにおいて、他の化合物を含んでいてもよい。すなわち、上記結合相は、元素の周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素及びSi(ケイ素)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第一元素と、C(炭素)、N(窒素)、B(ホウ素)及びO(酸素)からなる群より選ばれる少なくとも1つの第二元素とからなる化合物を更に含んでいてもよい。
【0045】
上記第4族元素としては、例えばTi(チタン)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)が挙げられる。第5族元素としては、例えばV(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)が挙げられる。上記第6族元素としては、例えばCr(クロム)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)が挙げられる。上記結合相に含まれる各成分は、上述の立方晶窒化ホウ素焼結体の切断面を含む試料を上記SEM-EDX法で、結合相に対応する領域を分析することによって求めることが可能である。
【0046】
元素の周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素及びSiからなる群より選ばれる少なくとも1つの第一元素と、C、N、B及びOからなる群より選ばれる少なくとも1つの第二元素とからなる化合物としては、例えば、TiNなどの窒化物、TiC、WCなどの炭化物、TiB2などのホウ化物、TiO2などの酸化物など、或いは、TiCNなどが挙げられる。
【0047】
<不可避不純物>
上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、本開示が奏する効果を損なわない限りにおいて、不可避不純物を含んでいてもよい。不可避不純物とは、立方晶窒化ホウ素焼結体の原料中に、又はその製造上において微量に含まれる可能性がある元素および化合物の総称をいう。不可避不純物として含まれる各元素及び化合物の含有量(体積%)は、それぞれ0体積%以上5体積%以下であり、これらの総和(すなわち微量不純物の合計含有量)は0体積%以上5体積%以下である。したがって、不可避不純物は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体に含まれていてもよく、含まれていなくてもよい。不可避不純物としては、例えば、Li、Mg、Ca、Sr、Ba、Be、Si、Ga、La、Fe、Cuなどが挙げられる。
【0048】
<立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率>
本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、上述のような構成を備えることによって、優れた導電性を有することが可能になる。すなわち、上記立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、5×10-3Ωcm以下であり、5×10-3Ωcm未満であることが好ましく、4×10-3Ωcm未満であることがより好ましく、3.5×10-3Ωcm未満であることが更に好ましい。上記立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率の下限は、特に制限されないが例えば、0Ωcm以上である。
【0049】
上記体積抵抗率は、4端子法による測定方法で求めるものとする。以下に測定条件を示す。このときに用いる測定装置としては、例えばアジレントテクノロジー株式会社製のMILLIOHMMETER 4328Aが挙げられる。4端子方式のプローブとしては、アジレントテクノロジー株式会社製のピン型プローブ16006Aが挙げられる。
測定条件
試験片の寸法:3mm×1mm×12mm
前処理 :なし
測定温度 :22℃
測定湿度 :60%
電極間隔 :10mm
【0050】
≪工具≫
本実施形態の立方晶窒化ホウ素焼結体は、導電性に優れ、靱性に優れ、また硬度が高いため、切削工具、耐摩工具、研削工具、摩擦撹拌接合用ツール等に好適に用いることができる。すなわち、本実施形態の工具は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体を備える。上記の工具は、その全体が立方晶窒化ホウ素焼結体で構成されていてもよいし、その一部(例えば切削工具の場合、刃先部分)のみが立方晶窒化ホウ素焼結体で構成されていてもよい。
切削工具としては、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイト等を挙げることができる。
図2は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。このような形状の切削工具は、例えば、刃先交換型切削チップとして用いられる。上記切削工具10は、すくい面1と、逃げ面2と、すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。
【0051】
耐摩工具としては、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサー等を挙げることができる。研削工具としては、研削砥石等を挙げることができる。
【0052】
また、上記工具は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体上に設けられている被膜を更に備えていてもよい(
図3参照)。このようにすることで、上記工具は、優れた導電性に加えて、耐摩耗性、耐欠損性等の所定の特性を有することが可能になる。本実施形態の一側面において、上記被膜が上記立方晶窒化ホウ素焼結体とは異なる色調を有する場合、上記工具の使用による上記被膜の摩耗等が目視によって確認すること及び上記工具の使用箇所の特定が可能になる。上記被膜の厚みは、0.5μm以上6.0μm未満であることが好ましい。
【0053】
本実施形態の一側面において、上記工具が切削工具である場合、上記切削工具は、少なくとも切れ刃部分の上に設けられている被膜を更に備えていてもよい。
【0054】
本実施形態において、上記被膜は、TixM1-xCyN1-yで表される化合物からなる被覆層を含み、
上記TixM1-xCyN1-y中、
Mは、チタンを除く、周期表の第4族元素、第5族元素、第6族元素、アルミニウム、ケイ素及びホウ素からなる群より選ばれる1種以上の元素を示し、
xは0.2以上1以下であり、
yは0以上0.6以下であることが好ましい。このようにすることで、焼入れ鋼等の加工を行った場合、効果的に逃げ面摩耗の発達を抑制できる。
【0055】
上記立方晶窒化ホウ素焼結体は、導電性に優れる。そのため、アークイオンプレーティング法等の物理的気相蒸着法(PVD法)を用いて上記立方晶窒化ホウ素焼結体上に被膜を形成した場合、上記立方晶窒化ホウ素焼結体に対する密着性に優れる被膜を形成することが可能になる。
【0056】
すなわち、上記工具は、上記立方晶窒化ホウ素焼結体上に設けられている被膜を更に備え、上記被膜は、R200μm、開き角120°のダイヤモンド圧子でのスクラッチテストを行った場合、剥離荷重が20N以上であることが好ましい。これにより、焼入れ鋼等の加工を行った場合に、膜剥離なく性能(例えば、耐摩耗性、耐欠損性等)を発揮することが出来る。スクラッチテストの方法は、例えば、後述する実施例に記載の方法が挙げられる。スクラッチテストを行う装置としては、例えば、アントンパール社製の、REVETEST SCRACTCH TESTERが挙げられる。
【0057】
上記被覆層を形成する方法は、アークイオンプレーティング法(真空アーク放電を利用して固体材料を蒸発させるイオンプレーティング法)またはスパッタ法により被覆層を形成することが好ましい。
【0058】
アークイオンプレーティング法では、被覆層を構成することになる金属種を含む金属蒸発源とCH4、N2等の反応ガスとを用いて、被覆層を形成することができる。アークイオンプレーティング法により被覆層を形成する条件としては、上記工具の被覆層(被膜)をアークイオンプレーティング法により形成する条件として知られている公知の条件を採用することができる。
【0059】
スパッタ法では、被覆層を構成することになる金属種を含む金属蒸発源とCH4、N2等の反応ガスとAr、KrまたはXe等のスバッタガスとを用いて、被覆層を形成することができる。スパッタ法により被覆層を形成する条件としては、上記工具の被覆層をスパッタ法により形成する条件として知られている公知の条件を採用することができる。
【0060】
一般にアーク式イオンプレーティング法では、イオン化された被覆層の構成物質をバイアス電圧で加速する。つまり基材に負のバイアスを付加することで、イオン化された金属陽イオンが加速され、基材表面に到達し膜が成長していく。基材に効果的にバイアスを付加するために基材の体積抵抗率は小さいことが望ましい。工具として使用した場合に効果的に摩耗の発達を抑制しうる緻密な膜を成膜するためには、基材である立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は5×10-3Ωcm以下であることが好ましい。
【0061】
さらに好ましくは、本実施形態の上記工具の製造方法は、被覆層を形成する前に、被覆層が形成されることとなる基材の表面をエッチングすることを含む。このエッチングにより、被覆層と基材との密着力を阻害する不純物が除去される。当該エッチングにより、更に上記基材の表面に含まれる複合焼結体の結合材のみが選択的に除去された表面状態によりアンカー効果が生じ、基材と被覆層との密着力が強化される。
【0062】
一般に、アーク式イオンプレーティング法、及びスパッタ法では、Ar等のガスをイオン化し、基材に負のバイアスを付加することでエッチングを行う。基材に効果的にバイアスを付加するために基材の体積抵抗率は小さいことが望ましく、効果的にエッチングを行うためには、基材である立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率が5×10-3Ωcm以下であることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、導電性に優れるため、上記工具の他にも例えば、ボンディングツール等の用途に用いることが可能である。上記ボンディングツールとしては、例えば、Tape Automated Bonding(TAB)ツールが挙げられる。
【0064】
≪立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法≫
本開示に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、
立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを準備する工程(以下、「第1工程」という場合がある。)と、
上記立方晶窒化ホウ素粉末を上記アルミニウム材料と接触させ前駆体を得る工程(以下、「第2工程」という場合がある。)と、
上記前駆体を4GPa以上7GPa以下の焼結圧力及び1000℃以上1500℃以下の焼結温度において焼結する工程(以下、「第3工程」という場合がある。)と、
を備える。
【0065】
<第1工程:立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを準備する工程>
第1工程では立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを準備する。
【0066】
(立方晶窒化ホウ素粉末)
本実施形態において「立方晶窒化ホウ素粉末」とは、立方晶窒化ホウ素の結晶粒からなる原料粉末を意味する。立方晶窒化ホウ素粉末は、市販品を購入してもよいし、公知の方法によって製造してもよい。上述した構成を備える立方晶窒化ホウ素焼結体を得るために、微粒の立方晶窒化ホウ素粉末と、粗粒の立方晶窒化ホウ素粉末とを適宜配合、混合して上記立方晶窒化ホウ素粉末を得ることが好ましい。また、上記立方晶窒化ホウ素粉末は、中粒の立方晶窒化ホウ素粉末、超粗粒の立方晶窒化ホウ素粉末、又はその両方が更に配合、混合されていてもよい。
【0067】
(アルミニウム材料)
本実施形態において「アルミニウム材料」とは、金属アルミニウムのみからなる原料、並びに、金属アルミニウム及び不可避不純物からなる原料を意味する。当該不可避不純物としては、例えば鉄(Fe)、ケイ素(Si)等が挙げられる。アルミニウム材料は、市販品を購入してもよいし、公知の方法によって製造してもよい。
【0068】
上記アルミニウム材料の形状は、特に制限されないが、例えば、板状、粉末状、箔状(フィルム状)等が挙げられる。本実施形態の一側面において、上記アルミニウム材料の形状は、板状であることが好ましい。すなわち、上記アルミニウム材料は、アルミニウム板であることが好ましい。上記アルミニウム板の厚みは、例えば、0.6mmである。
【0069】
<第2工程:前駆体を得る工程>
第2工程では、上記立方晶窒化ホウ素粉末を上記アルミニウム材料と接触させ前駆体を得る。上記前駆体において上記アルミニウム材料が上記立方晶窒化ホウ素粉末に接触することで、後述する第3工程で上記アルミニウム材料が上記立方晶窒化ホウ素粉末に溶浸する。ただし、本工程は、立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム粉末とを混合して混合粉(いわゆる完粉)を得ることを意図するものではない。
【0070】
本実施形態の一側面において、立方晶窒化ホウ素粉末からなる成形体上にアルミニウム板を配置することで上記前駆体を得てもよい。本実施形態の他の側面において、立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム板とを交互に積層するように配置することで上記前駆体を得てもよい。本実施形態の別の他の側面において、立方晶窒化ホウ素粉末の上にアルミニウムの粉末を配置することで上記前駆体を得てもよい。
【0071】
上記立方晶窒化ホウ素粉末の含有割合は、上記前駆体を基準として70質量%以上95質量%以下であることが好ましく、80質量%以上90質量%以下であることがより好ましい。
【0072】
上記アルミニウム材料の含有割合は、上記前駆体を基準として5質量%以上30質量%以下であることが好ましく、5質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0073】
<第3工程:前駆体を焼結する工程>
第3工程では、上記前駆体を4GPa以上7GPa以下の焼結圧力及び1000℃以上1500℃以下の焼結温度において焼結する。具体的には、上記前駆体を超高圧高温装置に導入し、上記焼結圧力、上記焼結温度を所定の時間保持することによって上記立方晶窒化ホウ素焼結体を得る。ここで、上述の「焼結圧力」及び「焼結温度」とは、それぞれ上記超高圧高温装置における焼結時の圧力及び温度を意味する。
【0074】
上記焼結圧力は、4.5GPa以上6.5GPa以下であることが好ましく、5.0GPa以上6.0GPa以下であることがより好ましい。
【0075】
上記焼結温度は、1000℃以上1300℃以下であることが好ましく、1040℃以上1260℃以下であることがより好ましい。上述の温度範囲で焼結を行うことで、結合相中に生成するAlB2の割合が増加し、得られる立方晶窒化ホウ素焼結体の導電性がより優れたものになる傾向がある。
【0076】
上記前駆体を焼結するのに要する時間は、3分以上60分以下であることが好ましく、5分以上30分以下であることがより好ましい。
【0077】
上述の超高圧高温装置としては、特に制限されないが、例えば、株式会社神戸製鋼所製の固体超高圧プレス(製品名)が挙げられる。
【0078】
以上本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法を説明した。上記製造方法は、いわゆる「溶浸法」による製造方法を含む概念である。すなわち、本実施形態の一側面において、上記第3工程は、上記前駆体を溶浸法によって焼結してもよい。
【0079】
導電性を有する立方晶窒化ホウ素焼結体としては、従来コバルトを結合相に含む立方晶窒化ホウ素焼結体が知られていた。しかし、上記コバルトを結合相に含む立方晶窒化ホウ素焼結体は、厚みが薄いもの(例えば、厚みが1.0mmであるもの)、サイズが小さいもの等しか製造することができず、製造される立方晶窒化ホウ素焼結体の形状及び大きさが制限されていた。例えば、刃先交換型切削チップ(
図2参照)を製造する場合、切削に関与する刃先の先端部分にだけ上述の立方晶窒化ホウ素焼結体をロウ付けで適用することが従来行われていた。
本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体は、上述の製造方法によって製造することで、使用目的に適した形状、大きさとすることが可能である。例えば、本実施形態に係る上記製造方法を用いれば、全体が本実施形態に係る立方晶窒化ホウ素焼結体からなる刃先交換型切削チップ(
図2参照)を製造することが可能である。
【実施例】
【0080】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0081】
≪立方晶窒化ホウ素焼結体の作製≫
<第1工程:立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを準備する工程>
以下に示す立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とをそれぞれ準備した。上記立方晶窒化ホウ素粉末は、最終的に得られる立方晶窒化ホウ素焼結体が表2~表4に示される組成となるように、種々の配合組成で、以下の粒子を混合することで得た。
立方晶窒化ホウ素粉末
粒径が0.5μm以上2μm以下である粒子
粒径が3μm以上5μm以下である粒子
粒径が8μm以上12μm以下である粒子
アルミニウム材料
金属板(アルミニウム板)(厚み0.6mm)
金属粉末(アルミニウム粉末)(平均粒径4.3μm)
【0082】
<第2工程:前駆体を得る工程>
第1工程で準備した立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム材料とを、最終的に得られる立方晶窒化ホウ素焼結体が表2~表4に示される組成となるように、種々の配合組成で、両者を接触させて前駆体を得た。具体的には、まず、ニッケル(Ni)製のカプセルに立方晶窒化ホウ素粉末を入れ、次にその上に上記アルミニウム材料を上記立方晶窒化ホウ素粉末と接触するように配置した。その後、上記立方晶窒化ホウ素粉末と上記アルミニウム材料とを所定の形状となるように成形し、前駆体である成形体を得た。なお、試料番号24では、立方晶窒化ホウ素粉末とアルミニウム粉末とを均一に混合してから当該カプセルに入れることで前駆体(完粉)を得た。
【0083】
<第3工程:前駆体を焼結する工程>
得られた前駆体を、超高温高圧装置(株式会社神戸製鋼所製、製品名:固体超高圧プレス)に入れて、5.0GPaの焼結圧力及び表1に示される焼結温度において、15分間焼結した。
以上の手順で、試料番号1~4及び7~28の立方晶窒化ホウ素焼結体を得た。なお、試料番号4と同様の配合組成の原料からアルミニウム板の量を少なくすることで、立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合が98体積%である立方晶窒化ホウ素焼結体の作製を試みたが、焼結しなかった(試料番号5)。また、立方晶窒化ホウ素粉末を微粒子のみにしたこと以外は、試料番号1と同様の配合組成となるようにアルミニウム板を充填して焼結を試みたが、焼結しなかった(試料番号6)。試料番号1~4、7~23及び25~28の立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、いわゆる溶浸法に相当する。試料番号24の立方晶窒化ホウ素焼結体の製造方法は、いわゆる完粉法(粉末法)に相当する。なお、試料番号1、3、4、10、14、15、17、20~23、25、26及び28の立方晶窒化ホウ素焼結体は、実施例に対応する。試料番号2、5~9、11~13、16、18、19、24及び27の立方晶窒化ホウ素焼結体は、比較例に対応する。
【0084】
【0085】
≪立方晶窒化ホウ素焼結体の特性評価≫
得られた立方晶窒化ホウ素焼結体について、以下に示すとおり、立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合、微粒子、中粒子、粗粒子及び超粗粒子の含有割合、結合相の組成、並びに、立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率を求めた。また、立方晶窒化ホウ素焼結体の断面観察を行った。
【0086】
<立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合>
試料番号1~4及び7~28の立方晶窒化ホウ素焼結体における立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合を以下の方法で求めた。まず立方晶窒化ホウ素焼結体の断面サンプルを作製し、その断面を鏡面加工した。次に、上記立方晶窒化ホウ素焼結体における加工面をSEMで3000倍の倍率で観察し、SEM画像を得た。得られたSEM画像において所定の視野中の立方晶窒化ホウ素の結晶粒を特定した。画像処理により特定された当該結晶粒の面積の和を算出し、これを視野の面積で除することにより、上記立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合(体積%)を算出した。ここで同一の立方晶窒化ホウ素焼結体において、5視野以上で上記画像解析を行い、その平均値を立方晶窒化ホウ素粒子の含有割合とした。上記画像処理には、画像解析式粒度分布ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」)を用いた。結果を表2~表4に示す。
【0087】
<立方晶窒化ホウ素粒子全体を基準とした、微粒子、中粒子、粗粒子及び超粗粒子の含有割合>
試料1~4及び7~28の立方晶窒化ホウ素焼結体において、立方晶窒化ホウ素粒子全体を基準とした、微粒子(粒径が2μm以下である粒子)、中粒子(粒径が2μmを超え5μm未満である粒子)、粗粒子(粒径が5μm以上である粒子)及び超粗粒子(上記粗粒子の中で、粒径が12μmを超えるもの)それぞれの含有割合(体積%)を以下の方法で求めた。まず、上述の断面サンプルにおける加工面をSEMで3000倍の倍率で観察し、SEM画像を得た。得られたSEM画像から、個々の結晶粒の粒径(Heywood径:等面積円相当径)を算出した。測定した結晶粒の数は、200個以上とした。画像解析を行う視野の数は、2視野以上とした。1つの視野は、縦26μm×幅34μmであった。上述したような結晶粒の粒径を算出する一連の操作は、画像解析式粒度分布ソフトウェア(三谷商事株式会社製「WinROOF ver.7.4.1」)を用いて行った。
上記手順で、測定した結晶粒をその粒径に応じて微粒子、中粒子、粗粒子、超粗粒子に分類した。微粒子、中粒子、粗粒子及び超粗粒子それぞれの含有割合(体積%)は、これらの面積を上記立方晶窒化ホウ素粒子の面積で除して得られた値を100倍することで算出した。結果を表2~表4に示す。表2~表4における「粗粒子」の欄の括弧書きで記載されている数値は、超粗粒子の含有割合を示している。
【0088】
<結合相の組成>
試料1~4及び7~28の立方晶窒化ホウ素焼結体における結合相の組成をX線回折法により求めた。また、上述の断面サンプルにおける加工面を含む試料をX線回折法で分析し、X線回折パターンのデータを取得した。その後、立方晶窒化ホウ素粒子及び結合相それぞれの組成と、X線回折パターンのデータに基づいて、各成分に由来するピーク強度(ピークの高さ;cps)を求めた。求められたピーク強度に基づいて、上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する上記二ホウ化アルミニウムに由来するピーク強度の比率及び上記立方晶窒化ホウ素粒子に由来するピーク強度に対する上記窒化アルミニウムに由来するピーク強度の比率を算出した。結果を
図7及び表2~表4に示す。なお、
図7のグラフでは、試料番号1、14、19、20、及び22~24に対応する結果を示している。
【0089】
<立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率>
試料番号1~4及び7~28の立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、4端子法による測定方法で求めた。以下に測定条件を示す。測定装置は、アジレントテクノロジー株式会社製のMILLIOHMMETER 4328Aを用いた。4端子方式のプローブは、アジレントテクノロジー株式会社製のピン型プローブ16006Aを用いた。結果を表2~表4及び
図6に示す。なお、
図6のグラフでは、試料番号1、7、14、19、20、22及び23に対応する結果を示している。
測定条件
試験片の寸法:3mm×1mm×12mm
前処理 :なし
測定温度 :22℃
測定湿度 :60%
電極間隔 :10mm
【0090】
<立方晶窒化ホウ素焼結体の断面観察>
試料番号1~4及び7~28の立方晶窒化ホウ素焼結体の断面サンプルをSEMで観察し、結合相におけるAlB
2のネットワーク等を評価した。結果を
図4、
図8(反射電子像)及び
図9(二次電子像)に示す。SEMによる断面サンプルの観察画像において、黒色の部分は立方晶窒化ホウ素粒子を示し、灰色の部分は二ホウ化アルミニウムを示す。また、白色の部分は窒化アルミニウムを示す(例えば、
図4参照)。
【0091】
≪立方晶窒化ホウ素焼結体を備える切削工具の評価≫
<ねずみ鋳鉄断続加工試験(1)>
試料番号1~4及び7~13、並びに、試料番号25~28の立方晶窒化ホウ素焼結体を備える切削工具の耐欠損性を調べるために、各立方晶窒化ホウ素焼結体それぞれを用いて切削工具(形状:ISO規格SNGN090308)を作製し、被削材(材質:FC300-6V溝付丸棒)の断続旋削加工を行った。具体的な切削条件は下記の通りである。結果を表2に示す。
【0092】
(切削条件)
切削速度(Vc) :600m/分
送り量(f) :0.3mm/rev
切り込み(ap) :0.5mm
クーラント :Dry
評価方法:切削工具の欠損サイズが0.2mm越えるまでの切削距離に基づいて、工具寿命を評価した。
【0093】
【0094】
<ねずみ鋳鉄断続加工試験(2)>
試料番号14~18の立方晶窒化ホウ素焼結体を備える切削工具の耐欠損性を調べるために、各立方晶窒化ホウ素焼結体それぞれを用いて切削工具(形状:ISO規格SNGN090308)を作製し、被削材(材質:FC300-6V溝付丸棒)の断続旋削加工を行った。具体的な切削条件は下記の通りである。結果を表3に示す。
【0095】
(切削条件)
切削速度(Vc) :800m/分
送り量(f) :0.3mm/rev
切り込み(ap) :0.5mm
クーラント :Dry
評価方法:切削工具の欠損サイズが0.2mm越えるまでの切削距離に基づいて、工具寿命を評価した。
【0096】
【0097】
<ねずみ鋳鉄断続加工試験(3)>
試料番号19~24の立方晶窒化ホウ素焼結体を備える切削工具の耐欠損性を調べるために、各立方晶窒化ホウ素焼結体それぞれを用いて切削工具(形状:ISO規格SNGN090308)を作製し、被削材(材質:FC300-6V溝付丸棒)の断続旋削加工を行った。具体的な切削条件は下記の通りである。結果を表4に示す。
【0098】
(切削条件)
切削速度(Vc) :600m/分
送り量(f) :0.3mm/rev
切り込み(ap) :1.0mm
クーラント :Dry
評価方法:切削工具の欠損サイズが0.2mm越えるまでの切削距離に基づいて、工具寿命を評価した。
【0099】
【0100】
<評価結果>
(体積抵抗率について)
試料番号24の立方晶窒化ホウ素焼結体は、立方晶窒化ホウ素粒子が粗粒子、中粒子及び微粒子で構成されていた。そのため、粗粒子同士の間に中粒子又は微粒子が入ることでボイドがほとんど形成されなかった(表4、
図4)。しかしながら、当該立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率が2.10Ωcmであった(表4)。この結果から、完粉法(粉末法)で製造した試料番号24の立方晶窒化ホウ素焼結体では、結合相におけるAlB
2のネットワーク形成が十分でないことが示唆された。
【0101】
試料番号1、3、4、10、14、15、17、20~23、25、26及び28の立方晶窒化ホウ素焼結体は、立方晶窒化ホウ素粒子が粗粒子、中粒子及び微粒子で構成されていた。そのため、粗粒子同士の間に中粒子又は微粒子が入ることでボイドがほとんど形成されなかった(表2~4、
図4)。また、溶浸法で製造したため、導電性を有するAlB
2が結合相に均一に分布しており十分なネットワークが形成されていた(表2~4、
図4、
図8)。そのため、試料番号1、3、4、10、14、15、17、20~23、25、26及び28の立方晶窒化ホウ素焼結体の体積抵抗率は、2.30×10
-3~5.00×10
-3Ωcmであった。すなわち、試料番号1、3、4、10、14、15、17、20~23、25、26及び28の立方晶窒化ホウ素焼結体は、導電性に優れることが分かった。試料番号20、21、14、22、23、1の中で比較すると、低い焼結温度で焼結を行った立方晶窒化ホウ素焼結体の方が、AlB
2の含有割合が高く(表1~4、
図7参照)、体積抵抗率が低くなる傾向があった(表1~4、
図6参照)。
【0102】
試料番号11の立方晶窒化ホウ素焼結体は、立方晶窒化ホウ素粒子がほぼ中粒子のみで構成されていた。そのため、結合相に含まれるAlB2の含有割合が低く、体積抵抗率が5.90×10-3Ωcmであった。
【0103】
試料番号13の立方晶窒化ホウ素焼結体は、立方晶窒化ホウ素粒子が大部分の中粒子と、少量の微粒子及び粗粒子とで構成されていた。そのため、結合相に含まれるAlB2の含有割合が低く、体積抵抗率が6.00×10-3Ωcmであった。
【0104】
(断続加工試験(1)について)
表2の結果から、試験番号1、3、4及び10、並びに試料番号25、26及び28の立方晶窒化ホウ素焼結体を備える切削工具(実施例)は、切削距離が6.6km以上であり良好な結果であった。一方、試料番号2、7~9及び11~13、並びに試料番号27の立方晶窒化ホウ素焼結体を備える切削工具(比較例)は、切削距離が6.4km以下であった。
【0105】
(断続加工試験(2)について)
表3の結果から、立方晶窒化ホウ素粒子の全体に対して、微粒子の含有割合が10体積%以上であり、粗粒子の含有割合が30体積%以上であり、上記微粒子の含有割合と上記粗粒子の含有割合との合計が50体積%以上100体積%以下であるもの(試料番号14、15及び17、実施例)は、より工具寿命に優れることが分かった。
【0106】
(断続加工試験(3)について)
表4の結果から、ボイドの面積比率が0.05%以下であるもの(試料番号14、及び21~23、実施例)は、より工具寿命に優れることが分かった。
【0107】
≪被膜を備える切削工具の評価≫
<被膜の形成>
以下の手順で試料番号14又は試料番号24の立方晶窒化ホウ素焼結体を基材とする切削工具(形状:ISO規格SNGN090308)の表面に、PVD法で被膜(被覆層)を形成した。
【0108】
(被膜が形成されることとなる基材の表面に対するエッチング処理)
成膜装置内で基材の表面に対するエッチングを行った。この成膜装置には真空ポンプが接続されており、装置内部には真空引き可能な真空チャンバーが配置されている。真空チャンバー内には回転テーブルが設置されており、その回転テーブルは治具を介して基材がセットできるように構成されている。真空チャンバー内にセットされた基材は、真空チャンバー内に設置されているヒーターにより加熱することができる。また、真空チャンバーには、エッチングおよび成膜用のガスを導入するためのガス配管が、流量制御用のマスフローコントローラ(MFC:Mass Flow Controller)を介して接続されている。さらに、真空チャンバー内には、エッチング用のArイオンを発生させるためのタングステンフィラメントが配置されており、必要な電源が接続された成膜用のアーク蒸発源またはスパッタ源が配置されている。アーク蒸発源またはスパッタ源には、成膜に必要な蒸発源原料(ターゲット)がセットされている。
【0109】
上述した立方晶窒化ホウ素焼結体の基材を、上記成膜装置の上記真空チャンバー内にセットし、その真空チャンバー内で真空引きを行った。その後、上記回転テーブルを3rpmで回転させながら基材を500℃に加熱した。次いで、上記真空チャンバー内にArガスを導入し、上記タングステンフィラメントを放電させてArイオンを発生させ、基材にバイアス電圧を印加し、Arイオンにより基材の上記表面(被覆層が形成されることとなる基材の表面)に対してエッチングを行った。なお、このときのエッチング条件は次のとおりであった。
Arガスの圧力:1Pa
基板バイアス電圧:-450V。
【0110】
(被覆層の形成)
上記成膜装置内で、基材の表面上に、成膜を実施した。以下に示す条件で、表5に示される膜厚になるように蒸着時間を調整して、被膜である被覆層を形成した。
(被覆層の形成条件)
ターゲット:Al(50原子%)、Ti(50原子%)
導入ガス:N2
成膜圧力:3.5Pa
アーク放電電流:140A
基板バイアス電圧:-50V
テーブル回転数:3rpm。
【0111】
被覆層の組成を変更する場合は、ターゲット成分、導入ガスを変更した。被覆層がNに加えCを含む場合には、反応ガスとしてN2に加えCH4を用い、各々の流量の割合を調整してC、Nの割合を調整した。以上の手順により、試料番号101~109の切削工具を作製した。
【0112】
<切削工具の基材と被膜との密着力の評価(スクラッチテスト)>
以下の手順で、試料番号101~109の切削工具における、基材と被覆層との間の密着力を評価した。
ダイヤモンド圧子を、テーブルに固定した上記切削工具に密着させ、徐々に荷重を加えていき、同時にテーブルを一定速度で移動させることで、基材と被覆層との間の密着力を測定した。具体的には、R200μm、開き角120°であるダイアモンド圧子を用い、90秒かけて、10~100Nまで荷重を加え、且つテーブルを4.5mm移動させた。また剥離荷重は、スクラッチ痕の剥離ポイントを光学顕微鏡等の観察により決定し、その変形ポイントでの垂直荷重を剥離荷重として測定した。同様の試験を同じサンプルで位置を変えて3回繰り返し、3回の剥離荷重の平均値を取った。この測定は、アントンパール社製の、REVETEST SCRACTCH TESTER を用いて行った。結果を表5に示す。表5の結果から、試料番号102~108の切削工具は、基材と被覆層との間の密着力が18N以上であり、良好な結果であった。一方、試料番号109の切削工具は、基材と被覆層との間の密着力が11Nであった。試料番号102~108の切削工具は、基材として導電性に優れる試料番号14の立方晶窒化ホウ素焼結体を用いている。そのため、当該基材上にPVD法で被覆層を成膜すると、上記基材と上記被覆層との間の密着力が向上したと考えられる。
【0113】
<被膜を備える切削工具を用いた切削試験>
試料番号101~109の切削工具の耐摩耗性を調べるために、被削材(材質:SUJ2丸棒)の連続旋削加工を行った。具体的な切削条件は下記の通りである。結果を表5に示す。
【0114】
(切削条件)
切削速度(Vc) :150m/分
送り量(f) :0.2mm/rev
切り込み(ap) :0.3mm
クーラント :WET
評価方法:切削工具の逃げ面の摩耗量が0.15mm越えるまでの切削距離に基づいて、工具寿命を評価した。
【0115】
【0116】
被膜の無い試料番号101の切削工具は、焼き入れ鋼加工時に熱的摩耗が進展しやすいため、0.5km程度で逃げ面摩耗が進展したと思われる。また、試料番号109の切削工具では、絶縁性の立方晶窒化ホウ素焼結体に被膜(被覆層)を追加しても密着力が低いため、焼入鋼加工時の切削抵抗により被膜がすぐに剥離して被膜による耐摩耗性向上の効果が得られなかった。また、6μmを超える膜厚では、密着力が低く同様に耐摩耗性向上の効果が小さった(試料番号106)。膜厚が0.4μmまで薄くなると、剥離はしないが、摩耗により被膜がなくなってしまうため、この場合も耐摩耗性向上の効果が小さかった(試料番号108)。
【0117】
今回開示された実施の形態及び実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0118】
1 すくい面、 2 逃げ面、 3 刃先稜線部、 10 切削工具、 11 基材、 12 被膜、 20 立方晶窒化ホウ素焼結体、 21 立方晶窒化ホウ素粒子、 23 結合相