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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20221004BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60C11/12 A
B60C11/00 B
B60C11/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019110824
(22)【出願日】2019-06-14
(65)【公開番号】P2020203505
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2021-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100164448
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 雄輔
(72)【発明者】
【氏名】大澤 靖雄
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/105496(WO,A1)
【文献】特開2006-298057(JP,A)
【文献】特開2010-208428(JP,A)
【文献】特開2016-084046(JP,A)
【文献】特開2018-002008(JP,A)
【文献】特開2001-130227(JP,A)
【文献】特開2010-105509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/00-11/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有し、
前記トレッド部の踏面に、1本以上のサイプを有し、
前記サイプは、前記踏面側に第1のサイプ部分を有し、サイプ底側に第2のサイプ部分を有し、前記第1のサイプ部分と前記第2のサイプ部分との間に、サイプ幅が前記第1のサイプ部分のサイプ幅及び前記第2のサイプ部分のサイプ幅より大きい拡径部を有し、
前記拡径部の全体が、前記踏面を構成するトレッドゴム層と、前記トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層との、タイヤ径方向の中間に位置する、中間トレッドゴム層に含まれ、
前記中間トレッドゴム層の損失正接tanδ1は、前記トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層の損失正接tanδ2より大きいことを特徴とする、空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記第1のサイプ部分のサイプ深さ方向の延在長さは、前記第2のサイプ部分のサイプ深さ方向の延在長さより長い、請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記トレッド踏面に、タイヤ周方向に延びる1本以上の周方向主溝を有し、
前記第2のサイプ部分のタイヤ径方向最内側端は、前記周方向主溝の溝底よりタイヤ径方向外側に位置する、請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記第2のサイプ部分のサイプ幅は、2.0mm以下であり、且つ、前記第2のサイプ部分のサイプ幅に対する前記第2のサイプ部分のサイプ深さ方向の延在長さの比は、2以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記トレッド部は、キャップゴム層、及び、該キャップゴム層よりタイヤ径方向内側に位置するベースゴム層を有し、
前記キャップゴム層は、外側キャップゴム層、及び、該外側キャップゴム層よりタイヤ径方向内側に位置する内側キャップゴム層を有し、
前記踏面を構成するトレッドゴム層は、前記外側キャップゴム層であり、
前記中間トレッドゴム層は、前記内側キャップゴム層であり、
前記トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層は、前記ベースゴム層である、請求項1~のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記内側キャップゴム層の損失正接tanδCiは、前記ベースゴム層の損失正接tanδBより大きい、請求項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記第2のサイプ部分の全部が、前記中間トレッドゴム層に含まれる、請求項1~6のいずれか一項に記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、摩耗進展時の排水性を向上させるために、トレッド部の踏面を構成するトレッドゴム層とは異なるゴム層である、タイヤ径方向最内側のトレッドゴム層に、溝幅を大きくした拡径部を設けたサイプを配置することが提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-130227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の技術では、摩耗進展時に上記の溝幅の大きな溝が露出した際に、陸部の剛性が低下するため、特に例えば、上記タイヤ径方向最内側のトレッドゴム層に摩耗し易い物性を有するゴムを用いた場合などに耐摩耗性が低下するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、摩耗進展時において、耐摩耗性を犠牲にすることなく、排水性を向上させることのできる、空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明の空気入りタイヤは、トレッド部を有し、
前記トレッド部の踏面に、1本以上のサイプを有し、
前記サイプは、前記踏面側に第1のサイプ部分を有し、サイプ底側に第2のサイプ部分を有し、前記第1のサイプ部分と前記第2のサイプ部分との間に、サイプ幅が前記第1のサイプ部分のサイプ幅及び前記第2のサイプ部分のサイプ幅より大きい拡径部を有し、
前記拡径部の少なくとも底部は、前記踏面を構成するトレッドゴム層と、前記トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層との、タイヤ径方向の間に位置する、中間トレッドゴム層に含まれることを特徴とする。
本発明の空気入りタイヤによれば、摩耗進展時において、耐摩耗性を犠牲にすることなく、排水性を向上させることができる。
【0007】
ここで、「踏面」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填して、最大負荷荷重を負荷した際に路面と接地することとなるトレッド表面の、トレッド周方向全域にわたる面をいう。
また、「サイプ」とは、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での、上記踏面における開口幅が、2.5mm以下のものをいう。
【0008】
本明細書において、「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
また、「最大負荷荷重」とは、上記最大負荷能力に対応する荷重をいうものとする。
【0009】
ここで、前記中間トレッドゴム層の損失正接tanδ1は、前記トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層の損失正接tanδ2より大きいことが好ましい。
この構成によれば、摩耗進展時における耐摩耗性をさらに向上させることができる。
ここで、「損失正接」とは、動的損失弾性率(E´´)と動的貯蔵弾性率(E´)との比(E´´/E´)であり、トレッドゴムの、厚さ:2mm、幅:5mm、長さ:20mmの試験片に、初期荷重:160g重を与え、 初期歪み:1%、振動数:50Hz、温度30℃の条件で測定した値をいう。
【0010】
また、前記拡径部の全部が、前記中間トレッドゴム層に含まれることが好ましい。
この構成によれば、摩耗進展時において、拡径部が出現している間にわたって、耐摩耗性を犠牲にすることなく、排水性を向上させることができる。
【0011】
また、前記第1のサイプ部分のサイプ深さ方向の延在長さは、前記第2のサイプ部分のサイプ深さ方向の延在長さより長いことが好ましい。
【0012】
また、前記トレッド踏面に、タイヤ周方向に延びる1本以上の周方向主溝を有し、
前記第2のサイプ部分のタイヤ径方向最内側端は、前記周方向主溝の溝底よりタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。
この構成によれば、第2のサイプ部分のサイプ底でのクラックの発生を抑制して、タイヤ耐久性を向上させることができる。
ここで、「周方向主溝」とは、トレッド周方向に延び、空気入りタイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態での、上記トレッド踏面における開口幅が、2mm以上で摩耗インジケータの付されたものをいう。
【0013】
また、前記第2のサイプ部分のサイプ幅は、2.0mm以下であり、且つ、前記第2のサイプ部分のサイプ幅に対する前記第2のサイプ部分のサイプ深さ方向の延在長さの比は、2以上であることが好ましい。
上記の範囲とすることにより、加硫時のトレッドゴムの流れをより一層抑制して、タイヤの製造性をより一層向上させることができる。
【0014】
ここで、前記トレッド部は、キャップゴム層、及び、該キャップゴム層よりタイヤ径方向内側に位置するベースゴム層を有し、
前記キャップゴム層は、外側キャップゴム層、及び、該外側キャップゴム層よりタイヤ径方向内側に位置する内側キャップゴム層を有し、
前記踏面を構成するトレッドゴム層は、前記外側キャップゴム層であり、
前記中間トレッドゴム層は、前記内側キャップゴム層であり、
前記トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層は、前記ベースゴム層であることが好ましい。
この構成によれば、トレッド部が、積層ゴム構造を有する場合に、摩耗進展時において、耐摩耗性を犠牲にすることなく、排水性を向上させることができる。
【0015】
また、前記内側キャップゴム層の損失正接tanδCiは、前記ベースゴム層の損失正接tanδBより大きいことが好ましい。
この構成によれば、トレッド部が、積層ゴム構造である場合に、摩耗進展時における耐摩耗性をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、摩耗進展時において、耐摩耗性を犠牲にすることなく、排水性を向上させることのできる、空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのサイプの一例を模式的に示す断面図である。
図3】対比説明のための、比較用のサイプの一例を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
ここで、空気入りタイヤ(以下、単にタイヤとも称する)の内部構造等については、トレッド部を有する従来のものと同様の構造とすることができる。一例としては、該タイヤは、一対のビード部と、該一対のビード部に連なる一対のサイドウォール部と、該一対のサイドウォール部間に配置されたトレッド部とを有するものとすることができる。また、該タイヤは、一対のビード部間をトロイダル状に跨るカーカスと、該カーカスのクラウン部のタイヤ径方向外側に配置されたベルトと、を有するものとすることができる。
以下、特に断りのない限り、寸法等は、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、無負荷とした状態(本明細書において、「基準状態」という)での寸法等を指す。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのトレッドパターンを模式的に示す展開図である。
【0020】
図1に示すように、本例のタイヤは、トレッド部の踏面1(以下、トレッド踏面1ともいう)に、トレッド周方向に延びる複数本(図示例では3本)の周方向主溝2(2a、2b、2c)と、複数本の周方向主溝2のうちトレッド幅方向に隣接する周方向主溝2間に、又は、周方向主溝2(2a、2c)とトレッド端TEとにより、区画される複数(図示例では4つ)の陸部3(3a、3b、3c、3d)と、を有している。この例では、1つの周方向主溝2bは、タイヤ赤道面CL上に位置しており、他の周方向主溝2a、2cは、それぞれタイヤ赤道面CLを境界としたトレッド幅方向の一方の半部、他方の半部に位置している。そして、この例では、各トレッド幅方向半部に2つずつの陸部3が配置されている。図示のように、陸部3b、3cは、トレッド幅方向中央側の陸部であり、陸部3a、3dは、トレッド端TEに隣接する陸部である。なお、図1に示した例では、周方向主溝2の本数は、3本であるが、2本以下(0~2本)又は4本以上とすることもできる。従って、陸部3の個数も、3つ以下(1~3つ)又は5つ以上とすることができる。
【0021】
また、図1に示すように、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dは、トレッド幅方向に延びる複数本(図示の範囲では2本)の幅方向溝4によりブロック5に区画されている。このように、本例では、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cは、リブ状陸部であり、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dは、非リブ状陸部、すなわちブロック状陸部である。なお、「リブ状陸部」とは、陸部が、トレッド幅方向に延びる幅方向溝や幅方向サイプによってトレッド周方向に完全に分断されていない陸部をいう。一方で、全ての陸部がリブ状陸部であっても良く、あるいは、全ての陸部がブロック状陸部であっても良い。あるいは、本例のように、一部の陸部がリブ状陸部であり、残りの陸部がブロック状陸部である場合、トレッド幅方向のいずれの位置の陸部をリブ状陸部としても良い。なお、幅方向溝4を有する陸部において、幅方向溝4の本数は、ネガティブ率等を考慮して適宜決定することができ、特には限定されない。
【0022】
図示例では、トレッド踏面1の平面視において、周方向主溝2は、いずれも、トレッド周方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1つの周方向主溝2がトレッド周方向に対して傾斜して延びていても良く、その場合、トレッド周方向に対して、例えば5°以下の角度で傾斜して延びるものとすることができる。また、図示例では、周方向主溝2は、いずれも、トレッド周方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の周方向主溝2が、ジグザグ状、湾曲状などの形状を有していても良い。
【0023】
なお、図示例では、いずれの幅方向溝4も、トレッド幅方向に沿って(傾斜せずに)延びているが、少なくとも1本の幅方向溝4がトレッド幅方向に対して傾斜して延びていても良く、この場合、トレッド幅方向に対して45°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、また、30°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることがより好ましい。また、図示例では、幅方向溝4は、いずれも、トレッド幅方向に真っ直ぐ延びているが、少なくとも1本の幅方向溝4が、屈曲した部分を有していても良い。
なお、図示例では、トレッド幅方向一方側の半部のトレッド端TEに隣接する陸部3aの幅方向溝4と、トレッド幅方向他方側の半部のトレッド端TEに隣接する陸部3dの幅方向溝4とが、トレッド幅方向に投影した際に互いに重なるように、トレッド周方向の位置を揃えて配置されているが、各陸部3間の幅方向溝4は、トレッド幅方向に投影した際に互いに重ならないように、トレッド周方向の位置をずらして配置することもできる。
【0024】
図1に示すように、本実施形態のタイヤは、トレッド部の踏面1に、1本以上のサイプ6を有している。本例では、各陸部3が、1本以上のサイプ6を有しているが、サイプ61つ以上の陸部3が、サイプ6を有していれば、サイプ6を有しない陸部3があっても良い。
【0025】
本例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dでは、各ブロック5が、1本のみのサイプ6を有している。一方で、各ブロック5は、2本以上のサイプ6を有していても良く、あるいは、サイプ6を有しないブロックがあっても良い。
図示例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dの各ブロック5に設けられたサイプ6は、トレッド幅方向に延びる幅方向サイプ6aである。図示例では、幅方向サイプ6aは、トレッド幅方向に沿って延びているが、トレッド幅方向に対して傾斜して延びていても良く、この場合、トレッド幅方向に対して45°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、30°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることがより好ましい。
一方で、ブロック5にサイプ6を設ける場合は、トレッド周方向に延びる周方向サイプとすることもできる。その場合、トレッド周方向に沿って延びる周方向サイプとしても良く、あるいは、トレッド周方向に対して傾斜して延びていても良い。周方向サイプが、トレッド周方向に対して傾斜して延びる場合には、トレッド周方向に対して45°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、30°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることがより好ましい。
あるいは、ブロック5にサイプ6を設ける場合には、幅方向サイプと周方向サイプとの両方を設けても良い。
【0026】
本例では、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cでは、それぞれ、図示の範囲で4本ずつのサイプ6を有している。具体的には、トレッド幅方向に延びる幅方向サイプ6aとトレッド周方向に延びる周方向サイプ6bとが、略T字に連結したものが、トレッド周方向に間隔をおいて配置されている。一方で、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cがサイプ6を有する場合、幅方向サイプ6aのみを有することもでき、あるいは、周方向サイプ6bのみを有することもできる。この場合、サイプ6の本数(幅方向サイプ6aの本数や周方向サイプ6bの本数)は、特に限定されず、適宜設定することができる。また、幅方向サイプ6aと周方向サイプ6bとを両方設ける場合、幅方向サイプ6aの本数と周方向サイプ6bの本数との組み合わせは特に限定されず、適宜設定することができる。また、本例のように、幅方向サイプ6a及び周方向サイプ6bが交点を有していても良く、あるいは、幅方向サイプ6a及び周方向サイプ6bが交わらないようにすることもできる。
図示例では、幅方向サイプ6aは、トレッド幅方向に沿って延びているが、トレッド幅方向に対して傾斜して延びていても良い。また、図示例では、周方向サイプ6bは、トレッド周方向に沿って延びているが、トレッド周方向に対して傾斜して延びていても良く、この場合、トレッド周方向に対して45°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることが好ましく、30°以下の傾斜角度で傾斜して延びていることがより好ましい。
【0027】
図示例では、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッド幅方向一方の半部における、トレッド端TEに隣接する陸部3aの幅方向サイプ6aと、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッド幅方向他方の半部における、トレッド端TEに隣接する陸部3dの幅方向サイプ6aとが、トレッド幅方向に投影した際に重なるように、トレッド周方向の位相を揃えて配置されているが、トレッド周方向の位相を異ならせて配置しても良い。
また、図示例では、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッド幅方向一方の半部における、トレッド幅方向中央側の陸部3bの幅方向サイプ6aと、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッド幅方向他方の半部における、トレッド幅方向中央側の陸部3cの幅方向サイプ6aとが、トレッド幅方向に投影した際に重なるように、トレッド周方向の位相を揃えて配置されているが、トレッド周方向の位相を異ならせて配置しても良い。また、図示例では、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッド幅方向一方の半部における、トレッド幅方向中央側の陸部3bの周方向サイプ6bと、タイヤ赤道面CLを境界とするトレッド幅方向他方の半部における、トレッド幅方向中央側の陸部3cの周方向サイプ6bとが、トレッド幅方向に投影した際に重なるように、トレッド周方向の位相を揃えて配置されているが、トレッド周方向の位相を異ならせて配置しても良い。
また、図示例では、トレッド端TEに隣接する陸部3a、3dの幅方向サイプ6aと、トレッド幅方向中央側の陸部3b、3cの幅方向サイプ6a及び周方向サイプ6bとが、トレッド幅方向に投影した際に重ならないように、トレッド周方向の位相をずらして配置されているが、トレッド幅方向に投影した際に少なくとも一部が重なるように配置しても良い。
【0028】
図1に示す例では、サイプ6は、いずれもこの平面視において延在方向に真っ直ぐ延びているが、この平面視において屈曲しながら延びるサイプとすることもできる。
【0029】
図2は、本発明の一実施形態にかかる空気入りタイヤのサイプの一例を模式的に示す断面図である。図2は、サイプの平面視での延在方向に直交する方向の断面を示している。なお、図示例では、サイプが周方向サイプである場合を示しているが、以下の説明において、サイプは周方向サイプには限定されない。
図2に示すように、本例のサイプ6は、踏面1側に第1のサイプ部分7を有し、サイプ底側に第2のサイプ部分8を有し、第1のサイプ部分7と第2のサイプ部分8との間に、サイプ幅が第1のサイプ部分7のサイプ幅及び第2のサイプ部分8のサイプ幅より大きい拡径部9を有する。
【0030】
上述したように、サイプ6は、踏面1側に第1のサイプ部分7を有する。第1のサイプ部分7は、新品時から摩耗初期にかけては、通常のサイプと同様の機能を奏することができる。
図2に示すように、本例では、第1のサイプ部分7は、サイプの深さ方向に屈曲しながら延びている。一方で、第1のサイプ部分7は、サイプの深さ方向に真っ直ぐ延びるものとすることもできる(なお、上述のように、サイプ6の平面視においては、本例では、延在方向に真っ直ぐ延び、あるいは、屈曲しながら延びることもでき、これらとの組み合わせは任意である)。
【0031】
また、上述したように、サイプ6は、サイプ底側に第2のサイプ部分8を有する。
ここで、図3は、対比説明のための、比較用のサイプの一例を模式的に示す断面図である。図2図3に示すように、加硫時においては、溝2により踏面1を構成するトレッドゴム10は、溝2を避けるような形でタイヤ径方向内側に押し出される。図3に示すように、仮に摩耗進展時の排水性を向上させようとして、踏面1側のサイプ部分70及び拡径部90を有するサイプを単に設けようとした場合には、タイヤ径方向最内側には拡幅部90が位置するため、溝を形成する場合と同様に、加硫時に、踏面1を構成するトレッドゴム1が該拡径部90を避けるような形で押し出されてしまい、拡径部90が中間トレッドゴム層120ではなく、踏面1を構成するトレッドゴム層100内に配置されてしまう。
これに対し、図2に示すように、本例では、タイヤ径方向最内側に位置するのは、第2のサイプ部分8であるため、加硫時において、踏面1を構成するトレッドゴム1が押し流されるのを抑制して、拡径部9の少なくとも底部(本例では全部)が、中間トレッドゴム層12に含まれるようにすることができる。
これにより、摩耗進展時に、拡径部9が露出する際には、拡径部9により排水性を向上させることができるが、その際に中間トレッドゴム層12を用いることができる。
図2に示すように、本例では、第2のサイプ部分8は、サイプの深さ方向に真っ直ぐ延びている。一方で、第2のサイプ部分8は、サイプの深さ方向に屈曲して延びるものとすることもできる。なお、上述のように、サイプ6の平面視においては、本例では、延在方向に真っ直ぐ延び、あるいは、屈曲しながら延びることもでき、これらとの組み合わせは任意である。
なお、サイプ6は、平面視において、延在方向に屈曲しながら延び、且つ、第1のサイプ部分7は、サイプの深さ方向に屈曲しながら延び、且つ、第2のサイプ部分8は、サイプの深さ方向に真っ直ぐ延びることが最も好ましい。
ここで、図1に示した例にように、トレッド踏面1に、タイヤ周方向に延びる1本以上の周方向主溝2を有する場合、第2のサイプ部分8のタイヤ径方向最内側端は、周方向主溝2の溝底よりタイヤ径方向外側に位置することが好ましい。これにより、第2のサイプ部分8のサイプ底でのクラックの発生を抑制して、タイヤ耐久性を向上させることができる。
また、本例では、第2のサイプ部分8のサイプ幅は、2.0mm以下であり、且つ、第2のサイプ部分8のサイプ幅に対する第2のサイプ部分8のサイプ深さ方向の延在長さの比は、2以上である。これにより、上述した加硫時のトレッドゴムの流れをより一層抑制して、タイヤの製造性をより一層向上させることができる。
また、本例のように、第1のサイプ部分7のサイプ深さ方向の延在長さは、第2のサイプ部分8のサイプ深さ方向の延在長さより長いことが好ましい。一方で、第1のサイプ部分7のサイプ深さ方向の延在長さは、第2のサイプ部分8のサイプ深さ方向の延在長さより短くすることも、同じとすることもできる。
【0032】
上述したように、サイプ6は、拡径部9を有する。これにより、摩耗進展時において、サイプ幅の大きい拡径部9が出現することにより、排水性を向上させることができる。
図2に示すように、本例では、拡径部9は、球状であり、より具体的には球形である。一方で、拡径部9は、球状であって、例えば断面楕円形となるような断面を有するものとすることもでき、あるいは、拡径部9は、例えば断面矩形(正方形、長方形、台形等)となるような断面を有するものとすることもできる。この場合、いずれか1以上の角部が面取りされていても良い。
【0033】
ここで、図2に示すように、拡径部9の少なくとも底部は、踏面1を構成するトレッドゴム層10及びトレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層11とは異なる中間トレッドゴム層12に含まれている。特に本例では、拡径部9の少なくとも全部が、中間トレッドゴム層12に含まれている。これにより、拡径部9(少なくとも底部、本例では全部)が出現している際に使用されるトレッドゴム層12の耐摩耗性を適宜調整することにより、摩耗進展時における耐摩耗性をさらに向上させることができる。例えば、トレッドゴム層12の耐摩耗性は、中間トレッドゴム層12の損失正接tanδ1を調整することにより調整することができる。この場合、中間トレッドゴム層12の損失正接tanδ1は、トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層11の損失正接tanδ2より大きいことが好ましい。なお、中間トレッドゴム層12の損失正接tanδ1は、踏面1を構成するトレッドゴム層10の損失正接tanδ3より大きくすることも、小さくすることも、同じとすることもできる。
なお、図2における、トレッドゴム層10、11、12の厚さは、模式的に示されており、その大小関係はいずれの場合もあり得る。
【0034】
図2に示すように、本例では、第1のサイプ部分7は、(その全体が)踏面1を構成するトレッドゴム層10に含まれている。
【0035】
また、図2に示すように、本例では、第2のサイプ部分8の一部又は全部(図示例では全部)が、中間トレッドゴム層12に含まれている。なお、一方で、第2のサイプ部分8のタイヤ径方向内側の一部が、トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層11に含まれていても良い。
【0036】
本例では、トレッド部は、キャップゴム層、及び、該キャップゴム層よりタイヤ径方向内側に位置するベースゴム層を有する。そして、本例では、キャップゴム層は、外側キャップゴム層、及び、該外側キャップゴム層よりタイヤ径方向内側に位置する内側キャップゴム層を有する。
すなわち、本例では、上記踏面1を構成するトレッドゴム層10が外側キャップゴム層である。また、本例では、トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層11がベースゴム層である。また、中間トレッドゴム層12が内側キャップゴム層である。
従って、本例では、拡径部9の少なくとも底部(図示例では全部)が、内側キャップゴム層に含まれている。
これにより、トレッド部が、積層ゴム構造を有する場合に、摩耗進展時において、耐摩耗性を犠牲にすることなく、排水性を向上させることができる。
なお、一方で、トレッド部は、積層ゴム構造には限定されない。
【0037】
このとき、中間キャップゴム層12の損失正接tanδCiは、ベースゴム層11の損失正接tanδBより大きいことが好ましい。
【0038】
上記のサイプ6は、例えば、金属板を加工、鋳造、積層造形(3Dプリンター)により製造することができる。
【0039】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記の例では、踏面を構成するトレッドゴム層10、トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層11は、各1層であるが、2層以上であっても良い。また、上記の例では、中間トレッドゴム層12は、1層であるが、2層以上であっても良い。
【符号の説明】
【0040】
1:踏面(トレッド踏面)、
2、2a、2b、2c:周方向主溝、
3、3a、3b、3c、3d:陸部、
4:幅方向溝、
5:ブロック、
6:サイプ、
6a:幅方向サイプ、
6b:周方向サイプ、
7:第1のサイプ部分、
8:第2のサイプ部分、
9:拡径部、
10:踏面を構成するトレッドゴム層、
11:トレッド部のタイヤ径方向最内側のトレッドゴム層、
12:中間トレッドゴム層、
CL:タイヤ赤道面、
TE:トレッド端
図1
図2
図3