(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】逆流防止弁組立体
(51)【国際特許分類】
A61J 15/00 20060101AFI20221004BHJP
A61M 39/24 20060101ALI20221004BHJP
A61M 39/06 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61J15/00 A
A61M39/24
A61M39/06 122
(21)【出願番号】P 2018193117
(22)【出願日】2018-10-12
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144048
【氏名又は名称】坂本 智弘
(72)【発明者】
【氏名】島田 武久
【審査官】小野田 達志
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-515596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J 15/00
A61M 39/24
A61M 39/06
F16K 15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
逆流防止弁を備える逆流防止弁組立体であって、
前記逆流防止弁組立体が、上蓋と、逆流防止弁と、弁受け部材とから構成され、
前記上蓋が内腔を有する円筒体からなり、前記円筒体の内壁に、供給用アダプタと嵌合する嵌合溝を有し、
前記逆流防止弁が、下端にスリットを有する本体部とフランジ部とからなり、
前記弁受け部材が、中央に開口を有する環状平板からなり、
前記逆流防止弁の前記フランジ部が前記上蓋と前記環状平板とで挟持され、前記逆流防止弁の前記本体部が前記弁受け部材の前記開口から下方に突出して
おり、
前記上蓋の前記円筒体の下端に、前記内腔の直径より大きく、前記フランジ部の外径より大きい内径を有し、かつ、前記逆流防止弁のフランジ部の厚さよりも小さい深さの円形凹部が形成されており、
前記フランジ部が、前記円形凹部と前記弁受け部材との間に形成される空隙に収容され、かつ前記円形凹部の上面と前記環状平板とで挟持されている逆流防止弁組立体。
【請求項2】
前記逆流防止弁の前記本体部が、前記フランジ部から前記下端に向かって傾斜する2つの傾斜側壁を有し、該傾斜側壁が、前記下端で前記スリットの側壁を構成し、前記2つの傾斜側壁が成す角度が63°以上90°以下である請求項
1記載の逆流防止弁組立体。
【請求項3】
前記本体部の高さが、6.0mm以下である請求項1
又は2記載の逆流防止弁組立体。
【請求項4】
前記上蓋の上面から前記本体部の前記下端までの長さは、10.0mm以下である請求項1から
3いずれか1項記載の逆流防止弁組立体。
【請求項5】
前記上蓋及び前記弁受け部材が、アクリロニトリル、ブタジエン、及びスチレンの共重合体からなる請求項1から
4いずれか1項記載の逆流防止弁組立体。
【請求項6】
前記逆流防止弁が、硬度35以上55以下のシリコーンゴムからなる請求項1から
5いずれか1項記載の逆流防止弁組立体。
【請求項7】
前記上蓋の前記円筒体の内壁に、流体供給用アダプタと嵌合する嵌合溝を有する請求項1から
6いずれか1項記載の逆流防止弁組立体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆流防止弁組立体に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野においては、様々な種類のカテーテル、洗浄装置、内視鏡装置等にシーリング弁機構が必要とされている。例えば、胃瘻カテーテルなどの医療用カテーテルでは、シーリング弁は、栄養剤又は薬剤等の物質を外部から胃へ供給することは可能にするが、胃に供給された物質が胃から逆流するのを防止する役割を有する。
シーリング弁としては、ダックビル弁、フラップ弁、スリット弁等が公知であるが、医療用カテーテルには、シリコーンゴムからなるダックビル弁が広く用いられている。例えば、特許文献1には、開口部を有する弁ハウジングと、開口部内に配設された弁部材とを備えたシーリング弁組立体が開示されている。また、特許文献2には、弁部材が直接カテーテルの内部に装着された逆流防止弁装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2005-503838号公報
【文献】特開2011-234802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、胃瘻用カテーテルを用いる患者の中には、スポーツ等をして活動的に過ごす患者もいるため、シーリング弁を有する体表部の厚さが厚いと、体表部が衣服で擦れる等して、患者に不快感を与える場合がある。したがって、シーリング弁装置は厚さが薄い方がよい。
しかしながら、特許文献1のシーリング弁組立体は、弁部材の側壁に補強部材を設けてスリットが閉塞し易いようにした構造であり、弁ハウジングが弁部材の下端まで覆っている。このため、カテーテルの体表部の厚さは必然的に厚くなる。また、特許文献2に記載のシーリング機構では、カテーテル本体内壁には、ダックビル弁の側壁に当接して弁が常時閉じるように圧付与部材が設けられているため、体表部の厚さは必然的に厚くなる。
【0005】
シーリング弁は、医療用カテーテルに用いる場合、医療従事者が取付等の操作を行うため、簡便な構造であることが好ましい。また、シーリング弁は、耐久性の観点から使用期間は限られているため、弁の交換が簡便であることが望まれる。
しかしながら、上記特許文献に記載の弁組立体や逆流防止弁装置では、厚さを薄くするという要求と装着が簡便であるという要求の両方を満たすという観点では満足できるものではない。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、様々な種類のカテーテル、洗浄装置、内視鏡装置等に装着した場合に、逆流防止弁を有する部分の厚さを薄くすることが可能であり、装着が簡便な逆流防止弁組立体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、逆流防止弁を備える逆流防止弁組立体であって、逆流防止弁組立体は、上蓋と、逆流防止弁と、弁受け部材とから構成され、上蓋が内腔を有する円筒体からなり、円筒体の内壁に、供給用アダプタと嵌合する嵌合溝を有し、逆流防止弁は、下端にスリットを有する本体部とフランジ部とからなり、弁受け部材は、中央に開口を有する環状平板からなり、逆流防止弁のフランジ部が上蓋と環状平板とで挟持され、逆流防止弁の本体部が弁受け部材の前記開口から下方に突出している逆流防止弁組立体である。
【0007】
上蓋の円筒体の下端に、内腔の直径より大きく、フランジ部の外径より大きい内径を有し、かつ、逆流防止弁のフランジ部の厚さよりも小さい深さの円形凹部が形成されており、フランジ部は、円形凹部と弁受け部材との間に形成される空隙に収容され、かつ円形凹部の上面と環状平板とで挟持されていてもよい。
【0008】
逆流防止弁の本体部は、フランジ部から下端に向かって傾斜する2つの傾斜側壁を有し、傾斜側壁が、下端でスリットの側壁を構成し、2つの傾斜側壁が成す角度は63°以上90°以下であることが好ましい。
【0009】
本体部の高さは、6.0mm以下であることが好ましい。
【0010】
上蓋の上面から本体部の下端までの長さは、10.0mm以下であることが好ましい。
【0011】
上蓋及び弁受け部材は、アクリロニトリル、ブタジエン、及びスチレンの共重合体からなることが好ましい。
【0012】
逆流防止弁は、硬度35以上55以下のシリコーンゴムからなることが好ましい。
【0013】
上蓋の円筒体の内壁に、流体供給用アダプタと嵌合する嵌合溝を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の逆流防止弁組立体によれば、様々な種類のカテーテル、洗浄装置、内視鏡装置等に装着した場合に、逆流防止弁を有する部分の厚さを薄くすることが可能であり、装着及び交換を簡便にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の逆流防止弁組立体の一実施形態を示す側面図である。
【
図2】本発明の逆流防止弁組立体の一実施形態を示す平面図である。
【
図4】一実施形態の逆流防止弁組立体の上蓋を示す平面図である。
【
図6】一実施形態の逆流防止弁組立体の上蓋を示す底面図である。
【
図7】一実施形態の逆流防止弁組立体の逆流防止弁を示す平面図である。
【
図10】一実施形態の逆流防止弁組立体の逆流防止弁を示す底面図である。
【
図11】一実施形態の逆流防止弁組立体の弁受け部材を示す平面図である。
【
図13】一実施形態の逆流防止弁組立体の弁受け部材を示す底面図である。
【
図14】本発明の逆流防止弁組立体を備えたバルーンカテーテルを示す側面図である。
【
図15】本発明の逆流防止弁組立体を備えたバルーンカテーテルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。以下の実施形態は例示の目的で提示するものであり、本発明は、以下に示す実施形態に何ら限定されるものではない。
【0017】
[逆流防止弁組立体]
本発明の逆流防止弁組立体10は、
図1及び
図3に示すように、上蓋20と、逆流防止弁30と、弁受け部材40とから構成される。そして、詳細は後述するが逆流防止弁30のフランジ部34(
図3参照)が上蓋20と弁受け部材40とで挟持され、逆流防止弁30の本体部31(
図3参照)が弁受け部材40の開口から下方に突出している。
スリット33は、通常は、
図2に示すように、閉じた状態にあり、上蓋20の開口22から、栄養剤、薬剤等を供給するチューブを有する供給アダプタ(不図示)が挿入され、逆流防止弁30の下端31bに形成されたスリット33に押し込まれることによって、スリット33が開くものである。
以下、逆流防止弁組立体10の各構成要素について詳細に説明する。
【0018】
(上蓋)
上蓋20は、
図4から
図6に示すように、内腔22を有する円筒体21からなる。また、
図3に示すように、円筒体21の内壁23に、栄養剤、薬剤等を供給するチューブを有する供給アダプタ(不図示)と嵌合する嵌合溝24を有する。
【0019】
上蓋20には、
図5に示すように、上蓋20の円筒体21の下端に、内腔22の直径d
22よりも大きく、フランジ部34の外径d
34(
図9参照)より大きい内径d
25を有し、かつ、逆流防止弁30のフランジ部34の厚さt
34(
図9参照)よりも小さい深さh
25の円形凹部25が形成されていることが好ましい。内腔22の直径d
22よりも大きい内径d
25を有することにより、逆流防止弁30のフランジ部34が、円形凹部25と弁受け部材40との間に形成される空隙27に収容され、かつ円形凹部25の上面26と弁受け部材40の環状平板41とで挟持されて、逆流防止弁30が固定されるため、好ましい。
上蓋20は、成形し易さ、及び逆流防止弁組立体10を対象物に挿入する際に破損しないような強度を確保する観点から、アクリロニトリル、ブタジエン、及びスチレンの共重合体(ABS樹脂とも称される)からなることが好ましい。
【0020】
(逆流防止弁)
逆流防止弁30は、
図7から
図10に示すように、上端31aには円形の開口32を有し下端31bにスリット33を有する本体部31とフランジ部34とからなる。
本体部31は、
図9に示すように、
図7における紙面両側(C-C断面方向)では、側面は垂直であって、一部円筒形状を有する。また、本体部31は、
図8及び
図10に示すように、フランジ部34から下端31bに向かって傾斜する2つの傾斜側壁35を有し、傾斜側壁35が、下端31bでスリット33の側壁36を構成することが好ましい。
2つの傾斜側壁35が成す角度θは、63°以上90°以下であることが好ましい。角度θは、75°以上85°以下がより好ましい。角度θが、63°以上90°以下であることにより、本体部31の高さh
31(
図9参照)を小さくすることできるうえ、特許文献1又は2に記載のように、圧付与部材を設けることなく、スリット33の繰り返し使用後においても、スリット33が戻り易いという効果を奏する。
【0021】
本体部31の高さh
31は、4.0mm以上7.0mm以下であることが好ましく、4.8mm以上5.5mm以下がより好ましい。ここで、本体部31の高さh
31は、
図9に示すように、本体部31とフランジ部34との境界(以下、上端31aと記載する)から本体部31の下端31bまでの垂直方向の距離を意味する。
【0022】
また、逆流防止弁組立体10の、上蓋20の上面21aから本体部31の下端31bまでの長さh
10(
図3参照)は、6.0mm以上10.0mm以下であることが好ましい。
7.0mm以上9.0mm以下であることがより好ましく、
【0023】
2つの傾斜側壁35の厚さt
35(
図10参照)は、本体部31の上端31aから下端31bまで厚さは、均一であっても不均一でもよい。均一な厚さにすれば、製造工程を簡略化できるのでコストを低減でき、また、傾斜側壁35に特別な構造を有しないため、汎用性が上がる。
傾斜側壁35の厚さt
35は、供給用アダプタが挿入される際の押圧に対する耐久性の観点、及びスリット33の戻り易さの観点から、800μm以上1500μm以下であることが好ましく、900μm以上1200μm以下であることがより好ましい。
特に、2つの傾斜側壁35が成す角度θと、傾斜側壁35の厚さt
35とを調整することにより、スリット33の戻りをさらに良好にすることができる。
【0024】
逆流防止弁30は、供給用アダプタが挿入される際の押圧に対する耐久性の観点、及びスリット33の戻り易さの観点から、硬度35以上55以下のシリコーンゴムからなることが好ましい。
【0025】
(弁受け部材)
弁受け部材40は、
図11から
図13に示すように、中央に開口42を有する環状平板41からなる。弁受け部材40は、
図11及び
図12に示すように、周縁に突起部43が設けられており、上蓋20の凹部外壁28が突起部43の内側に嵌ることによって、上蓋20と弁受け部材40とが係合する。本発明の逆流防止弁組立体10は、逆流防止弁30のフランジ部34が上蓋20と環状平板41とで挟持され、逆流防止弁30の本体部31が弁受け部材40の開口42から下方に突出するものである。
本実施形態のように、フランジ部34が、円形凹部25と弁受け部材40との間に形成される空隙27に収容され、かつ円形凹部25の上面26と環状平板41とで挟持されることが好ましい。
弁受け部材40は、成形し易さ、及び逆流防止弁組立体10を対象物に挿入する際に破損しないような強度を確保する観点から、アクリロニトリル、ブタジエン、及びスチレンの共重合体からなることが好ましい。
【0026】
本発明の逆流防止弁組立体10は、上蓋20と逆流防止弁30と弁受け部材40とからなり、逆流防止弁30が弁受け部材40の下方に突出していることにより、逆流防止弁30を装着する対象物、例えばカテーテルのファネル部において、逆流防止弁30を固定するための構造を、逆流防止弁39全体の高さと上蓋20とを含めた高さではなく、上蓋20と弁受け部材40との厚さで作り込めばよいので、ファネル部の厚さを薄くすることができる。
また、本発明の逆流防止弁組立体10は、上蓋20と、逆流防止弁30と、弁受け部材40とが一体となっているので、操作者はファネル部へ逆流防止弁組立体10を装着すればよく、操作が簡単である。
さらに、上蓋20と弁受け部材40とに対応する簡易な構造をファネル部に形成すればよいので、工程の簡略化が可能である。
【0027】
[バルーンカテーテル]
本発明の逆流防止弁組立体10は、様々な医療用カテーテル、洗浄装置、内視鏡装置などに用いることができる。
以下に、本発明の逆流防止弁組立体を用いたカテーテルの一実施形態として、バルーンカテーテル50について
図14及び
図15を参照して説明する。
図14に示すように、バルーンカテーテル50は、ファネル部51とカテーテル本体部52とからなる。ファネル部51の頭部には、本発明の逆流防止弁組立体10が装着されている。カテーテル本体部52は、内部に第一ルーメン56及び第二ルーメン57を有する。逆流防止弁組立体10の開口に供給チューブアダプタ(不図示)が挿入されて、栄養剤、薬剤などをカテーテル本体部52の第一ルーメン56を通じて患者へ投入される。供給用チューブアダプタは、逆流防止弁組立体10の嵌合溝24で固定することが可能である。
【0028】
ファネル部51には、空気注入組立体58が設けられている。空気注入組立体58からカテーテル本体部52の第二ルーメン57へ、空気、生理食塩水、又は蒸留水などをバルーン53に注入又はバルーン53から排出することができる。ファネル部51には、延在するベルト54上にキャップ55が設けられており、逆流防止弁組立体10から栄養剤などを供給しない場合は、キャップ55で逆流防止弁組立体10の開口を閉じる。
【0029】
バルーンカテーテル50は、本発明の逆流防止弁組立体10を用いているため、ファネル部51の厚さを薄くすることが可能である。ファネル部51は患者の体表面に露出している部分であるため、ファネル部51が薄くなることにより、衣服などでファネル部51が擦れることによる患者の不快感を軽減することができる。
【符号の説明】
【0030】
10 逆流防止弁組立体
20 上蓋
21 円筒体
22 内腔
23 内壁
24 嵌合部
25 円形凹部
26 上面
27 空隙
28 凹部外壁
30 逆流防止弁
31 本体部
31a (本体部の)上端
31b (本体部の)下端
32 開口
33 スリット
34 フランジ部
35 傾斜側壁
36 (スリットの)側壁
40 弁受け部材
41 環状平板
42 開口
43 突起部
50 バルーンカテーテル
d22 内腔の直径
d25 円形凹部の内径
d34 フランジ部の厚さ
h10 上蓋の上面から本体部の下端までの長さ
h25 円形方部の深さ
h31 本体部の高さ
t34 フランジ部の厚さ
t35 傾斜側壁の厚さ