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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】ブレーキ作動装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 11/16 20060101AFI20221004BHJP
   B60T 13/565 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B60T11/16
B60T13/565
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019155722
(22)【出願日】2019-08-28
(65)【公開番号】P2021030984
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】周東 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】齋脇 啓一
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-062269(JP,U)
【文献】特開2001-260865(JP,A)
【文献】実開平2-096252(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2016/0236662(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0118378(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 11/16
B60T 13/565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントシェル及びリヤシェルを備え、ブレーキペダルからの入力推力を増幅させる気圧式倍力装置と、
該気圧式倍力装置と同軸上に配置されると共に、ピストンを摺動可能に保持するシリンダ部を備え、前記気圧式倍力装置により増幅された推力を受けてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、
前記フロントシェルと前記シリンダ部との間に介装されるシール部材と、を含むブレーキ作動装置であって、
前記マスタシリンダは、
前記推力の方向を基準として前後方向を設定したときに、前記シール部材よりも前方側において前記シリンダ部の外周から径方向外方へ突出し、後方側の面が前記フロントシェルと当接する突き合わせ部と、
該突き合わせ部の下端から下方へ突出する突出部と、
前記突き合わせ部と前記シール部材との間で前記フロントシェルと前記シリンダ部とにより囲まれる空間に連通し、前記突出部に設けられて前記シリンダ部の外部まで下方に延びる排出路と、を備え、
更に、前記排出路の下端から隙間を空けて該排出路の下端を覆うように配置されるカバー部材を含むことを特徴とするブレーキ作動装置。
【請求項2】
前記カバー部材は、
前記フロントシェルと前記突き合わせ部との間に挟持される円環板部と、
該円環板部から前記突出部に沿って下方へ延びる突出板部と、
該突出板部の下端から前方側へ延びるカバー板部と、を含むことを特徴とする請求項1記載のブレーキ作動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液圧式ブレーキのブレーキ作動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
気圧式倍力装置及びマスタシリンダを備えるブレーキ作動装置には、マスタシリンダから万が一ブレーキ液が漏れた場合に、それが気圧式倍力装置へ流れ込むことを防止するために、ブレーキ液を外部へ排出する排出路が確保されているものがある。このような排出路は、例えば図2(a)に示すように、マスタシリンダ30の気圧式倍力装置との結合部に下方へ突出する突出部66を設けると共に、この突出部66の、気圧式倍力装置のハウジングと対向する面に、下方へ延びる溝部68を形成することで実現される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-104272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述したような溝部68の下端は、ブレーキ作動装置が車両に取り付けられた状態で地面に向かって開口することになるため、地面から跳ね上がった水等の液体が溝部68からブレーキ作動装置の内部に浸入する虞がある。このように浸入した液体が滞留すると、気圧式倍力装置のハウジング等に使用されているカチオン塗装にダメージを与えて錆を発生させ、マスタシリンダ30と気圧式倍力装置との間のシール性が損なわれることが懸念される。
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ブレーキ作動装置の内部に外部から液体が浸入することを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための手段として、本発明は、フロントシェル及びリヤシェルを備え、ブレーキペダルからの入力推力を増幅させる気圧式倍力装置と、該気圧式倍力装置と同軸上に配置されると共に、ピストンを摺動可能に保持するシリンダ部を備え、前記気圧式倍力装置により増幅された推力を受けてブレーキ液圧を発生させるマスタシリンダと、前記フロントシェルと前記シリンダ部との間に介装されるシール部材と、を含むブレーキ作動装置であって、前記マスタシリンダは、前記推力の方向を基準として前後方向を設定したときに、前記シール部材よりも前方側において前記シリンダ部の外周から径方向外方へ突出し、後方側の面が前記フロントシェルと当接する突き合わせ部と、該突き合わせ部の下端から下方へ突出する突出部と、前記突き合わせ部と前記シール部材との間で前記フロントシェルと前記シリンダ部とにより囲まれる空間に連通し、前記突出部に設けられて前記シリンダ部の外部まで下方に延びる排出路と、を備え、更に、前記排出路の下端から隙間を空けて該排出路の下端を覆うように配置されるカバー部材を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明はこのように構成したので、ブレーキ作動装置の内部に外部から液体が浸入することを防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置の、気圧式倍力装置とマスタシリンダとの接続箇所の近傍を示す断面図である。
図2図1のマスタシリンダを気圧式倍力装置側から示した背面図であり、(a)がカバー部材を設置していない状態、(b)がカバー部材を設置した状態を示している。
図3】カバー部材の単体図であり、(a)が背面図、(b)が(a)のA-A線での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施の形態を図面に基づき説明する。なお、図1図3において、共通する部分については同一の符号を付しており、又、図1において、左側を前方側(フロント側)、右側を後方側(リヤ側)として図示している。
図1は、本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置1の要部の構成を概略的に示している。図示のように、本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置1は、気圧式倍力装置2と、マスタシリンダ30と、シール部材70とを含んでいる。気圧式倍力装置2は、本実施形態では2つのパワーピストンを備えたタンデム型で構成されており、フロントシェル3とリヤシェル(図示略)とからなるハウジング4内が、センターシェル5によりフロント側及びリヤ側の2室に区画されている。
【0009】
更に、フロント側の室は、ダイヤフラム6を備えたパワーピストンにより、定圧室7と変圧室8とに区画されており、リヤ側の室も、図示は控えるが、ダイヤフラムを備えたパワーピストンにより、定圧室と変圧室とに区画されている。各パワーピストンは、バルブボディ9に支持された構造となっている。バルブボディ9は、センターシェル5及びリヤシェルに対して気密的にかつ摺動可能に挿通されている。バルブボディ9は、カップ状の本体部9aと、本体部9aのカップ状の底部分に位置する、略筒状の中空ボス部9bとを含み、中空ボス部9bの先端側には、内側に向かって突出した環状突出部9cが形成されている。フロント側の定圧室7には、フロントシェル3に設けられた管継手(図示略)を通じて、例えばエンジン負圧が導入されるようになっており、この負圧は、リヤ側の定圧室にも導入される。
【0010】
気圧式倍力装置2は、ブレーキペダル(図示略)に連動して、フロント側の変圧室8及びリヤ側の変圧室を、フロント側の定圧室7及びリヤ側の定圧室或いは外気に連通切換する弁手段を有している。この弁手段の一部を構成するプランジャ13は、バルブボディ9の中空ボス部9bの中空内部に、軸方向に沿って摺動可能に嵌装され、かつ、ブレーキペダルと連動する入力ロッド(図示略)に連結されている。プランジャ13の先端部には、中空ボス部9bの中空内部の内径より小さい径の小径部14が設けられており、この小径部14が設けられていることで、プランジャ13の先端面は、小径部14の先端に位置する第1の先端面13aと、小径部14の基端から放射方向外側へ延びる第2の先端面13bとで構成されている。第1の先端面13aは、リアクション部材15に当接可能に対向しており、第2の先端面13bは、バルブボディ9の環状突出部9cに当接可能に対向している。
【0011】
バルブボディ9の中空ボス部9bの先端面は、リアクション部材15に対向している。リアクション部材15は、ゴム等の弾性体からなり、プランジャ13及び中空ボス部9bがリアクション部材15の背面に当接可能となっている。リアクション部材15の前面側には、出力ロッド16の大径部16aが配置されている。フロント側の定圧室7内で、バルブボディ9のカップ状の本体部9a内には、バルブボディ9を原位置に戻すためのリターンスプリング17が配設されている。このリターンスプリング17は、そのフロント側の一端をフロントシェル3の凹部3aの後背部に、そのリヤ側の他端を、ロッドホルダ18を介してバルブボディ9の本体部9aのカップ底(中空ボス部9b)に、夫々当接させる状態で配置されている。
【0012】
すなわち、ロッドホルダ18は、リターンスプリング17によってバルブボディ9に押圧固定されている。バルブボディ9は、リターンスプリング17により、常時リヤ側(戻り方向)へ付勢されている。又、ロッドホルダ18は、出力ロッド16の大径部16aを部分的に覆うカップ部18aと、リターンスプリング17が当接するつば部18bとを有しており、全体がハット状に形成されている。カップ部18aの底面部18cには、その中央部に、出力ロッド16のロッド部16bが挿通される挿通孔が形成されている。又、ロッドホルダ18は、リアクション部材15及び出力ロッド16が、バルブボディ9から離脱することを抑制する抜止めとしても機能している。
【0013】
一方、マスタシリンダ30は、本実施形態ではタンデム型のものであって、気圧式倍力装置2と同軸上に前方側に配置されている。マスタシリンダ30は、有底のシリンダボア32が形成されたシリンダ部31を有し、シリンダボア32の開口部側にプライマリピストン33が配置される。プライマリピストン33の前部が、シリンダ部31のシリンダボア32内に配置され、プライマリピストン33の後部が、シリンダ部31のシリンダボア32から、気圧式倍力装置2のフロントシェル3の開口部3bを経由して、気圧式倍力装置2の定圧室7に延出されている。このプライマリピストン33の前部及び後部は、夫々カップ状に形成され、断面H字状に形成されている。プライマリピストン33の軸方向略中央に設けられた中間壁34の後面には、球状凹部35が形成されており、この球状凹部35に、出力ロッド16のロッド部16bの前端に連結された、押圧ロッド19の球状面19aが当接される。
【0014】
シリンダボア32の底部側には、カップ状のセカンダリピストン36が配置されている。そして、シリンダ部31のシリンダボア32内には、プライマリピストン33とセカンダリピストン36との間にプライマリ室37が形成され、シリンダボア32の底部とセカンダリピストン36との間にセカンダリ室38が形成される。マスタシリンダ30のプライマリ室37及びセカンダリ室38は、夫々、2個の液圧ポート(図示略)から2系統のアクチュエーション管路(図示略)を介して、液圧制御ユニット(図示略)に連通されている。この液圧制御ユニットは、4系統のファンデーション管路(図示略)を介して各車輪のホイールシリンダ(図示略)に夫々連通されている。そして、マスタシリンダ30、或いは、液圧制御ユニットによって発生されるブレーキ液の液圧を、各車輪のホイールシリンダに供給することで、制動力を発生させている。
【0015】
シリンダ部31には、プライマリ室37及びセカンダリ室38の夫々を、リザーバ90(図2参照)に接続するためのリザーバポート44、45が設けられている。リザーバ90は、マスタシリンダ30にブレーキ液を供給するためのものであって、マスタシリンダ30の上部に取り付けられる。シリンダボア32の内周面には、シリンダボア32内をプライマリ室37及びセカンダリ室38に区画するために、プライマリピストン33及びセカンダリピストン36に当接する環状のピストンシール47、48、49、50が、軸方向に沿って所定間隔を空けて配置されている。ピストンシール47、48は、軸方向に沿って一方のリザーバポート44(後側)を挟んで配置されている。プライマリピストン33が非制動位置にあるとき、プライマリ室37は、プライマリピストン33の側壁に設けられたピストンポート52を介して、リザーバポート44に連通する。そして、プライマリピストン33が非制動位置から前進して、ピストンポート52が一方のピストンシール48(前側)に達したとき、プライマリ室37がピストンシール48によってリザーバポート44から遮断されて、液圧が発生する。
【0016】
同様に、残りの2つのピストンシール49、50は、軸方向に沿って他方のリザーバポート45(前側)を挟んで配置されている。セカンダリピストン36が非制動位置にあるとき、セカンダリ室38は、セカンダリピストン36の側壁に設けられたピストンポート53を介してリザーバポート45に連通している。そして、セカンダリピストン36が非制動位置から前進して、ピストンポート53が一方のピストンシール50(前側)に達したとき、セカンダリ室38がピストンシール50によってリザーバポート45から遮断されて、液圧が発生する。
【0017】
プライマリピストン33とセカンダリピストン36との間には、圧縮コイルバネ55が介装されている。圧縮コイルバネ55により、プライマリピストン33とセカンダリピストン36とが、互いに離間する方向に付勢されている。圧縮コイルバネ55の内部には、一定範囲で伸縮自在の伸縮部材56が配置されている。この伸縮部材56は、セカンダリピストン36に当接されるリテーナガイド57と、プライマリピストン33の中間壁34に後端が当接され、リテーナガイド57内を軸方向に移動可能なリテーナロッド58とを有している。リテーナガイド57は、円筒状に形成され、後端に内方に突設されるストッパ部57aを有する。リテーナロッド58は、その前端に径方向外方に突設するツバ部58aを有する。そして、リテーナガイド57内にリテーナロッド58が挿入されることで、軸方向に沿う両者57、58の相対移動が可能になり、リテーナガイド57のストッパ部57aとリテーナロッド58のツバ部58aとが干渉した時点で、伸縮部材56が最大伸長となる。
【0018】
シリンダボア32の底部とセカンダリピストン36との間には、圧縮コイルバネ61が介装されている。圧縮コイルバネ61により、シリンダボア32の底部とセカンダリピストン36とが、互いに離間する方向に付勢される。圧縮コイルバネ61の内部にも、一定範囲で伸縮自在の伸縮部材62が配置されている。この伸縮部材62は、シリンダボア32の底部に前端が当接されるリテーナガイド63と、セカンダリピストン36に後端が当接され、リテーナガイド63内を軸方向に移動可能なリテーナロッド64とを有している。リテーナガイド63は、円筒状に形成され、後端に内方に突設されるストッパ部63aを有する。リテーナロッド64は、その前端に径方向外方に突設するツバ部64aを有する。そして、リテーナガイド63内にリテーナロッド64が挿入されることで、軸方向に沿う両者63、64の相対移動が可能になり、リテーナガイド63のストッパ部63aとリテーナロッド64のツバ部64aとが干渉した時点で、伸縮部材62が最大伸長状態となる。
【0019】
ここで、気圧式倍力装置2は、スタッドボルト等を介して、車体(図示略)及びマスタシリンダ30に結合される。このとき、フロントシェル3の前面に設けられた凹部3aにマスタシリンダ30が結合される。より詳しくは、マスタシリンダ30のシリンダ部31の後端から突出するプライマリピストン33が、上述したように、凹部3aの底部に設けられた開口部3bに気密的に挿通され、バルブボディ9の本体部9a内に延設される。そして、出力ロッド16のロッド部16bがプライマリピストン33内に延びて、ロッド部16bの前端に連結された押圧ロッド19の球状面19aが、プライマリピストン33の中間壁34に設けられた球状凹部35に当接する。
【0020】
又、気圧式倍力装置2とマスタシリンダ30との結合にあたり、フロントシェル3の凹部3a内に挿嵌されるマスタシリンダ30のシリンダ部31の後端と、フロントシェル3の凹部3aの内周面との間に、環状のシール部材70が設置される。このとき、環状のシール部材70の内周開口部には、シリンダ部31の後端から突出するプライマリピストン33が、摺動可能に挿通される。更に、フロントシェル3の凹部3aの前端縁から径方向外方に広がる、フロントシェル3の前端部3cと、マスタシリンダ30のシリンダ部31の外周から径方向外方に突出して環状に延在する、マスタシリンダ30のフロントシェル3との突き合わせ部65との間に、カバー部材75が配置されている。
【0021】
図1及び図2(a)に示すように、マスタシリンダ30の突き合わせ部65の下端には、下方へ延びる突出部66が延設されており、この突出部66には、突き合わせ部65から連続して下方へ延びる溝部が、排出路68として形成されている。溝部(排出路)68は、図1で確認できるように、突き合わせ部65とシール部材70との間において、マスタシリンダ30のシリンダ部31と、フロントシェル3の凹部3aの内周面とで囲まれる空間Sに連通している。溝部68の空間Sとの連通端と反対の端部は、突出部66の下端まで延びている。
【0022】
一方、上述したカバー部材75は、図3に示すように、円環状に広がる円環板部76と、円環板部76の下端から下方へ突出した突出板部77と、突出板部77の下端から略直角に折り曲げられて延在するカバー板部78とで構成された、板状のものである。そして、図1及び図2(b)に示すように、カバー部材75は、円環板部76がフロントシェル3の前端部3cとマスタシリンダ30の突き合わせ部65との間に挟持される態様で設置されている。このとき、突出板部77は、シリンダ部31の突出部66に沿って、突出部66の下端よりも僅かに下方まで延び、突出板部77の下端からは、カバー板部78が前方側へ延びている。このため、シリンダ部31の突出部66の下端と、カバー部材75のカバー板部78との間には、僅かな隙間Gが形成されている。
【0023】
続いて、本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置1の作用を説明する。
図1を参照して、ブレーキペダルが踏み込まれると、入力ロッドと共にプランジャ13が前進して大気弁(図示略)が開かれる。これにより、大気が、バルブボディ9の中空ボス部9b内に流入し、この大気は、リヤ側の変圧室に導入されると共に、フロント側の変圧室8にも導入される。この結果、大気が導入されたフロント側の変圧室8及びリヤ側の変圧室と、負圧が導入されているフロント側の定圧室7及びリヤ側の定圧室との間に、速やかに圧力差が発生する。そして、この圧力差により、フロント側及びリヤ側のパワーピストンが推進し、その推力が、バルブボディ9の中空ボス部9bの先端から、リアクション部材15及び出力ロッド16を経て、マスタシリンダ30側へ出力される。すなわち、出力ロッド16が前進することで、マスタシリンダ30のプライマリピストン33及びセカンダリピストン36が前進する。
【0024】
これにより、マスタシリンダ30のプライマリ室37及びセカンダリ室38の夫々に液圧が発生して、これらプライマリ室37及びセカンダリ室38で発生したブレーキ液圧が、液圧制御ユニットを介して各車輪のホイールシリンダに供給され、摩擦制動による制動力が発生する。マスタシリンダ30における液圧発生時には、プライマリ室37及びセカンダリ室38の液圧が、リアクション部材15を介してプランジャ13によって受圧され、その液圧による反力に、プランジャ13を後方側へ付勢する戻しばね(図示略)の付勢力が加えられた反力が、入力ロッド及びプランジャ13を介してブレーキペダルに伝達されるようになる。
【0025】
一方、ブレーキペダルへの踏力が解放されると、入力ロッドが、マスタシリンダ30(プライマリ室37及びセカンダリ室38)からの液圧による反力を含む戻しばね(図示略)のばね力によって後退すると共に、プランジャ13も後退する。これにより、大気弁が閉じられる一方で、負圧弁(図示略)が開き、負圧がフロント側の変圧室8及びリヤ側の変圧室に導入されて、圧力差が解消される。その後、入力ロッドと時間差をおいて、バルブボディ9がフロント側の定圧室7内のリターンスプリング17により後退して原位置に復帰することで、負圧弁が閉じられる。更に、マスタシリンダ30のプライマリピストン33及びセカンダリピストン36が後退し、マスタシリンダ30のプライマリ室37及びセカンダリ室38の液圧が減圧されて、制動力が解除される。
【0026】
他方、本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置1は、リザーバ90からマスタシリンダ30へ供給されるブレーキ液が、万が一、マスタシリンダ30から漏れ出ると、漏れ出たブレーキ液は、マスタシリンダ30と気圧式倍力装置2との間の空間Sから、突出部66に設けられた溝部68、及び、突出部66の下端とカバー部材75との間の隙間Gを介して、外部へ排出される。又、溝部68の下端は、隙間Gを空けてカバー部材75のカバー板部78により覆われており、溝部68の下端から異物が入り込むことが防止される。
【0027】
以上説明したように、本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置1は、図1に示すように、気圧式倍力装置2、マスタシリンダ30、シール部材70、及び、カバー部材75を含んでいる。気圧式倍力装置2は、ハウジング4としてフロントシェル3及びリヤシェルを備え、ブレーキペダルから入力された推力を増幅して、マスタシリンダ30へと伝達する。マスタシリンダ30は、気圧式倍力装置2と同軸上に配置されており、本実施形態ではプライマリピストン33及びセカンダリピストン36を摺動可能に保持するシリンダ部31を備えている。そして、マスタシリンダ30は、気圧式倍力装置2によって増幅された推力を受けて、各車輪に制動力を付与するためのブレーキ液圧を発生させる。シール部材70は、気圧式倍力装置2とマスタシリンダ30との間をシールするものであって、気圧式倍力装置2のフロントシェル3とマスタシリンダ30のシリンダ部31との間に介装される。
【0028】
又、マスタシリンダ30は、突き合わせ部65と突出部66と排出路(溝部)68とを備えている。突き合わせ部65は、推力の方向を基準として前後方向を設定、すなわち、図1における左側を前方側及び右側を後方側と設定したときに、シール部材70よりも前方側においてシリンダ部31の外周から径方向外方へ突出しており、突き合わせ部65の後方側の面が、気圧式倍力装置2のフロントシェル3の前端部3cと対向している。突出部66は、突き合わせ部65の下端から下方へ延びている。排出路68は、突出部66のフロントシェル3との対向面に溝部として設けられており、突き合わせ部65とシール部材70との間で、気圧式倍力装置2のフロントシェル3とマスタシリンダ30のシリンダ部31とにより囲まれる空間Sに連通し、この空間Sから下方に向かって外部まで延びている。このため、マスタシリンダ30から万が一ブレーキ液が漏れた場合でも、ブレーキ液を気圧式倍力装置2へ浸入させることなく、空間Sから排出路68を介して外部へ排出することができる。
【0029】
一方、カバー部材75は、上記のようにマスタシリンダ30の突出部66に設けられた排出路68の下端から隙間Gを空けた位置で、排出路68の下端を覆うように配置される。これにより、ブレーキ作動装置1が車両に取り付けられた状態で、地面から跳ね上がった水等の液体が排出路68の下端から浸入することはなく、気圧式倍力装置2のハウジング4等に使用されているカチオン塗装にダメージを受けることや、マスタシリンダ30と気圧式倍力装置2との間のシール性が損なわれることもない。しかも、マスタシリンダ30から漏れたブレーキ液は、排出路68を通って排出路68の下端まで達した後、排出路68の下端とカバー部材75との間の隙間Gを通って外部へ排出される。従って、ブレーキ液の排出を妨げることなく、ブレーキ作動装置1の内部に外部から液体が浸入することを防止することが可能となる。
【0030】
更に、本発明の実施の形態に係るブレーキ作動装置1は、図3に示すように、カバー部材75が、円環板部76と突出板部77とカバー板部78とを有する板状の構成になっている。このような構成では、図1に示すように、円環板部76が、その内周部分にマスタシリンダ30のシリンダ部31が挿通される態様で、フロントシェル3とマスタシリンダ30の突き合わせ部65との間に挟持される。そして、突出板部77が、円環板部76から突出部66に沿って下方へ延び、更に、カバー板部78が、突出板部77の下端から前方側(推力方向)へ延びていることで、突出部66に設けられた排出路68の下端が覆われる。このような構成により、カバー部材75を安定して保持しながら、ブレーキ作動装置1の内部に液体が浸入することを防止することができる。更に、カバー部材75が板状であることで、容易に加工できると共に、軽量化を図ることも可能となる。
【0031】
ここで、上述した実施形態では、カバー部材75が円環板部76と突出板部77とカバー板部78とを有する構成であったが、これに限定されることはなく、隙間Gを空けて排出路68の下端を覆うものであれば、任意の構成のものでよい。例えば、カバー部材75は、マスタシリンダ30の突出部66に直接取り付けられるものであってもよく、気圧式倍力装置2のフロントシェル3に直接取り付けられるものであってもよい。又、排出路68は、突出部66のフロントシェルと対向する面に設けられた溝部に限定されることはなく、空間Sからシリンダ部31の外部まで連通する穴が、排出路68として突出部66に設けられていてもよい。
更に、上記の実施形態では、2つのパワーピストンを備えたタンデム型の気圧式倍力装置2に適用されたが、当然ながら、1つのパワーピストンを備えたシングル型の気圧式倍力装置に適用することも可能である。マスタシリンダ30についても同様であり、1つのピストンを備えたシングル型のマスタシリンダに適用することも可能である。
【符号の説明】
【0032】
1:ブレーキ作動装置、2:気圧式倍力装置、3:フロントシェル、30:マスタシリンダ、31:シリンダ部、33:プライマリピストン、36:セカンダリピストン、65:突き合わせ部、66:突出部、68:排出路(溝部)、70:シール部材、75:カバー部材、76:円環板部、77:突出板部、78:カバー板部、S:空間、G:隙間
図1
図2
図3