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特許7151985抗プロパノイル化アミロイドβタンパク質抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】抗プロパノイル化アミロイドβタンパク質抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/18 20060101AFI20221004BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20221004BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C07K16/18 ZNA
G01N33/53 D
G01N33/15 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018037848
(22)【出願日】2018-03-02
(65)【公開番号】P2019151587
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2020-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日坂 真輔
(72)【発明者】
【氏名】山川 晴香
(72)【発明者】
【氏名】能勢 充彦
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-202964(JP,A)
【文献】特開2019-152535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体であって
前記抗体は、アミロイドβ42の16位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβに特異的に結合する抗体(ただし、プロパノイルリジン単体に結合する抗プロパノイルリジン抗体を除く。)であり、
配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対して特異的に結合するか、又は
配列番号6で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対して特異的に結合する、抗体。
【請求項2】
抗体であって、
前記抗体は、アミロイドβ42の28位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβに対して特異的に結合する抗体(ただし、プロパノイルリジン単体に結合する抗プロパノイルリジン抗体を除く。)であり、
配列番号5で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対して特異的に結合する、抗体。
【請求項3】
プロパノイル化されたアミロイドβのプロパノイル化修飾部位の検出剤であって、
請求項1又は2に記載の抗体から選択される1種又は2種以上の抗体を含有する、検出剤。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の抗体から選択される1種又は2種以上の抗体を含む、神経変性疾患に関連する特徴付けを行うための試薬。
【請求項5】
アルツハイマー病に関連する特徴付けを行うための試薬である、請求項に記載の試薬。
【請求項6】
プロパノイル化されたアミロイドβの検出方法であって、
アミロイドβを含む可能性のある体液及び組織を含む1又は2以上の被験対象と、請求項1又は2に記載の抗体から選択される1種又は2種以上の抗体とを接触させる工程と、
前記抗体と、アミロイドβ42の16位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された16位プロパノイル化アミロイドβ及び/又はアミロイドβ42の28位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された28位プロパノイル化アミロイドβとの反応性を取得する工程と、
前記反応性に基づいて、前記16位プロパノイル化アミロイドβ及び/又は前記28位プロパノイル化アミロイドβを検出する工程と、
を備える、方法。
【請求項7】
プロパノイル化アミロイドβと反応性のある化合物のスクリーニング方法であって、
1又は2以上の被験化合物と、請求項1又は2に記載の抗体から選択される1種又は2種以上の抗体と、アミロイドβ42の16位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された16位プロパノイル化アミロイドβ及び/又はアミロイドβ42の28位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された28位プロパノイル化アミロイドβと、を接触させる工程と、
前記1種又は2種以上の抗体と前記16位プロパノイル化アミロイドβ及び/又は前記28位プロパノイル化アミロイドβとの反応性を取得する工程と、
前記反応性に基づいて、前記1又は2以上の被検化合物と前記16位プロパノイル化アミロイドβ及び/又は前記28位プロパノイル化アミロイドβとの反応性を評価する工程と、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、プロパノイル化されたアミロイドβタンパク質に特異的に結合する抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー型認知症(以下、ADともいう。)は、認知症のなかでも最も多くを占め、40~60%にものぼることが試算されている。ADの認知機能障害としては近時記憶障害が特徴的であるほか、妄想、うつ症状等の多彩な精神症状が認められ、病初期から認知機能障害や精神症状以外の局所神経症を認めることはまれとされている。ADの病理学的特徴としては、大脳全般性萎縮と大脳皮質神経細胞の減少、老人斑の多発、神経細胞内における神経原繊維変化などが報告されているが、とりわけADにおいては老人斑の形成が特徴付けられている。
【0003】
老人斑を構成する主タンパク質としては、アミロイドβタンパク質(Aβ)が同定されている。そのため、AD発症に関わる原因分子の一つと考えられている。Aβとしては、アミノ酸残基が38~43を有する様々な分子種が産生されている。これらAβは、そもそも水溶液に可溶性であるものの、AD患者脳では高度に凝集したかたちで老人斑を形成している。こうした知見により、AβをAD発症機序の初発因子とするアミロイド仮説では、この凝集体が、そして近年においては凝集・沈着する前の中間分子Aβオリゴマーが神経細胞障害を引き起こしているのではないかと考えられている。
【0004】
これまで、ヒト脳内でAβ中のリジン残基がω-3系の多価不飽和脂肪酸の過酸化体によってプロパノイル(以下、PRLともいう。)化されることが見出されている(特許文献1)。さらにこのPRL化されたAβは、PRL修飾前のAβよりもその凝集性や神経細胞に対する毒性が亢進されることも報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-202964号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】https://www.sciencedirect.com/journal/free-radical-biology-and-medicine/vol/49/suppl/S?page-size=100&page=3 (17th Annual Meeting of SFRBM and SFRR international Biennal Meeting、Propanoylation of amyloid b is trigger to the aggregateon and enhanced its neurotoxicity)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Aβはリジン残基を二つ有するところ、AβのPRL化は、非酵素的な反応によるものと考えられており、一般的には、これらは均等にドコサヘキサエン酸などのω-3系多価不飽和脂肪酸の過酸化物によってPRL化されるものと推測される。現在までのところ、PRL化Aβにおける2つのリジン残基がいずれも修飾されているのか、あるいはいずれか一方のみが修飾されているのかというPRL化部位については今までのところ全く検討されていない。
【0008】
本明細書は、PRL化アミロイドβを、PRL化部位特異的に検出し、ひいては定量するための抗体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、Aβ中の二つのリジン残基におけるPRL化に着目し、PRL化部位特異的にAβを検出することを目的に、種々の検討を行った。この結果、二つのリジン残基のうち一方のリジン残基(16位リジン)がPRL化されたAβ(16PRL化Aβ)に特異的に結合するモノクローナル抗体と他方のリジン残基(28位リジン)がPRL化されたAβ(28PRL化Aβ)に特異的に結合するモノクローナル抗体を取得した。さらに、AD及び非ADのヒトから採取した髄液について、これらのモノクローナル抗体を用いて16PRL化Aβと28PRL化Aβとをそれぞれ検出し定量できるほか、16PRL化Aβ及び28PRL化Aβのヒト髄液中の分布は、非AD患者とAD患者との間でそれぞれ特徴的な傾向を有することがわかった。本明細書は、これらの知見に基づき以下の手段を提供する。
【0010】
(1)抗体であって、
アミロイドβ42の16位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβに対する反応性が、アミロイドβ42の28位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβに対する反応性よりも高い抗体。
(2)配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対する反応性が、配列番号5で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対する反応性よりも高い、(1)に記載の抗体。
(3)配列番号6で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対する反応性が、配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対する反応性よりも高い、(1)又は(2)に記載の抗体。
(4)アミロイドβ42の16位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβに対する反応性が、アミロイドβ42の16位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されていないアミロイドβに対する反応性よりも高い、(1)~(3)のいずれかに記載の抗体。
(5)抗体であって、
アミロイドβ42の28位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβに対する反応性が、アミロイドβ42の16位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβに対する反応性よりも高い、抗体。
(6)配列番号5で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対する反応性が、配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチドに対する反応性よりも高い、(5)に記載の抗体。
(7)アミロイドβ42の28位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβに対する反応性が、アミロイドβ42の28位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されていないアミロイドβに対する反応性よりも高い、プロパノイル化されていないアミロイドβに対する反応性よりも高い、(5)又は(6)に記載の抗体。
(8)(1)~(7)のいずれかに記載の抗体を含む、神経変性疾患に関連する特徴付けを行うための試薬。
(9)アルツハイマー病に関連する特徴付けを行うための試薬である、(8)に記載の試薬。
(10)スクリーニング方法であって、
1又は2以上の被験化合物と、(1)~(7)のいずれかに記載の抗体とを接触させる工程と、
前記1又は2以上の被験化合物と前記抗体との反応性を取得する工程と、
前記反応性に基づいて、前記1又は2以上の被験化合物のプロパノイル化アミロイドβと反応性を評価する工程と、
を備える、方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】アミロイドβ配列中のリジン残基(16位及び28位)におけるプロパノイル化のスキームを示す図である。
図2】プロパノイル化アミロイドβに特異的に結合する抗体作製のための抗原設計を示す図である。
図3】mAbBST31についての競合ELISAによる特異性の解析結果を示す図である。
図4】mAb3A11についての競合ELISAによる特異性の解析結果を示す図である。
図5】PRL16アミロイドβの定量用検量線を示す図である。
図6】PRL28アミロイドβの定量用検量線を示す図である。
図7】ヒト髄液中におけるPRL16アミロイドβ及びPRL28アミロイドβの定量値の比較を示す図である。
図8】ヒト髄液中におけるアミロイドβ40及びアミロイドβ42の定量値比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書の開示は、プロパノイル化されたアミロイドβの検出に関し、より具体的には、アミロイドβを、プロパノイル化部位特異的に検出するための抗体に関する。本発明者らが推測する、アミロイドβ42の二つのリジン残基のプロパノイル化のスキームを図1に示す。
【0013】
本明細書に開示する抗体によれば、従来、全く知られておらず、しかも、着目されていなかったアミロイドβ中の二つのリジン残基に対するプロパノイル化状態を特定し、アミロイドβの16位のリジン及び当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された第1のプロパノイル化アミロイドβと、アミロイドβの28位のリジン及び当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された第2のプロパノイル化アミロイドβと、をそれぞれ独立して検出できる。本発明者らによれば、アルツハイマー病患者の脳脊髄液においてこれら2種のプロパノイル化アミロイドβが異なる含有量を示した。また、非アルツハイマー病患者における第1及び第2のプロパノイル化アミロイドβの含有量とも異なっていた。生体内におけるこれら2種のプロパノイル化アミロイドβの分布傾向は、アルツハイマー病の発症等との関係において重要な特徴付けが可能であると考えられる。以下、本明細書に開示される抗体が反応する対象であるアミロイドβについて説明し、本開示の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0014】
アミロイドβは、一般に、アミロイドβ前駆体タンパク質からβ-セクレターゼ及びγ-セレクターゼによる切断によって生成されるとされている。本明細書における「アミロイドβ」は、例えば、ヒトのアミロイドβであって、アミノ酸残基が40個(配列番号1)のアミロイドβ40(アミロイドβ (1-40))、同42個(配列番号2)のアミロイドβ42(アミロイドβ (1-42))ほか、同43個(配列番号3)のアミロイドβ43(アミロイドβ (1-43))が挙げられ、さらに、アミロイドβ (2-42)、アミロイドβ (4-40)等が挙げられるが、特に限定しないで、ヒトなどの生体内において存在する可能性があるアミロイドβを包含する。なお、本明細書におけるアミロイドβは、アミロイドβにおいてアミノ酸置換、欠失等の変異を有する変異体を包含しうる。この場合、配列番号1で表されるアミノ酸配列に対する変異の個数は、例えば、1~5個であり、また例えば、1個~4個であり、また例えば、1個~3個であり、また例えば1個又は2個である。
【0015】
本明細書において開示される抗体が反応するアミロイドβは、例えば、アミロイドβ40である。ヒトにおいて、アミロイドβ40は、アミロイドβ42の約10倍量産生されることが知られている。また、本抗体が反応するアミロイドβは、例えば、アミロイドβ42である。アミロイドβ42がアルツハイマー病等に関しアミロイドβ40よりも悪性であることも知られている。
【0016】
なお、配列番号1で表されるアミノ酸配列の16位のリジンがプロパノイル化されたアミロイドβとは、16位のリジンがプロパノイル化されたアミロイドβ40を意味している。また、配列番号1で表されるアミノ酸配列の16位のリジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβとは、アミロイドβ40以外のアミロイドβであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、当該16位のリジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβを意味する。したがって、16位のリジンがプロパノイル化されたアミロイドβ42、同リジンがプロパノイル化されたアミロイドβ43等が挙げられる。なお、当業者であれば、アライメントは、Protein BLASTのほか、各種公知のデータベースを利用することなどにより実施可能である。
【0017】
同様に、配列番号1で表されるアミノ酸配列の28位のリジンがプロパノイル化されたアミロイドβは、28位のリジンがプロパノイル化されたアミロイドβ40を意味している。また、配列番号1で表されるアミノ酸配列の28位のリジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβとは、アミロイドβ40以外のアミロイドβであって、配列番号1で表されるアミノ酸配列とアライメントしたとき、当該28位のリジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβを意味する。したがって、28位のリジンがプロパノイル化されたアミロイドβ42,同リジンがプロパノイル化されたアミロイドβ43等が挙げられる。
【0018】
なお、リジン残基がプロパノイル化された構造は、図1に示すとおりである。
【0019】
(抗体)
本明細書に開示される抗体は、アミロイドβの16位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβ(第1のアミロイドβ)に対する反応性が、アミロイドβの28位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβ(第2のアミロイドβ)に対する反応性よりも高い抗体(以下、当該抗体を第1の抗体ともいう。)である。また、本明細書に開示される他の抗体は、アミロイドβの28位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたプロパノイル化アミロイドβ(第2のアミロイドβ)に対する反応性が、アミロイドβの16位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されたアミロイドβ(第1のアミロイドβ)に対する反応性よりも高い抗体(以下、第2の抗体ともいう。)である。以下、これらの抗体について、順次説明する。
【0020】
(第1の抗体)
第1の抗体は、第1のアミロイドβに対する反応性が、第2のアミロイドβに対する反応性よりも高い抗体である。ここで、「第1のアミロイドβに対する反応性」とは、抗体が、アミロイドβの16位リジンがプロパノイル化されたアミロイドβと反応(典型的には結合)することを意味している。また、「第2のアミロイドβに対する反応性」とは、抗体が、アミロイドβの28位リジンがプロパノイル化されたアミロイドβと反応(典型的には結合)することを意味している。以下、同様である。
【0021】
第1の抗体が備える係る反応性は、当業者において周知の方法で決定することができる。任意の抗体が、その第1のアミロイドβに対する反応性が、第2のアミロイドβに対する反応性よりも高ければ、第1の抗体に該当する。
【0022】
第1の抗体が備える反応性は、上記のような反応特性を備えていればよいが、例えば、より具体的には、以下の第1の態様を採ることができる。すなわち、配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチド(16PRLペプチド)に対する反応性が、配列番号5で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチド(28PRLペプチド)に対する反応性よりも高い。
【0023】
ここで、配列番号4で表されるアミノ酸配列は、アミロイドβ40のアミノ酸配列の11位~21位のアミノ酸配列であり、アミロイドβの16位のリジンを含んで前後5個のアミノ酸残基を含んでいる。
【0024】
また、配列番号5で表されるアミノ酸配列は、アミロイドβ40のアミノ酸配列の23位~33位のアミノ酸配列であり、アミロイドβの28位のリジンを含んで前後5個のアミノ酸残基を含んでいる。
【0025】
第1の態様の反応性は、例えば、第1の抗体の16PRLペプチドに対する反応性が、28PRLペプチに対する反応性よりも、各濃度500nM時においては1.6倍以上(また例えば、1.7倍以上、また例えば、1.8倍以上)高く、また例えば、同167nM時においては1.2倍以上(また例えば、1.3倍以上、また例えば、1.4倍以上)高く、また例えば、同55.6nM時においては1倍以上(また例えば、1.1倍以上、また例えば、1.2倍以上)高く、また例えば、同18.5nM時においては1倍以上(また例えば、1.1倍以上、また例えば1.2倍以上)高い。
【0026】
第1の抗体が備える反応性は、さらに、例えば、以下の第2の態様を採ることができる。すなわち、配列番号6で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチド(16PRLペプチド-long)に対する反応性が、配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチド(16PRLペプチド)に対する反応性よりも高い態様である。
【0027】
ここで、配列番号6で表されるアミノ酸配列は、アミロイドβ40のアミノ酸配列の1位~21位のアミノ酸配列であり、アミロイドβ40のN末端から16位のリジンよりC末端側の5個のアミノ酸残基までを含んでいる。
【0028】
第2の態様の反応性は、例えば、第1の抗体の16PRLペプチド-longに対する反応性が、16PRLペプチドに対する反応性よりも、各濃度500nM時において5倍以上(また例えば、5.2倍以上、また例えば、5.3倍以上、また例えば、5.4倍以上)上高く、また例えば、同167nM時において2.5倍以上(また例えば、2.6倍以上、また例えば、2.7倍以上、また例えば、2.8倍以上、また例えば、2.9倍以上)高く、また例えば、同55.6nM時において1.3倍以上(また例えば、1.4倍以上、また例えば、1.5倍以上、また例えば、1.6倍以上)高く、また例えば、同18.5nM時において1倍以上(また例えば、1.1倍以上、また例えば、1.2倍以上)高い。
【0029】
第1の抗体は、さらに、例えば、第1のアミロイドβに対する反応性が、アミロイドβの16位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されていないアミロイドβに対する反応性よりも高い抗体である。
【0030】
第1の抗体は、こうした反応特性を備えていればよいが、より具体的には、以下の態様を採ることができる。すなわち、16PRLペプチド又は16PRL-longに対する反応性が、リジン残基がPRL化されていない配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、16ペプチドともいう。)又はリジン残基がPRL化されていない配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、16ペプチド-longともいう。)に対する反応性よりも高い態様である。
【0031】
かかる態様の反応性は、例えば、第1の抗体の16PRLペプチドに対する反応性が、16ペプチドに対する反応性よりも、各濃度500nM時において1.3倍以上(また例えば、1.4倍以上、また例えば、1.5倍以上)高く、また例えば、同167nM時において1.2倍以上(また例えば、1.3倍以上、また例えば、1.4倍以上高く、また例えば、同55.6nM時において1倍以上(また例えば、1.1倍以上、また例えば、1.2倍以上)高く、また例えば、同18.5nM時において1倍以上(また例えば、1.1倍以上、また例えば、1.2倍以上)高い。
【0032】
また例えば、第1の抗体の16PRLペプチド-longに対する反応性が、16ペプチド-longに対する反応性よりも、各濃度500nM時において7倍以上(また例えば、7.2倍以上、また例えば、7.4倍以上、また例えば、7.7倍以上)高く、また例えば、同167nM時において3.5倍以上(また例えば、3.6倍以上、また例えば、3.8倍以上)以上高く、また例えば、同55.6nM時において1.5倍以上(また例えば、1.6倍以上、また例えば、1.7倍以上)高く、また例えば、同18.5nM時において1倍以上(また例えば、1.1倍以上、また例えば、1.2倍以上)高い。
【0033】
(第2の抗体)
第2の抗体は、第2のアミロイドβに対する反応性が、第1のアミロイドβに対する反応性よりも高い抗体である。ここで、「第2のアミロイドβに対する反応性」、「第1のアミロイドβに対する反応性」とは、既に説明したとおりである。
【0034】
第2の抗体が備える係る反応性は、当業者において周知の方法で決定することができる。任意の抗体が、その第2のアミロイドβに対する反応性が、第1のアミロイドβに対する反応性よりも高ければ、第2の抗体に該当する。
【0035】
第2の抗体が備える反応性は、上記のような反応特性を備えていればよいが、例えば、より具体的には、以下の第1の態様を採ることができる。すなわち、配列番号5で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチド(28PRLペプチド)に対する反応性が、配列番号4で表されるアミノ酸配列におけるリジンがプロパノイル化されたペプチド(16PRLペプチド)に対する反応性よりも高い。
【0036】
第1の態様の反応性は、例えば、第2の抗体の28PRLペプチドに対する反応性が、16PRLペプチドに対する反応性よりも、各濃度50nM時において4.5倍以上(また例えば、4.6倍以上、また例えば4.7倍以上)高く、また例えば、同16.7nM時において2.5倍以上(また例えば、2.6倍以上、また例えば2.7倍以上、また例えば2.8倍以上)高く、また例えば、同5.56nM時において1.7倍以上(また例えば、1.8倍以上、また例えば、1.9倍以上)高く、また例えば、同1.85nM時において1.5倍以上(また例えば、1.6倍以上、また例えば、1.7倍以上)高い。
【0037】
第2の抗体は、さらに、例えば、第2のアミロイドβに対する反応性が、アミロイドβの28位のリジンが又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化されていないアミロイドβに対する反応性よりも高い抗体である。
【0038】
第2の抗体は、こうした反応特性を備えていればよいが、より具体的には、以下の態様を採ることができる。すなわち、28PRLペプチドに対する反応性が、リジン残基がPRL化されていない配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるペプチド(以下、28ペプチドともいう。)に対する反応性よりも高い態様である。
【0039】
以上説明した、第1及び第2の抗体についての反応性の比較は、それぞれの抗体について、当該抗体が本来結合する抗原を、対比すべき物質を競合物質として用いる競合ELISAを用いて決定することができる。
【0040】
こうした抗体は、ポリクロナール抗体及びモノクローナル抗体であってもよいが、好ましくはモノクローナル抗体である。また、こうした抗体は、ビオチン化されることにより、ストレプトアビジン等で複合化可能に構成されていてもよい。また、ヒト型抗体であるほか、由来がヒトでない場合には、当業者に周知の方法によるヒト化抗体であってもよい。
【0041】
(抗体の作製)
当業者であれば、上記の反応性を有する抗体を、当業者に周知の方法を適宜採用して作製することができるが、例えば、以下の方法により作製することができる。
【0042】
(抗原の作製)
抗原の作製の概要を、図2に示す。第1のプロパノイル化アミロイドβと特異的に結合する抗体(以下、単に、第1の抗体ともいう。)を作製するための抗原は、配列番号1で表されるアミノ酸配列における16位リジン(以下、16Lysともいう。)に用いるための予めプロパノイル化したリジンを準備しておき、かかるプロパノイル化リジンを用いて、例えば前後3~8アミノ酸残基程度、典型的には5アミノ酸残基を含むアミノ酸配列のペプチドを合成する。なお、リジンのプロパノイル化は、例えば、以下のとおりに実施することができる。
【0043】
83%メタノール500μl中に溶かした Nα‐[(9-fluorenylmethoxy)carbonyl]-lysine(Nα-Fmoc-Lys)105mgに無水プロピオン酸 (Propionic anhydride)を57μl添加し、室温にて4時間反応させる。その後、さらに無水プロピオン酸57μlを加え、室温で反応させる。添加後、さらに4時間反応させた反応液から、プロパノイル化されたFmoc-Lysを高速液体クロマトグラフィーにて精製する。精製条件は、単一溶媒による分離条件で、溶媒は、0.1%トリフルオロ酢酸/55%アセトニトリル含有H2Oを用いる。分離に用いたカラムは、C30-UG-5(10φx250mm)を使用し、流速は2ml/minとしている。このようにして分取・精製したプロパノイル化Fmoc-lysineは、ロータリーエバポレーターおよび凍結乾燥により粉体とし、その後、ペプチド合成の素材へと供する。
【0044】
この16Lysプロパノイル化ペプチドを、N末側に付与したCys残基を介して公知のキャリアタンパク質であるKLH(スカシ貝ヘモシアニン)又はBSA(ウシ血清アルブミン)(PRL16-KLH又はPRL16-BSA)と複合化して、抗体作製のための抗原とすることができる。なお、キャリアタンパク質としては、特に限定するものではなく、OVA(オバルブミン)などの蛋白質または高分子体に結合もしくは重合させたものを適宜用いることができるが、必ずしもキャリアーは必要ではない。
【0045】
同様に、第2のプロパノイル化アミロイドβと特異的に結合する抗体(以下、単に、第2の抗体ともいう。)を作製するための抗原も、配列番号1で表されるアミノ酸配列における28位リジン(以下、単に、28Lysともいう。)に用いるための予めプロパノイル化したリジンを準備しておき、かかるプロパノイル化リジンを用いて、28位リジンを含んだ適数個のアミノ酸残基からなるペプチドを合成する。この28Lysプロパノイル化ペプチドを、N末側に付与したCys残基を介して公知のキャリアタンパク質であるKLH又はBSAと複合化(PRL28-KLH又はPRL28-BSA)して、抗体作製のための抗原とする。
【0046】
なお、第1の抗体の結合特異性を向上させるためにスクリーニングに用いる抗原として、上記16Lys近傍配列よりも、さらにN末端に近い側のアミノ酸配列部分を含み、16Lys+5残基程度のlong配列のC末端側にCys残基を導入してC末側をキャリアタンパク質と複合化したlong型抗原(long PRL16-BSA)も準備することができる。さらに、同様の目的のために、当該long配列で16Lysがプロパノイル化されていない天然のアミノ酸配列からなり、C末側をキャリアタンパク質と複合したNative型抗原(Native PRL16-BSA)も準備することができる。
【0047】
(免疫)
第1の抗体及び第2の抗体を作製するための免疫用抗原(KLH複合体)を、それぞれ、適宜完全アジュバンドとともに、マウスなどの公知の抗体作製用動物に腹腔内投与などにより投与して、初回免疫を行い、その後、一定間隔で不完全アジュバンドとともに追加免疫を行う。適時に、動物から血液を採取し、その血清を一次抗体として使用し、BSA複合体である各種抗原を用いたELISA法等により、その抗体価を評価し、抗体価の十分な上昇を確認後、屠殺より3日前程度に最終免疫を行って、屠殺して脾臓を摘出する。なお、免疫に使用する動物は特に限定されないが、ウサギ、ヤギ、ヒツジ、ハムスター、マウス、ラット、モルモット、ニワトリ、ヒト抗体を産生するヒト以外の動物等はいずれも使用できる。
【0048】
(ハイブリドーマ細胞の樹立)
屠殺した動物の脾臓から得た脾臓細胞を調製し、その脾臓細胞と選択可能に特定遺伝子を欠損させたミエローマ細胞とを、ポリエチレングリコ-ル1500などを用いる公知の方法で融合させる。また不死化の方法としては、細胞融合以外の公知の方法を用いることもできる。例えば、エプスタイン・バールウイルス(Epstein-Barr virus)を用いたトランスフォーム法(D. Kozborら、Eur J Immunol, 14:23 (1984))により行うこともできる。
【0049】
その後、選択培地を用いてハイブリドーマ細胞のみを選択する。PRL16-BSAに対する抗体価を有するハイブリドーマ細胞につき、PRL16-BSAのほか、必要に応じてlong PRL16-BSAを用いてスクリーニング及びクローニングを行うことで第1の抗体を産生する単一クローンを得ることができる。また、PRL28-BSAに対する抗体価を有するハイブリドーマ細胞につき、PRL28-BSAを用いるスクリーニング及びクローニングを行うことで、第2の抗体を産生する単一クローンを得ることができる。
【0050】
(抗体の取得)
第1の抗体産生ハイブリドーマ細胞の培養上清から第1の抗体を取得できる。タンパク質の精製法を適宜用いることができるが、アフィニティークロマトグラフィーを用いることが便利である。同様にして、第2の抗体産生ハイブリドーマ細胞の培養上清から第2の抗体を得ることができる。
【0051】
第1の抗体及び第2の抗体については、その特異性を間接ELISAや競合ELISA等により評価することができる。また、第1の抗体及び第2の抗体が有する特徴的な反応性は、実施例に開示される競合ELISAを用いて決定することができる。
【0052】
なお、第1の抗体は、16Lysを特異的に検出し、第2の抗体は、28Lysを特異的に検出するが、アミロイドβが2つのリジン残基がプロパノイル化された16Lys+28Lysのアミロイドβには、第1の抗体及び第2の抗体の双方が結合することになる。
【0053】
ヒト型抗体とは、 非ヒト(マウス、ラット、ハムスター、ウサギなど)抗体をヒト型とした抗体(以下ヒト化抗体と称する)とは、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖あるいはその断片(例えばFv、Fab'、F(ab')2あるいは抗体の他の抗原結合サブ配列)であって、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含むものである。ヒト化抗体としては特に、非ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)を有する抗体の配列を変更することによって、ヒト抗体生殖系列由来のアミノ酸配列から部分的に、あるいは全体的に構成される抗体が好ましい。このような変更は、非ヒト抗体定常領域をヒト抗体の定常領域で置換することにより実現され、医薬的使用において許容される程度の低い免疫原性を有するヒト/非ヒトキメラを作製することが可能である。さらに好ましくは、抗体の可変領域およびCDRでさえもまた、現在までに当分野に周知である技術によってヒト化される。可変領域のフレームワーク領域は対応するヒトフレームワーク領域により置換され、非ヒトCDRは実質的に変化がないか、あるいはそのヒトゲノム由来の配列で置換されることもある。
【0054】
ヒト化抗体とはさらに、ヒトフレームワークおよび少なくとも1つの非ヒト抗体由来CDRを含むものであり、そこに存在する任意の定常領域がヒト免疫グロブリン定常領域と実質的に同一であるものを表す。実質的に同一とは、少なくとも85~100%、好ましくは95~100%のアミノ酸配列が同一であることを表す。すなわち本ヒト化抗体は、CDR部分を除いた全ての部分が、1又はそれ以上の天然のヒト免疫グロブリン配列に対応する部分と同一となる。
【0055】
非ヒト抗体をヒト化する方法は、この分野でよく知られている。例えば、Winterらの方法(特許第2912618号公報)、Jonesらの方法(Nature, 321: 522 (1986))、Riechmannらの方法(Nature, 332: 323 (1988))、Verhoeyenらの方法(Science, 239: 1534 (1988))、Queenらの方法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88: 2869 (1991))などによって実施される。ヒト化抗体取得作業においては、ヒト化抗体を発現させる宿主細胞での発現最適化を目的として、コドンのサイレント変異を行うことが望ましい(例えばNakamuraらの方法:Nuclecic Acid Res 29: 292 (2000))。このようにして得られた抗体は、本願に記載の特異性を有するものであれば、可変領域において、1個以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列を有することを特徴とするヒト化抗体も本願発明に含まれる。
【0056】
(プロパノイル化されたアミロイドβの検出方法)
第1の抗体及び/又は第2の抗体を用いることにより、プロパノイル化されたアミロイドβをプロパノイル化修飾部位特異的に検出し、定量することができる。例えば、本明細書に開示されるプロパノイル化されたアミロイドβの検出方法(以下、単に、本検出方法ともいう。)は、アミロイドβの二つのリジン残基がそれぞれプロパノイル基で修飾されたアミロイドβを検出する工程を備えることができる。
【0057】
(被験対象)
本検出方法は、アミロイドβが存在する可能性のある生体由来の試料を、特に限定することなく、被験対象とすることができる。例えば、脳漿を含む脳脊髄液、血液、尿、涙液などの体液のほか、脳、眼などの各種神経細胞の存在する組織(切片)が挙げられる。特に、アルツハイマー病などのアミロイドβの蓄積、産生ないしは関与の可能性のある神経変性疾患に罹患した個体又は当該神経変性疾患モデル動物の上記被験対象とすることが好適である。また、鼻汁及び鼻粘膜も被験対象とすることができる。
【0058】
なお、こうした神経変性疾患としては、アルツハイマー病のほか、血管性のアミロイド病変、アミロイドーシス等が挙げられる。
【0059】
本検出方法では、例えば、こうした抗体を用いて第1のプロパノイル化アミロイドβ及び第2のプロパノイル化アミロイドβをそれぞれ検出することができる。例えば、各種の被験対象につき、ELISA、競合ELISAなどの酵素免疫法、ドットブロッティング、ウェスタンブロッティング、アフィニティークロマトグラフィー、組織染色法など、抗体を用いた各種検出法にてこれらのアミロイドβを検出することができる。
【0060】
本検出方法では、これらのプロパノイル化アミロイドβをそれぞれ検出するが、検出するのみならず、相対的又は絶対的な量を定量することもできる。
【0061】
本検出方法では、第1のプロパノイル化アミロイドβのみを検出してもよいし、第2のプロパノイル化アミロイドβのみを検出してもよいし、双方を検出してもよい。また、これらを同時に検出してもよい。
【0062】
種々の被験対象中の第1のプロパノイル化アミロイドβ及び/又は第2のプロパノイル化アミロイドβを検出することで、アミロイドβの酸化態様に応じて検出し、その神経組織内での分布や脳脊髄液や血液などの体液中での濃度を評価することで、アミロイドβのアシル化(プロパノイル化は、脂質過酸化物に起因する酸化である。)とアルツハイマー病などの神経変性疾患との関係を特徴付けが可能となる。
【0063】
例えば、第1のプロパノイル化アミロイドβの量、第2のプロパノイル化アミロイドβの量、及び第2のプロパノイル化アミロイドβの量/第1のプロパノイル化アミロイドβの量からなる群から選択される1種又は2種以上を、アルツハイマー病などの神経変性疾患の発症、重症度、予後及び合併症のいずれかと関連付けを実施することができる。また、こうした関連付けを利用して、これらの数値のいずれかあるいは2種以上を、こうした神経変性疾患の診断等のマーカーとして使用することができるようになる。
【0064】
(アルツハイマー病の診断に関連したアミロイドβの検出方法)
本明細書に開示されるアルツハイマー病の診断に関連したアミロイドβの検出方法は、アルツハイマー病患者の脊髄液、血液、鼻汁及び鼻粘膜中のアミロイドβ42の16位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された第1のプロパノイル化アミロイドβと、アミロイドβ42の28位のリジン又は当該リジンに相当するリジンがプロパノイル化された第2のプロパノイル化アミロイドβとのいずれか又は双方を、独立して検出する工程、を備えることができる。この方法によれば、アルツハイマー病の診断に関連してアミロイドβをプロパノイル化部位特異的に検出することで、アルツハイマー病の診断を補助することができる。
【0065】
以上のことから、第1の抗体及び/又は第2の抗体を、神経変性疾患に関連する特徴付けを行うための試薬として用いることができる。また、第1の抗体及び/又は第2の抗体を、アルツハイマー病などの神経変性疾患に関連する特徴付けを行うための試薬として用いることができる。
【0066】
(プロパノイル化アミロイドβと反応性のある化合物のスクリーニング方法)
本明細書に開示されるスクリーニング方法は、1又は2以上の被験化合物と、第1の抗体及び/又は第2の抗体とを接触させる工程と、前記1又は2以上の被験化合物と前記抗体との反応性を取得する工程と、前記反応性に基づいて、前記1又は2以上の被験化合物のプロパノイル化アミロイドβと反応性を評価する工程と、を備えることができる。第1の抗体及び第2の抗体が、プロパノイル化アミロイドβとプロパノイル化修飾部位特異的に結合することから、この反応性を利用して、第1のプロパノイル化アミロイドβや第2のプロパノイル化アミロイドβに結合性を有する化合物をスクリーニングすることができる。すなわち、第1の抗体及び/又は第2の抗体と、可能性ある被験化合物とを競合させることにより、被験化合物の第1のプロパノイル化アミロイドβ及び/又は第2のプロパノイル化アミロイドβとの結合反応性を評価できる。この結合反応性を指標として、第1のプロパノイル化アミロイドβ及び/又は第2のプロパノイル化アミロイドβと特異的に結合する化合物を選定することができる。
【0067】
こうしたスクリーニングされた化合物は、第1の抗体や第2の抗体と同様に、第1のプロパノイル化アミロイドβ及び/又は第2のプロパノイル化アミロイドβと結合するため、アルツハイマー病の治療、予防、診断等の特徴付けに有効である。
【0068】
本スクリーニング方法における被験化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、ペプチド、タンパク、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液等が挙げられ、これら化合物は新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。第1及び第2のプロパノイル化アミロイドβとの反応性は、第1及び第2の抗体についての反応特異性の評価方法と同様、ELISA、競合ELISA、アフィニティークロマトグラフィー、ドットブロッティング等々の態様で評価できる。被検化合物は公知の標識物質等で標識化されていてもよい。
【実施例
【0069】
以下、本明細書の開示をより具体的に説明するために具体例としての実施例を記載する。以下の実施例は、本明細書の開示を説明するためのものであって、その範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0070】
(抗体作製用の抗原の作製)
アミロイドβには2つ(N末端より16番目(Lys16)と28番目(Lys28))のPRL化されうるリジン残基が存在したため、この2種のPRL化部位を個別に認識することができる抗体(16番目リジン残基のPRL化:mAbBST31、28番目リジン残基のPRL化:mAb3A11)を作製した。まずは、図2にも示ように、上段2種(PRL16-antigen、PRL28-antigen)に示すように、キャリアタンパク質(keyhole limpet hemocyanin(KLH)及びbovine serum albumin(BSA))に標的とするリジン残基周辺のアミノ酸5残基をもつペプチドを結合させることで、Lys16のPRL化を認識する抗体作製のための抗原(PRL16-antigen(KLH or BSA))及びLys28のPRL化を認識する抗体作製のための抗原(PRL28-antigen(KLH or BSA))を作製した。
【0071】
また、PRL16-antigenに関しては、より特異な抗体の作製を目的にペプチド鎖が長いLongPRL16-antigen(Aβ配列のN末端より21番目のアミノ酸配列を含有する)とその未修飾体であるNative16-antigenを作製した。すべての抗原に使用したペプチドは、キャリアータンパク質に結合させていない、遊離型のものも作製した。
【実施例2】
【0072】
(抗体の取得)
実施例1で作製した抗原のうち、PRL16-antigen(KLH)あるいはPRL28-antigen(KLH)の2種の抗原をそれぞれ完全アジュバンド(Freund’s complete adjuvant, FCA)と共に、雌性BALB/cマウス(6週齢)に腹腔内投与し、初回免疫を行った。その後、隔週にて不完全アジュバンド(Freund’s incomplete adjuvant,FIA)と共に追加免疫を行った。具体的には以下のように実施した。
【0073】
(1)マウス腹腔内投与による免疫
初回免疫は、PRL16-KLH(1mg/ml)あるいはPRL28-KLH(1mg/ml)150μl+リン酸緩衝生理食塩水(PBS)350 μl+FCA 500μlにてエマルジョン形成させ、200μl/匹にて腹腔内投与した。追加免疫は、初回免疫の2週間後より行った。PRL16-KLH(1mg/ml)あるいはPRL28-KLH(1mg/ml)150μl+PBS 350μl+FIA 500μlにてエマルジョン形成させ、200μl/匹にて隔週で腹腔内投与した。
【0074】
尾静脈より血液を採取し、ELISA法にて各種抗原(native BSA、PRL-BSA(BSAを直接PRL化した抗原)、Native16-BSA、PRL16-BSA、LongPRL16-BSA、PRL28-BSA)に対する抗体価の上昇を経時的に確認した。すなわち、各追加免疫を行った一週間後にマウス尾静脈より採血を行い、遠心処理にて得られた血清を一次抗体として使用したELISA法により、各種抗原に対する抗体価を検討した。なお、ELISA法は以下のように実施した。
【0075】
(1)Coating(96wellプレートへの抗原の固相):
Native BSA(1mg/ml)、PRL-BSA(1mg/ml)、Native16-BSA(1mg/ml)、LongPRL16-BSA(1mg/ml)、PRL16-BSA(1mg/ml)、PRL28-BSA(1mg/ml)をPBSにて0.5 μg/mlに希釈し、96wellプレートに100μl/wellずつ散布した。その後、4℃下で一晩、静置した。
(2)洗浄:0.05%Tween含有PBS(TPBS)200μl/wellにて3回洗浄した。
(3)Blocking:
粉末ブロックエースを超純水にて1%溶液を作製し、200μl/wellにて散布した。その後、37℃にて1時間、保温した。
(4)洗浄:TPBS200 μl/wellにて3回洗浄した。
(5)一次抗体:
抗体価を測定したい血清あるいは、ハイブリドーマ培養上清、精製抗体をTPBSにて1000倍希釈したものから、3倍ずつ段階希釈し、それぞれの希釈液を100μl/wellにて散布した。その後、37℃にて1時間、保温した。
(6)洗浄:TPBS200 μl/wellにて3回洗浄した。
(7)二次抗体:
Horseradish peroxidase(HRP)標識抗マウスIgG抗体をTPBSにて5000倍希釈し、100μl/wellにて散布した。その後、37℃にて1時間、保温した。
(8)洗浄:TPBS 200μl/wellにて3回洗浄した。
(9)発色及び測定:
3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine(TMB)発色溶液[1%TMB:40mMクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0):30%H22=50:5000:2の比率で混ぜた混合液]を100μl/wellずつ散布することで発色させた。10分間、室温下で発色させた後、1Nリン酸(100μl/well)にて停止させ、450nmにおける吸光度をプレートリーダーにて測定した。
【0076】
抗体価の上昇を確認後、屠殺し、脾臓を摘出する3日前にPRL16-KLH抗原+滅菌PBS懸濁液あるいはPRL28-KLH抗原+滅菌PBS懸濁液を尾静脈へ投与することで最終免疫を行い、屠殺し脾臓を摘出した。
【0077】
(2)ハイブリドーマ細胞の樹立
次いで、各抗原を免疫したマウス血清中において、PRL16-BSA及びLongPRL16-BSAに対する抗体価を有するマウスからはPRL16-アミロイドβ抗体を、PRL28-BSAに対する抗体価を有するマウスからはPRL28-アミロイドβ抗体の樹立を行った。すなわち、半永続的に培養維持が可能なミエローマ細胞と各マウスから得られる脾臓細胞との融合を行うことで、抗体を半永続的に産生し続けることが可能なハイブリドーマ細胞を樹立した。具体的には以下のように実施した。
【0078】
屠殺したマウスの脾臓から脾臓細胞を調製し、ミエローマ細胞(P3U1)とポリエチレングリコール1500を介して融合させた。その後、HAT培地を用いて融合後の細胞を培養することで、ハイブリドーマとなった細胞のみを選択した。HAT培地中では、アミノプテリンがde novo経路を介するDNA合成経路を阻害し、サルベージ経路でのDNA合成を進めるため、サルベージ経路に必要なhypoxanthine-guanine-phosphoribosyltransferase(HGPRT)を欠損するP3U1ではde novo経路に依存したDNA合成ができず、増殖・生存ができない。しかしながら、脾臓細胞自体はこのHGPRTを有するため、脾臓細胞と融合したミエローマ細胞、つまりは、ハイブリドーマ細胞はHAT培地中においてDNA合成が行え、生存できる。このようにしてHAT培地での選別後、培養上清を用いたELISAを行うことで、目的の抗体を産生しているハイブリドーマのみを選択した。なお、ELISAは既述のELISA法プロトコールに従って行った。
【0079】
これら細胞の選別(スクリーニング、クローニング)を繰り返すことで単一のクローンとして当該抗体産生株として樹立した。PRL16-Aβに対する特異抗体産生クローンとしては「BST31」と、PRL28-Aβに対する特異抗体産生クローンとしては「3A11」と命名した。以下抗体としては、mAbBST31、mAb3A11とした。
【0080】
なお、本クローンの樹立に関して、細胞融合を行った後のELISAにおけるスクリーニング時にPRL16-BSAだけでなく、LongPRL16-BSAを並行してスクリーニングを行うことで、PRL16-BSAのみでのスクリーニングでは認められたPRL28-BSAにも交差性を有してしまう非特異的な抗体のセレクションが排除された。また、それだけでなく、アミロイドβのアミノ酸配列をより多く有するペプチド中のリジン残基のPRL化を認識できることから、より「アミロイドβ配列中における16番目リジン残基のPRL化」に対して特異性の高い抗体の樹立へとつながったといえる。
【0081】
(3)プロテインGカラムによる各抗体の精製
抗体産生ハイブリドーマ細胞の培養上清からプロテインGカラムを用いたアフィニティー精製により抗体を精製した。各抗体を精製後、タンパク質の定量を行い、抗体濃度として1mg/mlの濃度にて調製し、-30℃あるいは-80℃下で保存した。なお、アフィニティークロマトグラフィーは以下のようにペリスタポンプあるいは手動にて実施した。
【0082】
(1)超純水でラインを流しながら、ProteinGカラムを接続し平衡化した。
(2)0.02Mリン酸緩衝液(pH7.0)(PB)に置換し、20分、平衡化した。
(3)0.02M PBにて平衡化後、培養上清へとカラムを置換し、培養上清すべてをカラムに通した。
(4)培養上清をカラムに流し終えた後、0.02M PBにて20分、洗浄した。
(5)洗浄中に1.5mlのチューブ5本分に1M Tris水溶液を75μl加えておいた。
(6)0.02M PBにて洗浄後、0.1M Glysine/HCl(pH2.5)にて溶出した。溶出液は、上記1M Tris水溶液入り1.5mlチューブにそれぞれ1mlずつ回収した(合計5本分の画分として回収)。
(7)各画分のタンパク質含量をBCA assayにて測定し、抗体溶出画分を判別した。
(8)抗体溶出画分を回収し、4℃にてPBSに対して透析を2日間行い、1mg/mlに濃度を調製し、-30℃あるいは-80℃に保存した。
【実施例3】
【0083】
(樹立したモノクローナル抗体mAbBSA31及びmAb3A11の特異性解析)
(1)間接ELISA法による検討
精製したモノクローナル抗体を使用して、各抗原に対する交差性を検証した。mAbBST31に関しては、native BSA、PRL-BSA、Native16-BSA、PRL16-BSA、LongPRL16-BSA、PRL28-BSAを使用し、mAb3A11に関しては、Native BSA、PRL-BSA、PRL16-BSA、PRL28-BSAを用いて、既述のELISA法プロトコールに従い行った。その結果、mAbBST31は、PRL16-BSAに加え、LongPRL16-BSAの2種に対してのみ交差することが認められ、さらにLongPRL16-BSAに対してより強く反応していることが認められた。そのため、よりアミノ酸残基の長く、アミロイドβのおおよそ半分の21残基を含有するLongPRL16-BSA(0.5μg/ml、100μl/well)を競合ELISAのCoating時の抗原として使用することにした。mAbBST31の抗体濃度としては、0.2μg/ml、50μl/wellにて用いることにした。mAb3A11においては、PRL28-BSAに対してのみ交差性が認められた。よって、Coating時の抗原としてはPRL28-BSA(0.5μg/ml、100μl/well)を使用し、mAb3A11の抗体の濃度として0.1μg/ml、50μl/wellにて競合ELISAに使用することにした。
【0084】
(2)競合ELISA法による検討
作製した抗体の特異性を検証する実験として競合ELISAがある。競合ELISAは、抗体とプレート上にある抗原と、さらに競合物質とを共存させることで、抗体がプレート上の抗原と交差することを競合物質が阻害するかどうかで抗体とその競合物質との交差性を検討できる実験である。用いた各抗原と抗体の条件は、前述の通りであり、以下のELISA法プロトコールに従って行った。結果を図3及び図4に示す。
【0085】
(1)Coating(96wellプレートへの抗原の固相):
mAbBST31を使用した競合ELISAの場合:LongPRL16-BSA(0.5μg/ml、100μl/well)、
mAb3A11を使用した競合ELISAの場合:PRL28-BSA(0.5μg/ml、100μl/well)にて、96wellプレートに散布した。その後、4℃下で一晩、静置した。
(2)洗浄:TPBS200μl/wellにて3回洗浄した。
(3)Blocking:
粉末ブロックエースを超純水にて1%溶液を作製し、200 μl/wellにて散布した。その後、37℃にて1時間、保温した。
(4)洗浄:TPBS 200μl/wellにて3回洗浄した。
(5)一次抗体:以下に挙げるペプチドを、各抗体と同時に加えた。
mAbBST31:PRL16-peptide、PRL28-peptide、Long16-peptide、Native16-peptide(各抗原のキャリアタンパク質が結合していない遊離型のペプチド)を、500nMを上限としてTPBSにて3段階希釈したものを競合物質として50μl/wellにて加えた。
mAb3A11:PRL16-peptide、PRL28-peptideを、50nMを上限としてTPBSにて3段階希釈したものを競合物質として50μl/wellにて加えた。両者ともに、その後、4℃下で一晩、静置した。
(6)洗浄:TPBS 200μl/wellにて3回洗浄した。
(7)二次抗体:
Horseradish peroxidase(HRP)標識抗マウスIgG抗体をTPBSにて5000倍希釈し、100μl/wellにて散布した。その後、37℃にて1時間、保温した。
(8)洗浄:TPBS 200μl/wellにて3回洗浄した。
(9)発色及び測定:
3,3’,5,5’-Tetramethylbenzidine(TMB)発色溶液[1%TMB:40mMクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0):30%H=50:5000:2の比率で混ぜた混合液]を100μl/wellずつ散布することで発色させた。20分間、室温下で発色させた後、1Nリン酸(100μl/well)にて停止させ、450nmにおける吸光度をプレートリーダーにて測定した。
【0086】
図3に示すように、mAbBST31は、Native16-peptideおよびPRL28-peptideとは交差せず、PRL16-peptideおよびLongPRL16-peptideに対してのみ交差し、なかでもLongPRL16-peptideに対してより強く交差する抗体であることが認められた。また、図4に示すように、mAb3A11に関しては、PRL16-peptideには交差せず、PRL28-peptideに対してのみ交差する抗体であることが認められた。以上のことから、これら抗体は、アミロイドβ配列中のPRL化を部位特異的に検出することが可能な抗体であると認められた。
【実施例4】
【0087】
(各抗体の高感度化のためのbiotin化)
biotinは、卵黄中から発見された低分子で、卵白中のavidinと強力な非共有結合を形成する性質を有する。そのため、このbiotinを抗体に複数結合させることで、biotin化された抗体に多くのavidinが結合させることができ、avidinを介した検出感度の増加が可能となる。よって、mAbBST31およびmAb3A11のbiotin標識を行った。なお、biotin標識の確認は、抗体の検出に用いるプローブをStreptavidin-HRP(BD Biosciences)を使用することで行った。
【0088】
(1)succinimidyl-6-(biotinamido)hexanoate(EZ-link NHS-LC-Biotin,Thermo Fisher)0.0023gを500μl N,N-Dimethylformamide(DMF)に溶解させた(Biotin化試薬)。
(2)mAbBST31およびmAb3A11を各々2mg(PBS溶液中)に対して上記のBiotin化試薬27μl添加した。
(3)氷上で2時間静置した。
(4)PBS1 Lに対してセロハン膜(Spectra/Por 7 Dialysis Membrane MWCO 10000、SPECTRUM LABORATORIES)を用いて2日間、透析を行った。
(5)BCA assayによりタンパク濃度を測定し、mAbBST31は0.8mg/ml、mAb3A11は0.5mg/mlに調製し、-30℃に保存した。
【実施例5】
【0089】
(mAbBST31を用いた競合ELISA定量法の構築)
Biotin標識mAb3A11を基盤とした競合ELISAにより、PRL16-Aβの定量法を構築した。様々な条件検討の結果、以下のようなプロトコールを開発した。これにより作成した検量線を図5に示す。
【0090】
(競合ELISA-PRL16-アミロイドβの定量法)
なお、本定量法においては、96F MAXISORP BLACK MICROWELL、StartingBlockTM(PBS)Blocking Buffer(Thermo Fisher Scientific)及びPierceTM High Sensitivity Streptavidin-HRP(Pierce)、SuperSignal(登録商標)ELISA Femto Maximum Sensitivity Substrate(Thermo Fisher Scientific)を用いた。
【0091】
(手順)
(1)Coating(96wellプレートへの抗原の固相):
LongPRL16-BSA(1mg/ml)をPBSにて500000倍に希釈し、96F MAXI SORP BLACK MICROWELLの各wellに100μlずつ散布した。その後、4℃下にて一晩、静置した。
(2)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて5回洗浄した。
(3)Blocking:
StartingBlockTM(PBS)Blocking Bufferを200μl/wellにて散布し、室温にて30分間、静置した。
(4)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて5回洗浄した。
(5)競合反応:
・競合物質の調製(検量線作成用)
LongPRL16-Peptide
TPBSにて1000nMに調製し、これを上限として10倍ずつ段階希釈した。96wellには50μl/wellにて添加した。
・ヒト髄液は原液をそのまま50μl/wellにて添加した。
・一次抗体の調製
mAbBST31-biotin(0.8mg/mL)をTPBSにて50000倍に希釈して用いた。
以上の調製液を96wellプレートに加える際は、競合物質(LongPRL16-peptide)あるいはヒト髄液を先に添加し、その後に一次抗体を添加した。
以上の添加後、4℃下にて一晩、静置した。
(6)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて5回洗浄した。
(7)二次抗体:
PierceTM High Sensitivity Streptavidin-HRPをTPBSにて100000倍希釈し、100μl/wellにて散布した。
その後、37℃下にて1時間、保温した。
(8)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて5回洗浄した。
(9)化学発光:
SuperSignal(登録商標)ELISA Femto Maximum Sensitivity Substrateを100μl/wellにて添加し、化学発光させ、添加後1分の発光強度をプレートリーダーにて測定した。
【0092】
(mAb3A11を用いた競合ELISA定量法の構築)
Biotin標識mAb3A11を基盤とした競合ELISAにより、PRL28-Aβの定量法を構築した。様々な条件検討の結果、以下のようなプロトコールを開発した。これにより作成した検量線を図6に示す。
【0093】
(競合ELISA-PRL28アミロイドβの定量法)
なお、この定量法では、F96 CERT MAXISORP NUNC-IMMUNO PLATE、Block Ace Powder(DSファーマバイオメディカル株式会社)、PierceTM High Sensitivity Streptavidin-HRP(Pierce)を用いた。
【0094】
(1)Coating(96wellプレートへの抗原の固相):
PRL28-BSA(1mg/ml)をPBSにて8000倍に希釈し、96wellプレートに100μl/wellずつを散布した。その後、4℃下にて一晩、静置した。
(2)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて3回洗浄した。
(3)Blocking:
Block Ace powderを超純水にて1%溶液を作製し、200 μl/wellにて散布した。その後、37℃下にて1時間、保温した。
(4)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて3回洗浄した。
(5)競合反応:
・競合物質の調製(検量線作成用)
PRL28-Peptide
TPBSにて280nMに調製し、これを上限として3倍ずつ段階希釈した。96wellには50μl/wellにて添加した。
・ヒト髄液は原液をそのまま50μl/wellにて添加した。
・一次抗体の調製
mAb3A11-biotin(0.5mg/mL)をTPBSにて40000倍に希釈して用いた。
以上の調製液を96wellプレートに加える際は、競合物質(PRL28-peptide)あるいはヒト髄液を先に添加し、その後に一次抗体を添加した。
以上の添加後、4℃下にて一晩、静置した。
(6)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて3回洗浄した。
(7)二次抗体:
PierceTM High Sensitivity Streptavidin-HRPをTPBSにて20000倍希釈し、100μl/wellにて散布した。その後、37℃下にて1時間、保温した。
(8)洗浄:TPBS溶液200μl/wellにて3回洗浄した。
(9)発色及び測定:
TMB発色溶液[1%TMB:40mMクエン酸リン酸緩衝液(pH5.0):30%H22=50:5000:2の比率で混ぜた混合液]を100μl/wellずつ散布することで発色させた。20分間、室温下で発色させた後、1Nリン酸(100μl/well)にて停止させ、450nmにおける吸光度をプレートリーダーにて測定した。
【0095】
なお、図6においては、競合物質への抗体の交差反応性はB/B0にて表した。
B:各濃度の競合物質存在下における吸光度
0:競合物質が存在しないmAb3A11の吸光度(発色時における最大吸光度)
【実施例6】
【0096】
(ヒト髄液からのPRL16-Aβ及びPRL28-Aβの定量)
実施例5に記載したように、各修飾部位特異抗体を用いて定量可能なELISA法を開発した。この2種のプロトコールから作成した検量線を使用し、ヒト髄液中に含まれるAβの各PRL修飾部位の定量を行った。また、non AD患者(ADではない患者)とAD患者間での比較を行った。PRL16-Aβ及びPRL28-Aβの定量値を図7に示す。また、図8に、同じ髄液中におけるAβ40及び42の定量値の比較も示す。
【0097】
図7に示すように、開発したELISA法によるヒト髄液中におけるAβの各PRL化部位の定量をおこなったところ、16番目のPRL化Aβは、AD患者の髄液中において未修飾Aβ(40及び42)の定量値(図8参照)と同様に対照群(non AD)と比べて「減少」するのに対し、28番目のPRL化Aβは、AD患者髄液中においてむしろ「増加」する値を示した。このような変化を示すことからも、ADのバイオマーカーとして新たに2種の定量法を提案することで、ADの発症機構の解明や、診断における生化学バイオマーカーになりうると考えられ、これら定量法である本発明は新規性の高いものであると考えられた。
【0098】
また、髄液中のPRL-Aβの存在量に関しては、PRL28-Aβが200-600pMであるのに対し、PRL16-Aβは10pM以下であり、PRL16-Aβ、PRL28-Aβ間でヒト髄液中の存在量が大きく異なることが明らかとなった。
【0099】
AD患者では髄液中のAβ42が低下し、髄液中のタウが上昇するとされ、これらを組み合わせることで80%を超える感度・特異度でADの診断が可能(Knopman,DS; DeKosky,ST; Cummings,JL;et al,2001)であることや、ヒト髄液中でAβオリゴマー体の中でもある特定の構造をもった毒性オリゴマー体とAβ42の比が有意に上昇する[入江一浩、村上一馬、実験医学(羊土社)Vol.35 No.12 p52-59 (2017)。]ことが報告されている。本開示によれば、AD患者で髄液中のPRL28-Aβが増加していたが、これはAD患者で毒性Aβオリゴマー/Aβ42比が上昇することに類似している。この共通点からも、AD患者ではAβ中の28番目のリジン残基のPRL化がAD発症の過程で亢進しており、AD発症の何かしらの要因になっている可能性が推察された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
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