(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】DGKδノックアウトマウス及びこれを用いた方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20221004BHJP
C12Q 1/06 20060101ALI20221004BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20221004BHJP
C12N 9/12 20060101ALN20221004BHJP
A01K 67/027 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/06
G01N33/15 Z
C12N9/12
A01K67/027
(21)【出願番号】P 2021153201
(22)【出願日】2021-09-21
(62)【分割の表示】P 2017004729の分割
【原出願日】2017-01-13
【審査請求日】2021-09-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 Brain Research Volume 1648,Part A,1 October 2016、Pages193-201
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】坂根 郁夫
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-517879(JP,A)
【文献】国際公開第2006/042441(WO,A2)
【文献】国際公開第2009/143622(WO,A1)
【文献】臼木貴子,モデルマウスを用いたジアシルグリセロールキナーゼδの脳における機能解析,千葉大学学術成果リポジトリ,2016年03月25日,1-113,https://opac.II.chiba-u.jp/da/curator/101934
【文献】臼木貴子 et al.,発達中マウスの脳におけるdiacylglycerol kinase δの発現とその脳特異的欠損マウスの表現型解析,BMB2015(第38回日本分子生物学会年会、第88回日本生化学会大会 合同大会)講演要旨集,2015年,2P0491
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 - 33/98
C12Q 1/06
G01N 33/15
C12N 9/12
A01K 67/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)の
発現レベルに応じて神経細胞の分化状態を確認する方法。
【請求項2】
ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)
からなる神経細胞の分化状態バイオマーカー。
【請求項3】
ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)を有効成分とする神経細胞の軸索/神経突起を調整する調整剤。
【請求項4】
脳特異的にジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)をノックアウトしたノックアウトマウスを用いたセロトニン神経系の異常を改善する強迫性障害の治療薬のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DGKδノックアウトマウス及びこれを用いた方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強迫性障害とは、自分の意思に反して特定のことが頭から離れず、何度も同じ確認を繰り返してしまう精神障害の一種であり、日常生活に大きな支障をきたしてしまうものである。なお、強迫性障害の中でも、意思に反して頭に浮かんでしまって払いのけることができない考えを強迫観念、特定の行為を繰り返してしまうことを強迫行為という。強迫行為としては、例えば、不潔を感じ過剰に手洗いを繰り返してしまう行為や、戸締りを過剰なまでに何度も確認してしまうといった行為が該当する。現在の日本では、50人から100人に一人の割合で強迫性障害にかかっている者がいるといわれている。
【0003】
ところで、下記非特許文献1には、Sapap3欠損マウスが強迫性障害のモデルになりうることに関する記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Jeffrey M.Welchら、“Cortico-stri atal synaptic defects and OCD-like beh aviours in Sapap3-mutant mice”、Vol.448、Nature、No.7156、p894-900
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記マウスでは事象傾向が強く、外界環境に対応した強迫行動(物体に対する強迫的・儀式的異常接触等)を示す強迫性障害の症状のモデルとしての妥当性に疑問が残る。また、強迫性障害の症状には多様性があり、それらに対応可能なモデルマウスの開発が必要である。更に、現在、強迫性障害の治療は、抗うつ薬のSSRIで状態を安定させてから認知行動療法に入るのが一般的であり、強迫性障害専用の治療薬はない。
【0006】
そこで、本発明は上記課題に鑑み、強迫性障害のモデルとなりうるノックアウトマウス及びこれを用いた方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の一観点に係るマウスは、ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)をノックアウトしたノックアウトマウスである。
【0008】
また、本発明の他の一観点に係る方法は、ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)をノックアウトしたノックアウトマウスに被験物質を接触させる方法である。
【発明の効果】
【0009】
以上、本発明により、強迫性障害のモデルとなりうるノックアウトマウス及びこれを用いた方法を提供することができる。これにより、強迫性障害に効果的な治療薬の開発に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図3】フルオキセチン治療による結果を示す図である。
【
図4】初代培養皮質ニューロンにおける神経突起伸長を示す図である。
【
図5】Neuro-2a細胞における神経突起伸長を示す図である。
【
図6】Neuro-2a細胞における神経突起伸長を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態による実施が可能であり、以下に示す実施形態、実施例における具体的な例示にのみ限定されるわけではない。
【0012】
本実施形態に係るノックアウトマウス(以下「本マウス」という。)は、ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)遺伝子を脳特異的に欠損させたもの(ノックアウトしたもの)である。
【0013】
本マウスは、後述の実施例の記載からも明らかであるが、強迫性障害を発症している。ここで強迫性障害とは、上記の通り、自分の意思に反して特定のことが頭から離れず、何度も同じ確認を繰り返してしまう精神障害をいう。特に、後述の実施例から明らかであるが、本マウスは、身近な物体に対する接触回数が著しく亢進するという強迫的・儀式的行動異常を示す。また、無害なビー玉を埋める行動が亢進するという強迫行為的行動異常も示す。更に、これらの異常行動は、強迫性障害の治療に用いられるSSRI(セロトニン再取り込み阻害薬)によって顕著に減弱する。これらの結果はDGKδが強迫性障害発症に関与するキーエンザイムの一つであることを強く示唆しているものである。
【0014】
また本マウスは、上記の通りDGKδをノックアウトしたものであれば限定されず公知の種々の方法を応用することによって作製することができる。例えば(1)ターゲティングベクターを作製するステップ、(2)ターゲティングベクターを胚性幹細胞(ES細胞)に導入するステップ、(3)ES細胞を胚盤胞にインジェクションすることでキメラマウスを作製するステップ、(4)作製したキメラマウスと野生型のマウスを交配させるステップ、を経ることで作製することができる。
【0015】
(DGKδノックアウトマウスを用いる方法)
上記の通り、本実施形態において得られるノックアウトマウスを用いることで、様々な疾患に関するスクリーニングを行うことができる。より具体的に本実施形態に係る方法は、ジアシルグリセロールキナーゼδ(DGKδ)をノックアウトしたノックアウトマウスに被験物質を接触させる方法である。
【0016】
また本方法においては、対照マウスにも被験物質を接触させることが好ましい。具体的には、ノックアウトマウス及び対照マウスに複数の被験物質を接触させ、強迫性障害指標、が対照マウスよりもノックアウトマウスにおいて改善された被験物質を選択する。これにより、上記障害等を効果的に抑制する治療薬の候補物質をスクリーニングすることができる。
【0017】
以上、本実施形態により、強迫性障害等の各種疾患の解析に寄与するDGKδノックアウトマウス及びこれを用いた方法を提供することができる。この詳細については、以下詳細に示す実施例により明らかとなる。なお、下記各試験において、一対比較の統計分析はスチューデントのt検定を用いて行った。また、2つ以上の群を比較する場合の統計分析は、テューキーの範囲検定に従う一元配置分散分析を用いて行った。なおこれら統計的有意性は、p≦0.05として定義した。
【実施例】
【0018】
ここで、上記実施形態に従い、実際にノックアウトマウスを作製しその効果を確認した。なお本実施例における動物実験については、必要な許可及び必要なガイドラインに準拠
して行われた。
【0019】
(脳特異的DGKδ欠損マウスの作製)
DGKδノックアウトマウス(アクセッション番号CDB0660K:http://www2.clst.riken.jp/arg/mutant%20mice%20list.html)は、当該記載される方法により作製した(http://www2.clst.riken.jp/arg/Methods.html)。端的に説明すると、標的構築物は、DGKδのエキソン9に隣接するLoxP部位を配置することによって調製した。
【0020】
また、ネオマイシン耐性のために選択された胚性幹細胞を、標的化カセットの内外のプライマーを用いて、長鎖および短鎖標的化アームにわたるPCRによって相同組換えについてスクリーニングした。なお、後述の行動試験のために、カルモジュリン依存性キナーゼIIα(CaMKIIα)-Cre陽性雄と異型接合繁殖ペアの雌マウスで交配した。
【0021】
Cre-/-:loxP+/+マウスは、C57BL/6およびCBAのバックグラウンドに由来し、次いでC57BL/6マウス(日本国SLC、静岡、日本)と5世代にわたって戻し交配され、観察された表現型に対する背景効果を排除した。
【0022】
Cre-/-:loxP+/+マウスをcre+/-:loxP-/-と交配させて、DGKの脳特異的欠損を達成した。従って、cre+/-:loxP+/+マウスのゲノムの>99%はC57BL/6由来とした。なお行動実験は、10:00~18:00の間に実施した。また、cre+/-:loxP+/+(脳特異的DGKδノックアウトマウス)の対照マウスとしてcre-/-:loxP+/+(対照)同腹子を用いた。
【0023】
(ジェノタイピング)
ところで、loxP遺伝子の遺伝子型決定は、以下のプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって行った。
フォワードプライマー:5’-TCCTACCTCTCTCTCCATTCCC-3’リバースプライマー:5’-AAGGTGTTGAATAATACTCTGTGAC-3’
【0024】
PCR条件は、次の通りでおこなった:94℃で3分間;94℃30秒、58℃30秒、72℃2分のサイクルを32サイクル;そして72℃で5分間。
【0025】
また、cre遺伝子の遺伝子型決定は、以下のプライマーを用いて行った。
フォワードプライマー:
5’-ACGGGAACAGGGCGTTTCGGAGGTGGTTGC-3’
リバースプライマー:
5’-CTAATCGCCATCTTCCAGCACGG-3’
【0026】
またこのPCR条件は以下の通りである:94℃で3分間; 94℃30秒間、60℃30秒間、72℃1.5分間の32サイクル;そして72℃で5分間。
【0027】
また、cre遺伝子のPCR条件は、以下のプライマーを用いて行った。
フォワードプライマー:
5’-TGAGCGAGCTCATCAAGATAATCAGGT-3’
リバースプライマー:
5’-GTTAGCATTGAGCTGCAAGCGCCGTCT-3’
【0028】
(ウェスタンブロッティング)
ところで脳のウェスタンブロッティングは、従前の報告(Tsushima et al.、DiacylglyCcerol kinaze γ serves as an upstream suppressor of Racl and lamellipodium fomation.J.Biol.Chem.279、28603-28613”、2004)により、抗DGKδ(Sakane et al.、“Alternative splicing of the human diacylglycerol kinase δ gene generates two isoforms differing in their expression patterns and in regulatory functions.J.Biol.Chem277,43519-43526”、2002)及び抗GFP抗体(sc-9996、Santa Cruz Biotechnology)を用いて行った。
【0029】
(脳特異的DGKδ欠損マウスの確認)
まず、インビボでの脳におけるDGKδの潜在的役割を調べるため、マウスにおけるDGKδの生殖系列欠損による出生直後の致死を回避しながらエキソン9を標的とした脳特異的DGKδアレルを作製した。尾由来のゲノムDNAのPCRスクリーニングの結果、LoxP部位がDGKαのエキソン9に隣接して配置されていることが示された。
【0030】
また、対照マウス(cre-/-:loxP+/+)で発現しているDGKδ2タンパク質は、このDGKδノックアウトマウスの脳では検出されなかった(cre+/-:loxP+/+)。一方、野生型マウスの精巣において強く発現されるDGKδ2タンパク質の発現レベルは、本マウスと同胞子(対照マウス)とほぼ同じであった。
【0031】
また、脳内において、DGKδの欠損が、他のDGKアイソザイム(α、β、γ、η、κ、ε、ζ、ι、及びθ)のタンパク質発現に有意に影響していないことを確認した。
【0032】
本DGKδノックアウトは正常に増殖し、再生産的に活性であった。一方で、また、DGKδ遺伝子を欠く女性の患者及び雌のマウスが発作を起こす報告がなされている。そのため、このマウスに対し、閾値以下の用量のペンチレンテトラゾール(PTZ)を用いた発作感受性試験を行い潜在的発作表現型を調べた。しかしながら、PTZにより誘発される発作に関し有意差は確認されなかった。
【0033】
さらに、活動及び不安の異常の確認のためのオープンフィールド試験、高架式十字迷路試験、社交性試験、認知欠陥を調べるバーンズ迷路試験、不安以上の確認のための綿棒咬合試験、抗うつ活動を調べる尾懸垂試験をノックアウトマウス及び対照マウスに対しそれぞれ行った。しかしながら、DGKδノックアウトマウスと対照マウスとの間に実質的な差異は観測されなかった。
【0034】
(新規物体認識試験)
次に、これらマウスに対し新規物体認識試験を行った。
【0035】
新規物体認識試験は、空の箱にマウス(15~20週齢)を入れ5分間探索させて慣れさせ、その後、マウスと2つの同一の物体をマウスから同じ距離に置き、10分間観察し、更にその後、上記慣れた物体と別の物体の双方が存在する状態で、10分間マウスをオープンフィールドにおいて探索させ、この探索において費やされた時間及び上記各物体への接触回数を記録することによって行った。なお、慣れた物体と別の物体(新規物体)は、形状、色、テクスチャが異なるものである。この結果を
図1Aに示す。
【0036】
本図で示すように、DGKδノックアウトマウスは、対照マウスに比べ、新規物体に対しても、慣れた物体に対しても頻繁に戻ることが確認され、その接触回数は、対照マウスと比較しても優位に(約6~7倍)増加していることを確認した。
【0037】
また、接触時間に関しても、DGKδノックアウトマウスは、対照マウスに比べ、新規物体に対しても、慣れた物体に対しても優位に(約11~12倍)長くなっていることを確認した。この結果を
図1Bに示す。
【0038】
これら結果は、DGKδノックアウトが、物体に対し分別なく接触を行うことを示している。そして従前の報告である“Joel D.、Current animal models of Oobsessive compulsive disorder:a critical review.、Prog Neuropsychopharmacol Bil Psychiatry、30、374-88”等に基づくと、DGKδノックアウトマウスはOCD様行動を示したと考えられる。
【0039】
なお、新規物体及び双方の物体に費やされた時間、並びに、新規物体及び両方の物体に接触した回数において、対照マウスと有意な差を見出すことができず、DGKδノックアウトマウスの新規嗜好性は検出されなかった(
図1C、D参照)。
【0040】
(ビー玉埋込試験)
ビー玉埋込試験は強迫行動に関連しており、OCD様表現型を解析するために使用され
る。そのため、本試験をDGKδノックアウトマウスに対し行った。
【0041】
ビー玉埋込試験は、ケージを約3cmの深さで寝かせ、これを軽く詰めて平坦な表面にし、各マウス(10~20週齢)をケージに30分間ビー玉なしで放置し、慣れた後、表面に均等に間隔をおいて15個のガラスビーズを置き、マウスをビー玉のケージに入れ、30分間放置し、埋め込み動作によって表面の50%が埋まっていたビー玉の数を測定することにより行った。この結果を
図2に示す。
【0042】
この結果、DGKδノックアウトマウスは対照マウスよりも顕著に多くビー玉を埋め込んだ。この結果は、DGKδノックアウトマウスがOCD様行動を示したことを意味する。
【0043】
(フルオキセチン治療)
選択的セロトニン再取込み阻害薬(SSRI)であるフルオキセチンは、OCD治療薬として利用されている。そこで、新規物体認識試験とビー玉埋設試験におけるSSRIの異常行動への影響を分析し、その効果を確認した。
【0044】
フルオキセチン治療は、フルオキセチン(F132 Sigma Aldrich)を0.9%生理食塩水に溶解し、マウス(10~21週齢)に10mg/kgを1日1回6日間腹腔内注射し、その行動をフルオキセチン処置の前後で試験することによって行った。この結果を
図3A乃至Cに示す。
【0045】
図3A、Bによると、SSRIの投与により、DGKδノックアウトマウスにおける新規物体への接触数および時間の増加が基礎レベルまで有意に軽減されることが確認できた。
【0046】
さらに
図3Cによると、DGKδノックアウトマウスに対するビー玉埋込試験においても、SSRIの投与によって基礎レベルdにまで有意に低下したことが確認できた(
図3C)。
【0047】
以上これらの結果から、DGKδノックアウトマウスがOCD様行動を示していたことがわかる。
【0048】
(DGKδ欠損によるニューロン細胞機能への影響)
ここで、DGKδ欠損によるニューロン細胞機能への影響を調べるために、初代培養皮質ニューロンをDGKδノックアウトから調製した。
【0049】
初代培養皮質ニューロンは、Opti-MEM(Thermo Fisher Scientific)を用い、胚性マウス皮質を胚期E13.5とE14.5との間で分離し、細胞を、Opti-MEM中において、カバーガラスを備えたポリ-L-リシンコート皿に1.5×104細胞/皿の密度で、B-27サプリメント(サーモフィッシャーサイエンティフィック)を含む100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシン(和光純薬工業(株))の存在下において播種した。
【0050】
対照およびDGKδノックアウトマウスの皮質ニューロンにおいて、0、1、2および3以上の軸索/神経突起を有する細胞の定量を行った。この結果を
図4に示しておく。本図で示すように、3つ以上の軸索/神経突起を有する細胞の割合は、対照細胞と比較して、DGKδノックアウトマウスのニューロンにおいて有意に(約2.5倍)増加していることが確認できた。
【0051】
一方で、軸索/神経突起の伸長に対するDGKδ欠損の効果を確認するために、DGKδ特異的siRNAをNeuro-2a神経芽細胞腫細胞にトランスフェクトし、軸索/神経突起伸長を観察した。
【0052】
細胞培養及びトランスフェクションは以下の手順にて行った。まず、マウス神経芽細胞腫Neuro-2a細胞を、10%ウシ胎仔血清(FBS)および100U/mlペニシリン/100μg/mlストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM 和光純薬工業)に播種し、37℃で維持し、5%CO2を含む雰囲気中でインキュベートし、Neuro-2a細胞を、siRNAトランスフェクションのための2.0×10 5細胞/皿の密度およびAcGFP-DGKのトランスフェクションのための0.5×105細胞/皿の密度でカバースリップを有するポリ-L-リシン被覆60mm皿に播種した。
【0053】
次に、マウスDGKδの発現を沈黙させるために、以下のステルスRNAi二本鎖(Invitrogen)を使用した。
(DGKhd-siRNA)
5’-UACUCACAGAGACUGAGGUGCUCCA-3’、
5’-UGGAGCACCUCAGUCUCUGUGAGUA-3’
(対照siRNA)
5’-UGGCACCUCUGACUCUGUAGAGGUA-3’、
5’-UAUCUUUGCAUCCAAGCCAAUGCCA-3’
【0054】
そして、Gene Pulser Xcell(登録商標)エレクトロポレーションシステム(Bio-Rad Laboratories)を使用し、エレクトロポレーション(350V、300μFで)により二重鎖をNeuro-2a細胞にトランスフェクトした。
【0055】
次いで、トランスフェクトされた細胞を、10%FBSを含むD-MEM中で増殖させた。また、AcGFP-C1ベクターまたはAcGFP-C1-DGKδ2を、製造社の指示に従いLipofectamine 2000トランスフェクション試薬(Thermo Fisher Scientific)を用いて一過的にトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、培地を20μMレチノイン酸を含む2%FBSを補充したD-MEMに交換した。そして、レチノイン酸処理72時間後に細胞を観察した。
【0056】
【0057】
また、コントロールおよびDGKδノックダウンNeuro-2a細胞において、0、1、2および3を超える軸索/神経突起を有する細胞の数を計数した。この結果を
図6に示す。
【0058】
DGK
δノックダウンNuero-2a細胞(
図5)およびDGKδ欠損神経細胞(
図4)とは対照的に、3ax/神経突起以上で軸索/神経突起を有さない細胞の割合は有意に減少し、
図6AおよびBと比較して、DGK
δ2過剰発現細胞においてそれぞれ有意に高かった。
【0059】
以上の結果から、DGKδがニューロン細胞の軸索/神経突起を負に調節することを確認し、更に上記の様々な結果より、脳特異的にDGKδがノックアウトされたマウスは、強迫性障害のモデルマウスとして用いることが可能であり、強迫性障害に効果的な治療薬の開発に寄与することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、DGKδノックアウトマウス及びこれを用いた方法として産業上の利用可能性がある。