(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】撮影装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20221004BHJP
G01N 24/08 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61B5/055 311
A61B5/055 370
G01N24/08 510Y
(21)【出願番号】P 2018127250
(22)【出願日】2018-07-04
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】沼野 智一
(72)【発明者】
【氏名】伊東 大輝
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-181851(JP,A)
【文献】特開2014-012139(JP,A)
【文献】特開2017-064309(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0232395(US,A1)
【文献】国際公開第2014/124250(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静磁場と、位置に応じて磁場が変化する傾斜磁場と、プロトンの磁気共鳴条件に基づいて予め設定された交番磁場と、を被検者の被検査部に対して発生させる磁場発生装置と、
前記交番磁場を予め設定された繰り返し時間をあけて印加する交番磁場の印加手段と、
前記交番磁場で励起された被検査部のプロトンが緩和する際に放出される電磁波を受信する時間であるエコー時間に基づいて、前記電磁波を受信する受信手段と、
被検査部に振動を付与する振動付与部材であって、位相の異なる複数の振動を付与可能な振動付与部材と、
前記磁場発生装置を制御して、被検査部に対して予め設定された方向からMRE用の
前記傾斜磁場を印加する傾斜磁場の印加手段であって、前記振動の1周期に対して複数回の前記傾斜磁場を印加する前記傾斜磁場の印加手段と、
前記傾斜磁場を印加する時期に対応する前記エコー時間に応じて取得された電磁波に基づいて、電磁波信号の取得時期が隣接する2つの電磁波信号の差分に基づいて、電磁波信号の位相に応じたMR位相画像を取得するMR位相画像の取得手段と、
を備えたことを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
予め定められた第1周波数の振動と、前記第1周波数とは異なる第2周波数の振動と、を重畳した重畳振動を前記被検査部に付与する前記振動付与部材と、
前記第1周波数の1周期を第1の振動位相分解回数で分割し、且つ、前記第2周波数の1周期を前記第1の振動位相分解回数とは異なる第2の振動位相分割回数で分割する時期に前記傾斜磁場を印加する前記傾斜磁場の印加手段と、
電磁波信号の取得時期が隣接する2つの電磁波信号の差分に基づいて、前記第1周波数の振動に対応するMR位相画像と、前記第2周波数の振動に対応するMR位相画像とを取得する前記MR位相画像の取得手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の撮影装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影装置に関し、特に、組織の硬さを測定するMRエラストグラフィ(Magnetic Resonance Elastography : MRE)の撮影が可能な撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場において、患者に対して放射線被曝等の影響の少ないMRI装置(Magnetic Resonance Imaging装置:磁気共鳴画像装置)が使用されている。MRI装置では、人体の各細胞に含まれる水素原子核(プロトン)に対して、プロトンのスピンに応じた高周波磁場を印加して励起し、励起したプロトンが元の状態に戻る(緩和)際に発する電磁波に基づいて、プロトンの密度が異なる部分(例えば、水と脂肪)を濃淡で表した画像を得ることが可能である。
MRE(Magnetic Resonance Elastography:磁気共鳴エラストグラフィ)は、対象物に振動(体幹部の場合には、50Hz~100Hz程度)を加えながら、MRI装置で撮像することで、対象部内部の「硬さ」の違いによる振動波の伝播の違いを利用し、硬さを画像化する撮像法である(特許文献1,2参照)。
【0003】
一般的には、病変は、悪性度が高まるに連れて硬くなり、その悪性度を診断するための「触診」が古くから実施されている。触診は簡便で有効な診断方法ではあるものの、体内の深い部分や骨などに囲まれた部分の触診が難しい。MREでは人体表面に強制的な振動を発生させ、その振動波が体内を伝搬する様子から、局所の硬さの違いを画像化する。これによりMREは触診が困難であった部分の硬さ計測を可能にし、これまでとは全く異なる診断価値をもつ画像を提供できる可能性がある。
ものの硬さが変化すると、その内部を伝播する波(伝播波)の音速及び波長が変化する。そこで、MREでは撮像対象にMRI装置との同期がとれた振動を加えながら撮像する(非特許文献1参照)。これにより撮像対象内部の伝播波を可視化することができる。この時に得られる伝播波の画像はwave imageと呼ばれる。wave imageは局所の伝播波の波長を画像化しているので、局所の硬さを反映した画像を算出することができる。算出によって得られた画像はelastogramと呼ばれる。
【0004】
振動の伝播を表示するには、静止画ではなく動画として表現することがわかりやすい。ここで、一般のビデオカメラ等の動画を撮影する装置では、約1/30秒程度の速さで静止画を撮影することで動画を撮影しているが、MRI(MREも含む)では、ビデオカメラのように高速で撮像することができない。したがって、MREでは、振動が伝わる様子をwave imageとして得るために、MRIと振動を同期させて「コマ撮り」の画像を複数回撮像する。MREでは、現在使用されている機器では振動の1周期を4回に分けて(振動の位相をπ/2ずらして)「コマ撮り」する。そのため、MREを実施するためには、4回程度の一連の「コマ撮り」が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2005-507691号公報(「0008」、「0014」~「0023」)
【文献】特開2011-98158号公報(「0003」~「0018」、「0026」~「0029」)
【非特許文献】
【0006】
【文献】Muthupillai R, Lomas DJ, Rossman PJ, Greenleaf JF, Manduca A, Ehman RL, Magnetic resonance elastography by direct visualization of propagating acoustic strain waves. Science 1995;269(5232):1854-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
(従来技術の問題点)
MREの撮影において振動の位相をずらして4回「コマ撮り」をする場合、「コマ撮り」ごとに撮像対象が動いてしまった場合(例えば呼吸など)、画像の位置ずれを起こして誤差を生じさせる可能性がある。そのため、一度の呼吸止め(およそ20秒以下)で4回の「コマ撮り」を達成させるために、空間分解能の低い(画素サイズが大きい、画像が粗い)撮像を強いられている。なお、一般的に、MRIでもMREでも高い空間分解能(画素サイズが小さい、画像が細かい)での撮像には、低空間分解能(画素サイズ)で撮像するよりも撮像時間が長くなり、被検者が呼吸を長時間止める必要が出てくる。したがって、長時間呼吸を止める場合には被検者の負担が増大するとともに、現実的には、長時間呼吸を止めることが困難であるため、呼吸等の影響で誤差の少ない撮像が困難であるという問題がある。
【0008】
本発明は、従来の構成に比べて、MR画像の撮像時間を短くすることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の撮影装置は、
静磁場と、位置に応じて磁場が変化する傾斜磁場と、プロトンの磁気共鳴条件に基づいて予め設定された交番磁場と、を被検者の被検査部に対して発生させる磁場発生装置と、
前記交番磁場を予め設定された繰り返し時間をあけて印加する交番磁場の印加手段と、
前記交番磁場で励起された被検査部のプロトンが緩和する際に放出される電磁波を受信する時間であるエコー時間に基づいて、前記電磁波を受信する受信手段と、
被検査部に振動を付与する振動付与部材であって、位相の異なる複数の振動を付与可能な振動付与部材と、
前記磁場発生装置を制御して、被検査部に対して予め設定された方向からMRE用の前記傾斜磁場を印加する傾斜磁場の印加手段であって、前記振動の1周期に対して複数回の前記傾斜磁場を印加する前記傾斜磁場の印加手段と、
前記傾斜磁場を印加する時期に対応する前記エコー時間に応じて取得された電磁波に基づいて、電磁波信号の取得時期が隣接する2つの電磁波信号の差分に基づいて、電磁波信号の位相に応じたMR位相画像を取得するMR位相画像の取得手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の撮影装置において、
予め定められた第1周波数の振動と、前記第1周波数とは異なる第2周波数の振動と、を重畳した重畳振動を前記被検査部に付与する前記振動付与部材と、
前記第1周波数の1周期を第1の振動位相分解回数で分割し、且つ、前記第2周波数の1周期を前記第1の振動位相分解回数とは異なる第2の振動位相分割回数で分割する時期に前記傾斜磁場を印加する前記傾斜磁場の印加手段と、
電磁波信号の取得時期が隣接する2つの電磁波信号の差分に基づいて、前記第1周波数の振動に対応するMR位相画像と、前記第2周波数の振動に対応するMR位相画像とを取得する前記MR位相画像の取得手段と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に記載の発明によれば、1回の観測で複数の振動位相のMR位相画像を取得することができ、従来の構成に比べて、MR画像の撮像時間を短くすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、複数の周波数の振動に対するMR位相画像を1回の観測で取得することができ、従来の構成に比べて、MR画像の撮像時間を短くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の実施例1の磁気共鳴撮影装置の説明図である。
【
図2】
図2は実施例1の磁気共鳴撮影装置におけるコンピュータ本体の機能ブロック図である。
【
図3】
図3は実施例1の磁場の印加および振動の付与の説明図であり、横軸に時間を取ったグラフである。
【
図4】
図4は実施例1のMR画像を作成する処理の説明図である。
【
図5】
図5は従来のMREにおける振動と傾斜磁場との関係の説明図であり、
図5Aは振動位相が0°の場合の説明図、
図5Bは振動位相が90°の場合の説明図、
図5Cは振動位相が180°の場合の説明図、
図5Dは振動位相が360°の場合の説明図である。
【
図6】
図6は撮影結果の一例の説明図であり、
図6Aは従来の撮影方法での撮影結果、
図6Bは実施例1の撮影方法での撮影結果の説明図である。
【
図7】
図7は人間の肩の部分の撮影結果の一例の説明図であり、
図7Aは従来の撮影方法での撮影結果、
図7Bは実施例1の撮影方法での撮影結果の説明図である。
【
図8】
図8は実施例2のMR画像を作成する処理の説明図であり、実施例1の
図4に対応する図である。
【
図9】
図9は撮影結果の一例の説明図であり、
図9Aは従来の撮影方法での撮影結果、
図9Bは実施例2の撮影方法での撮影結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の実施例1の磁気共鳴撮影装置の説明図である。
図1において、本発明の撮影装置の一例としての実施例1の磁気共鳴撮影装置1は、磁場発生装置の一例としての磁石部2を有する。磁石部2には、内部を水平方向に貫通する貫通孔3が形成されている。貫通孔3には、寝た状態の被検者4が支持される寝台6が貫通可能である。
磁石部2は、静磁場印加部材の一例としての静磁場発生磁石11を有する。なお、静磁場発生磁石として、超電導電磁石や永久磁石を使用することが可能である。静磁場発生磁石11の内側には、傾斜磁場印加部材の一例としての傾斜磁場発生コイル12が配置されている。傾斜磁場発生コイル12の内側には、励起磁場印加部材の一例としての高周波磁場発生コイル13が配置されている。高周波磁場発生コイル13の内側には、受信部の一例として、電磁波を受信する受信コイル14が配置されている。
【0015】
また、実施例1では、MRE測定用に、被検者4には、被検査部の一例としての肝臓の位置に対応する体表面の部分に、振動付与部材の一例としての振動板(パッシブドライバー)16が支持されている。振動板16は、被検者4に対して予め設定された周波数で振動を付与する部材であり、例えば、特許文献2等に記載された従来公知の任意の構成のものを採用可能である。
【0016】
前記磁石部2には、情報処理装置の一例としてのコンピュータ装置21がケーブルCbを介して電気的に接続されている。したがって、コンピュータ装置21は、磁石部2との間で、静磁場発生磁石11等の制御信号や受信コイル14での検知信号等が送受信可能に構成されている。コンピュータ装置21は、コンピュータ本体22と、表示部の一例としてのディスプレイ23と、入力部の一例としてのキーボード24およびマウス25と、を有する。なお、実施例1では、コンピュータ装置21と磁石部2とをケーブルCbで接続する構成を例示したが、これに限定されず、携帯電話回線やBluetooth(登録商標)、無線LAN等、任意の無線通信方式で情報の送受信を行うことも可能である。
【0017】
(実施例1のコンピュータ本体22の制御部の説明)
図2は実施例1の磁気共鳴撮影装置におけるコンピュータ本体の機能ブロック図である。
図2において、実施例1のコンピュータ本体22の制御部41は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
制御部41には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、オペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての撮影装置制御プログラムAP1、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
【0018】
(実施例1の制御部41に接続された要素)
制御部41には、キーボード24やマウス25、受信コイル14等の信号出力要素からの出力信号が入力されている。
また、実施例1の制御部41は、ディスプレイ23、静磁場発生磁石11、傾斜磁場発生コイル12、高周波磁場発生コイル13等の被制御要素へ制御信号を出力している。
【0019】
(制御部41の機能)
実施例1の制御部41の撮影装置制御プログラムAP1は、下記の機能手段(プログラムモジュール)51~58を有する。
【0020】
磁場制御手段51は、磁石部2を制御して、被検者4の被検査部をMR撮影するための磁場を制御する。実施例1の磁場制御手段51は、繰り返し時間記憶手段51aと、エコー時間記憶手段51bと、静磁場印加手段51cと、傾斜磁場印加手段51dと、交番磁場の印加手段の一例としての高周波磁場印加手段51eと、を有する。
【0021】
図3は実施例1の磁場の印加および振動の付与の説明図であり、横軸に時間を取ったグラフである。
繰り返し時間記憶手段51aは、被検者4の被検査部に含まれるプロトンを励起するために印加される交番磁場の一例としての高周波磁場を印加する間隔である繰り返し時間TRを記憶する。
【0022】
エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから、励起されたプロトンが元の状態に戻る(緩和する)際に発する電磁波を取得するまでの間隔であるエコー時間TEを記憶する。
図3において、実施例1では、エコー時間記憶手段51bは、高周波磁場が印加されてから電磁波を取得するまでの期間であるエコー時間TEを記憶する。実施例1ではエコー時間TEは、振動板16で付与される振動66に対して、振動位相が0°、90°、180°、270°、360°(=0°)、450°(=90°)、…の時期に対応して設定されている。すなわち、振動66の1周期(360°)に対して4回(位相90°間隔)の傾斜磁場61が印加されるように設定されている。
なお、実施例1では、繰り返し時間TRおよびエコー時間TEは、予め設定されているが、磁気共鳴撮影装置1の利用者が手動で入力して、設定、変更が可能に構成することも可能である。
【0023】
静磁場印加手段51cは、静磁場発生磁石11を制御して、静磁場を発生させる。実施例1の静磁場印加手段51cは、一例として、3[T]の静磁場を発生させる。
傾斜磁場印加手段51dは、傾斜磁場発生コイル12を制御して、位置に応じて磁場が変化するMRE用の傾斜磁場(勾配磁場)61を発生させる。従って、傾斜磁場61が振動検出傾斜磁場MEG(motion encoding gradient)と呼ばれる磁場である。実施例1の第1の傾斜磁場印加手段51dは、
図3に示すように、互いに直交するスライス(slice)方向、リードアウト(read out)方向およびフェーズ(phase)方向の3軸方向において、スライス方向(スライス軸)に傾斜磁場61を発生させる。
高周波磁場印加手段51eは、高周波磁場発生コイル13を制御して、プロトンを励起する周波数に対応する交番磁場である高周波磁場63を発生させる。
【0024】
振動付与制御手段52は、振動板16を制御して、被検査部に振動66を付与する。
図3において、実施例1の振動付与制御手段52が付与する振動66の周期Tに対して、傾斜磁場61は位相90°間隔で4回印加される。なお、実施例1では、振動付与制御手段52は、
図3に示す振動66に限定されず、利用者の入力に応じて任意の周波数や振幅、位相の振動66を変更できる機能を有する。
【0025】
受信手段の一例としての信号取得手段53は、エコー時間TEの時期に、受信コイル14を介して被検者4のプロトンが緩和する際に発生する電磁波信号を取得する。したがって、実施例1では、
図3に示す振動が振動付与制御手段52で付与された状態で、エコー時間TEにおいて受信コイル14で信号を測定することで、振動66を付与しながらのMR画像を複数回撮像する。
【0026】
図4は実施例1のMR画像を作成する処理の説明図である。
MR画像取得手段54は、信号処理手段54aと、MR強度画像の作成手段54bと、MR位相画像の作成手段54cと、を有し、信号取得手段53が取得した電磁波信号に基づいて、MR画像を作成する。
信号処理手段54aは、受信した電磁波信号において信号処理をする。実施例1の信号処理手段54aは、信号取得手段53が取得した信号を実数部r(real part)とし、信号取得手段53が取得した信号をπ/2位相を遅らせた信号を虚数部i(imaginary part)とする。すなわち、受信した電磁波信号に基づいた複素数、いわゆる、MRIの技術分野におけるk空間(周波数空間)の信号を生成する。そして、実数部rと虚数部iに対して、フーリエ逆変換(実施例では高速フーリエ逆変換)を行って、実空間の信号R,Iに変換する。そして、実空間における実数部Rと虚数部Iとに基づいて、複素平面における強度M=(R
2+I
2)
1/2と、位相φ=tan
-1(I/R)とを演算する。なお、この演算は、従来のMRI装置において導入されており、公知であるため、これ以上の詳細な説明は省略する。
【0027】
MR強度画像の作成手段54bは、信号処理手段54aで算出された強度Mに基づいて、MR強度画像を作成する。なお、MR強度画像は、一般的にMRI画像として、診断に使用される画像である。
【0028】
MR位相画像の作成手段54cは、電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像(MREではWave Imageとして利用される)を作成する。ここで、実施例1のMR位相画像の作成手段54cでは、エコー時間TEで測定された電磁波信号から算出された位相φに基づいて、MR位相画像を作成する。
図4において、2番目の傾斜磁場(第2エコー)で検出される電磁波信号から、1番目の傾斜磁場(第1エコー)で検出される電磁波信号を減算する(差分を取る)と、第1エコーの部分が打ち消し合って、第2エコーのみに対応する電磁波信号のみが残ることとなり、結果として、振動位相0°の測定結果のみが残ることとなる。同様に、第3エコーで検出される電磁波信号から、第2エコーで検出される電磁波信号を減算すると、第3エコーのみに対応する電磁波信号のみが残り、振動位相90°の測定結果のみが残る。同様にして、第4エコーと第3エコーの差分から振動位相180°の測定結果が得られ、第5エコーと第4エコーの差分から振動位相270°の測定結果が得られる。このようにして、振動付与制御手段52で付与される振動の位相が、0°、90°、180°、270°のそれぞれの場合におけるMR位相画像を作成する。したがって、実施例1では、電磁波信号の取得時期(第1エコー、第2エコー、第3エコー、…)が隣接する2つの電磁波信号の差分(第2エコー-第1エコー、第3エコー-第2エコー、…)に基づいて、電磁波信号の位相に応じたMR位相画像(MRE画像)を取得(作成)する。
【0029】
波長取得手段55は、振動板16で付与された振動により被検者4の内部を伝播する振動波の波長λを取得する。実施例1の波長取得手段55は、振動位相0°、90°、180°、270°のそれぞれの場合におけるMR位相画像に基づいて、画像の画素毎に、振動波に応じて変動する位相φの推移から振動波の波長λを取得する。具体的には、振動位相0°、90°、180°、270°の画像から得られる振動波の伝播の様子から、画像の局所領域ごとに振動波の波長λを推定する。
【0030】
硬さ推定手段56は、振動波の波長λと、振動板16で付与された振動波の周波数fと、被検査部の密度ρと、に基づいて、被検査部の硬さμを推定する。なお、振動波の周波数fは、振動板16で付与される振動波の周波数fから既知であり、被検査部の密度ρは、人体の密度は、ほぼ1[g/cm3]である。そして、硬さ(弾性率)μは、μ=ρ・(λ・f)2から計算される。
MRE画像作成手段57は、MR現象を利用して硬さを画像化したMRElastogram画像(MRE画像)を作成する。実施例1のMRE画像作成手段57は、局所領域(画素)毎に計算された硬さμに応じて色分けされたMRE画像を作成する。一例として、硬い部分(硬さμの値の大きな画素)を赤く表示し、軟らかくなる(硬さμの値が小さくなる)に連れて、黄、緑、青、紫と変化するように表示することが可能である。
【0031】
画像表示手段58は、MR画像取得手段54やMRE画像作成手段57で作成された画像を、ディスプレイ23に表示する。すなわち、被検査部の断面画像であるMR強度画像(通常の診断で利用する画像)と、MR位相画像(MREではWave Imageとして利用)と、Elastogram画像(MRE画像)とがディスプレイ23に表示される。なお、実施例1では、Wave Image画像やElastogram画像だけでは、解剖学的構造がわかりにくいので、MR強度画像と、Wave Image画像やElastogram画像とを重ねて表示する表示モードも備えることが可能である。なお、画像を重ねて表示したり、全ての画像をディスプレイ23に表示せず、入力に応じて、MR強度画像と、Wave Image画像やElastogram画像を切替えて表示することも可能である。また、同一の断面において、MR強度画像とElastogram画像を並べて配置することも可能であるし、異なる断面におけるElastogram画像を並べて表示する等、任意の変更が可能である。
【0032】
(実施例1の作用)
図5は従来のMREにおける振動と傾斜磁場との関係の説明図であり、
図5Aは振動位相が0°の場合の説明図、
図5Bは振動位相が90°の場合の説明図、
図5Cは振動位相が180°の場合の説明図、
図5Dは振動位相が360°の場合の説明図である。
前記構成を備えた実施例1の磁気共鳴撮影装置1では、振動66の1周期に4回の傾斜磁場が印加され、検出された電磁波信号から、0°、90°、180°、270°の各振動位相のMR位相画像が取得可能である。
図5に示すように、従来のMREでは、振動01の周期01aに同期する周期02aを有する傾斜磁場02が印加されていた。そして、
図5Aに示すように、位相のずれが0°(振動位相が0°)で傾斜磁場02を印加して1回目の測定を行い、振動位相が90°で2回目の測定、振動位相が180°で3回目の測定、振動位相が270°で4回目の測定を行っていた。
【0033】
これに対して、実施例1では、1回の測定で、0°、90°、180°、270°の各振動位相のMR位相画像が取得可能である。したがって、従来のMRE測定に比べて、撮影時間を1/4に短くすることができる。したがって、呼吸を止める期間や振動板16から振動66を受ける期間を短縮することができ、被検者(患者)の負担、苦痛を軽減することができる。
また、実施例1では、撮影時間の短縮が可能であるが、裏を返せば、同じ撮影時間とした場合には、空間分解能を従来よりも高くすることもできる。よって、高精度の観測、撮影が可能であり、医師の診断にも寄与する。
【0034】
また、従来の4回撮影する場合に比べて、撮影が1回で済むので、撮像対象の動き(呼吸や体動等)による誤差も低減することができる。したがって、誤差による弾性率算出エラーの低減も可能である。
さらに、撮影時間が短縮されるので、同じ時間でより多くの断面の撮像が可能となり、複数断面による弾性率の算出も可能になる。
【0035】
図6は撮影結果の一例の説明図であり、
図6Aは従来の撮影方法での撮影結果、
図6Bは実施例1の撮影方法での撮影結果の説明図である。
従来の4回で1セットの撮影を行う撮影方法と、実施例1の1回で4つの振動位相の撮影を行う撮影方法とを比較した。なお、従来の撮影方法と実施例1の撮影方法のそれぞれで2セットずつ(すなわち、従来法では8回、実施例1では2回)撮影し、撮影した結果を平均化した。
図6Aに示す従来技術での撮影方法での結果と、
図6Bに示す実施例1の撮影方法での結果とでは、ほとんど差がなかった。すなわち、実施例1の撮影方法でも、従来の撮影方法と同水準で撮影が可能であることが確認できた。
【0036】
図7は人間の肩の部分の撮影結果の一例の説明図であり、
図7Aは従来の撮影方法での撮影結果、
図7Bは実施例1の撮影方法での撮影結果の説明図である。
図7でも
図6と同様にして撮影を行った。
図7A、
図7Bに示すように、実施例1(
図7B)でも、従来(
図7A)と同水準の撮影結果が得られることが確認された。
【実施例2】
【0037】
図8は実施例2のMR画像を作成する処理の説明図であり、実施例1の
図4に対応する図である。
次に本発明の実施例2の説明をするが、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明は省略する。
この実施例2は下記の点で、前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成される。
【0038】
図8において、実施例2の磁気共鳴撮影装置1では、振動付与制御手段52は、振動板16を制御して、第1周波数の振動66a(
図8の実線参照)と、第2周波数の振動66b(
図8の破線参照)とが重畳された重畳振動を付与する。なお、
図8では、理解の容易のため、2つの振動66a,66bを別個に表記しているが、実際には、2つの振動66a,66bが重畳(合成)された振動を振動板16で発生させる。一例として、第1周波数として75Hzを設定し、第2周波数として100Hzを設定可能であるが、例示した数値に限定されず、測定対象や各機器の使用等に応じて変更可能である。
【0039】
実施例2の傾斜磁場印加手段51dは、第1周波数(75Hz)の1周期を第1の振動位相分解回数の一例としての4回(90°間隔)で分割し、且つ、第2周波数の1周期を第2の振動位相分割回数の一例としての3回(120°間隔)で分割する時期に傾斜磁場61は印加する。したがって、第1周波数の振動66aに対しては1周期の間に4回傾斜磁場61が印加されることとなり、第2周波数の振動66bに対しては1周期の間に3回傾斜磁場61が印加されることとなる。
【0040】
実施例2のMR位相画像の作成手段54cは、電磁波信号の取得時期が隣接する2つの電磁波信号の差分に基づいて、第1周波数の振動に対応するMR位相画像と、第2周波数の振動に対応するMR位相画像とを取得する。
図8を使用して具体的に説明する。
まず、第1周波数の振動66aに対して、振動位相が0°の結果を「a」と表記し、振動位相が90°の結果を「b」、180°の結果を「c」、270°の結果を「d」と表記する。同様に、第2周波数の振動66bに対して、振動位相が0°の結果を「a′」と表記し、振動位相が120°の結果を「b′」、240°の結果を「c′」と表記する。
【0041】
図8において、例えば、第6エコーの電磁波信号から、第5エコーの電磁波信号を減算する(差分を取る)と、第1周波数の振動66aの振動位相0°と第2周波数の振動66bの振動位相120°とが加算された結果が得られる。すなわち、「a+b′」が得られる。そして、第3エコーと第2エコーの差分では、「b-b′」が得られる。同様に、第5エコーと第4エコーの差分から「-b-a′」、第2エコーと第1エコーの差分から「a+a′」が得られる。そして、「a+b′」と「b-b′」を加算することで、「a+b」が得られ、「-b-a′」と「a+a′」を加算することで、「a-b」が得られる。さらに、「a+b」と「a-b」を加算して2で割ることで「a」が得られ、減算して2で割ることで「b」が得られる。同様にして、各振動66a,66bの各位相のMR位相画像を取得する。
【0042】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2の磁気共鳴撮影装置1では、第1周波数の振動66aに対して1周期に4回の傾斜磁場が印加され、第2周波数の振動66bに対して1周期に3回の傾斜磁場が印加されることに相当する。そして、検出された電磁波信号から、第1周波数の振動66aに対して、0°、90°、180°、270°の各振動位相のMR位相画像が取得され、第2周波数の振動66bに対して、0°、120°、240°の各振動位相のMR位相画像が取得される。
従来技術では、各振動位相に対して測定をする必要があり、合計で7回の測定が必要であったのに対し、実施例2では、1回の測定でMRE画像の作成が可能である。したがって、従来技術に比べて、撮影時間を大幅に短くすることができる。
【0043】
また、実施例2では、異なる周波数の振動66a,66bの画像が容易に得られる。したがって、体表から浅い部分は空間分解能が高い高周波数の振動66bの画像から診断を行い、体表から深い部分では貫通力が高い(振動が伝播されやすい)低周波数の振動66aの画像から診断を行うといった使用法も可能である。すなわち、体表から浅い組織と深い組織の同時評価を、1回の測定で行うことが可能である。
なお、体表から、所定値よりも深い部分は低周波数の画像部分を使用し、浅い部分は高周波数の画像部分を使用するというように、2つのMRE画像を1つの画像に合成して表示することも可能である。
【0044】
図9は撮影結果の一例の説明図であり、
図9Aは従来の撮影方法での撮影結果、
図9Bは実施例2の撮影方法での撮影結果の説明図である。
図9A、
図9Bにおいて、各周波数の振動66a,66bに対するMRE画像の結果では、実施例2の方で、辺縁部においてエラー(精度が低い画像)が観測されたが、中央部分ではほぼ同様の結果が得られた。
辺縁部は、人体では皮膚の近傍であり、中央部は体内の奥の部分に相当する。そして、辺縁部については、医師が触診すれば診断が可能な部位であり、表面近傍のMREの結果については実際の診断における必要性が低い。したがって、体内について十分な精度で観測でき、MREの画像としては実用上の問題は少ないことが確認された。
【0045】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)~(H03)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、磁石部2がリング状、いわゆる、トンネル型の磁気共鳴撮影装置を例示したが、これに限定されない。例えば、磁石部2がコの字型、いわゆる、オープン型の磁気共鳴撮影装置にも適用可能である。
(H02)前記実施例において、例示した具体的な数値は、設計や使用等に応じて、任意に変更可能である。
【0046】
図10は変更例の説明図である。
(H03)前記実施例2において、振動周波数は、第1の位相分解回数と第2の位相分解回数として、それぞれ4回と3回を例示したがこれに限定されない。振動の周波数に応じて、変更可能である。例えば、第1周波数が40Hzで第2周波数が90Hzとした場合、第1の位相分解回数を3回、第2の位相分解回数を4回に設定することで、実施例2と同様の撮影が可能となる。また、他にも、振動の周波数が高周波数になると、エコーの間隔が短くなるため、
図10に示すように、傾斜磁場61の印加を間引きするような形でエコーの間隔が短くなりすぎず、且つ、1回の測定で、複数の振動位相の測定を行うように構成することも可能である。
【符号の説明】
【0047】
1…撮影装置、
2…磁場発生装置、
16…振動付与部材、
51d…傾斜磁場の印加手段、
51e…交番磁場の印加手段、
53…受信手段、
54c…MR位相画像の取得手段、
61…傾斜磁場、
66,66a,66b…振動、
66a…第1周波数の振動、
66b…第2周波数の振動、
TE…エコー時間、
TR…繰り返し時間。