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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】人工衛星の試験装置
(51)【国際特許分類】
   B64G 7/00 20060101AFI20221004BHJP
【FI】
B64G7/00 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020026931
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021130396
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2021-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】592070579
【氏名又は名称】山田技研株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087169
【弁理士】
【氏名又は名称】平崎 彦治
(72)【発明者】
【氏名】山田 忠幸
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-107273(JP,A)
【文献】特開2007-137301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地球を周回する3Uと称される超小型に属する人工衛星の耐久性をテストする為の試験装置において、該試験装置は真空圧力に耐えて100℃の高温から-30℃の低温に耐える材料から成る真空容器を有し、真空容器内には試験体である衛星や部品を収容する試験台を備え、そして、試験体を上記温度に加熱する加熱手段と冷却する冷却手段を設け、また真空容器内を真空にする真空手段を備え、試験に要する電力は、AC-100V・15A以下とし、上記真空容器、真空手段、及び加熱/冷却手段を一体化して構成し、しかも移動を可能としていることを特徴とする人工衛星の試験装置。
【請求項2】
加熱手段として、試験台に一体化したヒーターを設けた請求項1記載の人工衛星の試験装置。
【請求項3】
加熱手段として、真空容器内上に取付けた赤外線ヒーターを用いた請求項1記載の人工衛星の試験装置。
【請求項4】
冷却手段として、不凍液を循環する冷却配管を試験台に一体化した請求項1、請求項2、又は請求項3記載の人工衛星の試験装置。
【請求項5】
真空手段として、小形の真空ポンプ2台を設定時間毎に交互に連続稼働運転する方法で真空を維持するようにした請求項1、請求項2、請求項3、又は請求項4記載の人工衛星の試験装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
地球を周回する人工衛星は、太陽輻射熱による高温と宇宙放射熱による低温を繰り返す環境に置かれるが、本発明は人工衛星の耐久試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球を周回する人工衛星は太陽輻射熱による高温と宇宙放射熱による低温を地球周回時間に合わせて繰り返される。近年、超小型人工衛星を小型ロケットで地球周回軌道に運ぶ事例が急速に増加して来ている。
しかし、本格的な推進力を持たない超小型衛星の寿命は短くて数年程で、長くて10年程度とされる。
【0003】
ところで、地球を周回する人工衛星の耐久年数を向上する為に、従来では太陽輻射熱には大容量のキセノンラプ等、紫外線を含む輻射熱源を使用し、冷却は宇宙温度の再現に液体窒素等を用いるが、熱遮蔽膜で覆って地球を周回する衛星の内部温度は一般的に-20~+80℃の範囲と言われている。
大型の人工衛星はサイズが大きく大規模な熱真空試験装置、例えば直径3~4m奥行5mを超える真空槽が必要で、高真空に加え冷却と加熱の運転に大きな電力と多額な維持費が必要になる。
【0004】
近年、超小型人工衛星を小型ロケットで地球周回軌道に運ぶ事例が急速に増加してきている。例えば10cm角×長さ30cmの3Uと言われる衛星がその例であり、現在それらの多くは大学などの実験衛星が主体で、人類に有益な観測や通信手段としての役割を目指している。
超小型衛星の製造過程で必要となる熱真空試験を大規模な試験装置の空き時間を利用して行っている為、研究や製造が進まない状況にある。そこで、将来予測される超小型衛星の大量生産に対応できる小型熱真空試験装置が必要となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、地球を周回する衛星には、太陽輻射熱による高温と宇宙放射熱による低温が繰り返し負荷される。その為に、衛星の寿命並びに耐久年数は短い。
本発明が解決しようとする課題はこの問題であり、衛星の研究並びに生産スピードが速くなり、将来の量産化に繋がるように耐久性の高い人工衛星の試験装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本格的な推進力を持たない超小型衛星の寿命は数年、長くて10年程度と言われ、特に短い耐久性の衛星を対象とし、小型で簡易に試験が行える試験装置の実現に際し、次の要点を踏まえ使い易い装置として設計している。
したがって、超小型衛星の研究並びに生産スピードが速くなり、将来の量産化に繋がる。
【0007】
(要点1)大学や企業の研究室の空きスぺースに設置して試験が行えること。
(要点2)小型軽量で移動台車と一体化する事で必要な場所へ簡単に移動できること。
(要点3)稼働に要する電力はAC100V・15A以下とし、実験室のコンセントで運用出来るようにする。
(要点4)高温と低温の熱サイクル試験の時間は、小型衛星の地球周回時間約90~100分を参考に行う。
(要点5)温度試験は輻射加熱と放射冷却ではなく、-30~+100℃(好ましくは-20~+80℃)の範囲で直接熱を伝える方法を主とする。
(要点6)真空容器の大きさは小型衛星を収容できる規模とする。
以上の要点を踏まえて設計と製作を進める。
【0008】
熱真空試験装置に必要な機構要素を検討し、設計の要点を検討した結果、次の様になった。
(1)真空容器
真空圧力に耐え、高温100℃/低温-30℃に耐える容器材料の選定、並びに、3U衛星や部品を真空容器内に収納して熱を伝える試験台、試験体(衛星)を真空容器に容易に取付け、容易に取出し可能な構造としている。
(2)加熱方法
加熱は試験台に一体化したヒーターでの直接加熱、及び、真空容器内上に取付けた赤外線ヒーターによる輻射加熱の何れかで行えるよう設計を進める。(双方の加熱も可能)
(3)冷却方法
不凍液を循環する冷却配管を試験台に一体化し不凍液の循環で試験台を冷却するに当たり、小型の冷凍機と不凍液槽を組み合わせた冷凍液ユニットを設計、不凍液槽内には撹拌ポンプと冷却循環ポンプを設け、撹拌ポンプで液槽内温度を均一に保ち、冷却循環ポンプで試験台の冷却配管に冷却溶液を循環する方法で設計を行う。
(4)真空方法
小形の真空ポンプ2台を設定時間毎に交互に連続稼働運転する方法で真空を維持する。
(5)制御装置
電源はAC100Vを利用、冷凍機は不凍液槽に取り付ける温度SWで単独制御とし、加熱用電気ヒーターの制御と撹拌ポンプ・冷却循環ポンプ・真空ポンプ2台を小型衛星の地球周回時間を参考に加熱と冷却の制御を行う。
【発明の効果】
【0009】
本発明の試験装置を用いて、地球を周回する衛星の耐久性を簡単に調べることが出来る。
すなわち、人工衛星は太陽輻射熱による高温と宇宙放射熱による低温を地球周回時間に合わせて繰り返されるが、この試験装置を用いてテストすることで、該衛星の耐久性を知ることが出来る。そして、テスト結果を基にして衛星の寿命を延ばすように改良され、将来の量産化に繋がり、耐久性に優れて寿命の長い衛星を量産することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】真空槽閉側面
図2】真空槽開側面
図3】真空槽平面図
図4】試験台底面図
図5】全体平面図
図6】全体正面図
図7】全体左側面図
図8】全体右側面図
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1図8は本発明に係る人工衛星の試験装置を示す実施例である。
A.真空容器
真空容器1は外径216.3mm、t2.8mm、長さ500mmのSUS管を使用、両端にt8mmのSUSフランジが取り付けられている。図1は真空槽閉側面図であり、同図に示すガラス窓5から内部状態を目視できる。
真空槽保持フランジ3と真空容器フランジ2をフランジ締付ボルト4で繋ぎ、真空槽を密閉している。
【0012】
真空槽保持フランジ3に真空引接続管34、加熱電極24,25、 計測電源電極26,27、冷却管貫通金具12を取付けている。
3U衛星や試験部品を乗せる試験台8は、試験台の自重を支える試験台支持板9で保持、試験台支持車10で試験品の重量を支え、そして加重調整バネで試験台8に掛かる異常な荷重を避ける構造としている。
【0013】
完全に密閉する真空容器内で電気的に動作する「試験体36」の情報は、無線送信機能を持つ「真空容器内計測器30」に有線で送り(無線も可能)、真空容器外の「無線器29」で受信する。「試験体36」の動作条件を外部から与える場合も無線で行う。
試験台8の材質は熱伝達率の良い厚み3mmの銅板を使用し、冷却管11、ヒーター31を取り付けている。
真空容器1の開閉は、真空容器1に一体化した「真空槽移動車6」が移動レール7の上を移動し、真空槽閉側面図 (図1)の状態から真空槽開側面図(図2)のように移動する。
【0014】
B.加熱方法
電気ヒーター31を「試験台8」に直接取付て加熱する方法と、試験容器内の上部に取付けた「輻射ヒーター37」の何れかを加熱する構造とし、「輻射ヒーター37」を使用する場合、片面は冷却、反対面は加熱を行い、試験体を冷却と加熱で挟む試験を可能とした。
【0015】
C.冷却方法
不凍液を循環する「冷却配管11」を「試験台8」に一体化し試験台を冷却する。不凍液の冷却は、小型の「冷凍機19」で圧縮した冷媒ガスが「不凍液槽15」内の「不凍液冷却管16」で膨張して生じる-40℃で不凍液を-30℃に冷却する。
組み合わせた冷凍液ユニットを設け、「不凍液槽15」内に「撹拌ポンプ17」と「冷却ポンプ18」を設け、撹拌ポンプで液槽内温度を均一に保ち、「冷却ポンプ17」で「試験台8」の冷却配管に冷却溶液を循環して「試験台8」を冷却する。 不凍液温度は-30℃を自動で維持し、「冷却ポンプ18」による不凍液の循環で「試験台8」は-20℃以下に冷却される。
【0016】
D.真空方法
試験体を「真空容器1」に入れて真空状態で加熱・冷却を行う場合、試験体を構成する樹脂や接着剤等から出てくる微小な揮発性ガスなどで真空度が低下することがあり「真空ポンプ20」は連続運転を行うものとするが、1台の真空ポンプを連続稼働すると異常に加熱する恐れがあり、2台を交互に連続運転する方法で製作している。
【0017】
E.制御装置
電源はAC100Vを使用、「冷凍機19」の制御は不凍液槽に取り付ける-30℃設定(可変式)の温度SWで単独制御を行う。
運転開始条件、年月日時分を設定、不凍液温度-25℃以下、真空度3以下、の状態を確認して加熱冷却の運転開始操作を受け付ける。
加熱制御は、試験台8に取り付けてある温度センサー38で「ヒーター37」の通電を80℃(設定値可変)で制御する。温度センサー38が故障した場合は、95℃設定の「サーモスイッチ39」で温度異常上昇を防ぐ。
冷却制御は、「冷却ポンプ18」を運転して「冷却管11」に-30℃の冷却液を循環して冷却する。
【0018】
次に、運転時にAC100Vから供給する最大電流値を求める。
「冷凍機19」の消費電力は400Wで電流値は5.5A、「真空ポンプ20」1台運転の消費電力は190Wで運転電流は2.5A、加熱用「ヒーター31」の電力は120wで1.2A、「撹拌ポンプ17」は10wで0.2A、循環ポンプは20wで0.35A電子回路を含む制御に要する電力は約20Wで0.25A、合計10Aであった。
「輻射ヒーター37」は加熱用「ヒーター31」と同じ120wで、輻射ヒーターを使用する場合は加熱用「ヒーター31」は使用しないので、AC100Vの合計電流は変わらない。
【0019】
AC100Vのコンセントから電源を取り出す場合、10Aの電流を連続して長時間使い続けるとコンセントの温度が上昇する可能性が高く、安全を期して次の様にコンセントを2つに分けた。
「冷凍機19」は専用の温度SWで単独運転するので単独コンセントとした。その他の機器は別コンセントで供給した。
これにより、コンセントの発熱量は約1/4に抑制され、数か月から1年を超える長時間運転を安心して行える。
【0020】
F.加熱冷却第二の方法
「試験台8」を加熱/冷却して試験する場合、試験体に加わる熱は試験台に直接接触する部分が最も熱が伝わり、離れている部分の温度変化は緩慢になる欠点がある。そのため、試験台の温度が試験体の四方からの輻射/放熱で加熱/冷却されれば温度ムラが小さくなるので、必要に応じて「試験台8」に銅又はアルミなど熱伝導の良い「伝熱補助板40」を取り付ける。その際、「輻射ヒーター37」は取り外せるようにしてある。
【符号の説明】
【0021】
1 真空容器
2 真空容器フランジ
3 真空槽保持フランジ
4 フランジ締付ボルト
5 ガラス窓
6 真空槽移動車
7 移動レール
8 試験台
9 試験台支持板
10 試験台支持車
11 冷却管
12 冷却管貫通金具
13 冷却液槽点検蓋
14 冷却液槽収納断熱箱
15 冷却液槽
16 不凍液冷却管
17 攪拌ポンプ
18 冷却ポンプ
19 冷却機
20 真空ポンプ
21 不凍液温度計
22 真空計
23 真空センサー
24 加熱電極+
25 加熱電極-
26 計測電源電極+
27 計測電源電極-
28 冷却樹脂管
29 無線機
30 真空容器内計測器
31 ヒーター
32 透明保護カバー
33 加重調整バネ
34 真空引接続管
35 真空引管
36 試験体
37 輻射ヒーター







図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8