(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20221004BHJP
G06F 30/28 20200101ALI20221004BHJP
B29C 48/92 20190101ALI20221004BHJP
【FI】
G06F30/23
G06F30/28
B29C48/92
(21)【出願番号】P 2018233219
(22)【出願日】2018-12-13
【審査請求日】2021-10-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】片岡 雄治
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-189957(JP,A)
【文献】特開2012-250399(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0210189(US,A1)
【文献】米国特許第7110921(US,B1)
【文献】劔持慎也 外4名,流動シミュレーションを用いたPVC高速押出成形用ダイ設計,松下電工技報,松下電工株式会社,2007年06月20日,Vol.55,No.2,pp.58-62
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/28
B29C 48/00 -48/96
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイ流路から押し出される流体の流れのシミュレーションを行うシミュレーション装置であって、
情報を入力する入力部と、情報を記録する記憶部と、前記入力部を介して入力されるデータまたは前記記憶部から読み出されたデータに基づいて解析を行う第1解析部および第2解析部とを備え、
前記第1解析部は、
前記ダイ流路を再現したダイ流路モデルを作成するダイ流路モデル作成部と、
前記ダイ流路モデルを解析のための有限個の要素に分割してダイ流路FEMモデルを作成するダイ流路FEMモデリング部と、
前記ダイ流路FEMモデルにおける解析条件を定義する第1解析条件定義部と、
前記第1解析条件定義部にて解析条件が定義された前記ダイ流路FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行い、前記ダイ流路モデルの出口における前記流体のパラメータを取得する予備計算を行う予備計算部と
を含み、
前記第2解析部は、
前記ダイ流路モデルの前記出口から下流に接続される押出流路モデルを作成する押出流路モデル作成部と、
前記ダイ流路モデルおよび前記押出流路モデルを解析のための有限個の要素に分割して全体FEMモデルを作成する全体FEMモデリング部と、
前記全体FEMモデルにおける解析条件を定義し、特に前記予備計算によって取得されたパラメータに基づいて前記ダイ流路モデルの前記出口にて境界条件を連続とするように定義する第2解析条件定義部と、
前記第2解析条件定義部にて解析条件が定義された前記全体FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行う主計算部と
を含む、シミュレーション装置。
【請求項2】
前記第2解析条件定義部にて定義される解析条件は、前記流体の内部応力、および壁面でのせん断応力を含み、
前記押出流路モデルにおいて、前記ダイ流路モデルの前記出口から所定距離下流までの領域を補間領域として、
前記内部応力は、前記補間領域の最下流にて大気圧となるように前記補間領域において補間され、
前記せん断応力は、前記補間領域の最下流にてゼロとなるように前記補間領域において補間される、請求項1に記載のシミュレーション装置。
【請求項3】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、線形補間である、請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項4】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、高次補間である、請求項2に記載のシミュレーション装置。
【請求項5】
前記補間領域は、前記流体の流れ方向において、前記ダイ流路FEMモデルの前記要素が少なくとも3要素入る長さである、請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のシミュレーション装置。
【請求項6】
ダイ流路から押し出される流体の流れのシミュレーションを行うシミュレーション方法であって、
入力部を介して入力されるデータまたは記憶部から読み出されたデータに基づいて第1の解析および第2の解析を実行することを含み、
前記第1の解析は、
前記ダイ流路を再現したダイ流路モデルを作成し、
前記ダイ流路モデルを解析のための有限個の要素に分割してダイ流路FEMモデルを作成し、
前記ダイ流路FEMモデルにおける解析条件を定義し、
解析条件が定義された前記ダイ流路FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行い、前記ダイ流路モデルの出口における前記流体のパラメータを取得する予備計算を行う
ことを含み、
前記第2の解析は、
前記ダイ流路モデルの前記出口から下流に接続される押出流路モデルを作成し、
前記ダイ流路モデルおよび前記押出流路モデルを解析のための有限個の要素に分割して全体FEMモデルを作成し、
前記全体FEMモデルにおける解析条件を定義し、特に前記予備計算によって取得されたパラメータに基づいて前記ダイ流路モデルの前記出口において境界条件を連続とするように定義し、
解析条件が定義された前記全体FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行う
ことを含む、シミュレーション方法。
【請求項7】
前記第2の解析において定義される解析条件は、前記流体の内部応力、および壁面でのせん断応力を含み、
前記押出流路モデルにおいて、前記ダイ流路モデルの前記出口から所定距離下流までの領域を補間領域として、
前記内部応力は、前記補間領域の最下流にて大気圧となるように前記補間領域において補間され、
前記せん断応力は、前記補間領域の最下流にてゼロとなるように前記補間領域において補間される、請求項6に記載のシミュレーション方法。
【請求項8】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、線形補間である、請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項9】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、高次補間である、請求項7に記載のシミュレーション方法。
【請求項10】
前記補間領域は、前記流体の流れ方向において、前記ダイ流路FEMモデルの前記要素が少なくとも3要素入る長さである、請求項7から請求項9のいずれか1項に記載のシミュレーション方法。
【請求項11】
コンピュータの制御部にロードされることにより、当該コンピュータに、請求項6から請求項10のうちのいずれか1項に記載のシミュレーション方法を実行させる、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シミュレーション方法、シミュレーション方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムのような高分子材料の押し出し工程において不具合が生じた場合、不具合の原因を特定するためにシミュレーションを使用してダイ流路(管路)の高分子材料の流れに問題がないかを確認することが有効である。例えば、特許文献1には、管路内の流体の流れをシミュレーションすることにより最適流路形状を取得するシミュレーション方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、高分子材料がダイの出口から大気中に押し出されたとき、押出物の断面がダイの出口の断面よりも大きくなるダイスウェル現象(またはバラス効果)が発生することが知られている。シミュレーションによってダイ流路の高分子材料の流れを確認するためには解析モデルを実際に近い状態で再現することが重要である。そのため、ダイ流路のモデルに加えてダイの出口後の領域もモデル化してダイスウェル現象を再現することが好ましい。
【0005】
特許文献1では、ダイ流路をモデル化し出口における流速分布を計算しているが、ダイスウェル現象については詳細な言及もない。単純にダイスウェル現象を再現するようにダイの出口後の領域もモデル化した解析モデルを作成してシミュレーションを実行すると、ダイの出口を境に速度や応力が急激に変化する。そのため、計算結果が発散し、解析が完了しないおそれがある。
【0006】
本発明は、シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムにおいて、ダイの出口後の領域をモデル化するとともに、計算結果の発散を防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、ダイ流路から押し出される流体の流れのシミュレーションを行うシミュレーション装置であって、情報を入力する入力部と、情報を記録する記憶部と、前記入力部を介して入力されるデータまたは前記記憶部から読み出されたデータに基づいて解析を行う第1解析部および第2解析部とを備え、前記第1解析部は、前記ダイ流路を再現したダイ流路モデルを作成するダイ流路モデル作成部と、前記ダイ流路モデルを解析のための有限個の要素に分割してダイ流路FEMモデルを作成するダイ流路FEMモデリング部と、前記ダイ流路FEMモデルにおける解析条件を定義する第1解析条件定義部と、前記第1解析条件定義部にて解析条件が定義された前記ダイ流路FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行い、前記ダイ流路モデルの出口における前記流体のパラメータを取得する予備計算を行う予備計算部とを含み、前記第2解析部は、前記ダイ流路モデルの前記出口から下流に接続される押出流路モデルを作成する押出流路モデル作成部と、前記ダイ流路モデルおよび前記押出流路モデルを解析のための有限個の要素に分割して全体FEMモデルを作成する全体FEMモデリング部と、前記全体FEMモデルにおける解析条件を定義し、特に前記予備計算によって取得されたパラメータに基づいて前記ダイ流路モデルの前記出口にて境界条件を連続とするように定義する第2解析条件定義部と、前記第2解析条件定義部にて解析条件が定義された前記全体FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行う主計算部とを含む、シミュレーション装置を提供する。
【0008】
この構成によれば、ダイ流路をモデル化したダイ流路モデルだけでなくダイの出口後の領域をモデル化した押出流路モデルも含む流路モデルを使用し、ダイスウェル現象を考慮した解析を行うことができる。この際、第1解析部によって予備計算を実行し、ダイ流路の出口における流体の応力成分などのパラメータを予め取得する。そして、第2解析部にて、予備計算によって得られたパラメータに基づいてダイ流路モデルの出口にて境界条件を連続とするように定義した上で、全体解析を実行する。従って、流路モデルにおいて速度や応力などの値の急激な変化を防止でき、計算結果が発散することを防止でき、安定した解析を実行できる。
【0009】
前記第2解析条件定義部にて定義される解析条件は、前記流体の内部応力、および壁面でのせん断応力を含み、前記押出流路モデルにおいて、前記ダイ流路モデルの前記出口から所定距離下流までの領域を補間領域として、前記内部応力は、前記補間領域の最下流にて大気圧となるように前記補間領域において補間され、前記せん断応力は、前記補間領域の最下流にてゼロとなるように前記補間領域において補間されてもよい。
【0010】
この構成によれば、補間領域の境界条件を補間することで、急激な値の変化が生じることを防止できる。詳細には、本来、内部応力、せん断応力、および速度成分は、ダイ流路の出口から外に出たところで急激に変化する。しかし、このような急激な変化は解の振動を招き、解析が安定しないおそれがある。そこで、補間領域を設け、上記パラメータを不連続とならないように補間領域内で補間することで、境界条件の変化による値の急激な変化を防止できる。
【0011】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、線形補間であってもよい。
【0012】
この方法によれば、補間方法として線形補間を採用しているため、設定が簡易であるとともに、計算コストも低減できる。
【0013】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、高次補間であってもよい。
【0014】
この構成によれば、補間方法として、高次補間を採用しているため、線形補間と比較して自由度の高い補間が可能である。
【0015】
前記補間領域は、前記流体の流れ方向において、前記ダイ流路FEMモデルの前記要素が少なくとも3要素入る長さであってもよい。
【0016】
この構成によれば、押出流路モデルを解析のための有限個の要素に分割した際、補間領域には流体の流れ方向において少なくとも3要素が設けられる。解析点は要素間に設定されるため、補間領域内に少なくとも2つの解析点が設けられる。従って、複数の解析点による高精度の解析が可能となる。
【0017】
本発明の第2の態様は、ダイ流路から押し出される流体の流れのシミュレーションを行うシミュレーション方法であって、入力部を介して入力されるデータまたは記憶部から読み出されたデータに基づいて第1の解析および第2の解析を実行することを含み、前記第1の解析は、前記ダイ流路を再現したダイ流路モデルを作成し、前記ダイ流路モデルを解析のための有限個の要素に分割してダイ流路FEMモデルを作成し、前記ダイ流路FEMモデルにおける解析条件を定義し、解析条件が定義された前記ダイ流路FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行い、前記ダイ流路モデルの出口における前記流体のパラメータを取得する予備計算を行うことを含み、前記第2の解析は、前記ダイ流路モデルの前記出口から下流に接続される押出流路モデルを作成し、前記ダイ流路モデルおよび前記押出流路モデルを解析のための有限個の要素に分割して全体FEMモデルを作成し、前記全体FEMモデルにおける解析条件を定義し、特に前記予備計算によって取得されたパラメータに基づいて前記ダイ流路モデルの前記出口において境界条件を連続とするように定義し、解析条件が定義された前記全体FEMモデルについて流体の流れのシミュレーション演算を行うことを含む、シミュレーション方法を提供する。
【0018】
前記第2の解析において定義される解析条件は、前記流体の内部応力、および壁面でのせん断応力を含み、前記押出流路モデルにおいて、前記ダイ流路モデルの前記出口から所定距離下流までの領域を補間領域として、前記内部応力は、前記補間領域の最下流にて大気圧となるように前記補間領域において補間され、前記せん断応力は、前記補間領域の最下流にてゼロとなるように前記補間領域において補間されてもよい。
【0019】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、線形補間であってもよい。
【0020】
前記内部応力、および前記せん断応力の前記補間領域における補間は、高次補間であってもよい。
【0021】
前記補間領域は、前記流体の流れ方向において、前記ダイ流路FEMモデルの前記要素が少なくとも3要素入る長さであってもよい。
【0022】
本発明の第3の態様は、コンピュータの制御部にロードされることにより、当該コンピュータに、前記シミュレーション方法を実行させる、プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シミュレーション装置、シミュレーション方法、およびプログラムにおいて、流路モデルの境界条件が連続となるように定義されるため、ダイの出口後の領域をモデル化するとともに計算結果の発散を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図3】本発明の一実施形態に係るシミュレーション装置のブロック図。
【
図4】
図3のシミュレーション装置の第1解析部を示すブロック図。
【
図5】
図3のシミュレーション装置の第2解析部を示すブロック図。
【
図10】シミュレーション装置によって実行される処理を示すフローチャート。
【
図11】変形例における内部応力と位置の関係を示すグラフ。
【
図12】変形例におけるせん断応力と位置の関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0026】
本実施形態のシミュレーション装置は、自動車等のタイヤの材料となるゴム(流体の一例)の流れを解析するものである。ただし、以下の説明は例示であり、シミュレーション装置は、ゴムの流れの解析以外に他の様々な流体の流れの解析に使用できる。
【0027】
図1を参照して、ゴム1は、図示しない混練機にて複数種類の材料が混合された後、内部にダイ流路12を構成するダイ10の出口11から押し出され、タイヤの各部に応じた様々な厚みおよび幅に成形される。本実施形態では、ダイ10の出口11は長方形状であるため、押し出されるゴム1の断面形状も概ね長方形状である。しかし、正確には、ゴム1は、ダイスウェル現象によって、ダイ10の出口11から出た際に膨張し、長方形状は維持されない。本実施形態では、ダイ流路12から押し出されるゴム1の流れを解析するが、特にダイスウェル現象を考慮したゴム1の流れを模した流路モデル20(
図2参照)を用いて解析を行う。なお、以降の説明では、図示および説明を簡単にするため、ゴム1の厚み方向において上部のみがダイスウェル現象によって膨張しているものと扱うが、ゴム1は本来等方膨張する。
【0028】
図2は、解析で使用する流路モデル20の一例を示す斜視図である。
図2の流路モデル20は、
図1のゴム1の流れを模したものである。流路モデル20は、ダイ流路モデル21と、押出流路モデル22とを有している。
【0029】
ダイ流路モデル21は、ダイ流路12(
図1参照)を再現したものである。ダイ流路モデル21は、流路モデル20において上流側の領域である。本実施形態では、ゴム1の流れ方向(
図1における矢印参照)に垂直なダイ流路12の断面は、長方形状である。ダイ流路モデル21の厚みは、例えば3~40mm程度である。ただし、ダイ流路モデル21の断面形状は、長方形状に限定されず、三角形状、菱形状、または台形状など様々であり得る。従って、ダイ流路モデル21の厚みも必ずしも3mm以上ではなく、鋭角部分などがある場合には部分的に例えば1mmなどの値もとり得る。
【0030】
押出流路モデル22は、流路モデル20において下流側の領域である。押出流路モデル22は、ダイ10(
図1参照)の外の領域である。そのため、押出流路モデル22の厚みは、ダイスウェル現象を再現すべく、ダイ流路モデル21よりも大きく設定され、例えば3~80mm程度である。詳細には、押出流路モデル22は、後述するようにゴム1の内部応力と大気圧とが平衡状態に達するまで、厚みが下流側へ向かって徐々に大きくなっている。また、前述のように、断面形状に応じて例えば1mm程度の厚みを有する部分も存在し得る。押出流路モデル22の長さは、例えば1~100mm程度である。
【0031】
押出流路モデル22には、補間領域22aが設定されている。補間領域22aは、押出流路モデル22のうちの上流側の領域であり、即ちダイ流路モデル21に接続された部分から所定距離下流までの領域である。補間領域22aの長さは、例えば10mm以下に設定される。補間領域22aでは、計算が発散しないように境界条件が設定されるが、詳細は後述する。
【0032】
図3は、本実施形態のシミュレーション装置100のブロック図である。シミュレーション装置100は、制御部(プロセッサ)110と、情報を入力する入力部140と、情報を表示する表示部150と、情報を記録する記憶部160とを備える。
【0033】
制御部110は、演算処理および装置全体の制御を行う。入力部140は、シミュレーション装置100に対する入力データを生成する若しくは受け取る部分であり、例えば、キーボード、マウス、またはタッチパネル等により構成される。表示部150は、制御部110による処理結果等を表示する部分であり、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイ等により構成される。記憶部160は、制御部110で稼働するプログラムに必要なパラメータデータ等が記録されている。これらの制御部110、入力部140、表示部150、および記憶部160は、相互に接続されている。シミュレーション装置100は、デスクトップパソコン、ノートパソコン、ワークステーション、またはタブレット端末のような情報処理装置で構成される。
【0034】
制御部110は、予備計算(第1の解析)を実行するための第1解析部120と、主計算(第2の解析)を実行するための第2解析部130とを含んでいる。第1解析部120および第2解析部130は、入力部140を介して入力されるデータまたは記憶部160から読み出されたデータに基づいてそれぞれ解析を行う。これらの第1解析部120および第2解析部130は、ハードウェア資源であるプロセッサとしての制御部110と、記憶部160に記憶されるソフトウェアであるプログラムとの協働により実現される。
【0035】
図4を参照して、第1解析部120は、ダイ流路モデル作成部121と、ダイ流路FEMモデリング部122と、第1解析条件定義部123と、予備計算部124とを含んでいる。
【0036】
ダイ流路モデル作成部121は、ダイ流路12(
図1参照)を再現したダイ流路モデル21(
図2参照)を作成する。ダイ流路FEMモデリング部122は、ダイ流路モデル21を解析のための有限個の要素に分割してダイ流路FEMモデル21A(後述する
図7参照)を作成する。第1解析条件定義部123は、ダイ流路FEMモデル21Aにおける解析条件を定義する。例えば、解析条件は、流入条件としてダイ10の入口でのゴム1の質量流量や体積流量、ダイ10の内部での壁面におけるすべり有無などの条件、および、流れるゴム1の材料物性などを含む。予備計算部124は、第1解析条件定義部123にて解析条件が定義されたダイ流路FEMモデル21Aについて流体の流れのシミュレーション演算を行い、ダイ流路モデル21の出口21aにおけるゴム1の流れに関するパラメータを取得する予備計算を行う。例えば、ゴム1の流れに関するパラメータは、ゴム1の内部応力、およびダイ流路12(
図1)の壁面でのせん断応力を含む。
【0037】
第1解析部120は、予備計算として、ダイ流路モデル21のみにおけるゴム1の流れを解析する。これにより、ダイ流路モデル21の出口21aにおけるゴム1の内部応力、およびせん断応力などが求められる。
【0038】
図5を参照して、第2解析部130は、押出流路モデル作成部131と、全体FEMモデリング部132と、第2解析条件定義部133と、主計算部134とを含んでいる。
【0039】
押出流路モデル作成部131は、ダイ流路モデル21の出口21aから下流に接続される押出流路モデル22(
図2参照)を作成する。全体FEMモデリング部132は、ダイ流路モデル21および押出流路モデル22を含む流路モデル20を解析のための有限個の要素に分割してダイ流路FEMモデル21Aおよび押出流路FEMモデル22Aを含む全体FEMモデル20A(後述する
図7参照)を作成する。第2解析条件定義部133は、全体FEMモデル20Aにおける解析条件を定義し、特に予備計算によって取得されたパラメータに基づいてダイ流路モデル21と押出流路モデル22との間で不連続とならないように後述するように境界条件を定義する。主計算部134は、第2解析条件定義部133にて解析条件が定義された全体FEMモデル20Aについてゴム1の流れのシミュレーション演算を行う。
【0040】
図6は、模式的な流路モデル20の側面図である。
図7は、模式的な全体FEMモデル20Aの側面図である。両図ともに、図において左側が上流側を示し、図において右側が下流側を示す。位置x1は、ダイ流路モデル21の出口21aの位置を示している。位置x2は、ダイ流路モデル21の出口21aから所定距離下流の位置を示し、解析の条件の設定のためにユーザが規定する位置である。この位置x1~x2の間の領域が前述の補間領域22aに対応する。
【0041】
本実施形態では、補間領域22aの長さは、ダイ流路FEMモデル21Aの要素が3要素入る長さである。詳細には、
図7の例では、補間領域22aにて、解析のための要素が3つ設けられている。これにより、流れ方向A(矢印A参照)において、補間領域22aに解析点(図において黒丸で示す)が2つ設けられる。好ましくは、補間領域22aの長さは、ダイ流路FEMモデル21Aの要素が少なくとも3要素入る長さであり、即ち補間領域22aに4要素以上が設けられてもよい。これにより、流れ方向Aにおいて、補間領域22aに解析点が3つ以上設けられる。
【0042】
図6,7を参照すると、第1解析部120による予備計算では、位置x1までのダイ流路モデル21での解析が実行される。次いで、第2解析部130による主計算では、位置x1以降の押出流路モデル22も含めた流路モデル20での解析が実行される。
【0043】
本実施形態では、第2解析部130では、予備計算部にて取得されたゴム1の内部応力、およびダイ流路12の壁面でのせん断応力に基づいて境界条件を定義する。
【0044】
図8は、ゴム1の流れ方向に垂直な方向における内部応力σと流れ方向の位置xとの関係を示すグラフである。横軸が流れ方向の位置xを示し、縦軸が上記内部応力σを示している。内部応力σは、ダイ流路モデル21の出口21a(位置x1)から所定距離下流(位置x2)にて大気圧Pとなるように補間領域22a(
図7参照)において線形補間される。位置x2以降の下流の領域では、内部応力σと大気圧Pが平衡状態にある。
【0045】
図9は、せん断応力τと流れ方向の位置xとの関係を示すグラフである。横軸が流れ方向の位置xを示し、縦軸が上記せん断応力τを示している。せん断応力τは、ダイ流路モデル21の出口21a(位置x1)から所定距離下流(位置x2)にてゼロとなるように補間領域22a(
図7参照)において線形補間される。位置x2以降の下流の領域では、せん断応力τはゼロである。
【0046】
図10は、シミュレーション装置100によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0047】
図10を参照して、処理を開始すると(ステップS1)、まず、ダイ流路モデル作成部121によってダイ流路モデル21(
図6参照)が作成される(ステップS2)。次いで、作成されたダイ流路モデル21をダイ流路FEMモデリング部122によって解析のために要素分割し、ダイ流路FEMモデル21A(
図7参照)が作成される(ステップS3)。次いで、第1解析条件定義部123によってダイ流路FEMモデル21Aに対して解析条件が定義される(ステップS4)。そして、予備計算部124によって、ダイ流路FEMモデル21Aについて予備計算が実行される(ステップS5)。予備計算の結果、ダイ流路モデル21の出口21aにおけるゴム1の内部応力などが得られる。次いで、押出流路モデル作成部131によって押出流路モデル22(
図6参照)が作成される(ステップS6)。本実施形態では、ダイ流路モデル21と押出流路モデル22とによって流路モデル20の全体が構成される。そして、全体FEMモデリング部132によって流路モデル20を解析のために要素分割し、ダイ流路FEMモデル21Aおよび押出流路FEMモデル22Aを含む全体FEMモデル20A(
図7参照)が作成される(ステップS7)。次いで、第2解析条件定義部133によって全体FEMモデル20Aに対して解析条件が定義される(ステップS8)。そして、主計算部134によって、全体FEMモデル20Aについて解析が実行される(ステップS9)。解析は、計算結果が収束するまで実行され(ステップS10)、収束しない場合には必要に応じて条件が再設定され(ステップS11)、解析が行われる(ステップS9)。解析が完了すると(ステップS10)、表示部150に結果を出力し(ステップS12)、処理を終了する(ステップS13)。表示部150に出力される結果は、例えば、流路モデル20の各部におけるゴム1の流れの速度成分と圧力値である。従って、ユーザは、表示部150を介して、特に外部から視認できないダイ流路モデル21における流れなどを確認できる。
【0048】
本実施形態のシミュレーション装置100によれば以下の有利な作用効果を奏する。
【0049】
図1,2を参照して、ダイ流路12をモデル化したダイ流路モデル21だけでなくダイ10の出口11後の領域をモデル化した押出流路モデル22も含む流路モデル20を使用し、ダイスウェル現象を考慮した解析を行うことができる。
図3を併せて参照して、この際、第1解析部120によって予備計算を実行し、ダイ流路12の出口11におけるゴム1の内部応力などのパラメータを予め取得する。そして、第2解析部130にて、予備計算によって得られたパラメータに基づいてダイ流路モデル21の出口21aにて境界条件を連続とするように定義した上で、全体解析を実行する。従って、流路モデル20において速度や応力などの値の急激な変化を防止でき、計算結果が発散することを防止でき、安定した解析を実行できる。
【0050】
図1,2,6,7を参照して、補間領域22aの境界条件を補間することで、急激な値の変化が生じることを防止できる。
図8,9を併せて参照して、詳細には、本来、内部応力σおよびせん断応力τは、ダイ流路12の出口11から外に出たところで急激に変化する。また、図示していないが、同様に速度成分もダイ流路12の出口11から外に出たところで急激に変化する。しかし、このような急激な変化は解の振動を招き、解析が安定しないおそれがある。そこで、補間領域22aを設け、上記パラメータを不連続とならないように補間領域22a内で補間することで、境界条件の変化による値の急激な変化を防止できる。特に、補間方法として線形補間を採用しているため、設定が簡易であるとともに、計算コストも低減できる。
【0051】
図7を参照して、押出流路モデル22を解析のための有限個の要素に分割した際、補間領域22aには流体の流れ方向Aにおいて少なくとも3要素が設けられる。解析点は要素間に設定されるため、補間領域22a内に少なくとも2つの解析点が設けられる。従って、複数の解析点による高精度の解析が可能となる。
【0052】
(変形例)
図11,12は、
図8,9に対応して、補間領域22aにおける補間方法の変形例を示している。
図11,12に示すように、補間領域22aにおける補間方法は、
図8,9に示した線形補間以外にも2次補間であってもよい。
【0053】
本変形例では、
図11,12にて2次の補間による例を図示している。即ち、2次関数にて位置x1~x2の補間領域の各パラメータσ,τが補間されている。本変形例によれば、前述のように、補間領域を設け、上記パラメータを徐々に変化させるように補間領域22a内で補間することで、境界条件の変化による値の急激な変化を防止できる。特に、補間方法として、高次補間を採用しているため、線形補間と比較して自由度の高い補間が可能である。なお、高次補間としては、3次以上の補間が採用されてもよいし、スプライン補間が採用されてもよい。
【0054】
以上より、本発明の具体的な実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 ゴム
10 ダイ
11 出口
12 ダイ流路
20 流路モデル
20A 全体FEMモデル
21 ダイ流路モデル
21a 出口
21A ダイ流路FEMモデル
22 押出流路モデル
22A 押出流路FEMモデル
22a 補間領域
100 シミュレーション装置
110 制御部(プロセッサ)
120 第1解析部
121 ダイ流路モデル作成部
122 ダイ流路FEMモデリング部
123 第1解析条件定義部
124 予備計算部
130 第2解析部
131 押出流路モデル作成部
132 全体FEMモデリング部
133 第2解析条件定義部
134 主計算部
140 入力部
150 表示部
160 記憶部