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特許7152050幹細胞からドーパミン神経前駆細胞の分化誘導方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】幹細胞からドーパミン神経前駆細胞の分化誘導方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0793 20100101AFI20221004BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20221004BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20221004BHJP
   C12N 5/074 20100101ALN20221004BHJP
   C12N 1/00 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C12N5/0793 ZNA
A61K35/30
A61P25/16
C12N5/074
C12N1/00 F
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020518613
(86)(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-31
(86)【国際出願番号】 KR2020004065
(87)【国際公開番号】W WO2021060637
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2020-03-31
(31)【優先権主張番号】10-2019-0118370
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2020-0027801
(32)【優先日】2020-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517119589
【氏名又は名称】エス-バイオメディックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】チョ,ミョン ス
(72)【発明者】
【氏名】オム,ジャン ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ナム,スン テク
【審査官】佐久 敬
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-501194(JP,A)
【文献】特表2012-510805(JP,A)
【文献】国際公開第2017/183736(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0793
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次のステップを含む幹細胞からドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)への分化誘導方法:
a)BMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤を添加することにより、幹細胞(stem cells)を単一細胞層の形態に培養するステップ;
b)BMP信号経路抑制剤、アクチビン/ノーダル信号経路抑制剤、SHH(sonic hedgehog)信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤を添加することにより、胚芽体(Embryoid Body)を形成させて維持培養するステップ;
c)神経ロゼット(neural rosette)を形成させるステップ;及び
d)神経ロゼットをドーパミン神経前駆細胞に分化させるステップ。
【請求項2】
前記方法は次のステップをさらに含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
e)ドーパミン神経前駆細胞を継代培養して増殖させるステップ。
【請求項3】
前記幹細胞は、胚芽幹細胞(Embryonicstem cells)、誘導多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells、iPSCs)、成体幹細胞(Adult stem cells)、核置換胚芽幹細胞(Somatic cell nuclear transfer embryonic stem cell)、または直接分化法(direct reprogramming)により生成される幹細胞であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は細胞外基質(extracellular matrix;ECM)で培養することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記a)ステップはステップの終了日から1-3日前から1日毎にBMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記b)ステップはステップの開始日から1日毎にBMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤を添加し、ステップの開始日から2-6日目に1日毎にSHH(sonic hedgehog)信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記c)ステップはステップの開始日から1日毎にSHH信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記d)ステップはステップの開始日から1日毎にSHH信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤を添加することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記d)ステップはステップの開始日から1日毎に培地を交替し、3日毎に継代培養して遂行されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記BMP信号経路抑制剤はドルソモルヒネ(dorsomorphin)であり、前記アクチビン/ノーダル信号経路抑制剤は4-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2イル)-ベンズアミド(SB431542)であることを特徴とする、請求項5または6に記載の方法。
【請求項11】
前記SHH信号経路活性剤はSAG(Smoothened Agonist)であり、前記GSK-3抑制剤はCHIR99021であることを特徴とする、請求項6から8のうち、いずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記方法はドーパミン神経前駆細胞への分化率が80%以上であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ドーパミン神経前駆細胞はFOXA2及び/又はLMX1A発現が増加したことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ドーパミン神経前駆細胞はパーキンソン病の症状を緩和させるものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
次のステップを含むドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)の大量生産方法:
a)BMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤を添加することにより、幹細胞(stem cells)を単一細胞層の形態に培養するステップ;
b)BMP信号経路抑制剤、アクチビン/ノーダル信号経路抑制剤、SHH(sonic hedgehog)信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤を添加することにより、胚芽体(Embryoid Body)を形成させて維持培養するステップ;
c)神経ロゼット(neural rosette)を形成させるステップ;
d)神経ロゼットをドーパミン神経前駆細胞に分化させるステップ;及び
e)ドーパミン神経前駆細胞を継代培養して増殖させるステップ。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は幹細胞由来中脳特異的ドーパミン神経前駆細胞の分化誘導及び大量生産方法に関する。
【0002】
本発明は大韓民国保健福祉部の支援下で課題番号HI18C0096によりなされたものであって、前記課題の研究管理専門機関は韓国保健産業振興院、研究事業名は“先端医療技術開発”、研究課題名は“機能及び効能基盤全能幹細胞由来パーキンソン病細胞治療剤開発”、主管機関は株式会社エスバイオメディックス、研究期間は2018.04.30.~2022.12.31.である。
【0003】
本特許出願は2019年9月25日付で大韓民国特許庁に提出された大韓民国特許出願第10-2019-0118370号に対して優先権を主張し、前記特許出願の開示事項は本明細書に参照として挿入される。
【0004】
〔背景技術〕
幹細胞(stem cell)とは、組織を構成する各細胞に分化(differentiation)される前段階の未分化細胞を総称し、特定分化刺激(環境)により特定細胞に分化が進行される。幹細胞はこれ以上分裂しない完全に分化された細胞とは異なり、細胞分裂により自身と同一な細胞が生産(self-renewal)できるので増殖(proliferation;expansion)する特性があり、また分化刺激が加えられれば特定細胞に分化されるが、他の環境または他の分化刺激により他の細胞にも分化できるので、分化に柔軟性(plasticity)を有していることが特徴である。
【0005】
現在幹細胞は細胞治療剤として脚光を浴びているが、神経細胞の損傷により誘発される多様な神経疾患(neurological diseases)の細胞治療剤としても多くの研究がなされている。特に、脳神経系疾患は他のどの疾病より細胞移植治療に最も適切な対象と見なされるが、これは脳神経系組織が他の組織とは異なり、免疫拒否反応がほとんどなくて、外部から細胞を移植した時、移植された細胞の長期間生存を期待することができるためである。
【0006】
一方、細胞治療剤としての幹細胞の有用性を高めるためには幹細胞を効率よく特定細胞に分化させる技術及び所望の時期に特定細胞が供給できる技術が必要である。
【0007】
しかしながら、現在まで幹細胞を臨床に適用できる水準の高収率で特定細胞(特に、ドーパミン神経細胞)に分化する技術及び適正段階で細胞を保管する技術は開発されていない状況である。
【0008】
〔発明の概要〕
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明者らは脳神経系疾患のための細胞治療剤を開発するために幹細胞を中脳-特異的ドーパミン神経前駆細胞に分化誘導させることができる製造方法を開発するために努力した。その結果、中脳特異的ドーパミン神経前駆細胞を臨床に適用できる程度の高収率で大量生産できる方法を考案することによって、本発明を完成するようになった。
【0009】
したがって、本発明の目的は幹細胞からドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)への分化誘導方法を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、ドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)の大量生産方法を提供することにある。
【0011】
〔課題を解決するための手段〕
本発明者らは脳神経系疾患のための細胞治療剤を開発するために幹細胞を中脳-特異的ドーパミン神経前駆細胞に分化誘導させることができる製造方法を開発するために努力した。その結果、中脳-特異的ドーパミン神経前駆細胞を臨床に適用できる程度の高収率で大量生産できる方法を考案した。
【0012】
また、本発明者らは分化誘導された中脳-特異的ドーパミン神経前駆細胞を適正段階で作業用細胞銀行(working cell bank、WCB)に貯蔵できる効率的な方法を糾明した。
【0013】
本発明は幹細胞からドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)への分化誘導方法及びドーパミン神経前駆細胞の大量生産方法に関するものである。
【0014】
以下、本発明をより詳細に説明しようとする。
本発明の一様態は次の段階を含む幹細胞からドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)への分化誘導方法に関するものである。
a)幹細胞(stem cells)を単一細胞層の形態に培養するステップ;
b)胚芽体(embryoid body)を形成させて維持培養するステップ;
c)神経ロゼット(neural rosette)を形成させるステップ;及び
d)神経ロゼットをドーパミン神経前駆細胞に分化させるステップ。
【0015】
以下、本発明のドーパミン神経細胞製造方法に対して詳細に説明する。
a)ステップ
【0016】
本ステップは未分化幹細胞ステップでBMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤で前処理して幹細胞に刺激を加える過程である。本過程により幹細胞は前記物質で前処理されない幹細胞に比べて外胚葉(ectoderm)、特に神経外胚葉(neurectoderm)への分化効率が増加する。
【0017】
前記幹細胞は胚芽幹細胞(embryonic stem cells)、誘導多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells、iPSCs)、成体幹細胞(Adult stem cells)、核置換胚芽幹細胞(Somatic cell nuclear transfer embryonic stem cell)、または直接分化法(direct reprogramming)により生成される幹細胞でありうる。
【0018】
本ステップは5-9日または8日間遂行されるものでありうるが、これに制限されるのではない。
【0019】
前記範囲で分化を進行すれば胚芽体形成にコラーゲナーゼを使用しない方法により胚芽体を得ることができ、前記範囲から外れる場合、目的細胞でない自然分化が起こるか、または分化の次のステップである胚芽体形成に問題が発生することがある。一方、使われる幹細胞種類によって作用する期間が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に最適期間を設定することができる。
【0020】
本ステップはステップの終了日から1-3日前から1日毎にBMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤が添加されるものでありうるが、これに制限されるのではない。
【0021】
前記BMP信号経路抑制剤はドルソモルヒネ(dorsomorphin)、Smad6、Smad7、ノギン(Noggin)、コルジン(Chordin)、グレムリン (Gremlin)、Sog(shortgastrulation)、フォリスタチン(Follistatin)、DAN(differential screening=selected gene aberrant in neuroblastoma)、ケルベルス(Cerberus)、ダンテ(Dante)及び/又はPRDC(Protein Related to DAN and Cerberus)でありうるが、当業界に公知されている多様なBMP信号経路抑制剤は選択的に制限無しで使われることができる。
【0022】
本発明で“ドルソモルヒネ(dorsomorphin)”はBMP信号経路を抑制する物質であって、BMP自体を抑制するか、またはBMPがBMP受容体に結合することを抑制する役割をする。
【0023】
前記ドルソモルヒネは次のような化学式1で表示することができる:
【0024】
【化1】
【0025】
本ステップで添加されるBMP信号経路抑制剤の濃度は1.0乃至20.0uM、4.0乃至6.0uM、または5.0uMでありうるが、これに制限されるのではない。
【0026】
前記範囲から外れる場合、細胞死滅が起こる問題がある。一方、使われる幹細胞の種類によって作用する濃度が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に各々の最適濃度を設定することができる。
【0027】
前記アクチビン/ノーダル信号経路抑制剤は4-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2イル)-ベンズアミド、Smad6、Smad7、及び/又はフォリスタチン(Follistatin)でありうるが、当業界に公知されている多様なアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤は選択的に制限無しで使われることができる。
【0028】
本発明で“4-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2イル)-ベンズアミド”は当業界でSB431542として知られており、アクチビン/ノーダル(Activin/Nodal)信号経路を抑制する物質であって、アクチビン/ノーダル自体を抑制するか、またはアクチビン/ノーダルがその受容体に結合することを抑制する役割をする。
【0029】
前記4-(5-ベンゾ[1,3]ジオキソール-5-イル-4-ピリジン-2-イル-1H-イミダゾール-2イル)-ベンズアミドは次のような化学式2で表示できる:
【0030】
【化2】
【0031】
本発明において、前記化学式1で表示される化合物はSB431542と混用して使われる。
【0032】
本ステップで添加されるアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤の濃度は1.0乃至50.0uM、4.0乃至6.0uM、または5.0uMでありうるが、これに制限されるのではない。
【0033】
前記範囲から外れる場合、細胞死滅が起こる問題がありうる。一方、使われる幹細胞の種類によって作用する濃度が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に各々の最適の濃度を設定することができる。
【0034】
本ステップはTeSR2細胞培養培地で培養されるものでありうる。これは臨床進入及び細胞治療剤に使用するためであり、TeSR2細胞培養の培地だけでなく、臨床進入可能な幹細胞培養液は選択的に制限無しで使われることができる。
【0035】
b)ステップ
【0036】
本ステップは胚芽体(Embryoid Body)を形成させ、形成された胚芽体を培養させながらSHH(sonic hedgehog)信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤で処理して胚芽体に刺激を加える過程である。本過程により胚芽体は前記物質で処理できない胚芽体に比べてドーパミン神経前駆細胞への分化収率が増加する。
【0037】
本発明で“胚芽体(Embryoid Body)”は胚芽幹細胞に代表される全能幹細胞の3次元集合体を意味し、全能幹細胞は胚芽体を通じて初期胚芽発生ステップの分化過程を再現することができ、内胚葉、中胚葉、外胚葉の全ての三胚葉性体細胞に分化可能である。
【0038】
本ステップは3-6日、4日、5日、または6日間遂行されるものでありうるが、これに制限されるのではない。
【0039】
前記範囲で遂行される場合、ドーパミン神経前駆細胞分化率(収率)が極大化できる効果があり、前記範囲から外れる場合、胚芽体状態に悪影響を及ぼして分化率が低調になる問題がありうる。一方、使われる幹細胞種類によって作用する期間が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に最適の期間を設定することができる。
【0040】
本ステップはステップの開始日から1日毎にBMP信号経路抑制剤及びアクチビン/ノーダル信号経路抑制剤が添加されるものでありうる。これにより神経外胚葉への分化効率がより増加できる。
【0041】
また、本ステップはステップの開始日から2-6日目に1日毎にSHH信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤が添加されるものでありうるが、これに制限されるのではない。
【0042】
前記SHH信号経路活性剤は、SAG(Smoothened Agonist)、パルモルファミン(Purmorphamine)、ハルシノニド(Halcinonide)、フルチカゾン(Fluticasone)、クロベタゾール(Clobetasol)、及び/又はフルオシノニド(Fluocinonide)でありうるが、当業界に公知されている多様なSHH信号経路活性剤は選択的に制限無しで使われることができる。
【0043】
本発明で“SAG(Smoothened Agonist)”はSHH(sonic hedgehog)信号経路を活性化する低分子化合物で、SHHは神経外胚葉発生ステップで中脳腹側ドーパミン神経細胞の分化と分布に重要な役割をする。
【0044】
また、下記の実施例によれば、前記SAGはドーパミン神経前駆細胞の重要マーカーのうちの1つであるFOXA2発現を増加させる役割をする。FOXA2(winged helix/forkhead box A2)(HNF3beta)は転写因子(transcription factor)で、中枢神経系(central nervous system、CNS)発生に重要な役割をし、中脳特異的発達に関与するいろいろな遺伝子発現及び中脳特異的ドーパミン神経細胞生成に影響を及ぼす。
【0045】
一方、SHH信号経路活性剤は下記で説明するGSK-3抑制剤と連係して高収率の中脳特異的ドーパミン前駆細胞分化に関与するので、SHH信号経路活性剤単独使用では中脳特異的ドーパミン前駆細胞に分化が不可能である。
前記SAGは次のような化学式3で表示することができる:
【0046】
【化3】
【0047】
本ステップで添加されなるSHH信号経路活性剤の濃度は0.1乃至5.0uM、0.6乃至5.0uM、または1.0uMでありうるが、これに制限されるのではない。
【0048】
前記範囲から外れる場合、他の細胞に分化できる問題がある。一方、使われる幹細胞種類によって作用する濃度が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に最適の濃度を設定することができる。
【0049】
前記GSK-3抑制剤は6-[[2-[[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(5-methyl -1H-imidazol-2-yl)-2-pyrimidinyl]amino]ethyl]amino]-3-pyridinecarbonitrile(CHIR99021)、3-(2,4-Dichlorophenyl)-4-(1-methyl-1H-indol-3-yl)-1H-pyrrole-2,5- dione(SB216763)、N6-[2-[[4-(2,4-Dichlorophenyl)-5-(1H-imidazol-2-yl)-2-pyri midinyl]amino]ethyl]-3-nitro-2,6--pyridinediamine(CHIR98014)、TWS119、Tideglusib、3-[(3-Chloro-4-hydroxyphenyl)amino]-4-(2-nitrophenyl)-1H-pyrrol- 2,5-dione(SB415286)、(2’Z、3’E)-6-Bromoindirubin-3’-oxime(BIO)、Valproicacid、5-Iodo-7-β-D-ribofuranosyl-7H-pyrrolo[2,3-d]pyrimidin-4-amine(Iodotubercidin)、1-Azakenpaullone、クルクミン(Curcumin)、オランザピン(Olanzapine)、及び/又はピリミジン(Pyrimidine)でありうるるが、当業界に公知されている多様なGSK-3抑制剤は選択的に制限無しで使われることができる。
【0050】
本発明で“CHIR99021”はウィント/ベータ-カテニン(Wnt/beta-catenin)信号経路を活性化する低分子化合物(GSK-3抑制剤)で、ウィント/ベータ-カテニン信号は外胚葉及び神経発生ステップを調節し、SHHと共に中脳ドーパミン神経細胞の分化に重要な役割をする。
【0051】
また、下記の実施例によれば、前記CHIR99021はドーパミン神経前駆細胞の重要マーカーのうちの1つであるLMX1A及びEN-1の発現を増加させる役割をする。
【0052】
一方、GSK-3抑制剤は前記で説明したSHH信号経路活性剤と連係して高収率の中脳特異的ドーパミン前駆細胞分化に関与するので、GSK-3抑制剤単独使用ではドーパミン神経前駆細胞分化が不可能であり、後脳細胞側に徐々に発達し、処理を持続すれば細胞の増殖に関与するようになるが、移植時に安全性の問題が生じることがある。
【0053】
前記CHIR99021は、次のような化学式4で表示することができる:
【0054】
【化4】
【0055】
本ステップで添加されるGSK-3抑制剤の濃度は0.1乃至5.0uM、1.6乃至5.0uM、または2.0uMでありうるが、これに制限されるのではない。
【0056】
前記範囲から外れる場合、他の細胞に分化する問題がありうる。一方、使われる幹細胞種類によって作用する濃度が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に最適の濃度を設定することができる。
【0057】
本ステップはbFGFが含まれない(bFGF-free)ES細胞培養培地で培養されるものでありうるが、EB培養可能な培養液は選択的に制限無しで使われることができる。
【0058】
c)ステップ
【0059】
本ステップは神経ロゼット(neural rosette)を形成させる過程である。本過程により神経外胚葉細胞のうち、神経細胞側に分化が予定された細胞を増殖させ、選別できるようになる。
【0060】
本発明で“神経ロゼット(neural rosette)”はいろいろな種類の神経細胞になることができる運命を有する細胞集団を意味する。
【0061】
本ステップは、3-6日、4日、または5日間遂行されるものでありうるが、これに制限されるのではない。
【0062】
前記範囲から外れる場合、神経ロゼットが維持されなくて分化が進行されないか、または他の分化方向に進行される問題がありうる。一方、使われる幹細胞の種類によって作用する期間が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に最適の期間を設定することができる。
【0063】
本ステップはステップの開始日から1日毎にSHH信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤が添加されるものでありうる。これによって、よりいろいろな種類の神経細胞に分化可能な一般的な神経ロゼットとは異なり、ドーパミン神経前駆細胞になることができる運命を有する細胞を大量に得ることができる。
【0064】
本ステップはDMEM/F12細胞培養培地で培養されるものでありうるが、神経ロゼットが形成/維持可能な培養液は選択的に制限無しで使われることができる。
【0065】
前記細胞培養培地はN2 supplement CTS、human insulin及びbFGFを追加的に含むことができる。
【0066】
d)ステップ
【0067】
本ステップは神経ロゼットをドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)に分化させる過程である。本過程により神経ロゼットのみ選別して神経細胞を除外した他の分化細胞を排除し、より好ましくはドーパミン神経前駆細胞分化が強化できるようになる。
【0068】
本発明で“神経細胞(neural cells)”は神経系を構成する細胞で、ニューロン(neuron)と同一な意味として使われることができる。
【0069】
本発明で“ドーパミン神経細胞(dopaminergic neural cells)”は神経伝達物質であるドーパミン(dopamine)を分泌する神経細胞を意味する。
【0070】
本発明で“前駆細胞(precursor cells)”は完全に分化が終了した細胞の形質を発現する以前の分裂可能な細胞を意味し、”progenitors“、”precursors“及び”precursor cell“全て同一な意味として使われることができる。
【0071】
したがって、本発明で“ドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)”は生体内移植後、成熟ステップ(maturation)を経てドーパミンを分泌する神経細胞に分裂可能な細胞を意味する。
【0072】
本ステップは8-10日、または9日間遂行されるものでありうるが、これに制限されるのではない。
【0073】
前記範囲未満時、ドーパミン前駆細胞分化率が低くなることがあり、前記範囲超過時、大量生産が不可能でありうる。一方、使われる幹細胞の種類によって作用する期間が相異するので、前記範囲内で幹細胞別に最適の期間を設定することができる。
【0074】
本ステップはステップの開始日から1日毎にSHH信号経路活性剤及びGSK-3抑制剤が添加されるものでありうる。これにより分化日数が経るほど大部分の細胞(約80%以上まで)がドーパミン神経前駆細胞に分化できる。
【0075】
本ステップはステップの開始日から1日毎に培地を交替し、3日毎に継代培養して遂行されるものでありうる。これによりドーパミン神経前駆細胞を大量増殖させ、ドーパミン神経前駆細胞の状態を最上に維持することができ、分化率を高めることができる。
【0076】
本ステップはDMEM/F12細胞培養培地で培養されるものでありうるが、ドーパミン前駆細胞が分化/増殖可能な培養液は選択的に制限無しで使われることができる。
【0077】
前記細胞培養培地はN2 supplement CTS及びB-27 supplement CTSをさらに含むことができる。
【0078】
前記の方法は次のステップをさらに含むものでありうる。
【0079】
e)ドーパミン神経前駆細胞を継代培養して増殖させるステップ。
【0080】
e)ステップ
【0081】
本ステップはドーパミン神経前駆細胞を増殖させて大量生産する過程である。本過程により安定した細胞供給が可能であるだけでなく、ドーパミン神経前駆細胞の分化率を高めるようになる。
【0082】
前記方法により誘導されたドーパミン神経前駆細胞には分化率が80%以上でありうるが、これに制限されるのではない。
【0083】
前記方法により誘導されたドーパミン神経前駆細胞はFOXA2、LMX1A、及び/又はEn1発現が増加されたものでありうる。
【0084】
本発明の一実施例によれば、前記方法により誘導されたドーパミン神経前駆細胞はパーキンソン病の症状を緩和させるものでありうる。
【0085】
前記方法の各ステップの細胞培養には細胞外基質(extracellular matrix;ECM)がさらに含まれたものでありうる。これは未分化幹細胞及び神経細胞は自力で培養皿に付着して成長できないので、細胞外基質または他の支持細胞の助けを受けなければ維持培養できないためである。
【0086】
前記細胞外基質は、例えば、ラミニン(Laminin)でありうるが、これに制限されるのではない。細胞外基質はラミニンの他にも他の物質単独または混合して使用可能であり、幹細胞の種類によって他の細胞外基質を使用することができる。
【0087】
前記細胞外基質の濃度は3.5-5.5、4.0、または5.0ug/mLでありうるが、これに制限されるのではない。
【0088】
前記範囲から外れる場合、ドーパミン神経前駆細胞に分化不可能であるか、または付着力の問題によって製造過程上の問題が発生することがある。
【0089】
前記の方法により収得した神経前駆細胞は、特に神経退行性疾患、例えばアルツハイマー病、ハンティングトン疾病、パキスン氏疾病、及び筋萎縮性側索硬化症に適用されてこれらの疾患を治療することができる。
【0090】
本発明の他の様態は次のステップを含むドーパミン神経前駆細胞(dopaminergic neural precursor cells)の大量生産方法に関するものである。
a)幹細胞(stem cells)を培養するステップ;
b)胚芽体(embryoid body)を形成させて維持培養するステップ;
c)神経ロゼット(neural rosette)を形成させるステップ;
d)神経ロゼットをドーパミン神経前駆細胞に分化させるステップ;及び
e)ドーパミン神経前駆細胞を継代培養して増殖させるステップ。
【0091】
前記ドーパミン神経前駆細胞の大量生産方法において、前記ドーパミン神経前駆細胞の分化誘導方法と重複する内容は本明細書の複雑性を考慮して省略する。
【0092】
〔発明の効果〕
本発明は幹細胞からドーパミン神経前駆細胞の分化誘導方法及びドーパミン神経前駆細胞の大量生産方法に関するものである。本発明の方法を用いる場合、幹細胞を効率よく神経前駆細胞に分化させることができるところ、これを関連の研究開発及び製品化に有用に使用することができる。
【0093】
〔図面の簡単な説明〕
図1〕本発明の一実施例に従うドーパミン神経前駆細胞の分化誘導方法を模式化した図である。
図2a及び図2b〕本発明の一実施例に従って最適の幹細胞培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図3〕本発明の一実施例に従って最適の胚芽体培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図4a乃至図4c〕本発明の一実施例に従って胚芽体培養時、SAG及びCHIR99021の最適処理時期を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図5a及び図5b〕本発明の一実施例に従って胚芽体形成ステップの必要か否かを確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図6〕神経ロゼット形成時、最適の培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図7a及び図7b〕本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、最適の培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図8a乃至図8d〕本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、SAG及びCHIR99021の最適の処理期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図9a乃至図9c〕本発明の一実施例に従ってSAG及びCHIR99021の最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図10a及び図10b〕本発明の一実施例に従ってECMの最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図11a及び図11b〕本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の最終分化率を確認した図である。(11a:胚芽幹細胞由来、11b:誘導多能性幹細胞由来)
図12〕本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の大量生産を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図13a及び図13b〕本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の生体内(in vivo)効能を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
【0094】
〔発明を実施するための形態〕
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。これら実施例は専ら本発明をより具体的に説明するためのものであって、本発明の要旨によって本発明の範囲がこれら実施例により制限されないということは当業界で通常の知識を有する者において自明である。
【0095】
人間胚芽幹細胞(human Embryonic stem cells、hESC)培養
【0096】
ドーパミン神経細胞分化のための未分化されたhESCs(SNU32、ソウ大学校幹細胞銀行)はCELLstartコーティング培養皿でTeSR2(STEMCELL、SCR5860)培養液を使用して培養した。
【0097】
この際、未分化幹細胞は単一(monolayer)細胞層形態に培養した。7日間培養を原則とし、かつ90~95%位の細胞が増殖すればVersene(GIBC0、15040-066)を使用して4分間37℃培養基で反応後、スクラッパー(scraper)で細胞を回収し、15mlチューブに移した。1000Pピペットで 約8~12回ピペッティング後1:7割合(CELLstart-CTS coating dish基準)で継代培養し、7日間毎日24時間が経る前に培養液を交替して維持した。
【0098】
誘導多能性幹細胞(Induced pluripotent stem cells、iPSCs)培養
【0099】
前記hESC培養方法と同一な方法によりドーパミン神経細胞分化のための未分化されたiPSCs(hFSiPS1、国家幹細胞銀行、寄託機関:国立保健研究院難治性疾患課)を培養した。
【0100】
免疫細胞化学(Immunocytochemistry)分析
【0101】
細胞を4%パラホルムアルデヒ溶液に10分間固定させた。
【0102】
各々の抗体が細胞質内によく透過されるようにするために、0.1% Trition X-100(in PBS)溶液で15分間反応させ、2%ウシ血清アルブミン(BSA、in PBS)溶液で室温で1時間の間反応させた。
【0103】
次に、一次抗体(下記の表1参照)と4℃で細胞を結合させた。前記一次抗体が結合された細胞を確認するために、各々の一次抗体由来種に合う(下記の表1参照)二次抗体を使用した。
【0104】
最後に、細胞核を確認するために、4',6-ダイアミノ-2-フェニルインドール(DAPI)が含まれたPBSに10分間反応させて核染色を完了した後、蛍光顕微鏡を使用してイメージを獲得し、重要マーカーを確認及び分析した。
【0105】
【表1】
【0106】
遺伝子発現(Gene expression)分析(qRT-PCR)
【0107】
細胞を回収して総RNAはEasy-Spin Total RNA抽出キット(iNtRON Biotechnology)を使用して分離した。cDNAはPrimeScriptTMRT Master Mix(TAKARA Bio Inc.)を使用して総RNA 1ugで合成した。mRNA水準はSYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM(TAKARA Bio Inc.)及びCFX96 Real-Time System(Bio-Rad)を使用してリアルタイムRT-PCR分析で定量化した。遺伝子発現分析に使われたプリマーの序列は下記の表2に示した。
【0108】
【表2】
【0109】
実施例.ドーパミン神経前駆細胞への分化プロトコル
【0110】
前記で培養されたhESCまたはiPSCに対して、MCB(Master Cell Bank)を解凍した時点から2回継代培養で安定化を経て3回目継代培養皿を使用してドーパミン神経前駆細胞分化を始めた。
【0111】
3回目継代培養皿を作る日を分化開始日(d0)にして、分化6日目(d6)にhESC培養液(TeSR2、STEMCELL、SCR5860)に5uMのドルソモルヒネ(dorsomorphin、以下、DM)(Millipore、171260)及び5uMのSB431542(以下、 SB)(Sigma、S4317)を8日目まで2日間前処理して神経外胚葉への分化占有度を高めた。
【0112】
分化8日目(d8)に単一細胞層形態に培養中であるhESCに対して、1ml 26G注射器を使用して1.5mm間隔で碁盤形態(格子)を作り、約30分間37℃培養基に入れて放置するか、またはコラゲナーゼ(Collagenase;Animal Origin Free(CLSAFC)、Worthington、LS004138)を2ml入れて、約5分間37℃培養基に入れて反応させて胚芽体の土台になる1.5mm正方形細胞シートを形成して胚芽体(Embryoid Body;以下、EB)を誘導し、bFGF-free hESC培養液(EB培養液)で培養した。この際、前処理15uM DM及び5uM SBは分化12日目まで4日間処理し、分化10日目(d10)から12日目(d12)まではドーパミンパターニング因子1.0uM SAG(smoothened agonist、Millipore、566661、以下、SAG)及び2.0uM CHIR99021(Milteny、130-106-539)をさらに前処理して中脳ドーパミン神経前駆細胞の占有度を高めた。
【0113】
分化12日目(d12)に20ug/mLヒトインシュリン溶液及び20ng/ml bFGFが添加されたDMEM/F12培養液(mN2+b)を使用してLaminin-521-コーティング培養皿に前記ステップで形成されたEBを付着(pEBステップ)し、5日間ドーパミンパターニング因子1.0uM SAG(smoothened agonist)及び2.0uM CHIR99021を処理した。
【0114】
分化17日目(d17)に付着されたEBで形成された神経ロゼットをアキュターゼ(Accutase;Millipore、SCR003)で2分間処理する方法、またはガラスピペットを加工して研究者が直接分離する方法を使用して別途のLaminin-521コーティング培養皿に再付着した。再付着時、培養液はドーパミン神経前駆細胞培養液に使用中であるN2(N-2 supplement、CTS等級、GIBCO、A1370701、以下、N2)及びB27(B-27 supplement xenofree、CTS等級、GIBCO、A1486701、以下、B27)が添加されたDMEM/F12培養液(N2B27培養液)に1.0uM SAG及び2.0uM CHIR99021を追加した培養液を使用するが、再付着する時は10uM Y27632を追加して1時間の間細胞の付着を助けて、1時間後Y27632のない培養液に再交替してくれた。20日目(d20)まで毎日24時間が経る前に培養液を交替し、ドーパミン神経前駆細胞分化を続けて誘導した。この際、アキュターゼを処理する場合には神経ロゼットを除外した他の細胞を分離除去し、スクラッパーを使用して神経ロゼット塊りのみ15mlチューブに移し200Pピペットでピペッティング約40回に細かく壊してLaminin-521コーティング培養皿に再付着した。また、ガラスピペットを使用する方法は実体顕微鏡下でロゼット部分のみガラスピペットに落とし、浮遊させて15mlチューブに移した後、200Pピペットでピペッティング約40回に細かく壊してLaminin-521コーティング培養皿に再付着した。
【0115】
分化20日目(d20)にアキュターゼを使用してドーパミン神経前駆細胞を単一細胞に分離し、N2B27培養液に1.0uM SAG及び2.0uM CHIR99021を追加した培養液で4.0x10cells/35mm dish密度でLaminin-521コーティング培養皿に再付着した。毎日培養液を交替し、3日間隔で4.0x10cells/35mm dish密度でLaminin-521コーティング培養皿に再付着して細胞を大量増殖させた後、26日目(d26)にWCB(Working Cell Bank)を製造した。
【0116】
[臨床進入]26日目に製造されたWCBから再付着方法のようにアキュターゼを使用してドーパミン神経前駆細胞を単一細胞に分離し、3.0x10cells/vial単位または凍結液で保証する範囲内に分株してバイアル(vial)を製造した。
【0117】
[移植細胞準備]WCBを解凍して9日後使用した。35mm培養皿基準4.0x10細胞が必要であるので、2バイアル(3.0x10cell基準)を使用してトリパンブルー溶液を使用して細胞個数を把握し、生きている細胞4.0x10個を35mm Laminin-521コーティング培養皿に付着した後、N2B27培養液で総分化35日目(d35)まで毎日培養液を交替して培養した。この時にも35日目まで3日間隔で再付着する方法を使用して分化誘導及び増殖させた。
【0118】
具体的なプロトコルは、図1に示した。
【0119】
実験例1.幹細胞培養ステップ
1-1.DM及びSB431542処理時期の最適化
【0120】
培養6日目からDM及びSB431542を処理する代わり、培養8日目からDM及びSB431542を処理する方法を使用して本発明の方法と比較した。
【0121】
図2aから確認できるように、胚芽体形成ステップである培養8日目からDM及びSB431542を処理する場合(既存の方法)に比べて、幹細胞培養ステップである培養6日目からDM及びSB431542を前処理する場合(本発明の方法)形成された神経ロゼットの状態及び収率がより良くなることが分かった。
【0122】
このような結果は、胚芽体形成の以前である未分化細胞ステップからDM及びSB431542を前処理することによって胚芽体形成時、神経外胚葉性分化占有度を高めるだけでなく、最終ドーパミン神経前駆細胞の分化率を画期的に増加させることができることを示唆する。
【0123】
1-2.培養期間の最適化
【0124】
培養8日目に胚芽体形成のための格子を作る代わり、7日目から9日目までDM及びSB431542を前処理し、培養9日目に胚芽体形成のための格子を形成させる方法を使用して本発明の方法と比較した。
【0125】
図2bから確認できるように、培養9日目に胚芽体を形成させれば細胞の付着力が非常に弱くなって線を引いた時、細胞がそのまま培養液に浮かんでしまい格子を出す前に培養皿から剥けて1.5mm正方形細胞シートを作ることが難しかったが(図2b左方)、培養8日目に胚芽体形成のための格子を作れば(本発明の方法)正常に1.5mm細胞シートを作ることができることが分かった(図2b右方)。
【0126】
実験例2.胚芽体(Embryoid Body)形成及び維持培養ステップ
2-1.培養期間の最適化
【0127】
培養12日目(胚芽体形成/維持4日目)にEBを培養皿に付着する代わり、培養13日目までDM及びSB431542を処理しながらEBを誘導する方法を使用して本発明の方法と比較した。
【0128】
図3から確認できるように、4日目(培養12日目)まではEBが大部分単独によく維持されるが、5日目(培養13日目)以後、高い頻度でEBが互いに付いてまた大きい塊りになる現象が発生した。
【0129】
2-2.SAG及びCHIR99021処理時期の最適化
【0130】
培養10日目からSAG及びCHIR99021を処理する代わり、培養6日目または8日目からSAG及びCHIR99021を処理する方法を使用して本発明の方法と比較した。
【0131】
図4a乃至4cから確認できるように、分化6日目にSAG及びCHIR99021を処理する場合(図4a)、神経ロゼットは正しく形成されず、他の分化細胞形態がたくさん発見され、分化8日目にSAG及びCHIR99021を処理する場合(図4b)、分化10日目からSAG及びCHIR99021を処理する場合(図4c)に比べて神経ロゼット部分の形態が崩れながら神経ロゼットの状態が悪くなることが分かった。
【0132】
2-3.単一(monolayer)分化比較
【0133】
培養/分化工程の単純化が可能か否かを確認するために、胚芽体形成過程(培養8日目~12日目)無しで残りの条件は前記実施例の方法と同一なプロトコルを使用してドーパミン神経前駆細胞に分化させた後、総分化27日目のFOXA2及び/又はLMX1A発現有無を本発明の方法と比較した。
【0134】
図5a及び5bから確認できるように、胚芽体形成無しで単層に神経外胚葉に分化を進行する場合(図5a)、胚芽体を形成して分化を進行する場合(本発明の方法、図5b)に比べてFOXA2及び/又はLMX1A発現水準が相当に低く表れた。
【0135】
実験例3.神経ロゼット(neural rosette)の形成ステップ
3-1.分化期間の最適化
【0136】
培養17日目(神経ロゼット形成5日目)に神経ロゼットを別途の培養皿に再付着する代わり、培養18日目(神経ロゼット形成6日目)まで神経ロゼットを形成させる方法を使用して本発明の方法と比較した。
【0137】
図6から確認できるように、神経ロゼット形成5日目までは神経ロゼットが良い状態に維持され増加する一方(本発明の方法)、6日目になれば高い頻度で外方の神経ロゼットから白く浮かぶ現象が発生した。また、細胞の形態が変わりながら中間のロゼット中心部は黒く変わってPBSで洗いか(水洗)、または培養液を交替する時、細胞が大部分死んで自然に落ちるようになって神経ロゼット需給に困難性があった。
【0138】
一方、神経外胚葉分化と中脳ドーパミン神経細胞への分化を誘導する過程で分化誘導有無を判別する初期チェックポイントは神経前駆細胞が増殖しながら形成される神経ロゼットの形成有無であり、ロゼット形成量及び維持期間は、今後、中脳ドーパミン神経前駆細胞の生成及び量的確保に非常に重要である。
【0139】
実験例4.ドーパミン神経前駆細胞への分化ステップ
4-1.分化期間の最適化
【0140】
ドーパミン神経前駆細胞への分化率の最も高いWCB製造時期を確立するために、培養26日目にWCBを製作する代わり、培養23日目にWCBを製作する方法を使用してドーパミン神経前駆細胞への最終分化率を本発明の方法と比較した。
【0141】
図7a及び7bから確認できるように、23日目にWCBを製作し解凍(Thawing)して使用する場合(図7a)、26日目にWCBを製作し解凍して使用する場合(本発明の方法、図7b)に比べて分化率が低く表れた。
【0142】
4-2.SAG及びCHIR99021処理期間の最適化
【0143】
培養26日目までSAG及びCHIR99021を処理する代わり、培養20日目または35日目までSAG及びCHIR99021を処理する方法を使用してドーパミン神経前駆細胞に分化させ、En1発現有無及び細胞形態を本発明の方法と比較した。
【0144】
図8a乃至8dから確認できるように、SAG及びCHIR99021を20日目までのみ処理した場合(図8a)、分化が進行するほどSAG及びCHIR99021を35日目まで処理した場合(図8b)に比べてEn1発現が速い速度で減少する問題が発生した。また、図8cから確認できるように、SAG及びCHIR99021を35日目まで処理した場合、細胞増殖率は減少しない、かつ細胞形態はドーパミン神経前駆細胞からもう少し分化が進行した成熟した細胞の形態を示し始める問題が発生した。一方、SAG及びCHIR99021を26日目までのみ処理した場合(本発明の方法、図8d)、En1発現が少なく減少し、細胞形態も前駆細胞形態を帯びる期間に26日までSAG、CHIR99021を処理する方法(図8d)を選定するようになった。
【0145】
実験例5.SAG及びCHIR99021処理濃度の最適化
【0146】
SAG及びCHIR99021を各々1.0uM及び2.0uM濃度で処理する代わり、SAG及びCHIR99021を各々0.5uM及び1.0uM濃度または1.0uM及び1.5uM濃度で処理する方法を使用してドーパミン神経前駆細胞に分化させ、FOXA2及び/又はLMX1A発現有無を本発明の方法と比較した。
【0147】
図9a乃至9cから確認できるように、SAG及びCHIR99021を各々0.5uM及び1.0uM濃度で処理するか(図9a)、または各々1.0uM及び1.5uM濃度で処理する場合(図9b)に比べてSAG及びCHIR99021を1.0uM及び2.0uM濃度で処理する場合(本発明の方法、図9c)FOXA2及び/又はLMX1A発現水準が最も高く表れた。
【0148】
実験例6.ECM処理濃度の最適化
【0149】
CELLstart及び多様な濃度(2~7ug/mL)のECM(Laminin 521)に対して、前記実施例の方法と同一なプロトコルを使用して幹細胞を培養させて細胞付着力テストを進行した。
【0150】
図10a及び10bから確認できるように、CELLstartの場合、幹細胞培養ステップ及び神経ロゼット維持培養ステップまでは何らの問題がなかったが、ドーパミン前駆細胞に分化させて増殖させるステップで細胞がほとんど付着できず落ちるか、または網形態を示しながら育つ現象が表れた(図10a)。Laminin-521の場合、2ug/mL及び3ug/mL濃度では実験遂行が難しい程度に付着力が非常に落ちており、6ug/mL及び7ug/mL濃度では高い頻度で自然分化が発生した。一方、4ug/mL及び5ug/mL濃度では比較的優れる付着力を示しており、同じ期間の細胞の形態や個数の観点では5ug/mL濃度が最も優れた(図10b)。
【0151】
前記結果に基づいて、幹細胞培養ステップではCELLstartを使用し、以後、胚芽体ステップを除外した全てのステップではLaminin-521 5ug/mLを使用することが最も適合すると判断した。
【0152】
実験例7.ドーパミン神経前駆細胞の大量増殖(分化率増加)確認
【0153】
一般に、GMP施設での大量生産のためには未分化幹細胞を大量に増殖させて保管するMCB(Master Cell Bank)と移植のためにドーパミン神経前駆細胞を大量増殖させて保管するWCB(Working Cell Bank)とにプロトコル工程を分離して使用する。したがって、分化率を高めて、細胞の増殖率はある程度減少させて移植時の増殖に対する安定性を高めるために、MCBを使用してWCBを作る時点及びWCBを解凍して大量にドーパミン前駆細胞を増殖させる時点が非常に重要である。
【0154】
これと関連して、前記実施例のプロトコルを使用して幹細胞をドーパミン前駆細胞に分化させ、FOXA2及び/又はLMX1A発現有無を参考にした結果、図11a及び11bから確認できるように、分化27日から36日目まで前記FOXA2及び/又はLMX1Aの発現が続けて増加することが分かった。但し、35日目以上分化を進行するようになる場合、分化率がむしろ減少し、細胞形態が徐々に前駆細胞の範囲から外れるので(図8cの分化35日目SAG、CHIR99021中断のような形態を示す)分化35日目の細胞を最終分化と判断した。
【0155】
ここに、本発明では分化26日をWCB製造時点に設定し(実験例4-1の結果に基づいて、細胞を凍らせずに連続して分化させる方法と凍らせて解凍した時にも連続して分化させる方法が同一な分化率を示さなければならないので)、26日目WCBを解凍して9日間増殖させて35日目の細胞を移植細胞に選定した。
【0156】
したがって、前記本発明のプロトコルを使用してMCB(Master Cell Bank)1vial(約3x106/細胞)でドーパミン神経前駆細胞分化を始める場合、図12から確認できるように、約1,300億個のドーパミン神経前駆細胞の大量生産が可能であることが分かる。
実験例8.本発明のプロトコルを使用して製造された細胞の生体内(in vivo)移植効果確認
【0157】
8-1.6-OHDA損傷パーキンソン病(PD)-モデル製作
【0158】
200-250gの雌Sprague-Dawley系ラット(Orient Bio Inc.)を移植対象に使用した。30mg/kg Zoletil(Virbac)及び10mg/kg Rompun(Bayer)を混合して痲酔剤に使用した。座標(AP-0.40、ML-0.13、DV-0.70、TB-0.45)によって3uLの30mM 6-OHDAをラットの内側前脳(medial forebrain)バンドルに注入して半-パーキンソン病モデル(hemi-parkinsonian model)を誘導した。
【0159】
8-2.本発明のプロトコルを使用して製造された細胞移植後のPD-モデルの行動回復確認
【0160】
前記実施例の分化プロトコルを使用して幹細胞を分化させた後、分化35日(d35)細胞を使用した。最終濃度が8.75x10細胞/uLになるようにPBS(CTS)に懸濁させて移植用細胞懸濁液を製造した。この際、対照群(Control)にはPBSのみを移植したグループを使用した。前記実験例8-1の6-OHDA損傷4週後、動物群分離を完了し、移植2日前からネズミが犧牲される時まで実験期間の間毎日10mg/kgのサイクロスポリンA(cyclosporine A、鐘根堂)を腹腔内注射して免疫抑制(Immunosuppressive)処理した。製造された細胞懸濁液を座標(AP+0.08、ML-0.30、DV-0.40、及び-0.50、TB-0.24)に従ってラット当たり4uLずつ定位方法により移植した。移植前、移植後4、8、12または16週にアンフェタミン(2.5mg/kg、Sigma‐Aldrich)を腹腔内注射し、30分間ラットの回転有無を記録した。比較のためにH9胚芽幹細胞(H9 hESCs、WiCell Inc., 米国)由来ドーパミン神経前駆細胞で同一な実験を遂行した。
【0161】
図13a及び図13bから確認できるように、本発明の方法(プロトコル)以前の方法により分化させた細胞(前記H9胚芽幹細胞由来ドーパミン神経前駆細胞)は移植16週後のみに対照群に比べて有意な運動機能向上を示した一方(図13a)、本発明の方法(プロトコル)を使用して分化させた細胞を移植したグループは移植8週、12週、そして16週全て対照群に比べて有意に運動機能が向上したことを確認した(図13b)。
【0162】
このような結果は、本発明の方法(プロトコル)により製造された細胞が生体内でより多く生存可能であり、運動機能を改善させる効果がより大きいということを示す。
【0163】
〔産業上の利用可能性〕
本発明は幹細胞由来中脳特異的ドーパミン神経前駆細胞の分化誘導及び大量生産方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0164】
図1】本発明の一実施例に従うドーパミン神経前駆細胞の分化誘導方法を模式化した図である。
図2a】本発明の一実施例に従って最適の幹細胞培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図2b】本発明の一実施例に従って最適の幹細胞培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図3】本発明の一実施例に従って最適の胚芽体培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図4a】本発明の一実施例に従って胚芽体培養時、SAG及びCHIR99021の最適処理時期を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図4b】本発明の一実施例に従って胚芽体培養時、SAG及びCHIR99021の最適処理時期を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図4c】本発明の一実施例に従って胚芽体培養時、SAG及びCHIR99021の最適処理時期を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図5a】本発明の一実施例に従って胚芽体形成ステップの必要か否かを確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図5b】本発明の一実施例に従って胚芽体形成ステップの必要か否かを確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図6】神経ロゼット形成時、最適の培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図7a】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、最適の培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図7b】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、最適の培養期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図8a】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、SAG及びCHIR99021の最適の処理期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図8b】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、SAG及びCHIR99021の最適の処理期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図8c】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、SAG及びCHIR99021の最適の処理期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図8d】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞への分化時、SAG及びCHIR99021の最適の処理期間を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図9a】本発明の一実施例に従ってSAG及びCHIR99021の最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図9b】本発明の一実施例に従ってSAG及びCHIR99021の最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図9c】本発明の一実施例に従ってSAG及びCHIR99021の最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図10a】本発明の一実施例に従ってECMの最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図10b】本発明の一実施例に従ってECMの最適の処理濃度を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図11a】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の最終分化率を確認した図である。(11a:胚芽幹細胞由来、11b:誘導多能性幹細胞由来)
図11b】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の最終分化率を確認した図である。(11a:胚芽幹細胞由来、11b:誘導多能性幹細胞由来)
図12】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の大量生産を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図13a】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の生体内(in vivo)効能を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図13b】本発明の一実施例に従ってドーパミン神経前駆細胞の生体内(in vivo)効能を確認した図である。(胚芽幹細胞由来)
図1
図2a
図2b
図3
図4a
図4b
図4c
図5a
図5b
図6
図7a
図7b
図8a
図8b
図8c
図8d
図9a
図9b
図9c
図10a
図10b
図11a
図11b
図12
図13a
図13b
【配列表】
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