(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20221004BHJP
A61K 31/426 20060101ALI20221004BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 17/04 20060101ALI20221004BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20221004BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K31/426
A61P17/00
A61P17/04
A61P37/08
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020521781
(86)(22)【出願日】2019-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2019016305
(87)【国際公開番号】W WO2019230230
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2020-09-08
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2018102216
(32)【優先日】2018-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】506151235
【氏名又は名称】株式会社ナノエッグ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】長澤 輝明
(72)【発明者】
【氏名】新井 弥菜
(72)【発明者】
【氏名】長澤 七子
(72)【発明者】
【氏名】山口 葉子
【合議体】
【審判長】岡崎 美穂
【審判官】馬場 亮人
【審判官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-503628(JP,A)
【文献】特表2017-507930(JP,A)
【文献】Agents and Actions, 1985, Vol.16 No.6, p.501-503
【文献】Clin Exp Dermatol., 1984, Vol.9 No.4, p.358-363
【文献】日本小児救急医学会雑誌, 2009, Vol.8 No.2, p.228(D-63)
【文献】アレルギー科, Vol.13 No.4, p.371-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K45/00
JSTPLUS、JMEDPLUS、JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
βアドレナリン受容体作動薬を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物であって、該βアドレナリン受容体作動薬が、
イソプレナリン、ドブタミン、ミラベグロン、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物から選択される、組成物。
【請求項2】
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ミラベグロン
、または
その薬学的に許容され得る塩、あるいは
その溶媒和
物から選択される
、請求項
1に記載の組成物。
【請求項3】
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ドブタミン
、または
その薬学的に許容され得る塩、あるいは
その溶媒和
物から選択される
、請求項
1に記載の組成物。
【請求項4】
前記βアドレナリン受容体作動薬が
、イソプレナリン
、または
その薬学的に許容され得る塩、あるいは
その溶媒和
物から選択される
、請求項
1に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アトピー性皮膚炎は、痒疹を伴う皮膚炎であり、食物(卵白、牛乳、大豆等)や抗原(ダニ、ダスト、花粉、カビ等)によるアレルギー反応が大きく関与している。アトピー性皮膚炎は、出生後数カ月以内に発症し、10代以降で再発、重症化、慢性化することがある。
【0003】
アトピー性皮膚炎の治療剤としては、ステロイド外用剤が治療薬として第一選択肢として挙げられるが、ステロイド剤は、アトピー性皮膚炎による炎症を抑制することができるのみであり、アトピー性皮膚炎を直接的に治療することができない。また、皮膚表面の免疫系の抑制による皮膚感染症の誘発などの副作用が生じることもある。
【0004】
アトピー性皮膚炎の患者の角質層において、細胞間脂質内のセラミド量が減少しており、皮膚の乾燥感が生じることが知られている。皮膚の乾燥を防ぐために生後すぐに保湿剤を全身塗布したところ、アトピー性皮膚炎が3割減少したことが報告されている(非特許文献1)。また、アトピー性皮膚炎の発症原因としてFilaggrinの欠失変異が報告されているが(非特許文献2)、アトピー性皮膚炎の詳細な発症メカニズムは明らかになっておらず、有効な治療法も確立していなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Horimukai Kら、J Allergy Clin Immunol. 2014 Oct;134(4):824-830.
【文献】Sandilands Aら、J Cell Sci. 2009 May 1;122(Pt 9):1285-94
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、アトピー性皮膚炎の詳細な発症メカニズムは明らかになっていなかったため、アトピー性皮膚炎に対する有効な治療標的も見出されずにいた。それゆえ、アトピー性皮膚炎を有効に治療することができなかった。本発明の目的は、アトピー性皮膚炎を有効に治療する新規治療薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、βアドレナリン受容体作動薬が予想外にもアトピー性皮膚炎の治療に有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
したがって、本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
βアドレナリン受容体作動薬を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物。
(項目2)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β1アドレナリン受容体作動薬、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、選択的β3アドレナリン受容体作動薬、および非選択的βアドレナリン受容体作動薬からなる群から選択される、項目1に記載の組成物。
(項目3)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、または非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目1に記載の組成物。
(項目4)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、サルブタモール、インダカテロール、プロカテロール、サルメテロール、クレンブテロール、テルブタリン、リトドリン、トリメトキノール、ヘキソプレナリン、メトキシフェナミン、フェノテロール、ビトルテロール、メタプロテレノール、ピルブテロール、イソクスプリン、アルフォルモテロール、バンブテロール、ホルモテロール、ミルベテロール、オロダテロール、ビランテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β2アドレナリン受容体作動薬である、項目2に記載の組成物。
(項目5)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ミラベグロン、アミベグロン、CL-316,243、ソラベグロン、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β3アドレナリン受容体作動薬である、項目2に記載の組成物。
(項目6)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ドブタミン、デノパミン、キサモテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β1アドレナリン受容体作動薬である、項目2に記載の組成物。
(項目7)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、イソプロテレノール(イソプレナリン)、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目2に記載の組成物。
(項目8)
βアドレナリン受容体作動活性を有するフェネチルアミンの誘導体を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物。
(項目9)
前記フェネチルアミンの誘導体が、以下:
(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、
(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、
(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、
(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する、
という特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有する、項目8に記載の組成物。
(項目10)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも2つの特徴を有する、項目9に記載の組成物。
(項目11)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも3つの特徴を有する、項目9に記載の組成物。
(項目12)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)の特徴を有する、項目9に記載の組成物。
(項目13)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β1アドレナリン受容体作動活性、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、選択的β3アドレナリン受容体作動活性、および非選択的βアドレナリン受容体作動活性からなる群から選択される、項目8~12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目14)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、または非選択的βアドレナリン受容体作動活性である、項目8~12のいずれか一項に記載の組成物。
(項目15)
アトピー性皮膚炎の治療薬をスクリーニングする方法であって、該方法は、
(a)アトピー性皮膚炎が誘発された非ヒト動物を提供するステップと、
(b)アトピー性皮膚炎が誘発した該動物に、アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量のアトピー性皮膚炎誘発物質と、試験化合物を投与するステップと、
(c)該試験化合物の投与によるアトピー性皮膚炎の症状の改善を評価するステップと
を含む、方法。
(項目16)
アトピー性皮膚炎の治療薬の治療効果を評価するための方法であって、該方法は、
(a)アトピー性皮膚炎が誘発された非ヒト動物を提供するステップと、
(b)該アトピー性皮膚炎が誘発した非ヒト動物に、アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量のアトピー性皮膚炎誘発物質と、アトピー性皮膚炎の治療薬を投与するステップと、
(c)該アトピー性皮膚炎の治療薬の投与によるアトピー性皮膚炎の症状の改善を評価するステップと
を含む、方法。
(項目17)
前記ステップ(a)において、前記アトピー性皮膚炎が誘発された非ヒト動物が、アトピー性皮膚炎を誘発するのに十分な量のアトピー性皮膚炎誘発物質を投与することにより提供されることを特徴とする、項目15または16に記載の方法。
(項目18)
前記非ヒト動物がマウスである、項目15~17のいずれか一項に記載の方法。
(項目19)
前記マウスが、NC/Nga、dd、ICR、BALB/c、C3H、DBA、C57BL、Hr-、およびHR-1マウスからなる群から選択される、項目18に記載の方法。(項目20)
前記マウスが、NC/Ngaマウスである、項目18に記載の方法。
(項目21)
前記アトピー性皮膚炎誘発物質が、ダニ抗原、卵白抗原、ミルク抗原、小麦抗原、ピーナッツ抗原、大豆抗原、ソバ抗原、ゴマ抗原、コメ抗原、甲殻類抗原、キウイ抗原、リンゴ抗原、バナナ抗原、モモ抗原、トマト抗原、マグロ抗原、サケ抗原、サバ抗原、牛肉抗原、鶏肉抗原、豚肉抗原、ネコ皮屑抗原、昆虫抗原、花粉抗原、イヌ皮屑抗原、真菌抗原、細菌抗原、ラテックス、ハプテンおよび金属からなる群から選択される、項目15~20のいずれか一項に記載の方法。
(項目22)
前記アトピー性皮膚炎誘発物質が、ダニ抗原である、項目15~19のいずれか一項に記載の方法。
(項目23)
前記アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量が、アトピー性皮膚炎を誘発するのに十分な量未満の量である、項目15~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目24)
前記アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量が、ステップ(a)で投与されたアトピー性皮膚炎誘発物質の量の約1/2の量である、項目15~22のいずれか一項に記載の方法。
(項目1A)
被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、βアドレナリン受容体作動薬を該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目2A)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β1アドレナリン受容体作動薬、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、選択的β3アドレナリン受容体作動薬、および非選択的βアドレナリン受容体作動薬からなる群から選択される、項目1Aに記載の方法。
(項目3A)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、または非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目1Aに記載の方法。
(項目4A)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、サルブタモール、インダカテロール、プロカテロール、サルメテロール、クレンブテロール、テルブタリン、リトドリン、トリメトキノール、ヘキソプレナリン、メトキシフェナミン、フェノテロール、ビトルテロール、メタプロテレノール、ピルブテロール、イソクスプリン、アルフォルモテロール、バンブテロール、ホルモテロール、ミルベテロール、オロダテロール、ビランテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β2アドレナリン受容体作動薬である、項目2Aに記載の方法。
(項目5A)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ミラベグロン、アミベグロン、CL-316,243、ソラベグロン、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β3アドレナリン受容体作動薬である、項目2Aに記載の方法。
(項目6A)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ドブタミン、デノパミン、キサモテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β1アドレナリン受容体作動薬である、項目2Aに記載の方法。
(項目7A)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、イソプロテレノール(イソプレナリン)、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目2Aに記載の方法。
(項目8A)
被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、βアドレナリン受容体作動活性を有するフェネチルアミンの誘導体を該被験体に投与するステップを含む、方法。
(項目9A)
前記フェネチルアミンの誘導体が、以下:
(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、
(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、
(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、
(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する、
という特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有する、項目8Aに記載の方法。
(項目10A)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも2つの特徴を有する、項目9Aに記載の方法。
(項目11A)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも3つの特徴を有する、項目9Aに記載の方法。
(項目12A)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)の特徴を有する、項目9Aに記載の方法。
(項目13A)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β1アドレナリン受容体作動活性、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、選択的β3アドレナリン受容体作動活性、および非選択的βアドレナリン受容体作動活性からなる群から選択される、項目8A~12Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目14A)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、または非選択的βアドレナリン受容体作動活性である、項目8A~12Aのいずれか一項に記載の方法。
(項目1B)
アトピー性皮膚炎を治療または予防するためのβアドレナリン受容体作動薬。
(項目2B)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β1アドレナリン受容体作動薬、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、選択的β3アドレナリン受容体作動薬、および非選択的βアドレナリン受容体作動薬からなる群から選択される、項目1Bに記載のβアドレナリン受容体作動薬。
(項目3B)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、または非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目1Bに記載のβアドレナリン受容体作動薬。
(項目4B)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、サルブタモール、インダカテロール、プロカテロール、サルメテロール、クレンブテロール、テルブタリン、リトドリン、トリメトキノール、ヘキソプレナリン、メトキシフェナミン、フェノテロール、ビトルテロール、メタプロテレノール、ピルブテロール、イソクスプリン、アルフォルモテロール、バンブテロール、ホルモテロール、ミルベテロール、オロダテロール、ビランテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β2アドレナリン受容体作動薬である、項目2Bに記載のβアドレナリン受容体作動薬。
(項目5B)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ミラベグロン、アミベグロン、CL-316,243、ソラベグロン、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β3アドレナリン受容体作動薬である、項目2Bに記載のβアドレナリン受容体作動薬。
(項目6B)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ドブタミン、デノパミン、キサモテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β1アドレナリン受容体作動薬である、項目2Bに記載のβアドレナリン受容体作動薬。
(項目7B)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、イソプロテレノール(イソプレナリン)、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目2Bに記載のβアドレナリン受容体作動薬。
(項目8B)
アトピー性皮膚炎を治療または予防するためのβアドレナリン受容体作動活性を有するフェネチルアミンの誘導体。
(項目9B)
前記フェネチルアミンの誘導体が、以下:
(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、
(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、
(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、
(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する、
という特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有する、項目8Bに記載の誘導体。
(項目10B)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも2つの特徴を有する、項目9Bに記載の誘導体。
(項目11B)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも3つの特徴を有する、項目9Bに記載の誘導体。
(項目12B)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)の特徴を有する、項目9Bに記載の誘導体。
(項目13B)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β1アドレナリン受容体作動活性、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、選択的β3アドレナリン受容体作動活性、および非選択的βアドレナリン受容体作動活性からなる群から選択される、項目8B~12Bのいずれか一項に記載の誘導体。
(項目14B)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、または非選択的βアドレナリン受容体作動活性である、項目8B~12Bのいずれか一項に記載の誘導体。
(項目1C)
アトピー性皮膚炎を治療または予防するための医薬の製造におけるβアドレナリン受容体作動薬の使用。
(項目2C)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β1アドレナリン受容体作動薬、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、選択的β3アドレナリン受容体作動薬、および非選択的βアドレナリン受容体作動薬からなる群から選択される、項目1Cに記載の使用。
(項目3C)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、または非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目1Cに記載の使用。
(項目4C)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、サルブタモール、インダカテロール、プロカテロール、サルメテロール、クレンブテロール、テルブタリン、リトドリン、トリメトキノール、ヘキソプレナリン、メトキシフェナミン、フェノテロール、ビトルテロール、メタプロテレノール、ピルブテロール、イソクスプリン、アルフォルモテロール、バンブテロール、ホルモテロール、ミルベテロール、オロダテロール、ビランテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β2アドレナリン受容体作動薬である、項目2Cに記載の使用。
(項目5C)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ミラベグロン、アミベグロン、CL-316,243、ソラベグロン、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β3アドレナリン受容体作動薬である、項目2Cに記載の使用。
(項目6C)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、ドブタミン、デノパミン、キサモテロール、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される選択的β1アドレナリン受容体作動薬である、項目2Cに記載の使用。
(項目7C)
前記βアドレナリン受容体作動薬が、イソプロテレノール(イソプレナリン)、これらの誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物からなる群から選択される非選択的βアドレナリン受容体作動薬である、項目2Cに記載の使用。
(項目8C)
アトピー性皮膚炎を治療または予防するための医薬の製造におけるβアドレナリン受容体作動活性を有するフェネチルアミンの誘導体の使用。
(項目9C)
前記フェネチルアミンの誘導体が、以下:
(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、
(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、
(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、
(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する、
という特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有する、項目8Cに記載の使用。
(項目10C)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも2つの特徴を有する、項目9Cに記載の使用。
(項目11C)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)のうちの少なくとも3つの特徴を有する、項目9Cに記載の使用。
(項目12C)
前記フェネチルアミンの誘導体が、前記特徴(1)~(4)の特徴を有する、項目9Cに記載の使用。
(項目13C)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β1アドレナリン受容体作動活性、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、選択的β3アドレナリン受容体作動活性、および非選択的βアドレナリン受容体作動活性からなる群から選択される、項目8C~12Cのいずれか一項に記載の使用。
(項目14C)
前記βアドレナリン受容体作動活性が、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、または非選択的βアドレナリン受容体作動活性である、項目8C~12Cのいずれか一項に記載の使用。
【0009】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の組成物および方法は、アドレナリン受容体作動薬を有効成分として提供することによって、これまで有効に治療することが困難であったアトピー性皮膚炎を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1における被検製剤の投与期間中におけるマウス体重の平均変化量を示す。
【
図2】
図2は、実施例1における被検製剤の投与期間中におけるADスコアの平均変化量を示す。
図2Aは、単剤投与群および併用群の比較を示し、
図2Bは、単剤投与群のみを示す。
【
図3】
図3は、実施例1における被検製剤の投与期間最終日における経皮水分蒸散量(左)および角層水分量(右)を示す。
【
図4】
図4は、AD誘発NC/Ngaマウスの表皮厚を示す。
【
図5】
図5は、選択的βアドレナリン受容体作動薬を塗布したマウスのADスコアの平均変化量を示す。
【
図6】
図6は、被検製剤(選択的βアドレナリン受容体作動薬)投与期間前後のADスコアを示す。
【
図7】
図7は、被検製剤(選択的βアドレナリン受容体作動薬)投与後の耳介厚を示す。
【
図9】
図9は、被検製剤(選択的βアドレナリン受容体作動薬)を投与されたAD誘発NC/Ngaマウスの表皮厚を示す。
【
図10】
図10は、種々の被検製剤非投与(陰性対照)群のADスコアの平均変化量を示す。
【
図11】
図11は、実施例3における被検製剤の投与期間中におけるマウス体重の変化を示す。
【
図12】
図12は、実施例3における被検製剤の投与期間中におけるADスコアの平均変化量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0013】
(用語の定義)
「約」とは、本明細書で使用される場合、後に続く数値の±10%を意味する。
【0014】
「アトピー性皮膚炎」とは、本明細書で使用される場合、痒疹を伴う皮膚炎であり、寛解、憎悪を繰り返す慢性、反復性の経過を特徴とする。多くは、アレルギー性の喘息、アレルギー性鼻炎(花粉症)、アレルギー性結膜炎などを家系に有し、および/またはIgE抗体を産生しやすい素因であるアトピー素因を背景に発症する。
【0015】
「βアドレナリン受容体」とは、本明細書で使用される場合、「βアドレナリン受容体」は、アドレナリン受容体のサブタイプβに属し、アドレナリンやノルアドレナリンといったカテコールアミン類をリガンドとする、7回膜貫通型ドメインを有するGs共役受容体である。また、βアドレナリン受容体には、β1アドレナリン受容体、β2アドレナリン受容体、およびβ3アドレナリン受容体がある。
【0016】
「作動薬」とは、本明細書で使用される場合、受容体に働いてリガンドの効果と同様の機能を示す物質をいう。「βアドレナリン受容体作動薬」とは、βアドレナリン受容体に対して作動活性(「βアドレナリン受容体作動活性」)を有する物質、例えば、アドレナリン、ノルアドレナリン等のカテコールアミン類、ならびにβアドレナリン受容体に対してアドレナリン、ノルアドレナリン等と同様の作用を示す物質を指す。別段の指定がない限り、「βアドレナリン受容体作動薬」は、少なくともβアドレナリン受容体に対して作動活性を有していればよく、αアドレナリン受容体に対して作動活性を有していても、有さなくてもよい。特定の実施形態では、「βアドレナリン受容体作動薬」は、αアドレナリンを作動する活性を有しておらず、βアドレナリン受容体を作動する活性を有していてもよく、このようなβアドレナリン受容体作動薬を「選択的βアドレナリン受容体作動薬」という。「選択的β1/β2/β3アドレナリン受容体作動薬」とは、本明細書で使用される場合、β1、β2またはβ3アドレナリン受容体のいずれかに対して選択的に作動活性(「選択的β1/β2/β3アドレナリン受容体作動活性」)を示すものを指し、「非選択的βアドレナリン受容体作動薬」とは、β1、β2およびβ3アドレナリン受容体のいずれに対しても作動活性(「非選択的βアドレナリン受容体作動活性」)を示すものを指す。「選択的」とは、ある受容体(例えば、β1アドレナリン受容体)の作動活性が、他の受容体(例えば、β2およびβ3アドレナリン受容体)の作動活性より強いことを意味する。βアドレナリン受容体作動薬は、3つβアドレナリン受容体のうち2つの受容体に対して選択的であること(すなわち、1つの受容体の作動活性よりも、他の2つの受容体に対する作動活性が強いこと)も包含する。
【0017】
「遮断薬」とは、本明細書で使用される場合、受容体と相互作用することにより、その受容体のリガンド(例えば、アドレナリンのような神経伝達物質やホルモンなど)を介したシグナル伝達を阻害する物質をいう。
【0018】
「阻害剤」とは、生体分子(例えば、アドレナリン)の作用を阻害する任意の物質を指す。生体内の分子の作用を阻害することができるものであれば、生体分子と直接相互作用してもよく、しなくてもよい。生体分子と直接相互作用しない阻害剤としては、例えば、アドレナリンを合成する酵素に働きかけ、結果として、アドレナリンの生産を間接的に阻害する物質が挙げられる。
【0019】
「誘導体」とは、本明細書で使用される場合、そのコア構造が親化合物のそれと同じかまたはよく似ているが、異なる官能基または付加的な官能基などの修飾を有するような化合物を指す。例えば、「フェネチルアミンの誘導体」とは、フェニル基、側鎖、およびアミノ基からなるフェネチルアミン:
【0020】
【0021】
の基本骨格を有し、任意の置換基により化学的修飾を受けた化合物を指す。フェネチルアミンの誘導体は、(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する、
という特徴のうちの少なくとも1つの特徴を有してもよく、そのようなフェネチルアミンの誘導体としては、例えば、サルブタモール、インダカテロール、プロカテロール、サルメテロール、クレンブテロール、テルブタリン、リトドリン、トリメトキノール、ヘキソプレナリン、メトキシフェナミン、フェノテロール、ビトルテロール、メタプロテレノール、イソクスプリン、アルフォルモテロール、バンブテロール、ホルモテロール、ミルベテロール、オロダテロール、ビランテロール、ミラベグロン、アミベグロン、CL-316,243、ソラベグロン、ドブタミンおよびデノパミンが挙げられるがこれらに限定されない。フェネチルアミンの誘導体のフェニル基の部分は、1つまたは複数のヘテロ原子を含んでいてもよく、そのようなフェネチルアミンの誘導体としては、例えば、ピルブテロールが挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
「炭化水素基」とは、本明細書で使用される場合、水素および炭素からなる任意の化学基を指す。炭化水素基は、直鎖状、分岐状または環状であり得る。「炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基」としては、例えば、直鎖状(分岐していない)のエチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル等が挙げられるが、これらに限定されない。「分岐状の炭化水素基」としては、例えば、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、sec-ペンチル、tert-ペンチル、sec-ヘキシル等が挙げられるが、これらに限定されない。「環状の炭化水素基」としては、例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0023】
「複素環基」とは、本明細書で使用される場合、少なくとも1つの環原子がO、SおよびNから選択されるヘテロ原子である単環または多環基を指す。複素環基としては、例えば、ピリジル、フラニル、イミダゾリル、インドリル、ベンゾチオフェニル、オキサゾリル、イソキサゾリル、チアゾリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、イソピラゾリル、ピロリジニル、ベンズオキサゾリル、テトラヒドロピラニル、モルホリニル、ピペリジニル、ピペラジニル等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0024】
炭化水素基および複素環基は、置換されていても、されていなくてもよい。置換基は、所望の機能が達成される限り、任意の基であり得るが、例えば、アルキル基、アリール基、アラアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
「薬学的に許容される得る塩」とは、本明細書で使用される場合、化合物の無機または有機の酸付加塩であって、薬学的に許容されるものをいう。これらの塩は、化合物の最終的な単離および精製の間に一時的に、またはその遊離塩基型で精製された化合物を適切な有機もしくは無機の酸と別々に反応させること、およびそのように形成された塩を単離することによって調製することができる。このような薬学的に許容される得る塩は、毒性が低いものが好ましい。
【0026】
本発明において使用される化合物の薬学的に許容され得る塩基性塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アンモニウム塩;トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、プロカイン塩、メグルミン塩、ジエタノールアミン塩またはエチレンジアミン塩等の脂肪族アミン塩;N,N-ジベンジルエチレンジアミン、ベネタミン塩等のアラルキルアミン塩;ピリジン塩、ピコリン塩、キノリン塩、イソキノリン塩等のヘテロ環芳香族アミン塩;テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、メチルトリオクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩;アルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸塩等が挙げられる。
【0027】
本発明において使用される化合物の薬学的に許容され得る酸性塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマール酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩;メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p-トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩;アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等が挙げられる。
【0028】
「溶媒和物」とは、本明細書で使用される場合、本発明で使用される化合物またはその薬学的に許容される塩の溶媒和物を意味し、例えば有機溶媒との溶媒和物(例えば、アルコール(エタノールなど)和物)、水和物等を包含する。水和物を形成する時は、任意の数の水分子と配位していてもよい。水和物としては、1水和物、2水和物等を挙げることができる。
【0029】
「被験体」とは、本発明の治療および予防するための組成物もしくは組み合わせ物または方法の投与対象を指し、被験体としては、哺乳動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ウマ、ヒツジ、サル、ヤギ、ブタ等)が挙げられる。
【0030】
「アトピー性皮膚炎を誘発するのに十分な量」とは、本明細書で使用される場合、ADスコアが6以上となる量を指す。
【0031】
「ADスコア」とは、本明細書で使用される場合、(1)背部の発赤・出血、(2)背部の痂皮・乾燥、(3)耳介の浮腫、(4)耳介:組織欠損の各項目の重症度に応じて算出されたスコアを指し、本明細書において言及されるADスコアは、特段の指示がない限り、ビオスタAD(和光純薬)の説明書に記載の方法に従って算出されたスコアである。具体的には、ビオスタAD(和光純薬)の説明書に記載の方法に従って算出されたスコアは、実施例1の表1に記載の評価項目に基づいて算出されたスコアである。
【0032】
「アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量」とは、本明細書で使用される場合、アトピー性皮膚炎を誘発したマウスにおいて、アトピー性皮膚炎の治療薬を投与しない場合に、アトピー性皮膚炎の症状が重症化することも、緩和することもない量を指す。例えば、「アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量」は、アトピー性皮膚炎誘発時のADスコアの±1以内を維持する量であり得る。好ましい実施形態では、週初めのADスコアの平均変化量が±0.5以内に維持する量であり得る。
【0033】
「試験化合物」とは、アトピー性皮膚炎の治療薬の候補となり得るあらゆる物質を指す。「試験化合物」としては、例えば、小分子化合物、タンパク質、ペプチド、抗体等挙げられるが、これらに限定されない。
【0034】
(好ましい実施形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0035】
(組成物)
1つの態様では、本発明は、βアドレナリン受容体作動薬を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物を提供する。1つの実施形態において、βアドレナリン受容体作動薬は、さらにαアドレナリン受容体を作動する活性を有していてもよい。αアドレナリン受容体およびβ受容体アドレナリンの両方を作動することが可能な物質としては、カテコールアミン類(レボドパ、ドーパミン、アドレナリン、ノルアドレナリン)などが挙げられる。1つの実施形態において、βアドレナリン受容体作動薬は、選択的β1アドレナリン受容体作動薬、選択的β2アドレナリン受容体作動薬、選択的β3アドレナリン受容体作動薬、および非選択的βアドレナリン受容体作動薬からなる群から選択されるが、好ましくは、選択的β2アドレナリン受容体作動薬または非選択的βアドレナリン受容体作動薬である。
【0036】
本発明者らは、これまで、自律神経伝達物質であるアセチルコリンのアトピー性皮膚炎(AD)への関与について研究を行ってきた。その結果、アセチルコリン受容体の遮断薬(例えば、ニコチン型アセチルコリン受容体に作用する臭化ヘキソメトニウム(Hexamethonium Bromide;以降Hexa)とその類縁体、及び、ムスカリン型アセチルコリン受容体に作用するスコポラミン臭化物水素酸水和物(Scopolamine hydrobromide trihydrate)がアトピー性皮膚炎に有効であることを明らかになった(参照により本願明細書に組み込まれる国際公開第2017/195783号)。
【0037】
神経において、アドレナリンおよびアセチルコリンは、副交感神経および交感神経のそれぞれの末端の受容体を介してそれらの活性を抑制し、どちらかが支配的に効果器へ神経伝達を行うことが知られている。また、喘息治療においては気管支平滑筋を弛緩させる目的で、アセチルコリン受容体の遮断薬とβ2AR(β2アドレナリン受容体)作動薬が用いられている。このようにアドレナリンとアセチルコリンは密接な関係にあるが、アドレナリンがアトピー性皮膚炎にどのように影響するかは明らかではなかった。
【0038】
皮膚においては表皮基底細胞層においてアドレナリン合成酵素が発現していることが知られている。また選択的β2AR遮断薬が表皮バリア機能の回復を早めることが報告されている(Grando et al., J Invest Dermatol. 2006 Sep;126(9):1948-65)。また、この報告によれば、選択的β2AR作動薬は細胞内cAMPとそれに続くCa
2+濃度上昇を引き起こす。cAMPは角化細胞において、PKA、CREBを介して角化に関与する遺伝子の発現を上昇させる。AD患者においては、ノルアドレナリン・アドレナリンの産生、及び分解に関わる酵素の発現異常が報告されており、血中ノルアドレナリンの上昇とアドレナリンの低下が確認されている。また、AD患者の培養表皮角化細胞においては、β2AR遺伝子の変異と細胞表面発現数の低下、作動薬に対する細胞内反応性の低下が報告されている。
【0039】
しかしながら、アトピー性皮膚炎において、アドレナリン受容体作動薬/遮断薬がどのように影響するかは明らかになっていない。本発明者らは、βアドレナリン受容体作動薬が、アトピー性皮膚炎に有効であり、他方で、βアドレナリン受容体遮断薬は、アトピー性皮膚炎に有効ではないことを見出した。アドレナリン受容体遮断薬が、表皮バリアの回復を早めることが知られていたため(Grando et al., J Invest Dermatol. 2006 Sep;126(9):1948-65)、この結果は驚くべき結果であった。
【0040】
いくつかの実施形態において、選択的β2アドレナリン受容体作動薬としては、サルブタモール、インダカテロール、プロカテロール、サルメテロール、クレンブテロール、テルブタリン、リトドリン、トリメトキノール、ヘキソプレナリン、メトキシフェナミン、フェノテロール、ビトルテロール、メタプロテレノール、ピルブテロール、イソクスプリン、アルフォルモテロール、バンブテロール、ホルモテロール、ミルベテロール、オロダテロール、およびビランテロールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0041】
いくつかの実施形態において、非選択的βアドレナリン受容体作動薬としては、イソプロテレノール(イソプレナリン)が挙げられるが、これに限定されない。
【0042】
いくつかの実施形態において、選択的β3アドレナリン受容体作動薬は、ミラベグロン、アミベグロン、CL-316,243、およびソラベグロンが挙げられるが、これらに限定されない。
【0043】
いくつかの実施形態において、選択的β1アドレナリン受容体作動薬は、ドブタミン、デノパミン、およびキサモテロールが挙げられるが、これらに限定されない。
【0044】
本発明のアトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物において使用される、βアドレナリン受容体作動薬には、上記化合物の誘導体、またはこれらの薬学的に許容され得る塩、あるいはこれらの溶媒和物も包含され得る。
【0045】
別の態様では、本発明は、βアドレナリン受容体作動活性を有するフェネチルアミンの誘導体を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物を提供する。
【0046】
フェネチルアミンの誘導体は、以下:
(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、
(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、
(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、
(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する、
という特徴のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または4つの特徴を有し得る。好ましい実施形態では、フェネチルアミンの誘導体は、上記特徴のうち少なくとも3つの特徴を有し、最も好ましくは、上記特徴の4つ特徴をすべて有している。
【0047】
フェネチルアミンの誘導体が有するβアドレナリン受容体作動活性は、選択的β1アドレナリン受容体作動活性、選択的β2アドレナリン受容体作動活性、選択的β3アドレナリン受容体作動活性、または非選択的βアドレナリン受容体作動活性であり得るが、好ましくは、選択的β2アドレナリン受容体作動活性または非選択的βアドレナリン受容体作動活性である。
【0048】
さらなる態様において、本発明は、上記βアドレナリン受容体作動とアセチルコリンの阻害剤を含む、アトピー性皮膚炎を治療または予防するための組成物または組み合わせ物を提供する。アセチルコリンの阻害剤は、ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤またはニコチン性アセチルコリンの阻害剤であり得る。1つの実施形態において、ムスカリン性アセチルコリンの阻害剤は、ムスカリン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストであり、ニコチン性アセチルコリンの阻害剤は、ニコチン性アセチルコリン受容体のアンタゴニストであり得る。組み合わせ物におけるβアドレナリン受容体作動およびアセチルコリンの阻害剤は、同時に投与されても、逐次的に投与されてもよい。
【0049】
上記組み合わせ物において使用され得るムスカリン性アセチルコリンの阻害剤としては、トリヘキシフェニジル塩酸塩、ブチルスコポラミン臭化物、ピレンゼピン塩酸水和物、臭化イプラトロピウム、臭化オキシトロピウム、臭化チオトロピウム、アトロピン硫酸塩、トロピカミド、ジフェンヒドラミン塩酸塩、ジシクロベリン、オキシブチニン塩酸塩、シクロペントラート塩酸塩、酒石酸トルテロジン、コハク酸ソリフェナシン、臭化水素酸ダイフェナシン、塩酸メベベリン、塩酸プロシクリジン、アクリジニウム臭化物、プロパンテリン臭化物、スコポラミン臭化水素酸塩水和物、臭化メトスコポラミン、メベンゾラート臭化物、臭化メタンテリニウム、オルフェナドリンクエン酸塩、ホマトロピン臭化物水素塩、プリフィニウム臭化物、メチキセン塩酸塩、臭化エチルピペタナート、塩酸アジフェニン、マザチコール塩酸塩水和物、塩化ユートロピン、イミダフェナシン、およびフェソテジンフマル酸が挙げられるが、これらに限定されない。
【0050】
さらに別の態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、上記βアドレナリン受容体作動薬を被験体に投与するステップを含む方法を提供する。βアドレナリン受容体作動薬については、上に詳細に記載されている。
【0051】
さらなる態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、被験体に上記βアドレナリン受容体作動薬および上記アセチルコリンの阻害剤を投与するステップを包含する、方法を提供する。βアドレナリン受容体作動薬およびアセチルコリンの阻害剤については、上に詳細に記載されている。βアドレナリン受容体作動薬およびアセチルコリンの阻害剤は、同時に投与されても、逐次的に投与されてもよい。
【0052】
さらなる態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防するための医薬の製造における上記βアドレナリン受容体作動薬の使用を提供する。βアドレナリン受容体作動薬については、上に詳細に記載されている。
【0053】
上記組み合わせ物において使用され得るニコチン性アセチルコリンの阻害剤としては、スキサメトニウム塩化物水和物、デカメトニウム臭化物、ベクロニウム臭化物、パンクロニウム臭化物、d-ツボクラリン塩化物塩酸水和物、ガラミントリエチオダイド、塩酸メカミラミン、カンシル酸トリメタファン、臭化ヘキサメトニウム、アトラクリウムベシル酸、塩化ドキサクリウム、塩化ミバクリウム、18-メトキシコロナリジン、デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物、メチルリカコチニン、α-ブンガロトキシン、α-コノトキシンG1、ベンゾキノニウム、およびbPiDDBが挙げられるが、これらに限定されない。
【0054】
1つの実施形態において、βアドレナリン受容体作動薬を含む組成物の投与経路としては、局所適用、経皮投与、皮内投与、皮下投与、静脈内投与、経口投与、経腸投与、経肺投与、経鼻投与、腹腔内投与、点耳、点眼などが挙げられるが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、組成物は、局所適用または経皮投与により投与される。局所適用または経皮投与のための組成物の形態としては、軟膏、発布剤、液剤、乳剤、噴霧剤、ペースト、クリーム、ローション、ゲル、粉末、油剤、フォーム剤などが挙げられるが、これらに限定されない。局所適用または経皮投与のための組成物中のβアドレナリン受容体作動薬の含量は、βアドレナリン受容体作動薬の種類および毒性、組成物の形態ならびに投与量に応じて、当業者であれば適宜決定することができる。以下に、局所適用される組成物中のβアドレナリン受容体作動薬の具体的な濃度を示すが、これに限定されるものではない。例えば、特定の実施形態において、局所適用される組成物中のβアドレナリン受容体作動薬は、約0.001~約20重量%の濃度で含まれる。βアドレナリン受容体作動薬の含有量が少なすぎると、アトピー性皮膚炎を十分に抑制することができない場合があり、βアドレナリン受容体作動薬の含有量が多すぎると、毒性が生じたり、製剤化が困難になる場合がある。
【0055】
さらなる実施形態において、局所適用または経皮投与のための組成物は、βアドレナリン受容体作動薬以外にも、経皮吸収を促進させうる薬剤や経皮吸収を促進させうる外用基剤を含んでいてもよい。経皮吸収を促進させうる薬剤の例としては、ラウリル硫酸ナトリウムやポリオキシエチレンエーテルなどの界面活性剤、オレイルアルコールなどのアルコール類、モノラウリン酸ソルビタンなどのソルビタンエステル類、l-メントールなどの環状モノテルペン類、尿素が挙げられる。また、本発明の組成物は、抗炎症剤、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、保存剤、酸化防止剤、湿潤剤、ビタミン類などを含んでいてもよい。抗炎症剤としては、例えば、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸ジカリウム、トラネキサム酸やアラントイン、ε―アミノカプロン酸などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0056】
別の実施形態では、本発明の組成物は、経口投与および静脈内投与など(これらに限定されない)の全身投与によって投与され得る。当業者であれば、全身投与が達成されれば経口投与に限定されず、任意の投与経路で投与され得ることを理解する。全身投与とは、投与された化合物が全身に分布し、全身に利用可能とされ得る投与経路を指す。経口投与のための剤形としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられるが、これらに限定されない。このような剤形は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していてもよい。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、蔗糖、ステアリン酸マグネシウム等が用いられるが、これらに限定されない。
【0057】
静脈内投与する場合は、担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびこれらの混合物を含有する溶媒または分散媒であり得る。本発明の注射用の使用に適した組成物は、滅菌水溶液または分散液、あるいは滅菌注射用溶液または分散液の即時調製用の滅菌粉末であってもよい。微生物の作用は、様々な抗菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、アスコルビン酸、およびチメロサールなどによって防止され得る。等張剤、例えば、糖、多価アルコール、例えばマンニトール、ソルビトール、塩化ナトリウムを組成物に含めることが好ましい。
【0058】
経口投与または静脈内投与されるβアドレナリン受容体作動薬の投与量は、投与対象、投与される物質の種類、重篤度、剤形等によって変動し得るが、当業者であれば、適切な投与量を適宜設定することが可能である。
【0059】
(治療方法)
さらに別の態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防する方法であって、上記βアドレナリン受容体作動薬を被験体に投与するステップを含む方法を提供する。βアドレナリン受容体作動薬については、上に詳細に記載されている。
【0060】
(医薬の製造)
さらなる態様において、本発明は、被験体におけるアトピー性皮膚炎を治療または予防するための医薬の製造における上記βアドレナリン受容体作動薬の使用を提供する。βアドレナリン受容体作動薬については、上に詳細に記載されている。
【0061】
(スクリーニング方法)
さらに別の態様において、本発明は、アトピー性皮膚炎の治療薬をスクリーニングする方法を提供する。本方法は、(a)アトピー性皮膚炎が誘発された非ヒト動物を提供するステップと、(b)アトピー性皮膚炎が誘発した該動物に、アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量のアトピー性皮膚炎誘発物質と、試験化合物を投与するステップと、(c)該試験化合物の投与によるアトピー性皮膚炎の症状の改善を評価するステップとを含む。いくつかの実施形態において、アトピー性皮膚炎が誘発された非ヒト動物が、アトピー性皮膚炎を誘発するのに十分な量のアトピー性皮膚炎誘発物質を投与することにより提供され得る。特定の態様において、本発明の方法は、アトピー性皮膚炎の治療薬の治療効果を評価するための方法であり得る。
【0062】
1つの実施形態において、本方法において使用される非ヒト動物はマウスであり得る。本方法において使用されるマウスは、例えば、NC/Nga、dd、ICR、BALB/c、C3H、DBA、C57BL、Hr-、HR-1マウスが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、使用されるマウスは、NC/Ngaマウスであり得る。アトピー性皮膚炎誘発物質は、上記非ヒト動物(例えば、NC/Ngaマウス)において、アトピー性皮膚炎を誘発することができる物質であればよく、例えば、ダニ抗原、卵白抗原、ミルク抗原、小麦抗原、ピーナッツ抗原、大豆抗原、ソバ抗原、ゴマ抗原、コメ抗原、甲殻類抗原、キウイ抗原、リンゴ抗原、バナナ抗原、モモ抗原、トマト抗原、マグロ抗原、サケ抗原、サバ抗原、牛肉抗原、鶏肉抗原、豚肉抗原、ネコ皮屑抗原、昆虫抗原、花粉抗原、イヌ皮屑抗原、真菌抗原、細菌抗原、ラテックス、ハプテン、金属が挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態において、使用されるアトピー性皮膚炎誘発物質は、ダニ抗原であり得る。
【0063】
ステップ(a)は、アトピー性皮膚炎が誘発された非ヒト動物を提供するためのステップである。特定の実施形態では、アトピー性皮膚炎が誘導された非ヒト動物は、アトピー性皮膚炎を誘発するのに十分な量のアトピー性皮膚炎誘発物質を投与することにより提供され得る。ステップ(a)におけるアトピー性皮膚炎誘発物質の投与期間は、当業者であれば、適切に設定されるが、例えば、約1週間~約5週間、好ましくは、約2週間~約4週間であり得る。別の実施形態では、ステップ(a)におけるアトピー性皮膚炎誘発物質の投与期間は、約1週間、約2週間、約3週間、約4週間、または約5週間であり得るが、好ましくは3週間である。アトピー性皮膚炎を誘発するためのアトピー性皮膚炎誘発物質の投与の回数は、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、1週間に2回、1週間に3回であり得るが、これらに限定されない。アトピー性皮膚炎を誘発するためのアトピー性皮膚炎誘発物質の投与量、投与期間、投与回数は、当業者であれば適切に設定することができる。
【0064】
ステップ(b)は、試験化合物を非ヒト動物に投与して、アトピー性皮膚炎に対する治療の効果を評価するためのステップである。ステップ(b)におけるアトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量は、アトピー性皮膚炎の治療薬を投与しない場合に、アトピー性皮膚炎の症状が重症化することも、緩和することもない量であり得、アトピー性皮膚炎を誘発するのに十分な量未満の量であり得る。例えば、アトピー性皮膚炎を維持するのに十分な量は、ステップ(a)で投与されたアトピー性皮膚炎誘発物質の量の約1/2、約1/3、約2/3、約1/4、約3/4、約1/5、約2/5、約3/5、約4/5、約1/6、約5/6、約1/7、約2/7、約3/7、約4/7、約5/7、約6/7、約1/8、約3/8、約5/8、約7/8、約1/9、約2/9、約3/9、約4/9、約5/9、約7/9、約8/9、約1/10、約3/10、約7/10、約9/10であり得る。好ましい実施形態では、ステップ(a)で投与されたアトピー性皮膚炎誘発物質の量の約1/2の量である。ステップ(b)における試験化合物の投与は、典型的には1日1回であるが、適宜変更してもよく、試験化合物の投与量は、試験化合物の種類によって変動し得るものであり、当業者であれば、毒性、有効性等を考慮して適切に設定することができる。
【0065】
本発明の方法におけるモデル動物の飼育環境は、所定のADスコアを達成するために適切に設定することができる。モデル動物としてマウスを使用する一部の実施形態では、マウスの飼育において、床敷きとしてウッドチップ、ペーパーチップ、コーンコブが挙げられるが、これらに限定されない。床敷きは、週に1回、2回、3回、4回、5回、6回または7回交換され得る。アトピー性皮膚炎を維持するためには、好ましくは、週1回床敷き交換するのが好ましい。
【0066】
本発明の方法は、上記βアドレナリン受容体作動薬または上記フェネチルアミンの誘導体のアトピー性皮膚炎に対する有効性を確認するためにも使用され得る。
【0067】
(モデル動物)
本発明のさらなる態様において、本発明は、試験化合物のアトピー性皮膚炎に対する有効性を評価するためのモデル動物を提供する。本発明のモデル動物は、上記スクリーニング方法において使用され得る。特定の実施形態では、モデル動物はマウスであり得、例えば、NC/Nga、dd、ICR、BALB/c、C3H、DBA、C57BL、Hr-、HR-1マウスが挙げられるが、これらに限定されない。好ましい実施形態では、NC/Ngaマウスである。理論に束縛されることを望まないが、NC/Ngaマウスは、CD4+T細胞が、アトピー性皮膚炎誘導に重要なTh2細胞に誘導されやすいため、好ましいと考えられる。
【0068】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0069】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0070】
(実施例1:ADモデルマウス(NC/Nga)におけるβアドレナリン受容体作動/遮断薬のAD治療効果解析)
本実施例は、β2ARの作動・遮断薬がADに与える影響について調べることを目的とする。併せて、抗コリン薬との併用の効果についても解析を行った。
【0071】
アトピー性皮膚炎のモデルマウス作製:アトピー性皮膚炎のモデル動物としてマウス(NC/Nga、10週齢、オス、日本チャールスリバー)を使用した。皮膚炎の誘発にはダニ抗原(ビオスタAD、和光純薬)を使用した。モデルマウスの作製及びスコア化はビオスタAD添付の説明書記載の方法に従った。4項目の評価項目についてそれぞれ0~3点で評価を行い、各項目のスコアの合計点をADスコアとした。以下の表1に各評価項目のスコアをまとめる。
【0072】
【0073】
被検製剤:βアドレナリン受容体の非選択的作動薬として塩酸イソプレナリン(東京化成工業)。非選択的遮断薬としてプロプラノロール塩酸塩(東京化成工業)。β2受容体選択的作動薬としてプロカテロール塩酸塩水和物(和光純薬)。β2受容体選択的遮断薬としてICI118551塩酸塩をそれぞれ使用した。抗アセチルコリン薬として臭化ヘキサメトニウム(Sigma-Aldrich)を使用した。被検製剤の濃度とそれぞれの性質を表2に示す。
【0074】
【0075】
試験方法:アトピー性皮膚炎モデルマウスの背部に100μlと左右耳介それぞれに25μlの被検製剤を塗布した(各試験群N=5)。各投与条件を表1に示す。ヘキサメトニウム臭化物との併用群は、所定濃度の被検製剤と12mM臭化ヘキサメトニウムの2剤を溶解した製剤を用意し、背部と耳介それぞれに先ほどと同量を塗布した。これを1週目には月曜から金曜まで1日1回、計5回。2週目は月曜から木曜まで1日1回、計4回投与した。月曜日と木曜日には背部を剃毛し、皮膚炎スコアを評価した。試験最終日に経皮蒸散水分量(TEWL)、皮膚水分量(Corneometer)、および表皮厚の測定を行った。
【0076】
(結果)
まず、投与期間の体重の平均変化量を
図1に示す。10日間の投与期間に渡って、有意な体重増減はみられず、毒性は低かったことが確認された。
【0077】
ADスコア比較:全投与群の皮膚炎スコアの平均変化量を
図2Aに、単剤のみの変化量を
図2Bにそれぞれ示す。この結果から、選択的β
2作動薬(B2 ago)、遮断薬(B2 ant)ともに精製水投与群(DW)と大きな差は見られず、ADスコアの改善効果は認められなかった。しかし、非選択的β作動薬(B-pan ago)は精製水とHexa併用群(DW+Hexa)と同等のADスコア低下が見られた。一方、非選択的β遮断薬(B-pan ant)ではスコアの悪化が観察された。これらの傾向はHexa併用群でも同様に見られた。
【0078】
ADでは皮膚のバリア機能が低下しているため、皮膚のバリア機能の回復を早めることが報告されているアドレナリン受容体遮断薬の治療効果が期待された。しかしながら、驚いたことに、遮断薬による治療効果は全く見られず、さらに、非選択的β遮断薬においては悪化が観察された。また、選択的β2遮断薬は、ADマウスにおいてはほとんど作用を示さなかったが、選択的β2作動薬は、わずかなADスコアの低下を示した。また、非選択的β作動薬では、ヘキサメトニウムに匹敵するADスコアの低下が見られた。この結果から、AD皮膚ではすべてのサブタイプが疾患に関与していることが示唆された。今回使用した、非選択的β作動・遮断薬の塩酸イソプレナリンとプロプラノロール塩酸塩は、サブタイプそれぞれに対しての活性に差があり、概ねβ1≒β2>β3となっている。これらのことから、ADにおいては、β1ARおよびβ2ARが関与していることが推察される。
【0079】
バリア機能比較:ADでは皮膚のバリア機能が低下している。もし、被検物質が表皮分化を正常化するのであれば、バリア機能が改善することが予想される。そこで、バリア機能の指標として経皮水分蒸散量と角層水分量の測定を行った。試験最終日(11日目)のそれぞれの測定結果を
図3に示す。非選択的β作動薬および非選択的β遮断薬はADスコアではそれぞれ改善および増悪作用が見られたが、水分蒸散量においては精製水投与群と比較して大きな違いは見られなかった。非選択的β作動薬において僅かな経皮水分蒸散量の悪化が見られた。一方、選択的β
2作動および選択的β
2遮断薬においては、経皮水分蒸散量は改善と悪化作用がそれぞれ見られた。角層水分量においては、選択的・非選択的共に遮断薬において悪化傾向が見られた。これらの結果から、β
2ARもバリア機能の制御に関与している可能性が示唆された。
【0080】
アドレナリン受容体は免疫系の制御にも関与している。β2ARの作動薬によって炎症が抑制されることが報告されており、塩酸イソプレナリン(B pan ago)の作用と合致する。しかし、プロカテロール塩酸塩水和物(B2 ago)の結果とは矛盾する。また、皮膚バリア機能や創傷治癒においてはβ2AR遮断薬が効果的であり、ICI 118551塩酸塩(B2 ant)及びプロプラノロール塩酸塩(B-pan ant)の結果と矛盾する。これらの結果から、ADマウスにおいては、免疫、表皮ともに異なるサブタイプのβARが関与していることが示唆された。
【0081】
AD患者は炎症などの影響で表皮層の肥厚を示す。そこで、症状の指標として、表皮層の厚さを比較した(
図4)。皮膚組織切片をH&E染色し、顕微鏡画像から表皮層の厚さを測定した。無処置群(Non-treated)と比較して陰性対象の精製水投与群(DW)では顕著な表皮層の肥厚が観察された。ADスコア比較においてスコア改善を示したイソプレナリン投与群(B-pan ago)では、表皮厚のわずかな低下を示した。また若干のスコア改善を示したプロカテロール(B2-ago)においては、顕著な表皮厚低下を示した。一方、ADスコアの悪化を示したICI 118551(B2-ant)およびプロプラノロール(B-pan ant)においては顕著な表皮厚増加を示した。以上の結果から、アドレナリンβ受容体の作動薬はADによって肥厚した表皮厚を低下させ、正常状態に戻す効果があることが示唆された。逆に、遮断薬は表皮層をより肥厚させることから、ADの進行に関与していることが示唆された。
【0082】
(実施例2:選択的βアドレナリン受容体作動薬のアトピー性皮膚炎(AD)治療効果解析)
実施例1では、アトピー性皮膚炎(AD)のモデルマウスにおいて、非選択的β作動薬(塩酸イソプレナリン)が治療効果を示した。遮断薬が表皮のバリア機能の回復を早めることが報告されていたため、この結果は予想外であった。本実施例では、塩酸イソプレナリンはβ1/2/3受容体全てに対して作動効果を示すため、どの受容体刺激がAD治療に効果的であるかを確認する。そこで、本実施例ではそれぞれの選択的β作動薬を投与し、AD治療効果の比較を行った。また、実施例1では、被検製剤を投与していない陰性対照においてもADスコアの改善が見られたため、被検製剤の投与期間においても、アトピー性皮膚炎を維持するために継続して、ダニ抗原の塗布を行った。
【0083】
アトピー性皮膚炎のモデルマウス作製:アトピー性皮膚炎のモデル動物としてマウス(NC/Nga、10週齢、オス、日本チャールスリバー)を使用した。皮膚炎の誘発にはダニ抗原(ビオスタAD、和光純薬)を使用した。モデルマウスの作製及びスコア化はビオスタAD添付の説明書記載の方法に従った。
【0084】
被検製剤:β1アドレナリン受容体の選択的作動薬としてドブタミン塩酸塩(東京化成工業)。β2アドレナリン受容体の短時間作用型選択的作動薬としてサルブタモール硫酸塩(和光純薬)。β2の超長時間作用型選択的作動薬としてインダカテロールマレイン酸塩(東京化成工業)。β3選択的作動薬としてミラベグロン(サンタクルーズバイオテクノロジー)をそれぞれ使用した。溶媒として50%エタノール水溶液を使用し、それぞれ終濃度が12mMとなるように調製した(表3)。
【0085】
【0086】
試験方法:被検製剤投与期間の実験スケジュールを表4に示す。アトピー性皮膚炎モデルマウスの背部に100μlと左右耳介に25μlの被検製剤を塗布した(各試験群N=5~6)。これを3週間、月曜から金曜まで1日1回、計15回投与した。被検製剤塗布期間中は、月曜日と木曜日に背部を剃毛し、皮膚炎スコアを評価した。スコア付けののち被験製剤を投与し、一定時間置いた後に皮膚炎誘導時の半分量になる50mgのビオスタADを塗布した。被験製剤の投与期間中のビオスタAD塗布回数は、計6回であった。試験最終日に耳介厚、経皮蒸散水分量(TEWL)及び皮膚水分量(Corneometer)の測定を行った。
【0087】
【0088】
(結果)
被検製剤塗布期間のADスコア平均変化量を
図5に示す。また、被検製剤投与期間前後のADスコア比較を
図6に示す。本実施例では、治療薬塗布期間に2回/週の抗原投与を行った。その結果、陰性対照溶媒塗布群(Vehicle)において、投与開始前と投与21日後のADスコアの間に有意な差は見られず、病態を維持していることが確認された。一方、β
2アドレナリン受容体の短時間作用型選択的作動薬のサルブタモール硫酸塩(B2 SABA)、β
2の超長時間作用型選択的作動薬のインダカテロールマレイン酸塩(B2 U-LABA)、β
3選択的作動薬のミラベグロン(B3)において、投与前と比較して有意なADスコアの改善が見られた。サルブタモール硫酸塩(B2 SABA)は投与開始直後からADスコアの改善効果が顕著に顕れていた(
図5)。また、インダカテロールマレイン酸塩(B2 U-LABA)は21日目において平均変化量(改善効果)が最も大きかった(
図5)。次に、試験最終日の耳介厚の比較を
図7に示す。溶媒塗布群(Vehicle)と比較するとサルブタモール硫酸塩(B2 SABA)において、AD誘発により厚くなっていた耳介厚の低下傾向が見られた。これらの結果から、β
2受容体が病態に大きく関与していることが示唆された。
【0089】
AD症状の指標として、表皮層の厚さを比較した(
図8)。皮膚組織切片をH&E染色し、顕微鏡画像から表皮層の厚さを測定した。陰性対象の溶媒塗布群(vehicle)と比較して、表皮厚が増加した群は、ドブタミン投与群(B1-ago)のみであった。サルブタモール{B2-ago(SABA)}、インダカテロール{B2-ago(ultra-LABA)}およびミラベグロン(B3-ago)投与群はいずれも表皮厚の低下が見られた。この結果から、表皮層の肥厚に関してはβ
2およびβ
3アドレナリン受容体の作動薬が効果的であることが確認された。
【0090】
以上の結果から、βアドレナリン受容体作動薬が、アトピー性皮膚炎に対して有効であることが明らかになった。しかしながら、選択的βアドレナリン受容体作動薬の中でも、治療効果に差が出た。このような差は、βアドレナリン受容体作動薬の分子構造によって治療効果に差が生じる可能性を検討した。
図9に被検製剤の構造比較を示す。治療効果を示した被検製剤の分子構造に共通してみられる構造的特徴を以下のように定義した。
(1)フェニル基の側鎖のα位にヒドロキシ基を有する、
(2)フェニル基の側鎖のβ位に水素以外の置換基を有さない、
(3)アミノ基に、置換または非置換の炭素数2以上の直鎖状の炭化水素基、置換または非置換の分岐状の炭化水素基、置換または非置換の環状の炭化水素基、および置換または非置換の複素環基からなる群から選択される少なくとも1つの置換基を有する、
(4)フェニル基の4位にヒドロキシ基を有する。
【0091】
その結果、治療効果が比較的低かったミラベグロン(Mira.)、プロカテロール塩酸塩(Proc.)、ドブタミン塩酸塩(Dobu.)は、上記3点または2点の特徴としか合致しなかった。一方で、本実施例における試験21日目で高いADスコアの改善が見られたβ2 U-LABAのインダカテロールマレイン酸塩(Inda.)は4つの特徴全てに一致する構造を持っていた。
【0092】
以上から、外用による治療効果にはβ2受容体選択性だけでなく、分子構造的特徴が寄与することが示唆された。
【0093】
本実施例では、被検製剤の治療効果をより正確に評価するために、被検製剤の投与期間における陰性対照群のアトピー性皮膚炎誘発物質の投与条件を検討した。
図10に結果を示す。本実施例では、アトピー性皮膚炎誘発期間は、100 mgビオスタを2回/週(月・木)で塗布した。被検製剤投与期間は、アトピー性皮膚炎誘発期間での投与量の半分である50 mg ビオスタを2回/週(月・木)で塗布し、
図10(試験6)に示されるように、ADスコアが大きく変動することなく維持された。比較として、被検製剤投与期間における以下の条件を試験した。試験1、試験2及び5:抗原は塗布せず。ADスコア改善;試験3:100 mg ビオスタを2回/週(月・木)で塗布。ADスコア悪化;試験4:初めの2週間は100 mg ビオスタを1回/週(月)で塗布。3週目は100 mg ビオスタを2回/週(月)で塗布。ADスコア改善。これらの条件では、被検製剤を投与していないにもかかわらず、ADスコアが改善されている群も存在した。したがって、被検製剤投与期間において、アトピー性皮膚炎誘発物質を継続して投与することが重要であり、その投与量は、誘発期よりも少ない量(例えば、1/2の量)を投与することが重要であることが明らかになった。
【0094】
(実施例3:アドレナリンのアトピー性皮膚炎治療効果解析)
実施例1および2ではアドレナリンβ作動薬のAD治療効果を示してきた。本実施例ではアドレナリンによるAD治療効果を検証した。
【0095】
アトピー性皮膚炎のモデルマウス作製:アトピー性皮膚炎のモデル動物としてマウス(NC/Nga、10週齢、オス、日本チャールスリバー)を使用した。皮膚炎の誘発にはダニ抗原(ビオスタAD、和光純薬)を使用した。モデルマウスの作製及びスコア化はビオスタAD添付の説明書記載の方法に従った。
被検製剤:酒石酸水素L-アドレナリン(東京化成工業、以降アドレナリン)を指定の濃度で精製水に溶解したものを使用した。1.2mMアドレナリン水溶液(1.2mM Adrenaline)、6mM(6mM Adrenaline)、及び、溶媒(精製水、vehicle)を被検製剤として使用した。
【0096】
アトピー性皮膚炎のモデルマウス作製:実施例1に記載の方法に従って作製した。溶媒群はN=8匹、1.2及び6mMアドレナリン投与群はそれぞれN=4匹のマウスを使用した。6mMアドレナリン投与群は、初回投与は12mMアドレナリンを使用したが、2日目以降は6mMアドレナリンを投与した。変更の詳細は後述する。
【0097】
試験方法:実施例1に記載の試験方法に従った。アトピー性皮膚炎モデルマウスの背部と耳介に被検製剤を1回/日、5回/週(月から金曜)の頻度で塗布した。これを3週間、計15回投与した。
【0098】
(結果)
被検製剤として1.2あるいは12mMアドレナリン水溶液を使用した。12mM水溶液投与群では、一過的な活動量低下が観察された。そのため、2日目からは6mMに濃度を変更した。6mMに変更した後も活動量の低下が見られたものの、その症状は15から30分程度で回復していた。また、投与期間中の体重にはほとんど影響はみられず(
図11)、毒性は低いものとして、以降は6mMアドレナリン水溶液を投与した。6mMアドレナリン投与群は、12mMでの投与を1回、6mMでの投与を14回実施した。
【0099】
ADスコアの平均変化量を
図12に示す。その結果、溶媒群と比較して1、2及び6mMアドレナリン投与群どちらもADスコアの低下が認められたが、アドレナリン投与群では、溶媒群よりもADスコアの低下の度合いが大きかった。以上の結果から、βアドレナリン受容体作動薬同様、αアドレナリン受容体およびβアドレナリン受容体の両方を作動するアドレナリンにもAD治療効果があることが確認された。また、アドレナリンは、実施例2において決定した上記構造的特徴のうち(1)、(2)および(4)の3つの特徴を有しており、実施例2との結果とも一貫している。
【0100】
以上より、βアドレナリン受容体作動薬は、αアドレナリン受容体作動活性を有しているか否かにかかわらず、AD治療効果を示すことが明らかになった。
【0101】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。本出願は、2018年5月29日に出願された日本国出願特願2018-102216号に基づく優先権の利益を主張し、その内容は、その全体が参考として援用される。
【産業上の利用可能性】
【0102】
アトピー性皮膚炎を有効に治療または予防するための組成物もしくは組み合わせ物または方法が提供される。このような技術に基づく製剤等に関連する産業(製薬等)において利用可能な技術が提供される。