(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】燃料噴射装置
(51)【国際特許分類】
F02M 51/06 20060101AFI20221004BHJP
F02M 61/10 20060101ALI20221004BHJP
F02M 61/16 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
F02M51/06 J
F02M51/06 B
F02M61/10 N
F02M61/16 X
(21)【出願番号】P 2018214088
(22)【出願日】2018-11-14
【審査請求日】2021-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100140486
【氏名又は名称】鎌田 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100170058
【氏名又は名称】津田 拓真
(72)【発明者】
【氏名】橋本 雄太
(72)【発明者】
【氏名】藤野 友基
(72)【発明者】
【氏名】青地 高伸
(72)【発明者】
【氏名】高木 二郎
【審査官】楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-346856(JP,A)
【文献】特開2017-089424(JP,A)
【文献】特表2003-511603(JP,A)
【文献】特開2010-261396(JP,A)
【文献】特開2006-105260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0204289(US,A1)
【文献】欧州特許出願公開第2985445(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 51/06
F02M 61/00~61/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射装置であって、
燃料を内燃機関の燃焼室に噴射する噴孔が設けられたハウジング(20)と、
前記噴孔を開閉するように前記噴孔の周囲に設けられたシート部から離隔する開弁状態と、前記シート部に当接する閉弁状態との間で駆動される弁部材(40,40F,40G)と、
前記弁部材を前記開弁状態とする開弁方向に駆動する可動コア(50,50H)と、
前記弁部材を前記閉弁状態とする閉弁方向に押し付ける押付力を発生させるスプリング(81)と、
前記可動コアを前記開弁方向に吸引する固定コア(60)と、
前記固定コアに吸引力を発生させる電磁気回路(21,23,51,51D,51H,61,70)と、
前記弁部材が前記閉弁方向に駆動されることによって互いに接近する面であって、前記可動コアに設けられたコア側対向面(521)と前記ハウジングに設けられたハウジング側対向面(211)との間に配置されるダンパ部(90)と、を備え、
前記ダンパ部は、スクイズ力を発生させるスクイズ面(911a,912a,...,91na、911b,912b,...,91nb)が互いに沿うように設けられた複数のスクイズ板(911,912,...,91n)と、複数の前記スクイズ板相互間に配置され、前記弁部材が前記開弁状態と前記閉弁状態との間を遷移した場合に前記スクイズ面間の距離である面間距離が変化するように弾性変形する弾性部材(921,922,...,92m)と、を有する、燃料噴射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料噴射装置であって、
前記ダンパ部は、前記閉弁状態にあるとき、前記面間距離が更に減少可能なように構成されている燃料噴射装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の燃料噴射装置であって、
前記コア側対向面の前記スクイズ板に対向する位置に、前記コア側対向面と前記スクイズ板とが接触している状態でも燃料流通可能な溝部分(56,57)が設けられている、燃料噴射装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記弁部材(40F,40G)は、
前記可動コアと当接することによって前記開弁方向に駆動される第1弁部材(401)と、
前記シート部と当接することで前記噴孔を閉じる第2弁部材(402)と、
前記第1弁部材と前記第2弁部材との間に配置される弁部材間スプリング(403)と、
前記第2弁部材と前記ハウジングとの間に配置されるハウジング間スプリング(404)と、を有し、
前記第1弁部材よりも前記第2弁部材の質量が小さく、前記弁部材間スプリングのばね定数よりも前記ハウジング間スプリングのばね定数が小さい、燃料噴射装置。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料噴射装置であって、
前記第1弁部材には、前記可動コアよりも前記第2弁部材側の側面に、前記ハウジングの側面と当接しながら摺動する摺動部(4011,4012)が設けられている、燃料噴射装置。
【請求項6】
請求項1から3のいずれか1項に記載の燃料噴射装置であって、
前記固定コアは、径方向内側に配置された内側固定コア(62)と、前記内側固定コアよりも径方向外側に配置された外側固定コア(61)と、有し、
前記可動コア(50H)は、前記内側固定コアに対応するように径方向内側に配置された内側可動コア(52)と、前記内側可動コアよりも外側且つ前記外側固定コア側に配置された外側上可動コア(511)と、前記内側可動コアよりも外側且つ前記外側上可動コアを挟んで前記外側固定コアとは反対側に配置された外側下可動コア(512)と、を有しており、
前記内側可動コアは、前記外側下可動コアと相対的な位置関係が変化しないように構成され、
前記外側上可動コアと前記外側固定コアとの間にコア間スプリング(85)が設けられ、
前記外側上可動コアと前記外側固定コアとの接触面積よりも、前記外側上可動コアと前記外側下可動コアとの接触面積が少なくなるように構成されている、燃料噴射装置。
【請求項7】
請求項6に記載の燃料噴射装置であって、前記外側上可動コアは、前記外側下可動コアと接触する凸部(5111)を有する燃料噴射装置。
【請求項8】
請求項7に記載の燃料噴射装置であって、前記凸部は、前記外側下可動コアの底面の中心に関して点対称である、燃料噴射装置。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の燃料噴射装置であって、前記内側可動コアと前記外側固定コアとの当接面が互いに平滑である、燃料噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料噴射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する燃料噴射装置は、燃料を噴射するための孔部である噴孔がハウジングに設けられ、燃料噴射装置内部において移動可能な弁部材が燃料噴射装置の長手方向へ移動することによって噴孔を開閉し、内燃機関へ燃料を供給するものである。
【0003】
燃料噴射装置の具体的な構成の一例としては、噴孔の開閉に磁力を用いるために、電磁気回路であるコイルと、燃料噴射装置に固定された磁性体である固定コアと、コイル並びに固定コアによって生じた磁力によって固定コアに吸引される磁性体である可動コアと、を設けたものが知られている(下記特許文献1参照)。この燃料噴射装置は、コイルへの通電が固定コアに磁力を発生させ、固定コアからの磁力が可動コアを吸引し、可動コアと接する弁部材が可動コアの移動に伴って動くことによって、噴孔の開閉を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関の燃料噴射装置には、燃料の好適な燃焼を実現するために、燃料の的確な噴射が求められる。的確な噴射は、燃料噴射装置の開弁動作時と閉弁動作時のそれぞれにおいて、弁部材が燃料噴射装置内の他の部材と接触し跳ね返ることによって妨げられる。弁部材が他の部材との接触によって跳ね返った場合、噴孔の開閉状態が不安定になり、燃料の噴射量のばらつきが生じるからである。
【0006】
開弁動作時の弁部材の跳ね返りを抑制するために、特許文献1の中では、可動コアが固定コアに接触した後の跳ね返りを抑制する発明が開示されている。可動コアの跳ね返り抑制のために、特許文献1では、可動コアまたは固定コアに溝部分を形成する。溝部分は開弁動作の際、可動コアと固定コアとの間の流体に、溝部分を設けない場合より大きいスクイズ力を発生させ、可動コアと弁部材を減速することで、可動コアの固定コアへの衝突による弁部材の跳ね返りを抑制する。
【0007】
一方、燃料噴射装置の閉弁動作時においても、スクイズ力は可動コアとハウジングとの接近によっても生じているため、特許文献1のように溝部分を設けることで、弁部材の跳ね返りを抑制することが考えられる。
【0008】
しかし、燃料流体が気体である場合は、気体燃料の粘性係数が液体燃料に比べて小さいため、スクイズ力も粘性係数に比例して小さくなる。このため、気体燃料を噴射する燃料噴射装置では、閉弁動作時において、可動コアとハウジングとに挟まれる燃料流体から生じるスクイズ力は、弁部材が弁座に接触するまでに弁部材の移動速度を減少するには不十分である。スクイズ力の不足により弁部材が十分に減速されないため、接触による衝撃が十分に低減せず、結果として弁部材の跳ね返りを適切に抑制できないという解決すべき課題がある。
【0009】
本開示は、気体燃料を噴射する燃料噴射装置において、閉弁時に弁部材の跳ね返りを適切に抑制する燃料噴射装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
燃料噴射装置の弁部材が閉弁動作の際に弁座へ与える衝撃を低減するために、燃料を内燃機関の燃焼室に噴射する噴孔が設けられたハウジングと、噴孔を開閉するように噴孔の周囲に設けられたシート部から離隔する開弁状態と、前記シート部に当接する閉弁状態との間を駆動される弁部材と、弁部材を開弁状態とする開弁方向に駆動する可動コアと、弁部材を閉弁状態とする閉弁方向に押し付ける押付力を発生させるスプリングと、可動コアを開弁方向に吸引する固定コアと、固定コアに吸引力を発生させる電磁気回路と、弁部材が閉弁方向に駆動されることによって互いに接近する、可動コアに設けられたコア側対向面とハウジングに設けられたハウジング側対向面との間に配置されるダンパ部と、を備え、ダンパ部は、スクイズ力を発生させるスクイズ面が互いに沿うように設けられた複数のスクイズ板と、複数のスクイズ板相互間に配置され、弁部材が開弁状態と閉弁状態との間を遷移した場合にスクイズ面間の距離である面間距離が変化するように弾性変形する弾性部材と、を有する、燃料噴射装置とする。
【0011】
弁部材が閉弁状態から開弁状態に遷移する場合や開弁状態から閉弁状態に遷移する場合に、面間距離が変化するようにスクイズ板及び弾性部材が配置されている。スクイズ板及び弾性部材を有するダンパ部は、弁部材が閉弁方向に駆動されることによって接近するコア側対向面とハウジング側対向面との間に配置されているので、弁部材の閉弁方向への駆動によって面間距離が減少する。面間距離の減少によって面間距離が減少することに抵抗する方向にスクイズ力が発生するので、弁部材の閉弁方向への駆動に抵抗するスクイズ力を発生させることができ、シート部に向かう弁部材を減速させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、気体燃料を噴射する燃料噴射装置において、閉弁時に弁部材の跳ね返りを適切に抑制する燃料噴射装置を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、燃料噴射装置の構造を示す断面図である。
【
図2】
図2は、ダンパ部の構成を示す分解図である。
【
図3】
図3は、スクイズ板によるスクイズ力の説明に用いる図である。
【
図4】
図4は、複数のスクイズ板によるスクイズ力の説明に用いる図である。
【
図6】
図6は、内側可動コアを噴孔側から見た図である。
【
図7】
図7は、変形例としての内側可動コアを噴孔側から見た図である。
【
図8】
図8は、第2実施形態における、ダンパ部付近の断面図である。
【
図9】
図9は、第3実施形態における、ダンパ部付近の断面図である。
【
図10】
図10は、第4実施形態における、ダンパ部付近の断面図である。
【
図11】
図11は、第5実施形態における、ダンパ部付近の断面図である。
【
図12】
図12は、ダンパ部の層数別の、スクイズ力とリフト量との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13(A)は、閉弁時のリフト量をダンパ部の有無で比較するグラフである。
図13(B)は、閉弁時の閉弁速度をダンパ部の有無で比較するグラフである。
【
図14】
図14は、第6実施形態における、燃料噴射装置の構成を示す断面図である。
【
図15】
図15は、摺動部に3面カットを施した燃料噴射装置の断面図である。
【
図16】
図16は、第7実施形態における、燃料噴射装置の構成を示す断面図である。
【
図17】
図17は、第7実施形態において、開弁時の燃料噴射装置の動作を説明する断面図である。
【
図18】
図18は、第7実施形態において、閉弁時の燃料噴射装置の動作を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0015】
第1実施形態に係る燃料噴射装置1の構成について、
図1を参照しながら説明する。燃料噴射装置1は、ECU(不図示)からの制御信号に応じて内燃機関の燃焼室に燃料を噴射する装置である。燃料噴射装置1は、ハウジング20と、弁部材40と、可動コア50と、固定コア60と、コイル70と、スプリング81,82と、ダンパ部90と、を備えている。
【0016】
ハウジング20は、第1筒部材21、第2筒部材22、第3筒部材23、及び噴射ノズル24を有する。ハウジング20の燃料が噴射される噴射端部側に噴射ノズル24が配置されている。ハウジング20の燃料が供給される供給端部側に向かって、噴射ノズル24、第1筒部材21、第2筒部材22、第3筒部材23が順に配置されている。
【0017】
噴射ノズル24には、噴孔241、シート部242、及びノズル摺動部243が設けられている。噴孔241は、燃料を内燃機関の燃焼室内に噴射するために設けられている孔である。
【0018】
シート部242は、弁部材40が当接及び離隔する部分である。シート部242に弁部材40が当接している場合、噴孔241が閉塞される。シート部242から弁部材40が離隔している場合、噴孔241の閉塞状態が解除されて燃料が噴射される。ノズル摺動部243は、弁部材40と当接する部分であって、弁部材40の対応部分と摺動するように構成されている。
【0019】
噴射ノズル24は、マルテンサイト系ステンレスといった金属材料により形成され、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。シート部242及びノズル摺動部243には、窒化処理が施されている。
【0020】
第1筒部材21は、中空部が設けられた筒状の部材である。第1筒部材21の噴射端部側には、噴射ノズル24が取り付けられている。第1筒部材21は、供給端部側の外径が噴射端部側の外径に比べて大きくなるように形成されている。第1筒部材21の中空部には、噴射端部側から供給端部側にかけて、弁部材40の一部が収容されている。第1筒部材21は、フェライト系ステンレスといった磁性材料によって形成されている。
【0021】
第2筒部材22は、中空部が設けられた筒状の部材である。第2筒部材22は、第1筒部材21の供給端部側に繋がれている。第2筒部材22の外径及び内径は、第1筒部材21の供給端部側における外径及び内径と略同一になっている。第2筒部材22の中空部には、噴射端部側から供給端部側にかけて、弁部材40の一部が収容されている。第2筒部材22は、オーステナイト系ステンレスといった非磁性材料によって形成されている。
【0022】
第3筒部材23は、中空部が設けられた筒状の部材である。第3筒部材23は、第2筒部材22の供給端部側に繋がれている。第3筒部材23の外径及び内径は、第2筒部材22の供給端部側における外径及び内径と略同一になっている。第3筒部材23の中空部には、噴射端部側から供給端部側にかけて、弁部材40の一部が収容されている。第3筒部材23は、フェライト系ステンレスといった磁性材料によって形成されている。
【0023】
第3筒部材23の供給端部には、略円筒状の燃料導入パイプ12が圧入によって取り付けられている。燃料導入パイプ12の供給端部には、燃料をハウジング20内に導入するための導入口14が形成されている。燃料導入パイプ12の内側には、導入口14から流入した燃料中の異物を捕集するためのフィルタ13が設けられている。
【0024】
弁部材40は、ニードル弁を構成する部材である。弁部材40は、シール部41、弁摺動部42、及び大径部43を有している。シール部41は、噴射ノズル24に設けられたシート部242と当接及び離隔する部分である。シール部41がシート部242に当接している場合、噴孔241が閉塞される。シール部41がシート部242から離隔している場合、噴孔241の閉塞状態が解除されて燃料が噴射される。
【0025】
噴射ノズル24へ向かう方向に弁部材40が移動すると、弁部材40は噴孔241を閉じるように移動することから、弁部材40から噴射ノズル24へと向かう方向を閉弁方向とも称する。また、閉弁方向とは反対の方向を開弁方向とも称する。
【0026】
弁摺動部42は、噴射ノズル24に設けられたノズル摺動部243と当接する部分である。弁摺動部42は、ノズル摺動部243と当接しながら摺動するように構成されている。弁摺動部42の一部が面取りされており、ノズル摺動部243との間において燃料通路を形成している。
【0027】
大径部43は、弁部材40の供給端部側に設けられている部分であって、弁部材40の他の部分よりも外径が大きくなるように構成されている。大径部43は、スプリング81と当接し、閉弁方向へ向かう外力を受ける部分である。大径部43は、固定コア60の内部に入り込むように構成されている。
【0028】
弁部材40には、燃料通路44及び孔45が設けられている。燃料通路44は、弁部材40の内部を通る中空の通路として形成されており、供給端部側から噴射端部側に向けて延びている。燃料通路44は、供給端部側から弁部材40の中程まで伸びるように形成されている。
【0029】
燃料通路44の噴射端部側の端部には、孔45が形成されている。供給端部側から燃料通路44に導入された燃料は、孔45を経由して第1筒部材21と弁部材40との間の空間に流れ込む。尚、
図1では燃料通路44及び孔45が確認できるように、弁部材40の一部を切り欠いた状態を表示している。
【0030】
弁部材40は、マルテンサイト系ステンレスといった金属材料によって形成され、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。更に、シール部41、弁摺動部42、及び大径部43には、窒化処理が施されている。弁摺動部42及び大径部43には更に、ダイヤモンドライクカーボンによるコーティングが施されている。
【0031】
第1筒部材21の供給端部側から第2筒部材22及び第3筒部材23にかけての中空部には、弁部材40を囲繞するように、ダンパ部90、可動コア50、及び固定コア60が配置されている。
【0032】
弁部材40とダンパ部90との間の空間であって、第1筒部材21に設けられた段部と可動コア50との間にはスプリング82が配置されている。
【0033】
可動コア50は、弁部材40を囲繞するように略円筒状に形成されている。可動コア50は、外側可動コア51及び内側可動コア52を有する。
【0034】
内側可動コア52は、弁部材40の側面に沿うように、弁部材40の軸方向に連続して一体的に設けられている。内側可動コア52の噴射端部側は、外側可動コア51の外周部と同等位置まで到達するように拡径されている。
【0035】
内側可動コア52の中央に設けられた穴部に、弁部材40が挿通されている。内側可動コア52の供給端部側は、弁部材40の大径部43と当接するように配置されている。内側可動コア52が固定コア60側に動くと、大径部43もそれに伴って動くので、弁部材40が開弁方向に駆動される。
【0036】
内側可動コア52は、マルテンサイト系ステンレスといった金属材料によって形成され、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。更に、内側可動コア52は、弁部材40の大径部43と当接する部位、及び固定コア60と衝突する部位に窒化処理が施されている。この処理に対応するように、大径部43において内側可動コア52に当接する部位にも窒化処理が施されている。
【0037】
内側可動コア52の中央に設けられた穴部は、弁部材40に沿って摺動する部分でもあるので、この部位にも窒化処理が施されている。この処理に対応するように、弁部材40が内側可動コア52と接しながら摺動する部分にも窒化処理とダイヤモンドライクカーボンによるコーティングが施されている。
【0038】
外側可動コア51は、内側可動コア52の小径部を囲繞するように略円筒状に形成されている。外側可動コア51は、内側可動コア52の小径部側面に嵌め合わせて設けられている。外側可動コア51及び内側可動コア52は、可動コア50として一体的に動くように構成されている。外側可動コア51は、フェライト系ステンレスといった磁性材料によって形成されている。
【0039】
可動コア50には、弁部材40の長手方向に沿って、外側可動コア51及び内側可動コア52を貫通する連通孔53が複数本設けられている。連通孔53を通じて、可動コア50の内部を燃料が流通可能となる。
【0040】
固定コア60は、弁部材40を囲繞するように略円筒状に形成されている。固定コア60は、外側固定コア61及び内側固定コア62を有する。外側固定コア61は、第3筒部材23と溶接され、ハウジング20の内側に固定されている。内側固定コア62は、外側固定コア61に対して噴射端部側から圧入等により打ち込まれ、外側固定コア61と一体化されている。内側固定コア62の内側面の噴射端部側における一部の内径は、弁部材40の大径部43の外径よりも大きくなっており、その部分において弁部材40が摺動可能ように構成されている。
【0041】
外側固定コア61は、フェライト系ステンレスといった磁性材料によって形成されている。内側固定コア62は、マルテンサイト系ステンレスといった金属材料によって形成され、所定の硬度を有するよう焼入れ処理が施されている。内側固定コア62は、内側可動コア52と衝突する部位、及び弁部材40が接しながら摺動する部位に窒化処理が施されている。
【0042】
コイル70がボビン71に巻き付けられ、電磁気回路の一部を形成している。コイル70を覆うようにして、ホルダ17が設けられている。第3筒部材23とホルダ17との間にはカバー18が設けている。ホルダ17とカバー18は、フェライト系ステンレスといった磁性材料によって形成され、電磁気回路の一部をなす。
【0043】
樹脂材料によって、燃料導入パイプ12、第3筒部材23、ボビン71、コイル70及びカバー18の外周は覆われている。ホルダ17の端部近傍に、コネクタ15が設けられている。コネクタ15にはコイル70へ電力を供給するための端子16がインサート成形されている。
【0044】
コイル70に通電され、電力が供給されると磁力が発生する。コイル70に磁力が発生すると、外側固定コア61、外側可動コア51、第1筒部材21、及び第3筒部材23に電磁気回路が形成される。この電磁気回路の形成によって、外側固定コア61と、外側可動コア51との間に磁気吸引力が発生し、外側可動コア51は外側固定コア61に吸引される。外側可動コア51を含む可動コア50は一体化され、外側固定コア61を含む固定コア60も一体化されている。従って、可動コア50が固定コア60に吸引される。可動コア50が磁気吸引力によって固定コア60側に吸引されると、内側可動コア52の供給端部側が内側固定コア62に衝突する。この衝突によって可動コア50は、更に開弁する方向への移動が規制される、内側固定コア62は、可動コア50のストッパとして機能する。
【0045】
内側可動コア52の供給端部側は、弁部材40の大径部43に当接する。内側可動コア52が外側可動コア51と一体的に固定コア60に吸引されると、弁部材40も固定コア60側に移動する。弁部材40が固定コア60側に移動すると、シール部41がシート部242から離れ、噴孔241が開放される。
【0046】
スプリング81は、一端が弁部材40の大径部43に当接し、他端が固定コア60の内側に圧入により設置されたアジャスティングパイプ11の一端に当接している。スプリング81は、弁部材40に、閉弁方向へ向かう力を付勢力として加える。
【0047】
スプリング82は、一端が内側可動コア52の閉弁方向側の端面に当接し、他端は第1筒部材21に当接している。スプリング82は、可動コア50に、開弁方向へ向かう力を付勢力として加える。
【0048】
本実施形態では、スプリング81の付勢力は、スプリング82の付勢力よりも大きくなるように設定されている。コイル70に通電されていない状態では、スプリング81の付勢力が優勢となり、弁部材40が閉弁方向へ向かう力を受ける。弁部材40が閉弁方向に向かうことで、シール部41がシート部242に当接し、噴孔241が閉じられる。
【0049】
導入口14から導入された燃料は、フィルタ13を通って、燃料導入パイプ12、アジャスティングパイプ11を通って燃料通路44に至る。燃料通路44に導入された燃料は、孔45から第1筒部材21と弁部材40の間に流れ込み、噴孔241に導かれる。尚、燃料噴射装置1の作動時においては、可動コア50及びダンパ部90の周囲は燃料で満たされた状態となる。
【0050】
ダンパ部90は、内側可動コア52に設けられたコア側対向面521と、第1筒部材21に設けられたハウジング側対向面211との間に配置されている。
【0051】
続いて、
図2、
図3及び
図4を参照しながら、ダンパ部90に関して説明する。
図2に示されるように、ダンパ部90は、複数のスクイズ板911,912,...,91nと、複数のウェーブワッシャ921,922,...,92mと、を有している。複数のスクイズ板911,912,...,91nと、複数のウェーブワッシャ921,922,...,92mとは、交互に重ねられている。
【0052】
スクイズ板911,912,...,91nには、それぞれ、スクイズ力を発生させるための一対のスクイズ面911a,912a,...,91na及びスクイズ面911b,912b,...,91nbが設けられている。スクイズ板911,912,...,91nは、隣接するスクイズ板のスクイズ面911a,912a,...,91naとスクイズ面911b,912b,...,91nbとが対向するように配置されている。
【0053】
スクイズ板911,912,...,91nには、それぞれ、弁部材40及びスプリング82が貫通できるように、貫通孔911c,912c,...,91ncが設けられている。
【0054】
スクイズ板911,912,...,91nは、それぞれ、厚さ0.1mmから0.2mm程度の薄板材によって構成されている。
【0055】
ウェーブワッシャ921,922,...,92mは、それぞれ、スクイズ面911b,912b,...,91n-bに当接する頂部921a,922a,...,92maと、スクイズ面911a,912a,...,91naに当接する頂部921b,922b,...,92mbとが設けられている。頂部921a,922a,...,92maと、頂部921b,922b,...,92mbとはウェーブワッシャ921,922,...,92mの円周周りにおいて交互に形成されている。ウェーブワッシャ921,922,...,92mは、頂部921a,922a,...,92maと、頂部921b,922b,...,92mbとがスクイズ板911,912,...,91nの間の距離を確保することが可能なように捻じれた形状をなしており、積み重ね方向において圧縮力が働くことでスクイズ板911,912,...,91nの間の距離が縮小するように弾性変形する。
【0056】
ウェーブワッシャ921,922,...,92mには、それぞれ、弁部材40及びスプリング82が貫通できるように、貫通孔921c,922c,...,92mcが設けられている。
【0057】
ウェーブワッシャ921,922,...,92mは、それぞれ厚さ0.04mmから0.06mm程度の薄板材を捩じり加工することで構成されている。
【0058】
スクイズ板の枚数を示すnは、2以上の整数であって、好ましくは5から15である。ウェーブワッシャの枚数を示すmは、2以上の整数であって、好ましくは5から15である。尚、ダンパ部90の両端にスクイズ板が配置されることから、ウェーブワッシャの枚数はスクイズ板の枚数よりも1枚少なくなり、m=n-1となる。
【0059】
図4を参照しながら、ダンパ部90が発生するスクイズ力について説明する。
図4では平面Pに対向する1枚のスクイズ板911を示している。スクイズ板911と平面Pとの面間距離はhであり、スクイズ板911は速度Vで平面Pに接近しているとする。μは粘性係数、r0はスクイズ板911の外周半径、r1は貫通孔911cの半径とすると、スクイズ力Fは、式(f1)で求められる。
【数1】
【0060】
スクイズ板911が平面Pへと移動した場合、両者に挟まれる流体が圧縮されることへの抵抗としてスクイズ力Fが発生する。スクイズ力Fはスクイズ板911の移動方向とは反対方向に加わる力であるため、スクイズ板911の速度Vは減少する。スクイズ力Fの大きさは、流体の粘性係数μに比例し、スクイズ板911の速度Vに比例し、面間距離hの3乗に反比例する。
【0061】
一般に気体の粘性係数は液体の粘性係数に比べて非常に小さいため、
図3に示されるような構成では気体燃料に対しては液体燃料に対するような大きさのスクイズ力を得ることができない。
【0062】
そこで、スクイズ板を複数枚重ねることで、圧縮される流体層を複数層形成し、大きなスクイズ力を発生させる。よ本実施形態のダンパ部90は、このような技術思想に基づいてなされたものである。
図4を参照しながら、ダンパ部90が発生させるスクイズ力について説明する。
【0063】
スクイズ板911,912,...,91nはn枚重ねられているので、各スクイズ板の板厚が十分薄い場合、スクイズ板911と平面Pとの間の面間距離をhとすると、スクイズ板91nと平面Pの面間距離はh/nとなる。スクイズ板911,912,...,91nはn枚重ねられているので、スクイズ板911が平面Pに接近する速度をVとすると、隣接するスクイズ板912との相対速度は1/n*Vとなり、スクイズ板912が平面Pに接近する速度は(n-1)/n*Vとなる。スクイズ板91nが平面Pに接近する速度は1/n*Vとなる。
【0064】
多層スクイズダンパとしてダンパ部90が発生させるスクイズ力Fmは、単層のスクイズ力Fを求める式(1)においてVをV/nとし、hをh/nとすることで求められる。Fm=n2*Fとなる。例えばn=10とすれば、ダンパ部90が発生するスクイズ力は100倍に増加するため、気体に対しても、単層スクイズダンパが液体に対して発生するのと同等のスクイズ力を得ることができる。
【0065】
図4を参照しながらした説明では、多層化によってスクイズ力を増加させることを説明するために、スクイズ板のみをn枚重ねた構成としている。本実施形態のようにスクイズ板911,912,...,91nとウェーブワッシャ921,922,...,92mを交互に重ねた場合でも、上記のように流体を圧縮するように運動するため、同様にスクイズ力を増加させることができる。
【0066】
図5を参照しながら、ダンパ部90周辺について説明を加える。ハウジング20を構成する第1筒部材21の内周面と、外側可動コア51の外周面、内側可動コア52の拡径部の外周面、及びダンパ部90の外周部との間には、燃料が流通可能なように隙間が確保されている。ダンパ部90の内周部とスプリング82の外周部との間には、両者の接触を防ぐための隙間が確保されている。
【0067】
ダンパ部90の厚みは、閉弁時にシール部41がシート部242を塞いだ状態で、可動コア50が5から15μmといった微小距離を移動可能な寸法に設定される。例えば、可動コア50が10μm移動可能な場合に、弁部材40のリフト量を200μm、ダンパ部90の層数を10層とする。この条件の下では、スクイズ板911,912,...,91n同士の間隔(正確には、ウェーブワッシャ921,922,...,92mと隣接するスクイズ板911,912,...,91nとの間隔)は、弁部材40のフルリフトでの20μmから閉弁状態での1μmまで変化する。
【0068】
ダンパ部90の厚み寸法は、開弁時に弁部材40が移動した場合に確実にシール部41がシート部242から離れることができるように設定される。併せて、ダンパ部90の厚み寸法は、閉弁時においてはスクイズ板911,912,...,91n同士の間隔(正確には、ウェーブワッシャ921,922,...,92mと隣接するスクイズ板911,912,...,91nとの間隔)ができるだけ小さくなるように設定することで、開閉弁に支障をきたさないようにしつつ、大きなスクイズ力を発生することを両立させることができる。
【0069】
上記説明したように、本実施形態における燃料噴射装置1は、燃料を内燃機関の燃焼室に噴射する噴孔241が設けられたハウジング20と、噴孔241を開閉するように噴孔241の周囲に設けられたシート部242から離隔する開弁状態と、シート部242に当接する閉弁状態との間で駆動される弁部材40と、弁部材40を開弁状態とする開弁方向に駆動する可動コア50と、弁部材40を閉弁状態とする閉弁方向に押し付ける押付力を発生させるスプリング81と、可動コア50を開弁方向に吸引する固定コア60と、固定コア60に吸引力を発生させる電磁気回路を構成するコイル70、外側固定コア61、外側可動コア51、第1筒部材21、及び第3筒部材23と、弁部材40が閉弁方向に駆動されることによって互いに接近する面であって、可動コア50に設けられたコア側対向面521とハウジング20に設けられたハウジング側対向面211との間に配置されるダンパ部90と、を備える。
【0070】
ダンパ部90は、スクイズ力を発生させるスクイズ面911a,912a,...,91na及び911b,912b,...,91nbが互いに沿うように設けられた複数のスクイズ板911,912,...,91nと、複数のスクイズ板911,912,...,91n相互間に配置され、弁部材40が開弁状態と閉弁状態との間を遷移した場合にスクイズ面間の距離である面間距離が変化するように弾性変形する弾性部材としてのウェーブワッシャ921,922,...,92mと、を有する。
【0071】
本実施形態では、電磁気回路を構成するコイル70に通電されると、可動コア50は固定コア60に吸引される。弁部材40は、可動コア50とともに固定コア60側へ移動し、シール部41がシート部242から離座する。これにより、噴孔241は開放された開弁状態となる。燃料導入パイプ12の導入口14から流入した燃料は、燃料通路44を流通し、噴孔241から噴射される。コイル70への通電がオフされると弁部材40は閉弁動作を開始し、閉弁動作終了間際にダンパ部90の作用でその閉弁速度を減少した後、弁部材40のシール部41がシート部242に着座し、閉弁する。閉弁動作によって燃料噴射が遮断される際に、弁部材40のシート部242への衝突エネルギーはダンパ部90の働きで小さく抑えられ、シール部41及びシート部242の耐久性が向上する。
【0072】
弁部材40が閉弁状態から開弁状態に遷移する場合や開弁状態から閉弁状態に遷移する場合に、面間距離が変化するようにスクイズ板911,912,...,91n及び弾性部材としてのウェーブワッシャ921,922,...,92mが配置されている。スクイズ板911,912,...,91n及び弾性部材としてのウェーブワッシャ921,922,...,92mを有するダンパ部90は、弁部材40が閉弁方向に駆動されることによって接近するコア側対向面521とハウジング側対向面211との間に配置されているので、弁部材40の閉弁方向への駆動によって面間距離が減少する。面間距離の減少によって面間距離が減少することに抵抗する方向にスクイズ力が発生するので、弁部材40の閉弁方向への駆動に抵抗するスクイズ力を発生させることができ、シート部242に向かう弁部材40を減速させることができる。
【0073】
ダンパ部90は、閉弁状態にあるとき、面間距離が更に減少可能なように構成されていることも好ましい。弁部材40が開弁状態から閉弁状態に遷移する場合、ダンパ部90は、面間距離が減少してスクイズ力を発生させる。閉弁状態にあるときに、面間距離の減少が不可能な設定になっていると、弁部材40が閉弁状態になるまでの全域に渡ってスクイズ力を発生させることができなくなる場合も想定される。そこで、閉弁状態にあるときに面間距離を更に減少可能なように構成することで、弁部材40が閉弁状態になる直前に面間距離がゼロになってスクイズ力が発生できないようになることを回避することができ、シート部242に向かう弁部材40を確実に減速させることができる。
【0074】
図5に示されるように、本実施形態では連通孔53に繋がるように、内側切欠き54、外側切欠き55が設けられ、燃料の流通が確保されている。連通孔53、内側切欠き54、及び外側切欠き55を繋ぐように円周溝56が設けられている。
【0075】
図6を参照しながら、連通孔53、内側切欠き54、外側切欠き55、及び円周溝56の配置関係について説明する。
図6は、内側可動コア52を噴孔241側から見た平面図である。連通孔53は、外側可動コア51を貫通できる位置に4つ設けられている。4つの連通孔53は、内側可動コア52の中心から見て90°ごとに設けられている。
【0076】
内側切欠き54は、4つの連通孔53から内側可動コア52の中心に向かうように設けられている。外側切欠き55は、各連通孔53を挟んで内側切欠き54とは反対側の外周面方向に延びるように設けられている。円周溝56は、各連通孔53を結ぶように、内側可動コア52の内周面と同心円状に設けられている。
【0077】
内側可動コアに設けられる溝の態様は、
図6に例示するものに限られない。
図7に示されるように、放射状に設けられた複数の直線溝57を設けた内側可動コア52Aとしてもよい。直線溝57は、内側可動コア52Aを噴孔241側から見た場合の半径方向に沿って設けられている。
【0078】
これらの円周溝56や直線溝57が形成されていない場合、ダンパ部90において最も供給端部側に位置するスクイズ板911と、内側可動コア52における拡径部の噴射端部側面であるコア側対向面521との間にリンキング力が作用する。開弁時にはこの両者の隙間が小さい(例えば1μm)ため、両者の間には非常に大きなリンキング力が作用し、可動コア50の開弁動作が阻害され開弁応答性が悪化する。一方、円周溝56や直線溝57といった溝が形成されていると、最も供給端部側のスクイズ板911と可動コア50における拡径部の噴射端部側面との間に溝を通じて容易に燃料が供給される。この燃料の供給により、開弁時にリンキング力が発生しにくく、可動コア50は応答性良く開弁動作を開始することができる。
【0079】
開弁時にはダンパ部90と可動コア50とは一旦離れることになるが、ウェーブワッシャ921,922,...,92mの作用でスクイズ板911,912,...,91n同士の間隔は開いていき、再度ダンパ部90と可動コアとが接触する。ただし、噴射期間が短い場合には、ダンパ部90と可動コアとが接触する前に閉弁動作が開始する場合もありうる。この場合にも、大きなスクイズ力が発生するのは、スクイズ板911,912,...,91n同士の間隔が小さい(代表的に5μm以下)ときに限られるため、閉弁開始時にスクイズ板911,912,...,91n同士の間隔が大きければ(代表的には6-20μm)スクイズ力は小さく、閉弁挙動に影響を与えない。
【0080】
上記したように、本実施形態では、コア側対向面521のスクイズ板911に対向する位置に、コア側対向面521とスクイズ板911とが接触している状態でも燃料流通可能な溝部分としての円周溝56や直線溝57が設けられている。
【0081】
閉弁状態において、内側可動コア52とスクイズ板911とは接触している。開弁動作が始まると、内側可動コア52は開弁方向へと移動する。円周溝56や直線溝57には燃料が流通するため、リンキング力を低下させることが可能となり、開弁応答性の悪化を抑制することができる。
【0082】
第2実施形態における燃料噴射装置について説明する。第2実施形態における燃料噴射装置1Bの断面図を
図8に示す。
【0083】
燃料噴射装置1Bでは、第4筒部材25がダンパ部90の径方向外側の外側面の周囲に設けられている。第4筒部材25の供給端部側端面と当接するように第5筒部材26が設けられている。また、第4筒部材25の噴射端部側端面は第1筒部材21と当接している。
【0084】
内側可動コア52Bは、連通孔53、内周切欠き54および円周溝56を有している。内側可動コア52に設けられている外側切欠き55は、内側可動コア52Bには設けられていない。内側可動コア52Bは、第4筒部材25と摺動可能な程度に密着して設置されている。
【0085】
第4筒部材25はマルテンサイト系ステンレスなどの金属により形成され、所定の硬度を有するように焼き入れ処理がなされ、内面には窒化処理が施されている。内側可動コア52Bが第4筒部材25と接触する部分には窒化処理およびダイヤモンドライクカーボンによるコーティングが施されている。
【0086】
燃料噴射装置1Bの特徴は、ダンパ部90の外側面から流出する燃料の流出量を制限することにある。燃料噴射装置1Bの閉弁動作時において、ダンパ部90は、内部の燃料がダンパ部90の外部に押し出されることへの抵抗としてスクイズ力を発生する。本実施形態のように、ダンパ部90の外側面からの燃料の流出が第4筒部材25によって制限されるようにすると、閉弁動作時にダンパ部90から燃料が流れ出しにくくなる。圧縮に対する抵抗が増加するため、第2実施形態におけるダンパ部90は第1実施形態の場合と比較して大きなスクイズ力を発生させることができる。スクイズ力Fは、式(f2)で求められる。式(f1)と式(f2)とを比較すると分かるように、式(f2)のスクイズ力Fは式(f1)のスクイズ力Fにくらべて約5倍の大きさになっている。
【数2】
【0087】
ダンパ部90が発生するスクイズ力を増加させることで、弁部材40をより大きい力で減速することが可能となり、弁部材40が閉弁動作時に発生する衝撃をより小さくすることが可能となる。
【0088】
第3実施形態における燃料噴射装置について説明する。第3実施形態における燃料噴射装置1Cの断面図を
図9に示す。
【0089】
燃料噴射装置1Cでは、第1実施形態の内側可動コア52に替えて内側可動コア52Cが設けられている。内側可動コア52Cは、内側可動コア52と比較して、噴射端部側の一部が弁部材40に沿って閉弁方向に伸びるように形成されている。この延伸された部分は、延伸部522を成している。内側可動コア52Cには、連通孔53、外周切欠き55、円周溝56、延伸部522が設けられている。
【0090】
第1筒部材21Cの内側に、開弁方向側端面がダンパ部90と当接するように第6筒部材27が圧入等により設置されている。延伸部522の外側面はダンパ部90の径方向内側の内側面と摺動可能な程度に密着している。また、内側固定コア62Cの噴射端部側に切欠き621を設けており、可動コア50の供給端部側の空間からの燃料の出入りを確保している。
【0091】
第6筒部材27はマルテンサイト系ステンレスなどの金属により形成され、所定の硬度を有するように焼き入れ処理がなされ、内面には窒化処理が施されている。内側可動コア52Cがダンパ部90の内側面と接触する部分には窒化処理およびダイヤモンドライクカーボンによるコーティングが施されている。
【0092】
燃料噴射装置1Cの特徴は、ダンパ部90の内側面から流出する燃料の流出量を制限することにある。燃料噴射装置1Cの閉弁動作時において、ダンパ部90は、内部の燃料がダンパ部90の外部に押し出されることへの抵抗としてスクイズ力を発生する。本実施形態のように、ダンパ部90のうち側面からの燃料の流出が延伸部522によって制限されるようにすると、閉弁動作時にダンパ部90から燃料が流れ出しにくくなる。圧縮に対する抵抗が増加するため、第3実施形態におけるダンパ部90は第1実施形態の場合と比較して大きなスクイズ力を発生させることができる。スクイズ力Fは、式(f3)で求められる。式(f1)と式(f3)とを比較すると分かるように、式(f3)のスクイズ力Fは式(f1)のスクイズ力Fにくらべて約3倍の大きさになっている。
【数3】
【0093】
ダンパ部90の内側面から流出する燃料の流出量を制限することで、発生するスクイズ力を増加させ、弁部材40をより大きい力で減速することが可能となり、弁部材40が閉弁動作時に発生する衝撃をより小さくすることが可能となる。
【0094】
第4実施形態における燃料噴射装置について説明する。第4実施形態における燃料噴射装置1Dの断面図を
図10に示す。燃料噴射装置1Dは可動コア内部にダンパ効果を生じさせるオリフィスを設けることで、弁部材の跳ね返りを抑制するものである。
【0095】
燃料噴射装置1Dでは、第2実施形態における燃料噴射装置1Bにおいて、外側可動コア51および内側可動コア52Bに設けられる連通孔53の本数を減らしたものである。外側可動コア51D及び内側可動コア52Dには、連通孔53Dが形成されており、連通孔53Dにはオリフィス531が設けられている。連通孔の本数の減少に伴って、内周切欠き54の個数も減少させている。
【0096】
連通孔53Dを設けた場合、外側可動コア51Dと固定コア60が作る空間をダンパ室として機能させることができ、ダンパ室からの燃料の出入りがオリフィス531で調整されるオリフィスダンパが形成される。オリフィスダンパによって、外側可動コア51Dは、連通孔53Dおよびオリフィス531を通過する燃料から、外側可動コア51Dの移動方向と反対の方向へと力を受ける。
【0097】
閉弁動作の場合は、外側可動コア51Dは閉弁方向へと移動し、オリフィスダンパから開弁方向へと力を受けることで減速する。外側可動コア51Dを減速させると、内側可動コア52Dと弁部材40を減速させることが可能となり、弁部材が閉弁動作時に発生する衝撃をより小さくすることが可能となる。
【0098】
第5実施形態における燃料噴射装置について説明する。第5実施形態における燃料噴射装置1Eの断面図を
図11に示す。燃料噴射装置1Eでは、第3実施形態における燃料噴射装置1Cにおいて、外側可動コア51および内側可動コア52Cに設けられる連通孔53の本数を減らしたものである。
【0099】
外側可動コア51D及び内側可動コア52Eには、連通孔53Dが形成されており、連通孔53Dにはオリフィス531が設けられている。このとき、連通孔の本数の減少に伴って、内周切欠き54、外周切欠き55の個数も減少している。
【0100】
第5実施形態においても、第4実施形態と同様にオリフィスダンパを形成することができ、弁部材40を減速させ、閉弁動作時に発生する衝撃をより低減することが可能となる。閉弁終了間際に作用するダンパ部90の働きと相まって、シール部41のシート部242への衝突エネルギーは抑制される。
【0101】
ここまで、ダンパ部90を備える燃料噴射装置の実施形態について説明を行ってきた。ここで、ダンパ部を備える燃料噴射装置の効果を説明するためのグラフを
図12と
図13に示す。
【0102】
図12は、ダンパ部90の層数ごとの、弁部材40のリフト量と、ダンパ部90が発生するスクイズ力の関係を示すグラフである。リフト量は噴孔の開閉状態に対応している。リフト量がゼロになった場合は、弁部材40が閉弁方向への移動を終了して閉弁状態となったことを意味する。弁部材40のリフト量が小さくなるにつれ、発生するスクイズ力が大きく増加していることおよびダンパ部90の層数が多いほど発生するスクイズ力は大きくなることが示されている。
【0103】
図13はダンパ部90を有する燃料噴射装置とダンパ部90を有しない燃料噴射装置について、弁部材40のリフト量と弁部材40の閉弁速度について比較を行ったものである。なお、この比較で用いたダンパ部90の層数は10層である。閉弁速度は弁部材が閉弁方向へ向かって移動する速度である。
【0104】
図13は横軸として経過時間を、縦軸として
図13(A)では弁部材のリフト量を、
図13(B)では弁部材の閉弁速度をとったものである。
図13(A)のA、
図13(B)のDで示される実線はダンパ部90を有する燃料噴射装置の結果を示し、
図13(A)のB、
図13(B)のCで示される破線はダンパ部90を有しない燃料噴射装置の結果を示している。
【0105】
図13(A)にてリフト量がゼロに近づく閉弁間際の時間における閉弁速度を
図13(B)で比較すると、
図13(B)には、ダンパ部90を有する燃料噴射装置はダンパ部90を有しない燃料噴射装置と比較して、閉弁間際の閉弁速度が低減することが示されている。
【0106】
第6実施形態における燃料噴射装置について説明する。
図14に、燃料噴射装置1Fの断面図を示す。燃料噴射装置1Fでは、弁部材40Fが第1弁部材401と第1弁部材401よりも質量が小さくなるような第2弁部材402から構成されている。第1弁部材401の第2弁部材402側の側面には第1筒部材21と当接しながら摺動する摺動部4011が設けられている。
【0107】
第1弁部材401は開弁方向側の端部に大径部43Fを有している。第1弁部材401と第2弁部材402には中空部が設けられ、それぞれの中空部によって燃料通路44Fを形成している。また、第2弁部材402の外側面から燃料通路44Fの方向へ向かう孔45Fが設けられる。
【0108】
また、第1弁部材401と第2弁部材402の間には弁部材間スプリング403が配置され、第2筒部材22と第1筒部材21の間にはハウジング間スプリング404が配置されている。弁部材間スプリング403のバネ定数よりも、ハウジング間スプリング404のバネ定数は小さくなるようにしている
【0109】
続いて、燃料噴射装置1Fの動作を述べる。第6実施形態においては、第2弁部材402が噴孔241のシート部242から離隔する状態を開弁状態とし、シート部242と当接する状態を閉弁状態とする。第1弁部材401及び第2弁部材402の状態をまとめて表すために、第1弁部材401及び第2弁部材402が噴孔241に対して最も近い位置にある状態を初期状態とする。初期状態において、第2弁部材402は閉弁状態にある。
【0110】
このように初期状態をおいた理由は、燃料噴射装置1Fでは、第1弁部材401と第2弁部材402とでは移動の開始及び終了のタイミングが異なるからである。移動の詳細については後述する。
【0111】
第2弁部材402が、開弁方向に駆動され閉弁状態から開弁状態へと遷移し、開弁方向への移動を終えるまでの動作を開弁動作とし、閉弁方向に駆動され開弁状態から閉弁状態へと遷移し、閉弁方向への移動を終えるまでの動作を閉弁動作とする。
【0112】
初期状態から、第2弁部材402が、開弁動作によって閉弁状態から開弁状態へと遷移し、閉弁動作によって開弁状態から閉弁状態へと遷移し、再び初期状態に至るまでの燃料噴射装置1Fの一連の動作を説明する。
【0113】
初期状態においては、第1弁部材401は、スプリング81によって閉弁方向へと押し付けられており、弁部材間スプリング403を閉弁方向へと押し付けている。第2弁部材402は、弁部材間スプリング403から閉弁方向へ、ハウジング間スプリング404から開弁方向へとバネ力を受けている。
【0114】
バネ定数は、弁部材間スプリング403のほうがハウジング間スプリング404より大きいため、第2弁部材402は閉弁方向への力を受け、噴射ノズル24のシート部242と当接するように押し付けられている。この時、ダンパ部90は圧縮されている。ここまでが初期状態についての説明である。
【0115】
次に開弁動作について説明する。開弁動作を行うために、コイル70に電力を供給すると、可動コア50を開弁方向へと駆動する吸引力が発生する。可動コア50の駆動によって、第1弁部材401の大径部43Fと当接する内側可動コア52が開弁方向へ移動を開始するため、第1弁部材401も開弁方向へ移動を開始する。第1弁部材401は摺動部4011において第1筒部材21と摺動しつつ移動する。
【0116】
第1弁部材401の開弁方向への移動にともない、弁部材間スプリング403は伸びるため、弁部材間スプリング403によるバネ力は低下していく。弁部材間スプリング403の閉弁方向へのバネ力が、ハウジング間スプリング404の開弁方向へのバネ力を下回ると、第2弁部材402が開弁方向へと移動する。第2弁部材402の開弁方向への移動開始により開弁動作が開始する。
【0117】
第2弁部材402が開弁方向へ移動することで、第2弁部材402は閉弁状態から開弁状態へと遷移する。第1弁部材401が開弁方向へと移動している間は、第2弁部材402も開弁方向へと移動する。第1弁部材401および第2弁部材402が所定の移動量だけ開弁方向に移動した後に、コイル70への通電は停止される。コイル70への通電を停止すると、可動コア50への吸引力の発生が停止し、スプリング81による力を受けて、第1弁部材401は開弁方向への移動を停止する。第1弁部材401の開弁方向への移動が停止すると、弁部材間スプリング403のバネ力によって第2弁部材402の開弁方向への移動は停止し、開弁動作は終了する
【0118】
開弁動作時のダンパ部90は、第1実施形態の場合と同様に、スクイズ板とウェーブワッシャの間に燃料を蓄える。蓄えられた燃料はダンパ部90が圧縮された際にスクイズ力を発生する。
【0119】
続いて、閉弁動作について説明する。コイル70への通電を停止すると、第1弁部材401はスプリング81による力を受けて、閉弁方向へと移動を開始する。第1弁部材401は摺動部4011において第1筒部材21と摺動しつつ移動する。
【0120】
第1弁部材401は弁部材間スプリング403を圧縮するように移動するため、弁部材間スプリング403のバネ力は増加する。弁部材間スプリング403のバネ力が、ハウジング間スプリング404のバネ力を上回ると、第2弁部材402は閉弁方向へと移動を開始する。第2弁部材402の閉弁方向への移動開始により閉弁動作が開始する。
【0121】
第2弁部材402は、弁部材間スプリング403のバネ力によって閉弁方向へ移動し、噴射ノズル24のシート部242と当接するまで閉弁動作を行う。第2弁部材402は、シート部242と当接することで、開弁状態から閉弁状態へ遷移する。
【0122】
第2弁部材402が閉弁動作を終えると、第1弁部材401の移動によって、ダンパ部90の圧縮が開始する。ダンパ部90が圧縮されることによってスクイズ力が発生し、第1弁部材401が減速される。
【0123】
第2弁部材402の移動が停止した後に、第1弁部材401は、ダンパ部90によるスクイズ力および弁部材間スプリング403によるバネ力を受けることで、移動が停止する。第1弁部材401の移動の停止によって、第1弁部材401、第2弁部材402が初期状態となる。
【0124】
第6実施形態に係る燃料噴射装置1Fでは、第1弁部材401よりも質量が小さい第2弁部材402によって噴孔241が閉じられるので、閉弁時における衝撃力は第1弁部材401と第2弁部材402を合わせた質量による衝撃力よりも小さくなり、噴孔241を開閉する弁部材40Fの跳ね返りを抑制することができる。
【0125】
また、燃料噴射装置1Fでは、質量の大きい第1弁部材401に摺動部4011を設けている。摺動部4011によって、両端をスプリングによって挟まれることによる第1弁部材401の軸ぶれを抑制することができる。
【0126】
摺動部の形状については、
図15に示す燃料噴射装置1Gに含まれる弁部材40Gのように、3面カットを施した摺動部4012を用いることもできる。摺動部4012を用いることによって、第1弁部材401を貫通する燃料通路を設けなくても、燃料の流通が可能なようにすることができる。
【0127】
次に第7実施形態に係る燃料噴射装置について説明する。
図16に、第7実施形態に係る燃料噴射装置1Hの断面図を示す。燃料噴射装置1Hは、閉弁時に可動コアの質量を分割することで、弁部材の跳ね返りを抑制するものである。
【0128】
燃料噴射装置1Hには、固定コア60及び可動コア50Hが設けられている。固定コア60は、外側固定コア61と内側固定コア62とを有している。可動コア50Hは、外側可動コア51Hと内側可動コア52とを有している。外側可動コア51Hは、外側上可動コア511と外側下可動コア512とを有している。
【0129】
外側固定コア61は、略円筒状の部材であり、第3筒部材23に固定されている。外側固定コア61の開弁方向側の一部分が開弁方向へ向かって円筒状に突き出しており、第2筒部材22との間に空間が形成されている。
【0130】
内側固定コア62は、略円筒状の部材であり、外側固定コア61の内側面に配置されている。内側固定コア62の開弁方向側の端面は、外側固定コア61の開弁方向側端面よりも開弁方向に突出している。
【0131】
外側上可動コア511は、略円筒状に形成されており、内側可動コア52よりも外側かつ外側固定コア61側に配置されている。外側上可動コア511には、内側固定コア62が突出している部分との接触を避けるための逃がし部5112が形成されている。外側上可動コア511の供給端部側端面は、内側可動コア52の供給端部側端面よりも供給端部側に位置するように形成されている。
【0132】
外側上可動コア511は、内側可動コア52に対して摺動可能なように設けられている。外側固定コア61と外側上可動コア511とが、第2筒部材22の内側面の近くに形成する空間には、コア間スプリング85が設けられている。
【0133】
外側下可動コア512は、略円筒状に形成されており、内側可動コア52よりも外側かつ外側上可動コア511を挟んで外側固定コア61とは反対側に配置されている。外側下可動コア512は、内側可動コア52に圧入等により取り付けられることで相対的な位置関係が変化しないようにしている。
【0134】
外側上可動コア511の外側下可動コア512側には、凸部5111が設けられている。外側上可動コア511が凸部5111において外側下可動コア512と接触するようにすることで、外側上可動コア511と外側固定コア61との接触面積よりも、外側上可動コア511と外側下可動コア512との接触面積を小さくすることができる。
【0135】
次に、燃料噴射装置1Hの動作について説明する。第7実施形態における開弁方向、閉弁方向、開弁状態、閉弁状態は、第1実施形態におけるものと同じ意味として説明する。動作についての説明は
図17、
図18を適宜参照しつつ行う。
【0136】
図17は開弁動作時におけるダンパ部90付近の拡大図である。
図18は閉弁動作時におけるダンパ部90付近の拡大図である。
図17、
図18には、
図17(A)のダンパ部90の開弁方向側の端部の位置を基準とするように、基準線L1が共通して示してある。
【0137】
開弁動作について説明する。
図17(A)は開弁動作の開始時の状態である。このとき、外側上可動コア511はコア間スプリング85によって閉弁方向へと押し付けられており、凸部5111において外側下可動コア512と接触している。また、ダンパ部90は圧縮されており、ウェーブワッシャ921,922,...,92m(
図2参照)は弾性変形している。
【0138】
図17(B)は開弁動作によって、弁部材40が開弁方向に最大量移動したフルリフト時の状態である。内側可動コア52は内側固定コア62と当接しており、開弁方向への移動が制限されている。また、ダンパ部90は、スクイズ板911,912,...,91n(
図2参照)の面間距離が長くなるように変形し、ウェーブワッシャ921,922,...,92mが弾性変形していない状態に復元して、内部に燃料を蓄えている。
【0139】
図17(B)において、外側上可動コア511は、逃がし部5112によって内側固定コアとは接触しないようにしてあるため、開弁方向への移動は制限されていない。また、外側上可動コア511の供給端部側端面は、内側可動コア52の供給端部側端面よりも噴射端部側に位置しているため、外側上可動コア511と外側固定コア61との間には、外側上可動コア511が移動し得る空間が存在している。
【0140】
図17(C)はフルリフト後の外側上可動コア511が移動した状態である。外側上可動コア511は、フルリフト時に開弁方向への移動が可能な空間があるため、開弁方向への移動を継続し、コア間スプリング85を圧縮しつつ、外側固定コア61と当接する。
【0141】
続いて閉弁動作について説明する。
図18(A)は弁部材40が閉弁方向へと移動を開始し、内側可動コア52がダンパ部90と接触した状態である。閉弁動作において、弁部材40は閉弁方向へ移動を開始する。
【0142】
外側上可動コア511の供給端部側端面と外側固定コア61の噴射端部側端面との間には互いに引き合うリンキング力が発生する。一方、外側上可動コア511の噴射端部側端面と外側下可動コア512の供給端部側端面は凸部5111のみが当接するため、接触面積が小さく発生するリンキング力も小さい。リンキング力の差により、外側上可動コア511の閉弁方向への移動は、内側可動コア52および外側下可動コア512の移動よりも遅れる。これにより、可動コア全体の質量が外側上可動コア511と外側下可動コア512とに分散する。
【0143】
図18(B)は弁部材40が閉弁状態に遷移した状態である。このとき、弁部材40は噴射ノズル24のシート部242と当接しており、移動は停止している。一方、内側可動コア52と外側下可動コア512は一体となってダンパ部90を圧縮するように移動を継続する。
【0144】
図18(C)は、外側上可動コア511が、外側固定コア61側から、外側下可動コア512側へと移動している状態である。閉弁動作では外側下可動コア512と分離していた外側上可動コア511は、コア間スプリング85によって閉弁方向への力を受けて、外側下可動コア512へと向かう。ダンパ部90は、内側可動コア52と外側下可動コア512とによって圧縮されている。
【0145】
図18(D)は、
図17(A)の開弁動作の開始時の状態と同じ状態である。外側上可動コア511は、外側下可動コア512側へと移動した後に、外側下可動コア512と接触する。その後、ダンパ部90が内側可動コア52、外側下可動コア512、外側上可動コア511に対してスクイズ力を発生させ、適切に減速する。減速を終えた後、ウェーブワッシャ921,922,...,92m(
図2参照)による復元力によって、ダンパ部90の開弁方向側の端部が基準線L1に復帰することで、閉弁動作が終了する。
【0146】
第7実施形態に係る燃料噴射装置1Hでは、弁部材40の外側上可動コア511の質量を分離することで、閉弁時における衝撃力を小さくすることが可能となり、噴孔を開閉する弁部材40の跳ね返りを抑制することができる。
【0147】
また、外側上可動コア511に形成される凸部5111の形状を、内側可動コア52の閉弁方向側端面である底面の中心に関して、点対称とすることもできる。点対称とすることで、リンキング力のアンバランスが解消され、外側上可動コア511と外側下可動コア512の移動時の姿勢不安定化を抑制できる。
【0148】
外側上可動コア511と外側固定コア61との当接面を互いに平滑とすることもできる。平滑にすることで、外側上可動コア511と外側固定コア61との間に発生するリンキング力を大きくすることができる。リンキング力を適切に確保することで、より確実に外側上可動コア511を分離することができるようになる。
【0149】
以上、具体例を参照しつつ本実施形態について説明した。しかし、本開示はこれらの具体例に限定されるものではない。これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本開示の特徴を備えている限り、本開示の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、条件、形状などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。前述した各具体例が備える各要素は、技術的な矛盾が生じない限り、適宜組み合わせを変えることができる。
【符号の説明】
【0150】
20:ハウジング
21:第1筒部材(電磁気回路)
211:ハウジング側対向面
23:第3筒部材(電磁気回路)
40,40F,40G:弁部材
50,50H:可動コア
51,51D,51H:外側可動コア(電磁気回路)
52:内側可動コア
521:コア側対向面
60:固定コア
61:外側固定コア(電磁気回路)
70:コイル(電磁気回路)
81:スプリング
90:ダンパ部
911,912,...,91n:スクイズ板
911a,912a,...,91na、911b,912b,...,91nb:スクイズ面
921,922,...,92m:ウェーブワッシャ(弾性部材)