(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】間葉系幹細胞を含む細胞集団とその製造方法、間葉系幹細胞及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/0775 20100101AFI20221004BHJP
A61K 35/28 20150101ALN20221004BHJP
A61P 37/00 20060101ALN20221004BHJP
A61L 27/38 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
C12N5/0775
A61K35/28
A61P37/00
A61L27/38 300
(21)【出願番号】P 2019511269
(86)(22)【出願日】2018-04-03
(86)【国際出願番号】 JP2018014325
(87)【国際公開番号】W WO2018186420
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2021-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2017073983
(32)【優先日】2017-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲生 渓太
(72)【発明者】
【氏名】喜田 悠太
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/025810(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/077428(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/025729(WO,A1)
【文献】Human Reproduction,2008年,Vol. 23, No. 8,pp. 1760-1770
【文献】TISSUE ENGINEERING: Part A,2011年,Vol. 17, Nos. 9 and 10,pp. 1375-1388
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00-5/28
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、
間葉系幹細胞を含む試料を酵素処理して得られた細胞集団を用いて、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、か
つCD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む
細胞集団を識別する識別工程を含む、製造方法。
【請求項2】
前記識別された細胞集団を選択的に分離する分離工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記間葉系幹細胞が、胎児付属物に由来するものである、請求項
1又は2に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法に関する。さらに本発明は、間葉系幹細胞を含む細胞集団、間葉系幹細胞、並びに医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)ともよばれる間葉系幹細胞は、骨髄、脂肪組織、歯髄などに存在することが報告されている体性幹細胞であり、最近では、胎盤、臍帯、卵膜などの胎児付属物にも存在することが明らかになっている。間葉系幹細胞は、骨、軟骨及び脂肪などに分化する能力を有するため、再生医療における有望な細胞ソースとして注目されている。
【0003】
また、間葉系幹細胞は、分化能だけでなく免疫抑制能を有するため、経静脈的に投与することにより免疫関連疾患や炎症性疾患等の治療が可能であることが報告されている。
【0004】
特許文献1には、羊膜間葉系細胞組成物の製造方法及び凍結保存方法、並びに治療剤について記載されている。特に、ジメチルスルホキシドを5~10質量%含有し、ヒドロキシルエチルデンプンを5~10質量%又はデキストランを1~5質量%含有する溶液中に羊膜間葉系細胞を含む混合物を凍結保存することによって、凍結保存された羊膜間葉系細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることが記載されている。
【0005】
特許文献2には、(D)哺乳動物の羊膜から間葉系細胞の細胞集団を採取するステップと、(E)前記採取された細胞集団を400~35000/cm2の細胞濃度において播種し、2~3日間初期培養するステップと、(F)前記初期培養の1/5000以上1/10未満の細胞濃度において播種し、1週間に2回の培地交換を行う継代培養を3~4回繰り返すステップと、(G)前記継代培養において紡錘状の形態を有する細胞のコロニーが形成されたとき、細胞がコンフルエントになるまで同一の培養皿で培養を維持するステップとを含む、羊膜間葉系幹細胞集団を調製する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-61520号公報
【文献】国際公開WO2013/077428号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、胎児付属物に由来する間葉系幹細胞には、分化能や増殖能、サイトカイン産生能が異なる様々な細胞を含むヘテロな細胞集団であることが分かってきた。安定した品質の細胞製剤を製造するために、純化された均一性の高い細胞集団を調製する必要がある。
【0008】
特許文献1には、羊膜間葉系細胞を含む混合物を、特定の凍結保存液にて凍結保存することにより、解凍後の羊膜間葉系細胞の生存率減少を抑制し、凍結保存された羊膜間葉系細胞を移植に至適化した細胞製剤として製造できることは記載されている。しかしながら、間葉系幹細胞の中から特定の優れた特徴を有する間葉系幹細胞を選択的に調製すること、具体的には、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を多く含む細胞集団を、間葉系幹細胞の特性を指標として選択的に調製することについては、一切記載されていない。また、特許文献2には、低密度で細胞を播種することによって、高い増殖能と分化能を有する間葉系幹細胞集団を調製しているものの、間葉系幹細胞集団に含まれる間葉系幹細胞の特性を指標として、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を多く含む細胞集団を選択することについては記載も示唆もない。
【0009】
本発明は、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団及びその製造方法、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞、並びに上記細胞集団を含む医薬組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、胎児付属物から採取した細胞を含む細胞集団において、CD97及びCD358が陽性を呈する間葉系幹細胞が含まれていることを見出し、さらに、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む、細胞集団においては、免疫抑制関連サイトカインをコードする遺伝子(TGFB2遺伝子、TNFAIP6遺伝子、IL1A遺伝子、IL1B遺伝子及びCCL2遺伝子)を高発現することから高い免疫抑制作用を示すことを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、本明細書によれば、以下の発明が提供される。
[1] 間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む、製造方法:
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む。
[2] 間葉系幹細胞の細胞集団であって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団:
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む。
[3] 前記間葉系幹細胞が、胎児付属物に由来するものである、[2]に記載の細胞集団。
[4] CD97及びCD358が陽性を呈する間葉系幹細胞。
[5] [2]又は[3]に記載の細胞集団あるいは[4]に記載の間葉系幹細胞と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物。
[6] ヒトへの間葉系幹細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である、[5]に記載の医薬組成物。
[7] 前記医薬組成物が、注射用製剤である、[5]又は[6]に記載の医薬組成物。
[8] 前記医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[5]又は[6]に記載の医薬組成物。
[9] 免疫関連疾患の治療剤である、[5]から[8]の何れか一に記載の医薬組成物。
【0012】
[10] 前記細胞集団が、SDHA遺伝子の発現量に対するTGFB2遺伝子の相対発現量が1.5以上であること、SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量が0.2以上であること、SDHA遺伝子の発現量に対するIL1A遺伝子の相対発現量が0.2以上であること、SDHA遺伝子の発現量に対するIL1B遺伝子の相対発現量が1.3以上であること、又はSDHA遺伝子の発現量に対するCCL2遺伝子の相対発現量が1.0以上であることの何れか一以上を満たす、[2]又は[3]に記載の細胞集団。
[11] [1]に記載の製造方法により得られる、細胞集団。
[12] 医薬組成物の製造のための、[2]又は[3]に記載の細胞集団あるいは[4]に記載の間葉系幹細胞の使用。
[13] 医薬組成物が、ヒトへの間葉系幹細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である医薬組成物である、[12]に記載の使用。
[14] 医薬組成物が、注射用製剤である、[12]又は[13]に記載の使用。
[15] 医薬組成物が、細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[12]又は[13]に記載の使用。
[16] 医薬組成物が、免疫関連疾患の治療剤である、[12]から[15]の何れか一に記載の使用。
[17] 疾患の治療において使用するための、[2]又は[3]に記載の細胞集団あるいは[4]に記載の間葉系幹細胞。
[18] ヒトへの間葉系幹細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である、[17]に記載の細胞集団あるいは間葉系幹細胞。
[19] 注射用製剤である、[17]又は[18]に記載の細胞集団あるいは間葉系幹細胞。
[20] 細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[17]又は[18]に記載の細胞集団あるいは間葉系幹細胞。
[21] 疾患が、免疫関連疾患である、[17]から[20]の何れか一に記載の細胞集団あるいは間葉系幹細胞。
[22] [2]又は[3]に記載の細胞集団あるいは[4]に記載の間葉系幹細胞を、治療を必要とする患者に投与することを含む、疾患の治療方法。
[23] ヒトへの間葉系幹細胞の1回の投与量が109個/kg体重以下である、[22]に記載の疾患の治療方法。
[24] 注射用製剤である、[22]又は[23]に記載の疾患の治療方法。
[25] 細胞塊又はシート状構造の移植用製剤である、[22]又は[23]に記載の疾患の治療方法。
[26] 疾患が、免疫関連疾患である、[22]から[25]の何れか一に記載の疾患の治療方法。
[27] [2]又は[3]に記載の細胞集団あるいは[4]に記載の間葉系幹細胞と、媒体とを含む、組成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を調製できる。また、本発明によれば、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団形成の指標として、表面抗原の陽性率と各種遺伝子のハウスキーピング遺伝子に対する相対発現量を使用することができる。これにより、細胞製剤(医薬組成物)を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例1で培養した羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いてCD97に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
【
図2】比較例1で培養した羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いてCD97に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
【
図3】実施例1で培養した羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いてCD358に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
【
図4】比較例1で培養した羊膜MSCに関し、フローサイトメーターを用いてCD358に対して陽性となる細胞の比率を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明するが、下記の説明は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が下記の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も本発明の範囲に含まれる。
【0016】
[1]用語の説明
本明細書における「胎児付属物」は、卵膜、胎盤、臍帯及び羊水を指す。さらに「卵膜」は、胎児の羊水を含む胎嚢であり、内側から羊膜、絨毛膜及び脱落膜からなる。このうち、羊膜と絨毛膜は胎児を起源とする。「羊膜」は、卵膜の最内層にある血管に乏しい透明薄膜を指す。羊膜の内層(上皮細胞層ともよばれる)は分泌機能のある一層の上皮細胞で覆われ羊水を分泌し、羊膜の外層(細胞外基質層ともよばれ、間質に相当する)は間葉系幹細胞を含む。
【0017】
本明細書における「間葉系幹細胞(Mesenchymal stem cells:MSC)」は、下記の定義を満たす幹細胞を指し、「間葉系間質細胞(Mesenchymal stromal cells)」と区別なく用いられる。本明細書において、「間葉系幹細胞」は「MSC」と記載されることがある。
【0018】
間葉系幹細胞の定義
i)標準培地での培養条件で、プラスチックに接着性を示す。
ii)表面抗原CD105、CD73、CD90が陽性であり、CD45、CD34、CD11b、CD79alpha、CD19、HLA-DRが陰性。
【0019】
本明細書における「間葉系幹細胞集団」は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を意味し、その形態は特に限定されず、例えば、細胞ペレット、細胞凝集塊、細胞浮遊液又は細胞懸濁液などが挙げられる。
【0020】
本明細書における「羊膜間葉系幹細胞」は、羊膜に由来する間葉系幹細胞を指し、「羊膜間葉系間質細胞」と区別なく用いられる。本明細書において、「羊膜間葉系幹細胞」は「羊膜MSC」と記載されることがある。
【0021】
本明細書における「免疫抑制作用」とは、生体内における免疫系の応答を抑制する作用のことをいう。免疫抑制作用は、TGFB2遺伝子、TNFAIP6遺伝子、IL1A遺伝子、IL1B遺伝子又はCCL2遺伝子から選択される1以上の遺伝子の発現量により評価することができ、その評価方法は、後述の実施例にて記載されるマイクロアレイ解析により実施することができる。
【0022】
本明細書における「CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率」とは、後記する実施例に記載の通り、フローサイトメトリーによって解析した上記表面抗原について陽性である細胞の比率を示す。本明細書において、「CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率」は「陽性率」と記載されることがある。
【0023】
[2]間葉系幹細胞を含む細胞集団
本発明により提供される間葉系幹細胞を含む細胞集団は、
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む、
ことを特徴とする。
【0024】
CD97は、分化クラスター97を意味し、ADGRE5(Adhesion G protein-coupled receptor E5)遺伝子によってコードされるBL-Ac[F2]としても知られているタンパク質である。
CD358は、分化クラスター358を意味し、TNFRSF21(tumor necrosis factor receptor superfamily,member 21)遺伝子によってコードされるタンパク質である。
【0025】
本発明により提供される間葉系幹細胞を含む細胞集団は、(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む、という条件を満たすと、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を形成する。そのため、本発明においては、前記条件を、高い免疫抑制作用を示す細胞集団形成の指標とすることができる。
【0026】
細胞集団においてCD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率は、31%以上、32%以上、33%以上、34%以上、35%以上、36%以上、37%以上、38%以上、39%以上、40%以上、41%以上、42%以上、43%以上、44%以上、45%以上、46%以上、47%以上、48%以上、49%以上、50%以上、51%以上、52%以上、53%以上、54%以上、55%以上、56%以上、57%以上、58%以上、59%以上、又は60%以以上でもよい。
【0027】
「CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む」とは、細胞集団において、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞が存在していればよく、その比率は5%以上であれば特に限定されず、例えば、5%以上、6%以上、7%以上、8%以上、9%以上、10%以上でもよい。
【0028】
表面抗原マーカー(CD97、CD358)は、当該技術分野において公知の任意の検出方法により検出することができる。表面抗原マーカーを検出する方法としては、例えばフローサイトメトリー又は細胞染色が挙げられるが、これらに限定されない。蛍光標識抗体を用いるフローサイトメトリーにおいて、ネガティブコントロール(アイソタイプコントロール)と比較してより強い蛍光を発する細胞が検出された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。蛍光標識抗体は、当該技術分野において公知の任意の抗体を使用することができ、例えば、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、フィコエリスリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)等により標識された抗体が挙げられるが、これらに限定されない。細胞染色において、着色するか若しくは蛍光を発する細胞が顕微鏡下にて観察された場合、当該細胞は当該マーカーについて「陽性」と判定される。細胞染色は、抗体を使用する免疫細胞染色であってもよく、抗体を使用しない非免疫細胞染色であってもよい。
【0029】
表面抗原マーカー(CD97、CD358)に対して陽性である細胞の比率(陽性率)は、具体的には、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて、以下の手順(1)~(8)にて測定することができる。
(1)対象となる細胞が接着細胞の場合、プラスチック製培養容器から、トリプシン-EDTA(Thermo Fisher Scientific社)を用いて接着細胞を剥離し、遠心分離により細胞を回収する。対象となる細胞が非接着細胞の場合、遠心分離により細胞を回収する。
(2)4%パラホルムアルデヒドを用いて細胞を固定した後、リン酸バッファー(PBS)にて細胞を洗浄し、2%BSA/PBSにて1.0×106個/mLとなるように細胞懸濁液を調製する。前記細胞懸濁液を100μLずつ分注する。
(3)分注した細胞懸濁液を遠心分離し、得られた細胞ペレットに0.5%BSA/PBSを100μLずつ添加する。次いで、各表面抗原マーカーに対応する抗体、又はそのアイソタイプコントロール用抗体を添加する。なお、表面抗原マーカーであるCD358を解析する場合は、次いで2次抗体としてMouse IgG(H+L)を添加する。各反応液をVoltexにて混和した後、4℃にて20分間静置する。
(4)0.5%BSA/PBSを添加し、遠心分離により細胞を洗浄した後、0.5%BSA/PBSにて細胞を懸濁し、セルストレーナー(35μmナイロンメッシュフィルター)(コーニング社/品番:352235)にてフィルターろ過する。
(5)フィルターろ過により得られた細胞懸濁液を、BD AccuriTM C6 Flow Cytometer(ベクトン・ディッキンソン社)にてALL Event 10000で解析する。
(6)測定結果を、縦軸にSSC(側方散乱光)(数値範囲:0以上16777215以下)、横軸を抗体に標識された色素の蛍光強度(数値範囲:101以上107.2以下)としたドットプロットで展開する。
(7)ドットプロット展開図において、アイソタイプコントロール用抗体で測定した総細胞のうち、より蛍光強度が強い細胞集団が1.0%以下となる全ての領域(ゲート)を選択する。
(8)表面抗原マーカーに対応する抗体で測定した総細胞のうち、(7)で選択したゲート内に含まれる細胞の割合を算出する。
【0030】
上記した表面抗原マーカーを検出するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0031】
免疫抑制作用は、TGFB2遺伝子、TNFAIP6遺伝子、IL1A遺伝子、IL1B遺伝子又はCCL2遺伝子から選択される1以上の遺伝子の発現量により評価することができる。免疫抑制作用は、後述の実施例にて記載されるマイクロアレイ解析により、SDHA遺伝子の発現量に対する上記の各遺伝子の相対発現量として評価してもよい。
SDHA(Succinate dehydrogenase complex,subunit A)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:6389として登録されている。
TGFB2(Transforming growth factor,beta 2)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:7042として登録されている。
TNFAIP6(Tumor necrosis factor,alpha-induced protein 6)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:7130として登録されている。
【0032】
IL1A(Interleukin 1,alpha)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:3552として登録されている。
IL1B(Interleukin 1,beta)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:3553として登録されている。
CCL2(Chemokine(C-C motif)ligand 2)遺伝子の配列は、National Center for Biotechnology Infomationの遺伝子データベースにID:6347として登録されている。
【0033】
SDHA遺伝子の発現量に対するTGFB2遺伝子の相対発現量は、好ましくは1.5以上であり、1.6以上、1.7以上、1.8以上、1.9以上、2.0以上、2.1以上、2.2以上、2.3以上、2.4以上、2.5以上、2.6以上、又は2.7以上でもよい。
SDHA遺伝子の発現量に対するTNFAIP6遺伝子の相対発現量は、好ましくは0.2以上であり、0.3以上でもよい。
SDHA遺伝子の発現量に対するIL1A遺伝子の相対発現量は、好ましくは0.2以上であり、0.3以上でもよい。
【0034】
SDHA遺伝子の発現量に対するIL1B遺伝子の相対発現量は、好ましくは1.3以上であり、1.4以上、1.5以上、1.6以上、1.7以上、又は1.8以上でもよい。
SDHA遺伝子の発現量に対するCCL遺伝子の相対発現量は、好ましくは1.0以上であり、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、1.5以上、1.6以上、又は1.7以上でもよい。
【0035】
上記した遺伝子発現量を測定するタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0036】
間葉系幹細胞の由来は特に限定されないが、例えば、胎児付属物、骨髄、脂肪、又は歯髄に由来する間葉系幹細胞を使用することができる。間葉系幹細胞は、好ましくは、胎児付属物に由来する間葉系幹細胞であり、より好ましくは、羊膜に由来する間葉系幹細胞である。
【0037】
本発明の間葉系幹細胞集団は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。上記の間葉系幹細胞集団は、間葉系幹細胞以外に、任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0038】
本発明の細胞集団は、媒体と組み合わせた組成物として提供してもよい。媒体としては、好ましくは液体媒体(例えば、培地、又は後記する製薬上許容し得る媒体など)を使用することができる。
【0039】
本発明の細胞集団は、任意の数の間葉系幹細胞を含むことができる。本発明の細胞集団は、例えば、1×101個、2×101個、5×101個、1×102個、2×102個、5×102個、1×103個、2×103個、5×103個、1×104個、2×104個、5×104個、1×105個、2×105個、5×105個、1×106個、2×106個、5×106個、1×107個、2×107個、5×107個、1×108個、2×108個、5×108個、1×109個、2×109個、5×109個、1×1010個、2×1010個、5×1010個、1×1011個、2×1011個、5×1011個、1×1012個、2×1012個、5×1012個以上又は以下の間葉系幹細胞を含むことができるが、これらに限定されない。
【0040】
[3]間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法
本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団を取得することを含む方法である。
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む。
【0041】
即ち、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の製造方法は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含むことを維持する条件下において調製する工程を含む方法である。上記の「CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む」という条件は、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団形成の指標であり、本発明の製造方法は、前記指標を満たせば特に制限されない。
【0042】
本発明の製造方法は、間葉系幹細胞を含む試料(例えば、羊膜などの胎児付属物など)を酵素処理することにより、間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得する細胞集団取得工程を含むものでもよい。
【0043】
羊膜は、上皮細胞層と細胞外基質層からなり、後者には羊膜MSCが含まれている。羊膜上皮細胞は、他の上皮細胞同様、特徴として上皮カドヘリン(E-cadherin:CD324)及び上皮接着因子(EpCAM:CD326)を発現しているのに対し、羊膜MSCはこれら上皮特異的表面抗原マーカーを発現しておらず、フローサイトメトリーで容易に区別可能である。上記の細胞集団取得工程は、羊膜を帝王切開により得る工程を含む工程でもよい。
【0044】
本発明における間葉系幹細胞を含む細胞集団は、好ましくは胎児付属物から採取した上皮細胞層と細胞外基質層とを含む試料を少なくともコラゲナーゼで処理して得た細胞集団である。
【0045】
胎児付属物から採取した試料(好ましくは上皮細胞層と細胞外基質層とを含む試料)の酵素処理は、好ましくは、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を遊離することができ、かつ上皮細胞層を分解しない酵素(又はその組み合わせ)による処理である。かかる酵素としては、特に限定されないが、例えば、コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼを挙げることができる。金属プロテイナーゼとしては、非極性アミノ酸のN末端側を切断する金属プロテイナーゼであるサーモリシン及び/又はディスパーゼを挙げることができるが、特に限定されない。
【0046】
コラゲナーゼの活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、コラゲナーゼの活性濃度は、特に限定されないが、例えば、1000PU/ml以下、900PU/ml以下、800PU/ml以下、700PU/ml以下、600PU/ml以下、500PU/ml以下である。ここで、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、FITC-collagen 1ugを1分間で分解する酵素量と定義する。
【0047】
金属プロテイナーゼ(例えば、サーモリシン及び/又はディスパーゼ)の活性濃度は、好ましくは50PU/ml以上、より好ましくは100PU/ml以上、さらに好ましくは200PU/ml以上、さらに好ましくは300PU/ml以上、さらに好ましくは400PU/ml以上である。また、金属プロテイナーゼの活性濃度は、好ましくは1000PU/ml以下、より好ましくは900PU/ml以下、さらに好ましくは800PU/ml以下、さらに好ましくは700PU/ml以下、さらに好ましくは600PU/ml以下、さらに好ましくは500PU/ml以下である。ここで、金属プロテイナーゼとしてディスパーゼを用いた態様において、PU(Protease Unit)とは、pH7.5、30℃において、乳酸カゼインから1分間に1ugのチロシンに相当するアミノ酸を遊離する酵素量と定義される。上記の酵素濃度の範囲において、胎児付属物の上皮細胞層に含まれる上皮細胞の混入を防止しながら、細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を効率よく遊離させることができる。コラゲナーゼ及び/又は金属プロテイナーゼの好ましい濃度の組み合わせは、酵素処理後の胎児付属物の顕微鏡観察や、取得した細胞のフローサイトメトリーにより決定することができる。
【0048】
生細胞を効率的に回収する観点から、コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを組み合わせて胎児付属物を同時一括に処理することが好ましい。この場合の金属プロテイナーゼとしては、サーモリシン及び/又はディスパーゼを使用することができるが、これらに限定されない。コラゲナーゼ及び金属プロテイナーゼを含有する酵素液を用いて胎児付属物を一回のみ処理することにより、間葉系幹細胞を簡便に取得することができる。また、同時一括に処理することにより、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクを低減することができる。
【0049】
胎児付属物の酵素処理は、生理食塩水やハンクス平衡塩溶液等の洗浄液を用いて洗浄した羊膜を酵素液に浸漬し、撹拌手段によって撹拌しながら処理することが好ましい。かかる撹拌手段としては、胎児付属物の細胞外基質層に含まれる間葉系幹細胞を効率よく遊離させる観点から、例えば、スターラー又はシェーカーを使用することができるが、これらに限定されない。撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、5rpm以上、10rpm以上、20rpm以上、30rpm以上、40rpm以上又は50rpm以上である。また、撹拌速度は、特に限定されないが、スターラー又はシェーカーを用いた場合、例えば、100rpm以下、90rpm以下、80rpm以下、70rpm以下又は60rpm以下である。酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、10分以上、20分以上、30分以上、40分以上、50分以上、60分以上、70分以上、80分以上又は90分以上である。また、酵素処理時間は、特に限定されないが、例えば、6時間以下、5時間以下、4時間以下、3時間以下、2時間以下、110分以下、100分以下である。酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、15℃以上、16℃以上、17℃以上、18℃以上、19℃以上、20℃以上、21℃以上、22℃以上、23℃以上、24℃以上、25℃以上、26℃以上、27℃以上、28℃以上、29℃以上、30℃以上、31℃以上、32℃以上、33℃以上、34℃以上、35℃以上又は36℃以上である。また、酵素処理温度は、特に限定されないが、例えば、40℃以下、39℃以下、38℃以下又は37℃以下である。
【0050】
本発明の製造方法において、所望により、遊離した間葉系幹細胞を含む酵素溶液からフィルター、遠心分離や中空糸分離膜、セルソーター等の公知の方法により遊離した間葉系幹細胞を分離及び/又は回収することができる。好ましくは、フィルターによって遊離した間葉系幹細胞を含む酵素溶液を濾過する。前記酵素溶液をフィルターによって濾過する態様においては、遊離した細胞のみがフィルターを通過し、分解されなかった上皮細胞層はフィルターを通過できずにフィルター上に残るため、遊離した間葉系幹細胞を容易に分離及び/又は回収することができるだけでなく、細菌やウィルス等のコンタミネーションのリスクも低減することができる。フィルターとしては、特に限定されないが、例えば、メッシュフィルターを挙げることができる。メッシュフィルターのポアサイズ(メッシュの大きさ)は、特に限定されないが、例えば、40μm以上、50μm以上、60μm以上、70μm以上、80μm以上、又は90μm以上である。また、メッシュフィルターのポアサイズは、特に限定されないが、例えば、200μm以下、190μm以下、180μm以下、170μm以下、160μm以下、150μm以下、140μm以下、130μm以下、120μm以下、110μm以下、又は100μm以下である。濾過速度に関しては特に限定されないが、メッシュフィルターのポアサイズを上記の範囲とすることにより、間葉系幹細胞を含む酵素溶液を自然落下により濾過することができ、これにより細胞生存率の低下を防止することができる。
【0051】
メッシュフィルターの材質としては、ナイロンが好ましく用いられる。研究用として汎用されるFalconセルストレーナーなどの40μm、70μm、95μm又は100μmのナイロンメッシュフィルターを含有するチューブが利用可能である。また、血液透析などで使用されている医療用メッシュクロス(ナイロン及びポリエステル)が利用できる。さらに、体外循環時に使用される動脈フィルター(ポリエステルメッシュフィルター、ポアサイズ:40μm以上120μm以下)も利用可能である。他の材質、例えば、ステンレスメッシュフィルター等も用いることが可能である。
【0052】
間葉系幹細胞をフィルター通過させる場合、自然落下(自由落下)が好ましい。ポンプ等を用いた吸引など強制的なフィルター通過も可能であるが、細胞に損傷を与えることを避けるため、できるだけ弱い圧力とすることが望ましい。
【0053】
フィルターを通した間葉系幹細胞は、倍量又はそれ以上の培地又は平衡塩緩衝液で濾液を希釈した後、遠心分離により回収することができる。平衡塩緩衝液としては、ダルベッコリン酸バッファー(DPBS)、アール平衡塩溶液(EBSS)、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)、リン酸バッファー(PBS)等を用いることができるが、これらに限定されない。
【0054】
上記の細胞集団取得工程で得られた細胞集団は、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む、という条件下において調製する。前記条件は、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を取得する際の指標として有用である。調製方法としては、前記指標を満たすものであれば、特に限定されない。そのような方法としては、例えば、セルソーターにて上記条件を満たす細胞集団を分取することが挙げられる。また、前記指標を満たす他の調製方法としては、細胞集団を、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む、という条件下において培養することが挙げられる。
【0055】
前記指標を満たす培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティングしていないプラスチック製培養容器に400~5,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは500細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは600細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは700細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは800細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは900細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1000細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1100細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1200細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1300細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1400細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1500細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1600細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1700細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1800細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは1900細胞/cm2以上であり、さらに好ましくは2000細胞/cm2以上である。細胞集団を播種する際の密度はさらに好ましくは4800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4200細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは4000細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3200細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは3000細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2800細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2600細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2400細胞/cm2以下であり、さらに好ましくは2200細胞/cm2以下である。
【0056】
前記指標を満たす他の培養方法としては、例えば、細胞集団を、コーティング剤によりコーティングしたプラスチック製培養容器に400~5,000細胞/cm2の密度で播種し、培養することを複数回繰り返す工程を挙げることができる。細胞集団を播種する際の密度の好ましい条件は、上記した条件と同様である。
【0057】
コーティング剤としては、例えば、細胞外基質、フィブロネクチン、ビトロネクチン、オステオポンチン、ラミニン、エンタクチン、コラーゲンI、コラーゲンII、コラーゲンIII、コラーゲンIV、コラーゲンV、コラーゲンVI、ゼラチン、ポリ-L-オルニチン、ポリ-D-リジン、マトリゲル(登録商標)マトリックスを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0058】
前記指標を満たすさらに他の培養方法としては、例えば、培養に用いる基礎培地に、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加して培養することが挙げられる。塩基性線維芽細胞増殖因子の濃度は、好ましくは2ng/mL以上であり、さらに好ましくは4ng/mL以上であり、さらに好ましくは6ng/mL以上であり、さらに好ましくは8ng/mL以上であり、さらに好ましくは10ng/mL以上である。塩基性線維芽細胞増殖因子の濃度は、好ましくは20ng/mL以下であり、さらに好ましくは18ng/mL以下であり、16ng/mL以下であり、さらに好ましくは14ng/mL以下であり、さらに好ましくは12ng/mL以下である。塩基性線維芽細胞増殖因子を添加するタイミングは、特に限定されないが、例えば、培養工程の最初、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、又は解凍後などが挙げられる。
【0059】
上記の1回の培養の培養期間としては、例えば4~10日間を挙げることができ、より具体的には、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間又は10日間を挙げることができる。
【0060】
上記の培養に用いる培地は、任意の動物細胞培養用液体培地を基礎培地とし、必要に応じて他の成分(血清、血清代替試薬、増殖因子など)を適宜添加することにより調製することができる。
【0061】
基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium)、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)培地、DMEM培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium)、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地(例えば、DMEM/F12培地(Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium/Nutrient Mixture F-12 Ham))等の培地を使用することができるが、特に限定されない。
【0062】
また、上記の培養に用いる培地は、一般的に市販されている無血清培地を用いても良い。例えば、STK1やSTK2(DSファーマバイオメディカル社)、EXPREP MSC Medium(バイオミメティクスシンパシーズ社)、Corning stemgro ヒト間葉系幹細胞培地(コーニング社)などが挙げられるが、特に限定されない。
【0063】
前記基礎培地に対して添加する他の成分としては、例えば、アルブミン、血清、血清代替試薬又は増殖因子などが挙げられる。前記基礎培地にアルブミンを添加する態様においては、アルブミンの濃度は0.05%より多く5%以下が好ましい。また、前記基礎培地に血清を添加する態様においては、血清の濃度は5%以上が好ましい。増殖因子を添加する態様においては、増殖因子を培地中で安定化させるための試薬(ヘパリンなど)を、増殖因子に加えてさらに添加してもよいし、増殖因子をあらかじめゲルや多糖類などで安定化しておき、その後、安定化した増殖因子を前記基礎培地に対して添加してもよい。
【0064】
間葉系幹細胞の培養は、例えば、以下のような工程にて行うことができる。まず、細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。次に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような培養により取得した細胞は、1回培養した細胞である。
【0065】
上記の1回培養した細胞は、例えば、以下のようにさらに継代し、培養することができる。まず、1回培養した細胞を、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)にて処理した後にトリプシンにて処理してプラスチック製培養容器から剥離させる。次に、得られた細胞懸濁液を遠心分離し、上清を除去し、得られた細胞ペレットを培地にて懸濁する。最後に、プラスチック製培養容器に細胞を播種し、3%以上、5%以下のCO2濃度、37℃環境にて、培地を用いてコンフルエント率95%以下となるように培養する。上記の培地としては、例えば、αMEM、M199、或いはこれらを基礎とする培地を挙げることができるが、これらに限定されない。上記のような継代及び培養により取得した細胞は、1回継代した細胞である。同様の継代及び培養を行うことにより、N回継代した細胞を取得することができる(Nは1以上の整数を示す)。継代回数Nの下限は、細胞を大量に製造する観点から、例えば、1回以上、好ましくは2回以上、より好ましくは3回以上、さらに好ましくは4回以上、さらに好ましくは5回以上、さらに好ましくは6回以上、さらに好ましくは7回以上、さらに好ましくは8回以上、さらに好ましくは9回以上、さらに好ましくは10回以上、さらに好ましくは11回以上、さらに好ましくは12回以上、さらに好ましくは13回以上、さらに好ましくは14回以上、さらに好ましくは15回以上、さらに好ましくは16回以上、さらに好ましくは17回以上、さらに好ましくは18回以上、さらに好ましくは19回以上、さらに好ましくは20回以上、さらに好ましくは25回以上である。また、継代回数Nの上限は、細胞の老化を抑える観点から、例えば、50回以下、45回以下、40回以下、35回以下、30回以下であることが好ましい。
【0066】
本発明の製造方法によれば、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を得ることができる。培養1バッチあたりの取得細胞数(単位表面積あたり、単位培養日数あたりの得られる細胞数)の下限は、播種細胞数、播種密度等によって異なるが、例えば、1.0×105(個/cm2/day)以上、2.0×105(個/cm2/day)以上、3.0×105(個/cm2/day)以上、4.0×105(個/cm2/day)以上、5.0×105(個/cm2/day)以上、6.0×105(個/cm2/day)以上、7.0×105(個/cm2/day)以上、8.0×105(個/cm2/day)以上、9.0×105(個/cm2/day)以上又は10.0×105(個/cm2/day)以上である。また、培養1バッチあたりの取得細胞数の上限は、特に限定されないが、例えば、10.0×108(個/cm2/day)以下、9.0×108(個/cm2/day)以下、8.0×108(個/cm2/day)以下、7.0×108(個/cm2/day)以下、6.0×108(個/cm2/day)以下、5.0×108(個/cm2/day)以下、4.0×108(個/cm2/day)以下、3.0×108(個/cm2/day)以下、2.0×108(個/cm2/day)以下又は1.0×108(個/cm2/day)以下である。
【0067】
本発明の製造方法によれば、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を得ることができる。これにより、本発明の製造方法によって得られる間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、好ましくは40日以降まで、さらに好ましくは45日以降まで、50日以降まで、55日以降まで、60日以降まで、65日以降まで、70日以降まで、75日以降まで、80日以降まで、85日以降まで、90日以降まで、95日以降まで、100日以降まで、105日以降まで、又は110日以降まで、培養することが可能である。
【0068】
また、本発明の製造方法によって得られる間葉系幹細胞は、生体外での培養開始後、倍加回数が好ましくは10回以上、さらに好ましくは15回以上、20回以上、25回以上、30回以上、35回以上、40回以上、45回以上、又は50回以上になるまで培養することが可能である。
【0069】
本発明の製造方法は、
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む、という条件を指標として、高い免疫抑制作用を示す間葉系幹細胞を含む細胞集団を識別する識別工程を含むものでもよい。
【0070】
前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を識別するための手段は、好ましくは、フローサイトメトリーである。
【0071】
前記細胞集団においてCD97及びCD358が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率(陽性率)は、フローサイトメトリーのドットプロット展開解析を用いて、段落0029で述べた手順に従って測定することができる。
【0072】
上記した識別を行うタイミングは、特に限定されないが、例えば、生体試料から細胞を分離した直後、培養工程の途中、培養工程における純化後、N回継代した直後(Nは1以上の整数を示す)、維持培養の途中、凍結保存前、解凍後、又は医薬品組成物として製剤化する前などが挙げられる。
【0073】
また、本発明の製造方法は、上記(a)及び(b)を指標として前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を識別した後に、識別した細胞集団を選択的に分離する工程を含むことができる。前記識別した細胞集団を選択的に分離するための手段は、特に限定されないが、例えば、セルソーターによる細胞集団の分取、培養による細胞集団の純化などが挙げられる。
【0074】
また、本発明の製造方法は、前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を凍結保存する工程を含むことができる。前記細胞集団を凍結保存する工程を含む態様においては、前記細胞集団を解凍後、必要に応じて前記細胞集団を識別、分離、回収及び/又は培養してもよい。また、前記細胞集団を解凍後、そのまま使用してもよい。
【0075】
前記間葉系幹細胞を含む細胞集団を凍結保存するための手段は、特に限定されないが、例えば、プログラムフリーザー、ディープフリーザー、液体窒素への浸漬などが挙げられる。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の温度は、好ましくは-30℃以下、-40℃以下、-50℃以下、-60℃以下、-70℃以下、-80℃以下、-90℃以下、-100℃以下、-110℃以下、-120℃以下、-130℃以下、-140℃以下、-150℃以下、-160℃以下、-170℃以下、-180℃以下、-190℃以下、又は-196℃(液体窒素温度)以下である。プログラムフリーザーを用いた場合、凍結する際の好ましい凍結速度は、例えば、-1℃/分、-2℃/分、-3℃/分、-4℃/分、-5℃/分、-6℃/分、-7℃/分、-8℃/分、-9℃/分、-10℃/分、-11℃/分、-12℃/分、-13℃/分、-14℃/分又は-15℃/分である。かかる凍結手段としてプログラムフリーザーを用いた場合、例えば、-2℃/分以上-1℃/分以下の凍結速度で-50℃以上-30℃以下の間の温度(例えば、-40℃)まで温度を下げ、さらに-11℃/分以上-9℃/分以下(例えば、-10℃/分)の凍結速度で-100℃以上-80℃以下の温度(例えば、-90℃)まで温度を下げることができる。また、かかる凍結手段として液体窒素への浸漬を用いた場合、例えば、-196℃まで急速に温度を下げて凍結させた後、液体窒素(気相)中で凍結保存することができる。
【0076】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の保存容器に入った状態で凍結されてよい。かかる保存容器としては、例えば、クライオチューブ、クライオバイアル、凍結用バッグ、輸注バッグなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0077】
上記の凍結手段により凍結する際、上記の細胞集団は、任意の凍結保存液中で凍結されてもよい。かかる凍結保存液として、市販されている凍結保存液を用いても良く、例えば、CryoNovo(Akron Biotechnology社)、MSC Freezing Solution(Biological Industries社)、CryoStor(HemaCare社)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0078】
上記の凍結保存液は、所定濃度の多糖類を含有することができる。多糖類の好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上、9質量%以上、10質量%以上、11質量%以上又は12質量%以上である。また、多糖類の好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下又は13質量%以下である。多糖類としては、例えば、ヒドロキシルエチルデンプン(HES)又はデキストラン(Dextran40など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0079】
上記の凍結保存液は、所定濃度のジメチルスルホキシド(DMSO)を含有することができる。DMSOの好ましい濃度は、例えば、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上、8質量%以上又は9質量%以上である。また、DMSOの好ましい濃度は、例えば、20質量%以下、19質量%以下、18質量%以下、17質量%以下、16質量%以下、15質量%以下、14質量%以下、13質量%以下、12質量%以下、11質量%以下又は10質量%以下である。
【0080】
上記の凍結保存液は、0質量%より多い所定濃度のアルブミンを含有するものでもよい。アルブミンの好ましい濃度は、例えば、0.5質量%以上、1質量%以上、2質量%以上、3質量%以上、4質量%以上、5質量%以上、6質量%以上、7質量%以上又は8質量%以上である。また、アルブミンの好ましい濃度は、例えば、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、10質量%以下又は9質量%以下である。アルブミンとしては、例えば、ウシ血清アルブミン、マウスアルブミン、ヒトアルブミン等を挙げることができるが、これに限定されない。
【0081】
[4]医薬組成物
本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団は、医薬組成物として使用することができる。即ち、本発明によれば、本発明による細胞集団と、製薬上許容し得る媒体とを含む、医薬組成物が提供される。
【0082】
本発明の医薬組成物は、好ましくは液剤であり、より好ましくは注射用液剤である。
本発明の医薬組成物は、細胞治療剤、例えば、難治性疾患治療剤として使用することができる。
本発明の医薬組成物は、免疫関連疾患の治療剤として使用することができる。本発明の医薬組成物を治療部位に効果が計測できる量投与することで、上記疾患を治療することができる。
【0083】
本発明によれば、医薬組成物のために使用される、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤のために使用される、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0084】
本発明によれば、免疫関連疾患の治療のために使用される、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0085】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、免疫応答の抑制のために使用される、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団が提供される。
【0086】
本発明によれば、患者又は被験者に、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の治療有効量を投与する工程を含む、患者又は被験者に細胞を移植する方法、並びに患者又は被験者の疾患の治療方法が提供される。
【0087】
本発明によれば、医薬組成物の製造のための、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
本発明によれば、細胞治療剤の製造のための、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0088】
本発明によれば、免疫関連疾患の治療剤の製造のための、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0089】
本発明によれば、患者又は被験者に投与して、免疫応答の抑制に必要な治療剤の製造のための、本発明による間葉系幹細胞を含む細胞集団の使用が提供される。
【0090】
本発明の医薬組成物の投与量としては、患者又は被験者に投与した場合に、投与していない患者又は被験者と比較して疾患に対して治療効果を得ることができるような細胞の量である。具体的な投与量は、投与形態、投与方法、使用目的、及び患者又は被験者の年齢、体重及び症状等によって適宜決定することができる。ヒトへの間葉系幹細胞の1回の投与量は、特に限定されないが、例えば、104個/kg体重以上、105個/kg体重以上又は106個/kg体重以上である。また、ヒトへの間葉系幹細胞の1回の投与量は、特に限定されないが、例えば、109個/kg体重以下、108個/kg体重以下又は107個/kg体重以下である。
【0091】
本発明の医薬組成物の投与方法は、特に限定されないが、例えば、皮下注射、リンパ節内注射、静脈内注射、動脈内注射、腹腔内注射、胸腔内注射又は局所への直接注射、又は局所に直接移植することなどが挙げられる。医薬組成物の投与方法については、例えば、特開2015-61520号公報、Onken JE, t al.American College of Gastroenterology Conference 2006Las Vegas,NV, Abstract 121.、Garcia-Olmo D,et al.Dis Colon Rectum 2005;48:1416-23.などにおいて、静脈内注射、点滴静脈注射、局所への直接注射、局所への直接移植などが知られている。本発明の医薬組成物も、上記文献に記載されている各種方法により投与することができる。
【0092】
本発明の医薬組成物は、他の疾患治療目的に注射用製剤、或いは細胞塊又はシート状構造の移植用製剤、或いは任意のゲルと混合したゲル製剤として用いることも可能である。
【0093】
本発明の患者又は被験者とは、典型的にはヒトであるが、他の動物であってもよい。他の動物としては、例えば、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、サル(カニクイザル、アカゲザル、コモンマーモセット、ニホンザル)、フェレット、ウサギ、げっ歯類(マウス、ラット、スナネズミ、モルモット、ハムスター)等の哺乳動物、ニワトリ、ウズラ等の鳥類が挙げられるが、これらに限定されない。
【0094】
本発明の医薬組成物は、使用直前まで凍結状態にて保存することができる。本発明の医薬組成物を患者又は被験者に投与する際には、37℃で急速に解凍して使用することができる。
【0095】
本発明の医薬組成物は、ヒトの治療の際に用いられる任意の成分を含んでもよい。かかる成分としては、例えば、塩類、多糖類(例えば、HES、デキストランなど)、タンパク質(例えば、アルブミンなど)、DMSO、アミノ酸、培地成分(例えば、RPMI1640培地に含まれる成分など)などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0096】
また、本発明の医薬組成物は、間葉系幹細胞を含む細胞集団を、製薬上許容し得る媒体として使用される輸液製剤により希釈したものでもよい。本明細書における「輸液製剤(製薬上許容し得る媒体)」としては、ヒトの治療の際に用いられる溶液であれば特に限定されないが、例えば、生理食塩液、5%ブドウ糖液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、開始液(1号液)、脱水補給液(2号液)、維持輸液(3号液)、術後回復液(4号液)等を挙げることができる。
【0097】
本発明の医薬組成物は、保存安定性、無菌性、等張性、吸収性及び/又は粘性を増加するための種々の添加剤、例えば、乳化剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、湿潤剤、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、増粘剤、ゲル化剤、pH調整剤等を含んでもよい。前記増粘剤としては、例えば、HES、デキストラン、メチルセルロース、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられるが、これらに限定されない。増粘剤の濃度は、選択される増粘剤によるが、患者又は被験者に投与した場合に安全であり、かつ所望の粘性を達成する濃度の範囲で、任意に設定することができる。
【0098】
本発明の医薬組成物のpHは、中性付近のpH、例えば、pH6.5以上又はpH7.0以上とすることができ、またpH8.5以下又はpH8.0以下とすることができるが、これらに限定されない。
【0099】
以下の実施例にて本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0100】
<比較例1>
(工程1:羊膜の採取)
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(ドナー)から、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した。得られた卵膜及び胎盤を生理食塩水が入った滅菌バットに収容し、卵膜の断端から羊膜を用手的に剥離した。羊膜をハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg不含有)にて洗浄し、付着した血液及び血餅を除去した。
【0101】
(工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
上皮細胞層と細胞外基質層とを含む羊膜を、300PU/mLコラゲナーゼと200PU/mLディスパーゼIとを含有するハンクス平衡塩溶液(Ca・Mg含有)に浸し、37℃にて90分間、50rpmの条件にて振盪攪拌することにより羊膜を酵素処理した。酵素処理後の溶液を目開き95μmのナイロンメッシュでろ過することにより羊膜の未消化物を取り除き、羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。得られた細胞懸濁液に関し、フローサイトメーターを用いて、MSCの代表的な陽性マーカーとして知られている表面抗原の一つであるCD90の発現が陽性である細胞の比率を解析し、高純度で羊膜から羊膜MSCを分離できていることを確認した。
【0102】
表面抗原解析は、ベクトン・ディッキンソン(BD)社のBD AccuriTM C6 Flow Cytometerを用い、測定条件は解析細胞数:10,000cells、流速設定:Slow(14μL/min)とした。CD90抗原に対応する抗体としてFITC Mouse Anti-Human CD90(BD社/型番:561969)を、そのアイソタイプコントロール用抗体としてFITC Mouse IgG1, κ Isotype Control(BD社/型番:349041)を使用した。
【0103】
(工程3:羊膜MSCの凍結保存)
上記の「工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた細胞集団を、1.0×107個/mLとなるようにバンバンカー(リンフォテック社)に懸濁し、クライオチューブに分注した。クライオチューブをバイセル(凍結処理容器)(日本フリーザー社)に入れ、-80℃にて12時間保存の後、液体窒素温度にて凍結保存した。
【0104】
(工程4:羊膜MSCの培養)
上記の「工程3:羊膜MSCの凍結保存」で得られた細胞集団を、コーティングしていないプラスチック製培養容器に播種し、10%ウシ胎児血清(FBS)(非働化済み)及び1×Antibiotic-Antimycotic(Thermo Fisher Scientific社製)を含むαMEM(Alpha Modification of Minimum Essential Medium Eagle)にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。その後、TrypLE Select(1×)(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて細胞を剥離し、1/4量の細胞を先の培養と同じスケールのコーティングしていないプラスチック製培養容器に播種することにより、継代培養を行った。培地交換は週2回の頻度で実施した。このようにして継代培養を続けた。
【0105】
<実施例1>
(工程1:羊膜の採取)
比較例1におけるドナーとは異なるドナーから、胎児付属物である卵膜及び胎盤を無菌的に採取した以外は、比較例1の工程1と同様の手法にて羊膜を取得した。
【0106】
(工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収)
比較例1の工程2と同様の手法にて羊膜MSCを含む細胞懸濁液を回収した。得られた細胞懸濁液に関し、フローサイトメーターを用いて比較例1と同様にして、MSCの代表的な陽性マーカーとして知られている表面抗原の一つであるCD90の発現が陽性である細胞の比率を解析し、高純度で羊膜から羊膜MSCを分離できていることを確認した。
【0107】
(工程3:羊膜MSCの凍結保存)
上記の「工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」で得られた細胞集団を、比較例1の工程3と同様の手法にて凍結保存した。
【0108】
(工程4:羊膜MSCの培養)
上記の「工程3:羊膜MSCの凍結保存」で得られた細胞集団を、比較例1の工程4と同様の手法にてサブコンフルエントになるまで接着培養した。継代培養は、比較例1の工程4と同様の手法にて行った。
【0109】
<CD97発現の解析>
比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いてCD97に対して陽性となる細胞の比率を測定した。
【0110】
本測定では、CD97抗原に対応する抗体としてAnti-CD97-Mouse Mono IgG1(Miltenyi Biotec社/型番:130-097-102)、アイソタイプコントロール用抗体としてMouse IgG1(Miltenyi Biotec社/型番:130-098-845)を使用した。
【0111】
<CD358発現の解析>
比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団に関し、フローサイトメーターを用いてCD358に対して陽性となる細胞の比率を測定した。
【0112】
本測定では、CD358抗原に対応する1次抗体としてMouse Anti HumanCD358(Bio-Rad社/型番:MCA2333)、アイソタイプコントロール用抗体としてMouse Mono IgG1(Bio-Rad社/型番:MCA928)、CD358抗原に対応する1次抗体及びそのアイソタイプコントロール用抗体に対応する2次抗体としてMouse F(ab)2 IgG (H+L) APC-conjugated Antibody(R&D Systems社/型番:F0101B)を使用した。
【0113】
【0114】
【0115】
表1より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、CD97及びCD358の陽性率が向上した。比較例1の細胞集団では、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%未満(具体的には20.6%)であるのに対し、実施例1の細胞集団では、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上(具体的には60.6%)であった。また、比較例1の細胞集団では、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含まない(具体的には0.0%)であるのに対し、実施例1の細胞集団では、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む(具体的には7.1%)ことが明らかになった。
【0116】
<免疫抑制作用の評価>
比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団に関し、マイクロアレイ解析により、TGFB2遺伝子、TNFAIP6遺伝子、IL1A遺伝子、IL1B遺伝子、CCL2遺伝子及びSDHA遺伝子の発現を解析した。
【0117】
以下の手順(1)~(5)によりマイクロアレイ解析を実施した。なお、以下の手順(3)~(5)は、株式会社理研ジェネシスに委託して実施した。
(1)比較例1及び実施例1で培養した6継代目の細胞集団を、セルスクレーパー(コーニング社製)を用いてプラスチック製培養容器から剥離し、遠心分離により回収した。
(2)得られた細胞ペレットにRNAlater(Thermo Fisher Scientific社製)を添加してRNAを安定保存した後、RNeasy Plus Miniキット(QIAGEN社製)を用いてトータルRNAを抽出、精製した。
(3)100ngのトータルRNAから逆転写反応によりcDNAを合成し、cDNAからin vitro transcriptionによりcRNAに転写してビオチン標識を行った(3’IVT PLUS Reagent Kitを使用)。
(4)10.0μgの標識cRNAをハイブリダイゼーションバッファーに加え、Human GeneGenome U133A 2.0 Array(Affymetrix社製)上で16時間のハイブリダイゼーションを行った。GeneChip Fluidics Station 450(Affymetrix社製)にて洗浄、フィコエリスリン染色後、GeneChip Scanner 3000 7G(Affymetrix社製)にてスキャンを行い、AGCC(Affymetrix GeneChip Command Console Software)(Affymetrix社製)にて画像解析し、Affymetrix Expression Console(Affymetrix社製)を用いて数値化した。
(5)数値データファイルを、解析ソフトGeneSpring GX(アジレント・テクノロジー社製)を用いて解析した。
【0118】
各遺伝子の発現レベルを、SDHA遺伝子の発現レベルに対する相対発現量として求めた。結果を下記表に示す。
【0119】
【0120】
表2より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、TGFB2遺伝子、TNFAIP6遺伝子、IL1A遺伝子、IL1B遺伝子及びCCL2遺伝子の相対発現量が多いことが分かった。
【0121】
間葉系幹細胞に基づく治療は、移植片対宿主病、クローン病等の免疫関連疾患に対する有望なアプローチである。間葉系幹細胞の抗炎症性及び/又は免疫抑制能は、間葉系幹細胞が産生するTGFB2、TNFAIP6を始めとした種々のサイトカインが関わるとされる。なかでも、TGFB2は、白血球の増殖、分化、活性化及び生存に影響を及ぼすことによる免疫寛容の誘導及び維持だけでなく、炎症応答の開始と消散を調整する上でも不可欠な役割を果たす主要なメディエーターとして機能する(Kyurkchiev D,et al.World J Stem Cells.2014;6(5):552-70.)。TGFB2が免疫細胞機能に及ぼす調節活性は多様であり、例えば、エフェクターT細胞の増殖及び機能の阻害、ナイーブTリンパ球からの制御性T細胞の生成、NK細胞によるサイトカイン産生と細胞溶解活性の減弱、B細胞、樹状細胞及びマクロファージの抑制などがある(Kyurkchiev D,et al.World J Stem Cells.2014;6(5):552-70.)。また、間葉系幹細胞が産生するTNFAIP6は、インビトロ共培養系におけるマクロファージ活性化の減少や、ザイモサン誘導性腹膜炎モデルにおける炎症の緩和に関与することが示唆されている(Bartosh TJ,et al.Proc Natl Acad Sci U S A.2010;107(31):13724-9.)。また、間葉系幹細胞は、抗炎症性を獲得するために炎症性サイトカインで刺激されなければならないが、間葉系幹細胞が産生するIL1A、IL1B及びCCL2は、間葉系幹細胞自身の抗炎症性を高めるための自己炎症性サイトカインとして機能する(Cesarz Z,Tamama K.Stem Cells Int.2016;2016:9176357.)。本発明の間葉系幹細胞は、TGFB2、TNFAIP6、IL1A、IL1B及びCCL2を高産生することができ、これらのサイトカインによって高い抗炎症性及び/又は免疫抑制能を発揮することができる。よって、本発明の間葉系幹細胞は、免疫関連疾患(例えば、移植片対宿主病、クローン病)の患者に投与されることにより、患者の免疫状態を改善することができる。
以上より、比較例1の細胞集団と比べて、実施例1の細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことが明らかになった。
【0122】
よって、以下に示す(a)及び(b)の細胞特性を有する細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことが分かった。
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む。
【0123】
また、高い免疫抑制作用を示す細胞集団を取得するための指標として、上記(a)及び(b)の条件が有効であることが示唆された。
【0124】
<実施例2>
インフォームドコンセントを得た待機的帝王切開症例の妊婦(比較例1及び実施例1とは異なるドナー)から、実施例1と同様に、「工程1:羊膜の採取」、「工程2:羊膜の酵素処理及び羊膜MSCの回収」、「工程3:羊膜MSCの凍結保存」及び「工程4:羊膜MSCの培養」を行った。羊膜MSCの培養においては、継代ごとに細胞集団の一部を採取し、採取したそれぞれの細胞集団について下記(a)及び(b)の条件を評価した。前記条件の評価は、上記「CD97発現の解析」及び「CD358発現の解析」と同様の手法を使用した。
(a)前記細胞集団において、CD97が陽性を呈する間葉系幹細胞の比率が30%以上であり、かつ
(b)前記細胞集団が、CD358が陽性を呈する間葉系幹細胞を含む。
【0125】
採取した細胞集団には、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団と満たさない細胞集団が存在したため、前記2種類の細胞集団について段落0116に記載の「免疫抑制作用の評価」と同様の手法にて免疫抑制作用を評価した。
【0126】
その結果、上記(a)及び(b)の条件を満たさない細胞集団と比べて、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団は、TGFB2遺伝子、TNFAIP6遺伝子、IL1A遺伝子、IL1B遺伝子及びCCL2遺伝子の相対発現量が多いことが分かった。上記(a)及び(b)の条件を満たさない細胞集団と比べて、上記(a)及び(b)の条件を満たす細胞集団は、高い免疫抑制作用を示すことから、上記(a)及び(b)の条件を指標とすれば、高い免疫抑制作用を示す細胞集団を選択的に取得することができる。
【0127】
<実施例3:医薬組成物の製造>
上記の実施例1で得られた細胞集団の一部を医薬組成物の調製に供する。羊膜MSC4.0×108個、HES800mg、DMSO0.7mL及びヒト血清アルブミン800mgを含有するRPMI1640培地20mLからなる医薬組成物(細胞製剤)を調製する。当該医薬組成物を凍結用バッグに封入し、凍結状態で保存する。尚、使用時に医薬組成物を解凍し、患者に供することができる。