(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】操作されたボツリヌスニューロトキシン
(51)【国際特許分類】
C12N 15/31 20060101AFI20221004BHJP
C07K 14/33 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20221004BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20221004BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20221004BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20221004BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20221004BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20221004BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20221004BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20221004BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20221004BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221004BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20221004BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20221004BHJP
A61P 13/10 20060101ALI20221004BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 25/04 20060101ALI20221004BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221004BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C12N15/31
C07K14/33 ZNA
C12N15/63 Z
C12P21/02 C
C07K19/00
C12N15/62 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/16
A61P25/00
A61P25/08
A61P27/02
A61P25/28
A61P1/04
A61P13/10
A61P1/00
A61P21/00
A61P25/04
A61P29/00
A61P17/00
(21)【出願番号】P 2019516917
(86)(22)【出願日】2017-06-08
(86)【国際出願番号】 US2017036628
(87)【国際公開番号】W WO2017214447
(87)【国際公開日】2017-12-14
【審査請求日】2020-06-08
(32)【優先日】2016-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596115687
【氏名又は名称】ザ チルドレンズ メディカル センター コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】518438324
【氏名又は名称】ステンマルク,ポール
【氏名又は名称原語表記】STENMARK, Paul
【住所又は居所原語表記】Svantearrheniusvag 16c, 10691 Stockholm, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】ステンマルク,ポール
(72)【発明者】
【氏名】ヅァン,シーツァイ
(72)【発明者】
【氏名】ドン,ミン
【審査官】大久保 智之
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-538902(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0070621(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-90
C12N 1/00-38
C07K 14/00-825
C07K 19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス菌(Clostridial Botulinum)血清型B(BoNT/B)の改変受容体結合ドメインを含む、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドであって、BoNT血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異を含む、前記ポリペプチド。
【請求項2】
改変BoNTポリペプチドであって、以下:
(a)配列番号1~8のいずれか1つのアミノ酸配列を含むかまたは配列番号1~8のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異、または配列番号8における位置1249または1250において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異を有する、または
(b)配列番号1~8のいずれか1つに対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異、または配列番号8における位置1249または1250において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異を有する、
請求項1に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項3】
置換変異が、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248および1249の両方、または配列番号8における位置1249および1250において、トリプトファン(W)を導入し、さらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、配列番号33のアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項4】
以下:
(a)配列番号9~16のいずれか1つのアミノ酸配列を含むかまたは配列番号9~16のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390において1つ以上の置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する、または
(b)配列番号9~16のいずれか1つに対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390において1つ以上の置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する、
改変BoNTポリペプチドであって、任意にここで、置換変異が、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390、または配列番号16における位置390または391において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、またはチロシン(Y)のいずれか1つを導入し、さらに任意にここで、置換変異が、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389および390の両方、または配列番号16における位置390および391においてトリプトファン(W)を導入し、より一層さらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、配列番号34のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項5】
以下:
(a)配列番号17~24のいずれか1つのアミノ酸配列を含むかまたは配列番号17~24のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において1つ以上の置換変異を有する、または
(b)配列番号17~24のいずれか1つに対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において1つ以上の置換変異を有する、
改変BoNTポリペプチドであって、任意にここで、置換変異が、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、またはチロシン(Y)のいずれか1つを導入し、さらに任意にここで、置換変異が、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261および1262の両方において、トリプトファン(W)を導入し、より一層さらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、配列番号35または配列番号36のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項6】
血清型B、菌株1(BoNT/B1)のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメントに対応するポリペプチドのアミノ酸配列を含む、改変BoNTポリペプチドであって、BoNT/B1における1248または1249に対応する位置において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異を有する、前記ポリペプチド。
【請求項7】
以下:
(a)配列番号25~32のいずれか1つのアミノ酸配列を含むかまたは配列番号25~32のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、1つ以上の置換変異を有し、または
(b)配列番号25~32のいずれか1つに対して、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、1つ以上の置換変異を有する、
改変BoNTポリペプチドであって、任意にここで、置換変異が、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、またはチロシン(Y)のいずれか1つを導入し、さらに任意にここで、置換変異が、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4および5の両方においてトリプトファン(W)を導入し、なお一層さらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、配列番号37のアミノ酸配列を含む、
請求項6に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項8】
以下:
a)プロテアーゼドメイン;
b)プロテアーゼ切断部位;
c)転位置ドメイン;
をさらに含む、請求項1に記載の改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチド。
【請求項9】
BoNT/B1、BoNT/B2、BoNT/B3、BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、およびBoNT/B8のいずれか1つの改変受容体結合ドメインを含む、請求項8に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項10】
改変受容体結合ドメインが、以下
:
2つの置換変異、任意にここで、置換変異が、BoNT/B1におけるI1248W/V1249F、I1248W/V1249Y、I1248F/V1249Y、I1248F/V1249W、I1248Y/V1249W、またはI1248Y/V1249Fに対応する、
を含む、請求項8または9に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項11】
プロテアーゼドメイン、転位置ドメイン、およびプロテアーゼ切断部位が、A、B、C、D、E、F、G、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される血清型由来であり、任意にここで、プロテアーゼドメイン、転位置ドメイン、およびプロテアーゼ切断部位が、血清型B、菌株1、または血清型A、菌株1由来のものである、請求項8~10のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項12】
改変BoNTポリペプチドであって、BoNT/B1における1178、1191、または1199に対応する位置において、1つ以上の置換変異をさらに含み、任意にここで、置換変異が、BoNT/B1におけるE1191M/S1199Y、E1191M/S1199W、E1191M/W1178Q、E1191V/S1199Y、1191V/S1199W、E1199V/W1178Q、またはE1199Q/S1199Yに対応し、さらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、配列番号46~66のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、なおさらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、SytIIに対して増大した結合アフィニティーを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド。
【請求項13】
第2の部分に連結した第1の部分を含むキメラ分子であって、第1の部分が、請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチドである、前記キメラ分子。
【請求項14】
第1の部分と第2の部分とが、共有結合的または非共有結合的に連結している、請求項13に記載のキメラ分子。
【請求項15】
第2の部分が、低分子、核酸、ポリペプチドからなる群より選択される、請求項13または14に記載のキメラ分子。
【請求項16】
第2の部分が、以下:
(a)生理活性分子、任意にここで、第2の部分が非ポリペプチド薬である、または
(b)非ポリペプチド薬である、
請求項13または14に記載のキメラ分子。
【請求項17】
第2の部分が、治療用ポリペプチドである、請求項13または14に記載のキメラ分子。
【請求項18】
核酸分子であって、以下:
(a)請求項1~1
2のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチ
ド、または
(b)請求項13
~17のいずれか一項に記載のキメラ分子、
をコードするポリヌクレオチド配列を含む、前記核酸分子。
【請求項19】
請求項18に記載の核酸分子を含む、核酸ベクター。
【請求項20】
請求項18に記載の核酸分子または請求項19に記載の核酸ベクターを含む、細胞。
【請求項21】
請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチドを発現する、細胞。
【請求項22】
改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドを生成する方法であって、請求項21に記載の細胞を前記BoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む、前記方法。
【請求項23】
請求項13または17に記載のキメラ分子を発現する、細胞。
【請求項24】
請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチドまたは請求項13~17のいずれか一項に記載のキメラ分子を含む、医薬組成物。
【請求項25】
望ましくない神経活動に関連する状態を処置する方法における使用のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド、請求項13~17のいずれか一項に記載のキメラ分子、または請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド、請求項13~17のいずれか一項に記載のキメラ分子、および請求項24に記載の医薬組成物の治療有効量を、それにより望ましくない神経活動に関連する状態を処置するために対象に投与することを含む、望ましくない神経活動に関連する状態の処置する方法における使用のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド、請求項13~17のいずれか一項に記載のキメラ分子、または請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項27】
状態が、過活動の神経細胞または腺(glans)と関連し、
任意にここで、状態が、痙攣性発声障害、痙性斜頚(spasmodic torticollis)、喉頭ジストニア、顎口腔性発声障害、舌ジストニア、痙性斜頚(cervical dystonia)、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、限局性痙攣および他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害、および他の筋緊張障害、および筋群の不随意運動により特徴づけられる他の障害、流涙、多汗症(hyperhydrosis)、過剰な唾液分泌、過剰な胃腸管分泌、分泌障害、筋痙攣からの疼痛、頭痛、および皮膚科学的または審美的/美容的状態からなる群より選択される、
請求項26に記載の使用のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド、請求項13~17のいずれか一項に記載のキメラ分子、または請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項28】
投与が、注射部位への注射を介するものであり、ここで、注射が、望ましくない神経活動が存在する場所におけるものであり、任意にここで、注射部位における神経細胞(単数または複数)による改変BoNTポリペプチドの取り込みが増強されており、ここで、他の領域へのポリペプチドの拡散が減少し、さらに任意にここで、注射における神経細胞(単数または複数)による改変BoNTポリペプチドの取り込みが増強されており、ここで、ポリペプチドは、免疫原性が低下している、請求項26または27に記載の使用のための、請求項1~12のいずれか一項に記載の改変BoNTポリペプチド、請求項13~17のいずれか一項に記載のキメラ分子、または請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項29】
改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)を作製する方法であって、血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において、フェニルアラニン、トリプトファン、およびチロシンの1つ以上を導入する1つ以上の置換変異を作製することを含む、前記方法。
【請求項30】
置換変異が、I1248F、I1248Y、I1248W、V1249W、V1249F、V1249Y、I1248W/V1249F、I1248W/V1249Y、I1248F/V1249Y、I1248F/V1249W、I1248Y/V1249W、またはI1248Y/V1249Fに対応する、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
BoNTポリペプチドが、BoNT血清型B(BoNT/B)であり、任意にここで、BoNTポリペプチドが、BoNT/B、菌株1~8のいずれか1つであり、任意にここで、改変BoNTポリペプチドが、脂質膜を透過し、さらに任意にここで、改変BoNTポリペプチドの神経細胞への結合が増強されており、ここで、増強された結合は、脂質膜を透過することにより媒介され、なおさらに任意にここで、増強された結合が、シナプス前神経終末に特異的であり、より好ましくは、シナプス前神経終末が:
(a)マウスシナプス前神経終末である、または
(b)ヒトシナプス前神経終末である、
請求項29または30に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、2016年6月8日に出願された米国仮出願第62/347,579号の35U.S.C.§119(e)下における利益を主張し、当該仮出願は、本明細書においてその全体において参考として援用される。
【背景技術】
【0002】
背景
近年において、ボツリヌス(Clostridial Botulinum)ニューロトキシン(BoNT)は、増加しつつあるリストの医学的状態を処置するために広く用いられてきた:微量のトキシンの局所注射により、標的領域における神経活動を減弱することができ、これは、多くの医学的状態において、ならびに美容目的のためにも、有益であり得る2~4。今日までのところ、BoNT血清型A(BoNT/A)およびBoNT血清型B(BoNT/B)が、現在FDAにより人における使用について承認されている唯2つのBoNTである2~4。BoNTの用途が増加するにつれて、限定要因および有害効果が報告されてきている。主要な限定要因は、患者における中和抗体の産生であり、これは将来の処置を無効にする。BoNTの使用を停止すると、しばしば、患者にとって、その障害を処置/軽減する他の有効な方法が残らない。BoNTの使用に関連する有害効果は、眼瞼下垂および複視などの一過性の重篤でない事象から、生命を脅かす事象、死にまで至る6、7。BoNTの限定要因および有害効果は、用量に大きく相関する。神経細胞に対して改善した特異性を有し、より少ない用量で同じレベルのトキシン活性を維持する、改変BoNTが、強く所望される。
【発明の概要】
【0003】
概要
本開示のいくつかの側面は、ボツリヌス菌血清型B(BoNT/B)の改変受容体結合ドメインを含む、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドを提供し、これは、BoNT血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において1つ以上の置換変異を含む。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、これは、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において1つ以上の置換変異、または配列番号8における位置1249または1250において1つ以上の置換変異を有する。
【0004】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において1つ以上の置換変異、または配列番号8における位置1249または1250において1つ以上の置換変異を有する。
【0005】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、これは、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において1つ以上の置換変異、または配列番号8における位置1249または1250において1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、置換変異は、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において、または配列番号8における位置1249または1250において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはヒスチジン(H)のいずれか1つを導入する。いくつかの態様において、置換変異は、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248および1249の両方、または配列番号8における位置1249および1250において、トリプトファン(W)を導入する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号33のアミノ酸配列を含む。
【0006】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、これは、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390において1つ以上の置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390において1つ以上の置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する。
【0007】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、これは、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390において1つ以上の置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、置換変異は、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390、または配列番号16における位置390または391において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはヒスチジン(H)のいずれか1つを導入する。いくつかの態様において、置換変異は、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389および390の両方、または配列番号16における位置390および391においてトリプトファン(W)を導入する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号34のアミノ酸配列を含む。
【0008】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、これは、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において1つ以上の置換変異を有する。
【0009】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、これは、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、置換変異は、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはヒスチジン(H)のいずれか1つを導入する。いくつかの態様において、置換変異は、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261および1262の両方において、トリプトファン(W)を導入する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号35または配列番号36のアミノ酸配列を含む。
【0010】
本開示のいくつかの側面は、血清型B、菌株1(BoNT/B1)のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメントに対応するポリペプチドのアミノ酸配列を含む、改変BoNTポリペプチドを提供し、これは、BoNT/B1における1248または1249に対応する位置において1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号25~32のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、これは、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、1つ以上の置換変異を有する。
【0011】
いくつかの態様において、改変BoNTは、配列番号25~32のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、1つ以上の置換変異を有する。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号25~32のいずれか1つのアミノ酸配列からなり、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、1つ以上の置換変異を有する。
【0012】
いくつかの態様において、置換変異は、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはヒスチジン(H)のいずれか1つを導入する。いくつかの態様において、置換変異は、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4および5の両方においてトリプトファン(W)を導入する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列を含む。
いくつかの態様において、置換変異は、脂質膜を透過する受容体結合ドメイン中にループを作製する。いくつかの態様において、本明細書において開示される改変BoNTポリペプチドは、神経終末への結合が、対応する野生型BoNTポリペプチドと比較して増強されており、ここで、増強された結合は、ループの脂質膜への透過により媒介される。
【0013】
いくつかの態様において、増強された結合が、シナプス前神経終末に特異的である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、マウスシナプス前神経終末である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、ヒトシナプス前神経終末である。
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B1における1178、1191、または1199に対応する位置において、1つ以上の置換変異をさらに含む。いくつかの態様において、置換変異は、BoNT/B1におけるE1191M/S1199Y、E1191M/S1199W、E1191M/W1178Q、E1191V/S1199Y、1191V/S1199W、E1199V/W1178Q、またはE1199Q/S1199Yに対応する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号46~66のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。
【0014】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、SytIIに対する結合アフィニティーが増強されている。
本明細書においてさらに提供されるのは、本明細書において開示される改変BoNTポリペプチドに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む改変BoNTポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸分子である。かかる核酸分子を含む核酸ベクターもまた記載される。
本明細書においてさらに提供されるのは、本明細書において記載される核酸分子または核酸ベクターを含む細胞である。本開示の改変BoNTポリペプチドを発現する細胞もまた、記載される。
【0015】
本開示の他の側面は、本明細書において開示される改変BoNTポリペプチドを生成する方法を提供し、該方法は、かかる改変BoNTポリペプチドを発現する細胞を、前記改変BoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む。いくつかの態様において、方法は、培養物から改変BoNTポリペプチドを回収することをさらに含む。
【0016】
本開示の他の側面は、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドを提供し、これは、以下を含む:a)プロテアーゼドメイン;b)プロテアーゼ切断部位;c)転位置ドメイン;およびd)BoNT血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において1つ以上の置換変異を含むボツリヌス血清型Bの改変受容体結合ドメイン。
いくつかの態様において、ポリペプチドは、BoNT/B1、BoNT/B2、BoNT/B3、BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、およびBoNT/B8のいずれか1つの改変受容体結合ドメインを含む。
【0017】
いくつかの態様において、改変受容体結合ドメインは、1つの置換変異を含む。いくつかの態様において、1つの置換変異は、BoNT/B1において、I1248F、I1248Y、I1248H、I1248W、V1249W、V1249F、V1249Y、またはV1249Hに対応する。
いくつかの態様において、改変受容体結合ドメインは、2つの置換変異を含む。いくつかの態様において、置換変異は、BoNT/B1において、I1248W/V1249F、I1248W/V1249Y、I1248W/V1249H、I1248F/V1249Y、I1248F/V1249H、I1248Y/V1249H、I1248F/V1249W、I1248Y/V1249W、I1248H/V1249W、I1248Y/V1249F、I1248H/V1249F、またはI1248H/V1249Yに対応する。
【0018】
いくつかの態様において、プロテアーゼドメイン、転位置ドメイン、およびプロテアーゼ切断部位は、A、B、C、D、E、F、G、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される血清型由来のものである。
いくつかの態様において、プロテアーゼドメイン、転位置ドメイン、およびプロテアーゼ切断部位は、血清型B、菌株1由来のものである。いくつかの態様において、プロテアーゼドメイン、転位置ドメイン、およびプロテアーゼ切断部位は、血清型A、菌株1由来のものである。
【0019】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、脂質膜を透過する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドの神経終末への結合は、対応する野生型BoNTと比較して増強されており、ここで、増強された結合は、脂質膜のループの透過により媒介される。いくつかの態様において、増強された結合は、シナプス前神経終末に特異的である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、マウスシナプス前神経終末である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、ヒトシナプス前神経終末である。
【0020】
いくつかの態様において、本明細書において開示される改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B1における1178、1191、または1199に対応する位置において、1つ以上の置換変異をさらに含む。いくつかの態様において、置換変異は、BoNT/B1におけるE1191M/S1199Y、E1191M/S1199W、E1191M/W1178Q、E1191V/S1199Y、1191V/S1199W、E1199V/W1178Q、またはE1199Q/S1199Yに対応する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号46~66のいずれか1つのアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、SytIIに対して増大した結合アフィニティーを有する。
【0021】
本明細書においてさらに提供されるのは、本開示の改変BoNTポリペプチドに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変BoNTポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、単離された核酸分子である。また本明細書において提供されるのは、かかる核酸分子を含む核酸ベクター、およびこれらを含む細胞である。改変BoNTポリペプチドを発現する細胞もまた、企図される。
【0022】
本明細書においてさらに提供されるのは、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドを生成する方法であって、該方法は、本明細書において記載される細胞を、前記BoNTポリペプチドが生成される条件下において培養するステップを含む。いくつかの態様において、方法は、培養物からBoNTポリペプチドを回収することをさらに含む。
本開示の他の側面は、第2の部分に連結した第1の部分を含むキメラ分子を提供し、ここで、第1の部分は、本開示の改変BoNTポリペプチドである。
【0023】
いくつかの態様において、第1の部分と第2の部分とは、共有結合により連結している。いくつかの態様において、第1の部分と第2の部分とは、非共有結合的に連結している。
いくつかの態様において、第2の部分が、低分子、核酸、短いポリペプチドおよびタンパク質からなる群より選択される。いくつかの態様において、第2の部分は、生理活性分子である。いくつかの態様において、第2の部分は、非ポリペプチド薬である。いくつかの態様において、第2の部分は、治療用ポリペプチドである。
かかるキメラ分子をコードする核酸、核酸ベクター、当該核酸を含有する細胞、およびかかるキメラ分子を発現する細胞もまた、記載される。
【0024】
本開示の他の側面は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドまたはキメラ分子を含む、医薬組成物を提供する。いくつかの態様において、医薬組成物は、薬学的に許容し得る賦形剤をさらに含む。
医薬組成物および医薬組成物の治療的投与のための説明書を含むキットもまた、記載される。
【0025】
本開示の他の側面は、望ましくない神経活動の状態を処置する方法を提供し、該方法は、状態を処置するために、本明細書において開示される改変BoNTポリペプチド、キメラ分子、または医薬組成物の治療有効量を、対象に投与することを含む。
【0026】
いくつかの態様において、状態は、過活動の神経細胞または腺と関連する。いくつかの態様において、状態は、痙攣性発声障害、痙性斜頚(spasmodic torticollis)、喉頭ジストニア、顎口腔性発声障害、舌ジストニア、痙性斜頚(cervical dystonia)、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、限局性痙攣および他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス(anismus)、四肢痙攣、チック、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害、および他の筋緊張障害、および筋群の不随意運動により特徴づけられる他の障害、流涙、多汗症(hyperhydrosis)、過剰な唾液分泌、過剰な胃腸管分泌、分泌障害、筋痙攣からの疼痛、頭痛、スポーツ外傷、および皮膚科学的または審美的/美容的状態からなる群より選択される。
【0027】
いくつかの態様において、投与は注射を介するものであり、ここで注射は、望ましくない神経活動が存在する場所におけるものである。いくつかの態様において、注射の部位における神経細胞による改変BoNTポリペプチドの取り込みが増強され、およびここで、他の領域への当該ポリペプチドの拡散が減少する。
いくつかの態様において、注射における神経細胞による改変BoNTポリペプチドの取り込みが増強され、およびここで、当該ポリペプチドは、免疫原性が低下している。
【0028】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチド、キメラ分子、および医薬組成物は、望ましくない神経活動に関連する状態を処置するために用いることができる。
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチド、キメラ分子、および医薬組成物は、医薬において用いることができる。
本開示のさらに他の側面は、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)を作製する方法を提供し、該方法は、血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において、1つ以上の置換変異を作製することを含む。
【0029】
いくつかの態様において、置換変異は、I1248F、I1248Y、I1248H、I1248W、V1249W、V1249F、V1249Y、V1249H、I1248W/V1249F、I1248W/V1249Y、I1248W/V1249H、I1248F/V1249Y、I1248F/V1249H、I1248Y/V1249H、I1248F/V1249W、I1248Y/V1249W、I1248H/V1249W、I1248Y/V1249F、I1248H/V1249F、またはI1248H/V1249Yに対応する。
【0030】
いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、BoNT血清型B(BoNT/B)である。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、BoNT/B、菌株1~8のいずれか1つである。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、脂質膜を透過する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、神経細胞への結合が増強されており、ここで、増強された結合は、脂質膜への透過により媒介される。いくつかの態様において、増強された結合は、シナプス前神経終末に特異的である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、マウスシナプス前神経終末である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、ヒトシナプス前神経終末である。
【0031】
本開示の限定の各々は、本開示の多様な態様を包含することができる。したがって、任意の1つの要素または要素の組み合わせを含む本開示の限定の各々が、本開示の各々の側面において含まれ得ることが理解される。本開示は、その適用において、以下の説明において記載されるかまたは図面において説明される構成および成分の配置の詳細に限定されない。本開示は、他の態様が可能であり、多様な方法において実施するまたは行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図面の簡単な説明
添付の図面は、一定の縮尺であることは意図されない。図面において、多様な図面において説明される各々の同一またはほぼ同一の成分は、数詞などにより表される。明確性を目的として、全ての図面における全ての成分がラベルされているわけではない。図面においては、以下のとおりである:
【0033】
【
図1】
図1A~1Dは、BoNTがどのようにして神経細胞を標的化するかについての模式的モデル(
図1A)、それらの全体的なタンパク質構造(
図1B)、同定された受容体のリスト(
図1C)、ならびにBoNT/Bのその受容体Sytおよびガングリオシドへの結合についての構造モデル(
図1D)を示す。
図1Aは、BoNTの作用の模式図を示す:BoNTは、それらの特異的受容体への結合により、神経細胞を認識し(ステップ1)、受容体により媒介されるエンドサイトーシスを介して神経細胞に侵入し(ステップ2)、BoNTの軽鎖が、次いでエンドソームの膜を越えて細胞質ゾル中に転位置し(ステップ3)、ここで、これらの軽鎖がプロテアーゼとして作用して、標的である宿主のタンパク質を切断する(ステップ4)。
図1Aは、Arnon, S. et al, JAMA, 285:1059, 2001
35から翻案する。
図1Bは、ジスルフィド結合を介して連結された軽鎖と重鎖とからなるBoNTを示す。重鎖は、さらに2つのドメイン:転位置ドメイン(H
N)および受容体結合ドメイン(H
C)に分けることができる。これらの機能的ドメインは、異なるBoNTの間で切り替え可能である。例えば、BoNT/B-H
Cを用いてBoNT/A-H
Cを置き換えて、キメラトキシンを生成することができる。
図1Cは、同定されたトキシン受容体のリストを提供する。
図1Dは、細胞表面における、BoNT/Bの、そのタンパク質受容体であるSyt(I/II)、ならびにその脂質共受容体であるガングリオシドへの結合を示す構造モデルである。BoNT/DCにおけるループと類似する伸長したループを、「ループ1250」としてラベルする。伸長したループを、「ループ1250」としてマークする。
図1Dは、Chai et al, Nature, 444:1096, 2006から翻案する。
【0034】
【
図2】
図2A~2Bは、BoNT/DCにおける脂質膜中を透過する伸長したループ、およびBoNT/Bにおける類似のループを示す。
図2Aは、BoNT/DC-H
CおよびBoNT/B-H
Cの結晶構造を、BoNT/DC-H
Cにおける、およびBoNT/B-H
Cにおける、矢印でマークしたそれらの伸長したループとオーバーレイしたものを示す。
図2Bは、細胞膜(PM)上にモデリングしたBoNT/B-H
Cの結晶構造を示し、これは、伸長したループが、PMと相関するために理想的な位置に配置されていることを示す。
【0035】
【
図3】
図3A~3Bは、BoNT/B-H
CにおけるI1248WおよびV1249W変異が、リポソームへのトキシンの結合を増強したこと、および増強がガングリオシド結合と相乗的であることを示す。
図3Aは、リポソーム浮揚アッセイの模式図である。
図3Bは、
図3Aにおいて表されるとおりに行われた実験の結果を示す。簡単に述べると、PCのみ、またはPCと脳ガングリオシド混合物(gang mix、1%)とを含むリポソームを、示されたBoNT/B-H
Cと共にインキュベートした。試料を、スクロース勾配中で、1時間にわたり240,000gで遠心分離した。勾配の最上層に浮遊したリポソーム画分を回収して、HAタグ化BoNT/B-H
Cを検出するイムノブロット分析に供した。リポソームを含まない試料を、陰性対照として用いた。WT BoNT/B-H
Cは、ガングリオシドがあってもなくても、PCリポソームに結合しなかった。対照的に、BoNT/B-H
C(I1248W)およびBoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)は、PCリポソームへの強力な結合、およびガングリオシド含有リポソームへのさらに増強された結合を示した。
【0036】
【
図4】
図4A~4Bは、BoNT/B-H
CにおけるI1248WおよびV1249W変異が、神経細胞へのトキシンの結合を増強したことを示す。
図4Aは、培養ラット皮質神経細胞を、示されたBoNT/B-H
Cに(100nM、5分間、高K
+バッファー中で)暴露した結果を示す。細胞を、洗浄して採取した。細胞ライセートを、イムノブロット分析に供した。アクチンを内部ローディング対照として用いた。
図4Bは、
図4Aにおいて記載したとおりのBoNT/B-H
Cの神経細胞への結合を定量して、アクチンレベルに対して正規化したものを示す。BoNT/B-H
C(I1248W)は、WT BoNT/B-H
Cに対して2.7倍の増大を示し、BoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)は、3.5倍の増大を示した。
【0037】
【
図5】
図5は、BoNT/B-H
CにおけるI1248WおよびV1249W変異が、シナプス前神経終末への特異的結合を増強したことを示す。培養ラット皮質神経細胞を、示されたBoNT/B-H
Cに(100nM、5分間、高K
+バッファー中で)暴露した。細胞を洗浄し、固定して、免疫染色分析に供した。シナプシンを、シナプス前終末についてのマーカーとして標識した。BoNT/B-H
C(I1248W)およびBoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)は、WT BoNT/B-H
Cよりも著しく増大した神経細胞への結合を示した。下のパネルにおいて白色の正方形によりマークされた面積が拡大しており、これは、BoNT/B-H
C(I1248W)およびBoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)の結合がシナプシンと共局在していることを示し、これにより、これらの変異体が、シナプス前終末に対する特異性を維持したことを示している。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ある態様の詳細な説明
ボツリヌスニューロトキシンは、細菌のトキシンのファミリーであり、7つの主要な血清型(BoNT/A~G)を含む1。これらのトキシンは、神経細胞からの神経伝達物質の放出を遮断することにより作用し、それにより、動物およびヒトを麻痺させる。近年において、BoNTは、増加しつつあるリストの医学的状態を処置するために広く用いられてきた:微量のトキシンの局所注射により、標的領域における神経活動を減弱することができ、これは、多くの医学的状態において、ならびに美容目的のためにも、有益であり得る2~4。
【0039】
BoNT/AおよびBoNT/Bは、現在FDAにより人における使用について承認されている唯2つのBoNTである2~4。これらは、配列を少しも修飾することなく細菌から精製されたトキシンである(野生型、WTとして定義される)。BoNTの用途が増加するにつれて、限定要因および有害効果が報告されてきている。主要な限定要因は、患者における中和抗体の産生であり、これは、将来の処置を無効にする5。BoNTの使用を停止すると、しばしば、患者にとって、その障害を処置/軽減する他の有効な方法が残らない。抗体応答の可能性は、トキシンの用量と注射の頻度の両方に直接的に関連する5。したがって、この限定要因は、主に、高用量のトキシンに関係する筋痙攣の処置において起こる。一貫して、抗体応答は、極めて低いトキシン用量を用いる美容的用途においては観察されていない5。
【0040】
主要な有害効果はまた、しばしば、筋痙攣を処置することには関連するが、美容的用途には関連しない。これは、有害効果が、身体の他の領域へのトキシンの拡散に主に起因しており、トキシン拡散の可能性は、注射される用量に直接的に関連するからである。有害効果は、眼瞼下垂および複視などの一過性の重篤でない事象から、生命を脅かす事象、死にまで至る6、7。2008年にDr. Sidney WolfeによりFDAに提出された訴状においては、16の死亡を含む合計180の重篤な有害事象が記述されている。結果として、FDAは、今では、全てのBoNT製品に対して、「黒枠警告(Black box warning)」を要求しており、トキシンの拡散のリスクを強調し、欧州連合により発行された類似の警告を踏襲している。
【0041】
中和抗体の産生およびトキシン拡散はいずれも、注射された用量に直接的に関連するので、トキシン用量を低下させること(同じレベルのトキシン活性を維持しつつ)が、強く所望され、これは、個々のトキシン分子の効力が増強されなければならないことを意味する。神経細胞についての特異性が改善したかかる改変BoNTはまた、他の細胞型中への非特異的な侵入に起因する任意の潜在的なオフターゲット効果を低減するであろう。
BoNTがそれらの神経細胞の受容体を認識する能力を増強することは、注射部位におけるトキシンの神経細胞中への吸収を促進し、したがって、トキシンを、免疫応答の誘発から遮蔽し、またそれらの拡散を防止するであろう。神経細胞の受容体へのアフィニティーおよび特異性の増強はまた、他の細胞型中への非特異的な侵入に起因する潜在的なオフターゲット効果を軽減するであろう。
【0042】
タンパク質およびガングリオシド受容体の両方を利用することにより、BoNTは、極めて高い効力および特異性により、神経細胞を標的化する能力を獲得する。BoNT/Bは、その著しく低下したヒトSytII(h-SytII)に対する結合アフィニティーに起因して、ヒトにおいては、より特異性が低く、強力でない。BoNT/BはなおヒトSytI(h-SytI)には結合するので、ヒトは、BoNT/Bに対して感受性であり続ける。BoNT/Bは、患者において同じレベルの効果を達成するためには、BoNT/Aよりも約60~100倍高い用量において用いなければならないというのが、積年の臨床的観察であった。より高いBoNT/Bの用量は、抗体応答を誘発する機会、および重篤な副作用が起こる機会の増大に対応する。
【0043】
したがって、BoNT/Bのその標的細胞(例えば神経細胞)に対する高アフィニティー結合を回復させることにより、その効力および特異性を増大し、治療的適用における用量を減少させ、この重要な治療用トキシンの有害な効果の発生を低下させることができるだろう。BoNT/BのヒトSytIIへの結合を著しく増大させる、BoNT/B受容体結合ドメインにおける位置1178、1191またはS1199における一連の変異(例えば、E1191M/S1199Y、E1191M/S1199W、E1191M/W1178Q、E1191V/S1199Y、1191V/S1199W、E1199V/W1178Q、またはE1199Q/S1199Y)が、最近発見された(WO 2013180799:その全内容は、本明細書により参考として援用される)。
【0044】
本明細書において記載されるのは、先にはまだ発見されていなかった機序を介してBoNT/Bのその標的細胞への結合をさらに増強する、新規のBoNT/B変異である。これらの新規の変異の同定は、少なくとも部分的に、1つのボツリヌスニューロトキシンであるBoNT/DCが、マウスにおいて最も高い効力を示した(1.1×10
9LD
50/mg、これは、他のどのBoNTよりもおよそ5~30倍高い)という観察に基づく。他のBoNTと同様、BoNT/DCは、その受容体としてSytI/IIを共有し、ガングリオシドを共受容体として必要とする。したがって、その優れた効力は、他のまだ同定されていないソースに由来する可能性がある。
図2Aにおいて示されるとおり、BoNT/DCの結晶構造は、受容体結合ドメイン中の伸長されたループを明らかにした(
図2A)
32。このループは多くの疎水性残基を含み、このループ中の変異は、BoNT/DC-H
Cの固定化ガングリオシドへの結合を無効にするので、ガングリオシド結合ループ(GBL)として当該分野において広く受け入れられている
33、34。
【0045】
本明細書において提供されるのは、このループは、ガングリオシド結合に直接的に関与しないという、新規かつ予想外の知見である。代わりに、このループは、疎水性脂質膜中への非特異的透過を介して、間接的にガングリオシド結合に寄与する。実際、先端の残基における点変異F1253Aは、BoNT/DC-HCのガングリオシドフリーのリポソームへの結合を無効化することが見出されており、このことは、このループの先端が脂質膜中に透過することを示唆している。この作用は、神経細胞膜への付加的なアンカーを提供し、これは、BoNT/DCのガングリオシドおよびSytI/IIへの結合を相乗的な様式において著しく促進し、したがって、BoNT/DCの神経細胞への結合全体を増強する。
【0046】
興味深いことに、BoNT/Bの結晶構造は、それがBoNT/DCにおいて見出されたものと類似の伸長されたループを有することを明らかにした(
図2B)
15。それはまた、BoNT/BがガングリオシドおよびSytI/IIに結合した場合に膜中に透過するために理想的な位置において配置されている(野生型BoNT/Bは膜中に透過する能力を有さないのだが)。BoNT/B中のループとBoNT/DC中のループとの間の主要な相違点は、それらのループの先端で露出される残基が異なることである:BoNT/BはI1248/V1249を含み、一方、BoNT/DCはW1252/F1253を含む。WおよびFはいずれも、脂質膜中に透過する強力な傾向を有する典型的な疎水性残基であり、一方、IおよびVは、より膜と相互作用しにくい。I1248/V1249をWまたはF残基で置き換えることにより、BoNT/B中にBoNT/DCにおけるものとちょうど同じように、膜中に透過することができるループを作製することができる。
したがって、本開示のいくつかの側面は、ボツリヌス菌血清型Bの改変受容体結合ドメインを含む改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)を提供する。
【0047】
本明細書において用いられる場合、用語「ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)」とは、ボツリヌスニューロトキシンからの任意のポリペプチドまたはフラグメントを包含する。いくつかの態様において、用語BoNTとは、全長BoNTを指す。いくつかの態様において、用語BoNTとは、BoNTのフラグメントであって、BoNTが神経細胞に侵入して神経伝達物質の放出を阻害する細胞の仕組み全体を遂行することができるものを指す。いくつかの態様において、用語BoNTとは、フラグメントが任意の具体的な機能または活性を有することを必要とすることなく、単純にBoNTのフラグメントを指す。本開示全体を通して用いられる場合がある「ボツリヌスニューロトキシン」についての他の用語は、BoNT、ボツリヌストキシン、またはC. Botuliumトキシンであり得る。これらの用語は、互いに交換可能に用いられることが理解されるべきである。
【0048】
「改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)」は、アミノ酸配列中に任意の修飾、例えば短縮、付加、アミノ酸置換およびこれらの任意の組み合わせを含むBoNTを包含する。例えば、I1248またはV1249においてアミノ酸置換変異を含むBoNTは、改変BoNTである。別の例において、全長BoNTのフラグメントまたはドメイン(例えば受容体結合ドメイン)は、改変BoNTであると考えられる。いくつかの態様において、BoNTのドメインもまた、アミノ酸置換変異を含み、例えば、受容体結合ドメインは、全長BoNTの1248または1249に対応する位置において置換変異を含む。
【0049】
用語「細胞に侵入する」とは、本開示のBoNTの活動を記載するために用いられる場合、BoNTの低または高アフィニティー受容体複合体への結合、BoNTのガングリオシドへの結合、BoNTの脂質膜中への透過、トキシンの内部移行、トキシン軽鎖の細胞質中への転位置、およびBoNT基質の酵素修飾を包含する。
【0050】
本明細書において用いられる場合、用語「ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)プロテアーゼドメイン」とは、中毒プロセスのうちの酵素による標的修飾ステップを遂行することができるBoNTのドメインを意味する。したがって、BoNTプロテアーゼドメインは、C. Botulinumトキシン基質を特異的に標的化し、例えば、SNAP-25基質のようなSNAREタンパク質、VAMP基質およびシンタキシン基質などのC. Botulinumトキシン基質のタンパク質分解による切断を包含する。
【0051】
本明細書において用いられる場合、用語「ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)転位置ドメイン」または「Hn」とは、中毒プロセスのうちのBoNT軽鎖の転位置を媒介する転位置ステップを遂行することができるBoNTのドメインを意味する。したがって、Hnは、膜を超えて細胞の細胞質中へのBoNT軽鎖の移動を促進する。Hの非限定的例として、BoNT/A H、BoNT/B HN、BoNT/Cl HN、BoNT/D HN、BoNT/E HN、BoNT/F HN、およびBoNT/G HNが包まれる。
【0052】
本明細書において用いられる場合、用語「ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)受容体結合ドメイン」とは、「Hcドメイン」と同義であり、任意の天然に存在するBoNT受容体結合ドメインであって、中毒プロセスのうちの細胞結合ステップ(例えば、BoNTの、標的細胞の細胞膜表面上に位置するBoNT特異的受容体系への結合を含む)を遂行することができるものを意味する。本開示のいくつかの側面は、血清型B(BoNT/B)からの改変BoNT受容体結合ドメインであって、BoNT/Bの細胞(例えば神経細胞)への結合を増強するものに関する。BoNT/Bは、8つのサブタイプ、BoNT/B1、BoNT/B2、BoNT/B3、BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、およびBoNT/B8を有する。したがって、本開示は、8つのサブタイプの全ておよびいずれかからの改変BoNT/B受容体結合ドメインを包含する。「BoNT/B」が言及される場合、それはBoNT/Bの全てのサブタイプを包含することが理解される。いくつかの態様において、「改変BoNT/B受容体結合ドメイン」は、本開示において記載される新規のアミノ酸置換変異を含む。かかるアミノ酸置換変異は、改変受容体結合ドメインにおいて「膜透過ループ」を形成する。かかる「膜透過ループ」は、神経細胞がBoNT/Bの改変受容体結合ドメインと接触した場合に、神経細胞の脂質膜中に透過して、BoNTの神経細胞への結合を増強し、神経細胞によるBoNT/Bの取り込みを促進する。かかる分子は、典型的には、遺伝子組み換え技術を通して生成される。
【0053】
用語「結合活性」とは、1つの分子が、別の分子に、少なくとも1つの分子間または分子内力を介して、直接的または間接的に接触していることを意味し、これは、限定することなく、共有結合、イオン結合、金属結合、水素結合、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用など、またはこれらの任意の組み合わせを含む。「結合している(bound)」および「結合する(bind)」は、結合についての用語とみなされる。
【0054】
本明細書において用いられる場合、用語「ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)標的細胞」とは、天然に存在する細胞であって、天然に存在するBoNTが中毒させることができる細胞を意味し、これは、限定することなく、運動神経細胞;感覚神経細胞;自律神経細胞、例えば、交感神経細胞および副交感神経細胞など;非ペプチド作動性神経細胞、例えば、コリン作動性神経細胞、アドレナリン作動性神経細胞、ノルアドレナリン作動性神経細胞、セロトニン作動性神経細胞、GABA作動性神経細胞など;およびペプチド作動性神経細胞、例えば、サブスタンスP神経細胞、カルシトニン遺伝子関連ペプチド神経細胞、血管作用性小腸ペプチド神経細胞、ニューロペプチドY神経細胞、コレシストキニン神経細胞などを含む。
【0055】
本明細書において用いられる場合、用語「結合アフィニティー」とは、特定の受容体系に対するその分子の結合活性がどれほど強いかを意味する。一般的に、高い結合アフィニティーは、結合ドメインとその受容体系との間のより高い分子間力からもたらされ、一方、低い結合アフィニティーは、リガンドとその受容体との間のより低い分子間力に関連する。高い結合アフィニティーは、その受容体結合部位における結合ドメインの滞留時間が、低い結合アフィニティーについての場合より長いことに関連する。したがって、高い結合アフィニティーを有する分子とは、その分子が受容体系の結合部位を最大に占有して生理学的応答を誘発するために必要とされる濃度がより低いことを意味する。逆に、低い結合アフィニティーとは、受容体系の受容体結合部位が最大に占有されて、最大の生理学的応答が達成される前に、比較的高い濃度の分子が必要とされることを意味する。したがって、高い結合アフィニティーに起因して増大した結合活性を有する本開示のボツリヌスニューロトキシンは、低下した用量の当該トキシンの投与を可能にし、それにより、標的化されていない領域中へのトキシンの分散に関連する望ましくない副作用を軽減または予防することを可能にするであろう。
【0056】
当該用語が本明細書において用いられる場合、「増大した結合」とは、本開示の改変BoNT分子の細胞(例えば神経細胞)への結合アフィニティーを説明するために用いられる場合、当該分子の非置換バージョンと比較した、細胞の結合アフィニティーの増大を指す(例えば、野生型分子の結合アフィニティーの10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、またはそれより高く増大したもの)。一態様において、増大した結合は、非置換ニューロトキシン(例えば、天然に存在する受容体結合ドメインを有するニューロトキシン)のKdよりも、1桁またはそれよりも高い。一態様において、増大した結合は、非置換フラグメントのKdよりも、著しく高い(例えば、1.5X、2.0X、2.5X、3.0X、またはそれより高い)。
【0057】
「単離された」とは、ある材料が、そのネイティブの状態において見出される場合にそれに通常付随する構成成分を、様々な程度で含まないことを意味する。「単離する」とは、オリジナルのソースまたは周囲のものからの、例えば、隣接するDNAから、または当該DNAの天然のソースからの、ある程度の分離を表す。用語「精製された」とは、調製物の他の構成成分(例えば他のポリペプチド)に関して「実質的に純粋」であるポリペプチドなどの物質を指すように用いられる。それは、他の構成成分に関して、少なくとも約50%、60%、70%、または75%、好ましくは少なくとも約85%、より好ましくは少なくとも約90%、および最も好ましくは少なくとも約95%純粋なポリペプチドを指してもよい。ポリペプチドに関して、用語「実質的に純粋」または「本質的に精製された」とは、約20%未満、より好ましくは約15%、10%、8%、7%未満、最も好ましくは約5%、4%、3%、2%未満、1%または1%未満の、1つ以上の他の構成成分(例えば、他のポリペプチドまたは細胞構成成分)を含む調製物を指す。
【0058】
用語「置換変異」とは、特定のアミノ酸への言及を伴わない場合、その位置において通常見出される野生型の残基以外の任意のアミノ酸を含み得る。かかる置換は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびプロリンなどの非極性(疎水性)アミノ酸による置き換えであってよい。置換は、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミンなどの極性(親水性)アミノ酸による置き換えであってよい。置換は、荷電したアミノ酸、例えば、アスパラギン酸およびグルタミン酸などの負に荷電したアミノ酸、ならびにリジン、アルギニンおよびヒスチジンなどのなどの正に荷電したアミノ酸による置き換えであってよい。
【0059】
本明細書において記載される置換変異とは、典型的には、異なる天然に存在するアミノ酸残基による置き換えであるが、いくつかの場合においては、天然に存在しないアミノ酸残基もまた置換することができる。非天然のアミノ酸とは、当該用語が本明細書において用いられる場合、非タンパク質原性の(すなわち、タンパク質をコードしない)アミノ酸であって、天然に存在するか、化学合成されるものである。例として、これらに限定されないが、β-アミノ酸(β3およびβ2)、ホモアミノ酸、プロリンおよびピルビン酸誘導体、3-置換アラニン誘導体、グリシン誘導体、環置換フェニルアラニンおよびチロシン誘導体、直鎖状コアアミノ酸、ジアミノ酸、D-アミノ酸、ならびにN-メチルアミノ酸が含まれる。いくつかの態様において、アミノ酸は、置換されていても非置換であってもよい。置換されたアミノ酸または置換基は、ハロゲン化された芳香族もしくは脂肪族アミノ酸、疎水性側鎖上のハロゲン化された脂肪族もしくは芳香族修飾、または脂肪族もしくは芳香族修飾であってよい。
【0060】
2つのアミノ酸配列の「パーセント同一性」は、Karlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77, 1993のとおり改変されたKarlin and Altschul Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68, 1990のアルゴリズムを用いて決定される。かかるアルゴリズムは、Altschul, et al. J. Mol. Biol. 215:403-10, 1990のNBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)中に組み込まれる。XBLASTプログラムを用いて、スコア=50、ワードレングス=3で、BLASTタンパク質検索を行って、目的のタンパク質分子と相同なアミノ酸配列を得ることができる。2つの配列の間にギャップが存在する場合、Altschul et al., Nucleic Acids Res. 25(17):3389-3402, 1997において記載されるように、Gapped BLASTを利用することができる。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトのパラメーター(例えば、XBLASTおよびNBLAST)を用いることができる。
【0061】
本開示の改変BoNTは、BoNT血清型B、菌株1(BoNT/B1、配列番号1)の1248または1249に対応する位置において、1つ以上のアミノ酸置換変異を含む。BoNT/Bは、8つのサブタイプを有する(BoNT/B1~B8)。したがって、本明細書において提供されるのは、BoNT/B1(配列番号1)、BoNT/B2(配列番号2)、BoNT/B3(配列番号3)、BoNT/B4(配列番号4)、BoNT/B5(配列番号5)、BoNT/B6(配列番号6)、BoNT/B7(配列番号7)、およびBoNT/B8(配列番号8)のいずれか1つからの改変受容体結合ドメインを含む、改変BoNTポリペプチドであって、配列番号1における1248または1249に対応する位置において置換変異を有するものである。当業者は、タンパク質相同性におけるその知識に基づいて、配列アラインメントソフトウェアの補助があってもなくても、各々のサブタイプにおける置換修飾の位置を決定することができるであろう。
【0062】
いくつかの態様において、BoNT/B1の1248または1249に対応する位置におけるBoNT/B1~BoNT/B8のいずれかにおけるアミノ酸残基は、各々、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはヒスチジン(H)により置換されていてもよい。いくつかの態様において、2つの残基のうちの1つが置換される。いくつかの態様において、両方の残基が置換される。いくつかの態様において、BoNT/B1の1248および1249に対応する位置におけるアミノ酸残基は、いずれもWで置換される。
【0063】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B1からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I1248またはV1249において、置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B1受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I1248F;I1248Y;I1248H;I1248W;V1249W;V1249F;V1249Y;V1249H;I1248W/V1249F;I1248W/V1249Y;I1248W/V1249H;I1248F/V1249Y;I1248F/V1249H;I1248Y/V1249H;I1248F/V1249W;I1248Y/V1249W;I1248H/V1249W;I1248Y/V1249F;I1248H/V1249F;またはI1248H/V1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B1の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号1において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W/V1249W変異を含んでもよい。二重置換変異I1248W/V1249Wを有するBoNT/B1の例示的なアミノ酸配列が提供される(配列番号33)。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0064】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B2からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I1248またはV1249において、置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B2受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I1248F;I1248Y;I1248H;I1248W;V1249W;V1249F;V1249Y;V1249H;I1248W/V1249F;I1248W/V1249Y;I1248W/V1249H;I1248F/V1249Y;I1248F/V1249H;I1248Y/V1249H;I1248F/V1249W;I1248Y/V1249W;I1248H/V1249W;I1248Y/V1249F;I1248H/V1249F;またはI1248H/V1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B2の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号2において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号2において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号2において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W/V1249W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0065】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B3からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I1248またはV1249において、置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B3受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I1248F;I1248Y;I1248H;I1248W;V1249W;V1249F;V1249Y;V1249H;I1248W/V1249F;I1248W/V1249Y;I1248W/V1249H;I1248F/V1249Y;I1248F/V1249H;I1248Y/V1249H;I1248F/V1249W;I1248Y/V1249W;I1248H/V1249W;I1248Y/V1249F;I1248H/V1249F;またはI1248H/V1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B3の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号3において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号3において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号3において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W/V1249W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0066】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B4からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、V1248またはL1249において置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B4受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:V1248F;V1248Y;V1248H;V1248W;L1249W;L1249F;L1249Y;L1249H;L1248W/L1249F;V1248W/L1249Y;V1248W/L1249H;V1248F/L1249Y;V1248F/L1249H;V1248Y/L1249H;V1248F/L1249W;V1248Y/L1249W;V1248H/L1249W;V1248Y/L1249F;V1248H/L1249F;またはV1248H/L1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B4の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号4において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号4において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、V1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号4において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、V1248W/L1249W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0067】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B5からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I1248またはV1249において、置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B5受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I1248F;I1248Y;I1248H;I1248W;V1249W;V1249F;V1249Y;V1249H;I1248W/V1249F;I1248W/V1249Y;I1248W/V1249H;I1248F/V1249Y;I1248F/V1249H;I1248Y/V1249H;I1248F/V1249W;I1248Y/V1249W;I1248H/V1249W;I1248Y/V1249F;I1248H/V1249F;またはI1248H/V1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B5の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号5において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号5において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号5において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W/V1249W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0068】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B6からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I1248またはV1249において、置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B6受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I1248F;I1248Y;I1248H;I1248W;V1249W;V1249F;V1249Y;V1249H;I1248W/V1249F;I1248W/V1249Y;I1248W/V1249H;I1248F/V1249Y;I1248F/V1249H;I1248Y/V1249H;I1248F/V1249W;I1248Y/V1249W;I1248H/V1249W;I1248Y/V1249F;I1248H/V1249F;またはI1248H/V1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B6の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号6において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号6において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号6において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W/V1249W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0069】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B7からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I1248またはL1249における置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B7受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I1248F;I1248Y;I1248H;I1248W;L1249W;L1249F;L1249Y;L1249H;I1248W/L1249F;I1248W/L1249Y;I1248W/L1249H;I1248F/L1249Y;I1248F/L1249H;I1248Y/L1249H;I1248F/L1249W;I1248Y/L1249W;I1248H/L1249W;I1248Y/L1249F;I1248H/L1249F;またはI1248H/L1249Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B7の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号7において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号7において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号7において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1248W/L1249W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0070】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B8からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、F1249またはV1250における置換変異を含む。したがって、改変BoNT/B8受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:F1249Y;F1249H;F1249W;V1250W;V1250F;V1250Y;V1250H;F1249W/V1250F;F1249W/V1250Y;F1249W/V1250H;F1249Y/V1250H;F1249Y/V1250W;F1249H/V1250W;F1249Y/V1250F;F1249H/V1250F;またはF1249H/V1250Y(「/」は二重変異を示す)。いくつかの態様において、BoNT/B8の改変受容体結合ドメインを含む改変BoNTポリペプチドは、配列番号8において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、上述の置換変異のいずれかをさらに含んでもよい。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号8において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、F1249W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号8において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、F1249W/V1250W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0071】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、これは、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249において1つ以上の置換変異、または配列番号8における位置1249または1250において1つ以上の置換変異を有する。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号1~8のいずれかに対して、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号1~7のいずれか1つにおける位置1248または1249、または配列番号8における位置1249または1250において、アミノ酸置換変異を有する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号1~8のいずれかのアミノ酸配列からなり、これは、BoNT/B1(配列番号1)における1248または1249に対応する位置において、アミノ酸置換変異を有する。
【0072】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号33のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号33に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号33に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号33に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号33のアミノ酸配列からなる。
【0073】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号1における1248または1249に対応する位置において置換変異を含む、BoNT/Bの改変受容体結合ドメイン(例えば、BoNT/B1、BoNT/B2、BoNT/B3、BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、またはBoNT/B8の受容体結合ドメイン)であってよい。当業者は、タンパク質相同性におけるその知識に基づいて、配列アラインメントソフトウェアの補助があってもなくても、各々のサブタイプにおける置換修飾の位置を決定することができるであろう。
【0074】
いくつかの態様において、BoNT/B1~BoNT/B8のいずれかの受容体結合ドメイン中の、BoNT/B1の1248または1249に対応する位置におけるアミノ酸残基は、各々、トリプトファン(W)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、またはヒスチジン(H)により置換されていてもよい。いくつかの態様においては、2つの残基のうちのいずれか1つが置換される。いくつかの態様においては、両方の残基が置換される。いくつかの態様においては、BoNT/B1の1248または1249に対応する位置におけるアミノ酸残基が、Wで置換される。
【0075】
BoNT/B1~B8の受容体結合ドメインの配列は、それぞれ、配列番号9~16において提供される。置換変異は、配列番号9~15のいずれかにおける位置389または390、または配列番号16における位置390および391において行われる。したがって、例えば、限定することなく、いくつかの態様において、配列番号9~15のいずれかにおける位置389および390が、Wで置換されている。
【0076】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B1からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I389またはV390において置換変異を含む。改変BoNT/B1受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I389F;I389Y;I389H;I389W;V390W;V390F;V390Y;V390H;I389W/V390F;I389W/V390Y;I389W/V390H;I389F/V390Y;I389F/V390H;I389Y/V390H;I389F/V390W;I389Y/V390W;I389H/V390W;I389Y/V390F;I389H/V390F;またはI389H/V390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W/V390W変異を含んでもよい。いくつかの態様において、改変BoNTは、配列番号34のアミノ酸配列を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0077】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B2からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I389またはV390において置換変異を含む。改変BoNT/B2受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I389F;I389Y;I389H;I389W;V390W;V390F;V390Y;V390H;I389W/V390F;I389W/V390Y;I389W/V390H;I389F/V390Y;I389F/V390H;I389Y/V390H;I389F/V390W;I389Y/V390W;I389H/V390W;I389Y/V390F;I389H/V390F;またはI389H/V390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号10において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号10において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W/V390W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0078】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B3からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I389またはV390において置換変異を含む。改変BoNT/B3受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I389F;I389Y;I389H;I389W;V390W;V390F;V390Y;V390H;I389W/V390F;I389W/V390Y;I389W/V390H;I389F/V390Y;I389F/V390H;I389Y/V390H;I389F/V390W;I389Y/V390W;I389H/V390W;I389Y/V390F;I389H/V390F;またはI389H/V390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号11において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号11において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W/V390W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0079】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B4からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、V389またはL390における置換変異を含む。改変BoNT/B4受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:V389F;V389Y;V389H;V389W;L390W;L390F;L390Y;L390H;L389W/L390F;V389W/L390Y;V389W/L390H;V389F/L390Y;V389F/L390H;V389Y/L390H;V389F/L390W;V389Y/L390W;V389H/L390W;V389Y/L390F;V389H/L390F;またはV389H/L390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号12において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、V389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号12において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、V389W/L390W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0080】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B5からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I389またはV390において置換変異を含む。改変BoNT/B5受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I389F;I389Y;I389H;I389W;V390W;V390F;V390Y;V390H;I389W/V390F;I389W/V390Y;I389W/V390H;I389F/V390Y;I389F/V390H;I389Y/V390H;I389F/V390W;I389Y/V390W;I389H/V390W;I389Y/V390F;I389H/V390F;またはI389H/V390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号13において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号13において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W/V390W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0081】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B6からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I389またはV390において置換変異を含む。改変BoNT/B6受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I389F;I389Y;I389H;I389W;V390W;V390F;V390Y;V390H;I389W/V390F;I389W/V390Y;I389W/V390H;I389F/V390Y;I389F/V390H;I389Y/V390H;I389F/V390W;I389Y/V390W;I389H/V390W;I389Y/V390F;I389H/V390F;またはI389H/V390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号14において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号14において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W/V390W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0082】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B7からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、I389またはL390において置換変異を含む。改変BoNT/B7受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I389F;I389Y;I389H;I389W;L390W;L390F;L390Y;L390H;I389W/L390F;I389W/L390Y;I389W/L390H;I389F/L390Y;I389F/L390H;I389Y/L390H;I389F/L390W;I389Y/L390W;I389H/L390W;I389Y/L390F;I389H/L390F;またはI389H/L390Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号15において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号15において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、I389W/L390W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0083】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B8からの改変受容体結合ドメインを含み、これは、F390またはV391において置換変異を含む。改変BoNT/B8受容体結合ドメインは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:F390Y;F390H;F390W;V391W;V391F;V391Y;V391H;F390W/V391F;F390W/V391Y;F390W/V391H;F390Y/V391H;F390Y/V391W;F390H/V391W;F390Y/V391F;F390H/V391F;またはF390H/V391Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号16において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、F390W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号16において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、これは、F390W/V391W変異を含んでもよい。本明細書において提供される例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0084】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つのアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、これは、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390において1つ以上の置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号9~16のいずれか1つに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390においてアミノ酸置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号9~16のいずれかのアミノ酸配列からなり、これは、配列番号9~15のいずれか1つにおける位置389または390においてアミノ酸置換変異、または配列番号16における位置390または391において1つ以上の置換変異を有する。
【0085】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号34のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号34に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号34に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5の%同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号34に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号34のアミノ酸配列からなる。
【0086】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号1における1248または1249に対応する位置において置換変異を含む、BoNT/Bの改変受容体結合ドメイン(例えば、BoNT/B1、BoNT/B2、BoNT/B3。BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、またはBoNT/B8の受容体結合ドメイン)を含む、キメラBoNTポリペプチドであってよい。
【0087】
非限定的な例において、BoNT/Aの受容体結合ドメインを、本明細書において記載されるBoNT/Bの改変受容体結合ドメインで置き換えることにより、キメラBoNT/BAを作製することができる。BoNT/B1~BoNT/B8のうちの任意のものの受容体結合ドメインが、キメラトキシンのために好適であることが理解されるべきである。同様に、BoNT/Aのサブタイプのうちの任意のものが、キメラトキシン(例えば、BoNT/A1、BoNT/A2、BoNT/A3、BoNT/A4、BoNT/A5、BoNT/A6、BoNT/A7、およびBoNT/A8)のために好適である。BoNT/Aが言及される場合、それは、全てのBoNT/Aサブタイプを包含することが理解されるべきである。
【0088】
したがって、本開示のキメラBoNTは、以下の組み合わせのうちの任意のものを含んでよい:BoNT/A1-B1、BoNT/A2-B1、BoNT/A3-B1、BoNT/A4-B1、BoNT/A5-B1、BoNT/A7-B1、BoNT/A7-B1、BoNT/A8-B1、BoNT/A2-B1、BoNT/A2-B2、BoNT/A2-B3、BoNT/A2-B4、BoNT/A2-B5、BoNT/A2-B6、BoNT/A2-B7、BoNT/A2-B8、BoNT/A3-B1、BoNT/A3-B2、BoNT/A3-B3、BoNT/A3-B4、BoNT/A3-B5、BoNT/A3-B6、BoNT/A3-B7、BoNT/A3-B8、BoNT/A4-B1、BoNT/A4-B2、BoNT/A4-B3、BoNT/A4-B4、BoNT/A4-B5、BoNT/A4-B6、BoNT/A4-B7、BoNT/A4-B8、BoNT/A5-B1、BoNT/A5-B2、BoNT/A5-B3、BoNT/A5-B4、BoNT/A5-B5、BoNT/A5-B6、BoNT/A5-B7、BoNT/A5-B8、BoNT/A6-B1、BoNT/A6-B2、BoNT/A6-B3、BoNT/A6-B4、BoNT/A6-B5、BoNT/A6-B6、BoNT/A6-B7、BoNT/A6-B8、BoNT/A7-B1、BoNT/A7-B2、BoNT/A7-B3、BoNT/A7-B4、BoNT/A7-B5、BoNT/A7-B6、BoNT/A7-B7、BoNT/A7-B8、BoNT/A8-B1、BoNT/A8-B2、BoNT/A8-B3、BoNT/A8-B4、BoNT/A8-B5、BoNT/A8-B6、BoNT/A8-B7、またはBoNT/A8-B8。「BoNT/AB」が言及される場合、それは、本明細書において記載されるサブタイプの全ての組み合わせを包含することが理解される。当業者は、配列アラインメントソフトウェアの補助の有無にかかわらず、タンパク質相同性におけるその知識に基づいて、各々のキメラトキシンにおける置換修飾の位置を決定することができるであろう。
【0089】
キメラトキシン、例えばBoNT/ABトキシンを作製するために、BoNT/A1~BoNT/A8(配列番号38~45)のうちにいずれかの約1~872のアミノ酸を含むBoNT/Aのフラグメントを、BoNT/Bのいずれかの受容体結合ドメイン(例えば、BoNT/B1~B8のうちのいずれかの受容体結合ドメイン)に融合させる。BoNT/Bの受容体結合ドメインは、BoNT/B1の約860~1291のアミノ酸に対応する。BoNT/Aフラグメントおよび/またはBoNT/Bの受容体結合ドメインの境界は、1~10アミノ酸異なっていてもよいことが理解されるべきである。例えば、キメラトキシンのために用いてもよいBoNT/Aフラグメントは、BoNT/A1~A8のうちのいずれかのアミノ酸1~872、1~871、1~870、1~869、1~868、1~867、1~866、1~865、1~864、1~863、1~873、1~874、1~875、1~876、1~877、1~878、1~879、1~880、1~881、または1~882を含んでもよい。同様に、キメラトキシンのため用いてもよいBoNT/Bの受容体結合ドメインは、BoNT/B1~B8のうちのいずれかのアミノ酸861~1291、862~1291、863~1291、864~1291、865~1291、866~1291、867~1291、868~1291、869~1291、870~1291、860~1291、859~1291、858~1291、857~1291、856~1291、855~1291、854~1291、853~1291、852~1291、または851~1291を含んでもよい。BoNT/AおよびBoNT/Bのフラグメントを融合させる方法は、当業者に周知の標準的な組み換え技術である。
【0090】
非限定的な、BoNTA1-B1、BoNT/A2-B1、BoNT/A3-B1、BoNT/A4-B1、BoNT/A5-B1、BoNT/A6-B1、BoNT/A7-B1、およびBoNT/A8-B1の例示的な配列は、それぞれ、配列番号17~24において提供される。BoNT/B1における位置1248または1249に対応する位置は、配列番号17~24のいずれかにおける位置1261または1262である。
【0091】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A1ポリペプチド(BoNT/A1-B1)を含み、これは、位置1261または1262において置換変異を含む。キメラBoNT/A1-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:I1261F;I1261Y;I1261H;I1261W;V1262W;V1262F;V1262Y;V1262H;I1261W/V1262F;I1261W/V1262Y;I1261W/V1262H;I1261F/V1262Y;I1261F/V1262H;I1261Y/V1262H;I1261F/V1262W;I1261Y/V1262W;I1261H/V1262W;I1261Y/V1262F;I1261H/V1262F;またはI1261H/V1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号17において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号17において記載されるアミノ酸配列を含んでもよくI1261W/V1262W変異を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号35のアミノ酸配列を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0092】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A2ポリペプチド(BoNT/A2-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A2-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:I1261F;I1261Y;I1261H;I1261W;V1262W;V1262F;V1262Y;V1262H;I1261W/V1262F;I1261W/V1262Y;I1261W/V1262H;I1261F/V1262Y;I1261F/V1262H;I1261Y/V1262H;I1261F/V1262W;I1261Y/V1262W;I1261H/V1262W;I1261Y/V1262F;I1261H/V1262F;またはI1261H/V1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号18において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号18において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W/V1262W変異を含んでもよい。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号36のアミノ酸配列を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0093】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A3ポリペプチド(BoNT/A3-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A3-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:I1261F;I1261Y;I1261H;I1261W;V1262W;V1262F;V1262Y;V1262H;I1261W/V1262F;I1261W/V1262Y;I1261W/V1262H;I1261F/V1262Y;I1261F/V1262H;I1261Y/V1262H;I1261F/V1262W;I1261Y/V1262W;I1261H/V1262W;I1261Y/V1262F;I1261H/V1262F;またはI1261H/V1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号19において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号19において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W/V1262W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0094】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A4ポリペプチド(BoNT/A4-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A4-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:V1261F;V1261Y;V1261H;V1261W;L1262W;L1262F;L1262Y;L1262H;L1261W/L1262F;V1261W/L1262Y;V1261W/L1262H;V1261F/L1262Y;V1261F/L1262H;V1261Y/L1262H;V1261F/L1262W;V1261Y/L1262W;V1261H/L1262W;V1261Y/L1262F;V1261H/L1262F;またはV1261H/L1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号20において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、V1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号20において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、V1261W/L1262W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0095】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A5ポリペプチド(BoNT/A5-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A5-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:I1261F;I1261Y;I1261H;I1261W;V1262W;V1262F;V1262Y;V1262H;I1261W/V1262F;I1261W/V1262Y;I1261W/V1262H;I1261F/V1262Y;I1261F/V1262H;I1261Y/V1262H;I1261F/V1262W;I1261Y/V1262W;I1261H/V1262W;I1261Y/V1262F;I1261H/V1262F;またはI1261H/V1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号21において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号21において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W/V1262W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0096】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A6ポリペプチド(BoNT/A6-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A6-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:I1261F;I1261Y;I1261H;I1261W;V1262W;V1262F;V1262Y;V1262H;I1261W/V1262F;I1261W/V1262Y;I1261W/V1262H;I1261F/V1262Y;I1261F/V1262H;I1261Y/V1262H;I1261F/V1262W;I1261Y/V1262W;I1261H/V1262W;I1261Y/V1262F;I1261H/V1262F;またはI1261H/V1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号22において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W/V1262W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0097】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A7ポリペプチド(BoNT/A7-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A7-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:I1261F;I1261Y;I1261H;I1261W;L1262W;L1262F;L1262Y;L1262H;I1261W/L1262F;I1261W/L1262Y;I1261W/L1262H;I1261F/L1262Y;I1261F/L1262H;I1261Y/L1262H;I1261F/L1262W;I1261Y/L1262W;I1261H/L1262W;I1261Y/L1262F;I1261H/L1262F;またはI1261H/L1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号23において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号23において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I1261W/L1262W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0098】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、その受容体結合ドメインがBoNT/B1からの改変受容体結合ドメインにより置き換えられている、BoNT/A8ポリペプチド(BoNT/A8-B1)を含み、これは、位置1261または1262における置換変異を含む。キメラBoNT/A8-B1は、以下の変異のいずれかを含んでもよい:F1261Y;F1261H;F1261W;V1262W;V1262F;V1262Y;V1262H;F1261W/V1262F;F1261W/V1262Y;F1261W/V1262H;F1261Y/V1262H;F1261Y/V1262W;F1261H/V1262W;F1261Y/V1262F;F1261H/V1262F;またはF1261H/V1262Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号24において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、F1261W変異を含んでもよい。別の例において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号24において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、F1261W/V1262W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0099】
いくつかの態様において、本開示のキメラBoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれかのアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。いくつかの態様において、本開示のキメラBoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。例えば、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれか1つに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、これは、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において1つ以上の置換変異を有する。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号17~24のいずれかに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において、アミノ酸置換変異を有する。いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号17~24のいずれかのアミノ酸配列からなり、これは、配列番号17~24のいずれか1つにおける位置1261または1262において、アミノ酸置換変異を有する。
【0100】
いくつかの態様において、キメラBoNTポリペプチドは、配列番号35または配列番号36のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号35または配列番号36に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号35または配列番号36に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号35または配列番号36に対して、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号35または配列番号36のアミノ酸配列からなる。
【0101】
本開示の改変BoNTポリペプチド(例えば、改変全長BoNT/B、BoNT/Bの改変受容体結合ドメイン、またはBoNT/BAキメラトキシン)は、標的細胞に対するそれらの結合アフィニティーをさらに増強するさらなる変異を含んでもよい。かかる変異の例は、WO2013180799において開示され、その全内容は、本明細書により参考として援用される。したがって、本開示の改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B受容体結合ドメインにおいて、BoNT/B1の1178、1191または1199に対応する位置において、ヒトSytIIへのBoNT/Bの結合を著しく増強した一連の変異(例えば、E1191M/S1199Y、E1191M/S1199W、E1191M/W1178Q、E1191V/S1199Y、1191V/S1199W、E1199V/W1178Q、またはE1199Q/S1199Y)をさらに含んでもよい。
【0102】
いくつかの態様において、ヒトSytIIへのBoNTの結合を増強するこれらの置換変異をさらに含む本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号46~66のいずれかのアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号46~66のいずれかに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号46~66のいずれかに対して、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号46~66のいずれかに対して、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号46~66のいずれかのアミノ酸配列からなる。
【0103】
本明細書において記載されるアミノ酸置換変異、例えばBoNT/B1のI1248W/V1249W、は、脂質膜を透過するループを作製し、これが今度はBoNTのその標的細胞への結合を増強する。かかるループは、これ以外では野生型BoNT/Bにおいては存在しない。したがって、本明細書においてさらに提供されるのは、BoNT/B1のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメントに対応するループを構成する改変BoNT/Bポリペプチドであって、これは、BoNT/B1における1248または1249に対応する位置において1つ以上の置換変異を有する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B1のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号25)を含み、これは、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号25における位置4および5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I4F;I4Y;I4H;I4W;V5W;V5F;V5Y;V5H;I4W/V5F;I4W/V5Y;I4W/V5H;I4F/V5Y;I4F/V5H;I4Y/V5H;I4F/V5W;I4Y/V5W;I4H/V5W;I4Y/V5F;I4H/V5F;またはI4H/V5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号25において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号25において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W/V5W変異を含んでもよい。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTは、配列番号37のアミノ酸配列を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0104】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B2のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号26)を含み、これは、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号26における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I4F;I4Y;I4H;I4W;V5W;V5F;V5Y;V5H;I4W/V5F;I4W/V5Y;I4W/V5H;I4F/V5Y;I4F/V5H;I4Y/V5H;I4F/V5W;I4Y/V5W;I4H/V5W;I4Y/V5F;I4H/V5F;またはI4H/V5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号26において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号26において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W/V5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0105】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B3のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号27)を含み、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号27における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I4F;I4Y;I4H;I4W;V5W;V5F;V5Y;V5H;I4W/V5F;I4W/V5Y;I4W/V5H;I4F/V5Y;I4F/V5H;I4Y/V5H;I4F/V5W;I4Y/V5W;I4H/V5W;I4Y/V5F;I4H/V5F;またはI4H/V5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号27において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号27において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W/V5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0106】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B4のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号28)を含み、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号28における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:V4F;V4Y;V4H;V4W;L5W;L5F;L5Y;L5H;L4W/L5F;V4W/L5Y;V4W/L5H;V4F/L5Y;V4F/L5H;V4Y/L5H;V4F/L5W;V4Y/L5W;V4H/L5W;V4Y/L5F;V4H/L5F;またはV4H/L5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号28において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、V4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号28において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、V4W/L5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0107】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B5のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号29)を含み、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号29における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I4F;I4Y;I4H;I4W;V5W;V5F;V5Y;V5H;I4W/V5F;I4W/V5Y;I4W/V5H;I4F/V5Y;I4F/V5H;I4Y/V5H;I4F/V5W;I4Y/V5W;I4H/V5W;I4Y/V5F;I4H/V5F;またはI4H/V5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号29において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号29において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W/V5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0108】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B6のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号30)を含み、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号30における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I4F;I4Y;I4H;I4W;V5W;V5F;V5Y;V5H;I4W/V5F;I4W/V5Y;I4W/V5H;I4F/V5Y;I4F/V5H;I4Y/V5H;I4F/V5W;I4Y/V5W;I4H/V5W;I4Y/V5F;I4H/V5F;またはI4H/V5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号30において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号30において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W/V5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0109】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B7のアミノ酸1245とアミノ酸1252との間のフラグメント(境界を含む、配列番号31)を含み、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号31における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:I4F;I4Y;I4H;I4W;L5W;L5F;L5Y;L5H;I4W/L5F;I4W/L5Y;I4W/L5H;I4F/L5Y;I4F/L5H;I4Y/L5H;I4F/L5W;I4Y/L5W;I4H/L5W;I4Y/L5F;I4H/L5F;またはI4H/L5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号31において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号31において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、I4W/L5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0110】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、BoNT/B8のアミノ酸1246とアミノ酸1253との間(境界を含む、配列番号32)にフラグメントを含み、BoNT/B1における4または5に対応する位置(配列番号32における位置4または5)において1つ以上の置換変異を有する。したがって、フラグメントは、以下の変異のうちのいずれかを含んでもよい:F4Y;F5H;F4W;V5W;V5F;V5Y;V5H;F4W/V5F;F4W/V5Y;F4W/V5H;F4Y/V5H;F4Y/V5W;F4H/V5W;F4Y/V5F;F4H/V5F;またはF4H/V5Y(「/」は二重変異を示す)。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号32において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、F4W変異を含んでもよい。別の例において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号32において記載されるアミノ酸配列を含んでもよく、F4W/V5W変異を含んでもよい。ここでの例は、単に説明を目的とするものであって、限定することを意図されない。
【0111】
いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号25~32のいずれかのアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号25~32のいずれか1つに対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、本明細書において記載されるアミノ酸置換を有する。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号25~32のいずれか1つに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよく、これは、配列番号25~32のいずれか1つにおける位置4または5において、1つ以上の置換変異を有する。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号25~32に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、これは、配列番号25~32のうちのいずれかにおける位置4または5においてアミノ酸置換変異を有する。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号25~32のうちのいずれかのアミノ酸配列からなり、これは、配列番号25~32のうちのいずれかにおける位置4または5においてアミノ酸置換変異を有する。
【0112】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、配列番号37に対して少なくとも85%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。例えば、改変BoNTポリペプチドは、配列番号37に対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含んでもよい。いくつかの態様において、単離ポリペプチドは、配列番号37に対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.5%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、配列番号37のアミノ酸配列からなる。
【0113】
他の態様において、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)ポリペプチドは、4つのドメイン:a)プロテアーゼドメイン;b)プロテアーゼ切断部位;c)転位置ドメイン;およびd)BoNT血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において1つ以上の置換変異を含む、ボツリヌス菌血清型Bの改変受容体結合ドメイン、を含む。BoNT/Bの改変受容体結合ドメインは、BoNT/Bサブタイプのうちのいずれか、例えば、BoNT/B、BoNT/B2、BoNT/B3、BoNT/B4、BoNT/B5、BoNT/B6、BoNT/B7、またはBoNT/B8からのものであってよいことが、理解されるべきである。
【0114】
いくつかの態様において、(d)の改変受容体結合ドメインは、本明細書において記載される2つの残基のいずれかにおいて、1つの置換変異を含む。いくつかの態様において、1つの置換変異は、BoNT/B1におけるI1248F、I1248Y、I1248H、I1248W、V1249W、V1249F、V1249Y、またはV1249Hに対応する。いくつかの態様において、(d)の改変受容体結合ドメインは、2つの置換変異を含む。いくつかの態様において、2つの置換変異は、BoNT/B1におけるI1248W/V1249F、I1248W/V1249Y、I1248W/V1249H、I1248F/V1249Y、I1248F/V1249H、I1248Y/V1249H、I1248F/V1249W、I1248Y/V1249W、I1248H/V1249W、I1248Y/V1249F、I1248H/V1249F、またはI1248H/V1249Yに対応する。
【0115】
いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、キメラトキシンであって、ここで、プロテアーゼドメイン、転位置ドメインおよびプロテアーゼ切断部位は、A、B、C、D、E、F、G、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される血清型からのものである。したがって、BoNT/AB、BoNT/CB、BoNT/DB、BoNT/EB、BoNT/FB、およびBoNT/GBのキメラトキシンが企図され、ここで、プロテアーゼドメイン、転位置ドメインおよびプロテアーゼ切断部位は、血清型A、C、D、E、FおよびGのいずれかからのものであり、受容体結合ドメインは、BoNT/Bからのものである。例えば、いくつかの態様において、プロテアーゼドメイン、転位置ドメインおよびプロテアーゼ切断部位は、血清型Aからのものであってよい。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、全長BoNT/Bである。例えば、プロテアーゼドメイン、転位置ドメイン、およびプロテアーゼ切断部位は、血清型Bからのものであってよい。BoNTポリペプチドへのかかる修飾により、BoNTポリペプチドが脂質膜中に透過することができるようになり、その標的細胞(例えば神経細胞)への結合アフィニティーが増強される。
【0116】
本開示の他の側面は、改変ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)を生成する方法に関し、該方法は、血清型B、菌株1(BoNT/B1)における1248または1249に対応する位置において、1つ以上の置換変異を作製することを含む。いくつかの態様において、置換変異は、BoNT/BにおけるI1248F、I1248Y、I1248H、I1248W、V1249W、V1249F、V1249Y、V1249H、I1248W/V1249F、I1248W/V1249Y、I1248W/V1249H、I1248F/V1249Y、I1248F/V1249H、I1248Y/V1249H、I1248F/V1249W、I1248Y/V1249W、I1248H/V1249W、I1248Y/V1249F、I1248H/V1249F、またはI1248H/V1249Yに対応する。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、BoNT血清型B(BoNT/B)である。いくつかの態様において、BoNTポリペプチドは、BoNT/B、菌株1~8のいずれか1つである。
【0117】
本開示の改変BoNTポリペプチド(例えば、限定することなく、配列番号33~37および46~66のいずれかのアミノ酸配列を含むポリペプチド)は、一般的に、適切な細胞(例えばE. coliまたは昆虫細胞)において組み換え核酸からの発現により生成され、単離されるであろう。当該分野において公知の任意の方法により、本明細書において記載されるポリペプチドをコードする核酸を得て、当該核酸のヌクレオチド配列を決定することができる。
【0118】
本明細書においてさらに提供されるのは、本明細書において開示される改変BoNTポリペプチドのうちのいずれかをコードする、単離された、および/または組み換えられた核酸である。本開示の単離ポリペプチドフラグメントをコードする核酸は、DNAであってもRNAであっても、二本鎖であっても一本鎖であってもよい。ある側面において、単離ポリペプチドフラグメントをコードする対象の核酸は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドのうちのいずれかのバリアントであるポリペプチドをコードする核酸を含むものと、さらに理解される。
【0119】
バリアントヌクレオチド配列は、対立遺伝子バリアントなどの、1つ以上のヌクレオチド置換、付加または欠失により異なる配列を含む。いくつかの態様において、本開示の単離された核酸分子は、配列番号33~37および46~66のいずれかに対して少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、または少なくとも99.5%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。いくつかの態様において、本開示の単離された核酸分子は、配列番号33~37および46~66のいずれかに対して85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、または100%の同一性を有するアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0120】
いくつかの態様において、核酸は、発現ベクターなどのベクター内に含まれる。いくつかの態様において、ベクターは、核酸に作動的に連結したプロモーターを含む。
本明細書において記載されるポリペプチドの発現のために多様なプロモーターを用いることができ、これは、これらに限定されないが、以下を含む:サイトメガロウイルス(CMV)中初期(intermediate early)プロモーター、ラウス肉腫ウイルスLTR、HIV-LTR、HTLV-1 LTRなどのウイルスLTR、サルウイルス40(SV40)初期プロモーター、E. coliのlac UV5プロモーター、および単純ヘルペスtkウイルスプロモーター。制御可能プロモーターもまた用いることができる。かかる制御可能プロモーターとして、lacオペレーターを有する哺乳動物細胞プロモーターからの転写を制御するための転写調節因子としてE. coliからのlacリプレッサーを用いるもの、[Brown, M. et al., Cell, 49:603-612 (1987)]、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を用いるもの[Gossen, M., and Bujard, H., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5547-5551 (1992);Yao, F. et al., Human Gene Therapy, 9:1939-1950 (1998);Shockelt, P., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6522-6526 (1995)]が挙げられる。
【0121】
他の系として、FK506二量体、アストラジオール(astradiol)を用いるVP16またはp65、RU486、ジフェノールムリスレロン(diphenol murislerone)、またはラパマイシンが挙げられる。誘導可能な系は、Invitrogen、ClontechおよびAriadから入手可能である。オペロンによるリプレッサーを含む制御可能プロモーターを用いることができる。一態様において、Escherichia coliからのlacリプレッサーは、転写調節因子として機能して、lacオペレーターを有する哺乳動物細胞プロモーターからの転写を制御することができる[M. Brown et al., Cell, 49:603-612 (1987)];Gossen and Bujard (1992)[M. Gossen et al., Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992)]は、テトラサイクリンリプレッサー(tetR)を、転写活性化因子(VP16)と組み合わせて、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)主要最初期プロモーターから誘導されたtetOを有するミニマルプロモーターを有するtetR-哺乳動物細胞転写活性化因子融合タンパク質、tTa(tetR-VP16)を作出し、哺乳動物細胞における遺伝子発現を制御するためのtetR-tetオペレーター系を作出した。一態様において、テトラサイクリン誘導型のスイッチが用いられる(Yao et al., Human Gene Therapy; Gossen et al., Natl. Acad. Sci. USA, 89:5547-5551 (1992);Shockett et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92:6522-6526 (1995))。
【0122】
加えて、ベクターは、例えば以下のうちのいくつかまたは全てを含んでもよい:選択可能マーカー遺伝子、例えば哺乳動物細胞における安定型または一過型の形質移入体の選択のためのネオマイシン遺伝子;高レベルの転写のためのヒトCMVの最初期遺伝子からのエンハンサー/プロモーター配列;mRNA安定性のためのSV40からの転写終結およびRNAプロセッシングシグナル;適切なエピソーム複製のためのSV40ポリオーマ複製起点およびColE1;内部リボソーム結合部位(IRESes)、万能多重クローニング部位;ならびにセンスおよびアンチセンスRNAのin vitro 転写のためのT7およびSP6 RNAプロモーター。導入遺伝子を含有する好適なベクターおよびベクターを生成するための方法は、当該分野において周知であり、入手可能である。
【0123】
核酸を含む発現ベクターは、従来技術(例えば、エレクトロポレーション、リポソームトランスフェクション、およびリン酸カルシウム沈降法)により宿主細胞に導入することができ、遺伝子導入された細胞を、次いで、従来技術により培養して、本明細書において記載されるポリペプチドを産生させる。いくつかの態様において、本明細書において記載されるポリペプチドの発現は、構成的、誘導性または組織特異的プロモーターにより制御される。
【0124】
本明細書において記載される単離ポリペプチドを発現させるために用いられる宿主細胞は、Escherichia coliなどの細菌細胞、または好ましくは真核生物細胞のいずれかであってよい。特に、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)などの哺乳動物細胞は、ヒトサイトメガロウイルスからの主要中初期遺伝子プロモーターエレメントなどのベクターと組み合わせて、免疫グロブリンのための効果的な発現系である(Foecking et al. (1986)「Powerful And Versatile Enhancer-Promoter Unit For Mammalian Expression Vectors」、Gene 45:101-106; Cockett et al. (1990)「High Level Expression Of Tissue Inhibitor Of Metalloproteinases In Chinese Hamster Ovary Cells Using Glutamine Synthetase Gene Amplification」、Biotechnology 8:662-667)。本明細書において記載される単離ポリペプチドを発現させるために、多様な宿主-発現ベクター系を利用することができる。かかる宿主-発現系は、本明細書において記載される単離されたポリペプチドのコード配列を産生させてその後に精製することができるビヒクルを代表するが、また、適切なヌクレオチドコード配列により形質転換または遺伝子導入された場合に、本明細書において記載される単離ポリペプチドをin situで発現する細胞を代表する。これらは、限定されないが、本明細書において記載される単離ポリペプチドについてのコード配列を含む組み換えバクテリオファージDNA、プラスミドDNAまたはコスミドDNA発現ベクターで形質転換された細菌(例えばE. coliおよびB. subtilis)などの微生物;本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換え酵母発現ベクターを遺伝子導入された酵母(例えばSaccharomyces pichia);本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)に感染した昆虫細胞系;本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換えウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)およびタバコモザイクウイルス(TMV)に感染した、または本明細書において記載される単離ポリペプチドをコードする配列を含む組み換えプラスミド発現ベクター(例えば、Tiプラスミド)で形質転換された植物細胞系;または、哺乳動物細胞のゲノムから誘導されるプロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)または哺乳動物ウイルスから誘導されるプロモーター(例えば、アデノウイルス後期プロモーター;ワクシニアウイルス7.5Kプロモーター)を含有する組み換え発現コンストラクトを有する哺乳動物細胞系(例えば、COS、CHO、BHK、293、293T、3T3細胞、リンパ系(lymphotic)細胞(米国特許第5,807,715号を参照)、PerC.6細胞(Crucellにより開発されたヒト網膜細胞)を含む。
【0125】
細菌の系において、発現されているポリペプチドについての意図される用途に依存して、多数の発現ベクターを、有利に選択することができる。例えば、本明細書において記載されるポリペプチドの医薬組成物の生成のために大量のかかるタンパク質を産生させる場合、高レベルの融合タンパク質生成物の発現を指揮し、容易に精製されるベクターが、望ましい場合がある。かかるベクターとして、これらに限定されないが、コード配列を、融合タンパク質が産生されるようにlacZコード領域と共に、個々にベクター中にインフレームでライゲーションすることができるE. coli 発現ベクターpUR278(Ruther et al. (1983)「Easy Identification Of cDNA Clones」、EMBO J. 2:1791-1794);pINベクター(Inouye et al. (1985)「Up-Promoter Mutations In The lpp Gene Of Escherichia Coli」、Nucleic Acids Res. 13:3101-3110;Van Heeke et al. (1989)「Expression Of Human Asparagine Synthetase In Escherichia Coli」、J. Biol. Chem. 24:5503-5509)などが挙げられる。pGEXベクターはまた、外来ポリペプチドをグルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)との融合タンパク質として発現させるために用いてもよい。一般的に、かかる融合タンパク質は、可溶性であり、溶解された細胞から、マトリックスグルタチオンアガロースビーズへの吸着および結合と、その後の遊離グルタチオンの存在下における溶離とにより、容易に精製することができる。
【0126】
pGEXベクターは、クローニングされた標的遺伝子の生成物をGST部分から放出させることができるように、トロンビンまたはXa因子のプロテアーゼ切断部位を含むように設計される。昆虫の系において、オートグラファカリフォルニア(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcNPV)を、外来遺伝子を発現させるためのベクターとして用いる。ウイルスは、スポドプテラ・フルギペルダ(Spodoptera frugiperda)の細胞中で増殖する。コード配列は、ウイルスの非必須の領域(例えば、多核体タンパク質(polyhedrin)の遺伝子)中に個々にクローニングして、AcNPVプロモーター(例えば多核体タンパク質プロモーター)の制御下においてもよい。
【0127】
哺乳動物宿主細胞において、多数のウイルスベースの発現系を利用することができる。アデノウィルスを発現ベクターとして用いる場合、目的のコード配列を、アデノウイルス転写/翻訳制御複合体、例えば、後期プロモーターおよび三要素(tripartite)リーダー配列にライゲーションしてもよい。このキメラ遺伝子を、次いで、in vitroまたはin vivoでの組み換えにより、アデノウイルスゲノム中に挿入することができる。ウイルスゲノムの非必須の領域(例えば、領域E1またはE3)における挿入は、感染した宿主中で生存可能であり、免疫グロブリン分子を発現することができる組み換えウイルスをもたらすであろう(例えば、Loganら(1984年)「Adenovirus Tripartite Leader Sequence Enhances Translation Of mRNAs Late After Infection」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:3655-3659を参照)。特異的な開始シグナルもまた、挿入された抗体コード配列の効率的な翻訳のために必要とされる。これらのシグナルは、ATG開始コドンおよび隣接する配列を含む。さらに、開始コドンは、インサート全体の翻訳を保証するために、所望されるコード配列のリーディングフレームと同相でなければならない。これらの外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは、天然および合成の両方の多様な起源のものであってよい。
【0128】
発現の効率は、適切な転写エンハンサーエレメント、転写ターミネーターなどの包含により増強することができる(Bitter et al. (1987)「Expression And Secretion Vectors For Yeast」、Methods in Enzymol. 153:516-544を参照)。加えて、宿主細胞株は、挿入された配列の発現を調節するか、遺伝子生成物を所望される特定の様式において修飾およびプロセッシングするものを選択してもよい。タンパク質生成物のかかる修飾(例えばグリコシル化)およびプロセッシング(例えば切断)は、タンパク質の機能のために重要である場合がある。例えば、ある態様において、本明細書において記載されるポリペプチドは、本明細書において記載される別々のポリペプチドを形成するために、ネイティブまたは組み換えの細胞機構によるタンパク質分解による切断を必要とする、単一遺伝子生成物(例えば、単一のポリペプチド鎖として、すなわち、ポリタンパク質前駆体として)発現されてもよい。
【0129】
本開示は、したがって、本明細書において記載されるポリペプチドを含むポリタンパク質前駆体分子をコードする核酸配列を操作することを包含し、これは、前記ポリタンパク質前駆体の翻訳後切断を指揮することができるコード配列を含む。ポリタンパク質前駆体の翻訳後切断は、本明細書において記載されるポリペプチドをもたらす。本明細書において記載されるポリペプチドを含む前駆体分子の翻訳後切断は、in vivoで起きても(すなわち、宿主細胞内で、ネイティブのまたは組み換えの細胞系/機構、例えば適切な部位におけるフューリン切断による)、in vitroで起きてもよい(例えば、既知の活性のプロテアーゼまたはペプチダーゼを含む組成物中で、および/または、所望されるタンパク質分解作用を促進することが知られている条件または試薬を含む組成物中での、前記ポリペプチド鎖のインキュベーション)。
【0130】
組み換えタンパク質の精製および修飾は、当該分野において周知であり、したがって、ポリタンパク質前駆体の設計は、当業者により容易に理解される多数の態様を含む。記載される前駆体分子の修飾のために、当該分野において公知の任意の既知のプロテアーゼまたはペプチダーゼ、例えば、トロンビンまたはXa因子(Nagaiら(1985年)「Oxygen Binding Properties Of Human Mutant Hemoglobins Synthesized In Escherichia Coli」、Proc. Nat. Acad. Sci. USA 82:7252-7255、およびJennyら(2003年)「A Critical Review Of The Methods For Cleavage Of Fusion Proteins With Thrombin And Factor Xa」、Protein Expr. Purif. 31:1-11において概説される;これらの各々は、本明細書においてその全体において参考として援用される))、エンテロキナーゼ(Collins-Racieら(1995年)「Production Of Recombinant Bovine Enterokinase Catalytic Subunit In Escherichia Coli Using The Novel Secretory Fusion Partner DsbA」、Biotechnology 13:982-987;本明細書によりその全体において参考として援用される))、フューリン、およびAcTEV(Parksら(1994年)「Release Of Proteins And Peptides From Fusion Proteins Using A Recombinant Plant Virus Proteinase」、Anal. Biochem. 216:413-417;本明細書によりその全体において参考として援用される))、ならびに口蹄疫ウイルスプロテアーゼC3を用いることができる。
【0131】
異なる宿主細胞は、翻訳後のタンパク質および遺伝子生成物のプロセッシングおよび修飾のための特徴的かつ特異的な機序を有する。発現された外来タンパク質の正確な修飾およびプロセッシングを保証するために、適切な細胞株または宿主系を選択することができる。この目的のために、 一次転写物の適切なプロセッシング、遺伝子生成物のグリコシル化およびリン酸化のための細胞機構を有する真核生物宿主細胞を用いることができる。かかる哺乳動物宿主細胞として、これらに限定されないが、CHO、VERY、BHK、HeLa、COS、MDCK、293、293T、3T3、WI38、BT483、Hs578T、HTB2、BT20およびT47D、CRL7030およびHs578Bstが挙げられる。
【0132】
長期の、高収率での組み換えタンパク質の産生のために、安定な発現が好ましい。例えば、本明細書において記載されるポリペプチドを安定して発現する細胞株を、設計することができる。ウイルス複製起点を含む発現ベクターを用いるよりも、むしろ、宿主細胞を、適切な発現制御エレメント(例えば、プロモーター、エンハンサー、配列、転写ターミネーター、ポリアデニル化部位など)により制御されるDNA、および選択可能マーカーにより形質転換してもよい。外来DNAの導入の後で、設計された細胞を、1~2日間にわたり富栄養培地中で増殖させて、次いで、選択培地に切り替えてもよい。組み換えプラスミド中の選択可能マーカーは、選択に対する耐性を付与し、細胞がプラスミドをその染色体中に安定に組み込んで、コロニー(foci)を形成することを可能にし、これを次いでクローニングして、細胞株に増やすことができる。この方法は、本明細書において記載されるポリペプチドを発現する細胞株を操作するために、有利に用いることができ、このように設計された細胞株は、本明細書において記載されるポリペプチドと直接的にまたは間接的に相互作用するポリペプチドのスクリーニングおよび評価において、特に有用であり得る。
【0133】
多数の選択系を用いることができ、これは、限定されないが、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(Wiglerら(1977)「Transfer Of Purified Herpes Virus Thymidine Kinase Gene To Cultured Mouse Cells」、Cell 11: 223-232)、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Szybalskaら(1992)「Use Of The HPRT Gene And The HAT Selection Technique In DNA-Mediated Transformation Of Mammalian Cells First Steps Toward Developing Hybridoma Techniques And Gene Therapy」、Bioessays 14: 495-500)、およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Lowyら(1980)「Isolation Of Transforming DNA: Cloning The Hamster aprt Gene」、Cell 22: 817-823)を含み、遺伝子は、それぞれ、tk、hgprtまたはaprt細胞において使用することができる。また、代謝拮抗薬耐性も、以下の遺伝子についての選択の基礎として用いることができる:メトトレキサートに対する耐性を付与するdhfr(Wiglerら(1980)「Transformation Of Mammalian Cells With An Amplifiable Dominant-Acting Gene」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:3567-3570;O'Hareら(1981)「Transformation Of Mouse Fibroblasts To Methotrexate Resistance By A Recombinant Plasmid Expressing A Prokaryotic Dihydrofolate Reductase」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 1527-1531);ミコフェノール酸に対する耐性を付与するgpt(Mulliganら(1981)「Selection For Animal Cells That Express The Escherichia coli Gene Coding For Xanthine-Guanine Phosphoribosyltransferase」、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78: 2072-2076);アミノグリコシドG-418に対する耐性を付与するneo(Tolstoshev(1993)「Gene Therapy, Concepts, Current Trials And Future Directions」、Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 32:573-596;Mulligan(1993)「The Basic Science Of Gene Therapy」、Science 260:926-932;およびMorganら(1993)「Human Gene Therapy」、Ann. Rev. Biochem. 62:191-217)ならびにハイグロマイシンに対する耐性を付与するhygro(Santerreら(1984)「Expression Of Prokaryotic Genes For Hygromycin B And G418 Resistance As Dominant-Selection Markers In Mouse L Cells」、Gene 30:147-156)。組み換えDNA技術の分野において一般に公知の方法であって用いることができるものは、Ausubelら(編)、1993年、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons, NY);Kriegler、1990年、Gene Transfer and Expression, A Laboratory Manual(Stockton Press, NY)において;およびDracopoliら(編)、1994年、Current Protocols in Human Genetics(John Wiley & Sons, NY.)の第12章および13章;Colberre-Garapinら(1981)「A New Dominant Hybrid Selective Marker For Higher Eukaryotic Cells」、J. Mol. Biol. 150:1-14において記載される。
【0134】
本明細書において記載されるポリペプチドの発現レベルは、ベクターの増幅により増大させることができる(概説については、Bebbington and Hentschel、The use of vectors based on gene amplification for the expression of cloned genes in mammalian cells in DNA cloning、第3巻(Academic Press, New York, 1987年)を参照)。本明細書において記載されるポリペプチドを発現するベクター系中のマーカーが増幅可能である場合、宿主細胞の培養において存在する阻害剤のレベルの増大は、マーカー遺伝子のコピー数を増大させるであろう。増幅される領域は、本明細書において記載されるポリペプチドのヌクレオチド配列または本明細書において記載されるポリペプチドに関連するので、ポリペプチドの産生もまた増大するであろう(Crouseら(1983年)「Expression And Amplification Of Engineered Mouse Dihydrofolate Reductase Minigenes」、Mol. Cell. Biol. 3:257-266)。
【0135】
本明細書において記載されるポリペプチドは、組み換えにより発現された後、ポリペプチド、ポリタンパク質または抗体の精製の分野において公知の任意の方法(例えば、抗原選択性に基づく抗体精製スキームに類似のもの)により、例えば、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、アフィニティー、特に特異的抗原に対するアフィニティーによるもの(任意に、ポリペプチドがFcドメイン(またはその部分)を含む場合にはタンパク質A選択の後で)により、およびサイジングカラム(sizing column)クロマトグラフィー)、遠心分離、較差溶解度(differential solubility)により、またはポリペプチドまたは抗体の精製のための任意の他の標準的技術により、精製することができる。本開示の他の側面は、本明細書において記載される核酸または本明細書において記載されるベクターを含む細胞に関する。
【0136】
細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。いくつかの態様において、細胞は、哺乳動物細胞である。例示的な細胞型は、本明細書において記載される。本開示の他の側面は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドを発現する細胞に関する。細胞は、原核細胞であっても真核細胞であってもよい。いくつかの態様において、細胞は、哺乳動物細胞である。例示的な細胞型は、本明細書において記載される。細胞は、核酸の伝播のため、または核酸の発現のため、または両方のためのものであってよい。かかる細胞として、限定することなく、好気性、微好気性、二酸化炭素志向性(capnophilic)、通性、嫌気性、グラム陰性およびグラム陽性の細菌細胞の株、例えば、限定することなくEscherichia coli、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacteroides fragilis、Clostridia perfringens、Clostridia difficile、Caulobacter crescentus、Lactococcus lactis、Methylobacterium extorquens、Neisseria meningirulls、Neisseria meningitidis、Pseudomonas fluorescensおよびSalmonella typhimuriumに由来するものなどを含む原核細胞;ならびに、限定することなく、酵母株、例えばPichia pastoris、Pichia methanolica、Pichia angusta、Schizosaccharomyces pombe、Saccharomyces cerevisiaeおよびYarrowia lipolyticaに由来するものなどを含む真核生物細胞;昆虫細胞および昆虫に由来する細胞株、例えばSpodoptera frugiperda、Trichoplusia ni、Drosophila melanogasterおよびManduca sextaに由来するものなど;ならびに哺乳動物細胞および哺乳動物細胞に由来する細胞株、例えばマウス、ラット、ハムスター、ブタ、ウシ、ウマ、霊長類およびヒトに由来するものなどが挙げられる。細胞株は、American Type Culture Collection、European Collection of Cell CulturesおよびGerman Collection of Microorganisms and Cell Culturesから得てもよい。適切な細胞株のスクリーニング、作製および使用のための具体的なプロトコルの非限定的例は、例えば、INSECT CELL CULTURE ENGINEERING(Mattheus F. A. Goosenら編、Marcel Dekker、1993年);INSECT CELL CULTURES: FUNDAMENTAL AND APPLIED ASPECTS(J. M. Vlakら編、Kluwer Academic Publishers、1996年);Maureen A. Harrison & Ian F. Rae、GENERAL TECHNIQUES OF CELL CULTURE(Cambridge University Press、1997年);CELL AND TISSUE CULTURE: LABORATORY PROCEDURES(Alan Doyleら編、John Wiley and Sons、1998年);R. Ian Freshney、CULTURE OF ANIMAL CELLS: A MANUAL OF BASIC TECHNIQUE(Wiley-Liss、第4版、2000年);ANIMAL CELL CULTURE: A PRACTICAL APPROACH(John R. W. Masters ed., Oxford University Press、第3版、2000);MOLECULAR CLONING A LABORATORY MANUAL、上記(2001年);BASIC CELL CULTURE: A PRACTICAL APPROACH(John M. Davis, Oxford Press、第2版、2002年);およびCURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY、上記(2004年)において記載される。
【0137】
これらのプロトコルは、当業者の範囲において、および本明細書における教示から、慣用的な手順である。本開示のさらに他の側面は、本明細書において記載されるポリペプチドを生成する方法に関し、該方法は、本明細書において記載される細胞を得ること、および前記細胞において本明細書において記載される核酸を発現することを含む。いくつかの態様において、方法は、本明細書において記載されるポリペプチドを単離および精製することをさらに含む。
【0138】
いくつかの態様において、ボツリヌスニューロトキシンは、発酵槽においてClostridium botulinumの培養を確立してこれを増殖させ、次いで発酵させた混合物を公知の手順に従って採取および精製することにより、得ることができる。全てのボツリヌストキシン血清型は、不活性な単鎖タンパク質として最初に合成され、これは、向神経活性となるために、プロテアーゼにより切断するかまたはニックを入れなければならない。
【0139】
ボツリヌストキシン血清型AおよびGを産生する細菌株は、内因性プロテアーゼを有し、したがって、血清型AおよびGは、細菌培養物から、主にそれらの活性な形態において回収することができる。対照的に、ボツリヌストキシン血清型Ci、DおよびEは、非タンパク質分解株により合成され、したがって、典型的には、培養物から回収された時点では活性化されていない。血清型BおよびFは、タンパク質分解株と非タンパク質分解株との両方により産生され、したがって、活性または不活性な形態のいずれかにおいて回収することができる。例えばボツリヌストキシン血清型B型を産生するタンパク質分解株は、産生されるトキシンの一部のみを切断する場合がある。
【0140】
ニックを入れた分子のニックがない分子に対する正確な比率は、インキュベーションの長さおよび培養の温度に依存する。したがって、例えばボツリヌストキシンB型トキシンの調製物のうちの一定のパーセンテージは、不活性であってもよい。一態様において、本開示のニューロトキシンは、活性な状態にある。一態様において、ニューロトキシンは、不活性な状態にある。一態様において、活性および不活性なニューロトキシンの組み合わせが企図される。
【0141】
また、本明細書において記載されるBoNT/Bの改変受容体結合ドメインは、ヒトにおいて神経細胞をターゲティングするための送達ツールとして利用することができるが企図される。例えば、BoNT/Bの改変受容体結合ドメインは、他の治療剤に、共有的または非共有的に連結されて、ヒトにおいて治療剤を神経細胞に送達するためのターゲティングビヒクルとして作用することができる。
【0142】
したがって、本開示の別の側面は、C. botulinum血清型Bの改変受容体結合ドメインである第1の部分であって、神経細胞に対する結合を著しく増大させる1つ以上の置換変異を含み、第2の部分に連結する、前記第1の部分を含む、キメラポリペプチド分子に関する。分子の第2の部分は、治療剤(例えばポリペプチドまたは薬物)などの生理活性分子であってよい。分子の第1の部分と第2の部分との連結は、共有的(例えば融合タンパク質の形態におけるもの)であっても非共有的であってもよい。かかる連結の方法は、当該分野において公知であり、当業者により容易に適用することができる。キメラ分子の第2の部分がポリペプチドであり、キメラ分子がタンパク質の形態である場合、かかるキメラ分子をコードする核酸および核酸ベクターが提供される。
【0143】
また提供されるのは、核酸または核酸ベクターを含む細胞、およびかかるキメラ分子を発現する細胞である。融合タンパク質の形態におけるキメラ分子は、本明細書において開示される方法を用いて発現させてこれを単離することができる。
【0144】
本開示の改変BoNTポリペプチドは、受容体結合ドメインにおいてループを有し、これは、脂質膜中への透過を媒介し、BoNTのその標的細胞への結合を増強する。いくつかの態様において、標的細胞は、神経終末において位置する。したがって、改変BoNTポリペプチドの神経終末への結合が、対応する野生型BoNTと比較して増強される。いくつかの態様において、かかる増大した結合はまた、シナプス前神経終末に特異的である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、哺乳動物におけるものである。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、げっ歯類におけるものである。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、マウスのシナプス前神経終末である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、マウスのシナプス前神経終末である。いくつかの態様において、シナプス前神経終末は、ヒトシナプス前神経終末である。
【0145】
その標的細胞(例えば神経細胞)に対する結合アフィニティーが増強されている改変BoNTポリペプチドは、治療的使用のための可能性を提供する。例えば、かかる改変BoNTポリペプチドは、より低い用量においても有効であり得る。治療的使用のためのBoNTの用量がより低いことは、注射部位における周囲の組織に拡散するトキシンがより少なくなり、BoNTに対して産生される中和抗体がより少なくなり得るであろうことから、一般に望ましい。
【0146】
したがって、本開示はまた、本開示の改変BoNTまたはキメラ分子を含む医薬組成物を企図する。本開示においてまた明らかとなり得るとおり、本開示の医薬組成物は、かかる組成物が処置するように設計される特定の疾患のために好適な他の治療剤をさらに含んでもよい。いくつかの態様において、本開示の医薬組成物は、薬学的に受入可能なキャリアをさらに含む。
【0147】
用語「薬学的に受入可能なキャリア」とは、本明細書において用いられる場合、薬学的に受入可能な材料、組成物またはビヒクル、例えば液体または固体の充填剤、希釈剤、賦形剤、製造補助剤(例えば、潤滑剤、タルクマグネシウム、ステアリン酸カルシウムもしくは亜鉛、またはステアリン酸)、あるいはポリペプチドを身体の1つの部位(例えば送達部位)から別の部位(例えば、臓器、組織または身体の部分)へと運搬または輸送することに関与する溶媒封入材料を意味する。
【0148】
薬学的に受入可能なキャリアは、処方物の他の成分と適合性であって対象の組織に対して傷害性ではない(例えば、生理学的に適合性、無菌、生理学的pHなど)という意味において「受入可能」である。薬学的に受入可能なキャリアとして使用することができる材料のいくつかの例として、以下が挙げられる:(1)糖、例えばラクトース、グルコースおよびスクロース;(2)デンプン、例えばコーンスターチおよび馬鈴薯デンプン;(3)セルロースおよびその誘導体、例えばカルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、エチルセルロース、微結晶性セルロースおよび酢酸セルロース;(4)粉末状トラガカント;(5)麦芽;(6)ゼラチン;(7)潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウムおよびタルク;(8)賦形剤、例えばカカオバターおよび坐剤用ワックス;(9)油脂、例えばピーナッツ油、綿実油、ベニバナ油。ゴマ油、オリーブ油、トウモロコシ油およびダイズ油;(10)グリコール、例えばプロピレングリコール;(11)ポリオール、例えばグリセリン、ソルビトール、マンニトールおよびポリエチレングリコール(PEG);(12)エステル、例えばオレイン酸エチルおよびラウリン酸エチル;(13)寒天;(14)緩衝化剤、例えば水酸化マグネシウムおよび水酸化アルミニウム;(15)アルギン酸;(16)パイロジェンフリー水;(17)等張食塩水;(18)リンガー溶液;(19)エチルアルコール;(20)pH緩衝化溶液;(21)ポリエステル、ポリカーボネートおよび/またはポリ無水物;(22)嵩高剤、例えばポリペプチドおよびアミノ酸(23)血清構成成分、例えば血清アルブミン、HDLおよびLDL;(22)C2~C12アルコール、例えばエタノール;ならびに(23)医薬処方物において使用される他の非毒性の適合性の物質。湿潤化剤、着色剤、放出剤、コーティング剤、甘味剤、香味剤、芳香剤、保存剤および抗酸化剤もまた、処方物中に存在することができる。「賦形剤」、「キャリア」、「薬学的に受入可能なキャリア」などの用語は、本明細書において交換可能に用いられる。いくつかの態様において、組成物中の本開示の改変BoNTポリペプチドは、注射により、カテーテルにより、坐剤により、または移植片により投与され、移植片は、多孔質、非孔質、またはゼラチン状の材料であり、これはシラスティック(sialastic)メンブレンなどの膜または繊維を含む。
【0149】
典型的には、組成物を投与する場合、本開示のポリペプチドが吸収されない材料を用いる。他の態様において、本開示の改変BoNTポリペプチドは、徐放系において送達される。投与のためのかかる組成物および方法は、米国特許公開番号No. 2007/0020295において提供され、その内容は、本明細書において参考として援用される。一態様において、ポンプを用いてもよい(例えば、Langer, 1990, Science 249:1527-1533;Sefton, 1989, CRC Crit. Ref. Biomed. Eng. 14:201;Buchwald et al., 1980, Surgery 88:507;Saudek et al., 1989, N. Engl. J. Med. 321:574を参照)。別の態様において、ポリマー材料を用いることができる(例えば、Medical Applications of Controlled Release(LangerおよびWise編、CRC Press, Boca Raton, Fla., 1974年);Controlled Drug Bioavailability, Drug Product Design and Performance(SmolenおよびBall編、Wiley, New York, 1984年);Ranger and Peppas, 1983, Macromol. Sci. Rev. Macromol. Chem. 23:61を参照。また、Levy et al., 1985, Science 228:190;During et al., 1989, Ann. Neurol. 25:351;Howard et al., 1989, J. Neurosurg. 71:105を参照)。他の徐放系は、例えば上記のLangerにおいて議論される。
【0150】
本開示の改変BoNTポリペプチドは、結合剤の治療有効量および1つ以上の薬剤的に適合性の材料を含む医薬組成物として、投与することができる。典型的な態様において、医薬組成物は、慣用的な手順に従って、対象、例えばヒトへの静脈内または皮下投与のために適応させた医薬組成物として、処方される。
【0151】
典型的には、注射による投与のための組成物は、無菌の等張水性バッファー中の溶液である。必要である場合は、医薬はまた、注射の部位における疼痛を緩和するために、可溶化剤およびリグノカインなどの局所麻酔剤を含むことができる。一般に、成分は、単位投与形態において、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェ(sachette)などの気密密封容器中の乾燥した凍結乾燥粉末または無水濃縮物として、別々に、または一緒に混合して、供給される。医薬が注入により投与されるべき場合、それは、無菌の医薬グレードの水または食塩水を含有する注入ボトルにより分配される。医薬が注射により投与される場合、成分を投与の前に混合することができるように、注射用の無菌水または食塩水のアンプルを提供することができる。全身投与のための医薬組成物は、液体、例えば無菌の食塩水、乳酸リンガーまたはハンク溶液であってよい。加えて、医薬組成物は、固体の形態であってもよく、使用の直前に再溶解または懸濁されてもよい。凍結乾燥形態もまた企図される。医薬組成物は、リポソームまたは微結晶などの脂質粒子または小胞中に含有されていてもよく、これもまた、非経口投与のために好適である。粒子は、組成物がその中に含有される限り、単層または複層などの任意の好適な構造のものであってよい。
【0152】
本開示のポリペプチドを、膜融合性脂質ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)、低レベル(5~10mol%)のカチオン性脂質を含有する「安定化されたプラスミド-脂質粒子」(SPLP)中に封入して、ポリエチレングリコール(PEG)コーティングにより安定化させることができる(Zhang Y. P. et al., Gene Ther. 1999, 6:1438-47)。N-[1-(2,3-ジオレオイル息オキシ)プロピル]-N,N,N-トリメチル-アンモニウムスルフェートまたは「DOTAP」などの正に荷電した脂質が、かかる粒子および小胞のために特に好ましい。かかる脂質粒子の調製は、周知である。例えば、米国特許第4,880,635号;同第4,906,477号;同第4,911,928号;同第4,917,951号;同第4,920,016号;および同第4,921,757号を参照。本開示の医薬組成物は、例えば単位用量として投与または包装してもよい。
【0153】
用語「単位用量」とは、本開示の医薬組成物に関して用いられる場合、対象のための単位投与量として好適な物理的に別々の単位を指し、各単位が、所望される治療効果をもたらすために計算された予め決定された量の活性材料を、必要とされる希釈剤;すなわちキャリアまたはビヒクルと組み合わせて含有する。いくつかの態様において、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチドを、治療用部分、例えば抗生物質と抱合させてもよい。かかる治療用部分を例えばFcドメインを含むポリペプチドに抱合させるための技術は、周知である;例えば、Amonら、「Monoclonal Antibodies For Immunotargeting Of Drugs In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy中、Reisfeldら(編)、1985年、pp. 243-56、Alan R. Liss, Inc.);Hellstromら、「Antibodies For Drug Delivery」、Controlled Drug Delivery(第2版)中、Robinsonら(編)、1987年、pp. 623-53、Marcel Dekker, Inc.);Thorpe、「Antibody Carriers Of Cytotoxic Agents In Cancer Therapy: A Review」、Monoclonal Antibodies '84: Biological And Clinical Applications中、Pincheraら(編)、1985年、pp. 475-506);「Analysis, Results, And Future Prospective Of The Therapeutic Use Of Radiolabeled Antibody In Cancer Therapy」、Monoclonal Antibodies For Cancer Detection And Therapy中、Baldwinら(編)、1985年、pp. 303-16、Academic Press;およびThorpeら(1982)「The Preparation And Cytotoxic Properties Of Antibody-Toxin Conjugates」、Immunol. Rev., 62:119-158を参照。さらに、医薬組成物は、(a)本開示のポリペプチドを凍結乾燥形態において含有する容器、および(b)注射のための薬学的に受入可能な希釈剤(例えば無菌水)を含有する第2の容器、を含む医薬キットとして提供することができる。薬学的に受入可能な希釈剤は、本開示の凍結乾燥ポリペプチドの再構成または希釈のために用いることができる。任意にかかる容器に付随するのは、医薬または生物由来物質の製造、使用または販売を規制する政府の機関により処方される形式の通知であってもよく、この通知は、ヒト投与のための製造、使用または販売の機関による承認を反映する。別の側面において、上記の疾患の処置のための材料を含有する製品が含まれる。いくつかの態様において、製品は、容器およびラベルを含む。
【0154】
好適な容器として、例えば、ボトル、バイアル、シリンジおよび試験管が挙げられる。容器は、ガラスまたはプラスチックなどの多様な材料から形成されていてよい。いくつかの態様において、容器は、本明細書において記載される疾患を処置するために有効である組成物を保持し、無菌のアクセスポートを有していてもよい。例えば、容器は、皮下注射針により穿通可能な静脈内溶液バッグまたはストッパーを有するバイアルであってもよい。組成物中の活性剤は、本開示の単離されたポリペプチドである。いくつかの態様において、容器に付随するラベルは、組成物が、選択される疾患を処置するために用いられることを示す。製品は、リン酸緩衝化食塩水、リンガー溶液、またはデキストロース溶液などの薬学的に受入可能なバッファーを含む、第2の容器をさらに含んでもよい。それは、商業上のおよび使用者の視点から望ましい他の材料(他のバッファー、希釈剤、充填剤、針、シリンジおよび使用のための説明を含むパッケージ挿入物を含む)を、さらに含んでもよい。
【0155】
本開示の改変BoNTポリペプチド、キメラ分子、および医薬組成物は、望ましくない神経細胞の活動に関連する状態の処置のために用いてもよい。したがって、本明細書においてさらに提供されるのは、望ましくない神経活動に関連する状態を処置する方法であって、該方法は、本明細書において記載される改変BoNTポリペプチド、キメラ分子、または医薬組成物の治療有効量を、それにより状態を処置するために投与することを含む。いくつかの態様において、本開示の改変BoNTポリペプチド、キメラ分子、および医薬組成物は、望ましくない神経活動を示している1つ以上の神経細胞に接触する。
【0156】
典型的にニューロトキシンにより処置される状態(例えば、骨格筋の状態、平滑筋の状態、腺の状態、神経筋障害、自律神経系障害、疼痛または審美的/美容的状態)は、熟練の医師により決定されるように、望ましくない神経活動に関連する。投与は、組成物の有効量を、望ましくない活動を示している神経細胞に接触させる経路により行われる。いくつかの態様において、状態は、過活動の神経細胞または腺に関連するものであってもよい。本明細書において議論される方法による処置について想起される具体的な状態として、限定することなく、痙攣性発声障害、痙性斜頚(spasmodic torticollis)、喉頭ジストニア、顎口腔性発声障害、舌ジストニア、痙性斜頚(cervical dystonia)、上肢局所性ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼疾患、脳性麻痺、限局性痙攣および他の発声障害、痙攣性大腸炎、神経因性膀胱、アニスムス、四肢痙攣、チック、振戦、歯ぎしり、裂肛、アカラシア、嚥下障害、および他の筋緊張障害、および筋群の不随意運動により特徴づけられる他の障害、流涙、多汗症、過剰な唾液分泌、過剰な胃腸管分泌、ならびに他の分泌障害、筋痙攣からの疼痛、頭痛が挙げられる。加えて、本開示は、皮膚科学的または審美的/美容的状態を処置するために、例えば眉間のしわの軽減、皮膚の小じわの軽減のために用いることができる。
【0157】
本開示はまた、スポーツ外傷の処置において用いることができる。Borodic、米国特許第5,053,005号は、ボツリヌスA型を用いる若年性脊柱弯曲症(spinal curvature)、すなわち、脊柱側弯症(scoliosis)を処置するための方法を開示する。Borodicの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。一態様において、Borodicにより開示されるものと実質的に類似の方法を用いて、改変ニューロトキシンを、脊柱弯曲症を処置するために、哺乳動物、好ましくはヒトに投与することができる。好適な態様において、ロイシンベースのモチーフと融合したボツリヌスE型を含む改変ニューロトキシンを投与する。さらにより好ましくは、その軽鎖のカルボキシ末端にロイシンベースのモチーフが融合したボツリヌスA~E型を含む改変ニューロトキシンを、脊柱弯曲症を処置するために、哺乳動物、好ましくはヒトに投与する。
【0158】
加えて、改変ニューロトキシンは、ボツリヌスA型により一般に行われる周知の技術を用いて、他の神経筋障害を処置するために、投与することができる。例えば、本開示は、疼痛、例えば、頭痛、筋痙攣からの疼痛、および多様な形態の炎症性疼痛を処置するために用いることができる。例えば、Aoki、米国特許第5,721,215号およびAoki、米国特許第6,113,915号は、疼痛を処置するためにボツリヌストキシンA型を用いる方法を開示する。これら2つの特許の開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0159】
自律神経系障害もまた、改変ニューロトキシンにより処置することができる。例えば、腺の機能不全は自律神経系障害である。腺の機能不全として、過剰発汗および過剰唾液分泌が挙げられる。呼吸器機能不全は、自律神経系障害の別の例である。呼吸器機能不全として、慢性閉塞性肺疾患および喘息が挙げられる。Sandersらは、自律神経系を処置する;例えば、過剰発汗、過剰唾液分泌、喘息などの自律神経系障害を、天然に存在するボツリヌストキシンを用いて処置するための方法を開示する。Sanderらの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0160】
一態様において、上記のものなどの自律神経系障害を処置するために、改変ニューロトキシンを用いて、Sandersらのものと実質的に類似の方法を使用することができる。例えば、改変ニューロトキシンは、鼻腔内の粘膜の分泌を制御する自律神経系のコリン作動性神経細胞を変性させるために十分な量で、哺乳動物の鼻腔に局所的に適用することができる。改変ニューロトキシンにより処置することができる疼痛として、筋張力、または攣縮により引き起こされる疼痛、または筋肉の攣縮と関連しない疼痛が挙げられる。例えば、Binderは、米国特許第5,714,468号において、血管障害、筋張力、神経痛およびニューロパシーにより引き起こされる頭痛を、天然に存在するボツリヌストキシン、例えばボツリヌスA型で処置することができることを開示する。Binderの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0161】
一態様において、頭痛、特に血管障害、筋張力、神経痛およびニューロパシーにより引き起こされるものを処置するために、改変ニューロトキシンを用いて、Binderのものと実質的に類似の方法を使用することができる。筋張力により引き起こされる疼痛もまた、改変ニューロトキシンの投与により処置することができる。例えば、好ましくはボツリヌスE型軽鎖のカルボキシル末端においてロイシンベースのモチーフと融合したボツリヌスE型を、疼痛/攣縮の位置において、疼痛を軽減するために、筋肉内投与することができる。さらに、改変ニューロトキシンは、攣縮などの筋肉障害に関連しない疼痛を処置するために、哺乳動物に投与することができる。
【0162】
一つの広範な態様において、非攣縮関連疼痛を処置するための本開示の方法は、改変ニューロトキシンの中枢投与または末梢投与を含む。例えば、Fosterらは、米国特許第5,989,545号において、疼痛を緩和するために、ターゲティング部分に抱合したボツリヌストキシンを中枢に(くも膜下内に)投与することができることを開示する。Fosterらの開示は、その全体において本明細書において参考として援用される。
【0163】
一態様において、疼痛を処置するために、本明細書において記載される組成物を用いて、Fosterらのものと実質的に類似の方法を使用することができる。処置されるべき疼痛は、急性疼痛であっても慢性疼痛であってもよい。筋攣縮に関連しない急性または慢性の疼痛はまた、哺乳動物における実際のまたは知覚される疼痛の位置への改変ニューロトキシンの局所的な末梢投与により軽減することができる。
【0164】
一態様において、改変ニューロトキシンは、疼痛の位置においてまたはその近傍において、例えば切り傷においてまたはその近傍において、皮下投与される。いくつかの態様において、改変ニューロトキシンは、疼痛の位置においてまたはその近傍において、例えば哺乳動物における挫傷の位置においてまたはその近傍において、筋肉内投与される。いくつかの態様において、改変BoNTポリペプチドは、関節の状態により引き起こされる疼痛を処置または軽減するために、哺乳動物の関節中に直接注射される。また、頻繁に繰り返される改変ニューロトキシンの末梢の疼痛の位置への注射または注入は、本開示の範囲内である。かかる方法のための投与の経路は、当該分野において公知であり、当業者により、本明細書において記載される方法に容易に適用される(例えば、Harrison's Principles of Internal Medicine(1998年)、Anthony Fauciら編、第14版、McGraw Hill発行を参照)。
【0165】
非限定的な例として、神経筋障害の処置は、有効量の分子を筋肉または筋群に局所投与するステップを含んでもよく、自律神経系障害の処置は、有効量の分子を腺に局所投与するステップを含んでもよく、および疼痛の処置は、有効量の分子を疼痛の部位に投与するステップを含んでもよい。加えて、疼痛の処置は、有効量の改変ニューロトキシンを脊髄に投与するステップを含んでもよい。
【0166】
「治療有効量」とは、本明細書において用いられる場合、本開示の各治療剤が、単独で、または1つ以上の他の治療剤と組み合わせて、対象に対して治療効果を与えるために必要とされる量を指す。有効量は、当業者により認識されるとおり、保健の実務家の知識および専門的意見の範囲内において、処置されている特定の状態、状態の重篤度、個々の対象のパラメーター(年齢、身体的状態、サイズ、性別および体重を含む)、処置の期間、併用治療の性質(ある場合は)、投与の具体的な経路などの要因に依存して変化する。これらの要因は、当業者には周知であり、慣用的な実験のみを用いて取り組むことができる。個々の構成成分またはその組み合わせの最大用量、健全な医学的判断に従った最大の安全な用量が用いられることが一般に好ましい。しかし、当業者は、対象が医学的理由、精神的理由、または実質的にあらゆる他の理由のために、より低い用量または耐容可能な用量を主張する場合があることを理解するであろう。半減期などの経験的配慮は、一般に、投与量の決定に寄与するであろう。例えば、ポリペプチドの半減期を延長するために、およびポリペプチドが宿主の免疫系により攻撃されることを防ぐために、ヒト化抗体または完全ヒト抗体からの領域を含むポリペプチドなどの、ヒト免疫系に適合可能な治療剤を用いてもよい。
【0167】
投与の頻度は、治療の過程にわたって決定および調整することができ、一般に、必ずしもではないが、疾患の処置および/または抑制および/または寛解および/または遅延に基づく。あるいは、ポリペプチドの持続的徐放処方物が適切である場合がある。持続的放出を達成するための多様な処方物およびデバイスは、当該分野において公知である。いくつかの態様において、投与は、毎日、2日に1回、3日に1回、4日に1回、5日に1回、または6日に1回である。いくつかの態様において、投与頻度は、1週間に1回、2週間に1回、4週間に1回、5週間に1回、6週間に1回、7週間に1回、8週間に1回、9週間に1回、または10週間に1回;または1か月に1回、2か月に1回、または3か月に1回、またはそれより長い。この治療の進行は、従来の技術およびアッセイにより、容易にモニタリングされる。
【0168】
投与レジメン(用いられるポリペプチドを含む)は、経時的に変化してもよい。いくつかの態様において、正常な体重の成人の対象に対して、約0.01~1000mg/kgの範囲の用量を投与することができる。いくつかの態様において、用量は、1~200mgである。特定の投与レジメン、すなわち、用量、タイミングおよび反復は、特定の対象およびその対象の病歴、ならびにポリペプチドの特性(ポリペプチドの半減期、および当該分野において周知の他の考慮事項など)に依存するであろう。
【0169】
本開示の目的のために、本明細書において記載されるような治療剤の適切な投与量は、使用される具体的な剤(またはその組成物)、処方および投与の経路、疾患の型および重篤度、ポリペプチドが予防または治療のいずれの目的のために投与されるのか、先行する治療、対象の臨床歴およびアンタゴニストに対する応答、ならびに主治医の裁量に依存するであろう。典型的には、臨床医は、投与が、所望される結果を達成するに至るまで、ポリペプチドを投与するであろう。
【0170】
1つ以上のポリペプチドの投与は、例えば、レシピエントの生理学的状態、投与の目的が治療または予防のいずれであるのか、および当業者に公知の他の要因に依存して、連続的であっても断続的であってもよい。ポリペプチドの投与は、予め選択された期間にわたり本質的に連続的であっても、一連の間隔を空けた用量、例えば、疾患を発症する前、その間、またはその後であってもよい。本明細書において用いられる場合、用語「処置すること」とは、ポリペプチドまたは組成物の適用または投与を指し、それを必要とする対象へのポリペプチドを含む。
【0171】
「それを必要とする対象」とは、疾患、疾患の症状、または疾患に向かう素因を有する個人であって、当該疾患、疾患の症状、または疾患に向かう素因を、治癒(cure)、治癒(heal)、軽減、緩和、変更、加療、寛解、改善またはこれに影響を及ぼす目的を有するものを指す。いくつかの態様において、対象は、CDIを有する。いくつかの態様において、対象は癌を有する。いくつかの態様において、対象は哺乳動物である。いくつかの態様において、対象は非ヒト霊長類である。いくつかの態様において、対象はヒトである。疾患を軽減することとは、疾患の発症または進行を遅延させること、または疾患の重篤度を低下させることを含む。疾患を軽減することとは、必ずしも治癒的な結果を必要としない。
【0172】
本明細書において用いられる場合、疾患の発症を「遅延させること(delaying)」とは、疾患の進行を延期すること、妨害すること、減速させる(slow)こと、遅らせる(retard)こと、安定化させること、および/または延期することを意味する。この遅延は、処置されている疾患および/または個人の病歴に依存して、異なる長さの時間であってよい。疾患の進行を「遅延させる」かまたはこれを軽減する、または疾患の発症を遅延させる方法とは、当該方法を用いない場合と比較して、所与の時間枠において、疾患の1つ以上の症状を発症する可能性を低下させるか、および/または、所与の時間枠において症状の程度を軽減する方法である。かかる比較は、典型的には、統計学的に有意な結果を得るために十分に多数の対象を用いる臨床研究に基づく。
【0173】
疾患の「発症」または「進行」とは、疾患の初期症状および/または後に続く進行を意味する。疾患の発症は、検出可能であり得、当該分野において周知のとおりの標準的な臨床技術を用いて評価することができる。しかし、発症はまた、検出不可能であり得る進行をも指す。本開示の句敵のために、発症または進行とは、症状の生物学的経過を指す。「発症」は、発生(occurrence)、再発(recurrence)、開始(onset)を含む。
【0174】
本明細書において用いられる場合、疾患の「開始」または「発生」は、最初の開始および/または再発を含む。単離ポリペプチドまたは医薬組成物を対象に投与するために、処置されるべき疾患の型または疾患の部位に依存して、医学の分野における当業者に公知の従来の方法を用いることができる。この組成物はまた、他の従来の経路を介して投与することができ、例えば経口で、非経口で、吸入スプレーにより、局所で、直腸で、鼻で、頬側で、膣で、または移植されたリザーバを介して投与することができる。
【0175】
用語「非経口」とは、本明細書において用いられる場合、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑膜内、胸骨内、くも膜下内、病巣内、および頭蓋内注射または注入技術を含む。加えて、それは、注射可能なデポー型の投与の経路を介して、例えば1、3または6か月デポー型の注射可能または生分解性の材料および方法を用いて、対象に投与することができる。
【0176】
本明細書において用いられる場合、「対象」とは、ヒトまたは動物を指す。通常、動物は、霊長類、げっ歯類、家畜動物または狩猟動物などの脊椎動物である。霊長類として、チンパンジー、カニクイザル、クモザル、およびマカク、例えばアカゲザルが挙げられる。げっ歯類として、マウス、ラット、マーモット、フェレット、ウサギおよびハムスターが挙げられる。家畜および狩猟動物として、ウシ、ウマ、ブタ、シカ、バイソン、水牛、ネコの種、例えば飼いネコ、イヌの種、例えばイヌ、キツネ、オオカミ、トリの種、例えばニワトリ、エミュー、ダチョウ、ならびに魚類、例えばマス、ナマズおよびサケが挙げられる。患者または対象として、前述のものの任意のサブセット、例えば上のものの全てを含むが、1つ以上の群または種、例えばヒト、霊長類またはげっ歯類を除く。本明細書において記載される側面のある態様において、対象は、哺乳動物、例えば霊長類、例えばヒトである。
【0177】
用語、「患者」および「対象」は、本明細書において交換可能に用いられる。対象は、雄性であっても雌性であってもよい。対象は、完全に発達した対象(例えば成体)であっても、発達のプロセスを経験している対象(例えば小児、乳児または胎児)であってもよい。好ましくは、対象は、哺乳動物である。哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ウマまたはウシであってよいが、これらの例に限定されない。ヒト以外の哺乳動物は、望ましくない神経活動に関連する障害の動物モデルを表す対象として、有利に用いることができる。加えて、本明細書において記載される方法および組成物は、家畜化された動物および/またはペットを処置するために用いることができる。
【0178】
以下の例は、特定の態様の説明を目的とするものであって、非限定的である。本願全体にわたり引用された参考文献(学術文献、発行された特許、公開された特許出願、および同時係属中の特許出願を含む)の全ての全内容は、本明細書により参考として明示的に援用される。
【0179】
例
操作されたBoNT/B受容体結合ドメイン
BoNT/Bは、げっ歯類(ラット/マウス)SytIIからのトキシン結合部位中の単一のアミノ酸の変更に起因して、ヒトSytII(h-SytII)に対する結合アフィニティーが著しく減少していることが、最近報告された13、23。これは、位置54におけるフェニルアラニン(F)からロイシン(L)への保存的変更である。ヒトSytI(h-SytI)は、その位置においてなおフェニルアラニンを含むので、ヒトは、BoNT/Bに対して感受性であり続ける。しかし、SytIIは、マウスにおいて運動神経終末において発現されるドミナントなアイソフォームであると考えられ、げっ歯類のSytIIもまた、SytIよりも約10倍高い結合アフィニティーをBoNT/Bに対して有する24、25。
【0180】
したがって、BoNT/Bは、ヒトにおいて運動神経細胞をターゲティングする上で、げっ歯類よりも効率的でない場合がある。患者において同じレベルの効果を達成するために、BoNT/Bは、BoNT/Aよりも約60~100倍高い用量で用いなければならないというというのが、積年の臨床的観察であった26、27。両方のトキシンの効力はマウスモデルを用いて測定されるので、ヒトは、実際、マウスよりもBoNT/Bに対して感受性が低い。したがって、BoNT/Bのh-SytIIに対する高アフィニティー結合を回復させることにより、ヒト神経細胞をターゲティングするためのその効力および特異性を増大させ、治療用とにおける用量を減少させ、およびこの主要な治療用トキシンについての有害効果の発生を低下させることができる28。BoNT/BのヒトSytIIに対する結合を著しく増大させたE1191M/S1199Yなどの、BoNT/B受容体結合ドメイン(BoNT/B-HC)における一連の変異が、最近発見された(WO 2013180799)。
【0181】
さらに、トキシンの拡散および中和抗体の産生は、BoNT/Bには限定されず、BoNT/Aについてもまた観察され、このことは、BoNT/Aのその受容体SV2に対する結合アフィニティーもまた、改善される必要があることを示している。BoNT/BのSytI/IIに対する結合は、BoNT/AのSV2に対する結合よりはるかに高いアフィニティーを有するので18、24、29、30、ヒトSytIIに結合する高い能力を有する改変BoNT/B受容体結合ドメイン(BoNT/B-HC)もまた、BoNT/A-HCを置き換えて、WT BoNT/Aよりもヒト神経細胞についての効力および特異性が増大した改変キメラBoNT/Aを生成するために用いることができる。
【0182】
BoNT/DCにおける脂質結合ループ
タンパク質とガングリオシド受容体との両方を利用することにより、BoNTは、極めて高い効力および特異性により神経細胞をターゲティングする能力を獲得する。この問題における本発明者らの関心は、1つのボツリヌスニューロトキシン、BoNT/DCが、マウスにおいて最高の効力を示した(1.1×109LD50/mg、これは、他のBoNTよりもほぼ5~30倍高い)31という観察に基づき、したがって、BoNTと神経細胞との間の結合のさらなる増強を検討した。BoNT/DCは、他のBoNT同様に、SytI/IIをその受容体として共有すること、およびまたガングリオシドを共受容体として必要とすることを見出した13。したがって、BoNT/DCがそれほど強力になるには、他の理由が存在する可能性がある。
【0183】
BoNT/DCの結晶構造は、受容体結合ドメイン中の伸長されたループを明らかにした(
図2A)
32。このループは多くの疎水性残基を含み、このループ中の変異が、BoNT/DC-H
Cの固定化ガングリオシドへの結合を無効化するので、ガングリオシド結合ループ(GBL)として先に提案されている
33、34。しかし、最近の研究により、このループは、ガングリオシド結合に直接的に関与しないことが明らかとなった。代わりに、このループは、疎水性脂質膜中への非特異的透過を介してガングリオシド結合に寄与する。実際、先端の残基における点変異F1253Aは、BoNT/DC-H
Cのガングリオシドフリーのリポソームへの結合を無効化することが見出されており、このことは、このループの先端が脂質膜中に透過することを示唆している。この作用は、神経細胞膜への付加的なアンカーを提供し、これは、BoNT/DCのガングリオシドおよびSytI/IIへの結合を相乗的な様式において著しく促進し、したがって、BoNT/DCの神経細胞への結合全体を増強する。
【0184】
BoNT/Bの結晶構造は、それがBoNT/DCにおいて見出されたものと類似の伸長されたループを有することを明らかにした(
図2B)
15。それはまた、BoNT/BがガングリオシドおよびSytI/IIに結合した場合に膜中に透過するために理想的な位置において配置されている。BoNT/B中のループとBoNT/DC中のループとの間の主要な相違点は、それらのループの先端で露出される残基が異なることである:BoNT/BはI1248/V1249を含み、一方、BoNT/DCはW1252/F1253を含む。WおよびFはいずれも、脂質膜中に透過する強力な傾向を有する典型的な疎水性残基であり、一方、IおよびVは、より膜と相互作用しにくい。I1248/V1249をWまたはF残基で置き換えることにより、BoNT/B中にBoNT/DCにおけるものとちょうど同じように、膜中に透過することができるループを作製することができる。
【0185】
この仮説を試験するために、単変異:BoNT/B-H
C(I1248W)および二重変異:BoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)の両方を作製した。これらの変異体の人工リポソームへの結合を、よく確立されたリポソーム浮揚アッセイを用いて試験した(
図3A)。アッセイは、初めに、BoNT/B-H
Cを、ホスファチジルコリン(PC)単独またはPC+ガングリオシド(1%)を含有するリポソームと共にインキュベートすることにより行った。混合物を、次いで、スクロース勾配中での遠心分離に供した。リポソームは、その低密度に起因して、勾配の最上層に浮揚するであろう。リポソームに結合したタンパク質はリポソームと一緒に最上層に浮揚するであろうが、一方、リポソームに結合していないタンパク質は、遠心管の底に留まるであろう(
図3A)。結合したタンパク質を、次いで、イムノブロット分析を介して検出した。
図3Bにおいて示すとおり、BoNT/B-H
C(I1248W)およびBoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)は、PCリポソームに結合する能力を獲得したが、一方、WT BoNT/B-H
Cは、リポソームに結合しなかった。BoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)は、BoNT/B(I1248W)と比較して、より増大したリポソームへの結合を示した。WT BoNT/B-H
Cとガングリオシドとの間の相互作用が相対的に弱いので、ガングリオシドをリポソームに添加することは、WT BoNT/B-H
Cの結合を増強しなかった。対照的に、BoNT/B-H
C(I1248W)およびBoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)は、ガングリオシド含有リポソームへの強力な結合を示し、これは、それらのガングリオシドフリーのリポソームへの結合より高かった(
図3B)。まとめると、これらの結果は、BoNT/B-H
C(I1248W)およびBoNT/B-H
C(I1248W/V1249W)が脂質膜へ結合する能力を獲得することを実証するのみならず、それらの脂質との相互作用が、ガングリオシド結合と相乗的であって、ガングリオシドを含有する膜に対する全体的な結合アフィニティーを著しく高めたことを示した。
【0186】
これらの知見を、次に、生理学的に適切な神経細胞の表面において検証した。培養ラット皮質神経細胞を、WT、I1248WまたはI1248W/V1249W BoNT/B-H
Cに暴露した。BoNT/B-H
Cの結合を、結合のレベルを定量する方法を提供する細胞ライセートのイムノブロット分析により検出した。
図4において示すとおり、I1248WおよびI1248W/V1249W BoNT/B-H
Cは、WT BoNT/B-H
Cよりも著しく高い神経細胞への結合を示し、これは、WTよりもそれぞれ2.7倍および3.5倍高かった。
【0187】
WT、I1248WまたはI1248W/V1249W BoNT/B-H
Cの神経細胞への結合を、トキシンの結合がシナプス前神経終末に特異的に局在するか否かを決定するために、免疫染色分析を介してさらに検討した。
図5において示すとおり、I1248WおよびI1248W/V1249W BoNT/B-H
Cは、WT BoNT/B-H
Cより劇的に高い神経細胞への結合を示した。重要なことに、I1248WおよびI1248W/V1249W BoNT/B-H
Cの結合は、シナプス前神経終末マーカーであるシナプシンと共局在し、このことは、増大した結合がシナプス前神経終末に特異的であることを示している。
【0188】
まとめると、これらの結果は、残基I1248をWに、およびV1249をWに変更したことにより、BoNT/B-HC中に「第3のアンカー」としての機能的ループが作られ、これが、神経終末への結合を劇的に増大させたことを示す。同様に、I1248/V1249をF、YおよびHなどの他の典型的な膜相互作用残基に変更することによってもまた、BoNT/B中に、膜中に透過してBoNT/Bの神経細胞の膜への結合を増強する機能的ループが作られ得る。
【0189】
したがって、I1248およびV1249を残基W、F、YまたはHで置き換えることにより、神経終末への結合が著しく増大した、新規に設計されたBoNT/Bが作製される。これらの変異は、天然のBoNT/Bよりも高い効力を有する新たな世代のBoNT/Bを作製するために用いることができる。これらの変異を含むBoNT/Bの受容体結合ドメインはまた、天然のBoNT/Aよりも潜在的に高い効力を有するBoNT/ABなどのキメラトキシンを作製するために利用することができる。
【0190】
材料および方法
抗体および材料:
以下の抗体は、示した売主から購入した:マウスモノクローナル抗HA(16B12、Covance)、ウサギポリクローナル抗シナプシン(Millipore)。ウシ混合脳ガングリオシドは、Matreya LLC(Pleasant Gap, PA)から購入し、以前に記載されるとおり9、Tris緩衝化食塩水(TBS:20mMのTris、150mMのNaCl)中で再構成した。PC脂質は、Avanti(Alabaster, AL)から購入した。cDNAおよびコンストラクト:BoNT/B-HCをコードするDNA(残基856~1291、GenBankアクセス番号AB232927に基づく)は、Geneart Inc.により合成され、そのコドンは、E.Coliにおける発現のために最適化した。BoNT/B-HCをコードするDNAを、N末端に融合させたHis6タグおよびHAタグの両方(YPYDVPDYA(配列番号1))と共にpET28aベクター中にサブクローニングした。BoNT/B-HCにおける変異は、PCRを介して、Quickchange Site-directed Mutagenesis Kit(Agilent Technologies, CA)を製造者のマニュアルに従って用いて、作製した。全てのコンストラクトは、シークエンシングにより検証した。
【0191】
タンパク質発現および精製:
BoNT/B-HCのWTおよび変異体を、His6タグ付けされた組み換えタンパク質としてE.Coliにおいて発現させた。His6-融合タンパク質を、先に記載されるとおり9、20℃における誘導温度で、一晩、0.25mMのIPTGと共に精製した。
【0192】
神経細胞の培養およびトキシン結合アッセイ:
ラット皮質神経細胞を、先に記載されるとおり9、E18~19の胎児から調製した。皮質神経細胞へのトキシンの結合は、先に記載されるとおり9、高K+バッファー(PBSと同じであるが、56mMのKClおよび87mMのNaClに加えて1mMのCaCl2に調整したもの)中で5分間にわたり行った。細胞を洗浄して、イムノブロット分析または免疫染色分析のいずれかに供した。免疫染色アッセイのために、細胞を固定して、免疫染色分析のために透過処理した。40×対物レンズを備えたLeica TCS SP8共焦点顕微鏡を用いて蛍光画像を収集した。
【0193】
リポソーム共浮揚アッセイ:
PCをクロロホルム中で溶解した。ガングリオシドを、クロロホルム:メタノール(3:1)中で溶解した。PC単独またはガングリオシド(1%)と混合したPCを、窒素ガス下において乾燥させた。脂質フィルムを、脂質再構成バッファー(30mMのTris、150mMのNaCl、2mMのMgCl
2、2mMのDTT、pH7.5)で再水和した。再懸濁した脂質を、シェイカーを用いて室温(RT)において1時間にわたり混合した。リポソームは、再懸濁物から、押し出し機(孔サイズ200nm、手動で20ストローク、Avanti)を用いて作製した。リポソーム(75μl)を、1μMのタンパク質と共に、150μlの総容積において、30分間RTにおいてインキュベートした。リポソームタンパク質混合物を、次いで、100μlの75%スクロース溶液に(脂質再構成バッファー中で)添加して、250μlの30%スクロース溶液を得、これを、遠心管の底の層としてロードし、続いて、
図5Aにおいて表すとおり、200μlの25%スクロース、および50μlの脂質再構成バッファーをロードした。ロードしたスクロース勾配を、240,000gで1時間にわたり遠心分離し(Beckman TLS-55ローター、OptiMax MAX-XPベンチトップ遠心分離機)。遠心分離の後で、遠心管の最上部から50μlの溶液を採取し、ローディングダイと混合して、イムノブロット分析に供した。
【0194】
表1.ボツリヌスニューロトキシン(BoNT)アミノ酸配列
*置換が生じるアミノ酸の位置に下線をした。
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
【表1-9】
【表1-10】
【表1-11】
【表1-12】
【表1-13】
【表1-14】
【表1-15】
【表1-16】
【表1-17】
【表1-18】
【表1-19】
【表1-20】
【表1-21】
【表1-22】
【表1-23】
【表1-24】
【表1-25】
【表1-26】
【表1-27】
【表1-28】
【表1-29】
【表1-30】
【表1-31】
【表1-32】
【0195】
参考文献
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0196】
本明細書において言及される全ての刊行物、特許および配列データベースのエントリーは、個々の刊行物および特許が、具体的に、および個々に、参考として援用されることが示されるものとして、その全体において本明細書により参考として援用される。矛盾がある場合は、本明細書における任意の定義を含む本願が支配する。
【0197】
他の態様
本明細書において開示される特徴の全ては、任意の組み合わせにおいて組み合わせることができる。本明細書において開示される各々の特徴は、同じ、同等、または類似の目的に役立つ代替的特徴により置き換えることができる。したがって、別段に明示的に記述されない限り、開示される各々の特徴は、一連の一般的な同等または類似の特徴の単なる例である。
上の記載から、当業者は、本開示の本質的な特徴を容易に確認することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本開示を多様な用途および条件に適応させるために、本開示の多様な変更および改変を行うことができる。したがって、他の態様もまた、請求の範囲内である。
【0198】
均等物および範囲
本明細書において、いくつかの本発明の態様を記載および説明してきたが、一方、当業者は、機能を発揮するため、ならびに/または本明細書において記載される結果および/もしくは利点の1つ以上をを得るために、多様な他の手段および/または構造を容易に想起するであろう。そして、かかるバリエーションおよび/または改変の各々は、本明細書において記載される本発明の態様の範囲内であるものとみなされる。より一般的には、当業者は、本明細書において記載される全てのパラメーター、寸法、材料、および配置は、例示的であることを意図され、実際のパラメーター、寸法、材料および/または配置は、本発明の教示が用いられる特定の用途に依存するであろうことを、容易に理解するであろう。当業者は、慣用的な実験のみを用いて、本明細書において記載される本発明の特定の態様に対する多くの均等物を認識するか、またはこれを確認することができるであろう。したがって、前述の態様は、単に例として提示されるものであって、添付の請求の範囲およびそれに対する均等物の範囲内において、本発明の態様は、具体的に記載および請求されるものとは別段に実施することができることが、理解されるべきである。本開示の発明の態様は、本明細書において記載される各々の特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法に対して向けられる。加えて、2つ以上のかかる特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法の任意の組み合わせは、かかる特徴、系、物品、材料、キットおよび/または方法が互いに矛盾しなければ、本開示の発明の範囲内に含まれる。
【0199】
全ての定義は、本明細書において定義され用いられる場合、辞書による定義、参考として援用される文献における定義、および/または定義される用語の通常の意味に優先することが理解されるべきである。本明細書において開示される全ての参考文献、特許および特許出願は、各々がそれについて引用される事項に関して参考として援用され、これは、一部の場合においては、文献の全体を包含する場合がある。
不定冠詞「a」および「an」は、ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、明らかに逆であることが示されない限り、「少なくとも1つ」を意味するものと理解されるべきである。
【0200】
句「および/または」とは、ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、そのように結合された要素のうちの「いずれかまたは両方」、すなわち、一部の場合においては接続的に存在し、他の場合においては離接的に存在する要素を意味するものと理解されるべきである。「および/または」により列記される複数の要素は、同じ様式において、すなわち、そのように結合された要素のうちの「1つ以上」として解釈されるべきである。「および/または」節により特に同定される要素以外に、他の要素が任意に存在してもよく、これは、特に同定された要素と関係していてもこれと無関係であってもよい。したがって、非限定的な例として、「Aおよび/またはB」への言及は、「含む」などのオープンエンド的語法で接続されて用いられる場合、一態様において、Aのみ(任意にB以外の要素を含む)を指し;別の態様においては、Bのみ(任意にA以外の要素を含む)を指し;さらに別の態様においては、AとBとの両方(任意に他の要素を含む)を指す、など。
【0201】
ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、「または」は、上で定義されるとおりの「および/または」と同じ意味を有するものと理解されるべきである。例えば、リストにおいて項目を分ける場合、「または」または「および/または」は、包括的であるもの、すなわち、多数の要素または要素のリスト、および任意にリストに入っていないさらなる項目のうちの、少なくとも1つの包含であるが、1つより多くをもまた含むものとして解釈されるべきである。「~のうちの1つのみ」または「~のうちの正確に1つ」などの、明らかに逆を示す用語のみ、または、請求の範囲において用いられる場合は、「~からなる」は、多数の要素または要素のリストのうちの正確に1つの包含を指す。一般的に、用語「または」とは、本明細書において用いられる場合、「~のいずれか」、「~のうちの一方」、または「~のうちの正確に1つ」などの排他性の用語により先行される場合には、排他的な選択肢(すなわち、「一方または他方であるが、両方ではない」)を示すものとしてのみ解釈されるべきである。「~から本質的になる」とは、請求の範囲において用いられる場合、特許法の分野において用いられるようなその通常の意味を有するべきである。
【0202】
ここで明細書および請求の範囲において用いられる場合、句「少なくとも1つ」とは、1つ以上の要素のリストに関して、要素のリスト中の要素のうちの任意の1つ以上から選択される少なくとも1つの要素を意味するものと理解されるべきであるが、これは、必ずしも、当該要素のリスト中に特に列記される各々および全ての要素のうちの少なくとも1つを含まず、要素のリスト中の要素の任意の組み合わせを除外しない。この定義はまた、句「少なくとも1つ」が指す要素のリストにおいて特に同定される要素以外に、要素が任意に存在してもよいことを可能にし、これは、特に同定される要素と関係していてもこれと無関係であってもよい。したがって、非限定的な例として、「AおよびBのうちの少なくとも1つ」(または、同等に、「AまたはBのうちの少なくとも1つ」、または、同等に、「Aおよび/またはBのうちの少なくとも1つ」)は、一態様において、任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのAを指し、ここでBは存在しない(および任意にB以外の要素を含む);別の態様においては、任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのBを指し、ここでAは存在しない(および任意にA以外の要素を含む);さらに別の態様においては、任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのA、および任意に1つより多くを含む、少なくとも1つのBを指す(および任意に他の要素を含む)など。
【0203】
また、明らかに逆が示されない限り、本明細書において請求される任意の方法であって1つより多くのステップまたは動作を含むものにおいて、当該方法のステップまたは動作の順序は、必ずしも当該方法のステップまたは動作が列記される順序に限定されないことも、理解されるべきである。
【0204】
請求の範囲において、ならびに上の明細書において、「含む(comprising)」、「含む(including)」、「運搬する(carrying)」、「有する(having)」、「含む(containing)」、「含む(involving)」、「保有する(holding)」、「~からなる(composed of)」および類似のものなどの全ての移行句は、オープンエンドである、すなわち、それを含むがそれに限定されないことを意味するものと理解されるべきである。移行句「~からなる(consisting of)」および「~から本質的になる(essentially consisiting of)」のみが、それぞれクローズまたはセミクローズの移行句であるべきであり、このことは、米国特許庁特許審査便覧(Manual of Patent Examining Procedures)、セクション2111.03において記載されるとおりである。
【配列表】