(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】心筋分化促進剤、心筋分化促進方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/711 20060101AFI20221004BHJP
A61P 9/04 20060101ALI20221004BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61K31/711 ZNA
A61P9/04
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2018142473
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼谷 智英
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/151225(WO,A1)
【文献】特開2013-252093(JP,A)
【文献】特開2017-007989(JP,A)
【文献】BMC Immunology,2017年,18: 44,pp. 1-9, Additional files 1-3,Figures S1-S3
【文献】公益社団法人日本農芸化学会中部支部第180回例会講演要旨集,2017年,p. 27,P45-P46
【文献】日本畜産学会第123回大会,2017年,VII06-10
【文献】日本畜産学会第122回大会,2017年,VI29-23
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7088-31/713
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、及び多能性幹細胞に由来する幹細胞からなる群より選択される少なくとも一種に対して適用することにより心筋への分化を促進する活性を有するオリゴDNAを含む心筋分化促進剤であって、前記オリゴDNAが配列番号4で表される塩基配列からなる、
心筋分化促進剤:
配列番号4:5’AGATTAGGGTGAGGGTGA3’。
【請求項2】
哺乳類由来の多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、及び多能性幹細胞に由来する幹細胞からなる群より選択される少なくとも一種に対して適用するための請求項1に記載の心筋分化促進剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の心筋分化促進剤を使用する心筋分化促進方法(ただし、ヒトの生体に対し心筋分化促進剤を投与する方法を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心筋分化促進剤、心筋分化促進方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
わが国の心不全の患者数は約30万人にのぼる。心不全患者のうち、特に重症心不全に対する根本的治療法は、心臓移植及び人工心臓治療があるものの、ドナーの不足、人工心臓の耐久性等が問題となっている。かかる状況の下、心筋再生治療法の開発が熱望されている。心筋再生治療法の開発には、細胞の心筋への分化誘導技術が必要となる。
【0003】
多能性幹細胞から心筋細胞への分化誘導に関する研究としては、例えば、マウスES細胞、霊長類ES細胞、マウスiPS細胞に、ヒストン脱アセチル化阻害剤であるトリコスタチンAを投与することで、これら多能性幹細胞の心筋分化を誘導できることが見出されている(非特許文献1-3)。
【0004】
しかし、ヒストン脱アセチル化酵素は全ての細胞に存在しており、その阻害剤であるトリコスタチンAには神経幹細胞から神経細胞への分化を促進し星状細胞(アストロサイト)への分化を抑制する効果も報告されている(非特許文献4)。また、トリコスタチンAには抗腫瘍作用が認められているが、その作用機序の一端はトリコスタチンAが細胞周期を阻害することにあり、そのため、トリコスタチンを一定以上の濃度で投与すると正常な細胞に対して毒性を発揮することも広く知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kawamura T, Ono K, Morimoto T, Wada H, Hirai M, Hidaka K, Morisaki T, Heike T, Nakahata T, Kita T, Hasegawa K. Acetylation of GATA-4 is involved in the differentiation of embryonic stem cells into cardiac myocytes. J Biol Chem. 2005; 280: 19682-19688. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15764815)
【文献】Hosseinkhani M, Hasegawa K, Ono K, Kawamura T, Takaya T, Morimoto T, Wada H, Shimatsu A, Prat SG, Suemori H, Nakatsuji N, Kita T. Trichostatin A induces myocardial differentiation of monkey ES cells. Biochem Biophys Res Commun. 2007; 356: 386-391. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17368572)
【文献】Kaichi S, Hasegawa K, Takaya T, Yokoo N, Mima T, Kawamura T, Morimoto T, Ono K, Baba S, Doi H, Yamanaka S, Nakahata T, Heike T. Cell line-dependent differentiation of induced pluripotent stem cells into cardiomyocytes in mice. Cardiovasc Res. 2010; 88: 314-323. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20547733)
【文献】Balasubramaniyan V, Boddeke E, Bakels R, Ku¨st B, Kooistra S, Veneman A, Copray S. Effects of histone deacetylation inhibition on neuronal differentiation of embryonic mouse neural stem cells. Neuroscience. 2006; 143: 939-951. (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17084985)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決すべき課題は、新たな心筋分化促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、新たな知見を見出すに至った。
具体的には、典型的な実施形態において、本発明は、以下の項を提供する
項1.多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、及び多能性幹細胞に由来する幹細胞からなる群より選択される少なくとも一種に対して適用することにより心筋への分化を促進する活性を有するオリゴDNAを含む心筋分化促進剤。
【0008】
項2.ベルベリンもしくはその類縁体化合物又はその塩をさらに含む項1に記載の心筋分化促進剤。
【0009】
項3.前記オリゴDNAは、5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列が2以上連結している、項1又は2記載の心筋分化促進剤。
【0010】
項4.前記オリゴDNAは、5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列に5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を連結して含む項3記載の心筋分化促進剤。
【0011】
項5.前記オリゴDNAは、塩基配列5’TTAGGGTGAGGG3’を含む項4記載の心筋分化促進剤。
【0012】
項6.前記オリゴDNAは、5’TTAGGG3’ 又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含み、5’末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有する項1記載の心筋分化促進剤。
【0013】
項7.哺乳類由来の細胞に対して適用するための項1から6のいずれか1項に記載の心筋分化促進剤。
【0014】
項8.前記オリゴDNAは5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列を含む項2記載の心筋分化促進剤。
【0015】
項9.5’末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有した項8記載の心筋分化促進剤。
【0016】
項10.前記オリゴDNAと前記ベルベリンもしくはその類縁体化合物又はその塩のモル比は1:10~10:1である、項2記載の心筋分化促進剤。
【0017】
項11.項1から10のいずれかの1項に記載の心筋分化促進剤を使用する心筋分化促進方法。
【0018】
項12.5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含み、5’末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有する心筋分化を促進する活性を有するオリゴDNA。
【0019】
項13.5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列が2以上連結している項14記載のオリゴDNA。
【0020】
項14.5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列に5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を連結して含む項13記載のオリゴDNA。
【0021】
項15.塩基配列5’TTAGGGTGAGGG3’を含む項14記載のオリゴDNA。
【0022】
項16.細胞又は個体に対して適用することにより心筋分化を促進する活性を有し、塩基長が6から25のいずれかであるオリゴDNA。
【0023】
項17.前記塩基長が9から18のいずれかである項16記載のオリゴDNA。
【0024】
項18.前記塩基長が18である項16記載のオリゴDNA。
【0025】
項19.5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含み、5’末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有した項16記載のオリゴDNA。
【0026】
項20.5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列が2以上連結したことを特徴とする項19記載のオリゴDNA。
【0027】
項21.塩基配列5’TTAGGGTGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含み、かつ前記塩基長が17から23である多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、及び多能性幹細胞に由来する幹細胞からなる群より選択される少なくとも一種の心筋への分化を促進する活性を有するオリゴDNA。
【0028】
項22.オリゴDNAによる心筋分化促進を増強するための増強剤であって、ベルベリンもしくはその類縁化合物又はその塩を含む増強剤。
【0029】
項23.前記オリゴDNAは5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列を含む項22記載の増強剤。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、心筋分化を強力に促進することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】参考例1におけるMHC陽性細胞出現結果を示すグラフ
【
図2】参考例1におけるオリゴDNAのMHC陽性細胞出現結果を示すグラフ
【
図3】参考例2におけるオリゴDNA濃度とMHC陽性細胞出現の関係を示すグラフ
【
図4】参考例2におけるオリゴDNAの熱変性の影響を示すグラフ
【
図5】参考例3におけるヒト横紋筋肉腫の増殖抑制効果を示すグラフ
【
図6】参考例4におけるオリゴDNA変異型のMHC陽性細胞の出現を示すグラフ
【
図7】参考例5におけるマウス筋芽細胞に対する特異的効果を示すグラフ
【
図8】参考例6におけるベルベリン又は類縁体化合物併用の効果を示すグラフ
【
図9】参考例7におけるベルベリンによるオリゴDNA変異型の筋分化促進作用の増強効果を示すグラフ
【
図10】参考例8におけるニワトリ筋芽細胞におけるベルベリン又は類縁体化合物によるオリゴDNAの筋分化促進作用の増強効果を示すグラフ
【
図11】参考例9におけるヒト横紋筋肉腫細胞の種類に起因する効果の差を示すグラフ
【
図12】参考例9におけるオリゴDNAとベルベリンのヒト横紋筋肉腫細胞増殖抑制効果を示すグラフ
【
図13】参考例と本実施例との違いを説明するための図面
【
図14】本発明の実施例1における分化誘導8日目(myoDN曝露3日目)のES細胞の顕微鏡画像
【
図15】本発明の実施例2における分化誘導11日目(myoDN曝露6日後)のiPS細胞の顕微鏡画像
【
図16】本発明の実施例2における自律的拍動の測定結果
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一態様に係る心筋分化促進剤は、細胞又は個体に対して適用することにより心筋分化を促進する活性を有するオリゴDNAを含む。本発明において、「心筋分化を促進する活性を有する」とは、本発明の属する分野における技術常識を参酌して適宜解釈し得るが、一般的には、対照群と比較して、転写因子Nkx2―5など心筋細胞あるいは心筋前駆細胞で特異的に発現する遺伝子を発現する細胞や、自律的に拍動する心筋細胞あるいはそのクラスターが出現する数ないし割合を増加させる、あるいは出現時期を早める性質を指す。
【0033】
前記心筋分化促進剤において前記オリゴDNAは5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含んでいてもよい。本発明において、「5’XXXXXX3’又は5’YYYYYY3’を含む」には、5’XXXXXX3’及び5’YYYYYY3’の一方のみを含む場合と、これらの両方を含む場合とを包含する。本発明にかかるオリゴDNAがコア塩基配列を含む実施形態においては、当該オリゴDNAは、5’末端側に、塩基配列GAA、塩基配列AGA、塩基配列AAG又は塩基配列AAA;好ましくは塩基配列AGA、塩基配列AAG又は塩基配列AAA;より好ましくは塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有してもよい。かかる実施形態において、「5’末端側に塩基配列XXXを有する」とは、コア塩基配列よりも5’末端側に塩基配列XXXを有することを意味し、オリゴDNAの5’末端に塩基配列XXXを有する場合だけでなく、塩基配列XXXのさらに5’末端に塩基配列(例えば、A及びGからなる群より選択される少なくとも1個(例えば、1~5個、好ましくは1~3個)からなる塩基配列)を有する場合も包含される。また、当該実施形態において、上記塩基配列(塩基配列GAA、塩基配列AGA、塩基配列AAG又は塩基配列AAA;好ましくは塩基配列AGA、塩基配列AAG又は塩基配列AAA;より好ましくは塩基配列AGA又は塩基配列AAG)は、コア配列に連結していることが好ましいが、上記塩基配列とコア配列との間に別の塩基配列(例えば、A及びGからなる群より選択される少なくとも1個(例えば、好ましくは1~3個)からなる塩基配列)を介していてもよい。
【0034】
前記心筋分化促進剤において前記オリゴDNAは5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列が2以上(好ましくは2~3、より好ましくは2)連結して含んでもよい。すなわち、前記オリゴDNAは、5’TTAGGGTTAGGG3’(配列番号28);5’TTAGGGTGAGGG3’(配列番号29);5’TGAGGGTTAGGG3’(配列番号30);又は5’TGAGGGTGAGGG3’(配列番号31)を含んでもよい。これらのコア塩基配列のうち、5’TTAGGGTTAGGG3’、5’TTAGGGTGAGGG3’等が好ましい。
【0035】
前記心筋分化促進剤において前記オリゴDNAは5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列に5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を連結して含んでもよい。
【0036】
前記心筋分化促進剤において前記オリゴDNAは塩基配列5’TTAGGGTGAGGG3’を含んでもよい。
【0037】
前記心筋分化促進剤において前記細胞はマウス、ニワトリ又はヒト由来の細胞であってもよい。
【0038】
本発明の一態様に係る心筋分化促進方法は、前記心筋分化促進剤を使用する。
【0039】
本発明の一態様に係る心筋分化促進オリゴDNAは、5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含み、5’末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有する。
【0040】
前記心筋分化促進オリゴDNAにおいて5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列が2以上連結してもよい。
【0041】
前記心筋分化促進オリゴDNAにおいて5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列に5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を連結して含んでもよい。
【0042】
前記心筋分化促進オリゴDNAにおいて塩基配列5’TTAGGGTGAGGG3’を含んでもよい。
【0043】
本発明の一態様に係る心筋分化促進剤は細胞又は個体に対して適用することにより心筋分化を促進する活性を有するオリゴDNAとベルベリン又はその類縁体化合物とを含む。
【0044】
前記心筋分化促進剤において前記オリゴDNAは5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列を含む。
【0045】
前記心筋分化促進剤において前記オリゴDNA5’は末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有してもよい。
【0046】
前記オリゴDNAと前記ベルベリン又はその類縁体化合物のモル比は等しくあってもよい。
【0047】
本発明の一態様に係る心筋分化促進方法は5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列を含むオリゴDNAとベルベリン又はその類縁体化合物とを含む心筋分化促進剤を使用する。
【0048】
本発明の一態様に係る増強剤は、オリゴDNAと併用され、細胞又は、個体に対して適用することにより心筋分化を促進する増強剤であって、ベルベリン又はその類縁化合物を含む。
【0049】
前記増強剤において、5’TTAGGG3’で表されるコア塩基配列を含むオリゴDNAと併用されてもよい。
【0050】
本発明の一態様に係るオリゴDNAは細胞又は個体に対して適用することにより心筋分化を促進する活性を有し、塩基長が25以下が好ましく、23以下がより好ましく、21以下がさらに好ましく、19以下がなお更に好ましい。本発明の一態様において、オリゴDNAの塩基長は、6以上が好ましく、9以上がより好ましく、15以上がさらに好ましく、17以上がなお更に好ましい。本発明の一態様において、オリゴDNAの塩基長は、例えば、6から25のいずれかであり、好ましくは17から23である。
【0051】
前記オリゴDNAにおいて前記塩基長が9から18のいずれかであってもよい。
【0052】
前記オリゴDNAにおいて前記塩基長が13から23のいずれか、好ましくは15から21のいずれか、より好ましくは17から19のいずれか、さらに好ましくは18であってもよい。
【0053】
前記オリゴDNAにおいて5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列を含み、5’末端側に塩基配列AGA又は塩基配列AAGを有しているのが好ましい。
【0054】
前記オリゴDNAにおいて5’TTAGGG3’又は5’TGAGGG3’で表されるコア塩基配列が2以上連結しているのが好ましい。
【0055】
また、本発明において、オリゴDNAは、後述する配列番号1~7、16のいずれかで示される塩基配列からなるもの;配列番号1~7、16のいずれかにおいて1個又は数個(好ましくは1~3個、より好ましく1個)の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列からなるもの等が好ましい。また、本発明において、オリゴDNAとしては、5’AAAAGATTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号32)又は5’AAAAAGTTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号33)で示される塩基配列からなるもの、当該配列番号32又は33で示される塩基配列のうち連続する15~21個(好ましくは17~19固、さらに好ましくは18個)の塩基で示される塩基配列からなるもの、これらの塩基配列いずれかにおいて1個又は数個(好ましくは1~3個、より好ましく1個)の塩基が置換、欠失、挿入又は付加された塩基配列からなるもの等が好ましい。
【0056】
また、本発明において、オリゴDNAとしては、
5’X1X2X3X4X5X6TX7AGGGTX8AGGGTX9A3’(配列番号34)
[式中、X1、X2、X3、X4、X5及びX6は、それぞれ独立して、A又はGを示す。X7及びX8、X9は、それぞれ独立して、T又はGを示す。]
で示される塩基配列のうち連続する15~21個(好ましくは17~19固、さらに好ましくは18個)の塩基で示される塩基配列からなるもの等が好ましい。上記実施形態において、オリゴDNAは、X4X5X6TX7AGGGTX8AGGGを含むものが好ましい。また、配列番号32においてX7としてはTが好ましい。配列番号32においてX8としてはGが好ましい。配列番号32においてX9としてはGが好ましい。
【0057】
本発明において、上記オリゴDNAは、心筋分化を促進することができる。具体的には、後述するように、心筋特異的転写因子Nkx2-5を発現し自律的に拍動する細胞のクラスターの出現が促進されることが確認された。しかも、上記オリゴDNA群は化学合成が可能で安定構造を有すため、将来的に大量に供給及び保存ができ、また乳酸菌のゲノム配列に由来するため、安全性も高いことが期待される。そのため、本発明の筋分化促進剤は、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞に由来する幹細胞等から心筋細胞への分化誘導、または多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞に由来する幹細胞、これらの幹細胞から分化した心筋細胞等を用いた心臓再生治療、創薬のスクリーニングや心臓疾患の治療および研究に供する心筋前駆細胞または心筋細胞の作成等に利用可能である。
【0058】
本発明においては、上記オリゴDNAには、公知の心筋分化誘導剤(たとえば非特許文献4等に記載のトリコスタチンA等)を併用してもよい。これらを併用することでより高い効率で心筋分化を誘導できることが期待できるため好ましい。また、心筋分化誘導に特化した方法で培養した細胞にmyoDN等のオリゴDNAを投与することでより高い効率で心筋分化を誘導できる可能性も十分に高いため好ましい。
【0059】
本発明においては、本発明の有効成分である上記オリゴDNAそのものを心筋分化促進剤として用いても、薬学的に許容される各種担体(例えば、例えば等張化剤、安定化剤、pH調節剤、抗酸化剤、溶解補助剤、粘稠化剤、防腐剤等)と組み合わせた医薬組成物として用いてもよい。
等張化剤としては、例えば、グルコース、トレハロース、ラクトース、フルクトース、マンニトール、キシリトール、ソルビトール等の糖類、グリセリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等の無機塩類等が挙げられる。
pH調節剤としては、例えば、塩酸、炭酸、酢酸、クエン酸等の酸が挙げられ、さらに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム等のアルカリ金属炭酸塩又は炭酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属酢酸塩、クエン酸ナトリウム等のアルカリ金属クエン酸塩、トロメタモール等の塩基等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。
溶解補助剤としては、例えば、安息香酸ナトリウム、グリセリン、D-ソルビトール、ブドウ糖、プロピレングリコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴール、D-マンニトール等が挙げられる。
粘稠化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロースナトリウム、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル等のパラオキシ安息香酸エステル、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム等の第4級アンモニウム塩、アルキルポリアミノエチルグリシン、クロロブタノール、ポリクォード、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン等が挙げられる。
また、上記医薬組成物は、オリゴDNA以外に、心筋分化促進作用を有することが知られている化合物をさらに含んでいてもよい。
医薬組成物の実施形態において、組成物中のオリゴDNAの含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。
製剤中の本発明のオリゴDNAの含有量は、投与経路、患者の年齢、体重、症状等によって異なり一概に規定できないが、オリゴDNAの1日投与量が通常10~5000mg程度、より好ましくは100~1000mg程度になる量とすればよい。1日1回投与する場合は、1製剤中にこの量が含まれていればよく、1日3回投与する場合は、1製剤中にこの3分の1量が含まれていればよい。
【0060】
本実施形態における心筋分化促進剤は、例えば次に示す配列番号のオリゴDNAを含む:
iSN01:5’AAAAGATTAGGGTGAGGG3’(配列番号1)
iSN02:5’AAAGATTAGGGTGAGGGT3’(配列番号2)
iSN03:5’AAGATTAGGGTGAGGGTG3’(配列番号3)
iSN04:5’AGATTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号4)
iSN05:5’GATTAGGGTGAGGGTGAG3’(配列番号5)
iSN06:5’ATTAGGGTGAGGGTGAGT3’(配列番号6)
iSN07:5’TTAGGGTGAGGGTGAGTT3’(配列番号7)
iSN04’:5’AAGTTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号16)
前記配列番号1~7、及び16のオリゴDNAはいずれもコア配列TTAGGGTGAGGG(配列番号29)を含む。前記配列番号28で示されるコア配列の5’末端側から2番目と8番目の塩基はTでもGでもよい。また前記コア配列の4~6番目と9~11番目に配列GGGを有するが、心筋分化を活性させるに後者の配列がより重要である。なお、配列TTAGGGの繰り返し配列(TTAGGG)nはテロメアと呼ばれ、真核生物の染色体の末端部に存在する。テロメアは細胞分裂に先立つDNA複製とともに短くなり、細胞の老化が進むとされる(特許文献1)。
【0061】
本実施形態における心筋分化促進剤は、より好ましくは、配列番号4及び/又は51のオリゴDNA(以下、iSN04、iSN04’)を含む。これらのオリゴDNAは前記コア配列の5’側に配列AGA又はAAGを含む。以下、iSN04、iSN04’を併せて、「myoDN」と称する。
【0062】
本実施形態における前記オリゴDNAは一本鎖であってもよい。また、核酸分解酵素に対して耐性を高めるためにホスホジエステル結合を有するオリゴヌクレオチドのリン酸基の酸素原子を硫黄原子で置換したもの(例えばホスホロチオエート結合)であってもよいが、これらに限定されない。また、前記オリゴDNAは乳酸菌、大腸菌などの生物からDNAを抽出し断片化したもの、あるいは、化学合成、遺伝子組替え技術によって作成したものであってもよいが、これらに限定されない。
【0063】
<心筋分化促進剤の適用対象>
本実施の形態における心筋分化促進剤は、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞に由来する幹細胞、心筋前駆細胞等に対し適用可能である。本明細書において多能性幹細胞とは、自己複製により増殖する能力を有すると同時に、内胚葉、中胚葉、外胚葉のいずれにも分化でき、最終的には個体を構成する全ての細胞種に分化可能な細胞を示す。多能性幹細胞としては、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、ES細胞(胚性幹細胞)等が挙げられる。本明細書において多能性幹細胞に由来する幹細胞とは、多能性幹細胞から分化誘導した幹細胞であって、多能性は失ったものの複数または特定の細胞への分化能は依然として有するものを示す。本発明において多能性幹細胞に由来する幹細胞としては、多能性幹細胞を分化誘導することで出現する多分化能性幹細胞が好ましい。本明細書において多分化能性幹細胞とは、ある胚葉の系列に属する複数の細胞種へと分化可能な細胞を示す。本発明において「多分化能性幹細胞」は「多能性幹細胞に由来する幹細胞」と概念として重複する部分がある。従って、本発明においては、多分化能性幹細胞には、多能性幹細胞に由来する多分化能性幹細胞も、多能性幹細胞由来ではない(生体内に存在する、あるいは生体から取り出した)多分化能性幹細胞も含まれる。多分化能性幹細胞としては、例えば、間葉系幹細胞、造血幹細胞、骨髄幹細胞等が挙げられる。また、本発明の心筋分化促進剤は、骨芽細胞、脂肪前駆細胞、平滑筋前駆細胞等の前駆細胞に対し適用してもよい。本発明においては、例えば、生体内に存在する多分化能性幹細胞に本発明のオリゴDNAを適用できる。より具体的には、生体内に存在する多分化能性幹細胞に対し、直接本発明のオリゴDNAを適用してもよいし、生体内に存在する多分化能性幹細胞を体外に取り出し、それに本発明のオリゴDNAを適用してもよい。これらの細胞としては、マウス、ヒトを含む哺乳類由来の細胞又はニワトリを含む鳥類由来の細胞を対象とすることができるが、これらに限定されない。
【0064】
<心筋分化促進剤の利用形態>
本発明の心筋分化促進剤は、例えば、上記細胞を培養して心筋への分化誘導する際に培養培地に添加することで使用することができる。より具体的には、例えば、多能性幹細胞を培地(例えば、心筋への分化誘導用の培地)に播種した日を1日目とした場合、3~7日目、好ましくは4~6日目に本発明の心筋分化促進剤を当該培地に添加することで心筋分化を促進することができる。また、本発明において心筋分化促進剤は、インビトロで細胞に対し添加してもよいが、インビボで使用してもよい。例えば、被験者に対し細胞、細胞シート等を投与し、被験者の体内で心筋組織を再生中に、当該再生中の組織における心筋前駆細胞等に対し本発明の心筋分化促進剤を投与してもよい。本実施の形態における心筋分化促進剤は通常使用されている各種の担体、賦形剤の成分を配合し、公知の方法に従って、注射薬、塗布薬、錠剤、カプセル剤、シロップ、座薬等に製剤化できるが、これらに限定されない。また、前記筋分化促進剤は、経口、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、髄内、髄腔内、心室内、経皮、皮下、腹腔内、経腸、局所、舌下又は直腸手段によって投与することができるが、これらに限定されない。
【0065】
(本発明の第2の実施形態)
以下、本発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態の心筋分化促進剤はオリゴDNAにベルベリンもしくはその類縁体化合物(例えば、パルマチン、ヤテオリジン、コランバミン等)又はその塩を併用したものである。好ましくは、オリゴDNAとベルベリン又はその類縁体化合物のモル比を、1:10~10:1、より好ましくは1:5~5:1、さらに好ましくは1:2~2:1、なおさらに好ましくは1:1で用いる。オリゴDNAとしては、前述のものが挙げられる。当該実施形態において、心筋分化促進剤中のオリゴDNAの含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。心筋分化促進剤中のオリゴDNAの含有量の上限も特に限定されず、例えば、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下等の条件から適宜設定できる。当該実施形態において、心筋分化促進剤中のベルベリンの含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。心筋分化促進剤中のベルベリンの含有量の上限も特に限定されず、例えば、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下等の条件から適宜設定できる。
【0066】
当該実施形態においては、安価で安全なベルベリン又はその類縁体化合物をオリゴDNAに併用することによりオリゴDNAの心筋分化促進作用を増強することが可能となる。ベルベリンの類縁体化合物としては、特に限定されず、天然の誘導体、人工の誘導体のいずれも使用し得る。
【0067】
<ベルベリン>
ベルベリン(式1)はオウバク(黄檗)から抽出される生薬の成分で、アルカロイドの一種であり、窒素を含む塩基性の天然有機化合物として知られている。主に、抗菌、抗炎症、中枢抑制又は血圧降下剤として、下痢の止瀉薬、目薬として利用されており、人体に対して安全である。
【0068】
【0069】
ベルベリンは単体では筋分化促進効果は無く、後述の参考例で示されるように、むしろ弱い筋分化抑制効果を有する。しかし、ベルベリンをiSN04又は所定の変異体とともに筋芽細胞に作用させたとき、筋分化促進効果が劇的に亢進する。変異体はiSN04’でもよく、あるいはiSN04の5’末端側より11番目のGをTに置換したオリゴDNA(配列番号26)であってもよい。ただし、後述の実施例で示されるように、iSN04の5番目のTをGに置換させるとベルベリンによる顕著な増強効果は見られなくなる。
【0070】
<パルマチン>
ベルベリンに代えて、パルマチンをオリゴDNAと併用してもよい。パルマチンはベルベリンと同じくオウバク(黄檗)から抽出される生薬成分であり、式2で示されるように、ベルベリンのメチレンジオキシ基の代わりにジメトキシ基を有す類縁体化合物である。当該実施形態において、心筋分化促進剤中のパルマチンの含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。心筋分化促進剤中のパルマチンの含有量の上限も特に限定されず、例えば、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下等の条件から適宜設定できる。
【0071】
【0072】
ベルベリンもパルマチンも(S)-レチクリン(C19H23NO4)を前駆体としコランバミン(C20H20NO4)を経て生合成される。ベルベリンシターゼという酵素がコランバミンをメチレンジオキシ基を有するベルベリンに変換する。また他の酵素がコランバミンをメチル化してパルマチンを生成する。
【0073】
<その他の類縁体>
ベルベリンの類縁体としては、パルマチン以外に、ヤテオリジン、コランバミン等が挙げられる:
【0074】
【0075】
当該実施形態において、心筋分化促進剤中の、ヤテオリジン、コランバミン等のベルベリンの類縁体の含有量は特に限定されず、例えば、90質量%以上、70質量%以上、50質量%以上、30質量%以上、10質量%以上、5質量%以上、1質量%以上等の条件から適宜設定できる。心筋分化促進剤中のヤテオリジン、コランバミン等のベルベリンの類縁体の含有量の上限も特に限定されず、例えば、90質量%以下、70質量%以下、50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、5質量%以下、1質量%以下等の条件から適宜設定できる。
【0076】
ベルベリン及びパルマチン等の類縁体を生合成する植物からこれらを抽出及び精製する方法は既に確立されており、安価で利用することが可能である。さらにオリゴDNAよりも安価なベルベリン又はパルマチン等の類縁体を併用することで、効果を高めつつオリゴDNAの利用コストをさらに下げることが可能である。
【0077】
本発明においてベルベリン又はその誘導体は、塩の状態で用いてもよい。また、ベルベリン又はその誘導体の塩としては、ハロゲン化物(塩化物等)等が挙げられる。また、ベルベリン又はその誘導体の塩としては、酸付加塩及び塩基との塩も挙げられる。酸付加塩の具体例として、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩、シュウ酸塩、マロン酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、酒石酸塩、安息香酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酢酸塩、メタンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩等の有機酸塩、及びグルタミン酸塩、アスパラギン酸塩等の酸性アミノ酸塩が挙げられる。塩基との塩の具体例としては、ナトリウム塩、カリウム塩又はカルシウム塩のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、ピリジン塩、トリエチルアミン塩のような有機塩基との塩、リジン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。
【0078】
本発明において、ベルベリンもしくはその誘導体又はこれらの塩は、前述したオリゴDNAによる心筋分化促進作用を増強することができる。従って、本発明は、オリゴDNAによる心筋分化促進を増強するための増強剤であって、ベルベリンもしくはその類縁化合物又はその塩を含む増強剤を提供する。当該実施形態において、ベルベリンもしくはその類縁化合物又はその塩の種類、配合量、オリゴDNAの種類、使用量、その他成分等については、心筋分化促進剤について前述したのと同様の条件を適宜適用し得る。
【実施例】
【0079】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0080】
(参考例1)
本発明者らは、マウス骨格筋から採取した衛星細胞を初代培養して得られた筋芽細胞を用い、骨格筋分化に作用する分子をスクリーニングする系を確立した。コラーゲンコートした96wellプレートで培養した筋芽細胞に、オリゴDNAなどの分子を添加する。所定時間経過後に、免疫染色によって骨格筋の最終分化マーカーであるミオシン重鎖(MHC)の発現を定量化する。このときDAPI染色によって細胞核を可視化する。さらにイメージアナライザーを用いて、画像の撮影と解析を自動的に行い、筋分化効率と細胞数をハイスループットで定量する。このようにして、筋芽細胞に対する多種多様な分子の作用を効率的に検討することができる。
【0081】
配列番号1~3、及び5~51の50種類のオリゴDNA群(表1)を用いたスクリーニング結果を
図1に示す。マウス筋芽細胞(10
4cells/well)にそれぞれ10μMの濃度のオリゴDNAを曝露し、48時間後にMHC陽性細胞の出現割合を測定した。なお、以下の参考例におけるオリゴDNAは一本鎖で構成され、しかも核酸分解酵素に対して耐性を高めるためにホスホジエステル結合のリン酸基の酸素原子を硫黄原子で置換する処理(S化)を予め行っている。
【0082】
<表1>
iSN01 : 5’AAAAGATTAGGGTGAGGG3’(配列番号1)
iSN02 : 5’AAAGATTAGGGTGAGGGT3’(配列番号2)
iSN03 : 5’AAGATTAGGGTGAGGGTG3’(配列番号3)
iSN04’: 5’AAGTTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号16)
iSN05 : 5’GATTAGGGTGAGGGTGAG3’(配列番号5)
iSN06 : 5’ATTAGGGTGAGGGTGAGT3’(配列番号6)
iSN07 : 5’TTAGGGTGAGGGTGAGTT3’(配列番号7)
iSN08 : 5’AGTTCAACATTAGGGTGA3’(配列番号8)
iSN09 : 5’GTTCAACATTAGGGTGAA3’(配列番号9)
iSN10 : 5’TTCAACATTAGGGTGAAA3’(配列番号10)
iSN11 : 5’TCAACATTAGGGTGAAAA3’(配列番号11)
iSN12 : 5’CAACATTAGGGTGAAAAT3’(配列番号12)
iSN13 : 5’AACATTAGGGTGAAAATG3’(配列番号13)
iSN14 : 5’ACATTAGGGTGAAAATGA3’(配列番号14)
iSN15 : 5’CATTAGGGTGAAAATGAA3’(配列番号15)
【0083】
図1において、右側のグラフはミオシン重鎖(MHC)陽性細胞の割合を、左側のグラフは細胞数を示したものである。いずれも最上段の白色のバー(Ctrl)はオリゴDNAを全く投与しなかった対照群(コントロール)である。なお、左側のグラフにおいては対照群の細胞数は1と正規化している。明らかにMHC陽性細胞の割合と細胞数とは相補的な関係にある。これは筋芽細胞の分化が促進されれば増殖が抑制されることを意味する。対照群におけるMHC陽性細胞の比率は高々3%程度である。
【0084】
一方、オリゴDNAを投与した筋芽細胞のうち、iSN01、02、03、04’、05、06及び07のグループに属するオリゴDNAが投与された筋芽細胞においては6%以上の割合でMHC陽性細胞が出現した。特にiSN04’(配列番号16)のオリゴDNAが投与された筋芽細胞におけるMHC陽性細胞の割合は40%超と非常に高い。
【0085】
さらに、このiSN04’と配列が2塩基異なるiSN04(表2、配列番号4)のオリゴDNAとで、同様の条件で比較実験を行った。結果を
図2に示す。
【0086】
<表2>
iSN04: 5’AGATTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号4)
【0087】
図2より明らかなように、配列番号4のオリゴDNA(iSN04)は配列番号16のオリゴDNA(iSN04’)と同程度かそれ以上の筋分化促進作用を示す。
【0088】
ここで注目すべきことは、前記iSN01~07及び前記iSN04’のグループに属するオリゴDNAは、共通して5’TTAGGGTGAGGG3’(配列番号29)という塩基配列を有している。
【0089】
(参考例2)
図3にiSN01~03(配列番号1~3)、iSN05~07(配列番号5~7)、iSN04’(配列番号16)のオリゴDNAを3μM及び10μMの濃度で筋芽細胞に曝露したときの、48時間後におけるミオシン重鎖(MHC)陽性細胞の割合を測定した結果を示す。同図によれば、オリゴDNAの濃度が3μMに比べて10μMで極端にMHC陽性細胞割合が増えることから、筋分化の促進には一定量以上の濃度のオリゴDNAが必要であることが判る。
【0090】
さらに、iSN02(配列番号2)を加熱により変性(denature)させた10μMのオリゴDNA(de-iSN02)を48時間、マウス筋芽細胞(10
4cells/well)に曝露したときのMHC陽性細胞割合を
図4に示す。熱変性処理はオリゴDNAを95℃で5分間加熱して行った。熱変性によって、iSN02の筋分化促進作用が明らかに失われていることがわかる。この結果は、オリゴDNAの活性が立体構造に依存していることを示唆する。
【0091】
(参考例3)
図5は、myoDNすなわちiSN04又はiSN04’(配列番号4、51のオリゴDNA)によるヒト横紋筋肉腫細胞KYM1の増殖の抑制効果を示したものである。
図1で説明したとおり筋芽細胞の分化と増殖は相補的な関係にある。言い換えればオリゴDNAにより筋芽細胞の分化が促進されれば、その一方で増殖は抑制される。この性質を利用すれば、オリゴDNAによる癌などの悪性腫瘍の増殖及び転移を抑制する効果が期待できる。
【0092】
図5において(a)はヒト横紋筋肉腫細胞KYM1(5×10
4cells/well)にオリゴDNA(iSN04’)を曝露したときの骨格筋分化マーカー遺伝子(MYH2)の発現量を、(b)は細胞増殖マーカー遺伝子(MKI67)の発現量を、それぞれコントロール(Ctrl)を1.0として定量したものである。両図より明らかなように、筋分化の促進と細胞増殖の抑制は互いに逆の関係にある。
【0093】
図5(c)は時間経過に伴う横紋筋肉腫の細胞数を計測した結果である。コントロール(Ctrl)と比較すると、iSN04(配列番号4のオリゴDNA)を曝露したときは明らかにヒト横紋筋肉腫細胞KYM1の増殖が抑制されている。
【0094】
(参考例4)
表3に示すiSN04(配列番号4)の一部の塩基を置換又は削除して作成したオリゴDNAの変異型(配列54~62)をマウス筋芽細胞に対しそれぞれ10μMの濃度で曝露し、48時間後にMHC陽性細胞の出現割合を測定した。表3において「-」は塩基配列が削除されその両端の塩基が直に結合していることを表す。例えばiSN04(del13-15)において、5’末端側から12番目の塩基Aと、3’末端側から4番目の塩基Tは直に結合している。
【0095】
<表3>
iSN04 :5’AGATTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号4)
iSN04(4-18) :5’---TTAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号19)
iSN04(7-18) :5’------GGGTGAGGGTGA3’(配列番号20)
iSN04(10-18) :5’---------TGAGGGTGA3’(配列番号21)
iSN04(dell5) :5’AGATTAGGGTGAGG-TGA3’(配列番号22)
iSN04(del14-15) :5’AGATTAGGGTGAG--TGA3’(配列番号23)
iSN04(del13-15) :5’AGATTAGGGTGA---TGA3’(配列番号24)
iSN04(T5G) :5’AGATGAGGGTGAGGGTGA3’(配列番号25)
iSN04(G11T) :5’AGATTAGGGTTAGGGTGA3’(配列番号26)
iSN04(T5G,G11T) :5’AGATGAGGGTTAGGGTGA3’(配列番号27)
【0096】
結果を
図6に示す。同図より明らかなように、iSN04の5’末端側から5番目、11番目の塩基をT、Gのいずれに変えても、MHC陽性細胞の出現割合は殆ど変わらない。その一方で、5’末端側の3塩基を削除したiSN04(4-18)(配列番号19)を曝露したときのMHC陽性細胞の出現割合はMQ(コントロール)と同程度であり、当変異型適用による筋分化促進効果は全く認められない。6塩基削除したiSN04(7-18)(配列番号20)、9塩基削除したiSN04(10-18)(配列番号21)を適用した場合においても結果はほぼ同じである。以上の結果は、myoDNの筋分化促進作用には5’末端側の3塩基(AGA又はAAG)の存在が重要であることを示している。
【0097】
さらにiSN04の5’側から13~15番目のGをそれぞれ1個、2個、すべて除去したオリゴDNA(配列番号22、23、24)でも筋分化活性の低下がみられることから、特に当位置における塩基GGGの役割が大きいことが示唆される。
【0098】
(参考例5)
myoDNが筋分化を特異的に促進することを検証するため、iSN04(配列番号4)を用いた実験を行った。それぞれ5×104cells/wellの密度で培養したマウス筋芽細胞又はマウス胎児線維芽細胞にiSN04(配列番号4)を1μM又は3μM、72時間曝露し、細胞に対する増加抑制効果を観察した。実験はそれぞれ3回行いその平均をプロットした。
【0099】
図7上のグラフはマウス筋芽細胞に対する増加抑制効果を示したもので、コントロール(Ctrl)の細胞(iSN04を加えていない細胞)が72時間後に約2倍に増殖したのに対し、iSN04を3μM曝露したものは0.05未満のp値で約2割程度の増加に抑えられた。
【0100】
しかし、同図下のグラフに示されるように、マウス胎児線維芽細胞に対しては、iSN04の3μM程度の曝露では、細胞の増殖を抑え込むことができなかった。すなわち、myoDNは筋分化を特異的に促進する結果として細胞増殖を抑制するのであり、全ての細胞の増殖を抑制するわけではない。
【0101】
(参考例6)
ベルベリン又はパルマチンによるmyoDNの筋分化促進作用の増強効果を検証する実験を行った。それぞれ104cells/wellの密度で培養したマウス筋芽細胞にベルベリンのみ又はパルマチンのみをそれぞれ1μM、3μM又は10μM曝露したものと、併せてiSN04を0又は3μMの濃度で曝露したサンプルについて、48時間後にMHC陽性筋細胞の出現割合を測定した。
【0102】
図8にその結果を示す。同図より明らかなように、ベルベリン(Ber)単体ではコントロール(白棒のMQ)よりもMHC陽性筋細胞の出現割合が却って低下する。これはベルベリンは本来筋分化を抑制する作用を有する可能性があることを意味する。ところがiSN04を3μM併せて曝露した場合、iSN04単体を投与したもの(黒棒のMQ)に対しMHC陽性筋細胞の出現割合が1.5~2倍程度増加する。これはベルベリンはmyoDNの効果を増強する機能を有していることを意味する。
【0103】
パルマチン(Pal)についても、ベルべリンよりも効果は穏やかであるが、myoDNの効果を増強する性質を有している。一方で、ベルベリン単体投与で観察された弱い筋分化抑制効果は、パルマチン単体投与では認められなかった。
【0104】
なお、ベルベリン又はパルマチンによるiSN04の増強作用は、いずれの場合も、iSN04とベルベリン又はパルマチンのモル比が1:1のときに最も効果的であった。例えば
図8においてmyoDN(iSN04)3μMに対してベルベリンを10μM投与したとき(Ber10)のMHC陽性筋細胞の出現割合はベルベリンを3μM投与したとき(Ber3)の割合よりも若干低い。
【0105】
(参考例7)
<表3>で示されたベルベリンによるiSN04変異体(配列番号19~27)の筋分化促進作用の増強効果を明らかにする実験を行った。それぞれ104cells/wellの密度で培養したマウス筋芽細胞にiSN04又はその変異体のみを3μMの濃度で曝露したサンプルと、併せてベルベリン3μMを投与したサンプルについて、48時間後にMHC陽性筋細胞の出現割合を測定した。
【0106】
結果を
図9に示す。ベルベリン(Ber)を加えない場合(白棒)、この条件下ではiSN04又は変異型を曝露したときのMHC陽性筋細胞の出現割合は20%前後であるが、ベルベリンを加えた場合(黒棒)、変異型によって顕著な差が発生する。iSN04及び5’末端側から11番目のGをTに置換したG11T(配列番号26)にのみベルベリンによる顕著なmyoDN活性増強効果が確認された。他の変異型については殆ど効果に変化が無いか(配列番号22のdel15等)、却って効果が抑制される(配列番号19の4-18等)。
【0107】
図6(参考例4)では、5番目と11番目の塩基がTかGかはmyoDNの筋分化促進効果には関係ないことが示されたが、ベルベリンによる増強作用の点からすれば、5番目の塩基として、Tがより好適であることが示される。
【0108】
(参考例8)
なお、上記参考例においては筋分化の検証にマウス筋芽細胞が用いられたが、本発明はこれに制限されるものではない。他の動物、例えば、鳥類であるニワトリの筋芽細胞を用いた実験でも、オリゴDNAによる筋分化促進作用が認められた。
【0109】
本参考例ではそれぞれ直径3cmのディッシュあたり105cellsの密度で培養したニワトリ筋芽細胞にiSN04’を0μM、3μM又は10μM曝露したものと、ベルベリン10μMを併用したサンプルについて、48時間後にMHC陽性筋細胞の出現割合を測定した。
【0110】
結果を
図10(a)に示す。コントロール(図中横軸0μMの白棒)と比べ、iSN04’を3μM又は10μM投与したサンプルではMHC陽性筋細胞の出現割合は倍増している。ベルベリン(Ber)を併用した場合、MHC陽性筋細胞の出現割合はさらに倍増している。本実験でも、iSN04’とベルベリンのモル比が1:1のとき(ともに10μM)に、最も高い筋分化促進作用が認められた。
【0111】
さらに
図8(参考例6)と同様の実験をニワトリ筋芽細胞に対しても行った。結果を
図10(b)に示す。ニワトリ筋芽細胞に対しても、ベルベリン(Ber)単体では筋分化を抑制するように作用し、iSN04と組み合わせると顕著な筋分化促進作用が確認された。また、パルマチン(Pal)についても、ベルべリンよりも効果は穏やかであるが、iSN04の効果を増強することが確認された。
【0112】
(参考例9)
myoDNのヒト横紋筋肉腫細胞の増殖の抑制効果について併せてベルベリンの効果について実験を行った。ヒト横紋筋肉腫細胞KYM1、RD、ERMS1の5×10
4cells/wellのサンプルそれぞれに対し、10μMのiSN04を曝露し、24~96時間経過後の細胞数を測定した。結果を
図11に示す。腫瘍株によってiSN04の抑制効果が異なることが示されている。
【0113】
図11において(a)のグラフはヒト横紋筋肉腫細胞KYM1にiSN04を曝露した結果を示すものであり、
図5(c)で示されたグラフとほぼ同じ条件で追試されたものである。コントロール(Ctrl)と比べて筋肉腫細胞の増殖が半分以下(72時間後)に抑えられていることが本参考例においても再現されている。一方で、RD株については96時間後に0.05未満のp値で25%程度の抑制が認められた(
図11(b))。ERMS1株では抑制効果が10%程度であった(同図(c))。
【0114】
RD株についてはiSN04と併せてベルベリンを投与すると増殖抑制効果が劇的に改善することが判った。
図12にコントロール(Ctrl)、iSN04のみ(10μM)、iSN04と等モルのベルベリン(Ber)(10μM)を併用したときの96時間後の細胞数の測定結果を示す。iSN04とベルベリンを併用した場合、iSN04のみの場合と比べて約25%、コントロールと比べて約50%の増殖抑制効果が示された。
【0115】
[実施例]
以下、本発明の実施例について説明する。前述の参考例では、骨格筋芽細胞にmyoDN等を曝露することにより筋分化促進効果が得られることを示したが、本実施例では多能性幹細胞(ES細胞、iPS細胞)を5日間分化誘導した段階でmyoDNの代表的オリゴDNAであるiSN04(配列番号4)を曝露し、心筋に分化させる方法について説明する。
【0116】
まず、曝露対象について参考例と本実施例との違いを、
図13を用いて説明する。多能性幹細胞であるES細胞は内胚葉、中胚葉、外胚葉に分化し、さらに内胚葉は内臓に、中胚葉は筋肉や骨格に、外胚葉は神経などにそれぞれ分化することが一般に知られている。前述の参考例では既に骨格筋芽細胞にまで分化したいわゆる前駆細胞にオリゴDNA(iSN04)を曝露し、骨格筋への分化が促進されることを確認した(
図13中左下の太矢印)。これに対し、本実施例ではES細胞またはiPS細胞に由来する細胞がその多能性を失ったものの多分化能性を保持していると考えられる分化誘導5日目の段階でiSN04(配列番号4)を曝露する。以下、ES細胞を用いた実験とその結果について実施例1に、iPS細胞を用いたときの結果について実施例2で説明する。
【0117】
(実施例1)ES細胞へのmyoDNの曝露
ES細胞株として、hCGp7を用いた。当細胞株は、心筋特異的転写因子Nkx2-5の遺伝子座の一つをGFPに置換したマウスES細胞株であり、心筋特異的転写因子Nkx2-5を発現する段階にまで分化した心筋前駆細胞ないし心筋細胞が緑色の蛍光で示される。このES細胞をゼラチンコートされた直径3cmの培養容器に3×104cellsの密度で播種し分化誘導を開始した。なお分化培地は、10%FBS、5%HS、NEAA、2-MEを含有したDMEM培地を用いた。
【0118】
分化誘導5日目に10μMのiSN04(配列番号4)を曝露し、その後2日毎にiSN04を含む分化培地を交換し、新たにiSN04を曝露した。なお、分化の様子は毎日顕微鏡で観察した。分化誘導8日目(iSN04曝露3日目)の様子を
図14に示す。同図において、上段はコントロールを、下段はiSN04の観察結果を示す。それぞれにおいて、左側は位相差画像を右側は蛍光画像を示す。
図14において、コントロールのES細胞と比較し、iSN04を曝露したES細胞におけるGFPの発現(灰色がかった部分、実際は緑色)が著しい。また写真では示されていないが、GPF陽性細胞のクラスターの自律的な拍動が観察される。
【0119】
以上、本実施例によれば、myoDNは5日間分化誘導したES細胞に作用して心筋細胞への分化を顕著に促進することが明らかである。なお、本実施例において、myoDNを曝露した段階において、選択的に心筋へ分化誘導するような措置は講じていない。心筋分化誘導に特化した培養系においてmyoDNを用いれば、より多数の心筋細胞を得られる可能性がある。
【0120】
(実施例2)iPS細胞へのmyoDNの曝露
本実施例では対象となる多能性幹細胞としてマウスiPS細胞株20D17を用いる。本実施例におけるiPS細胞株は、Nanog遺伝子座にGFPノックインしたマウス胎児線維芽細胞にいわゆる初期化4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Myc)を導入することで樹立したものである。分化培地や分化方法(培地の交換やiSN04の補充等)については、実施例1と同様である。
【0121】
分化誘導11日目(iSN04曝露6日後)の様子を
図15に示す。同図において、上段はコントロールの、下段はiSN04を曝露した、それぞれiPS細胞の位相差顕微鏡画像を示す。iPS細胞を含む多能性幹細胞は身体を構成する全ての細胞種に分化可能なため、iSN04に曝露せずとも心筋細胞は自然発生的に出現するが、コントロールと比較すると、iSN04を曝露したiPS細胞において心筋と思われる細胞のクラスター(破線で囲った部分)の出現がより顕著に目視される。また、iSN04を曝露したiPS細胞のクラスターの直径は、コントロールにおけるクラスターの直径を上回っている。
【0122】
また写真では示されていないが、この細胞のクラスターの自律的な拍動が観察される。この自律的拍動を測定した結果を
図16に示す。同図において、横軸はiSN04を曝露後の日数を、縦軸は分当たりの拍動数を表す。また、白棒はコントロールを、黒棒はiSN04を曝露したiPS細胞を表す。
図16において、iSN04を曝露したiPS細胞クラスターの分あたりの拍動数はコントロールを2割以上回っている。拍動数の増加は、myoDN曝露によって出現した心筋細胞がコントロールよりも成熟した段階にあることを示唆している。
【0123】
以上、本実施例によれば、iPS細胞においてもES細胞とほぼ同様に心筋への分化が促進され、心筋細胞数やクラスターのサイズのみならず拍動数においてもコントロールを上回る効果が得られる。
【0124】
以上、本発明によれば、オリゴDNAにより心筋分化を強力に促進することが可能となる。しかも、上記オリゴDNAは化学合成が可能で安定構造を有すため、将来的に大量に供給及び保存ができ、また乳酸菌のゲノム配列由来であるため、安全性も高いと期待される。さらに、安価でしかも安全なベルベリン又はその類縁体化合物を併用することによりオリゴDNAの心筋分化促進作用を増強することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0125】
本発明は、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞に由来する幹細胞等から心筋細胞への分化誘導、または多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、多能性幹細胞に由来する幹細胞、これらの幹細胞から分化した心筋細胞等を用いた心臓再生治療、創薬のスクリーニングや心臓疾患の治療および研究に供する心筋前駆細胞または心筋細胞の作成等に利用することができる。
【配列表】