(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 25/02 20060101AFI20221004BHJP
F04C 29/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F04C25/02 K
F04C29/04 C
(21)【出願番号】P 2021528538
(86)(22)【出願日】2019-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2019024325
(87)【国際公開番号】W WO2020255300
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591255689
【氏名又は名称】樫山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】岩下 航己
(72)【発明者】
【氏名】茂木 幸太郎
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262906(JP,A)
【文献】特開2016-118100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 23/00-29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のケーシングと、
前記ケーシングにおける軸線方向の両側の開口端を封鎖している一対のサイドプレートと、
前記ケーシングの内部において前記サイドプレートの間に形成されているポンプ室と、
少なくとも一方の前記サイドプレートに取り付けたヒーターと
を有しており、
前記ヒーターが取り付けられている前記サイドプレートは、
第1プレートと、
前記軸線方向における前記ポンプ室とは反対側から前記第1プレートに重ね合わせた第2プレートと、
前記第1プレートと前記第2プレートの間に形成したスリットと
を備えており、
前記ヒーターは前記スリット内において前記第1プレートに接した状態に配置されて
おり、
前記第1プレートにおける前記第2プレートの側の端面を第1プレート端面と呼び、前記第2プレートにおける前記第1プレートの側の端面を第2プレート端面と呼ぶものとすると、
前記第1、第2プレート端面のそれぞれの中心側端面部分は相互に当接しており、
前記第1、第2プレート端面のそれぞれにおける前記中心側端面部分を取り囲む外周側端面部分は、相互に前記軸線方向に離れており、
前記外周側端面部分の間に、前記中心側端面部分を取り囲む環状の前記スリットが形成されており、
前記スリットには、前記外周側端面部分に沿って環状の前記ヒーターが配置されている真空ポンプ。
【請求項2】
ヒーター押さえ板を備えており、
前記ヒーターは、前記ヒーター押さえ板によって、前記第2プレート端面の前記外周側端面部分に取り付けられている請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記ヒーターは面状発熱体である請求項1または2に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ室内壁面に排出ガスに含まれる生成物等が堆積することを抑制するためのヒーターを備えた真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
メカニカルブースタポンプ等の真空ポンプは、ポンプ作用部に封液を使用せず、一対のポンプロータが、ポンプ室内周壁に沿って微小な隙間を保ちながら、反対方向に無接触で回転して、一定量の気体を吸気側から排気側へ輸送して真空を得る構造となっている。この形式の真空ポンプは油蒸気による汚染の少ない真空排気が可能であり、エッチング、CVD等の半導体製造プロセスにおいて清浄な真空空間を作る目的で使用される。
【0003】
半導体製造プロセス等においてチャンバ等から排出されるガスには、プロセス中に副次的に生成された副生成物等が含まれている。真空ポンプを用いて発生したガスを吸引排出する場合には、吸引したガスに含まれている生成物等が凝固してポンプ室内壁に付着・堆積することがある。例えば、ポンプ室内において、ポンプロータの端面に対して微小間隔で対峙しているポンプ室の両端のサイドプレートの表面等に、生成物の蓄積、固着が起きることがある。蓄積物、固着物が微小隙間に詰まることに起因して、ポンプロータの回転が止まる、ポンプロータの回転駆動力が上昇してポンプロータを回転駆動するモータが過大電流の状態となり、ポンプが停止する等の弊害が引き起こされる。また、ポンプ停止後の再運転時に、蓄積物、固着物が原因となって、ポンプが再起動できないこともある。
【0004】
そこで、このようなガス排出用に用いる真空ポンプでは、ヒーターによりポンプ室内壁部分を加熱して、蓄積物、固着物の発生を抑制している。従来においては、一般に、ポンプケースの両端部の外周面部分に、ジャケットヒーターを巻き付け、外側から間接的にポンプ室内壁部分を加熱している。特許文献1においては、ターボ分子ポンプにおいて、ポンプケースの一端であるポンプベースにパイプを埋設し、パイプ内にヒーターを配置し、ポンプベースを内部から加熱して、ポンプ室内におけるガスの凝固物の堆積を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
真空ポンプの外周面部分にヒーターを巻き付けて外側から間接的にポンプ内壁部分を加熱する方法は加熱効率が悪いという問題点がある。また、特許文献1に記載されているようなポンプケースを構成する部品の内部にヒーターを埋設する構造は、ヒーター埋設部分の構造が複雑になり、ヒーター埋設部分にヒーターを埋設する作業の作業効率も悪いという問題がある。さらに、ポンプケースにヒーターを埋設して内部加熱を行う場合には、ポンプ室内壁部分以外の部分も加熱される。例えば、ヒーター埋設位置に隣接してポンプロータを支持している軸受部等が配置されている場合には、このような部分も加熱されてしまうという弊害が生じる。
【0007】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、ヒーターの組付けを簡単に行うことができ、効率良くポンプ室内壁部分を加熱可能な真空ポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の真空ポンプは、筒状のケーシングと、ケーシングにおける軸線方向の両側の開口端を封鎖している一対のサイドプレートと、ケーシングの内部においてサイドプレートの間に形成されているポンプ室と、少なくとも一方のサイドプレートに取り付けたヒーターとを有しており、ヒーターが取り付けられているサイドプレートは、第1プレートと、軸線方向におけるポンプ室とは反対側から第1プレートに重ね合わせた第2プレートと、第1プレートと第2プレートの間に形成したスリットとを備えており、ヒーターは、スリット内において、第1プレートに接した状態に配置されており、
第1プレートにおける第2プレートの側の端面を第1プレート端面と呼び、第2プレートにおける第1プレートの側の端面を第2プレート端面と呼ぶものとすると、第1、第2プレート端面のそれぞれの中心側端面部分は相互に当接しており、第1、第2プレート端面のそれぞれにおける中心側端面部分を取り囲む外周側端面部分は、相互に前記軸線方向に離れており、外周側端面部分の間に、中心側端面部分を取り囲む環状のスリットが形成されており、スリットには、外周側端面部分に沿って環状のヒーターが配置されていることを特徴としている。
【0009】
本発明の真空ポンプにおいては、ポンプ室の両端を規定しているサイドプレートのうち、一方あるいは双方を、軸線方向に分割可能な分割構造のサイドプレートとし、分割部材である第1、第2プレートの間にヒーター設置用のスリットを形成してある。単一部品の内部にヒーター埋設部分を形成する場合とは異なり、サイドプレートの構造を複雑化させることなく、サイドプレートの内部にヒーターを組み込むことができる。また、ポンプ室の端面を規定しているサイドプレートを内部から直接に加熱できるので、加熱効率を高めることができる。さらに、第1、第2プレートの間に形成したスリットにより、第1、第2プレートの間の接触面積が減少する。スリットにより、第1プレートから第2プレートへの熱伝達を抑制可能な断熱構造が形成される。よって、軸受等が配置される第2プレートの側への伝熱量を低減できる。
【0010】
ここで、ヒーターを第1、第2プレートの間に形成した狭いスリットに配置できるように、ヒーターとして、面状発熱体(フィルムヒーターあるいはシートヒーター)を用いることが望ましい。
【0012】
この場合、ヒーターを、金属板等からなるヒーター押さえ板によって、第2プレート端面の外周側端面部分に取付ければよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)および(b)は、それぞれ、本発明を適用した実施の形態に係る真空ポンプを示す概略縦断面図である。
【
図2】(a)は
図1の真空ポンプのケーシングの一端に取り付けた分割構造のサイドプレートを示す断面図であり、(b)はその分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面を参照して、本発明の実施の形態に係る真空ポンプを説明する。以下に述べる真空ポンプは単段の真空ポンプであるが、本発明は2段以上の多段真空ポンプにも同様に適用可能である。
【0015】
(全体構成)
図1(a)および(b)は、それぞれ、本実施の形態に係る真空ポンプをその回転中心線を含む直交する平面で切断した場合の概略縦断面図である。真空ポンプ1は、ポンプ室2、モータ3、およびギヤ室4を備えている。ポンプ室2を挟み、真空ポンプの軸線方向の一方の側にモータ3が配置され、他方の側にギヤ室4が配置されている。ポンプ室2は、筒状のケーシング5と、その一方の端を封鎖しているモータ側のサイドプレート6と、ケーシング5の他方の端を封鎖しているギヤ室側のサイドプレート7から構成されている。
【0016】
サイドプレート6、7は、実質的に左右対称な構造をしている。サイドプレート6、7には、それらの外周面6a、7aに開口する一定幅のスリット8、9が形成されている。スリット8、9の内部には、それぞれ、同一形状の面状発熱体であるフィルムヒーター10、11が組み込まれている。フィルムヒーター10、11は、ポンプ室2の両側の端面を規定しているサイドプレート6、7のポンプ室側の端面に生成物等が付着、堆積することを抑制するための加熱手段である。フィルムヒーター10、11は、例えば、プラスチック製の絶縁素材からなるベースフィルムの表面に抵抗発熱線がプリントされ、抵抗発熱線をプラスチック製の絶縁素材からなるカバーフィルムで覆った構造をしている。各種の面状発熱体を用いることができる。
【0017】
ケーシング5には吸気口5aおよび排気口5bが形成されており、これらはポンプ室2に連通している。モータ3はサイドプレート6の側に取り付けられている。反対側のギヤ室4は、ギヤ室側サイドプレート7と、ここに取り付けたギヤカバー12とによって封鎖されている。
【0018】
ポンプ室2には、駆動側のロータ軸13および従動側のロータ軸13Aが、一定の間隔を開けて平行に配置されている。駆動側のロータ軸13の回転中心線1aに沿った方向が真空ポンプ1の軸線方向である。駆動側のロータ軸13および従動側のロータ軸13Aには、それぞれ、同一形状のポンプロータ14、14Aが取り付けられている。本例では、ロータ軸13、13Aとポンプロータ14、14Aは分割されているが、一体構造とすることもできる。すなわち、ロータ軸13とポンプロータ14を単一部品として製造し、ロータ軸13Aとポンプロータ14Aを単一部品として製造することもできる。
【0019】
駆動側のロータ軸13のモータ側の軸端部13aは、モータ側のサイドプレート6に取り付けた軸受15によって支持されている。軸端部13aにおけるモータ3内に延びている部分にモータ軸16が一体形成されている。ロータ軸13のギヤ室側の軸端部13bは、ギヤ室側のサイドプレート7に取り付けた軸受17によって支持されていると共に、ギヤ室4の内部まで延びている。従動側のロータ軸13Aのモータ側の軸端部はモータ側のサイドプレート6に取り付けた軸受15Aによって支持されており、そのギヤ室側の軸端部はギヤ室側のサイドプレート7に取り付けた軸受17Aによって支持されていると共に、ギヤ室4の内部まで延びている。ギヤ室4内において、駆動側のロータ軸13のギヤ室側の軸端部13bは、歯車列18を介して、従動側のロータ軸13Aの軸端部に連結されている。駆動側のロータ軸13が回転すると、従動側のロータ軸13Aは逆方向に同期して回転する。
【0020】
(サイドプレート)
図2(a)はサイドプレート6を示す断面図であり、
図2(b)はその主要な構成部品を示す分解斜視図である。これらの図を参照して説明すると、ポンプ室2の一方の開口端を封鎖しているサイドプレート6は、分割構造のプレートであり、軸線方向から積層されたポンプ室側の第1プレート20とモータ側の第2プレート30から構成されている。第1プレート20と第2プレート30との間に、スリット8が形成されている。スリット8内において、フィルムヒーター10がヒーター押さえ板40によって第1プレート20に固定されている。
【0021】
第1プレート20はケーシング5と略同様な輪郭形状をしている。第1プレート20の中心部分には、同一径の2個の軸孔21、22が形成されており、それぞれには、駆動側のロータ軸13の軸端部13aおよび不図示の従動側のロータ軸の軸端部が通される。第1プレート20におけるポンプ室2の端面を規定しているポンプ室側端面23は平坦な端面である。第1プレート20における第2プレート30の側を向く端面を第1プレート端面24と呼ぶものとすると、第1プレート端面24は、軸孔21、22を包含する中心側端面部分24aと、この中心側端面部分24aを取り囲む段差端面部分24bと、この段差端面部分24bを取り囲む外周側端面部分24cとを備えている。中心側端面部分24aは、各軸孔21、22を取り囲む円環形状をした凸状端面部分である。段差端面部分24bおよび外周側端面部分24cは、中心側端面部分24aを取り囲む長円形輪郭の端面部分である。外周側端面部分24cに対して、段差端面部分24bは僅かに第2プレート30の側に突出している。段差端面部分24bに対して、中心側端面部分24aは第2プレート30の側に突出している。
【0022】
モータ3の側の第2プレート30は、全体として、第1プレート20よりも厚いプレートであり、第1プレート20と同一の輪郭形状をしている。第2プレート30は、その中心部分に軸受15が装着される軸受装着部を備えた軸孔31、32が形成されており、軸受ケースとして機能する。第2プレート30は、モータ3の側を向くモータ側端面33と、第1プレート20の側を向く平坦な端面とを備えている。この端面を、第2プレート端面34と呼ぶものとする。
【0023】
ここで、第2プレート端面34において、第1プレート20の中心側端面部分24aに対峙する端面部分を中心側端面部分34aと呼び、第1プレート20の外周側端面部分24cに対峙する端面部分を外周側端面部分34cと呼ぶものとする。本例では、第2プレート端面34は平坦面であるが、その中心側端面部分34aを凸状端面部分とすることもできる。また、第1、第2プレート20、30の中心側端面部分24a、34aを共に、凸状端面部分とすることもできる。
【0024】
第1、第2プレート20、30を、不図示の締結用ボルト等の締結具により、軸線方向から重ね合わせて締結して、サイドプレート6が構成される。第1プレート端面24における凸状の中心側端面部分24aと、これに対峙する第2プレート端面34の側の中心側端面部分34aとは、不図示のシール材を挟み、気密状態で当接する。
【0025】
第1プレート端面24の外周側端面部分24cと、これに対峙する第2プレート端面34の外周側端面部分34cとの間には、中心側端面部分24a、34aを取り囲む状態に形成された長円形をしたスリット8が形成される。スリット8はサイドプレート6の外周面6aに開口する。
【0026】
スリット8には、段差端面部分24bを取り囲む大きさ(中心側端面部分24a、34aを取り囲む大きさ)の長円形のループを描く一定幅のフィルムヒーター10と、当該フィルムヒーター10と同一形状のヒーター押さえ板40とが配置される。ヒーター押さえ板40は金属板等の剛性部品である。第1プレート20の外周側端面部分24cの側にフィルムヒーター10が位置し、第2プレート30の外周側端面部分34cの側にヒーター押さえ板40が位置する。フィルムヒーター10は、ヒーター押さえ板40によって、不図示の締結ボルト等の締結具を用いて、第1プレート端面24の外周側端面部分24cに面接触状態で固定される。フィルムヒーター10を取り付けた第1プレート20と、第2プレート30とが締結固定される。
【0027】
なお、
図1に示すように、他方のサイドプレート7も分割構造のプレートであり、ここに形成されているスリット9には、フィルムヒーター11およびヒーター押さえ板41が装着されている。サイドプレート7は、サイドプレート6と同様に、第1プレート20と同様な構造の第1プレート50と、第2プレート30と同様な構造の第2プレート60から構成される分割構造をしている。ポンプ室側の第1プレート50に、ヒーター押さえ板41によってフィルムヒーター11が固定されている。サイドプレート7の詳細な構造の説明は省略する。
【0028】
この構成の真空ポンプ1においては、ポンプ室2の両側の端壁を構成しているサイドプレート6、7が分割構造のプレートとなっている。各サイドプレート6、7には、それぞれ、フィルムヒーター10、11が組み込まれている。フィルムヒーター10をヒーター押さえ板40によって、サイドプレート6の第1プレート20に取付け、その状態で第1、第2プレート20、30を重ね合わせて締結すると、内部にフィルムヒーター10が組み込まれたサイドプレート6が得られる。同様に、フィルムヒーター11をヒーター押さえ板41によって、サイドプレート7の第1プレート50に取付け、その状態で第1、第2プレート50、60を重ね合わせて締結すると、内部にフィルムヒーター11が組み込まれたサイドプレート7が得られる。
【0029】
サイドプレート6、7を複雑な構造とすることなく、その内部に、フィルムヒーター10、11を組み込み、サイドプレート6、7を内部から直接加熱することができる。フィルムヒーター10、11による加熱効率を高め、ポンプ室内壁部分を高温に維持できるので、生成物の付着、堆積を効率良く抑制できる。
【0030】
また、サイドプレート6、7にはスリット8、9が形成されている。各サイドプレート6、7を構成している第1プレート20、50と第2プレート30、60との合わせ面は中心側端面部分だけである。第1、第2プレートの間の接触面積が低減され、スリット8、9によって第1、第2プレートの間に断熱構造が形成される。フィルムヒーター10、11によって直接加熱される第1プレート20、50の側から第2プレート30、60の側への伝熱量を低減でき、第2プレート30、60の側の軸受15、17等の部分が不必要に加熱されてしまうという弊害を回避できる。更に、第2プレート30、60への伝熱量を低減でき、また、第2プレート30、60での放熱量も抑制できるので、第1プレート20、50の加熱効率、高温保持が可能となる。