(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】光学素子及びそれを用いた映像表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/09 20060101AFI20221004BHJP
G02B 30/60 20200101ALI20221004BHJP
H04N 13/302 20180101ALI20221004BHJP
【FI】
G02B5/09
G02B30/60
H04N13/302
(21)【出願番号】P 2018564175
(86)(22)【出願日】2017-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2017046392
(87)【国際公開番号】W WO2018139141
(87)【国際公開日】2018-08-02
【審査請求日】2020-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2017014733
(32)【優先日】2017-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515270828
【氏名又は名称】株式会社パリティ・イノベーションズ
(74)【代理人】
【識別番号】100084375
【氏名又は名称】板谷 康夫
(72)【発明者】
【氏名】前田 有希
(72)【発明者】
【氏名】前川 聡
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-191404(JP,A)
【文献】特開2012-247459(JP,A)
【文献】国際公開第2009/131128(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/108469(WO,A1)
【文献】特開2003-066206(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107167918(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0123951(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0253880(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0021028(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/09
G02B 5/12
G02B 30/60
H04N 13/302
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の面側にある被観察物の実像を他方の面側の空間に結像させる光学素子であって、
透明材料により形成されて一平面を成す基盤と、前記基盤から突出するように該基盤と一体的に形成された複数の突状部と、を有し、
前記突状部は、前記基盤に対して角度を持つ3つ以上の側面を有し、
前記側面のうちの隣り合う2面は、前記基盤に対して垂直で且つ互いに略直交しており、被観察物から発せられる光を反射する2面コーナーリフレクタを成し、
複数の前記突状部間には、前記突状部を成す透明材料の屈折率よりも屈折率の低い媒質から成る低屈折率部と、複数の前記突状部間に導波した光を吸収する光吸収部と、が配置されており、
前記低屈折率部は、
空気であり、前記2面コーナーリフレクタと接しており、
前記光吸収部は、
直径1~10μmの粒子から構成され、少なくとも前記基盤上にお
ける隣り合う前記突状部間の溝の底面に接していることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記低屈折率部は、前記2面コーナーリフレクタの表面から1μm以上の厚みを成していることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記光吸収部は、前記2面コーナーリフレクタを成さない前記突状部の側面と接していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
複数の前記突状部を一括して覆う透明パネルを更に有し、
前記光吸収部は、前記透明パネルのうち、複数の前記突状部間と対向する領域に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載された光学素子を用いた映像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方の面側にある被観察物の実像を他方の面側の空間に結像させる光学素子及びそれを用いた映像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ある空間を仕切る平面体の一方の面側に被投影物を配置し、他方の一面側の空間において面対称となる位置に、被投影物の鏡映像を結像させる光学素子が発案されている。この種のものとして、各々が互いに直交する2つの微小な鏡面(反射面)から成る2面コーナーリフレクタを複数、平面的に集合させた構造を有する光学素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1は、複数の2面コーナーリフレクタが一平面上に格子状に整列配置されて成る2面コーナーリフレクタアレイを有する光学素子を開示している。この光学素子では、2面コーナーリフレクタを成す各鏡面が、光学素子の素子面に対して垂直に配置されている。そのため、素子面の一方の面側に配置した被観察物から発せられた光は、光学素子を通過する際に2面コーナーリフレクタで2回反射されて屈曲し、被観察物がない他方の一面側の空間に実像として結像する。これにより、被観察物が、光学素子の素子面に対して対称位置に存在するように、その実像が結像される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載の光学素子では、基盤の表面から突出した立方体形状の突状部が複数、配置されており、突状部の内壁を鏡面とし、当該内壁での光の全反射を利用して実鏡映像を結像している。ここで、隣り合う突状部(2面コーナーリフレクタ)間に格子状の溝を設けることで、突状部が形成されている。このような構成では、基盤に入射した光の一部は、突状部に入射せずに、溝側に導波される。また、被観察物から発せられた光のうち、臨界角よりも入射角の小さい角度で鏡面に入射した光は、鏡面で反射されることなく溝側に導波される。このような溝側に導波された光は、実鏡映像の結像に寄与しない迷光となり、立体映像のコントラストを低下させる。また、2面コーナーリフレクタ間の溝はμmオーダーと微細なので、外部の照明光といった環境光が上記溝に入射すると、溝で光が乱反射して、白ボケを生じさせる原因となる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するものであり、実鏡映像の結像に寄与しない迷光を抑制して立体映像のコントラストを向上させると共に、複数の2面コーナーリフレクタ間における光の乱反射を抑制して、白ボケを低減することができる光学素子及びそれを用いた映像表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、一方の面側にある被観察物の実像を他方の面側の空間に結像させる光学素子であって、透明材料により形成されて一平面を成す基盤と、前記基盤から突出するように該基盤と一体的に形成された複数の突状部と、を有し、前記突状部は、前記基盤に対して角度を持つ3つ以上の側面を有し、前記側面のうちの隣り合う2面は、前記基盤に対して垂直で且つ互いに略直交しており、被観察物から発せられる光を反射する2面コーナーリフレクタを成し、複数の前記突状部間には、前記突状部を成す透明材料の屈折率よりも屈折率の低い媒質から成る低屈折率部と、複数の前記突状部間に導波した光を吸収する光吸収部と、が配置されており、前記低屈折率部は、空気であり、前記2面コーナーリフレクタと接しており、前記光吸収部は、直径1~10μmの粒子から構成され、少なくとも前記基盤上における隣り合う前記突状部間の溝の底面に接していることを特徴とする。
【0008】
上記光学素子において、前記低屈折率部は、前記2面コーナーリフレクタの表面から1μm以上の厚みを成していることが好ましい。
【0009】
上記光学素子において、前記光吸収部は、前記2面コーナーリフレクタを成さない前記突状部の側面と接していることが好ましい。
【0011】
上記光学素子において、複数の前記突状部を一括して覆う透明パネルを更に有し、前記光吸収部は、前記透明パネルのうち、複数の前記突状部間と対向する領域に形成されていることが好ましい。
【0012】
上記光学素子は、映像表記装置に用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、光学素子は、低屈折率部が2面コーナーリフレクタを成す側面と接しているので、光学素子を構成する媒体との屈折率差が大きくなり、全反射効率が向上し、実鏡映像を明るくすることができる。また、突状部間には、光吸収部が設けられているので、突状部間に導波された光をカットし、実鏡映像の結像に寄与しない迷光が生じることを抑制し、実鏡映像のコントラストを向上させることができる。更に、光吸収部が外部の照明光といった環境光をカットするので、微細な突状部間で光が乱反射することもなく、白ボケの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る光学素子の構成例を概念的に示す概略斜視図。
【
図2】(a)(b)は上記光学素子による結像様式を模式的に示す図。
【
図4】(a)は上記光学素子の側面図、(b)は上面図。
【
図5】上記光学素子の作用を説明するための側面図。
【
図6】(a)(b)は上記光学素子の第1の変形例に係る構成及びその形成方法を説明するための側面図。
【
図7】(a)は上記光学素子の第2の変形例に係る構成及びその形成方法を説明するための側面図、(b)は(a)の一点鎖線領域の拡大図。
【
図8】上記光学素子の第3の変形例に係る構成及びその形成方法を説明するための側面図。
【
図9】上記光学素子の第4の変形例に係る構成及びその形成方法を説明するための側面図。
【
図10】上記光学素子を備えた映像表示装置の構成例を概念的に示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一実施形態に係る光学素子について、図面を参照して説明する。
図1に示すように、本実施形態の光学素子1は、基盤2に対して垂直で且つ互いに略直交した鏡面(垂直面31、32)から成る2面コーナーリフレクタ30を有する。複数の2面コーナーリフレクタ30は、基盤2の一平面上に格子状に整列配置されて2面コーナーリフレクタアレイ30Sを成す。
【0016】
光学素子1は、その一方の面側に被観察物Oが配置されたとき、被観察物Oの実像(実鏡映像P)を光学素子1の素子面1Sの他方の面側の空間に結像させる。すなわち、光学素子1は、その素子面1Sを対称面とする面対称位置に、被観察物Oの実鏡映像Pを結像させる。ここで、素子面1Sとは、2面コーナーリフレクタ30を構成する2つの垂直面31、32と直交する仮想的な平面を言う。なお、光学素子1の全体の大きさがcm又はmオーダーであるのに比べて、2面コーナーリフレクタ30はμmオーダーと微細であり、
図1では、2面コーナーリフレクタ30の集合体を、V字形状で概念的に示している。
【0017】
2面コーナーリフレクタアレイ30Sによる結像様式について、
図2(a)(b)を参照して説明する。なお、
図2(a)では、被投影物として点光源oから発せられた光は、3次元的には紙面奥側から紙面手前側へ進行するものとする。点光源oから発せられた光(実線矢印)は、光学素子1(
図2(a)では省略)を通過する際に、2面コーナーリフレクタ30を構成する一方の鏡面(垂直面31)で反射して、他方の鏡面(垂直面32)で反射した後、素子面1S(
図2(b)参照)を透過する。このようにして光学素子1から出射された光(一点鎖線矢印)は、素子面1Sに対して点光源oの面対称位置p広がりながら通過する。すなわち、点光源oの素子面1Sに対する面対称位置pに、光学素子1の透過光が集束し、実鏡映像P(
図1参照)として結像する。
【0018】
図3及び
図4(a)(b)に示すように、基盤2は、透明材料により形成されて一平面を成している。光学素子1は、この基盤2から突出するように形成された複数の突状部3を有する。複数の突状部3は、基盤2と同じ透明材料によって基盤2と一体的に形成されている。
【0019】
突状部3は、基盤2に対して角度を持つ3つ以上の側面を有する。本実施形態の突状部3は、角錐台形状であり、基盤2に対して垂直な2面(垂直面31、32)及び基盤2に対して傾斜した2面(傾斜面33、34)から成る4面の側面と、基盤2と平行な面を成す上面35を有する。上記側面のうち、垂直面31、32の2面が隣り合い、傾斜面33、34の2面が隣り合っている。また、垂直面31、32は、互いに略直交するように配置されている。基盤2から突状部3に入射した光(
図4(a)の実線矢印)は、垂直面31、32の内壁面で2回全反射され、突状部3の上面35から出射する。
【0020】
上面35は、垂直面31、32及び傾斜面33、34との各稜線によって画定され、それらの長さは略等しく、上面視(
図4(b)参照)において、略正方形である。垂直面31(32)は、側面視(
図4(b)参照)において、基盤2との境界線(
図4(a)の点線)を下底辺、上面35との稜線を上底辺、傾斜面33、34との稜線を斜辺、隣り合う垂直面32、31との稜線を垂直辺とする台形である。
【0021】
光学素子1の表面には、上記形状の突状部3が、複数、格子状に整列配置されている。隣り合う突状部3は、一方の垂直面31と他方の傾斜面34とが対峙し、一方の垂直面32と他方の傾斜面33が対峙する。言い換えると、複数の突状部3は、対峙する垂直面31、32及び傾斜面34、33の夫々の間に、格子状の溝21が形成されている。また、対峙する垂直面32(31)の基盤2側の辺と、傾斜面33(34)の基盤2側の辺との間には、基盤2と平行な面を成し、溝21の底となる底面22が形成されている。
【0022】
また、光学素子1は、複数の突状部3間の溝21に、突状部3を成す透明材料の屈折率よりも屈折率の低い媒質から成る低屈折率部4と、溝21に導波した光を吸収する光吸収部5と、が配置されている。そして、低屈折率部4は、少なくとも2面コーナーリフレクタを成す垂直面31、32と接している。
【0023】
光学素子1を構成する基盤2及び突状部3の媒質には、光透過率80%以上、屈折率1.3以上で、熱や湿度による変質の少ない透明材料が用いられる。このような透明材料としては、例えば、アクリル樹脂やガラスが挙げられる。本実施形態の光学素子1では、特に、低吸水性・非晶質で脂環構造を持つ炭化水素系ポリマーであるシクロオレフィンポリマー(COP)を用いることが好ましい。シクロオレフィンポリマーとしては、例えば、日本ゼオン社製の商品名:ZEONOR(登録商標)(グレード:1020R、光透過率92%、屈折率1.53)が挙げられる。また、低屈折率部4は、垂直面31、32における臨界角を小さくして全反射を生じやすくするために、その媒質の屈折率は1.4以下であることが望ましく、本実施形態では、低屈折率部4の媒質を空気としている。
【0024】
本実施形態の光学素子1の作製に際しては、まず、上記低屈折率部4及び光吸収部5を除く部分、すなわち基盤2及び複数の突状部3から成る2面コーナーリフレクタアレイ30Sが作製される。2面コーナーリフレクタアレイ30Sの作製方法としては、例えば、スタンパ等の金型を用いて、透光性樹脂を射出成形する方法、又は熱プレス成形方法が挙げられる。金型は、例えば、ナノ加工により金属製マスター板に上述した突状部3及び溝21(
図3参照)の形状に対応した形状を作製した後、電珠反転する方法により作製される。また、例えば、X線リソグラフィ法を用いることにより、透明材料から成る基盤2に直接的に4つの側面を有する突状部3及び溝21を作製することができる。
【0025】
本実施形態の光学素子1では、突状部3を成す4面のうちの2面が傾斜面33、34である。すなわち、突状部3は角錐台形状とされている。また、隣り合う複数の突状部3間の溝21には、底面22が設けられている。このような形状によれば、μmオーダーの微細な構造体である突状部3に、いわゆる「抜きテーパ」を付けることができ、金型成形で2面コーナーリフレクタアレイ30Sを作成した際に、2面コーナーリフレクタアレイ30Sをスタンパ等の金型からの取り外しを容易にすることができる。
【0026】
溝21を含む突状部3の1ピッチの上面視における一辺の幅Wは、例えば、100~700μmとされる(
図4(b)参照)。なお、ピッチ幅Wは、実鏡映像Pの飛び出し距離(
図1参照)に応じて設定される。例えば、飛び出し距離が10cmである場合には、ピッチ幅Wは約280μmとされる。基盤2及び突状部3を含む光学素子1の板厚は、一般的には1~3mmである。基盤2(溝21の底面22)から突状部3の高さH(溝21の深さ)は、ピッチ幅Wと同等か、それよりも大きく設定される。
【0027】
傾斜面33、34の基盤2の法線に対する傾斜角θは、5~25°であることが好ましい(
図4(a)参照)。傾斜角θを5°以上とすることで、必要な抜きテーパを確保し、2面コーナーリフレクタアレイ30Sの作製時に金型からの取り外しを容易にすることができる。また、傾斜角θを25°以下とすることで、突状部3の高さHにも依るが、2面コーナーリフレクタ30で反射された光の出射面となる上面35のサイズ(幅L)を確保し、実鏡映像Pが暗くなることを抑制することができる。なお、仮に、突状部3の高さHを300μm、突状部3の1ピッチの上面視における一辺の幅Wを300μm、上面35の一辺の幅Lを200μm、傾斜角θを18°とした場合、溝21の底面22の幅Dは、約2.5μmとなる。なお、ここで示す数値は、本実施形態の一例として示す代表値であり、本発明は、これらの数値に限定されない。
【0028】
本実施形態の光学素子1は、上記にようにして作製された2面コーナーリフレクタ30に、更に、低屈折率部4及び光吸収部5が形成されたものである。光吸収部5には、例えば、黒色インクや粒子状の顔料が用いられる。また、低屈折率部4は、2面コーナーリフレクタ30を成す垂直面31、32の表面から1μm以上の厚みを成していることが好ましい。なお、低屈折率部4は、2面コーナーリフレクタ30を成す垂直面31、32の表面から1μm以上の厚みを有する部分が、垂直面31、32の全面積の50%以上となるように形成されていればよい。2面コーナーリフレクタ30を成す垂直面31、32で光を全反射させる際に、垂直面31、32の外側に、光の波長程度の間隔を置いて屈折率の高い媒質があると、エバネッセント波を介して光が透過してしまい、垂直面31、32の内壁面での全反射が抑制されることがある。そこで、垂直面31、32の外側において、少なくともエバネッセント波がしみ出し得る領域に、1μm以上の厚さの低屈折率部4を、垂直面31、32の全面積の50%以上に配置することで、全反射効率の低下を抑制し、実鏡映像Pの輝度低下を防ぐことができる。
【0029】
低屈折率部4及び光吸収部5の形成方法としては、例えば、マイクロインクジェット印刷により、傾斜面33(34)と溝21の底面22に向けて、光吸収材料を含有するインクを塗布する方法が挙げられる。このように、傾斜面34(33)と溝21の底面22に塗布されたインクが光吸収部5となり、インクが塗布されていない垂直面31(32)側には空気が存在することになり、この空気が存在する空間が低屈折率部4となる。なお、実用上問題ない程度であれば、傾斜面34(33)や溝21に塗りムラがあってもよく、垂直面31(32)に多少のインクが付着していてもよい。
【0030】
このようにして作成された光学素子1では、
図5に示すように、低屈折率部4が2面コーナーリフレクタ30を成す垂直面32(垂直面31も同様)と接しているので、光学素子1を構成する媒体との屈折率差が大きくなる。そのため、垂直面32における臨界角が小さくなり、低屈折率部4が無い場合には全反射されないような入射角αの小さい光(図中の実線矢印)も全反射させることができ、全反射効率が向上する。その結果、実鏡映像Pを明るくすることができる。
【0031】
また、突状部3間には、光吸収部5が設けられているので、基盤2に入射した光のうち、突状部3に入射せずに、底面22から溝21側に導波される光(図中の破線矢印)を光吸収部5でカットする。また、垂直面32に対して臨界角よりも入射角の小さい角度で入射して溝21側に透過した光(図中の1点鎖線矢印)もカットする。このように、溝21側に導波された光を光吸収部5でカットするので、実鏡映像Pの結像に寄与しない迷光が生じることを抑制することができ、実鏡映像Pのコントラストを向上させることができる。
【0032】
また、2面コーナーリフレクタ30間の溝21はμmオーダーと微細であるが、これらの間の外部の照明光といった環境光(図中の2点鎖線矢印)が溝21に入射しても、光吸収部5がそれをカットするので、微細な溝21で光が乱反射することもなく、白ボケの発生を抑制することができる。
【0033】
光吸収部5は、2面コーナーリフレクタ30を成さない突状部3の側面、すなわち本実施形態では、傾斜面33、34と接していることが好ましい。基盤2から突状部3に入射する光の一部は、垂直面31、32ではなく、傾斜面33、34に入射することが有り得る。この光もまた、実鏡映像Pの結像には寄与せず、溝21側に導波されると、実鏡映像Pのコントラストを低下させる迷光となる。そこで、光吸収部5を傾斜面33、34と接するように配置することで、溝21側に導波される光をカットすることができる。
【0034】
低屈折率部4及び光吸収部5の構成、及びその形成方法は、上記で説明したものに限られない。以下、低屈折率部4及び光吸収部5の構成に係る変形例、及びその形成方法について説明する。
【0035】
第1の変形例としては、
図6(a)に示すように、垂直面32(31)に除去可能なシール材料Rmを1μm厚で予め成膜しておき、溝21を光吸収材料Amで充填し、充填された光吸収材料Amを硬化させた後、シール材料Rmを除去する形成方法が挙げられる。この形成方法によれば、
図5(b)に示すように、シール材料Rmが成膜されていた空間に、垂直面32(31)から厚さ1μm程度の隙間が設けられ、この隙間が低屈折率部4となり、また、上記隙間を除いて充填された光吸収材料Amが光吸収部5となる。この形成方法は、例えば、光吸収材料Amは溶解せず、シール材料Rmが溶解する所定の溶媒に、それらを浸してシール材料Rmのみを除去する方法等が挙げられる。
【0036】
この第1の変形例においても、低屈折率部4が2面コーナーリフレクタ30を成す垂直面32(31)と接しているので、全反射効率が向上し、実鏡映像Pを明るくすることができる。また、突状部3間には、光吸収部5が設けられているので、迷光を抑制し、実鏡映像Pのコントラストを向上させることができる。更に、この第1の変形例では、
図5に示した構成例に比べて、光吸収部5が溝21に占める割合が多いので、照明光といった環境光が溝21に入射すること自体を防ぎ、白ボケの発生を効果的に抑制することができる。
【0037】
第2の変形例として、
図7(a)に示すように、複数の突状部3間の溝21に、略球状の光吸収粒子5sを充填する方法が挙げられる。光吸収粒子5sには、例えば、樹脂やカーボン等が用いられ、架橋ポリマー微粒子にカーボンブラックを内包させた粒子が特に好ましい。光吸収粒子5sの粒径は、その下限が1μm以上、好ましくは2μm以上である。光吸収粒子5sの粒径の上限は、少なくとも溝21の最大幅より小さければよく、溝21への充填性を考慮して、10μm以下であることが好ましい。
【0038】
この第2の変形例では、光吸収粒子5sの一部は、垂直面32(31)にも付着する。しかしながら、
図7(b)に示すように、光吸収粒子5sは略球状なので、光吸収粒子5sと垂直面32(31)とが接する箇所は僅かであり、光吸収粒子5sと垂直面32との間には、多数の隙間(空気)が存在する。従って、この隙間が、低屈折率部4として機能する。なお、低屈折率部4は、上述したように、2面コーナーリフレクタ30を成す垂直面31、32の表面から1μm以上の厚みを有する部分が、垂直面31、32の全面積の50%以上となるように形成されていればよく、低屈折率部4の厚みが部分的に1μm以下となる場合があってもよい。この第2の変形例によれば、複数の突状部3間の溝21に、略球状の光吸収粒子5sを充填するという簡易な方法により、低屈折率部4及び光吸収部5を形成することができる。また、上記構成例と同様に、実鏡映像Pの結像に寄与しない迷光を抑制して立体映像のコントラストを向上させる共に、複数の2面コーナーリフレクタ30間における光の乱反射を抑制して、白ボケを低減することができる。
【0039】
第3の変形例として、
図8に示すように、複数の突状部3を一括して覆う透明パネル6を更に有し、光吸収部5を、透明パネル6のうち、複数の突状部3間の溝21と対向する領域に形成する方法が挙げられる。透明パネル6には、ガラスやアクリル樹脂やガラスと透明材料が用いられる。
【0040】
この形成方法では、例えば、複数の突状部3間の溝21のパターンをスキャンし、同一のパターンを透明パネル6上に光吸収材料(インク)で印刷したものを、複数の突状部3間の溝21と精密に位置合わせをした上で張り合わせる。なお、実用上問題ない程度であれば、印刷パターンが実際の溝パターンと多少異なっていてもよく、張り合わせに際して多少の位置ズレがあってもよい。例えば、印刷した溝パターンの幅について、実際の溝21の幅と比べて±20μm程度の誤差があってもよく、張り合わせの際の位置ズレが±20μm程度あってもよい。
【0041】
第3の変形例では、複数の突状部3間の溝21と透明パネル6に形成された光吸収部5とで囲われた空間が、低屈折率部4となる。この第3の変形例でも、上記構成例と同様に、また、上記構成例と同様に、実鏡映像Pの結像に寄与しない迷光を抑制して立体映像のコントラストを向上させる共に、複数の2面コーナーリフレクタ30間における光の乱反射を抑制して、白ボケを低減することができる。
【0042】
また、上述した各構成例では、溝21内に3次元的に光吸収部5を形成する必要があったのに対して、一方、第3の変形例によれば、光吸収部5を平面状の透明パネル6上に印刷するので、実質的に2次元的に光吸収部5を形成することができ、低屈折率部4及び光吸収部5を簡易に形成することができる。
【0043】
第4の変形例は、
図9に示すように、突状部3を立方体としたものであり、上記構成例における傾斜面33、34が存在せず、突状部3の側面を構成する4面がいずれも垂直面(図例では、垂直面36)である。また、垂直面36側にも低屈折率部4が設けられている。上述した傾斜面33、34を有する構成例では、垂直面31、32の内角と対向する方向にある被観察物O(
図1参照)から発せられた光を垂直面31、32で2回反射させて、実鏡映像Pを結像させる。一方、この第4の変形例では、垂直面31、32の内角とは反対方向からの光に対しても、垂直面36とこれと直交する垂直面(不図示)の2面コーナーリフレクタで反射して、実鏡映像を結像させることができる。
【0044】
次に、本発明の一実施形態に係る映像表示装置について、
図10を参照して説明する。映像表示装置10は、上述した光学素子1を具体的に適用したものであり、上面に開口部11を有する箱体12と、箱体12の内側面に設けられた映像表示部13と、を備える。光学素子1は、箱体12の開口部11に取り付けられている。図例では、映像表示部13は、例えば、液晶ディスプレイ装置が用いられ、図例では、文字「A」を上下反転させた倒立姿勢で表示している。映像表示部13から出射された光は、光学素子1により屈曲反射され、文字「A」の実鏡映像を結像させる。観察者は、映像表示装置10の斜め上方位置に視点Epを置いて光学素子1を覗き込んだ際に、文字「A」の実鏡映像を空中映像として視認することができる。
【0045】
本発明は、上記実施形態及び各種変形例に限られず、種々変形が可能である。上記実施形態及び変形例では、いずれも突状部3が、4面の側面を有する角錐台形状又は立方体形状のものを挙げたが、2面の垂直面と光を出射する上面を有していればよく、例えば、三角錐台形状、又は五角以上の角錐台形状形であってもよい。また、光吸収部5は、垂直面31、32との間に低屈折率部4が形成されるように、複数の突状部3間に存在していれば、必ずしも上述した構成例に限られない。また、低屈折率部4は、屈折率の低い空気を主たる媒体とすることが最も好ましいが、突状部3自体の屈折率よりも低屈折率の透光性樹脂、中空シリカ粒子、又はメソポーラスシリカ粒子等が適宜に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 光学素子
10 映像表示装置
2 基盤
3 突状部
30 2面コーナーリフレクタ
31、32 垂直面(側面)
33、34 傾斜面(側面)
4 低屈折率部
5 光吸収部
5s 光吸収粒子(粒子)
6 透明パネル