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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】測距装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 17/931 20200101AFI20221004BHJP
   G01S 7/484 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01S17/931
G01S7/484
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2017232815
(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公開番号】P2019100885
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000005016
【氏名又は名称】パイオニア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001025
【氏名又は名称】弁理士法人レクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】出田 亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 充
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 琢麿
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-53137(JP,A)
【文献】特開平7-254041(JP,A)
【文献】特開2017-203708(JP,A)
【文献】特開2014-119414(JP,A)
【文献】特開2006-329971(JP,A)
【文献】特開2004-226548(JP,A)
【文献】特表2015-514965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/48-7/51
17/00-17/95
G01C 3/00-3/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
投射した光が対象物で反射した反射光を受光して、前記対象物までの距離を測定する、移動体に搭載される測距装置であって、
所定領域を走査する走査光を出射する光出射部と、
前記光出射部の走査モードを、第1の走査モードと、前記第1の走査モードよりも密な走査が可能な第2の走査モードとの間で切り替えさせる制御部と、を含み、
前記光出射部は、前記第1の走査モードにおいてリサージュ走査を行い、前記第2の走査モードにおいてリサージュ走査とは異なる走査を含む走査を行い、
前記制御部は、前記移動体の走行状態を示す走行状態情報を取得し、前記走行状態情報に基づいて、前記走査モードを切り替えさせることを特徴とする測距装置。
【請求項2】
前記走行状態情報は、前記移動体の速度を含むことを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項3】
前記走行状態情報は、前記移動体の進行方向に存在する物体までの距離を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の測距装置。
【請求項4】
前記走行状態情報は、前記移動体の周囲の明度を含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項5】
前記走行状態情報は、前記移動体の加速度を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項6】
前記走行状態情報は、前記移動体のハンドルの舵角を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項7】
前記走行状態情報は、前記移動体の蛇行の頻度を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項8】
前記走行状態情報は、前記移動体の周囲の天気を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項9】
前記光出射部は、反射面を有しかつ揺動可能な反射部材と、
前記反射部材の前記反射面に向けて光を出射する光源と、含み、
前記光源から出射された前記光を前記反射面に反射させることで、前記走査光を出射することを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項10】
前記反射部材は2つの軸を中心に揺動可能であり、
前記リサージュ走査において、前記2つの軸の両方の軸を中心に前記反射部材が共振しつつ揺動させられ、前記リサージュ走査とは異なる走査においては、前記2つの軸のいずれか一方の軸を中心に前記反射部材が共振せずに揺動させられることを特徴とする請求項に記載の測距装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記第2の走査モードにおいて、前記光出射部の走査パターンを、前記2つの軸の両方の軸を中心に前記反射部材が共振せずに揺動させられる走査パターンに切り替えさせることを特徴とする請求項10に記載の測距装置。
【請求項12】
前記光出射部は、前記第2の走査モードにおいて、前記リサージュ走査と、前記リサージュ走査とは異なる走査とを所定の周期で交互に繰り返すことを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項13】
前記走査モードの切替は、前記走査の1又は複数の周期毎になされることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項14】
前記光出射部は、前記第2の走査モードにおいてラスタ走査を含む走査を行うことを特徴とする請求項1乃至13のいずれか1項に記載の測距装置。
【請求項15】
2つの軸を中心に揺動可能でありかつ各軸中心の動作モードを共振モード及び非共振モードの間で切替自在に駆動可能な反射部材と、
前記反射部材に向けて光を出射する光源と、
前記反射部材によって反射された後に物体によって反射された前記光を受光する受光部と、
前記光を出射した時刻と前記光を受光した時刻に基づいて、前記物体までの距離を算出する距離測定部と、
前記移動体の走行状態を示す走行状態情報を取得する取得部と、を含み、
前記反射部材の前記各軸中心の動作モードの各々は、前記走行状態情報に基づいて切り替わることを特徴とする測距装置。
【請求項16】
投射した光が対象物で反射した反射光を受光して、前記対象物までの距離を測定する、移動体に搭載される測距装置であって、
所定領域を走査する走査光を出射する光出射部と、
前記光出射部の走査モードを、第1の走査モードと、前記第1の走査モードよりも密な走査が可能な第2の走査モードとの間で切り替えさせる制御部と、を含み、
前記制御部は、前記移動体の走行状態を示す走行状態情報を取得し、前記走行状態情報に基づいて、前記走査モードを切り替えさせ、
前記光出射部は、反射面を有しかつ揺動可能な反射部材と、前記反射部材の前記反射面に向けて光を出射する光源と、を含み、前記光源から出射された前記光を前記反射面に反射させることで、前記走査光を出射し、
前記第1の走査モードにおいて前記光出射部は第1の走査パターンで走査を行い、前記第2の走査モードにおいて前記光出射部は前記第1の走査パターンよりも密な走査が可能な第2の走査パターンを含む走査パターンで走査を行い、
前記反射部材は2つの軸を中心に揺動可能であり、
前記第1の走査パターンでの走査において、前記2つの軸の両方の軸を中心に前記反射部材が共振しつつ揺動させられ、前記第2の走査パターンでの走査においては、前記2つの軸のいずれか一方の軸を中心に前記反射部材が共振せずに揺動させられることを特徴とする測距装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距装置、特に、光学的な測距を行う測距装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光を対象領域内で走査して、物体までの距離を計測する測距装置が知られている。このような測距装置は、例えば、レーザパルスを出射する光源と、当該レーザパルスを反射させて走査する走査機構と、物体によって反射されたレーザパルスを受光する受光部と、を有している。そして、当該測距装置は、出射したレーザパルスと、受光部によって受光したレーザパルスに基づいて対象物までの距離を計測する。
【0003】
例えば、特許文献1には、光反射面を有し、当該光反射面に入射される光を対象領域内でリサージュ走査できる光走査部と、光源部から出射されたパルス光が物体によって反射された反射光を受光する受光部と、前記光源部によるパルス光の出射タイミングと前記受光部による反射光の受光タイミングとに基づいて、前記物体の距離を計測する測距部と、を備える光測距装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-53137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したような測距装置が車両等の移動体に搭載されている場合に、当該移動体の走行状態に応じた走査態様による計測が求められることがある。例えば、当該走行状態によって、対象領域の一部について、より詳細な計測を行う必要が生じることがある。
【0006】
本発明は上記した点に鑑みてなされたものであり、移動体に搭載された場合に、当該移動体の走行状態に応じて対象領域の一部について、より詳細な計測が可能である測距装置を提供することを目的の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、投射した光が対象物で反射した反射光を受光して、前記対象物までの距離を測定する、移動体に搭載される測距装置であって、所定領域を走査する走査光を出射する光出射部と、前記光出射部の走査モードを、第1の走査モードと、前記第1の走査モードよりも密な走査が可能な第2の走査モードとの間で切り替えさせる制御部と、を含み、前記制御部は、前記移動体の走行状態を示す走行状態情報を取得し、前記走行状態情報に基づいて、前記走査モードを切り替えさせることを特徴とする。
【0008】
請求項11に記載の発明は、2つの軸を中心に揺動可能でありかつ各軸中心の動作モードを共振モード及び非共振モードの間で切替自在に駆動可能な反射部材と、前記反射部材に向けて光を出射する光源と、前記反射部材によって反射された後に物体によって反射された前記光を受光する受光部と、前記光を出射した時刻と前記光を受光した時刻に基づいて、前記物体までの距離を算出する距離測定部と、前記移動体の走行状態を示す走行状態情報を取得する取得部と、を含み、前記反射部材の前記各軸中心の動作モードの各々は、前記走行状態情報に基づいて切り替わることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例に係る測距装置の構成を示すブロック図である。
図2A】実施例に係る光走査部の上面図である。
図2B】実施例に係る光走査部の断面図である。
図3】実施例に係る光走査部に印加される駆動信号の波形及び当該光走査部によるパルス光の走査軌跡の例を示す図である。
図4A】実施例に係る光走査部に印加される駆動信号の波形及び当該光走査部によるパルス光の走査軌跡の例を示す図である。
図4B】実施例に係る光走査部に印加される駆動信号の波形及び当該光走査部によるパルス光の走査軌跡の例を示す図である。
図5A】実施例に係る走査モードの内容の例を示す図である。
図5B】実施例に係る走査モードに適した走行状態情報の例を示す図である。
図6】実施例に係る測距装置が実行するルーチンの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【実施例
【0010】
図1を参照しつつ、実施例に係る測距装置10の構成について説明する。測距装置10は、車両等の移動体に搭載され、光学的に対象物までの距離を計測する光測距装置である。図1には、説明のため、測距装置10が距離を測定する対象である対象物OBが測距装置10とともに模式的に示されている。また、測距装置10による計測に係る光の経路をL1、L2及びL3として示している。
【0011】
光源11は、例えばレーザダイオード等の発光素子であり、パルス光L1を出射する。
【0012】
光学系12は、パルス光L1の光路上に設けられている。光学系12は、例えばコリメータレンズ等の光学部材を含む光学系であり、光源11から出射されたパルス光L1を平行光に変換する。
【0013】
ビームスプリッタ13は、光源11から出射されて光学系12によって平行光に変換されたパルス光L1の光路上に設けられている。ビームスプリッタ13は、ビームスプリッタ13に入射される入射光を所定の方向に透過又は反射するように配置されている。
【0014】
光走査部15は、光源11から出射されて光学系12を通りビームスプリッタ13を透過するパルス光L1の光路上に設けられている。光走査部15は、光反射膜16を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラーである。光走査部15は、電磁気的に光反射膜16を揺動させるように構成されている。
【0015】
光反射膜16は、光反射面16Aを有する反射部材である。光源11から出射されて光学系12によって平行光に変換されたパルス光L1は、ビームスプリッタ13を透過し、光反射面16Aに反射される。光反射面16Aは、パルス光L1を反射させて走査光(測距光)L2を生成する。
【0016】
光反射膜16が電磁気的に揺動させられると、光反射面16Aの向きが変わり、パルス光L1が光反射面16Aに反射される方向、すなわち走査光L2が出射される方向が変化する。光走査部15は、走査光L2が出射される方向を変化させることで、走査光L2によって所定の領域内を走査する。すなわち、光源11及び光走査部15は、走査光L2を出射する光出射部として機能する。
【0017】
例えば、当該所定の領域は光反射膜16が揺動可能な角度範囲に応じて定まる領域である。図1において、当該所定の領域内を走査対象領域R0として示している。また、図1において、走査対象領域R0内における光走査部15から所定の距離だけ離れた仮想の面を走査対象面R1として示している。
【0018】
走査光L2は、走査対象となる領域である走査対象領域R0に向けて出射される。走査対象領域R0の走査光L2の光路上に対象物OB(パルス光L1を反射する性質を持った物体又は流体)が存在する場合、走査光L2が対象物OBに照射(投射)されて反射される。走査光L2が対象物OBに反射された反射光L3は、光反射膜16に戻る。そして、反射光L3は、光反射面16Aに反射され、ビームスプリッタ13によって反射される。
【0019】
受光部18は、ビームスプリッタ13によって反射される反射光L3の光路上に配置されている光検出器である。例えば、受光部18は、フォトダイオード等の受光素子であり、受光部18に入射された光の強度に基づいた受光信号として電気信号を生成する。生成した受光信号は、制御部20に供給される。このように、ビームスプリッタ13によって反射された反射光L3は、受光部18に受光されて検出される。
【0020】
制御部20は、測距装置10の動作に必要な制御を行う。制御部20は、中央演算処理装置(CPU)及びデータの消去・書き込み可能なHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置を備えている。
【0021】
制御部20は、光源制御部20Aを含んでいる。光源制御部20Aは、光源11を駆動する駆動信号を生成する機能部である。光源11は、光源制御部20Aが生成した駆動信号によってパルス光L1を出射する。
【0022】
また、制御部20は、走査制御部20Bを含んでいる。走査制御部20Bは、光走査部15が光反射膜16を揺動させるための駆動信号を生成して光走査部15に供給する機能部である。当該駆動信号によって光反射膜16が揺動し、パルス光L1が光反射面16Aによって反射される方向が変化する。光走査部15は、走査制御部20Bからの信号によって、パルス光L1の反射方向を変化させることで、走査光L2によって所定の領域内を走査する。
【0023】
また、制御部20は、測距部20Cを含んでいる。測距部20Cは、光源11が出射したパルス光L1と、受光部18が受光した反射光L3とに基づいて、受光部18と対象物OBとの間の距離を計測する機能部である。例えば、測距部20Cは、タイムオブフライト法を用いて対象物OBの測距を行う。すなわち、測距部20Cは、距離測定部として機能する。
【0024】
例えば、測距部20Cは、光源11がパルス光L1を出射した時刻(タイミング)と、受光部18が反射光L3を受光したタイミングと、の差に基づいて、測距装置10から対象物OBまでの距離を計測(算出)する。光源制御部20Aは、光源11がパルス光L1を出射したタイミングを示す信号を測距部20Cに供給する。また、受光部18が反射光L3を受光したタイミングは、受光部18から供給された受光信号に基づいて特定される。
【0025】
さらに、制御部20は、判定部20Dを含んでいる。判定部20Dは、測距装置10が搭載されている移動体の走行状態を示す走行状態情報を測距装置10の外部から取得する。例えば、判定部20Dは、当該移動体に搭載されている他の装置又はGPSから走行状態情報を取得する。判定部20Dは、走行状態情報を取得する取得部として機能する。
【0026】
例えば、走行状態情報には、移動体の速度及び加速度、移動体の周囲の明度が含まれる。判定部20Dは、移動体又は移動体に搭載された速度計及び加速度計から、移動体の速度及び加速度の測定結果を取得する。
【0027】
また、例えば、走行状態情報には、移動体の進行方向に存在する物体(例えば先行車両等)までの距離が含まれても良い。判定部20Dは、移動体に搭載されたミリ波レーダ等の距離を測定する装置から、移動体から物体までの距離の測定結果を取得する。
【0028】
また、判定部20Dは、光走査部15が走査対象領域R0内を走査する際の走査パターンの切替が必要か否かを、走行状態情報に基づいて判定する。走査制御部20Bは、判定部20Dの判定結果に応じて光走査部15の走査パターンを制御する。
【0029】
図2A及び図2Bを参照しつつ、光走査部15の構成例について説明する。図2Aは、光走査部15の模式的な上面図である。図2Bは、図2AのV-V線に沿った断面図である。
【0030】
図2A及び図2Bに示すように、固定部21は、固定基板B1及び固定基板B1上に形成された環状の枠体である固定枠B2を含む。図2Bに示すように、固定基板B1は、固定基板B1の上面B1Sに、固定枠B2と対向する領域に枠状の平面形状を有する突出部B1Pを有しており、突出部B1P上に固定枠B2が載置されている構成になっている。
【0031】
可動部22は、固定枠B2の内側に配されており、揺動板SYと、揺動板SYを囲む揺動枠SXとを含んでいる。揺動板SY上には、円形の光反射膜16が設けられている。以下、光反射膜16の上面、すなわち光反射面16Aの中心をACとして説明する。
【0032】
揺動枠SXは、第1のトーションバーTXによって固定枠B2に接続されている。第1のトーションバーTXは、光反射面16Aの中心ACを通りかつ光反射面16Aの面内方向に伸長する第1の揺動軸AXに沿って伸長する一対の長板状の構造部分である。揺動枠SXに揺動軸AX周りの力がかかると、第1のトーションバーTXがねじれ、揺動枠SXは第1の揺動軸AXを中心に、すなわち第1の揺動軸AXを揺動中心軸として揺動する。揺動枠SXは、第1の揺動軸AXを中心に線対称な形状を有している。
【0033】
揺動板SYは、第2のトーションバーTYによって、揺動枠SXに接続されている。第2のトーションバーTYは、光反射膜の中心ACを通り、光反射面16Aの面内方向に伸長しかつ第1の揺動軸AXと直交している第2の揺動軸AYに沿って伸長する一対の長板状の構造部分である。揺動枠SYに揺動軸AY周りの力がかかると、第2のトーションバーTYがねじれ、揺動枠SYは第2の揺動軸AYを中心に、すなわち第2の揺動軸AYを揺動中心軸として揺動する。揺動板SYは、揺動軸AYを中心に線対称な形状を有している。
【0034】
従って、揺動板SYは、互いに直交する揺動軸AX及びAYを中心に揺動するようになっている。この揺動板SYの揺動によって、光反射面16Aの向く方向が変化するようになっている。すなわち、光反射膜16は、反射面を有しかつ揺動可能に構成された反射部材である。
【0035】
上述したように、可動部22は固定枠B2に接続されており、固定枠B2は固定基板B1の突出部B1P上に載置されている構成になっている。従って、可動部22は、固定基板B1の上面B1Sから離間している。そして、揺動枠SXが揺動軸AXを中心に揺動し、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動すると、可動部22が固定枠B2に対して傾斜するように揺動する。突出部B1Pは、可動部22が当該揺動によって上面B1Sに接触しない十分な高さで形成されている。なお、例えば、固定枠B2及び可動部22は、1の半導体基板から加工して形成された一体構造であり得る。
【0036】
駆動力生成部23は、固定基板B1上の突出部B1Pの外側に配置された永久磁石MG1及び永久磁石MG2と、揺動枠SX上において揺動枠SXの外周に沿って引き回された金属配線(第1のコイル)CXと、揺動板SY上において揺動板SYの外周に沿って引き回された金属配線(第2のコイル)CYとを含む。
【0037】
永久磁石MG1は、揺動軸AX上に配されかつ、可動部22を挟んで対向するように設けられた一対の磁石片である。また、永久磁石MG2は、揺動軸AY上に配されかつ、可動部22を挟んで対向するように設けられた一対の磁石片である。従って、本実施例においては、4つの磁石片が、可動部22を囲むように夫々配置されている。
【0038】
また、永久磁石MG1を構成する2つの磁石片は、互いに反対の極性を示す部分が対向するように配置されている。同様に、永久磁石MG2を構成する2つの磁石片は、互いに反対の極性を示す部分が対向するように配置されている。
【0039】
走査制御部20Bは、金属配線CX及びCYに接続されている。走査制御部20Bは、金属配線CX及びCYに電流(駆動信号)を供給する。駆動力生成部23は、当該駆動信号の印加によって、可動部22の揺動枠SX及び揺動板SYを揺動させる電磁気力を生成する。
【0040】
具体的には、金属配線CXに電流が流れると、当該電流と、揺動軸AYに沿った方向に配置された永久磁石MG1の2つの磁石片によって生じた磁界との相互作用によって、揺動枠SXに揺動軸AX周りの力がかかる。それによって、第1のトーションバーTXが揺動軸AXを中心にねじれ、揺動枠SXが揺動軸AXを中心に揺動する。
【0041】
また、金属配線CYに電流が流れると、当該電流と、揺動軸AXに沿った方向に配置された永久磁石MG2の2つの磁石片による磁界との相互作用によって、揺動板SYに揺動軸AY周りの力がかかる。それによって、第2のトーションバーTYが揺動軸AYを中心にねじれ、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動する。
【0042】
図3は、光走査部15が第1の走査パターンであるリサージュ走査で走査する際に走査制御部20Bが生成する駆動信号DX及びDYと、これに基づいて光走査部15が走査する走査光L2の走査軌跡との関係を模式的に示している。
【0043】
以下の説明において、駆動信号DXは、走査制御部20Bによって生成されて金属配線CXに供給される駆動信号として説明する。これによって、揺動枠SXが揺動軸AXを中心に揺動する。また、以下の説明において、駆動信号DYは、走査制御部20Bによって生成されて金属配線CYに供給される駆動信号として説明する。これによって、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動する。
【0044】
また、以下の説明において、駆動信号DX及び駆動信号DYの振幅はすべて同等(図中、AMP=1)であるものとしている。
【0045】
図3において(a)は、図1に示した走査対象面R1上にリサージュ軌跡を描くように走査した場合の走査軌跡TRを示している。図中のAX1及びAY1は、光走査部15の揺動軸AX及び揺動軸AYにそれぞれ対応している。すなわち、光走査部15の揺動軸AX周りの揺動は、走査対象面R1におけるAY1に沿った方向の走査位置の変化に対応する。また、光走査部15の揺動軸AY周りの揺動は、走査対象面R1におけるAX1方向の走査位置の変化に対応する。
【0046】
図3の(b)は、図3(a)に示したリサージュ走査の際の駆動信号DXの波形を模式的に示している。図3の(b)の駆動信号DXは、A1及びB1を定数とし、θ1を変数としたとき、DX(θ1)=A1sin(θ1+B1)の式で示される正弦波の信号である。変数θ1は、駆動信号DXが、光走査部15の第1のトーションバーTXによって固定枠B2に支持されている揺動枠SX及び揺動板SYの固有振動数に対応し、これらを共振させる周波数の正弦波となるように設定される。
【0047】
図3の(c)は、図3(a)に示したリサージュ走査の際の駆動信号DYの波形を模式的に示している。駆動信号DYは、A2及びB2を定数とし、θ2を変数としたとき、DY(θ2)=A2sin(θ2+B2)の式で示される正弦波の信号である。変数θ2は、駆動信号DYが、光走査部15の揺動板SYの固有振動数に対応し、これを共振させる周波数の正弦波となるように設定される。
【0048】
従って、揺動枠SX及び揺動板SYは、駆動信号DXによって揺動軸AXを中心に共振しつつ揺動させられる。すなわち、揺動軸AXを中心に共振モードの動作モードで駆動される。また、揺動板SYは、駆動信号DYによって揺動軸AYを中心に共振しつつ揺動させられる。すなわち、揺動軸AYを中心に共振モードの動作モードで駆動される。従って、揺動板SYは、揺動軸AXを中心に揺動し、かつ揺動軸AYを中心に揺動する。揺動板SYの揺動に応じて、光反射膜16の向く方向が変化する。従って、光源から出射されて光反射膜16に反射された走査光L2(図1参照)は、揺動板SYの揺動に応じて出射方向を変化させつつ走査対象領域R0に出射される。
【0049】
図3に示すように、走査光L2が走査対象面R1に到達する点(スポット位置)の軌跡TRは、上述のように揺動板SYが揺動軸AX及び揺動軸AYを中心に共振しつつ揺動しているので、リサージュ曲線を描くような軌跡となる。当該リサージュ曲線は、走査対象面R1の全体に亘っており、走査対象面R1のAX1に沿った方向の端部に軌跡が密集し、走査対象面R1のAX1に沿った方向の中央付近に近づくにつれて当該端部よりも軌跡同士の間隔が広い傾向を有している。
【0050】
図4A及び図4Bは、図3における走査パターンと異なる第2の走査パターンであるラスタ走査で光走査部15が走査光L2を走査する際に、走査制御部20Bが生成する駆動信号DX及びDYと、これに基づいて光走査部15が走査する走査光L2の走査軌跡との関係を模式的に示している。
【0051】
上述したように、駆動信号DXは、走査制御部20Bによって生成されて金属配線CXに供給される駆動信号である。これによって、揺動枠SXが揺動軸AXを中心に揺動する。また、駆動信号DYは、走査制御部20Bによって生成されて金属配線CYに供給される駆動信号である。これによって、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動する。
【0052】
図4Aにおいて、(a)は、図1に示した走査対象面R1上にラスタ軌跡を描いて走査した場合の走査軌跡TRを示している。図3と同様に、図中のAX1及びAY1は、光走査部15の揺動軸AX及び揺動軸AYにそれぞれ対応している。光走査部15の揺動軸AX周りの揺動は、走査対象面R1におけるAY1に沿った方向の走査位置の変化に対応する。また、光走査部15の揺動軸AY周りの揺動は、走査対象面R1におけるAX1方向の走査位置の変化に対応する。
【0053】
図4Aの(b)は、図4A(a)に示したラスタ走査の際の駆動信号DXの波形を模式的に示している。図4Aの(b)の駆動信号DXは、A1及びB1を定数とし、θ1を変数としたとき、DX(θ1)=A1sin(θ1+B1)の式で示される正弦波の信号である。変数θ1は、駆動信号DXが、光走査部15の第1のトーションバーTXによって固定枠B2に支持されている揺動枠SX及び揺動板SYの固有振動数に対応し、これらを共振させる周波数の正弦波となるように設定される。
【0054】
図4Aの(c)は、図4A(a)に示したラスタ走査の際の駆動信号(第2の駆動信号)DYの波形を模式的に示している。駆動信号DYは、鋸歯状波(のこぎり波)の信号である。駆動信号DYは、光走査部15の揺動板SYの固有振動数に対応せず、これを共振させない周波数(非共振)ののこぎり波となるように生成される。例えば、駆動振動DYは、A2を定数とし、B2を任意の整数とし、θ2を変数としたとき、DY(θ2)=2/π[sinA2θ2+1/2sin2A2θ2+1/3sin3A2θ2+・・・1/B2sinB22θ2]の式で表わされる。
【0055】
なお、駆動信号DYとしては、上述ののこぎり波に限定されず、光走査部15の揺動板SYの固有振動数に対応せず、これを共振させない周波数(非共振)の三角波、Sin波であってもよい。
【0056】
図4Aのラスタ走査の際に、揺動板SYは、駆動信号DXによって揺動軸AXを中心に共振しつつ揺動させられる。また、揺動板SYは、駆動信号DYによって揺動軸AYを中心に共振せずに揺動させられる。すなわち、図4Aにおけるラスタ走査は、揺動板SYの揺動軸AY周りの駆動を非共振モードとし、揺動板SYの揺動軸AX周りの駆動を共振モードとするラスタ走査である。
【0057】
従って、揺動板SYは、揺動軸AXを中心に揺動し、かつ揺動軸AYを中心に揺動する。揺動板SYの揺動に応じて、光反射膜16の向く方向が変化する。従って、光源から出射されて光反射膜16に反射された走査光L2(図1参照)は、揺動板SYの揺動に応じて出射方向を変化させつつ走査対象領域R0に出射される。
【0058】
上述のように、揺動板SYは、揺動軸AXを中心に共振しつつ揺動する。また、駆動信号DXの振幅は、図3の(b)に示す駆動信号Xの振幅と同等である。この場合、揺動板SYが揺動軸AXを中心に揺動する大きさ、すなわち角度は、図3の(a)に示した場合と同等である。従って、走査対象面R1における走査光L2の走査軌跡TRは、AY1に沿った方向に広い範囲に描かれる。
【0059】
また、上述のように、揺動板SYは、揺動軸AYを中心に共振せずに揺動する。また、駆動信号DYの振幅は、図3の(c)に示す駆動信号Yの振幅と同等である。この場合、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動する大きさ、すなわち角度は、揺動板SYが揺動軸AYを中心に共振して揺動する場合(図3)と比較して小さくなる。従って、走査対象面R1における走査光L2の走査軌跡TRはAX1方向に沿った狭い範囲に描かれる。
【0060】
従って、図4Aの(a)の走査軌跡は、AX1に沿った方向に沿った狭い範囲であるラスタ走査領域RAYに描かれる。当該走査軌跡は、ラスタ走査領域RAYにおいて、AX1に沿った方向に沿った狭い範囲に密集したものとなっている。このように、揺動板SYの揺動軸AY周りの駆動を非共振モードとするラスタ走査によって、ラスタ走査領域RAY内を高い密度で走査することが可能である。
【0061】
図4Bにおいて、(a)は、図1に示した走査対象面R1のラスタ走査による走査軌跡TRを示している。図中のAX1及びAY1は、光走査部15の揺動軸AX及び揺動軸AYにそれぞれ対応している。光走査部15の揺動軸AX周りの揺動は、走査対象面R1におけるAY1に沿った方向の走査位置の変化に対応する。また、光走査部15の揺動軸AY周りの揺動は、走査対象面R1におけるAX1方向の走査位置の変化に対応する。
【0062】
図4Bの(b)は、図4B(a)に示したラスタ走査の際の駆動信号DXの波形を模式的に示している。図4Bの(b)の駆動信号(第1の駆動信号)DXは、のこぎり波の信号である。当該駆動信号DXは、光走査部15の第1のトーションバーTXによって固定枠B2に支持されている揺動枠SX及び揺動板SYの固有振動数に対応せず、これらを共振周させない周波数ののこぎり波となるように生成される。
【0063】
駆動信号DXは、A1及びB1を任意の整数とし、θ1を変数としたとき、DY(θ1)=2/π[sinA1θ1+1/2sin2A1θ1+1/3sin3A1θ1+・・・1/B1sinB11θ1]の式で表わされる。
【0064】
図4Bの(c)は、図4B(a)に示したラスタ走査の際の駆動信号(第2の駆動信号)DYの波形を模式的に示している。駆動信号DYは、A2及びB2を定数とし、θ2を変数としたとき、DY(θ2)=A2sin(θ2+B2)の式で示される正弦波の信号である。変数θ2は、駆動信号DYが、光走査部15の揺動板SYの固有振動数に対応し、これを共振させる周波数の正弦波となるように設定される。
【0065】
図4Bのラスタ走査の際に、揺動板SYは、駆動信号DXによって揺動軸AXを中心に共振せずに揺動させられる。また、揺動板SYは、駆動信号DYによって揺動軸AYを中心に共振しつつ揺動させられる。すなわち、図4Bにおけるラスタ走査は、揺動板SYの揺動軸AX周りの駆動を非共振モードとし、揺動板SYの揺動軸AY周りの駆動を共振モードとするラスタ走査である。
【0066】
従って、揺動板SYは、揺動軸AXを中心に揺動し、かつ揺動軸AYを中心に揺動する。すなわち、光反射膜16が設けられた揺動板SYは、2つの軸を中心に揺動可能である。揺動板SYの揺動に応じて、光反射膜16の向く方向が変化する。従って、光源から出射されて光反射膜16に反射された走査光L2(図1参照)は、揺動板SYの揺動に応じて出射方向を変化させつつ走査対象領域R0に出射される。
【0067】
上述のように、揺動板SYは、揺動軸AXを中心に共振せずに揺動する。また、駆動信号DXの振幅は、図3の(b)に示す駆動信号DXの振幅と同等である。この場合、揺動板SYが揺動軸AXを中心に揺動する大きさ、すなわち角度は、揺動板SYが揺動軸AXを中心に共振して揺動する場合(図3(b)及び図4A(b))と比較して小さくなる。従って、走査対象面R1における走査光L2の走査軌跡TRはAY1に沿った方向に狭い範囲に描かれる。
【0068】
また、上述のように、揺動板SYは、揺動軸AYを中心に共振しつつ揺動する。また、駆動信号DYの振幅は、図3の(c)に示す駆動信号DYの振幅と同等である。この場合、揺動板SYが揺動軸AYを中心に揺動する大きさ、すなわち角度は、図3の(a)に示した場合と同等である。従って、走査対象面R1における走査光L2の走査軌跡TRは、AX1方向に沿った広い範囲に描かれる。
【0069】
従って、図4Bの(a)の走査軌跡は、AY1に沿った方向に狭い範囲であるラスタ走査領域RAXに描かれる。当該走査軌跡は、ラスタ走査領域RAXにおいて、AY1に沿った方向に狭い範囲に密集したものとなっている。このように、揺動板SYの揺動軸AX周りの駆動を非共振モードとするラスタ走査によって、ラスタ走査領域RAX内を高い密度で走査することが可能である。
【0070】
図4A及び図4Bに示したように、光走査部15は、第2の走査パターンによる走査において、揺動板SYが揺動軸AX及び揺動軸AYのいずれか一方の軸を中心に共振しつつ揺動するように駆動され(共振モード)、かつ、他方の軸を中心に共振せずに揺動するように駆動される(非共振モード)。
【0071】
光走査部15が同一振幅の信号で駆動された場合に、第2の走査パターンによる走査軌跡は、第1の走査パターンによる走査軌跡と比較して、走査対象面R1内のより狭い範囲により密集した走査軌跡となる。従って、第2の走査パターンによれば、第1の走査パターンよりも密な走査が可能である。
【0072】
走査制御部20Bは、第1の走査パターン又は第2の走査パターンに対応する駆動信号DX及び駆動信号DYを光走査部15に切替可能に供給することができる。従って、光走査部15による走査光L2の走査パターンを、第1の走査パターンと、第1の走査パターンよりも密な走査が可能である第2の走査パターンとの間で切り替えることができる。
【0073】
なお、光走査部15は、揺動軸AX及び揺動軸AYのいずれの軸中心の揺動板SYの揺動も非共振モードとすることで、さらに狭い範囲の高密度の走査軌跡を伴う走査パターンをとっても良い。例えば、走査制御部20Bは、図4Aの(c)の駆動信号DYと、図4Bの(b)の駆動信号DXとを光走査部15に供給することで、図4B(a)のラスタ走査領域RAXとRAYとが重なりあっている領域を局所的にさらに高い密度で走査することができる。
【0074】
図5Aを参照しつつ、第1の走査パターンであるリサージュ走査及び第2の走査パターンであるラスタ走査のいずれか一方又は両方を用いて実行される光走査部15の走査モードの例について説明する。図5Aは、各走査モードにおいて実行される具体的な走査内容を示している。
【0075】
上述したように、光走査部15による走査パターンは、リサージュ走査と、ラスタ走査との間で、切り替えが可能である。また、光走査部15によるラスタ走査では、図4Aに示したラスタ走査領域RAYを走査する縦ラスタ走査と、図4Bに示したラスタ走査領域RAXを走査する横ラスタ走査と、が可能である。
【0076】
第1の走査モードにおいては、リサージュ走査のみが用いられる。図5Aにおいて、「第1の走査モード」対応する具体的な走査内容として「リサージュ走査」と記載されている。
【0077】
第2の走査モードにおいては、ラスタ走査を含む走査パターンが用いられる。図5Aにおいて、「第2の走査モード」の内容として、縦ラスタ走査のみを実行する「縦ラスタ走査」、横ラスタ走査のみを実行する「横ラスタ走査」が記載されている。
【0078】
図5A中の「縦ラスタ走査と横ラスタ走査との組み合わせ」は、縦ラスタ走査と横ラスタ走査とを交互に繰り返すことを示している。
【0079】
例えば、ラスタ走査において、ラスタ走査領域RAY全体の1回の走査の開始から終了までを縦ラスタ走査の1周期とし、ラスタ走査領域RAX全体の1回の走査の開始から終了までを横ラスタ走査の1周期とすると、所定の周期の縦ラスタ走査と、所定の周期の横ラスタ走査と、を交互に繰り返すことができる。つまり、縦ラスタ走査と横ラスタ走査を走査の周期を単位として組み合わせることができる。これによって、縦ラスタ走査では走査されない領域のうち、横ラスタ走査によって走査可能な領域を補完して走査することができる。
【0080】
また、図5A中の「リサージュ走査とラスタ走査との組み合わせ」は、リサージュ走査と、縦ラスタ走査及び横ラスタ走査の一方又は両方とを組み合わせることを示している。例えば、リサージュ走査による走査対象面R1全体の1回の走査の開始から終了までを1周期とし、リサージュ走査、縦ラスタ走査及び横ラスタ走査を所定の周期毎に繰り返しても良い。これによって、縦ラスタ走査又は横ラスタ走査では走査されない領域の走査を、リサージュ走査によって補うことができる。
【0081】
つまり、第2の走査モードは、リサージュ走査よりも密な走査が可能なラスタ走査を含む走査を行う走査モードである。従って、第2の走査モードにおいて、第1の走査モードよりも密な走査を実行することができる。このように、制御部20は、光走査部15の走査の走査光の走査モードを、第1の走査モードと、第1の走査モードよりも密な走査が可能である第2の走査モードとの間で切り替えさせることができる。
【0082】
図5Bを参照しつつ、測距装置10において判定部20Dが取得する移動体の走行状態を示す走行状態情報及び判定部20Dが走行状態情報の各々に適した走査モードを判定する基準について説明する。図5Bには、走行状態情報として、「速度(km/h)」、「物体までの距離(m)」及び「周囲の明度(lx)」の項目が示されている。各項目について、第1の走査モードが適する場合の条件の例及び第2の走査モードが適する場合の条件の例が記載されている。例えば、図5Bに示すようなテーブルが、制御部20が備える記憶装置(図示せず)に記憶されている。
【0083】
「速度(km/h)」は、測距装置10が搭載されている移動体が走行している走行速度を示している。判定部20Dは、測距装置10が搭載されている移動体の速度の情報を当該移動体又は移動体に搭載されている装置から取得する。図5Bにおいて、移動体の速度が80km/h未満である場合には、第1の走査モードが適しており、移動体の速度が80km/h以上である場合には、第2の走査モードが適していることが示されている。
【0084】
例えば、制御部20の判定部20Dは、移動体の速度が80km/hを越えている場合に、図5Bに示された基準に基づいて、光走査部15の走査光の走査を第1の走査モードから第2の走査モードに切り替えさせる。例えば、当該移動体が高速道路を走行する際には、移動体の周辺よりも、移動体の進行方向の領域について、密な走査が有効であると考えられる場合がある。このような場合に、第2の走査モードに切り替えることで、より走行状態に適した走査による測距を行うことができる。
【0085】
「物体までの距離(m)」は、当該移動体の進行方向に存在する物体までの距離を示している。判定部20Dは、測距装置10から当該物体までの距離測定した結果を移動体又は移動体に搭載されたミリ波レーダ等の距離を測定する装置から取得する。
【0086】
例えば、判定部20Dは、物体までの距離が5m以上の場合には第1の走査モードが適していると判定し、物体までの距離が5m未満の場合には第2の走査モードが適していると判定する。そして、物体までの距離が5m未満である場合に、図5Bに示された基準に基づいて、光走査部15の走査光の走査を第1の走査モードから第2の走査モードに切り替えさせる。
【0087】
「周囲の明度(lx)」は、移動体の周囲の明るさ、すなわち照度を示している。判定部20Dは、当該移動体に搭載された照度計から、当該移動体が照らされている明るさの度合いの情報を取得する。
【0088】
例えば、移動体の周囲の明度が1000lx(ルクス)以上である場合に、受光部18による受光の際に、背景光が強いことで、移動体の周囲の対象物によって反射された反射光の検出精度が低下する場合がある。このような場合、より密な走査を行うことが有効となる。このような場合、判定部20Dは、第2の走査モードへの切替に適した走行状態であると判定する。そして、制御部20は、光走査部15の走査光の走査を第1の走査モードから第2の走査モードに切り替えさせる。
【0089】
また、判定部20Dは、図5Bに示す速度、物体までの距離及び周囲の明度の3つの項目の走行状態情報のうち1つ以上の項目が、第2の走査モードに適する条件に該当する場合に、第2の走査モードへの切替に適した走行状態であると判定する。このような判定をOR条件での判定と称する。
【0090】
又は、判定部20Dは、図5Bに示す速度、物体までの距離及び周囲の明度の3つの項目の走行状態情報の全ての項目が、第2の走査モードに適する条件に該当する場合に、第2の走査モードへの切替に適した走行状態であると判定しても良い。このような判定をAND条件での判定と称する。
【0091】
また、走行状態情報の各々の項目について、他の項目との関係で、制約を設けても良い。例えば、周囲の明度が100ルクス以下である場合、すなわち周囲が暗い場合には、リサージュ走査(第1の走査モード)による走査対象面R1の全体に亘る広範囲の計測が適していると考えることができる。このような場合には、他の走行状態情報について第2の走査モードに適する条件に該当していても、制御部20は、光走査部15の走査光の走査モードを第1の走査モードから第2の走査モードに切り替えさせないこととしても良い。
【0092】
このように、制御部20の判定部20Dは、移動体の走行状態情報に基づいて、第1の走査モードから第2の走査モードへ切り替えるか否かを判定することができる。制御部20の走査制御部20Bは、判定部20Dの判定結果に基づいて、光走査部15に供給する駆動信号を変更し、光走査部15の走査モードを切り替えさせることができる。
【0093】
なお、判定部20Dは、物体までの距離の情報を測距部20Cから取得しても良い。また、判定部20Dは、移動体の速度に加えて移動体の加速度に基づいた判定をしても良い。これによって、移動体が走行している際のカーブ又は急ブレーキ等の走行状態を反映した判定を行うことができる。
【0094】
また、走行状態情報には、移動体のハンドルの舵角が含まれていても良い。例えば、当該ハンドルの舵角が所定の値よりも大きい場合に、当該移動体は交差点で右折又は左折していると想定し得る。このような場合、広範囲な走査と、密な走査との組み合わせが有効であると考えることができる。この場合、判定部20Dは、第2の走査モードに適した走行状態であると判定し、制御部20は、光走査部15の走査光の走査モードを第2の走査モードに切り替えさせ、リサージュ走査とラスタ走査とを組み合わせた走査を行わせることとしても良い。これによって、移動体の走行状態をより詳細に反映した判定を行うことができる。
【0095】
また、走行状態情報には、所定の時間内に移動体のハンドルが切られた回数、すなわち蛇行の頻度が含まれても良い。例えば、頻繁にハンドルを切っている場合には、障害物を頻繁に避けている、若しくは蛇行した道を走行中であると考えることができる。この場合、判定部20は、第2の走査モードが適した走行状態であると判定し、移動体が直進している、すなわち所定の時間内に移動体のハンドルが切られていない場合には、第1の走査モードが適した走行状態であると判定する。これによって、制御部20は、走行状態に応じて走査モードを切り替えることができる。
【0096】
また、走行状態情報には、移動体の周囲の天気が含まれても良い。この場合、判定部20は、例えば晴天時には第1の走査モードが適した走行状態であると判定し、雨天時には第2の走査モードが適した走行状態であると判定する。これによって、制御部20は、天気に応じて走査モードを切り替えることができる。
【0097】
また、走行状態情報には、移動体の周囲に存在する物体(他の移動体や歩行者、障害物等)の数が含まれても良い。この場合、判定部20は、例えば周囲に存在する物体が所定数以下の場合には第1の走査モードが適した走行状態であると判定し、所定数以上の場合には第2の走査モードが適した走行状態であると判定する。これによって、制御部20は、移動体の周囲の状況に応じて走査モードを切り替えることができる。
【0098】
なお、第2の走査モードに切り替えた際に、第2の走査モードに含まれる4つの走査内容のいずれを使用するかは、あらかじめ定めておいても良いし、走行状態情報が示す走行状態の程度に応じて決定されても良い。例えば、速度が80~90Km/hの場合には縦ラスタ走査又は横ラスタ走査を用い、速度が90~100Km/hの場合には縦ラスタ走査と横ラスタ走査の組み合わせとし、速度が100Km/hを超える場合には、リサージュ走査とラスタ走査との組み合わせを行うといった方法が例示できる。
【0099】
なお、本実施例では、1の光走査部15で第1の走査モードと第2の走査モードのいずれもが実行可能な構成として説明したが、光走査部としてのMEMSミラーを複数設けても良い。例えば、MEMSミラーを2つ設けて、第1の走査モードと第2の走査モードのそれぞれを別々のMEMSミラーを用いて実行することもできる(なお、この場合は、光源11、光学系12、ビームスプリッタ13、受光部18も、光走査部毎に設けることが望ましい)。このようにすることで、リサージュ走査専用のMEMSミラーとラスタ走査専用のMEMSミラーを設けることができるため、例えば第2の走査モードでのラスタ走査において、走査対象面R1を全域にわたって走査させることもできる。更に、第2の走査モードでリサージュ走査とラスタ走査との組み合わせを実行する際に、それぞれの走査方法で同時に走査を行うことができる。なお、走査モードが3つ以上存在する場合にも、走査モードの数と同じ数のMEMSミラーを設けて、走査モード毎に別々のMEMSミラーを用いて走査を実行することができる。
【0100】
[測距ルーチン]
図6を参照しつつ、移動体に搭載されている測距装置10において制御部20が実行する測距ルーチンRT1の例について説明する。制御部20は、図示しないスイッチ操作等により測距開始操作が受け付けられると、光源制御部20Aにパルス光L1の出射を指示し、測距ルーチンRT1を開始する。同時に、制御部20は、走査制御部20Bに、光走査部15の第1の走査モードでの走査制御の開始を指示する。また、制御部20は、測距部20Cに対象物OBまでの距離の算出開始を指示する。
【0101】
制御部20は、測距ルーチンRT1を開始すると、第2の走査モードに適した走行状態か否かを判定する(ステップS11)。制御部20の判定部20Dは、ステップS11において、測距装置10が搭載されている移動体の走行状態情報に基づいて、第2の走査モードに適した走行状態か否かを判定する。
【0102】
例えば、判定部20Dは、ステップS11において、移動体が走行している速度の情報を取得して、走行状態情報としての速度に基づいて、第2の走査モードに適した走行状態か否かを判定する。また、例えば、当該走行状態情報には、速度の情報に加えて、物体までの距離及び周囲の明度が含まれていても良い(図5B参照)。
【0103】
これらの3つ走行状態情報の各々について、1つ以上の項目が、第2の走査モードに適する条件に該当する場合に、第2の走査モードへの切替に適した走行状態であると判定するOR条件で判定される。例えば、制御部20の判定部20Dは、移動体の速度が80km/hを越えている場合に、第2の走査モードに適した走行状態であると判定する。
【0104】
また、3つの項目の走行状態情報の全ての項目が、第2の走査モードに適する条件に該当する場合に、第2の走査モードへの切替に適した走行状態であると判定するAND条件で、第2の走査モードに適した走行状態か否かが判定されても良い。
【0105】
例えば、判定部20Dは、移動体の速度が80km/h以上であり、物体までの距離が5m未満であり、かつ、周囲の明度が1000ルクス以上である場合に、第2の走査モードに適した走行状態であると判定する。
【0106】
制御部20は、ステップS11において、第2の走査モードに適した走行状態ではないと判定する(ステップS11:NO)と、測距ルーチンRT1を終了し、新たに測距ルーチンRT1を開始する。
【0107】
制御部20は、ステップS11において、第2の走査モードに適した走行状態であると判定する(ステップS11:YES)と、第2の走査モードで走査を開始させる(ステップS12)。制御部20は、ステップS12において、走査制御部20Bに、第2の走査モードによる制御を指示する。
【0108】
走査制御部20Bは、ステップS12において、光走査部15に供給する駆動信号DX及びDYを変更して、光走査部15の走査モードをリサージュ走査からラスタ走査を含む走査に移行する。すなわち、ステップS12において、光走査部15の走査モードは、走査対象面R1内のより密な走査が可能な第2の走査モードに移行する。
【0109】
例えば、走査制御部20Bは、ステップS12において、光走査部15の揺動板SYを揺動軸AYを中心に非共振モードで揺動させる駆動信号DY、すなわち、のこぎり波の駆動信号DYを供給する。また、ステップS12において、走査制御部20Bは、光走査部15の揺動板SXを揺動軸AXを中心に共振モードで揺動させる駆動信号DX、すなわち、正弦波の駆動信号DXを供給する。このようにして、走査制御部20Bは、光走査部15の走査パターンをリサージュ走査から、ラスタ走査領域RAY(図4A参照)を走査する縦ラスタ走査に移行させる。
【0110】
例えば、走査制御部20Bは、ステップS12において、横ラスタ走査、縦ラスタ走査と横ラスタ走査との組み合わせ、又はリサージュ走査とラスタ走査の組み合わせによる走査を実現させる駆動信号DX及びDYを光走査部15に供給しても良い(図5A参照)。
【0111】
制御部20は、ステップS12の実行後、第2の走査モードの走査を所定時間継続する(ステップS13)。例えば、当該所定時間は、第2の走査モードで行われる走査が所定の周期だけ行われる際に要する時間に基づいて、予め定められても良い。
【0112】
制御部20は、ステップS13の実行後、第2の走査モードの継続が適した走行状態であるか否かを判定する(ステップS14)。制御部20は、ステップS14において、第2の走査モードの継続が適した走行状態であると判定する(ステップS14:YES)と、ステップS13に戻り、第2の走査モードの走査を所定時間継続する。
【0113】
制御部20は、ステップS14において、第2の走査モードの継続が適した走行状態ではないと判定する(ステップS14:NO)と、当該測距ルーチンRT1を終了し、新たな測距ルーチンRT1を開始する。
【0114】
以上、詳細に説明したように、本実施例の測距装置10によれば、測距装置10が搭載されている移動体の走行状態情報に基づいて、MEMSミラーである光走査部15の走査光の走査モードを、リサージュ走査である第1の走査モードと、ラスタ走査を含み第1の走査モードよりも密な走査が可能である第2の走査モードとの間で切り替えることが可能である。
【0115】
さらに、第2の走査モードにおいては、ラスタ走査を含む複数の走査パターン(縦ラスタ走査、横ラスタ走査)又は走査パターンの組み合わせ(ラスタ走査とリサージュ走査の組み合わせ)のうち、移動体の走行状態に適した走査パターン又は走査パターンの組み合わせを適用することができる。このように、走行状態情報に基づいて、走査パターンを自在に変更することができる。
【0116】
従って、測距装置10によって、移動体の走行状態に適した走査モードでの走査によって測距が可能である。すなわち、移動体の走行状態の変化に追従して、走行状態に適した走査パターンでの測距が可能である。
【0117】
従って、本発明の測距装置によれば、走査対象領域の全体の計測を実行しつつ、状況に応じて、走査対象領域の一部をより詳細に計測する計測が可能である測距装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0118】
10 測距装置
11 光源
12 光学系
13 ビームスプリッタ
15 光走査部
16 光反射膜
16A 光反射面
18 受光部
20 制御部
20A 光源制御部
20B 走査制御部
20C 測距部
20D 判定部
21 固定部
22 可動部
23 駆動力生成部
AX、AY 揺動軸
TX 第1のトーションバー
TY 第2のトーションバー
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6