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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】回転電動機システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/024 20160101AFI20221004BHJP
   H02P 27/06 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
H02P25/024
H02P27/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019133604
(22)【出願日】2019-07-19
(65)【公開番号】P2021019423
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-10-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大谷 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 堅滋
【審査官】池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-085799(JP,A)
【文献】特開2010-110079(JP,A)
【文献】特開2010-068597(JP,A)
【文献】特開2019-071733(JP,A)
【文献】特開2005-143157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/024
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転磁界を発生させる電機子巻線と界磁磁束を発生させる界磁巻線を備えた回転電動機と、
前記回転電動機の電力源であるバッテリと、
前記電機子巻線に電流を流すインバータと、
前記バッテリから電力が供給され、前記インバータの母線間の電圧を可変にする昇圧コンバータと、
前記インバータの母線間に接続され、前記界磁巻線に電流を流す界磁用コンバータと、
前記インバータ、前記界磁用コンバータ、及び前記昇圧コンバータを制御する制御装置と、を備え、
前記界磁用コンバータは、前記制御装置により制御される2つのスイッチング素子を直列接続したアームを含み、
前記界磁巻線の一端は前記界磁用コンバータの前記アームの2つのスイッチング素子の間に接続され、前記界磁巻線の他端は前記バッテリの正側に接続にされる、
ことを特徴とする回転電動機システム。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電動機システムであって、
前記昇圧コンバータは、スイッチング素子を含み、前記制御装置は、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子を制御することにより前記インバータの母線間の電圧を制御し、
前記制御装置は、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号を、第1周期を有する第1キャリア信号を用いて生成し、前記界磁用コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号を、第2周期を有する第2キャリア信号を用いて生成し、
前記第1周期は、前記第2周期よりも短い、
ことを特徴とする回転電動機システム。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電動機システムであって、
前記界磁巻線に流れる電流を界磁電流検出値として検出する電流センサを、さらに備え、
前記昇圧コンバータは、スイッチング素子を含み、前記制御装置は、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子を制御することにより前記インバータの母線間の電圧を制御し、
前記制御装置は、
界磁電流指令値と前記界磁電流検出値の偏差を比例積分制御するフィードバック制御器と、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号のデューティ比をフィードフォワード値として出力するフィードフォワード制御器とを、含み、
前記フィードバック制御器の出力と、前記フィードフォワード制御器の出力に基づいて、前記界磁用コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号のデューティ比を制御する、
ことを特徴とする回転電動機システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機子巻線と界磁巻線を備えた回転電動機システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電機子巻線と界磁巻線を備え、界磁巻線に界磁電流を流すことで生じる界磁磁束により回転トルクを変化させることができる回転電動機が知られている。このような回転電動機のシステムは、界磁巻線に界磁電流を流す駆動装置(以下、界磁用コンバータと言う)を含み、界磁用コンバータは、複数のスイッチング素子を含んで構成される。制御装置が界磁用コンバータの各スイッチング素子のオン/オフを制御し、界磁電流を制御する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-85799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
界磁巻線に正方向の電流(強め界磁電流)と負方向の電流(弱め界磁電流)の両方を流す制御が可能であり、構成が簡素である回転電動機システムが望まれている。
【0005】
本発明の目的は、界磁巻線に正負両方向の電流を流す制御が可能であり、構成が簡素である回転電動機システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の回転電動機システムは、回転磁界を発生させる電機子巻線と界磁磁束を発生させる界磁巻線を備えた回転電動機と、前記回転電動機の電力源であるバッテリと、前記電機子巻線に電流を流すインバータと、前記バッテリから電力が供給され、前記インバータの母線間の電圧を可変にする昇圧コンバータと、前記インバータの母線間に接続され、前記界磁巻線に電流を流す界磁用コンバータと、前記インバータ、前記界磁用コンバータ、及び前記昇圧コンバータを制御する制御装置と、を備え、前記界磁用コンバータは、前記制御装置により制御される2つのスイッチング素子を直列接続したアームを含み、前記界磁巻線の一端は前記界磁用コンバータの前記アームの2つのスイッチング素子の間に接続され、前記界磁巻線の他端は前記バッテリの正側に接続にされる、ことを特徴とする。
【0007】
また、本発明の回転電動機システムにおいて、前記昇圧コンバータは、スイッチング素子を含み、前記制御装置は、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子を制御することにより前記インバータの母線間の電圧を制御し、前記制御装置は、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号を、第1周期を有する第1キャリア信号を用いて生成し、前記界磁用コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号を、第2周期を有する第2キャリア信号を用いて生成し、前記第1周期は、前記第2周期よりも短い、としてもよい。
【0008】
また、本発明の回転電動機システムにおいて、前記界磁巻線に流れる電流を界磁電流検出値として検出する電流センサを、さらに備え、前記昇圧コンバータは、スイッチング素子を含み、前記制御装置は、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子を制御することにより前記インバータの母線間の電圧を制御し、前記制御装置は、界磁電流指令値と前記界磁電流検出値の偏差を比例積分制御するフィードバック制御器と、前記昇圧コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号のデューティ比をフィードフォワード値として出力するフィードフォワード制御器とを、含み、前記フィードバック制御器の出力と、前記フィードフォワード制御器の出力に基づいて、前記界磁用コンバータの前記スイッチング素子のゲート信号のデューティ比を制御する、としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、界磁用コンバータの2つのスイッチング素子によって、界磁巻線に正負両方向の電流を流す制御が可能であり、界磁用コンバータに含まれるスイッチング素子が少ないため、回転電動機システムを簡素な構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】回転電動機システムの回路図である。
図2】界磁電流制御装置のブロック構成図である。
図3】昇圧コンバータのスイッチング素子のゲート信号の生成についての説明図である。
図4】界磁用コンバータのスイッチング素子のゲート信号の生成についての説明図である。
図5】昇圧コンバータのスイッチング素子のゲート信号の生成についての説明図である。
図6】従来技術の回転電動機システムの回路図である。
図7】従来技術の別の回転電動機システムの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について添付図面を参照しながら詳細に説明する。以下で述べる構成は、説明のための例示であって、回転電動機システムの仕様等に合わせて適宜変更が可能である。全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、以下において複数の実施形態や変形例などが含まれる場合、それらの特徴部分を適宜に組み合わせて用いることは当初から想定されている。
【0012】
図1は、本実施形態における回転電動機システム10の回路図である。回転電動機システム10は、バッテリ14(直流電源とも言う)、コンデンサ16,22、昇圧コンバータ18、界磁用コンバータ24、インバータ26、回転電動機30、及び制御装置12を含んで構成される。回転電動機30は、ステータとロータを含み、ステータは、ロータに界磁を作る直流電流を流す界磁巻線34と、当該界磁との相互作用によりロータにトルクを発生させる交流電流を流す電機子巻線32(三相巻線)とを備える。界磁巻線34は、界磁磁束を発生させ、電機子巻線32は、回転磁界を発生させる。なお、ここでは、ステータが界磁巻線34を備えるとしたが、ロータまたはロータ周辺の部材が界磁巻線34を備える構成であってもよい。
【0013】
図1に示すように、コンデンサ16、昇圧コンバータ18、コンデンサ22、界磁用コンバータ24及びインバータ26は、バッテリ14に対し並列に接続される。バッテリ14は、回転電動機30の電力源である。インバータ26は、回転電動機30の電機子巻線32に電流を流し、昇圧コンバータ18は、バッテリ14から電力が供給され、インバータ26の母線28a,28b間の電圧を可変にする。界磁用コンバータ24は、インバータ26の母線28a,28b間に接続され、界磁巻線34に電流を流す。制御装置12は、昇圧コンバータ18、界磁用コンバータ24、及びインバータ26を制御する。
【0014】
昇圧コンバータ18は、2つのスイッチング素子S1,S2を直列接続したアームA0と、リアクトル20を含む。各スイッチング素子S1,S2の両端には、ダイオードが並列接続される。昇圧コンバータ18のアームA0は、インバータ26の母線28a,28b間に接続され、リアクトル20の一端は、アームA0の中点cpに接続され、リアクトル20の他端はバッテリ14の正側(正極)bpに接続にされる。なお、インバータ26の片側の母線28bは、バッテリ14の負側(負極)に接続にされる。制御装置12は、昇圧コンバータ18の2つのスイッチング素子S1,S2のオン/オフを制御することにより、バッテリ14の出力電圧vbを昇圧し、インバータ26の母線28a,28b間に電圧vcを印加する。なお、電圧vbに対する電圧vcの割合(昇圧比)は、スイッチング素子S1,S2のオン/オフ期間によって変化する。
【0015】
界磁用コンバータ24は、2つのスイッチング素子S3,S4を直列接続したアームA1で構成される。各スイッチング素子S3,S4の両端には、各スイッチング素子S3,S4の電流方向とは逆方向の電流が流れるようにダイオードが並列接続される。界磁用コンバータ24のアームA1は、インバータ26の母線28a,28b間に接続され、界磁巻線34の一端はアームA1のスイッチング素子S3,S4の間(中点ap)に接続され、界磁巻線34の他端はバッテリ14の正側bpに接続にされる。制御装置12は、2つのスイッチング素子S3,S4のオン/オフを制御し、オン/オフ期間を変化させることにより、界磁巻線34を流れる界磁電流ifの方向と大きさを制御する。界磁電流ifの電流経路には電流センサ40が設けられている。電流センサ40によって検出された界磁電流ifの検出値(以下、界磁電流検出値ifとも言う)は、制御装置12に送信される。
【0016】
インバータ26は、三相インバータである。具体的には、インバータ26は、並列接続されたU相アームB1、V相アームB2及びW相アームB3を含む。各アームB1,B2,B3には2つのスイッチング素子Sa,Sbが直列に接続され、各スイッチング素子Sa,Sbの両端には、各スイッチング素子の電流方向とは逆方向の電流が流れるようにダイオードが並列接続される。電機子巻線32は、U相電流が流れるU相巻線、V相電流が流れるV相巻線、及びW相電流が流れるW相巻線を含む。図1では、U相巻線、V相巻線、W相巻線にそれぞれu、v、wの符号を付している。制御装置12は、インバータ26の各スイッチング素子のオン/オフを制御することにより、電機子巻線32(三相巻線)の電流(三相電流)を制御する。なお、図1では、電機子巻線32(三相巻線)の各相の巻線を簡略化して示して、各相で1つのみとしているが、実際には、各相で複数の巻線が直列に接続される。
【0017】
U相巻線の一端は、U相アームB1のスイッチング素子Sa、Sb間の中点に接続される。V相巻線の一端は、V相アームB2のスイッチング素子Sa、Sb間の中点に接続される。W相巻線の一端は、W相アームB3のスイッチング素子Sa、Sb間の中点に接続される。U相巻線、V相巻線及びW相巻線の他端は、中性点Gで共通に接続される。
【0018】
U相巻線に流れる電流iuは、電流センサ38uによって検出され、その検出値が制御装置12へ送信され、V相巻線に流れる電流ivは、電流センサ38vによって検出され、その検出値が制御装置12へ送信される。なお、三相巻線の各相の巻線は中性点Gで共通接続されているため、各相の巻線に流れる電流iu,iv,iwの総和がゼロになることから、制御装置12は、W相巻線に流れる電流iwを、検出値iu,ivから取得することができる。
【0019】
回転電動機30には、回転角センサ36(例えばレゾルバ)が設けられている。回転角センサ36によって検出されたロータの回転角度位置(以下、回転角とも言う)θeは、制御装置12へ送信される。
【0020】
制御装置12は、発生または入力されたトルク指令値に基づいて、昇圧コンバータ18のスイッチング素子S1,S2のゲート信号GS1,GS2と、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のゲート信号GS3,GS4と、インバータ26のスイッチング素子のゲート信号GI(ここではインバータ26の6個のスイッチング素子の各ゲート信号をまとめて符号GIで示す)を生成する。なお、トルク指令値は、例えば、回転電動機システム10が車両に搭載される場合にはアクセル開度及び車速から制御装置12においてマップ参照等により導出される。
【0021】
制御装置12は、トルク指令値に基づいて昇圧コンバータ18のスイッチング素子S1,S2のゲート信号GS1,GS2を制御し、インバータ26の母線28a,28b間の電圧vcを制御する。また、制御装置12は、トルク指令値から界磁電流指令値irfを生成し、界磁電流指令値irfと界磁電流検出値if(電流センサ40の検出値)の偏差が0になるようにフィードバック制御を行ってゲート信号GS3,GS4を生成し、界磁用コンバータ24を介して界磁電流ifを制御する。また、制御装置12は、トルク指令値からdq軸電流指令値ird,irqを生成し、三相巻線32の各相の電流検出値iu,iv,iwをロータの回転角θeを用いてdq軸電流検出値id,iqに変換し、dq軸電流指令値ird,irqとdq軸電流検出値id,iqの偏差が0になるようにフィードバック制御を行ってゲート信号GIを生成し、インバータ26を介して三相電流iu,iv,iwを制御する。なお、これらの制御は公知であるため、本明細書では詳細な説明を省略する。なお、本実施形態の回転電動機システム10に適用可能である界磁電流制御装置50(図2参照)については後述する。
【0022】
次に、界磁用コンバータ24の各スイッチング素子S3,S4のオン/オフと、界磁電流ifとの関係について説明する。上記したように、界磁巻線34の一端は、界磁用コンバータ24のアームA1の中点apに接続されており、界磁巻線34の他端は、バッテリ14の正側bpに接続されている。従って、界磁巻線34の他端(以下、bp点とも言う)の電位は、バッテリ14の出力電位であるvbで一定であるのに対し、界磁巻線34の一端(以下、ap点とも言う)の電位は、スイッチング素子S3,S4のオン/オフ状態、及び、インバータの母線28a,28b間の電圧vcの大きさに依存する。ここで、電圧vcは、昇圧コンバータ18が機能することにより電圧vbよりも高い電圧になっている(vc>vb)。
【0023】
スイッチング素子S3をオンにし、S4をオフにすると、ap点の電位はvcとなり、bp点の電位はvb(<vc)であるから、界磁電流ifはap点からbp点に向かって流れる。すなわち、ap点の電位がbp点の電位よりも高くなるので、界磁電流ifは正方向(図1に示すifの実線矢印で示す方向)に流れる。一方、スイッチング素子S3をオフにし、S4をオンにすると、ap点の電位は0Vとなり、bp点の電位はvb(>0V)であるから、界磁電流ifはbp点からap点に向かって流れる。すなわち、ap点の電位がbp点の電位よりも低くなるので、界磁電流ifは負方向(図1に示すifの実線矢印で示す方向とは逆方向)に流れる。
【0024】
次に、制御装置12によるスイッチング素子S3,S4の制御について説明する。ap点の電位vapは、以下の(1)式によって表される。
【0025】
vap=df×vc ・・・(1)
【0026】
上記(1)式において、dfは、スイッチング素子S3,S4のゲート信号GS3,GS4のデューティ比である。具体的には、デューティ比dfは、S3がオンかつS4がオフの期間t1と、S3がオフかつS4がオンの期間t2との比であり、以下の(2)式によって表される。
【0027】
df=t1/t2 ・・・(2)
【0028】
ここで、ap点の電位vapをvb(バッテリ電位)にすると(vap=vb)、bp点の電位vbpはvb(バッテリ電位)で一定(vbp=vb)であるから、界磁電流ifは0Aとなる。上記(1)式に、界磁電流if=0Aとなるvap=vbを代入するとdf=(vb/vc)となる。従って、制御装置12がdf=(vb/vc)となるように期間t1,t2(S3,S4のスイッチング)を制御することにより、界磁電流ifを0Aにすることができることが分かる。また、制御装置12は、df>(vb/vc)となるように期間t1,t2を制御することにより、界磁電流ifを正方向に流すことができ、df<(vb/vc)となるように期間t1,t2を制御することにより、界磁電流ifを負方向に流すことができる。
【0029】
以上説明した回転電動機システム10によれば、界磁用コンバータ24が2つのスイッチング素子S3,S4のみを有するという簡素な構成でありながら、界磁巻線34に正方向の電流(強め界磁電流)と負方向の電流(弱め界磁電流)の両方を流す制御が可能である。このように正負両方向に界磁電流ifを流す制御が可能であることにより、トルク指令値の増加または減少時に、界磁電流ifの電流応答性を高くすることができる。例えば、界磁電流ifが正方向に比較的大きな電流値で流れている場合において、トルク指令値に従って界磁電流ifを0(A)まで低下させる際に、本実施形態によれば界磁電流ifを負方向に流す制御が可能であるため、界磁電流ifを短時間に0(A)に変化させることができる。また、以上説明した回転電動機システム10によれば、界磁用コンバータ24が簡素な構成であるから、回転電動機システム10、或いは、パワー・コントロール・ユニット(界磁用コンバータ24及びインバータ26を含むユニット、PCUとも言う)のコスト面においても有利である。
【0030】
なお、図6は、従来技術の回転電動機システムの回路図である。この従来技術の回転電動機システム110も、界磁用コンバータ124を含み、界磁用コンバータ124は、2つのスイッチング素子S13,S14を直列接続したアームA11で構成される。アームA11は、インバータ26の母線間に接続され、界磁巻線34の一端はアームA11の中点ap(ap点)に接続され、界磁巻線34の他端はインバータ26の片側の母線(bp点)に接続にされる。この従来技術の回転電動機システム110も、界磁用コンバータ124が2つのスイッチング素子S13,S14により構成される。しかし、界磁用コンバータ124のap点は、bp点と同じ又は高い電位しか出力できず、界磁巻線34に正方向の電流しか流すことができない。
【0031】
また、図7は、従来技術の別の回転電動機システムの回路図である。この従来技術の回転電動機システム210も、界磁用コンバータ224を含み、界磁用コンバータ224は、並列接続された第1アームA21及び第2アームA22で構成される。第1、2アームA21,A22には2つのスイッチング素子S23及びS24とスイッチング素子S25及びS26がそれぞれ直列に接続される。第1、2アームA21,A22は、インバータ26の母線間に接続され、界磁巻線34の一端はアームA21の中点apに接続され、界磁巻線34の他端はアームA22の中点bpに接続される。この従来技術の回転電動機システム210は、界磁巻線34に正負両方向の電流を流すことができるが、界磁用コンバータ224のスイッチング素子が4つもある。
【0032】
以上から、従来技術の回転電動機システム110、210(図6図7)に比べて、本実施形態の回転電動機システム10が、界磁電流ifの制御の観点、及び、回路構成の観点から有利であることがよく理解できる。
【0033】
次に、本実施形態の回転電動機システム10に適用可能である界磁用コンバータ24の制御について説明する。上記した(1)式から分かるように、界磁用コンバータ24のap点(図1参照)の電位vapは、インバータ26の母線28a,28b間の電圧vcによって変化する。ここで、電圧vcは、以下の(3)式によって表すことができる。
【0034】
vc=du×vb ・・・(3)
【0035】
上記(3)式において、duは、昇圧コンバータ18のスイッチング素子S1,S2のゲート信号GS1,GS2のデューティ比である。具体的には、デューティ比duは、S1がオフかつS2がオンの期間t3と、S1がオンかつS2がオフの期間t4との比であり、以下の(4)式によって表すことができる。
【0036】
du=t3/t4 ・・・(4)
【0037】
制御装置12は、デューティ比duを制御することにより、電圧vcを所望の電圧値に制御する。ここで、デューティ比duは、電圧vcを介して、界磁用コンバータ24のap点の電位vapに影響を与え、ap点の電位vapは、界磁電流ifに影響を与える。すなわち、デューティ比duは、界磁電流ifに影響を与える。そこで、ここで説明する界磁用コンバータ24の制御(界磁電流ifの制御)は、昇圧コンバータ18のデューティ比duを制御因子として用いる。
【0038】
制御装置12は、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のゲート信号GS3,GS4を生成する界磁電流制御装置を含む。図2は、界磁電流制御装置50のブロック構成図である。界磁電流制御装置50は、フィードバック制御器52と、フィードフォワード制御器58と、リミッタ60と、PWM62を含む。フィードバック制御器52は、界磁電流指令値irfと界磁電流検出値ifの偏差(=irf-if)を算出する加算器55と、加算器55で算出された偏差を0に近づけるように比例積分制御(PI制御)を行う比例積分制御器56を含む。フィードフォワード制御器58は、昇圧コンバータ18のスイッチング素子S1,S2のゲート信号GS1,GS2のデューティ比duをフィードフォワード値として出力する。フィードバック制御器52の出力とフィードフォワード制御器58の出力は、加算器59で加算され、加算器59の出力信号は、リミッタ60を通した後にPWM62へ入力される。PWM62は、リミッタ60からの入力信号に従って、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のゲート信号GS3,GS4を生成する。この構成によれば、界磁電流制御装置50は、フィードバック制御器52の出力と、フィードフォワード制御器58の出力に基づいて、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のゲート信号GS3,GS4のデューティ比dfを制御する。トルク指令値が増加または減少する際、界磁電流指令値irfが変更され、昇圧コンバータ18のデューティ比duが変更されて、界磁電流ifが調整されることがある。この際、上記した界磁電流制御装置50によれば、界磁電流指令値irfに従ったフィードバック制御に加えて、昇圧コンバータ18のデューティ比duに従ったフィードフォワード制御を行うので、界磁電流ifは、界磁電流指令値irfに迅速に向かうことができる。すなわち、界磁電流ifの界磁電流指令値irfに対する応答性(追従性)を高めることができる。
【0039】
次に、本実施形態の回転電動機システム10に適用可能であるキャリア信号について説明する。図3は、昇圧コンバータ18のスイッチング素子S1,S2のゲート信号GS1,GS2の生成についての説明図である。制御装置12は、ゲート信号GS1,GS2を、トルク指令値に基づいて設定された閾値BCthと、第1キャリア信号CS1の信号値とを比較することにより生成する。図3には、閾値BCthが第1キャリア信号CS1の信号値より大きい場合にGS1をHigh(オン)、GS2をLow(オフ)にし、閾値BCthが第1キャリア信号CS1の信号値以下の場合にGS1をLow(オフ)、GS2をHigh(オン)にするように、GS1とGS2を生成している状態が示されている。また、図3には、GS1,GS2に従って昇圧コンバータ18のスイッチング素子S1,S2のオン/オフを制御した際のリアクトル20(図1参照)に流れる電流iL(以下、リアクトル電流iLとも言う)が示されている。
【0040】
図3に示すように、リアクトル電流iLには振幅αのリップルが現れることがあり、振幅αの大きさは、第1キャリア信号CS1の周期Tc1(第1周期Tc1とも言う)に依存する。図5に示すように、第1キャリア信号CS1の周期Tc1が大きくなるほど、振幅αは大きくなる。振幅αが大きいリップルを有するリアクトル電流iLがバッテリ14へ入力されると、バッテリ14の劣化が進む可能性がある。従って、バッテリ14の劣化を抑制するために、図3に示すように、第1キャリア信号CS1の周期Tc1を小さくすることにより、振幅αを小さくすることが望ましい。
【0041】
図4は、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のゲート信号GS3,GS4の生成についての説明図である。昇圧コンバータ18のゲート信号S1,S2と同様に、制御装置12(界磁電流制御装置)は、トルク指令値に基づいて設定された閾値FCthと、第2キャリア信号CS2の信号値とを比較することにより界磁用コンバータ24のゲート信号GS3,GS4を生成する。図4には、閾値FCthが第2キャリア信号CS2の信号値より大きい場合にGS3をHigh(オン)、GS4をLow(オフ)にし、閾値FCthが第2キャリア信号CS2の信号値以下の場合にGS3をLow(オフ)、GS4をHigh(オン)にするように、GS3とGS4を生成している状態が示されている。また、図4には、GS3,GS4に従って界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のオン/オフを制御した際の界磁電流ifが示されている。
【0042】
リアクトル電流iLと同様に、図4に示すように、界磁電流ifには振幅βのリップルが現れることがあり、振幅βの大きさは、第2キャリア信号CS2の周期Tc2(第2周期Tc2とも言う)に依存する。第2キャリア信号CS2の周期Tc2が大きくなるほど、振幅βは大きくなり得る。しかし、界磁巻線34のインダクタンスは、昇圧コンバータ18のリアクトル20のインダクタンスに比べて数倍~数百倍大きいため、第2キャリア信号CS2の周期Tc2を大きくしても、界磁電流ifの振幅βは、リアクトル電流iLの振幅αのように大きくはならない。第2キャリア信号CS2の周期Tc2を大きくすれば、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4のスイッチング回数が減るため、スイッチング素子S3,S4の劣化を抑制することができる。そこで、図4に示すように、第2キャリア信号CS2の周期Tc2を大きくすることが望ましい。
【0043】
そこで、本実施形態の回転電動機システム10において、制御装置12は、昇圧コンバータ18の第1キャリア信号CS1の周期Tc1を、界磁用コンバータ24の第2キャリア信号CS2の周期Tc2よりも短くするとしてもよい。このようにすれば、バッテリ14の劣化の抑制と、界磁用コンバータ24のスイッチング素子S3,S4の劣化の抑制との双方を実現することができる。
【符号の説明】
【0044】
10,110,210 回転電動機システム、12 制御装置、14 バッテリ、16,22 コンデンサ、18 昇圧コンバータ、20 リアクトル、24,124,224 界磁用コンバータ、26 インバータ、28a,28b 母線、30 回転電動機、32 電機子巻線(三相巻線)、34 界磁巻線、36 回転角センサ、38u,38v,40 電流センサ、50 界磁電流制御装置、52 フィードバック制御器、55 加算器、56 比例積分制御器(PI制御器)、58 フィードフォワード制御器、59 加算器、60 リミッタ、62 PWM、CS1 第1キャリア信号、CS2 第2キャリア信号、S1,S2,S3,S4,S13,S14,S23,S24,S25,S26,Sa,Sb スイッチング素子、A0,A1,A11 アーム、A21 第1アーム、A22 第2アーム、B1 U相アーム、B2 V相アーム、B3 W相アーム、if 界磁電流検出値(界磁電流)、irf 界磁電流指令値、iL リアクトル電流。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7