(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】二次電池の正極、およびこれを用いた二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20221004BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20221004BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/36 C
(21)【出願番号】P 2019106060
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2021-10-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】堀川 大介
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄治
(72)【発明者】
【氏名】寺西 貴志
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-146158(JP,A)
【文献】特開2008-226463(JP,A)
【文献】特開2013-149433(JP,A)
【文献】特表2018-533174(JP,A)
【文献】特表2016-534493(JP,A)
【文献】特開2010-080321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13
H01M 4/62
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極集電体と、
前記正極集電体上に設けられた正極活物質層と、
を備える、二次電池の正極であって、
前記正極活物質層は、正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子とは別個の粒子として前記正極活物質層内で分散している酸化物粒子と、を含み、
前記正極活物質粒子は、その表面に、チタン含有化合物を含む被覆を有し、
前記被覆のチタン含有化合物は、TiO
2、Ti
nO
2n-1(ここで、nは3以上の整数である)、およびLiとTiとを含有する酸化物からなる群より少なくとも1種の化合物であり、
前記酸化物粒子は、TiO
2、Ti
mO
2m-1(ここで、mは3以上の整数である)、およびLiとTiとを含有する酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含
み、
前記酸化物粒子の平均粒子径が、0.5nm以上1μm以下である、
二次電池の正極。
【請求項2】
前記被覆のチタン含有化合物に含まれるTiの量が、前記正極活物質粒子に対して、0.01質量%以上5質量%以下である、請求項
1に記載の二次電池の正極。
【請求項3】
前記酸化物粒子に含まれるTiの量が、前記正極活物質粒子に対して、0.001質量%以上2質量%以下である、請求項1
または2に記載の二次電池の正極。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載の二次電池の正極を備える、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池の正極に関する。本発明はまた、当該正極を用いた二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウム二次電池等の二次電池は、パソコン、携帯端末等のポータブル電源や、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)等の車両駆動用電源などに好適に用いられている。
【0003】
リチウム二次電池等の二次電池は、その普及に伴いさらなる高性能化が望まれている。一般的に、リチウム二次電池の正極には、リチウムイオンを吸蔵および放出可能な正極活物質が用いられている。リチウム二次電池の性能を向上させるために、正極活物質粒子の表面をチタン含有化合物で被覆した正極材料を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-099646号公報
【文献】特開2017-152294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者等が鋭意検討した結果、従来技術の正極材料を用いた正極を備える二次電池においては、低温での抵抗が大きく、低温出力特性が不十分であることを見出した。また、当該二次電池を高温下で繰り返し充放電した際の容量劣化が大きく、高温サイクル特性が不十分であることを見出した。さらに、当該二次電池は、高電圧で作動した際の抵抗増加が大きく、高電圧耐性が不十分であることを見出した。
【0006】
そこで本発明は、二次電池に、優れた低温出力特性、優れた高温サイクル特性、および優れた高電圧耐性を付与することができる、正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される二次電池の正極は、正極集電体と、前記正極集電体上に設けられた正極活物質層と、を備える。前記正極活物質層は、正極活物質粒子と、前記正極活物質粒子とは別個の粒子として前記正極活物質層内で分散している酸化物粒子と、を含む。前記正極活物質粒子は、その表面に、チタン含有化合物を含む被覆を有する。前記被覆のチタン含有化合物は、TiO2、TinO2n-1(ここで、nは3以上の整数である)、およびLiとTiとを含有する酸化物からなる群より少なくとも1種の化合物である。前記酸化物粒子は、TiO2、TimO2m-1(ここで、mは3以上の整数である)、およびLiとTiとを含有する酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含む。
このような構成によれば、二次電池に、優れた低温出力特性、優れた高温サイクル特性、および優れた高電圧耐性を付与することができる正極が提供される。
【0008】
ここに開示される二次電池の正極の好ましい一態様では、前記酸化物粒子の平均粒子径が、0.5nm以上1μm以下である。
このような構成によれば、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が特に高くなる。
ここに開示される二次電池の正極の好ましい一態様では、前記被覆のチタン含有化合物に含まれるTiの量が、前記正極活物質粒子に対して、0.01質量%以上5質量%以下である。
このような構成によれば、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が特に高くなる。
ここに開示される二次電池の正極の好ましい一態様では、前記酸化物粒子に含まれるTiの量が、前記正極活物質粒子に対して、0.001質量%以上2質量%以下である。
このような構成によれば、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が特に高くなる。
【0009】
ここに開示される二次電池は、上記の正極を備える。
このような構成によれば、二次電池は、優れた低温出力特性、優れた高温サイクル特性、および優れた高電圧耐性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の正極の一例の模式断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るリチウム二次電池の正極が含有する正極活物質粒子の一例の模式断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る正極を備えるリチウム二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】
図3のリチウム二次電池の捲回電極体の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明による実施の形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、本発明を特徴付けない二次電池の正極の一般的な構成)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。以下の図面においては、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明している。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は実際の寸法関係を反映するものではない。
【0012】
なお、本明細書において「二次電池」とは、繰り返し充放電可能な蓄電デバイス一般をいい、いわゆる蓄電池ならびに電気二重層キャパシタ等の蓄電素子を包含する用語である。
また、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電荷担体としてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。
【0013】
図1は、本実施形態に係る二次電池の正極の一例を模式的に示す断面図である。本実施形態に係る二次電池の正極50は、図示されるように、正極集電体52と、正極集電体52上に設けられた正極活物質層54とを備える。なお、正極活物質層54は、図示例のように正極集電体52の両面上に設けられていてもよいし、正極集電体52の片面上に設けられていてもよく、正極集電体52の両面上に設けられていることが好ましい。
【0014】
正極集電体52は、導電性が良好な金属(例、アルミニウム、ニッケル等)から構成される。正極集電体52の形状は、特に制限はなく、例えば、板状、箔状等であってよい。正極集電体52として好ましくは、アルミニウム箔である。
【0015】
正極活物質層54は、正極活物質粒子56と、酸化物粒子58とを含有する。酸化物粒子58は、正極活物質粒子56とは別個の粒子として、正極活物質層54内で分散している。正極活物質粒子56と酸化物粒子58とは、正極活物質層54内で接触し得る、あるいはバインダよって接合され得るものであるが、表面に酸化物粒子が付着した正極活物質粒子が正極活物質層内を分散しているのとは異なり、正極活物質層54内において、正極活物質粒子56および酸化物粒子58が個々に分散している。
【0016】
図2は、正極活物質粒子56の一例の模式断面図である。正極活物質粒子56は、
図2に示すように、その表面に、チタン含有酸化物を含む被覆57を有する。
図示例では、正極活物質粒子56の表面に被覆57が、島状に存在している(すなわち、点在している)が、被覆57が正極活物質粒子56の表面を覆う形態には特に制限はない。被覆57は一つの層を形成して、正極活物質粒子56の表面を完全に被覆していてもよい。しかしながら、電池特性の観点から、被覆57は、正極活物質粒子56の表面に点在して、正極活物質粒子56を部分的に被覆していることが好ましい。
【0017】
正極活物質粒子56には、二次電池(特にリチウム二次電池)に用いられる公知の正極活物質粒子を用いてよい。具体的に例えば、正極活物質粒子56には、リチウム複合酸化物、リチウム遷移金属リン酸化合物等の粒子を用いることができる。正極活物質の結晶構造は、特に限定されず、層状構造、スピネル構造、オリビン構造等であってよい。
【0018】
リチウム複合酸化物としては、遷移金属元素として、Ni、Co、Mnのうちの少なくとも1種を含むリチウム遷移金属複合酸化物が好ましく、その具体例としては、リチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等が挙げられる。
初期抵抗が小さいことから、リチウム複合酸化物は、層状構造を有することが好ましく、層状構造のリチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物であることがより好ましい。
【0019】
なお、本明細書において「リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物」とは、Li、Ni、Co、Mn、Oを構成元素とする酸化物の他に、それら以外の1種または2種以上の添加的な元素を含んだ酸化物をも包含する用語である。かかる添加的な元素の例としては、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Si、Y、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W、Na、Fe、Zn、Sn等の遷移金属元素や典型金属元素等が挙げられる。また、添加的な元素は、B、C、Si、P等の半金属元素や、S、F、Cl、Br、I等の非金属元素であってもよい。このことは、上記したリチウムニッケル系複合酸化物、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトアルミニウム系複合酸化物、リチウム鉄ニッケルマンガン系複合酸化物等についても同様である。
【0020】
リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物としては、下式(I)で表される組成を有するものが好ましい。
Li1+xNiyCozMn(1-y-z)MαO2-βQβ (I)
式(I)中、x、y、z、α、およびβは、0≦x≦0.7、0.1<y<0.9、0.1<z<0.4、0≦α≦0.1、0≦β≦0.5を満たす。Mは、Zr、Mo、W、Mg、Ca、Na、Fe、Cr、Zn、Si、Sn、およびAlからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。Qは、F、ClおよびBrからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素である。エネルギー密度および熱安定性の観点から、yおよびzはそれぞれ、0.3≦y≦0.5、0.20≦z<0.4を満たすことが好ましい。
【0021】
リチウム遷移金属リン酸化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、リン酸マンガン鉄リチウム等が挙げられる。
【0022】
正極活物質粒子56の形状は、特に限定されず、球状、板状、針状、不定形状等であってよい。また、正極活物質粒子56は、一次粒子が凝集した二次粒子の形態であってもよく、中空粒子の形態であってもよい。
正極活物質粒子56の平均粒子径(D50)は、特に制限はないが、例えば、0.05μm以上20μm以下であり、好ましくは0.5μm以上15μm以下であり、より好ましくは3μm以上15μm以下である。
なお、正極活物質粒子56の平均粒子径(D50)は、例えば、レーザー回折散乱法等により求めることができる。
【0023】
本実施形態においては、被覆57に含まれるチタン含有化合物は、TiO2、TinO2n-1(ここで、nは3以上の整数である)、およびLiとTiとを含有する酸化物からなる群より少なくとも1種の化合物である。
【0024】
TinO2n-1のnは、3以上の整数である限り特に制限はないが、好ましくは3以上9以下の整数であり、より好ましくは3以上5以下の整数である。すなわち、TinO2n-1は、より好ましくはTi3O5、Ti4O7、およびTi5O9である。
LiとTiとを含有する酸化物(すなわち、リチウムチタン複合酸化物、あるいはチタン酸リチウム)のTiに対するLiの原子数比(Li/Ti)としては、特に限定されないが、0.1以上3以下が好ましい。
なお、種々のLiとTiとの原子数比を有するリチウムチタン複合酸化物(あるいはチタン酸リチウム)の合成法が公知である。また、チタン酸化物、リチウム酸化物、およびリチウムチタン複合酸化物からなる群より選ばれる少なくとも2種を所定の混合比でメカノケミカル処理して複合化することにより、LiとTiとの原子数比を調整することができる。
【0025】
被覆57の量に関し、被覆57のチタン含有化合物に含まれるTiの量が、正極活物質粒子に対して、0.01質量%以上5質量%以下であることが好ましい。Tiの量がこの範囲内にあると、二次電池の、低温出力特性、高温サイクル特性、および高電圧耐性をより向上させることができる。なお、被覆57のチタン含有化合物に含まれるTiの量は、ICP分析等によって求めることができる。
【0026】
被覆57の厚みは、特に限定は無く、例えば、0.1nm以上100nm以下である。被覆57の厚みは、例えば、正極活物質粒子56の断面を電子顕微鏡で観察することにより求めることができる。
【0027】
正極活物質層54中の正極活物質粒子56の含有量は、特に制限はないが、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。
【0028】
酸化物粒子58は、TiO2、TimO2m-1(ここで、mは3以上の整数である)、およびLiとTiとを含有する酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の酸化物を含む。
【0029】
TimO2m-1のmは、3以上の整数である限り特に制限はないが、好ましくは3以上9以下の整数であり、より好ましくは3以上5以下の整数である。すなわち、TimO2m-1は、より好ましくはTi3O5、Ti4O7、およびTi5O9である。
酸化物粒子においても、LiとTiとを含有する酸化物(すなわち、リチウムチタン複合酸化物、あるいはチタン酸リチウム)のTiに対するLiの原子数比(Li/Ti)としては、特に限定されないが、0.1以上3以下が好ましい。
【0030】
酸化物粒子58の平均粒子径は、特に制限はないが、好ましくは0.5nm以上1μm以下である。酸化物粒子58の平均粒子径がこの範囲内にあると、二次電池の、低温出力特性、高温サイクル特性、および高電圧耐性をより向上させることができる。
なお、酸化物粒子58の平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)等の電子顕微鏡を用いて酸化物粒子58の写真を撮影し、任意に選ばれる10個以上の粒子の円相当径の平均値として求めることができる。
酸化物粒子58の含有量は、特に制限はないが、酸化物粒子58に含まれるTiの量が、正極活物質粒子56に対して、0.001質量%以上2質量%以下であることが好ましい。酸化物粒子58に含まれるTiの量がこの範囲内にあると、二次電池の、低温出力特性、高温サイクル特性、および高電圧耐性をより向上させることができる。なお、酸化物粒子に含まれるTiの量は、ICP分析等によって求めることができる。
【0031】
上記に示すように、被覆を構成するチタン含有化合物の組成と、酸化物粒子の組成は、共通している。被覆を構成するチタン含有化合物の組成と、酸化物粒子の組成は、同じであっても、異なっていてもよい。
【0032】
正極活物質層54は、正極活物質粒子56および酸化物粒子58以外の成分を含有していてもよい。当該成分の例としては、導電材、バインダ等が挙げられる。
導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。正極活物質層54中の導電材の含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、3質量%以上13質量%以下がより好ましい。
バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。正極活物質層54中のバインダの含有量は、特に制限はないが、1質量%以上15質量%以下が好ましく、1.5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0033】
以上のように、正極において、正極活物質粒子56の表面に、チタン含有化合物の被覆57を設け、さらに、チタン含有化合物と共通する組成の酸化物粒子58を、この正極活物質粒子56と共に、正極活物質層54内に分散させることにより、当該正極を用いた二次電池の、低温出力特性、高温サイクル特性、および高電圧耐性を向上させることができる。これは、次の理由によるものと推測される。
【0034】
二次電池の低温作動時においては、非水電解液または固体電解質でのLiキャリア移動度が低下して、正極活物質表面へのLiキャリアの到達が遅くなり、その結果、低温出力が低下する。しかしながら、本実施形態では、正極活物質粒子56の表面のチタン含有化合物の被覆57および酸化物粒子58の両方と近接する、非水電解液または固体電解質の領域において、Liキャリア濃度が特異的に増加する。このLiキャリア濃度が高い領域がバッファとして作用し、活物質表面でのLiの欠乏を抑制することができ、その結果、低温出力の低下を抑制することができる。
また上記Liキャリア濃度が高い領域では、負電荷を帯びた酸素イオンおよび溶存酸素が同時に濃縮される。その結果、正極活物質表面での見かけの酸素分圧または酸素濃度が高まり、正極活物質からの酸素の放出が抑制され、その結果、高温サイクル特性が向上する。
加えて、二次電池を高電圧(例えば4.5V以上)で作動させた場合、非水電解液または固体電解質の分解が進行し得る。本実施形態においては、正極活物質粒子56の表面のチタン含有化合物の被覆57と、酸化物粒子58との間に存在する非水電解液または固体電解質の分解電位が、貴な電位にシフトする。その結果、高電圧耐性が向上する。
【0035】
本実施形態に係る正極は、公知方法に従い作製することができる。好適には、以下の方法により作製することができる。しかしながら、本実施形態に係る正極の製造方法は、以下に制限されない。
被覆57を構成するチタン含有化合物と、正極活物質粒子56との混合物に対して、公知のメカノケミカル装置を用いて、メカノケミカル処理することによって、表面に被覆57を有する正極活物質粒子56を作製する。あるいは、被覆57を構成するチタン含有化合物を、正極活物質粒子56の表面にスパッタリングにより付着させて、表面に被覆57を有する正極活物質粒子56を作製する。
次いで、表面に被覆57を有する正極活物質粒子56と、酸化物粒子58と、任意の導電材および任意のバインダを、溶媒の存在下で混合して、正極ペーストを作製する。
当該正極ペーストを、正極集電体52の表面に塗布し乾燥することにより、正極活物質層54を形成する。このようにして、正極50を得ることができる。なお、正極活物質層54の密度等を調整するために、正極活物質層54にプレス処理を施してもよい。
【0036】
本実施形態に係る正極は、二次電池用であり、公知方法に従って、本実施形態に係る正極を用いて二次電池を構築することができる。二次電池は、好適にはリチウム二次電池である。そこで、以下、本実施形態に係る正極材料を備えるリチウム二次電池の具体的な構成例を、図面を参照しながら説明する。なお、当該リチウム二次電池は、以下説明する例に限定されない。
【0037】
図3に示すリチウム二次電池100は、扁平形状の捲回電極体20と非水電解液(図示せず)とが扁平な角形の電池ケース(即ち外装容器)30に収容されることにより構築される密閉型電池である。電池ケース30には、外部接続用の正極端子42および負極端子44と、電池ケース30の内圧が所定レベル以上に上昇した場合に該内圧を開放するように設定された薄肉の安全弁36とが設けられている。正負極端子42,44はそれぞれ正負極集電板42a,44aと電気的に接続されている。電池ケース30の材質には、例えば、アルミニウム等の軽量で熱伝導性の良い金属材料が用いられる。
【0038】
捲回電極体20は、
図3および
図4に示すように、長尺状の正極集電体52の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って正極活物質層54が形成された正極シート50と、長尺状の負極集電体62の片面または両面(ここでは両面)に長手方向に沿って負極活物質層64が形成された負極シート60とが、2枚の長尺状のセパレータシート70を介して重ね合わされて長手方向に捲回されている。なお、捲回電極体20の捲回軸方向(上記長手方向に直交するシート幅方向をいう。)の両端から外方にはみ出すように形成された正極活物質層非形成部分52a(即ち、正極活物質層54が形成されずに正極集電体52が露出した部分)と負極活物質層非形成部分62a(即ち、負極活物質層64が形成されずに負極集電体62が露出した部分)には、それぞれ正極集電板42aおよび負極集電板44aが接合されている。
【0039】
正極シート50には、上述の本実施形態に係る正極50が用いられている。
負極シート60には、公知のリチウム二次電池に用いられている負極の構成と同様であってよい。
負極シート60を構成する負極集電体62としては、例えば銅箔等が挙げられる。負極活物質層64は、負極活物質を含む。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料を使用し得る。負極活物質層64は、バインダ、増粘剤等をさらに含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0040】
セパレータ70としては、従来からリチウム二次電池に用いられるものと同様の各種多孔質シートを用いることができ、その例としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等の樹脂から成る多孔質樹脂シートが挙げられる。かかる多孔質樹脂シートは、単層構造であってもよく、二層以上の複層構造(例えば、PE層の両面にPP層が積層された三層構造)であってもよい。セパレータ70は、耐熱層(HRL)を備えていてもよい。
【0041】
非水電解液は従来のリチウム二次電池と同様のものを使用可能であり、典型的には有機溶媒(非水溶媒)中に、支持塩を含有させたものを用いることができる。非水溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類等の非プロトン性溶媒を用いることができる。なかでも、カーボネート類、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)等を好適に採用し得る。或いは、モノフルオロエチレンカーボネート(MFEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、モノフルオロメチルジフルオロメチルカーボネート(F-DMC)、トリフルオロジメチルカーボネート(TFDMC)のようなフッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒を好ましく用いることができる。このような非水溶媒は、1種を単独で、あるいは2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。支持塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)等のリチウム塩を好適に用いることができる。支持塩の濃度は、0.7mol/L以上1.3mol/L以下が好ましい。
なお、上記非水電解液は、本発明の効果を著しく損なわない限りにおいて、上述した非水溶媒および支持塩以外の成分、例えば、ガス発生剤、被膜形成剤、分散剤、増粘剤等の各種添加剤を含み得る。
【0042】
リチウム二次電池100は、各種用途に利用可能である。好適な用途としては、プラグインハイブリッド自動車(PHV)、ハイブリッド自動車(HV)、電気自動車(EV)等の車両に搭載される駆動用電源が挙げられる。リチウム二次電池100は、複数個が電気的に接続された組電池の形態で使用することもできる。
【0043】
以上、例として扁平形状の捲回電極体を備える角型のリチウム二次電池について説明した。しかしながら、本実施形態に係る正極は、公知方法に従い、他の種類のリチウム二次電池にも使用可能である。例えば、本実施形態に係る正極を用いて、積層型電極体を備えるリチウム二次電池を構築することもできる。また、本実施形態に係る正極を用いて、円筒型リチウム二次電池、ラミネート型リチウム二次電池等を構築することもできる。
また、非水電解液に代えて固体電解質を用い、公知方法に従って、本実施形態に係る正極を用いて、全固体リチウム二次電池を構築することもできる。
また、公知方法に従い、本実施形態に係る正極を用いて、リチウム二次電池以外の二次電池を構築することができる。
【0044】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0045】
〔実施例1〕
<被覆粒子の作製>
まず、正極活物質粒子として層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を、常法に従い作製した。
具体的には、Ni、Co、およびMnの硫酸塩をそれぞれ、NiとCoとMnのモル比が1:1:1になるように水に溶解させた。そこへNaOHを添加して中和することにより、正極活物質の前駆体である、Ni、Co、およびMnを含む複合水酸化物を析出させた。得られた複合水酸化物と炭酸リチウムとを、これらのモル比が1:1となるように混合した。混合物を800℃で15時間焼成して、層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を得た。レーザー回折散乱法により、このLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子の平均粒子径(D50)を測定したところ、10μmであった。
次に、層状構造を有するLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を、チタン含有化合物(TiO2)と共にメカノケミカル装置に投入し、メカノケミカル処理を行った。チタン含有化合物の量に関し、正極活物質粒子に対する、チタン含有化合物中のTiの量が、0.5質量%となるように混合した。
このようにして、チタン含有化合物(TiO2)の被覆を有する正極活物質粒子を得た。
【0046】
<評価用リチウム二次電池の作製>
上記、チタン含有化合物の被覆を有する正極活物質粒子と、酸化物粒子としての平均粒子径が5nmのTiO2とをプラネタリミキサを用いて混合した。酸化物粒子の量に関し、正極活物質粒子に対する、酸化物粒子中のTiの量が、0.5質量%となるように混合した。
得られた混合粒子と、導電材としてのアセチレンブラック(AB)と、バインダとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、混合粒子:AB:PVDF=80:8:2の質量比でN-メチルピロリドン(NMP)中でプラネタリミキサを用いて混合し、固形分濃度56質量%の正極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、ダイコータを用いてアルミニウム箔の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより正極シートを作製した。
また、負極活物質としての天然黒鉛(C)と、バインダとしてのスチレンブタジエンラバー(SBR)と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、C:SBR:CMC=98:1:1の質量比でイオン交換水中で混合して、負極活物質層形成用スラリーを調製した。このスラリーを、銅箔の両面に塗布し、乾燥した後、プレスすることにより負極シートを作製した。
また、2枚のセパレータシート(多孔性ポリオレフィンシート)を用意した。
作製した正極シートと負極シートと用意した2枚のセパレータシートとを重ね合わせ、捲回して捲回電極体を作製した。作製した捲回電極体の正極シートと負極シートにそれぞれ電極端子を溶接により取り付け、これを、注液口を有する電池ケースに収容した。
続いて、電池ケースの注液口から非水電解液を注入し、当該注液口を気密に封止した。なお、非水電解液には、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とジメチルカーボネート(DMC)とを1:1:1の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。
以上のようにして、実施例1の評価用リチウム二次電池を得た。
【0047】
〔比較例1〕
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子をそのまま使用し(すなわち、チタン含有化合物の被覆を有しないLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を使用し)、酸化物粒子を使用しなった以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
【0048】
〔比較例2~11〕
表1に示すチタン含有化合物でLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を被覆し、酸化物粒子を使用しなった以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
〔比較例12~21〕
LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子をそのまま使用し(すなわち、チタン含有化合物の被覆を有しないLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を使用し)、表1に示す酸化物粒子を使用した以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
【0049】
〔実施例2~36〕
表2に示すチタン含有化合物でLiNi1/3Co1/3Mn1/3O2粒子を被覆し、表2に示す酸化物粒子を使用した以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
【0050】
〔実施例37~45〕
チタン含有化合物としてリチウムチタン複合酸化物(原子数比Li/Ti=1)を用い、酸化物粒子として、表3に示す平均粒子径のTiO2を用いた以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
〔実施例46~53〕
チタン含有化合物としてリチウムチタン複合酸化物(原子数比Li/Ti=1)を用い、被覆を形成する際に、チタン含有化合物を、正極活物質に対するチタン含有化合物中のTiの量が、表3に示す値となるように正極活物質粒子と混合した以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
〔実施例54~61〕
チタン含有化合物としてリチウムチタン複合酸化物(原子数比Li/Ti=1)を用い、正極活物質粒子と酸化物粒子との混合を、正極活物質粒子に対する酸化物粒子中のTiの量が、表3に示す値となるように行った以外は、実施例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
【0051】
<活性化および初期容量測定>
上記作製した各評価リチウム二次電池を25℃の環境下に置いた。活性化(初回充電)は、定電流-定電圧方式とし、各評価用リチウム二次電池を1/3Cの電流値で4.2Vまで定電流充電を行った後、電流値が1/50Cになるまで定電圧充電を行い、満充電状態にした。その後、各評価用リチウム二次電池を1/3Cの電流値で3.0Vまで定電流放電した。そして、このときの放電容量を測定して初期容量を求めた。
【0052】
<低温抵抗測定>
活性化した各評価用リチウム二次電池を、3.70Vの電圧(開放電圧)に調製した後、-28℃の環境下に置いた。この各評価用リチウム二次電池に対し、20Cの電流値で8秒間の放電を行った。このときの電圧降下量ΔVを取得し、電流値とΔVを用いて電池抵抗を算出した。比較例1の正極を用いた評価用リチウム二次電池の抵抗を1とした場合の、他の比較例および実施例の正極を用いた評価用リチウム二次電池の抵抗の比を求めた。結果を表1~3に示す。
【0053】
<高温サイクル特性評価>
活性化した各評価用リチウム二次電池を60℃の環境下に置き、10Cで4.2Vまで定電流充電および10Cで3.3Vまで定電流放電を1サイクルとする充放電を500サイクル繰り返した。500サイクル目の放電容量を、初期容量と同様の方法で求めた。高温サイクル特性の指標として、(充放電500サイクル目の放電容量/初期容量)×100より、容量維持率(%)を求めた。結果を表1~3に示す。
【0054】
<高電圧作動評価>
活性化した各評価用リチウム二次電池を、25℃の環境下に置き、1/3Cで4.6Vまで定電流充電および1/3Cで3Vまで定電流放電を1サイクルとする充放電を10サイクル繰り返した。10サイクル目の電池抵抗を、上記と同じ方法で測定した。比較例1の正極を用いた評価用リチウム二次電池の抵抗を1とした場合の、他の比較例および実施例の正極を用いた評価用リチウム二次電池の抵抗の比を求めた。結果を表1~3に示す。
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
表1および表2の結果より、正極活物質層において、上記した特定のチタン含有化合物の被覆を有する正極活物質粒子と、上記した特定の酸化物粒子とを、共存させた正極によれば、優れた低温出力特性、優れた高温サイクル特性、および優れた高電圧耐性を有するリチウム二次電池が得られることがわかる。
また、表3の実施例37~45の結果より、酸化物粒子の平均粒子径が0.5nm以上1μm以下である場合に、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が特に高いことがわかる。
また、表3の実施例46~53の結果より、被覆のチタン含有化合物に含まれるTiの量が、正極活物質粒子に対して0.01質量%以上5質量%以下である場合に、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が特に高いことがわかる。
また、表3の実施例54~61の結果より、酸化物粒子に含まれるTiの含有量が、正極活物質粒子に対して0.001質量%以上2質量%以下である場合に、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が特に高いことがわかる。
【0059】
〔比較例22~27〕
表4に示す正極活物質を用いた以外は、比較例1と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
〔実施例62~67〕
表4に示す正極活物質を用いた以外は、実施例17と同様にして、評価用リチウム二次電池を作製した。
<特性評価>
比較例22~27および実施例62~67の評価用リチウム二次電池に対し、上記と同様にして、活性化、初期容量測定、低温抵抗測定、高電圧作動評価を行った。
低温抵抗測定および高電圧作動評価については、同じ組成の活物質を用いた試験例において、比較例の抵抗値を1とした場合の、実施例の抵抗値の比を求めた。評価結果を表4に示す。
【0060】
【0061】
表4の結果より、比較例22~27および実施例62~67をそれぞれ比較することにより、正極活物質の組成および結晶構造によらず、低温出力特性向上効果、高温サイクル特性向上効果、および高電圧耐性向上効果が得られていることがわかる。
【0062】
以上のことから、本実施形態に係る二次電池の正極によれば、二次電池に、優れた低温出力特性、優れた高温サイクル特性、および優れた高電圧耐性を付与することができることがわかる。
【0063】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0064】
20 捲回電極体
30 電池ケース
36 安全弁
42 正極端子
42a 正極集電板
44 負極端子
44a 負極集電板
50 正極シート(正極)
52 正極集電体
52a 正極活物質層非形成部分
54 正極活物質層
56 正極活物質粒子
57 被覆
58 酸化物粒子
60 負極シート(負極)
62 負極集電体
62a 負極活物質層非形成部分
64 負極活物質層
70 セパレータシート(セパレータ)
100 リチウム二次電池