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特許7152396熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂組成物および熱伝導シート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂組成物および熱伝導シート
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/193 20060101AFI20221004BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20221004BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 3/28 20060101ALI20221004BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
C08G63/193
C08L67/02
C08K3/013
C08K3/22
C08K3/38
C08K3/28
C08K3/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019525315
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2018021205
(87)【国際公開番号】W WO2018230370
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2021-04-23
(31)【優先権主張番号】P 2017115339
(32)【優先日】2017-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】安藤 高史
(72)【発明者】
【氏名】宮本 正広
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-150377(JP,A)
【文献】特開2011-231161(JP,A)
【文献】特開2015-183033(JP,A)
【文献】特開2016-037540(JP,A)
【文献】国際公開第2010/050202(WO,A1)
【文献】国際公開第2011/132389(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/052748(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G63
C08L67
C08K3
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖の構造として、
一般式(1)で表されるビフェニル基を有するユニット(i)を20~55モル%、
【化1】
一般式(2)で表される置換ビフェニル基を有するユニット(ii)を5~40モル%、
【化2】
(式中、YとZとは、それぞれ、単独または複数個のアルキル置換基を示し、同一芳香環上のアルキル基は異なる種類であっても良い)、
一般式(3)で表されるユニット(iii)を5~40モル%、および、
-CO-R-CO- ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、主鎖原子数4~12の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基を示す)、
一般式(4)で表されるユニット(iv)を5~40モル%、
-CO-R-CO- ・・・ 一般式(4)
(式中、Rは、Rの主鎖原子数とは異なる主鎖原子数7~26の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基であって、Rの主鎖原子数は、Rの主鎖原子数よりも大きい)を含み、
上記ユニット(i)およびユニット(ii)の合計モル量の比率は、上記ユニット(i)~ユニット(iv)の合計モル量を100モル%とした場合、60モル%以下である、熱可塑性樹脂(A)(ユニット(i)、ユニット(ii)、ユニット(iii)およびユニット(iv)の合計を100モル%とする)。
【請求項2】
上記熱可塑性樹脂(A)の置換ビフェニル基を有するユニット(ii)が、一般式(5)で表されるものである請求項1に記載の熱可塑性樹脂(A)。
【化3】
【請求項3】
上記熱可塑性樹脂(A)の置換ビフェニル基を有するユニット(ii)が、一般式(6)で表されるものである請求項1に記載の熱可塑性樹脂(A)。
【化4】
【請求項4】
上記ユニット(iv)の主鎖原子数から、上記ユニット(iii)の主鎖原子数を差し引いた数が、4以上15以下である請求項1~3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂(A)。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂(A)と、無機充填材(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
上記無機充填材(B)が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、およびダイヤモンドからなる群より選ばれる1種以上の化合物である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
上記無機充填材(B)が、アルミナと窒化ホウ素との混合物である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
上記無機充填材(B)が、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、導電性金属粉、導電性金属繊維、軟磁性フェライト、および酸化亜鉛からなる群より選ばれる1種以上の化合物である請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂(A)、または、請求項5~8のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導性に加え塗工性に優れた熱可塑性樹脂組成物に関する。より詳しくは、高い熱伝導性を有するマトリックス樹脂と、セラミック、金属または炭素材料などの無機熱伝導性フィラーとを併用することの相乗効果により、高い熱伝導性と、良好な成形加工性および絶縁性とを併せ持った熱可塑性樹脂組成物に関するものである。また、本発明は、上記熱可塑性樹脂組成物の材料となる熱可塑性樹脂、および、当該熱可塑性樹脂または上記熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、パソコンまたはハイブリッドカーに使用される電子デバイス材料の発熱量の増大に伴い、部材間の熱伝導を効率化し、電子デバイス材料を冷却させることが急務となっている。
【0003】
部材間の熱伝達材料としては、成形性が高く部材の熱変形にも柔軟に追従するプラスチックが使用されている。しかしながら、プラスチックは金属材料などの無機物と比較して熱伝導性が低いため、発生する熱を逃がし辛いことが問題になる場合がある。このような課題を解決するために、高熱伝導性無機物を大量に熱可塑性樹脂中に配合することで、高熱伝導性樹脂組成物を得、当該高熱伝導性樹脂組成物を利用しようとする試みが広くなされている。
【0004】
高熱伝導性無機物としては、グラファイト、炭素繊維、アルミナ、窒化ホウ素、等が挙げられる。当該高熱伝導性無機物を、通常は30体積%以上、さらには50体積%以上もの高含有量で熱可塑性樹脂中に配合させる必要がある。
【0005】
しかしながら、高熱伝導性無機物としてグラファイトまたは炭素繊維を大量に熱可塑性樹脂中に配合すると、高熱伝導性樹脂組成物の電気絶縁性が低下して導電性となってしまうため、電子機器用途では当該高熱伝導性樹脂組成物を使用できる部位が限定されてしまうという課題がある。またアルミナなどのセラミックフィラーを大量に熱可塑性樹脂中に配合すると、(i)フィラーの硬度が高いため、当該高熱伝導性樹脂組成物を成形用材料などとして使用する際に金型を磨耗してしまう、および、(ii)フィラーの密度が高いため、得られた高熱伝導性樹脂組成物は高密度となり、加工性の低下及び電子機器などの軽量化が難しくなる、という課題がある。さらには熱可塑性樹脂単体の熱伝導性が低いために、無機物を大量に熱可塑性樹脂中に配合しても、樹脂組成物の熱伝導率の向上には限界がある。
【0006】
そこで、熱可塑性樹脂単体の熱伝導性を向上させる方法が求められている。熱可塑性樹脂に関して、特許文献1には、液晶ポリエステルを流動場、せん断場、磁場、および電場から選ばれる少なくとも一種の外場によって配向させることで、液晶ポリエステルの配向方向の熱伝導性が高い樹脂成形体が得られることが記載されている。ところが、当該樹脂成形体は、一軸方向では熱伝導性が高いものの、他の二軸方向では熱伝導性が低い。また、所望の熱伝導率を得るために例えば磁場によって液晶ポリエステルを配向させようとすると、少なくとも3テスラ以上の磁束密度を必要とする。このため、当該樹脂成形体は、製造が困難である。
【0007】
樹脂単体の熱伝導性に優れた熱可塑性樹脂として、特許文献2には、主鎖の構造がメソゲン基と屈曲鎖とを有する交互重縮合体である、液晶性ポリエステルが記載されている。これら液晶性ポリエステルは、高秩序性を持つ高次構造をとることから、高い熱伝導率を示すことが知られている。しかしながら、これら液晶性ポリエステルは、高結晶性であり、融点が高く、かつ、液晶相の流動性が低いため、加工温度が高温になる傾向を示す。それ故に、高温への曝露が制限される電子部品存在下では、これら液晶性ポリエステルの加工が制限されるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国公開特許公報「特開2008-150525号公報」
【文献】国際公開番号WO2006/120993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い熱伝導性を有し、かつ、より低温での加工が可能な熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂組成物、並びに、これらからなる熱伝導シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題解決のため鋭意検討した結果、以下の熱可塑性樹脂(A)が、高熱伝導性を示しつつ、低温でも高い流動性を持つことを発見するに至った。すなわち本発明は、
[1]主鎖の構造として、一般式(1)で表されるビフェニル基を有するユニット(i)を20~55モル%、
【0011】
【化1】
一般式(2)で表される置換ビフェニル基を有するユニット(ii)を5~40モル%、
【0012】
【化2】
(式中、YとZとは、それぞれ、単独または複数個のアルキル置換基を示し、同一芳香環上のアルキル基は異なる種類であっても良い)、
一般式(3)で表されるユニット(iii)を5~40モル%、および、
-CO-R-CO- ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、主鎖原子数4~12の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基を示す)、
一般式(4)で表されるユニット(iv)を5~40モル%、
-CO-R-CO- ・・・ 一般式(4)
(式中、Rは、Rの主鎖原子数とは異なる主鎖原子数7~26の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基であって、Rの主鎖原子数は、Rの主鎖原子数よりも大きい)を含む熱可塑性樹脂(A)(ユニット(i)、ユニット(ii)、ユニット(iii)およびユニット(iv)の合計を100モル%とする)。
【0013】
[2]上記[1]に記載の熱可塑性樹脂(A)と、無機充填材(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【0014】
[3]上記[1]に記載の熱可塑性樹脂(A)、または、上記[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導シート。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、高い熱伝導性を有し、かつ、より低温での加工可能な熱可塑性樹脂及び熱可塑性樹脂組成物、並びに、これらからなる熱伝導シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態について、詳細に説明する。しかしながら、本発明はこれに限定されない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施の形態および実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施の形態および実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。尚、本出願において、数値範囲に関する「A~B」とは、「A以上、B以下」であることを示している。
【0017】
本明細書で言う熱可塑性とは、加熱により可塑化する性質のことである。
【0018】
本実施の形態に係る熱可塑性樹脂(A)(以下、単に樹脂と記す場合がある)は、主鎖の構造として、
一般式(1)で表されるビフェニル基を有するユニット(i)を20~55モル%(熱伝導性の点から、好ましくは30~45モル%)、
【0019】
【化3】
一般式(2)で表される置換ビフェニル基を有するユニット(ii)を5~40モル%(熱伝導性の点から、好ましくは10~20モル%)、
【0020】
【化4】
(式中、YとZとは、それぞれ、単独または複数個のアルキル置換基を示し、同一芳香環上のアルキル基は異なる種類でも良い)、
一般式(3)で表されるユニット(iii)を5~40モル%(好ましくは10~30モル%)、
-CO-R-CO- …一般式(3)
(式中、Rは、主鎖原子数4~12の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基を示す)、
一般式(4)で表されるユニット(iv)を5~40モル%(好ましくは10~30モル%)、
-CO-R-CO- …一般式(4)
(式中、Rは、Rの主鎖原子数とは異なる主鎖原子数7~26の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基であって、Rの主鎖原子数は、Rの主鎖原子数よりも大きい)を含む熱可塑性樹脂(A)である(ユニット(i)、ユニット(ii)、ユニット(iii)およびユニット(iv)の合計を100モル%とする)。
【0021】
ユニット(i)~ユニット(iv)の合計モル量に対する、ユニット(i)およびユニット(ii)の合計モル量の比率は、ユニット(i)~ユニット(iv)の合計モル量を100モル%とした場合、好ましくは40~60モル%であり、より好ましくは45~55モル%であり、最も好ましくは48~52モル%である。
【0022】
また、ユニット(i)のモル量とユニット(ii)のモル量との比率は、好ましくは10:1~1:2であり、より好ましくは8:1~1:2であり、最も好ましくは4:1~1:1である。ユニット(i)のモル量とユニット(ii)のモル量との比率が10:1より大きい場合、つまり、ユニット(i)のモル量がユニット(ii)のモル量の10倍よりも多い場合、ユニット(ii)による液晶相転位温度及び等方相転位温度の低減効果が弱く、一方、ユニット(i)のモル量とユニット(ii)のモル量との比率が1:2より小さい場合、つまり、ユニット(ii)のモル量がユニット(i)のモル量の2倍よりも多い場合、熱伝導率が低下する傾向がある。
【0023】
ユニット(ii)を示す一般式(2)において、Yおよび/またはZの具体例としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基およびアリル基を挙げることができる。所望の効果をより高く得るという観点からは、これらの中では、メチル基が特に好ましい。
【0024】
ユニット(ii)は、メソゲンとしての機能を有するために、および/または、液晶相転移温度あるいは等方相転移温度を下げるために、ビフェニル構造上の置換基として、アルキル基を有する。ユニット(ii)としては、等方相転移温度を下げるためには、一般式(5)に示されるユニットであることが好ましく、液晶相転移温度を下げるためには、一般式(6)に示されるユニットであることが好ましい。
【化5】
【0025】
【化6】
また、本実施の形態の熱可塑性樹脂(A)は、一般式(5)に示されるユニット(ii)および一般式(6)に示されるユニット(ii)の両方を含んでいてもよい。この場合、熱可塑性樹脂(A)に含まれる、一般式(5)に示されるユニット(ii)のモル量Aと、一般式(6)に示されるユニット(ii)のモル量Bとの比率は、特に限定されない。例えば、0<A/B<100であってもよく、0<A/B<90であってもよく、0<A/B<80であってもよく、0<A/B<70であってもよく、0<A/B<60であってもよく、0<A/B<50であってもよく、0<A/B<40であってもよく、0<A/B<30であってもよく、0<A/B<20であってもよく、0<A/B<10であってもよい。
【0026】
本発明のユニット(iii)およびユニット(iv)を示す一般式(3)および一般式(4)のR(具体的には、RおよびR)は、屈曲性分子鎖を意味し、スペーサーの役割を果たす。当該Rとしては、例えば、脂肪族炭化水素鎖、ポリエーテル鎖等が挙げられる。
【0027】
ユニット(iii)のRとユニット(iv)のR2とは、熱可塑性樹脂(A)の結晶性を高くし、かつ、熱可塑性樹脂(A)の熱伝導率を高くするという観点から、分岐を含まない直鎖状の脂肪族炭化水素鎖であることが望ましい。また、RとR2とは、飽和脂肪族炭化水素鎖であってもよく、不飽和脂肪族炭化水素鎖であってもよいが、熱可塑性樹脂(A)が適度な屈曲性を有することから、飽和脂肪族炭化水素鎖であることが好ましい。
【0028】
R(換言すれば、全Rと全R2との合計)を100重量%としたとき、50重量%を越えるRが飽和脂肪族炭化水素鎖であることが好ましく、最も好ましくは、Rが不飽和結合を含まないことが好ましい。スペーサーの主鎖を構成する原子の種類は特に限定されず何でも使用できるが、好ましくはC、H、O、SおよびNからなる群から選ばれる少なくとも1種の原子である。
【0029】
とR2との総主鎖原子数は、好ましくは11~38であり、より好ましくは15~30であり、さらに好ましくは16~25であり、特に好ましくは16~19である。スペーサーの全主鎖原子数がこの範囲にあることにより、熱可塑性樹脂(A)が、分子構造が十分な屈曲性を有するものとなり、低い液晶相転移温度を持ち、かつ熱伝導率が良好となるので好ましい。ここで、主鎖原子数とは、主鎖骨格の原子の数であり、例えば「-R-」が「-(CH-」である場合、主鎖原子数は炭素原子の数である「8」となる。
【0030】
一般式(3)「-CO-R-CO-」で表されるユニット(iii)において、Rは、主鎖原子数4~12の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基を示す。特に、低い液晶相転移温度を持ち熱伝導性に優れた樹脂が得られるという観点から、Rの主鎖原子数は、5~10が好ましく、5~8がより好ましく、5~6が特に好ましい。
【0031】
一般式(4)「-CO-R2-CO-」で表されるユニット(iv)において、R2は、Rの主鎖原子数とは異なる主鎖原子数7~26の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基を示す。このとき、Rの主鎖原子数は、Rの主鎖原子数よりも大きい。R2は、炭素数7~26の直鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖であることが好ましく、炭素数7~18の直鎖の飽和脂肪族炭化水素鎖であることが特に好ましい。特に、低い液晶相転移温度を持ち熱伝導性に優れた樹脂が得られるという観点から、Rの主鎖原子数は、10~20が好ましく、12~15がより好ましく、13~14が特に好ましい。
【0032】
ユニット(iv)の主鎖原子数からユニット(iii)の主鎖原子数を差し引いた数は、液晶相転移温度および等方相転移温度を低くする観点から、4以上15以下が好ましく、7以上12以下がより好ましい。
【0033】
ユニット(i)~ユニット(iv)の合計モル量に対する、ユニット(iii)およびユニット(iv)の各々のモル量の比率は、ユニット(i)~ユニット(iv)の合計モル量を100モル%とした場合、5~40モル%である。
【0034】
ユニット(iii)のモル量とユニット(iv)のモル量との比率は、好ましくは1:8~8:1であり、より好ましくは1:6~6:1であり、最も好ましくは1:4~4:1である。上記比率が1:8以内である場合、つまり、ユニット(iv)のモル量がユニット(iii)のモル量の8倍以上である場合、熱伝導率を保ちつつ、かつ熱可塑性樹脂の液晶相転移温度の低温側へのシフトが大きくなるため好ましい。
【0035】
熱可塑性樹脂(A)の結晶性の大小関係は、DSC測定の昇温過程における固相から液晶相への吸熱ピークの相転移エンタルピー(ΔH)に基づいて判断することができる。上記ΔHが大きいほど、熱可塑性樹脂(A)は結晶化度が高い。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂(A)は、置換基を有するユニット(ii)と、異なる主鎖原子数のユニット(iii)、(iv)とが共重合しているために、分子構造の秩序性が低下して、結晶化度が低下する。それにもかかわらず、熱可塑性樹脂(A)単体の熱伝導率は高く、また、当該熱可塑性樹脂(A)に熱伝導性の無機充填材を配合した場合には、当該熱可塑性樹脂(A)と無機充填材とを含んでいる熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率が飛躍的に向上する。この理由は、熱可塑性樹脂(A)は、共重合による液晶化度の低下は僅かであり、分子鎖が配向したミクロンオーダーの異方的なドメインを形成し得るため、および、このドメインが無機充填材間の良好な熱伝導パスとして機能するためであると考えられる。
【0037】
熱可塑性樹脂(A)の末端構造は特に限定されないが、他の樹脂との相溶性を高める目的で、または、他の多官能の反応性基を有する化合物を硬化剤として用いて硬化性樹脂とする目的で、熱可塑性樹脂(A)の末端をカルボキシル基とすることができる。この場合、分子鎖の全末端に占めるカルボキシル基の割合は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
【0038】
一方、熱可塑性樹脂(A)の耐加水分解性、および/または、長期耐熱性を高めるために、熱可塑性樹脂(A)の末端を、一官能の低分子化合物(末端封止剤)によって封止することができる。この場合、分子鎖の全末端に対する封止された末端の割合(封止率、換言すれば、末端封止率)は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。
【0039】
ここで、熱可塑性樹脂(A)の末端封止率は、熱可塑性樹脂(A)における封止された末端官能基および封止されていない末端官能基の数をそれぞれ測定し、下記の数式(1)により求めることができる:
末端封止率(%)=[封止された末端官能基数]/([封止された末端官能基数]+[封止されていない末端官能基数]) ・・・・数式(1)。
【0040】
各末端官能基の数は、熱可塑性樹脂(A)のH-NMRを測定して、各末端官能基に対応する特性シグナルの積分値に基づいて求めることが、精度、および、簡便さの点で好ましい。
【0041】
末端封止剤としては、熱可塑性樹脂(A)の熱伝導性を高める観点から、炭素数1~20のモノアミンまたは脂肪族モノカルボン酸が好ましく、炭素数1~20の脂肪族モノカルボン酸がより好ましく、炭素数10~20の脂肪族モノカルボン酸がさらに好ましい。脂肪族モノカルボン酸の具体例としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸、およびこれらモノカルボン酸の任意の混合物等が挙げられる。これら脂肪族モノカルボン酸のなかでも、熱可塑性樹脂(A)の熱伝導性を特に高める点から、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸が好ましい。モノアミンの具体例としては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン等の脂肪族モノアミン、およびこれら脂肪族モノアミンの任意の混合物等が挙げられる。これら脂肪族モノアミンのなかでも、反応性、高沸点性、封止末端の安定性および価格等の点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミンが好ましい。
【0042】
熱可塑性樹脂(A)の熱伝導率は、等方的な成形体に関する物性値として、0.3W/(m・K)以上であり、好ましくは0.5W/(m・K)以上であり、より好ましくは0.6W/(m・K)以上であり、さらに好ましくは0.7W/(m・K)以上であり、最も好ましくは0.8W/(m・K)以上である。熱伝導率の上限値は、特に制限されず、高ければ高いほど好ましい。成形時に、磁場形成、電圧印加、ラビング、および/または、延伸等の物理的処理を施さなければ、熱可塑性樹脂(A)の熱伝導率は、一般的には30W/(m・K)以下であり、さらに一般的には10W/(m・K)以下である。
【0043】
ここでいう熱可塑性樹脂(A)単体の熱伝導率は、熱可塑性樹脂(A)単体を熱伝導率測定装置で直接測定した値である。或いは、等方的な性質を有する無機充填材を30~50vol%含有する樹脂組成物の熱伝導率を熱伝導率測定装置で直接測定し、Bruggemanの理論式、即ち、下記数式(2)から、樹脂マトリックスの熱伝導率を計算した値を、熱可塑性樹脂(A)単体の熱伝導率としてもよい:
1-V={(λ-λ)/(λ-λ)}×(λ/λ1/3 ・・・・数式(2)。
【0044】
ここで、Vは無機充填材の体積含有量(0<V<1)、λは樹脂組成物の熱伝導率、λは無機充填材の熱伝導率、λは熱可塑性樹脂(A)単体の熱伝導率である。従って、V、λ、およびλが判れば、λを算出することができる。
【0045】
熱可塑性樹脂(A)には、その効果を失わない程度に、他のモノマーが共重合されていてもよい。他のモノマーとしては、例えば芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、上記一般式(2)以外の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン、芳香族ジアミン、芳香族アミノカルボン酸、カプロラクタム類、カプロラクトン類、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジオール、脂肪族ジアミン、脂環族ジカルボン酸、脂環族ジオール、芳香族メルカプトカルボン酸、芳香族ジチオールおよび芳香族メルカプトフェノールが挙げられる。
【0046】
また、本発明は、熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)とを含む熱可塑性樹脂組生物に関する。
【0047】
無機充填材(B)としては、一般的な無機フィラーを使用することができる。無機充填材(B)は、熱伝導率が5W/m・K以上のものであることが好ましい。
【0048】
絶縁性および熱膨張係数の点から、無機充填材(B)は、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム(アルミナ)、水酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素、ダイヤモンドフィラー、酸化亜鉛、炭化珪素、酸化ケイ素からなる群より選択される少なくとも1種以上の無機充填材であることが好ましい。
【0049】
無機充填材(B)は、単独で用いるよりも、併用することが好ましい。特に、無機充填材(B)として、アルミナと窒化ホウ素との混合物が好ましい。
【0050】
熱伝導率、絶縁性および熱膨張係数の点からは、無機充填材(B)は、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、ダイヤモンドフィラー、酸化亜鉛、および炭化珪素からなる群より選択される少なくとも1種以上の無機充填材であることが好ましい。なお、酸化亜鉛および炭化珪素には、必要に応じて絶縁処理を施してもよい。各材料の熱伝導率測定結果の一例としては(単位は、W/m・K)、酸化マグネシウムは37、酸化アルミニウムは30、窒化アルミニウムは200、窒化ホウ素は30、ダイヤモンドは2000、酸化亜鉛は54、炭化珪素は90である。なお、酸化ケイ素の熱伝導率測定結果の一例は(単位は、W/m・K)、1.4である。
【0051】
熱伝導率および熱膨張係数の点から、無機充填材(B)は、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、導電性金属粉、導電性金属繊維および軟磁性フェライトからなる群より選ばれる1種以上の無機充填材であることが好ましい。これらの無機充填材(B)は、単独で用いられてもよいし、併用されてもよい。
【0052】
無機充填材(B)の平均粒径(粒状でない場合は、その平均最大径)は、特に限定されないが、100μm以下であることが、熱可塑性脂組成物中に無機充填材(B)を均一に分散させるうえで好ましい。無機充填材(B)の平均粒径が100μm超であると、熱可塑性樹脂組成物から形成されるシート中に成分を均一に分散させることが困難になるおそれがある。ここで、無機充填材(B)の平均粒径は、動的光散乱式ナノトラック粒度分析計により測定される。無機充填材(B)は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物では、熱伝導性と流動性との観点から、熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)との体積比が、好ましくは95:5~20:80であり、より好ましくは90:10~20:80であり、さらに好ましくは80:20~20:80である。熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)との体積比が100:0~95:5である熱可塑性樹脂組成物では、満足な熱伝導率が得られないことがある。一方、熱可塑性樹脂(A)と無機充填材(B)との体積比が20:80~0:100である熱可塑性樹脂組成物では、加工性が低下しやすい。
【0054】
また、本発明は、熱可塑性樹脂(A)、または、熱可塑性樹脂組生物からなる伝熱シートに関する。なお、伝熱シートの製造方法は、限定されず、周知の方法(例えば、押出成形、射出成形または溶剤を使用したキャスト)を用いれば良い。
【0055】
熱可塑性樹脂組成物を塗布する場合は、塗工性向上のため有機溶媒を使用してもよい。有機溶剤としては、芳香族系溶剤(例えばトルエン、キシレン等)、およびケトン系溶剤(例えばメチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等)が挙げられる。また、トリクロロエタン、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン系も使用することができる。その他の有機溶剤としてはN-メチル-4-ピロリドン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサンなども挙げられる。有機溶剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。また、有機溶剤の使用量は、特に限定されないが、固形分が20~50質量%となるように使用することが好ましい。
【0056】
これらの原料を溶解又は分散等させるための装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌装置、および加熱装置を備えたライカイ機、3本ロールミル、ボールミル、プラネタリーミキサー、またはビーズミル等を使用することができる。また、これら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0057】
本発明の一実施形態は、以下のように構成することも可能である。
【0058】
[1]主鎖の構造として、一般式(1)で表されるビフェニル基を有するユニット(i)を20~55モル%、
【0059】
【化7】
一般式(2)で表される置換ビフェニル基を有するユニット(ii)を5~40モル%、
【0060】
【化8】
(式中、YとZとは、それぞれ、単独または複数個のアルキル置換基を示し、同一芳香環上のアルキル基は異なる種類であっても良い)、
一般式(3)で表されるユニット(iii)を5~40モル%、および、
-CO-R-CO- ・・・ 一般式(3)
(式中、Rは、主鎖原子数4~12の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基を示す)、
一般式(4)で表されるユニット(iv)を5~40モル%、
-CO-R-CO- ・・・ 一般式(4)
(式中、Rは、Rの主鎖原子数とは異なる主鎖原子数7~26の、分岐を含んでいてもよい2価の直鎖状置換基であって、Rの主鎖原子数は、Rの主鎖原子数よりも大きい)、を含む熱可塑性樹脂(A)(ユニット(i)、ユニット(ii)、ユニット(iii)およびユニット(iv)の合計を100モル%とする)。
【0061】
[2]上記熱可塑性樹脂(A)の置換ビフェニル基を有するユニット(ii)が、一般式(5)で表されるものである[1]に記載の熱可塑性樹脂(A)。
【0062】
【化9】
[3]上記熱可塑性樹脂(A)の置換ビフェニル基を有するユニット(ii)が、一般式(6)で表されるものである[1]に記載の熱可塑性樹脂(A)。
【0063】
【化10】
[4]上記ユニット(iv)の主鎖原子数から、上記ユニット(iii)の主鎖原子数を差し引いた数が、4以上15以下である[1]~[3]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂(A)。
【0064】
[5][1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂(A)と、無機充填材(B)とを含む熱可塑性樹脂組成物。
【0065】
[6]上記無機充填材(B)が、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、およびダイヤモンドからなる群より選ばれる1種以上の化合物である[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0066】
[7]上記無機充填材(B)が、アルミナと窒化ホウ素との混合物である[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0067】
[8]上記無機充填材(B)が、グラファイト、カーボンナノチューブ、炭素繊維、導電性金属粉、導電性金属繊維、軟磁性フェライト、および酸化亜鉛からなる群より選ばれる1種以上の化合物である[5]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0068】
[9][1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂(A)、または、[5]~[8]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる熱伝導シート。
【実施例
【0069】
本発明の樹脂組成物について、製造例、実施例及び比較例を挙げさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに制限されるものではない。なお、以下に挙げる各試薬は、特記しない限り、和光純薬工業製の試薬を精製せずに用いた。
【0070】
<(A)熱可塑性樹脂>
(A1)製造例1に記載の方法にて製造した熱可塑性樹脂;
(A2)製造例2に記載の方法にて製造した熱可塑性樹脂;
(A3)製造例3に記載の方法にて製造した熱可塑性樹脂;
(A4)製造例4に記載の方法にて製造した熱可塑性樹脂;
(A5)製造例5に記載の方法にて製造した熱可塑性樹脂;
(A6)製造例6に記載の方法にて製造した熱可塑性樹脂。
【0071】
<(B)無機充填剤>
(B1)アルミナ(昭和電工社製AS-50、平均粒子径(d50)9μm、BET比表面積1.9m/g);
(B2)アルミナ(昭和電工社製AL-47-H、平均粒子径(d50)2.1μm、BET比表面積1.8m/g;
(B3)アルミナ(昭和電工社製AS-400、平均粒子径(d50)13μm、BET比表面積1.2m/g);
(B4)窒化ホウ素(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製PTX-60s、平均粒子径(d50)60μm;
(B5)窒化ホウ素(電気化学工業社製FP-70、平均粒子径(d50)70μm。
【0072】
[評価方法]
<数平均分子量>
p-クロロフェノール(東京化成工業株式会社製)とトルエンとを体積比3:8で混合してなる混合溶媒に、熱可塑性樹脂を濃度が0.25重量%となるように溶解して、試料溶液を調製した。標準物質はポリスチレンとし、同様の操作を行って標準溶液を調製した。これら溶液を用いて、高温GPC(Viscotek社製:350 HT-GPC System)にて、カラム温度:80℃、流速1.00mL/minの条件下にて数平均分子量を測定した。検出器として、示差屈折計(RI)を使用した。
【0073】
<相転移温度>
示差走査熱量測定(DSC測定)にて、50℃から250℃の範囲で20℃/minで昇温および降温させた後、20℃/minで昇温させた時の吸熱ピークのピークトップから、固相から液晶相への転移点(Ts)および液晶相から等方相への転移点(Ti)を求めた。3つ以上の相転移温度が観察される場合、液晶相転位温度は、等方相転位温度に直近の温度とした。
【0074】
<比重(密度)>
熱硬化後の樹脂組成物を0.2から0.6グラム相当の断片に成形し、アルキメデス法によって比重を測定した。
【0075】
<熱伝導率>
熱可塑性樹脂の微粉末と無機充填材とからなる熱可塑性樹脂組成物を、液晶相転位温度にて熱プレスをかけ、厚みを200μmから500μmまでに調整した。次いで、当該熱可塑性樹脂組成物を等方相転位温度以上で加熱した後冷却することで、樹脂の配向を解消した成形体を得た。
【0076】
各成形体の厚み方向の熱拡散率は、レーザーフラッシュ法熱伝導率測定装置(NETZSCH社製:LFA447)により、室温(25℃)で測定した。熱拡散率から熱伝導率への換算は、各成形体の熱可塑性樹脂/無機充填材の組成比と、アルキメデス法により測定した密度と、DSCにより算出した重量比熱とを用いて行った。また、各成形体の面方向の熱伝導率は、サーモウェーブアナライザー(株式会社ベテル製:TA3)を用いて測定した。熱可塑性樹脂単体の熱伝導率は、アルミナ(昭和電工 AS-50)を50v%の割合で混合した熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率を測定し、アルミナの熱伝導率を25W/(m・K)として、Bruggemanの理論式より計算した。
【0077】
[製造例1]
攪拌棒を備え付けた三口フラスコに、原料として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ユニット(i)を有する化合物)、一般式(7)で示される化合物(ユニット(iiを有する化合物)、アゼライン酸(ユニット(iii)を有する化合物)、トリデカン二酸(ユニット(iv)を有する化合物)を、それぞれ39:13:24:24モル%の割合で仕込み、さらに、{ユニット(i)+ユニット(ii)}に対して、2.1当量の無水酢酸、および触媒量の酢酸ナトリウムを加え、当該三角フラスコ内を窒素置換した。
【0078】
常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させて均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら当該溶液を2℃/minの昇温速度で260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌して共重合させた。引き続き270℃まで昇温しつつダイヤフラムポンプにて三角フラスコ内を減圧した後、減圧状態を維持して約90分間かけて共重合させた。その後窒素ガスで三角フラスコ内を常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂(A1)を取り出した。
【0079】
得られた熱可塑性樹脂(A1)を、シクロヘキサン中、10wt%の濃度で150℃まで加熱、次いで冷却することで、再結晶化させた。当該シクロヘキサン溶液をろ過後、得られた樹脂をメタノールで洗浄、70℃で16時間乾燥することで、熱可塑性樹脂(A1)の微粉末を得た。熱可塑性樹脂(A1)の数平均分子量は14100であった。
【0080】
【化11】
[製造例2]
攪拌棒を備え付けた三口フラスコに、原料として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ユニット(i)を有する化合物)、一般式(7)で示される化合物(ユニット(ii)を有する化合物)、ピメリン酸(ユニット(iii)を有する化合物)、トリデカン二酸(ユニット(iv)を有する化合物)を、それぞれ39:13:24:24モル%の割合で仕込み、さらに、{ユニット(i)+ユニット(ii)}に対して、2.1当量の無水酢酸、および触媒量の酢酸ナトリウムを加え、当該三角フラスコ内を窒素置換した。
【0081】
常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させて均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら当該溶液を2℃/minの昇温速度で260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌して共重合させた。引き続き270℃まで昇温しつつダイヤフラムポンプにて三角フラスコ内を減圧した後、減圧状態を維持して約90分間かけて共重合させた。その後窒素ガスで三角フラスコ内を常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂(A2)を取り出した。
【0082】
得られた熱可塑性樹脂(A2)を、シクロヘキサン中、10wt%の濃度で150℃まで加熱、次いで冷却することで、再結晶化させた。当該シクロヘキサン溶液をろ過後、得られた樹脂をメタノールで樹脂を洗浄、70℃で16時間乾燥することで、熱可塑性樹脂(A2)の微粉末を得た。熱可塑性樹脂(A2)の数平均分子量は6900であった。
【0083】
[製造例3]
攪拌棒を備え付けた三口フラスコに、原料として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ユニット(i)を有する化合物)、一般式(8)で示される化合物(ユニット(ii)を有する化合物)、ピメリン酸(ユニット(iii)を有する化合物)、トリデカン二酸(ユニット(iv)を有する化合物)を、それぞれ36:16:24:24モル%の割合で仕込み、さらに、{ユニット(i)+ユニット(ii)}に対して、2.1当量の無水酢酸、および触媒量の酢酸ナトリウムを加え、当該三角フラスコ内を窒素置換した。
【0084】
常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させて均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら当該溶液を2℃/minの昇温速度で260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌して共重合させた。引き続き270℃まで昇温しつつダイヤフラムポンプにて三角フラスコ内を減圧した後、減圧状態を維持して約90分間かけて共重合させた。その後窒素ガスで三角フラスコ内を常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂(A3)を取り出した。
【0085】
得られた熱可塑性樹脂(A3)を、シクロヘキサン中、10wt%の濃度で150℃まで加熱、次いで冷却することで、再結晶化させた。当該シクロヘキサン溶液をろ過後、得られた樹脂をメタノールで洗浄、70℃で16時間乾燥することで、熱可塑性樹脂(A3)の微粉末を得た。熱可塑性樹脂(A3)の数平均分子量は5970であった。
【0086】
【化12】
[製造例4]
攪拌棒を備え付けた三口フラスコに、原料として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ユニット(i)を有する化合物)、一般式(7)で示される化合物(ユニット(ii)を有する化合物)、セバシン酸(ユニット(iii)を有する化合物)、テトラデカン二酸(ユニット(iv)を有する化合物)を、それぞれ25:25:25:25モル%の割合で仕込み、さらに、{ユニット(i)+ユニット(ii)}に対して、2.1当量の無水酢酸、および触媒量の酢酸ナトリウムを加え、当該三角フラスコ内を窒素置換した。
【0087】
常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させて均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら当該溶液を2℃/minの昇温速度で260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌して共重合させた。引き続き270℃まで昇温しつつダイヤフラムポンプにて三角フラスコ内を減圧した後、減圧状態を維持して約90分間かけて共重合させた。その後窒素ガスで三角フラスコ内を常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂(A4)を取り出した。
【0088】
得られた熱可塑性樹脂(A4)を、シクロヘキサン中、10wt%の濃度で150℃まで加熱、次いで冷却することで、再結晶化させた。当該シクロヘキサン溶液をろ過後、得られた樹脂をメタノールで洗浄、70℃で16時間乾燥することで、熱可塑性樹脂(A4)の微粉末を得た。熱可塑性樹脂(A4)の数平均分子量は9500であった。
【0089】
[製造例5]
攪拌棒を備え付けた三口フラスコに、原料として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ユニット(i)を有する化合物)、アゼライン酸(ユニット(iii)を有する化合物)、トリデカン二酸(ユニット(iv)を有する化合物)を、それぞれ52:24:24モル%の割合で仕込み、さらに、ユニット(i)で示される化合物に対して、2.1当量の無水酢酸、および触媒量の酢酸ナトリウムを加え、当該三角フラスコ内を窒素置換した。
【0090】
常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させて均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら当該溶液を2℃/minの昇温速度で260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌して共重合させた。引き続き270℃まで昇温しつつダイヤフラムポンプにて三角フラスコ内を減圧した後、減圧状態を維持して約90分間かけて共重合させた。その後窒素ガスで三角フラスコ内を常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂(A5)を取り出した。
【0091】
得られた熱可塑性樹脂(A5)を、シクロヘキサン中、10wt%の濃度で150℃まで加熱、次いで冷却することで、再結晶化させた。当該シクロヘキサン溶液をろ過後、得られた樹脂をメタノールで洗浄、70℃で16時間乾燥することで、熱可塑性樹脂(A5)の微粉末を得た。熱可塑性樹脂(A5)の数平均分子量は11800であった。
【0092】
[製造例6]
攪拌棒を備え付けた三口フラスコに、原料として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(ユニット(i)を有する化合物)、一般式(7)で示される化合物(ユニット(ii)を有する化合物)、アゼライン酸(ユニット(iii)を有する化合物)を、それぞれ39:13:48モル%の割合で仕込み、さらに、{ユニット(i)+ユニット(ii)}に対して、2.1当量の無水酢酸、および触媒量の酢酸ナトリウムを加え、当該三角フラスコ内を窒素置換した。
【0093】
常圧、窒素雰囲気下で145℃にて反応させて均一な溶液を得た後、酢酸を留去しながら当該溶液を2℃/minの昇温速度で260℃まで昇温し、260℃で1時間撹拌して共重合させた。引き続き270℃まで昇温しつつダイヤフラムポンプにて三角フラスコ内を減圧した後、減圧状態を維持して約90分間かけて共重合させた。その後窒素ガスで三角フラスコ内を常圧に戻し、生成した熱可塑性樹脂(A6)を取り出した。
【0094】
得られた熱可塑性樹脂(A6)を、シクロヘキサン中、10wt%の濃度で150℃まで加熱、次いで冷却することで、再結晶化させた。当該シクロヘキサン溶液をろ過後、得られた樹脂をメタノールで洗浄、70℃で16時間乾燥することで、熱可塑性樹脂(A6)の微粉末を得た。熱可塑性樹脂(A6)の数平均分子量は9000であった。
【0095】
[実施例1-1~1-4、比較例1-1~1-2]
製造例1~6で得られた熱可塑性樹脂(A1)~(A6)について、それぞれ、密度、液晶相転移温度、等方相転移温度および熱伝導率(厚み方向)を測定した。
【0096】
[実施例2-1~2-4、比較例2-1~2-2]
製造例1~6で得られた熱可塑性樹脂(A1)~(A6)の微粉末の各々と、(B1)アルミナ(昭和電工社製 AS-50)とを、各々が50体積%となる配合で混合し、当該混合物を、等方相転位温度以上に加熱、次いで冷却した後に、液晶相転位温度で熱プレスをかけ、100~350μmの厚さの熱可塑性樹脂組成物成形体を得た。比較例2-2については、射出成形機により、1mm×25.4mmΦの円盤状の熱可塑性樹脂組成物成形体を調製した。得られた熱可塑性樹脂組成物成形体の熱伝導率の測定を行った。
【0097】
[実施例2-5~2-7]
(A)熱可塑性樹脂の微粉末と(B)無機充填材とからなる熱可塑性樹脂組成物に対して、液晶相転位温度にて熱プレスをかけ、厚さが200μmから500μmの間の値であるシートを調製した後に、当該シートを、等方相転位温度以上で加熱した後、冷却し、熱可塑性樹脂組成物成形体を得た。(B)無機充填材として、(B2)アルミナ(昭和電工社製 AL-47-H)、(B3)アルミナ(昭和電工社製 AS-400)、(B4)窒化ホウ素(電気化学工業社製 FP-70)、(B5)窒化ホウ素(モーメンティブパフォーマンスマテリアルズ社製 PTX-60s)を使用し、表2の比率で、(A)熱可塑性樹脂の微粉末と(B)無機充填材とを配合した。得られた熱可塑性樹脂組成物成形体の熱伝導率測定を行った。
【表1】
【0098】
【表2】
表1に示すように、比較例1-1のユニット(i)を有し、かつ、ユニット(ii)を有さない熱可塑性樹脂(A5)と、実施例1-1のユニット(i)および(ii)の両方を有する熱可塑性樹脂(A1)とを比較すると、実施例1-1の熱可塑性樹脂(A1)は、同程度の熱伝導率を示しつつ、より低い液晶相転位温度と等方相転位温度とを有することが明らかになった。
【0099】
また、比較例1-2のユニット(i)、(ii)および(iii)からなる熱可塑性樹脂(A6)と、実施例1-1のユニット(i)、(ii)、(iii)および(iv)からなる熱可塑性樹脂(A1)とを比較すると、実施例1-1の熱可塑性樹脂(A1)は、より高い熱伝導率を示しつつ、より低い液晶相転位温度と等方相転位温度とを有することが明らかになった。
【0100】
表2に示すように、熱可塑性樹脂(A1)、(A2)、(A3)または(A4)を配合した実施例2-1~2-7の成形体は、厚み方向、および/または、面方向への高い熱伝導率を示した。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、電子デバイス(例えば、携帯電話、パソコンまたはハイブリッドカー)の放熱用材料として利用することができる。