(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】水性メタリックカラーインキ
(51)【国際特許分類】
C09D 11/17 20140101AFI20221004BHJP
【FI】
C09D11/17
(21)【出願番号】P 2019026207
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2021-12-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 出荷日 平成30年10月16日(2018.10.16) 出荷先 LION STATIONERY CO.PTE LT(所在地:29 Kaki Bukit Road 2,Singapore 417852)
(73)【特許権者】
【識別番号】390017891
【氏名又は名称】シヤチハタ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 英志
(72)【発明者】
【氏名】岡 沙弥佳
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-029730(JP,A)
【文献】特開平07-310040(JP,A)
【文献】特開平09-142006(JP,A)
【文献】特開平09-249844(JP,A)
【文献】特開2005-255952(JP,A)
【文献】特開2003-292851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0148387(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料と、リーフィングタイプアルミニウム顔料と、エチレン酢酸ビニルエマルジョンと、水と、顔料を少なくとも含んでなる水性メタリックカラーインキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマーキングペン等で主に使用され、金属光沢を有する色調の筆記線を与える水性メタリックカラーインキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、金属顔料を水に分散したマーキングペン用の金色または銀色の水性インキは公知となっており、例えば、特開昭63-072771号、特開昭63-095277号、特開平09-165545号などが提案されている。これらの水性インキには主にアルミニウム顔料が用いられており、ノンリーフィングタイプ又はリーフィングタイプのアルミニウム顔料が用いられている。
ノンリーフィングタイプは、鱗片状のアルミニウム粒子が筆記線を構成するインキ膜表面に浮き上がることなくインキ塗膜中に分散するため密着性(耐剥離性)に優れており、また補色顔料を添加した場合の着色効果が得られやすいといった利点があるが、光を透過しやすいため隠蔽性という点ではやや劣る欠点があった。
一方、リーフィングタイプは、鱗片状のアルミニウム粒子がインキ塗膜表面に浮上して配列するため光輝性・隠蔽性に優れるが、それゆえ表面にある粒子の密着性(耐剥離性)が劣り、補色顔料を添加してもインキ塗膜表面に配列したアルミニウム粒子によって隠れてしまうため、補色顔料による着色効果がほとんど得られない欠点があった。
特許文献4は前記ノンリーフィングタイプと前記リーフィングタイプのアルミニウム顔料を併用配合する事で発色性、光輝性、隠蔽性を向上させた水性メタリックカラーインキが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開昭63-072771号公報
【文献】特開昭63-095277号公報
【文献】特開平09-165545号公報
【文献】特開2005-29730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献4記載の水性インキは、リーフィング、ノンリーフィングアルミニウム顔料を単独で配合する場合と比較すると、発色性・光輝性・隠蔽性は改善されているものの、黒画用紙等の黒地の紙に筆記した際に、筆記線に裏写り・色別れ等が目立ち、綺麗に発色しない等改善の余地があった。ここで色別れとは、筆記した際のインキ塗膜中でアルミニウム顔料より先に顔料が紙表面に沈降し、その上からアルミニウム顔料が覆い被さる事で顔料の色彩が失われ、殆ど金属色のみを呈する現象である。
【0005】
本発明は、筆記線の裏写り・色別れ等を確実に防止する事で、紙等、特に黒地の紙等に筆記した際でも金属光沢のある綺麗な筆記線を得ることができる水性メタリックカラーインキを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために完成された発明は、ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料と、リーフィングタイプアルミニウム顔料と、エチレン酢酸ビニルエマルジョンと、水と、顔料を少なくとも含んでなる水性メタリックカラーインキである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料と、リーフィングタイプアルミニウム顔料と、エチレン酢酸ビニルエマルジョンと、水と、顔料を少なくとも含んでなる水性メタリックカラーインキである為、エチレン酢酸ビニルエマルジョンがネットワーク構造を形成し、筆記した際のインキ塗膜中で顔料が沈降するのを防止する事ができる。その為、溶剤が紙中に浸透していく過程で、顔料より先にアルミニウム顔料が紙表面に沈降し、その上から顔料が乗る為、顔料の色彩が失われず、発色性が良好となる。また、エチレン酢酸ビニルエマルジョンは、インキ中でアルミニウム顔料を配向させる作用がある為、アルミニウム顔料が紙表面で規則的に配向した状態で沈降し、隙間の少ない積層体を形成する事で、輝度性、隠蔽性を向上させることができる。なお、本発明において「配向」とは一定方向に配列する事と定義する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明を詳細に説明する。
通常の筆記具に用いられるアルミニウム顔料としては、ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料とリーフィングタイプアルミニウム顔料が知られているが、本発明では両者を併用する事で、それぞれの欠点を補完し、発色性、光輝性、隠蔽性を改善させることができる。
前記ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料とリーフィングタイプアルミニウム顔料は、平均粒子径が20μm未満の微細粒子のものが主に用いられ、アルミニウム顔料をあらかじめ高級脂肪酸などで表面処理した後、ミネラルスピリットなどの脂肪族炭化水素やポリオキシエチレンアルキルエーテルなどのグリコールエーテル系溶剤からなる媒体にボールミルなどをもって混合分散させ、ペーストとしたものが安全上からも好ましく用いられる。ペースト化するには特開昭55-99970号公報に記載があるような乾式法や湿式法が通常用いられる。特に、アルミニウム微粒子とオレイン酸とミネラルスピリットなどの媒体と界面活性剤等をペースト化したものはノンリーフィングタイプアルミニウム顔料ペーストとなり、アルミニウム微粒子とステアリン酸とミネラルスピリットなどの媒体と界面活性剤等をペースト化したものはリーフィングタイプアルミニウム顔料ペーストとなって、本発明に好ましく用いられる。
前記ノンリーフィングタイプアルミニウム顔料とリーフィングタイプアルミニウム顔料の合計は、インキ全量中1.0~20.0重量%、好ましくは2.0~10.0重量%の範囲で用いられる。
本発明では、市販のアルミニウム顔料ペーストを用いることができ、ノンリーフィングタイプとして具体的には、アルペーストEMR-D6390、アルペースト1500MA、アルペーストWXM7640、アルペーストWE7640、アルペーストWJD7640、アルペーストWJE7640(以上、商品名:東洋アルミニウム(株)社製)、AW-600、AW-500B、AW-520B、AW-666C、AW-808C、AW-7000R(以上、商品名:旭化成(株)社製)、リーフィングタイプとして具体的には、アルペーストWXM0650、アルペースト0500M、WB0700、WS0700(以上、商品名:東洋アルミニウム(株)社製)等を例示することができる。
【0009】
本発明では、樹脂としてエチレン酢酸ビニルエマルジョンが用いられる。前記エチレン酢酸ビニルエマルジョンはコート紙等の非吸収面に対する密着性を付与するだけではなく、インキ中で顔料とアルミニウム顔料の両方に作用して発色性を向上させる効果がある。
本発明では、市販のエチレン酢酸ビニルエマルジョンを用いることができ、具体的には、AQUACER526、AQUATIX8421(以上、商品名:ビックケミー・ジャパン(株)社製)等を例示する事ができる。その配合量はインキ全量中5.0~30.0重量%、好ましくは10.0~20.0重量%の範囲で用いられる。
【0010】
エチレン酢酸ビニルエマルジョンの顔料・アルミニウム顔料への作用について説明する。筆記した際のインキ塗膜中では、エチレン酢酸ビニルエマルジョンがネットワーク構造を形成し、顔料が沈降するのを防止する。その為、溶剤が紙中に浸透していく過程で、アルミニウム顔料が先に紙表面に沈降し、その上から顔料が乗る為、顔料の色彩が失われず、発色性が良好となると考えられる。また、エチレン酢酸ビニルエマルジョンは、インキ中でアルミニウム顔料を配向させる作用がある為、アルミニウム顔料が紙表面で規則的に配向した状態で沈降し、隙間の少ない積層体を形成する事で、輝度性、隠蔽性を向上させることができると考えられる。
上記よりエチレン酢酸ビニルエマルジョンを配合する事で、顔料が持つ色彩と、アルミニウム顔料が持つ輝度性を最大限に生かし、発色性・隠蔽性に優れた筆記線を得る事ができる。
【0011】
本発明の主溶剤としては水を用いる。水道水、蒸留水、純水など何でもよいが、水道水が最も安価であるので主に使用され、インキ全量中40.0~95.0重量%、好ましくは50.0~70.0重量%の範囲で用いられる。
【0012】
本発明に用いる着色剤としては顔料を用いる。顔料としては、特に制限されることなく従来公知の有機顔料及び無機顔料を単独又は混合して使用することができる。例えば、アゾ系、縮合アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アンスラキノン系、ジオキサジン系、インジゴ・チオインジゴ系、ベリノン・ベリレン系、イソインドレノン系、アゾメチレンアゾ系、ジケトピロロピロール系などの有機顔料や、カーボンブラック、マイカ、酸化チタン、パール顔料、酸化鉄・真鍮等金属顔料などの無機顔料を用いることができる。
これらの顔料は通常、ニトロセルロース、エチルセルロース、テルペンフェノール、塩化ビニル/酢酸ビニルコポリマー、ロジンエステル、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコールなどの公知の樹脂などに練り込んで加工顔料としておくと、溶剤と混合する際に容易に分散するので便利である。
また、着色剤として染料を配合することを許容する。染料としては、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アントラキノン系、フタロシアニン系、トリアリルメタン系など従来公知の油溶性染料を特に制限されることなく使用することができる。
上記染料及び顔料は単独或いは混合して任意に使用することができ、その配合量はインキ全量に対して1~30重量%が好ましい。
【0013】
本発明には必須ではないが、筆記線を構成するインキ塗膜を被筆記物に密着するために固着剤を添加することができる。本発明に用いることができる固着剤は、インキに溶解又は分散する樹脂を用いることができ、アクリル樹脂、水溶性アクリル樹脂、水性合成樹脂エマルジョン、マレイン酸樹脂、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどから1又は2以上を選択して用いることができる。
前記アクリル樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体等の樹脂、及び、それらのアルカリ金属塩・アンモニウム塩・アミン塩からなる樹脂の粉末が用いられ、ジョンクリル 683、67、586(以上、ジョンソンポリマー(株)製)、ジュリマー AC-10P、AC-10NP、AC-103AP(以上、日本純薬(株)製)等を例示することができ、前記水溶性アクリル樹脂溶液としては、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体などのアルカリ金属塩・アンモニウム塩・アミン塩の水溶液であって、固形分20~60%のものが好ましく用いられ、ジョンクリル 61J、354、501(以上、ジョンソンポリマー(株)製)等を例示することができ、前記水性合成樹脂エマルジョンとしては、酢酸ビニル樹脂系、酢酸ビニル共重合樹脂系、アクリル共重合樹脂系、スチレン-アクリル共重合樹脂系、スチレンーブタジエン共重合樹脂系などで、固形分20~60%のものが好ましく用いられ、ジョンクリル 1535、537、74J(以上、ジョンソンポリマー(株)製)、ジュリマー ET-410、ET-510(以上、日本純薬(株)製)、アプレタン 3410、モビニール DM765,771H、DM772、DM774(以上、クラリアントポリマー(株)製)等を例示することができる。
これらの固着剤は、インキ塗膜の被筆記物への密着性及びインキ塗膜の耐水性の発揮に寄与し、インキ全量中0.1~30.0重量%、好ましくは0.5~20.0重量%の範囲で用いられる。
【0014】
本発明では、他の各種物質を添加することもできる。例えば、防腐剤として、安息香酸ナトリウム、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オンナトリウム塩、1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オンアルキルアミン塩、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、2-メトキシカルボニルアミノベンズイミダゾール-4‘-N-ドデシルベンゾールスルフォン酸、顔料沈降防止剤・にじみ防止剤として沈降性硫酸バリウム、クレー、親水性シリカ、疎水性シリカ、超微粒子状無水シリカ、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウムなどの体質顔料や、顔料分散剤としてソルビタントリオレエート、ソルビタンモノステアレートなどや、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-チオビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、ビタミンC、ビタミンEなどを添加してもよい。
【0015】
本発明のインキは、上記物質を適量選択して、撹拌機にて常温以上50℃以下で約3時間混合分散して製造する。
【0016】
実施例及び比較例のインキ配合を表1に示す。
表中の変性エチレン酢酸ビニルエマルジョンは、AQUACER526(ビックケミー・ジャパン(株)社製)、アクリル酸エステルエマルジョンは、モビニールDM758(日本合成化学工業(株)社製)、塩化ビニル系エマルジョンは、ビニブラン700(日信化学工業(株)社製)、ポリメタクリル酸エステルエマルジョンは、ジュリマーET-325(日本純薬(株)社製)である。また、リーフィングアルミニウム顔料、ノンリーフィングアルミニウム顔料はそれぞれ、アルペーストWXM0650、アルペーストEMR-D6390(東洋アルミニウム(株)社製)である。
実施例及び比較例について、以下の条件で試験を行った。
(1)発色性試験:繊維芯を備えた生インキ式マーキングペンにインキを充填し、黒地の普通紙に筆記したインキ塗膜を評価した。
○:顔料の色彩を有している。
△:少し顔料の色彩を有している。
×:ほとんど金属色のみである。
(2)光輝性試験:繊維芯を備えた生インキ式マーキングペンにインキを充填し、黒地の普通紙に筆記したインキ塗膜を評価した。
○:金属光沢を有している。
△:少し金属光沢を有している。
×:金属光沢が無く、くすんでいる。
(3)隠蔽性試験:繊維芯を備えた生インキ式マーキングペンにインキを充填し、黒地の普通紙に筆記したインキ塗膜を評価した。
○:下地は全く見えない。
△:少し下地が見える。
×:下地が透けて見える。
【0017】
表1の比較例1は変性エチレン酢酸ビニルに、リーフィングアルミニウム顔料を組み合わせた配合であり、比較例2は変性エチレン酢酸ビニルに、ノンリーフィングアルミニウム顔料を組み合わせた配合である。比較例1では、光輝性、隠蔽性に比べて筆記線に顔料色彩が無く発色性が非常に悪い。その理由として、リーフィングタイプは、鱗片状のアルミニウム粒子がインキ塗膜表面に浮上して配列するため光輝性・隠蔽性に優れるが、それゆえ補色顔料を添加してもインキ塗膜表面に配列したアルミニウム粒子によって隠れてしまうため、補色顔料による着色効果がほとんど得られない欠点がある為と考えられる。比較例2では、発色性に比べて、筆記線に金属光沢が無く、黒地が筆記線から透けて見えており、光輝性、隠蔽性が非常に悪い。その理由として、ノンリーフィングタイプは、鱗片状のアルミニウム粒子が筆記線を構成するインキ膜表面に浮き上がることなくインキ塗膜中に分散するため、補色顔料を添加した場合の着色効果が得られやすいといった利点があるが、光を透過しやすいため隠蔽性という点ではやや劣る欠点がある為と考えられる。また、比較例3~5は、リーフィングアルミニウム顔料とノンリーフィングアルミニウム顔料を併用し、変性エチレン酢酸ビニル以外のエマルジョンを組み合わせた配合である。比較例1、2に比較して発色性、光輝性、隠蔽性は改善されているものの、良好ではない。
実施例1は、リーフィングアルミニウム顔料とノンリーフィングアルミニウム顔料を併用し、変性エチレン酢酸ビニルを組み合わせた配合である。前記3成分を併用配合する事で比較例1~5に比べて発色性、光輝性、隠蔽性が向上していることが明らかである。
【0018】
以上、現時点において、もっとも、実践的であり、かつ好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う水性メタリックカラーインキもまた技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。