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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ディスクブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 66/00 20060101AFI20221004BHJP
   F16D 55/22 20060101ALI20221004BHJP
   F16D 65/18 20060101ALI20221004BHJP
   F16D 121/22 20120101ALN20221004BHJP
   F16D 125/68 20120101ALN20221004BHJP
   F16D 125/70 20120101ALN20221004BHJP
   F16D 125/64 20120101ALN20221004BHJP
【FI】
F16D66/00 Z
F16D55/22 Z
F16D65/18
F16D121:22
F16D125:68
F16D125:70
F16D125:64
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018140467
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020016304
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-06-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000227755
【氏名又は名称】日本アイキャン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】春日 紀重
(72)【発明者】
【氏名】東小川 貴史
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-037186(JP,A)
【文献】実開昭57-139745(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0106222(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
F16D 49/00-71/04
F16D 121/22
F16D 125/64
F16D 125/68
F16D 125/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右方向に回転軸を有するブレーキディスクを、左右方向からブレーキライニングで押圧することで前記ブレーキディスクの回転に制動を掛けるディスクブレーキ装置であって、
下端に前後方向に延長する回転軸を有して立設されているとともに、前記ブレーキライニングが取り付けられてなる左方および右方のブレーキレバーと、
左方と右方の前記ブレーキレバーを互いに近接および離間させるように揺動させるリンク機構と、
左右の前記ブレーキレバーが互いに離間して制動が解除された開状態となるように前記リンク機構を動作させる第1の動力源と、
前記第1の動力源が非動作状態にあるときに、左右の前記ブレーキレバーが互いに近接して制動が掛かる閉状態となるように前記リンク機構を動作させる第2の動力源と、
前記ブレーキレバーの揺動状態を検出する、第1と第2の二つの制動力検出センサーと、
前記制動力検出センサーの出力信号に基づいて制動力に関わる情報を出力する制動力監視装置と、
を備え、
前記リンク機構は、左右の前記ブレーキレバーの上方に左右方向に架け渡されたレバー機構と連結装置とにより構成され、
前記レバー機構は、左右一方の端部に前後方向に延長する回転軸を有して左右一方のブレーキレバーの上端側に軸支されているとともに左右他方のブレーキレバーの上端側に向かって架け渡されてなり、
前記連結装置は、棒状で、左右他方の端部に前後方向に延長する回転軸を有して前記左右他方のブレーキレバーの上端側に軸支されているとともに、左右一方の端部に至る途上に前後に延長する回転軸を有して前記レバー機構の左右一方の端部に軸支されてなり、
前記第1の動力源は、前記レバー機構における左右他方の端部を上昇させることで、前記開状態とし、
前記第2の動力源は、前記レバー機構の所定位置に取り付けられて、前記閉状態を維持するように前記レバー機構を下方に付勢し、
第1の前記制動力検出センサーは、棒状の前記連結装置の表面に接着されて、当該前記連結装置における長さ方向の応力を検出し、
第2の前記制動力検出センサーは、棒状の前記連結装置の表面に接着されて、当該連結装置の軸周りに前記長さ方向と直交する方向の応力を検出し、
前記制動力監視装置は、出力部を備え、前記制動力検出センサーからの信号に基づいて前記出力部に前記情報を出力する、
ことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のディスクブレーキ装置であって、前記連結装置は、棒状の軸方向に回転軸を有するスピンドルと、前後方向に回転軸を有して前記左右他方のブレーキレバーの上端側に軸支されてなる鞘状部材とを備え、
前記スピンドルには、左右他方側の端部に雄ねじが形成され、
前記鞘状部材には、左右他方側の内方に前記スピンドルの雄ねじに対応する雌ねじが形成され
前記制動力検出センサーは、前記鞘状部材の表面に接着されている、
ことを特徴とするディスクブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機などの一般作業機械に使用されるディスクブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキは、制動対象となる駆動体(例えば、車輪、ベルトなど)に連結されて回転するブレーキディスクの表裏両面を摩擦材であるブレーキライニングで狭持することで制動力を発生させる。図1図2にディスクブレーキ装置1の動作説明図を示した。図1図2は、ディスクブレーキ装置1の要部を拡大した図であり、図1は制動状態にあるディスクブレーキ装置1を示しており、図2は制動を解除したときの状態にあるディスクブレーキ装置1を示している。なお、以下では、前後左右の各方向を含む面を水平面とするとともに、ブレーキディスク2の回転軸100が左右方向に向かって延長しているものとする。そして図1図2は、水平面上に載置されたディスクブレーキ装置1を前後方向から見たときの正面図を示している。
【0003】
図1図2に示したように、ブレーキディスク2の左右両側には、上方に延長する一対のブレーキレバー(3L,3R)が互いに対面し、左右のブレーキレバー(3L,3R)のそれぞれの延長途上のブレーキディスク2側にはブレーキシュー4を介してブレーキライニング(5L,5R)が取り付けられている。そして、左右のブレーキレバー(3L,3R)は、下端に前後方向の回転軸(31L,31R)を有し、上端側に接続されているリンク機構(図示せず)を介して互いに連動するように左右に揺動する。またリンク機構は、所定の動力源により駆動されるように構成されている。
【0004】
図1に示したように、ディスクブレーキ装置1は、制動時には左右のブレーキレバー(3L,3R)が互いに近接する方向に揺動してブレーキライニング(5L,5R)がブレーキディスク2を狭持して閉状態となる。制動状態が解除されると、図2に示したように、左右のブレーキレバー(3L,3R)が互いに離間する方向に揺動して、ブレーキディスク2とブレーキライニング(5L,5R)との間に間隙が生じ、開状態となる。
【0005】
なお、以下の特許文献1には、ディスクブレーキ装置におけるリンク機構について記載されている。特許文献1に記載のディスクブレーキ装置では、スラスターとスプリングとを動力源としたリンク機構を備え、スプリングによって閉状態が維持され、開状態にする際にスラスターを作動させるように構成されている。そして、本発明の実施例に係るディスクブレーキ装置のリンク機構の基本的な構成や構造は、この特許文献1に記載のディスクブレーキ装置のものと類似している。また、特許文献1に記載のディスクブレーキ装置と実質的に同等のディスクブレーキ装置は、以下の非特許文献1にも記載されているように、製品として提供されている。そして、以下の非特許文献2や3には、本発明に関連する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-37186号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】GAUS INDUSTRIAL SYSTEMS CO.LTD、”IB30 & IB31 series”、[online]、[平成30年6月11日検索]、インターネット<URL:http://www.egaius.co.kr/sinye_Shopping_sangpum/1264998848-7.pdf>
【文献】株式会社 共和電業、” ひずみゲージの原理、種類、構造”、[online]、[平成30年6月11日検索]、インターネット<URL:http://www.kyowa-ei.com/jpn/technical/strain_gages/principles.html>
【文献】株式会社東京測器研究所、”ひずみゲージとは”、[online]、[平成30年6月11日検索]、インターネット<URL:http://www.tml.jp/product/strain_gauge/about/index.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ディスクブレーキ装置は、制動時に確実にブレーキディスクを停止させることが要求される。そのためには、制動時に、ブレーキライニングが所定の制動力でブレーキディスクを狭持していることが必要となる。ディスクブレーキ装置に求められる制動力は、図2において、ブレーキレバー(3L、3R)に対して網掛けの矢印で示した方向に働く力F(N)、あるいはこの力Fに、力Fの作用点とブレーキレバーの回転軸までの距離Dを乗じたトルク(N・m)である。
【0009】
周知のごとく、制動力は、制動時にリンク機構に作用する動力源(例えば、スプリング)からの力と、ディスクブレーキ装置におけるリンク機構を構成する各種部材やブレーキレバーの寸法、各種部材やディスクブレーキ装置における回転軸の座標などに基づいて計算することができる。そして、ディスクブレーキ装置は、ブレーキディスクに掛かる負荷に応じて適切に設計されている。したがって、ディスクブレーキ装置は、設計通りに動作すれば、目的の制動力を発生させることができる。そして、ディスクブレーキ装置は、普通、メーカー側で、設計通りの制動力が得られていることを、測定器を用いて確認した上で出荷される。
【0010】
しかし、ディスクブレーキ装置は、継続的な使用に伴い、制動のための動力源の力が経時変化し、出荷当初の制動力が得られなくなる場合もあり得る。何らかの原因で左右のブレーキレバーの揺動運動が阻害され、閉状態にならない場合もある。そこで、ディスクブレーキ装置に、制動力を常時監視するための何らかのセンサーを設けることが考えられる。ところが、ディスクブレーキ装置のブレーキレバーに掛かる制動力は極めて高く、例えば、非特許文献1に記載のディスクブレーキ装置「IB30-315」では、図2に網点の矢印で示した力Fが82100Nにも及ぶ。そして、このような過大な制動力を常時監視できるセンサーは極めて高価なものとなり、ディスクブレーキ装置を安価に提供することが難しくなる。また、過大な制動力をより精密に検出することも難しい。
【0011】
そこで、本発明は、高い精度で制動力を常時監視できる機能を備えたディスクブレーキ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、左右方向に回転軸を有するブレーキディスクを、左右方向からブレーキライニングで押圧することで前記ブレーキディスクの回転に制動を掛けるディスクブレーキ装置であって、
下端に前後方向に延長する回転軸を有して立設されているとともに、前記ブレーキライニングが取り付けられてなる左方および右方のブレーキレバーと、
左方と右方の前記ブレーキレバーを互いに近接および離間させるように揺動させるリンク機構と、
左右の前記ブレーキレバーが互いに離間して制動が解除された開状態となるように前記リンク機構を動作させる第1の動力源と、
前記第1の動力源が非動作状態にあるときに、左右の前記ブレーキレバーが互いに近接して制動が掛かる閉状態となるように前記リンク機構を動作させる第2の動力源と、
前記ブレーキレバーの揺動状態を検出する、第1と第2の二つの制動力検出センサーと、
前記制動力検出センサーの出力信号に基づいて制動力に関わる情報を出力する制動力監視装置と、
を備え、
前記リンク機構は、左右の前記ブレーキレバーの上方に左右方向に架け渡されたレバー機構と連結装置とにより構成され、
前記レバー機構は、左右一方の端部に前後方向に延長する回転軸を有して左右一方のブレーキレバーの上端側に軸支されているとともに左右他方のブレーキレバーの上端側に向かって架け渡されてなり、
前記連結装置は、棒状で、左右他方の端部に前後方向に延長する回転軸を有して前記左右他方のブレーキレバーの上端側に軸支されているとともに、左右一方の端部に至る途上に前後に延長する回転軸を有して前記レバー機構の左右一方の端部に軸支されてなり、
前記第1の動力源は、前記レバー機構における左右他方の端部を上昇させることで、前記開状態とし、
前記第2の動力源は、前記レバー機構の所定位置に取り付けられて、前記閉状態を維持するように前記レバー機構を下方に付勢し、
第1の前記制動力検出センサーは、棒状の前記連結装置の表面に接着されて、当該前記連結装置における長さ方向の応力を検出し、
第2の前記制動力検出センサーは、棒状の前記連結装置の表面に接着されて、当該連結装置の軸周りに前記長さ方向と直交する方向の応力を検出し、
前記制動力監視装置は、出力部を備え、前記制動力検出センサーからの信号に基づいて前記出力部に前記情報を出力する、
ことを特徴とするディスクブレーキ装置としている。
【0013】
前記連結装置は、棒状の軸方向に回転軸を有するスピンドルと、前後方向に回転軸を有して前記左右他方のブレーキレバーの上端側に軸支されてなる鞘状部材とを備え、
前記スピンドルには、左右他方側の端部に雄ねじが形成され、
前記鞘状部材には、左右他方側の内方に前記スピンドルの雄ねじに対応する雌ねじが形成され
前記制動力検出センサーは、前記鞘状部材の表面に接着されているディスクブレーキ装置とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、高い精度で制動力を常時監視できる機能を備えたディスクブレーキ装置が提供される。なお、その他の効果については以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ディスクブレーキ装置の基本的な構造と動作を示す図である。
図2】ディスクブレーキ装置の基本的な構造と動作を示す図である。
図3】本発明の実施例に係るディスクブレーキ装置の機械的な構成を示す図である。
図4】本発明の実施例に係るディスクブレーキ装置の機械的な構成を示す図である。
図5】上記実施例に係るディスクブレーキ装置の動作を示す図である。
図6】上記実施例に係るディスクブレーキ装置を構成する連結装置の構造を示す図である。
図7】上記実施例に係るディスクブレーキ装置が備える制動力検出機能の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面においても、同一または類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
【0017】
===実施例===
本発明の実施例に係るディスクブレーキ装置は、ブレーキレバーに掛かる制動力を直接検出することなく、ブブレーキレバーの制動力を精度良く常時監視できる制動力検出機能を備えている。図3図4は、本発明の実施例に係るディスクブレーキ装置101の機械的な構成を示す図であり、それぞれ、ディスクブレーキ装置101を異なる方向から見たときの斜視図である。なお、以下に示す各図では、図1図2と同様に、上下、左右、前後の各方向を規定している。
【0018】
図3図4に示したように、ディスクブレーキ装置101は、ブレーキレバー(3L,3R)を含む各種装置や機構が、ベースプレート6上の適所に固定された各種ブラケットを介して取り付けられている。そして、二つのブレーキレバー(3L,3R)は、前後に対面する同形の二つのプレート状の部材からなり、二つのプレート状部材が前後方向に延長するボルト32を介して連結されている。そしてそれぞれのブレーキレバー(3L,3R)の下端が、共通のブラケット61に設けられた個別の回転軸(31L,31R)を介して取り付けられている。そして、ブレーキレバー(3L,3R)の上端側には左右のブレーキレバー(3L,3R)を互いに近接、離間させるように揺動させるリンク機構10が配置されている。
【0019】
図示したディスクブレーキ装置101におけるリンク機構10は、上下左右方向に面を有するプレート状の4本のレバー部材(11a,11b,12a,12b)と、左右方向に斜めに延長する棒状の連結装置20とから構成されている。4本のプレート状のレバー部材(11a,11b,12a,12b)は、前後方向に貫通するボルト13によって互いに固定されて一体的に動作する。また4本のレバー部材(11a,11b,12a,12b)には、前後方向で対面しつつ左右のブレーキレバー(3L,3R)の上方に掛け渡されている二つ一組のレバー部材(11a、11b)で構成されるベントレバー11と、前後方向で対面しつつベントレバー11よりも左右方向の長さが短い二つ一組のレバー部材(12a,12b)で構成されるショートレバー12とが含まれている。
【0020】
ここで、図中にも示したように、ショートレバー12が右方のブレーキレバー3Rに取り付けられていることとして、左右の各方向を規定するとともに、ベントレバー11の前方にショートレバー12が配置されていることとして、前後の各方向を規定すると、ショートレバー12は、ベントレバー11に対して下方に突出する形状を有している。したがって、4本のレバー部材(11a,11b,12a,12b)は、一体的な構成として見ると、右端が下方に屈曲するL字型となるように形成されている。そして、ショートレバー12を構成するレバー部材(以下、ショートレバー部材(12a,12b)とも言う)は、前後に対面して右方のブレーキレバー3Rを構成する二つのプレート状の部材間に配置され、さらに、ベントレバー11よりも下方にある領域にて、当該右方のブレーキレバー3Rの上端側の回転軸33に回動可能に軸支されている。
【0021】
また二つのショートレバー部材(12a,12b)の間から、ベントレバー11およびショートレバー12とともにリンク機構を構成する棒状の連結装置20が左斜め上方に向かって延長している。連結装置20の左右両端には、矩形箱状の部材の前端面および後端面のそれぞれに、前後方向の回転軸を有するクロスピース(21,22)が取り付けられている。図中に示したクロスピース(21,22)は、矩形箱状の部材の前後両端に回転軸(23,24)となる円筒状の軸が突出するように一体的に形成された形状を有している。図3に示したように、左端側のクロスピース21は、左方のブレーキレバー3Lを構成する二つのプレート状の部材間に配置され、回転軸23が、左方のブレーキレバー3Lの上端側に形成された軸孔に回動自在に挿入されている。また、図4に示したように、右端側のクロスピース22の回転軸24は、二つのショートレバー部材(12a,12b)のそれぞれに形成された軸孔に回動自在に挿入されている。
【0022】
なお、右端側のクロスピース22の回転軸24の位置は、右方のブレーキレバー3Rにおいてショートレバー12を軸支する回転軸33よりも下方にある。また左方のブレーキレバー3Lにおいて連結装置20の左端のクロスピース21の回転軸23と、右方のブレーキレバー3Rにおいてショートレバー12を軸支する回転軸33とは、上下方向の位置が同じである。そして左右のブレーキレバー(3L,3R)は、上記構成を備えたリンク機構10に連動することで互いに近接あるいは離間するように揺動する。概略的には、ベントレバー11の左端側が所定の動力源によって昇降することで、左右のブレーキレバー(3L,3R)が互いに離間および近接するように揺動する。図示したディスクブレーキ装置101では、リンク機構10を動作させてブレーキディスク2の制動状態を解除するための動力源として、ベントレバー11の左端側を上昇させるスラスター40と、スラスター40の非動作時に閉状態を維持するためのスプリング機構50とを備えている。
【0023】
スラスター40は電動アクチュエーターなどによって構成され、スラスター40を動作させると、上下方向に延長するロッド41が上方に繰り出されるように構成されている。なお、スラスター40は、下端に前後方向に延長する回転軸42を有し、図4に示したように、ベースプレート6上の左後方に設けられたブラケット62に回動自在に取り付けられている。そして、リンク機構10の動作に伴う若干の左右方向への揺動が許容されている。
【0024】
ロッド41の上端には、前後方向に回転軸を有するヘッド43が形成され、そのヘッド43が、ベントレバー11を構成する二つのレバー部材(以下、ベントレバー部材(11a,11b)とも言う)の間に配置されている。そして、当該ヘッド43の回転軸44は、ベントレバー11の左端側に軸支されている。なお、ヘッド43をベントレバー11に対して回動自在に軸支するための構成としては、上述したクロスピースなどを用いるなど、適宜な回転機構を採用することができる。
【0025】
スプリング機構50は、上下方向を筒軸とした中空角筒状のケース(以下、スプリングケース51とも言う)内に、上下方向に螺旋軸を有するスプリングと、ロッド52とが収納されている。また、ロッド52の上端は、スプリングケース51から突出し、クロスピース53に接続されている。クロスピース53は、前後方向に回転軸54を有して二つのベントレバー部材(11a,11b)間に配置された状態で、ベントレバー11に軸支されている。そして、スプリングケース51内に収納されているスプリングは、ロッド52およびクロスピース53を介してベントレバー11を常時下方に付勢している。なお、スプリングケース51は、図4に示したように、下端に前後方向の回転軸54を有し、当該回転軸54が、ベースプレート6上の後方、左右中央近傍に設けられたブラケット63に軸支されている。それによって、スプリング機構50は、スラスター40と同様に、リンク機構10への作用に伴って若干左右方向に揺動する。
【0026】
次に、リンク機構10を介したブレーキレバー(3L,3R)の動作について説明する。図5にディスクブレーキ装置101を前方から見たときの正面図を示した。ディスクブレーキ装置101は、ベントレバー11の左端側を上方および下方に移動させることで、左右のブレーキレバー(3L,3R)が互いに離間および近接するように揺動するように構成されている。具体的には、図3において黒塗りの矢印で示したように、スラスター40を動作させると、ベントレバー11の左端がスプリング機構50による下方への付勢力に抗し上昇する(s1)。ベントレバー11の左端が上昇すると、右方のブレーキレバー3Rに軸支されているショートレバー12の回転軸33を支点として、ベントレバー11とショートレバー12が一体的に時計回りに回動する(s2)。
【0027】
また、連結装置20の右端がショートレバー12の回転軸33よりも下方の位置にて軸支されているため、連結装置は、ベントレバー11とショートレバー12の回動に伴って左方に押し出される(s3)。連結装置20の左端は、左方のブレーキレバー3Lの上端に軸支されているため、左方のブレーキレバー3Lの上端が左方に付勢される(s4)。その結果、右方のブレーキレバー3Rも反力を受けて右方に揺動する。すなわち、ブレーキレバー(3L,3R)が相互に離間する方向に揺動し(s5)、ディスクブレーキ装置101は、制動状態が解除された開状態となる。
【0028】
一方、スラスター40の電源を切るなどして当該スラスターを非動作状態にすると、図中白塗りの矢印で示したように、スプリング機構50のロッドの上端に接続されているベントレバー11が下方に付勢され(s11)、スラスター40のロッド41が下降し(s12)、ショートレバー12の回転軸33を支点としてベントレバー11とショートレバー12が一体的に反時計回りに回動する(s13)。そして、これらのレバー(11,12)の回動に伴って連結装置20の右端が右方に押し出され(s14)、連結装置20の左端を軸支する左方のブレーキレバー3Lの上端が右方に付勢される(s15)。その結果、左右のブレーキレバー(3L,3R)が相互に近接する方向に揺動し(s16)ブレーキレバー(3L,3R)にブレーキシュー4を介して取り付けられているブレーキライニング(5L,5R)によって、ブレーキディスク2が狭持され、ディスクブレーキ装置101が閉状態となる。
【0029】
このように、実施例に係るディスクブレーキ装置101では、スラスター40とスプリング機構50とがベントレバー11とショートレバー12とからなるレバー機構を揺動させ、その揺動運動を、連結装置20を介してブレーキレバー(3L,3R)の揺動運動に変換させている。連結装置20は、左右のブレーキレバー(3L,3R)の上端側に架け渡され、制動時には全長が伸張する方向に応力が掛かる。すなわち、ブレーキレバー(3L,3R)に作用する制動力が、連結装置20を伸張させる応力を発生させる。したがって、連結装置20に掛かる応力は、制動力を反映したものとなる。例えば、実施例に係るディスクブレーキ装置101が、上記非特許文献1に記載の「IB30-315型」である場合、制動時に、ブレーキレバー(3L,3R)がブレーキシュー4を介してブレーキライニング(5L,5R)をブレーキディスク2に押し当てる力F1は、上述したように82100Nであるが、連結装置20を伸長させる応力F2は、計算上21290Nとなる。そして、実測の結果、上記力F1とF2とは明確な比例関係にあることが確認できた。そこで、本実施例のディスクブレーキ装置101では、連結装置20に制動力検出センサーが設置されている。以下に、本実施例のディスクブレーキ装置101における連結装置20の構造、制動力検出センサーの構成、および連結装置の構造に基づく制動力検出センサーの設置方法などについて説明する。
【0030】
===連結装置===
上記リンク機構10を備えたディスクブレーキ装置1では、ブレーキライニング(5L,5R)が摩耗していくのにしたがって閉状態における左右のブレーキレバー(3L,3R)の距離が徐々に短くなっていき、制動時に、図5に示した左右のブレーキレバー(3L,3R)の狭角αが徐々に小さくなっていく。すなわち、制動時におけるベントレバー11の左端が徐々に下方に下がっていく。そして、摩耗が進んで、スラスター40のロッド41が下死点まで下降してしまうと、それ以降は、左右のブレーキレバー(3L,3R)の挟角αを小さくすることができない。そのため、ブレーキライニング(5L,5R)によって回転するブレーキディスク2を狭持した際の摩擦力が低下し、ブレーキディスク2を確実に制動できなくなる可能性がある。そこで、実施例に係るディスクブレーキ装置1では、連結装置20の全長が調整できるようになっている。
【0031】
図6に連結装置20の概略構造を示した。図6は、棒状の連結装置20を、軸126に対して直交する方向から見たときの図であり、図5におけるa-a矢視方向に相当する。また、図示した連結装置20の一部については、構造が容易に理解できるように、軸126を含む面で切断したときの断面で示した。なお、断面は、図5におけるb-b矢視断面に相当し、断面をハッチングで示した。ここで、左方から右方に向かって斜め下方に延長する連結装置20および、連結装置20を構成する各部材について、右方の端部を基端、左方の端部を先端とすると、連結装置20は、先端側の周囲側面に雄ねじ121が形成されたスピンドル120を備え、スピンドル120の先端側の雄ねじ121が、当該スピンドル120の先端側に配置された鞘状部材(以下、スレッドスリーブ122とも言う)の内面に形成された雌ねじ123に螺合されている。それによってスピンドル120の先端側がスレッドスリーブ122の基端側に挿入されている。
【0032】
スレッドスリーブ122には、前後方向に突出するクロスピース21が取り付けられ、連結装置20の先端側は、当該クロスピース21を介して左方のブレーキレバー3Lの上端に軸支されている。なおこの例では、スレッドスリーブ122の基端側には、中空円筒状の鞘状部材(以下、プロテクトスリーブ124とも言う)が接続され、スピンドル120の長さ方向の中間部分が、このプロテクトスリーブ124によって支持されている。
【0033】
スピンドル120は、スレッドスリーブ122に挿入されている先端側から、プロテクトスリーブ124の中空部を経由して右斜め下方に向かって延長して基端に至る。スピンドル120は、その基端側が、先の二つのスリーブ(122,124)とは別の鞘状部材(以下、スラストスリーブ125とも言う)に挿通されている。
【0034】
スラストスリーブ125は、スピンドル120の頭部と、スピンドル基端側から突出して当該頭部によって、基端側にはスレッドスリーブ122に取り付けられているクロスピース21と同様のクロスピース22が接続されている。そのクロスピース22は、ショートレバー12に軸支されている。また、スピンドル120には、基端に、拡径された頭部127が形成されているとともに、基端から先端に至る途上にリング状の部材128が固定されている。そして、スラストスリーブ125は、スピンドル120の頭部127と、当該リング状の部材128とにより、スピンドル120に対する軸126方向の相対移動が規制され、スピンドル120と一体的に軸126方向に移動する。
【0035】
上記構成の連結装置20において、スピンドル120がスレッドスリーブ122にねじ込まれると、連結装置20における先端と基端側のそれぞれのクロスピース(21,22)の回転軸間(23-24)の距離(以下、全長Dとも言う)が短縮する。連結装置20の全長Dが短縮すれば、開状態において、図5に示した左右のブレーキレバー(3L,3R)の狭角αが狭まり、閉状態においてブレーキディスク2に掛かる制動力は、ブレーキライニング(5L,5R)が摩耗する前と同様に維持される。なお、上記特許文献1に記載されたディスクブレーキ装置では、ブレーキライニング(5L,5R)の摩耗に応じて連結装置20の全長Dを自動的に調整するAWA(Automatic Wear Adjustment device)と称される機構を備えている。
【0036】
===制動力検出機能===
<制動力検出センサー>
実施例に係るディスクブレーキ装置101では、制動力検出センサーとして上記非特許文献1や2に記載されたひずみゲージを用いている。周知のごとく、ひずみゲージは、葛籠折れ状の導体パターンの幅が応力によって細くなったり、太くなったりすることに起因する導体の抵抗変化に基づいてひずみを検出するセンサーである。そして、ディスクブレーキ装置101には、ひずみゲージにおける微少な抵抗変化に基づいて制動力に関する情報を音声や表示により出力するための制動力監視装置を備えている。
【0037】
実施例に係るディスクブレーキ装置101では、ひずみゲージが、図6に示した連結装置20のスレッドスリーブ122の表面に接着されている。具体的には、連結装置20は、軸周りに回転するスピンドル120を備えているため、スピンドル120にひずみゲージを取り付けると、スピンドル120の回転に伴って連結装置20におけるひずみゲージの相対的な位置が変化し、応力の発生状態が変化してしまう。そこで、実施例に係るディスクブレーキ装置101では、制動時にスピンドル120から伸張方向の応力を受けるスレッドスリーブ122に制動力検出センサーが設置されている。すなわち、スレッドスリーブ122は、連結装置20の軸126周りに回転することがないため、伸縮方向の応力を安定して検出することができる。
【0038】
<制動力監視装置>
制動力監視装置は、ひずみゲージをセンサーとした専用の測定装置であり、製品として提供されているものを使用することができる。図7に制動力監視装置200の機能ブロック構成の一例を示した。制動力監視装置200は、概略的には、ひずみゲージ201の抵抗変化を電圧に変換するためのホイートストーンブリッジ回路202、ホイートストーンブリッジ回路202に供給する電源203、ホイートストーンブリッジ回路202にて変換された電圧信号を増幅するアンプ部204、アンプ部204から出力されるアナログ信号をデジタル信号(以下、ひずみデータとも言う)に変換するADコンバーター(ADC)205、CPUやメモリーを含んで構成される制御部206、キーボードや各種操作ボタンなどの入力装置207、入力装置207に入力された操作情報を制御部206に転送する入力インターフェイス部(入力IF)208、ディスプレイやスピーカーなどを含む出力装置209、音声信号やディスプレイの表示画面の起源となる画像データ生成し、音声や画像を出力装置209に出力させる出力インターフェイス部(出力IF)210などを含んで構成されている。そして、制御部206は、メモリーに記憶されたデータ(例えば、ブレーキレバー(3L,3R)に掛かる制動力と、ひずみデータとの対応関係など)、入力インターフェイス部208を介して入力した入力装置207に対する操作入力情報、およびADコンバーター205からのひずみデータを、実装されたプログラムに従って処理し、制動力に関わるデータを生成する。そして、そのデータを出力インターフェイス部210に転送する。出力インターフェイス部210は制御部206から入力されたデータに基づいて、制動力に関わる各種情報を出力装置209に出力させる。
【0039】
出力装置209が出力する情報としては、制動力の数値であってもよいし、制動力の異常あるいは正常を示す画像であってもよい。制御部206のメモリーに正常とされる制動力の数値範囲を記憶させておけば、制動力に異常が検出された時点で、警報音や警告表示を出力装置209から出力させることもできる。
【0040】
なお、制動力監視装置200は、上述したように、専用の測定装置で構成することができるが、ひずみゲージ201を上流とした信号の流れにおいて、ADコンバーター205より下流の構成(206~210)を、汎用的なパーソナルコンピュータ(PC)で構成することもできる。いずれにしても、ディスクブレーキ装置101は、ひずみゲージ201と、ひずみゲージ201の抵抗変化を可視化、あるいは可聴化された情報として出力される構成を備えていればよい。
【0041】
====その他の実施例====
上記実施例では、ひずみゲージ201を、連結装置のスレッドスリーブの表面に接着していたが、例えば、スラスター40のロッド41のストロークが十分にあり、連結装置20に全長を調整するスピンドル120などの機構が無い場合では、連結装置20の任意の場所にひずみゲージ201を接着することができる。
【0042】
上記実施例では、ひずみゲージ201を制動力検出センサーとして用いていたが、連結装置20を軸126方向に伸縮させる応力を検出できるセンサーであれば、例えば、圧電素子を制動力検出センサーとして用いることができる。
【0043】
上記実施例では、左右のブレーキレバー(3L,3R)を開状態にするための動力源として電動アクチュエーターで構成されるスラスターを用いていたが、もちろん、ベントレバー11の左端を上昇させるように動作するのであれば、動力源はどのようなものでもよい。左右のブレーキレバー(3L,3R)を閉状態にするための動力源についてもスプリング機構50に限らない。
【0044】
連結装置20に掛かる応力は、ブレーキレバー(3L,3R)の揺動状態を反映している。そこで、連結装置20が伸縮する方向と、軸126周りに捻れる方向とに対応して、互いに直交する方向のひずみを検出するように二つの制動力検出センサーを設置してもよい。それによって、ブレーキレバー(3L,3R)が上下左右方向の面内で正常に揺動せず、前後方向に振動するなど、異常な揺動状態を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0045】
1,101 ディスクブレーキ装置、2 ブレーキディスク、
3L,3R ブレーキレバー、4 ブレーキシュー、5L,5R ブレーキライニング、6 ベースプレート、10 リンク機構、11 ベントレバー、
11a,11b ベントレバー部材、12、ショートレバー、
12a,12b ショートレバー部材、20 連結装置、
21,22 連結装置のクロスピース、40 スラスター、50 スプリング機構、
120 スピンドル、200 制動力監視装置、
201 制動力検出センサー(ひずみゲージ)、206 制御部、209 出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7