(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】悪臭中和剤を同定するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20221004BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20221004BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20221004BHJP
A61L 9/013 20060101ALI20221004BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20221004BHJP
C12Q 1/6897 20180101ALN20221004BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12Q1/02
A61L9/013
C12N15/12
C12Q1/6897 Z
(21)【出願番号】P 2019531492
(86)(22)【出願日】2017-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2017044979
(87)【国際公開番号】W WO2018110672
(87)【国際公開日】2018-06-21
【審査請求日】2020-11-06
(32)【優先日】2016-12-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000169466
【氏名又は名称】高砂香料工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ウォー ジョナサン
(72)【発明者】
【氏名】ヴィニヒ マーセル
【審査官】白形 優依
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-528120(JP,A)
【文献】特表2016-523546(JP,A)
【文献】特開2012-249614(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02832347(EP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0260707(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0216492(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試験化合物が3-メルカプト-3-メチルブタノール及びジアリルトリスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種の硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得るかどうかを決定するための方法であって、
前記方法が:
a)OR4E2への前記硫黄系匂い物質の結合を許すかまたは前記硫黄系匂い物質によるOR4E2の活性化を許す条件下において、試験化合物の存在下および非存在下、OR4E2ポリペプチドを前記硫黄系匂い物質と接触させるステップと;
b)試験化合物の存在下および非存在下における前記硫黄系匂い物質へのOR4E2の結合またはOR4E2の活性を比較するステップと;
を含み、
試験化合物の非存在下における結合または活性に対して相対的
な、試験化合物の存在下における結合の阻害または活性の減少が、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として試験化合物を同定する、
方法。
【請求項2】
ステップa)がOR4E2を発現する細胞内または上において行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記細胞が哺乳類細胞である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記哺乳類細胞が、ヒト胚性腎臓細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、および前記細胞の膜調製物から選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ステップa)がCu
2+イオンの存在下において行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
OR4E2ポリペプチドが
配列番号1の配
列を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
OR4E2ポリペプチドが、少なくとも
90%の同一性を配列番号1に対して有する配列を有するが、ただし、配列番号1の位置12、42、118、165、234、237、241、および270のアミノ酸は保存されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
OR4E2ポリペプチドが
配列番号2の配
列を有する核酸によってコードされる、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)において、試験化合物の存在下および非存在下における硫黄系匂い物質と接触させられたOR4E2の活性を比較することを含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ステップb)が:
i)コントロールに対するOR4E2の応答を測定することと;
ii)試験化合物の非存在下において硫黄系匂い物質に対するOR4E2の応答を測定することと;
iii)第1の倍率変化[FOC1=ステップi)において得られた応答によって除算されたステップii)において得られた応答]を計算することと;
iv)試験化合物の存在下において硫黄系匂い物質に対するOR4E2の応答を測定することと;
v)第2の倍率変化[FOC2=ステップi)において得られた応答によって除算されたステップiv)において得られた応答]を計算することと;
vi)FOC1およびFOC2を比較することと、
を含み、
FOC2/FOC1の比が0.8未満である場合には、試験化合物が、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として同定される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
FOC2/FOC1の比が
、0.7未満である場合には、試験化合物が、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として同定される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
3-メルカプト-3-メチルブタノール及びジアリルトリスルフィドからなる群から選択される少なくとも1種の硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物を同定するためのOR4E2ポリペプチドの使用。
【請求項13】
OR4E2ポリペプチドが
配列番号1の配
列を有する、請求項12に記載の使用。
【請求項14】
OR4E2ポリペプチドが
配列番号2の配
列を有する核酸によってコードされる、請求項12に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭、特に硫黄系匂い物質からの悪臭を中和し得る化合物を同定するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは多種多様な化学物質が別個の匂いを有していると知覚する。匂い知覚は鼻において開始し、そこでは匂い物質が嗅覚受容体(OR)の大きいファミリーによって検出される。
【0003】
嗅覚受容体蛋白質は、単一コードエキソン遺伝子から生ずるG蛋白質共役受容体(GPCR)の大きいファミリーのメンバーである。嗅覚受容体は多くの神経伝達物質受容体およびホルモン受容体と共通に7回膜貫通型ドメイン構造を持っており、匂い物質シグナルの認識とG蛋白質によって媒介される伝達とを担っている。
【0004】
天然または人工起源の揮発性化合物は、呼吸上皮に所在するG蛋白質共役受容体の特定のセットによって検出され得る。1つの匂い物質は複数の嗅覚受容体(OR)を活性化できるということと、1つのORは異なる匂い物質を検出できるということとが提唱されている(非特許文献1)。ヒトゲノムは2つの主要なクラスに属する~400個の完全な嗅覚受容体遺伝子を含有している。クラスIの「魚類型受容体」ORはおそらく水溶性の匂い物質を検出し、一方で、クラスIIの「四肢動物特異的受容体」ORは空気中の揮発性物質に対して応答すると考えられている(非特許文献2)。
【0005】
最近、異種細胞において(メチルチオ)メタンチオールに応答するマウス嗅覚受容体が同定された(非特許文献3)。
【0006】
ヒト体臭は、皮膚表面に存在する天然物質ならびに汗および脂腺からの分泌物から作り出される。それらの物質は酸化的分解または皮膚微生物による代謝によって特徴的な匂い化合物に変換される。
【0007】
ヒトアポクリン汗腺分泌物は、高濃度で腋窩に存在する皮膚フローラの作用によって高度に個人的な匂いを生成することが公知である。揮発性ステロイド、脂肪族の分枝および直鎖脂肪酸はヒト腋臭の主な寄与因子として報告されている。具体的には、3-ヒドロキシ-3-メチル-2-ヘキサン酸は腋分泌物中に存在するグルタミンコンジュゲートを起源とすることが見いだされた(非特許文献4)。
【0008】
硫黄含有化合物もまたヒト腋臭の寄与因子であることが見いだされている(非特許文献4;非特許文献5)。硫黄含有化合物は着用済みの洗濯物上においてはL-メチオニンの異化から(非特許文献6)、および尿から(非特許文献7)もまた同定されている。
【0009】
場合によっては、硫黄含有物質、例えばヘアトリートメント製品のためのチオグリコール酸または塩およびシステインは、活性成分として消費者または産業用製品に意図的にもまた追加されており、克服されることを必要とする望ましくないベース臭を製品に与える。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【文献】Malnic B, Hirono J, Sato T, Buck LB. "Combinatorial receptor codes for odors." Cell 1999 96(5):713-23
【文献】Glusman G, Bahar A, Sharon D, Pilpel Y, White J, Lancet D. "The olfactory receptor gene superfamily: data mining, classification, and nomenclature. Mamm." Genome 2000 11(11):1016-23
【文献】Duan X, Block E, Li Z, Connelly T, Zhang J, Huang Z, Su X, Pan Y, Wu L, Chi Q, Thomas S, Zhang S, Ma M, Matsunami H, Chen GQ, Zhuang H. "Crucial role of copper in detection of metal-coordinating odorants." Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2012 109(9):3492-7
【文献】Troccaz. "The biosynthetic pathway of sulphur-containing molecules in Human Axillary Malodor: from precursors to odorous volatiles." These de doctorat : Univ. Geneve, 2009, no. Sc. 4102 (https://archive-ouverte.unige.ch/unige:4563)
【文献】Natsch A, Schmid J, Flachsmann F. "Identification of odiferous sulfanylalkanols in human axilla secretions and their formation through cleavage of cysteine precursors by a C-S lyase isolated from axilla bacteria." Chemistry & Biodiversity 2004 1(7):1058-1072
【文献】Denawaka C, Fowlis, I, Dean J. "Source, impact and removal of malodour from soiled clothing." Journal of Chromatography A 2016 (1438): 216-225
【文献】Troccaz M, Niclass Y, Anziani P, Starkenmann C. "The influence of thermal reaction and microbial transformation on the odour of human urine." Flavour & Fragrance Journal 2013 (28) : 200-211.
【文献】Li S, Ahmed L, Zhang R, Pan Y, Matsunami H, Burger JL, Block E, Batista VS, Zhuang H. "Smelling sulfur: copper and silver regulate the response of human odorant receptor OR2T11 to low-molecular-weight thiols." Journal of the American Chemical Society 2016 (doi:10.1021/jacs6b06983)
【文献】Noe F, Polster J, Geithe C, Kotthoff M, Schieberle P, Krautwurst D. OR2M3: "A highly specific and narrowly tuned human odorant receptor for the sensitive detection of onion key food odorant 3-mercapto-2-methylpentan-1-ol." Chemical Sciences 2016, 00:1-16 (doi:10.1093/chemse/bjw118)
【文献】Saito H, Kubota M, Roberts RW, Chi Q, Matsunami H. "RTP family members induce functional expression of mammalian odorant receptors." Cell 2004 119(5):679-91
【文献】Von Dannecker LE, Mercadante AF, Malnic B. "Ric-8B, an olfactory putative GTP exchange factor, amplifies signal transduction through the olfactory-specific G-protein Galphaolf." J Neurosci. 2005 Apr 13;25(15):3793-800
【文献】Von Dannecker LE, Mercadante AF, Malnic B. "Ric-8B promotes functional expression of odorant receptors." Proc. Natl. Acad. Sci. USA 2006 103(24):9310-4
【文献】Bufe B, Hofmann T, Krautwurst D, Raguse JD, Meyerhof W. "The human TAS2R16 receptor mediates bitter taste in response to beta-glucopyranosides." Nat. Genet. 2002 32(3):397-401
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ヒト嗅覚受容体OR4E2が硫黄系匂い物質に対して応答するということが、今回見いだされた。その結果、硫黄系匂い物質からの悪臭の知覚を中和し得る化合物を同定するために、このポリペプチドの使用が検討される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
1つの態様において、本発明は、試験化合物が硫黄系匂い物質からの知覚される(嗅ぎ取られる)悪臭を中和し得るかどうかを決定するための方法に関し、前記方法は:
a)OR4E2への前記硫黄系匂い物質の結合を許すかまたは前記硫黄系匂い物質によるOR4E2の活性化を許す条件下において、試験化合物の存在下および非存在下、OR4E2ポリペプチドを硫黄系匂い物質と接触させるステップと;
b)試験化合物の存在下および非存在下における前記硫黄系匂い物質へのOR4E2の結合またはOR4E2の活性を比較するステップと、
を含み、
試験化合物の非存在下における結合または活性に対して相対的に、試験化合物の存在下における結合の阻害または活性の減少は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として試験化合物を同定する。
【0013】
別の態様において、本発明は、上述の方法によって同定される化合物を含む悪臭抑制組成物に関する。
【0014】
別の態様において、本発明は、上述の方法によって同定される化合物または上で定義されている悪臭抑制組成物を含む、家庭用、洗濯用、パーソナルケア、アニマルケア、または産業用製品に関する。
【0015】
別の態様において、本発明は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物を同定するためのOR4E2ポリペプチドの使用に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、悪臭、特に硫黄系匂い物質からの悪臭を中和し得る化合物を同定するための方法が提供され得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】
図1Aは、代表的な硫黄系匂い物質3-メルカプト-3-メチルブタノールの増大していく濃度に対するOR4E2の応答を示している。
【
図1B】
図1Bは、代表的な硫黄系匂い物質ジアリルトリスルフィドの増大していく濃度に対するOR4E2の応答を示している。
【
図2A】
図2Aは、ある試験化合物の増大していく濃度に対するOR4E2の応答を示している。
【
図2B】
図2Bは、ある試験化合物の増大していく濃度に対するOR4E2の応答を示している。
【
図3A】
図3Aは、悪臭および試験化合物の評価(強度)を示している。
【
図3B】
図3Bは、悪臭および試験化合物の評価(快さ)を示している。
【
図4A】
図4Aは、ブランクまたは試験化合物どちらかとの悪臭の混合物の評価(総合的な強度)を示している。
【
図4B】
図4Bは、ブランクまたは試験化合物どちらかとの悪臭の混合物の評価(総合的な快さ)を示している。
【
図4C】
図4Cは、ブランクまたは試験化合物どちらかとの悪臭の混合物の評価(悪臭の存在の強度)を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、ヒト嗅覚受容体OR4E2が硫黄系匂い物質による刺激に対して応答するという知見に基づく。従って、OR4E2受容体は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物をスクリーニングするための有用なツールである。
【0019】
1つの態様において、本発明は、試験化合物が硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得るかどうかを決定するための方法を提供し、前記方法は:
a)OR4E2への前記硫黄系匂い物質の結合を許すかまたは前記硫黄系匂い物質によるOR4E2の活性化を許す条件下において、試験化合物の存在下および非存在下、OR4E2ポリペプチドを硫黄系匂い物質と接触させるステップと;
b)試験化合物の存在下および非存在下における前記硫黄系匂い物質へのOR4E2の結合またはOR4E2の活性を比較するステップと、
を含み、
試験化合物の非存在下における結合または活性に対して相対的に、試験化合物の存在下における結合の阻害または活性の減少は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として試験化合物を同定する。
【0020】
それゆえに、本発明の方法は、OR4E2への硫黄系匂い物質の結合を可能にするかまたは前記硫黄系匂い物質によるOR4E2の活性化を可能にする条件下において、試験化合物の存在下および非存在下、OR4E2ポリペプチドを硫黄系匂い物質と接触させるステップを含む。1つの実施形態においては、OR4E2の活性化を可能にする最小有効量を決定するために、硫黄系匂い物質の異なる濃度が用いられる。
【0021】
本発明の文脈において、「硫黄系匂い物質」は、ヒトまたは動物の体の悪臭、特にヒトの汗の悪臭もしくはヒトの腋の悪臭の寄与因子である硫黄含有化合物、または食料を起源とする硫黄含有化合物、またはホームもしくはパーソナルケア消費者製品に意図的に追加されている硫黄含有化合物である。
【0022】
1つの実施形態において、硫黄系匂い物質は、スルファニルアルカノール、例えば2-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール、3-メルカプト-2-メチル-1-ペンタノール、3-メルカプト-2-メチル-1-プロパノール、3-メルカプト-3-メチル-1-ブタノール、3-メルカプト-1-ヘキサノール、3-メチル-3(2-メチルジスルファニル)-ブタン-1-オール、または3-メルカプト-3-メチル-1-ヘキサノール;スルファニルアルデヒドまたはケトン、例えば3-メルカプト-2-メチルペンタナール、1-メルカプト-3-ペンタノン、2-メルカプト-3-ペンタノン、または3-メルカプト-3-ペンタノン;スルファニルエステル、例えば3-メチル-3-メルカプトブチルアセテートまたは3-メチル-3-メルカプトブチルフォルメート;チオール、例えば1-メトキシヘプタン-3-チオール、4-メトキシ-2-メチルブタン-2-チオール、または1-プロパンチオール;チオグリコール酸;ジチオグリコール酸;スルフィド、例えばメチル-2-プロペニルジスルフィド、2,4-ジチアペンタン、ジメチルスルフィド、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、ジアリルスルフィド、ジアリルジスルフィド、またはジアリルトリスルフィド;アリルメルカプタン;アリシン;アリイン;およびシステインから選択される。好ましい実施形態において、硫黄系匂い物質は、上で定義されているスルファニルアルカノールまたはスルフィド、特に、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合、例えば1つまたは2つの炭素-炭素二重結合を有するスルフィドである。
【0023】
1つの実施形態において、OR4E2ポリペプチドを硫黄系匂い物質と接触させるステップは、水に溶解したときにCu2+イオンを遊離する銅塩、例えば無機塩、例えばCuSO4として追加された、Cu2+イオンの存在下において行われる。
【0024】
1つの実施形態において、OR4E2ポリペプチドを硫黄系匂い物質と接触させるステップは前記ポリペプチドを発現する細胞内または上において行われる。本発明に従うと、前記細胞は、哺乳類細胞、具体的にはヒト胚性腎臓細胞(HEK293T)、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、HeLa細胞、または前記細胞の膜調製物であり得るが、これに限定されない。ポリペプチドを発現する細胞は、形質膜への効率的な受容体トラフィッキングにとって重要な少なくとも1つの補助蛋白質をもまた発現し得る;細胞は、さらに刺激性G蛋白質(G・sともまた呼ばれる)、好ましくはG・olfG蛋白質を発現し得る。
【0025】
OR4E2ポリペプチドは、本願の出願日の時点で配列データベースにおいて現在参照される配列によって定義される。多型バリアントがヒト集団内に存在し得るということは当業者には公知である。それらの多型バリアントは一般的には数アミノ酸(例えば1から10アミノ酸)だけ異なる。
【0026】
1つの実施形態において、OR4E2ポリペプチドは配列番号1の配列を有する。
【0027】
別の実施形態において、OR4E2ポリペプチドは、少なくとも85%、例えば少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の同一性を配列番号1に対して有する配列を有するが、ただし配列番号1の位置12、42、118、165、234、237、241、および270のアミノ酸は保存されている。本明細書において用いられる用語「配列の同一性」は、至適にアラインメントされたときの配列の全長に渡っての2つのアミノ酸配列間の配列の同一性を意味し、例えばプログラムClustalWを用いることによる(http://www.clustal.org/;Thompson JD, Higgins DG, Gibson TJ. (1994); Acids Res., 22, 4673-4680).(ギャップ開始ペナルティー=10;ギャップ伸長ペナルティー=0.1)。
【0028】
1つの実施形態において、OR4E2ポリペプチドは配列番号2の配列を有する核酸配列によってコードされる。
【0029】
1つの実施形態において、ポリペプチドOR4E2をコードする核酸配列は好適な発現ベクター内の構築物に包含され得、これはホスト内において構築物を複製および発現でき、対応するポリペプチドの発現に至る。好適な構築物は限定されないが、ただし、OR4E2核酸配列はOR4E2の発現を導くための適切な発現コントロール配列(単数または複数)といずれかの他の要件とに作動可能に連結される。例えば、OR4E2ポリペプチドをコードする核酸配列は直接的にタグ付けされ得るか、または間接的にレポーティングシステムと連関させられ得、ひとたびOR4E2がリガンド(単数または複数)によって活性化されると読取可能または測定可能なシグナルに至り、その結果、受容体の活性化後のシグナル伝達が検出、測定、および/またはモニターされ得る。レポーティングシステムのいずれかの型が本発明の文脈において用いられ得る。例えば、その活性がOR4E2活性化の指標である応答エレメント、好ましくはG・olfG蛋白質などの刺激性G蛋白質(G・s)によって活性化されるアデニル酸シクラーゼによって刺激されるcAMP応答エレメントによって転写が駆動される遺伝子を含むレポーティングシステムが用いられ得る。OR4E2を発現するためのいずれかの方法が用いられ得、好ましくは、OR4E2をコードする核酸配列を含む構築物を含有する発現ベクターのトランスフェクションである。
【0030】
いくつかの実施形態において、硫黄系匂い物質は、さらに、OR2C1ポリペプチド、OR2T11ポリペプチド、およびOR2M3ポリペプチドから選択される少なくとも1つの他のヒト嗅覚受容体と、任意にCu2+イオンの存在下において接触させられ得る。OR4E2ポリペプチドを硫黄系匂い物質と接触させるステップに関して上に記載されている流儀は、硫黄系匂い物質を他の嗅覚受容体(単数または複数)と接触させるステップにもまた適用され得る。OR2C1、OR2T11、およびOR2M3受容体についての詳細はGeneCards(登録商標)データベース(http://www.genecards.org/)に見いだされ得る。OR2T11およびOR2C1はチオールによって活性化されることが報告されている(非特許文献8)。OR2M3もまたチオールによって活性化されることが報告されている(非特許文献9)。所与の硫黄系匂い物質が(OR4E2ポリペプチドを活性化することに加えて)OR2C1、OR2T11、およびOR2M3ポリペプチドの少なくとも1つを活性化する場合には、前記匂い物質は本発明の方法への使用にとって特に好ましい匂い物質と見なされ得る。
【0031】
本発明の方法は、試験化合物の存在下および非存在下における硫黄系匂い物質へのOR4E2の結合またはOR4E2の活性を比較するステップをもまた含み、試験化合物の非存在下における結合または活性に対して相対的に、試験化合物の存在下における結合の阻害または活性の減少は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として試験化合物を同定する。
【0032】
1つの実施形態において、試験化合物は、前記試験化合物の存在下および非存在下における(硫黄系匂い物質と接触させられた)OR4E2の活性の比較によって、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として同定される(またはされない)。上で指示されているように、試験化合物の非存在下における活性に対して相対的に、試験化合物の存在下における活性の減少は、試験化合物が硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和できるという結論に至る。
【0033】
当分野において公知のいずれかの方法が、試験化合物の存在下または非存在下における硫黄系匂い物質に対するOR4E2の応答を読取または測定するために用いられ得る。
【0034】
1つの実施形態において、OR4E2の活性は、試験化合物がOR4E2の応答を誘起する場合に読取可能または測定可能なシグナルに至るレポーティングシステムを用いることによって検出される。本発明の文脈において用いられ得るレポーティングシステムは、イメージングシステム、蛍光システム、酵素システム、結合システムを包含するが、これに限定されない。例えば、次のレポーターシステムが用いられ得る:蛍光色素によるカルシウムイメージング、発光タンパク質、例えばGFP、エクオリン、酵素レポーターシステム、例えばルシフェラーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ、GTPガンマS結合試験、cAMPレベルの変化の測定、その他同種類のもの。有利には、その活性がOR4E2活性化の指標である応答エレメントによって転写が駆動される遺伝子を含む、レポーティングシステムが用いられ得る。好ましくは、遺伝子転写は、G・olfG蛋白質などの刺激性G蛋白質(G・s)によって活性化されるアデニル酸シクラーゼによって刺激されるcAMP応答エレメントによって駆動される。
【0035】
1つの実施形態において、ステップb)は:
i)コントロールに対するOR4E2の応答を測定することと;
ii)試験化合物の非存在下において硫黄系匂い物質に対するOR4E2の応答を測定することと;
iii)第1の倍率変化[FOC1=ステップi)において得られた応答によって除算されたステップii)において得られた応答]を計算することと;
iv)試験化合物の存在下において硫黄系匂い物質に対するOR4E2の応答を測定することと;
v)第2の倍率変化[FOC2=ステップi)において得られた応答によって除算されたステップiv)において得られた応答]を計算することと;
vi)FOC1およびFOC2を比較することと、
を含むか、またはこれらからなり、
FOC2<FOC1の場合に、試験化合物は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として同定される。
【0036】
1つの実施形態において、コントロールは、硫黄系匂い物質および/または試験化合物を希釈するために用いられる緩衝液である。
【0037】
1つの実施形態においては、ステップvi)において得られるFOC2/FOC1比が、例えば0.7未満、0.5未満、0.3未満、0.1未満、0.05未満、または0.01未満などの、0.8未満である場合には、試験化合物は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物として同定される。
【0038】
1つの実施形態においては、本発明の方法によって同定された試験化合物が硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を実際に中和するという確認が、「におい嗅ぎ」試験の手段によって得られ得る。例えば、参加者のパネルは、硫黄系匂い物質からの悪臭および試験化合物を別々に嗅ぎ取り、それから悪臭と試験化合物との混合物を嗅ぎ取り、参加者のパネルが嗅ぎ取ったものの強度および快さをその都度評価するように求められ得る。有利には、第1に悪臭、それから試験化合物、最後に悪臭と試験化合物との混合物が嗅ぎ取られる。
【0039】
本発明の方法は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得、ゆえに種々の消費者製品に組み込まれ得る化合物を同定することを可能にする。
【0040】
そのため、別の態様において、本発明は上述の方法によって同定される化合物を含む悪臭抑制組成物に関する。
【0041】
別の態様において、本発明は、上述の方法によって同定される化合物または上で定義されている悪臭抑制組成物を含む、家庭用製品、洗濯用製品、パーソナルケア製品、アニマルケア製品、または産業用製品に関する。好適な製品は、家庭内使用、施設内使用、または産業使用のためであり得る。かかる製品の例は、猫砂、洗濯用洗剤、自宅および公共空間のためのエアケア製品、パーソナルケア腋用製品、例えばデオドラント、ヘアケア/トリートメント製品、脱毛用製品、足/靴手入れ製品、トイレおよびキッチンクリーナー、ファームスプレー、ごみ/生ゴミ入れのための製品、ごみ/生ゴミ捨て場のための製品、または下水処理施設のための製品を包含する。
【0042】
別の態様において、本発明は、硫黄系匂い物質からの知覚される悪臭を中和し得る化合物を同定するためのOR4E2ポリペプチドの使用に関する。
【0043】
本発明は次の限定しない例によって例示される。
【実施例】
【0044】
<細胞株、培地、および細胞培養条件>
実験は、形質膜への効率的な受容体トラフィッキングにとって必須な補助蛋白質hRTP1sを内在的に発現するHEK293T細胞(例えばGEヘルスケアから入手可能)を用いて行った(非特許文献10;非特許文献11;および非特許文献12)。細胞株は、10%FBS(ウシ胎児血清、Euroclone社cat.ECS0180L)、1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Euroclone社cat.B3001D)、50μg/mLのG418、25μg/mLのハイグロマイシン、および10μg/mLのゼオシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM、Euroclone社)によって維持した。
【0045】
標準的な拡大培養条件は、1.5×106~1.8×106個の細胞をT75フラスコに週2回播種することからなり、約10×106~15×106個の細胞を~80%コンフルエントで回収した。
【0046】
<ヒト嗅覚受容体のクローニング>
OR4E2のcDNAはカスタム遺伝子合成(ライフテクノロジーズ)によって作り出した。それから、受容体DNAを、インフレーム3'で、膜貫通局在エピトープからpcDNA5発現ベクターにサブクローニングした(非特許文献13)。受容体の誤りのないアイデンティティーは自動シーケンシングによってチェックした。
【0047】
<リガンドおよび緩衝液>
全ての硫黄系匂い物質は溶媒としてDMSOを用いて100mMストック溶液として調製し、-20℃で保存した。硫酸銅(II)を30mMストック水溶液として調製した。実験の日に、異なるストック溶液をアッセイ緩衝液(タイロード緩衝液)によって直接的に希釈した。その組成は:5mMのKCl、130mMのNaCl、2mMのCaCl2、5mMのNaHCO3、1mMのMgCl2、20mMのHEPES、pH7.4である。
【0048】
匂い物質は下の表1に指示されている濃度で用いた。
【0049】
【0050】
<機器および消耗品>
実験はFLIPR Tetra(登録商標)ハイスループット細胞系スクリーニングシステム(モレキュラーデバイス)を用いて行った。細胞をトランスフェクションし、ブラック384ウェルポリスチレンアッセイプレート、ブラック/クリアボトム(MATRIX社Part#CPL-4332)に播種した。
【0051】
<リポフェクタミン2000による一過的トランスフェクション>
全ての一過的トランスフェクションは製造者のプロトコールに従ってリポフェクタミン2000(インビトロジェン)によって行った。10μLのリポフェクタミン2000を500μLのDMEMによって希釈し、室温で5分間インキュベーションした。同時に、3μgのプラスミドDNAを500μLのDMEMによって希釈し、リポフェクタミン2000混合物に追加して1000μLの終体積を得た。室温における30分間のインキュベーション後に、1,600,000細胞/mLを含有する1000μLの細胞懸濁液にDNA-リポフェクタミン複合体を追加した。その後、ウェルあたり25μLの完成混合物をブラック384ウェルポリスチレンアッセイプレートに播種した。トランスフェクションの3時間後に、20%FBSを含有する25μLのDMEMを各ウェルに追加した。
【0052】
<FLIPR Tetra(登録商標)を用いるルミネセンス測定>
OR4E2受容体のcDNAをpNL(NlucP/CRE/Hygro)(プロメガ)とコトランスフェクションした。pNL(NlucP/CRE/Hygro)ベクターは、ルシフェラーゼレポーター遺伝子NanoLucの転写を駆動する環状アデノシン一リン酸(cAMP)応答エレメント(CRE)を含有する。NanoLucルシフェラーゼはルミネセンスレポーターとしての至適性能のために組換えられた小型の酵素(19.1kDa)である。その酵素は新規基質フリマジンを用いるとホタル(フォティヌス・ピラリス)またはウミシイタケルシフェラーゼのどちらかよりも約100倍明るく、高強度のグロー型ルミネセンスを生成する。
【0053】
このアッセイでは、その正しい嗅覚受容体との硫黄系匂い物質の相互作用は、内在的に発現されるヒトGαsG蛋白質の活性化に至る。Gαsは、アデノシン三リン酸(ATP)をcAMPに変換するアデニル酸シクラーゼを活性化する刺激性G蛋白質である。そのため、転写されたルシフェラーゼの活性は嗅覚受容体活性化の指標として用いられ得る。
【0054】
トランスフェクションの24時間後に、培地をトランスフェクション済み細胞から除去し、希釈された硫黄系匂い物質を含有する30μLのタイロード緩衝液を37℃で4時間に渡って追加した。それから、細胞を自動蛍光測定イメージングプレートリーダー(FLIPR Tetra(登録商標)、モレキュラーデバイス)に移した。それから、フリマジンを含有する20μLの基質混合物を追加した。この追加は細胞溶解をもたらし、検出可能な発光をもたらすその基質フリマジンとのルシフェラーゼの相互作用を許した。
【0055】
<データ分析>
異なるウェルレプリケートから得られたデータ(n=4)を、Excel、Screen Works、およびSigmaPlot 11によって分析した。硫黄系匂い物質に対する受容体の応答をタイロード緩衝液に対する受容体の平均応答によって除算した(倍率変化:FOC)。もたらされたFOC値の平均および標準偏差を計算し、SigmaPlot 11ソフトウェアによって当てはめされた濃度-応答曲線または垂直棒グラフにプロットした。
【0056】
<試験化合物をスクリーニングするためのプロトコール>
試験化合物を、OR4E2活性化へのそれらの阻害効果について評価した。試験化合物およびコントロールは実験の日にタイロード緩衝液中に新たに調製した。全ての試験化合物は、活性化濃度の硫黄系匂い物質との組み合わせとして、30μMで試験した。
【0057】
匂い物質蒸発を回避するために、化合物試験プレートはスクリーニングのちょうど2~3時間前に調製した。従って、化合物はマザープレートから適切な量のタイロード緩衝液を含有するスクリーニングプレートに384ピペットヘッドによって直接的にピペッティングした。それから、コントロールおよび硫黄系匂い物質をウェルに追加した。それから、調製した化合物プレートをトランスフェクション済み細胞プレート上に移し、37℃で3~4時間インキュベーションした。次に、読取に先立って室温における30分間の平衡化期間があった。この手続きは一定したシグナルを作り出し、ルミネセンス読み出しに時々観察される傘様パターンを回避する。
【0058】
試験化合物スクリーニングはトリプリケートで行った。異なるウェルレプリケートから得られたデータをGeneData Screenerによって分析した。硫黄系匂い物質との組み合わせとしての各個々の化合物のトリプリケートの平均FOC1値を、いずれかの試験化合物の非存在下における硫黄系匂い物質について得られた活性値(FOC2)と比べた。
例1
【0059】
表1の5つの硫黄系匂い物質に対するOR4E2の応答を検討するために、細胞を受容体のプラスミドDNAによって一過的にトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を硫黄系匂い物質の7つの異なる濃度によって刺激した(表1参照)。刺激の4時間後に、細胞を基質混合物によって溶解し、ルシフェラーゼ活性を検出した。
図1Aおよび1Bは、それぞれ3-メルカプト-3-メチルブタノールおよびジアリルトリスルフィドの増大していく濃度に対するOR4E2の応答を示している。両方の匂い物質はOR4E2活性化への正の効果を有した。
例2
【0060】
細胞をOR4E2のプラスミドDNAによって一過的にトランスフェクションした。トランスフェクションの24時間後に、細胞を次の試験化合物の7つの異なる濃度によって刺激した:シオザキソウ花油または花エキス(それぞれCAS No.8016-84-0、91770-75-1)およびオポポナックス油(CAS No.8021-36-1)。刺激は300μMのOR4E2活性化因子2,4-ジチアペンタンの存在下においてした。刺激の4時間後に、細胞を基質混合物によって溶解し、ルシフェラーゼ活性を検出した。その上、試験化合物はOR4E2を発現しない細胞でもまた試験した(モック)。これらの細胞を30nMイソプロテレノールの存在下において同じ試験化合物によって刺激して、試験化合物のOR4E2に無関係な阻害効果についてコントロールした。異なるウェルレプリケートから得られたデータを、平均および標準偏差を計算することによってグラフパッドプリズムによって分析した。いずれかの試験化合物の非存在下における2,4-ジチアペンタンに対するOR4E2の応答を100%にセットし、濃度-応答曲線を計算した。
【0061】
図2A~2Bは、それぞれ300μMの2,4-ジチオペンタン(OR4E2)または30nMのイソプロテレノール(モック)の存在下における、上述の化合物(それぞれシオザキソウ、オポポナックス油)の増大していく濃度に対するOR4E2トランスフェクション細胞(ドット)およびコントロール細胞(四角)の応答を示している。
例3
【0062】
悪臭に対するいくつかの化合物の活性な効果を例示するために、それらの効き目を評価するための試験を設計した。
【0063】
参加者
試験は24人の参加者を包含した。それらは全員が嗅ぎ取ることができ、参加することに同意する前に試験についての詳細な情報を与えられた。女性は妊娠中ではなかった。
【0064】
方法
試験は、分子によって飽和した1つまたは2つの芯材を内部に有する一連の6×60mL瓶を用いた。最初の3つの瓶はそれぞれ悪臭単独(3-メルカプト-2-メチルブタノール)、化合物T*(AMT)単独、および化合物O*(AMO)単独を含有した。3つの他の瓶は化合物の混合物を含有した:「悪臭+ブランク(何もなし)」、「悪臭+AMT」、および「悪臭+AMO」。悪臭の濃度は実生活に近くセットした。試験化合物の強度は悪臭のものと釣り合うようにセットした。
(*T=シオザキソウ、O=オポポナックス油。例2において同定されている通り)。
【0065】
試験は3パートでされた。第1パートでは、参加者は悪臭単独を嗅ぎ取ることによって試験を始め、強度については0「私は何も嗅ぎ取らない」から9「極めて強い」までの強度スケールで、嗜好度については0「極めて不快」から9「極めて快い」までの強度スケールでそれを格付けした。参加者には、試験のさらに後段でそれを認識できるように十分長く嗅ぎ取るようにもまた命じた。
【0066】
第2パートでは、参加者は2つの試験化合物をランダムな順序で嗅ぎ取った。再び、参加者には、参加者が嗅ぎ取ったものの強度と嗜好度とについて格付けするように求めた。
【0067】
第3パートでは、参加者は混合物をランダムな順序で嗅ぎ取り、瓶内部の匂いの総合的な強度と参加者が嗅ぎ取ったものの総合的な嗜好度とを格付けした。それらには、0「悪臭が存在しない」から9「悪臭が極めて強い」までの強度スケールで、悪臭の存在の強度をもまた格付けさせた。
【0068】
結果
試験の最初の2つのパートの結果は
図3A~3Bに示されている。
図3Aは瓶内の各化合物単独の強度スコアを示している。
図3Bは瓶内の各化合物単独の嗜好度スコアを示している。同じ文字によってリンクされたバー同士は異ならない(95%のダンカン検定)。エラーバーは95%の信頼区間を示している。ANOVA分析は、悪臭が2つの試験化合物よりも強烈(F=10.49、p<0.01)かつ不快(F=9.16、p<0.01)であるということを示した。
【0069】
試験の第3パートの結果が
図4A~4Cに示されている。
図4Aは、内部に分子の混合物を有する3つの瓶同士では総合的な強度が異ならなかったということを示している。ANOVA分析は有意ではなかった。しかしながら、ANOVA分析は、悪臭単独(ブランクと組み合わせられている)が悪臭+試験化合物の2つの混合物よりも快くないと判定されるということを示した(
図4B参照)(F=3.20、p<0.05)。
図4Cは、試験化合物と組み合わせられたときには、悪臭の存在が同様には評価されないということを示している。試験化合物と組み合わせられたときには、その強度はより低い(F=3.28;p<0.05)。
【0070】
一緒にすると、これらの結果は、OR4E2受容体を活性化する化合物が、前記悪臭と組み合わせられたときに標的となる悪臭の強度の縮減を許すということを示している。この試験は、効果が強度の違いを原因としていないということを実証している。単独で判定されたときには、試験化合物は悪臭よりも強烈ではないと知覚されている。混合物として判定されたときに、異なる混合物同士は強度が異ならない。嗜好度評価は試験化合物が極端に快くはないということを示している。総合的な嗜好度は、悪臭と試験化合物のそれぞれの組み合わせが不快さを減少させるということを示している。それは、混合物中の検出される悪臭の強度をもまた和らげる。
【0071】
本発明をその特定の実施形態の参照によって詳細に記載したが、その主旨および範囲から逸脱することなしに種々の変更および改変がそれらになされ得るということは当業者には明らかであろう。本願は2016年12月14日出願の欧州特許出願第16306680.6号に基づいており、その主題全体は参照によって本明細書に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明においては、悪臭、特に硫黄系匂い物質からの悪臭を中和し得る化合物を同定するための方法を提供することが可能である。
【配列表】