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特許7152401酸化バナジウムを含有するSCR触媒装置、及び鉄を含有するモレキュラーシーブ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】酸化バナジウムを含有するSCR触媒装置、及び鉄を含有するモレキュラーシーブ
(51)【国際特許分類】
   B01J 29/78 20060101AFI20221004BHJP
   B01J 35/04 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 53/90 20060101ALI20221004BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20221004BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20221004BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20221004BHJP
【FI】
B01J29/78 A ZAB
B01J35/04 301L
B01D53/86 222
B01D53/90
B01D53/94 222
B01D53/94 400
F01N3/08 B
F01N3/28 301C
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019532795
(86)(22)【出願日】2017-12-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-21
(86)【国際出願番号】 EP2017083687
(87)【国際公開番号】W WO2018115044
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-07
(31)【優先権主張番号】16205231.0
(32)【優先日】2016-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D-63457 Hanau,Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・マルムベルク
(72)【発明者】
【氏名】ニコラ・ゼーガー
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0131401(KR,A)
【文献】特開2016-087576(JP,A)
【文献】特開2014-008473(JP,A)
【文献】特表2013-527018(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0045868(US,A1)
【文献】Progress in Natural Science Materials International,2015年08月30日,VOL:25,PAGES:342-352,DOI:10.1016/j.pnsc.2015.07.002
【文献】Research on Chemical Intermediates,2015年11月04日,vol.42,p.171-184,DOI:10.1007/s11164-015-2335-4
【文献】JOURNAL OF FUEL CHEMISTRY AND TECHNOLOGY,2008年,vol.36,no.5,p.616-620
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
B01D 53/86-53/90,53/94-53/96
F01N 3/08
F01N 3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
選択触媒還元(SCR)によって窒素酸化物を含有する排気ガスを精製するための触媒装置であって、少なくとも2つの触媒層を含み、第1の層は、酸化バナジウムと、酸化セリウムと、酸化チタン及び酸化ケイ素を含む混合酸化物とを含有し、第2の層は、鉄を含有するモレキュラーシーブを含有し、前記第1の層は、前記第2の層上に適用され、
前記第1の層は、
(a)前記第1の層の重量に基づいてVとして計算した0.5~10重量%の酸化バナジウムと、
(b)前記第1の層の重量に基づいてWOとして計算した0~17重量%の酸化タングステンと、
(c)前記第1の層の重量に基づいてCeOとして計算した0重量%超10重量%以下の酸化セリウムと、
(d)前記第1の層の重量に基づいてTiOとして計算した25~98重量%の酸化チタンと、
(e)前記第1の層の重量に基づいてSiOとして計算した1~7重量%の酸化ケイ素と、
(f)前記第1の層の重量に基づいてAlとして計算した0~15重量%の酸化アルミニウムと、を含む、触媒装置。
【請求項2】
前記第1の層は、タングステン及びアルミニウムの酸化物から選択される少なくとも1つの更なる成分を含有する、請求項1に記載の触媒装置。
【請求項3】
前記モレキュラーシーブは、ゼオライトである、請求項1又は2に記載の触媒装置。
【請求項4】
前記ゼオライトは、鉄交換ゼオライトである、請求項に記載の触媒装置。
【請求項5】
前記ゼオライトは、最大環サイズが8超の四面体を有する構造を有する、請求項又は4に記載の触媒装置。
【請求項6】
前記ゼオライトは、AEL、AFI、AFO、AFR、ATO、BEA、GME、HEU、MFI、MWW、EUO、FAU、FER、LTL、MAZ、MOR、MEL、MTW、OFF及びTONから選択される構造を有する、請求項のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項7】
前記第1の層は、完全に前記第2の層上に適用される、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項8】
前記第1の層は、部分的にのみ前記第2の層上に適用される、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項9】
前記第2の層は、不活性基材上に適用される、請求項1~のいずれか一項に記載の触媒装置。
【請求項10】
前記不活性基材はセラミックモノリスである、請求項に記載の触媒装置。
【請求項11】
選択触媒還元(SCR)によって窒素酸化物を含有する排気ガスを精製するための請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒装置の使用。
【請求項12】
亜酸化窒素の形成を防止するための請求項11に記載の使用。
【請求項13】
前記排気ガスは、NO/NO比が>0.5及び/又は温度が180℃~450℃である、請求項11又は12に記載の使用。
【請求項14】
排気ガスの精製方法であって、
(i)請求項1~10のいずれか一項に記載の触媒装置を準備することと、
(ii)前記触媒装置に窒素酸化物を含有する排気ガスを導入することと、
(iii)窒素を含有する還元剤を前記触媒装置に導入することと、
(iv)選択触媒還元(SCR)によって前記触媒装置中の窒素酸化物を還元することと、を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、選択触媒還元(selective catalytic reduction、SCR)を使用することによって窒素酸化物を含有する排気ガスを精製する触媒装置に関し、この触媒装置は、少なくとも2つの触媒層を含み、第1の層は、酸化バナジウムを含有し、第2の層は、鉄を含有するモレキュラーシーブを含有し、第1の層は、第2の層上に適用される。本発明はまた、触媒装置の使用及び排気ガスの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
選択触媒還元(SCR)法は、例えば、燃焼プラント、ガスタービン、工業プラント、又は燃焼エンジンからの排気ガス中の窒素酸化物を還元するために従来技術において使用される。化学反応は、還元によって窒素酸化物、特にNO及びNOを選択的に除去する選択性触媒(以下、「SCR触媒」と称される)を用いて実施される。対照的に、望ましくない副反応は、抑制される。この反応において、窒素を含有する還元剤(通常は、アンモニア(NH)、又は尿素などの前駆体化合物)が供給され、これを排気ガスに添加する。反応は、均等化(comproportionation)である。本質的に、水及び元素状窒素は、反応生成物として得られる。SCR触媒は、多くの場合、バナジウム、チタン、タングステン、ジルコニウム、又はこれらの組み合わせの酸化物などの金属酸化物を含有する。SCR触媒としては、モレキュラーシーブ、特に触媒活性金属と交換されるゼオライトも使用される。
【0003】
SCRの重要な用途は、希薄空燃比で主に動作する燃焼エンジンからの排気ガスからの窒素酸化物の除去である。このような燃焼エンジンは、ディーゼルエンジン及び直接噴射式ガソリンエンジンである。これらは、総じて「希薄燃焼エンジン」と称される。有害ガスである一酸化炭素CO、炭化水素HC、及び窒素酸化物NOxに加えて、希薄燃焼エンジンからの排気ガスの酸素含有量は最大15体積%と比較的高い。一酸化炭素及び炭化水素は、酸化によって容易に無害にできる。窒素酸化物の窒素への還元は、酸素含有量が高いため、はるかに困難である。
【0004】
自動車の燃焼エンジンは、過渡的に動作するため、SCR触媒は、激しく変動する動作条件下であっても、良好な選択性を有して、できる限り高い窒素酸化物転化率を保証しなければならない。低温での完全かつ選択的な窒素酸化物転化は、例えば、全負荷運転中の、非常に高温の排気ガス中の高窒素酸化物量の選択的及び完全な転化と同様に、保証されなければならない。加えて、激しく変動する動作条件により、アンモニアの正確な投入が困難になるが、この投入は、理想的には、還元すべき窒素酸化物に対して化学量論比で行わなければならない。これは、SCR触媒、すなわち、非常に可変の触媒担持量及び変動する還元剤の供給を伴う広範な温度ウィンドウ(temperature window)において、高い転化率及び選択率で窒素酸化物を窒素へ還元するその能力に対して高い要求を課す。
【0005】
欧州特許第0385164(B1)号は、窒素酸化物のアンモニアによる選択的還元のための、いわゆる「完全触媒(full catalysts)」について記載しており、これは、酸化チタン、並びにタングステン、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、リン、ジルコニウム、バリウム、イットリウム、ランタン及びセリウムのうちの少なくとも1つの酸化物に加えて、バナジウム、ニオビウム、モリブデン、鉄及び銅の酸化物の群から選択される追加成分を含有する。
【0006】
米国特許第4,961,917号は、窒素酸化物をアンモニアで還元するための触媒配合物に関し、これは、少なくとも10のシリカ:アルミナ比、及び少なくとも7オングストロームの平均動的孔径を有する細孔によって全ての空間方向に連結された細孔構造を有するゼオライトに加えて、鉄及び/又は銅を促進剤として含有する。
【0007】
しかしながら、上記の文献に記載の触媒装置は、良好な窒素酸化物転化率が約350℃超又は約450℃超の比較的高い温度でのみ達成され得るため、改善される必要がある。原則として、最適な転化は、比較的狭い温度範囲内でのみ行われる。このような最適な転化は、SCR触媒に典型的であり、作用機構によって決定される。
【0008】
窒素酸化物と、尿素などの前駆体化合物から形成され得るアンモニアとのSCR触媒上での反応は、以下の反応式に従って実施される。
4NO+4NH+O→4N+6H (1)
NO+NO+2NH→2N+3HO (2)
6NO+8NH→7N+12HO (3)
【0009】
NOの比率を増加させ、特にNO:NO比を約1:1に調整することが有利である。これらの条件下では、反応(1)(「標準SCR反応」)と比較して、反応(2)(「急速SCR反応」)は著しく速いため、200℃未満の低温で、著しくより高い転化率を既に達成することができる。
【0010】
しかしながら、希薄燃焼エンジンからの排気ガス中に含有される窒素酸化物NOxは、主にNOからなり、ほんのわずかな比率のNOを有する。したがって、従来技術では、上流の酸化触媒、例えば、アルミナ上に担持された白金が、NOからNOxへの酸化に使用される。
【0011】
SCR触媒による希薄燃焼エンジンの排気ガス中の窒素酸化物の除去に関する更なる問題は、酸素含有量が高いため、アンモニアが低価窒素酸化物、特に亜酸化窒素(NO)へと酸化されることである。これにより、一方ではプロセスからSCR反応に必要な還元剤が除去され、他方では亜酸化窒素が望ましくない二次放出として排出される。
【0012】
記載された目的の矛盾を解決するために、及び、運転動作中に生じる全ての動作温度(多くの場合、180℃~600℃)で窒素酸化物が除去されることを確実にできるようにするために、有利な特性を組み合わせるための様々なSCR触媒の組み合わせが、従来技術において提案されている。
【0013】
米国特許出願公開第2012/0275977(A1)号は、モレキュラーシーブの形態のSCR触媒に関する。これらは、鉄又は銅を含有するゼオライトである。可能な限り包括的に窒素酸化物を除去するために、異なる官能性を有する様々なモレキュラーシーブを組み合わせることが好ましい。
【0014】
米国特許出願公開第2012/0058034(A1)号では、ゼオライトを、タングステン、バナジウム、セリウム、ランタン、及びジルコニウムの酸化物に基づく更なるSCR触媒と組み合わせることを提案している。ゼオライトを金属酸化物と混合し、好適な基材をそれでコーティングすることによって、両方の官能性を有する単一の触媒層が得られる。
【0015】
従来技術では、バナジウム系SCR触媒もまた、鉄交換ゼオライトと組み合わせた。例えば、国際公開第2014/027207(A1)号は、第1の触媒成分として、鉄交換モレキュラーシーブを含有し、第2の成分として、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、セリウム、又はケイ素から選択される金属酸化物上にコーティングされた酸化バナジウムを含有するSCR触媒を開示している。様々な触媒を混合し、好適な基材上に単一の触媒コーティングを作製する。しかしながら、450℃未満、特に350℃未満の温度範囲におけるこのような触媒の効率は、依然として改善を必要とする。
【0016】
国際公開第2009/103549号は、更なる金属酸化物と組み合わせたゼオライト及び酸化バナジウムの組み合わせを開示している。触媒効率を改善するために、触媒をゾーンに分割することが提案されている。NH吸蔵成分として機能するゼオライトを有するゾーンは、排気ガス入口側に位置する。バナジウム系SCR触媒を含有するSCR活性成分を有するゾーンは、出口側に隣接する。ゼオライトは、唯一の吸蔵機能を有するが、以下の成分は、酸化バナジウムとのSCR反応を触媒する。
【0017】
国際公開第2008/006427(A1)号は、鉄交換ゼオライトと銅交換ゼオライトとの組み合わせに関する。具体的には、最初に銅交換ゼオライトでセラミック基材をコーティングし、鉄交換ゼオライトでその上にコーティングを形成することが提案されている。これらの方法では、異なる温度範囲内の層の異なる活性を、有利な方法で組み合わせることができる。
【0018】
国際公開第2008/089957(A1)号では、酸化バナジウムを含有する下部コーティングと、鉄交換ゼオライトを含有する上部コーティングとを有するセラミック基材を装備することを提案している。鉄交換ゼオライトを有する上部コーティングは、亜酸化窒素が高い動作温度で形成されるのを防ぐことを目的としている。
【0019】
欧州特許第2992956(A1)号は、「二重層構造」を有するSCR触媒について記載しており、V/TiOを含有する層は、金属交換ゼオライトを含む層上にある。
【0020】
独国特許出願公開第102014002751(A1)号はまた、触媒ハニカム体上に配置された2つの層を含むSCR触媒を開示している。下層は、鉄又は銅で交換されたゼオライトを含み得るが、上層は、五酸化バナジウム及び二酸化チタンを含む。
【0021】
バナジウム系配合物及びCu又はFeゼオライトを含むSCR触媒もまた、国際公開第2016/011366(A1)号、独国特許出願公開第102006031661(A1)号、及びInd.Eng.Chem.Res.2008,47,8588-8593に開示されている。
【0022】
しかしながら、記載されたSCR触媒は、依然として、それらの効率に関して改善を必要とする。様々な適用条件下で高度に効率的である触媒が引き続き必要とされている。特に、NOに富んだ排気ガス及びNOに富んだ排気ガスの両方を精製するのに好適であり、一般的な用途の温度範囲全体にわたって、すなわち低温及び中温でも同様に効率的に動作する触媒が必要とされている。
【0023】
従来の触媒の別の問題は、亜酸化窒素が、燃焼エンジンが関与する従来の用途で形成されることである。この問題は、約450℃未満又は約350℃未満の中温及び低温範囲において特に明らかである。燃焼エンジンからの排気ガスは、通常の動作中にそのような温度を有することが多く、これは、亜酸化窒素の望ましくない形成及び放出をもたらす可能性がある。
【0024】
J.Phys.Chem.C2009,113,2,1177-21184は、V-WO/TiO SCR触媒上での一酸化窒素(NO)のアンモニアによる転化が、前述のSCR触媒に酸化セリウムを添加することによって改善され得ることを報告している。しかしながら、実施された測定は、わずか0.1重量%しかバナジウムを含有していないSCR触媒によって行われており、実際には無関係である。Progress in Natural Science Materials International,25(2015),342-352に報告されているデータに関しても同様である。この文献は、二酸化窒素(NO)の転化に関するあらゆるデータを含まない。
【0025】
J.Fuel.Chem.Technol.,2008,36(5),616-620はまた、一酸化窒素(NO)をアンモニアで転化する際の、V-CeO/TiO SCR触媒に対する酸化セリウム含有量の影響に関するデータも含む。酸化セリウムの明白な効果は、20重量%以上の含有量でのみそれなりに観察される。この文献は、二酸化窒素(NO)の転化に関するあらゆるデータを含まない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
V/TiO SCR触媒の存在下でのアンモニアによるNOx転化は、NO/NOxのモル比に非常に強く依存することが知られている(例えば、Environmental Engineering Science,Vol.27,10,2010,845-852、特に図2を参照のこと)。したがって、NO比率が高いNO又はNOxの転化の結果を予測するために、NOの転化の結果を使用することができない。
【0027】
本出願の発明者らによって実施される研究は、バナジウム及びセリウムを含有するSCR触媒上での低温での窒素酸化物のアンモニアによる転化は、特に窒素酸化物の組成に依存することを示す。窒素酸化物が一酸化窒素(NO)のみからなる場合、酸化セリウム含有量が増加するにつれて転化率が低下する。しかしながら、これは、二酸化窒素(NO)の含有量が増加するにつれて変化する。したがって、例えば、75%の二酸化窒素含有量では、酸化セリウムの比率が増加するにつれて転化率が増加する(図6及び図7参照)。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、上述した欠点を克服する触媒、方法、及び使用を提供する目的に基づく。特に、幅広い温度範囲にわたって、したがって、低温及び中温でも窒素酸化物の効率的な除去を可能にするSCR触媒が提供される。ここで、窒素酸化物NOx、特にNO及びNOは、同時に亜酸化窒素NOの形成を防止しながら、効率的に除去されなければならない。触媒は、特に180℃~600℃の温度範囲で高い効率を有さなければならないが、これは、燃焼エンジンにおいて通常重要である。
【0029】
触媒は、NOの比率が比較的高い、特に、NO:NO比が≧1:1である排気ガスを精製するのに適していなければならない。ここで、触媒は、低温であっても効率的でなければならないが、従来技術の触媒は、多くの場合、例えば、450℃未満又は350℃未満では、効率性が劣る。触媒はまた、NOの比率が比較的高い排気ガスを精製するのにも適していなければならない。
【0030】
特に、以下の有利な特性を組み合わせる触媒が提供される。
約180℃~600℃の温度範囲、特に低温での、NOに富んだ排気ガスとの高効率性、
NOに富んだ排気ガスとの高効率性、及び
亜酸化窒素の形成の防止。
【0031】
触媒は、好ましくは、それらの製造の直後、並びに長期間の使用及びエージング後の両方で有効でなければならない。
【0032】
驚くべきことに、本発明の根底にある目的は、特許請求の範囲による触媒装置、使用、及び方法によって達成される。
【0033】
本発明の目的は、選択触媒還元(SCR)によって窒素酸化物を含有する排気ガスを精製するための触媒装置に関し、この装置は、少なくとも2つの触媒層を含み、第1の層は、酸化バナジウムと、酸化チタン及び酸化ケイ素を含む混合酸化物とを含有し、第2の層は、鉄を含有するモレキュラーシーブを含有し、第1の層は、第2の層上に適用される。
【0034】
触媒装置は、選択触媒還元法(SCR)により排気ガス中の窒素酸化物(「NOx」)を還元するために使用される。排気ガスは、例えば、燃焼エンジン、燃焼プラント、ガスタービン、又は工業プラントから生じる。SCR中、窒素酸化物、特にNO及びNOは、選択的に還元される。この反応は、窒素を含有する還元剤、典型的にはアンモニア(NH)又は尿素などのその前駆体化合物の存在下で行われる。窒素を含有する還元剤は、通常、排気ガスに添加される。
【0035】
触媒は、少なくとも2つの触媒層を含み、第1の上部触媒層は、第2の下部触媒層上に配置される。ここで、「触媒」とは、層の各々がSCR中に触媒活性を有することを意味する。第1の上層は排気ガスと直接接触することが特に好ましい。これは、第1の層が最外層であり、その上に更なる層が適用されないことを意味する。しかしながら、本発明によれば、例えば、排気ガスを前処理するように機能する、少なくとも1つの更なる機能層を、第1の層の上に存在させることもまた可能である。この前処理は、例えば、触媒前処理であり得る。
【0036】
本出願の文脈において、用語「金属酸化物」は、概ね、金属の酸化物を指す。したがって、この用語は、1:1の化学量論比を有する一酸化金属のみを指すものではない。この場合、用語「金属酸化物」は、特定の酸化物及びまた金属の様々な酸化物の混合物の両方を指す。
【0037】
本出願の文脈において、用語「混合酸化物」は、2つ以上の金属酸化物の物理的混合物を除外する。むしろ、均一な結晶格子を有し、個々の金属酸化物がもはや区別できない「固溶体」を表すか、又は均一な結晶格子を有さず、個々の金属酸化物の相を区別することができる金属酸化物凝集体を表す。
【0038】
第1の上層は、酸化バナジウムを含有し、これは、五酸化バナジウムVとして存在することが好ましい。この点において、バナジウムの一部が異なる酸化状態を有し、異なる形態で存在することは除外されない。酸化バナジウムは、好ましくは、反応に大いに関与する第1の層の重要な触媒活性成分である。したがって、第1の触媒層は、以下では、略して「バナジウム触媒」とも称される。
【0039】
第1の上層はまた、酸化チタン及び酸化ケイ素を含む混合酸化物を含有する。
【0040】
好ましい実施形態では、第1の層は、タングステン及びアルミニウムの酸化物から選択される少なくとも1つの更なる成分を含有する。第1の層は、特に好ましくは、バナジウム、ケイ素、タングステン及びチタンの酸化物を、好ましくはV、SiO、WO及びTiOの形態で含有する。
【0041】
この場合、金属酸化物は、SCR中に触媒活性を有し得るか、又は触媒活性に寄与し得る。本発明によれば、例えば、酸化バナジウム及び酸化タングステンは、触媒活性を有する。
【0042】
金属酸化物はまた、触媒活性をほとんど又は全く有さない場合があり、例えば、基材材料として機能することができる。このような非触媒成分は、例えば、触媒の内部表面積を拡大する、及び/又は多孔質構造を形成する役割を果たす。酸化チタンは、例えば、基材材料として機能することが好ましい。酸化チタンは、二酸化ケイ素又は三酸化アルミニウムなどの他の非反応性又はわずかに反応性のある金属酸化物をある比率で含有してもよい。基材材料は、概ね過剰に存在し、触媒成分は、概ね不活性成分の表面に適用される。
【0043】
好ましい実施形態では、第1の上層の主成分は、例えば、層の50重量%超、80重量%超、又は90重量%超を構成する二酸化チタンである。例えば、バナジウム、ケイ素、チタン及びタングステンの酸化物に基づく触媒層は、アナターゼ変性(anatase modification)においてTiOを本質的に含有する。TiOは、熱耐久性を改善するために、WOにより安定化することができる。この場合、WOの比率は、典型的には5~15重量%、例えば、7~13重量%である。
【0044】
酸化バナジウムに基づく触媒成分の利点は、低温でのSCR中のその高い活性である。本発明によれば、優れたコールドスタート特性を有する触媒を提供するために、バナジウム系触媒の低温活性は、鉄を含有するモレキュラーシーブの比活性と組み合わせることが有利である。
【0045】
好ましい実施形態では、第1の層は、酸化セリウムを更に含有する。驚くべきことに、酸化バナジウムと酸化セリウムとの組み合わせにより、SCR効率を著しく改善できることが見出された。この効果は、触媒のエージングと関係して、触媒の動作時間がより長くなると、特に顕著である。したがって、第1の層中のバナジウム触媒が酸化セリウムを更に含有する場合、触媒のエージング後、窒素酸化物の除去及びNOの形成の防止の両方が特に有効であることが見出された。概ね、酸化セリウムの有利な効果は、とりわけ低い温度範囲で、特に400℃未満、特に180~400℃の範囲で現れる。これは、低温では、窒素酸化物の最適な除去及び亜酸化窒素の形成の防止が特に問題となるため、特に有利である。これらの効果は、NOに富んだ排気ガス、すなわち、NO:NOxが>0.5である場合に特に顕著である。
【0046】
触媒は、好ましくは、Vとして計算され、第1の層の重量に基づいて、0.5~10重量%、特に1~5重量%の酸化バナジウムを含む。触媒は、好ましくは、SiOとして計算され、第1の層の重量に基づいて、0.5~15重量%、特に1~7重量%の二酸化ケイ素を含む。触媒は、好ましくは、WOとして計算され、第1の層の重量に基づいて、1~17重量%、特に2~10重量%の酸化タングステンを含む。触媒は、好ましくは、CeOとして計算され、第1の層の重量に基づいて、0.2~10重量%、特に0.5~5重量%、又は0.5~3重量%の酸化セリウムを含む。表現「として計算(calculated as)」は、この技術分野では、元素分析により金属の量を概ね求めることを考慮している。
【0047】
好ましい実施形態では、第1の層は、各場合において、第1の層の重量に基づいて、好ましくは以下の金属の酸化物:
(a)Vとして計算した0.5~10重量%の酸化バナジウムと、
(b)WOとして計算した0~17重量%の酸化タングステンと、
(c)CeOとして計算した0~10重量%の酸化セリウムと、
(d)TiOとして計算した25~98重量%の酸化チタンと、
(e)SiOとして計算した0.5~15重量%の酸化ケイ素と、
(f)Alとして計算した0~15重量%の酸化アルミニウムと、
を含有するか、又はこれらからなる。
【0048】
第1の層は、特に好ましくは、二酸化バナジウム、酸化セリウム、二酸化チタン、及び二酸化ケイ素を含有するが、酸化タングステンは含有しない。
【0049】
第1の層はまた、第1の層の重量に基づいて、好ましくは0.5~10重量%の酸化バナジウムと、2~17重量%の酸化タングステンと、0~7重量%の酸化セリウムと、25~98重量%の二酸化チタンと、を含有する。
【0050】
同様に、第1の層は、特に好ましくは、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化セリウム、二酸化チタン、及び二酸化ケイ素を含有する。
【0051】
この場合、第1の層は、各場合において、第1の層の重量に基づいて、好ましくは以下の組成:
(a)Vとして計算した1~5重量%の酸化バナジウムと、
(b)WOとして計算した1~15重量%の酸化タングステンと、
(c)CeOとして計算した0.2~5重量%の酸化セリウムと、
(d)73~98重量%の二酸化チタンと、
(e)0.5~25重量%の二酸化ケイ素と、を有し、
酸化セリウム+酸化タングステンの比率の合計は、17重量%未満である。
【0052】
触媒は、バナジウム触媒を有する第1の層の下にある第2の触媒層を含む。この第2の層は、鉄を含有するモレキュラーシーブを含む。
【0053】
用語「モレキュラーシーブ」は、ガス、蒸気、及び特定の分子サイズの溶質に対する強い吸着能力を有する、天然及び合成化合物、特にゼオライトを指す。モレキュラーシーブを適切に選択することにより、様々なサイズの分子を分離することが可能である。ゼオライト以外に、例えば、リン酸アルミニウム、特にリン酸ケイ素アルミニウム(silicon aluminum phosphates)もまた知られているモレキュラーシーブは、概ね、分子の直径の大きさほどである均一な孔径を有し、大きな内部表面積(600~700m/g)を有する。
【0054】
特に好ましい実施形態では、モレキュラーシーブは、ゼオライトである。用語「ゼオライト」は、概ね、International Mineralogical Association(D.S.Coombs et al.,Can.Mineralogist,35,1997,1571)の定義に従って理解され、一般式Mn+[(AlO)X(SiO)Y]xHOの三次元ネットワーク構造を有するケイ酸アルミニウムの群からの結晶質物質を意味する。基本構造は、共通の酸素原子によって連結されて規則的な三次元ネットワークを形成するSiO/AIO四面体から形成される。ゼオライト構造は、各ゼオライトに特徴的な空洞及びチャネルを含む。ゼオライトは、それらのトポロジーに従って異なる構造に分類される。ゼオライト骨格は、水分子によって通常占有されるチャネル及びケージの形態の開いた空洞、並びに交換され得る特別な骨格のカチオンを含む。
【0055】
空洞への入口は、8、10又は12員「環」(狭孔、中孔、及び広孔のゼオライト)によって形成される。好ましい実施形態では、ゼオライトは、最大環サイズが8超の四面体によって画定される構造を第2の下層内に有する。
【0056】
本発明によれば、トポロジーAEL、AFI、AFO、AFR、ATO、BEA、GME、HEU、MFI、MWW、EUO、FAU、FER、LTL、MAZ、MOR、MEL、MTW、OFF及びTONを有するゼオライトが好ましい。トポロジーFAU、MOR、BEA、MFI及びMELのゼオライトが特に好ましい。
【0057】
本発明の文脈において、5:1~150:1のSiO/Alモル比(SAR比)を有するゼオライト、特に任意の10員環及び12員環ゼオライトを使用することが好ましい。本発明に好ましいSiO/Al比は、5:1~50:1の範囲内にあり、特に好ましくは10:1~30:1の範囲内にある。
【0058】
第2の層のモレキュラーシーブは、鉄を含有し、好ましくは鉄含有ゼオライトである。酸化バナジウムを含有する第1の層と組み合わせた鉄含有ゼオライトは、本発明による層配置において、特に効率的にSCRを触媒することが見出された。鉄イオンと交換されるゼオライト(「鉄交換ゼオライト」)か、又はアルミノケイ酸塩骨格のアルミニウム原子の少なくとも一部が鉄で同形置換され、それによってフェロケイ酸塩(ferrosilicate)骨格を形成するゼオライトを使用することが好ましい。
【0059】
ゼオライトは、鉄と交換されるのが特に好ましい。ゼオライトは、BEA型のものであることが好ましい。5:1~50:1のSARを有するBEA型の鉄交換ゼオライトが非常に特に好ましい。例えば、固相又は液相交換を介して鉄含有ゼオライトを製造する方法は、当業者に既知である。鉄含有ゼオライト中の鉄の比率は、例えば、Feとして計算され、鉄含有ゼオライトの総量に基づいて、最大10%又は最大15%である。本発明に好ましい鉄を含有するゼオライト及び鉄交換ゼオライトは、例えば、米国特許出願公開第2012/0275977(A1)号に記載されている。
【0060】
好ましい実施形態では、第2の層は、少なくとも2種の異なる鉄含有ゼオライトを含有する。この場合、様々な所望の特性を組み合わせることができることが有利である。例えば、低温で活性な鉄含有ゼオライトは、より高い温度で活性である鉄含有ゼオライトと組み合わせることができる。
【0061】
鉄含有ゼオライトの代わりに、第2の層はまた、1種のフェロケイ酸塩又は複数種のフェロケイ酸塩を含有してもよい。
【0062】
第2の下層は、鉄、特に結合剤などの触媒不活性成分を含有するモレキュラーシーブに加えて、更なる構成成分を含有することができる。例えば、触媒的に不活性であるか、又はわずかに触媒活性のある金属酸化物、例えば、SiO、Al、及びZrOは、例えば、結合剤として好適である。第2の層におけるこのような結合剤の比率は、例えば、最大15%である。
【0063】
第1及び第2の層の厚さ及び第1及び第2の層中の触媒の量は、窒素酸化物の所望の除去を得るために互いに調整される。
【0064】
好ましい実施形態では、触媒装置は、第1及び第2のコーティングに加えて、基材を更に含む。基材は、触媒コーティングが塗布される装置である。基材は、ここでは触媒活性ではなく、すなわち、反応に関して不活性である。基材は、金属基材又はセラミック基材であってもよい。基材は、平行な排気ガス流路のハニカム構造を有してもよく、又は発泡体であってもよい。好ましい実施形態では、基材は、モノリスである。モノリスは、自動車産業において特に使用され、入口側から出口側に延び、排気ガスが流れる平行なチャネルを有する一体型セラミック基材である。この構造はまた、「ハニカム」とも称される。あるいは、基材は、フィルタ、特にウォールフローフィルタであってもよく、このフィルタでは、排気ガスが入口側で出口側が閉じられたチャネルへと流れ、チャネル壁を通って流れ、次いで、入口側が閉じられ出口側が開かれたチャネルを通って基材から出る。
【0065】
更なる実施形態では、第2の下層は、同時に基材として機能する。これは、特に、第2の下部触媒層が押出物として提供される場合に可能である。この場合、第2の下層自体は、第1の上層が上に適用される基材装置を形成する。このような基材装置は、例えば、鉄含有ゼオライトが排気ガスチャネルの壁に組み込まれた場合に得ることができる。この実施形態は、追加の不活性基材が必要でないため、触媒装置の内部を特にコンパクトな設計にできるという利点を有する。
【0066】
更なる好ましい実施形態では、第2の層は、基材上に直接適用される。あるいは、少なくとも1つの更なる機能層、例えば、異なる触媒化合物を有し、それによって更なる活性を導入する更なる触媒層もまた、基材と第2の層との間に存在し得る。
【0067】
本発明による触媒装置の内部全体は、好ましくはコーティングされている。これは、排気ガスが接触する全ての領域がコーティングされていることを意味する。ここでは、内部全体が第1及び第2の層で完全にコーティングされていることが好ましい。この実施形態では、装置の内面領域全体が触媒的に使用されるため、窒素酸化物の特に効率的な転化が得られる。
【0068】
概ね、排気ガスは、まず、バナジウム触媒を含む第1の上層と流れ方向に接触することが非常に好ましい。いかなる理論にも束縛されるものではないが、バナジウム触媒で前処理された排気ガス画分は、有利には鉄含有ゼオライトと反応して、窒素酸化物を特に効率的に枯渇させ、同時に亜酸化窒素の形成を防止することが想定される。特に、この順序での触媒の配置は、比較的低温であってもNOxを特に効率的に精製し、特にNOx中のNOが高濃度の場合には、亜酸化窒素の形成を防止することが見出された。
【0069】
好ましい実施形態では、第2の層は、基材に完全に適用される。この場合、第1の層は、完全に又は部分的にのみ(1つ以上のゾーン内に)第2の層上に存在してもよい。
【0070】
好ましい実施形態では、第1の層は、第2の層に完全に適用される。これは、触媒装置の内面には、下部の第2の層が排気ガスと直接接触している領域がないことを意味する。この場合、第1の上層で前処理された排気ガスのみが、下部の第2の層に到達することが有利である。
【0071】
更なる好ましい実施形態では、第1の層は、特定の領域において第2の層上に適用される。この実施形態では、下部の第2の層が排気ガスと直接接触する領域が存在する。この場合、排気ガスは、最初に第1の上層と接触することが非常に好ましい。したがって、第1の上層を有する領域は、流れ方向の最初にあることが特に好ましい。この実施形態では、排気ガスは、バナジウム触媒を含有する上層と最初に接触し、それによって第2の層に到達する前に前処理されることも保証される。
【0072】
好ましい実施形態では、排気ガスは、触媒装置から出ると、最後に第1の上層と接触する。したがって、酸化バナジウムとの反応は、最後に行われる。この場合、第2の下層は、好ましくは、触媒装置の出口で第1の上層の真下に存在する。このような装置の実施形態では、SCRは、特に効率的である。
【0073】
上述の理由から、触媒装置の内部が、上に第1の上層が完全に存在する第2の下層を完全に装備することが、全体的に特に好ましい。
【0074】
更に好ましい実施形態では、第1の層又は第2の層は、2つ以上の重なり合った副層からなる。副層は、例えば、密度若しくは多孔性などのそれらの物理的特性、又は個々の構成成分の組成などのそれらの化学的特性に関して異なり得る。例えば、第1の上層は、酸化バナジウムを含有する上部副層と、酸化バナジウム及び追加的に酸化セリウムを含有する下部副層とからなることができる。下部の第2の層は、例えば、様々な活性を有する鉄含有ゼオライトを含有する第1及び第2の副層からなることができる。これらの実施形態では、適切な選択によって、及び同じ種類の異なる触媒の組み合わせによって、それらの特性は、例えば、幅広い温度範囲内の反応性を得るために、狙い通りに組み合わせることができることが有利である。
【0075】
更なる実施形態では、触媒装置は、排気ガス流れ方向に互いに続くする異なる領域(ゾーン)を有する。この場合、触媒装置の有利な特性を得るために、第1及び/又は第2の層の異なる触媒を異なるゾーンで組み合わせることができる。したがって、例えば、入口側に第1及び第2の触媒が存在するゾーン(このゾーンは、比較的高い温度で特に効率的である)については、出口側に向かって、より低い温度で最適な活性を有するゾーンが存在することが考えられる。触媒装置は、複数の連続するゾーン、例えば、2、3、4、又は5ゾーンを有してもよい。
【0076】
好ましい実施形態では、触媒装置は、第1及び第2の層を越えて更なる層を有さず、特に更なる触媒層を有さず、とりわけ、酸化バナジウム又は鉄含有ゼオライトを含有する更なる層を有さない。
【0077】
触媒装置は、好ましくは、あらゆる貴金属を含有しない。特に、第1及び第2の層は、白金、金、パラジウム、及び/又は銀などの任意の貴金属を含有しない。本発明によれば、高価で大量に利用できない貴金属の使用を必要とせずに、高い効率を有する触媒装置が提供される。
【0078】
SCR触媒は、従来技術において既知の方法を使用して、例えば、浸漬槽内でコーティングすることによって、又はスプレーコーティングによって、コーティング懸濁液(いわゆる「ウォッシュコート」)を塗布することによって適用される。下層はまた、押出物であってもよい。ウォッシュコートを有するコーティングの塗布が特に好ましい。概ね慣習的であるように、ウォッシュコートは、固体又は前駆体化合物が触媒層を生成するために懸濁及び/又は溶解されているコーティング懸濁液を指す。このようなウォッシュコートは、基材を可能な限り均一にコーティングできるように、微細に分布した構成成分を有する非常に均質な形態で提供される。ウォッシュコートの適用後、乾燥、焼成、及び焼戻しなどの通常の後処理工程が続く。
【0079】
好ましい実施形態では、触媒装置中の第1の層と第2の層との重量の比(触媒体積当たり)は0.2より大きく、特に0.2~15であり、特に好ましくは1~6である。
【0080】
コーティングの総量は、装置全体が可能な限り効率的に利用されるように選択される。フロースルー基材の場合、例えば、基材体積(触媒装置の総体積)当たりのコーティングの総量(固形分含有量)は、100~600g/l、特に100~500g/lであってもよい。好ましくは、第2の下層は、50~200g/l、特に50~150g/l、特に好ましくは約100g/lの量で使用される。第1の上層は、好ましくは100~400g/l、特に200~350g/l、特に好ましくは約280g/lの量で使用される。フィルタ基材の場合、実質的に少ないウォッシュコートが、概ね、例えば、10~150g/lの総量で使用される。
【0081】
本発明はまた、選択触媒還元(SCR)によって窒素酸化物を含有する排気ガスを精製するための、本発明による触媒装置の使用にも関する。
【0082】
同様に、本発明はまた、希薄空燃比で動作する燃焼エンジンの排気ガスから窒素酸化物を除去する方法に関し、この方法は、排気ガスが本発明による触媒装置を通過することを特徴とする。
【0083】
本発明による方法は、窒素酸化物中のNO比率が50%を超える(NO/NO>0.5)場合、すなわち、例えば、75%である場合に特に有利である。
【0084】
排気ガスは、燃焼プラントからのものであることが好ましい。燃焼プラントは、可動のものであっても定置のものであってもよい。本発明において、可動燃焼装置は、例えば、自動車の燃焼エンジン、特にディーゼルエンジンである。定置燃焼装置は、通常、電力プラント、燃焼プラント、又は家庭内の加熱システムである。
【0085】
排気ガスは、好ましくは希薄燃焼エンジン、すなわち、希薄空燃比で主に動作する燃焼エンジンに由来する。希薄燃焼エンジンは、特にディーゼルエンジン及び直接噴射式ガソリンエンジンである。
【0086】
様々な影響因子(エンジンキャリブレーション、動作状態、上流の触媒の種類及び設計)に応じて、NOx中のNO比率は、50%を超え得る。本発明によれば、触媒装置は、高いNO含有量(NO/NOx>0.5)で、すなわち、約450℃未満、特に350℃未満の問題となる中温~低温範囲であっても、排気ガスのSCRを特に効率的に触媒することが見出されている。特に、このような排気ガスにより、窒素酸化物の効率的な除去が、亜酸化窒素の形成の同時防止とともに達成されることが見出された。これらの結果は、バナジウム触媒が、NOに富んだ排気ガスとのSCRにおいて、特に低温では比較的非効率であり、一方、より効率的な鉄-ゼオライト触媒が、NOを高い比率で生成することが従来技術において既知であるため、驚くべきことであった。
【0087】
好ましい実施形態では、排気ガスは、上流の酸化触媒に由来する。このような上流の酸化触媒は、希薄燃焼エンジン、特にディーゼルエンジンからの排気ガスの場合に、NOの比率を増加させるために、とりわけ従来技術で使用される。
【0088】
触媒装置に導入される場合、排気ガスは、例えば、少なくとも5体積%、少なくとも10体積%、又は少なくとも15体積%である比較的高い酸素含有量を有することが好ましい。希薄燃焼エンジンからの排気ガスは、通常、このような高い酸素含有量を有する。酸化剤、酸素は、SCRによる窒素酸化物の還元的除去をより困難にする。驚くべきことに、本発明による触媒装置はまた、高い酸素含有量を有する排気ガスから窒素酸化物を効率的に除去し、同時に、亜酸化窒素の形成を防止することが見出された。
【0089】
好ましくは、排気ガスと本発明による触媒装置とのSCR反応中に、90%超、好ましくは95%超のNO及び/又はNOが除去される。
【0090】
本発明によれば、SCRによる排気ガスの効率的な精製が比較的低温(正確には、亜酸化窒素の形成を防止することができる低温)でも起こり得ることが有利である。触媒装置の使用は、450℃未満、特に180~450℃、特に好ましくは200~350℃の範囲の温度で特に有利である。
【0091】
好ましい実施形態では、亜酸化窒素(NO)の形成を防止するために、特にNOに富んだ排気ガスの、特に450℃未満又は350℃未満の温度での精製に使用される。本発明によれば、窒素酸化物を効率的に枯渇させられる、一方で、同時に、亜酸化窒素の形成が防止されるか、又は比較的わずかな亜酸化窒素が生成されることが見出されている。従来技術によれば、バナジウム触媒及び鉄含有ゼオライトとのSCR反応中に、特に低温又は更には中温でのNOに富んだ排気ガスの精製において、比較的多量の亜酸化窒素が形成される。したがって、第1及び第2の層の本発明による配置により、効率的にSCRを行い、同時に比較的少量の亜酸化窒素しか生成されないことは驚くべきことであった。好ましくは、本発明による触媒装置を用いたSCR後の亜酸化窒素の濃度は、50ppm以下、20ppm以下、又は10ppm以下である。特に、このような濃度は、180℃~450℃、特に200℃~350℃の範囲の温度では超えない。
【0092】
本発明は、
(i)本発明による触媒装置を準備することと、
(ii)触媒装置に窒素酸化物を含有する排気ガスを導入することと、
(iii)窒素を含有する還元剤を触媒装置に導入することと、
(iv)選択触媒還元(SCR)によって触媒装置中の窒素酸化物を還元することと、を含む、排気ガスの精製方法に更に関する。
【0093】
本発明による方法は、窒素酸化物中のNO比率が50%を超える(NO/NOx>0.5)場合、すなわち、例えば、75%である場合に特に有利である。
【0094】
工程(ii)で導入される排気ガスは、好ましくは希薄燃焼エンジン、特にエンジンの下流の酸化触媒から生じる。本方法では、本発明による触媒装置は、更なる触媒又はフィルタなどの排気ガスを精製するための更なる装置と直列又は並列に組み合わせることができる。
【0095】
SCR反応中、窒素を含有する還元剤、好ましくはアンモニア(NH)又は尿素などのその前駆体化合物が添加される。窒素を含有する還元剤は、触媒装置に入る前に排気ガスに添加されることが好ましいが、また、触媒装置に別個に導入することもできる。
【0096】
本発明による触媒装置は、本発明の根底にある目的を達成する。窒素酸化物を効率的に除去しながら、亜酸化窒素の形成を防止するSCRによる排気ガス精製用触媒装置が提供される。装置は、幅広い温度範囲にわたって、排気ガスを精製するのに好適である。ディーゼルエンジンの動作において生じるNOに富んだ排気ガスを、例えば、酸化触媒とともに精製するのに好適である。エージング後であっても、触媒装置は、高レベルの触媒活性を示し、亜酸化窒素の形成を防止又は最小化する。本発明による効果は、酸化セリウムをバナジウム触媒に添加することによってさえも改善することができ、とりわけ、亜酸化窒素の、特に低温での更なる還元が達成され得る。様々な使用条件下でのSCR中の高い効率により、低温であっても、並びに低及び高NO含有量であっても、触媒装置は、自動車分野における用途に非常に好適である。
【0097】
図1図5は、実施例2に従って生成された、本発明による触媒装置及び比較装置による、モデル排気ガスを用いた、例示的な実施形態3によるSCR反応の結果をグラフ形態で示す。全ての図において、測定値がモデル排気ガスの異なる温度に対して与えられている。図a及び図bは各々、触媒装置によってモデル排気ガスから除去されたNOxの比率を示す。各場合において、図cは、触媒装置後に測定されたNOの濃度を示す。
【0098】
図6及び図7は、排気ガスのそれぞれのNO及びNO含有量に対する転化率の依存性を示す。
【図面の簡単な説明】
【0099】
図1】実施例2に従って生成された、本発明による触媒装置及び比較装置による、モデル排気ガスを用いた、例示的な実施形態3によるSCR反応の結果をグラフ形態で示す図である。
図2】実施例2に従って生成された、本発明による触媒装置及び比較装置による、モデル排気ガスを用いた、例示的な実施形態3によるSCR反応の結果をグラフ形態で示す図である。
図3】実施例2に従って生成された、本発明による触媒装置及び比較装置による、モデル排気ガスを用いた、例示的な実施形態3によるSCR反応の結果をグラフ形態で示す図である。
図4】実施例2に従って生成された、本発明による触媒装置及び比較装置による、モデル排気ガスを用いた、例示的な実施形態3によるSCR反応の結果をグラフ形態で示す図である。
図5】実施例2に従って生成された、本発明による触媒装置及び比較装置による、モデル排気ガスを用いた、例示的な実施形態3によるSCR反応の結果をグラフ形態で示す図である。
図6】排気ガスのそれぞれのNO及びNO含有量に対する転化率の依存性を示す図である。
図7】排気ガスのそれぞれのNO及びNO含有量に対する転化率の依存性を示す図である。
【0100】
例示的な実施形態
予備試験
及び図は、SCR触媒のセリウム含有量に対する、一酸化窒素(図参照)又は二酸化窒素(NO/NOx=75%)(図参照)の転化の依存性を示す。
【0101】
及び図
基準=3%のV、4.3%のWO、及び5%のSiOを有する残部TiOからなるSCR触媒
1%酸化セリウム=基準として、ただしTiO/SiOは、最大1%の触媒の酸化セリウム含有量である酸化セリウムによって置換されている
5%酸化セリウム=基準として、ただしTiO/SiOは、最大5%の触媒の酸化セリウム含有量である酸化セリウムによって置換されている
10%酸化セリウム=基準として、ただしTiO/SiOは、最大10%の触媒の酸化セリウム含有量である酸化セリウムによって置換されている
【0102】
触媒を、160g/lのウォッシュコート担持量を有する市販のフロースルー基材上に通常の方法でコーティングし、以下の試験ガス組成で、GHSV=60000 1/hでNOx転化率を測定した。NOx:1000ppm
NO/NOx: 0%(図)又は75%(図
NH: 1100ppm(図)又は1350ppm(図
: 10%
O: 5%
: 残部
【0103】
に示すように、酸化セリウムの含有量が増加するにつれてNOの転化率が低下するが、図では、NO/NOx=75%での転化率は、酸化セリウムの含有量が増加するにつれて改善する。
【0104】
実施例1:コーティング懸濁液(ウォッシュコート)の調製
コーティング懸濁液A(バナジウムSCR)の調製
5重量%の二酸化ケイ素でドープされたアナターゼ形態の市販の二酸化チタンを水中に分散させた。次に、メタタングステン酸アンモニウムの水溶液及びシュウ酸中に溶解したメタバナジン酸アンモニウムを、組成が87.4重量%のTiO、4.6重量%のSiO2、5.0重量%のWO及び3.0重量%のVの触媒が得られるような量で、タングステン又はバナジウム前駆体として添加した。混合物を十分に撹拌し、最終的に、市販の撹拌機ボールミルで均質化し、d90<2μmに粉砕した。
【0105】
コーティング懸濁液B(1%酸化セリウムを含むバナジウムSCR)の調製
5重量%の二酸化ケイ素でドープされたアナターゼ形態の市販の二酸化チタンを水中に分散させた。次に、タングステン前駆体としてメタタングステン酸アンモニウムの水溶液、バナジウム前駆体としてシュウ酸中に溶解したメタバナジン酸アンモニウム、及びセリウム前駆体としての酢酸セリウムの水溶液を、86.4重量%のTiO、4.6重量%のSiO、5.0重量%のWO3、及び3.0重量%のV及び1%のCeOとして計算される組成の触媒が得られるような量で添加した。混合物を十分に撹拌し、最終的に、市販の撹拌機ボールミルで均質化し、d90<2μmに粉砕した。
【0106】
コーティング懸濁液C(Fe SCR、SAR=25)の調製
鉄交換β-ゼオライトに基づいて市販のSCR触媒のためにコーティング懸濁液を調製した。この目的のために、市販のSiO結合剤、市販のベーマイト結合剤(コーティング補助剤として)、硝酸鉄(III)九水和物、及び25のモルSiO/Al比(SAR)を有する市販のβ-ゼオライトを、水中に懸濁させ、これにより、90重量%のβ-ゼオライト及び4.5重量%のFeとして計算された鉄含有量の組成の触媒が結果として得られた。
【0107】
コーティング懸濁液D(Fe-SCR、SAR=10)の調製
鉄交換β-ゼオライトに基づいて市販のSCR触媒のためにコーティング懸濁液を調製した。この目的のために、市販のSiO結合剤、市販のベーマイト結合剤(コーティング補助剤として)、硝酸鉄(III)九水和物、及び10のモルSiO/Al比(SAR)を有する市販のβ-ゼオライトを、水中に懸濁させ、これにより、90重量%のβ-ゼオライト及び4.5重量%のFeとして計算された鉄含有量の組成の触媒が結果として得られた。
【0108】
実施例2:触媒装置の準備
セラミック基材をコーティング懸濁液A~Dでコーティングすることにより、様々な触媒装置を準備した。両端が開いている平行な流路を有する従来のセラミックモノリス(フロースルー基材)を基材として使用した。この場合、各基材に第1及び第2の層(S1、S2)を適用し、各層を2つの隣接するゾーン(Z1、Z2)に細分化した。精製される排気ガスは、触媒装置内への流れ方向で、すなわち、上層2を介して、ゾーン1からゾーン2へと流れる。スキーム1では、触媒装置の構造は、2つの層及び2つのゾーンに位置する4つの触媒領域とともに示される。
【0109】
スキーム1:例示的な実施形態に従って生成された触媒装置の概略構造
流れ方向→
【0110】
【表1】
【0111】
使用したコーティング懸濁液A~Dの組成及び量を、以下の表1にまとめる。表はまた、どの触媒層S1及びS2並びにゾーンZ1及びZ2が適用されたかを示す。触媒VK1及びVK3は、比較触媒である。
【0112】
最初に、入口側から出発して、分散体A~Dのうちの1つを、従来のディップ法により、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、セル壁の厚さは0.17ミリメートル、長さは76.2mmである市販のフロースルー基材の領域Z1S1の長さにわたって塗布した。部分的にコーティングされた成分を最初に120℃で乾燥させた。次に、出口側から開始して、分散体A~Dのうちの1つを、同一方法で領域Z2S1の長さにわたって塗布した。次いで、コーティングされた成分を120℃で乾燥させ、15分間350℃で乾燥させ、次いで、600℃で3時間焼成した。分散体及びウォッシュコート担持量が、領域Z1S1及びZ2S1において同一である場合、分散体A~Dのうちの1つを、従来のディップ法により、1平方センチメートル当たり62個のセルを有し、その全長76.2mmにわたって、セル壁の厚さは0.17ミリメートルである市販のフロースルー基材に塗布した。次いで、120℃で乾燥させ、15分間350℃で乾燥させ、次いで、600℃で3時間焼成した。
【0113】
次いで、入口側から出発して、このようにして焼成された成分を、上述の方法に従って、領域Z1S2の長さにわたって、懸濁液A~Dのうちの1つを用いてコーティングし、120℃で乾燥させた。上述した工程は、領域Z1S2にコーティングが施されていない場合はスキップした。次いで、出口側から開始して、懸濁液A~Dのうちの1つを使用して、コーティングを領域Z2S2の長さにわたって塗布した。次いで、120℃で乾燥させた。上述した工程は、領域Z2S2にコーティングが施されていない場合はスキップした。次いで、15分間350℃で乾燥させ、次いで、600℃で3時間焼成した。分散体及びウォッシュコート担持量が、領域Z1S2及びZ2S2において同一である場合、分散体A~Dのうちの1つを、上記の方法により、76.2mmの成分の全長にわたって塗布した。次いで、120℃で乾燥させ、15分間350℃で乾燥させ、次いで、600℃で3時間焼成した。
【0114】
表1:第1及び第2の層(S1、S2)並びに第1及び第2のゾーン(Z1、Z2)にコーティング懸濁液A~Dを有する触媒装置の準備。これは、各場合における、乾燥、焼成及び熱処理後の4つの領域(S1Z1~S2Z2)の各々における総量(g/l)、及びまた触媒装置の全長に基づくゾーンの長さ(%)を示す。触媒VK1~VK4は、比較触媒である。
【0115】
【表2】
【0116】
記載された方法の代替として、上述のゾーンZ1及びZ2に対応する2つの触媒(Z1、Z2)を準備し、1つずつ2つの触媒を試験する(Z1の後にZ2)ことも可能である。
【0117】
触媒Z1:最初に、分散体A~Dのうちの1つを、長さZ1の基材の全長(Z1S1領域)にわたって塗布し、120℃で乾燥させ、次いで、15分間350℃で乾燥させ、次いで、600℃で3時間焼成する。そのように意図される場合、分散体A~Dのうちの1つを、このようにして得られた成分の全長(Z1S2領域)にわたって塗布し、次いで、15分間350℃で[乾燥]させ、次いで、600℃で3時間焼成する。
【0118】
触媒Z2:最初に、分散体A~Dのうちの1つを、長さZ2の基材の全長(Z2S1領域)にわたって塗布し、120℃で乾燥させ、次いで、15分間350℃で乾燥させ、次いで、600℃で3時間焼成する。そのように意図される場合、次に、分散体A~Dのうちの1つを、このようにして得られた成分の全長(Z2S2領域)にわたって塗布し、次いで、15分間350℃で[乾燥]させ、次いで、600℃で3時間焼成する。
【0119】
実施例3:SCRによる窒素酸化物の還元
測定方法
実施例2に従って準備した触媒装置を、窒素酸化物の選択触媒還元におけるそれらの活性及び選択性について試験した。その際、亜酸化窒素転化率は、SCR活性及び亜酸化窒素の形成の尺度として、様々な規定温度で測定した(触媒の入口側で測定)。入口側に、とりわけ、予め設定された比率のNO、NH、NO、及びOを含有するモデル排気ガスを導入した。窒素酸化物転化率は、石英ガラス製の反応器内で測定した。L=3インチ及びD=1インチを有するドリルコアを、定常状態条件下で190~550℃で試験した。以下にまとめる試験条件下で測定を行った。GHSVは、ガス空間速度(ガス流量:触媒体積)である。測定シリーズTP1及びTP2の条件を以下にまとめる。
【0120】
試験パラメータセットTP1:
以下の合成ガス組成でのガス空間速度GHSV=60000 1/h
1000vppm NO、1100vppm NH、0vppm N
a=xNH/xNO=1.1
xNO=xNO+xNO+XNO、[式中、各場合において、xは、10体積%のO、5体積%のHO、残部Nの濃度(vppm)を意味する。]
【0121】
試験パラメータセットTP2
以下の合成ガス組成でのGHSV=60000 1/h
250vppm NO、750vppm NO、1350vppm NH、0vppm N
a=xNH/xNO=1.35
xNO=xNO+xNO+xNO、[式中、各場合において、xは、10体積%のO、5体積%のHO、残部Nの濃度(vppm)を意味する。]
【0122】
亜酸化窒素濃度(一酸化窒素、二酸化窒素、亜酸化窒素)を触媒装置の下流で測定した。各温度測定点についての触媒装置上の窒素酸化物転化率は、モデル排気ガス中に設定された窒素酸化物含有量から(これは、特定の試験の開始時の調整中に、プレ触媒排気ガス分析により検証された)、及び触媒装置後の測定された窒素酸化物含有量から(xは、それぞれの場合、vppmの濃度)、以下のように計算された。
NOx[%]=(1-Xoutput(NO)/Xinput(NO))×100[%]
及び
input(NO)=Xinput(NO)+Xinput(NO
output(NO)=Xoutput(NO)+Xoutput(NO)+2×Xoutput(NO)。
化学量論を考慮して、Xoutput(NO)を係数2で重み付けした。
【0123】
触媒のエージングが結果に影響する方法を決定するために、触媒装置を、ガス雰囲気(10%O、10%HO、残部N)中で、580℃で100時間水熱エージングした。次に、上記の方法に従って、窒素酸化物の転化率を求めた。
【0124】
結果
モデル排気ガスが窒素酸化物としてNOのみを含有した測定シリーズTP1の結果を表2にまとめる。モデル排気ガスが窒素酸化物としてNO及びNOを比1:3で含有した測定シリーズTP2の結果を表3にまとめる。各場合において、表は、実施例2(表1)による触媒を使用したことを示す。定義された各温度値について、初期濃度の何パーセントのNOxが除去されたかを示している。表3はまた、各温度値2~7について、触媒後の各温度値でどのぐらいの絶対量のNOが測定されたかを明記している。図1~5では、結果はまた、比較のためにグラフで示されている。表4及び表5は、エージング後の触媒装置による試験の条件及び結果についてまとめている。
【0125】
図1a、図1bは、バナジウム触媒を有する第1の上層が鉄交換ゼオライトを有する第2の下層上に重なる、本発明による触媒K1及びK2が、鉄交換ゼオライトを有する層が酸化バナジウム層上に重なる、比較触媒VK1よりも著しく効率的に窒素酸化物を除去することを示す。この効果は、約400℃未満の温度で特に顕著である。効果は、66.7%の高いNO含有量を有するモデル排気ガスの場合であっても得られる(図1b)。図1cは、触媒VK1と比較して、本発明による触媒K1及びK2を用いると、形成されるNOが著しく少ないことを示す。この効果はまた、400℃未満の温度で特に顕著である。
【0126】
触媒K1及びK2は、触媒K2が、酸化バナジウムに加えて、第1の上層に酸化セリウムを含有するという点で異なる。結果は、特に350℃未満の温度範囲において、酸化セリウムを添加することによって更なる改善が達成され、NOxの除去の更なる改善、及びNOの形成の更なる低減の両方を示す。
【0127】
図2では、本発明による従来の触媒VK1並びに触媒K1、K3、K4、及びK5の更なる比較が、グラフ形態で示されており、本発明による触媒は、上層及び下層で使用される触媒の量に関して異なる。結果は、触媒の量のかなりの変動を伴っても、有意な効果が達成されることを示す。触媒K1は、NOの形成を防止する最も顕著な効果を示す(図2c)。
【0128】
図3は、本発明による従来の触媒VK1と触媒K3及びK6との比較を示す。図3はまた、本発明による触媒が、NOの形成を著しく低減しながらNOxを大幅により効率的に除去することを示す。
【0129】
図4は、上述の人工のエージングプロセスに供された触媒装置の結果を示す。図4は、本発明による従来の触媒VK1と触媒K1及びK2との比較を示す。結果は、エージング後であっても、本発明による触媒は、NOxを著しくより効率的に枯渇させ、NOの形成を比較触媒よりも低減することを示す。
【0130】
この試験はまた、バナジウム触媒中に酸化セリウムを有することの利点が、特にエージング後に特に顕著であることを示す。酸化セリウムを添加する場合、比較触媒と比較するだけでなく触媒K1とも比較した場合の触媒K2のより有意な改善が、NOxの枯渇及び亜酸化窒素の防止の両方において見出される。
【0131】
図5は、本発明による触媒K1、K4、及びK5並びに比較触媒VK1のエージングプロセス後の触媒で得られた更なる結果を示す。図5はまた、NOx枯渇及び亜酸化窒素の形成の防止に関する、エージング後の本発明による触媒の顕著な改善を示す。
【0132】
比較触媒VK3の場合、2つの触媒は、互いに重なり合う層ではないが、排気ガスが最初に入口側の鉄含有ゼオライトを有するゾーンに入り、次いで、バナジウム触媒を有する出口側ゾーンに通過する。表2及び表3にまとめられた結果は、このような比較触媒が、NOに富んだ排気ガスとNOに富んだ排気ガスとの両方を有するNOxの転化率が比較的低いことを示すだけでなく、亜酸化窒素がより多く形成されることを示している。
【0133】
全体として、この実験は、酸化バナジウム層が鉄を含有するゼオライト層上に配置されている本発明によるSCR触媒が、NOxの除去及び亜酸化窒素の形成の防止に有意な改善をもたらすことを示す。本発明による触媒装置は、NOに富んだ排気ガスとの反応だけでなく、NOに富んだ排気ガスの処理にも好適である。NOに富んだ排気ガスとの利点は、450℃未満又は350℃未満の温度範囲で特に顕著である。したがって、本発明による触媒装置は、いくつかの有利な特性、すなわち、約180℃~500℃の温度範囲、特に低温での、NOに富んだ排気ガスとの高効率性と、NOに富んだ排気ガスとの高効率性と、亜酸化窒素の形成の防止とを組み合わせる。この効果は、新たに準備された触媒及びエージングプロセス後の両方で明白である。酸化セリウムがバナジウム触媒に添加される場合、この効果は、更に改善され得、これは、エージングした触媒の場合に特に有利である。
【0134】
表2:異なる実際に測定された温度1~8での異なる触媒装置によるNOの低減の条件及び結果(試験TP1)。触媒装置出口におけるNOxの枯渇は、使用される初期量に基づいて%で示される。
【0135】
【表3】
【0136】
表3:異なる実際に測定された温度での比3:1におけるNO:NOの低減の試験条件及び結果(試験TP2)。測定2~7については、触媒装置出口におけるNOxの枯渇は、使用される初期量に基づいて%で示され、触媒装置出口におけるNOの測定値は、ppmで示される。
【0137】
【表4】
【0138】
表4:異なる実際に測定された温度1~8でのエージング後の異なる触媒装置によるNOの低減の条件及び結果(試験TP1)。触媒装置出口におけるNOxの枯渇は、使用される初期量に基づいて%で示される。
【0139】
【表5】
【0140】
表5:異なる実際に測定された温度でのエージング後の異なる触媒装置による比3:1のNO:NOの低減の試験条件及び結果(試験TP2)。測定2~7については、触媒装置出口におけるNOxの枯渇は、使用される初期量に基づいて%で示され、触媒装置出口におけるN2Oの測定値は、ppmで示される。
【0141】
【表6】
図1a
図1b
図1c
図2a
図2b
図2c
図3a
図3b
図3c
図4a
図4b
図4c
図5
図6
図7