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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ホイールローダ
(51)【国際特許分類】
   E02F 9/26 20060101AFI20221004BHJP
   E02F 9/24 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
E02F9/26 B
E02F9/24 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019067674
(22)【出願日】2019-03-29
(65)【公開番号】P2020165219
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 和之
(72)【発明者】
【氏名】瓜本 義和
【審査官】宇都宮 啓明
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-238097(JP,A)
【文献】特開2011-163048(JP,A)
【文献】特開平11-171492(JP,A)
【文献】特開平06-193097(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0275469(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/24,9/26
B66F 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部および車体後部で構成される車体と、
前記車体前部に設けられた前輪および前記車体後部に設けられた後輪と、
前記車体前部に取り付けられ、掘削作業に用いられるバケットを有する作業機と、
を備えるホイールローダにおいて、
前記バケットの動作状態を検出する動作状態センサと、
前記車体の傾斜状態を検出する傾斜状態センサと、
前記作業機の掘削反力により前記後輪が上方に浮き上がる後輪浮の状態を判定するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記動作状態センサで検出される前記バケットの動作状態の時間変化率が、前記掘削作業における前記バケットのチルト動作に必要とされる範囲の前記バケットの動作状態の時間変化率である第1時間変化率となり、かつ前記傾斜状態センサで検出される前記車体の傾斜状態の時間変化率が、前記車体後部の前記車体前部に対する斜め上方への傾斜動作に相当する範囲の前記車体の傾斜状態の時間変化率である第2時間変化率となる場合に、前記バケットの動作状態と前記車体の傾斜状態との相関を示す相関フラグをオンにして前記後輪浮の状態を判定する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項2】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記コントローラは、
前記相関フラグがオンとなっている状態が所定の設定時間以上継続した場合に、前記後輪浮の状態を判定する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項3】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記動作状態センサは、前記バケットの動作角度を検出するバケット角センサであり、
前記傾斜状態センサは、水平方向に対する前記車体の傾斜角度を検出する傾斜角センサであり、
前記コントローラは、
前記バケット角センサで検出される前記バケットの動作角度の時間変化率と、前記傾斜角センサで検出される前記車体の傾斜角度の時間変化率と、に基づいて、前記後輪浮の状態を判定する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項4】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記バケットを駆動する油圧シリンダに作動油を供給する油圧ポンプと、
前記油圧ポンプの吐出圧を検出する吐出圧センサと、
を備え、
前記コントローラは、
前記動作状態センサで検出される前記バケットの動作状態の時間変化率が前記第1時間変化率となり、かつ前記傾斜状態センサで検出される前記車体の傾斜状態の時間変化率が前記第2時間変化率となると共に、前記吐出圧センサで検出される前記油圧ポンプの吐出圧が前記掘削作業における前記バケットのチルト動作に必要な吐出圧となる場合に、前記後輪浮の状態を判定する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項5】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記バケットを操作するためのバケット操作装置を備え、
前記動作状態センサは、前記バケットの動作状態の時間変化率に比例する前記バケット操作装置の操作量を検出する操作量センサであり、
前記傾斜状態センサは、水平方向に対する前記車体の傾斜角度を検出する傾斜角センサであり、
前記コントローラは、
前記操作量センサで検出される前記バケット操作装置の操作量と、前記傾斜角センサで検出される前記車体の傾斜角度の時間変化率と、に基づいて、前記後輪浮の状態を判定する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項6】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
車速を検出する車速センサを備え、
前記コントローラは、
前記動作状態センサで検出される前記バケットの動作状態の時間変化率が前記第1時間変化率となり、かつ前記傾斜状態センサで検出される前記車体の傾斜状態の時間変化率が前記第2時間変化率となると共に、前記車速センサで検出される車速が前記掘削作業に対応した車速である場合に、前記後輪浮の状態を判定する
ことを特徴とするホイールローダ。
【請求項7】
請求項1に記載のホイールローダにおいて、
前記コントローラは、
前記後輪浮の状態を判定した場合、前記車体が前記後輪浮の状態にあることをモニタに出力する
ことを特徴とするホイールローダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土砂や鉱物等を掘削してダンプトラック等へ積み込む荷役作業を行うホイールローダに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイールローダや油圧ショベル等の作業車両では、車体の前部に取り付けられた作業機で土砂や鉱物等の掘削対象物を掘削する場合に、作業機の掘削反力によって車体が傾倒したり転倒したりする可能性がある。
【0003】
特に、ホイールローダでは、掘削対象物が頑強あるいは重いと、作業機の掘削反力により後輪が上方に浮き上がってしまう後輪浮となることがある。このような後輪浮の状態での作業(以下、「後輪浮作業」とする)は、車体の安定性が損なわれる。また、上方に浮き上がった後輪が元の位置に戻る際には、後輪と地面との衝突により車体に大きな衝撃が加わるため、車体の寿命にも悪影響を及ぼすことになる。
【0004】
そこで、作業車両では、車体が傾倒あるいは転倒しそうな状態であることを検知することにより、車体の安定性を確保している。例えば、特許文献1に記載された油圧ショベルでは、油圧ショベルの傾斜角、油圧ショベルの旋回位置、および掘削アタッチメントの姿勢に応じて所定の閾値を決定し、水平面に対する油圧ショベルの傾斜角の変化(傾斜角速度)が所定の閾値以上である場合に、操作者に対して車体の転倒の兆候が現れた旨の警告を発する転倒防止装置を備えることにより、車体の転倒を未然に防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-238097号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の転倒防止装置をホイールローダに適用して後輪浮を判定することが考えられるが、その場合、後輪浮の判定基準となる所定の閾値が車体の傾斜角およびバケットの姿勢に応じて決定されることになる。ホイールローダでは、坂道を走行しながら作業機を動作させる作業の際、例えば、ホイールローダが下り坂に差し掛かった際にバケットをチルトすると、後輪浮作業時と同様の車体の傾斜角およびバケットの姿勢の条件が見かけ上揃う場合がある。したがって、ホイールローダが坂道を走行する際に、後輪浮との誤判定が発生しやすくなる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、後輪浮の誤判定を低減することが可能なホイールローダを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、車体前部および車体後部で構成される車体と、前記車体前部に設けられた前輪および前記車体後部に設けられた後輪と、前記車体前部に取り付けられ、掘削作業に用いられるバケットを有する作業機と、を備えるホイールローダにおいて、前記バケットの動作状態を検出する動作状態センサと、前記車体の傾斜状態を検出する傾斜状態センサと、前記作業機の掘削反力により前記後輪が上方に浮き上がる後輪浮の状態を判定するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記動作状態センサで検出される前記バケットの動作状態の時間変化率が、前記掘削作業における前記バケットのチルト動作に必要とされる範囲の前記バケットの動作状態の時間変化率である第1時間変化率となり、かつ前記傾斜状態センサで検出される前記車体の傾斜状態の時間変化率が、前記車体後部の前記車体前部に対する斜め上方への傾斜動作に相当する範囲の前記車体の傾斜状態の時間変化率である第2時間変化率となる場合に、前記バケットの動作状態と前記車体の傾斜状態との相関を示す相関フラグをオンにして前記後輪浮の状態を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、後輪浮の誤判定を低減することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るホイールローダの外観を示す側面図である。
図2】作業機の駆動に係る油圧回路図である。
図3】ホイールローダの後輪浮作業について説明する説明図である。
図4】バケットの動作方向に係る符号の取り方について説明する説明図である。
図5】車体の傾斜方向に係る符号の取り方について説明する説明図である。
図6】コントローラが有する機能を示す機能ブロック図である。
図7】コントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図8】変形例1に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図9】変形例2に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図10】変形例3に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
図11】変形例4に係るコントローラで実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係るホイールローダの構成について、図1~7を参照して説明する。
【0012】
<ホイールローダ1の全体構成>
まず、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の全体構成について、図1を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るホイールローダ1の外観を示す側面図である。
【0014】
ホイールローダ1は、車体が中心付近で中折れすることにより操舵されるアーティキュレート式の作業車両である。具体的には、車体前部となる前フレーム1Aと車体後部となる後フレーム1Bとが、センタジョイント10によって左右方向に回動自在に連結されており、前フレーム1Aが後フレーム1Bに対して左右方向に屈曲する。
【0015】
前フレーム1Aには左右一対の前輪11Aが、後フレーム1Bには左右一対の後輪11Bが、それぞれ設けられており、車体全体では4つの車輪を備えている。なお、図1では、4つの車輪のうち、左側の前輪11Aおよび左側の後輪11Bのみを示している。
【0016】
ホイールローダ1は、例えば露天掘り鉱山等において、前フレーム1Aに取り付けられた作業機2を用いて土砂や鉱物等を掘削してダンプトラック等へ積み込む荷役作業を行う。
【0017】
作業機2は、前フレーム1Aに取り付けられたリフトアーム21と、伸縮することによりリフトアーム21を前フレーム1Aに対して上下方向に回動させる2つのリフトアームシリンダ22と、リフトアーム21の先端部に取り付けられたバケット23と、伸縮することによりバケット23をリフトアーム21に対して上下方向に回動させるバケットシリンダ24と、リフトアーム21に回動可能に連結されてバケット23とバケットシリンダ24とのリンク機構を構成するベルクランク25と、2つのリフトアームシリンダ22やバケットシリンダ24へ圧油を導く複数の配管(不図示)と、を有している。
【0018】
2つのリフトアームシリンダ22およびバケットシリンダ24はそれぞれ、作業機2を駆動する油圧シリンダの一態様である。なお、図1では、車体の左右方向に並ぶ2つのリフトアームシリンダ22のうち、左側に配置されたリフトアームシリンダ22のみを破線で示している。
【0019】
リフトアーム21は、2つのリフトアームシリンダ22それぞれのロッド220が伸びることにより上方向に回動し、2つのリフトアームシリンダ22それぞれのロッド220が縮むことにより下方向に回動する。
【0020】
バケット23は、バケットシリンダ24のロッド240が伸びることによりチルト(リフトアーム21に対して上方向に回動)し、バケットシリンダ24のロッド240が縮むことによりダンプ(リフトアーム21に対して下方向に回動)する。なお、バケット23は、例えばブレード等の各種アタッチメントに交換することが可能であり、バケット23を用いた掘削作業の他に、押土作業や除雪作業等の各種作業を行うこともできる。
【0021】
また、後フレーム1Bには、オペレータが搭乗する運転室12と、ホイールローダ1を駆動するために必要な各機器を内部に収容する機械室13と、車体が傾倒しないように作業機2とのバランスを保つためのカウンタウェイト14と、が設けられている。後フレーム1Bにおいて、運転室12は前部に、カウンタウェイト14は後部に、機械室13は運転室12とカウンタウェイト14との間に、それぞれ配置されている。
【0022】
<作業機2の駆動システムについて>
次に、作業機2の駆動システムについて、図2を参照して説明する。
【0023】
図2は、作業機2の駆動に係る油圧回路図である。
【0024】
ホイールローダ1は、作業機2を駆動させるための作業機用油圧回路3を備えている。作業機用油圧回路3には、エンジン30により駆動される油圧ポンプ31と、リフトアームシリンダ22と、バケットシリンダ24と、油圧ポンプ31から吐出されてリフトアームシリンダ22およびバケットシリンダ24のそれぞれに流入する作動油の流れ(方向および流量)を制御するコントロールバルブ32と、作動油を貯蔵する作動油タンク33と、が設けられている。なお、図2では、構成を簡略化するため、2つのリフトアームシリンダ22のうち一方のリフトアームシリンダ22のみを示している。
【0025】
油圧ポンプ31は、作動油タンク33から吸入した作動油をリフトアームシリンダ22およびバケットシリンダ24のそれぞれに供給する。図2では、油圧ポンプ31は、固定容量型の油圧ポンプであるが、これに限らず、可変容量型の油圧ポンプであってもよい。
【0026】
油圧ポンプ31の吐出圧は、油圧ポンプ31の吐出側に接続された吐出管路301上の吐出圧センサ41により検出される。吐出圧センサ41で検出される吐出圧は、作業機2の動作状態により変動する。
【0027】
コントロールバルブ32は、油圧ポンプ31とリフトアームシリンダ22およびバケットシリンダ24との間に設けられている。具体的には、コントロールバルブ32は、吐出管路301により油圧ポンプ31に、一対のリフトアーム側接続管路302A,302Bによりリフトアームシリンダ22に、一対のバケット側接続管路303A,303Bによりバケットシリンダ24に、それぞれ接続されている。また、コントロールバルブ32は、排出管路304により作動油タンク33に接続されている。
【0028】
リフトアームシリンダ22は、リフトアーム21を操作するためのリフトアーム操作装置としてのリフトアーム操作レバー21Aの操作に基づいて駆動する。バケットシリンダ24は、バケット23を操作するためのバケット操作装置としてのバケット操作レバー23Aの操作に基づいて駆動する。リフトアーム操作レバー21Aおよびバケット操作レバー23Aはそれぞれ、油圧パイロット式の操作レバーであり、運転室12(図1参照)内に設けられている。
【0029】
オペレータがリフトアーム操作レバー21Aを操作すると、その操作量に比例したパイロット圧が操作信号として生成される。生成されたパイロット圧は、一対のパイロット管路305L,305Rに導かれてコントロールバルブ32の左右の受圧室に作用し、コントロールバルブ32の内部スプールが当該パイロット圧に応じてストロークする。これにより、油圧ポンプ31から吐出された作動油は、リフトアーム操作レバー21Aの操作に応じた方向および流量にしたがってリフトアームシリンダ22に流入する。
【0030】
同様に、オペレータがバケット操作レバー23Aを操作すると、その操作量に比例したパイロット圧が一対のパイロット管路306L,306Rに導かれてコントロールバルブ32の左右の受圧室に作用し、コントロールバルブ32の内部スプールが当該パイロット圧に応じてストロークする。これにより、油圧ポンプ31から吐出された作動油は、バケット操作レバー23Aの操作に応じた方向および流量にしたがってバケットシリンダ24に流入する。
【0031】
例えば、ホイールローダ1が掘削作業を行う場合には、掘削対象物にバケット23を突っ込んだ上でチルトさせる。オペレータがバケット操作レバー23Aをチルト方向に操作すると、油圧ポンプ31から吐出されて吐出管路301を通った作動油は、コントロールバルブ32を介して一方のバケット側接続管路303Bに導かれ、バケットシリンダ24のボトム室24Bに流入する。一方で、バケットシリンダ24のロッド室24A内の作動油は、他方のバケット側接続管路303Aに流出し、コントロールバルブ32を介して排出管路304に導かれ、作動油タンク33に排出される。これにより、バケットシリンダ24のロッド240が伸長してバケット23がチルトする。
【0032】
本実施形態では、バケット操作レバー23Aの操作量を検出する操作量センサとしてのパイロット圧センサ42が、一対のパイロット管路306L,306R上に設けられている。このパイロット圧センサ42は、バケット23の動作状態を検出する動作状態センサの一態様でもある。なお、本実施形態では、バケット操作レバー23Aが油圧パイロット式の操作レバーであったため、パイロット圧センサ42によりバケット操作レバー23Aの操作量を検出しているが、バケット操作レバー23Aは電気式の操作レバーでもよく、その場合にはバケット操作レバー23Aから出力された電流値によりバケット操作レバー23Aの操作量を検出することができる。
【0033】
<後輪浮作業について>
次に、ホイールローダ1の後輪浮作業について、図3~5を参照して説明する。
【0034】
図3は、ホイールローダ1の後輪浮作業について説明する説明図である。図4は、バケット23の動作方向に係る符号の取り方について説明する説明図である。図5は、車体の傾斜方向に係る符号の取り方について説明する説明図である。
【0035】
ホイールローダ1が掘削作業を行う場合において、掘削対象物が頑強あるいは重いと、バケット23の掘削力(チルトするための駆動力)の反力によって後輪11Bが上方に浮き上がる後輪浮となることがある。
【0036】
具体的には、図3(a)に示すように、ホイールローダ1は、まず、掘削対象物である土砂や鉱物等で形成された地山Xにバケット23を突っ込む。次に、図3(b)に示すように、ホイールローダ1は、地山Xに突っ込んだ状態のバケット23をチルトさせる。このとき、地山Xの硬さや重さに対応させて、バケット23の掘削力を大きくしていく。すると、バケット23の掘削反力によって後輪11Bが地面Yから離れる。そして、バケット23をさらにチルトさせていくとバケット23の掘削力に応じて反力も大きくなっていき、図3(c)に示すように、後輪11Bが地面Yの上方に浮き上がり、車体の前側(車体前部)に対して後側(車体後部)が斜め上方に傾斜した状態となる。
【0037】
なお、図3(c)では、後輪11Bだけでなく前輪11Aも地面Yから浮き上がった状態を示しているが、後輪浮は、少なくとも後輪11Bがバケット23の掘削反力によって上方に浮き上がることを指す。したがって、図3(b)および図3(c)の状態が、後輪浮の状態となる。ホイールローダ1がこのような後輪浮の状態で掘削を行うことを「後輪浮作業」という。
【0038】
後輪浮作業は、車体が不安定な状態での作業となり、また、地面Yの上方に浮き上がった後輪11Bが元の位置に戻る際に後輪11Bが地面Yに衝突することで車体に大きな衝撃が加わり、車体の寿命に悪影響を及ぼしかねない。そこで、ホイールローダ1では、後述するコントローラ5(図6参照)により、後輪浮の状態を精度よく判定している。
【0039】
後輪浮は、バケット23が上方向に動作している状態、かつ車体の後側が前側に対して斜め上方向に傾斜している状態となる。バケット23の動作方向について、例えば図4に示すように、バケット23を動作させていない状態を基準(ゼロ)として、バケット23の後端部を中心として前端部が上方向に回動するチルト方向をプラス方向とし、バケット23の後端部を中心として前端部が下方向に回動するダンプ方向をマイナス方向とする。
【0040】
車体の傾斜方向についてもバケット23の動作方向と同様の符号の取り方とすると、図5に示すように、車体が平面上に設置されている状態を基準(ゼロ)として、車体の後端部を中心として前端部が上方向に傾斜する場合、すなわち車体後部に対して車体前部が斜め上方に傾斜している場合がプラス方向となり、車体の後端部を中心として前端部が下方向に傾斜する場合、すなわち車体前部に対して車体後部が斜め上方に傾斜している場合がマイナス方向となる。
【0041】
したがって、後輪浮の状態では、バケット23の動作方向はプラス方向となり、車体の傾斜方向はマイナス方向となり、バケット23の動作方向と車体の傾斜方向とは、符号が反対となる。なお、バケット23の動作方向と車体の傾斜方向との間における符号の取り方は、図4および図5に示したものに限られない。
【0042】
バケット23の動作状態は、本実施形態では、バケット23の動作角度φ(以下、単に「バケット動作角度φ」とする)を検出するバケット角センサとしてのバケットIMU43により検出される。すなわち、バケットIMU43は、バケット23の動作状態を検出する動作状態センサの一態様である。なお、バケットIMU43は、3軸のジャイロと3方向の加速度計とにより3次元の角速度および加速度を求める慣性計測装置(Inertial Measurement Unit)であり、バケット23の角速度および加速度に基づいてバケット動作角度φを検出するが、バケット角センサとしては、バケット動作角度φを直接測る機械式の角度センサを用いてもよい。
【0043】
また、動作状態センサは、バケットIMU43といったバケット角センサや前述したパイロット圧センサ42に限らず、他にも、バケットシリンダ24のシリンダ長(ロッド240の伸縮長)を検出するセンサやバケットシリンダ24に掛かる圧力を検出するセンサ等であってもよく、また、これらのセンサを組み合わせてバケット23の動作状態を検出してもよい。
【0044】
バケット23がチルトしている場合、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φはプラスの値となり、バケット23がダンプしている場合、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φはマイナスの値となる。
【0045】
水平方向に対する車体の傾斜状態は、本実施形態では、水平方向に対する車体の傾斜角度θ(以下、単に「車体傾斜角度θ」とする)として、車体IMU44で検出されるIMU角速度およびIMU加速度、ならびに車速センサ45で検出される車速Vに基づき、後述するコントローラ5にて随時推定される。すなわち、車体IMU44および車速センサ45は、車体傾斜角度θを検出する傾斜角センサであって、水平方向に対する車体の傾斜状態を検出する傾斜状態センサの一態様である。車体IMU44は、バケットIMU43と同様に、慣性計測装置(Inertial Measurement Unit)である。車速センサ45は、車輪11A,11Bの回転数を計測することにより車速Vを検出する。
【0046】
なお、傾斜状態センサは、必ずしも車体IMU44および車速センサ45を用いた傾斜角センサである必要はなく、例えば、前輪11Aと後輪11Bとに掛かる荷重(圧力)に基づいて水平方向に対する車体の傾斜状態を検出してもよい。
【0047】
水平方向に対して車体の前側が斜め上方に傾斜している場合、車体IMU44および車速センサ45に基づいて推定される車体傾斜角度θはプラスの値となり、水平方向に対して車体の後側が斜め上方に傾斜している場合、車体IMU44および車速センサ45に基づいて推定される車体傾斜角度θはマイナスの値となる。
【0048】
<コントローラ5の機能構成>
次に、コントローラ5の機能構成について、図6を参照して説明する。
【0049】
図6は、コントローラ5が有する機能を示す機能ブロック図である。
【0050】
コントローラ5は、CPU、RAM、ROM、HDD、入力I/F、および出力I/Fがバスを介して互いに接続されて構成される。そして、吐出圧センサ41、パイロット圧センサ42、バケットIMU43、車体IMU44、および車速を検出する車速センサ45といった各種のセンサ等が入力I/Fに接続され、運転室12(図1参照)内に設けられたモニタ12A等が出力I/Fに接続されている。なお、モニタ12Aは、コントローラ5によって判定された後輪浮の状態をオペレータに通知するための通知装置の一態様である。
【0051】
このようなハードウェア構成において、ROMやHDD若しくは光学ディスク等の記録媒体に格納された演算プログラム(ソフトウェア)をCPUが読み出してRAM上に展開し、展開された演算プログラムを実行することにより、演算プログラムとハードウェアとが協働して、コントローラ5の機能を実現する。
【0052】
なお、本実施形態では、コントローラ5をソフトウェアとハードウェアとの組み合わせによって構成されるコンピュータとして説明しているが、これに限らず、例えば他のコンピュータの構成の一例として、ホイールローダ1の側で実行される演算プログラムの機能を実現する集積回路を用いてもよい。
【0053】
コントローラ5は、データ取得部50と、車体傾斜角度推定部51と、変化率算出部52と、相関判定部53と、後輪浮判定部54と、信号出力部55と、カウント部56と、記憶部57と、を含む。
【0054】
データ取得部50は、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φ、車体IMU44で検出されるIMU角速度およびIMU加速度、および車速センサ45で検出される車速Vに関するデータをそれぞれ取得する。
【0055】
車体傾斜角度推定部51は、データ取得部50で取得されるIMU角速度、IMU加速度、および車速Vに基づいて、車体傾斜角度θを随時推定する。
【0056】
変化率算出部52は、データ取得部50で取得されるバケット動作角度φに基づいてバケット動作角度の時間変化率αを算出し、車体傾斜角度推定部51で推定される車体傾斜角度θに基づいて車体傾斜角度の時間変化率βを算出する。
【0057】
相関判定部53は、変化率算出部52で算出されたバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であるか否かを判定する。この「第1変化率閾値αth」は、掘削作業の開始時に必要なバケット23のチルト角度の時間変化率である。本実施形態では、第1変化率閾値αthはプラスの値となる(αth>0)。
【0058】
また、相関判定部53は、変化率算出部52で算出された車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であるか否かを判定する。この「第2変化率閾値βth」は、車体後部の車体前部に対する斜め上方への傾斜開始時に必要な車体傾斜角度の時間変化率である。本実施形態では、第2変化率閾値βthはマイナスの値となる(βth<0)。すなわち、第2変化率閾値βthの符号(マイナス)は、第1変化率閾値αthの符号(プラス)と異なる。
【0059】
そして、相関判定部53は、バケット動作角度の時間変化率αおよび車体傾斜角度の時間変化率βの判定結果に応じて、バケット23の動作状態と車体の傾斜状態との相関を示す相関フラグをオンまたはオフとする。
【0060】
具体的には、相関判定部53は、バケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって(α≧αth)、かつ車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下である(β≦βth)と判定した場合には、相関フラグをオンとする(相関フラグ=1)。
【0061】
すなわち、変化率算出部52で算出されたバケット動作角度の時間変化率αが、掘削作業におけるバケット23のチルト動作に必要なバケット動作角度の時間変化率(第1時間変化率)となり、かつ変化率算出部52で算出された車体傾斜角度の時間変化率βが、車体後部の車体前部に対する斜め上方への車体傾斜角度の時間変化率(第2時間変化率)となる場合に、相関フラグがオンされる。
【0062】
本実施形態では、バケット23のチルト方向をプラス方向としているため、バケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上(α≧αth)となる場合が第1時間変化率に該当することとなる。そして、車体後部が車体前部に対して斜め上方に傾斜する方向をマイナス方向しているため、車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下(β≦βth)となる場合が第2時間変化率に該当することとなる。
【0063】
なお、前述したように、バケット23のチルト方向および車体後部の車体前部に対する斜め上方への傾斜方向の符号の取り方は種々あるため、例えば、バケット23のチルト方向をマイナス方向とし、車体後部の車体前部に対する斜め上方への傾斜方向をプラス方向とすると、バケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以下(α≦αth)となる場合が第1時間変化率に該当することとなり、車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以上(β≧βth)となる場合が第2時間変化率に該当することとなる。
【0064】
また、例えば、バケット23のチルト方向および車体後部の車体前部に対する斜め上方への傾斜方向の両方をプラス方向とすると、バケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上(α≧αth)となる場合が第1時間変化率に該当することとなり、車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以上(β≧βth)となる場合が第2時間変化率に該当することとなる。
【0065】
このように、バケット23のチルト方向および車体後部の車体前部に対する斜め上方への傾斜方向の符号の取り方によって、バケット動作角度の時間変化率αと第1変化率閾値αthとの大小関係および車体傾斜角度の時間変化率βと第2変化率閾値βthとの大小関係は変わるため、本実施形態に示す大小関係に限られない。
【0066】
また、相関判定部53は、バケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth未満(α<αth)、または車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βthよりも大きい(β>βth)と判定した場合には、相関フラグをオフとする(相関フラグ=0)。
【0067】
後輪浮判定部54は、相関判定部53において相関フラグがオンとなった場合に、後輪浮フラグをオンにして後輪浮の状態を判定する(後輪浮フラグ=1)。本実施形態では、後輪浮判定部54は、相関フラグがオンとなっている状態が所定の設定時間T以上継続した場合に、後輪浮フラグをオンにして後輪浮の状態を判定する(後輪浮フラグ=1)。これにより、例えば、ホイールローダ1が下り坂に差し掛かったと同時にバケット23がチルト動作された場合等、後輪浮作業以外の作業にて後輪浮を示す条件を満たす場合に、後輪浮の誤判定を防止することができる。
【0068】
なお、後輪浮判定部54は、相関フラグがオンとなっている状態が所定の設定時間T以上継続せずにオフとなった場合であっても、相関判定部53において前回の後輪浮フラグがオンされており(前回の後輪浮フラグ=1)、かつ車体傾斜角度θが傾斜角度閾値θth以下である(θ≦θth)場合には、後輪浮フラグをオンにして後輪浮の状態を判定する(後輪浮フラグ=1)。ここで、「傾斜角度閾値θth」とは、車体後部の車体前部に対する斜め上方への傾斜開始時に必要な車体傾斜角度であり、本実施形態ではマイナスの値となる。
【0069】
後輪浮となるまではバケット動作角度φおよび車体傾斜角度θはいずれも変化し続けるため、相関判定部53において相関フラグはオンとなるが、後輪浮の状態を維持した場合、すなわち後輪浮作業中はバケット動作角度φおよび車体傾斜角度θはいずれも変化が無くなり、相関判定部53において相関フラグがオンからオフとなってしまう。この場合に、コントローラ5は、後輪浮判定部54において後輪浮フラグをオフ(後輪浮フラグ=0)にしないようにし、後輪浮の状態が解消したとの誤判定を回避している。
【0070】
信号出力部55は、後輪浮判定部54において後輪浮の状態が判定された場合、後輪浮の状態を通知するための指令信号をモニタ12Aに対して出力する。ホイールローダ1が後輪浮の状態であることをモニタ12Aによりオペレータに通知することで、後輪浮作業を中止するよう注意を促すことができる。
【0071】
カウント部56は、後輪浮判定部54における後輪浮の状態の判定回数をカウントし、記憶部57に記録させる。このように、コントローラ5において後輪浮の状態の判定回数についてログを残すことにより、ホイールローダ1が適切に使用されるよう、管理を行うことが可能となる。
【0072】
記憶部57はメモリであって、このメモリには、第1変化率閾値αth、第2変化率閾値βth、所定の設定時間T、および傾斜角度閾値θthがそれぞれ記憶されている。
【0073】
<コントローラ5内での処理>
次に、コントローラ5で実行される具体的な処理の流れについて、図7を参照して説明する。
【0074】
図7は、コントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0075】
まず、車体傾斜角度推定部51は、データ取得部50で取得されるIMU角速度、IMU加速度、および車速Vに基づいて、車体傾斜角度θを随時推定する(ステップS500)。データ取得部50は、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φを取得する(ステップS501)。
【0076】
次に、変化率算出部52は、ステップS501で取得されたバケット動作角度φに基づいてバケット動作角度の時間変化率αを算出すると共に、ステップS500で推定された車体傾斜角度θに基づいて車体傾斜角度の時間変化率βを算出する(ステップS502)。
【0077】
次に、相関判定部53は、ステップS502で算出されたバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって、かつステップS502で算出された車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であるか否かを判定する(ステップS503)。
【0078】
ステップS503においてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって(α≧αth)、かつ車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下である(β≦βth)と判定された場合(ステップS503/YES)、相関判定部53は相関フラグをオン(相関フラグ=1)とする(ステップS504)。一方、ステップS503においてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth未満(α<αth)、かつ車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βthより大きい(β>βth)と判定された場合(ステップS503/NO)、相関判定部53は相関フラグをオフ(相関フラグ=0)とする(ステップS505)。
【0079】
ステップS504において相関フラグがオンされると、後輪浮判定部54は、相関フラグがオンとなっている状態が所定の設定時間T以上継続したか否かを判定する(ステップS506)。ステップS506において相関フラグがオンとなっている状態が所定の設定時間T以上継続したと判定された場合(ステップS506/YES)、後輪浮判定部54は後輪浮フラグをオン(後輪浮フラグ=1)にして後輪浮の状態を判定する(ステップS507)。
【0080】
次に、信号出力部55は、後輪浮の状態を通知するための指令信号をモニタ12Aに対して出力する(ステップS508)。次に、カウント部56は、後輪浮の状態の判定回数をカウントし、記憶部57に記憶させる(ステップS509)。そして、コントローラ5は、ステップS501に戻って処理を繰り返す。なお、ステップS508とステップS509との間に順序の制約はなく、ステップS509を先に実行してもよいし、ステップS508およびステップS509を同時に実行してもよい。
【0081】
ステップS506において相関フラグがオンとなっている状態が所定の設定時間T以上継続せずにオフとなった場合(ステップS506/NO)、およびステップS505において相関フラグがオフとなった場合(相関フラグ=0)、後輪浮判定部54は、前回の後輪浮フラグがオンであったか否かを判定する(ステップS510)。
【0082】
ステップS510において前回の相関フラグがオンであった(前回の相関フラグ=1)と判定された場合(ステップS510/YES)、後輪浮判定部54は、ステップS501で取得される車体傾斜角度θが傾斜角度閾値θth以下であるか否かを判定する(ステップS511)。なお、ステップS511では、例えば車体傾斜角度θの絶対値にて判定を行ってもよく、その場合、車体傾斜角度の絶対値|θ|が傾斜角度閾値の絶対値|θth|以上であるか否かを判定する。
【0083】
ステップS511において車体傾斜角度θが傾斜角度閾値θth以下である(θ≦θth)と判定された場合(ステップS511/YES)、ステップS507に進み、後輪浮フラグをオンにする(後輪浮フラグ=1)。
【0084】
ステップS510において前回の後輪浮フラグがオフであった(前回の後輪浮フラグ=0)と判定された場合(ステップS510/NO)、およびステップS511において車体傾斜角度θが傾斜角度閾値θthよりも大きい(θ>θth)と判定された場合はいずれも、後輪浮判定部54は後輪浮フラグをオフにして(後輪浮フラグ=0)、後輪浮の状態が解消となる(ステップS512)。そして、コントローラ5は、ステップS501に戻って処理を繰り返す。
【0085】
このように、コントローラ5は、バケット23の動作状態の時間変化率と車体の傾斜状態の時間変化率とに基づいて後輪浮の状態を判定しているため、バケット23の動作状態と車体の傾斜状態とに基づいて後輪浮の状態を判定した場合と比べて、より精度良く後輪浮の状態を判定することができる。
【0086】
仮に、バケット動作角度φが掘削作業の開始時に必要なチルト角度閾値φth以上であって(φ≧φth)、かつ車体傾斜角度θが傾斜角度閾値θth以下である(θ≦θth)角度条件について判定した場合には、例えばホイールローダ1が下り坂を走行する際にバケット23をチルトさせると当該角度条件を満たすことがあり、後輪浮との誤判定が発生しやすくなる。
【0087】
しかしながら、バケット動作角度の時間変化率αと車体傾斜角度の時間変化率βとに基づいた時間変化率条件について判定した場合には、バケット動作角度φの変化および車体傾斜角度θの変化が起きていることが後輪浮の判定条件となるため、ホイールローダ1が坂道を走行している際における後輪浮の誤判定を低減することができる。
【0088】
<変形例1>
次に、変形例1に係るコントローラ5について、図8を参照して説明する。図8において、実施形態に係るコントローラ5について説明したものと共通する構成要素については、同一の符号を付してその説明を省略する。以下、変形例2~4についても同様とする。
【0089】
図8は、変形例1に係るコントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0090】
変形例1に係るコントローラ5では、データ取得部50は、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φに加えて、吐出圧センサ41で検出される油圧ポンプ31の吐出圧Paを取得する(ステップS501A)。
【0091】
そして、相関判定部53は、ステップS502で算出されたバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって、かつステップS502で算出された車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であると共に、ステップS501Aで取得された吐出圧Paが吐出圧閾値Path以上であるか否かを判定する(ステップS503A)。ここで、「吐出圧閾値Path」とは、掘削作業の開始時におけるバケット23のチルト動作に必要な吐出圧である。
【0092】
ステップS503Aにおいてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって(α≧αth)、かつ車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下である(β≦βth)と共に、吐出圧Paが吐出圧閾値Path以上である(Pa≧Path)と判定された場合(ステップS503A/YES)、ステップS504に進んで相関判定部53は相関フラグをオンにする(相関フラグ=1)。すなわち、相関フラグをオンにする条件として、バケット動作角度の時間変化率の条件および車体傾斜角度の時間変化率の条件に加えて、吐出圧センサ41で検出される吐出圧Paが掘削作業におけるバケット23のチルト動作に必要な吐出圧となる必要がある。
【0093】
一方、ステップS503Aにおいてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth未満(α<αth)、または車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βthよりも大きい(β>βth)、または吐出圧Paが吐出圧閾値Path未満である(Pa<Path)と判定された場合(ステップS503A/NO)、ステップS505に進んで相関判定部53は相関フラグをオフにする(相関フラグ=0)。
【0094】
このように、コントローラ5における相関判定において、油圧ポンプ31の吐出圧Paが吐出圧閾値Path以上であるか否かについても判定条件に加えることにより、後輪浮が生じる前提となる掘削作業によってバケット23に負荷が掛かっている状態を特定することができるため、より精度良く後輪浮の状態を判定することが可能となる。
【0095】
なお、掘削作業によってバケット23に負荷が掛かっている状態を特定する条件として、油圧ポンプ31の吐出圧Paを用いたが、これに限らず、例えばバケットシリンダ24のボトム圧を用いてもよい。ただし、バケットシリンダ24のボトム圧は車体の振動等により変動しやすいため、油圧ポンプ31の吐出圧Paを用いることが望ましい。
【0096】
<変形例2>
次に、変形例2に係るコントローラ5の構成について、図9を参照して説明する。
【0097】
図9は、変形例2に係るコントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0098】
変形例2に係るコントローラ5では、データ取得部50は、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φに加えて、車速センサ45で検出される車速Vを取得する(ステップS501B)。
【0099】
そして、相関判定部53は、ステップS502で算出されたバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって、かつステップS502で算出された車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であると共に、ステップS501Bで取得された車速Vが低速閾値Vth以下であるか否かを判定する(ステップS503B)。ここで、「低速閾値Vth」とは、掘削作業に対応した車速であって、速度段として1速度段あるいは2速度段が選択されている場合の車速である。
【0100】
ステップS503Bにおいてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって(α≧αth)、かつ車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下である(β≦βth)と共に、車速Vが低速閾値Vth以下である(V≦Vth)と判定された場合(ステップS503B/YES)、ステップS504に進んで相関判定部53は相関フラグをオンにする(相関フラグ=1)。
【0101】
一方、ステップS503Bにおいてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth未満(α<αth)、または車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βthよりも大きい(β>βth)、または車速Vが低速閾値Vthよりも大きい(V>Vth)と判定された場合(ステップS503B/NO)、ステップS505に進んで相関判定部53は相関フラグをオフにする(相関フラグ=0)。
【0102】
このように、コントローラ5における相関判定において、車速Vが低速閾値Vth以下であるか否かについても判定条件に加えることにより、後輪浮が生じる前提となる掘削作業中であることを特定することができるため、より精度良く後輪浮の状態を判定することが可能となる。
【0103】
<変形例3>
次に、変形例3に係るコントローラ5の構成について、図10を参照して説明する。
【0104】
図10は、変形例3に係るコントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0105】
変形例3に係るコントローラ5では、バケット動作角度の時間変化率αに代わって、バケット動作角度の時間変化率αに比例するバケット操作レバー23Aの操作量を用いて相関判定を行う。なお、本変形例では、バケット操作量の一態様として、バケット23の操作に係るパイロット圧を用いる。
【0106】
まず、データ取得部50は、パイロット圧センサ42で検出されるバケット23の操作に係るパイロット圧Piを取得する(ステップS501C)。次に、変化率算出部52では、車体傾斜角度の時間変化率βのみを算出する(ステップS502C)。
【0107】
次に、相関判定部53は、ステップS502Cで算出された車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であって、かつステップS501Cで取得されたパイロット圧Piが操作量閾値Pith以上であるか否かを判定する(ステップS503C)。ここで、「操作量閾値Pith」とは、掘削作業の開始時におけるバケット23のチルト動作に必要なバケット23のチルト操作量であって、記憶部57に記憶されている。
【0108】
ステップS503Cにおいて車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であって(β≦βth)、かつパイロット圧Piが操作量閾値Pith以上である(Pi≧Pith)と判定された場合(ステップS503C/YES)、ステップS504に進んで相関判定部53は相関フラグをオンにする(相関フラグ=1)。
【0109】
一方、ステップS503Cにおいて車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βthよりも大きい(β>βth)、またはパイロット圧Piが操作量閾値Pith未満である(Pi<Pith)と判定された場合(ステップS503C/NO)、ステップS505に進んで相関判定部53は相関フラグをオフにする(相関フラグ=0)。
【0110】
このように、相関判定部53は、車体傾斜角度の時間変化率βとバケット23の操作に係るパイロット圧Piとに基づいて、バケット23の動作状態と車体の傾斜状態との相関関係について判定してもよい。本変形例においても、実施形態における作用効果と同様の作用効果が得られる。
【0111】
<変形例4>
次に、変形例4に係るコントローラ5の構成について、図11を参照して説明する。
【0112】
図11は、変形例4に係るコントローラ5で実行される処理の流れを示すフローチャートである。
【0113】
変形例4に係るコントローラ5では、データ取得部50は、吐出圧センサ41で検出される油圧ポンプ31の吐出圧Pa、パイロット圧センサ42で検出されるパイロット圧Pi、バケットIMU43で検出されるバケット動作角度φ、および車速センサ45で検出される車速Vをそれぞれ取得する(ステップS501D)。
【0114】
相関判定部53は、ステップS502Dで算出されたバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって、かつステップS502Dで算出された車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であって、かつS501Dで取得されたパイロット圧Piが操作量閾値Pith以上であって、かつステップS501Dで取得された吐出圧Paが吐出圧閾値Path以上であって、かつステップS501Dで取得された車速Vが低速閾値Vth以下であるか否かを判定する(ステップS503D)。
【0115】
ステップS503Dにおいてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth以上であって(α≧αth)、かつ車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βth以下であって(β≦βth)、かつパイロット圧Piが操作量閾値Pith以上である(Pi≧Pith)であって、かつ吐出圧Paが吐出圧閾値Path以上であって(Pa≧Path)、かつ車速Vが低速閾値Vth以下である(V≦Vth)と判定された場合(ステップS503D/YES)、ステップS504に進んで相関判定部53は相関フラグをオンにする(相関フラグ=1)。
【0116】
一方、ステップS503Dにおいてバケット動作角度の時間変化率αが第1変化率閾値αth未満(α<αth)、または車体傾斜角度の時間変化率βが第2変化率閾値βthよりも大きい(β>βth)、またはパイロット圧Piが操作量閾値Pith未満(Pi<Pith)、または吐出圧Paが吐出圧閾値Path未満(Pa<Path)、または車速Vが低速閾値Vthよりも大きい(V>Vth)と判定された場合(ステップS503D/NO)、ステップS505に進んで相関判定部53は相関フラグをオフにする(相関フラグ=0)。
【0117】
すなわち、本変形例では、実施形態および変形例1~3における相関判定の条件のすべてを満たした場合に相関判定部53は相関フラグをオンにする(相関フラグ=1)。これにより、コントローラ5は、より精度の高い後輪浮の状態の判定を行うことができる。
【0118】
以上、本発明の実施形態および変形例について説明した。なお、本発明は上記した実施形態および変形例に限定されるものではなく、様々な他の変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、本実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、本実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。またさらに、本実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0119】
1:ホイールローダ
1A:前フレーム(車体前部)
1B:後フレーム(車体後部)
2:作業機
5:コントローラ
11A:前輪
11B:後輪
12A:モニタ
23:バケット
23A:バケット操作レバー(バケット操作装置)
24:バケットシリンダ(油圧シリンダ)
31:油圧ポンプ
41:吐出圧センサ
42:パイロット圧センサ(操作量センサ、動作状態センサ)
43:バケットIMU(バケット角センサ、動作状態センサ)
44:車体IMU(傾斜角センサ、傾斜状態センサ)
45:車速センサ(傾斜角センサ、傾斜状態センサ)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11