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特許7152142電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】電気化学反応単セルおよび電気化学反応セルスタック
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20221004BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20221004BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20221004BHJP
   C25B 9/73 20210101ALI20221004BHJP
   C25B 11/03 20210101ALI20221004BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/86 U
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B9/73
C25B11/03
H01M8/12 101
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017218693
(22)【出願日】2017-11-14
(65)【公開番号】P2019091584
(43)【公開日】2019-06-13
【審査請求日】2019-11-18
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】519322392
【氏名又は名称】森村SOFCテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】片山 恵一
(72)【発明者】
【氏名】山際 勝也
【合議体】
【審判長】井上 信一
【審判官】清水 稔
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-022111(JP,A)
【文献】特開2014-026720(JP,A)
【文献】特開2016-054147(JP,A)
【文献】David Kennouche, Yu-chen Karen Chen-Wiegart, J. Scott Cronin, Jun Wang, and Scott A. Barnett,「Three-Dimensional Microstructural Evolution of Ni-Yttria-Stabilized Zirconia Solid Oxide Fuel Cell Anodes At Elevated Temperatures」, Journal of The Electrochemical Society, 160 (11) F1293-F1304 (2013)
【文献】J. Scott Cronin, James R. Wilson, Scott A. Barnett, Impact of pore microstructure evolution on polarization resistance of Ni-Yttria-stabilized zirconia fuel cell anodes, Journal of Power Sources 196(2011), p.2640-2643
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/0297, 8/08-8/2495, H01M 4/86-4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質層と、
前記電解質層に対して第1の方向の一方側に配置された空気極と、
前記電解質層に対して前記第1の方向の他方側に配置された燃料極であって、前記燃料極における前記第1の方向の前記他方側の表面を構成する第1の燃料極層と、前記第1の燃料極層と前記電解質層との間に配置され、イオン伝導性物質と電子伝導性物質とを含む第2の燃料極層と、を含む前記燃料極と、
を備える電気化学反応単セルにおいて、
前記第2の燃料極層の厚さは、10μm~40μmであり、
前記第2の燃料極層の気孔率は、前記第1の燃料極層の気孔率より低く、
前記第2の燃料極層の前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、前記イオン伝導性物質の粒子と前記電子伝導性物質の粒子との界面長の合計と、前記イオン伝導性物質の粒子と気孔との界面長の合計と、前記電子伝導性物質の粒子と気孔との界面長の合計と、の総和である総界面長が2.5μm/μm以上である第1の領域が存在し、
前記第1の方向に平行な前記第2の燃料極層の少なくとも1つの断面に、第2の領域内に位置する前記電子伝導性物質の粒子の個数に対する、前記第2の領域の面積の比である電子伝導性物質凝集指数が1.5μm/個以上、2.5μm/個未満である前記第2の領域が存在し、
前記第1の領域および前記第2の領域のそれぞれは、前記第1の方向に平行な前記電気化学反応単セルの断面においてFIB-SEM(加速電圧1.5kV)により得られたSEM画像であって、前記第2の燃料極層の前記第1の方向における全体が確認できる画像であり、前記電解質層と前記第2の燃料極層との境界と推測される部分が、当該画像を前記第1の方向に10等分に分割して得られた10個の分割領域の内、最も前記第1の方向の前記一方側の分割領域内に位置し、前記第2の燃料極層と前記第1の燃料極層との境界と推測される部分が、最も前記第1の方向の前記他方側の分割領域内に位置している画像において、前記第2の燃料極層を表す領域の全体であることを特徴とする、電気化学反応単セル。
【請求項2】
請求項1に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記第1の領域は、前記総界面長が3.0μm/μm以上の領域であることを特徴とする、電気化学反応単セル。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記第1の領域は、前記総界面長が4.5μm/μm以下の領域であることを特徴とする、電気化学反応単セル。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルにおいて、
前記電気化学反応単セルは、燃料電池単セルであることを特徴とする、電気化学反応単セル。
【請求項5】
前記第1の方向に並べて配列された複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタックにおいて、
前記複数の電気化学反応単セルの少なくとも1つは、請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の電気化学反応単セルであることを特徴とする、電気化学反応セルスタック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、電気化学反応単セルに関する。
【背景技術】
【0002】
水素と酸素との電気化学反応を利用して発電を行う燃料電池の種類の1つとして、固体酸化物形の燃料電池(以下、「SOFC」という)が知られている。SOFCの構成単位である燃料電池単セル(以下、単に「単セル」という)は、固体酸化物を含む電解質層と、電解質層に対して所定の方向(以下、「第1の方向」という)の一方側に配置された空気極と、電解質層に対して第1の方向の他方側に配置された燃料極とを備える。
【0003】
単セルを構成する燃料極として、複数の層を含む燃料極が用いられることがある。具体的には、燃料極として、燃料極における第1の方向の上記他方側の表面を構成する第1の燃料極層(以下、「支持層」という)と、支持層と電解質層との間に配置され、イオン伝導性物質(例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア))と電子伝導性物質(例えば、Ni(ニッケル))とを含む第2の燃料極層(以下、「活性層」という)とを含む燃料極が用いられることがある。
【0004】
単セルを構成する燃料極として、支持層と活性層とを含む燃料極を用いる場合において、活性層におけるイオン伝導性物質と電子伝導性物質との接合長さを所定の範囲にすることにより、単セルの性能を向上させる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-26720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来技術のように、単セルの燃料極を構成する活性層におけるイオン伝導性物質と電子伝導性物質との接合長さを所定の範囲にするだけでは、単セルの性能を安定的に向上させることができない、という課題がある。
【0007】
なお、このような課題は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形の電解セル(以下、「SOEC」ともいう)の構成単位である電解単セルにも共通の課題である。なお、本明細書では、燃料電池単セルと電解単セルとをまとめて電気化学反応単セルと呼ぶ。また、このような課題は、SOFCやSOECに限らず、他のタイプの電気化学反応単セルにも共通の課題である。
【0008】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0010】
(1)本明細書に開示される電気化学反応単セルは、電解質層と、前記電解質層に対して第1の方向の一方側に配置された空気極と、前記電解質層に対して前記第1の方向の他方側に配置された燃料極であって、前記燃料極における前記第1の方向の前記他方側の表面を構成する第1の燃料極層と、前記第1の燃料極層と前記電解質層との間に配置され、イオン伝導性物質と電子伝導性物質とを含む第2の燃料極層と、を含む前記燃料極と、を備える電気化学反応単セルにおいて、前記第2の燃料極層の気孔率は、前記第1の燃料極層の気孔率より低く、前記第2の燃料極層の前記第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、前記イオン伝導性物質の粒子と前記電子伝導性物質の粒子との界面長の合計と、前記イオン伝導性物質の粒子と気孔との界面長の合計と、前記電子伝導性物質の粒子と気孔との界面長の合計と、の総和である総界面長が2.5μm/μm以上である第1の領域が存在する。本願発明者は、第2の燃料極層の第1の方向に平行な少なくとも1つの断面に、総界面長が2.5μm/μm以上である第1の領域が存在すると、電気化学反応単セルの性能を安定的に向上させることができることを新たに見出した。上記構成により上記効果が得られる理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。第2の燃料極層の総界面長が比較的長いと、第2の燃料極層が微細な組織であることとなり、第2の燃料極層における反応場が比較的多くなるため、電気化学反応単セルの性能が向上するものと考えられる。また、仮に、イオン伝導性物質の粒子と電子伝導性物質の粒子との界面長だけに注目すると、この界面長が比較的長くても、イオン伝導性物質の粒子と気孔との界面長や、電子伝導性物質の粒子と気孔との界面長が短いと、電気化学反応単セルの性能が十分に向上しないと考えられる。本願発明者は、イオン伝導性物質の粒子と電子伝導性物質の粒子との界面長の合計に加えて、イオン伝導性物質の粒子と気孔との界面長の合計と、電子伝導性物質の粒子と気孔との界面長の合計とを考慮した指標である総界面長に注目し、この総界面長が比較的長い構成を採用すれば、電気化学反応単セルの性能を安定的に向上させることができることを新たに見出したのである。なお、第2の燃料極層の総界面長が比較的長くても、第2の燃料極層の気孔率が第1の燃料極層の気孔率より低いという要件を満たさないと、第2の燃料極層と電解質層との接触面積が低下したり、第2の燃料極層へのガスの拡散が抑制されたりして、電気化学反応単セルの性能が十分に向上しない場合がある。本電気化学反応単セルは、上述した総界面長に関する要件に加え、第2の燃料極層の気孔率が第1の燃料極層の気孔率より低いという要件を満たすため、電気化学反応単セルの性能を安定的に向上させることができる。
【0011】
(2)上記電気化学反応単セルにおいて、前記第1の方向に平行な前記第2の燃料極層の少なくとも1つの断面に、第2の領域内に位置する前記電子伝導性物質の粒子の個数に対する、前記第2の領域の面積の比である電子伝導性物質凝集指数が1.5μm/個以上、2.5μm/個未満である前記第2の領域が存在する構成としてもよい。本電気化学反応単セルでは、電子伝導性物質凝集指数が1.5μm/個以上と過度に小さくはないため、電子伝導性物質の孤立粒子が比較的少ない状態であるため、第2の燃料極層に電子伝導パスを十分に確保することができ、電気化学反応単セルの性能を効果的に向上させることができる。また、本電気化学反応単セルでは、電子伝導性物質凝集指数が2.5μm/個未満と過度に大きくはないため、電子伝導性物質の粒子の凝集の程度が過度に高くはなく、電子伝導性物質の粒子が過度に凝集することによる三相界面の減少と、気孔径の局所的な減少や気孔の閉塞とを抑制することができるため、気孔の分散性を向上させることによってガス拡散性を向上させることができ、電気化学反応単セルの性能を効果的に向上させることができる。
【0012】
(3)上記電気化学反応単セルにおいて、前記第1の領域は、前記総界面長が3.0μm/μm以上の領域である構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、本電気化学反応単セルでは、第1の領域の総界面長がさらに長いため、第2の燃料極層における反応場がさらに多くなり、電気化学反応単セルの性能をさらに効果的に向上させることができる。
【0013】
(4)上記電気化学反応単セルにおいて、前記第1の領域は、前記総界面長が4.5μm/μm以下の領域である構成としてもよい。第2の燃料極層の総界面長が過度に長いと、組織が細かすぎるために気孔の屈曲が大きくなり、ガス拡散性が低下し、電気化学反応単セルの性能が低下するものと考えられる。本電気化学反応単セルでは、第1の領域の総界面長が4.5μm/μm以下と、過度に長くはないため、ガス拡散性の低下を抑制することができ、電気化学反応単セルの性能を効果的に向上させることができる。
【0014】
(5)上記電気化学反応単セルにおいて、前記電気化学反応単セルは、燃料電池単セルである構成としてもよい。本電気化学反応単セルによれば、燃料電池単セルの発電性能を安定的に向上させることができる。
【0015】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、電気化学反応単セル(燃料電池単セルまたは電解単セル)、複数の電気化学反応単セルを備える電気化学反応セルスタック(燃料電池スタックまたは電解セルスタック)、それらの製造方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図である。
図2図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図である。
図3図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。
図4図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図である。
図5図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
図6】単セル110の一部分(図5のX1部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。
図7】燃料極116の活性層320の詳細構成を示す説明図である。
図8】性能評価結果を示す説明図である。
図9】活性層320における総界面長Loの逆数と活性層320における分極抵抗との関係を示す説明図である。
図10図10は、活性層320におけるYSZ-Ni界面長Laの逆数と活性層320における分極抵抗との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
A.実施形態:
A-1.構成:
(燃料電池スタック100の構成)
図1は、本実施形態における燃料電池スタック100の外観構成を示す斜視図であり、図2は、図1のII-IIの位置における燃料電池スタック100のXZ断面構成を示す説明図であり、図3は、図1のIII-IIIの位置における燃料電池スタック100のYZ断面構成を示す説明図である。各図には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとするが、燃料電池スタック100は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。図4以降についても同様である。
【0018】
燃料電池スタック100は、複数の(本実施形態では7つの)発電単位102と、一対のエンドプレート104,106とを備える。7つの発電単位102は、所定の配列方向(本実施形態では上下方向)に並べて配置されている。一対のエンドプレート104,106は、7つの発電単位102から構成される集合体を上下から挟むように配置されている。なお、上記配列方向(上下方向)は、特許請求の範囲における第1の方向に相当する。
【0019】
燃料電池スタック100を構成する各層(発電単位102、エンドプレート104,106)のZ方向回りの周縁部には、上下方向に貫通する複数の(本実施形態では8つの)孔が形成されており、各層に形成され互いに対応する孔同士が上下方向に連通して、一方のエンドプレート104から他方のエンドプレート106にわたって上下方向に延びる連通孔108を構成している。以下の説明では、連通孔108を構成するために燃料電池スタック100の各層に形成された孔も、連通孔108と呼ぶ場合がある。
【0020】
各連通孔108には上下方向に延びるボルト22が挿通されており、ボルト22とボルト22の両側に嵌められたナット24とによって、燃料電池スタック100は締結されている。なお、図2および図3に示すように、ボルト22の一方の側(上側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の上端を構成するエンドプレート104の上側表面との間、および、ボルト22の他方の側(下側)に嵌められたナット24と燃料電池スタック100の下端を構成するエンドプレート106の下側表面との間には、絶縁シート26が介在している。ただし、後述のガス通路部材27が設けられた箇所では、ナット24とエンドプレート106の表面との間に、ガス通路部材27とガス通路部材27の上側および下側のそれぞれに配置された絶縁シート26とが介在している。絶縁シート26は、例えばマイカシートや、セラミック繊維シート、セラミック圧粉シート、ガラスシート、ガラスセラミック複合剤等により構成される。
【0021】
各ボルト22の軸部の外径は各連通孔108の内径より小さい。そのため、各ボルト22の軸部の外周面と各連通孔108の内周面との間には、空間が確保されている。図1および図2に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22A)と、そのボルト22Aが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から酸化剤ガスOGが導入され、その酸化剤ガスOGを各発電単位102に供給するガス流路である酸化剤ガス導入マニホールド161として機能し、該辺の反対側の辺(Y軸に平行な2つの辺の内のX軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22B)と、そのボルト22Bが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の空気室166から排出されたガスである酸化剤オフガスOOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する酸化剤ガス排出マニホールド162として機能する。なお、本実施形態では、酸化剤ガスOGとして、例えば空気が使用される。
【0022】
また、図1および図3に示すように、燃料電池スタック100のZ方向回りの外周における1つの辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸正方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22D)と、そのボルト22Dが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、燃料電池スタック100の外部から燃料ガスFGが導入され、その燃料ガスFGを各発電単位102に供給する燃料ガス導入マニホールド171として機能し、該辺の反対側の辺(X軸に平行な2つの辺の内のY軸負方向側の辺)の中点付近に位置するボルト22(ボルト22E)と、そのボルト22Eが挿通された連通孔108とにより形成された空間は、各発電単位102の燃料室176から排出されたガスである燃料オフガスFOGを燃料電池スタック100の外部へと排出する燃料ガス排出マニホールド172として機能する。なお、本実施形態では、燃料ガスFGとして、例えば都市ガスを改質した水素リッチなガスが使用される。
【0023】
燃料電池スタック100には、4つのガス通路部材27が設けられている。各ガス通路部材27は、中空筒状の本体部28と、本体部28の側面から分岐した中空筒状の分岐部29とを有している。分岐部29の孔は本体部28の孔と連通している。各ガス通路部材27の分岐部29には、ガス配管(図示せず)が接続される。また、図2に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161を形成するボルト22Aの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス導入マニホールド161に連通しており、酸化剤ガス排出マニホールド162を形成するボルト22Bの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、酸化剤ガス排出マニホールド162に連通している。また、図3に示すように、燃料ガス導入マニホールド171を形成するボルト22Dの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス導入マニホールド171に連通しており、燃料ガス排出マニホールド172を形成するボルト22Eの位置に配置されたガス通路部材27の本体部28の孔は、燃料ガス排出マニホールド172に連通している。
【0024】
(エンドプレート104,106の構成)
一対のエンドプレート104,106は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばステンレスにより形成されている。一方のエンドプレート104は、最も上に位置する発電単位102の上側に配置され、他方のエンドプレート106は、最も下に位置する発電単位102の下側に配置されている。一対のエンドプレート104,106によって複数の発電単位102が押圧された状態で挟持されている。上側のエンドプレート104は、燃料電池スタック100のプラス側の出力端子として機能し、下側のエンドプレート106は、燃料電池スタック100のマイナス側の出力端子として機能する。
【0025】
(発電単位102の構成)
図4は、図2に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のXZ断面構成を示す説明図であり、図5は、図3に示す断面と同一の位置における互いに隣接する2つの発電単位102のYZ断面構成を示す説明図である。
【0026】
図4および図5に示すように、発電単位102は、単セル110と、セパレータ120と、空気極側フレーム130と、空気極側集電体134と、燃料極側フレーム140と、燃料極側集電体144と、発電単位102の最上層および最下層を構成する一対のインターコネクタ150とを備えている。セパレータ120、空気極側フレーム130、燃料極側フレーム140、インターコネクタ150におけるZ方向回りの周縁部には、上述したボルト22が挿通される連通孔108に対応する孔が形成されている。
【0027】
インターコネクタ150は、略矩形の平板形状の導電性部材であり、例えばフェライト系ステンレスにより形成されている。インターコネクタ150は、発電単位102間の電気的導通を確保すると共に、発電単位102間での反応ガスの混合を防止する。なお、本実施形態では、2つの発電単位102が隣接して配置されている場合、1つのインターコネクタ150は、隣接する2つの発電単位102に共有されている。すなわち、ある発電単位102における上側のインターコネクタ150は、その発電単位102の上側に隣接する他の発電単位102における下側のインターコネクタ150と同一部材である。また、燃料電池スタック100は一対のエンドプレート104,106を備えているため、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えておらず、最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていない(図2および図3参照)。
【0028】
単セル110は、電解質層112と、電解質層112の上側に配置された空気極(カソード)114と、電解質層112の下側に配置された燃料極(アノード)116とを備える。なお、上側は、特許請求の範囲における第1の方向の一方側に相当し、下側は、特許請求の範囲における第1の方向の他方側に相当する。本実施形態では、燃料極116の厚さ(上下方向のサイズ)が空気極114や電解質層112の厚さより厚く、燃料極116が単セル110を構成する他の層を支持している。すなわち、本実施形態の単セル110は、燃料極支持型の単セルである。
【0029】
電解質層112は、Z方向視で略矩形の平板形状部材であり、緻密な(気孔率が低い)層である。電解質層112は、例えば、YSZ(イットリア安定化ジルコニア)等の固体酸化物により形成されている。このように、本実施形態の単セル110は、電解質として固体酸化物を用いる固体酸化物形燃料電池(SOFC)である。
【0030】
空気極114は、Z方向視で電解質層112より小さい略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。空気極114は、例えば、ペロブスカイト型酸化物(例えばLSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物)、LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物)、LNF(ランタンニッケル鉄))により形成されている。
【0031】
燃料極116は、Z方向視で電解質層112と略同一の大きさの略矩形の平板形状部材であり、多孔質な(電解質層112より気孔率が高い)層である。図6は、単セル110の一部分(図5のX1部)のYZ断面構成を拡大して示す説明図である。図6に示すように、燃料極116は、燃料極116における下側の表面を構成する支持層310と、支持層310と電解質層112との間に配置された活性層320とを備える。本実施形態では、活性層320は電解質層112に隣接しており、支持層310は活性層320に隣接している。
【0032】
活性層320は、主として、電解質層112から供給される酸素イオンと燃料ガスFGに含まれる水素等とを反応させて、電子と水蒸気とを生成する機能を発揮する。活性層320は、酸素イオン伝導性物質(本実施形態では、セラミックスであるYSZ)と電子伝導性物質(本実施形態では、遷移金属であるNi)とを含んでいる。活性層320の厚さは、例えば10μm~40μmである。支持層310は、主として、活性層320と電解質層112と空気極114とを支持する機能を発揮する。支持層310の厚さは、例えば200μm~1000μmである。本実施形態では、支持層310も、酸素イオン伝導性物質(YSZ)と電子伝導性物質(Ni)とを含んでいる。支持層310は、特許請求の範囲における第1の燃料極層に相当し、活性層320は、特許請求の範囲における第2の燃料極層に相当する。
【0033】
図4および図5に示すように、セパレータ120は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔121が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。セパレータ120における孔121の周囲部分は、電解質層112における空気極114の側の表面の周縁部に対向している。セパレータ120は、その対向した部分に配置されたロウ材(例えばAgロウ)により形成された接合部124により、電解質層112(単セル110)と接合されている。セパレータ120により、空気極114に面する空気室166と燃料極116に面する燃料室176とが区画され、単セル110の周縁部における一方の電極側から他方の電極側へのガスのリークが抑制される。
【0034】
空気極側フレーム130は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔131が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、マイカ等の絶縁体により形成されている。空気極側フレーム130の孔131は、空気極114に面する空気室166を構成する。空気極側フレーム130は、セパレータ120における電解質層112に対向する側とは反対側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、空気極側フレーム130によって、発電単位102に含まれる一対のインターコネクタ150間が電気的に絶縁される。また、空気極側フレーム130には、酸化剤ガス導入マニホールド161と空気室166とを連通する酸化剤ガス供給連通孔132と、空気室166と酸化剤ガス排出マニホールド162とを連通する酸化剤ガス排出連通孔133とが形成されている。
【0035】
燃料極側フレーム140は、中央付近に上下方向に貫通する略矩形の孔141が形成されたフレーム状の部材であり、例えば、金属により形成されている。燃料極側フレーム140の孔141は、燃料極116に面する燃料室176を構成する。燃料極側フレーム140は、セパレータ120における電解質層112に対向する側の表面の周縁部と、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面の周縁部とに接触している。また、燃料極側フレーム140には、燃料ガス導入マニホールド171と燃料室176とを連通する燃料ガス供給連通孔142と、燃料室176と燃料ガス排出マニホールド172とを連通する燃料ガス排出連通孔143とが形成されている。
【0036】
燃料極側集電体144は、燃料室176内に配置されている。燃料極側集電体144は、インターコネクタ対向部146と、電極対向部145と、電極対向部145とインターコネクタ対向部146とをつなぐ連接部147とを備えており、例えば、ニッケルやニッケル合金、ステンレス等により形成されている。電極対向部145は、燃料極116における電解質層112に対向する側とは反対側の表面に接触しており、インターコネクタ対向部146は、インターコネクタ150における燃料極116に対向する側の表面に接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も下に位置する発電単位102は下側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102におけるインターコネクタ対向部146は、下側のエンドプレート106に接触している。燃料極側集電体144は、このような構成であるため、燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)とを電気的に接続する。なお、電極対向部145とインターコネクタ対向部146との間には、例えばマイカにより形成されたスペーサー149が配置されている。そのため、燃料極側集電体144が温度サイクルや反応ガス圧力変動による発電単位102の変形に追随し、燃料極側集電体144を介した燃料極116とインターコネクタ150(またはエンドプレート106)との電気的接続が良好に維持される。
【0037】
空気極側集電体134は、空気室166内に配置されている。空気極側集電体134は、複数の略四角柱状の集電体要素135から構成されており、例えば、フェライト系ステンレスにより形成されている。空気極側集電体134は、空気極114における電解質層112に対向する側とは反対側の表面と、インターコネクタ150における空気極114に対向する側の表面とに接触している。ただし、上述したように、燃料電池スタック100において最も上に位置する発電単位102は上側のインターコネクタ150を備えていないため、当該発電単位102における空気極側集電体134は、上側のエンドプレート104に接触している。空気極側集電体134は、このような構成であるため、空気極114とインターコネクタ150(またはエンドプレート104)とを電気的に接続する。なお、空気極側集電体134とインターコネクタ150とが一体の部材として構成されていてもよい。また、空気極側集電体134が導電性のコートによって覆われていてもよく、また、空気極114と空気極側集電体134との間に両者を接合する導電性の接合層が介在していてもよい。
【0038】
A-2.燃料電池スタック100の動作:
図2および図4に示すように、酸化剤ガス導入マニホールド161の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して酸化剤ガスOGが供給されると、酸化剤ガスOGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して酸化剤ガス導入マニホールド161に供給され、酸化剤ガス導入マニホールド161から各発電単位102の酸化剤ガス供給連通孔132を介して、空気室166に供給される。また、図3および図5に示すように、燃料ガス導入マニホールド171の位置に設けられたガス通路部材27の分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料ガスFGが供給されると、燃料ガスFGは、ガス通路部材27の分岐部29および本体部28の孔を介して燃料ガス導入マニホールド171に供給され、燃料ガス導入マニホールド171から各発電単位102の燃料ガス供給連通孔142を介して、燃料室176に供給される。
【0039】
各発電単位102の空気室166に酸化剤ガスOGが供給され、燃料室176に燃料ガスFGが供給されると、単セル110において酸化剤ガスOGおよび燃料ガスFGの電気化学反応による発電が行われる。この発電反応は発熱反応である。各発電単位102において、単セル110の空気極114は空気極側集電体134を介して一方のインターコネクタ150に電気的に接続され、燃料極116は燃料極側集電体144を介して他方のインターコネクタ150に電気的に接続されている。また、燃料電池スタック100に含まれる複数の発電単位102は、電気的に直列に接続されている。そのため、燃料電池スタック100の出力端子として機能するエンドプレート104,106から、各発電単位102において生成された電気エネルギーが取り出される。なお、SOFCは、比較的高温(例えば700℃から1000℃)で発電が行われることから、起動後、発電により発生する熱で高温が維持できる状態になるまで、燃料電池スタック100が加熱器(図示せず)により加熱されてもよい。
【0040】
各発電単位102の空気室166から排出された酸化剤オフガスOOGは、図2および図4に示すように、酸化剤ガス排出連通孔133を介して酸化剤ガス排出マニホールド162に排出され、さらに酸化剤ガス排出マニホールド162の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示せず)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。また、各発電単位102の燃料室176から排出された燃料オフガスFOGは、図3および図5に示すように、燃料ガス排出連通孔143を介して燃料ガス排出マニホールド172に排出され、さらに燃料ガス排出マニホールド172の位置に設けられたガス通路部材27の本体部28および分岐部29の孔を経て、当該分岐部29に接続されたガス配管(図示しない)を介して燃料電池スタック100の外部に排出される。
【0041】
A-3.燃料極116の活性層320の詳細構成:
次に、燃料極116の活性層320の構成について、さらに詳細に説明する。図7は、燃料極116の活性層320の詳細構成を示す説明図である。図7には、活性層320の一部分(図6のX2部)のYZ断面構成が拡大して示されている。
【0042】
上述したように、燃料極116の活性層320は、酸素イオン伝導性物質(本実施形態では、セラミックスであるYSZ)と電子伝導性物質(本実施形態では、遷移金属であるNi)とを含んでいる。図7には、活性層320に含まれる酸素イオン伝導性物質の粒子としてのYSZ粒子Pyと、電子伝導性物質の粒子としてのNi粒子Pnと、気孔POとが模式的に示されている。
【0043】
本実施形態における燃料極116では、活性層320の気孔率が、支持層310の気孔率より低くなっている。なお、活性層320の気孔率は、10vol%以上、30vol%以下であることが好ましく、13vol%以上、20vol%以下であることがより好ましい。活性層320の平均気孔径は、0.3μm以上であることが好ましい。また、支持層310の気孔率は、20vol%以上、45vol%以下であることが好ましく、33vol%以上、37vol%以下であることがより好ましい。支持層310の平均気孔径は、0.5μm以上であることが好ましい。
【0044】
また、本実施形態における燃料極116の活性層320では、上下方向に平行な断面(例えば、図7に示すYZ断面)において、総界面長Loが2.5μm/μm以上となっている。ここで、総界面長Loとは、イオン伝導性物質の粒子(本実施形態では、YSZ粒子Py)と電子伝導性物質の粒子(本実施形態ではNi粒子Pn)との界面Baの長さの合計(以下、「YSZ-Ni界面長La」という)と、イオン伝導性物質の粒子(YSZ粒子Py)と気孔POとの界面Bbの長さの合計(以下、「YSZ-気孔界面長Lb」という)と、電子伝導性物質の粒子(Ni粒子Pn)と気孔POとの界面Bcの長さの合計(以下、「Ni-気孔界面長Lc」という)と、の総和である。すなわち、総界面長Loは、活性層320における各界面の長さの総合計である。本実施形態では、このような活性層320の総界面長Loが、2.5μm/μm以上と比較的長くなっている。なお、活性層320の総界面長Loは、3.0μm/μm以上であることがより好ましい。また、活性層320の総界面長Loは、4.5μm/μm以下であることがより好ましい。
【0045】
なお、活性層320の総界面長Loを構成する各界面長(YSZ-Ni界面長La、YSZ-気孔界面長Lb、Ni-気孔界面長Lc)のそれぞれは、総界面長Loの10%以上、55%以下を占めていることが好ましい。
【0046】
また、本実施形態における燃料極116の活性層320では、上下方向に平行な断面(例えば、図7に示すYZ断面)において、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個以上、2.5μm/個未満となっている。ここで、電子伝導性物質凝集指数Icとは、ある領域内に位置する電子伝導性物質の粒子(Ni粒子Pn)の個数に対する、該領域の面積の比である。すなわち、電子伝導性物質凝集指数Icは、電子伝導性物質の粒子(Ni粒子Pn)の凝集度合いの高さを示す指標である。本実施形態では、このような活性層320の電子伝導性物質凝集指数Icが、1.5μm/個以上、2.5μm/個未満と過度に小さくもなく過度に大きくもない。
【0047】
なお、活性層320におけるYSZ粒子Pyの平均粒径は、例えば、0.4μm以上、0.8μm以下であることが好ましい。また、活性層320におけるNi粒子Pnの平均粒径は、例えば、0.3μm以上、0.8μm以下であることが好ましい。活性層320におけるYSZ粒子PyとNi粒子Pnとの含有比は、65:35~40:60であることが好ましい。
【0048】
A-4.燃料電池スタック100の製造方法:
本実施形態における燃料電池スタック100の製造方法は、例えば以下の通りである。
【0049】
(燃料極支持層用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、造孔材である有機ビーズと、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。有機ビーズは、例えば、ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの高分子により形成された球状粒子である。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば200μm~300μm)の燃料極支持層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極支持層用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。
【0050】
(燃料極活性層用グリーンシートの作製)
NiO粉末とYSZ粉末との混合粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調製する。なお、上述した燃料極支持層用グリーンシートの作製方法と同様に、スラリーの調整の際に、造孔材としての有機ビーズを加えてもよい。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば10μm~40μm)の燃料極活性層用グリーンシートを作製する。なお、燃料極活性層用グリーンシートを作製する際のNiO粉末とYSZ粉末との混合比率は、その性能を満足する限りにおいて適宜設定されればよい。
【0051】
(電解質層用グリーンシートの作製)
YSZ粉末に対して、ブチラール樹脂と、可塑剤であるDOPと、分散剤と、トルエンとエタノールとの混合溶剤とを加え、ボールミルにて混合してスラリーを調整する。得られたスラリーをドクターブレード法により薄膜化して、所定の厚さ(例えば10μm)の電解質層用グリーンシートを作製する。
【0052】
(電解質層112と燃料極116との積層体の作製)
燃料極支持層用グリーンシートと燃料極活性層用グリーンシートと電解質層用グリーンシートとを貼り付けて所定の温度(例えば約280℃)で脱脂する。さらに、脱脂後のグリーンシートの積層体を所定の温度(例えば約1350℃)で焼成する。これにより、電解質層112と燃料極116(活性層320および支持層310)との積層体を得る。
【0053】
(空気極114の形成)
LSCF粉末と、有機バインダとしてのポリビニルアルコールと、有機溶媒としてのブチルカルビトールとを混合し、粘度を調整して、空気極用ペーストを調製する。調整された空気極用ペーストを、上述した電解質層112と燃料極116との積層体における電解質層112の表面に、例えばスクリーン印刷によって塗布して乾燥させ、空気極用ペーストが塗布された積層体を所定の焼成温度(例えば1100℃)で焼成する。これにより空気極114が形成され、燃料極116と電解質層112と空気極114とを備える単セル110が作製される。
【0054】
上述した方法に従い複数の単セル110を作製した後、組み立て工程(例えば、各単セル110にセパレータ120等の他の部材を取り付ける工程、複数の単セル110を積層する工程、ボルト22により締結する工程等)を行う。以上により、燃料電池スタック100の製造が完了する。なお、その後、燃料電池スタック100を発電運転可能な状態とするため、燃料極116の活性層320を還元する(すなわち、活性層320に含まれるNiOをNiに還元する)還元工程が実行される。還元工程は、例えば、燃料極116を、所定の温度の水素雰囲気に所定の時間だけ晒すことにより実現される。なお、還元工程に利用される還元ガスは、水素に限定されず、メタンガス等の他のガスでもよい。以上により、発電運転可能な状態の燃料電池スタック100の製造が完了する。
【0055】
A-5.燃料極116の各特性の調整方法:
上述した方法に従い燃料電池スタック100を製造する際に、燃料電池スタック100を構成する燃料極116の各特性を、例えば以下のように調整することができる。なお、燃料極116の各特性の特定方法は、後述の「A-7.燃料極116の各特性の特定方法」において説明する。
【0056】
(燃料極116の気孔率)
燃料極116を構成する各層(活性層320および支持層310)における気孔率の調整は、例えば、グリーンシート(燃料極活性層用グリーンシートまたは燃料極支持層用グリーンシート)を作製するためのスラリーを調製する際に、造孔材の添加量を調整することにより、実現することができる。具体的には、ある層用のグリーンシートを作製するためのスラリーを調製する際に、造孔材の添加量を多くするほど、該層の気孔率は高くなる。
【0057】
(燃料極116の活性層320における総界面長Lo)
燃料極116の活性層320における総界面長Loの調整は、例えば、燃料極活性層用グリーンシートを作製するためのスラリーを調製する際の電子伝導性物質(Ni)やイオン伝導性物質(YSZ)の原材料の粒径を調整したり、造孔材の大きさを調整したり、燃料極活性層用グリーンシートを焼成する際の焼成条件を調整したりすることにより、実現することができる。具体的には、電子伝導性物質(Ni)やイオン伝導性物質(YSZ)の原材料の粒径を小さくするほど、活性層320における総界面長Loは長くなる。また、造孔材の大きさを小さくするほど、活性層320における総界面長Loは長くなる。また、焼成温度を低くするほど、また焼成時間を短くするほど、活性層320における総界面長Loは長くなる。
【0058】
(燃料極116の活性層320における電子伝導性物質凝集指数Ic)
燃料極116の活性層320における電子伝導性物質凝集指数Icの調整は、例えば、燃料極活性層用グリーンシートを作製するためのスラリーを調製する際の電子伝導性物質(Ni)の原材料の粒径を調整したり、分散剤の選定や添加量の設定によって分散性能を調整したり、燃料極活性層用グリーンシートを焼成する際の焼成条件を調整したりすることにより、実現することができる。具体的には、電子伝導性物質(Ni)の原材料の粒径を小さくするほど、活性層320における電子伝導性物質凝集指数Icは小さくなる。また、分散剤の分散能力を高くするほど、活性層320における電子伝導性物質凝集指数Icは小さくなる。また、焼成温度を低くするほど、また焼成時間を短くするほど、活性層320における電子伝導性物質凝集指数Icは小さくなる。
【0059】
A-6.性能評価:
上述した各特性が互いに異なる複数の単セル110のサンプルを作製し、該サンプルを用いて性能評価を行った。図8は、性能評価結果を示す説明図である。
【0060】
A-6-1.各サンプルについて:
図8に示すように、本性能評価には、単セル110の8つのサンプル(サンプルS1~S8)が用いられた。各サンプルは、上述した単セル110の製造方法に従い作製された。各サンプルは、燃料極116(活性層320および支持層310)の気孔率(vol%)と、活性層320の総界面長Lo(μm/μm)と、YSZ-Ni界面長La(μm/μm)と、電子伝導性物質凝集指数Ic(μm/個)とが互いに異なっている。
【0061】
A-6-2.評価項目および評価方法:
本性能評価では、発電特性についての評価を行った。具体的には、各サンプルの単セル110を用いた燃料電池スタック100について、約700℃で空気極114に酸化剤ガスOGを供給し、燃料極116に燃料ガスFGを供給し、電流密度が0.55A/cmのときの単セル110の出力電圧を測定し、測定された電圧の値に応じて、以下のように「A」~「E」の5段階で評価した(「A」が最も優れているという評価であり、「E」が最も劣っているという評価である)。
・評価:「A」・・・電圧:0.920V以上
・評価:「B」・・・電圧:0.915V以上、0.920V未満
・評価:「C」・・・電圧:0.910V以上、0.915V未満
・評価:「D」・・・電圧:0.900V以上、0.910V未満
・評価:「E」・・・電圧:0.900V未満
【0062】
A-6-3.評価結果:
図8に示すように、サンプルS1では、発電特性の評価結果が最も低い「E」評価であった。サンプルS1の評価結果が低くなった理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、サンプルS1では、活性層320における総界面長Loが2.28μm/μmと、比較的短くなっており、活性層320における反応場が比較的少ないために発電性能が低下したものと考えられる。
【0063】
一方、サンプルS2~S7では、発電特性の評価結果が「D」評価以上であった。サンプルS2~S7の評価結果がサンプルS1の評価結果より高くなった理由は、必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。すなわち、サンプルS2~S7では、活性層320における総界面長Loが2.5μm/μm以上と比較的長くなっており、活性層320が微細な組織であることとなり、活性層320における反応場が比較的多いために発電性能が向上したものと考えられる。
【0064】
ただし、サンプルS8では、活性層320における総界面長Loが2.5μm/μm以上であったにもかかわらず、発電特性の評価結果が最も低い「E」評価であった。サンプルS8では、サンプルS2~S7と異なり、活性層320の気孔率が支持層310の気孔率より高くなっている。そのため、サンプルS8では、活性層320における総界面長Loが比較的長いものの、支持層310の気孔率が比較的高く、その結果、活性層320と電解質層112との接触面積が低下したり、活性層320へのガスの拡散が抑制されたりして発電性能が十分に向上しなかったものと考えられる。
【0065】
以上の結果から、単セル110の発電性能の向上のためには、活性層320の気孔率が支持層310の気孔率より低く、かつ、活性層320における総界面長Loが2.5μm/μm以上であることが好ましいと言える。
【0066】
なお、活性層320における総界面長Loを構成する各界面長(YSZ-Ni界面長La、YSZ-気孔界面長Lb、Ni-気孔界面長Lc)の内、YSZ-Ni界面長Laにのみ注目すると、「E」評価であったサンプルS1では、「D」評価以上であったサンプルS2~S5と比べて、YSZ-Ni界面長Laが長くなっている。そのため、サンプルS1では、YSZ-Ni界面長Laが比較的長いものの、他の界面長(YSZ-気孔界面長LbおよびNi-気孔界面長Lc)が比較的短いために、発電性能が十分に向上しなかったものと考えられる。
【0067】
図9は、活性層320における総界面長Loの逆数と活性層320における活性化分極との関係を示す説明図である。また、図10は、活性層320におけるYSZ-Ni界面長Laの逆数と活性層320における活性化分極との関係を示す説明図である。図9および図10には、複数のサンプルを対象とした各測定値を示す複数の点と、該複数の点に基づき算出した近似直線とが示されている。ただし、図9において、総界面長Loの逆数が最も小さいサンプルの点(図9において括弧で示す)は、近似直線の算出の際に参照していない。
【0068】
図9に示すように、活性層320における総界面長Loの逆数が小さいほど(すなわち、総界面長Loが長いほど)、活性層320における分極抵抗が小さくなる(すなわち、発電性能が高くなる)傾向にある。なお、総界面長Loの逆数が非常に小さくなると(すなわち、総界面長Loが非常に長くなると)、分極抵抗はゼロに近付いていく。同様に、図10に示すように、活性層320におけるYSZ-Ni界面長Laの逆数が小さいほど(すなわち、YSZ-Ni界面長Laが長いほど)、活性層320における分極抵抗が小さくなる傾向にある。ただし、図9図10とを比較すると明らかなように、活性層320におけるYSZ-Ni界面長Laと分極抵抗との相関は比較的低いのに対し、活性層320における総界面長Loと分極抵抗との相関は著しく高い。これは、活性層320におけるYSZ-Ni界面長Laが比較的長くても、他の界面長(YSZ-気孔界面長LbおよびNi-気孔界面長Lc)が比較的短ければ、活性層320における分極抵抗は大きくなり得るからである。そのため、活性層320におけるYSZ-Ni界面長Laのみに注目しても、単セル110の発電性能をばらつきなく向上させることは困難であり、活性層320における総界面長Loに注目し、総界面長Loを長くすることによってはじめて、単セル110の発電性能を安定的に向上させることができると言える。
【0069】
また、発電特性の評価結果が「D」評価以上であったサンプルS2~S7の内、サンプルS2,S3では評価結果が「D」評価であった一方、サンプルS4~S7では評価結果が「C」評価以上であった。サンプルS2では、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個未満であり、サンプルS3では、電子伝導性物質凝集指数Icが2.5μm/個以上である一方、サンプルS4~S7では、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個以上、2.5μm/個未満である。サンプルS2のように、電子伝導性物質凝集指数Icが過度に小さいと、孤立したNi粒子Pnが比較的多い状態となり、活性層320における電子伝導パスを十分に確保することができず、発電性能が低下するものと考えられる。一方、サンプルS3のように、電子伝導性物質凝集指数Icが過度に大きいと、Ni粒子Pnが過度に凝集することによって、三相界面が減少するのみならず、微細組織の均質性が損なわれ、活性層320における気孔POの分散性が低下し、気孔POの径が局所的に減少してガス拡散性が低下し、やはり発電性能が低下するものと考えられる。これに対し、サンプルS4~S7では、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個以上、2.5μm/個未満であり、過度に小さくもないし過度に大きくもないため、孤立したNi粒子Pnを減らすことによって活性層320に電子伝導パスを十分に確保することができると共に、Ni粒子Pnが過度に凝集することによって気孔POの分散性低下に起因するガス拡散性の低下を抑制することができ、発電性能を効果的に向上させることができたものと考えられる。
【0070】
また、発電特性の評価結果が「C」評価以上であったサンプルS4~S7の内、サンプルS4,S5では評価結果が「C」評価であった一方、サンプルS6,S7では評価結果が「B」評価以上であった。サンプルS4,S5では、活性層320における総界面長Loが3.0μm/μm未満である一方、サンプルS6,S7では、活性層320における総界面長Loが3.0μm/μm以上である。このように、サンプルS6,S7では、活性層320における総界面長Loがさらに長いため、活性層320がさらに微細な組織であることとなり、活性層320における反応場がさらに多くなって発電性能がさらに効果的に向上したものと考えられる。
【0071】
また、発電特性の評価結果が「B」評価以上であったサンプルS6,S7の内、サンプルS6では評価結果が「B」評価であった一方、サンプルS7では、評価結果が「A」評価であった。サンプルS6では、活性層320における総界面長Loが4.5μm/μmより長い一方、サンプルS7では、活性層320における総界面長Loが4.5μm/μm以下である。サンプルS6では、活性層320における総界面長Loが過度に長いため、活性層320の組織が細かすぎることによって気孔POの屈曲が大きくなり、その結果、ガス拡散性が低下して発電性能が低下したものと考えられる。これに対し、サンプルS7では、活性層320における総界面長Loが過度に長くはないため、気孔POの屈曲に起因するガス拡散性の低下を抑制することができ、発電性能が極めて効果的に向上したものと考えられる。
【0072】
以上の性能評価結果によれば、単セル110の発電特性を向上させるために、活性層320の気孔率が支持層310の気孔率より低く、かつ、活性層320における総界面長Loが2.5μm/μm以上であることが好ましく、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個以上、2.5μm/個未満であることがより好ましく、活性層320における総界面長Loが3.0μm/μm以上であることがさらに好ましく、活性層320における総界面長Loが4.5μm/μm以下であることが極めて好ましいと言える。
【0073】
A-7.燃料極116の各特性の特定方法:
燃料極116の各特性(活性層320の電子伝導性物質凝集指数Ic、活性層320の総界面長Lo、活性層320および支持層310の気孔率)の特定方法は、以下の通りである。まず、単セル110における上下方向に平行な断面(ただし燃料極116(活性層320)を含む断面)を任意に設定し、該断面における任意の位置で、活性層320が写ったFIB-SEM(加速電圧1.5kV)におけるSEM画像(例えば5000倍)を得る。このSEM画像は、例えば、活性層320の上下方向における全体が確認できる画像であって、電解質層112と活性層320との境界B1(図6参照)と推測される部分が、当該画像を上下方向に10等分に分割して得られた10個の分割領域の内、最も上の分割領域内に位置し、活性層320と支持層310との境界B2(図6参照)と推測される部分が、最も下の分割領域内に位置している画像である。
【0074】
上記SEM画像において、電解質層112と活性層320との境界B1は、電解質層112と活性層320との構成物質の相違や視認等に基づき特定することができる。また、上記SEM画像において、活性層320と支持層310との境界B2は、活性層320と支持層310とのNiの含有率、Niの平均粒径や気孔率の相違等に基づき特定することができる。
【0075】
上記SEM画像において、電子伝導性物質の粒子(本実施形態ではNi粒子Pn)とイオン伝導性物質の粒子(本実施形態ではYSZ粒子Py)との識別は、例えば、SEM画像における明暗差を利用して実現することができる。具体的には、SEM画像を解析することにより、SEM画像を明度に応じた3つの領域に分類することができる。明度に応じた3つの領域から、Ni粒子Pnの領域とYSZ粒子Pyの領域とを識別する手法としては、SEM-EDSを用いるとよい。SEM-EDSによって元素が特定できるため、上記SEM画像から、Ni粒子Pnの領域とYSZ粒子Pyの領域とを識別することができる。また、明度に応じた3つの領域の内の残りの領域を、気孔POの領域として識別することができる。
【0076】
上記SEM画像において、活性層320における特定の領域の面積を特定すると共に、該領域内に存在するNi粒子Pnの個数を計数し、該面積を該個数で除すことにより、活性層320における電子伝導性物質凝集指数Icを特定することができる。
【0077】
また、上記SEM画像を画像解析ソフト(例えば、株式会社リンクス製「HALCON」)を用いて解析することにより、活性層320における各界面長(YSZ-Ni界面長La、YSZ-気孔界面長Lb、Ni-気孔界面長Lc)を特定することができる。特定された各界面長La,Lb,Lcの総和を算出することにより、活性層320における総界面長Loを特定することができる。なお、活性層320全体を対象として総界面長Loを特定することが好ましい。
【0078】
また、上記SEM画像において、活性層320における特定の領域の面積を特定すると共に、気孔POの占める面積を特定し、活性層320における特定の領域の面積に対する気孔POの占める面積の比率を算出することにより、活性層320の気孔率を特定する。
【0079】
また、同様に、支持層310が写ったSEM画像を取得し、支持層310における特定の領域の面積を特定すると共に、気孔POの占める面積を特定し、支持層310における特定の領域の面積に対する気孔POの占める面積の比率を算出することにより、支持層310の気孔率を特定する。なお、このとき用いられる支持層310のSEM画像の倍率は、上述した活性層320のSEM画像の倍率と同一か、それより低い倍率とする。
【0080】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0081】
上記実施形態における単セル110または燃料電池スタック100の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、燃料極116は、活性層320と支持層310との二層構成であるとしているが、燃料極116は、活性層320および支持層310以外の他の層を含むとしてもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、燃料極116の活性層320の上下方向に平行な任意の断面の任意の領域において、総界面長Loが2.5μm/μm以上となっているが、燃料極116の活性層320の上下方向に平行な少なくとも1つの断面に、総界面長Loが2.5μm/μm以上である領域が存在すれば、少なくとも該領域において反応場が比較的多くなるため、単セル110の発電性能を向上させることができる。該領域は、活性層320と電解質層112との境界B1からの距離が10μm以下の範囲に存在することが好ましい。該領域は、特許請求の範囲における第1の領域に相当する。
【0083】
同様に、上記実施形態では、燃料極116の活性層320の上下方向に平行な任意の断面の任意の領域において、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個以上、2.5μm/個未満となっているが、燃料極116の活性層320の上下方向に平行な少なくとも1つの断面に、電子伝導性物質凝集指数Icが1.5μm/個以上、2.5μm/個未満である領域が存在すれば、少なくとも該領域において、孤立したNi粒子Pnを減らすことによって該領域に電子伝導パスを十分に確保することができると共に、Ni粒子Pnが過度に凝集することによる気孔POの分散性低下に起因するガス拡散性の低下を抑制することができるため、単セル110の発電性能を向上させることができる。該領域は、活性層320と電解質層112との境界B1からの距離が10μm以下の範囲に存在することが好ましい。該領域は、特許請求の範囲における第2の領域に相当する。なお、上記第1の領域は、上記第2の領域と同一の領域であってもよいし、別の領域であってもよい。
【0084】
また、上記実施形態における各部材を形成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により形成されてもよい。例えば、上記実施形態では、燃料極116の活性層320に含まれる電子伝導性物質として、Niを採用しているが、Mn、Fe、Co、Cu等の他の電子伝導性物質を利用可能である。ただし、Niは水素との親和性が高いため、燃料極116の活性層320に含まれる電子伝導性物質としてNiを採用することが好ましい。また、上記実施形態では、燃料極116の活性層320に含まれるイオン伝導性物質として、YSZを採用しているが、ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア)等の他のイオン伝導性物質を利用可能である。また、燃料極116の活性層320に、電子伝導性とイオン伝導性との両方を有する物質(例えば、GDC(ガドリニウムドープセリア))が含まれており、該物質が、電子伝導性物質とイオン伝導性物質との両方として機能するとしてもよい。この場合には、総界面長Loは、該物質と気孔POとの界面長を意味する。
【0085】
また、上記実施形態では、燃料極116の支持層310が、YSZとNiとから構成されているが、支持層310が、他の材料(例えば、金属)から構成されていてもよい。
【0086】
また、上記実施形態において、燃料電池スタック100に含まれる単セル110の個数は、あくまで一例であり、単セル110の個数は燃料電池スタック100に要求される出力電圧等に応じて適宜決められる。なお、上記実施形態において、必ずしも燃料電池スタック100に含まれるすべての単セル110について、燃料極116の活性層320の上下方向に平行な少なくとも1つの断面に総界面長Loが2.5μm/μm以上である領域が存在する等の条件が満たされる必要はなく、燃料電池スタック100に含まれる少なくとも1つの単セル110について該条件が満たされれば、該単セル110について発電性能を向上させることができると言える。
【0087】
また、上記実施形態では、燃料電池スタック100は複数の平板形の単セル110が積層された構成であるが、本発明は、他の構成、例えば国際公開第2012/165409号に記載されているように、複数の略円筒形の燃料電池単セルが直列に接続された構成にも同様に適用可能である。
【0088】
また、上記実施形態では、燃料ガスに含まれる水素と酸化剤ガスに含まれる酸素との電気化学反応を利用して発電を行うSOFCを対象としているが、本発明は、水の電気分解反応を利用して水素の生成を行う固体酸化物形電解セル(SOEC)の構成単位である電解単セルや、複数の電解単セルを備える電解セルスタックにも同様に適用可能である。なお、電解セルスタックの構成は、例えば特開2016-81813号公報に記載されているように公知であるためここでは詳述しないが、概略的には上述した実施形態における燃料電池スタック100と同様の構成である。すなわち、上述した実施形態における燃料電池スタック100を電解セルスタックと読み替え、発電単位102を電解セル単位と読み替え、単セル110を電解単セルと読み替えればよい。ただし、電解セルスタックの運転の際には、空気極114がプラス(陽極)で燃料極116がマイナス(陰極)となるように両電極間に電圧が印加されると共に、連通孔108を介して原料ガスとしての水蒸気が供給される。これにより、各電解単セルにおいて水の電気分解反応が起こり、燃料室176で水素ガスが発生し、連通孔108を介して電解セルスタックの外部に水素が取り出される。このような構成の電解単セルにおいても、上述した燃料極116の活性層320の上下方向に平行な少なくとも1つの断面に総界面長Loが2.5μm/μm以上である領域が存在する等の条件が満たされれば、単セル110の性能を向上させることができる。
【0089】
また、上記実施形態では、固体酸化物形燃料電池(SOFC)を例に説明したが、本発明は、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)といった他のタイプの燃料電池(または電解セル)にも適用可能である。
【符号の説明】
【0090】
22:ボルト 24:ナット 26:絶縁シート 27:ガス通路部材 28:本体部 29:分岐部 100:燃料電池スタック 102:発電単位 104:エンドプレート 106:エンドプレート 108:連通孔 110:単セル 112:電解質層 114:空気極 116:燃料極 120:セパレータ 121:孔 124:接合部 130:空気極側フレーム 131:孔 132:酸化剤ガス供給連通孔 133:酸化剤ガス排出連通孔 134:空気極側集電体 135:集電体要素 140:燃料極側フレーム 141:孔 142:燃料ガス供給連通孔 143:燃料ガス排出連通孔 144:燃料極側集電体 145:電極対向部 146:インターコネクタ対向部 147:連接部 149:スペーサー 150:インターコネクタ 161:酸化剤ガス導入マニホールド 162:酸化剤ガス排出マニホールド 166:空気室 171:燃料ガス導入マニホールド 172:燃料ガス排出マニホールド 176:燃料室 310:支持層 320:活性層
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