(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-10-03
(45)【発行日】2022-10-12
(54)【発明の名称】窒素含有生体ポリマー系触媒、それらの調製方法、ならびに水素化法、還元的脱ハロゲン、および酸化におけるその使用
(51)【国際特許分類】
B01J 27/24 20060101AFI20221004BHJP
B01J 37/04 20060101ALI20221004BHJP
C07C 209/36 20060101ALI20221004BHJP
C07C 211/45 20060101ALI20221004BHJP
C07C 213/02 20060101ALI20221004BHJP
C07C 217/90 20060101ALI20221004BHJP
C07C 227/04 20060101ALI20221004BHJP
C07C 229/40 20060101ALI20221004BHJP
C07C 221/00 20060101ALI20221004BHJP
C07C 225/22 20060101ALI20221004BHJP
C07C 229/60 20060101ALI20221004BHJP
C07C 303/40 20060101ALI20221004BHJP
C07C 311/08 20060101ALI20221004BHJP
C07C 231/12 20060101ALI20221004BHJP
C07C 233/65 20060101ALI20221004BHJP
C07C 39/16 20060101ALI20221004BHJP
C07C 37/00 20060101ALI20221004BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20221004BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221004BHJP
C07F 15/06 20060101ALN20221004BHJP
C08B 37/08 20060101ALN20221004BHJP
【FI】
B01J27/24 Z
B01J37/04 102
C07C209/36
C07C211/45
C07C213/02
C07C217/90
C07C227/04
C07C229/40
C07C221/00
C07C225/22
C07C229/60
C07C303/40
C07C311/08
C07C231/12
C07C233/65
C07C39/16
C07C37/00
B01J37/08
C07B61/00 300
C07F15/06
C08B37/08 A
(21)【出願番号】P 2019533089
(86)(22)【出願日】2017-12-18
(86)【国際出願番号】 EP2017083276
(87)【国際公開番号】W WO2018114777
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-12-17
(32)【優先日】2016-12-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100102118
【氏名又は名称】春名 雅夫
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】バッハマン シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ベレール マティアス
(72)【発明者】
【氏名】フォルメンティ ダリオ
(72)【発明者】
【氏名】ユンゲ カトリン
(72)【発明者】
【氏名】サフー バスーデブ
(72)【発明者】
【氏名】スカローン ミケランジェロ
(72)【発明者】
【氏名】トプフ クリストフ
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104857982(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104174421(CN,A)
【文献】特開2015-150555(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104071771(CN,A)
【文献】Chemelectrochem,2015年,vol.2,p.1806-1812,Supporting Informationのp1-4,DOI:10.1002/celc.201500199
【文献】Angewandte Chemie International Edition,2016年,vol.55,p.11849 -11853,DOI:10.1002/anie.201605961
【文献】Ind.Eng.Chem.Res,2003年,vol.42,p.5968-5976
【文献】ChemCatChem,2016年,vol.8,p.129 -134,DOI:10.1002/cctc.201500848
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C08B 37/08
C07B 61/00
C07F 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有生体ポリマー系水素化触媒の調製方法であって、以下の段階を含む、方法:
(a)溶媒としてアルコールの存在下で、ニッケルまたはコバルトから選択される遷移金属を含む金属前駆体を、キトサンまたはキチンから選択される窒素含有生体ポリマーと混合して、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を得る段階;
(b)該窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を乾燥する段階;および
(c)該窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、不活性ガス雰囲気下、550℃~850℃の範囲の温度で熱分解して、窒素含有生体ポリマー系水素化触媒を得る段階。
【請求項2】
金属前駆体が、コバルトから選択される遷移金属を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
金属前駆体が、
酢酸塩、臭化物、塩化物、ヨウ化物、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、水酸化物、硝酸塩、ニトロシル硝酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される、金属塩、または
金属キレート
である、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
金属前駆体が、アセチルアセトネートキレートである、請求項1~3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
溶媒が、エタノール
である、請求項1~4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
窒素含有生体ポリマーが、キトサンから選択される、請求項1~5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
熱分解の時間が10分から3時間の範囲である、請求項1~6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
窒素含有生体ポリマー系水素化触媒が、コバルトまたはニッケル粒子および少なくとも1つの窒素含有炭素層を含む、請求項1~7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
窒素含有生体ポリマー系水素化触媒が、2~100の窒素含有炭素層を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
窒素含有炭素層がグラファイト窒素、ピリジン窒素および/またはピロール窒素を含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか一項記載の方法において産生された窒素含有生体ポリマー系水素化触媒を使用する段階を含む、ニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法、または、XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化のための方法。
【請求項12】
ニトロアレンの水素化のための請求項11記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、窒素含有生体ポリマー系触媒の新規調製方法およびこの方法によって得ることができる新規窒素含有生体ポリマー系触媒に関する。特に、本発明は、金属粒子および少なくとも1つの窒素含有炭素層を含む、新規窒素含有生体ポリマー系触媒に関する。本発明は、水素化法、好ましくはニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法;XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、好ましくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法もしくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法;または酸化法における、窒素含有生体ポリマー系触媒の使用にも関する。さらに、本発明は、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体であって、金属が、マンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウムおよび白金からなる群より選択される遷移金属であり、かつ窒素含有生体ポリマーが、キトサン、キチンおよびポリアミノ酸から選択される、金属錯体に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
水素化触媒は、様々な化学化合物の合成に必要な中間化合物の調製のために広く用いられる。最も多くの場合、工業的水素化は不均一系触媒に頼っている。
【0003】
US 8,658,560 B1(特許文献1)は、ニトロベンゼンからアニリンを調製するための水素化触媒を記載しており、これは担体上にパラジウムおよび亜鉛を含む。
【0004】
US 2012/0065431 A1(特許文献2)は、銅触媒を二酸化ケイ素(SiO2)を含む支持体と共に用いて、対応する芳香族ニトロ化合物を接触水素化することによる芳香族アミンの調製を提示している。触媒の調製は、湿式粉砕と、続く噴霧乾燥によるSiO2の調製を必要とする。
【0005】
US 2004/0176619 A1(特許文献3)は、対応する炭水化物の接触水素化による糖アルコール調製のための、支持材料としての非晶質二酸化ケイ素上でのルテニウム触媒の使用を記載している。
【0006】
WO 02/30812 A2(特許文献4)は、支持材料としての酸化アルミニウム上にニッケルを含む触媒を用いての、水素化脱ハロゲン法を記載している。
【0007】
したがって、水素化法、例えば、ニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法;XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、好ましくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法もしくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法;または酸化法における使用に適した、新規代替触媒が必要とされている。特に、触媒、好ましくは高い金属含有量および高い窒素含有量を有する水素化触媒が必要である。さらに、二酸化ケイ素、酸化アルミニウムまたは炭素などの、任意の追加の支持材料なしで使用し得る水素化触媒への関心が高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】US 8,658,560 B1
【文献】US 2012/0065431 A1
【文献】US 2004/0176619 A1
【文献】WO 02/30812 A2
【発明の概要】
【0009】
本発明は、1つの局面において、窒素含有生体ポリマー系触媒の調製方法に関し、方法は以下の段階を含む:
(a)溶媒存在下で金属前駆体を窒素含有生体ポリマーと混合して、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を得る段階;
(b)適切な場合、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を乾燥する段階;および
(c)窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、不活性ガス雰囲気下、500℃~900℃の範囲の温度で熱分解して、窒素含有生体ポリマー系触媒を得る段階。
【0010】
本発明の方法の1つの態様において、金属前駆体は遷移金属を含む。
【0011】
本発明の方法のもう1つの態様において、金属前駆体はマンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅からなる群より選択される遷移金属を含む。
【0012】
本発明の方法の好ましい態様において、金属前駆体はマンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群より選択される遷移金属を含む。特に好ましい遷移金属はコバルトまたはニッケル、より好ましくはコバルトである。
【0013】
本発明の方法のもう1つの態様において、金属前駆体は、好ましくは酢酸塩、臭化物、塩化物、ヨウ化物、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、水酸化物、硝酸塩、ニトロシル硝酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される、金属塩、または金属キレート、好ましくはアセチルアセトネートキレートである。
【0014】
本発明の方法のもう1つの態様において、溶媒は、好ましくはエタノールであるアルコールおよび水からなる群より選択されるか、またはその混合物である。
【0015】
もう1つの態様において、窒素含有生体ポリマーはキトサン、キチン、またはポリアミノ酸から選択される。特に好ましい窒素含有生体ポリマーはキトサンまたはキチン、好ましくはキトサンである。
【0016】
本発明の方法のもう1つの態様において、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、550℃~850℃の範囲の温度、好ましくは600℃~800℃の範囲の温度で熱分解する。
【0017】
本発明の方法のもう1つの態様において、熱分解の時間は10分から3時間の範囲、好ましくは熱分解の時間は1時間~2時間の範囲である。
【0018】
もう1つの局面において、本発明は、本明細書で定義されている方法に従って得ることができる窒素含有生体ポリマー系触媒に関する。
【0019】
もう1つの局面において、本発明は、金属粒子および少なくとも1つの窒素含有炭素層を含む、窒素含有生体ポリマー系触媒に関する。
【0020】
1つの態様において、金属粒子は金属性および/または酸化金属粒子、好ましくは金属および/または酸化マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金または銅粒子を含む。
【0021】
好ましい態様において、金属粒子は金属および/または酸化マンガン、鉄、コバルト、ニッケルまたは銅粒子を含む。
【0022】
特に好ましい態様において、金属粒子は金属および/または酸化コバルトまたはニッケル粒子、さらにより好ましくはコバルト粒子である。
【0023】
1つの態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒は2~100の窒素含有炭素層を含む。
【0024】
1つの態様において、窒素含有炭素層はグラファイト窒素、ピリジン窒素および/またはピロール窒素を含む。
【0025】
1つの態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒の金属含有量は0.5重量%~20重量%の範囲である。
【0026】
もう1つの局面において、本発明は、水素化法、好ましくはニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法;XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、好ましくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法もしくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法;または酸化法における、窒素含有生体ポリマー系触媒の使用に関する。
【0027】
もう1つの局面において、本発明は、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で実施する水素化の方法、XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化の方法、または酸化の方法に関する。
【0028】
1つの態様において、水素化の方法は、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で、ニトロアレン、ニトリルまたはイミンを水素ガスと接触させる段階を含む。
【0029】
1つの態様において、還元的脱ハロゲン化の方法は、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で、有機ハロゲン化物を水素ガスと接触させる段階を含む。
【0030】
もう1つの局面において、本発明は、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体であって、金属が、マンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅からなる群より選択される遷移金属であり、かつ窒素含有生体ポリマーが、キトサン、キチンおよびポリアミノ酸から選択される、金属錯体に関する。
【0031】
本発明の金属錯体の好ましい態様において、金属はコバルト(II)またはニッケル(II)であり、かつ窒素含有生体ポリマーはキトサン、キチンまたはポリアミノ酸から選択される。好ましくは、窒素含有生体ポリマーはキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサンである。
【0032】
本明細書で定義されている本発明の異なる局面の任意の態様、例えば、窒素含有生体ポリマー系触媒の調製方法、窒素含有生体ポリマー系触媒、窒素含有生体ポリマー系触媒の使用、水素化および酸化の方法、ならびに窒素含有生体ポリマーとの金属錯体の任意の組み合わせは、本発明の範囲内であると考えられる。
[本発明1001]
窒素含有生体ポリマー系触媒の調製方法であって、以下の段階を含む、方法:
(a)溶媒存在下で金属前駆体を窒素含有生体ポリマーと混合して、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を得る段階;
(b)適切な場合、該窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を乾燥する段階;および
(c)該窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、不活性ガス雰囲気下、500℃~900℃の範囲の温度で熱分解して、窒素含有生体ポリマー系触媒を得る段階。
[本発明1002]
金属前駆体が遷移金属を含む、本発明1001の方法。
[本発明1003]
金属前駆体が、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅からなる群より選択される遷移金属、好ましくはニッケルまたはコバルト、より好ましくはコバルトを含む、本発明1001または1002の方法。
[本発明1004]
金属前駆体が、
好ましくは酢酸塩、臭化物、塩化物、ヨウ化物、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、水酸化物、硝酸塩、ニトロシル硝酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される、金属塩、または
好ましくはアセチルアセトネートキレートである、金属キレート
である、本発明1001~1003のいずれかの方法。
[本発明1005]
溶媒が、好ましくはエタノールであるアルコールおよび水からなる群より選択されるか、またはその混合物である、本発明1001~1004のいずれかの方法。
[本発明1006]
窒素含有生体ポリマーが、キトサン、キチン、またはポリアミノ酸から、好ましくはキトサンまたはキチンから、より好ましくはキトサンから選択される、本発明1001~1005のいずれかの方法。
[本発明1007]
窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、550℃~850℃の範囲の温度、好ましくは600℃~800℃の範囲の温度で熱分解する、本発明1001~1006のいずれかの方法。
[本発明1008]
熱分解の時間が10分から3時間の範囲、好ましくは熱分解の時間が1時間~2時間の範囲である、本発明1001~1007のいずれかの方法。
[本発明1009]
本発明1001~1008のいずれかの方法に従って得ることができる、窒素含有生体ポリマー系触媒。
[本発明1010]
金属粒子および少なくとも1つの窒素含有炭素層を含む、窒素含有生体ポリマー系触媒。
[本発明1011]
金属粒子が、金属性および/または酸化金属粒子、好ましくは金属および/または酸化マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金または銅粒子、好ましくはコバルトまたはニッケル粒子、より好ましくはコバルト粒子を含む、本発明1010の窒素含有生体ポリマー系触媒。
[本発明1012]
2~100の窒素含有炭素層を含む、本発明1010または1011の窒素含有生体ポリマー系触媒。
[本発明1013]
窒素含有炭素層がグラファイト窒素、ピリジン窒素および/またはピロール窒素を含む、本発明1012の窒素含有生体ポリマー系触媒。
[本発明1014]
水素化法、好ましくはニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法;XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、好ましくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法もしくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法;または酸化法における、本発明1009~1013のいずれかの窒素含有生体ポリマー系触媒の使用。
[本発明1015]
本発明1009~1013のいずれかの窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で実施される、水素化の方法、XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化の方法、または酸化の方法。
[本発明1016]
窒素含有生体ポリマーとの金属錯体であって、金属が、マンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、および白金からなる群より選択される遷移金属であり、好ましくは金属がコバルト(II)またはニッケル(II)であり、かつ窒素含有生体ポリマーが、キトサン、キチンおよびポリアミノ酸から、好ましくはキトサンまたはキチンから選択される、金属錯体。
[本発明1017]
窒素含有ポリマーがキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサンであり、かつ遷移金属がコバルト(II)またはニッケル(II)、より好ましくはコバルト(II)である、本発明1016の窒素含有生体ポリマーとの金属錯体。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】CoO
x@Chit-700触媒の高分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)像を示す;
図1(a)、1(b)、1(c)、1(e)および1(f)は、CoO
x@Chit-700触媒の環状明視野(ABF)像を示す。
図1(d)は、CoO
x@Chit-700触媒のコバルト複合材の高角度環状暗視野(HAADF)像を示す。
【
図2】
図2(a)、2(c)、2(d)、2(e)および2(f)は、CoO
x@Chit-700触媒のエネルギー分散型X線分光(EDXS)像を示す。
図2(b)は、CoO
x@Chit-700触媒の高分解能ABF(HR-ABF)像を示す。
【
図3A】
図3A~3Cは、CoO
x@Chit-700触媒のXPSスペクトルを示す。
図3Aは、C1s XPSスペクトルを示す。
【
図3B】
図3A~3Cは、CoO
x@Chit-700触媒のXPSスペクトルを示す。
図3Bは、N1s xPSスペクトルを示す。
【
図3C】
図3A~3Cは、CoO
x@Chit-700触媒のXPSスペクトルを示す。
図3Cは、Co2p XPSスペクトルを示す。
【
図4A】純粋なキトサンのX線光電子分光法(XPS)比較スペクトルを示す。
【
図4B】純粋なキトサンのX線光電子分光法(XPS)比較スペクトルを示す。
【
図5】CoO
x@Chit-700触媒のX線回折(XRD)スペクトルを示す。
【
図6】CoO
x@Chit-700触媒によるニトロアレンの水素化を1~5回実行した後の収率および選択性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
発明の詳細な説明
窒素含有生体ポリマー系触媒の新規調製方法および該方法に従って得ることができる新規窒素含有生体ポリマー系触媒
前述のとおり、水素化法、例えば、ニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法;XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、好ましくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法もしくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法;または酸化法における使用に適した、新規代替触媒が必要とされている。特に、触媒、好ましくは高い金属含有量および高い窒素含有量を有する水素化触媒が必要である。さらに、二酸化ケイ素または炭素などの、任意の追加の支持材料なしで使用し得る水素化触媒への関心が高い。
【0035】
本発明の課題は、したがって、前述の所望の特性を有する、新規代替触媒、好ましくは水素化触媒を提供することであった。
【0036】
1つの局面において、本発明は、窒素含有生体ポリマー系触媒の調製方法を提供し、方法は以下の段階を含む:
(a)溶媒存在下で金属前駆体を窒素含有生体ポリマーと混合して、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を得る段階;
(b)適切な場合、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を乾燥する段階;および
(c)窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、不活性ガス雰囲気下、500℃~900℃の範囲の温度で熱分解して、窒素含有生体ポリマー系触媒を得る段階。
【0037】
工程段階(a)において出発原料として用いる金属前駆体は市販されており、遷移金属を含む。
【0038】
1つの態様において、遷移金属は、マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅からなる群より選択される。好ましい態様において、遷移金属は、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅からなる群より選択される。この選択は非貴金属による触媒を開発するための特定の必要性に取り組むものである。特に好ましい遷移金属はコバルトまたはニッケルであるが、より好ましくはコバルトである。
【0039】
1つの態様において、金属前駆体は、好ましくは酢酸塩、臭化物、塩化物、ヨウ化物、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヨウ化水素酸塩、水酸化物、硝酸塩、ニトロシル硝酸塩およびシュウ酸塩からなる群より選択される、金属塩、または金属キレート、好ましくはアセチルアセトネートキレートである。
【0040】
好ましい態様において、工程段階(a)において出発原料として用いる金属塩には、Co(OAc)2・4H2O、Co(NO3)2、Co(OH)2、Fe(OAc)2、Cu(acac)2、Ni(OAc)2・4H2OおよびMnCl2が含まれるが、それらに限定されない。特に好ましい態様において、Co(OAc)2・4H2O、Co(NO3)2またはCo(OH)2を、工程段階(a)において出発原料として用いる。最も好ましい金属塩はCo(OAc)2・4H2OまたはNi(OAc)2・4H2Oである。
【0041】
工程段階(a)において出発原料として用いる窒素含有生体ポリマーは市販されており、キトサン、キチンおよびポリリジンなどのポリアミノ酸が含まれるが、それらに限定されない。
【0042】
1つの態様において、工程段階(a)において出発原料として用いる窒素含有生体ポリマーは市販されており、キトサンまたはキチン、好ましくはキトサンに基づく。
【0043】
適切なキトサンは、50,000~190,000Daの範囲の分子量および20~300cPの粘度(1%酢酸中1重量%、25℃、Brookfield)を有する市販の低分子量キトサンである。
【0044】
もう1つの適切なキトサンは、200~800cPの粘度(1%酢酸中1重量%、25℃、Brookfield)を有する市販の中分子量キトサンである。
【0045】
もう1つの適切なキトサンは、310,000~375,000Daの範囲の分子量を有し、800~2000cPの粘度(1%酢酸中1重量%、25℃、Brookfield)を有する市販の高分子量キトサンである。
【0046】
好ましい態様において、エビの殻由来のキトサンを出発原料として用いる。
【0047】
工程段階(a)を実施するために、一般には金属前駆体1mmolあたり5mmol~10mmolのキトサン、好ましくは6mmol~9mmolのキトサン、特に好ましくは6mmol~9mmolのキトサンを用いる。
【0048】
好ましい態様において、Co(OAc)2・4H2O 1mmolあたり8.6mmolのキトサンを用いる。
【0049】
工程段階(a)を実施するのに適した溶媒は、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n-もしくはi-プロパノール、n-、i-、sec-もしくはtert-ブタノール、エタンジオール、プロパン-1,2-ジオール、エトキシエタノール、メトキシエタノール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、その水との混合物、または水である。好ましい態様において、エタノールを溶媒として用いる。
【0050】
工程段階(a)を実施するために、一般には金属前駆体1mmolあたり10mL~70mLの溶媒、例えば、金属前駆体1mmolあたり20mL~60mLの溶媒、または金属前駆体1mmolあたり30mL~50mLの溶媒を用いる。
【0051】
工程段階(a)を実施する際、反応温度は比較的広い範囲内で変動可能である。一般に、工程段階(a)を室温~90℃、例えば、30℃~80℃、40℃~75℃、または50℃~ 70℃の範囲の温度、好ましくは70℃で実施する。
【0052】
工程段階(a)を実施する際、懸濁液を2時間~20時間、例えば、2時間~18時間、3時間~16時間、4時間~10時間、または4時間~6時間、好ましくは4時間撹拌する。
【0053】
本発明の方法の好ましい態様において、工程段階(a)に従って得られる、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体、好ましくはキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサンとの金属錯体を、工程段階(b)において従来技術により、好ましくは減圧下で乾燥する。
【0054】
工程段階(c)を実施する際、一般には、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体、好ましくはキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサンとの金属錯体を、500℃~900℃、例えば、550℃~850℃、600℃~800℃、650℃~750℃の範囲の温度、600℃、700℃または800℃で熱分解して、窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒を得る。特定の好ましい態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒を、700℃で熱分解する。
【0055】
工程段階(c)を実施する際、一般には、熱分解の時間は10分~3時間、例えば、20分~2.5時間、例えば、40分~2時間の範囲である。
【0056】
工程段階(c)の好ましい態様において、アルゴン雰囲気下で熱分解を実施する。
【0057】
一般に、工程段階(a)および(c)は大気圧下で実施する。しかし、高圧下または減圧下、一般には10kPa(0.1バール)~1000kPa(10バール)の間で操作することも可能である。
【0058】
本発明の方法は一般に、以下の手順に従って実施する:金属塩を溶媒に溶解する。次いで、市販の窒素含有生体ポリマー、好ましくはキトサンまたはキチン、特に好ましくはエビの殻由来の低粘度のキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で撹拌して、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体、好ましくはキトサンまたはキチンとの金属錯体、特に好ましくはエビの殻由来の低粘度のキトサンとの金属錯体を得る(工程段階(a))。
【0059】
続いて、低速ロータリーエバポレーションにより溶媒を除去し、残存する固体の窒素含有生体ポリマーとの金属錯体、好ましくはキトサンまたはキチンとの金属錯体、特に好ましくはエビの殻由来の低粘度のキトサンとの金属錯体を減圧下、60℃で乾燥して、窒素含有生体ポリマーとの乾燥金属錯体、好ましくはキトサンまたはキチンとの乾燥金属錯体、特に好ましくはエビの殻由来のキトサンとの乾燥金属錯体を得る(工程段階(b))。
【0060】
最後に、窒素含有生体ポリマーとの乾燥金属錯体、好ましくはキトサンまたはキチンとの乾燥金属錯体、特に好ましくはエビの殻由来のキトサンとの乾燥金属錯体をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、500℃~900℃の範囲の温度で熱分解して、本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくは本発明のキトサンまたはキチン系触媒、特に好ましくは本発明のエビの殻由来のキトサン系触媒を得る(工程段階(c))。
【0061】
本発明の方法を、例えば、以下のスキーム1に示すとおりに実施してもよい。
【0062】
【0063】
本発明の方法が、高い金属含有量および同時に高い窒素含有量を有する、窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒、特に好ましくはエビの殻由来のキトサン系触媒を生じることは、非常に驚くべきことである。
【0064】
さらに、意外なことに、窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒は、金属性および/または酸化金属粒子を含む。
【0065】
さらに、金属性金属粒子は、酸化金属によってグラファイト炭素マトリックス内に部分的に包まれていることが、予想外に判明した。したがって、前記グラファイト炭素マトリックスにより、本発明の方法は、任意の追加の支持材料なしで使用し得る、窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサン系触媒を生じる。
【0066】
したがって、もう1つの局面において、本発明は、本明細書に記載の方法に従って得ることができる窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒に関する。
【0067】
したがって、もう1つの局面において、本発明は、金属粒子および少なくとも1つの窒素含有炭素層を含む窒素含有生体ポリマー系触媒に関する。好ましい態様において、本発明は、キトサンまたはキチン系触媒に関する。より好ましくは、キトサン系触媒に関する。窒素含有生体ポリマー系金属粒子において、好ましくは金属ナノ粒子は少なくとも1つの窒素含有炭素層と接触している。
【0068】
1つの態様において、金属粒子は金属性および/または酸化金属粒子、好ましくは金属および/または酸化マンガン、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅粒子を含む。好ましい態様において、金属粒子は金属および/または酸化マンガン、鉄、コバルト、ニッケルおよび銅粒子、より好ましくはコバルトまたはニッケル粒子を含む。特に好ましい態様において、金属粒子は金属および/または酸化コバルト粒子である。
【0069】
1つの態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒は2~100の窒素含有炭素層、例えば、2~80の窒素含有炭素層、2~50の窒素含有炭素層、5~40の窒素含有炭素層を含む。好ましい態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒は5~30の窒素含有炭素層を含む。
【0070】
1つの態様において、窒素含有炭素層はグラファイト窒素、ピリジン窒素および/またはピロール窒素を含む。
【0071】
1つの態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒の金属含有量は、窒素含有生体ポリマー系触媒の総重量の0.5重量%~20重量%の範囲、例えば、3重量%~20 重量%、5重量%~15重量%、または6重量%~15重量%の範囲である。好ましいコバルト粒子では、含有量は好ましくは6重量%~12重量%の範囲、ニッケル粒子では、含有量は8重量%~15重量%の範囲である。
【0072】
600℃、700℃、800℃および900℃の熱分解温度で得られる、本発明のキトサン系触媒の組成は、元素分析によって判定してもよく、以下の表1aに示す。
【0073】
【0074】
700℃および800℃の熱分解温度で得られる、本発明のキチン系触媒の組成は、元素分析によって判定してもよく、以下の表1bに示す。
【0075】
【0076】
金属がマンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅からなる群より選択される遷移金属である、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体を、本発明の方法の工程段階(a)により得てもよい。これらの金属キトサンまたはキチン錯体は新規であり、本発明の主題でもある。
【0077】
したがって、もう1つの局面において、本発明は、金属がマンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金および銅からなる群より選択される遷移金属、好ましくはコバルトまたはニッケル、より好ましくはコバルトであり、かつ窒素含有生体ポリマーがキトサン、キチンおよびポリアミノ酸から選択され、好ましくはキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサンである、窒素含有生体ポリマーとの金属錯体に関する。
【0078】
1つの態様において、本発明の金属錯体において、金属はコバルト(II)であり、かつ窒素含有生体ポリマーはキトサン、キチンおよびポリアミノ酸から選択され、好ましくはキトサンまたはキチン、より好ましくはキトサンである。
【0079】
好ましい態様において、窒素含有生体ポリマー系触媒はコバルト(II)キトサンもしくはキチンまたはニッケル(II)キチンもしくはキトサン錯体、より好ましくはコバルト(II)キトサン錯体である。
【0080】
新規窒素含有生体ポリマー系触媒の使用
さらに、本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒は、水素化法における使用に適していることが判明した。本発明のキトサンまたはキチン系触媒は、ニトロアレン、ニトリルまたはイミンの水素化に特に適していることが判明した。
【0081】
さらに、本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒は、XがCl、BrまたはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法における使用に適していることが判明した。本発明のキトサンまたはキチン系触媒は、有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法または有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法に特に適していることが判明した。
【0082】
加えて、本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒は、酸化法における使用に適していることが判明した。
【0083】
したがって、もう1つの局面において、本発明は、水素化法、好ましくはニトロアレン、ニトリルもしくはイミンの水素化法;XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、好ましくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法もしくは有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法;または酸化法における、窒素含有生体ポリマー系触媒の使用に関する。
【0084】
もう1つの局面において、本発明は、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で実施する水素化の方法、XがCl、BrもしくはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化の方法、または酸化の方法に関する。
【0085】
1つの態様において、水素化の方法は、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で、ニトロアレン、ニトリルまたはイミンを水素ガスと接触させる段階を含む。
【0086】
1つの態様において、還元的脱ハロゲン化の方法は、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒存在下で、有機ハロゲン化物を水素ガスと接触させる段階を含む。
【0087】
水素化法における新規窒素含有生体ポリマー系触媒の使用
好ましい態様において、本発明は、水素化法におけるキトサンまたはキチン系触媒の使用に関する。
【0088】
水素化法は、実施者ごとに変動する。本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒は、水素化法のすべての特定の型に適用可能であると考えられる。
【0089】
窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒は、本明細書に記載のこれらを用いる方法の記載によって限定されるべきではない。
【0090】
一般に、水素化法は大気圧を超える水素圧、例えば、少なくとも1000kPa(10バール)、好ましくは少なくとも2000kPa(20バール)、特に少なくとも4000kPa(40バール)の水素分圧で実施する。一般に、水素分圧は50000kPa(500バール)、特に35000kPa(350バール)の値を超えない。水素分圧は特に好ましくは4000kPa(40バール)~20000kPa(200バール)の範囲である。水素化反応は一般に、少なくとも40℃の温度で実施する。特に、水素化法は80℃~150℃の範囲の温度で実施する。水素化法の工程条件は当業者には周知である。
【0091】
ニトロアレンの水素化
1つの態様において、本明細書で定義されている本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒を、特にアニリンをニトロベンゼンから調製するため、または置換アニリンをそれぞれの置換ニトロベンゼンから調製するために、ニトロアレンの水素化法において用いる。
【0092】
1つの局面において、本発明は、芳香族アミノ化合物を調製する方法であって、本明細書で定義されている本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒存在下で、ニトロアレンを水素ガスと反応させる段階を含む、方法に関する。さらに、窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒は、ニトロ化合物から任意の芳香族アミノ化合物、例えば、任意の種類の製品の中間体、例えば、薬学的薬物または植物保護製品、を調製するのに適している。窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒を、薬学的薬物または駆除剤の調製のために直接用いてもよい。
【0093】
本明細書において用いられる「ニトロアレン」なる用語は、置換および無置換ニトロアレンを含む。
【0094】
スキーム2は、置換ニトロアレンを本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサンまたはキチン系触媒、例えば、本発明のCo-Co3Co4@Chit-700触媒と反応させた場合の、置換ニトロアレンの変換率および反応時間を示す。スキーム2に示すとおり、エタノールおよび水の混合物中、水素ガス、本発明のCo-Co3Co4@Chit-700触媒およびトリエチルアミン存在下で、置換ニトロアレンを水素化してもよい。
【0095】
【0096】
例えば、薬学的薬物を、ニトロアレンであるニメスリドおよびフルタミドの水素化によって得てもよい。
【0097】
【0098】
さらに、驚くべきことに、スキーム4に示す反応条件下での本発明のCoOx@Chit-700触媒によるニトロベンゼンの水素化の選択性は、5回の実行を通して一定であることが判明した。
【0099】
スキーム4:CoO
x@Chit-700触媒によるニトロベンゼンの水素化:再循環実験。
【0100】
ニトロベンゼンの水素化のこれらの再循環実験の結果を、
図6の棒グラフにまとめている。
図6は、CoO
x@Chit-700触媒によるニトロベンゼンの水素化を1~5回実行した後の収率および選択性を示す。CoO
x@Chit-700触媒によるニトロベンゼンの水素化の収率は、5回の実行を通して一定であることが判明した。さらに、CoO
x@Chit-700触媒によるニトロベンゼンの水素化の選択性も、3回の実行を通して一定である。
【0101】
還元的脱ハロゲン化法
XがCl、BrまたはIである、C-X結合の還元的脱ハロゲン化法、例えば、有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化法または有機ハロゲン化物の脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識法は、化学および薬学産業において多くの適用を有する。
【0102】
例えば、有機ハロゲン化物は、接着剤、エアロゾル、様々な溶媒、薬剤、駆除剤および防炎剤における使用、ならびに反応媒質としての使用を含む、広範な適用を有する。しかし、多くの有機ハロゲン化物は、ヒトの健康および環境に対して比較的低濃度で有毒であり得る。この毒性の可能性を考慮して、多くの有機ハロゲン化物の使用および環境的に許容される放出は、欧米および多くの他の工業先進社会においてより厳密に規制されるようになりつつある。したがって、有機ハロゲン化物を、健康および環境へのリスクが軽減された、毒性が低い、または非毒性の化合物へと触媒的に変換することにより、有機ハロゲン化物、例えば、駆除剤または防炎剤を低減または除去する努力がなされてきた。
【0103】
さらに、有機ハロゲン化物の水素化脱ハロゲンを、脱ハロゲン化によるアレンの重水素標識のために用いることができる。
【0104】
したがって、1つの局面において、本発明は、アレンを調製する方法であって、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒存在下で、有機ハロゲン化物を水素ガスと接触させる段階を含む、方法に関する。適切な場合、適切な塩基存在下、および適切な溶媒存在下で水素化脱ハロゲンを実施してもよい。
【0105】
スキーム5、6および7は、置換有機ハロゲン化物を本発明の窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒、例えば、Co-Co3Co4@Chit-700触媒と反応させた場合の、置換有機ハロゲン化物の対応する水素化脱ハロゲン生成物の収率を示す。スキーム5および6は、メタノールおよび水の混合物中、水素ガス、Co-Co3Co4@Chit-700触媒およびトリエチルアミン存在下での、置換有機ハロゲン化物の水素化脱ハロゲンの結果をまとめている。
【0106】
スキーム5:置換有機ハロゲン化物の水素化脱ハロゲン。
【0107】
スキーム6:置換有機ハロゲン化物の水素化脱ハロゲン。
【0108】
スキーム7は、メタノールおよび水の混合物中、水素ガス、本発明のCo-Co3Co4@Chit-700触媒およびトリエチルアミン存在下での、多置換有機ハロゲン化物の水素化脱ハロゲンを示す。結果は、本発明のCo-Co3Co4@Chit-700触媒が、それぞれ臭素および塩素置換基、または臭素およびフッ素置換基を有する多置換有機ハロゲン化物の臭素置換基を選択的に水素化脱ハロゲンするのに適していることを示す。
【0109】
スキーム7は多置換有機ハロゲン化物の水素化脱ハロゲンを示す。
【0110】
駆除剤または防炎剤を、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒での水素化脱ハロゲンによって解毒してもよい。
【0111】
したがって、1つの局面において、本発明は、有機ハロゲン化物、好ましくは駆除剤または防炎剤を解毒するための、本明細書で定義されている窒素含有生体ポリマー系触媒、好ましくはキトサン系触媒の使用に関する。
【0112】
スキーム8は、本発明のCo-Co3Co4@Chit-700触媒での水素化脱ハロゲンによる駆除剤メタザクロールおよびベノダニルの解毒を示す。
【0113】
【0114】
以下の実施例は、本発明の理解を助けるために提供するものであり、本発明の真の範囲は添付の特許請求の範囲において示す。本発明の精神から逸脱することなく、示した手順において改変をなし得ることが理解されよう。
【0115】
本明細書において特定されるすべての特許および出版物は、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0116】
高分解能走査透過型電子顕微鏡法(STEM)、X線回折(XRD)およびX線光電子分光法(XPS)は、標準の測定装置で実施した。
【0117】
実施例1:キトサン系触媒の調製
キトサン系触媒の調製の一般手順
市販の金属酢酸塩を無水エタノールに溶解した。次いで、市販のキトサン、好ましくはエビの殻由来の低粘度のキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で撹拌して、金属キトサン錯体を得た。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体金属キトサン錯体を減圧下、60℃で乾燥して、乾燥金属キトサン錯体を得た。最後に、乾燥金属キトサン錯体をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、500℃~900℃の範囲の温度で熱分解して、本発明のキトサン系触媒を得た。
【0118】
実施例1.1:Co-Co3O4@Chit-900の調製
Co(OAc)2・4H2O+キトサン→Co/キトサン→Co-Co3O4@Chit-800
126.8mg(0.5mmol)のCo(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、900℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0119】
実施例1.2:Co-Co3O4@Chit-800の調製
Co(OAc)2・4H2O+キトサン→Co/キトサン→Co-Co3O4@Chit-800
126.8mg(0.5mmol)のCo(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0120】
実施例1.3:Co-Co3O4@Chit-700の調製
Co(OAc)2・4H2O+キトサン→Co/キトサン→Co-Co3O4@Chit-700
126.8mg(0.5mmol)のCo(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、700℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0121】
実施例1.4:Co-Co3O4@Chit-600の合成
Co(OAc)2・4H2O+キトサン→Co/キトサン→Co-Co3O4@Chit-600
126.8mg(0.5mmol)のCo(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、600℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0122】
実施例1.5:Co/RNGr-H800(Co/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-水素800)の調製
Co(OH)2+キトサン→Co/キトサン→Co/RNGr-H800
46.5mg(0.5mmol)のCo(OH)2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0123】
実施例1.6:Co/RNGr-H600(Co/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-水素600)の調製
Co(OH)2+キトサン→Co/キトサン→Co/RNGr-H600
46.5mg(0.5mmol)のCo(OH)2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、600℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0124】
実施例1.7:Co/RNGr-N800(Co/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-窒素800)の調製
Co(NO3)2+キトサン→Co/キトサン→Co/RNGr-N800
91.5mg(0.5mmol)のCo(NO3)2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0125】
実施例1.8:Co/RNGr-N600(Co/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-窒素600)の調製
Co(NO3)2+キトサン→Co/キトサン→Co/RNGr-N600
91.5mg(0.5mmol)のCo(NO3)2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、600℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0126】
実施例1.9:Cu/RNGr-AC800(Cu/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-アセテート800)の調製
Cu(acac)2+キトサン→Cu/キトサン→Cu/RNGr-AC800
130.9mg(0.5mmol)のCu(acac)2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、600℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0127】
実施例1.10:Fe/RNGr-A800(Fe/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-アセテート800)の調製
Fe(OAc)2+キトサン→Fe/キトサン→Fe/RNGr-A800
87.0mg(0.5mmol)のFe(OAc)2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0128】
実施例1.11:Au/RNGr-C800(Au/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-炭素800)の調製
HAuCl4+キトサン→Au/キトサン→Au/RNGr-C800
169.9mg(0.5mmol)のHAuCl4を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0129】
実施例1.12:Ni/RNGr-A800(Ni/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-アセテート800)の調製
Ni(OAc)2 4H2O+キトサン→Ni/キトサン→Ni/RNGr-A800
124.4mg(0.5mmol)のNi(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0130】
実施例1.13:Mn/RNGr-C800(Au/再生可能N-ドープグラフェン/グラファイト-炭素800)の調製
MnCl2+キトサン→Mn/キトサン→Mn/RNGr-C800
63.0mg(0.5mmol)のMnCl2を20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、690mgのキトサンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で4時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下で5時間乾燥した。最後に、後者をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0131】
実施例2:キトサン系触媒の特徴づけ
実施例2.1:CoOx@Chit触媒の特徴づけ
それぞれ実施例1.4、1.3、1.2および1.1に従い、酢酸コバルト(II)およびエビの殻由来の低粘度のキトサンから、それぞれ600℃、700℃、800℃および900℃での熱分解後に調製した、CoOx@Chit-600触媒、CoOx@Chit-700触媒、CoOx@Chit-800触媒およびCoOx@Chit-900触媒を、元素分析により特徴づけた。実施例1.3のCoOx@Chit-700触媒を、高分解能走査透過型電子顕微鏡法(STEM)、X線回折(XRD)、およびX線光電子分光法(XPS)などの、様々な分析技術によりさらに特徴づけた。
【0132】
実施例2.1.1:元素分析
CoOx@Chit-600触媒、CoOx@Chit-700触媒、CoOx@Chit-800触媒およびCoOx@Chit-900触媒の化学組成を、それぞれ、元素分析によって決定した。表2は、CoOx@Chit-600触媒、CoOx@Chit-700触媒、CoOx@Chit-800触媒およびCoOx@Chit-900触媒がそれぞれ以下の元素を含むことを示す:炭素、水素、窒素およびコバルト。
【0133】
表2は、実施例1.1、1.2、1.3および1.4の触媒的活性材料の炭素、水素、窒素およびコバルト含有量をまとめている。表2はさらに、炭化法の熱分解温度(600℃~900℃)の増大に伴い、触媒中の炭素の含有量が増大することを示す。それに対して、触媒中の窒素の含有量は、炭化法の熱分解温度(600℃~900℃)の増大に伴って低減する。
【0134】
【0135】
実施例2.1.2:走査透過型電子顕微鏡法(STEM)、X線回折(XRD)およびX線光電子分光法(XPS)によるCoO
x@Chit-700触媒の特徴づけ
構造に関する洞察を得るため、CoO
x@Chit-700触媒をSTEM測定によって特徴づけた。
図1は、CoO
x@Chit-700触媒の高分解能走査透過型電子顕微鏡(STEM)像を示す。
図1(a)、1(b)、1(c)、1(e)および1(f)は、CoO
x@Chit-700触媒の環状明視野(ABF)像を示す。
図1(d)は、触媒のコバルト複合材の高角度環状暗視野(HAADF)像を示す。高角度環状暗視野(HAADF)測定は、球面収差(Cs)補正走査透過型電子顕微鏡法(STEM)を用いて実施した。
【0136】
図1(b)および1(c)は
図1(a)を切り取ったもので、CoO
x@Chit-700触媒の環状明視野(ABF)像を示す。像は、金属コバルト粒子が50nmを超える厚さのグラファイト殻に埋め込まれていることを示す。
【0137】
図1(e)および1(f)もCoO
x@Chit-700触媒のSTEM像である。
【0138】
図1(a)、1(c)、1(e)および1(f)は、グラファイト層の厚さが領域ごとに変動することを示す。いくつかの領域では、140を超える層がある(
図1(a)および1(c))が、他の領域は10の層しかない(
図1(e)および1(f))。
【0139】
図2(a)、2(c)、2(d)、2(e)および2(f)は、CoO
x@Chit-700触媒のエネルギー分散型X線分光(EDXS)像およびマッピングを示す。
図2(a)、2(c)、2(d)、2(e)および2(f)は、金属コバルト核が酸化コバルト微結晶によって部分的に包まれ、グラファイト炭素マトリックス内に埋め込まれている、最良の部分的に酸化されたコバルト相を示す。主に、ABF像(
図1(a)、1(c)、1(e)および1(f))にも示すとおり、薄いグラファイト層が観察された(
図2(a)および2(b))。すべての観察されたコバルト構造、部分的酸化および完全金属コバルトは、H.J. Fan et al. (H.J. Fan et al, Small 2007, 3, 16660-1671)、G. E. Murch et al. (E. Murch et al., diffusion-fundamentals.org 2009, 11, 1-22)およびC.-M. Wang et al. (C.-M. Wang et al., Sci. Rep. 2014, 4, 3683)によって記載されたとおり、Coナノ粒子上にカーケンドール効果により異なる状態で存在し得る。
【0140】
CoO
x@Chit-700触媒の組成をさらに調べるために、X線光電子分光(XPS)測定を実施し、これにより触媒の表面および表面の下のわずかな層を含む領域において、炭素、窒素、酸素およびコバルトの存在が明らかとなった。
図3(a)~3(d)は、CoO
x@Chit-700触媒のXPSスペクトルである。さらに、純粋なキトサンのXPS比較スペクトルを記録し、
図4(a)および4(b)に示す。
【0141】
図3(a)に示すとおり、この触媒のC1sスペクトルは3つの異なるピークからなる:C(sp
2)(C=C)、C(sp
3)(C-CまたはC-H)およびグラファイトのC、対応する電子結合エネルギーは283.9、285.1、288.4eV。C(sp
2)(C=C)およびグラファイト炭素は炭化法で得られるが、C(sp
3)(C-CまたはC-H)は熱分解されていないキトサンから生じる可能性が高い(
図4(a))。
【0142】
N1sスペクトルは、少なくとも2つの異なるピークを明らかに示す:結合エネルギーが低い方のピークは熱分解されていないキトサンでも観察され、アミン窒素(NH
2)に相関し(
図4(b));結合エネルギーが高い方のピークはコバルトイオンへの結合によって説明することができる(
図3(b))。測定したCo2pスペクトルは、コバルト複合材の表面およびその下のわずかな層でCo
3O
4種の存在だけを示す(
図3(c))。さらに、スペクトルはM. C. Biesinger et al., Appl. Surf. Sci. 2011, 257, 2717-2730によって報告されたCo
3O
4データに対応している。
【0143】
XPS分析によって計算したC、N、OおよびCoの含有量はそれぞれ73.83%、2.06%、13.74%および10.37%(すべて重量%)である。元素分析は全材料の測定に関するが、XPS分析は表面およびその下のわずかな層について測定するため、この触媒の窒素およびコバルト含有量のわずかな変動は分析誤差によるものであり得る。
【0144】
コバルト複合材の組成についてさらなる洞察を得るために、X線回折(XRD)測定も実施した。CoO
x@Chit-700触媒のXRDスペクトルを
図5に示す。XRDスペクトルにおいて、金属コバルト(2θ=44.23°、51.53°および75.87°)および酸化コバルト(Co
3O
4)(2θ=19.04°、31.35°、36.94°、38.64°、44.92°、55.80°、59.51°、65.41°、74.32°および77.56°)からの反射の強いシグナルが観察された。これらの知見は、HAADFおよびXPSの結果と一致している。加えて、おそらくはコバルト窒素含有種からの反射の弱いシグナル(2θ=37.03°、39.08°、41.54°、42.66°、44.49°、56.85°、58.35°、65.35°、69.47°および76.56°)も観察された。
【0145】
STEM、XRDおよびXPSによる特徴づけのまとめ
分析結果に基づき、CoOx@Chit-700触媒は、グラファイト炭素マトリックスに埋め込まれた酸化コバルト殻で部分的に包まれた金属コバルトからなり、Co-Co3O4@Chit-700と示すことができる。
【0146】
実施例3:ニトロアレンの水素化
実施例3.1:ニトロアレンからの置換アニリンの調製
実施例3.1.1:ニトロアレンからの置換アニリンの調製の一般手順
磁気撹拌子を含むセプタムキャップ付きの4mL反応ガラスバイアル中、Co-Co3O4@Chit-700(10mg、3.4モル%Co)、ニトロアレン(0.5mmol、1.0当量)およびトリエチルアミン(35μL、0.25mmol、0.5当量)をEtOH/H2O(3/1、2mL)の溶媒混合物に加えた。次いで、反応バイアルを300mLオートクレーブに入れ、水素を5回流し、最後に40バールに加圧した。反応混合物を110℃で適切な時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、オートクレーブをゆっくり減圧した。粗製反応混合物を綿栓を付けたピペットを通してろ過し、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカプラグ(溶離剤:酢酸エチル)を通すことにより精製し、溶媒除去後に純粋なアニリン誘導体を得た。
【0147】
以下の化合物をそれぞれのニトロアレンから本発明の触媒を用いて調製し得る。
【0148】
実施例3.1.2:2,4,6-トリ-tert-ブチルアニリン(2a)の調製
反応時間:15時間;単離収率:90%;
。
【0149】
実施例3.1.3:9H-フルオレン-2-アミン(2b)の調製
反応時間:20時間;単離収率:99%;
。
【0150】
実施例3.1.4:4-フェノキシアニリン(2c)
反応時間:24時間;単離収率:97%;
。
【0151】
実施例3.1.5:3-(トリフルオロメチル)アニリン(2d)の調製
反応時間:24時間;単離収率:74%;
。
【0152】
実施例3.1.6:キノリン-8-アミン(2e)の調製
反応時間:44時間;単離収率:99%;
。
【0153】
実施例3.1.7:(E)-3-(4-アミノフェニル)アクリル酸エチル(2f)の調製
反応時間:20時間;単離収率:58%;
。
【0154】
実施例3.1.8:3-ビニルアニリン(2g)の調製
反応時間:17時間;単離収率:81%;
。
【0155】
実施例3.1.9:(4-アミノフェニル)(フェニル)メタノン(2h)の調製
反応時間:22時間;GC収率:93%(内部標準としてヘキサデカンを用いてのGC-FID分析により判定)。
【0156】
実施例3.1.10:4-アミノ安息香酸メチル(2i)の調製
反応時間:24時間;単離収率:97%;
。
【0157】
実施例3.1.11:6-アミノ-2H-ベンゾ[b][1,4]オキサジン-3(4H)-オン(2j)の調製
反応時間:24時間;単離収率:74%;
。
【0158】
実施例3.1.12:N-(4-アミノ-3-フェノキシフェニル)メタンスルホンアミド(2k)の調製
反応時間:27時間;単離収率:91%;
。
【0159】
実施例3.2:ニメスリドおよびフルタミドの水素化
2つの薬学的薬物、ニメスリドおよびフルタミドを、一般手順に従い、標準反応条件下で反応させて、対応するアミン類縁体をそれぞれ91%および97%の収率、およびすぐれた選択性で得た。
【0160】
【0161】
実施例3.3. ニトロベンゼンの水素化におけるCoOx@キトサン-600/700/800/900の間の比較
磁気撹拌子を含むセプタムキャップ付きの4mL反応ガラスバイアル中、CoOx@キトサン-600/700/800/900(4.5~5.5mg、1.7モル%Co)、ニトロベンゼン(0.5mmol、1.0当量)およびトリエチルアミン(70μL、0.5mmol、1.0当量)をEtOH/H
2O(3/1、2mL)の溶媒混合物に加えた。次いで、反応バイアルを300mLオートクレーブに入れ、水素を5回流し、最後に40バールに加圧した。反応混合物を110℃で適切な時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、オートクレーブをゆっくり減圧した。粗製反応混合物を綿栓を付けたピペットを通してろ過し、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカプラグ(溶離剤:酢酸エチル)を通すことにより精製し、溶媒除去後に純粋なアニリン誘導体を得た。
【0162】
(表3)ニトロベンゼンの水素化におけるCoOx@キトサン-600/700/800/900の結果
【0163】
実施例4:有機ハロゲン化物の水素化
実施例4.1:置換有機ハロゲン化物からの置換アレンの調製
実施例4.1.1:置換有機ハロゲン化物からの置換アレンの調製の一般手順
磁気撹拌子を含むセプタムキャップ付きの4mLまたは8mL反応ガラスバイアル中、Co-Co3O4@キトサン-700、ハロゲン含有化合物およびNEt3またはK3PO4を溶媒混合物に加えた。次いで、反応バイアルを300mLオートクレーブに入れ、水素を5回流し、最後に30~50バールに加圧した。反応混合物を120~140℃で適切な時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、オートクレーブをゆっくり減圧した。粗製反応混合物を綿栓を付けたピペットを通してろ過し、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィ(溶離剤:ヘプタン/酢酸エチル)により精製し、純粋な生成物を得た。
【0164】
実施例4.2:駆除剤の解毒
2つの駆除剤、メタザクロールおよびベノダニルを、一般手順に従い、触媒、トリエチルアミンおよび水素ガス存在下、対応する水素化脱ハロゲン類縁体に、非常に良好な収率で分解した。
【0165】
【0166】
実施例4.3:防炎剤の解毒
スキーム8b:防炎剤の解毒。
【0167】
テトラブロモビスフェノールAを、一般手順に従い、触媒およびトリメチルアミン存在下、120℃で水素ガスと反応させて、非毒性のビスフェノールAに分解した。
【0168】
実施例5:キチン系触媒の調製
キチン系触媒の調製の一般手順
市販の金属酢酸塩を無水エタノールに溶解した。次いで、市販のキチン、好ましくは実用的等級粉末のエビの殻由来のキチンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で撹拌して、金属キチン錯体を得た。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体金属キチン錯体を減圧下、60℃で乾燥して、乾燥金属キチン錯体を得た。最後に、乾燥金属キチン錯体をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、700℃~800℃の範囲の温度で熱分解して、本発明のキチン系触媒を得た。
【0169】
実施例5.1:MO
xキチン700/800触媒の調製
【0170】
実施例5.1.1:CoOxキチン700の調製
126.8mg(0.5mmol)のCo(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、700mgのキチンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、700℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0171】
実施例5.1.2:CoOxキチン800の調製
126.8mg(0.5mmol)のCo(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、700mgのキチンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0172】
実施例5.1.3:NiOxキチン700の調製
124.4mg(0.5mmol)のNi(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、700mgのキチンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、700℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0173】
実施例5.1.4:Preparation of NiOxキチン800
124.4mg(0.5mmol)のNi(OAc)2・4H2Oを20mLの無水EtOHに溶解した。次いで、700mgのキチンを加え、そのようにして得た懸濁液を70℃で20時間撹拌した。続いて、溶媒を低速ロータリーエバポレーションにより除去し、固体を減圧下、60℃で12時間乾燥した。最後に、乾燥材料をふた付きのるつぼに移し、Ar雰囲気下、800℃で2時間熱分解して、触媒的に活性な材料を得た。
【0174】
(表4)MO
xキチン700/800触媒(M=Co、Ni)の元素分析
【0175】
実施例6:ニトロベンゼンのMO
xキチン700/800触媒(M=Co、Ni)による水素化
【0176】
実施例6.1:ニトロベンゼンの水素化の一般手順
磁気撹拌子を含むセプタムキャップ付きの4mL反応ガラスバイアル中、MOxキチン700/800 M=Co、Ni)(4.2~5.2mg、2.0モル%M)、ニトロアレン(0.5mmol、1.0当量)およびトリエチルアミン(70μL、0.5mmol、1.0当量)をEtOH/H2O(3/1、2mL)の溶媒混合物に加えた。次いで、反応バイアルを300mLオートクレーブに入れ、水素を5回流し、最後に40バールに加圧した。反応混合物を110℃で適切な時間撹拌した。反応混合物を室温まで冷却した後、オートクレーブをゆっくり減圧した。粗製反応混合物を綿栓を付けたピペットを通してろ過し、溶媒を減圧下で蒸発させた。粗生成物をシリカプラグ(溶離剤:酢酸エチル)を通すことにより精製し、溶媒除去後に純粋なアニリン誘導体を得た。
【0177】
(表5)ニトロベンゼンのMO
xキチン700/800触媒(M=Co、Ni)による水素化の結果