(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】HAPSにおけるサービスリンクのアンテナ構成及びビームフォーミング制御
(51)【国際特許分類】
H04B 7/06 20060101AFI20221004BHJP
H01Q 3/26 20060101ALI20221004BHJP
H01Q 21/06 20060101ALI20221004BHJP
H01Q 1/28 20060101ALI20221004BHJP
H04B 7/08 20060101ALI20221004BHJP
H04B 7/185 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H04B7/06 950
H01Q3/26 Z
H01Q21/06
H01Q1/28
H04B7/08 800
H04B7/185
(21)【出願番号】P 2018212492
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】318002806
【氏名又は名称】HAPSモバイル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】星野 兼次
(72)【発明者】
【氏名】須藤 渉一
(72)【発明者】
【氏名】太田 喜元
【審査官】玉田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/139469(WO,A1)
【文献】国際公開第2001/20719(WO,A1)
【文献】須藤 渉一、他2名,HAPS システムにおけるフットプリント固定のためのサービスリンクアンテナの検討,電子情報通信学会2018年通信ソサイエティ大会講演論文集1,2018年08月28日,p.315
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/02- 7/12
H01Q 3/00- 3/46
H01Q 21/00-25/04
H01Q 1/00- 1/10
H01Q 1/27- 1/52
H04B 7/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
端末装置と無線通信する空中滞在型の通信中継装置であって、
前記端末装置と間のサービスリンクの無線通信を行うセルを形成する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報に基づいて、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントの位置を固定するように前記通信中継装置から前記セルの中心に向かうアンテナ指向ビームの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記アレイアンテナの前記複数のアンテナ素子それぞれを介して送受信される複数の送受信信号の位相及び振幅を制御する制御部と、を備え
、
前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の鉛直方向下方の地点から前記セルの中心までの地表距離をdn[km]とし、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の高度をh[km]とし、前記通信中継装置の水平方向及び垂直方向における移動距離をそれぞれΔd[km]及びΔh[km]とし、補正係数をβとしたとき、
前記通信中継装置が移動した後の前記目標垂直角度θstr,n[度]は次式(1)を満たすことを特徴とする通信中継装置。
【数1】
【請求項2】
請求項
1の通信中継装置において、
前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の鉛直方向下方の地点から前記セルの中心までの地表距離をdn[km]とし、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の高度をh[km]とし、前記通信中継装置の水平方向及び垂直方向における移動距離をそれぞれΔd[km]及びΔh[km]とし、前記セルの中心及びセル境界から前記通信中継装置を見たときの仰角をθn[度]及びθedge,k[度]としたとき、
前記通信中継装置が移動した後の前記目標ビーム幅θbw,n[度]は次式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする通信中継装置。
【数2】
【数3】
【請求項3】
端末装置と無線通信する空中滞在型の通信中継装置であって、
前記端末装置と間のサービスリンクの無線通信を行うセルを形成する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報に基づいて、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントの位置を固定するように前記通信中継装置から前記セルの中心に向かうアンテナ指向ビームの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記アレイアンテナの前記複数のアンテナ素子それぞれを介して送受信される複数の送受信信号の位相及び振幅を制御する制御部と、を備え、
前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の鉛直方向下方の地点から前記セルの中心までの地表距離をdn[km]とし、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の高度をh[km]とし、前記通信中継装置の水平方向及び垂直方向における移動距離をそれぞれΔd[km]及びΔh[km]とし、前記セルの中心及びセル境界から前記通信中継装置を見たときの仰角をθn[度]及びθedge,k[度]としたとき、
前記通信中継装置が移動した後の前記目標ビーム幅θbw,n[度]は次式(2)及び(3)を満たすことを特徴とする通信中継装置。
【数2】
【数3】
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれかの通信中継装置において、
前記アレイアンテナは、円柱周面形状に沿って複数のアンテナ素子を分布させるように配置したシリンダー型のアレイアンテナであることを特徴とする通信中継装置。
【請求項5】
請求項
4の通信中継装置において、
前記シリンダー型のアレイアンテナは、前記円柱周面形状の周方向に複数のアンテナ素子を並べたサーキュラー型のアレイアンテナを、前記円柱周面形状の中心軸に平行な方向に複数組並べて構成したことを特徴とする通信中継装置。
【請求項6】
請求項
4又は
5の通信中継装置において、
前記円柱周面形状の周方向に複数のアンテナ素子が並んだサーキュラー型のアレイアンテナ及び前記円柱周面形状の中心軸に平行な方向に複数のアンテナ素子が並んだリニア型のアレイアンテナのそれぞれに対して、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を互いに独立に行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項7】
請求項
4乃至
6のいずれかの通信中継装置において、
前記シリンダー型のアレイアンテナの底面部に複数のアンテナ素子を更に配置したことを特徴とする通信中継装置。
【請求項8】
請求項1乃至
7のいずれかの通信中継装置において、
前記目標水平角度と所望のビームパターンとに基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを計算し、
前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項9】
請求項1乃至
7のいずれかの通信中継装置において、
前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にしたアンテナ指向ビームの複数の水平角度について所望のビームパターンを得るように予め決定したウェイトの位相及び振幅の近似式を記憶し、
前記基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントを固定するようにアンテナ指向ビームの目標水平角度を求め、
前記目標水平角度と前記近似式とに基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを計算し、
前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項10】
端末装置と無線通信する空中滞在型の通信中継装置であって、
前記端末装置と間のサービスリンクの無線通信を行うセルを形成する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報に基づいて、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントの位置を固定するように前記通信中継装置から前記セルの中心に向かうアンテナ指向ビームの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記アレイアンテナの前記複数のアンテナ素子それぞれを介して送受信される複数の送受信信号の位相及び振幅を制御する制御部と、を備え、
前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にしたアンテナ指向ビームの複数の水平角度について所望のビームパターンを得るように予め決定したウェイトの位相及び振幅の近似式を記憶し、
前記基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントを固定するようにアンテナ指向ビームの目標水平角度を求め、
前記目標水平角度と前記近似式とに基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを計算し、
前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項11】
請求項1乃至
7のいずれかの通信中継装置において、
前記目標水平角度に基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを、前記目標水平角度を中心としたガウス分布の関数で計算し、
前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項12】
端末装置と無線通信する空中滞在型の通信中継装置であって、
前記端末装置と間のサービスリンクの無線通信を行うセルを形成する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、
前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報に基づいて、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントの位置を固定するように前記通信中継装置から前記セルの中心に向かうアンテナ指向ビームの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記アレイアンテナの前記複数のアンテナ素子それぞれを介して送受信される複数の送受信信号の位相及び振幅を制御する制御部と、を備え、
前記目標水平角度に基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを、前記目標水平角度を中心としたガウス分布の関数で計算し、
前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項13】
請求項
8乃至
12のいずれかの通信中継装置において、
前記目標水平角度とは反対側に位置する背面側のアンテナ素子について前記ウェイトをゼロにすることを特徴とする通信中継装置。
【請求項14】
請求項1乃至
3のいずれかの通信中継装置において、
前記アレイアンテナは、平面形状にそって複数のアンテナ素子を2次元的に分布させるように配置した複数の平面型のアレイアンテナを、各アレイアンテナのビームの向きが互いに異なるように配置して構成し、
前記複数の平面型のアレイアンテナの間で前記セルの形成に用いるアレイアンテナを切り替えるアンテナ切り替え部を備えることを特徴とする通信中継装置。
【請求項15】
請求項
14の通信中継装置において、
前記平面型のアレイアンテナを、角錐形状、角柱形状又はそれらを組み合わせた形状における複数の外面部それぞれに配置したことを特徴とする通信中継装置。
【請求項16】
請求項
14又は
15の通信中継装置において、
現在の水平角度と目標水平角度との差が所定の閾値以下のときは、使用中の平面型のアレイアンテナに対して前記送受信信号の位相及び振幅の制御を行い、
現在の水平角度と目標水平角度との差が前記閾値よりも大きくなったときに、前記平面型のアレイアンテナを切り替えて前記送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項17】
請求項1乃至
7のいずれかの通信中継装置において、
サービスエリアの位置を基準にした前記通信中継装置の予測移動経路における互いに異なる複数組の位置及び姿勢それぞれに対応づけて、前記送受信信号に適用するウェイトを予め計算して保存し、
前記保存している複数組の絶対的な位置及び姿勢それぞれに対応するウェイトから、前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢に対応するウェイトを選択し、
前記選択したウェイトに基づいて前記送受信信号の位相及び振幅の制御を行うことを特徴とする通信中継装置。
【請求項18】
請求項1乃至17のいずれかの通信中継装置において、
サービスエリアを構成する複数のセル形成し、
前記制御部は、
前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記複数のセルのフットプリントそれぞれを固定するように前記通信中継装置から前記複数のセルそれぞれの中心に向かう複数のアンテナ指向ビームそれぞれの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、
前記複数のセルのそれぞれについて、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記複数の送受信信号の位相及び振幅を制御することを特徴とする通信中継装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元化ネットワークの構築に適したHAPS等の無線中継装置におけるサービスリンクのアンテナ構成及びビームフォーミング制御に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、空中に浮揚して滞在可能な高高度プラットフォーム局(HAPS)(「高高度疑似衛星」ともいう。)等の通信中継装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この空中浮揚型の通信中継装置における通信回線は、その通信中継装置と移動通信網側のゲートウェイ(GW)局との間のフィーダリンクと、通信中継装置と端末装置との間のサービスリンクとで構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2016/0046387号明細書
【非特許文献】
【0004】
【文献】Hui Li, Xin Xu, Mingchuan Yang and Qing Guo, "Compensative mechanism based on steerable antennas for High Altitude Platform movement," 2011 6th International ICST Conference on Communications and Networking in China (CHINACOM), Harbin, 2011, pp. 870-874.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記空中浮揚型の通信中継装置では、その通信中継装置が位置している成層圏等での気流や気圧などの影響により姿勢や位置が変動すると、地上等に形成されるセルのフットプリントが移動する。このため、サービスエリア内の多数の端末装置が一斉にハンドオーバ(HO)するHOの頻発が想定され、HOの頻発による制御信号の増加やHO失敗による通信断が発生するおそれがある。
【0006】
非特許文献1には、HAP(高高度プラットフォーム)のアンテナの方向を機械的に制御することによりHAPが形成するセルのフットプリントを固定する技術が提案されているが、制御機構が大型になり重量が大きくなるため、小型の通信中継装置に搭載するのが難しい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る通信中継装置は、端末装置と無線通信する空中滞在型の通信中継装置であって、前記端末装置と間のサービスリンクの無線通信を行うセルを形成する複数のアンテナ素子を有するアレイアンテナと、前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢の少なくとも一方の情報に基づいて、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントの位置を固定するように前記通信中継装置から前記セルの中心に向かうアンテナ指向ビームの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記アレイアンテナの前記複数のアンテナ素子それぞれを介して送受信される複数の送受信信号の位相及び振幅を制御する制御部と、を備える。
前記通信中継装置において、サービスエリアを構成する複数のセル形成し、前記制御部は、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記複数のセルのフットプリントそれぞれを固定するように前記通信中継装置から前記複数のセルそれぞれの中心に向かう複数のアンテナ指向ビームそれぞれの目標ビーム幅、目標水平角度及び目標垂直角度を決定し、前記複数のセルのそれぞれについて、前記目標ビーム幅、前記目標水平角度及び前記目標垂直角度を有するアンテナ指向ビームを形成するように前記複数の送受信信号の位相及び振幅を制御してもよい。
【0008】
前記通信中継装置において、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の鉛直方向下方の地点から前記セルの中心までの地表距離をdn[km]とし、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の高度をh[km]とし、前記通信中継装置の水平方向及び垂直方向における移動距離をそれぞれΔd[km]及びΔh[km]とし、補正係数をβとしたとき、前記通信中継装置が移動した後の前記目標垂直角度θstr,n[度]は次式(1)を満たすようにしてもよい。
【0009】
【0010】
また、前記通信中継装置において、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の鉛直方向下方の地点から前記セルの中心までの地表距離をdn[km]とし、前記通信中継装置が移動する前の前記通信中継装置の高度をh[km]とし、前記通信中継装置の水平方向及び垂直方向における移動距離をそれぞれΔd[km]及びΔh[km]とし、前記セルの中心及びセル境界から前記通信中継装置を見たときの仰角をθn[度]及びθedge,k[度]としたとき、前記通信中継装置が移動した後の前記目標ビーム幅θbw,n[度]は次式(2)及び(3)を満たすようにしてもよい。
【0011】
【0012】
【0013】
前記通信中継装置において、前記アレイアンテナは、円柱周面形状に沿って複数のアンテナ素子を分布させるように配置したシリンダー型のアレイアンテナであってもよい。
また、前記通信中継装置において、前記シリンダー型のアレイアンテナは、前記円柱周面形状の周方向に複数のアンテナ素子を並べたサーキュラー型のアレイアンテナを、前記円柱周面形状の中心軸に平行な方向に複数組並べて構成してもよい。
また、前記通信中継装置において、前記円柱周面形状の周方向に複数のアンテナ素子が並んだサーキュラー型のアレイアンテナ及び前記円柱周面形状の中心軸に平行な方向に複数のアンテナ素子が並んだリニア型のアレイアンテナのそれぞれに対して、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を互いに独立に行ってもよい。
また、前記通信中継装置において、前記シリンダー型のアレイアンテナの底面部に複数のアンテナ素子を更に配置してもよい。
【0014】
前記通信中継装置において、前記目標水平角度と所望のビームパターンとに基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを計算し、前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行ってもよい。
また、前記通信中継装置において、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にしたアンテナ指向ビームの複数の水平角度について所望のビームパターンを得るように予め決定したウェイトの位相及び振幅の近似式を記憶し、前記基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントを固定するようにアンテナ指向ビームの目標水平角度を求め、前記目標水平角度と前記近似式とに基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを計算し、前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行ってもよい。
また、前記通信中継装置において、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントを固定するようにアンテナ指向ビームの目標水平角度を求め、前記目標水平角度に基づいて、前記複数のアンテナ素子に対する複数の送受信信号それぞれに適用するウェイトを、前記目標水平角度を中心としたガウス分布の関数で計算し、前記複数のウェイトに基づいて、前記複数の送受信信号の位相及び振幅の制御を行ってもよい。
また、前記通信中継装置において、前記目標水平角度とは反対側に位置する背面側のアンテナ素子について前記ウェイトをゼロにしてもよい。
【0015】
前記通信中継装置において、前記アレイアンテナは、平面形状にそって複数のアンテナ素子を2次元的に分布させるように配置した複数の平面型のアレイアンテナを、各アレイアンテナのビームの向きが互いに異なるように配置して構成し、前記複数の平面型のアレイアンテナの間で前記セルの形成に用いるアレイアンテナを切り替えるアンテナ切り替え部を備えてもよい。
また、前記通信中継装置において、前記平面型のアレイアンテナを、角錐形状、角柱形状又はそれらを組み合わせた形状における複数の外面部それぞれに配置してもよい。
また、前記通信中継装置において、前記通信中継装置に予め設定した基準方向の向きを基準にして、前記セルのフットプリントを固定するようにアンテナ指向ビームの目標水平角度と目標垂直角度を求め、現在の水平角度と目標水平角度との差が所定の閾値以下のときは、使用中の平面型のアレイアンテナに対して前記送受信信号の位相及び振幅の制御を行い、現在の水平角度と目標水平角度との差が前記閾値よりも大きくなったときに、前記平面型のアレイアンテナを切り替えて前記送受信信号の位相及び振幅の制御を行ってもよい。
【0016】
前記通信中継装置において、サービスエリアの位置を基準にした前記通信中継装置の予測移動経路における互いに異なる複数組の位置及び姿勢それぞれに対応づけて、前記送受信信号に適用するウェイトを予め計算して保存し、前記保存している複数組の絶対的な位置及び姿勢それぞれに対応するウェイトから、前記情報取得部で取得した前記通信中継装置の位置及び姿勢に対応するウェイトを選択し、前記選択したウェイトに基づいて前記送受信信号の位相及び振幅の制御を行ってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、空中浮揚型の通信中継装置の小型化を図るともにサービスエリアを構成するセルのフットプリントの移動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る3次元化ネットワークを実現する通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図。
【
図2】実施形態の通信システムに用いられるHAPSの一例を示す斜視図。
【
図3】実施形態の通信システムに用いられるHAPSの他の例を示す側面図。
【
図4】実施形態の複数のHAPSで上空に形成される無線ネットワークの一例を示す説明図。
【
図5】更に他の実施形態に係る3次元化ネットワークを実現する通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図。
【
図6】実施形態のHAPSの中継通信局の一構成例を示すブロック図。
【
図7】実施形態のHAPSの中継通信局の他の構成例を示すブロック図。
【
図8】実施形態のHAPSの中継通信局の更に他の構成例を示すブロック図。
【
図9】実施形態に係るHAPSのセル構成の一例を示す説明図。
【
図10】(a)及び(b)はそれぞれ、比較例に係るHAPSの回転運動(旋回)及び並進運動によるセルのフットプリントの移動の一例を示す説明図。
【
図11】(a)及び(b)はそれぞれ、実施形態に係るHAPSの回転運動(旋回)及び並進運動によるセルのフットプリントの移動の一例を示す説明図。
【
図12】実施形態に係るHAPSの姿勢変化を示す角度の定義を示す説明図。
【
図13】(a)~(c)はそれぞれHAPSの旋回パターンの例を示す説明図。
【
図14】(a)及び(b)は実施形態に係るフットプリント固定制御の一例を示す説明図。
【
図15】(a)は他の実施形態に係るフットプリント固定制御に用いられるシリンダー型アレイアンテナの一部分機能を構成するサーキュラーアレイアンテナの一例を上方から見た説明図。(b)は同シリンダー型アレイアンテナの他の部分機能を構成するリニアアレイアンテナの一例を側方から見た説明図。
【
図16】サーキュラーアレイアンテナとリニアアレイアンテナとを組み合わせて構成したシリンダー型のアレイアンテナの一構成例を示す斜視図。
【
図17】シリンダー型のアレイアンテナを用いたフットプリント固定制御における水平角度(φ)及び垂直角度(θ)の説明図。
【
図18】シリンダー型のアレイアンテナにおける水平角度(φ)及び垂直角度(θ)それぞれに対するDBF制御を行うアンテナ素子の説明図。
【
図19】シリンダー型のアレイアンテナのDBF制御で形成される3次元的な指向性ビームの一例を示す説明図。
【
図20】実施形態に係るHAPSのアンテナ構成の一部を構成するサーキュラーアレイアンテナの一例を示す説明図。
【
図21】
図20のサーキュラーアレイアンテナの水平方向におけるビームパターンの計算機シミュレーション結果の一例を示すグラフ。
【
図22】実施形態に係るHAPSのアンテナ構成の一部を構成するリニアアレイアンテナの一例を示す説明図。
【
図23】実施形態に係るHAPSのアレイアンテナとセルの配置との関係の一例を示す説明図。
【
図24】
図23のアレイアンテナの垂直方向におけるビームパターンの計算機シミュレーション結果の一例を示すグラフ。
【
図25】(a)及び(b)はそれぞれ、
図23のアレイアンテナについて評価した受信電力の距離特性の評価結果の一例を示すグラフ。
【
図26】(a)及び(b)はそれぞれ、
図23のアレイアンテナについて評価したセル境界位置の変動の評価結果の一例を示すグラフ。
【
図27】実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の一例を示すブロック図。
【
図28】実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の他の例を示すブロック図。
【
図29】実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の更に他の例を示すブロック図。
【
図30】実施形態に係る平面アレイアンテナの一例を示す斜視図。
【
図31】平面アレイアンテナの水平方向のビームフォーミング制御の一例を示す説明図。
【
図32】実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の更に他の例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図である。
本実施形態に係る通信システムは、多数の端末装置への同時接続や低遅延化などに対応する第5世代移動通信の3次元化ネットワークの実現に適する。
【0020】
図1に示すように、通信システムは、複数の空中浮揚型の通信中継装置(無線中継装置)としての高高度プラットフォーム局(HAPS)、(「高高度疑似衛星」、「成層圏プラットフォーム」ともいう。)10,20を備えている。HAPS10,20は、所定高度の空域に位置して、所定高度のセル形成目標空域40に図中ハッチング領域で示すような3次元セル(3次元エリア)41,42を形成する。HAPS10,20は、自律制御又は外部からの制御により地面又は海面から100[km]以下の高高度の空域(浮揚空域)50に浮遊あるいは飛行して位置するように制御される浮揚体(例えば、ソーラープレーン、飛行船)に、中継通信局が搭載されたものである。
【0021】
HAPS10,20の位置する空域50は、例えば、地上(又は海や湖などの水上)の高度が11[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域である。この空域50は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。図中のHrsl及びHrsuはそれぞれ、地面(GL)を基準にしたHAPS10,20の位置する空域50の下端及び上端の相対的な高度を示している。
【0022】
セル形成目標空域40は、本実施形態の通信システムにおける1又は2以上のHAPSで3次元セルを形成する目標の空域である。セル形成目標空域40は、HAPS10,20が位置する空域50と従来のマクロセル基地局等の基地局(例えばLTEのeNodeB)90がカバーする地面近傍のセル形成領域との間に位置する、所定高度範囲(例えば、50[m]以上1000[m]以下の高度範囲)の空域である。図中のHcl及びHcuはそれぞれ、地面(GL)を基準にしたセル形成目標空域40の下端及び上端の相対的な高度を示している。
【0023】
なお、本実施形態の3次元セルが形成されるセル形成目標空域40は、海、川又は湖の上空であってもよい。
【0024】
HAPSは人工衛星の飛行高度よりも低く、地上や海上の基地局よりも高い場所を飛行するため、衛星通信よりも小さい伝搬ロスでありながら、高い見通し率を確保できる。この特徴から、HAPSから直接地上のセルラ携帯端末(UE:UserEquipment)等の移動局である端末装置に対して通信サービスを提供することも可能である。携帯通信サービスをHAPSから提供することで、これまで多数の地上又は海上の基地局でカバーされていた広いエリアを少数のHAPSで一度にカバーできるため、低コストで安定した通信サービスを提供できるメリットがある。
【0025】
HAPS10,20の中継通信局はそれぞれ、移動局である端末装置と無線通信するためのビーム100,200を地面に向けて形成する。端末装置は、遠隔操縦可能な小型のヘリコプター等の航空機であるドローン60に組み込まれた通信端末モジュールでもよいし、飛行機65の中でユーザが使用するユーザ装置であってもよい。セル形成目標空域40においてビーム100,200が通過する領域が3次元セル41,42である。セル形成目標空域40において互いに隣り合う複数のビーム100,200は部分的に重なってもよい。
【0026】
HAPS10,20の中継通信局はそれぞれ、例えば、地上(又は海上)側のコアネットワークに接続された中継局としてのゲートウェイ局(「フィーダ局」ともいう。)70と無線通信する基地局、又は、地上(又は海上)側の基地局に接続された中継局としてのフィーダ局(リピーター親機)70と無線通信するリピーター子機である。HAPS10,20の中継通信局はそれぞれ、地上又は海上に設置されたフィーダ局70を介して、移動通信網80のコアネットワークに接続されている。HAPS10,20とフィーダ局70との間の通信は、マイクロ波などの電波による無線通信で行ってもよいし、レーザ光などを用いた光通信で行ってもよい。
【0027】
HAPS10,20はそれぞれ、内部に組み込まれたコンピュータ等で構成された制御部が制御プログラムを実行することにより、自身の浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理を自律制御してもよい。例えば、HAPS10,20はそれぞれ、自身の現在位置情報(例えばGPS位置情報)、予め記憶した位置制御情報(例えば、飛行スケジュール情報)、周辺に位置する他のHAPSの位置情報などを取得し、それらの情報に基づいて浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理を自律制御してもよい。
【0028】
また、HAPS10,20それぞれの浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理は、移動通信網80の通信センター等に設けられた管理装置としての管理装置(「遠隔制御装置」ともいう。)85によって制御できるようにしてもよい。管理装置85は、例えば、PCなどのコンピュータ装置やサーバ等で構成することができる。この場合、HAPS10,20は、管理装置85からの制御情報を受信したり管理装置85に監視情報などの各種情報を送信したりできるように制御用通信端末装置(例えば、移動通信モジュール)が組み込まれ、管理装置85から識別できるように端末識別情報(例えば、IPアドレス、電話番号など)が割り当てられるようにしてもよい。制御用通信端末装置の識別には通信インターフェースのMACアドレスを用いてもよい。また、HAPS10,20はそれぞれ、自身又は周辺のHAPSの浮揚移動(飛行)や中継通信局での処理に関する情報、HAPS10,20の状態に関する情報や各種センサなどで取得した観測データなどの監視情報を、管理装置85等の所定の送信先に送信するようにしてもよい。制御情報は、HAPSの目標飛行ルート情報を含んでもよい。監視情報は、HAPS10,20の現在位置、飛行ルート履歴情報、対気速度、対地速度及び推進方向、HAPS10,20の周辺の気流の風速及び風向、並びに、HAPS10,20の周辺の気圧及び気温の少なくとも一つの情報を含んでもよい。
【0029】
セル形成目標空域40では、HAPS10,20のビーム100,200が通過していない領域(3次元セル41,42が形成されない領域)が発生するおそれがある。この領域を補完するため、
図1の構成例のように、地上側又は海上側から上方に向かって放射状のビーム300を形成して3次元セル43を形成してATG(Air To Ground)接続を行う基地局(以下「ATG局」という。)30を備えてもよい。
【0030】
また、ATG局30を用いずに、HAPS10,20の位置やビーム100,200の発散角(ビーム幅)等を調整することにより、HAPS10,20の中継通信局が、セル形成目標空域40に3次元セルがくまなく形成されるように、セル形成目標空域40の上端面の全体をカバーするビーム100,200を形成してもよい。
【0031】
なお、前記HAPS10,20で形成する3次元セルは、地上又は海上に位置する端末装置との間でも通信できるよう地面又は海面に達するように形成してもよい。
【0032】
図2は、実施形態の通信システムに用いられるHAPS10の一例を示す斜視図である。
図2のHAPS10は、ソーラープレーンタイプのHAPSであり、長手方向の両端部側が上方に反った主翼部101と、主翼部101の短手方向の一端縁部にバス動力系の推進装置としての複数のモータ駆動のプロペラ103とを備える。主翼部101の上面には、太陽光発電機能を有する太陽光発電部としての太陽光発電パネル(以下「ソーラーパネル」という。)102が設けられている。また、主翼部101の下面の長手方向の2箇所には、板状の連結部104を介して、ミッション機器が収容される複数の機器収容部としてのポッド105が連結されている。各ポッド105の内部には、ミッション機器としての中継通信局110と、バッテリー106とが収容されている。また、各ポッド105の下面側には離発着時に使用される車輪107が設けられている。ソーラーパネル102で発電された電力はバッテリー106に蓄電され、バッテリー106から供給される電力により、プロペラ103のモータが回転駆動され、中継通信局110による無線中継処理が実行される。
【0033】
ソーラープレーンタイプのHAPS10は、例えば所定の目標飛行ルートに基づいて円形状に旋回飛行を行ったり「D」の字飛行を行ったり「8」の字飛行を行ったりすることにより揚力で浮揚し、所定の高度で水平方向の所定の範囲に滞在するように浮揚することができる。なお、ソーラープレーンタイプのHAPS10は、プロペラ103が回転駆動されていないときは、グライダーのように飛ぶこともできる。例えば、昼間などのソーラーパネル102の発電によってバッテリー106の電力が余っているときに高い位置に上昇し、夜間などのソーラーパネル102で発電できないときにバッテリー106からモータへの給電を停止してグライダーのように飛ぶことができる。
【0034】
また、HAPS10は、他のHAPSや人工衛星と光通信に用いられる通信部としての3次元対応指向性の光アンテナ装置130を備えている。なお、
図2の例では主翼部101の長手方向の両端部に光アンテナ装置130を配置しているが、HAPS10の他の箇所に光アンテナ装置130を配置してもよい。なお、他のHAPSや人工衛星と光通信に用いられる通信部は、このような光通信を行うものに限らず、マイクロ波などの電波による無線通信などの他の方式による無線通信であってもよい。
【0035】
図3は、実施形態の通信システムに用いられるHAPS20の他の例を示す斜視図である。
図3のHAPS20は、無人飛行船タイプのHAPSであり、ペイロードが大きいため大容量のバッテリーを搭載することができる。HAPS20は、浮力で浮揚するためのヘリウムガス等の気体が充填された飛行船本体201と、バス動力系の推進装置としてのモータ駆動のプロペラ202と、ミッション機器が収容される機器収容部203とを備える。機器収容部203の内部には、中継通信局210とバッテリー204とが収容されている。バッテリー204から供給される電力により、プロペラ202のモータが回転駆動され、中継通信局210による無線中継処理が実行される。
【0036】
なお、飛行船本体201の上面に、太陽光発電機能を有するソーラーパネルを設け、ソーラーパネルで発電された電力をバッテリー204に蓄電するようにしてもよい。
【0037】
また、無人飛行船タイプのHAPS20も、他のHAPSや人工衛星と光通信に用いられる通信部としての3次元対応指向性の光アンテナ装置230を備えている。なお、
図3の例では飛行船本体201の上面部及び機器収容部203の下面部に光アンテナ装置230を配置しているが、HAPS20の他の部分に光アンテナ装置230を配置してもよい。なお、他のHAPSや人工衛星と光通信に用いられる通信部は、このような光通信を行うものに限らず、マイクロ波などの電波による無線通信などの他の方式による無線通信を行うものであってもよい。
【0038】
図4は、実施形態の複数のHAPS10,20で上空に形成される無線ネットワークの一例を示す説明図である。
複数のHAPS10,20は、上空で互いに光通信によるHAPS間通信ができるように構成され、3次元化したネットワークを広域にわたって安定に実現することができるロバスト性に優れた無線通信ネットワークを形成する。この無線通信ネットワークは、各種環境や各種情報に応じたダイナミックルーティングによるアドホックネットワークとして機能することもできる。前記無線通信ネットワークは、2次元又は3次元の各種トポロジーを有するように形成することができ、例えば、
図4に示すようにメッシュ型の無線通信ネットワークであってもよい。
【0039】
図5は、他の実施形態に係る通信システムの全体構成の一例を示す概略構成図である。
なお、
図5において、前述の
図1と共通する部分については同じ符号を付し、その説明は省略する。
【0040】
図5の実施形態では、HAPS10と移動通信網80のコアネットワークとの間の通信を、フィーダ局70及び低軌道の人工衛星72を介して行っている。この場合、人工衛星72とフィーダ局70との間の通信は、マイクロ波などの電波による無線通信で行ってもよいし、レーザ光などを用いた光通信で行ってもよい。また、HAPS10と人工衛星72との間の通信については、レーザ光などを用いた光通信で行っている。
【0041】
図6は、実施形態のHAPS10,20の中継通信局110,210の一構成例を示すブロック図である。
図5の中継通信局110,210はリピータータイプの中継通信局の例である。中継通信局110,210はそれぞれ、3Dセル形成アンテナ部111と、送受信部112と、フィード用アンテナ部113と、送受信部114と、リピーター部115と、監視制御部116と、電源部117とを備える。更に、中継通信局110,210はそれぞれ、HAPS間通信などに用いる光通信部125と、ビーム制御部126とを備える。
【0042】
3Dセル形成アンテナ部111は、セル形成目標空域40に向けて放射状のビーム100,200を形成するアンテナを有し、端末装置と通信可能な3次元セル41,42を形成する。送受信部112は、3Dセル形成アンテナ部111とともに第一無線通信部を構成し、送受共用器(DUP:DUPlexer)や増幅器などを有し、3Dセル形成アンテナ部111を介して、3次元セル41,42に在圏する端末装置に無線信号を送信したり端末装置から無線信号を受信したりする。
【0043】
フィード用アンテナ部113は、地上又は海上のフィーダ局70と無線通信するための指向性アンテナを有する。送受信部114は、フィード用アンテナ部113とともに第二無線通信部を構成し、送受共用器(DUP:DUPlexer)や増幅器などを有し、フィード用アンテナ部113を介して、フィーダ局70に無線信号を送信したりフィーダ局70から無線信号を受信したりする。
【0044】
リピーター部115は、端末装置との間で送受信される送受信部112の信号と、フィーダ局70との間で送受信される送受信部114の信号とを中継する。リピーター部115は、所定周波数の中継対象信号を所定のレベルまで増幅するアンプ機能を有する。リピーター部115は、中継対象信号の周波数を変換する周波数変換機能を有してもよい。
【0045】
監視制御部116は、例えばCPU及びメモリ等で構成され、予め組み込まれたプログラムを実行することにより、HAPS10,20内の各部の動作処理状況を監視したり各部を制御したりする。特に、監視制御部116は、制御プログラムを実行することにより、プロペラ103,202を駆動するモータ駆動部141を制御して、HAPS10,20を目標位置へ移動させ、また、目標位置近辺に留まるように制御する。
【0046】
電源部117は、バッテリー106,204から出力された電力をHAPS10,20内の各部に供給する。電源部117は、太陽光発電パネル等で発電した電力や外部から給電された電力をバッテリー106,204に蓄電させる機能を有してもよい。
【0047】
光通信部125は、レーザ光等の光通信媒体を介して周辺の他のHAPS10,20や人工衛星72と通信する。この通信により、ドローン60等の端末装置と移動通信網80との間の無線通信を動的に中継するダイナミックルーティングが可能になるとともに、いずれかのHAPSが故障したときに他のHAPSがバックアップして無線中継することにより移動通信システムのロバスト性を高めることができる。
【0048】
ビーム制御部126は、HAPS間通信や人工衛星72との通信に用いるレーザ光などのビームの方向及び強度を制御したり、周辺の他のHAPS(中継通信局)との間の相対的な位置の変化に応じてレーザ光等の光ビームによる通信を行う他のHAPS(中継通信局)を切り替えるように制御したりする。この制御は、例えば、HAPS自身の位置及び姿勢、周辺のHAPSの位置などに基づいて行ってもよい。HAPS自身の位置及び姿勢の情報は、そのHAPSに組み込んだGPS受信装置、ジャイロセンサ、加速度センサなどの出力に基づいて取得し、周辺のHAPSの位置の情報は、移動通信網80に設けた管理装置85、又は、HAPS管理サーバやアプリケーションサーバ等のサーバ86から取得してもよい。
【0049】
図7は、実施形態のHAPS10,20の中継通信局110,210の他の構成例を示すブロック図である。
図7の中継通信局110,210は基地局タイプの中継通信局の例である。
なお、
図7において、
図6と同様な構成要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
図7の中継通信局110,210はそれぞれ、モデム部118を更に備え、リピーター部115の代わりに基地局処理部119を備える。更に、中継通信局110,210はそれぞれ、光通信部125とビーム制御部126とを備える。
【0050】
モデム部118は、例えば、フィーダ局70からフィード用アンテナ部113及び送受信部114を介して受信した受信信号に対して復調処理及び復号処理を実行し、基地局処理部119側に出力するデータ信号を生成する。また、モデム部118は、基地局処理部119側から受けたデータ信号に対して符号化処理及び変調処理を実行し、フィード用アンテナ部113及び送受信部114を介してフィーダ局70に送信する送信信号を生成する。
【0051】
基地局処理部119は、例えば、LTE/LTE-Advancedの標準規格に準拠した方式に基づいてベースバンド処理を行うe-NodeBとしての機能を有する。基地局処理部119は、第5世代等の将来の移動通信の標準規格に準拠する方式で処理するものであってもよい。
【0052】
基地局処理部119は、例えば、3次元セル41,42に在圏する端末装置から3Dセル形成アンテナ部111及び送受信部112を介して受信した受信信号に対して復調処理及び復号処理を実行し、モデム部118側に出力するデータ信号を生成する。また、基地局処理部119は、モデム部118側から受けたデータ信号に対して符号化処理及び変調処理を実行し、3Dセル形成アンテナ部111及び送受信部112を介して3次元セル41,42の端末装置に送信する送信信号を生成する。
【0053】
図8は、実施形態のHAPS10,20の中継通信局110,210の更に他の構成例を示すブロック図である。
図8の中継通信局110,210はエッジコンピューティング機能を有する高機能の基地局タイプの中継通信局の例である。なお、
図8において、
図6及び
図7と同様な構成要素については同じ符号を付し、説明を省略する。
図8の中継通信局110,210はそれぞれ、
図7の構成要素に加えてエッジコンピューティング部120を更に備える。
【0054】
エッジコンピューティング部120は、例えば小型のコンピュータで構成され、予め組み込まれたプログラムを実行することにより、HAPS10,20の中継通信局110,210における無線中継などに関する各種の情報処理を実行することができる。
【0055】
例えば、エッジコンピューティング部120は、3次元セル41,42に在圏する端末装置から受信したデータ信号に基づいて、そのデータ信号の送信先を判定し、その判定結果に基づいて通信の中継先を切り換える処理を実行する。より具体的には、基地局処理部119から出力されたデータ信号の送信先が自身の3次元セル41,42に在圏する端末装置の場合は、そのデータ信号をモデム部118に渡さずに、基地局処理部119に戻して自身の3次元セル41,42に在圏する送信先の端末装置に送信するようにする。一方、基地局処理部119から出力されたデータ信号の送信先が自身の3次元セル41,42以外の他のセルに在圏する端末装置の場合は、そのデータ信号をモデム部118に渡してフィーダ局70に送信し、移動通信網80を介して送信先の他のセルに在圏する送信先の端末装置に送信するようにする。
【0056】
エッジコンピューティング部120は、3次元セル41,42に在圏する多数の端末装置から受信した情報を分析する処理を実行してもよい。この分析結果は3次元セル41,42に在圏する多数の端末装置に送信したり、移動通信網80に設けた管理装置85、又は、管理装置としてのHAPS管理サーバやアプリケーションサーバ(アプリサーバ)等のサーバ86などに送信したりしてもよい。
【0057】
中継通信局110、210を介した端末装置との無線通信の上りリンク及び下りリンクの複信方式は、特定の方式に限定されず、例えば、時分割複信(Time Division Duplex:TDD)方式でもよいし、周波数分割複信(Frequency Division Duplex:FDD)方式でもよい。また、中継通信局110、210を介した端末装置との無線通信のアクセス方式は、特定の方式に限定されず、例えば、FDMA(Frequency Division Multiple Access)方式、TDMA(Time Division Multiple Access)方式、CDMA(Code Division Multiple Access)方式、又は、OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)であってもよい。また、前記無線通信には、ダイバーシティ・コーディング、送信ビームフォーミング、空間分割多重化(SDM:Spatial Division Multiplexing)等の機能を有し、送受信両方で複数のアンテナを同時に利用することにより、単位周波数当たりの伝送容量を増やすことができるMIMO(多入力多出力:Multi-Input and Multi-Output)技術を用いてもよい。また、前記MIMO技術は、1つの基地局が1つの端末装置と同一時刻・同一周波数で複数の信号を送信するSU-MIMO(Single-User MIMO)技術でもよいし、1つの基地局が複数の異なる端末装置に同一時刻・同一周波数で信号を送信又は複数の異なる基地局が1つの端末装置に同一時刻・同一周波数で信号を送信するMU-MIMO(Multi-User MIMO)技術であってもよい。
【0058】
なお、以下の実施形態では、端末装置61と無線通信する通信中継装置が、ソーラープレーンタイプのHAPS10及び無人飛行船タイプのHAPS20のいずれの一方の場合について図示して説明するが、通信中継装置はHAPS10,20のいずれであってもよい。また、以下の実施形態は、HAPS10,20以外の他の空中浮揚型の通信中継装置にも同様に適用できる。
【0059】
また、HAPS10,20とフィーダ局としてのゲートウェイ局(以下「GW局」と略す。)70を介した基地局90との間のリンクを「フィーダリンク」といい、HAPS10と端末装置61の間のリンクを「サービスリンク」という。特に、HAPS10,20とGW局70との間の区間を「フィーダリンクの無線区間」という。また、GW局70からHAPS10,20を経由して端末装置61に向かう通信のダウンリンクを「フォワードリンク」といい、端末装置61からHAPS10,20を経由してGW局70に向かう通信のアップリンクを「リバースリンク」ともいう。
【0060】
図9は実施形態に係るHAPS20のセル構成の一例を示す説明図である。また、
図10(a)及び(b)はそれぞれ比較例に係るHAPSの回転運動(ヨー回転の旋回)及び並進運動によるセルのフットプリントの移動の一例を示す説明図である。
図11(a)及び(b)はそれぞれ実施形態に係るHAPSの回転運動(ヨー回転の旋回)及び並進運動によるセルのフットプリントの移動の一例を示す説明図である。なお、
図10(b)及び
図11(b)では一部3セルのみ図示し、他の4セルは省略している。
【0061】
図9、
図10及び
図11において、通信中継装置は無人飛行船タイプのHAPS20であるが、ソーラープレーンタイプのHAPS10であってもよい。また、図示の例において、HAPS20の高度が約20kmの成層圏に位置し、HAPS20が複数のセル200C(1)~200C(7)を形成し、その複数セル(7セル)構成のサービスエリア20Aの直径は100~200kmであるが、これらに限定されるものではない。
【0062】
図9において、成層圏に位置するHAPS20を用いた地上(又は水上)の端末装置61と直接通信する通信サービスは、サービスエリアの拡大、災害時の通信手段として非常に魅力的である。HAPS20の通信回線はGW局70とHAPS20との間を結ぶフィーダリンク(FL)と、HAPS20と端末装置61との間を結ぶサービスリンク(SL)から成る。サービスリンクにおいて十分な通信容量を確保するためには、1つのHAPSで複数のセルを構成する複数セル構成が前提となる。
【0063】
しかし、HAPS20は成層圏などの空中での気流や気圧などの影響により回転運動(旋回)又は並進運動して姿勢や位置が変動する。そのため、
図10(a)及び
図10(b)に示すように複数セル構成では地上(又は水上)に形成されるセル200C(1)~200C(7)のフットプリント200F(1)~200F(7)が移動することでサービスエリア内のセル境界部200H(図中の斜線部)に位置する多数の端末装置61が一斉にハンドオーバ(HO)することが想定され、HOによる制御信号の増加やHO失敗による通信断が発生するおそれがある。また、HOのみならず端末装置での受信電力の低下(カバーエリアから外れる)の影響も考えられる。
【0064】
そこで、本実施形態では、上記HOの頻発や受信電力の低下に対する対策として、
図11(a)及び
図11(b)に示すようにHAPS20が回転や並進移動によって姿勢や位置が変動してもフットプリント200F(1)~200F(7)が移動しないように、サービスリンクアンテナを構成するとともに、HAPS20の位置及び姿勢(例えば、所定方位に対する)の少なくとも一方の情報に基づいてサービスリンクアンテナに対して送受信される信号についてデジタル信号の振幅及び位相を制御するデジタルビームフォーミング(DBF)制御(以下、「フットプリント固定制御」ともいう。)を適用している。
【0065】
HAPS20自身の位置及び姿勢の情報は、そのHAPS20に組み込んだGPS受信装置、ジャイロセンサ、加速度センサ、慣性センサなどの出力に基づいて取得してもよい。例えば、HAPS20自身の位置及び姿勢の情報は、HAPS20に組み込んだGNSS(Global Navigation Satellite System)システムと慣性測定ユニット(IMU:Inertial Measurement Unit)とを組み合わせたGNSS慣性航法システム(GNSS/INS)の出力に基づいて取得してもよい。
【0066】
図12は、実施形態に係るHAPSの姿勢変化を示す角度の定義を示す説明図である。
図12に示すように、HAPS20の前後方向(前方の進行方向)に沿ったロール軸Yを中心とした回転角度がロール角θrであり、HAPS20の左右方向に沿ったピッチ軸Xを中心とした回転角度がピッチ角θpであり、HAPS20の上下方向に沿ったヨー軸Zを中心とした回転角度がヨー角θyである。例えば、HAPS20が一般的な飛行機や飛行船等であると想定した場合、ロール回転及びピッチ回転は±10度程度であり、ヨー回転は360度無限に回転するものと想定できる。また、HAPS20の左右方向及び前後方向の移動(並進運動)は±5km程度であり、HAPS20の上下方向の移動(並進運動)については高度20~24km程度を移動するものと想定できる。
【0067】
本実施形態では、HAPS20等の通信中継装置の機体は上空において三次元的な動き(例えば経度、緯度及び高度の変化、並びに、ロール軸、ピッチ軸及びヨー軸を中心にした回転)を示すので、例えばロール角θr、ピッチ角θp及びヨー角θyを考慮して三次元的な動きに対応するようにDBF制御を適用してもよい。特に、本実施形態では、HAPS20のヨーイング(機体の上下方向の軸を中心とした回転運動)によるフットプリントの移動に耐性のあるサービスリンクアンテナのアンテナ構成及びDBF制御を適用している。
【0068】
図13(a)~(c)はそれぞれHAPSの旋回パターンの例を示す説明図である。
図13に示すようにソーラープレーンタイプのHAPS10が飛行している高度の空域(例えば成層圏)での風速により飛行ルートの形状を変更する場合がある。例えば、
図13(a)のほぼ無風時には、風Wの方向にかかわらずHAPS10の飛行ルートとして円形の飛行ルートに決定する。また、
図13(b)の穏風時には、風が吹いている方向に向かって(風Wに逆って)飛行している時間帯がなるべく短くなるように、HAPS10の飛行ルートとして、円形の一部円弧の部分が直線になった「D」字形の飛行ルートに決定する。また、
図13(c)の強風時には、風が吹いている方向に向かって(風Wに逆って)飛行している時間帯がより短くなるように、HAPS10の飛行ルートとして、「8」の字形の飛行ルートに決定する。このように上空の風Wの強さに応じて飛行ルート10Fの形状を変更した場合、本実施形態では、その変更後の形状の飛行ルート10FにおけるHAPSの旋回パターンに対応するようにDBF制御を適用してもよい。特に、
図13(a)~(c)に示すようにHAPSが旋回パターンで飛行する場合、ヨー軸Zの周りに無限回転し(ヨー角が360度変化)、ロール角及びピッチ角については±数度程度(例えば、絶対値で10度以下)を想定してDBF制御を適用してもよい。
【0069】
図14(a)及び(b)は実施形態に係るフットプリント固定制御の一例を示す説明図である。
図14(a)はHAPA20の旋回前の図であり、
図14(b)はHAPA20が図中R方向に回転した旋回後の図である。HAPS20は、サービスリンクアンテナ(例えば、前述の3次元セル形成アンテナ部111)として、端末装置と間のサービスリンクの無線通信を行うセル200Cを形成する複数のアンテナ素子401を有するアレイアンテナ400を備える。更に、HAPS20は、デジタルビームフォーミング(DBF)制御部500と、GPSアンテナを有するGNSS/INS600とを備える。DBF制御部500は、HAPS20の位置及び姿勢の情報と、目標とするセルの位置情報とに基づいて、サービスリンクのアレイアンテナ400の各アンテナ素子401に対して送受信される信号についてデジタル信号の振幅及び位相を制御する。これにより、アレイアンテナ400の主ビーム701及びサイドローブ702からなるアンテナ指向ビーム(以下、単に「ビーム」ともいう。)700の方向が目標のフットプリント形成位置に向かうように制御され、HAPS20がヨー軸Zを中心にして回転(旋回)しても、アレイアンテナ400で形成されるセル200Cのフットプリント200Fの位置を固定することができる。なお、
図14(b)中のビーム700’は、DBF制御を行わない場合のビームの方向である。
【0070】
図14(a)は他の実施形態に係るフットプリント固定制御に用いられるシリンダー型アレイアンテナの一部分機能を構成するサーキュラーアレイアンテナ410の一例を上方から見た説明図である。
図14(b)は同シリンダー型アレイアンテナの他の部分機能を構成するリニアアレイアンテナ420の一例を側方から見た説明図である。HAPS20は上下昇降、横移動、回転等様々な動きが考えられるため、それぞれの動きに対応するようにサービスリンクアンテナの指向性ビーム(アンテナ指向ビーム)の方向を制御するDBF制御が必要である。特にHAPS20の動きのうちヨー軸(Z軸)を中心とした旋回であるヨーイングではHAPS20が360度回転するためフットプリント固定のためのビーム方向制御が必要不可欠である。
【0071】
前述の
図10(b)及び
図11(b)に示すHAPS20の前後移動の並進運動においては、前後の移動距離だけフットプリントがずれる。一方、前述の
図10(a)及び
図11(a)に示すHAPS20のヨー回転の回転運動では、HAPS20から遠方ほどフットプリントの移動による影響が大きい。カバレッジ半径をRとして、1度ヨー回転することにより変位するカバレッジ端でのセルの変位距離は2πR/360で表せる。従って、カバレッジ半径を100kmとすると、1度回転するだけで約1.7kmも変位することとなる。つまり、並進運動よりも回転運動によるフットプリントの移動への影響が大きい。特にヨー回転はロール回転やピッチ回転と異なり無限に回転するため全方位対応のビームフォーミング制御が必要である。
【0072】
そこで、本実施形態では、HAPS20の機体の動きをヨー回転(旋回)とそれ以外(ロール回転、ピッチ回転や移動)に分解し、ヨー回転(旋回)として360度無限回転を考慮したサーキュラーアレイアンテナ(サーキュラー型のアクティブアレイ)410(
図15(a)参照)と、ロール回転及びピッチ回転として±数度を考慮したリニアアレイアンテナ(リニア型のアクティブアレイ)420(
図15(b)参照)とを組み合わせてサービスリンクアンテナを構成している。この組み合わせ構成により、水平方向及び垂直方向の三次元的なビームフォーミング及びステアリングが実現できる。水平方向は主にHAPS20のヨー回転に対応し、垂直方向は主にHAPS20のピッチ回転、ロール回転及び並進運動に対応することができる。
【0073】
サーキュラーアレイアンテナ410は、円周形状に沿って複数のアンテナ素子411を分布させるように配置したアレイアンテナである。サーキュラーアレイアンテナ410の各アンテナ素子411に対してアンテナウェイト(振幅及び位相)を制御するDBF制御を適用することにより、図中のR方向にHAPS20の機体がヨー回転(旋回)した場合に、セルのフットプリント200Fの位置を固定することができる。サーキュラーアレイアンテナ410は、アンテナ指向ビームが地上に向かう方向に対して水平方向に向くため、カバレッジが広い場合でも対応可能である。
【0074】
リニアアレイアンテナ420は、地上と垂直に線状に複数のアンテナ素子421を分布させるように配置したアレイアンテナである。リニアアレイアンテナ420の各アンテナ素子421に対してアンテナウェイト(振幅及び位相)を制御するDBF制御を適用することにより、図中のR方向にHAPS20の機体がヨー回転(旋回)以外の動き(ロール回転、ピッチ回転、移動など)をした場合に、セルのフットプリント200Fの位置を固定することができる。
【0075】
図15のアンテナ構成のDBF制御では、平面アレイアンテナの考え方と同様に、例えば、水平(サーキュラーアレイ)と垂直(リニアアレイ)に対してそれぞれ個別にウェイトを算出し、積を取ることで各アンテナ素子に対するウェイトを決定する。これにより、アンテナ全体の指向性をサーキュラーアレイとリニアアレイの指向性の積として表すことができる。ただし、HAPS20の斜め下(水平面から45度以上)の方向のエリアについてはアンテナ素子毎に偏波が崩れることにより正しくセルを形成することは難しいので、HAPS20の真下方向のエリアについては、例えば後述のように別途平面アレイアンテナ等を用いることでセルを形成するようにしてもよい。
【0076】
図16は、サーキュラーアレイアンテナ410とリニアアレイアンテナ420とを組み合わせて構成したシリンダー型のアレイアンテナ430の一構成例を示す斜視図である。シリンダー型のアレイアンテナ430は、特にヨーイングによるフットプリントの移動に耐性のあるアンテナ構成である。このアレイアンテナ430では、水平方向にはどの方向から見てもアンテナの形状が変わらないようにアンテナ素子431が円形に配置 (サーキュラーアレイ)され、垂直方向には縦方向のビーム方向制御に対応するためアンテナ素子431が線形配置されている。なお、HAPS20の真下方向にセルを作る場合は別途平面アレイアンテナ等のアンテナを設けてもよい。
【0077】
シリンダー型のアレイアンテナ430では、水平方向の各アンテナ素子としてアクティブ素子を用いることで、ビーム方向制御のための位相制御のみならずサイドローブ低減のための電力制御 (振幅制御)も可能となる。また、シリンダー型のアレイアンテナ430において、垂直方向に対しては重量、消費電力の増加を抑えるため各アンテナ素子431に固定位相を与えて下向きの固定チルトを適用してもよい。また、水平方向の各アンテナ素子として水平方向と同様にアクティブ素子を用いてよく、この場合は、上下昇降や横移動に対応した垂直ビーム方向制御及びサイドローブ低減も可能である。
【0078】
図17は、シリンダー型のアレイアンテナ430を用いたフットプリント固定制御における水平角度(以下「水平ステアリング角」ともいう。)φ及び垂直角度(以下「垂直ステアリング角」ともいう。)θの説明図である。
図18はシリンダー型のアレイアンテナ430における水平角度(φ)及び垂直角度(θ)それぞれに対するDBF制御を行うアンテナ素子の説明図である。
図19は、シリンダー型のアレイアンテナ430のDBF制御で形成される3次元的なアンテナ指向ビームの一例を示す説明図である。シリンダー型のアレイアンテナ430を用いる場合、目標とする位置のセルのフットプリント200Fの中心位置の方向に対して、HAPS20のアレイアンテナ430から見た目標水平角度(φ)及び目標垂直角度(θ)を求める(
図17参照)。ここで、水平角度(φ)は、例えば、アレイアンテナ430から目標のフットプリント200Fの中心に向かう目標ビームベクトル200Vの水平面(図中のX-Y面)における投影ベクトルのX軸に対する角度である。垂直角度(θ)は、目標ビームベクトル200VとHAPS20の上下方向とを含む垂直面における目標ビームベクトル200Vの水平面に対する角度である。
【0079】
目標フットプリント200Fに対するアンテナ指向ビームの目標水平角度(φ)についてのDBF制御(位相制御)は
図18中の横方向に並んだ横方向アンテナ素子群432に対して行う。一方、目標フットプリント200Fに対するアンテナ指向ビームの目標垂直角度(θ)についてのDBF制御(位相制御)は
図18中の縦方向に並んだ縦方向アンテナ素子群433に対して行う。このように横方向アンテナ素子群432及び縦方向アンテナ素子群433に対してDBF制御(位相制御)を互いに独立に行うことにより、
図19に示すように所定の目標ビームベクトル200Vの方向に主ビーム701を有するアンテナ指向ビーム700が形成される。
【0080】
次に、本実施形態のHAPS10、20の複数セル構成における水平ビームフォーミング制御について説明する。
【0081】
多セル構成のHAPSでは、その機体の移動に応じたビーム方向制御のみならず、セル間干渉を低減するためのサイドローブ低減も同時に実現する必要がある。本実施形態では、ビーム方向、サイドローブレベル及びビーム幅を予め考慮した所望パターンを定義し、所望パターンに近似するアンテナウェイトを計算している。
【0082】
図20は、実施形態に係るHAPS10,20のアンテナ構成(例えば、シリンダー型のアレイアンテナ430)の一部を構成するサーキュラーアレイアンテナ410の一例を示す説明図である。
図20において、サーキュラーアレイアンテナ410の素子数をN、半径をr、n(1≦n≦N)番目のアンテナ素子411が位置する角度及び指向方向をφn、アンテナ指向ビームの水平角度(水平ステアリング角度)をφ
0とする。各アンテナ素子411に適用するアンテナウェイト(以下「ウェイト」ともいう。)をw∈C
N×1、ウェイトwを用いて計算される水平方向のアンテナ指向性をa∈C
Nφ×1として、aとwの関係を次式(4)のように表す。
【0083】
【0084】
但し、Nφは水平方向の全方位(-180度~180度)のサンプリング個数である。例えば、1度単位でサンプリングすれば、Nφ=360となる。
【0085】
ここで、F∈CNφ×Nは素子間隔や各アンテナ素子411の指向性パターンによって決まる行列であり、そのm行n列目の要素fmnは次式(5)のように表せる。
【0086】
【0087】
但し、φmは-180度~180度の水平角度であり、λは波長であり、各アンテナ素子411の水平方向の指向性を、φ=0度をアンテナ正面方向としてg(φ)と定義する。このように、与えられたアンテナウェイトwに対する指向性aは、Fを用いた行列形式で表すことができる。したがって、任意のアンテナ指向性に対するウェイトwは、次式(6)のようにFの逆行列を用いて解くことができる。
【0088】
【0089】
但し、Fは列数(アンテナ素子数)よりも行数(水平角のサンプリング個数)の方が大きい非正則行列であるため、逆行列を求めることはできない。そこで、本例では、||Fw-a||2を最小とするMoore-Penroseの一般逆行列F+を使用している。これにより、所望の指向性aに最も近いアンテナウェイトwを算出することができる。
【0090】
一例として、N=16、r=0.19(素子間隔0.5λに相当)、各アンテナ素子411の指向性を、一般的なパッチアンテナの特性に近いcosineで表される指向性g(φ)=cosα(φ)cosα(θ)(但し、α=1.3(半値幅約80度、最大利得約8.6dBi)、-90度>φ,φ>90度はg(φ)=0)を用いて評価する。但し、本例では水平面での特性検討のため、θ=0度とする。また、所望アンテナ指向性を、aの要素をamとして、次式(7)のガウス分布で与える。
【0091】
【0092】
図21は、
図20のサーキュラーアレイアンテナ410の水平方向におけるビームパターンの計算機シミュレーション結果の一例を示すグラフである。計算では、アンテナ素子411の素子数N=16、半径r=0.19[m]のサーキュラーアレイアンテナとし、周波数fcを2[GHz]、素子間隔を0.5λ、σを0.3(半値幅40度相当)とした。また、φn=-168.75度~168.75度の範囲でアンテナ素子411の素子間隔を均等に設定した。また、各アンテナ素子411のビームパターンをcos
mφ(但し、m=1.3、90度<φ及びφ<-90度の範囲は0)とした。
【0093】
図21では、計算機シミュレーションの一例として、水平ステアリング角φ
0を0度,10度,20度,180度,-120度(=240度),-60度(=300度)として計算したサーキュラーアレイアンテナ410の水平面内の指向性ビームパターンC31,C32,C33,C34,C35,C36を示す。
【0094】
図21に示す通り、メインビームが半値幅約40度のビームを形成できており、水平面内のどの方向に対してもビームの形状をほとんど変えることなくビーム方向を制御できていることが分かる。
【0095】
以上より、例えばHAPS20の機体のヨーイング(ヨー回転)の回転角度をφYawとすると、HAPS20の機体に対して逆向きの回転角(φ0=-φYaw)を与えることでセルのフットプリントの固定が可能である。また、1つのアレイアンテナで水平方向に複数セルを多重させる場合は、セル毎に異なるφ0を設定して多重することで実現できる。例えば、水平方向に60度毎に6セルを形成する場合は、φ0(k)=60k/-φYaw(但し、セル番号k=0~5)となる。
【0096】
更に、前述の
図15のシリンダー型のアレイアンテナ430を用いてハンドオーバ(HO)回数の計算機シミュレーション評価を行った。シミュレーション評価では、1つのHAPS、7セル構成(中央1セル、周辺6セル)において、上記ウェイトを用いた水平方向のDBF制御を適用しない場合(φ
Yaw≡0)と適用する場合のハンドオーバ回数の評価を行った。ここでは簡単のため、HAPSはヨーイングの回転運動(ヨー回転)のみ行うものとし、一例として10分で1回転(1秒間に0.6度回転)するものとする。アンテナ構成の評価諸元を表1に示す。
【表1】
【0097】
周辺6セルはシリンダー型のアレイアンテナ430で形成し、中央1セルは下向きの平面アレイアンテナでカバーする。シリンダー型のアレイアンテナ430の垂直方向及び平面アレイアンテナはそれぞれ表1に記載した半値幅となるように各アンテナ素子に異なる振幅を与えている。
【0098】
ハンドオーバの頻発を抑えるため、在圏セルに対する隣接セルの受信電力の比が3dB以内であればハンドオーバを行わず、3dBを上回ったときに隣接セルへハンドオーバを行うものとする。HAPSの高度を20[km]、半径100[km]の円内を評価対象エリアとし、1秒間当たりに発生するHO率(100[km]エリア内の全UE(端末装置)に対するハンドオーバしたUE数の割合)を、DBF制御を適用しない場合と適用する場合で評価したところ、適用しない場合で0.96%、適用する場合で0%(ハンドオーバ発生なし)となった。
【0099】
以上示したように、本実施形態のサーキュラーアレイアンテナやシリンダー型アレイアンテナなどのアンテナ構成と上記HAPS10,20の位置及び姿勢の情報に基づいて計算したウェイトを用いたDBF制御とを適用することにより、HAPS10,20のヨーイング回転等の姿勢や位置の変動によるセルのフットプリントの移動を抑制することができる。従って、HAPS10、20のヨー回転によるハンドオーバをなくすことができ、フットプリントの移動に起因したハンドオーバの頻発(多数の端末装置が一斉にハンドオーバする現象)を抑制し、ハンドオーバによる制御信号の増加及びハンドオーバ失敗による通信断を抑制することができる。
【0100】
次に、本実施形態のHAPS10、20の複数セル構成における垂直ビームフォーミング制御について説明する。HAPS10、20のピッチ回転、ロール回転や並進運動に対してはリニアアレイアンテナによる垂直方向のビームフォーミング制御によりフットプリントの固定が可能である。
【0101】
前述のシリンダー型のアレイアンテナ430を構成するサーキュラーアレイアンテナ410による水平ビームフォーミングの場合と同様に、垂直ビームフォーミングも所望のアンテナ指向性とアンテナウェイトの関係性を行列で表現することにより、適切なアンテナウェイトを求めることが可能である。
【0102】
図22は、実施形態に係るHAPS10,20のアンテナ構成(例えば、シリンダー型のアレイアンテナ430)の一部を構成するリニアアレイアンテナ420の一例を示す説明図である。
図22において、リニアアレイアンテナ420のアンテナ素子421の素子数をN、素子間隔をd[m]、目標の垂直角度である垂直ステアリング角度をθ
0とする。但し、図中の下方向の角度が負の角度である。
【0103】
前述の式(4)において、リニアアレイアンテナ420におけるウェイトをw∈CN×1、垂直方向のアンテナ指向性をa∈CNθ×1、アレイファクタとアンテナ素子の指向性によって決定される行列をF∈CNθ×Nとすると、Fのm行n列目の要素fmnは、次式(8)のように表せる。
【0104】
【0105】
但し、θmは-90度~+90度の垂直角度、各素子の垂直方向の指向性を、θ=0をアンテナ正面方向として、g(θ)と定義する。
【0106】
以上より、任意のアンテナ指向性に対するウェイトwは、前述の式(6)と同様に、Fの逆行列を用いて解くことができる。
【0107】
本実施形態の垂直ビームフォーミング制御において、HAPSから見て地表上で垂直方向に連なるセルに対して与える目標のビーム幅及び垂直ステアリング角は、以下に示すように決定して設定する。
【0108】
垂直ビームフォーミング制御における目標のビーム幅と垂直ステアリング角度は、セル毎に、HAPSの動作に応じて適切に設定する必要がある。
【0109】
図23は、実施形態に係るHAPS10,20のアレイアンテナ400とセルの配置との関係の一例を示す説明図である。
図23の例において、HAPSのサービスリンク用のアレイアンテナ400として、底面に平面アレイアンテナが配置されたシリンダー型のアレイアンテナを用いている。アレイアンテナ400の直下地点(0km)から20km以内のエリアでは下向きの平面アレイアンテナの部分でカバーし、直下地点から20~100kmまでのエリアをシリンダー型のアレイアンテナでカバーしている。図中の実線で示すアレイアンテナ400はHAPSが移動した後のアンテナ位置を示し、破線で示すアレイアンテナ400’はHAPSが移動する前のアンテナ位置を示している。
【0110】
ここで、シリンダー型のアレイアンテナを構成しているリニアアレイアンテナで複数のセルに分割するモデルを考える。HAPSのアレイアンテナ400の直下地点からn(=1,2、・・・)番目のセルのフットプリント200F(n)の中心までの地表距離をdn[km]とし、直下地点から各セルのフットプリント200F(n)のセル境界までの地表距離をdedge,k[km]とし、HAPSの飛行高度(=アレイアンテナ400の中心の高度)をh[km](図示の例では、20km)とする。
【0111】
HAPSがx軸(前後)方向にΔd[km]、z軸(上下)方向にΔh[km]移動すると、各セルのフットプリントの中心及びセル境界におけるHAPSのアレイアンテナ400に対する仰角(θn,θedge,k)は、次式(9)のように表せる。
【0112】
【0113】
ここで、ビーム幅をセル境界の間の角度と考えると、n番目のセルの目標ビーム幅θbw,n[度]は、次式(10)のように表すことができる。
【0114】
【0115】
一方、垂直ステアリング角はHAPSが移動してもセルのフットプリントの位置が移動しないようにするため、各セルに対するアンテナ指向ビームの垂直ステアリング角θstr,nが常にセルのフットプリントの中心に向くように制御する。但し、セル間の境界位置は各ビームのセル境界における利得が変わるため、HAPSの移動に伴って多少移動することが考えられる。そこで、本実施形態ではHAPSの移動距離に対して補正係数βを掛けることで垂直ステアリング角を補正している。補正を考慮した垂直ステアリング角θstr,nを、次式(11)のように定義する。
【0116】
【0117】
図23に示すように、垂直方向のセル数を2セル、各セルの地表上のフットプリント200Fの半径を20kmと仮定し、前記式(7)及び(8)に基づいてHAPS移動前のビーム幅を計算すると、第1番目のセル(セル#1)が26.6度であり、第2番目のセル(セル#2)が7.1度である。また、垂直ステアリング角は、セル#1が26.6度であり、セル#2が14.0度である。
【0118】
図23の例において、垂直面内のアンテナパターンについて評価を行った。ここでは、リニアアレイの素子数をN=8、素子間隔をd=0.65λ、各アンテナ素子の指向性を前述のようにcosineを用いたアンテナ指向性(ただし、φ=0deg.)とした。所望のアンテナ指向性は前述の式(7)と同じガウス分布を用いた。また、上記算出されるビーム幅に合わせ、セル#1はσ=0.20度、セル#2はσ=0.05度とした。
【0119】
図24は、
図23のアレイアンテナ400の垂直方向におけるビームパターンC41,C42の計算機シミュレーション結果の一例を示すグラフである。
図24に示すように、セル#1とセル#2の利得の差は約4dBとなった。ビーム幅はセル#1が11度、セル#2が28度となったため、その分約4dBの利得差が生じている。また、セル#1の方は地上側にビームを向けていることで天空側にグレーティングローブが出てきていることが分かる。
【0120】
次に、HAPSの移動前後でのセル境界の位置について評価を行う。ここでは、z軸(上下)方向の移動距離をΔh=0km(飛行高度h=20km)とし、x軸(前後)方向の移動距離Δd=-5,+5kmとして、第1のDBF制御方式(I):「ビーム幅制御あり、垂直ステアリング角補正なし」と、第2のDBF制御方式(II)「ビーム幅制御なし、垂直ステアリング角補正あり」の2方式について評価を行う。評価は地表距離をパラメータとし、送信電力を43dBmとして各距離の仰角に対応する垂直面内アンテナ利得を加算し、直線距離に応じた自由空間伝搬損(fc=2GHz)を差し引いた受信電力で行った。ここでは、セル境界の移動を考慮して予め補正係数βを調整し、β=1.7としている。
【0121】
図25(a)及び(b)はそれぞれ、
図23のアレイアンテナ400のDBF制御方式(I)及び(II)について評価した受信電力の距離特性の評価結果の一例を示すグラフである。
図25(a)はアレイアンテナ400のDBF制御方式(I)の評価結果であり、
図25(b)はアレイアンテナ400のDBF制御方式(II)の評価結果である。
図25における横軸は、HAPSの直下からの地表上の距離[km]であり、縦軸は受信電力「dBm」である。
【0122】
図25(a)により、前述の式(10)及び(11)のビーム幅及び垂直ステアリングの制御を行うことで、HAPSの移動に対してセル境界をほとんど固定できていることが分かる。一方、
図25(b)により、ビーム幅制御を行わなくても垂直ステアリング角の補正だけでセル境界の位置をほとんど固定できていることが分かる。また、利得の観点からも、
図25(a)に示すアレイアンテナ400の方式(I)の場合と概ね同じ特性が実現できていることが分かる。
【0123】
図26(a)及び(b)はそれぞれ、
図23のアレイアンテナ400の複数種類のDBF制御方式について評価したセル境界位置(セル端の位置)の変動の評価結果の一例を示すグラフである。
図26(a)が高度20km、
図26(b)が24kmの場合の評価結果である。図中の横軸はHAPSの水平方向の移動距離(-5km≦Δd≦5km)である。
図25の場合と同様に、前述の式(11)中の補正係数βは、β=1.7に固定している。
【0124】
図26により、ビーム制御を一切行わない場合は移動距離分(10km)だけセル境界も移動し、ビーム幅制御を行わずステアリング補正も行わないと
図26(a)及び(b)のいずれの場合も4km変位することが分かる。一方、前述のDBF制御方式(I)及び(II)においては、同一高度であればセル境界のずれが約1km以内に収められ、最大高度である24kmを加味してもセル(フットプリント)の変位する距離は約2km以内に収められることが分かる。
【0125】
図27は、実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の一例を示すブロック図である。
図27の例は、N個のアンテナ素子411からなるサーキュラーアレイアンテナ410を複数段有するシリンダー型のアレイアンテナで一つのセル(#0)を形成する例である。サーキュラーアレイアンテナ410の各アンテナ素子411の位置では、図示の都合上省略しているが、垂直方向にL個のアンテナ素子が配列したリニアアレイアンテナが形成されている。本例のアレイアンテナは、全体でN×L個のアンテナ素子を有することになる。
【0126】
なお、
図27では、図示を簡略化するため、ダウンリンク及びアップリンクについてはダウンリンクのみ記載している。また、
図27では、水平偏波及び垂直偏波の一方の偏波(片偏波)のみ記載しているが、他方の偏波の信号について送受信する場合は同様なDBF制御部が追加して設けられる。
【0127】
DBF制御部500は、ウェイト計算部501とウェイト演算部502とを備える。ウェイト計算部501は、GNSS/INSで取得したHAPS10,20の位置及び姿勢のデータと、目標のセルの位置情報とに基づいて、シリンダー型のアレイアンテナを構成するサーキュラーアレイアンテナ410の複数のアンテナ素子411(0~N-1)及びリニアアレイアンテナの複数のアンテナ素子(0~L-1)で送信される送信信号(デジタルのベースバンド信号)に適用する前述のウェイト(振幅及び位相のベクトルデータ)を計算する。
【0128】
ウェイト演算部502は、ウェイト計算部501で計算したウェイトをデジタル送信信号に適用することにより、シリンダー型のアレイアンテナを構成する第1段目のサーキュラーアレイアンテナの複数のアンテナ素子411(0~N-1)に対応する複数のデジタル送信信号(0~N-1)を生成する。同様に、第2段目~第L段目それぞれのサーキュラーアレイアンテナの複数のアンテナ素子411(0~N-1)に対応する複数のデジタル送信信号(0~N-1)を生成する。ウェイト演算部502から出力された複数のデジタル送信信号(0~N-1)はそれぞれ、DAコンバータ(DAC)510でアナログ信号に変換され、周波数変換器511で所定の送信周波数fcに変換され、電力増幅器(PA)512で所定の電力まで増幅された後、送受共用器(DUP:DUPlexer)513を介して、複数段のサーキュラーアレイアンテナそれぞれの対応するアンテナ素子411(0~N-1)に供給される。
【0129】
以上のDBF制御により、複数段のサーキュラーアレイアンテナ410で構成されるシリンダー型のアレイアンテナから目標の位置に向けてアンテナ指向ビーム700を形成し、フットプリントを固定した状態でセル内に在圏する端末装置に送信信号を送信することができる。
【0130】
なお、
図27において、複数段(0~L-1)のサーキュラーアレイアンテナ410の複数のアンテナ素子411(0~N-1)それぞれによって受信された複数のアップリンクの受信信号は、DUP513を介してローノイズアンプで増幅された後、周波数変換器で所定の周波数に変換され、ADコンバータ(ADC)でデジタル信号に変換されてウェイト演算部502に供給される。ウェイト演算部502で複数のデジタル信号に上記複数のウェイトを適用した後互いに加算されることにより、上記所定のセル内に在圏する端末装置からの受信信号を生成することができる。
【0131】
図27において、ウェイト演算部502には、アンテナ切り換え制御の機能を持たせてもよい。
【0132】
図28は、実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の他の例を示すブロック図である。
図28の例は、N個のアンテナ素子411からなるサーキュラーアレイアンテナ410を複数段有するシリンダー型のアレイアンテナでM個のセル(#0~#M-1)を形成する例である。なお、
図28において、
図27と共通する部分については説明を省略する。
【0133】
図28において、DBF制御部500は、ウェイト計算部501と、M個のセル(#0~#M-1)に対応するM個のウェイト演算部502とを備える。ウェイト計算部501は、複数のウェイト演算部502それぞれに供給するセル数分のウェイトを計算する。ここで計算されるウェイトはベクトルではなく行列である。
【0134】
複数のウェイト演算部502はそれぞれ、ウェイト計算部501で計算したウェイトを適用して、セル毎にビームフォーミングを行うためのウェイト演算を行ってN個のアンテナ素子411それぞれに供給する複数のデジタル送信信号を生成して出力する。ウェイト演算部502から出力されたデジタル送信信号は、アンテナ素子ごとに多重化(加算)されることにより、複数セルについて同時に異なる方向へのビーム制御が可能である。
【0135】
図28のDBF制御では、複数段のサーキュラーアレイアンテナ410で構成されるシリンダー型のアレイアンテナから互いに異なる複数の目標位置それぞれに向けてアンテナ指向ビーム700を形成し、フットプリントを固定した状態で各セル内に在圏する端末装置に送信信号を送信することができる。
【0136】
図29は、実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の更に他の例を示すブロック図である。
図29の例は、6個の平面型のアレイアンテナとしての平面アレイアンテナ440(0)~440(5)でアンテナ切替とDBF制御を行い、HAPS10,120のヨー回転対応のフットプリント固定制御を行って6個のセル(#0~#M-1)を形成する例である。各平面アレイアンテナ440(0)~440(5)はN個のアンテナ素子441を有し、各アレイアンテナのビームの向きが互いに異なるように配置されている。なお、
図29において、
図27と共通する部分については説明を省略する。
【0137】
図29において、DBF制御部500は、ウェイト計算部501と、6個の平面アレイアンテナ440(0)~440(5)に対応するように設けられた6個のウェイト演算部502(0)~502(5)とを備える。なお、平面アレイアンテナ440及びウェイト演算部502それぞれの個数は6個以外であってもよい。
【0138】
また、
図29の例では、DBF制御部500とは別に、アンテナ切替部520を備える。アンテナ切替部520は、平面アレイアンテナ440(0)~440(5)の間で、6個のセル(#0~#M-1)それぞれを形成する平面アレイアンテナ440(0)~440(5)を切り替える。例えば、平面アレイアンテナ440(0)~440(5)の間で、第1番目のセル(#0)を形成する平面アレイアンテナを切り替えるようにウェイト演算部502(0)~502(5)への接続を切り替える。
【0139】
図30は、
図29の制御系でDBF制御される平面アレイアンテナ440(0)~440(5)の一例を示す斜視図である。図示の例では、6個の平面アレイアンテナ440(0)~440(5)はそれぞれ、平面形状にそって複数のアンテナ素子441が2次元的に分布するように配置されている。また、平面アレイアンテナ440(0)~440(5)は、下向きの角錐形状(6角錐形状)の6つの斜面それぞれに配置されている。この複数の角錐形状(6角錐形状)下端に底面を設け、その底面に真下方向にセルを形成するための平面アレイアンテナ440を設けてもよい。また、複数の平面アレイアンテナ440は、角柱形状(例えば6角柱形状)における複数の外面部それぞれに配置してもよい。
【0140】
図29の制御系によるDBF制御は例えば次のように行う。水平方向のDBF制御では、各平面アレイアンテナ440(0)~440(5)で位相制御を行うことにより、水平方向(横方向)の所定の角度範囲(例えば30度)で各平面アレイアンテナ440(0)~440(5)の指向性ビームをステアリングする。そして、ステアリングで振れる角度が限界まできたとき、例えば位相制御により各平面アレイアンテナの垂直な法線方向に対して±30度まで指向性ビームをステアリングしたとき、各セルに対応する平面アレイアンテナ440(0)~440(5)を切り替える。一方、垂直方向のDBF制御は、例えば、前述のシリンダー型のアレイアンテナ430における垂直方向の制御と同様に行う。
【0141】
図31は、平面アレイアンテナ440(0)~440(5)の水平方向のビームフォーミング制御の一例を示す説明図である。
図31の例は、HASP10,20の機体が右回転しているときの例である。図中左の回転前の状態では、平面アレイアンテナ440(5)の法線方向の図中上方にビーム700によってセルが形成される。この状態から機体が図中矢印Rで示す右回転方向に例えば29度以下で回転(旋回)する場合は、図中中央時に示すように、平面アレイアンテナ440(5)の位相制御によりビーム700が左回転方向にステアリングされ、セルの位置が維持される。そして、図中右の状態に示すように、機体が図中矢印Rで示す右回転方向に例えば閾値の30度又はそれ以上回転(旋回)する場合は、平面アレイアンテナ440(5)の位相制御によるビーム700のステアリングが難しくなるため、上記セルを形成するための平面アレイアンテナを平面アレイアンテナ440(5)から隣の平面アレイアンテナ440(0)に切り替え、その切り替え後の平面アレイアンテナ440(0)に対して位相制御を行うことでビーム700が右回転方向にステアリングされ、セルの位置が維持される。
【0142】
なお、
図29の例において、アンテナ切り換えを含めたウェイトを適用することにより、アンテナ切替部520を別途設けずに、アンテナ切り換え処理を含めたDBF制御をウェイト演算部502で行うようにしてもよい。
【0143】
図32は、実施形態に係るアンテナ構成及びDBF制御の制御系の更に他の例を示すブロック図である。なお、
図32において、
図27と共通する部分については説明を省略する。
図32の制御系では、HAPS10,20の機体の旋回が同じ回転及び移動の繰り返し運動である(周期性がある)ことに着目し、サービスエリアの位置を基準にしたHAPS10,20の予測移動経路における互いに異なる複数組の機体の位置及び姿勢(傾き角度及び向き)に応じたウェイトを予め計算してメモリ等の記憶部514に保存しておく。そして、ウェイト読込部504により、GNSS/INSデータから計算した機体の姿勢及び位置に基づいて記憶部514を参照し、計算した機体の姿勢及び位置に対応するウェイトを読み込み、ウェイト演算部502での送信信号の演算に用いる。
図32の例では、逐次ウェイト計算が不要であることから計算量及び消費電力を大幅に減らすことができる。
【0144】
以上、本実施形態によれば、上記構成のアレイアンテナ及びDBF制御とを適用することにより、HAPS10,20の姿勢や位置の変動によるセルのフットプリントの移動を抑制し、HOの頻発、HOによる制御信号の増加及びHO失敗による通信断を抑制することができる。しかも、アレイアンテナの指向性ビームの制御に、大型で重い機械的な制御機構でなく、小型で軽量化が容易なDBF制御を用いているため、HAPS10,20の小型化を図ることができる。
【0145】
上記各実施形態におけるDBF制御は、HAPS10,20が自立的に判断して行ってもよいし、遠隔制御装置85やサーバ86等の外部装置からの制御指令によって行ってもよい。また、上記DBF制御は所定の時間間隔で定期的に行ってもよいし、HAPS10,20の移動距離又は姿勢変化が所定よりも大きくなったときに行ってもよい。
【0146】
なお、本明細書で説明された処理工程並びにHAPS10,20等の通信中継装置の中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、端末装置(ユーザ装置、移動局、通信端末)、基地局及び基地局装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0147】
ハードウェア実装については、実体(例えば、中継通信局、フィーダ局、ゲートウェイ局、基地局、基地局装置、中継通信局装置、端末装置(ユーザ装置、移動局、通信端末)、管理装置、監視装置、遠隔制御装置、サーバ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0148】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、前記構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された前記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0149】
また、前記媒体は非一時的な記録媒体であってもよい。また、前記プログラムのコードは、コンピュータ、プロセッサ、又は他のデバイス若しくは装置機械で読み込んで実行可能であれよく、その形式は特定の形式に限定されない。例えば、前記プログラムのコードは、ソースコード、オブジェクトコード及びバイナリコードのいずれでもよく、また、それらのコードの2以上が混在したものであってもよい。
【0150】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0151】
10 HAPS(ソーラープレーンタイプ)
20 HAPS(飛行船タイプ)
20A サービスエリア
61 端末装置
70 ゲートウェイ局(GW局)
80 移動通信網
90,90(1),90(2) 基地局(eNodeB)
100A セル
110,210 中継通信局
200C,200C(1)~200C(7) 3次元セル
200F,200F(1)~200F(7) フットプリント
400 アレイアンテナ
401,411,421,431 アンテナ素子
410 サーキュラーアレイアンテナ
420 リニアアレイアンテナ
430 シリンダー型のアレイアンテナ
432 横方向アンテナ素子群
433 縦方向アンテナ素子群
440 平面アレイアンテナ
441 アンテナ素子
500 DBF制御部
501 ウェイト計算部
502 ウェイト演算部
503 加算器
504 ウェイト読込部
514 記憶部
520 アンテナ切替部
600 GNSS/INS(GPSアンテナ)
700 アンテナ指向ビーム
701 主ビーム
702 サイドローブ