(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】編地のデザインシステム
(51)【国際特許分類】
D04B 15/00 20060101AFI20221004BHJP
D04B 15/78 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
D04B15/00 301
D04B15/78 301
(21)【出願番号】P 2018244062
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000151221
【氏名又は名称】株式会社島精機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】坂井 義幸
(72)【発明者】
【氏名】保田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】南 昌幸
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-119004(JP,A)
【文献】国際公開第2009/034910(WO,A1)
【文献】特開2005-120501(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04B 3/00-19/00
D04B23/00-39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横編機の針床の各編針に対応した複数の編成単位を横方向に並べた編成コースを、縦方向に複数段並べたグリッド状のデザインシートを表示する表示部と、
前記デザインシートの前記編成単位に対してユーザーが編成コードを入力可能にする入力部と、
前記編成コードが割り当てられた前記デザインシートに基づいて、前記デザインシートにおける前記各編成単位の位置、及びその位置にある前記編成コードの情報を含むデザインデータを作成するデザインデータ作成部と、を備える編地のデザインシステムにおいて、
前記デザインデータに基づいて、前記各編成単位の編目の前記針床上における移動経路及び最終的な移動先に関する移動情報を抽出するデータ抽出部と、
前記移動情報に基づいて、前記デザインデータの始端から終端に向ってウエール方向に連続する編目の連結状態に関する連結情報を求める導出部と、
前記連結情報に基づいて、前記デザインシートに重ねて前記連結状態を線画で前記表示部に表示させる表示調整部と、を備える編地のデザインシステム。
【請求項2】
前記表示調整部は、前記デザインデータにおけるウエール方向に繋がる始端編目と終端編目との間を一直線に結んで表示する請求項1に記載の編地のデザインシステム。
【請求項3】
前記表示調整部は、前記デザインデータにおけるウエール方向に繋がる始端編目から終端編目にかけて編幅方向の編目の移動の軌跡を表示する請求項1に記載の編地のデザインシステム。
【請求項4】
前記デザインデータが、編地の一部を編成するための部分デザインデータである場合、
前記導出部は、前記部分デザインデータの始端の前に、前記部分デザインデータの編幅よりも広い範囲に亘って仮想編目がある状態を仮定して前記連結情報を求めると共に、所定数以上の前記編成コースを経て前記編成コードが設定されない前記仮想編目は前記連結情報から削除する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の編地のデザインシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機に編成させる編地をデザインする編地のデザインシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、モニタ上で編地をデザインする編地のデザインシステムが提案されている(例えば、特許文献1のニットペイントシステムを参照)。このような編地のデザインシステムでは、モニタ上に表示されるデザインシートにユーザーが編成コードを当てはめることで編地のデザインを行う。デザインシートは、横編機の針床の各編針に対応した複数の編成単位を横方向に並べた編成コースを、縦方向に複数段並べたグリッド状に形成されている。編地のデザインシステムは、編成コードが割り当てられたデザインシートに基づいて、デザインシートにおける各編成単位の位置、及びその位置にある編成コードの情報を含むデザインデータを作成する。更に、編地のデザインシステムは、そのデザインデータに基づいて、横編機に編成を行わせるための編成データを作成する。
【0003】
編地のデザインシステムにおいてユーザーによる編地のデザインを補助する機能として、例えば特許文献2に記載のニッティングアシスト、あるいは特許文献3に記載のループシミュレーションなどがある。ニッティングアシストでは、デザインデータに基づく編成を行う際、糸切れなどによって編成を継続できなくなる可能性をユーザーに報知する。報知例としては、例えばデザインデータにおいて一つの編目に対する目移しの回数、及び隣接する編目の間隔などが許容値を超える場合などが挙げられる。一方、ループシミュレーションは、デザインデータに基づいて編成される編地のシミュレーション画像をモニタに表示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-119004号公報
【文献】国際公開第2009/034910号
【文献】特開2005-120501号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の編地のデザインシステムでは、編地の編成過程の全体像を把握することが難しい。例えば、ニッティングアシストによって編成の継続性に問題が無いデザインデータであっても、ループシミュレーションで編地の仕上がりを確認した際、柄に乱れが生じる場合がある。しかし、従来は編地の編成過程の全体像を把握することが難しいため、その柄の乱れが編成過程のどの部分に問題があって生じているのかを特定することが難しい。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、デザインデータにおける編地の編成過程の全体像を把握し易い編地のデザインシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の編地のデザインシステムは、
横編機の針床の各編針に対応した複数の編成単位を横方向に並べた編成コースを、縦方向に複数段並べたグリッド状のデザインシートを表示する表示部と、
前記デザインシートの前記編成単位に対してユーザーが編成コードを入力可能にする入力部と、
前記編成コードが割り当てられた前記デザインシートに基づいて、前記デザインシートにおける前記各編成単位の位置、及びその位置にある前記編成コードの情報を含むデザインデータを作成するデザインデータ作成部と、を備える編地のデザインシステムにおいて、
前記デザインデータに基づいて、前記各編成単位の編目の前記針床上における移動経路及び最終的な移動先に関する移動情報を抽出するデータ抽出部と、
前記移動情報に基づいて、前記デザインデータの始端から終端に向ってウエール方向に連続する編目の連結状態に関する連結情報を求める導出部と、
前記連結情報に基づいて、前記デザインシートに重ねて前記連結状態を線画で前記表示部に表示させる表示調整部と、を備える。
【0008】
本発明の編地のデザインシステムの一形態として、
前記表示調整部は、前記デザインデータにおけるウエール方向に繋がる始端編目と終端編目との間を一直線に結んで表示する形態を挙げることができる。
【0009】
本発明の編地のデザインシステムの一形態として、
前記表示調整部は、前記デザインデータにおけるウエール方向に繋がる始端編目から終端編目にかけて編幅方向の編目の移動の軌跡を表示する形態を挙げることができる。
【0010】
本発明の編地のデザインシステムの一形態として、
前記デザインデータが、編地の一部を編成するための部分デザインデータである場合、
前記導出部は、前記部分デザインデータの始端の前に、前記部分デザインデータの編幅よりも広い範囲に亘って仮想編目がある状態を仮定して前記連結情報を求めると共に、所定数以上の前記編成コースを経て前記編成コードが設定されない前記仮想編目は前記連結情報から削除する形態を挙げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の編地のデザインシステムによれば、デザインデータにおける編目のウエール方向の連結状態がデザインシート上に表示されるので、その連結状態を目視で確認できる。編目のウエール方向の繋がりを見れば、編成過程の全体像を容易に把握できる。そのため、デザインデータに基づく編成過程の問題点を把握し易い。
【0012】
ウエール方向に繋がる始端編目と終端編目との間を一直線に結ぶことで、始端編目のウエール方向に連続する編目が最終的にどこに至るのかを把握し易い。そのため、編目の回し込みの状態などを把握し易くなる。また、編成に関与せずに孤立した編目などを見つけ易いという効果もある。
【0013】
表示部に編幅方向の編目の移動の軌跡を表示することで、編地のどの位置で編目の編幅方向の移動が行われているかを正確に把握することができる。その結果、隣接する編目の間隔が大きく開いている箇所など、特徴的な編成を行っている箇所を把握し易くなる。隣接する編目の間隔が大きく開いている箇所を特定できれば、糸切れが生じないようにデザインデータを修正できる。これに対して、ループシミュレーションの結果からは、編成途中に隣接する編目の間隔が大きく開くことを確認できない。
【0014】
編地の一部を編成するための部分デザインデータに対して仮想編目を設定することで、部分デザインデータの編成過程の全体像を把握できる。部分デザインデータとしては、例えば一つの編地を編成するための既存のデザインデータから組織柄の形成に対応する部分を抜き出したものなどを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態1の編地のデザインシステムの機能ブロック図である。
【
図2】
図2は、編目のウエール方向の連結状態を一直線で描画したデザインシートの表示例を示す図である。
【
図3】
図3は、ウエール方向に繋がる編目の移動の軌跡を描画したデザインシートの表示例を示す図である。
【
図4】
図4は、4枚ベッド横編機を使用した場合における編目の連結状態の描画ルートを示す図である。
【
図5】
図5は、実施形態2で説明するウエール方向に繋がる編目の移動の軌跡を描画したデザインシートの表示例を示す図である。
【
図6】
図6は、
図5とは異なるデザインシートの表示例を示す図である。
【
図7】
図7(A),(B)は、実施形態3で説明する部分デザインデータから編目の連結状態を描画する手順を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の編地のデザインシステムの実施形態の一例を図に基づいて説明する。
【0017】
<実施形態1>
≪全体構成≫
図1の機能ブロック図に示す編地のデザインシステム100は、入力部1と、編集部2と、メモリ3と、表示部4と、を備える。編地のデザインシステム100は、ユーザーが表示部4上で編地をデザインし、そのデザインした編地を横編機に編成させるための編成データを作成するためのものである。編地のデザインシステム100は、2枚ベッド横編機や4枚ベッド横編機などのあらゆる横編機における編地のデザインに利用できる。この編地のデザインシステム100の特徴の一つとして、デザインした編地におけるウエール方向の編目の連結状態を表示部4に表示し、その連結状態を目視にて確認できるように構成されていることが挙げられる。以下、編地のデザインシステム100の各構成を詳細に説明する。
【0018】
≪入力部≫
入力部1は、ユーザーがデザインデータを編集する際に用いられるものであって、キーボード、マウス、スキャナ、又はデジタイザなどの形態で構成される。本例では、入力部1は、表示部4に表示されるデザインシートに編成コードを入力するために用いられる。
【0019】
ここで、表示部4に表示されるデザインシートは、横編機の針床の各編針に対応した複数の編成単位を横方向に並べた編成コースを、縦方向に複数段並べたグリット状の枠となっている。編成単位は、
図2に点線で示すグリッド状の枠(デザインシート6)の一マスであって、一つの編成コードが割り当てられる単位である。このデザインシートの横方向は、針床の長さ方向(複数の編針が並列される方向)に対応する。一方、デザインシートの縦方向は、編成時の時間の経過を示す時間軸である。縦方向は、概ね編地のウエール方向に対応すると考えても良い。
【0020】
デザインシートは更に、度目値(stitch value)、及び針床のラッキングピッチなどを設定する追加シートを備えていても良い。度目値とは、編目を形成する際の編針の引き下げ量のことであり、度目値を変化させることで編目の大きさを変化させられる。ラッキングピッチは、横編機の前針床に対する後針床の長手方向への相対的な移動量のことである。針床のラッキングは、編目を編幅方向に移動させる際などに使用される。
【0021】
各編成単位に入力される編成コードは、横編機に行わせる編成動作を視覚的に区別できるように表現されたアイコンである。例えば編成コードは、色、数字、図形あるいはこれらの組み合わせにより表現される。編成コードに対応する編成動作は予め決められている。例えば、赤色で表される編成コードは、横編機に表目を編成させる編成コード、緑色で表される編成コードは、横編機に裏目を編成させる編成コードというように規定される。もちろん、一つの編成コードで複数の編成動作が規定されていても良い。例えば、表目を編成し、その表目を対向する針床に移動させるといった編成コードが挙げられる。これらの編成コードは、後述するメモリ3の参照用メモリ33に記憶されている。
【0022】
≪編集部≫
編集部2は、編地のデザインに係る種々のデータを作成する機能を有し、例えばコンピュータで構成することができる。この編集部2は、デザインデータ作成部21と、編成データ作成部22と、連結データ作成部23と、表示調整部24とを備える。
【0023】
[デザインデータ作成部]
デザインデータ作成部21は、デザインシートに基づいて、デザインシートにおける各編成単位の位置、及びその位置にある編成コードの情報を含むデザインデータを作成する。つまり、デザインデータは、複数の編成コードの集合体であって、各編成コードの実行順序が規定されたデータである。このデザインデータ作成部21は、USBメモリなどから読み込んだ既存デザインデータに基づいて、編成コードが各所に配置された新たなデザインシートを作成することもできる。
【0024】
[編成データ作成部]
編成データ作成部22は、デザインデータに基づいて横編機に編成を行わせるための編成データを作成する。編成データは、実際の編針の動作、キャリッジの移動、及び編糸の繰り出し手順などが設定されているプログラムである。編成データは、USBメモリなどの記録媒体、有線、又は無線などを介して横編機へ送られる。この編成データは、編地のシミュレーション画像の作成に利用することもできる。
【0025】
[連結データ作成部]
連結データ作成部23は、データ抽出部23Aと導出部23Bとを備え、デザインデータからウエール方向に連続する編目の連結状態を求める。データ抽出部23Aは、デザインデータに基づいて各編成単位の編目の針床上における移動経路及び最終的な移動先に関する情報を抽出する。『編目の最終的な移動先』とは、編成コードで規定される編成動作を実行した後に、編目が係止されている編針の位置である。編目が一時的に預けられている編針の位置は、『移動経路の情報』に含まれる。例えば、ある編成単位において前針床の編針Aに係止される編目を、前針床の2針分左隣の編針Cに移動させる編成コードが設定されている場合、編目は後針床の編針に一旦預けられた後、後針床のラッキングを行ってから前針床の編針Cに移動される。データ抽出部23Aは、この後針床の編針を経由したという情報(移動経路の情報)、及び前針床の編針Cに係止されたという情報(最終的な移動先に関する情報)を抽出し、メモリ3の移動情報用メモリ31に記憶させる。データ抽出部23Aは、全ての編成単位に対して、移動情報の抽出を行う。
【0026】
ここで、編目が移動しないという情報も移動情報に含まれる。例えば、前針床の編針Aに係止される旧編目に表目を編成する編成コードが設定されている場合、表目は前針床の編針Aに係止される。この場合、最終的な編目の移動先は、編成コードを実行する前と同じ編針である。
【0027】
導出部23Bは、移動情報用メモリ31に記憶された移動情報のうち、編目の最終的な移動先の情報に基づいて、デザインデータの始端から終端に向ってウエール方向に連続する編目の連結状態に関する連結情報を求める。例えば始端編目のウエール方向に連続する第一新編目が編成された場合、導出部23Bは、始端編目と第一新編目とがウエール方向に連続するという情報を作成する。更に、導出部23Bは、移動情報に基づいて第一新編目の移動先を辿り、その第一新編目のウエール方向に連続する第二新編目が編成された場合、始端編目と第一新編目と第二新編目とがウエール方向に連続するという情報を作成する。導出部23Bは、この操作を終端編目まで繰り返し、始端編目から終端編目に向ってウエール方向に連続する編目の連結状態に関する連結情報を作成し、連結情報用メモリ32に記憶させる。この導出部23Bは、デザインデータの全ての始端編目に対して同様の操作を行い、各始端編目のウエール方向に連続する編目の連結状態に関する連結情報を作成する。
【0028】
[表示調整部]
表示調整部24は、編集部2内に構築されるデザインデータと対応するデザインシートを表示部4に表示させる。また、表示調整部24は、連結情報用メモリ32に記憶された連結情報に基づいて編目のウエール方向の連結状態を線画で表し、デザインシートに重ねて表示部4に表示させる。線画としては、直線を繋げたものや、矢印などの記号を直線状に並べたものなどが挙げられる。また、前針床に属する線画の色と、後針床に属する線画の色とを異ならせても良い。連結状態の具体的な描画形態として以下の2つの形態が挙げられる。
【0029】
[[第一の描画形態]]
第一の描画形態を
図2に基づいて説明する。
図2にはデザインシート6の一部を図示している。
図2では、デザインシート6のマス目を点線で示している。点線で示す四角形の枠が編成単位6uであり、デザインシート6は、編成単位6uが横方向に並んだ編成コース60が縦方向に複数段並んで構成されている。編成単位6uに入力されたループ形状は、表目を形成する編成コードである。上向き矢印は、前針床から後針床に編目を移動させる編成コードである。『2P』と記載された斜め下向きの矢印は、後針床を2ピッチ移動させ、後針床から前針床に編目を移動させる編成コードである。
図2では、筒状編地の前側編地部の編成コードのみを示しており、後側編地部の編成コードは非表示としている。つまり、編成コードが配置されていない編成コース60には、後針床の編成コードが設定されていると考えて良い。
【0030】
図2では、デザインデータの始端編目7sと終端編目7eを長方形で示し、始端編目7sと終端編目7eとを一直線に結んで表示している。この描画形態によれば、始端編目7sからウエール方向に連続して編成される編目が最終的にどの位置に移動しているかを把握し易い。そのため、デザインデータにおける編成の誤りを発見し易い。例えば、
図2の下から7段目の左端の編成コードを設定し忘れた場合、左端にある始端編目7sから上方向に真っすぐに延びる線画が表示されるので、編成コードの設定が誤りであると容易に把握できる。
【0031】
ここで、後側編地部の連結状態も
図2に表示する場合、始端編目7s及び終端編目の右隣に、後側編地部の始端編目と終端編目を配置し、後側編地部における連結状態を線画で示すと良い。
【0032】
[[第二の描画形態]]
第二の描画形態を
図3に基づいて説明する。
図3のデザインシート6は、
図2と同一である。
図3では、デザインデータにおけるウエール方向に繋がる始端編目7sから終端編目7eにかけて編幅方向の編目の移動の軌跡を表示している。また、
図3では、編目が重なる箇所を黒丸で示している。この描画形態によれば、隣接する編目の間隔が大きく開いている、あるいは重ね目を移動させている、といった糸切れの可能性がある編成を把握し易い。
【0033】
≪メモリ≫
メモリ3は、移動情報を記憶する移動情報用メモリ31と、連結情報を記憶する連結情報用メモリ32と、編成コードを記憶する参照用メモリ33と、を備える。本例では、メモリ3の一部の領域によって各メモリ31~33が構成されている。もちろん、メモリ3は、編地のデザインに関係するその他の情報を記憶することができる。
【0034】
≪表示部≫
表示部4は、編地のデザインに関する情報を視覚的に把握するためのものである。表示する情報としては、上述したデザインシートなどが挙げられる。表示部4としては、例えば液晶ディスプレイなどを挙げることができる。表示部4としてタッチパネルを利用すれば、表示部4に入力部1の役割の一部を担わせることができる。
【0035】
≪効果≫
以上説明した編地のデザインシステム100によれば、
図2,3に示すように、編地のウエール方向の繋がりを視覚的に把握することができる。そのため、編地の編成過程の全体像を把握し易く、デザインデータに基づく編成過程の問題点を見つけ易い。
【0036】
<実施形態2>
実施形態1では、編目の最終的な移動先に関する情報を用いて、編目のウエール方向の連結状態を描画する例を説明した。これに対して、実施形態2では、編目の最終的な移動先だけでなく、最終的な移動先に至る途中の編目の移動経路の情報を加味した連結状態を描画する例を説明する。
【0037】
図4は、デザインシート6の編成単位6uの拡大図である。
図4には、前側編地部の始端編目7sと、後側編地部の始端編目8sとが示されている。各始端編目7s,8sから延びる二点鎖線は、編目が係止される針床に応じた連結状態の描画ルートを示している。図示する例では、下部前針床FD、下部後針床BD、上部前針床FU、及び上部後針床BUを備える4枚ベッド横編機の描画ルートが示されている。例えば、編目が下部前針床FDに係止される間は、連結状態の直線は、図中に左から二番目の二点鎖線の描画ルート上に沿って描画される。
【0038】
ここで、一般的な4枚ベッド横編機では、下部前針床FDに係止される編目は、下部後針床BD、又は上部後針床BUに移動させることができるが、上部前針床FUに移動させることはできない。下部後針床BDに係止される編目は、下部前針床FD、又は上部前針床FUに移動させることができるが、上部後針床BUに移動させることはできない。また、上部前針床FUと上部後針床BUとの間で編目の移動はできない。このような機構に鑑み、
図4に示すように、始端編目7sから始端編目8sに向って、上部後針床BU、下部前針床FD、下部後針床BD、上部前針床FUの順に描画ルートを並べることで、連結状態の直線が非常に見易くなる。
図4の描画ルートに沿って連結状態を描画した例を
図5,6に基づいて説明する。
【0039】
図5では、図示しない追加シートにおいて後針床のラッキングピッチを指定した例を示している。
図5の左端の始端編目7sに続く編目の連結状態を例にして説明すると、下部前針床FDに係止される始端編目7sの二つ上の編成単位で表目の編成コードが設定された後、更に一つ上の編成単位で上部後針床BUに編目を移動させる編成コードが設定されている。そのため、始端編目7sから延びる連結状態を示す直線は、左側に折れ曲がって上部後針床BUの描画ルートに遷移している。下から6段目、8段目、10段目の編成コース60に対しては、追加シートで後針床をラッキングさせる編成コードが設定されており、連結状態を示す直線は左右に折れ曲がった状態になる。11段目の編成コース60では、上部後針床BUから下部前針床FDに編目を移動させる編成コードが設定されているので、連結状態を示す直線は下部前針床FDの描画ルートに遷移し、終端編目7eに繋がっている。その他の始端編目7sについても、編成過程においてどの針床に編目が係止されているかが分かるように、編目の連結状態を描画する。この
図5の図面中央付近を見ると、隣接する編目の間隔が大きく開いていることが分かる。編目の間隔が大きくなると、糸切れなどの不具合が生じる恐れがある。このように、編目の移動過程を含めて編目の連結状態を描画することで、糸切れなどの不具合が生じる可能性がある箇所を容易に特定できる。編目の最終的な移動先のみを繋げて連結状態を描画した場合には、隣接する編目の間隔が大きく開いた状態となっていることを把握することは難しい。
【0040】
また、
図6の例では、9段目の編成コース60で、右から5番目と6番目の始端編目7sのウエール方向に繋がる編目に重ね目(黒丸で示す)が形成されている。これらの重ね目は、13段目の編成コース60で上部後針床BUに移動させた後、14段目の編成コース60で下部前針床FDに移動され、3重の重ね目になっている。重ね目を移動させると、正常に目移しできない恐れがある。このように、編目の移動過程を含めて編目の連結状態を描画することで、糸切れなどの不具合が生じる可能性がある箇所を容易に特定できる。
【0041】
<実施形態3>
デザインデータとして、編地の一部を編成するための部分デザインデータの編成過程の全体像を把握したいというニーズもある。部分デザインデータとしては、例えば、既存のデザインデータの一部を切り出したものや、パッケージデータなどが挙げられる。パッケージデータは、編地の一部を編成するためにデザインシステムに予め記憶されているデザインデータである。例えば、編終りに伏目を施すためのパッケージデータ、特定の組織柄を編成するためのパッケージデータなどがある。
【0042】
ここで、部分デザインデータでは、部分デザインデータより前の編成コースの情報が無く、部分デザインデータの始端編目がどのような状態であるか不明であるため、連結情報を作成することができない。そこで、
図1の導出部23Bは、部分デザインデータの始端の前に、部分デザインデータの編幅よりも広い範囲に亘って仮想編目がある状態を仮定して部分デザインデータの連結情報を求める。仮想編目の設定範囲は、部分デザインデータの編幅よりも左右それぞれに1目以上広い範囲とする。仮想編目の設定範囲は、編成コースの全幅(即ち、針床の編針の全部)であっても良い。更に導出部23Bは、所定数の編成コースを経て編成コードが設定されない仮想編目は削除する。具体的な処理例を
図7(A),(B)に基づいて説明する。
【0043】
図7(A)のデザインシート6は、既存のデザインデータの一部を抜粋した部分デザインデータから得られたものである。デザインシート6の二段目から上が部分デザインデータに対応する。このデザインシート6では、二段目の編成コース60に表目の編成コードが4つ、三段目の編成コース60に対向ベッドへの目移しの編成コードが1つ、四段目の編成コース60に編幅方向への目移しの編成コード(ラッキングと当初ベッドへの目移し)が1つ、六段目の編成コース60に表目の編成コードが3つ配置されている。導出部23Bは、このような部分デザインデータに対して、部分デザインデータの始端の更に下側(デザインシート6の1段目)に、編成コース60の全幅に亘って仮想編目9sを設定する。その仮想編目9sを始端編目とし、実施形態1に示す手順に従って編目のウエール方向の連結情報を作成する。ここで、導出部23Bは、所定数以上の編成コース60を経て編成コードが設定されない仮想編目9sに関する情報については、部分デザインデータの編成に関与しないと判断し、連結情報から削除する(
図7(A)の下段図参照)。所定数としては、例えば3以上とすることができる。もちろん、全ての編成コース60を調べた上で、部分デザインデータの編成に関与しない仮想編目9sを特定しても良い。表示調整部24は、
図7(A)の上段図の状態を表示した後、
図7(A)の下段図の状態を表示しても良いし、上段図の状態を一度も表示せず、下段図の状態のみを表示することもできる。
【0044】
図7(B)のデザインシート6では、3段目の編成コース60に対向ベッドへの目移しの編成コードが1つ、四段目の編成コース60に編幅方向への目移しの編成コードが1つ、六段目の編成コース60に表目の編成コードが4つ配置されている。デザインシート6の二段目から上が部分デザインデータに対応する。この例においても、導出部23Bは、部分デザインデータの始端の更に下側に、編成コース60の全幅に亘って仮想編目9sを設定し、編目のウエール方向の連結情報を作成する。そして導出部23Bは、
図7(B)の中段図に示すように、部分デザインデータの編成に関与しない仮想編目9sに関する関連する情報については、連結情報から削除する。ここで、本例の導出部23Bは、
図7(B)の下段図に示すように、黒点で示される重ね目が形成されるまでの間、編成コードが設定されていない左から二番目の仮想編目9sについても部分デザインデータの編成に関与しないと判断し、当該仮想編目9sに関する情報を連結情報から削除している。
【0045】
以上説明した導出部23Bの処理によって、既存のデザインデータの一部である部分デザインデータであっても、部分デザインデータにおける編目のウエール方向の連結状態を視覚的に把握できる。そのため、部分デザインデータの編成過程の全体像を容易に把握できるため、既存のデザインデータを容易に改良できる。
【符号の説明】
【0046】
100 編地のデザインシステム
1 入力部
2 編集部
21 デザインデータ作成部
22 編成データ作成部
23 連結データ作成部 23A データ抽出部 23B 導出部
24 表示調整部
3 メモリ
31 移動情報用メモリ
32 連結情報用メモリ
33 参照用メモリ
4 表示部
6 デザインシート 6u 編成単位 60 編成コース
7e 終端編目 7s,8s 始端編目
9s 仮想編目