(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】眼鏡レンズ及び眼鏡
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20221004BHJP
G02B 5/22 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/22
(21)【出願番号】P 2017155892
(22)【出願日】2017-08-10
【審査請求日】2020-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】金川 幸子
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-528484(JP,A)
【文献】特開2002-303832(JP,A)
【文献】特開2015-045743(JP,A)
【文献】国際公開第2007/077641(WO,A1)
【文献】特開2002-303830(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0255051(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 1/00 - 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色された眼鏡レンズであって、
分光透過率分布において、
430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率が75%以上であり、
600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率が30%以下であり、
540nm以上570nm以下の波長域における平均透過率Tbに対する、
430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率Taの比率が、
1.9≦(Ta/Tb)≦2.0
であり、
600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率Tcに対する、
前記平均透過率Taの比率が、
3.2≦(Ta/Tc)≦3.5
であり、
更に、D65光源2°視野におけるxy表色系でのyが0.25以上0.2657以下であり、xが0.22以上0.24以下である
ことを特徴とする眼鏡レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の眼鏡レンズが用いられている
ことを特徴とする眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、度の入っていないあるいは度付きの眼鏡レンズ、及び当該眼鏡レンズを用いた眼鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡により装用者の集中力を高める試みがなされており、特開平11-202266号公報(特許文献1)の眼鏡では、鼻当てにレモングラスの香りが付着されると共に、眼鏡フレーム内に青色透過部が設けられて、レモングラスの香りによる緊張促進効果及び青色のリラックス効果により、集中し易い状態が作られる。
又、特開平10-31199号公報(特許文献2)の眼鏡サイド・カラーウオールでは、眼鏡フレームのつるに対し眼鏡フレームの両側前方に張り出すように取り付けられることで、視角範囲が限定されて集中力が高まり、更に青色寒色系統の色彩が付与されることで、集中力が一層向上する。
他方、青色光が用いられる眼鏡である、特表2014-509227号公報(特許文献3)に係る光線療法用の眼鏡では、眼鏡フレームの着用者の眼に治療光をもたらす光源が、450~500nm(ナノメートル)あるいは470~480nmの波長の青色光を放射することで、季節性情動障害が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平11-202266号公報
【文献】特開平10-31199号公報
【文献】特表2014-509227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2の眼鏡等では、青色系統の色彩のうち、どのような青色が集中力の向上に特に効くのかは具体的に明らかにされていない。
特許文献3の眼鏡では、波長域がある程度限定された青色光が、季節性情動障害の緩和に役立つものとされているところ、集中力の向上については配慮されていない。又、所定の波長域で発光する調整された光源が必要となり、大掛かりになる。
本発明の主な目的は、集中力を効率良く簡単に向上することができる眼鏡レンズや、その眼鏡レンズを有する眼鏡を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、着色された眼鏡レンズであって、分光透過率分布において、430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率が75%以上であり、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率が30%以下であり、540nm以上570nm以下の波長域における平均透過率Tbに対する、430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率Taの比率が、1.9≦(Ta/Tb)≦2.0であり、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率Tcに対する、前記平均透過率Taの比率が、3.2≦(Ta/Tc)≦3.5であり、更に、D65光源2°視野におけるxy表色系でのyが0.25以上0.2657以下であり、xが0.22以上0.24以下であることを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、眼鏡であって、上記発明の眼鏡レンズが用いられていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の主な効果は、集中力を効率良く簡単に向上することができる眼鏡レンズや、その眼鏡レンズを有する眼鏡が提供されることである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施例1~2及び比較例1~4の眼鏡レンズの可視域及びその周辺(350nm以上800nm以下)における分光透過率分布を示すグラフである。
【
図2】実施例1~2及び比較例1~4の眼鏡レンズが呈する色の(x,y)がそれぞれプロットされたCIE色度図である。
【
図3】(a)実施例1,(b)比較例1(クリア),(c)比較例2(オレンジ),(d)比較例3(ピンク),(e)比較例4(グリーン)の眼鏡レンズに係る試験の結果(装用前後における各平均反応速度)が示されるグラフである。
【
図4】(a)実施例1,(b)比較例1(クリア),(c)比較例2(オレンジ),(d)比較例3(ピンク),(e)比較例4(グリーン)の眼鏡レンズに係る試験の結果(装用前後における各平均見過ごし回数)が示されるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面を用いて説明される。尚、本発明の実施の形態は、以下のものに限定されない。
【0009】
アメリア・カリフォルニア大学のロバード・ジェラード氏による、色がもたらす人体への影響を調査するための、実験対象者に赤色光や青色光を照射した実験では、赤色光の照射時に実験対象者の血圧の上昇,呼吸数の増加,心拍数の増加,脈拍数の増加,瞬きの回数の増加が見受けられ、青色光の照射時に血圧の降下,呼吸数の減少,心拍数の減少,脈拍数の減少,瞬きの回数の減少が見受けられた。そして、かような現象の原因は、筋肉の緊張度の変化にあり、赤色光の照射により筋肉の緊張度が増し、青色光の照射により筋肉の緊張度が減るといったように、照射される光に応じて筋肉が緊張したり弛緩したりすると解釈された。
そして、上記実験に加え他の研究者等によっても様々な色について調査されて、色毎の筋肉の緊張度合が「ライトトーナス値」として数値化され、世界的に標準化された。ライトトーナス値は、色付き光の人体への照射における筋肉組織の筋弛緩度の測定値であり、値が小さいほど弛緩状態にあることを示し、例えば黄色で30、オレンジ色(橙色)で35、赤で42と、緊張ないし興奮の反応を示すのに対して、ベージュやパステルトーンで23、青で24、緑で28というように弛緩反応を示す。
【0010】
集中時の緊張状態を緩和して集中力やその持続時間を向上するには、弛緩状態をもたらす青色系統の色の光が眼に入るようにすれば良く、青色系統の色の中でも、現状眼鏡レンズには用いられていない特定の青色(特定の藍色)の眼鏡レンズを通した光が眼に入ることで、集中力を、他の色に比べて顕著に向上することができることが判明した。
即ち、まず、眼鏡レンズの色は、分光透過率分布において、430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率が75%以上であり、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率が30%以下である。又、好ましくは、430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率が79%以上あるいは82%以下であり、又は600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率が25%以下あるいは23%以上である。
このような分布を有することにより、本発明の眼鏡レンズでは、青色域のうちの中央部を占める430nm以上460nm以下の波長域に係る透過率を確保して青色成分による弛緩効果を効率良く確保しながら、視感度の比較的に高い長波長側の部分である緑色域ないしオレンジ域(600nm以上650nm以下)において透過率を抑制することとして、青色系統の色である独特の藍色による集中力の向上がもたらされる。
【0011】
又、好ましくは、眼鏡レンズの色は、D65光源2°視野におけるxy表色系でのyが0.30以下(y≦0.30)であり、xが0.25以下(x≦0.25)である。
xy表色系でのxy座標(x,y)は、CIE(国際照明委員会)色度図で表される。ここで、色の(x,y)は、D65光源のもとでの2°視野における値であり、以下同様である。
あるいは、好ましくは、0.22≦x≦0.24であり、又0.25≦y≦0.27である。
眼鏡レンズは、かような青色系統に属する比較的に濃い色を有することで、集中力を一層効率良く向上させることができる。
【0012】
更に、好ましくは、眼鏡レンズは、分光透過率分布において、540nm以上570nm以下の波長域における平均透過率Tbに対する、430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率Taの比率が、1.8≦(Ta/Tb)≦2.2である。又、より好ましくは、当該比率は1.9≦(Ta/Tb)≦2.0である。かような比率を有することにより、可視域の中央部分に対する青色域の透過率が、集中力の向上に適した程度に高まったものとなる。
加えて、好ましくは、眼鏡レンズは、分光透過率分布において、600nm以上650nm以下の波長域における平均透過率Tcに対する、430nm以上460nm以下の波長域における平均透過率Taの比率が、3.0≦(Ta/Tc)≦4.0である。又、より好ましくは、当該比率は3.2≦(Ta/Tc)≦3.5であり、更に好ましくは、当該比率は3.3≦(Ta/Tc)≦3.4である。かような比率を有することにより、可視域の長波長側に対する青色域の透過率が、集中力の向上に適した程度に高まったものとなる。
【0013】
本発明に係る眼鏡レンズは、レンズ基材に、青色や黄色等を呈する染料や顔料あるいはこれらの組み合せ等を(適宜調合のうえで)分散させたり、青色を呈する光学膜(着色フィルム)をレンズ基材の中や基材表面に設けたり、光学多層膜(誘電体多層膜)を片面あるいは両面に付与したり、これらを組み合わせたりすることで形成可能である。
レンズ基材の材質は、透光性を有していれば、ガラスやプラスチックを始めとしてどのようなものであっても良いが、好適にはプラスチックが用いられる。レンズ基材の材質の例として、ポリウレタン樹脂、エピスルフィド樹脂、ポリカーボネイト樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリ4-メチルペンテン-1樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂が挙げられる。
又、光学膜や光学多層膜の少なくとも一方(以下この段落において「当該膜」とする)が付与される場合、レンズ基材の表面と当該膜の間にハードコート膜やプライマー層を形成したり、当該膜の表面に防汚膜を形成したり、レンズ基材の表面とハードコート膜の間やハードコート膜と当該膜の間あるいは当該膜と防汚膜の間等に、偏光機能や調光機能等を備えた中間層を具備させたりする等、膜構成は他のものに変更されても良い。更に、レンズ基材の裏面や表裏両面に、反射防止膜等が形成されても良い。
【0014】
又、本発明に係る眼鏡は、眼鏡フレームに、上述の眼鏡レンズを入れることで形成可能である。
ここで、眼鏡は、室内でも装用可能なサングラスであっても良いし、通常の眼鏡に被せて装用するオーバーグラスであっても良い。
又、眼鏡フレームは、上述の青色あるいは他の青色系統に属する青色を呈するものであって良く、その青色は、透光性を有していても良い。又、眼鏡フレームの青色は、眼鏡レンズと同じ色であっても良いし、より濃いもの若しくはより薄いもの、又は青色系統に属さない色というように、眼鏡レンズと違う色であっても良い。
更に、眼鏡フレームは、眼鏡レンズと顔面の間の隙間の上下左右部分のうちの少なくとも何れかを覆うものであっても良い。その覆った部分に、眼鏡レンズと同様の着色透光体が配置されても良い。
【実施例】
【0015】
次いで、上記実施形態に係る本発明の実施例や、本発明に属さない比較例を説明する。尚、上記実施形態に係る実施例は、以下のものに限定されない。又、本発明の捉え方によっては、実施例が実質的に比較例となったり、比較例が実質的に実施例となったりすることがある。
【0016】
[実施例や比較例の作製等]
実施例1~2の眼鏡レンズや比較例1~4の眼鏡レンズは、次のように作製された。
これらの眼鏡レンズは、透明なポリウレタン樹脂に対し適宜顔料及び染料の少なくとも何れかが分散された基材のみから成り、基材の表面に対し、ハードコートや光学多層膜による反射防止コート等の処理は施されていない。
これらの眼鏡レンズ(基材)は、顔料及び染料の少なくとも何れかの分散により、青色系統に属する互いに異なる青色(藍色,実施例1~2)、若しくはオレンジ(比較例2),ピンク(比較例3),グリーン(比較例4)で着色されており、又は殆ど顔料等を分散させずに透明(クリア)に維持されている(比較例1)。色の調整は、各種染料顔料の組み合せやその各成分の増減により行われる。
これらの眼鏡レンズの屈折率は1.60であり、アッベ数は41であり、厚みは2ミリメートルである。
これらの眼鏡レンズは、度の入っていないものであるが、度付きにすることも可能である。
【0017】
[実施例や比較例の特性等]
図1には、これらの眼鏡レンズの可視域(ここでは400nm以上780nm以下)及びその周辺(ここでは350nm以上800nm以下)における分光透過率分布が示される。又、
図2には、これらの眼鏡レンズが呈する色(D65光源2°視野)の(x,y)がそれぞれプロットされたCIE色度図が示される。
加えて、次の[表1]に、これらの眼鏡レンズが呈する、D65光源2°視野における(x,y)及び色(レンズ色)が示される。
又、[表2]に、これらの眼鏡レンズにおける所定の波長又は波長域(波長λ(nm)が順に450≦λ≦500,420≦λ≦450,430≦λ≦460,540≦λ≦570,λ=550,600≦λ≦650)での、透過率(λ=550の場合)又は平均透過率(λ=550以外の場合)が示される。尚、430≦λ≦460の域での平均透過率(%)はTaとされ、540≦λ≦570の域での平均透過率(%)はTbとされ、600≦λ≦650の域での平均透過率(%)はTcとされる。
更に、[表3]に、[表2]における平均透過率Ta~Tcから算出した比率である、“Ta/Tb”、及び“Ta/Tc”が示される。
【0018】
【0019】
実施例1~2では、分光透過率分布において、430≦λ≦460の波長域でTa≧75となっており(順に79.24%、81.47%)、且つ、600≦λ≦650の波長域でTc≦30となっている(順に23.57%、24.42%)。
加えて、実施例1~2では、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy≦0.30且つx≦0.25である(順に(x,y)=(0.2287,0.262),(0.2304,0.2657))。
又、実施例1~2では、分光透過率分布において、540≦λ≦570の波長域でのTbに対する430≦λ≦460の波長域でのTaの比率が、1.8≦(Ta/Tb)≦2.2となっている(順に1.91,1.92)。
更に、実施例1~2では、分光透過率分布において、600≦λ≦650の波長域でのTcに対する430≦λ≦460の波長域でのTaの比率が、3.0≦(Ta/Tc)≦4.0となっている(順に3.36,3.34)。
【0020】
他方、比較例1では、分光透過率分布において、430≦λ≦460の波長域でTa≧75となっているが(92.30%)、600≦λ≦650の波長域でTc≦30となっていない(92.82%)。又、比較例2,3では、430≦λ≦460の波長域でTa≧75となっておらず(順に33.19%,57.60%)、600≦λ≦650の波長域でTc≦30となっていない(88.31%,84.22%)。更に、比較例4では、430≦λ≦460の波長域でTa≧75となっておらず(4.25%)、600≦λ≦650の波長域でTc≦30となっている(23.05%)。
加えて、比較例1,2,4では、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy>0.30且つx>0.25であり(順に(x,y)=(0.3131,0.3295),(0.4034,0.3697),(0.3021,0.4808))、比較例3では、y≦0.30であるがx>0.25である((x,y)=(0.3671,0.2817))。
又、比較例1~4では、分光透過率分布において、540≦λ≦570の波長域でのTbに対する430≦λ≦460の波長域でのTaの比率が、(Ta/Tb)<1.8となっている(順に1.00,0.60,1.78,0.10)。
更に、比較例1~4では、分光透過率分布において、600≦λ≦650の波長域でのTcに対する430≦λ≦460の波長域でのTaの比率が、(Ta/Tc)<3.0となっている(順に0.99,0.38,0.68,0.18)。
【0021】
[実施例や比較例の評価等]
かような実施例1~2,比較例1~4の眼鏡レンズを2枚用いて眼鏡(サングラスやオーバーグラス)が形成され、それらの装用における影響について、次の試験が実施された。
【0022】
試験は、実施例1,比較例1~4に係る眼鏡を昼食後に装用するそれぞれ20人の被験者に対して、集中力の測定(平均反応時間及び見過ごし回数)を行うものである。
装用は、より詳しくは、昼食終了直後に開始し、その30分後に終了(取り外し)するものである。
又、集中力の測定は、精神運動覚醒検査(Psychomotor Vigilance Test,PVT)により、昼食前(Before)、及び取り外し直後(After)に行われた。
PVTは、モニタ画面(表示手段)とマウス(入力手段)と計時カウンタとプログラムが記憶された記憶手段と制御手段(CPU)とを有するPC(パーソナルコンピュータ)を用いて5分間行われた。CPUにより実行されるプログラムによって、モニタ画面には、ランダムな間隔で計時カウンタ表示が繰り返し出現し、被験者は、計時カウンタ表示の出現後できるだけ早くマウスの左ボタンをクリックするよう求められる。計時カウンタは、計時カウンタ表示の出現からの経過時間(ms,ミリ秒)を計時し、CPUは、当該経過時間に係る5桁未満の数字を、計時カウンタ表示としてモニタ画面に逐次表示させる。CPUは、当該経過時間が500msを超えるまでにクリックがあると、計時カウンタ及び計時カウンタ表示を停止して当該経過時間を今回の反応時間として記憶させると共に、参考のために当該反応時間を1秒間モニタ画面に表示させ、反応時間表示を消して次の計時カウンタ表示までのランダムな待機を行う。又、CPUは、当該経過時間が500msを超えた場合、見過ごしたものとして見過ごし回数に1を加えて記憶させ、今回の計時カウンタの計時及び計時カウンタ表示を停止させ、次の計時カウンタ表示までのランダムな待機を行う。
そして、かような5分間のPVTを、昼食前及び取り外し後のそれぞれにおいて1回行った20人の平均反応時間(Reaction Time,ms)、及び平均見過ごし回数(error)が調査された。
【0023】
図3に、平均反応時間に係る試験の結果が示される。尚、
図3中、「P=NS」は、p値が5%以上で、統計学的有意差がないことを意味し(Not Signifivant)、「P=0.0004」は、p値が5%以下(0.04%)で統計学的有意差があることを意味する。
図3(b)~(e)は、順に比較例1~4の平均反応時間である。
これらにおいて、装用前の平均反応時間は、何れも251ms前後である。他方、装用後の平均反応時間は、比較例1では256ms程度と装用前より増加しており、比較例2では250ms程度へ僅かに減少しており、比較例3では249ms程度へ僅かに減少しており、比較例4では装用前と殆ど変わらない250ms程度となっている。よって、比較例1~4では、装用前後で250ms程度であり、集中力の程度の変化は、若干の増加(反応平均時間の僅かな減少)か、殆どないか、あるいは若干の減少(反応平均時間の僅かな増加)となっている。
これらに対し、
図3(a)に平均反応時間が示される実施例1では、装用前で260ms程度であった平均反応時間が、装用後において242ms程度まで短くなっており、装用前後における集中力の比較的に大幅な向上が認められ、装用後における集中力の高さ(平均反応時間の値の小ささ)が際立っている。又、実施例2についても、同程度の装用前後の集中力の向上や装用後の集中力の程度の高さが認められた。
【0024】
図4に、平均見過ごし回数に係る試験の結果が示される。尚、
図4中、「P=NS」は、
図3と同様に統計学的有意差がないことを意味し、「P=0.0003」は、p値が0.03%で統計学的有意差があることを意味する。
図4(b)~(e)は、順に比較例1~4の見過ごし回数である。
これらにおいて、装用前の平均見過ごし回数は、何れも2.5~3回程度である。他方、取り外し後の平均見過ごし回数は、比較例1では装用前の2.8回程度から2.9回程度へ僅かに増加しており、比較例2では装用前の2.9回程度から2.7回程度へ僅かに減少しており、比較例3では装用前の2.5回程度から2.7回程度へ僅かに増加しており、比較例4では装用前の2.9回程度から2.6回程度へ僅かに減少している。よって、比較例1~4では、集中力の程度の変化は、若干の増加(平均見過ごし回数の僅かな減少)か、殆どないか、あるいは若干の減少(平均見過ごし回数の僅かな増加)となっている。
これらに対し、
図4(a)に平均見過ごし回数が示される実施例1では、装用前で3.4回程度であった平均見過ごし回数が、装用後において2.1回程度まで小さくなっており、装用前後における集中力の比較的に大幅な向上が認められ、装用後における集中力の高さ(平均見過ごし回数の値の小ささ)が際立っている。又、実施例2についても、同程度の装用前後の集中力の向上や装用後の集中力の程度の高さが認められた。
【0025】
かような試験の結果から、実施例1,2は、比較例1~4に比べて、集中力の向上の程度が大きく、装用後の集中力の度合が大きいことが分かった。
【0026】
[考察等]
実施例1~2では、比較例1~4と異なり、分光透過率分布において、波長(λ[nm])が430≦λ≦460となる域内の平均透過率(Ta[%])がTa≧75となっており、且つ、600≦λ≦650となる域内の平均透過率(Tc[%])がTc≦30となっている。
ヒトの眼が明るい場所(明所)で光を感じ取る強さの標準的な度合であって、当該強さが最も強い波長555nmの光における度合を1とした相対的な度合が波長毎に表された明所視標準比視感度は、400~420nmの波長域でほぼ0で横ばいであったものが、430nm付近から立ち上がり始め、460nm付近で接線の傾きが45°を超える程度に急激に増加し始めて、480nmで0.2程度となる。他方、波長600nmで0.6程度である比視感度は、波長650nmで0.1程度となるまで急激に減少し、波長650以降は比較的に緩やかに減少していく。
かような明所視標準比視感度が念頭に置かれ、実施例1,2では、特に青色系統のうち紫色の波長域(400≦λ<430)と青色の波長域(460<λ≦490)との間にある藍色の波長域(430≦λ≦460)について、平均透過率Ta≧75となるような高い透過率が確保されると共に、比較的に比視感度が高く可視域の長波長側にあるオレンジ色ないし赤色の波長域(600≦λ≦650)について、平均透過率Tc≦30となるように透過率が抑制される。つまり、実施例1,2は、オレンジ色ないし赤色が抑えられ、且つ青色系統内の明るい青色ではなく、又紫色でもなく、藍色が強調されるような独特の青色系統の着色レンズとなっている。
実施例1,2は、かような独特な着色が施されることにより、ヒトの眼を通じた適度な弛緩反応(ヒトに対する良い影響)を積極的にもたらし、装用者の集中力を効率的に向上する。
【0027】
加えて、実施例1~2では、比較例1~4と異なり、D65光源2°視野における(x,y)において、何れもy≦0.30且つx≦0.25であり、青色系統内における短波長側に相当する色となって、装用者の集中力の更なる効率的な向上が図られる。
又、実施例1~2では、比較例1~4と異なり、分光透過率分布において、540≦λ≦570の波長域の平均透過率Tbに対する430≦λ≦460の波長域の平均透過率Taの比率が、1.8≦(Ta/Tb)≦2.2となっており、比視感度の極めて高い540≦λ≦570の波長域における平均透過率Tbに対する、集中力の向上に肝要な430≦λ≦460の波長域の平均透過率Taの大きさが適度に調整されていて、装用者の集中力のより効率的な向上が図られる。
更に、実施例1~2では、比較例1~4と異なり、分光透過率分布において、600≦λ≦650の波長域の平均透過率Tcに対する430≦λ≦460の波長域の平均透過率Taの比率が、3.0≦(Ta/Tc)≦4.0となっており、上述の600≦λ≦650の波長域における平均透過率Tcに対する、集中力の向上に肝要な430≦λ≦460の波長域の平均透過率Taの大きさが適度に調整されていて、装用者の集中力のより効率的な向上が図られる。
【0028】
[変更例等]
以上では、眼鏡レンズや眼鏡が説明されたが、上述の色を呈する光学フィルタが眼鏡レンズと同様に基材に着色することで形成可能であり、かような光学フィルタが各種の光源に対するように設けられても、上述した影響を及ぼすことができる。
例えば、この光学フィルタが照明装置に組み込まれれば(照明光源の周りに配置されれば)、上述の色の照明が付与される。又、この光学フィルタが窓に貼付されれば、上述の色の光が導入される。