(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】免震装置の検査システムおよび検査方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/02 20060101AFI20221004BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
G01B11/02 H
E04H9/02 331A
(21)【出願番号】P 2018121883
(22)【出願日】2018-06-27
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳也
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-107679(JP,A)
【文献】特開2007-147522(JP,A)
【文献】特開2006-234703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
E04H 9/00- 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体と下部構造体との間に設置された免震装置の検査システムであって、
長さが既知の基準スケールと前記免震装置とを含む画像を異なる視点から複数枚撮影するカメラと、
複数の前記画像に基づいて、前記免震装置各部の寸法を算出する寸法算出部と
を備え、 前記基準スケールは、前記免震装置、前記上部構造体および前記下部構造体のうち、寸法が既知の領域である、
ことを特徴とする免震装置の検査システム。
【請求項2】
前記免震装置は、前記上部構造体に取り付けられる上部フランジと、前記下部構造体に取り付けられる下部フランジと、前記上部フランジと前記下部フランジに挟まれた積層ゴムとを備え、
前記領域は、前記上部フランジまたは前記下部フランジの厚さである、
ことを特徴とする請求項1記載の免震装置の検査システム。
【請求項3】
前記領域は、前記上部構造体から延びる柱の幅または前記下部構造体から延びる柱の幅である、
ことを特徴とする請求項1記載の免震装置の検査システム。
【請求項4】
前記カメラは単眼カメラであり、複数回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の免震装置の検査システム。
【請求項5】
前記カメラはステレオカメラであり、1回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の免震装置の検査システム。
【請求項6】
前記カメラを搭載する自動移動体を更に備え、
前記自動移動体は、無線制御または自動運転により前記免震装置近傍に移動し、前記カメラにより前記画像を撮影する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の免震装置の検査システム。
【請求項7】
上部構造体と下部構造体との間に設置された免震装置の検査方法であって、
長さが既知の基準スケールと前記免震装置とを含む画像を異なる視点から複数枚撮影する撮影工程と、
複数の前記画像に基づいて、前記免震装置各部の寸法を算出する寸法算出工程と
を含み、
前記基準スケールは、前記免震装置、前記上部構造体および前記下部構造体のうち、寸法が既知の領域である、
ことを特徴とする免震装置の検査方法。
【請求項8】
前記免震装置は、前記上部構造体に取り付けられる上部フランジと、前記下部構造体に取り付けられる下部フランジと、前記上部フランジと前記下部フランジに挟まれた積層ゴムとを備え、
前記領域は、前記上部フランジまたは前記下部フランジの厚さである、
ことを特徴とする請求項7記載の免震装置の検査方法。
【請求項9】
前記領域は、前記上部構造体から延びる柱の幅または前記下部構造体から延びる柱の幅である、
ことを特徴とする請求項7記載の免震装置の検査方法。
【請求項10】
前記カメラは単眼カメラであり、複数回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項記載の免震装置の検査方法。
【請求項11】
前記カメラはステレオカメラであり、1回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、
ことを特徴とする請求項7から9のいずれか1項記載の免震装置の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震装置の検査システムおよび免震装置の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震発生時等における構造物の振動を低減する免震装置が実用化されている。
例えば、下記特許文献1において、免震装置は、免震用積層ゴムと、この免震用積層ゴムの上下にそれぞれ接合され上部の構造体または下部の構造体にボルトで取着される上下のフランジプレートとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
免震装置は、出荷時や構造物に設置後の保守点検時などに検査が行われる。このような寸法(形状)測定および設置後の変形計測は、一般にノギスやメジャーを用いたマニュアル計測により行われている。
マニュアル計測は、少品種・多量製品を精密に繰り返し計測するのに適した方法であるが、計測箇所1つ1つを人手によって計測するため、時間がかかるという課題がある。
また、近年面の歪みや3次元変形についても計測が必要となる場合があり、このような場合はマニュアル計測では対応することができない。
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、免震装置の検査を効率的かつ精度よく行うことにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述の目的を達成するため、本発明は、上部構造体と下部構造体との間に設置された免震装置の検査システムであって、長さが既知の基準スケールと前記免震装置とを含む画像を異なる視点から複数枚撮影するカメラと、複数の前記画像に基づいて、前記免震装置各部の寸法を算出する寸法算出部とを備え、前記基準スケールは、前記免震装置、前記上部構造体および前記下部構造体のうち、寸法が既知の領域である、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記免震装置は、前記上部構造体に取り付けられる上部フランジと、前記下部構造体に取り付けられる下部フランジと、前記上部フランジと前記下部フランジに挟まれた積層ゴムとを備え、前記領域は、前記上部フランジまたは前記下部フランジの厚さである、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記領域は、前記上部構造体から延びる柱の幅または前記下部構造体から延びる柱の幅である、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記カメラは単眼カメラであり、複数回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記カメラはステレオカメラであり、1回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記カメラを搭載する自動移動体を更に備え、前記自動移動体は、無線制御または自動運転により前記免震装置近傍に移動し、前記カメラにより前記画像を撮影する、ことを特徴とする。
また、本発明は、上部構造体と下部構造体との間に設置された免震装置の検査方法であって、長さが既知の基準スケールと前記免震装置とを含む画像を異なる視点から複数枚撮影する撮影工程と、複数の前記画像に基づいて、前記免震装置各部の寸法を算出する寸法算出工程とを含み、前記基準スケールは、免震装置、上部構造体および下部構造体のうち、寸法が既知の領域である、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記免震装置は、前記上部構造体に取り付けられる上部フランジと、前記下部構造体に取り付けられる下部フランジと、前記上部フランジと前記下部フランジに挟まれた積層ゴムとを備え、前記領域は、前記上部フランジまたは前記下部フランジの厚さである、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記領域は、前記上部構造体から延びる柱の幅または前記下部構造体から延びる柱の幅である、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記カメラは単眼カメラであり、複数回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、ことを特徴とする。
また、本発明は、前記カメラはステレオカメラであり、1回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、免震装置の各部の寸法をマニュアルで計測するのと比較して、短時間で計測を行うことができる。また、マニュアル計測では難しい3次元計測についても対応することができる。また、免震装置の画像を撮影するため、検査時における外観状態を記録することができる。
また、本発明によれば、特別な器具を用いることなく、免震装置の設置場所の任意の物体を基準スケールとして用いることができ、免震装置の検査を簡便に行う上で有利となる。
また、本発明によれば、単眼カメラを用いて画像を撮影するので、特殊なカメラを用意しなくてもよく、低コストに免震装置の検査システムを構築する上で有利となる。
また、本発明によれば、ステレオカメラを用いて画像を撮影するので、1度の撮影で複数枚の画像を撮影することができ、検査時間を短縮する上で有利となる。
また、本発明によれば、自動移動体を用いて遠隔作業により免震装置の検査を行うことでき、作業効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施の形態にかかる検査システム10の構成を示すブロック図である。
【
図3】基準スケール30である板状部材32の構成を示す説明図である。
【
図4】検査時におけるカメラ40等の配置状態を模式的に示す説明図である。
【
図5】検査システム10の処理を示すフローチャートである。
【
図6】自動移動体70を用いた例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる免震装置の検査システムおよび免震装置の検査方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
図1は、実施の形態にかかる免震装置20の検査システム10の構成を示すブロック図である。
本実施の形態では、検査システム10を用いて上部構造体60と下部構造体62(
図4参照)との間に設置された状態の免震装置20を検査する場合について説明する。
【0009】
まず、
図2を参照して検査システム10の検査対象物である免震装置20の構成について説明する。
図2Aは免震装置20の斜視図であり、
図2Bは免震装置20の側面視図である。
免震装置20は、上部構造体60(
図4参照)に取り付けられる鋼材製の上部フランジ22と、下部構造体62(
図4参照)に取り付けられる鋼材製の下部フランジ24と、上部フランジ22と下部フランジ24に挟まれた積層ゴム26とを備える。
積層ゴム26は、下部構造体62の上で上部構造体60の水平方向の変位を許容しつつ上部構造体60からの垂直荷重を支えるものであり、複数枚のゴムシートと複数枚の鋼板とが交互に積層されて構成され、その外側がゴムで被覆されている。上部フランジ22は積層ゴム26の上面に接合され、下部フランジ24は積層ゴム26の下面に接合されている。上部フランジ22および下部フランジ24には、それぞれ上部構造体60または下部構造体62にボルト(図示なし)により結合される際に用いられるボルト挿通穴28が形成されている。積層ゴム26の中央部には、エネルギ吸収手段として鉛プラグが配置されているものもある。なお、免震装置20の構造は、上述したものに限らず、従来公知の様々な構造が適用可能である。
図4に示すように、免震装置20は、上部構造体60と下部構造体62との間の空間Sに設置されている。上部構造体60は例えば建物であり、下部構造体62は例えば建物の基礎である。なお、
図4では図示を省略しているが、免震装置20は、空間S内に間隔をおいて複数設置されている。
例えば、地震が発生した場合、積層ゴム26の変形により下部構造体62と上部構造体60との間の水平方向の相対変位が許容され、積層ゴム26の変形に伴ってエネルギ吸収手段により振動エネルギが吸収される。
【0010】
検査システム10は、免震装置20の各部の寸法を画像処理よって計測することにより、免震装置20に変形等の異常が生じていないかを判定する。
本実施の形態では、例えば
図2Bに示すように、上部フランジ22の直径D1(点E1-E2間の距離)、下部フランジ24の直径D2、上部フランジ22の軸心位置O1、下部フランジ24の軸心位置O2、上下の軸心O1-O2のずれ、右側面における上下フランジ間の距離(積層ゴム26の一方の側面の高さ)H1、左側面における上下フランジ間の距離(積層ゴム26の他方の側面の高さ)H2、左右の上下フランジ間の距離H1-H2の差分(積層ゴム26の傾き)などを計測する。
【0011】
つぎに、検査システム10における計測方法について説明する。
本実施の形態では、ステレオカメラ計測方式を用いて画像内の各点の3次元座標を算出し、免震装置20の各部の寸法を算出する。より詳細には、位置をずらして撮影対象物を撮影した複数の画像中の対応点を特定し、正規化相関処理演算、ステレオカメラ数学処理により、画像上の各点の3次元座標を算出する。そして、
図2Bに示した各寸法の端部の位置を画像上で指定(または画像処理により自動的に抽出)する。例えば上部フランジ22の直径D1であれば、点E1と点E2とを指定し、これら2点間の座標値の差分を算出する。単位座標値あたりの距離は、後述する基準スケールにより既知であるため、2点間の座標値の差分に対して単位座標値あたりの距離を掛け合せることによって、2点間の距離を算出することができる。
【0012】
ステレオカメラ計測方式は、水平方向に距離(視差)を置いて配置された2つのカメラによって同時に撮影された画像を用いるのが一般的であるが、本実施の形態では単眼カメラを用いる。
単眼カメラを用いた場合、同一の対象(本実施の形態では免震装置20)について撮影位置を変えて複数枚画像を撮影する。例えば2方向から撮影を行い、互いの画像中に5点以上の共通点があれば、それぞれの撮影位置の位置関係を計算することができ、ステレオカメラと同等であることが知られている。
特に、本実施の形態においては、撮影対象物(免震装置20)が動いていないため、複数の画像を同時に撮影する必要はない。このため、例えば検査作業において外観記録用の画像を撮影するための汎用的なカメラなどを用いることができる。
【0013】
図1に示すように、検査システム10は、基準スケール30、カメラ40およびコンピュータ50を備える。
基準スケール30は、長さが既知の任意の2点を含んでいる。ステレオカメラ計測方式では、基本的に基準スケール30は不要であるが、本実施の形態では精度向上のために基準スケール30を用いている。
基準スケール30の一例として、本実施の形態では、中心点間の距離が既知の2つの図形が表示された板状部材を用いる。
【0014】
図3は、基準スケール30の一例を示す説明図であり、
図3Aは基準スケール30として用いる板状部材32の斜視図、
図3Bは板状部材32の正面視図である。
板状部材32には、上下の端部に沿って間隔を置いて3つずつ円形のマークM1~M6が描かれている。また、板状部材32の中央部には、間隔を置いて2つの四角形のマークM7,M8が描かれている。
2つの四角形のマークM7,M8の中心点間の距離Nは既知である。この距離Nを基準として、画像中の3次元座標系における単位座標値あたりの距離を算出することができる。
また、円形のマークM1~M6は、ステレオカメラ計測方式において、複数の画像中の対応点(3次元座標中における同一点)を特定する際に利用する。
なお、マークの形状については、
図3に示すような円形や四角形などに限らず、例えば×印やドーナツ型など、任意の形状を使用することができる。
また、基準スケール30として、免震装置20、上部構造体60および下部構造体62のうち、寸法が既知の領域を用いてもよい。具体的には、例えば上部フランジ22(または下部フランジ24)の厚さや、上部構造体60(または下部構造体62)から延びる柱の幅などを基準スケールとして用いてもよい。
【0015】
図1の説明に戻り、カメラ40は、基準スケール30と免震装置20とを含む画像を異なる視点から複数枚撮影する。すなわち、カメラ40は、基準スケール30と免震装置20とを撮影範囲Aに含んでいる。
上述のように、本実施の形態ではカメラ40として単眼カメラを使用し、複数回の撮影動作で複数枚の画像を撮影する。
カメラ40で撮影する際は、例えば
図4に示すように、板状部材32をマークM1~M8が描かれている側を表面にして下部フランジ24上に置き、略鉛直となるように積層ゴム26に立てかける。そして、カメラ40の位置を変更しながら複数の画像を撮影する。
図4の例では、位置P1、P2、P3の3か所で撮影を行っている。
また、カメラ40での撮影の際に、免震装置20やその周辺に対してランダム模様を投影(プロジェクター投影やレーザ照射など)してもよい。このような模様を投影することによって、複数の画像中の対応点の特定や正規化相関処理演算の処理が容易となる。
なお、カメラ40としてステレオカメラを使用し、1回の撮影動作で複数枚の画像を撮影するようにしてもよい。
【0016】
カメラ40で撮影した画像はコンピュータ50に出力される。カメラ40からコンピュータ50への画像の出力は、例えばネットワークを介して行ってもよいし、カメラ40とコンピュータ50とを有線または無線で接続して行ってもよい。また、カメラ40内に保持されている記録媒体をコンピュータ50に読み込ませることによって行ってもよい。
【0017】
コンピュータ50は、一般にカメラ40等が設置された空間Sから離れた場所に設けられている。コンピュータ50は、CPU、制御プログラムなどを格納・記憶するROM、制御プログラムの作動領域としてのRAM、各種データを書き換え可能に保持するEEPROM、周辺回路等とのインターフェースをとるインターフェース部、モニタ、キーボードなどを含んで構成される。
コンピュータ50は、上記CPUが上記制御プログラムを実行することにより、寸法算出部52、判定部54として機能する。
【0018】
寸法算出部52は、カメラ40で撮影された複数の画像に基づいて、免震装置20各部の寸法を算出する。上述のように、寸法算出部52は、ステレオカメラ計測方式を用いて画像内の各点の3次元座標を算出し、免震装置20の各部の寸法を算出する。
なお、各部の寸法を算出する際に、複数の画像中の対応点(3次元座標において同一座標となる点)および計測点(例えば
図2Bに示す点E1,E2など、寸法として算出する領域の端部)を特定する必要がある。
このような特定作業は、例えば作業者が目視により確認し、マウスクリック等により所望の点を指定してもよいし、
図3に示した円形のマークM1~M6および四角形のマークM7,M8のように規則性のあるマーカを自動抽出することにより指定してもよい。
本実施の形態では、画像中の対応点については上述した円形のマークM1~M6を自動抽出することにより特定する。これにより、手作業による誤差を防止するとともに、計測精度の向上を図ることができる。
【0019】
判定部54は、寸法算出部52によって算出された寸法が予め設定された許容範囲内か否かを判定する。
例えば、上部フランジ22の軸心位置O1と下部フランジ24の軸心位置O2とのずれはゼロとなるべきであるが、地震等によって積層ゴム26が変形した場合などは、ゼロとならない場合がある。
このため、例えば寸法算出部52で算出する各部の寸法に対して、計測誤差も見越した許容範囲を設定しておき、許容範囲を超えている場合には免震装置20に不良が生じている可能性があるものとしてアラートを発生する。
なお、アラートとして、例えば寸法算出部52で算出した寸法を表示する際に他の寸法値と異なる色で表示する(許容範囲内の寸法は黒で表示するのに対し、許容範囲外の寸法は赤で表示するなど)、アラーム音を鳴らすなど、従来公知の様々な報知方法を適用可能である。
【0020】
図5は、検査システム10の処理を示すフローチャートである。
作業者は、まず基準スケール30である板状部材32(プレート)を検査対象の免震装置20の近傍に設置する(ステップS500)。作業者は、単眼のカメラ40により方向を変えながら複数の画像を撮影する(ステップS502、撮影工程)。検査対象の免震装置20が複数ある場合は、板状部材32を移動させてそれぞれの免震装置20の側で撮影を行う。カメラ40により撮影された画像は、コンピュータ50へと入力される(ステップS503)。
寸法算出部52は、カメラ40で撮影された複数の画像に基づいて、免震装置20各部の寸法を算出する(ステップS504、寸法算出工程)。算出された寸法は、図示しないコンピュータ50のモニタ等に表示される。
また、判定部54は、算出された寸法が許容範囲内か否かを判定し(ステップS506)、許容範囲内でない場合は(ステップS506:No)、アラートを発生させる(ステップS508)。
そして、コンピュータ50の記録装置に寸法や画像を記録して(ステップS510)、本フローチャートによる処理を終了する。
【0021】
なお、上述した説明では、免震装置20各部の寸法検査を例に挙げたが、これに加えて、免震装置20の外観検査を検査システム10で行うようにしてもよい。具体的には、例えば画像解析により免震装置20上に生じたサビや汚損などを画像の特徴点として抽出する外観検査部をコンピュータ50に設ける。
また、カメラ40で撮影した画像を用いて、作業者が目視でサビや汚損などの有無を判断してもよい。
【0022】
また、作業者が画像を撮影するのではなく、
図6に示すような自動移動体を用いて画像を撮影するようにしてもよい。
図6に示す自動移動体70は、筐体72、車輪74、伸縮機構76、カメラ保持部77、ランダム模様投影部78を備える。
筐体72は、自動移動体70の駆動機構等を格納する。筐体72には、例えば周囲の障害物を検知するレーダ等を設けてもよい。
車輪74は、クローラなどであってもよく、回転により筐体72を水平方向の任意の位置へ移動させる。
伸縮機構76は、一端を筐体72に固定され、他端にカメラ保持部77が取り付けられている。伸縮機構76が伸縮することによって、カメラ保持部77の鉛直方向の位置を変更可能である。
カメラ保持部77は、カメラ40のレンズや受光素子等を保持する。
図6の例では、2つのカメラ40(P1およびP2)がカメラ保持部77に保持されている。また、筐体72にもう1つのカメラ40(P3)が取り付けられており、1度に3枚の画像を撮影可能である。筐体72に取り付けられたカメラ40の画像を作業者に送信するとともに、作業者は当該画像を見ながら自動移動体70の操縦をするようにしてもよい。
ランダム模様投影部78は、カメラ40の撮影方向に向けてランダム模様Rを投影する。
自動移動体70は、例えば無線通信によって移動方向やカメラ40の位置、撮影方向、撮影タイミングなどが制御される。また、免震装置20周辺の構成に変更がなければ、無線通信を用いることなく、予め決まったルートを自動的に巡回し、撮影を行ってもよい。
すなわち、検査システム10において、カメラ40を搭載する自動移動体70を更に備え、自動移動体70は、無線制御または自動運転により免震装置20近傍に移動し、カメラ40により免震装置20を含む画像を撮影するようにしてもよい。
このように、自動移動体70を用いることによって、遠隔作業により免震装置20の検査を行うことでき、作業効率を向上させることができる。
なお、
図6では自動移動体が床面を走行するようにしたが、これに限らず、例えばドローン等の飛行体を自動移動体として用いてもよい。この場合、飛行体にカメラやランダム模様投影部を搭載させ、上部構造体60と下部構造体62との間の空間を飛行させることにより所望の位置に移動させる。
【0023】
以上説明したように、実施の形態にかかる免震装置20の検査システム10は、免震装置20の各部の寸法をマニュアルで計測するのと比較して、短時間で計測を行うことができる。また、マニュアル計測では難しい3次元計測についても対応することができる。また、免震装置の画像を撮影するため、検査時における外観状態を記録することができる。
また、検査システム10は、予め距離が既知の2点が表示された板状部材32を基準スケール30として用いるので、撮影時における基準スケール30を統一することができ、寸法の算出精度を向上させる上で有利となる。
また、検査システム10において、免震装置20の設置場所の任意の物体を基準スケールとして用いるようにすれば、特別な器具を用いることなく免震装置の検査を簡便に行う上で有利となる。
また、検査システム10は、単眼カメラを用いて画像を撮影するので、特殊なカメラを用意しなくてもよく、低コストに免震装置20の検査システムを構築する上で有利となる。
また、検査システム10において、ステレオカメラを用いて画像を撮影するようにすれば、1度の撮影で複数枚の画像を撮影することができ、検査時間を短縮する上で有利となる。
【0024】
なお、本実施の形態では、上部構造体60と下部構造体62(
図4参照)との間に設置された状態の免震装置20を検査する場合について説明したが、これに限らず、例えば免震装置20の出荷前に行われる製品検査に本発明にかかる検査システム10を適用してもよい。
この場合、
図2Bに示した各寸法に加え、例えばボルト挿通穴28の直径などを検査項目として加えてもよい。
【符号の説明】
【0025】
10 検査システム
20 免震装置
22 上部フランジ
24 下部フランジ
26 積層ゴム
28 ボルト挿通穴
30 基準スケール
32 板状部材
40 カメラ
50 コンピュータ
52 寸法算出部
54 判定部
60 上部構造体
62 下部構造体
70 自動移動体
A 撮影範囲
S 空間