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特許7151966神経細胞を培養する装置、神経細胞を培養する方法、軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法、神経組織、軸索束内のプロテインを解析及び同定する方法並びに神経細胞の使用方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】神経細胞を培養する装置、神経細胞を培養する方法、軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法、神経組織、軸索束内のプロテインを解析及び同定する方法並びに神経細胞の使用方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20221004BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221004BHJP
   C12N 5/0793 20100101ALI20221004BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C12M3/00 Z
C12M1/00 A
C12N5/0793
C12Q1/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017206239
(22)【出願日】2017-10-25
(65)【公開番号】P2019000093
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2020-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2017116943
(32)【優先日】2017-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】801000049
【氏名又は名称】一般財団法人生産技術研究奨励会
(74)【代理人】
【識別番号】100116207
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100096426
【弁理士】
【氏名又は名称】川合 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】池内 与志穂
(72)【発明者】
【氏名】金田 祥平
(72)【発明者】
【氏名】川田 治良
【審査官】平林 由利子
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-539462(JP,A)
【文献】特表2016-502921(JP,A)
【文献】特許第6430680(JP,B2)
【文献】国際公開第2011/052281(WO,A1)
【文献】特開2014-110804(JP,A)
【文献】特表2015-524674(JP,A)
【文献】国際公開第2016/040961(WO,A1)
【文献】特許第6854471(JP,B2)
【文献】川田 治良 他,生産研究,2016年,68巻3号,p.205-210
【文献】JEONG G.S. et al.,Molecular Brain,2015年,Vol.8, No.17,pp.1-11,DOI: 10.1186/s13041-015-0109-y
【文献】KATO-NEGISHI M. et al.,Transplantation of a neurospheroid network onto the rat brain,2010 IEEE 23rd International Conference on Micro Electro Mechanical Systems (MEMS),2010年,DOI:10.1109/MEMSYS.2010.5442386
【文献】SRINIVASAN A. et al.,Biomaterials,2015年,Vol.41,pp.151-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00- 3/10
C12N 1/00- 7/08
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸索を有する神経細胞を培養する方法であって、
1つの第1チャンバー(12a)、1つの第2チャンバー(12b)、及び、前記第1チャンバー(12a)と第2チャンバー(12b)とを接続する1つのチャネル(13)に培養液(18)を供給するステップであって、前記第1チャンバー(12a)、第2チャンバー(12b)及びチャネル(13)は培養プレート(10)内に配置されたモジュール(11)に含まれているステップと、
前記第1チャンバー(12a)及び第2チャンバー(12b)の両方の内部にそれぞれ神経細胞のスフェロイドを播種するステップと、
前記神経細胞を培養し、これにより、軸索束が成長して各チャネル(13)内を延び、前記スフェロイドが軸索束によって互いに接続されるステップと、
を備える方法。
【請求項2】
軸索束にストレス又は薬剤を付与するステップと、
前記ストレス又は薬剤が付与された軸索束の配向性を計測するステップと、
を備え、軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法であって、
前記軸索束は、神経細胞の細胞体を受容可能な1つの第1チャンバー(12a)と、神経細胞の細胞体を受容可能な1つの第2チャンバー(12b)とを接続するチャネル(13)に受容され、該チャネル(13)内に延び、前記第1チャンバー(12a)及び第2チャンバー(12b)の両方の内部にそれぞれ播種されたスフェロイドを互いに接続する軸索束であって、
前記配向性は、前記チャネル(13)の延在する方向への方向性である、
軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、神経細胞を培養する装置、神経細胞を培養する方法、軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法、神経組織、軸索束内のプロテインを解析及び同定する方法並びに神経細胞の使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
神経疾患に効果のある薬剤を迅速に開発するためには、in vitro(体外)で神経細胞及び軸索を培養する必要がある。従来、神経細胞及び軸索を培養するための装置がいくつか提案されている(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照。)。これらの装置は、複数の区画室を備えるマイクロ流体プラットホームであって、軸索を成長させて分離することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Taylor, Anne M et al. “A Microfluidic Culture Platform for CNS Axonal Injury, Regeneration and Transport ” Nature methods 2.8 (2005):599-605. PMC. Web. 8 Mar. 2016.
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2004/0106192号公報(A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の技術は、十分なものではなかった。ドラッグスクリーニング等において神経組織を評価するためには、細胞体、軸索、及び、細胞体と軸索との接合部をそれぞれ評価する必要があるが、前述の方法では、それぞれの部位を空間的に分け、評価することができない。
【0006】
本開示の利点の1つは、in vitroで神経細胞から延びる軸索束を迅速に成長させる神経細胞を培養する装置を提供することができることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
方法においては、軸索を有する神経細胞を培養する方法であって、1つの第1チャンバー、1つの第2チャンバー及び、前記第1チャンバーと第2チャンバーとを接続する1つのチャネルに培養液を供給するステップであって、前記第1チャンバー、第2チャンバー及びチャネルは培養プレート内に配置されたモジュールに含まれているステップと、前記第1チャンバー及び第2チャンバーの両方の内部それぞれ神経細胞のスフェロイドを播種するステップと、前記神経細胞を培養し、これにより、軸索束が成長して各チャネル内を延び、前記スフェロイドが軸索束によって互いに接続されるステップと、を備える。
【0013】
軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法においては、軸索束にストレス又は薬剤を付与するステップと、前記ストレス又は薬剤が付与された軸索束の配向性を計測するステップとを備え、軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化する方法であって、前記軸索束は、神経細胞の細胞体を受容可能な1つの第1チャンバーと、神経細胞の細胞体を受容可能な1つの第2チャンバーとを接続するチャネルに受容され、該チャネル内に延び、前記第1チャンバー及び第2チャンバーの両方の内部それぞれ播種されたスフェロイドを互いに接続する軸索束であって、前記配向性は、前記チャネルの延在する方向への方向性である。
【発明の効果】
【0022】
本開示によれば、in vitroで神経細胞から延びる軸索束を迅速に成長させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施の形態における背景を示す模式図である。
図2】本実施の形態における概念を示す図である。
図3】本実施の形態における培養プレートを示す図である。
図4】本実施の形態における培養プレート内の培養モジュールを示す図である。
図5】本実施の形態におけるシールを備えた培養モジュールを示す図である。
図6】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索を示す写真である。
図6A】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索を示す他の写真である。
図6B】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索本数の増加を示す写真である。
図6C】本実施の形態における培養プレートのチャネル内での軸索の伸展速度計測を説明する図である。
図7】本実施の形態における培養プレートから抽出した軸索を示す写真である。
図8】本実施の形態における409B2細胞株由来の運動神経細胞の軸索と実験室マウスの骨格筋とを接合する実験を示す図である。
図9】本実施の形態における409B2細胞株由来の運動神経細胞の軸索と実験室マウスの骨格筋とを接合する長期間の実験を示す図である。
図10】本実施の形態における409B2細胞株由来の運動神経細胞の軸索とC2C12細胞株由来の骨格筋とを接合する実験を示す図である。
図11】本実施の形態におけるタンパク質の観察に使用した軸索束の写真である。
図12】本実施の形態における伸展に使用した軸索束の写真である。
図12A】本実施の形態における軸索を伸展させる第2の実験の結果を説明する図である。
図13】本実施の形態におけるカルシウムイメージングに使用した運動神経細胞の写真である。
図13A】本実施の形態における活動電位変化を測定する実験の結果を説明する図である。
図14】本実施の形態における培養モジュールの種々の例を示す模式図である。
図15】本実施の形態における軸索を細胞体から分離する工程を示す図である。
図16】ALSの原因を示す模式図である。
図17】本実施の形態におけるストレステストの結果を示す写真である。
図17A】本実施の形態におけるストレステストの軸索の配向性評価結果を示す図である。
図18】本実施の形態におけるグリア細胞との共培養の結果を示す写真である。
図19】本実施の形態におけるグリア細胞があるとき及びないときに細胞体のスフェロイドから延びた軸索束の写真である。
図20】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束を観察した結果を示す図である。
図20A】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束を含む神経細胞の断面を示す写真である。
図20B】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束を含む神経細胞の断面を示す他の写真である。
図21】本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。
図22】本実施の形態における培養プレートのチャネル内でストレスをかけたときの軸索束を示す写真である。
図23】本実施の形態における培養プレートのチャネル内でストレスをかけたときの軸索束の形態変化の実験結果を示すグラフである。
図24】本実施の形態における培養プレートのモジュールでの軸索のミエリン化を示す図である。
図25】本実施の形態における装置の適用可能分野を示す模式図である。
図26】本実施の形態における装置の他の適用可能分野を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
図1は本実施の形態における背景を示す模式図、図2は本実施の形態における概念を示す図である。なお、図2において、(a)は神経細胞の模式図、(b)は従来の培養の結果を示す図、(c)は本実施の形態の概念を示す図である。
【0026】
本実施の形態は、軸索を備える神経細胞を培養する新しいプロセス、培養に適した新しい装置及び培養された軸索束を備える神経細胞の密集体を提案する。神経疾患に有効な薬剤を迅速に探索するためには、体内と類似した環境で神経細胞を培養することが重要である。図2に示されるように、神経細胞(neuron)は、細胞体(cell body )と軸索末端(axon)を有する軸索(axon terminal )とを具備する。そして、図1に示されるように、体内において、運動神経(motoneuron)の軸索は束になり、軸索末端は複数の骨格筋(skeltal muscle)の細胞に接合している。したがって、in vitroの培養によって、図2(c)に示されるように、細胞体、軸索及び軸索末端が互いに空間的に分離した状態で、束(bundle)になった軸索を有する細胞体の密集体、すなわち、細胞体のスフェロイド(spheroid)を生成することが望ましい。薬剤の効果を適確に確認するためには、薬剤を、評価対象である細胞体、軸索束、軸索末端等の各部位に付与し、各部位における薬剤の効果を評価することが必要である。しかしながら、従来の培養方法では、図2(b)に示されるように、細胞体と軸索とが空間的に混ざったランダムな状態の軸索付きの細胞体しか提供することができなかった。
【0027】
次に、本実施の形態において使用される装置の構成について説明する。
【0028】
図3は本実施の形態における培養プレートを示す図、図4は本実施の形態における培養プレート内の培養モジュールを示す図、図5は本実施の形態におけるシールを備えた培養モジュールを示す図である。なお、図3において、(a)は平面図、(b)は(a)における培養モジュールの拡大側断面図であり、図4において、(a)は培養プレートの写真、(b)は培養モジュールの模式側断面図、(c)~(e)の各々は培養モジュールの模式平面図であり、図5において、(a)はシールを備えた培養モジュールの模式側断面図、(b)はシールを備えた培養モジュールの写真、(c)はシール及び細胞を備えた培養モジュールの模式側断面図、(d)はシール及び細胞体のスフェロイドを備えた培養モジュールの模式側断面図、(e)はシールを備えない培養モジュールの模式側断面図である。
【0029】
本実施の形態においては、培養プレート10を使用する。図3(a)及び4(a)に示されるように、培養プレート10は、矩形形状の板状部材であり、行方向及び列方向に並んで配置された複数のモジュール11を含んでいる。そして、培養プレート10は、透明なガラス板であるカバースリップから成る基板15と、該基板15の表面に取り付けられた上板16とを含んでいる。該上板16には複数のモジュール11が形成されている。図3及び4に示されるように、各モジュール11は、平面視においてダンベルのような形状を有し、全体として、U字のような形状の断面形状を有し、第1チャンバー12aと、第2チャンバー12bと、第1及び第2チャンバー12a、12bの底部を連結するチャネル13とを含んでいる。
【0030】
上板16は、PDMS (poly-dimethyl-siloxane) シートであってもよく、公知のフォトリソグラフィー技術を使用して作成することができる(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照。)。なお、上板16は、例えば、Pyrex(登録商標)等の他のポリマー又はガラスから成る板状部材であってもよく、例えば、ホットエンボス加工、穴開け加工等の方法を使用して作成されたものであってもよい。
【0031】
第1及び第2チャンバー12a、12bの各々は、円筒状の凹部であって、底面が基板15によって閉止され、上面が開口する井戸状の窪みとして作成されている。チャネル13の一端は第1チャンバー12aの側壁の下端に開口し、その他端は第2チャンバー12bの側壁の下端に開口する。チャネル13の幅は、好適には100~150〔μm〕であり、その高さは、好適には100~200〔μm〕であるが、これらの寸法は係る数値に限定されるものでなく、必要に応じて調整することができる。そして、第1及び第2チャンバー12a、12b並びにチャネル13の内部には、培養液18が充填される。モジュール11の構成が簡素なので、培養液18はモジュール11内にスムーズに流入可能である。また、チャネル13のサイズが、従来の装置におけるもの(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照。)と比較して大きいので、第1及び第2チャンバー12a、12b内の培養液18は自然に混ざることができる。第1及び第2チャンバー12a、12bの各々の平面形状は、図4(e)に示されるように、円形であることが望ましいが、円形に限定されるものでなく、必要に応じて変化させることができる。図3(a)、4(c)及び4(d)に示される例では、チャネル13の入口部13aがテーパーの付いた平面形状となっているので、第1チャンバー12aの平面形状は完全な円形でなく変形しているが、一方、第2チャンバー12bの平面形状は、チャネル13の入口部13aが直線的形状なので、ほぼ完全な円形になっている。入口部13aがテーパーの付いた平面形状となっていると、軸索はチャネル13内に効果的に導かれる。入口部13aが直線的形状であっても、軸索はチャネル13内で束を形成することができる。
【0032】
第1及び第2チャンバー12a、12bのうちの一方の内部には、神経細胞の細胞体が入れられる、すなわち、播種される。細胞体が播種されるチャンバーとしては、第1及び第2チャンバー12a、12bのうちのいずれをも選択することもできるが、本実施の形態においては、便宜上、第1チャンバー12aを細胞体が播種されるチャンバーとする。図4(c)に示される例においては、複数の神経細胞体が、別々で、すなわち、解離(disociated)細胞状態で、播種されている。また、図4(d)及び(e)に示される例においては、複数の神経細胞体が、密集して、すなわち、スフェロイドの状態で、播種されている。そして、しばらく培養した後には、神経細胞の軸索がチャネル13内を第2チャンバー12bにまで伸びて、チャネル13内で束を形成する。チャネル13の内径は、神経細胞の軸索束を収容するのに十分な大きさであることが望ましい。
【0033】
図5(a)及び(b)に示されるように、中に神経細胞体が播種されていない第2チャンバー12bの開放端を閉止するために、第2チャンバー12bの上にシール部材17を載置することが望ましい。該シール部材17は、好適にはPCR(Polymerase Chain Reaction )のシーリング板又はシーリングフィルムから成るものであるが、必ずしもこれに限定されるものでなく、シーリングに適した材料であれば、いかなる材料から成るものであってもよい。図5(c)及び(d)に示されるように、第2チャンバー12bの開放端がシール部材17によって閉止されていると、培養液が第2チャンバー12bに流れ込むことが防止されるので、神経細胞体を第1チャンバー12a内に播種して保っておくことが容易になる。図5(e)に示されるように、第2チャンバー12bの開放端が開放されたままであると、第1チャンバー12a内に入れられた神経細胞体は、培養液とともに、第2チャンバー12b内に流入しがちである。神経細胞体をスフェロイドの状態で第1チャンバー12a内に播種するのであれば、細胞体のスフェロイドは大き過ぎてチャネル13内を流れないので、シール部材17を省略することができる。
【0034】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った軸索を成長させる実験の結果を説明する。
【0035】
図6は本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索を示す写真、図6Aは本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索を示す他の写真、図6Bは本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索本数の増加を示す写真、図6Cは本実施の形態における培養プレートのチャネル内での軸索の伸展速度計測を説明する図、図7は本実施の形態における培養プレートから抽出した軸索を示す写真である。なお、図6において、(a)は培養プレートの一部の写真、(b)は(a)に示されるモジュールのうちの1つの軸索の写真であり、図6Aにおいて、(a)は軸索の長さが4.5〔mm〕の例を示す写真、(b)は軸索の長さが9〔mm〕の例を示す写真であり、図6Bにおいて、(a)~(f)は培養日数が0~5日の軸索を示す写真であり、図6Cにおいて、(a)は軸索の伸展速度計測に使用した培養モジュールを示す図、(b)は伸展速度計測したチャネル内での軸索を示す写真、(c)は軸索の伸展速度の計測結果を示すグラフであり、図7において、(a)は神経組織の拡大写真、(b)は細胞核の蛍光写真(マーカーHoechst を使用)、(c)は神経全体の蛍光写真(マーカーTuj 1 を使用)である。
【0036】
本実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。ウェルプレートすなわち皿を使用して、ヒトiPS細胞から運動神経細胞を取得した。そして、非接着性の培養プレートを使用して細胞体のスフェロイドを得た。なお、培養は、37〔℃〕、O2 :20〔%〕、CO2 :5〔%〕の環境下で行われた。すると、図6に示されるように、チャネル13内で軸索が成長して第2チャンバー12bにまで伸びた。培養後、運動神経細胞の集合体を、培養プレート10のモジュール11から抽出した、すなわち、取り出した。モジュール11から抽出した運動神経細胞の集合体は、図7(a)に示されるように、細胞体の集合体から延在する大きな軸索束を備える。図7(b)に示されるように、細胞体内に存在し、マーカーであるHoechst によって染色された細胞核が、運動神経細胞の集合体内に観られた。また、図7(c)に示されるように、マーカーであるTuj 1 によって染色された運動神経細胞の集合体が、観られた。軸索束は、細胞体の集合体から延在していることが、明瞭に認識された。なお、チャネル13の長さや内径を変更することによって、種々の大きさの軸索束を得ることができる。例えば、図6A(a)に示される例においては軸索の長さが4.5〔mm〕であり、図6A(b)に示される例においては軸索の長さが9〔mm〕である。観察や実験に使用するためには、軸索の長さは、1〔mm〕以上であることが望ましい。また、軸索束の幅は、例えば、100〔μm〕にすることができる。この場合、後述する図20(c)に示されるような軸索束の断面のTEM画像で観察すると、約5500本の軸索が含まれていることが分かる。
【0037】
また、前記細胞体のスフェロイドを第1チャンバー12a内に播種して培養を続けていくと、チャネル13内で軸索が束になる過程を観測することができた。具体的には、図6Bに示されるように、培養日数毎に、チャネル13内の軸索を撮影し、その数をカウントとした。図6B(a)~(f)に示されるように、培養日数が0日のときは軸索本数が3本、培養日数が1日のときは軸索本数が12本、培養日数が2日のときは軸索本数が15本、培養日数が3日のときは軸索本数が24本、培養日数が4日のときは軸索本数が28本、培養日数が5日のときは軸索本数が30本以上であって束が形成されていた。
【0038】
さらに、前記細胞体のスフェロイドを第1チャンバー12a内に播種した後、軸索の末端のX軸方向(チャネル13の長手方向)の移動速度、すなわち、チャネル13内での軸索の伸展速度を計測することができた。この計測では、図6C(a)及び(b)に示されるように、大目盛り14aと小目盛り14bとを含む目盛り14が、チャネル13の両側に付与されたモジュール11を使用した。そして、培養日数毎に軸索の末端の位置を計測し、図6C(c)に示されるような培養日数と軸索の末端までの距離との関係、すなわち、培養日数と軸索の伸展距離との関係を得ることができた。なお、図6C(c)において、横軸は培養日数を示し、縦軸は軸索の末端までの距離を示している。図6C(c)に示されるような関係から、チャネル13内での軸索の末端の移動速度、すなわち、軸索の伸展速度を算出することができる。
【0039】
前述のように、本実施の形態によれば、培養プレート10の各モジュール11内での培養によって軸索束を得ることができる。したがって、各モジュール11内の軸索束に薬剤を付与することによって、薬剤のスクリーニングを迅速に行うことができる。さらに、各モジュール11内において軸索束が細胞体から分離されているので、各モジュール11内の軸索束に薬剤を正確に付与することによって、神経疾患に有効な薬剤をスクリーニングすることができ、また、軸索束のどの部分に、例えば、遠位端や近位端に、薬剤が効くのかを確認することができる。
【0040】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った軸索と骨格筋とを接合する実験の結果を説明する。
【0041】
図8は本実施の形態における409B2細胞株由来の運動神経細胞の軸索と実験室マウスの骨格筋とを接合する実験を示す図、図9は本実施の形態における409B2細胞株由来の運動神経細胞の軸索と実験室マウスの骨格筋とを接合する長期間の実験を示す図、図10は本実施の形態における409B2細胞株由来の運動神経細胞の軸索とC2C12細胞株由来の骨格筋とを接合する実験を示す図である。なお、図8及び9において、(a)は実験室マウスの筋管の写真、(b)はモジュールの模式平面図、(c)は筋管がない場合の軸索の拡大写真、(d)は筋管がある場合の軸索の拡大写真であり、図10において、(a)はモジュールの模式平面図、(b)は接合部分の拡大写真である。
【0042】
第1の実験においては、神経細胞としてヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用し、骨格筋として(図8(a)に示される)実験室マウスの筋管を使用した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。図8(b)に示されるように、神経細胞を第1チャンバー12a内に播種し、骨格筋を第2チャンバー12b内に播種して、神経細胞及び骨格筋の共培養を行った。骨格筋を第2チャンバー12b内に播種した場合、そうでない場合よりも、軸索の成長速度が高く、軸索束が成長して厚くなるのが早いことが分かった。図8(c)及び(d)は、それぞれ、筋管が第2チャンバー12b内に播種されない場合、及び、筋管が第2チャンバー12b内に播種された場合の、培養28日後におけるチャネル13内の軸索の成長状態を示している。第2の実験においては、第1の実験(28日)よりも長期間(43日)に亘って、しかし、図9(a)及び(b)に示されるように、第1の実験と同様のモジュール11並びに同様の運動神経細胞及び筋管を同様に使用し、共培養を行った。筋管が第2チャンバー12b内に播種されない場合には、軸索束の形態が変性することが分かった。図9(c)及び(d)は、それぞれ、筋管が第2チャンバー12b内に播種されない場合、及び、筋管が第2チャンバー12b内に播種された場合の、培養43日後におけるチャネル13内の軸索の成長状態を示している。
【0043】
第3の実験においては、神経細胞としてヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用し、骨格筋としてマウス筋原細胞(C2C12細胞株)由来の横紋筋を使用した。図10(a)に示されるように、神経細胞を第1チャンバー12a内に播種し、骨格筋を第2チャンバー12b内に播種して、神経細胞及び骨格筋の共培養を行った。そして、軸索と骨格筋とが接合した部分をα-Bungarotoxin によって染色し、軸索をTuj 1 によって染色した。図10(b)に示されるように、軸索と骨格筋との接合が観られた。
【0044】
前述のように、本実施の形態によれば、軸索末端を、細胞体が存在する第1チャンバー12aから離れた第2チャンバー12b内において、骨格筋に接合することができる。換言すると、本実施の形態は、体内と類似した状況を提供することができる。したがって、各モジュール11内の軸索束と骨格筋との接合部分に薬剤を正確に付与することによって、神経疾患に有効な薬剤をスクリーニングすることができる。
【0045】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った軸索を成長させ、成長させた軸索をスライスして内部のタンパク質(プロテイン)を観察する実験の結果を説明する。
【0046】
図11は本実施の形態におけるタンパク質の観察に使用した軸索束の写真である。なお、図において、(a)は培養プレートの外に抽出された軸索束を備える細胞体のスフェロイドの写真、(b)は(a)に示されるスフェロイド内での軸索(マーカーTau 1 を使用)の存在を示す写真、(c)は(b)に示されるスフェロイド内での細胞核の蛍光写真(マーカーHoechst を使用)、(d)は(a)に示される軸索束の薄片内での軸索の存在を示す写真、(e)は軸索束の薄片内での細胞核の不存在を示す蛍光写真である。
【0047】
本実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。図11(a)に示されるように、10日間の培養後、大きく成長して長く延びた軸索束を含む運動神経細胞の1つを培養プレート10のモジュール11から抽出した、すなわち、取り出した。そして、軸索束をスライスし、内部に存在するタンパク質の観察に適するような軸索束の薄片を得た。図11(d)に示されるように、軸索束の内部にタンパク質が観察されることを確認した。また、図11(e)に示されるように、軸索束の内部には細胞核が存在しないことを確認し、軸索束は軸索の純粋な集合であることを確認した。
【0048】
前述のように、本実施の形態によれば、培養プレート10の各モジュール11から、軸索束と一体となった細胞体のスフェロイドを取り出すことができる。したがって、軸索束をスライスしてその内部のタンパク質を観察することによって、軸索束に存在するタンパク質の解析及び同定を行うことができ、また、神経疾患のスクリーニング及び同定を行うことができ、さらに、神経疾患に有効な薬剤のスクリーニングを行うことができる。これに対して、従来の運動神経を培養する方法では、細胞体の集合及び軸索束が統合された細胞組織を得ることができず、従来の培養装置の外で細胞体及び軸索束のそれぞれの内部を観察することが困難であった。
【0049】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った成長させた軸索を伸展させる実験の結果を説明する。
【0050】
図12は本実施の形態における伸展に使用した軸索束の写真である。なお、図において、(a)は培養プレートの外における伸展前の軸索束を備えるスフェロイドの写真、(b)は培養プレートの外における伸展後の軸索束を備えるスフェロイドの写真である。
【0051】
本実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。図12(a)に示されるように、培養後、細胞体のスフェロイド及び大きく成長して長く延びた軸索束を含む運動神経細胞の1つを培養プレート10のモジュール11の外へ取り出した。その全長は3.1〔mm〕であった。そして、軸索束の近位端及び遠位端をピンセットでつまんで引っ張ると、図12(b)に示されるように、軸索束は伸展して6.4〔mm〕の長さになった。軸索束は、2倍になるほどの伸展性を有することが確認された。
【0052】
前述のように、本実施の形態によれば、細胞体のスフェロイドと一体となった軸索束は、培養プレート10の各モジュール11から抽出する、すなわち、取り出すことができる。そして、前述の実験で確認されたように、軸索束を機械的に伸展させることができる。したがって、軸索束と一体となった所望の種類の運動神経細胞を事前に培養することによって、運動神経細胞の軸索束の移植を行うことができる。体内の軸索束の物理的特性を試験し、評価することが困難であったところ、本実施の形態によってミリメータスケール以上の軸索束を得ることができるので、軸索束の伸展のような様々の実験を行うことができる。
【0053】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った成長させた軸索を伸展させる第2の実験の結果を説明する。
【0054】
図12Aは本実施の形態における軸索を伸展させる第2の実験の結果を説明する図である。なお、図において、(a)は軸索束を伸展させる方法を説明する模式図、(b)は軸索束の伸展の変化を示す写真、(c)は軸索束の伸展度と軸索束に付与される張力との関係を示す図、(d)は伸展させる前の軸索束の断面のTEM画像、(e)は伸展させた軸索束の断面のTEM画像である。
【0055】
本実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。培養後、大きく成長して長く延びた軸索束を含む運動神経細胞の1つを培養プレート10のモジュール11から抽出した、すなわち、取り出した。そして、図12A(a)に示されるように、基端が固定されたガラスキャピラリー(細いガラス管)の先端(自由端)に軸索束の遠位端を巻き付けて固定し、軸索束の近位端(スフェロイド側端)をピンセットでつまんで引っ張り、軸索束に張力を付与した。すると、張力を受けたガラスキャピラリーが弾性的に湾曲し、その先端が張力の大きさに応じて変位するので、当該先端の変位量から張力の大きさを算出することができる。なお、図12A(a)において、Lは張力付与前の軸索束の長さ、Fは軸索束に付与された張力、ΔLは張力の付与による軸索束の長さの変化量(伸展した長さ)、Δxは張力の付与によるガラスキャピラリーの先端の変位量である。また、図12A(b)において、アステリスク(*)はガラスキャピラリーの先端を示し、三角(▲)は軸索束を長さ方向に4分割した点を示している。図12A(b)の3つの写真は、下へゆくほど軸索の伸展度合いが進むように並べられている。さらに、図12A(c)は、軸索の伸展度合いと付与された張力の大きさとの関係の計測結果を示すグラフであって、横軸が軸索の伸展度合い(%)、縦軸が張力の大きさ(μN)を表している。さらに、図12A(d)及び(e)には、伸展させる前及び後の軸索束の断面の透過型電子顕微鏡写真画像、すなわち、TEM画像が示されており、軸索束を伸展させるとそこに含まれる軸索の断面が変形していることが確認された。
【0056】
前述のように、本実施の形態によれば、細胞体のスフェロイドと一体となった軸索束は、培養プレート10の各モジュール11から抽出する、すなわち、取り出すことができる。そして、軸索束の遠位端をガラスキャピラリーの先端に巻き付けて固定した状態で軸索束に張力を付与することによって、軸索束の伸展度合いと付与された張力の大きさとの関係を計測することができ、軸索束の弾性特性(弾性率)を計測することができる。
【0057】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った成長させた軸索のカルシウムイメージング実験の結果を説明する。
【0058】
図13は本実施の形態におけるカルシウムイメージングに使用した運動神経細胞の写真である。なお、図において、(a)は培養プレートの外におけるカルシウム付与前の軸索束を備えるスフェロイドの写真、(b)は培養プレートの外におけるカルシウム付与後の軸索束を備えるスフェロイドの写真である。
【0059】
本実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。培養後、大きく成長して長く延びた軸索束を含む運動神経細胞の1つを培養プレート10のモジュール11から抽出した、すなわち、取り出した。そして、図13(a)に示されるように、細胞体のスフェロイド及び軸索束を含む運動神経細胞に蛍光処理を施した。続いて、細胞体のスフェロイドに1〔mol〕のKClを付与すると、図13(b)に示されるように、KClの刺激によって誘発された電気生理学的活動の結果により、蛍光が強くなった。KClを付与することによって、細胞体のスフェロイド及び軸索束を含む運動神経細胞が電気生理学的に活発になることが確認された。
【0060】
前述のように、本実施の形態によれば、細胞体のスフェロイド及び軸索束を含む運動神経細胞は培養プレート10の各モジュール11から取り出すことができる。そして、前述の実験で確認されたように、運動神経細胞をカルシウムイメージングに使用することができる。したがって、軸索束に対する電気生理学的活動の体外における評価が困難であったところ、軸索束と一体となった所望の種類の運動神経細胞を事前に培養することによって、細胞体に与えられた刺激が軸索を通ってどのように伝わるのかを観察することができ、神経補綴技術の開発に応用することができる。
【0061】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して発明者が行った成長させた軸索の活動電位変化を測定する実験の結果を説明する。
【0062】
図13Aは本実施の形態における活動電位変化を測定する実験の結果を説明する図である。なお、図において、(a-1)は軸索束を備えるスフェロイドに電気刺激を付与する方法を示す模式図、(a-2)は軸索束を備えるスフェロイドに電気刺激を付与したときのカルシウムイメージング写真、(a-3)は軸索束を備えるスフェロイドに電気刺激を付与したときの蛍光強度の変化を示す写真、(b-1)~(b-3)の各々は、軸索を切断した後の(a-1)~(a-3)にそれぞれ対応する図及び写真である。
【0063】
本実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。培養後、大きく成長して長く延びた軸索束を含む運動神経細胞の1つを培養プレート10のモジュール11から抽出した、すなわち、取り出した。そして、図13A(a-1)に示されるように、運動神経細胞の細胞体のスフェロイドの両側に設けた電極によって、細胞体側に電気刺激を付与し、軸索側の活動電位を測定した。その後、図13A(b-1)に示されるように、軸索束を切断した後、同様に、細胞体側に電気刺激を付与し、軸索側の活動電位を測定した。軸索束を切断前及び切断後に、電気刺激を付与した場合のカルシウム測定試薬としてFluo-4AMを使用したカルシウムイメージングの写真が、図13A(a-2)及び図13A(b-2)に、それぞれ、示されている。また、軸索束を切断前及び切断後に、電気刺激を付与した場合のFluo-4AMの蛍光強度の時間的変化を計測した結果が図13A(a-3)及び図13A(b-3)に、それぞれ、示されている。
【0064】
このように、細胞体側に付与された電気刺激が軸索束に伝達されることが確認された。また、電気刺激に応じて変化する蛍光強度の時間的変化に基づいて、細胞体から軸索の末端への電気生理学的な電導速度を計測することができる。
【0065】
次に、本実施の形態におけるモジュール11の第1及び第2チャンバー12a、12b並びにチャネル13の配置の種々の例について説明する。
【0066】
図14は本実施の形態における培養モジュールの種々の例を示す模式図である。なお、図において、(a)~(g)は、各々、チャンバー及びチャネルの配置の異なるタイプを示す図である。
【0067】
本実施の形態において、モジュール11における第1及び第2チャンバー12a、12b並びにチャネル13の配置は、必ずしも、図3及び4に示されるように、チャネル13によって連結された一対の第1及び第2チャンバー12a、12bを含むものに限定されるものではない。図14(a)に示される例によれば、モジュール11は、各々に細胞体のスフェロイドが播種される2つの第1チャンバー12aと、1つの第2チャンバー12bと、各々が第1チャンバー12aの1つと第2チャンバー12bとを接続する2つのチャネル13とを含んでいる。図14(b)に示される例によれば、モジュール11は、細胞体のスフェロイドが播種される1つの第1チャンバー12aと、2つの第2チャンバー12bと、各々が第1チャンバー12aと第2チャンバー12bの1つとを接続する2つのチャネル13とを含んでいる。図14(c)に示される例によれば、モジュール11は、各々に細胞体のスフェロイドが播種される2つの第1チャンバー12aと、1つの第2チャンバー12bと、2つの第1チャンバー12aと第2チャンバー12bとを接続するように途中で2つに分岐した1つのチャネル13とを含んでいる。図14(d)に示される例によれば、モジュール11は、細胞体のスフェロイドが播種される1つの第1チャンバー12aと、2つの第2チャンバー12bと、第1チャンバー12aと2つの第2チャンバー12bとを接続するように途中で2つに分岐した1つのチャネル13とを含んでいる。図14(e)に示される例によれば、モジュール11は、細胞体のスフェロイドが播種される1つの第1チャンバー12aと、4つの第2チャンバー12bと、各々が第1チャンバー12aと第2チャンバー12bの1つとを接続する4つのチャネル13とを含んでいる。
【0068】
前述のように、本実施の形態によれば、神経細胞が第1チャンバー12a内に播種されて培養されると、軸索はチャネル13内で成長して第2チャンバー12bに向けて延び、さらに、骨格筋が第2チャンバー12b内に播種されると、軸索の遠位端と骨格筋とが第2チャンバー12b内で接合する。さらに、図14(f)に示されるように、細胞体のスフェロイドを第1チャンバー12a及び第2チャンバー12bの両方の内部に播種することによって、中枢神経モデルに応用することができる。また、図14(g)に示されるように、下位運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを第1チャンバー12a内に播種し、上位運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを第2チャンバー12b内に播種し、骨格筋を他の第2チャンバー12b内に播種することによって、下位運動神経、上位運動神経及び骨格筋を含む系に応用することができる。したがって、種々の培養モジュール11を用意すれば、神経細胞、軸索及び骨格筋の間の種々の形態の接合関係をin vitroで得ることができ、神経疾患に有効な薬剤の種々の実験や研究に使用することができる。
【0069】
次に、本実施の形態における培養プレート10のモジュール11内で軸索を細胞体から分離して軸索と細胞体とを別々に抽出する方法について説明する。
【0070】
図15は本実施の形態における軸索を細胞体から分離する工程を示す図である。なお、図において、(a-1)~(a-5)の各々はモジュールの上側を示す写真、(b-1)~(b-5)の各々は(a-1)~(a-5)にそれぞれ対応するモジュールの模式断面図である。
【0071】
本実施の形態によれば、図11~13に示されるように、細胞体及び軸索束を含む運動神経細胞を全体として抽出することができるだけでなく、モジュール11内で軸索束を細胞体から分離してそれらを別々に抽出することができる。まず、図15(a-1)及び(b-1)に示されるように、運動神経細胞の細胞体がモジュール11の第1チャンバー12a内に播種されて培養され、それにより、軸索束が成長し、チャネル13を通って第1チャンバー12aから第2チャンバー12bにまで延びる。続いて、図15(a-2)及び(b-2)に示されるように、カッター21によって軸索束が細胞体から分離される。この場合、少なくとも上板16が好適にはPDMSのような軟らかい材料から成るので、カッター21は、上板16とともに軸索束をスムーズに切断することができる。続いて、図15(a-3)及び(b-3)に示されるように、ピペット22を使用して吸い出すことによって、第1チャンバー12aから細胞体が取り出される、すなわち、つまみ上げられる。続いて、図15(a-4)及び(b-4)に示されるように、ピペット22を使用して吹き付けることによって発生した培養液18の流れとともに、残留していた軸索束がチャネル13から第2チャンバー12b内に追い出される。最後に、図15(a-5)及び(b-5)に示されるように、ピペット22を使用して吸い出すことによって、第2チャンバー12bから軸索束が取り出される、すなわち、つまみ上げられる。
【0072】
前述のように、本実施の形態によれば、モジュール11内で軸索束を細胞体から分離して軸索束だけを抽出することができる。これにより、軸索束内だけに存在するタンパク質やRNAの解析を行うことができる。このような解析は、神経疾患を分析するための重要なプロセスである。
【0073】
次に、筋萎縮性側索硬化症(ALS)に有効な薬剤の開発のための本実施の形態における装置の有用性について説明する。
【0074】
図16はALSの原因を示す模式図、図17は本実施の形態におけるストレステストの結果を示す写真、図17Aは本実施の形態におけるストレステストの軸索の配向性評価結果を示す図、図18は本実施の形態におけるグリア細胞との共培養の結果を示す写真、図19は本実施の形態におけるグリア細胞があるとき及びないときに細胞体のスフェロイドから延びた軸索束の写真である。なお、図17において、(a)はストレスがないときの軸索束の写真、(b)はERストレスがあるときの軸索束の写真であり、図18において、(a)はグリア細胞があるときの細胞体のスフェロイドの写真、(b)はグリア細胞がないときの細胞体のスフェロイドの写真であり、図19において、(a)はグリア細胞があるときの軸索束のスフェロイドの写真、(b)はグリア細胞がないときの軸索束のスフェロイドの写真である。
【0075】
図16に示されるように、ALSの疾患は、グルタミン酸過剰(toxicity of glutamate )、過興奮(hyperexcitability )、グリア毒性(glial toxicity)、ミトコンドリア障害(mitochondria dysfunction)、軸索輸送障害(disruption of axonal transport)、物理的ダメージ(physical damage )、酸化ストレス(oxidative stress)、小胞体(ER:endoplasmic reticulum )ストレス、封入体形成(inclusion bodies)などが原因であると考えられている。これらの原因の1つでも人工的に再現することができれば、ALSに有効な薬剤の発見につながると考えられる。これらの原因を再現するために、本実施の形態による培養プレート10を使用して、発明者はいくつかの実験を行った。
【0076】
タプシガルジン(thapsigargin)を使用して、運動神経に対するERストレスの効果を確認するために、第1の実験を行った。第1の実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、培養も前述の方法と同様の方法で行った。培養後、十分に成長して延びた軸索束を備える運動神経細胞を、1.5〔mol〕のタプシガルジンを含む培養液で5時間処理した。そして、6日後に、図17(b)に示されるような軸索束の形態の評価を、図17(a)に示されるようなタプシガルジンで処理されなかった運動神経細胞の軸索束の形態と比較して、行った。また、図17Aに示されるように、軸索の配向性の評価を行った。ストレスをかけると、配向性が低くなる、すなわち、軸索が変性している、と言える。ERストレスを受けた運動神経では形態が変化することを確認した。
【0077】
特定の遺伝子の変異に起因するグリア細胞のALSに関する毒性が議論されているので、本実施の形態による培養プレート10を使用して運動神経細胞をグリア細胞と共培養することができることを確認するために、第2の実験を行った。第2の実験においては、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。第1チャンバー12a内で培養することによって得た運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、グリア細胞を混ぜた後、培養した。続いて、運動神経細胞をマーカーであるHoechst 、Tuj 1 及びGFAP(Glia Fibrillary Acidic Protein)によって染色した。図18(a)はグリア細胞を混ぜた運動神経細胞を示し、図18(b)はグリア細胞を混ぜなかった運動神経細胞を示している。GFAPはグリア細胞を識別するためのマーカーなので、グリア細胞が細胞体のスフェロイド内に一様に分布していることを確認した。さらに、10日間の培養後、図19(a)に示されるような運動神経細胞にグリア細胞を混ぜた場合であっても、図19(b)に示されるような運動神経細胞にグリア細胞を混ぜなかった場合と同様に、軸索束は、成長して細胞体のスフェロイドからチャネル13内に延びた。このように、グリア細胞との共培養系を得ることができることを確認したので、グリア細胞との共培養系をグリア毒性による神経変性の再現及びALSに有効な薬剤開発のための薬剤スクリーニングへの応用を期待することができる。
【0078】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して成長させた軸索束を細胞体と比較して観察した結果について説明する。
【0079】
図20は本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束を観察した結果を示す図、図20Aは本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束を含む神経細胞の断面を示す写真、図20Bは本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束を含む神経細胞の断面を示す他の写真である。なお、図20において、(a-1)~(a-3)は各種のマーカーによって染色した細胞体の断面を示す写真、(b-1)~(b-3)の各々は(a-1)~(a-3)にそれぞれ対応する軸索束の断面を示す写真、(c)は軸索束の断面の透過型電子顕微鏡写真、(d)は細胞体及び軸索束のタンパク質解析の結果を示す図であり、図20Aにおいて、(a-1)及び(a-2)は各種のマーカーによって染色した細胞体の断面を示す写真、(b-1)及び(b-2)の各々は(a-1)及び(a-2)にそれぞれ対応する軸索束の断面を示す写真であり、図20Bにおいて、(a-1)~(a-3)の各々は各種のマーカーによって染色した細胞体の断面を示す写真、(b-1)~(b-3)の各々は(a-1)~(a-3)にそれぞれ対応する軸索束の断面を示す写真である。
【0080】
ここでは、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を使用した。運動神経細胞の細胞体のスフェロイドを、第1チャンバー12a内に播種して培養した。運動神経細胞及び細胞体のスフェロイドは、前述の方法と同様の方法で得た。また、それらの培養も前述の方法と同様の方法で行った。培養後、大きく成長して長く延びた軸索束を含む運動神経細胞の1つを培養プレート10のモジュール11から抽出した、すなわち、取り出した。そして、細胞体のスフェロイド及び軸索束をマーカーであるHoechst 、Tau 1 、Synapsin 1及びMap 2 によって染色した。図20(a-1)~(a-3)は、それぞれ、Hoechst 及びTau 1 によって染色した細胞体の断面、Hoechst 、Tau 1 及びSynapsin 1によって染色した細胞体の断面、Hoechst 、Map 2 及びSynapsin 1によって染色した細胞体の断面であり、図20(b-1)~(b-3)は、それぞれ、図20(a-1)~(a-3)に対応するように染色した軸索束の断面である。また、図20A(a-1)及び(a-2)は、それぞれ、Tau 1 によって染色した細胞体の断面とHoechst 及びTau 1 によって染色した細胞体の断面であり、図20A(b-1)及び(b-2)は、それぞれ、図20A(a-1)及び(a-2)に対応するように染色した軸索束の断面である。さらに、図20B(a-1)~(a-3)は、それぞれ、Hoechst によって染色した細胞体の断面、Map 2 によって染色した細胞体の断面、Synapsin 1によって染色した細胞体の断面であり、図20B(b-1)~(b-3)は、それぞれ、図20B(a-1)~(a-3)に対応するように染色した軸索束の断面である。軸索が束になっているので、軸索の断面を容易に免疫染色で観察することができる。
【0081】
また、図20(c)は、軸索束の断面のTEM画像、すなわち、透過型電子顕微鏡によって撮像した写真である。軸索が束になっているので、複数の軸索の断面を容易に透過型電子顕微鏡で観察することができる。これにより、軸索内のミトコンドリア、シナプス、微小管の状態を観察することができ、薬剤の効果の評価に利用することができる。
【0082】
さらに、図20(d)は、公知のウェスタンブロッティング(Western blotting)すなわちウェスタンブロット方法(Western blot analysis )により、マーカーであるMap 2 、Nucleoporin 、Tau 1 、Synapsin 1 及びSynaptophysin によって染色した細胞体のスフェロイド及び軸索束のタンパク質解析の結果を示している。なお、〔kDa〕は、単位キロドルトンを示している。軸索が束になっているので、効率的に軸索だけのサンプルを回収することができ、軸索の特異的なタンパク質の解析を行うことができる。図20(d)において、細胞体のスフェロイドのサンプルと軸索束のサンプルとを比較すると、軸索束のサンプルでは、細胞体のマーカーであるMap 2 及びNucleoporin がネガティブであることが分かる。したがって、軸索束のサンプルには細胞体が含まれていないこと、すなわち、軸索束のサンプルは軸索の純度が高いことが分かる。なお、このことは、図20(b-1)~(b-3)、図20A(b-1)及び(b-2)並びに図20B(b-1)~(b-3)に示される免疫染色において、軸索束のサンプルでは、細胞体のマーカーであるMap 2 及び核染色のHoechst がネガティブであることからも、分かる。なお、Synapsin 1は、神経全体に存在しているので、軸索束にも細胞体にも観察される。
【0083】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して成長させた軸索束を走査型電子顕微鏡で観察した結果について説明する。
【0084】
図21は本実施の形態における培養プレートのチャネル内で成長した軸索束の表面を走査型電子顕微鏡で観察した結果を示す写真である。なお、図において、(a-1)及び(a-2)はストレスをかけなかったときの低倍率及び高倍率の写真、(b-1)及び(b-2)の各々は(a-1)及び(a-2)にそれぞれ対応するストレスをかけたときの写真である。
【0085】
軸索束は、図20に示される観察で使用したものと、同様のものである。軸索が束になっているので、軸索束の表面を容易に走査型電子顕微鏡で観察することができる。また、軸索は、束になっていて同じ方向に延びているので、例えば、ストレス(図21(b-1)及び(b-2)に示される例は、酸化ストレス)をかけたときの変化が明確である。
【0086】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して成長させた軸索束にストレスをかけたときの形態変化について説明する。
【0087】
図22は本実施の形態における培養プレートのチャネル内でストレスをかけたときの軸索束を示す写真、図23は本実施の形態における培養プレートのチャネル内でストレスをかけたときの軸索束の形態変化の実験結果を示すグラフである。なお、図22において、(a)はストレスをかけないときの写真、(b)は酸化ストレスをかけたときの写真、(c)は酸化ストレス及び抗酸化剤を付与したときの写真である。
【0088】
ここでは、ヒトiPS細胞(409B2細胞株)由来の運動神経細胞を非接着性の培養プレート10に播種して細胞体のスフェロイドを作製した。続いて、細胞体のスフェロイドを10日間培養した後、培養プレート10のモジュール11の第1チャンバー12a内に播種した。そして、培養30日目に、以下の(1)~(3)の条件の処理を行った。
(1)control PBS (Phosphate Buffered Saline) washing>>>culture medium
(2)H2O2 3hour treatment>>>PBS washing>>>culture medium
(3)H2O2 3hour treatment>>>PBS washing>>>culture medium containing Edaravone
処理を行ってから2日後に、マーカーであるTau 1 で免疫染色した後、評価を行った。なお、評価項目は、Directionality:軸索の方向性である。具体的には、図22内のオブジェクトの方向性を計測した。この場合、0度が流路(チャネル13)方向である。軸索は、束になっていて同じ方向に延びているので、チャネル13内で、例えば、図22(b)に示されるように、酸化ストレスを付与したときや、図22(c)に示されるように、酸化ストレスと、神経疾患の薬剤として用いられる抗酸化剤(Edaravone )とを同時に付与したときの形態変化を比較することができる。そして、図23に示されるような評価実験の結果は、酸化ストレスを付与すると、軸索方向に伸展する軸索が変性するので、流路方向(0度)への方向性が減少し複雑な形状に変化することを示している。形態変化の評価として、図23に示されるオブジェクトの配向性(Directionality)を調べると、負荷をかけていないnegative controlの軸索束の配向性が高く、次に、薬剤及びストレスを付与したとき、その次に、酸化ストレスだけを付与したとき、という順で、配向性の差を観ることができた。これにより、神経細胞が受けたストレスを、軸索の形態変化として、画像処理に基づいて評価することができることが分かる。
【0089】
また、図23や前述の図17Aに示されるような配向性評価結果から、軸索又は軸索束に対してストレスを付与したり、抗酸化剤のような薬剤を付与したりする際における軸索又は軸索束の形の変化又は変性を、配向性という指標を用いることによって、数値化して定量的に評価することができる。つまり、軸索又は軸索束の形態変性を配向性解析によって数値化することができ、これにより、軸索又は軸索束の形態変性を定量的に評価することができることが分かる。
【0090】
次に、本実施の形態による培養プレート10を使用して成長させた軸索束のミエリン化について説明する。
【0091】
図24は本実施の形態における培養プレートのモジュールでの軸索のミエリン化を示す図である。なお、図において、(a)はモジュール内の神経細胞のミエリン化を説明する模式図、(b)はシュワン細胞がないときの軸索の写真、(c)はシュワン細胞があるときの軸索の写真である。
【0092】
体内のミエリン(髄鞘)をin vitroで再現する際、従来の方法では、神経細胞の細胞体とシュワン細胞やオリゴデロンサイトの細胞体とが混ざっているので、評価が複雑であった(それぞれの細胞体を識別することが困難であった。)。これに対して、本実施の形態における培養プレート10を使用すると、図24(a)に示されるように、モジュール11のチャネル13内及び反対側にある第2チャンバー12b内に神経細胞の細胞体が存在しないので軸索とミエリン化する細胞とがどのように振る舞うのかを容易に観察することができる。具体的には、IMS32細胞株を第1チャンバー12a内に播種して培養し、軸索が束になった後に、ミエリン化する細胞であるシュワン細胞を播種した。シュワン細胞が存在しない図24(b)に示される例と比較すると、シュワン細胞が存在する図24(c)に示される例では、ミエリン化を容易に観察することができる。
【0093】
次に、本実施の形態における装置の適応性について説明する。
【0094】
図25は本実施の形態における装置の適用可能分野を示す模式図、図26は本実施の形態における装置の他の適用可能分野を示す模式図である。なお、図25において、(a)は薬剤スクリーニングへの応用を示す図、(b)は表現型(phenotype )装置への応用を示す図である。
【0095】
本実施の形態による培養プレート10を使用することによって、図25(a)に示されるように、太い軸索束を備える神経組織すなわち神経細胞と他の組織との共培養系に対してのスクリーニングを行うことができる。また、図25(b)に示されるように、患者由来の組織を使用することによって、表現型を網羅的に調べることができる。培養プレート10は、表現型解析による診断薬の開発に応用することができる。図26に示されるように、本実施の形態による培養プレート10を使用して培養された太い軸索束を備える神経組織は、ペーシングシステムのような医用器具の開発や試験に使用することができる。また、移植への利用も期待することができる。
【0096】
本実施の形態における各実験では、ヒトiPS細胞由来の運動神経細胞を使用した場合についてのみ説明したが、ヒトiPS細胞だけでなく、多能性幹細胞、ヒト幹細胞等の細胞に由来する運動神経細胞を使用することもできる。
【0097】
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することによって、当然に考え付くことである。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本開示は、神経細胞の培養に適した装置及び方法に適用することができる。
【符号の説明】
【0099】
10 培養プレート
11 モジュール
12a 第1チャンバー
12b 第2チャンバー
13 チャネル
17 シール部材
18 培養液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図12A
図13
図13A
図14
図15
図16
図17
図17A
図18
図19
図20
図20A
図20B
図21
図22
図23
図24
図25
図26