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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】摩耗表示層を備えるゴム製品
(51)【国際特許分類】
   F16G 1/00 20060101AFI20221004BHJP
   F16G 1/28 20060101ALI20221004BHJP
   F16G 5/20 20060101ALI20221004BHJP
   F16G 5/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F16G1/00 C
F16G1/28 A
F16G5/20 A
F16G5/20 B
F16G5/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021505685
(86)(22)【出願日】2019-07-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 US2019044313
(87)【国際公開番号】W WO2020028478
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】16/053,420
(32)【優先日】2018-08-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504005091
【氏名又は名称】ゲイツ コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】ホジャート,ヤーヤ
(72)【発明者】
【氏名】フェン,ユディン
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0193094(US,A1)
【文献】特開2009-281780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 1/00
F16G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー体を含み、Vベルト、マルチVベルト、あるいは歯付きベルトとして形成され、使用中に摩耗する物品であって、
摩耗される表面と、
前記表面またはその近くに設けられる1つまたは複数の表示層とを備え、
前記表示層の各々が、マイクロカプセルが埋め込まれたポリマーマトリックスを備え、 前記マイクロカプセルが、芳香剤または着色剤を含む表示材料を含む
ことを特徴とする物品。
【請求項2】
表示層が摩耗される表面に属することを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項3】
2つ以上の前記表示層を備えることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項4】
複数の前記表示層が連続していることを特徴とする請求項に記載の物品。
【請求項5】
複数の前記表示層が非表示層により分離されていることを特徴とする請求項に記載の物品。
【請求項6】
前記表示層の少なくとも1つが、前記摩耗される表面の下において、摩耗の程度が物品を検査する、または交換されるべきであることを示す所定の深さに埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の物品。
【請求項7】
ポリマー体を含み、伝動ベルトまたは搬送ベルトとして形成され、使用中に摩耗する物品であって、
カバージャケットを含む摩耗される表面を備え、
前記ジャケットは、帆布および処理物を含み、
前記処理物は、マイクロカプセルが埋め込まれたポリマーマトリックスを含み、
前記マイクロカプセルは、芳香剤または着色剤を含む表示材料を含む
ことを特徴とする物品。
【請求項8】
Vベルト、マルチVベルト、あるいは歯付きベルトとして形成されたことを特徴とする請求項7に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは使用中に摩耗するゴムまたはポリマー製品、より具体的には、マイクロカプセル化された芳香剤または着色剤が埋め込まれた摩耗表示層を備えたベルト、ホース、タイヤ、およびホイールに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な種類のベルトが、動力伝達に使用され、自動車からオートバイ、コピー機から多くの産業機械など、様々な用途で使用されている。また、多くのタイヤが自動車、トラック、そして多くの産業において使用されている。ベルトまたはタイヤの使用と保守における大きな課題は、製品の残りの寿命と、製品をいつ交換する必要があるかを予測できるようにすることである。ベルトやタイヤが古くなるにつれ、経過年数を特定できるサインは様々ある。ゲージと厚さの詳細に関する情報が必要であるものの摩耗を直接測定することは常に容易で簡単な方法である。他の既知の技術はそれほど簡単ではない。
【0003】
米国特許第5,351,530号は、導電性ゴムでコーティングされた布の摩耗状態を示すために伝導性の低下を測定することで、導電性カーボンブラックをベースにした帯電防止ゴム組成物を含浸させたカバーキャンバスを利用している。この方法は、計測器と詳細な情報も必要とする。
【0004】
米国特許出願公開第2017/0002917A1号は、第2材料の下に埋設された第1材料の視覚的に識別可能な露出を摩耗状態の基準として利用し、リブ底における第2材料の除去を検出するVリブベルトの摩耗状態を示す方法を開示する。特に、第1材料は、第2材料とは色が異なる。
【0005】
米国特許出願公開第2016/0221400Al号は、顧客にタイヤに残っている使用可能なトレッド量に関して漸次増大する表示を提供するため、タイヤのトレッドパターンに組み込まれた視覚的摩耗表示構成を開示する。この構成には、深さが徐々に増加する成型された溝やパターンが含まれる。
【0006】
米国特許第7,748,521号および米国特許第7,766,157号は、異なる極性を有する磁性層の漸減による摩耗検出を開示している。
【0007】
米国特許第6,653,943号を参照すると、シースの所定の摩耗量を示すリフトベルトの特性を感知する摩耗センサを開示している。感知される特性には、ストランドとの電気的接触、シースの表面からストランドまでの距離、またはシース表面の色の変化が含まれる。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、センサ、メーター、または仕様の詳細な知識も使用せずに、ゴム製品の摩耗の指標を提供するシステムおよび方法に関する。本発明は、少なくともその一部に摩耗状態に達したことを示すために放出される表示物質のマイクロカプセルが含まれるゴムまたはポリマー製品に関する。
【0009】
マイクロカプセル化された表示物質は、例えば芳香剤または着色剤である。
【0010】
そのようなマイクロカプセルを有する層またはゾーンが1つ以上設けられる。それぞれのゾーンや層には、様々な香料や着色剤が含まれ得る。異なるゾーンの異なる香料または着色剤は、摩耗の状態の漸進的な指標を提供し得る。
【0011】
上記では、本発明の機能と技術的な利点を、以下の本発明の詳細な説明をよりよく理解するために、幾分大雑把に説明した。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明の追加の特徴および利点は以下に説明される。開示された概念および特定の実施形態は、本発明と同じ目的を実行するための他の構造を修正または設計するための基礎として容易に利用され得ることが当業者によって理解されるであろう。そのような同等の構造は、添付の特許請求の範囲に記載されている本発明の範囲から逸脱しないことも当業者によって認識されるであろう。本発明の構成および操作方法の両方に関して本発明の特徴であると考えられる新規の特徴は、更なる目的および利点とともに、添付の図とともに考え合わせることで、以下の説明からよりよく理解されるであろう。しかしながら、各図は、例示および説明のみを目的として提供されており、本発明の限界を定義することを意図されていないことを明確に理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
本明細書に組み込まれ、その一部を形成し、同様の数字が同様の部材を表す添付の図面は、本発明の例示的な実施形態を説明し、詳細な説明とともに本発明の原理を説明するために提示される。図面には以下のものが含まれる。
【0013】
図1】本発明の一実施形態で使用されるマイクロカプセルの断面図である。
【0014】
図2】本発明の実施形態で使用されるマイクロカプセルを含むシート材料の部分的に切り出された斜視図である。
【0015】
図3】本発明の実施形態における表示層の部分的に断片化された断面図である。
【0016】
図4】本発明の実施形態における5つの表示層の部分的に断片化された断面図である。
【0017】
図5】本発明のVベルトの実施形態の断面図である。
【0018】
図6】本発明のタイヤの実施形態の断面図である。
【0019】
図7】本発明のホースの実施形態の断面図である。
【0020】
図8】本発明のホイールの実施形態の部分的に断片化された斜視図である。
【0021】
図9】本発明のマルチVリブベルトの実施形態の断面図である。
【0022】
図10図9のベルトの部分Aの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、ベルト、タイヤ、または他のエラストマー製品の摩耗状態を示す簡単で実用的かつ正確な方法に関するものである。そのため製品は、摩耗にさらされる製品の一部が香料または着色剤のマイクロカプセルを含むように構成されている。摩耗状態がその部分に達すると、マイクロカプセルが露出して破裂し、内容物が放出されて摩耗状態が示される。その部分は、本明細書では「表示ゾーン」または「表示層」と呼ばれる。
【0024】
一実施形態では、エラストマーの薄いシートが表示層として形成され、好ましくは数ミクロンから最大1ミリメートルの範囲の厚さとされる。用途に応じて、このシートは、上記好ましい厚さの範囲よりも薄くまたは厚くすることができる。この薄いエラストマーシートには、少量の着色剤または染料、あるいは香料すなわち香り、あるいはその両方を含むカプセルがその中に埋め込まれている。薄いシートは、エラストマー製品の表示層として所定の深さに埋め込まれている。表面が摩耗し始めるとすぐに摩耗の表示をする場合、所定の深さは表面であってもよい。所定の深さは、摩耗状態を製品の使用者に示されることが望まれる表面より下のどこかにあればよい。摩耗がこの表示層に達すると、摩耗によりカプセルが壊れ、着色染料または芳香、あるいはその両方が放出され、それによりベルトやタイヤなどの摩耗した製品を検査あるいは取り換えるべき時期であるとエンドユーザに警告する。
【0025】
他の実施形態では、複数の表示ゾーンまたは層を使用することができ、これらは、異なる着色剤または匂い物質を含み得る。例えば、第1表示層は、緑色の着色剤、または心地よい庭の花の香りを含み、それによって、ベルトまたはタイヤまたは他の製品が良好な状態であることを示す。この第1層が摩耗すると、第2表示層が中間の摩耗状態を示すために、例えば黄色および/またはより落ち着いた香りを含む。最終的な表示層は、ひどい摩耗状態、すなわちタイヤ、ベルトまたは他の製品が交換時期であることを示すために、例えばあまり心地よくない赤い染料および/または臭気を含む。
【0026】
本発明の多くの変形例が想定され得る。色や香りが徐々に変化する、比較的薄い表示ゾーンまたはレイヤーをいくつか使用する方が、1つ、2つ、または3つの層を使用するよりもエンドカスタマーにとって好ましいかもしれない。また、表示層の厚さによって色と香りが持続する時間が決定する。カプセルは、それらの幾つかが常に接触領域にあり、開裂できるようにされており、芳香および/または色効果を連続的に保つように、表示ゾーンの厚さ全体に亘って配置または配向され得る。あるいは、表示層は暫くの間現れ、更なる摩耗が次の表示層を露出するまで消えるように、表示ゾーンを非表示ゾーンで分離することもできる。
【0027】
カプセルを含むエラストマー表示層は、互換性があり、部品の性能を低下させないために、ベルトまたはタイヤまたは他の製品と同じまたは類似の材料から作製されるであろう。カプセルは小さく、それらの密度および染料含有量は、ベルトまたはタイヤを覆うためだけではなく、環境(道路、エンジンコンパートメントなど)を着色しないように十分に小さいことが好ましい。カプセルのサイズは、直径または平均直径からすれば、数百ナノメートルから数百マイクロメートルの範囲にあるであろう。染料と香りの素材には、無毒で環境にやさしく、部品の性能に影響を与えないものが用いられる。つまり、設計による場合を除いて、摩擦係数には影響しない。例えば、氷や雪などの特定の条件で動作する特定のタイヤに、より高い摩擦が必要な場合は、染料またはその代替品を設計して、摩擦を増やすことができる。そのような表示層は、タイヤの外側に所望の厚さで設けられ得るので、使用された直後に有効となり得る。
【0028】
本発明は、機械的または電子的装置を必要とせず、またベルトやタイヤの摩耗を定量的に決定するための技術的専門知識も必要としない。素人の誰でも、ベルトやタイヤで放出される色を見たり、様々な香りを嗅いだりすることができる。特にバイクなど、エンドユーザがゴム部分に近い用途では、色が良く、香りが心地よいので、商品の魅力を高めることができる。多くのエンドユーザが、ガレージに入るときによい香りや心地よい香りを楽しめる。これらの審美的な魅力は、技術的な機能も提供し、エンドユーザに、彼らのタイヤ、ベルト、またはその他のゴム製品の摩耗の割合と残りの寿命を提示する。
【0029】
本発明の製品および表示層に使用できるエラストマー材料には、あらゆる種類のゴムエラストマーやコンパウンドが含まれ、幾つかの種類の非限定的な配合成分を挙げれば、これらには充填剤、可塑剤、劣化防止剤、硬化剤や助剤が一般的に配合されている。エラストマー材料は、例えば熱可塑性エラストマーである。通常、エラストマー製品は、表示層を含むさまざまな材料層で構成され、次に成形され、加硫、すなわち硬化されて、表示層が所望の位置にある最終的な持続的形状が得られる。表示層を含む様々な層は、例えば、エラストマーをオープンミルからシート状にすることで、押し出すことで、またはカレンダリングすることで、あるいは他の任意の適切なプロセスによって製造することができる。層が作られると、それは、成形、巻き付け、接着、プレスなどされて、部品の中または上に、および/または部品と一緒に硬化されて例えば部品の一体部分となる。好ましい実施形態では、乾燥粉末形態のカプセル化された材料は、天然ゴムまたは合成ゴム(EPM、EPDM、CR、SBR、HNBR、BR、ACM、AEM、NBRなど)と混合され、伝動ベルト、搬送ベルト、タイヤ、ホースまたはホイールの摩耗面の上に形成される。あるいは、同一または異なるカプセル化された材料を含む複数の層を、ベルト、タイヤ、ホース、ホイールまたは他の製品の摩耗面上またはその下に形成することができる。表1は、可能なゴム製造方法の1例を示しており、強化充填剤はカーボンブラックまたはその他の白色充填剤(シリカ、タルク、粘土など)、可塑剤は石油または合成エステル、硬化剤は硫黄硬化システム(硫黄と促進剤)または過酸化物硬化システム(過酸化物と助剤)であってもよく、また放射線硬化や紫外線硬化などの他の方法で硬化させてもよい。
【0030】
表1:ゴム製造法の例

【0031】
本発明の概念は、エラストマーに限定されず他の熱可塑性または熱硬化性ポリマーに基づく製品および表示層にも適用され可能である。例えば、本発明は摩耗しやすく、その表示が必要なプラスチック製の歯車、プーリ、またはホイールに適用できる。このような場合、製造プロセスはエラストマーの場合とは異なる可能性があるが、表示ゾーンが設けられた構造は同様である。例えば、熱可塑性ナイロンプーリやホイール(キャスター)の場合、表示層は一つの部材として加硫されるのではなく、ベース構造上にオーバーモールドされるであろう。
【0032】
上記の説明に基づいて、本発明の範囲内の多くの異なる製品には様々な形状、サイズ、および形態があり得ることは当業者には明らかである。本発明の利点には、以下のものが含まれる:ベルト、ホース、タイヤ、または摩耗にさらされる同様の製品の摩耗状態を特定するのに簡単で効果的な方法である;摩耗を判断するのに費用効果が高い方法である;エンドユーザが摩耗に関する特定の知識、技術的専門性、または詳細な情報を持っている必要がない;測定機器や機器が必要ない;技術的な利点に加えて審美的な魅力も提供し得る。
【0033】
更に、同一のまたは適合性(compatible)の高いポリマー配合物の薄い層を使用すること、および不活性シェルに含まれる染料または香料の全体の濃度(level)が低いことは、物品の本来の特性(integrity)が損なわれないことを意味する。濃度と適合性は、表示用の物質が放出された場合でも、物品本体の物理的特性と表面の物理的特性(色を除く)が変更されないものとされる。
【0034】
本発明は、自動車および非自動車用途のすべてのベルト、タイヤ、ホース、および同様の製品に使用することができる。伝動ベルトには、平ベルト、マルチVリブベルト、全ての形式のVベルト、歯付きベルトなどが含まれる。搬送ベルトには、様々なゴムまたは熱可塑性エラストマー(TPE)ベースの搬送ベルトが含まれる。ゴムホイール、ポリウレタンホイール、プラスチックプーリ、プラスチックホイールなど、摩耗にさらされるポリマー製の全ての部品に使用できる。
【0035】
また、本発明は、アプリケーションにおいて摩耗しない製品にも使用できる。マイクロカプセルは、カプセルを露出させ、それらの心地よい効果を表出できる機械加工、粉砕などの加工を受ける得る材料の外層に埋設できる。
【0036】
本明細書で使用するためのカプセルは、マイクロカプセルと呼ばれ得る。マイクロカプセル化とは、液体、気体、または微細な固体粒子の微細な小滴を天然または合成ポリマーのシェルで包むためのあらゆる技術を指す。マイクロカプセル化は、有効成分の保護、栄養損失の低減、フレーバーのマスキングまたは保存、カプセル化された物質の放出の制御、薬物投与量の削減、特定の場所への薬物の輸送に用いられ、カプセル化された物質の取り扱いを容易にする。ノーカーボン紙は、マイクロカプセル化の初期の商用アプリケーションであった。食品業界では、マイクロカプセル化は、フレーバー、酵素、油、脂肪をカプセル化するために広く使用されており、耐久性を高めたり、揮発性を低減したり、乾式混合のために液体を固体に輸送したりするために、カプセル化された成分を光、酸素、湿度などの環境条件から保護する。農業では、水溶性肥料がワックス、アスファルト、およびポリウレタンなどのポリマーによってカプセル化されており、これにより、局所的に肥料濃度が高くなるのを防ぎ、散布回数を減らすことができる。製薬業界では、マイクロカプセル化が治療薬の放出を制御し、投与後の過剰摂取を防ぐのに使用される。化粧品業界では、マイクロカプセル化がデオドラントや香水の徐放を実現している。
【0037】
マイクロカプセル内にカプセル化された物質は、コア、内相、または内容物と呼ばれることもあり、カプセル化マトリックスまたはシェルは、コーティング、壁材料、または膜と呼ばれることもある。コアは、結晶性、アモルファス、エマルジョン、固体の懸濁液、またはさらに小さなマイクロカプセルなど、任意の形態であり得る。シェルは単層または多層にすることができ、1つまたは数種類のから構成されてもよい。
【0038】
本発明の実施形態では、ゴム糊、炭水化物、セルロース、脂質、無機材料、およびタンパク質を含む多くの物質をシェルに使用することができる。例えば、壁材料は、PMU(ポリオキシメチレン尿素)またはゼラチン、あるいは他の高分子電解質または無機材料でもよい。壁材料の選択は、コア材料の物理化学的特性やマイクロカプセルの製造プロセス、および最終製品の望ましい特性に依存する。
【0039】
カプセル化された着色剤や染料材料は、酸化クロムグリーン、モリブデートオレンジ、酸化鉄レッド、チタノックス白などの1つまたは複数の無機色材料、および/または、フタロシアニングリーン、ベンズイミダゾロンオレンジ、キナクリドンレッド、ジアリリドイエローなどの1つまたは複数の有機色材料であってもよい。
【0040】
カプセル化された芳香物質またはアロマ材料は、アントラニル酸ジメチル、酪酸エチル-2-メチル、アントラニル酸エチル、ヘリオトロピン(またはピペロナール)、天然メチルアニセート、天然酢酸エチルなどの1つまたは複数の人工または天然芳香化学物質であってもよい。
【0041】
マイクロカプセルのサイズは、例えば数百ナノメートルから数千マイクロメートル、または0.5ミクロンから1mmの範囲である。外側は滑らかまたは粗く、球形または不規則であってもよい。マイクロカプセルは、用途と安定性およびカプセルとカプセル化された成分に応じて、自由流動性の粉末として、あるいは水に懸濁させたものとして提供することもできる。
【0042】
マイクロカプセル化には、浸漬や遠心分離、エアサスペンションコーティングまたは流動床コーティング、噴霧乾燥、噴霧冷却、共結晶化、リポソーム封入、コアセルベーション、乳化/溶媒蒸発または抽出、界面重合などを含む様々な方法がある。これらのほとんどは、化学反応を伴わない物理的手法である。化学反応を伴う付加的な方法は、界面重合である。方法の選択は、経済性、コアおよび壁材料の特性、マイクロカプセルのサイズ、アプリケーションおよび放出メカニズムに依存する。
【0043】
浸漬または遠心分離技術は、コア材料の小滴を液体壁材料の薄膜に高速で通過させた後、硬化させる。このプロセスは、均一で比較的大きなカプセルを作ることができる。エアサスペンションコーティングまたは流動床コーティングでは、微細な固体コア材料が垂直方向の空気流によって懸濁され、壁材溶液とともに噴霧される。溶媒の蒸発後、カプセル化材料の層がコア材料上に堆積される。このプロセスを繰り返して、所望の膜厚を達成することができる。この手法のコア粒子のサイズは通常大きい。小さい粒子は、排気によって凝集または運び去られる傾向がある。
【0044】
噴霧乾燥は、エマルジョンまたは懸濁液を高温ガス、一般的には空気、または場合によっては窒素などの不活性ガスの流れに噴霧する。ポリマーは、カプセル化される添加剤を含む溶媒に溶解される。噴霧中、噴霧された液滴は溶媒が蒸発するにつれて収縮し、添加剤はポリマーに囲まれたままとなる。得られたマイクロカプセルは、固体で自由流動性を有する。コア材料は内側ノズルから噴霧されてもよく、カプセル化材料は同心リングノズルから噴霧されてもよい。噴霧乾燥の高温は、熱的に不安定な材料によっては問題があるが、コストが安いため、食品業界でフレーバーをカプセル化するための主な方法である。
【0045】
コアセルベーションは、ポリマー相分離に基づくカプセル化技術である。コア材料は、ポリマーが溶解する連続相に分散され、次に、ポリマーの非溶媒を添加し、pH、イオン強度または温度を調整し、沈殿を誘発することによって、ポリマーがコア材料上に徐々に堆積される。一般的に使用される沈殿剤または非溶媒には、シリコーンオイル、植物油、および低分子量ポリブタジエンが含まれる。相分離が起こると、最初は非常に細かいコアセルベート液滴が現れ、固体の分散粒子をコーティングする傾向にある。コヒーレントコアセルベート相が固体粒子の周囲に出現するまで液滴は合体する。最後に、コーティングは、加熱、架橋、またはヘキサン、ヘプタン、およびジエチルエーテルなどの別の非溶媒の過剰量にさらすことで溶媒を除去することで固化される。マイクロカプセルは、濾過または遠心分離によって収集され、溶媒で洗浄され、次いで乾燥される。コアセルベーションは効率的であり、幅広いサイズのマイクロカプセルを製造できる。
【0046】
本発明の一例として、カプセル化された材料は成功裏に従来のゴム化合物に混合された。カプセル化された材料は、例えば着色剤または香料である。このゴム化合物の層は、ベルト製造工程においてベルト表面の上または下に配置できる。駆動装置におけるベルトの実際の使用において、マイクロカプセルは壊れてカプセル化された染料または香料を放出し、ベルトの摩耗状態を示す。
【0047】
図は、本発明の様々な態様を示している。図1は、コア14を取り囲むシェル12を備えたマイクロカプセル10の断面図である。図2は、ポリマー22に埋設されたマイクロカプセル24を含むシート材料20の部分的に断片化された斜視図である。1つまたは複数のシート材料20を使用して、製品内または製品上に1つまたは複数の表示層を形成することができる。図3は、シート材料20の部分的に断片化された断面図であり、摩耗面26、摩耗方向28、およびポリマーマトリックス22に埋設されたカプセル24を示す。摩耗が進行すると、カプセル24が破裂し、指示物質を表面または周囲に放出する。図4は、各層に異なる着色剤のカプセルを備えた5つの表示層を有する摩耗表示構造21を示している。ここでも摩耗の方向が矢印28で示される。したがって、新品は、しばらくの間、層20のカプセルからの青色が、次に層20’からの緑色が、次に層20”からの黄色が、続いて層20”’からの橙が、最後に層20””からの赤色が示される。したがって、漸進する摩耗は、「最新の」色の漸進的な放出によって示され、これは安全な摩耗量(青と緑)から警告レベル(黄色またはオレンジ)、最後に交換を行う必要のあるレベル(赤)までを示す。
【0048】
図5は、本発明の一実施形態であるVベルト30の断面図である。Vベルト30は、エラストマー本体34に埋設された抗張コード32を備える。摩耗面36は、染料または芳香剤などのマイクロカプセル化された表示材料を含む表示層38で覆われている。
【0049】
図6は、本発明のタイヤの実施形態の断面図である。タイヤ40は、トレッド材料42と3つの表示層47、48、49で覆われている摩耗面46とを備える。本明細書で説明されるように、3つの表示層は、エンドユーザに次第に悪化する摩耗状態を示すために異なる芳香剤または染料を含むことができる。3つの表示層は連続している場合もあれば、非表示層によって分離されている場合もある。
【0050】
図7は、本発明のホースの実施形態の典型的なスタイルの断面図である。ホース50は、内側チューブ52、補強層53、そしてカバー層54を備える。摩滅や摩耗を受ける可能性のある外表面56は、表示層58で覆われている。図示されたホースよりも内側層、すなわち材料が少ないか多いかにかかわらず、所望のホース構造の何れもが、本発明の表示層を1つまたは複数利用する。
【0051】
図8は、本発明のホイールの実施形態の部分的に断片化された斜視図である。ホイール60は、熱可塑性、熱可塑性エラストマー、または熱硬化性ゴムなどからなる固体ポリマーホイールとして示される。ホイール60は、本体62および外側摩耗面66を備える。本図では、表示層68が非表示層67の下の本体に埋設されている。もちろん、本明細書に記載の表示層または表示ゾーンの配置の何れかを代わりにホイールに適用することもできる。
【0052】
図9は、本発明のマルチVリブベルトの実施形態の断面図である。Vリブベルト70は、摩耗面76を備えた3つのリブと、ベルト本体74に埋設された抗張コード72とを備える。摩耗面76は、図10において図9のベルト70の部分Aの拡大図に示されるように表示層73、75、77により覆われる。この場合も、ベルト内のリブの数は任意であり、本明細書に示される他の全ての実施形態と同様に、本実施形態においても、任意の数、または配置の表示層、および/または、非表示層を使用することができる。
【0053】
図9のベルト70は、ベルトの背面側にカバージャケット71も備える。そのようなカバージャケットは、例えば、伝動システムの背面側アイドラやベルトテンショナによる摩耗にもさらされる可能性がある。ベルトカバージャケットは、一般に、帆布を備え、接着、耐摩耗性、摩擦特性、または他の目的のための1つ以上の処理が施される。帆布は、織布、編物、不織布など、任意の所望の形式である。処理は、一般に、ゴムラテックス配合物、ゴム溶液、プラスチックフィルムなどの高分子材料に基づいている。処理は、ベルトの成形、モールディングまたは硬化の前後に、例えば、噴霧、浸漬、積層、ロールコーティング、ナイフコーティングなど、任意の所望の方法により行い得る。本発明の実施形態では、マイクロカプセル化された芳香剤または着色剤を処理に含めることによって、ジャケットを摩耗表示層にすることができる。すなわち、処理には、マイクロカプセル化された表示材料が埋め込まれたポリマーマトリックスが含まれる。このようなジャケットの他の例には、歯付きベルト上の歯部カバージャケット、または結合Vベルトを完全にカバーするジャケットが含まれる。ホース製品も、このような方法で摩耗を示すように作製されたカバージャケットを含み得る。したがって、任意のタイプのベルト、ホース、または他の同様に構成された物品の任意の所望の摩耗面に、摩耗を示すカプセルを備えたカバージャケットを設けることができる。表示カプセルを含む処理は、所望の表示効果に応じて帆布の片面、外側と内側の何れかに適用することができる。2つ以上の異なる表示処理を、例えば、本明細書の層状の実施形態に類似した層として、あるいは帆布の両面に適用することができる。内側の層はジャケットがすり減っていることを示すために使用でき、外側の層はジャケットがまだ良好な状態にあることを示すことができる。
【0054】
本発明およびその利点は詳細に説明されてきたが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、様々な代替、置換、および変更をここで行うことができることを理解されたい。更に、本出願の範囲は、本明細書に記載されている特定のプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、およびステップの実施形態に限定されることを意図するものではない。当業者は、本発明の開示から、ここで説明された実施形態に対応するのと実質的に同じ機能または実質的に同じ結果をもたらす現在存在し、または後に開発され、本発明に基づき使用され得るプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、またはステップを容易に理解するであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、その範囲内に、そのようなプロセス、機械、製造、物質の組成、手段、方法、またはステップを含むことを意図している。本明細書に開示される本発明は、本明細書に具体的に開示されていない要素が存在しない場合にも適切に実施することができる。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
図9
図10